- 1二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 21:52:04
- 2二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 21:52:45
📞鬼…かな?
- 3二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 21:53:23
- 4二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 21:53:39
言ってはならないことを…
- 5二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 21:53:50
コント(低音)
- 6二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 21:54:06
📞「タクトだけならプレッシャーだけどアイちゃん先輩もいるなら楽しみでしかない」
これを原作で矢作先生が言ってるという事実 - 7二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 21:54:30
📞「牡馬でもゴリラでもいけるしな(ヌッ」
- 8二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 21:54:34
じゃあ仮にウマ娘ドンナがいた場合それはもうゴリラってことか
- 9二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 21:54:47
📞違うんだよ…ゴリラなのは内面で…
- 10二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 21:55:05
- 11二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 21:55:31
このレスは削除されています
- 12二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 21:55:32
(こうすれば女好きのコントは言いなりって聞いたのになあ)
- 13二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 21:56:03
- 14二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 21:56:21
元から言いなりでは…?
- 15二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 21:56:59
なんだかんだでそんなコンちゃんも嫌いじゃないタクト、逆もまた然り
- 16二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 21:57:30
📞(選択肢次第では病院かホテルのベッドで目覚めることになるか…?)
- 17二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 21:57:44
柔剛押引あの手この手で長谷川牧場へ📞をら引き込もうとしてくるな…
- 18二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 21:57:57
- 19二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 21:58:04
子供が出来るだけだよ
- 20二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 21:58:11
どうせいつかはえっちするつもりのくせに
- 21二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 21:58:16
大胆な戦術の名前だけはあるな
- 22二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 21:58:25
- 23二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 21:58:48
何その後半に乙女の特権って付きそうな名前
- 24二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 21:58:48
- 25二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 21:58:50
大胆な戦術はゴリウーの特権だからね
仕方ないね - 26二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 21:58:51
せんせ~
コンちゃんがタクトちゃんを泣かせたプボ~ - 27二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 21:59:01
- 28二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 21:59:02
- 29二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 21:59:19
- 30二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 21:59:44
無敗三冠同士なら負けられないプレッシャーの方がでかいけどアイちゃんまでくればもうお祭りって意味だろうから…
- 31二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 21:59:49
♨「現役時代にリベンジする機会が無くなった以上あとはもうベッドの上で決着つけるしかないんです」
- 32二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 21:59:49
このレスは削除されています
- 33二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 22:00:01
大胆な戦術は女の子の特権
- 34二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 22:00:32
- 35二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 22:00:44
📞女の子を名乗る事がまず大胆な戦術ですね…
- 36二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 22:00:49
🦐「抱けーーーーッ!!」
- 37二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 22:01:04
このレスは削除されています
- 38二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 22:01:16
こういう流れも平成のラノベとかで見た気がしないでもない…懐かしい
- 39二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 22:01:47
- 40二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 22:01:48
岡田さん「せっかくだから一回はコントレイルつけたいんだよね」
デアリングタクト「おかのした」 - 41二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 22:02:18
📞「!!!!!!!!!!!!!!!!!」
- 42二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 22:02:18
娘の幸せも願う、ちょい悪親父の図
- 43二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 22:02:23
なんで令和の三冠馬2頭が平成のラブコメやってんだよ
- 44二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 22:02:43
窒息してないコレ?
- 45二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 22:03:14
👮「兄k…先輩はなにやってるんだろう…」
- 46二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 22:04:35
制服にめっちゃ鼻血付きそう
- 47二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 22:04:43
三冠馬のキャラ蓋開けたら、古き良きすけべ主人公だったから仕方ないね
- 48二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 22:14:52
ぶっちゃけあだち充キャラになったなあいつ。
- 49二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 22:16:16
📞「なんとかの目に涙…」
- 50二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 22:19:13
これでデアリングフライト(仮)の製造時に変なエピソードできたら俺ずっと笑ってるわ
- 51二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 22:29:04
📞(今後ろに隠したの目薬だよな?)
- 52二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 22:43:01
- 53二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 22:50:48
- 54二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 22:52:20
どっちも(強欲)
- 55二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 22:53:28
- 56二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 23:08:02
ベッドだとしおらしくなるタクトちゃん⁉
- 57二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 23:09:32
逆にタクトも📞も初めてでしおらしくなるのは?
- 58二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 23:20:14
- 59二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 23:21:07
- 60二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 23:21:14
- 61二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 23:22:09
いくらかキャラ変しても📞の一人称が「僕」で一貫してるの何か腹筋に悪い
- 62二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 23:23:21
- 63二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 23:33:10
- 64二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 23:34:05
- 65二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 23:42:09
場所はタクト家なのかコント家なのか
- 66二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 23:44:22
プボ〜コンちゃん夜食たべ…あっ…
- 67二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 23:57:27
(エピとディープがスタンドバトルみたいな戦いを繰り広げている)
- 68二次元好きの匿名さん22/07/29(金) 00:08:40
エ〜ピッピッピッピ!タクトがコントレイルくんとくっつけば、ディープパイセンはエピに強く出れないエピ!遂にパイセンに『また僕の娘に手を出したって?』と凄まれずに済むエピ!
タクト!なんとしてでもコントレイルくんを捕まえるエピ!エピとタクトの幸せのために頑張るエピ! - 69二次元好きの匿名さん22/07/29(金) 00:46:26
えぴはかわいいなぁ(脳死)
- 70二次元好きの匿名さん22/07/29(金) 00:51:59
タクトが三代目三冠馬の母になってくれたらまあディープも喜ぶか……
- 71二次元好きの匿名さん22/07/29(金) 00:54:39
(曲がりなりにも幸せを考えてくれるなら重荷にしかなれなかった自分は口を出すべきじゃないか…)って思って何も言わなくなるディープ
- 72二次元好きの匿名さん22/07/29(金) 03:22:28
- 73二次元好きの匿名さん22/07/29(金) 10:08:45
おんなのこにごりらっていうのしつれいだとおもうんですけど!
- 74二次元好きの匿名さん22/07/29(金) 10:14:17
空前絶後のゴリラブームだからね仕方がない
- 75二次元好きの匿名さん22/07/29(金) 10:52:36
- 76二次元好きの匿名さん22/07/29(金) 11:05:00
- 77二次元好きの匿名さん22/07/29(金) 11:11:25
- 78二次元好きの匿名さん22/07/29(金) 11:17:22
三冠馬三人に狙われる三冠馬!?
- 79二次元好きの匿名さん22/07/29(金) 11:21:48
- 80二次元好きの匿名さん22/07/29(金) 11:27:32
独占力発揮した三冠バ三人にぐちゃぐちゃにされちゃうコントがいると聞いて
- 81二次元好きの匿名さん22/07/29(金) 11:32:56
プラスして19年ティアラ組にもされてそう
- 82二次元好きの匿名さん22/07/29(金) 11:47:13
ディープ2×2はマズイですよ!
- 83二次元好きの匿名さん22/07/29(金) 19:51:26
お休みの時と走る時で切り替えのできる子だから
オフの時はかわいいかもしんないでしょ💢
オンの時がゴリラすぎる?それはまあ… - 84二次元好きの匿名さん22/07/30(土) 00:24:09
保守
- 85二次元好きの匿名さん22/07/30(土) 00:29:38
本音言えば両パターン見たいけどマジで最中を書いたら規約に反するのよね……
- 86二次元好きの匿名さん22/07/30(土) 00:32:50
- 87二次元好きの匿名さん22/07/30(土) 00:34:12
デアリングタクト陣営はコントつけたいって言ってるけどコントレイル陣営はノータッチだからかなって自分は思ってる
- 88二次元好きの匿名さん22/07/30(土) 00:55:40
競馬知識と関係なくなるけどキャラ傾向は絶対なものじゃないし流行みたいに思ってもいいと思うよ
デアタク大好きなコントが袖にされるタイプの創作もそれを好きな人が増えればそっちを見かけるようになる
あにまんの外に出れば今だってこの2人の扱いは違うでしょ、知らんけど
- 89二次元好きの匿名さん22/07/30(土) 01:14:47
ベッドヤ○ザも紳士もいいけどこう、
おふとんかベッドの上で膝つき合わせた2人、なんとなくお互いの顔を見ることができなくて俯いててさ、タクトはコンちゃんの膝の上で組まれた男の子っぽさを感じる骨ばった手を見つめて(やっぱり何だかんだで男の子なんだよな)ってドキドキしてくるし、コンちゃんもモジモジするタクトのせわしなく組み替えられる小奇麗な手指を見て(レースまだ頑張ってるからすごく綺麗なワケじゃないけど、……僕はタクトのこの手が好きなんだよな)みたいにあらためて思い直してほしい。
そのうち沈黙に耐えきれなくなったタクトがわーってコンちゃんに体当たりかましてほしい。コンちゃん押し倒されてもうどうにでもなれーッ!ってなったタクトにこちょこちょくすぐられてキャッキャしてたらやっとおたがい目があってゆっくりお顔が近づいてほしいし、コンちゃんが押し倒されなくても抱きとめられたとき聞こえてきたコンちゃんのばっくんばっくんな心臓の鼓動にタクトがしおらしくなって「緊張してる」「そりゃそうだよ」「菊花賞のときよりも?」「タクトはどうなの、秋華賞の時よりも緊張してない?」ってラッキー助平かましてるコンちゃんとかも私性合ですね(一息) - 90二次元好きの匿名さん22/07/30(土) 03:08:32
いい…
- 91二次元好きの匿名さん22/07/30(土) 03:17:37
オドオドしながらもたれてきたタクトの背中に手を回すやつ
- 92二次元好きの匿名さん22/07/30(土) 05:04:10
- 93二次元好きの匿名さん22/07/30(土) 06:04:17
嫌な沈黙だった。日本ダービーの時に感じた、絶望的なまでの静寂ではなく、もっとじとっとしたような。一言発せば簡単に壊れてしまうのに、ほんの少しで破れるのに。二人の間、数十センチに取り巻く空気がそれを容易く制していた。
「う……うわーーーーーー!!!!」
先に堪えられなくなったのはタクトだった。白く細い、けど筋肉で締まった腕を僕に伸ばしてくる。そのまま僕に抱き着いて──
「もう、私ずっと待ってたのに!コンちゃんのバカ!こうしてやる」
「タクト、──ちょ、ちょっとやめ、あはははははは」
全身を擽られた。あのじめっとした空気を粉々に砕くように、僕たちは全身で笑った。そうか。楽しいんだ。タクトといる時間は。二人で三冠の約束をした時も。アイ先輩にターフで二人揃って敗れた時も。負け続けて暗く、沈んでいた時も、心の何処かにタクトの姿があった。
どれほど経ったろうか。ウマ乗りの体勢になって僕をまさぐっていたタクトが、急にバランスを崩した。「わっ」倒れ込む彼女を咄嗟に、両の腕で抱き止める。
期せずして互いの身体を密着させる姿勢になったまま、彼女が口を開いた。
「コンちゃん」
「何?」
「逞しくなったね」
「えっ…」
「筋肉のこと。前はもっと線が細かった。いつの間にかちゃんと筋肉ついて、かっこよくなってんの。今のコンちゃん、漢らしいよ」
「タクトも……タクトも、綺麗だよ」
「……………」
「すごく綺麗。ジャパンCでは必死だったから気付かなかった。今、自然と出てきた。タクトも、女の子なんだね」
「……それ、もうちょっと早く聞きたかったな。あと色々失礼」
「ごめん」
「いーよ。コンちゃんの口から直接言ってくれたし、全部許してあげる」
タクトの瞳が揺れる。何度も見てきたその目は、特別輝いて見えた。頰が仄かに赤らんだのは、部屋が暑いからだろうか。暫く、二人の間を沈黙が流れた。それはもう、じとっと纏わりつく嫌なものではなかった。いつまでもいつまでも、その空気に浸っていたかった。
駄文失礼
89を見てここまでは浮かんできた
あとは託した - 94side tct/122/07/30(土) 07:39:00
託された!
