あ、あれは……謎の湿度バスターA.V.！？

1二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 18:12:32

「ねえ……トレーナーさんはさ。アタシのこと……」
呟こうとした言葉は、折悪く鳴り響いた無機質な声にかき消された。
「次は、にんじん市民ホール前。にんじん市民ホール前。ウマ娘に便利なシューズ専門店宮本ターフショップへはこちらが便利です……」
　運転手の他には数人の乗客しかいない、ガランとした巡回バスの社内。２、３人の見慣れた制服と頭の上に突き出してぴこぴこ動く耳、かすかに聞こえてくる喋り声。
　優先席に座るおばあさんは転がりそうなシルバーカーを抑えながらぼうっと流れる景色を見ている。
　寂れたバスの車内。
　ナイスネイチャは言いかけた言葉を飲んで、「ん、なにか言ったか？聞こえなかったよ」と首を傾げて覗き込んでくるトレーナーから目をそらした。「なんでもない」と嘯きながら。
　嫌だった。"諦めのいい"性格も、それを貫けない諦めの悪さも……。
　ナイスネイチャは、無遠慮に顔を近づけてにこにこしている男の顔が焚き付ける胸の奥の火がどれほど熱くて焦がれて苦しくて幸せなのかを、いっそぶちまけてしまおうかと思いながら、彼の肩に頭を預ける。
「……眠いからさ。ちょっと寝かせてよ」
　有無を言わさずに頭を擦り付けて、自分を染み込ませていくような錯覚の中で、彼女はぴこりと布包みの耳を動かしながら、また口を開いた。
「ねえ──」

「　そ　こ　ま　で　よ　！　」

2二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 18:15:43

「　そ　こ　ま　で　よ　！　」

　窓の外から大音声で誰かが叫ぶ！

　「　そ　の　湿　度　、　見　過　ご　せ　な　い　わ！」

　奇ッ怪な車のスモーキーな窓から突き出したブートキャンプ・メガホンが、馬鹿でかい声でそんなことを言いやがった。

　「とおうっ！」

　窓のうちにメガホンを引っ込めた謎の人物は、今度はドアを開けて飛び出し、バスめがけて跳んでくる。

　擦り傷だらけのガラス窓をブッ叩き割って乱入した不審者は、ネイチャにびしりと指を突きつけて声高に叫ぶ！

「高湿度因子、見つけたわ！」

　見るからに怪しいそいつはウマ娘のようだった。だが口元は「フワフワ」の文字が刻み込まれた不気味な鉄マスクに覆われていて、人相なんてわかりゃしない……！

「除湿開始ッ！慈悲はないわよ！」
「ネイチャさん慈悲はあってほしいかなーって！？」
「ないッ！湿度下げるべし！」

シュゴゴゴゴなんてバカみてーな音を立てながら駆動する謎の機械の銃口めいたノズルが彼女に向けられ、ネイチャは目をつぶって迫りくるそれを拒もうとする……！

「させるかぁっ！」
「トレーナーさん！！！」
ネイチャの前に飛び出したトレーナーが変わりに餌食になっている！

3二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 18:15:54

「　そ　こ　ま　で　よ　！　」からのBGM

燃えあがれ闘志忌まわしき宿命を越えて

>>9 >>19

4二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 18:16:28

マスクがニンジャスレイヤーのそれなのよ

5二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 18:17:02

そんなフジキド＝サンを真似しなくて良いから……

6二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 18:17:10

　(そんな……アタシのせいで……トレーナーが……！)
「ええい！ネチャネチャと湿度を上げないで！」

　崩れ落ちたトレーナーから引き抜かれたノズルがもう一度彼女に向けられる。

　「ひいっ……！」
　「観念しなさい！湿度ォォォ！！！」

　シュゴゴゴゴゴゴゴ！！！！！
　シュシュシュシュシューーーー！！！
　ブブブブブブブーーーーン！！！！！
　ズゴゴゴゴゴッゴゴッゴッゴゴゴ……ズゴッ……ズゴゴッ……ゴッ……ゴッ…

…………………………えー。
…………んまえー。
……とれせんがくえんまえー。
……トレセン学園前？

「わーっ！トレセン学園前！？」
ネイチャは飛び起きて隣でがーがーいびきをかいて寝ている野郎を揺さぶり起こす。
「お、降りまーす！待って下さーい！……起きて！起きてってば！トレーナー！」
「うわっ！？寝てた！？」

　転がり降りるようにして飛び出したバスの外は眩しい太陽の光に満ちている。
　敷地内の林からは蝉の声。青の絵の具をぶちまけたみたいな空にはでっけえ雲がもこもこ膨らんでぷかぷか流れていた。
　ふとネイチャは、「今日は気温が高く、カラッとした一日になるでしょう」と言っていた朝の予防を思い出す。そして、隣で荷物を担ぎ直す男の肩を軽く叩いた。

　「ね、起こしてあげたんだからさ、ラムネでも奢ってくださいよ、トレーナーさんや？」