スレ主の小説執筆を監視するだけのスレ

  • 1二次元好きの匿名さん22/08/07(日) 21:58:12

    執筆中についつい他のことをしがちなスレ主を監視するスレ。
    投稿フォームに直接書いていき5分毎に投下していきます。

    見てる人は感想、意見、批判、罵倒、ROM、ブラバなど自由にしてください。

    最初の4000字ほどは既に書いてるので今から投げます。

    倉桝

  • 2二次元好きの匿名さん22/08/07(日) 21:59:10

    タイトル『時をかけるメンヘラ』



     佐藤由希には彼氏がいる。

     その彼氏が浮気をしているかもしれない、という話を聞いたのはついさっきのことだった。



    「はぁ………」

     時刻は夕方。一人暮らしの部屋にどうにか辿り着くことの出来た由希はそのまま何もする気力が起きずベッドに倒れこむ。

    「颯太が浮気……そんなことするはずない……」

     のろのろとした動作でポケットからスマホを取り出し、水族館でデートしたときに撮ったお気に入りの写真を表示する。



     鈴木颯太。
     純ぼくな雰囲気をした青年で由希の彼氏だ。

     お互いに初めての交際であったためかその歩みは遅々としていたが、確かに関係を進めていた……その矢先に舞い込んできた知らせ。

     大学からの帰り際に由希の親友である野口詩織はおずおずと口を開いた。

  • 3二次元好きの匿名さん22/08/07(日) 21:59:55

     曰く『昨日、鈴木くんがショッピングモールで知らない女性と隣あって歩いていたのを見たんだけど……』とのこと。



    『…………』

     ありえない、何かの冗談かと思った。



    『あ、その、私の見間違いかもしれないけど……!』

     三人とも同じ大学であり、詩織と颯太も面識があるため見間違えた可能性は考えにくい。
     由希の雰囲気を察し慌てて付け足されたその否定がさらに信憑性を高めた。


     視点も思考もさっぱりと焦点を結ばず、頭の中が真っ白となった由希が自分の部屋に戻ってこれたのは奇跡に近かった。


    「颯太……」

     今一度スマホに表示された彼氏の笑顔を見つめる。

     いつも優しく表裏の無い愛しの人。
     嘘を吐くのも下手な颯太が……私に気付かれずに浮気なんて出来るはずがない。

     だったら詩織が嘘を吐いている?

     それもありえない。
     詩織は私の親友だ、その人となりは良く知っている。私に嘘を吐く人じゃないし、その意味もない。

  • 4二次元好きの匿名さん22/08/07(日) 22:00:39

    「…………」

     ショッピングモール、大学の近くの商店街じゃなくて、わざわざ隣町のショッピングモール。
     こそこそしているのがそれっぽくて……いや、そんなはずがない、浮気なんてしているはずがない。
     颯太に直接聞けばいい、でも本当に浮気をしていたら、颯太に裏切られたら私は生きていけない。
     だったら何が、どうして私がこんなに苦しいの、嫌だ、もう、嫌だ、嫌だ、嫌だ……。

    「あ」

     ふとテーブルに置かれぱなしになっていたカッターが目についた。
     通販のダンボールを開けるのに使ってそのままにしていたものだ。

     SNSで見かけた病み垢の動画とメッセージが思い返される。

    『リスカして、とく、とく、と血が流れているのを見ている間だけ私はこの苦しみから解放される』

    「本当……なのかな」

     ベッドから起き上がりカッターを手に取る由希。


     リスカなんてしたことない。

     リスカなんて生きるのに苦しい人がすることで、私には関係ないことだと思っていた。

     だってどう考えても痛いだけだ。

     そう思ってたけど……今なら分かる気がする。

     この苦しみから少しでも解放されるなら。

  • 5二次元好きの匿名さん22/08/07(日) 22:00:48

    ククク、早いじゃないか。
    書き溜めていたのか?

  • 6二次元好きの匿名さん22/08/07(日) 22:01:51

    「……今より最悪になることなんて無いし」




     そうして佐藤由希は右手に持ったカッターを左手の手首に押し当てて引いた。


     切り裂かれた皮膚から血がだらだらと流れ出る。




    「痛い……痛い、痛い、痛い……」


     動画で見たときより血の流れ出る勢いが強い。初めてで力加減も分からずにやったせいだ。


     血が、生命が……苦しみが流れ出ていく感覚。


    「本当だ……本当に楽になった……」


     暗い笑みを浮かべる由希。




     ――もちろんそんなことあるはずがない。

     ただ痛みに頭が支配されて、悩みに思考を割く余裕がないだけだ。

     しかし救われた気分となっていた佐藤由希は――。


     次の瞬間ベッドに寝転がっていた。


    >>5

    最初4000字は書き溜めていると1に書いております。

  • 7二次元好きの匿名さん22/08/07(日) 22:02:34

    「…………?」

     おかしい。
     さっきカッターを取るためにベッドから起き上がったはずなのにいつの間にか戻っている。
     そんな動作を取った覚えはない。本当にいつの間にか、だ。

     リスカに耐えきれずに思考が飛んだのだろうか?
     疑問に思いながら左手首に視線を落として気付いた。



    「リスカの痕が……無くなってる?」

     先ほど切り裂いたはずの傷も流れ出ていた血も全く無くなっている。
     かさぶたでふさがったなどじゃない、そもそもリスカなんてしていないかのようだ。



     でもそんなことあるはずがない。ちゃんとリスカした記憶はあるし、苦しみからの解放感も覚えているし、血を失った喪失感は今も続いている。

     なのにどうして?



    「もしかして……私リスカした夢でも見てたの?」

     だとしたらもう一回したらあの解放感をまた感じられる?

