わたしがさきにすきだったのに【SS】

  • 1二次元好きの匿名さん21/10/05(火) 21:37:01

    注意
    モブ視点です
    BSS(正確にはWSS)要素があります

    それでもよろしければ

  • 2二次元好きの匿名さん21/10/05(火) 21:37:13

    私の父は転勤が多く、いろいろな土地を転々としていた。
    さすがに小学六年の二学期に転校するなんて思わなかったが。
    しかも岩手の片田舎。
    一学年一クラス、つまり五年以上同じメンバーのコミュニティの中に突然放り込まれたわけだ。
    当然こんな異物に自分から触りに来るやつなんて……。
    「あ、あのっ!」
    いた。
    なんというか物好きな子もいたものだ。
    窓の外を見つめていた目を声の主へ向ける。
    「何の用で……」

  • 3二次元好きの匿名さん21/10/05(火) 21:37:34

    その瞬間、目を奪われた。
    くりくりの目。
    真っ白な肌。
    愛らしい表情。
    まるで天女様だ。
    「えっと……」
    目の前の女の子が言いよどんでいる。
    おっといけない、まじまじ見つめてたら失礼だ。
    そこで初めて“耳”に気がついた。
    「あなた、ウマ娘なの?」
    「そ、そンだけども……珍しかったべか?」
    「いや、そういうわけじゃないけど……」
    今までも転校した先で何人かウマ娘の子は見てきた。
    みんなかわいらしい子ばかりだったが、この子は別格だった。
    胸の奥がお湯でも飲んだみたいに熱くなる。
    「それでなんで私に話しかけたの?」
    熱さをごまかすように話しかける。
    「そのぅ……●●さんって東京からこっちさ来たンだべ?」
    「ええ、そうだけど……」
    ぱあっと彼女が笑顔になる。
    うわ、かわいい。
    「すンげえべ!“シチーガール”だべ!」
    「し、しちーがーる?」
    同年代の女の子の口から出されたものとは思えない古めかしい単語。
    それすら愛嬌に思えるあたりすごいことだとは思うが。
    彼女は目を輝かせながらこちらを質問攻めにしてきた。
    私も子どもなりに東京のことを教えた。


    これが私とユキノビジンの出会いだった。

  • 4二次元好きの匿名さん21/10/05(火) 21:37:49

    卒業までの間、ユキノのおかげで同級生のみんなとも早くに馴染んで楽しく過ごせた。
    ユキノは私のことを気にかけてくれて、頻繁に二人で遊んだ。
    私もこんなかわいい子に慕われて悪い気はしなかった。
    そしてまだ雪がちらつく中で卒業式を迎えた。
    ユキノはトレセン学園への進学が決まっていた。
    ほかのみんなは私も含めて地元の中学へ行くから、離れ離れになる。
    少し寂しかったがユキノがウマ娘として活躍してくれるならそれが一番だろう。
    桜の代わりに雪が舞い散る中、ユキノは東京へ巣立っていった。
    さらに二年が経った。
    ユキノが無事にデビューを果たし、今年はトリプルティアラに臨もうかというころ。
    父親の転勤が再び決まった。
    またか、と呆れたが東京に戻ると聞いて一転狂喜乱舞した。
    ユキノにまた会える。
    それだけで胸が高鳴った。

  • 5二次元好きの匿名さん21/10/05(火) 21:38:06

    東京に戻ることを伝えるとユキノのほうから会いたいと言ってきた。
    自分の中の自尊心に似たなにかがぴょんぴょんと跳ねる。
    当日、思い切りおめかしをして待ち合わせ場所に向かった。
    人ごみの中でもユキノはキラキラしていてすぐに分かった。
    「○○ちゃん!」
    二年ぶりにユキノの声が私の名前を呼ぶ。
    頬が緩んでしまう。
    「久しぶり、ユキノ」
    ユキノがうれしそうに微笑んだ。
    そこであることに気がついた。
    「あれ?ユキノ、そのリップ……」
    ユキノが化粧をしているところなんて初めて見た。
    しかも流行の色だ。
    「え、えへへ……どう、かな」
    「うん!似合ってるよ!」
    ユキノの顔がほころぶ。
    「よかったあ、シチーさ……じゃなくて仲のいい先輩にプレゼントしてもらったンだ」
    もやっと胸の中が重くなる。
    ……ユキノがトレセン学園で仲良くやれてるってことなのになんで?
    内心で首をかしげながらユキノとのデートへと向かった。

  • 6二次元好きの匿名さん21/10/05(火) 21:38:33

    一通りウインドーショッピングを楽しんでから喫茶店で一休みする。
    「楽しかったね○○ちゃん!」
    「そうだね」
    口では同意をしたが、胸の奥ではなにかが引っ掛かっていた。
    ココアを飲み干してもまだ引っ掛かっている。
    「ユキノ」
    どこからか声がした。
    私の後ろを見たユキノがうれしそうに声を上げた。
    「シチーさん!」
    振り返ると金髪をなびかせたウマ娘がいた。
    私はそのウマ娘を知っていた。
    「シチーさんって……あのゴールドシチーさんのことだったの!?」
    モデルとして活躍しながらレースでも華麗な走りを見せるウマ娘。
    そんな“シチーガール”そのものを相手にユキノは物怖じすることもなく。
    「シチーさん、お仕事じゃなかったンですか?」
    「この近くでね。いまは休憩時間中」
    ユキノの話し方にほとんど訛りがないことに初めて気がついた。
    もやもやが大きくなる。
    「そっちの子はユキノの友達?初めまして」
    「は、はじめまして……」
    ぎこちなく笑う。
    「ユキノがずっと楽しみにしてたみたいでね。昨日も嬉しそうにあなたのこと話してたよ」
    「もう!恥ずかしいですよ、シチーさん」
    どうして。
    普通なら有名なモデルと知り合いのユキノがうらやましいはずなのに。
    どうして私はシチーさんのほうに嫉妬しているんだろう。

