泣きました 僕は兄さんでポニーちゃんでいい香りです

  • 1二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 18:18:38

    コンコン、というノックの音で、フジキセキ────フジは手元の書類から顔を上げた。
    音がしたのはすぐ傍のドアからではない。彼女は苦笑すると、外の暗闇が固く閉じ込められた窓の鍵を開けた。

    「うわっ、涼しい」

    すぐに流れ込んできた熱気とともに顔を出したのは、スラックスにワイシャツ1枚というラフな格好の男。何を隠そう、フジの担当トレーナーだ。
    ヒートアイランド現象という言葉が知られるようになって久しいが、夜10時を越えてもなお外はうだるような暑さが続いている。
    ドライヤーのような熱風に乗って漂ってくる彼の汗の匂いに思わず頬が紅潮しそうになって、フジはひとつ咳払いをした。

    「窓からとは予想外だったよ。サプライズの腕を上げたね、トレーナーさん」
    「サプライズも何も、トレーナーは寮に入れないだろ。……はい、これ」

    トレーナーは苦笑しながら窓越しにいくつかのビニール袋をフジに手渡した。
    中には解熱剤や咳止め、スポーツドリンクなどがぎっしりと詰まっている。

    「とりあえず頼まれてたもの一式。あと飲み物とゼリーなんかも必要だと思って買ってきた」
    「ありがとう!ポニーちゃんたちもこれで安心だ」

    「ごめんねトレーナーさん、こんな雑用をお願いしてしまって。本当なら私が行くべきなのだけれど……」
    「いいんだいいんだ。夜中の買い出しなんて学生にやらせることじゃないし」

    栗東寮では今、夏風邪が流行していた。
    その勢いは寮長であるフジの予想を大幅に超えていて、ついには月に一度業者が補充していく薬箱の中身がそれを待たずして尽きてしまっていたのだ。

    そのことにフジが気が付いたのはトレーニングと業務を終えてすっかり日が落ち、門限が過ぎてからのこと。
    もう件の業者に電話をしようにも営業時間はとっくに過ぎてしまっているし、寮長とはいえおいそれと夜間外出を行うわけにもいかない。
    彼女は暫し悩んだ後に、自身のトレーナーに電話をかけた。事情を話すとトレーナーはふたつ返事で買い出しを引き受け、今しがたそれを終えて戻ってきたところだ。

    「ドラッグストアがまだ開いてて助かった。フジが早めに連絡くれたおかげだよ」
    「気づけなかった私の落ち度をトレーナーさんがカバーしてくれただけさ。君にもポニーちゃんたちにも本当に申し訳ない」

  • 2二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 18:19:17

    フジの表情が曇るとともに、彼女の耳が力なく垂れた。
    いつでも完璧な"フジキセキ"を演じられる自分たれ、というのは彼女の確固たる信念だが、時としてそれはフジ自身を苦しめる。

    「なあフジ」
    「……なんだい?」
    「確かに、中身を切らしたのはフジの落ち度かもしれない。でも、すぐに俺に電話をして買い物を頼んでくれたのはそのリカバーとしては最善だったと思う。だから何も気にすることはないよ。俺だって好きでやったんだから」
    「迷惑じゃ、なかったかな?」
    「いつもフジには助けられてばかりだから、たまには力にならせてくれ。わがままを言うようで申し訳ないけど」
    「……ふふっ、なんだかトレーナーさんらしい理屈だ。でも────そうだね。君がそう言うのなら、素直に従うことにするよ」



    「そうそう、そんなお手柄のフジにご褒美」

    話が一段落して、思いついたようにトレーナーはひとつだけ自分の手元に残っていた袋から包装された菓子をフジに手渡した。
    受け取ってパッケージを眺めると、飾り気のない武骨な文字が中心に踊っている。

    「これは、お煎餅かい?」
    「フジは甘いものが苦手だからこういうものの方がいいかなと思って。よかったら食べてくれ」
    「ありがとう。大事に食べさせてもらうよ」

  • 3二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 18:21:38

    フジは満足げに目を細める。
    舞台女優の経験もある彼女は笑うときは声をあげることが多いのだが、本当に嬉しいときはこうやって静かに微笑むことをトレーナーは知っていた。

    「では、私からもお礼と言ってはなんだけど……袋の中を見てごらん?」
    「ん?」

    ぱちん、と指を鳴らす音。
    言われるままトレーナーが袋の中を覗くと、よく冷えたサイダーの缶とタオルが入っていた。

    「いつの間に……」
    「今夜も暑いけれど身体には気を付けて。トレーナーさんはどうも頑張りすぎてしまうようだから」

    「ご忠告痛み入ります。さて、それじゃそろそろ失礼しようかな。────おやすみ、フジ」
    「うん。おやすみなさい、トレーナーさん」

    窓が閉まるとうだるような熱気はあっという間に鳴りを潜めて、部屋は再びクーラーの支配下へと戻った。
    でも、この胸の温かさはきっと変わらずここにあるのだ。

    「また、あした」

  • 4二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 18:23:49
  • 5二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 18:25:23

    クソスレタイから良ss!クソスレタイから良ssじゃないか!

  • 6二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 18:42:31

    夏風邪は本当に気をつけようね……特に今年は酷暑でクーラーガンガンだし

  • 7二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 19:14:28

    出遅れ癖とクソスレタイは治らない

  • 8二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 19:51:52

    寮長フジはいいぞぉ…

  • 9二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 21:21:47

    >>4

    どっちもエチチやろがい

  • 10二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 22:00:53

    >>9

    でもスケベな方と言えば?

  • 11二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 22:08:04

    なんだこのスレタイ!?

  • 12二次元好きの匿名さん22/08/04(木) 08:37:04

    個人的にはエッチなのがヒシアマでスケベなのがフジ
    でなんなんだそのスレタイは

  • 13二次元好きの匿名さん22/08/04(木) 20:01:03

    素晴らしい…

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