- 1二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 13:37:09
- 2二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 13:37:47
「……異常ありません、殿下」
「来客」のボディーガードの男は無線の向こう側に手短に告げた後、後ろに下がる。
「入れ」
俺は扉を男に開けさせ、「来客」を中に入れる。そして、
「動くな」
俺は持っていた銃を「来客」に向け、手を上げさせる。「…………」
無言のまま、その人物と連れ武器を捨て、両手を上げる。
「そのままゆっくりソファまで行け」
言われた通り、ゆっくりと歩き出す。
ソファに着くと同時に後ろ手でドアの鍵をかける。
「……久しぶりだね」 - 3二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 13:38:50
「……何でテメェがここにいるンだよ、
ファイン!!」
そこにいたのは現アイルランド女王、ファインモーションだった。 - 4二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 13:41:10
アイルランドの王族であり、四年前に日本を去ったはずの彼女だが、今は何故かこの日本にいる。
しかもこのバーは、裏社会では有名な情報屋組織の根城なのだ。
そんなところに彼女がいること自体おかしいのだが……。
「ふふっ、そんな顔しないでよシャカール。四年振りの再開なんだよ?もっと喜んでくれたっていいじゃない?」
そう言いながら彼女は立ち上がる。
背丈こそあまり変わらないものの、体つきはかなり大人っぽくなっている。
「喜ンでたと思うぜ?こんな所じゃなきゃな」
俺は警戒心を解かずに言う。
「それに、お前「言わなくて良いよ」」
彼女は俺の言葉を止める。
「ここからは自分の言葉で話したいの。そうすれば、ケジメも付くと思うから」
彼女の目には強い意志が宿っていた。
「………チッ」
俺は諦めて、素直に従うことにした。 - 5二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 13:41:29
「ありがとう、シャカール」
彼女は語り始めた。
「君も知っている通り、私は婚約が決まった。私も知っている人で、相手はこの国の大臣の息子さん。とても優しくて、頼りがいのある方なんだ」
淡々と事実だけを語るような話し方をする彼女に、少し違和感を覚える。
まるで自分の感情を押し殺して、機械のように話す彼女を見ていると、こちらが辛くなる。
しかし、それは一瞬のこと。
すぐに次の話題に移る。
次に口から出た言葉には、今までとは比べものにならない物だった。 - 6二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 13:41:59
「でもね…検査の結果分かったの。
私ね…
妊娠できない体なんだって」
その瞬間、俺は息をするのを忘れていた。 - 7二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 13:42:22
「だから、彼との婚約は無かったことになった。そして何だか、心が折れちゃってさ。何もかもどうでもよくなって、逃げてきたの。アイルランドから。
……ごめんなさい、急に変なこと言って」
彼女は無理矢理笑おうとするが、上手くいかない。
「ここにいるSP達は私のやってる事を知って、それでも着いてきてくれた人達。
だから正確には、もうSPじゃないかな」
横にいる元SP達は、相変わらず表情一つ変えない。
だがその雰囲気から何となく、今まで以上に固くなった意思を感じた。
「私達はこれからこの日本の何処かで慎ましく暮らすつもり。仕事の目処はついてないけど、暫くは資産があるから大丈夫かな」
最後にと前置きして、彼女はこう言った。
「私がキミの所に来た理由は、サヨナラを言うため。そして、キミの事を忘れないように、キミを焼き付けるため」 - 8二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 13:42:46
そして、こう続けた。
涙を浮かべながら、精一杯笑って。
これが最後の別れになるかもしれないからと。
今にも消えてしまいそうな声で。
震える唇を動かしながら。
そして、こう締めくくるのだ。
俺が一番聞きたくない言葉を。
そして一番言われたくない人に。
「サヨナラ」
彼女は振り向いて去ってゆく。
待て、行くな。そんな気持ちが頭を巡る。 - 9二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 13:43:08
それを言葉として吐き出す前に、俺は。
――――――――――ダァン!!