***
コンちゃんの瞳はきれいだ。からかってくるときだって、いじわるを言うときだって、私から見たコンちゃんの瞳は、いつだってきらきらしていた。こうして見つめ合うのはいつぶりだっただろう。ふたりともターフの上を駆けていたころは、よく話をしたものだった。しょうもないこと、他愛もないこと、言い合い、けんか、愚痴。思えばレースのことばっかりだ。カッコつけてるのかどうなのかコンちゃんはあまり私の前では弱音を吐かなかった。私の口もコンちゃんの前で弱音を形作ることはほぼなかった。だって、一緒に並んで歩いているだけで、気づけばちょっとした不安は吹き飛んだ。
私にとって、コンちゃんは、そういう子だ。
私が怪我で離脱して、復帰するまでにコンちゃんがターフを去った。そのあいだ無接触だったわけじゃない。連絡だってした。療養所でリハビリを続けながら、コンちゃんが走るレースは現地に行けずとも食い入るようにして見た。後で聞いたら、私の復帰後のVM、コンちゃんは固唾を呑んで見守ってくれてたらしい。私にはそんなこと一言も言わなかったけど。まるで帰ってくるのはあたりまえ、だってタクトってばド根性だし、みたいなさ。マリリンが怒ってくれたけど、私はそれでよかった、それがよかったことを思い出す。
ときめき、だとか、恋、だとか、そういうものと私たちは、無関係だと思っていた。視線を合わせて軽口を叩きあったり、来たるレースへ向けて白熱した論議を交わすことはあっても、おたがいを異性として見つめ合うことなんて、そうそうないと思っていた。すくなくともコンちゃんが私を見る瞳はいつもきらきらしていた。口からはかわいくないことがよく飛び出してきたけど、私にとって、いつも、きらきらしていた。
けれど、いまはどうだろう。ともすれば私よりも長い睫毛の奥、私の感情ごと貫く瞳は、けぶるような熱をおびている。見つめ返す私は、おなじだけの熱量をそそげているだろうか。わからない。わからなかったけれど── - 95side tct/222/07/30(土) 07:41:34
予告なくコンちゃんが動いた。肘と背筋で少し身体を浮かせたら、コンちゃんにもたれかかっていた私の身体も同じように持ち上がる。コンちゃんの(正直ちょっと腹立たしいけど)可愛げのある顔が近づいてきて、私は反射的に強く目をつむる。思いっきり唇も結んでしまって色気も何もないって一瞬で後悔したけど、そんな私を待っていたのはコンちゃんが肩を揺らす気配と、額にぶつかったコンちゃんの唇だ。たったそれだけなのに、私の顔はきっとリンゴみたいに真っ赤になったと思う。自分でもわかる。おそるおそる目を開けると、コンちゃんは笑っていた。
「……このプレイボーイ」
「タクトとははじめてだよ?」
「そういうとこだよ。このロールキャベツ」
いつもならもっと勢いよくなじることができるのに、私の声音の弱々しさよ。見るも無残にキャパオーバーしている私を見かねたのかそれともさらにからかうつもりなのか、伸ばされたコンちゃんの手のひらが私の後ろ頭を撫でる。コンちゃんの身体がふたたびやわらかなスプリングに沈めば、私の身体もそれに続く。私の頭はコンちゃんの胸板に預けられて──彼の心臓の高鳴りに、そこではじめて気づいた。
「ねえ、コンちゃん」
「なに?」
「私はゴリウーだとか鬼だとかかもしれないけど」
「自分で言うの」
茶化すな。脇腹をつねってやると頭上からイテ、なんてうめき声が上がる。
「コンちゃんがいままでこうしてきた子たちにくらべたら、残念かもしれないけど、……でもね」
「うん」
「君のことを想う気持ちはターフの上にいたときから変わらない。変わってない。でも、形はすこしずつ変わってるから、その」
言わせないで、なんて可愛い仕草の一つできたらいいのに、それをするには私はまだまだ青すぎる。コンちゃんの手が背中に回る。体格はそこまでかわらないはずなのに、どうしてこんなに、しっくりするんだろう。まるで最初からコンちゃんの腕の中が定位置だったみたいに。
「僕もタクトと同じ気持ちだよ、たぶん」
きっとこのままとけてしまいそうになっているのは、コンちゃんだって同じにちがいない。
***
深夜の時系列不明概念に素敵なSSに素敵なSSありがとう……少女漫画風になったけど納めておきます。概念を文字に起こしてもらえるのって嬉しいね…… - 96二次元好きの匿名さん22/07/30(土) 07:48:26
- 97二次元好きの匿名さん22/07/30(土) 07:50:31
おつやし
- 98二次元好きの匿名さん22/07/30(土) 11:31:10
- 99二次元好きの匿名さん22/07/30(土) 16:33:30
ふと目が覚める。
肌蹴た掛け布団を手繰り寄せようとすると、隣ですやすやと眠るタクトの顔が目に入った。
つい数時間前までの事が嘘のように寝入ったタクトは、普段の快活とした様子からは想像もできない儚げな表情だ。
確かに同期で気の置けない仲だった。でも、この状況でその顔を覗くと、その儚さに胸が締め付けられる。
「タクトはさ…辞めちゃおうって思ったりしなかったのかな…」
無敗でのクラシック三冠制覇によって極限まで高まった期待、そしてそれは翌年コントレイル自身を突き刺す矢となって襲いかかった。
雨の大阪杯での敗戦、脚の故障、秋の天皇賞での敗戦。その度に少なからず批判的な声が聞こえた。
こんな事になるなら三冠なんて取るんじゃなかった、そう自身を責め続けた日もあった。
タクトの肩からずり落ちた掛け布団を治そうとすると、はみ出たタクトの脚が目に入る。そこには大きな傷跡があった。靭帯再建のための治療で残った跡だ。
彼女は自分よりもっと酷い故障をした。現役続行すら危ぶまれるほどの大怪我だ。
それでも無敗のトリプルティアラウマ娘としてターフへ舞い戻ってきた。
大阪杯の敗戦後、リハビリをするタクトの元へお見舞いへ行ったこともある。その度に「コンちゃんがパパレに負けたんだったら、私が勝ってやる」と宣言していた。
リハビリは鬼気迫るものだった。まるで死と隣り合わせの最前線に立つ兵士のように張り詰めた表情でプールを泳ぐタクトをコントレイルは直視出来ずにいた。
「タクトは強いね…僕より何倍も…何十倍も」
ベッドに散らばるタクトの髪を掬い上げ、はらはらと落とす。
タクトが1年間のリハビリを経て復帰した時にはトゥインクルシリーズから去っていた自分への贖罪のように、ただ髪を掬っては落とす。
寝顔を眺めるコントレイルの目は、まるで大切な人が去ってしまう事を恐れているかのように沈んでいた。 - 100二次元好きの匿名さん22/07/30(土) 17:17:00
- 101二次元好きの匿名さん22/07/30(土) 18:48:53
枕元でゴソゴソとする音に気づいて目が覚める。コントレイルが起きたようだ。
数時間前に頭に血が昇って押し倒してしまってからの事は朧げながらも覚えている。
カァッと顔が熱くなる。よりによってコントレイルとこういう事になるなんて。
目を瞑ったまま、コントレイルを意識した時のことを思い返す。
デアリングタクトはジュニア戦はデビューが遅れてG1には出走できず、同期のコントレイルがホープフルSを勝つ所を羨ましく思った。
皐月賞、日本ダービーと勝つ度に「あの英雄の跡を継ぐ存在」と持て囃されるのは、近くで見ていても輝いて見えた。
そんなコントレイルと並びたい。一緒に走りたい。その思いで桜花賞とオークスを走り、勝利してきた。
コントレイルが肌蹴た掛け布団を直してくれる。肩に触れたその手の温かみに過去の景色が浮かぶ。
(コンちゃんはさ…私よりもはるかに遠い目標持ってたよね)
菊花賞前日、寮から荷物を持って遠征に出かけるコントレイルを見送ろうと、デアリングタクトは夕方の駅で待っていた。
緊張をほぐすために冗談の一つでも言ってやろう、そう思っていたデアリングタクトが目にしたのは、誰も寄せ付けないオーラを纏ったコントレイルだった。
ー負けてはならない、それがあの英雄の後継者たる第一歩だ。ー そんな思い詰めた表情をしながら改札を通るコントレイルを、ただ見ているだけしか出来なかった。
菊花賞直後、京都レース場の検量室前。先輩後輩からの三冠達成の祝福に笑顔で応えるコントレイル。
ウイニングライブを終え、宿舎に帰ってきたコントレイルに祝福の言葉をかけようとした時、コントレイルがデアリングタクトの肩に顔を乗せた。
表情は見えなかったが、コントレイルの肩は震えていた。
プレッシャーから解放された事で、感情が爆発してしまったらしい。
声を上げずにただ震えるコントレイルの背を、デアリングタクトは優しく撫でる事しか出来なかった。
(そんなプレッシャーなんて、私には到底抱えきれない…コンちゃんは強いね…)
枕元でデアリングタクトの髪をコントレイルが触る。両親とも違う、恋慕とも違う優しい手つき。
そんなコントレイルにデアリングタクトはただ身を任せて微睡む事しか出来なかった。
事後の2人の妄想をただ殴り書きしてみた - 102二次元好きの匿名さん22/07/30(土) 20:21:30
事後いいよね…コントがタクトの髪いじるのが刺さった
- 10363です22/07/30(土) 20:25:33
- 1046322/07/30(土) 20:41:41
「酷いよコント……」
親友たちとのバカ騒ぎもそろそろお開きにして、さて帰ろうかと思った矢先。
うっかり忘れものをしてしまったので玄関でブボ達とは解散し、一人になった後だった。突然背中側からシャツの真ん中を引っ張られたのだ。