  • 8二次元好きの匿名さん22/08/07(日) 22:03:07

     そうして佐藤由希はもう一度カッターを手に取る。
     同じように皮膚を裂き、血と共に苦しみが流れ出ていく。


    「あはっ……!」

     その解放感に浸っていたところ――次の瞬間に世界は巻き戻り、佐藤由希は自分の部屋の前に立ち、扉の鍵を開けようとしていた。



    「え?」

     ハッとなって左手首を見るが、そこには傷も血も残っていなかった。

    「一体何が……うっ……」

     立ちくらみを覚えて扉によりかかる。謎のの喪失感に加えて現状の不明さにめまいを覚える。
     ふらふらと部屋に入ったところで、テーブルの上に置いてある時計にまた不明な点を見つけた。



    「まだ18時前……? あれでもさっきスマホ見たときは……」

     さっき思い悩んで颯太の写真を開いたとき、視界の端に映った時間は18時過ぎだったはずだ。
     念のため今スマホを確認すると部屋の時計と同じ18時前の時間が表示されている。

     時計が同時に壊れるとは思えない……だったら壊れたのは……私の頭の方?

  • 9二次元好きの匿名さん22/08/07(日) 22:03:30

     消えたリスカの痕、いつの間にかの移動、過去の時間を指す時計。
     記憶を振り返りながら、現状を整理していく由希。
     すると荒唐無稽ながらある一つの説が思い浮かんだ。



    「私がリスカをする度に……時間が巻き戻っている……?」



     意味が分からない。
     リスカと時間跳躍(タイムリープ)に何の因果関係が存在するというのか。
     でも、そうだとすると現状の説明が付く。
     この説を証明するためには。

    「もう一回リスカすればいい」

     由希は躊躇い無くテーブルに置かれたカッターを手に取り左手首を裂く。
     痕こそ残っていないが、リスカはこれで3回目。力加減もどうすればいいか分かってきた。

    「あぁ……」
     血が流れる様に恍惚としていると。



     いつの間にか由希は自分のアパートの前に立っていた。

  • 10二次元好きの匿名さん22/08/07(日) 22:03:54

    「っ……やっぱり……」

     予想していたとはいえ実際に起きてしまった越常現象と立ちくらみのダブルパンチで由希は立っていられなくなり近くの柵に寄りかかる。
     左手首には当然リスカの痕は無かった。

    「これは……さっきよりも前の時間……」

     一回目にリスカしたときはその前の寝転んだ状況、二回目は部屋に帰ったタイミング、三回目の今はアパートに辿り着いたところ。
     スマホを開くと、表示されたのは三回目のリスカをする10分前の時刻。



     これではっきりとなった。
     理屈も原理も全く分からないが。

    「私がリスカすると時間が10分間巻き戻る……ってこと?」

  • 11二次元好きの匿名さん22/08/07(日) 22:04:19

     部屋に戻った由希は何度もリスカをしながら検証を重ね、分かったことをルーズリーフに書き留めていく。



    『リスカをする度に時が10分間巻き戻る』

     まずはこれが基本、原理も理屈もさっぱりだけど。



    『私が10分前にいた状況になる』

     部屋の中でリスカしたのに外にいたことから分かっていたが、リスカした場所で10分間巻き戻るわけではなく、由希が10分前にいた場所に戻る、ということだ。



    『巻き戻った10分の間に起きたことは全て無かったことになる』

     着替えてからリスカをしても着替える前の服に戻ったし、部屋の窓ガラスを割ってからリスカしたら窓は直っていた。
     他の人はどうなのか、と思って親友の詩織に電話してからリスカ、もう一回電話したら詩織は前に話したことを忘れていた。

     要するにリスカすることで私の意識だけが10分前にいた状況に戻る、ということだ。
     意識以外には何も過去に持ち越すということは出来ない。

  • 12二次元好きの匿名さん22/08/07(日) 22:04:54

    『連続で使用可能』

     リスカして10分前に戻り、そこでまたリスカすると最初から20分前に戻ることが出来る。



    「うーんこれって最大でどれくらいまで戻れるんだろう……まあでもとりあえずこんなところにして……」

     少しフラフラとしてきた頭を抱えて由希は考察を打ち切った。
     帰ってきてから長いことやってたし、遅くなったけどそろそろご飯でも食べて…………いや、まだ7時過ぎだ。リスカする度に時が戻っていたせいでそんなに時間が経っていない。

    「変な感じ」

     料理するつもりになれなかったので冷凍ごはんと冷凍食品をレンジして並べる。

  • 13二次元好きの匿名さん22/08/07(日) 22:05:19

    書き溜めここまでなんで執筆してきます。

  • 14二次元好きの匿名さん22/08/07(日) 22:10:14

    そして何気なくテレビも付けた。ゴールデンタイム、適当なバラエティを流す。内容には興味ないが人の声がするというのが大事なのだ。

    「リスカリープ……これって何でも出来るよね?」

  • 15二次元好きの匿名さん22/08/07(日) 22:11:24

    トリつけたほうがいいかも

  • 16二次元好きの匿名さん22/08/07(日) 22:49:27

    浮気疑うなら「腕組んで歩いてた」とか「手を繋いでた」くらいの情報ほしいかな

  • 17二次元好きの匿名さん22/08/07(日) 22:51:09

    また酷いタイミングで鯖落ちしたな。

    >>15 考えましたが、内容で分かるのでいいかと思って。


    ーーーー


     単純に宝くじの当選番号を見てから時間を戻せば当て放題……って10分戻るくらいじゃきついか。

     株とか……FXだっけ? そういうので値動きを見てから戻ればいくらでも儲けられるのかな……うーん、よく仕組みとか知らないけど。

     あ、競馬とかもいいかも!