  • 7二次元好きの匿名さん21/10/05(火) 21:39:01

    そのあともユキノとは何度かデートをした。
    会うたびに彼女は綺麗になっていった。
    そして冬になり、クリスマスを迎えた。
    ユキノを誘ってみたが学園で催し物があるということで断られてしまった。
    仕方ない、と私も同級生たちと遊ぶことにした。
    それなりに楽しんでいたところ、携帯を弄っていた同級生がきゃあきゃあ騒ぎ始めた。
    「どうしたの?」
    「シチーさんがウマスタ更新したんだよ!ていうか一緒に写ってる子もカワイイ!」
    同級生の肩越しに画面を見る。
    そこには。
    シチーさんと仲睦まじくツーショットを撮るユキノがいた。
    頭の中がぐちゃぐちゃになる。
    気がつくと自分の部屋に帰ってきていた。
    電気もつけていない暗闇の中ベッドに倒れこむ。
    身体が重い。
    目を閉じるとさっきの画像が浮かんでくる。
    オシャレをしたユキノを自慢するように見せつけるアイツ。
    自分でも理解できない感情が右手を壁に叩きつけた。

  • 8二次元好きの匿名さん21/10/05(火) 21:39:20

    「折れてますね」
    ギプスをした右手を見つめながら医者に言われた言葉を思い出す。
    ため息が病院の待合室に響いた。
    年の瀬になにやってるんだか……。
    自己嫌悪に陥っているとそこにいるはずのない声が聞こえた。
    「○○ちゃん?」
    顔を上げるとユキノがいた。
    「なんでここに……」
    「ちょっと脚に違和感があって……」
    よく見ると足首に包帯が巻いてあった。
    怪我ではなく、年明けのレースには出られるらしい。
    隣に座ってくれたユキノは間近で見ると、昔の彼女と変わっていないように見えた。
    右手のケガを誤魔化しつつ、ユキノに話しかける。
    「どう?ユキノも東京に慣れた?なーんて、東京歴は私より先輩か」
    「そンなことねえって、まだまだびっくりすることだらけで……」
    ふるふると顔の前で恥ずかしそうに手を振るユキノ。
    かわいい。
    「……やっぱりユキノってモテるよね」
    「ええっ!?急にどうしたの!?」
    「だってかわいいからさ」
    真っ白な肌が桃色に染まっていく。
    目をそらして恥ずかしがるユキノの横顔を見てようやく気がついた。
    私は、ユキノのことが好きだったんだ。
    胸のつかえがすとんと落ちた。
    笑みを抑えきれないでいると精算が終わったのか受付に名前を呼ばれた。
    立ち上がりユキノに手を振る。
    まだ少し頬を赤らめながらユキノも手を振り返してくれた。

  • 9二次元好きの匿名さん21/10/05(火) 21:39:48

    会計を済ませて振り返るとユキノの姿がなかった。
    きょろきょろとあたりを見渡す。
    美しい栗毛の尻尾が曲がり角の先に消えた。
    後を追う。
    近づくにつれて話し声が聞こえる。
    「……大丈夫なの?」
    「もう心配しすぎですよシチーさん」
    シチー?
    なんでアイツの名前が。
    そっと角からのぞき込む。
    そこには。
    ユキノの頬を愛おしそうに撫でるアイツの姿があった。
    ユキノは嫌がるどころかアイツの手に自分の手を重ねていて。
    二人の会話は耳に入っているはずなのに、なにを話しているか脳が理解を拒んでいた。
    そして少しづつ二人の距離が縮まって。
    ユキノはアイツを受け入れた。
    私は逃げるようにその場を離れた。
    近場のトイレに飛び込む。
    便器に向かって嘔吐を繰り返す。
    胃の中が空っぽになっても嫌悪感は消えるどころか増すばかりだった。
    怒りに任せて振り回した右手が壁にぶつかる。
    激痛でうずくまってしまう。
    涙目になりながらゆっくりと顔を上げる。
    ギプスには吐瀉物のかけらがこびりついていた。
    みじめだ。
    ぐちゃぐちゃの頭の中が目から、鼻から、口からいろんな液体となってあふれ出す。
    私の初恋は細雪のように触れた途端に溶けて消えてしまった。
    二度と訪れないのではと思うほど春は遠くて、寒かった。

  • 10二次元好きの匿名さん21/10/05(火) 21:40:56

    初めてBSS(というかWSS)を書いてみました
    お目汚し失礼しました

  • 11二次元好きの匿名さん21/10/05(火) 21:42:54

    クソデカ感情いいぞ……
    好きって気づいたときにはもう絶対勝てない相手がいるんですよね……

オススメ

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