聞きなれたはずの声がひどく落ち込んだトーンを携えて耳に入り、まるで初対面の人に話しかけられたかのように感じた。
「コントが私の事、ゴリラって言ってるの、ずっと前から知ってたんだよ…?」
「ね、コント……私の目、見てよ…これでも私、ゴリラなの……?」
なかなか振り返れない。この声の主を怒らせたことなら数あれど、こんなに弱弱しい響きなど今まで聞いたことがあっただろうか。
怒ったときの声は無論、怖い。だが今聞こえる鼻声はなんというかそれとは別種の恐ろしさだった。罪深い気分とでも言おうか。
――グスッ
「タクト!?」
まさか本当に泣かせてしまったのかと思うと漸く身体が動いた。
目を見てと言っていたわりに俯き気味で顔が見えない。僕のリアクションが遅かったせいだろう…
屈んで、下から顔を覗き込もうとすると右手で目元を隠されてしまった。それだけでなく徐々に上半身ごと顔を背けられていく。
こっちが振り返ったと思えばそっちが逆に逃げるのか。参ってしまった僕は逡巡の末にタクトの手首の辺りをそっと掴んだ。
彼女は一瞬ビクっと震えたが、とにかく動きを止めてくれた。
「タクト。顔、見せてくれる…?」
頑張って優しい声色を作り、どうにかこうにか絞り出す。握った手首を引っ張ったりするわけにはいかず、自然と腕を下げてくれるのを待った。
1秒1秒が何倍にも感じる時間の中、数回息を整えてからタクトは顔を見せてくれた。
潤んだ瞳と長いまつ毛。けど目の下がちょっと赤くなっているのは擦ってしまったのだろう。鼻も少し赤い。
絵に描いたように、八の字に下がった眉。一体どこのどいつが彼女にこんな自信なさげな表情をさせたのだ?出て来いよ。走りで勝負だ ……バカ野郎 - 1056322/07/30(土) 20:42:17
…次に何を言うのか考えてなかったな……「君はゴリラじゃないよ」っていうのは流石に……そこは前提なんだから。
正直、濡れた上目遣いのタクトは普段とのギャップもあってかなりその…アレだけど!女性に対して泣いてるときの容姿を褒めるっていうのはなんかあんまりカッコよくないことだと思うよ僕は。ましてや泣かせた原因が
間を持たせる目的もあり、ポケットから取り出したハンカチで彼女の目元をぬぐった。眉尻と眉間のあたりも軽く押してほぐしてやる。少し力が入っていたみたいで、タクトは目を閉じてゆだねてくれた。
前髪もちょっと整える。髪の毛に触ったら嫌がるかとも思ったけど、さっきみたいに一瞬ビクっとしただけで許してくれた。
おでこにくっついた部分を浮かせ、手櫛は軽く一回、二回。指先でちょちょっと整えると うん、いつもの流星が鎮座した。前に癖っ毛を気にしていたけどクルクルでフワフワしてタクトには似合うと思う。
気が付けば…いつの間にかタクトの右腕からは力が抜けて、ダラりと下に垂れていた。僕ももう手首を握っておらず、お互いの指先だけが引っ掛かっている状態になっていた。
僕は彼女の指先を改めて握りなおし、二人の間に来るよう持ちあげた。何を言うのかは決めたぞ。やっぱりストレートなのが一番だよね?
- 1066322/07/30(土) 20:42:51
(ええええええええぇぇぇえぇぇえええ!!!??何何なになにナニ!?!?!??待ってなんかすごいことになってる!!!)
デアリングタクトの脳内には大量のエクスクラメーションとクエスチョンマーク、そして今日一日の記憶が飛び交っていた。
きっかけは取り立てて深刻な事柄ではなかった。コン・プボ・ビアンフェにサリオスパンサラッサオーソリティと、いつもの連中がにぎやかにバカ騒ぎしていたのが昼間のこと。
今日はどうやらいつもより盛り上りが大きくなったのか人数が更に増え、流石に少々声が大きいということで一言注意を入れたのだが、
「はーい」「すんませーん」と形だけでも反省の言葉を引き出したあと、振り返ったところでボソッと"その単語"が聞こえたのだ。
(…ッチ あのゴリラ女)
繰り返しになるが取り立てて深刻な事態ではない。いや、一般的に女性をゴリラなどと揶揄すればそれはもちろん非難されるのもやむなしな問題発言だろうが、ことデアリングタクトにとってその言葉は不本意ながらも聞きなれた単語だった。
デアリングタクトという少女はその辺の男性を適当にひっ捕まえてきても全く相手にしない程度には「強い」
そして最近、強い女性を指して霊長類でも随一の怪力の持ち主「ゴリラ」や「ゴリラウーマン(略してゴリウー)」などと呼ぶ一種のミームがあるのだ。
デアリングタクト自身、尊敬する先輩がそのように呼ばれているのを耳にしたことが何度もある。
次にその呼称の相手として加えられたのが自分というだけのこと。なぜなら、デアリングタクトは、実際にその強さを示してきたのだから…
でも彼女のことをよく知らない他人が、理解を進めるため、第一印象の助けとして"その単語"を使うならともかく(それだって失礼といえば失礼だが)。
本人に聞こえるところで口に出すのはデリカシーに欠けるだろう。特定の分野で畏怖を集める個人を「鬼のようだ」と形容することがあるが、面と向かって「あなたは鬼のようですね」などと話しかけるのは狂人か無礼者の所業である。
- 107二次元好きの匿名さん22/07/30(土) 20:43:19
なんか急に神が降臨してなさる
- 1086322/07/30(土) 20:43:59
サっと振り返る。今の囁きでは誰の声かは分からなかった。怒るつもりはないが、探りを入れるためだ。"聞こえたぞ"というポーズをとったら気の小さい犯人なら露骨に挙動不審になったりする可能性がある。
すると彼女の視界にはキョロキョロしているコントレイルが映った。コントレイルはデアリングタクトと一時目が合ったかと思えば、バツが悪そうに視線を逸らしてしまった。
(…………)
(…………)
実際には真犯人は他におり――コントレイルが視線を振っていたのもデアリングタクトと同じ目的だったのだが。このたった数瞬のやり取りののち、デアリングタクトはまた前を向いて歩き去ってしまった。
2人がかりの捜索を知らずかいくぐった名もなき誰かは、とりあえず幸運だったと言えるだろう。
この時コントレイルとデアリングタクトが思い出していたのは、ゴリウーという言葉が流行して間もない頃のこと。「タクトの将来絶対ゴリラじゃんwww」仲間内の軽口で思わず出てしまった発言だった。
そしてこのゴリラというミームは一時の流行にとどまらず定着し、様々な場で、様々な相手を対象に誰がゴリラウーマンか?と話のタネになった。そういった話題を振られたコントレイルは毎回デアリングタクトを挙げていたのだ。
情報は更に人を伝って「あの辺りの連中がデアリングタクトをゴリラと言ってた」という噂としてデアリングタクト本人のもとに届くこととなったのだが、なぜか耳に入った当時よりも突然思い出された今日になって彼女の胸に強い印象を残したのだった。
- 1096322/07/30(土) 20:44:48
最近コントに嘗められている気がする。だからたまにはちょっと反撃しよう。私の考えはその程度のものだった。
昼に失礼なことを言ったのがコントだって証拠はないけど、あの顔はなんだ。後ろめたいことがあればそう言えばいいのにサッと逸らすなんて。
それに今日は結局一度もお互い面と向かって会話をしていない。別にそんな義務はないが…ライバル。そうライバルとしてはコンディションやらなんやら確認した方がいい。
もうみんな帰宅するという時間、窓のカギを閉めて歩き廻りつつ誰にともなくそんな言い訳をしていたら、渦中のコントが引き返しているのが見えた。
みんなと一緒に帰ったと思ったのに、何か忘れ物だろうか。
(家に行こうかと思ってたけど…一人だったらちょうどいいんじゃない?)
足音を立てないように後をつける。やっぱり近くに誰もいない。油断してそうだしチャンスである。
用意しておいた目薬を差して、ポケットに隠しながらさっき考えた台詞を暗唱した。演技に入り込むために何か悲しいことも考えよう。悲しいこと…
(コントレイルの声「タクトよかゴリラの方が可愛げあるんじゃない?」「タクトは別にライバルでもなんでもないよ。意識することなんて何も無い」)
………あー、うん。もうこれでいいや。タイミングを逃しちゃまずいし。
コントの背中に手が届くところまで来た。しおらしくいこう。指先でちょこっと、シャツの真ん中を摘まむと同時に呟いた。
「酷いよコント……」さてさてコンちゃんは女の子を慰めるのも優等生なのかな?お手並み拝見といきましょう。
- 1106322/07/30(土) 20:52:22
(こっ、こっ、これ絶対キスされる流れだ……)
どうしてこうなったどうしてこうなった。私はせいぜいコントが慌てふためく姿が見られれば当分の間優位に立てるとかその程度の(打算的な)考えしか持っていなかった。
なのにどうして私は彼と手を合わせながら目を瞑り、彼に顔を撫でられるがままになっているのか。いつのまにこうなったのか全く分からない。
仮にも異性相手なのに髪を触るのまで許してしまっているなんてまるで恋人みたい…というか傍から見たらそういう仲にしか見えないのでは?
目を閉じているのでコントの指先の感触がなんだか鋭敏に伝わってくる。親指の腹が私のおでこを撫で、慎重に、恐らく痛くないようにゆっくりと手櫛で絡まりを解し、毛先を整えられた。
仄かに満足感の滲む鼻息を吐いたのが聞こえた。何なんだ、私はこいつのお人形か!?こいつの手で準備万端整えられようとしているのか!?準備ってなんのじゅんびだ!???