    「でもお金を稼いでもなあ……」


     億万長者というわけじゃないけど別にアルバイトもせずに生活出来るくらいには親から仕送りがある。

     愛情では絶対ない……バイトなんてみっともない真似して欲しくない、とか思っただけだろう。


    「ああもう嫌なこと思い出し………………」


     頭を振って忘れようとした由希はそのままフリーズする。

     ちょうどテレビで芸能人の『浮気』の話題が出たからだった。


     リスカループが判明してその検証に没頭していたおかげで今まで忘れることが出来ていたこと。

     彼氏、颯太の浮気疑惑。


     全身から血の気が引き、呼吸が浅くなる。


     生きている価値なんて無いと思っていた私に意味を与えてくれた人。


     お金を稼いで貢げば戻ってくるのか? いやお金で愛を買えないことなんて常識だ。


     もし裏切られてたらと思うと確かめるのも怖い。

  • 18二次元好きの匿名さん22/08/07(日) 22:51:21

    「苦しい……」

     衝動的にカッターを手に取るが踏みとどまる。
     ここでリスカしてもまた戻るだけだ。

    「どうしてこんな……」

     救済を否定して、私に一生苦しめとでも言いたいのか。
     こんな何もかも無くなるだけの力、あったって意味が――。



    「無くなるだけの力……だったらこの苦しみも無くせる……?」



     リスカリープ。
     よく考えたらそれは金稼ぎだけじゃなくて、人間関係でも大きく力を発揮するんじゃ……。

  • 19二次元好きの匿名さん22/08/07(日) 22:55:52

     由希は考える。リスカリープによって出来ることを。
     食事もそっちのけでもう一度ルーズリーフを広げて作戦をまとめていく。

    「うん……うん。これなら大丈夫。颯太に怪しまれることなく浮気しているか確かめられる」

     そして確かめたことで本当に浮気していたとしても……止めさせることが可能。

  • 20二次元好きの匿名さん22/08/07(日) 23:00:50

    「でも大丈夫、颯太は浮気なんてしてない! 私は颯太のことを信じているから!」

     対処する見通しが立ち、心に余裕が出来たためか、一転して由希はそのようなことを言い出した。
     そして安心したことで食事中だったことを思い出し。

    「うーん冷めちゃったな……戻ろうかな? いやでもそうするとまたルーズリーフに書き直さないといけなくなるし……」

     由希は立ち上がって台所、電子レンジの方に向かうのだった。

  • 21二次元好きの匿名さん22/08/07(日) 23:05:37

    二話目終了、今日はここまで。

    ちなみに十分な書き溜め出来たらカクヨムに投稿する予定。

    描写や展開の細かな修正の必要は考えてるが、とりあえず勢いで書いていくの優先。修正は投稿時にやる。

    また明日の夜も執筆します、よろしくお願いします。

  • 22二次元好きの匿名さん22/08/08(月) 08:35:37

    保守
    今夜20時過ぎ開始予定

  • 23二次元好きの匿名さん22/08/08(月) 16:58:33

    はやめに保守

  • 24二次元好きの匿名さん22/08/08(月) 20:05:17

    >>23 保守ありがとうございます。


    それでは今日もやっていきます。

  • 25二次元好きの匿名さん22/08/08(月) 20:10:55

     翌朝、由希たちの通う大学にて。

    「おはよー、詩織」

     講義棟の前で由希は親友の詩織を見かけて声をかける。

  • 26二次元好きの匿名さん22/08/08(月) 20:15:40

    「あっ……由希」
    「そういえば詩織も同じ講義取ってたよね。一緒に行こ」
    「う、うん……」

     自然体で接する由希に対して、詩織はどこかぎくしゃくしている。
     いつもはこうではない。
     原因は昨日、帰る前に会った出来事だった。

    (颯太君が浮気をしているかもしれない、って言ってしまって。由希が酷く落ち込んでるように見えたから失敗したって後悔してたけど……今朝は普通みたい)

  • 27二次元好きの匿名さん22/08/08(月) 20:20:01

    (昨日の内に颯太君に確認したのかな? ショッピングモールで見かけた颯太君と謎の女性……私の勘違いだったならいいんだけど)

     詩織は気になるものの藪蛇をつつく危険を恐れて何も聞けない。

     実際その判断は正解だっただろう。

  • 28二次元好きの匿名さん22/08/08(月) 20:24:44

     今の由希は空元気だ。リスカリープによる作戦を思いついてどうにか平静を保っているものの、今にも爆発してもおかしくない。

     そんな薄氷の上の平穏を崩す者が現れる。

  • 29二次元好きの匿名さん22/08/08(月) 20:30:29

    「由希、昨日は何かあったの?」

     講義室の前で待っていて、由希の姿を見るや駆けつけたのは渦中の人物、由希の彼氏である鈴木颯太であった。

    「おはよー、颯太。何かあったって?」
    「いつもあれだけメッセージ送ってくるのに、昨日は0件だったじゃん」
    「あー……それはレポートが忙しくて」

  • 30二次元好きの匿名さん22/08/08(月) 20:34:58

     嘘ではない。
     実際に由希は夕食を食べた後はレポートにかかりきりだった。リスカリープを使っての抜け道もなく地道にするしかなかった。
     とはいえそれも全てではない。
     浮気疑惑の晴れない彼氏に対してメッセージを送るつもりにならなかったからでもある。

  • 31二次元好きの匿名さん22/08/08(月) 20:39:37

    「でも……」
    「それより今日は一緒に帰れるの? 颯太、一昨日は用事があって、昨日はゼミの手伝いでもう二日も一緒に帰ってないし」

     何か言いかけた颯太に対して、由希は強引に話題を変える。
     一昨日がちょうど詩織が見かけた浮気疑惑の日だ。昨日のゼミの手伝いについては周囲に確認して、ちゃんと颯太が顔を出したことは確認している。