引き金を引いていた。
銃弾は壁に壁にめり込み、穴を穿つ。
SP達が驚いて振り向く。
ファインはゆっくりと振り向き、目を見開く。
その瞳からは大粒の雫が流れ落ちる。 - 10二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 13:44:11
引き金を引いていた。
銃弾は壁に壁にめり込み、穴を穿つ。
SP達が驚いて振り向く。
ファインはゆっくりと振り向き、目を見開く。
その瞳からは大粒の雫が流れ落ちる。
「待てよ」
俺はゆっくりと近づきながら言う。
一歩進む度に心臓の鼓動が早くなる。
頭が真っ白になって行く。
そして、目の前まで来て立ち止まる。俺は銃を下ろして、彼女の肩を掴む。
「ふざけんな、勝手に終わらせようとしやがて」
俺は怒りをぶちまけるように叫ぶ。
「人のキズになって覚えてもらおうなんてンなおこがましい事考えてんじゃねェよ!!一方的過ぎンだろ、こっちはまだ何も言ってねェんだよ!!」
SP達は皆呆気に取られて動かない。
反動で痛む腕を無理力を入れる。
「オレは……テメェを帰さねェ……奪ッててやるよ…テメェが忘れたくても忘れられなくなるくらいに……テメェの記憶に、トラウマを刻み込んでやンだよ……」
俺は俯きながら呟いた。 - 11二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 13:44:30
「……何でそこまでしてくれるの?」
「……オレがそうしたいからに決まってンだろ」
「……そっかぁ」
ファインはクスリと笑う。
そして、俺の頬に手を当てながら言うのだ。 - 12二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 13:44:50
「やっぱり、シャカールは傲慢だね」
疲れた顔で笑って応える。
「人のキズになろうとした傲慢野郎は何処の誰だったか?」
「……あははっ!それもそうだ!」
彼女は高笑いを上げる。
「……で?どうするの?」
彼女は上機嫌で言う。
「さァな、当分オレの所で暮らしてくか?」
「良いね、それ!」
楽しげに答えた後、彼女は俺の胸に顔を押し付けて囁いた。
「愛してるよ」
「……知ってンだよ」
俺はそう返すので精一杯だった。
それから一年後。
とあるニュースがテレビで流れた。 - 13二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 13:45:14
『アイルランド王国王女、ファインモーション殿下が行方不明となり一年、未だ発見には至っておりません。警察は誘拐事件として捜査を続けていますが、有力な情報も得られていな』
プツッ。
俺はテレビの電源を切った。
「……だとよ、殿下サマ?」
「ふふっ…♪正確には「元」殿下かな♪」ソファーの上で横になりながら本を眺める俺の隣で、ファインモーションは満足げな声を出す。
「ハイハイ、「元」殿下サマ」
「変わらないね、キミのそういう所」
彼女は嬉しそうに微笑んで見せる。
あれ以来、俺達は辺境の土地に屋敷を建てて暮らしている。
二人+SP達で暮らすにしては少し大きすぎる気がするが、今となってはちょうどいい広さになっている。
「ちょっとそこら辺走ってくるわ」
俺は着替えて、外に出ようとする。
するとファインが後ろから抱き着いて来る。
「も〜、置いてかないでよ!」
「ハイハイ」
俺は靴を履いてドアを開ける。
「じゃア行くか」
「うんっ!」
俺達は地面を蹴って走り出す。今日もまた、退屈しない日々が始まる。 - 14スレ主22/08/03(水) 13:45:58
終わりです
スレタイにSSって付ければ良かったかな… - 15二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 13:47:54
乙!
- 16二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 13:51:18
真っ昼間にこんな良いssを…
- 17スレ主22/08/03(水) 14:00:16
一応ルートと銘打ってるのでルートの一つです
他にも書きます - 18二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 14:16:02
これ以外にも来るのか…ありがたい
- 19二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 14:28:16
パスワードがファインの上がりハロンタイムで草
- 20二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 21:14:50
凄く…良いssです!
このスレに書くんですか? - 21二次元好きの匿名さん22/08/04(木) 08:11:39
ここに書くなら待つとしよう