訳が分からなくなって謎にキレそうになる。それでも逃げ出さないのはレースでいくつもの戦線をくぐり抜けてきたという意地だった。
…いやどうだろう。好き勝手されるがままというのなら癪だけど、うん、何事も決めつけはよくない、臨機応変に
あくまで冷静に。そう考えるとさっきまで早鐘のように鳴っていた心臓も多少は落ち着いた。恐らく顔は赤くなっているが先ほどまで泣いている演技(断じて演技)をしていたのと夕日の影響であまり目立っていないことを祈る。
コントは今どんな表情をしているんだろう。私はなんで目を閉じてしまったんだ。う、薄目を開けてみようか…さっきから2人とも黙ってしまってきっかけがない。
- 1116322/07/30(土) 20:54:14
ちょうどその時、私の右手がコントにギュッと握りなおされた。親指以外の4本をコントの左手がひとまとめにして、二人の間、胸よりちょっと高いところに持ち上げられた。私は思わず両目を開いて二人の手が重なった部分を凝視する。
私の右手は甲の側が上にされて、手首が無理のない程度に曲げた姿勢をとっている。真横から見たら白鳥の首みたいといったところか。親指は遊んでいるけど人差し指から小指までは全部コントの掌につかまってしまって逃げられない。
私たちは身長はそんなに変わらないけど、手とか足とかは流石にコントの方が一回りは大きい。コイツの手をこんなにじっくり見たことってあったかな。いや、仮に昔あっても成長期前だろうからきっと今とは全然違う。
じゃあ、今が初めてだ。コントはそこに自らの右手も重ねて、私の指の関節をぜーんぶ包んでしまった。すごくあったかい。いやあこんなことされたら私は右手で拳骨も作れないなあ。大変だ、武器を一つ封じられてしまった!
「タクト」
「……はぃぃ…」
どうしても声が上ずる。けどやっと視線を上げてコントの顔を見られた。夕日で影ができて、見辛いけど……ずいぶん優しい表情だ、なんかカッコつけてる雰囲気じゃないな……誠意?申し訳なさ?そんな雰囲気をまとっている
- 1126322/07/30(土) 20:55:09
「酷い言葉を使ってしまってごめんよ。信じてもらえないかもしれないけど、今日のお昼にアレを言ったのは僕じゃないんだ。でも確かに過去何度か、タクトに失礼なことを言ってしまった。ごめんなさい」
・・・・・・・・・なんだっけ?ふわふわした表現で何かしらを謝罪されたようだが・・・・・・
あっそうか!そもそもゴリラ呼ばわりがどうこうでこのやり取りは始まったのだった。そうかそうか律儀だな、ちゃんと一つ一つケリをつけようというわけだ。
ポカンとした表情にならないようにキュっと唇と眉間を引き締める。
「もうゴリラって言わない?」
「ゴッ……わざとボカしたのに」
「言わない?」ちょっと不安そうにしてみる。コントは僅かだけど明らかに慌てた。
「言わないよ。…タクトは、可愛い女の子さ」
「……そう。じゃ、許してあげる」
コントは2人の手をつないだ部分に自分のおでこを近づけて、ありがとうと言ってきた。
よっぽど嬉しかったのか、ふーっと長い息を吐き出して一仕事終えたかのような空気をまとわせている。まったく気が早い。まだやるべきことがあるだろうに
- 1136322/07/30(土) 21:00:12
タクトの返事を聞いて全身の緊張を解く。いやはや、一時はどうなることかと思った。でもタクトが許してくれてよかった。何より泣き止んでくれてよかった。
ドラマとかで見るだけならともかく、目の前のよく見知った娘を泣かせてしまうと心臓がこんなにバクバクするんだなあ。
タクトが直接言いに来てくれる娘でよかった、と言える。彼女が抱え込んで陰でひっそりと泣くタイプだったら僕は本物のクズになって挽回もできなかった。
けど僕も勝手なものだ、あの時ボソッとささやいたのは結局誰だったのかわからないけど、聞こえた瞬間自分のことを棚に上げて―――
なんか視線を感じる。顔に変なものでもついてるのかな
「………………」
「………………」
「……………………?」
「…………?タクト、帰らない?」
「っ????っ??」
「えっと、手はどっかその辺までつないでよっか?」僕の左手はまだ彼女の右手を握っている。誰かに見られたらタクトも恥ずかしいんじゃないかと思ったけど。
でもタクトの手、柔らかいな……タクトが嫌じゃないなら家に着く直前ぐらいまでこのままでも……痛っ
「タッ タクトさん?」左手を握られる力が急に強まり、隣のゴリ…じゃなくって女性を見るとすさまじいプレッシャーを放っていた。
また泣いてる、のか?でも瞳がブラックホールみたいになっててよく分からない。さっきまでの罪悪感と恐怖がミックスされた感情に包まれながら、僕はごく最近どこかで聞いたようなセリフを耳にした
「 酷 い よ コ ン ト …………」
- 114二次元好きの匿名さん22/07/30(土) 21:02:27
クソボケだったか...
- 1156322/07/30(土) 21:03:01
- 116二次元好きの匿名さん22/07/30(土) 21:05:43
- 117二次元好きの匿名さん22/07/30(土) 21:11:37
素晴らしいものを見せて頂いた
- 118二次元好きの匿名さん22/07/30(土) 21:32:36
- 119二次元好きの匿名さん22/07/30(土) 23:59:29
このレスは削除されています
- 120二次元好きの匿名さん22/07/31(日) 00:22:53
- 121二次元好きの匿名さん22/07/31(日) 01:23:43
だ、誰か....頼む....続きを....続きをくれ.......
このままでは心の中のデジたんが
不完全燃焼で爆発してしまう....
誰かお願いだから完結させてくれぇ.... - 122二次元好きの匿名さん22/07/31(日) 01:30:10
- 123二次元好きの匿名さん22/07/31(日) 01:32:02
絡みが予想される登場済みウマ娘には誰がいるもん?
- 124二次元好きの匿名さん22/07/31(日) 01:35:11
スペとマルゼンくらいでは
- 125二次元好きの匿名さん22/07/31(日) 04:38:50
夜が過ぎれば朝がくるもの。重いまぶたの裏に光を感じれば、夢と現の境目にあった微睡みはゆっくりと覚めていく。回されていた腕の心地の良い重さやぬくもりがいつのまにか消えていたことに気づくまで、そう、時間はかからなかった。抜けきらなかった疲れと気怠さをこらえながら身を起こすと、着慣れない衣服に袖を通していることに気づいた。
ボタンの合わせがいつもと違う。肩幅もすこし広くて、袖の丈も長い。あきらかに余っているそのシャツは私の記憶には存在していない。こんなの買ったことがあったっけ? そもそもここは──まだうまく働かない寝ぼけ頭が現実に追いついたのと、コンちゃんの声が聞こえてきたのはほぼ同時だった。
「タクト、おはよう」
「……おはようございます」
カーテンが開かれ朝日の差し込む窓辺に、見慣れたシルエット。そこにはすっかり身なりを整えたコンちゃんが立っていた。「なんで敬語」口元を押さえて笑うコンちゃんがまぶしいのは逆光のせいだろう。光も満たすペットボトルを差し出され、私の反応はまたひとつ遅れを取った。
「声掠れてるし飲んどきなよ」
「……ありがと」
風邪を引いて喉がガラガラ、とまではいかないものの、違和感がないといえば嘘だ。おとなしくボトルキャップを開けたところで、手の爪先がかすかに黒ずんでいるのに気づいた。
夢でもなんでもない。もうすっかり百戦錬磨であろうコンちゃんの、ありとあらゆる手際の良さが感じられれば、ミネラルウォーターが喉をそこそこに潤すころには、私の機嫌は真っ逆さまだ。こらえようとしても唇は不満をかたどって、それを見遣ったコンちゃんが首をかしげる。夜をこえてなお元気なベッドのスプリングを揺らすようにして私の隣に腰掛けたコンちゃんは、ほんのすこしだけ眉をひそめていた。
「タクト?」
問いかけの選択肢はいくつもあるんだろう。私の方から引き出すつもりか、いつもの調子より断然やわらかい声音で、コンちゃんは私の名を呼ぶ。どうかした? なんてとぼけられる夜ではなかった。こういうところコンちゃんはずる賢い。 - 126二次元好きの匿名さん22/07/31(日) 04:40:54
このレスは削除されています
- 127二次元好きの匿名さん22/07/31(日) 04:47:48
「……手慣れてるなって思っただけ」
いつのまにか着ていたコンちゃんのシャツだとか、差し出された飲み水だとか、私が寝こけているあいだに着替えてひとり朝を迎えているのが、なんだかむしょうに気に食わない。
「最初の頃は手際が悪いとかへたくそだとか言われまくってたよ、僕」
「……そう」
当然といえば当然。まごうことなきあたりまえ。百戦錬磨の手練かどうかを実際に私は判断しかねたけれど、何度も、何十度も、何百度もこなせば段取りだって身につくものだ。
そんなことは、わかっている。けれど。
「……僕、うまくエスコートできなかった?」
「……ノーコメント」
「え〜、あ、……もしかして、タクト、……ヤキモチ?」
コンちゃんはこういうとき、本当に見事に差してくる。コンちゃんにたくさんの相手がいるのなんてあたりまえで、今にはじまったことじゃないのに。そんなこと、コンちゃんがターフを去ったその時からわかっていたことなのに。
……ちょっとコンちゃん、ニヤニヤしないでったら。違うとも否定はできない乙女心は、たいそう複雑なのだ。子どもみたいに嬉しそうなコンちゃんが腹立たしくて、重い身体でふたたび体当たりをしかける。昨晩みたいにけらけら笑うコンちゃんにのしかかって、ホールドして、それから。
「タクト、まだ眠たい?」
「誰かさんのせいだよ。……それに、起きるのは一緒がいいんだ」
私の1歩先を行く君だけど、並んで走っていたときみたいに、歩調を合わせるところから、もう一度、はじめたい。
***
タクトの萌え袖見てみたかったと供述しています。コンちゃんも見たかったですよね?