    「えっと、その……ごめん。今日もちょっと無理で……」

  • 32二次元好きの匿名さん22/08/08(月) 20:45:13

    「え!? 何でよっ!?」
    「家庭の用事が入ってて……本当ごめん! 今度この埋め合わせはするから!」
    「ふーん……そう」

     家庭の用事、何とも曖昧な表現に後ろめたそうな表情。
     由希の女の勘が今日もその女性と会うのだろう、と告げていた。



    「ちょっとトイレ行ってくる」
    「え、もうすぐ講義始まっちゃうよ」

     踵を返した由希に詩織が言う。

    「大丈夫だから」

     由希は気にせずに歩を進めた。

  • 33二次元好きの匿名さん22/08/08(月) 20:49:34

     そうしてトイレの個室に入った由希は、カバンからカッターを取り出す。

    「颯太……信じてるからね」

     大学のトイレの中ということも気にせず、カッターで左手首を裂いた由希は――。



    「あっ……由希」

     次の瞬間、講義棟の前にいた。
     リスカによる時間跳躍(タイムリープ)。
     10分前、ちょうど由希と詩織が出会ったところまで時が巻き戻った。

  • 34二次元好きの匿名さん22/08/08(月) 20:55:26

    「そういえば詩織も同じ講義取ってたよね。一緒に行こ」
    「う、うん……」

     由希はそのままさっきの通りに行動する。
     講義室の前で颯太と出会い、会話を始めて。

    「いつもあれだけメッセージ送ってくるのに、昨日は0件だったじゃん」
    「あー……それはレポートが忙しくて」
    「でも……」


    「それより、ごめん! 今日、私一緒に帰れないんだ!」
    「珍しいね。何かあるの?」
    「うん、ちょっと用事があって」

     由希はここで行動を変えた。
     先ほどは『一緒に帰れないのか?』と聞いたが、今回は自分から『一緒に帰れない』と嘘を吐く。

  • 35二次元好きの匿名さん22/08/08(月) 20:59:53

    面白いし読みやすい
    スレ主の無理のないペースで書いて♡

  • 36二次元好きの匿名さん22/08/08(月) 21:00:11

     一回目『一緒に帰れないの?』と探りを入れたが、聞いた時点で警戒される。だから戻ることでその事実を無かったことにして、今度は『一緒に帰れない』と誘いをかける。

     ここで颯太が自分から『僕も家庭の用事があったからちょうど良かった』と言えば良し。やましいところは無いだろう。
     でも何も言わなかったら……。

    「そっか。残念だけど……明日は大丈夫なの?」

  • 37二次元好きの匿名さん22/08/08(月) 21:04:51

    「……うん! だから明日は一緒に帰ろうね!」

     今日のことについては何も触れない颯太。

  • 38二次元好きの匿名さん22/08/08(月) 21:10:46

     颯太からすれば普通の会話をしているのだろう。
     でも時を戻っている私からは逃れられないから。



    「二人とも、もうすぐ講義始まるよ」

     立ち止まって会話していた二人に詩織が声をかける。

    「っと、もうそんな時間か」
    「わっわっ、あの先生怒ると怖いし急がないと!」

     由希は慌てた様子で颯太の手を引っ張りながら駆ける。
     その様子は、表面上は、普通のカップルにしか見えなかった。

  • 39二次元好きの匿名さん22/08/08(月) 21:14:22

     午後過ぎ。
     本日履修していた講義を終えた颯太は大学から下校する。

     そのまま向かう足は一人暮らししている大学近くのアパート。
     ……ではなく、近くの駅だ。



    「…………」

     由希は無言のままその後ろを尾けていった。

  • 40二次元好きの匿名さん22/08/08(月) 21:17:20

    3話目終了、2000文字くらい、良いペース。


    >>35

    感想ありがとうございます! 習慣付けないとサボりがちなんでペースは無理させます(?)


    明日もまた20時くらいに来ます。

  • 41二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 08:36:27

    保守忘れるところだった
    危ない

  • 42二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 20:03:40

    さて本日も始めていきます。

  • 43二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 20:10:28

     由希の彼氏、鈴木颯太の姿は大学の最寄り駅にあった。
     彼は今から隣町のショッピングモールに向かうつもりだった。

  • 44二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 20:15:04

     大都会ではICカードをタッチするだけで改札を通れるらしいが、程よく田舎なこの駅では切符を買う必要がある。とはいえ券売機で電子マネーを使えるのでそこまで不便ではない。
     ということで颯太は隣町までの切符を買ったところで。

    「ふーん……」
    「ゆ、由希!?」

     突然後ろから接近して切符を覗き込んできたのは彼女である由希だった。

  • 45二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 20:20:16

    「隣町ね、分かった」
    「え、由希、何でここに……用事があるんじゃ……」

     今朝、用事があるから一緒に帰れないと言っていたはずの由希を見てビビる。
     しかも自分が今日どこに行くとも言っていないのだ、偶然でもなければ尾けてきたということになる。
     何で? っていうかどうして切符を覗いたの?

     固まる颯太に対して、目的が済んだ由希はそのままその場を去っていく。

  • 46二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 20:25:29

    「え、あれ? 行っちゃうの?」

     由希は何がしたかったんだろう?



     颯太の思考が疑問符で埋め尽くされた――次の瞬間、世界は巻き戻った。

     そのことを由希以外の人間は知覚できない。



     巻き戻った世界、颯太は最寄り駅の前にいた。
     そのまま駅の中に入って、隣町までの切符を買う。
     今度はその切符を覗かれるというようなイベントは起きない。



     颯太が改札を進んだ、その一分後。
     由希は券売機で隣町までの切符を買って改札を通った。

  • 47二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 20:30:02

     電車の中では何事も無く時が過ぎ、無事に隣町の駅に着いたところで颯太は降りた。

     そのまま駅を出てショッピングモールに向かう最中、ふと周りを見回した颯太は。

    「……ん? あれ由希じゃないか?」

     後方の物陰の方からこちらを見ている彼女に気付いた。

  • 48二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 20:35:09

     尾行というものは簡単ではない。ふとしたときに気付かれるものだ。
     由希は変装などもしておらず、親しい間柄なら遠くからでも発見されてもおかしくはない。

    「あれ、でも用事があるって言ってたような……」

     疑問に思いながらも颯太は見かけた由希の方に向かおうとする。

     そのことに気付いた由希は尾行失敗を悟り、リスカを決行。

  • 49二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 20:38:59

     巻き戻った世界で颯太はまた駅を出たところでふと周りを見回すが、今度は特に気になるものは見つからなかった。

    「っと、ちょっと急がないとな」

     そのまま少し小走りで目的地に向かうのだった。



     3回ほど世界が巻き戻りながらも、颯太はショッピングモールに辿り着いた。

    「ここが……おそらく詩織が見た現場の……」

     その遠く後方の物陰から由希もその様子を伺っている。

  • 50二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 20:46:26

     入口の案内板の前に立っていた女性を見つけて向かうと、女性の方も颯太に気付いたようで。

    「あーもう、お兄! やっと来た、遅いじゃない!」
    「ごめんごめん、これでも急いだんだよ」

     颯太と待ち合わせをしていた妹、鈴木理子はふくれっ面だった。

  • 51二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 20:51:01

     ――そう、颯太と一緒にいた女性というのは妹の理子であり、浮気疑惑とは結局詩織の勘違いであった。

     一昨日、そして今日とこうしてショッピングモールにやってきているのは米寿を迎えた二人の祖父へ贈る祝い品を選ぶためだった。

  • 52二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 20:55:11

     やましいところが無いならば、何故颯太は由希に対して隠していたのか?

     それも単純なことで。

    「そういえばお兄の彼女ってどんな人なの? ねえ、ねえってば」
    「うっせ、教えるかよ」

     家族に彼女を見られるのが、彼女に家族を見られるのが恥ずかしかったから。
     ただそれだけであった。

  • 53二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 21:00:40

    「…………」

     しかし、遠くから見ている由希には会話の内容が聞こえておらず、そのことに気付いていない。

     どころか家族特有の近い距離間を勘違いして、親の仇の様に睨みつけていた。

  • 54二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 21:05:17

     しかしそれも程なく解消されるだろう。
     作戦の最終段階、相手の女性を問い詰めれば、妹だと分かれば疑問は解けるはずだから。



    「よし良いもの見つかったな」
    「えーやっぱあのでっかい狸の置物の方が良かったって!」
    「それは絶対いらないだろ……」

  • 55二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 21:10:12

    「ぶー、だったら私付いてきた意味ないじゃん」
    「ああもう拗ねるなって」
    「……シュークリーム」
    「え?」
    「シュークリーム食べたい」
    「ああもう、はいはい。分かった、あっちの店で買ってきてやるから」
    「わーい、やったー! お兄、大好き!」
    「ったく調子のいいやつめ。ちょっとここで待ってろ」

     颯太が向かいの店に入っていくのを理子はベンチに座ったまま見送る。

     それと入れ替わるように理子の前に立つ人影があった。

    「……ん? お姉さんも座るっすか?」
    「いえ、それは結構よ」

  • 56二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 21:14:43

     女性はそのように言うが、理子としても目の前に立たれては居心地が悪い。
     何か変な人なのかなーと思いながら理子は立ち上がって退こうとして。

    「待ちなさい」
    「……え?」
    「あなた……一体、颯太の何なの? 答えなさい」

     女性、由希は理子を、浮気相手を問い詰める。



    「ちょっ、それ、まじ、やばっ!」

     その手に持ったカッターを突き付けながら。

  • 57二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 21:18:03

    4話終了、約2000字、良い感じ。

    明日も20時頃予定。

  • 58二次元好きの匿名さん22/08/10(水) 06:49:08

    保守

  • 59二次元好きの匿名さん22/08/10(水) 18:07:26

    保守

  • 60二次元好きの匿名さん22/08/10(水) 20:06:01

    一日一話を習慣にするんだ。
    開始。

  • 61二次元好きの匿名さん22/08/10(水) 20:10:06

     由希は彼氏である颯太の妹、理子を浮気相手だと勘違いしたまま、カッターを突き付ける。

     当然ながら刃物を向けられて普通の人は冷静でいられない。

  • 62二次元好きの匿名さん22/08/10(水) 20:14:42

    「え、それ、本物?」

     理子が『あなた颯太の何なの?』という質問を忘れて狼狽えるのも仕方ないことであろう。

    「とぼけないで答えて」

     それを言い逃れるつもりだと判断した由希はさらにカッターを進める。

    「ひっ……!」

     ベンチに座ったままの理子は前方からカッター、後方には壁があり逃げられない。

  • 63二次元好きの匿名さん22/08/10(水) 20:20:01

    「早く」
    「こ、答えてって何を……!?」
    「ちっ……だからあなたは颯太の――」

     往生際の悪さに舌打ちして由希がもう一度問おうとした……そのとき。

    「シュークリーム買ってきたぞー…………って、どうしたんだ!?」

     紙袋を抱えた颯太が戻ってきた。
     妹、理子にカッターを向けられている状況にまず声を荒げて。

    「って、由希じゃないか!? どうしてここに!? というか妹に何を!?」
    「お兄ぃ……」

     その不審人物が自分の彼女の由希であることに驚く。
     颯太としては尾行する由希を見かけた出来事は時間の狭間に消えているので、何故かこの場所にいるという認識になっている。

  • 64二次元好きの匿名さん22/08/10(水) 20:24:55

     その由希はというと。

    「いも、うと……」

     酷く衝撃を受けたのかカッターを取り落とす。
     凶器を落としたこと、敵意が霧散したその隙に理子はその場から逃げ、颯太の背中に隠れる。

    「お兄ぃ……」
    「ああ、大丈夫だぞ」

     背中をさすってなだめる。

  • 65二次元好きの匿名さん22/08/10(水) 20:29:50

    「妹……そっか、妹だったんだ。良かった……本当に良かった」

     身体から力が抜けたようにその場にへたり込む由希。

     その様子は颯太からすればいつもの由希なのだが、先ほどまで妹に凶器を向けていた姿とのギャップが凄い。

    「由希……一体どういうつもりなんだ?」

     颯太はおずおずと尋ねる。



     周囲が騒がしくなってきた。平日の午後だがショッピングモールに人手は多い。

  • 66二次元好きの匿名さん22/08/10(水) 20:35:48

     遠巻きに由希を恐れる人、興味深そうにスマホのカメラを向けるもの、警備員や警察に連絡を取ろうとするもの。

     多くの注目を集まる中、由希は落としたカッターを再び手に取り。

    「大丈夫だよ、颯太」
    「……は?」
    「全部無かったことになるからね」

     そのままリストカットをした。

    「なっ……! 血が!! 由希!!」

     直前まで腫れ物を扱うような雰囲気だったのに、突然のリストカット、自傷行為を見て颯太は反射的に由希の元に駆けつけようとする。

    「……本当優しいんだから」

  • 67二次元好きの匿名さん22/08/10(水) 20:40:20

     異常な状況で垣間見た彼氏の本質に由希は自嘲めいた笑みを浮かべて。

     次の瞬間、世界は巻き戻った。



    「……っと」

     ふらついた由希はその場に座り込む。
     10分前、颯太とその妹を遠巻きに眺めていた時間に戻ってきた。

  • 68二次元好きの匿名さん22/08/10(水) 20:45:06

    「妹……そうだよね、颯太が浮気するはずないよね」

     噛みしめるように言う。

  • 69二次元好きの匿名さん22/08/10(水) 20:49:58

     作戦の最終段階、浮気相手を問い詰める。この時カッターで脅すのは計画通りだった。
     といっても由希に相手を殺すつもりは無かった。嘘を吐かれても面倒なので刃物で脅せばちゃんと答えるだろう、というだけの考えである。
     聞き出したら最初からリスカリープで時を巻き戻すつもりだった。

  • 70二次元好きの匿名さん22/08/10(水) 20:54:57

     実際疑惑は間違いだった。
     では、もし本当に颯太が浮気をしていたら由希はどうしたのか?