朝の情景をお納めします。よろしければどうぞ。
- 128二次元好きの匿名さん22/07/31(日) 05:40:20
す、素晴らしい文章ですわ……爪が黒ずんでる描写だけで色々考えてしまいましたわ
- 129二次元好きの匿名さん22/07/31(日) 05:56:07
結局握り潰せばそれだけで攻撃になる上に拘束も解けるんだから何も封じられてなかったというオチですね…
- 13012522/07/31(日) 15:02:08
- 131二次元好きの匿名さん22/07/31(日) 21:24:16
「タクト、そろそろ起きて」
声がする。普段の生意気なヘラヘラしら声ではなく、包み込んでくれるような優しい声色。
しょぼしょぼと目を開けると、目の前には艶々とした黒い髪の顔があった。
「……おはよ」
「うん、おはよう」
2人で迎えたはじめての朝、気恥ずかしさと愛しさが入り混じった感情でフッと笑みが溢れる。
どちらかと言えば女顔だし、身長も自分と変わらないコントレイルの手を借りて上体を起こすと、腰の辺りに違和感が残っていることに気付いた。
「……つっ……」
確かに昨夜のあれこれで体に疲労感は残っている。しかしそれはデアリングタクトにとっては嫌なものではなかった。
「痛い?無理しないでいいからとりあえず服着よう」
コントレイルが昨晩脱いだ私の服を差し出す。きっちりと畳まれているのは多分私が起きる前に準備していてくれたのだろう。
そう言われて布団の中の自分の体に目を通すと、コントレイルのシャツを着せられていた。
よくもまあ朦朧とした意識の中で着せたものだ。手慣れてるのが少し腹立たしい。
でもその服に残っているはずのない誰かの温もりに、デアリングタクトは少し名残惜しさを隠して着替えた。 - 132二次元好きの匿名さん22/07/31(日) 21:26:59
「まあ今日は休みだし、身体のこともあるから昼までゆっくりしていきなよ」
パンと作り置きのサラダ、紙パックの野菜ジュースの朝食を2人で食べながら、コントレイルはそう提案してきた。
朝食後に「昼ご飯無かったなあ、ちょっと買ってくる」と言って、コントレイルはデアリングタクトを残してコンビニへと向かう。
1人になったデアリングタクトは、これは何かのチャンスだと思い立ち、部屋の物色を始めた。
コントレイルの自室に入るのは初めて。改めて部屋を見回す。
きちんと整理整頓されているように見えて、トレーニングに使うのであろうダンベルやランニングシューズが乱雑に置かれている。
本棚には"英雄"の独占インタビュー本や過去のレース特集雑誌、週刊漫画雑誌などが並んでいる。
テーブルには同期のディープボンドやサリオス、サトノフラッグ達と撮った写真が飾られていた。
「全く、負かした相手との集合写真飾ってるなんてお人好しなんだから」
そう言いながらテーブルに置かれている写真立てを持ち上げようとすると、重なったノートやレース理論の本に紛れている雑誌に気がついた。
デアリングタクトがトリプルティアラを獲得した時に発行された臨時特集号。
何度も読み返したのだろう、表紙は折れていたし、所々痛みも目立つ。
パラパラとめくると、あるページに小さな紙が挟まっていた。
ヨレヨレになった、皺がいくつも入った小さな紙を手に取ると、そこには力強い文字があった。
『タクトのためにも負けられない 勝つ、勝って2人で一緒に走る』
裏返すと、それはデアリングタクトの秋華賞の応援チケットだった。
- 133二次元好きの匿名さん22/07/31(日) 21:28:35
現地に来てくれたし、三冠達成後の祝勝会では笑顔で祝福してくれたコントレイル。
しかし翌週に控えた自身の菊花賞へのプレッシャーは、デアリングタクトには到底考えられないものであった。
秋華賞翌日、新幹線で寮へと帰るデアリングタクトは、まるで魂が抜けたかのように憔悴しきっていた。
深夜まで続いたメディア対応やインタビュー、それを途中で切り上げて宿舎のベッドに入った後、すぐに眠りに落ちた。
翌朝、同じ新幹線で帰るレシステンシアに起こされて、慌ててバタバタと準備をして急いで京都を発った時には、コントレイルはもう居なかった。
自身の菊花賞へ向けて、少しでもトレーニングをするためだったのだろう。
秋華賞の後、コントレイルと話す事が出来たら。そう思い返す。
2人してアーモンドアイ先輩に立ち向かい、見事に負けたジャパンカップから1ヶ月。
年末年始休暇で鳥取の実家へ帰るコントレイルを見送った後、夕方の寮の自室でデアリングタクトは一人で膝を抱えていた。
「コンちゃんはみんなの期待を背負ってる、だけどそれはコンちゃんには重すぎない?私にも肩代わりさせてよ」
そう呟いて、ギュッと目を閉じた。
- 134二次元好きの匿名さん22/07/31(日) 21:29:28
思い出に浸っていると、外から足音が近づいてきた。
バタバタとした足音が部屋の前で止まると、扉が開く。
「ただいま、お昼買ってきたよ」
飛行機柄のエコバッグにはお弁当やサラダなどが詰まっていた。
「タクトが多分気に入りそうなのだと….これとか…」
品定めをする様に袋から取り出す。デアリングタクトは顔を俯けたまま、コントレイルに近づく。
「そうだ、最近近くにテイクアウトのキャロットジュース屋さんもあるんだった…ってうわっ!」
背後からコントレイルに抱きつくデアリングタクト。驚いたコントレイルは固まっている。
見た目はヒョロッとしている癖に、しっかりとした背中の筋肉。少しだけ自分より広い肩幅。
その背から伝わってくる温もり。デアリングタクトは何も言わずにコントレイルの背中に顔を埋めた。
「タクト、どうかしたの?」
こんな背中に何千、何万の重すぎる期待を背負わせたくない、私だけでいい。
そう思いながら、ギュッと前に回した腕を自らに寄せるデアリングタクト。
コントレイルはその手を、上から包み込むように手を置く。
何秒、何分経ったか分からなくなるまで、2人はじっとそのままで立ち尽くしていた。
後は頼んだ
- 135二次元好きの匿名さん22/07/31(日) 23:12:08
すげえなここ。この調子だとSSで最後まで埋まるで
みんな乙や - 136二次元好きの匿名さん22/07/31(日) 23:50:58
>>134の続きは自分には荷が重いから楽しみにしてる……!
明日暑さから生きて帰ることができたらまた甘酢っぺぇコンタクトを書けたらいいな。ただ主題(?)から離れつつある気もするので大丈夫かという不安もなきにしもあらずですわ〜
- 137二次元好きの匿名さん22/08/01(月) 00:35:50
- 138二次元好きの匿名さん22/08/01(月) 01:42:44
普段はヘラヘラしてるしタクトは適当にあしらうけど、いざ2人きりだときっちり男前な所見せつけてくるのがコンちゃん
- 139二次元好きの匿名さん22/08/01(月) 11:56:12
- 140二次元好きの匿名さん22/08/01(月) 12:13:42
- 141二次元好きの匿名さん22/08/01(月) 12:22:51
「ほんと、ひどいやつ……」(愛情)
これも追加でお願いします、供給が……足りていないんです……!! - 142二次元好きの匿名さん22/08/01(月) 13:32:23
コントレイルの口調をコパみたいな自分の名前を最後に付けるタイプと解釈するなら『酷いよコント…』はコントが言うシチュも成立するのでは?
- 143二次元好きの匿名さん22/08/01(月) 14:52:10
📞「コーントットット!!!」
🦐「エーッピッピッピ!!!」
タクト「えぇ……」 - 144二次元好きの匿名さん22/08/01(月) 16:22:08
side C
突然背後からの衝撃にぎょっとする。誰がぶつかってきたのかは明らかだ。
きつく抱きしめられた腕は、まるで子供が甘えるかのように離してくれそうもない。
そんな手に優しく触れる。表情が見えないが、そうする事でデアリングタクトが落ち着くならいくらでもする。
何分経っただろう、ようやく回された腕の力が抜けて解放された。昨晩自分の首に回された時とは違った想いの強さを感じた。
振り向いて様子を伺うと、デアリングタクトは少し潤んだ目をしていた。自分が何か怒らせたか?そう心配になる。
「ふぅ、ちょっとシャワー借りるから」
デアリングタクトは苦笑するような表情をすぐに振り払い、風呂場に向かった。
一体何があったのか。コントレイルは訳がわからずにただ頷く事しかできなかった。
少しだけ悶々とした雰囲気を振り払い、昨晩のあれこれで散らかったベッド周りを片付け始める。
脱ぎ散らされた2人の服やタオル。それを一つずつ拾い上げ自分のものは洗濯カゴに、デアリングタクトのものは綺麗に畳んでベッドサイドに。
そうしていると、水色のリボンが落ちていることに気づく。 - 145二次元好きの匿名さん22/08/01(月) 16:26:10
普段からデアリングタクトが髪留めとして使っているものだ。トレードマークと言ってもいい。
拾い上げると、コントレイルはそれを持ったままで立ち尽くした。
走る度に靡くタクトの髪とリボン。それにコントレイルは魅せられていた。
怪我からの復帰戦のヴィクトリアマイル。リハビリ時と似た必死の形相。
それでも前へ進む事を辞めないデアリングタクトに、コントレイルはただ祈る事しか出来なかった。
翌月の宝塚記念は3着。周囲からは調子が戻ってきたと褒められていたが、それがデアリングタクトの思った通りの結果ではないことはコントレイルにはありありと分かる。
そんな姿を見ている事しかできない、先にトゥインクルシリーズを去った自分には何もしてあげられない罪悪感に目を瞑る。
手が勝手に動いてリボンに残った香りを嗅ぐ。普段デアリングタクトが使うシャンプーの香り。寮でよく使われている人気の洗濯用洗剤の香り。
しかしそれ以外の何かを感じ取ったコントレイルは、シャワーを終えて脱衣所で着替えているであろうデアリングタクトの元へと向かった。
- 146二次元好きの匿名さん22/08/01(月) 16:27:28
「タクト、ごめん」
洗面台兼脱衣所のドアを開けると、そこには下着だけ身につけたデアリングタクトがドライヤーで髪を乾かしていた。
「きゃっ!…びっくりするじゃない、別に何もしてないわ…ってひゃっ!」
コントレイルはデアリングタクトを正面から抱きしめていた。肩口にデアリングタクトの顔が当たる。
今はただ、こうしていたい。背負ったプレッシャーへの自己嫌悪でキツく当たった過去、自身のターフからの別れ、昨晩のあれこれ…贖罪と、繋がりの再確認かのように、半裸のデアリングタクトをひたすらに抱きしめる。
そうしていると、デアリングタクトが口を開く。
「酷いよコント…こんな所でそういうのするなんて」
しかし嫌がる素振りはまったく見せない。むしろこの時間がいつまでも続いてほしい。そんな手つきでコントレイルの頭を撫でる。
いくら謝罪しようとも、先にターフを去った事はおそらく許してくれないだろう、だからこうして自分へと縫いとめておく。泥まみれのシンデレラは自分だけのお姫様なんだ。
「コント、もう一回…する?」
お許しがでた。お姫様からの直々のお誘いとあらば、王子様は承諾する他ない。
「じゃあお言葉に甘えさせていただきます」
「ちょっ!なんでお風呂場なのよ!」
強気で、可憐で、豪胆で、それでいて繊細なお姫様は王子様に抱きしめられたまま、つい数分前まで使っていたシャワー室へと戻っていった。
スレタイ回収のために書き殴ったがこれコンちゃん結構ラノベ主人公してますね…
- 147二次元好きの匿名さん22/08/01(月) 21:23:39
- 148二次元好きの匿名さん22/08/01(月) 21:26:38
類 は 友 を 呼 ぶ
- 149二次元好きの匿名さん22/08/01(月) 22:35:19
コンちゃんのお世話は、甲斐甲斐しいものだった。私があまり無理をしないようにとキングサイズのベッドの上に据え置いて、ペットボトルの水だけじゃなく、いろいろなものを用意していた。「タクト、何か食べる?」という問いかけにうなずくと、生活感がなさすぎる佇まいのキッチンからなにやらいろいろ持ってきた。コンビニおにぎり。菓子パン。りんご。にんじんゼリー。紅茶のパックとコーヒーのパック。なんとなくりんごを指し示すと、「あ〜」とうめいたあげく、これまたあまり使われたことのなさそうな果物ナイフとお皿を差し出してきた。なるほど、食べるなら自分で剥け、ということらしい。そのくせ私がするするとりんごの皮を剥いてみせると、そそくさとやってきてわくわくした様子で待っている。「食べさせて♡」とか言ってきたので4分の一カットを問答無用でその小さなお口の中に突っ込んでさしあげた。
朝食なんだか昼食なんだかわからない、いわゆるブランチの時間が終わると「何か見る?」とへらっと笑って、タブレットを片手にベッドの上に乗り上げてきた。私の是非を問わないのは、いかにもコンちゃんらしい。
ベッドボードと背中の間にクッションを挟んで、私とコンちゃんは肩を並べる。これまで気にしたことのない距離だったけど心臓が跳ね上がったのはきのうの今日だからだ。私の動揺をよそにしてコンちゃんの指がディスプレイの上を滑る。
「タクト、このレース見た? 僕の後輩が走ってるやつ」
「いつの? あぁ、このあたりは引退式の準備でばたついてたから見てない」
「んじゃこれからね」
ざわめき、風の音、ファンファーレ、拍手。ゲートが開いて、蹄鉄が地面をえぐるいくつもの足音が、空を駆け上がっていく。何を見せられるかと思えば、なんのことはない。一夜を共にしても、コンちゃんの手際がはつぐんにこなれていたとしても、コンちゃんは変わらない。ふたりともまだ現役だったころと一緒で、昔のように走らなくなっても、走ることは手放せない。ドキドキして損した……煩悩めいたあれこれを振り払うみたいにして軽く頭を振ると「タクト、もしかして……なにか期待してた?」などとのたまうのでかたわらに放られていたクッションで思いきりその横っ面を殴ってやった。コンちゃんセレクトのレースはもちろん楽しんだけれど。
そんな……長いようで短い1日が終わったのが、1週間ほど前のこと。
- 150二次元好きの匿名さん22/08/01(月) 22:36:25
晴れ時々くもりの天気予報のとおり、薄雲が覆う空の下、とある街角。私は、若干の緊張感とともに約束の時間が来るのを待っていた。約束した相手は──時間通りにくるとは思っていない。だってコンちゃんだし。間違っても先に来ているはずがないからこそ、私はまだすこしばかり余裕を持って、その時を迎えることができる。
『出かけない?』と、LANEを送ったのは私からだった。『デートのお誘い? ど〜しよっかな〜』などという面倒な駆け引きは封殺して日時を指定する。あらかじめコンちゃんの予定はボンド君から仕入れ済み。急用がないかぎりはOKをもらえるはずだった。
そうして、想定通りの待ち合わせ時間より五分遅れて、むこうの通りからコンちゃんが姿を現した。私の姿を見つけるなり「ごめんごめん」なんて言いつつこちらまでやってきて──コンちゃんはあと一歩というところで足を止めた。私の耳の先から爪先まで、コンちゃんの視線が上下する。
「タクト、もしかして、気合い入れてきてくれた?」
「……」
デートではないつもりだった。今日、コンちゃんを誘い出したのには大きな理由がある。けれど、──コンちゃんと遊びに行くとマリリンやレシスに言ったところ、両腕をつかまれてはやりのショップに連れ込まれてしまったのだ。私たちには勝負服があるからきらびやかな格好には慣れているけれど、私自身は普段着にそこまで頓着しないほうだ。『だからでしょ!』とされるがままにマネキンをこなしてお買上げしたのは、デコルテラインを隠す高襟のノースリーブワンピース。スカートの軽さが心許なくて、コンちゃんを待っている間、ずっと落ち着かなかった。もっともコンちゃんのことだからべつだん気にしないかもしれないと思ったら、これだ。この反応。
「マ子にも衣装って言いたいんでしょ」
「言おうと思ったけどタクトがそう言うなら言うのやーめた。……可愛いよ、とっても」
さっきまでどうからかってやろうかっばかりににやにやしてたのに、普通に嬉しそうにするの、やめてほしい。
- 151二次元好きの匿名さん22/08/01(月) 22:37:57
目的地を決めないまま、私とコンちゃんは街を歩く。コンちゃんも私も、芸能人レベルではないけれどレース界隈ではそこそこ顔も知られているからこそこそされたりちらちら見られていたりはしたけれど、好奇の目を向けられているわけではないようだった。きっちり仕上げてくれたマリリンやレシスには悪かったけれど、どうあがいてもデートには見えないらしい。それもそのはず。
「今年のグランプリ、誰が取ると思う?」
「そういえば海外飛び回ってるあの子がさ」
「そこのシューズショップ寄ろ? 僕あたらしい蹄鉄見たい」
どうあがいてもデート中の会話ではないのだ。断じてデートではないけれど! エスコートはしてくれてはいるけれど、その距離感は──傍から見ればどう色眼鏡をかけても『ともだち』だっただろう。
『ともだち』。それでいいのだと、私は何度も心の中で唱える。それでいい。それがいい。──そうでなきゃ、だめ。
同じような歩幅で、街を行く。あの日、肩を並べてレース動画を見て、いつもやってたような色気のない話をする。私の目的はそこにある。
これまでとおなじに、もどらなければならない。
- 152二次元好きの匿名さん22/08/01(月) 22:40:12
「あっ、コントくん!」
聞いたことのない女の人の声がコンちゃんを呼んで、私ははっと顔を上げた。「こんにちは、──さん、お久しぶりです!」さっきまでのゆるんゆるんの雰囲気を投げ捨てたコンちゃんが、優等生ぶって応じる。芦毛で、おそらく私たちよりも年上のその人に、やっぱり見覚えがない。世代が上なら同じレースに出たことがあるかもしれないとは思ったけれど思い当たらないまま、彼女とコンちゃんはにこやかに会話を終えて、手を振って別れる。
「コンちゃん、いまの方は?」
「あ〜、一昨年だったかなぁ、お相手したの」
「……なるほど」
いかなコンちゃんであっても、夜のお相手について白昼堂々言いづらいらしい。こんなこと口に出したら僕を何だと思ってるの、とか文句を言われそうだったから、お口はチャックしていたけれど。
当然だ。あの夜のコンちゃんの手際がやたら良かったのも、仕事として経験を重ねているからだ。そこにはかならず、私ではない誰かがいる。コンちゃんの優しさに包まれている。
当然だ。当然だから、……私は今日の約束をとりつけた。
「……お仕事、大変だね」
「ん〜、そうでもないんじゃない?」
「……いまの人とは、どうだったの?」
「え。……タクトったら、そーゆーこと聞く?」
当然の反応だった。いくらなんでも踏み込みすぎている。さすがのコンちゃんも引きつった表情の一つや二つ……と思っていたけれど、私は、怖くて顔を上げられなくなってしまった。
聞かなくてもいいことだった。どうして聞いてしまったんだろう。あまりの女々しさにめまいがしそうだ。なにか喋らなければ。いつもコンちゃんがするみたいに『なんてね』って、へらりと笑ってごまかさないといけないのに。
ごまかすことも言葉を継ぐこともできない私の手を、コンちゃんがそっと取った。コンちゃんに手を引かれて、私は歩き出す。
胸が痛くて、足元はおぼつかないままだ。
- 153二次元好きの匿名さん22/08/01(月) 23:31:37
いつのまにか足元の影が長く伸びるくらいに、薄雲が引いた空はオレンジ色に染まっているみたいだった。私の首は上がらないまま、コンちゃんに手を引かれ煉瓦道を歩く。
恋だとか、ときめきだとか、そんなものは、もともとなかったはずだった。私はもっと豪放磊落で、コンちゃんたち世代の悪がきをしばき倒して、からかい混じりに恐れられる。そんな子だったはずだ。それなのに、こうだ。こんなにも情けない気持ち、リハビリ中だって感じたことはなかった。折れそうになる日はあったけれど、いつも前を向けていた。
「タクト」
コンちゃんの歩みが止まる。おそるおそる顔を上げる。見上げた先には、市営の運動場の建物が、夕日に照らされていた。
「芝2400メートル。左回り。東京レース場じゃないけど、……走らない?」
「……それ、気合い入れておしゃれしてきた女の子に言う台詞?」
「タクトだから言うんだよ。誰でもない、タクトだから」
気合い入れてオシャレしてきたのだから、当然、履いているパンプスは走ることに耐えられるつくりではない。けれどこの手の運動場は、練習用の靴と蹄鉄をレンタルできるようになっている。荷物をロッカーに預けて、私とコンちゃんは茜色に染まるターフに足を進めた。準備運動はそれぞれ入念に行なう。ゲートの貸出時間はとうに過ぎていたから、スタート合図は口頭だ。
「ちなみに何本?」
「タクトが満足するまで?」
「私、ついこの間まで現役だったんだけど」
「当然ながら僕にはブランクあるからお手柔らかにね」
「手加減すると思ってる?」
「……まさか!」
私たちが私たちであるための筋肉が落ちていないことなんて、いつかの夜に理解済みだ。
──On your mark,
──get set, go!
- 154二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 00:04:22
走る。走る。蹄鉄で芝を叩く。ワンピースのスカートが重くなくてよかった。足にまとわりつかない程度のやわらかなスカートをはためかせ、風を切って進む。ターフの上を走るのは私たちだけだ。けれど、コンちゃんの告げた条件は、いつかのレースを思い起こさせるのに充分だった。肌がそのときのことを思い出す。それぞれのストライドの足音が、リズムが、私の中で鮮やかによみがえった。あこがれた先輩の背中が遠く見えるような気がする。一つ上、二つ上、牡も牝も関係なく、ゴールへ向かって走る。走る。走る──私は中団で、コンちゃんはもう少し後ろで、たったふたりの同世代で、未来を切り開いていくみたいに。駆ける。がむしゃらに、根拠のないしたたかさを胸に抱いて、駆けて、駆けて、駆けて──あのときと同じように、コンちゃんがギアを上げる。ほら、ブランクがあるなんて大嘘つき。コンちゃんが躱していく。目の前に広がった背中が、夕日に焼かれて、ひどくまぶしい。
どんなにリハビリが辛くても。
復帰できないかもしれない不安に押しつぶされそうになっても。
私が前を向いていられたのは──あの日、君の背中を追いかけたからだ。無敗三冠、君としか分かち合えなかったたくさんの感情は、もうこんなにも、大きくなって、ふくれて、はじけそうになっている。
恋だとかときめきだとか、なかったなんて大嘘だ。きっと私は、ずっと、君のことを──
- 155二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 00:06:53
今日中に終わらなかった上に長くてすみません……明日にはちゃんと
「ほんと、ひどいやつ……」(愛情)
で着地させます。まずはここまでお納めします…… - 156二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 00:09:59
めちゃめちゃ健康になった
ありがとう
コンタクトはもちろんタクトがボンドと手を組んでコントの外堀埋めてるのにも萌えた - 157二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 00:20:03
「そのジャージのセンスは酷いと思うよ、コント」(小学生男子の裁縫箱みたいなデザインを見ながら)
- 158二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 01:15:02
もういっそターフィーショップに売ってるお互いのTシャツと帽子買って相手のシャツと帽子着ててくれ
ってかターフィーショップさんマジでいろいろおいてるのな……
ここまで書いて思ったけど本人ならグッズのサンプル渡されててもおかしくないな
よし誰か文才ある人に相手のグッズで全身固めるコンタクトの話を任せた
- 159二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 05:04:20
じゃあ私はもしもしくんの誕生日が4月1日=エイプリルフールなので「プレゼントは私♡」されてどこまで本気にしていいかわからなくなるもしもしくんの概念を投げていきますね……
- 160二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 13:53:48
あ
- 161二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 13:55:01
保守なら保守と書け、めんどくさがるな
- 162二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 14:38:09
- 163二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 14:43:03
- 164二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 14:43:27
- 165二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 20:46:46
保守
- 166二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 20:48:56
- 167二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 20:49:09
いい...