     浮気相手を殺す、これは不可能なことだ。
     リスカリープで出来ることは時を戻ることだけ。証拠を隠滅したりするような力はない。
     どれだけ戻ってやり直そうとも現代の警察は優秀だ、由希を完全に詰みな状態まで持っていっただろう。

     だから由希が考えていたのは颯太の浮気を止めるために、颯太が浮気をする前の時間軸まで戻ることだった。

  • 71二次元好きの匿名さん22/08/10(水) 20:59:24

     といってもそれは今日だけではなく、一昨日の時点で一緒に出かけているとなれば、さらにその前から颯太と浮気相手の関係があったことになる。

     その前に戻るということだから……本当にこの手段を取ることにならなくて良かった。



    「何百回リスカしないといけないのか……計算するのめんどくさかっただろうしね」

  • 72二次元好きの匿名さん22/08/10(水) 21:05:34

     さてこれで浮気疑惑は晴れた。私の用事は済んだし、颯太の用事もそろそろ終わる頃だろう。

    「せっかくだし、一緒に帰りたいな。……うん、そうしよう」





     祝い品の選定を終えた颯太と理子が言い争いを始める。

    「よし良いもの見つかったな」
    「えーやっぱあのでっかい狸の置物の方が良かったって!」
    「それは絶対いらないだろ……」
    「ぶー、だったら私付いてきた意味ないじゃん」
    「ああもう拗ねるなって」
    「……シュークリーム」
    「え?」
    「シュークリーム食べたい」
    「ああもう、はいはい。分かった、あっちの店で買ってきてやるから」
    「わーい、やったー! お兄、大好き!」
    「ったく調子のいいやつめ。ちょっとここで待ってろ」

  • 73二次元好きの匿名さん22/08/10(水) 21:10:06

     颯太が店に向かおうとしたところで。

    「あれ、颯太じゃん」
    「えっ!? 由希!?」

     偶然、そこを通りかかったのだろう由希に颯太は気付いた。

    「どうしたの、こんなところで?」
    「いや、それはこっちのセリフだよ。用事があったんじゃないの?」
    「あーそれならこの近場でね、もう終わったからその帰り」

  • 74二次元好きの匿名さん22/08/10(水) 21:14:04

    「へえそうだったんだ。運が良いね」

     恋人と偶然出会えたその幸運にほっこりしていると。

    「ん、誰、その人? ……って、あっ! 分かった! お兄の彼女でしょ!!」

     妹の理子に気付かれた。

    「あー、理子……それはだな……」
    「ふふっ、初めまして……理子ちゃん、でいいかな。颯太の彼女をしている由希です」

     何か言い逃れる方法は無いかと考える前に、由希が自己紹介する。

  • 75二次元好きの匿名さん22/08/10(水) 21:20:09

    「うわぁ……すごい。大人な人だ……」
    「ああもう……」

     頭を抱える。

    「ごめんね颯太。嫌だった?」
    「いや……ちょっと恥ずかしいってだけで僕の問題だから」
    「由希さん、って呼んでいいっすか! あ、そうだ! お兄との馴れ初め聞きたいっす!!」
    「こら、理子! おまえそんながっつくな!!」
    「兄妹で仲良いのね……あ、そうだお近づきの印と言ってはなんだけど……」

  • 76二次元好きの匿名さん22/08/10(水) 21:24:17

    これいるかしら?」

     由希は手元に持っていた紙袋から、シュークリームを取り出す。

    「シュークリーム!! 良いっすか!?」
    「ええ。私甘いものには目が無くてね。そこの店のおいしいからたくさん買った一つなのよ」

  • 77二次元好きの匿名さん22/08/10(水) 21:30:06

    「私の大好物っす! 由希さん。いや、由希義姉さん! ありがとうございます!!」
    「あっ、こら、おまえ。遠慮ってやつを……ああもう由希。いくらだった、代わりに払うよ」
    「いいって、颯太。理子ちゃん、颯太の妹なら私も仲良くしたいから」
    「がさつで騒がしいやつだぞ」
    「良い妹じゃない。あ、そうだ

  • 78二次元好きの匿名さん22/08/10(水) 21:38:03

    代わりと言っては何だけど、今日一緒に帰れる?」
    「ああもう用事は終わったし、近くの実家まで理子を送れば大丈夫だぞ」
    「やった。じゃあそうしましょ」
    「うーん、それで埋め合わせになってるのかな……」

    「え、由希義姉さんと一緒に帰れるの!」
    「はーい、一緒に帰りましょ」

     理子が嬉しそうにしている。

     別の時間軸では凶器を向け、怯えを見せた関係とはとても思えなかった。

  • 79二次元好きの匿名さん22/08/10(水) 21:39:41

    5話終了、約3000字。
    浮気疑惑編、完。 最初のイベント終わって良し。

    明日は休みなんでどこかのタイミングで書きます。

  • 80二次元好きの匿名さん22/08/11(木) 08:35:17

    保守

  • 81二次元好きの匿名さん22/08/11(木) 20:10:36

    保守

  • 82二次元好きの匿名さん22/08/11(木) 20:16:21

    ちょっと他の作業してたら遅れて先に保守打たれた、ありがとうございます。

    始めていきますが、今日の執筆部分あまり詰め切れてないので捻りださないと。

  • 83二次元好きの匿名さん22/08/11(木) 20:19:48

     近くの鈴木家まで理子を送り届けた後、由希と颯太の二人は電車に乗り大学の最寄り駅まで帰る。

    「そういえば由希の用事って何だったの?」

  • 84二次元好きの匿名さん22/08/11(木) 20:25:53

    「え、あ、うん……ちょっとね」
    「……この後は何も用事無いの?」
    「それはもう大丈夫」
    「じゃあうちにおいでよ。少し疲れてるでしょ、由希。ショッピングモールで買い物もしたし、晩ご飯作るからさ」

     颯太からの誘い。

    「…………」
    「どうしたの?」
    「いや……本当に私どうかしてたなあ、って思って」
    「え?」
    「こっちの話。うん、颯太の家にお呼ばれします!」