- 168二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 20:49:22
よくない😡
- 169二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 23:12:46
保守
- 170二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 23:14:41
令和の最新三冠馬が古き良き平成初期のラブコメやってんのは健康に良い
- 171二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 23:17:47
>>146続き
side D
「……へんたい、すけべ、ロールキャベツ」
とうに日が昇りきった室内で、二つの影がぴったりと重なったままもぞもぞと動く。
毛布にくるまって、この状況を作った元凶への恨み節を呟く。
結局あの後お風呂で第2R、ベッドに戻って3Rと続けてしまった。
無論、自分から求めた部分が大いにあるせいで面と向かうことは出来ない。
「だから悪かったって!でもタクトだって乗り気だったじゃん」
「うるさい!初めてしてから1日も経ってない女子をあんなにガツガツ頂く狼の方が悪い!」
小っ恥ずかしくてついつい強く当たってしまう。でもこうして膝の上で背後から抱きかかえられているだけで、何だか全てを許せてしまうような感覚になる。
頭から被った毛布がずり落ち、顔が露わになる。おそらく首や頬は赤く染まっている事だろう。
それでも表情は見せないように膝に押し付けた。また目があってしまうと、またそういう雰囲気になりかねないから。
ひたすらに恥ずかしさに耐えていると、コントレイルが肩を掴んで無理矢理顔を覗いてきた。
「僕だって誰でもこうする訳じゃない、タクトだからこそこうして2人きりでいたい」
その真っ直ぐな瞳に吸い寄せられそうになる。本当にこいつは私の心を鷲掴みにする。デアリングタクトは精一杯の膨れ面を作って目だけで抵抗した。
そんな気持ちを知ってか知らずか、コントレイルはただ微笑みながら抱きしめてくる。
本当にずるい。そっちの方ではガツガツと攻めるくせに、こういう場面では受け身で優しくしてくるなんて。
腕と胸から伝わってくる温もりに、ただ身体を委ねてしまえば、他の事はどうでも良くなる。
出来るならば、この時間がいつまでも続いてほしい。そう思いながら、コントレイルの腕の中で目を瞑った。
- 172二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 23:19:50
「落ち着いた?」
優しい声で目を開けると、コントレイルが私の身体を支えながら目を合わせてきた。
「うん、だいぶ。まあ誰かさんと違って私は経験浅いから腰も足もガクガクなんですけども」
お風呂場でのあれこれの後、脚に力が入らなくて立ち上がれなくなった所に追い打ちをかけてきた張本人への嫌味。
「まあそれは申し訳ないと言いますか…ちょっと自分でもびっくりするぐらいガッツいたなと反省してます」
ペロリと舌を出しながら肩をすくめるコントレイル。本当に反省してるのかと疑問になるが、自分も積極的に首に腕を回してた事を思い出しこれ以上の追及はやめておく。
それ以上にこうして繋がりあった事で、心が満たされているような感覚でフワフワとする。
「お昼食べよっか、タクトから選んでいいよ」
時計を見ると、既に午後になっていた。
私をお姫様抱っこでベッドに寝かせると、コントレイルは朝に買ってきた弁当やサラダを冷蔵庫から取り出した。
お弁当を食べてソファに2人で座り、ただテレビを眺める。コントレイルの膝の上が指定席だ。
特に見たいものも無かったのでニュースを見たりバラエティを見たり。お笑い芸人のリアクションに2人でクスクスと笑う。
喉が渇いたと言えばコントレイルが麦茶を持ってきてくれる。うむ、王子様にしては気が効くではないか。
そうして午後のまったりとした時間を過ごしていると、レース中継が始まった。
この日はジュニアクラスのG3レース。名前を聞いた事がある子も出走している。
「あ、あの11番の子は前の札幌で4バ身差で勝った子じゃない?」
「7番の子はタクトの宝塚記念の日にデビュー戦走ってた子だね、検量室に居たの見たことあるよ」
「あっ…スタート合わなかったね、これじゃあ2番の子が逃げて4番の子が続くって展開かな」
「ほら、10番の子が競り合ってきた、馬場も開幕週じゃないし2角で先頭決まらないと後ろへの援護射撃になっちゃうね」
2人でレース中継をあれこれ語りながら眺める。レースとなれば話の種は尽きないものだ。 - 173二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 23:21:13
メインレースが終わりチャンネルを変えようとした時、テレビ画面のレポーターが捲し立てる。
『続いてはデアリングタクトの独占インタビューです!宝塚記念3着で復活をアピールした女王の夏、秋に向けての抱負をお聞かせ頂きました!』
咄嗟に身体が硬くなる。あの時はそれどころではなく上辺だけで答えたような覚えがあった。
するとコントレイルがテレビの電源を消した。おそらく気を効かせてくれたのだろう。
自身の腕の中のデアリングタクトを後ろからギュッと抱きしめる。2人とも声は出さない。
言葉でなくても伝わる感情。
ー引退せずに走り続ける理由はドリームリーグに移ったコントレイルとまた一緒に走りたいから。ー
ータクトがこっちに来るまで、僕がドリームリーグでトップ争いし続ける。ー
突然、コントレイルが抱きしめたままソファに倒れた。胸の上にデアリングタクトの顔が乗る。
「ビックリした、でも大丈夫。コントの気持ちは分かってるつもり」
「うん、僕は僕のやるべき事をやってる。だからタクトは自分のしたい事してたらいいよ」
多くは語らない、でもそれが心地いい。
いつかまた、2人で同じターフを走るその日になったら、胸に秘めた感情を全て伝えよう。
「じゃあ約束、コントがちゃんと私の事待っててくれるって約束して?」
「えっと、それは指切りで?それとも…っつぅ!」
おそらく分かっているのであろう、コントレイルはあえてとぼけた答えを返す。
脇腹を軽くつねってやると、コントレイルが痛みに反応してぎゅっと強く抱きしめてきた。
「こっち」
目を瞑り、唇を前に出す。これぐらいの事しなきゃ約束として認めてあげない。
数秒遅れて、2つの唇が重なった。
もうネタ切れです…この2頭、いや2人は永遠にイチャコラしてて欲しい - 174二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 23:22:18
まあゴリラゴリラ揶揄するのは好きな子っていじめたくなるじゃん?みたいな小学生ソウルが疼いてるからとでも思えば良いのだろうか?
- 175二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 23:22:26
「あ〜もう、む〜り〜」
炭酸の抜けたメロンソーダみたいなふにゃふにゃした声が、雲がどこかに消え散り晴れた夕空に吸い込まれていく。五〜六本……もう少し走ったかもしれなかったけれど、無我夢中で思い出せない。もう絶対に1歩たりとも動きませんとばかりにターフの上で大の字を決めるコンちゃんを見下ろしながら、私は額に浮き出る汗を手の甲で拭う。ここまでやるとは思ってもみなかったから、ハンカチはロッカーに入れている鞄の中だ。できるかぎり手を尽くしたメイクもきっと無残なことになっているけど、そんなのどうだっていいと思うくらいに気持ちが、心が、すっきりしている。
悩んだり迷ったりしたらまず走るのは、ウマならではなのかもしれない。現役を退いてから全力で走ることなんてなかったから、ひさしくこの感覚を忘れていた気がする。
「なに、コンちゃん、もう終わり?」
ついつい可愛げのない言葉が滑り落ちたけれど、やらかしたとは思わない。深く大きく胸を上下させて息を整えていたコンちゃんが、まるで待っていたとばかりにニヤりと唇をゆがめる。
「そういうタクトも、このあいだの夜はあんなにすぐヘバったくせに」
「……潰してさしあげたらいい?」
大の字の合流地点少し下に蹄鉄つきの運動靴をいきおいよく食い込ませてやると、コンちゃんが「ひえ」と情けない声を上げる。「ちょっとタクト?! 僕お高いの知ってるよね?!」「知ってる」知ってる。コンちゃんが次の世代のために大切にされていることも、私は知っている。コンちゃんがそれを自覚していることも。……それなのに、倒れ込むまで走ってくれたことも、私は知っている。トレーニングはすれどレースからは離れていたから、走った本数中何本も私に先着されたのに、それでも私が満足するまで付き合ってくれたのも、全部。全部。
タクトだから、と、コンちゃんは言った。それは裏を返せば、私じゃなければコンちゃんはこんなところまで連れてこなかった。まるで、私のさまよう心を見透かしたみたいに。
「コンちゃん」
「なに?」
「私、君のことが好きだよ」
「もしかして今ごろ気づいたの?」
いけしゃあしゃあと言ってのける小憎たらしさには──どついてやろうかと思うけれど。仰向けに寝転がったまま伸ばされたコンちゃんの手を、そのまま取ってしまうくらいには、私は、コンちゃんのことが好きだった。
──好きだったんだ。
- 176二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 23:26:39
コンちゃんのとなりに寝転がって、暮れ行く空を見上げた。まだ橙色が強いけど、もう15分もすれば星がちかちかと輝きはじめるだろう。夜のカーテンが引かれる前の空に、一筋の雲が横断している。飛行機雲だ。
コンちゃんの左手と私の右手は、いつのまにかつながっていた。するりと指が絡み合いそうになるのはそっと抑える。
「さっきの話だけどさ」
「さっき……?」
「芦毛のお姉さんのこと!」
「あぁ、……うん」
思いきり体を動かしたおかげかすっかりどこかに飛んでいってしまっていたけれど、それは、私の心を深く曇らせた出来事だった。
けれど、あのときほどに気持ちは揺らがない。小さく頷くだけにとどめて、私はコンちゃんの言葉に耳を傾ける。
「あのお姉さんだけの話じゃないけど、いろんなお相手さんがいるんだよね。もう完璧にお仕事こなします! って子もいれば、世間話してからの〜〜ってお相手さんもいる。ムードを大事にする子もいれば、この若造に……? みたいに値踏みしてくるおねーさんもいるし。僕が若造なのは事実だけど!」
「そうなんだ」
「あとは、僕じゃときめかない! 愛しの○○様じゃないと嫌!! 無理!!! なんて子もいる。お仕事だからね、仕方ないけど……」
「うん。お仕事だものね」
「……タクトは、今日一日、どうして上の空だったの?」
「……!」
「タクト、自分のわかりやすさ自覚してないよね? 腹が立ったら先輩だろうが睨むし、闘志が燃えたぎったら後輩もビビらせるし」
きゅ、と、握られた手に力がこもる。言い返してやろうと少しずつ色を変えていく空に据えていた瞳を動かすと、思いの外真剣な色をたたえたコンちゃんの視線とぶつかった。
「私は」
コンちゃんの手を握り返したい気持ちを、静かに制する。小憎たらしいと思ったけれど、言われてみればそうだった。私は自分がコンちゃんのことを、ともだちだとか同期だとか以上の、かけがえのない存在であると自覚はしていたけれど、それが、惹き合い求め合うような恋情であることに、うまく気づかないままだった。
だから傷ついた。コンちゃんの優しさが、関係を持つ前とあまり変わらないことに。
だから傷ついた。コンちゃんの優しさが、私以外のだれかにも、ひとしく注がれていることに。
お仕事だから。愛想よくするのも、ムードを作るのも、夜を越えて私が帰るまで丁重に扱ってくれたことも。
- 177二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 23:27:29
「私ね、コンちゃんと走るの、楽しかった。現役中にレースで相見えたのは一度きりだったけど、今日みたいに一緒に練習したりもしたでしょ?」
「だいたい僕が勝ってたけどね」
「ふーん。現役引退すると耄碌しちゃうのかしら」
「じゃあタクトもこれからモーロク……ごめんって。……続けて?」
手をにぎりかえすかわりに爪を立ててやると、コンちゃんはすぐ白旗を上げた。
「私は、コンちゃんの特別だと思ってた」
「えぇ……もしかして知らなかったの?」
「揚げ足取らないで。……ずっと、特別でいたかった。過去も、今も、これからも。私がコンちゃんに恋をしちゃったみたいに、……コンちゃんにも、そう想ってほしかった。独り占めできたら良かったのに、って……」
独り占め。コンちゃんが小さな声で呟く。次の世代を輝かせるためにお仕事をするコンちゃんを独り占めするなんて、土台無理な話だ。
たとえば。
苛烈と言われるような女丈夫なら、永遠に自分以外に取られてしまわないように、独り占めしたい相手を奪って逃げてしまうだろうか。そうでなくても、抱いた気持ちはあますことなく伝えて、手を尽くすに違いない。
けれど、私たちには血をつなぐ役目がある。繋がっていった血の先に、私も、コンちゃんも存在している。
ひととき心を巣食った靄も、コンちゃんへの気持ちを自覚することできれいにとは言えないけれどそこそこ晴れた。未練がないわけじゃない。コンちゃんにとって、特別であれた。その事実ひとつで充分だ。
「ねぇタクト」
コンちゃんが身を起こす。足の長い千切れた芝を払うことなく私の手を引っ張るから、同じように起き上がる。
膝をつきあわせて、そっとコンちゃんの表情をうかがうと、コンちゃんは笑っていた。前髪の流星の、ちょっと個性的な三日月みたいに、口の端を上げて。
それは、……悪がきが、なにかの企みを思いついたときの、笑い方。
- 178二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 23:28:56
「このまま二人でどこかに逃げようか」
「……!」
息を飲んだのは無意識だ。返す言葉も浮かばないまま硬直していると、コンちゃんの空いた右手が伸びてきて、私の髪に触れる。
「僕の実家、山の上の方にあるんだけどさ、そこから海も見えるんだよね。で、晴れた日には、その海の向こうに、小さな島が二つ見える。……信号機が1個しかなくて、牛がいっぱいいる田舎の島だけど、きっと、二人で、のんびり暮らせるよ」
熊と戦ってきたタクトなら牛くらいなんてことないよね? からかうように、コンちゃんは笑う。
「駆け落ち?」
「そ。きっとあちこち大騒ぎになるよ。ウマってだけで目立つから、包囲網が敷かれたりして」
「ボンド君とか心配しない?」
「捕まって戻ってきてはじめて駆け落ちしてたことに気づきそう。ボンド、ズブいからな〜」
「そうかな……? そうかも」
「あと僕は確実に、またマリリンとレシスに絞められる」
「また?」
「いやなんでもない。なんて、どうでしょうか、タクトさん」
コンちゃんの手のひらが、私の頬を包む。耐えきれずにこぼれた涙を指先が受け止めて、拭って、弾いていく。
それが果たされることのない夢物語なのは、提案の時点で逃げ切れていないことからあきらかだ。もし叶うことがあっても、きっと、遠い遠い未来のお話。
けれど。
「コンちゃんは、ひどいね」
「えぇ〜、辛辣」
「本当に、君はひどい」
私が望んでも言葉にできないことを、いともかんたんに口にしてしまう。叶わないと身を引こうとしたのに、いともかんたんに、私の手を取ってしまう。
ほかの女の子の影を見て悲しくなってしまうなら、ともだちに戻るのが一番だって思って今日を迎えたけれど。
どうやらコンちゃんは、それを許してくれないらしい。
- 179二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 23:30:47
締め切られるぎりぎりに運動場を飛び出して、私とコンちゃんは帰路につく。一度ロッカーで離れたものの、私の手はふたたびコンちゃんに捕まえられた。
ただし、絡めようとした指はシャットアウト。そのせいか──私の住居まで送ってくれたコンちゃんは、別れの間際、街灯の下、めずらしくぶすくれた顔をした。
「言うか言わまいか迷ったけど」
「うん」
「タクトは僕が誰を相手にするかを気にしてたけど、……僕だって、タクトが誰を相手にするか、気にならないわけじゃないからね?」
「そう、なんだ?」
「……僕の背中を引っ掻いていいのは、猫とタクトだけだし。なんかこう、それが伝わってないみたいな」
なるほどどうやらこのコンちゃん、思い通りに手を繋げないことに対するフラストレーションを抱えているらしい。
けれど。
お気づきだろうか。この思わせぶりなコンちゃんは、たったひとつ、大事なことを、口に出し忘れている。
「伝わりはしてるけど、……聞こえてないような気がするなぁ」
「えっ、待ってタクト、なんのこと?!」
めずらしすぎる狼狽ぶりに、私は笑みを隠せない。たどりついた答えとともに、ふたりの手が結びつくまで、あと、もうすこし。
おしまい
- 180二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 23:32:24
以下、話の展開上入れられなかったネタをト書きで。
(タクトのお洋服選び)
マリリン「やっぱりオフショルダー。鎖骨は出していきたい」
レシス「コント鎖骨好きそうだもんね、偏見だけど」
マリリン「わかる〜偏見だけど」
タクト「オフショルは無しで。……どうもコンちゃん、家に虫を飼ってるみたいでさ、そのあたりの噛まれ痕がまだ引いてなくて」
マリリン「えっ」
レシス「えっ」
タクト「えっ?」
マリリン「……悪い虫は絞めに行かないとね」
レシス「そうだねマリリンちゃん……」
タクト「コンちゃん、虫退治できなさそうだもんね。でも虫なら私も退治でき──ちょっとなんで二人とも目が座ってるの?!」
📞「ぶぇーっくしゅい!!」
⚫「コンちゃん風邪でも引いた?」
📞「寒気も来た……風邪かも」
⚫「今度の日曜日にタクトちゃんとお出かけするんでしょ〜? 養生してね」
📞「ん、そうする……ってなんでボンドが知ってるの?」
⚫「こないだタクトちゃんがコンちゃんをお出かけに誘いたいから、コンちゃんの予定教えてって言ってたの」
📞「ふーん、……ふーん? ところでボンド、タクトって何の話が好きだと思う? レースのこと以外で」
⚫「うーん? レースのことかなぁ」
📞「レースのことだよなぁ〜」
- 181二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 23:35:16
- 182二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 23:43:48
完結おめでとうそしてありがとう……
良かった……すごくすごくよかった…… - 18363です22/08/02(火) 23:46:57
す、すごい…ちゃんと続き物が完結していく…お疲れ様です。
そして多分自分のはスレ完走に間に合わないです、感想くださった方もいたのにごめんなさい - 18417322/08/02(火) 23:54:48
おそらく続きはネタが溜まる&良さげなスレが立ち次第になると思いますけど細々と書いていこうと思います
現状はじめてのうまぴょい→翌日2・3回戦とその後の部屋イチャしか書いてないですが、>>181の人みたいなラブコメ的なやつも書けたらなと思ってます
最後にコンちゃんとタクトは最終的に dice1d2=2 (2)
1…コンちゃんがなんやかんやリードしてタクトがしおらしくなる
2…タクトの尻に敷かれてまんざらでもないコンちゃん
- 185二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 23:55:18
- 18663です22/08/03(水) 00:21:44
すんません、ありがとうございます。個人的にしおらしいとかいじらしいタクトとそれに対するいろいろなコントレイルたちの概念が見れたのでスレッド全体に感謝しています。ssがいっぱいあるのもすごいですが序盤の方で概念こね回してるところもキャラ解釈が広がって好きです。
色々と初心者なものでよく分かってないので申し訳ないですが次スレもあるなら遊び行きたいです
- 187二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 01:01:35
こういう時に自分の文才の無さが憎くなる
- 188二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 01:24:46
なんだこの素晴らしいSSの大洪水スレは…
ありがとう
これで安眠できる - 189二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 09:31:53
- 190二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 11:24:29
📞「でもボンド、考えてみてほしい。僕がタクトに『好きだよ……』って言ったとき、……あいつ絶対におぞましいものを見るかのような顔するよ?!」
⚫「うーん……する、かも? でも罵倒になる可能性のあることよりはマシな気がする〜。そうだ、ほかの誰かにも相談してみようよ、コンちゃん!」
- 191二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 12:20:26
- 192二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 13:39:10
- 193二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 18:31:00
- 19419222/08/03(水) 21:17:57
- 195二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 21:23:37
スレ埋まりそうなので自分が次スレ立ててもいいですか?
画像は193さんのお借りして、注意事項は他に自分がやってるスレの参考にしてつけますね - 196二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 21:26:39
- 197二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 21:30:23
- 198二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 21:32:34
- 199二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 21:43:06
埋め
- 200二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 21:43:16