  • 85二次元好きの匿名さん22/08/11(木) 20:30:10

     颯太は本当に優しい。
     私が言葉を濁したことを深く聞いてこないし、足元がふらついたりして体調がちょっと良くない私のことも見ているし、ごはんも作ってくれるし。
     理解のある彼氏、ってやつだろう。

     ……口を開けば私を叱責してばかりで、体調悪くても勉強に習い事、ごはんなんて作れないあの人とは全然違う。
     まあ比べるのもおこがましいくらいだけど。

  • 86二次元好きの匿名さん22/08/11(木) 20:35:01

     颯太の一人暮らししているアパートに辿り着く。
     実家から電車で通えるくらいの距離なのに、颯太が一人暮らししているのは家族仲が悪いわけでもなく、大学生なんだからそっちの方が都合がいいだろうということで両親が勧めたらしい。会ったことは無いけど、颯太や理子ちゃんみたいな子が育つんだから良い両親なのだろう。

    「それではどうぞ、お嬢様」
    「ふふっ、お邪魔しますわ」

     鍵を開けた颯太が茶化した雰囲気で入室を促すものだから、由希もそれに乗る。

  • 87二次元好きの匿名さん22/08/11(木) 20:40:34

     そのまま夕食の準備を始める颯太に、由希は手伝いを申し出るが、一人で大丈夫とやんわり断られる。

  • 88二次元好きの匿名さん22/08/11(木) 20:45:28

     由希の体調を心配しているのだろう。

     由希も自分自身、体調が良くないことを自覚していた。
     立っていると足元がふらついたり、頭がぼーっとしたり、耳鳴りや倦怠感もあるし。

     精神的不調が肉体にも現れた……だけじゃない気がする。
     リスカリープを多用したことで長い時間活動したから?
     でもリスカリープは巻き戻った時間の間を無かったことにする。窓ガラスも治ったし、着替えも戻った。

  • 89二次元好きの匿名さん22/08/11(木) 20:50:11

    私の意識しか過去に戻らないなら、肉体への何もかもも無くなるはずだけど……。

    「まだ検証できてないことがあるかな……」
    「どうしたの、レポートか何かの悩み?」
    「うわっ! もう驚かさないでよ!」

  • 90二次元好きの匿名さん22/08/11(木) 20:55:08

    「そんなつもりは無かったんだけど……そんなに元気なら手伝ってもらえるかな」
    「あ、もう出来たんだ。手伝う、手伝う」

  • 91二次元好きの匿名さん22/08/11(木) 20:59:15

     そうしてテーブルに並べられた夕食を二人で食べて。



    「………………」
    「………………」

     食べてる間は色々と雑談していたのに、急に無言になる二人。
     由希は自分の罪を告解しようとしていた。
     その雰囲気を悟った颯太は静かに準備が整うのを待つ。
     そして。

    「颯太、ごめん」
    「どうしたの?」
    「私……颯太が浮気しているんじゃないかって疑っていた」
    「浮気!? え、何で!?」
    「詩織が一昨日、ショッピングモールで理子ちゃんと一緒にいたの見て、でも詩織は理子ちゃんのこと知らなくて」
    「あー……そっか、そういうことか」

  • 92二次元好きの匿名さん22/08/11(木) 21:02:18

    人の動きや言動やそこに至る過程を丁寧に書いてると思う
    すごいうまいと思います小並感

  • 93二次元好きの匿名さん22/08/11(木) 21:04:56

    「今日も気になって……後を尾けてて……だからあの場所にいて」
    「そうだったんだ」
    「ごめん、颯太。私、颯太のこと信じきれなくて……」
    「……顔を上げてよ、由希」
    「…………」

  • 94二次元好きの匿名さん22/08/11(木) 21:10:21

    「由希を不安にさせてごめんね」
    「颯太……でも……私……」
    「誰も損してないしいいんだよ。……あ、でも由希の電車賃だけちょっと損なのかな」

     おどけたように言う颯太。
     自分を疑って、尾行までされたのに許して流してくれる。


    「………」
     颯太なら、そう言ってくれるだろう。私の想像通りだ。
     ……本当にズルくて、嫌になる。
     自分が浮気を疑われたりしたら絶対にこんな対応はしないだろうのに。

  • 95二次元好きの匿名さん22/08/11(木) 21:15:10

     心が沈みだした由希の肩に手を置いて颯太は正面から告げる。

    「僕は絶対に浮気をしない。ずっと由希を愛する。誓うよ」
    「颯太……んっ……」

     そしてそのまま二人はキスをする。

     二人は付き合っているのだ、キスも初めてではない。
     家の中、二人きり、誰も止める者は無い。
     そのままヒートアップしていくか……と思われたが、しかし。

  • 96二次元好きの匿名さん22/08/11(木) 21:19:41

    「えー、あー……ちょっと食器を片付けるね!」
    「う、うん」

     二人はまだその先に行ったことが無かった。お互い興味はあるのだが、どちらも初交際故にどのように進んでいいのか踏ん切りが付かないからである。

     そそくさと逃げるようにキッチンに向かう颯太に対して由希は今しがたの愛の囁きとキスを思い返して浸っていた。

     情熱的な文句にキス。女の子なら何度でも経験したい出来事。

     そう、だから。

    「もう一回……」

     由希はバッグからカッターを取り出してリスカした。

  • 97二次元好きの匿名さん22/08/11(木) 21:25:08

    「僕は絶対に浮気をしない。ずっと由希を愛する。誓うよ」
    「颯太……んっ……」

    「僕は絶対に浮気をしない。ずっと由希を愛する。誓うよ」
    「颯太……んっ……」

    「僕は絶対に浮気をしない。ずっと由希を愛する。誓うよ」
    「颯太……んっ……」

    「僕は絶対に浮気をしない。ずっと由希を愛する。誓うよ」
    「颯太……んっ……」

    「僕は絶対に浮気をしない。ずっと由希を愛する。誓うよ」
    「颯太……んっ……」

     ………………。
     …………。
     ……。

     リスカリープを繰り返すこと数十回。
     何度繰り返しても由希は飽きず、永遠に続くかと思った――そのとき。

    「由希、大丈夫!?」

     颯太の行動が変化した。

    「え、あれ? 何か今までと違うけど……」
    「顔が真っ青だよ! やっぱ具合悪いの!?」
    「そんなことないよ、だから早く愛の、誓いと……キ、ス……を……」
     由希はそのまま意識を失った。

  • 98二次元好きの匿名さん22/08/11(木) 21:29:48

     6話目終了、2200字。


    >>92 ありがとうございます。大まかな流れを考えて後は出たとこ勝負なので動きや言動が丁寧になってるんですかね。

     今日もキスさせるつもりなかったのに勝手に始めたし。


     明日も同じころの予定。

  • 99二次元好きの匿名さん22/08/12(金) 06:16:59

    保守

  • 100二次元好きの匿名さん22/08/12(金) 18:18:05

    保守

  • 101二次元好きの匿名さん22/08/12(金) 19:56:28

    保守滑り込みセーフ(アウト)
    1、2分は過ぎても大丈夫なんですよね、ガバガバ

    21時から予定があるので少し早めに開始。
    設定回なので早めに終われるはず。

  • 102二次元好きの匿名さん22/08/12(金) 20:05:20

     由希が目を覚ますとそこは知らない天井だった。

    「ここ……は」
     仰向けに寝かされているようだ。首を右に倒すと白を基調とした部屋に、腕から繋がる管がベッド脇に置かれたスタンドに繋がっているのが見える。
     おそらく病院の病室だろう、ということは理解できた。

    「由希、起きたのか!」
     声に反応して左を向くとそこには颯太がいた。

    「颯太……っ」
     身体を起こそうとするがふらっとして失敗する。

    「あーまだ駄目だって! 貧血で倒れたんだから、安静にしてないと!」
    「貧血……?」
    「ああ。お医者様がな。点滴をすれば明日にも大丈夫だろうとも言ってた」

  • 103二次元好きの匿名さん22/08/12(金) 20:10:13

    「そっか」
     どうやら大事では無いようでホッとする。

     でも……貧血?
     自慢じゃないが体は無駄に丈夫な方で貧血になって一度もなったことが無い。なのに倒れて気を失ったというのだからよっぽどのことだ。
     原因は……一つしか考えられない。

     リスカリープだ。

     およそ物理法則に当てはまらない荒唐無稽な力だけど、これだけの現象を起こすのに何の代償も無いのはおかしいと思っていた。
     代償は私の血だ。

  • 104二次元好きの匿名さん22/08/12(金) 20:14:24

     おそらくリスカしてから時間跳躍(タイムリープ)するまでに流れる血、あれは過去に戻らないのだろう。
     いやもしくはあの血を消費して時間跳躍(タイムリープ)をしているのか。

     どちらにしろリスカリープを使用するたびに私は血を消費する。
     思えばリスカリープを使うたびにめまいや倦怠感を覚えたりしていたではないか。
     あれは軽い貧血の症状だったのだろう。
     そして今日私は浮気疑惑の検証と愛の誓いとキスを反復するためにリスカリープを使いすぎて倒れてしまった。

  • 105二次元好きの匿名さん22/08/12(金) 20:20:21

     そして10分以上気を失っていればリスカリープで戻っても気絶した状態になるだけで、それ以上過去に戻ることは出来ない。

     やっぱり連続での使用には限界があったんだ……颯太が浮気してたら何百回もリスカして過去に戻ろうと思ってたけど、それも無理だったみたい。

  • 106二次元好きの匿名さん22/08/12(金) 20:29:41

    「ごめんな、由希がそんなに体調悪くしていたことに気付けなくて。……僕の浮気疑惑のことで思い悩んでいたのか?」

     リスカリープで戻って由希が倒れたタイミングはちょうど浮気疑惑のことを告解して、愛の誓いとキスをする間のことだった。
     そのため颯太も由希が悩んでいたことを知っている。

    「ううん、颯太は悪くないの」
    「由希……」
    「病院の付き添いありがとね。たぶんもう大丈夫だから。夜も遅いし帰った方がいいよ」
    「……また明日の朝迎えに来るからな」

     颯太は病室を出て行った。

  • 107二次元好きの匿名さん22/08/12(金) 20:34:39

     由希は一人病室で考える。

     リスカリープ。

     ここまでの整合性からして私が白昼夢を見ているだけだとは思えない。
     良いように利用しておいてなんだけど、得体の知れない力だ。
     何で私がそんな力を持っているのか、どういう原理で働いているのかも全く分からない。
     推測として私の血を消費して時間跳躍(タイムリープ)しているのだと考えたけど、それだけでなく寿命やもっと違う何かを消費している可能性もある。

     直近の脅威、颯太の浮気疑惑は晴れた。
     もう私はこのリスカリープを封印して普通に暮らすべきではないのか?

     考えて由希は決断した。

  • 108二次元好きの匿名さん22/08/12(金) 20:40:11

    「レバーと……ほうれん草と……他に何があったかな? これからは鉄分をしっかり取らないとね」

     鉄分、貧血への対策。

     つまりはリスカリープを使っても簡単に倒れたりしないように、である。

     経緯も仕組みも分からないけど私に備わった力。だったら使わなければ損だ。

     悪魔か何かが取り立てにでも来たら……いや、私のこれまでの悲惨な人生に同情した神からの贈り物かもしれない。

     まあ問題が起きたらそのときはそのときだ。

  • 109二次元好きの匿名さん22/08/12(金) 20:45:28

     使えるものは何でも利用する。
     メンヘラならではの図々しさが由希にもあった。



    「とりあえず今日はもう寝ないと。倒れたのは本当だし。……あーでも結局、颯太に愛の誓いとキスされてないことになってるんだよね……もったいないことしたなあ……」

     そんなことを後悔するくらいには調子の戻ってきた由希だった。

  • 110二次元好きの匿名さん22/08/12(金) 20:47:32

     7話終了、1500字くらい? 短め、修正の時に何か追加できそうなら追加する。

     リスカリープの代償も判明しました。次からまた新展開予定。

     明日は用事があるし、新展開準備のため休みにしよう、そうしよう。
     明後日来ます。

  • 111二次元好きの匿名さん22/08/13(土) 02:08:18

    起きれないかもしれないので早めの保守

オススメ

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