[SS]約束

  • 1121/10/07(木) 22:58:14

    タイシンのSSを今日と金土にかけて
    上げさせてもらいます。
    BSSでも恋愛とかでもないですが
    最後までお付き合いさせて頂ければ幸いです。
    カテゴリー間違えてたのであげ直しました。
    すみません。

  • 2121/10/07(木) 22:58:47

    「お前、こんな所でなにしてんだ?」
    「…あんたには関係ないでしょ…」
    放課後16時10分。
    小学校から少し離れた古い公園。
    曇り気味の空の下
    体の小さなウマ娘の少女と
    むっくりとした恰幅のいい少年が
    ブランコの柵ごしに向き合っている。
    ブランコに座った少女を前にした少年が
    口を開いた。
    「俺が話かけたから関係は出来ただろ?」
    「……うざいんだけど…」
    砂ぼこりだらけの服を着た
    少女の目元はひどく腫れていて
    睨み付ける目は赤くなっていた。
    吐き出す悪態は少し震えている。
    先ほどまで泣いていたのだろうか。
    その事に気づいているのかいないのか
    分からない顔で少年は続けた。
    「なぁなぁ、なんでこんな
    小さい公園にいるんだ?
    ここ、タイヤとブランコしか無いのに!」
    「…あんただってここに来てるじゃん。」
    「ここだといっぱい練習出来るからな!」
    「……なんの練習?」
    怪訝そうに首を捻る少女を尻目に
    少年はニヤリと破顔し言ってのけた。

  • 3121/10/07(木) 22:59:19

    「柔道!」
    「…うん、そんな体型だもんね。」
    「おう!先生からもいい体だって
    よく言われるんだ!」
    「フーン………」
    少年は背も高ければ横幅も広い
    柔道家らしい体つきだった。
    日に焼けた顔とほっぺたの絆創膏が
    いつもの彼の言動を想像させる。
    妙にこちらに興味を示すよくわからない
    少年の勢いに、少女は半ば飲み込まれそうになりながら少し毒づく。
    「……凄いね。あたしとは全然違うじゃん」
    「…何が?」
    「……ッ!
    馬鹿にしてんの!?
    恵まれた体のあんたと!
    ウマ娘の癖に体の小さな私!
    全然違うじゃん!
    嫌味のつもりならどっか行けよ!」
    少年のとぼけた態度が癪に触った少女が
    ブランコから立ち上がる。
    『あんたみたいなチビが
     レースで勝てる訳無いでしょ?』
    言われ馴れた言葉が少女の脳裏によぎる。
    同情のつもりなら絶対に蹴ってやる。
    少女はそう考えていた。

  • 4121/10/07(木) 22:59:37

    だが、帰ってきた言葉は意外な物だった。
    「…?…ごめん…
    でもお前、この公園で
    スッゲェ走ってるじゃん。
    俺もよくここで走るからさ。
    同じだなぁって思って。」
    「………ハァ?」
    「俺先生からシュンパツリョク?つけろって言われててさ。
    練習の前にここの公園走ってるんだよ。
    今日も走ろうと思ってここに来たら
    お前がいたから声かけたんだよ!」
    「……もしかして
    どっちも走ってるから[同じ]だと
    思ったワケ?」
    「うん。お前もかけっことかの
    練習してただろ?
    似た事する奴いるんだなーって。」
    少女はなんとなく頭を抱えたくなった。
    どうにもこの少年は…

  • 5121/10/07(木) 23:00:25

    「………バ鹿でしょ…あんた。」
    「あぁ!いきなり人にバ鹿って
    言っちゃダメなんだぞ!
    母ちゃんから習わなかったのか?」
    「いや、バ鹿でしょ…
    会話の流れとかで分かるでしょ?
    こっちが嫌味言ったって。」
    少年のまるっこい顔が更に丸くなる。
    「…!
    お前嫌味言ったのか!?」
    「むしろなんで気づか無いのよ。」
    「意地悪言う奴は俺嫌いだぞ!
    この前クラスの人をイジめてた奴が
    いたからおもいっきり…」
    「………プ…」
    「……?」

  • 6121/10/07(木) 23:00:43

    「……フッフフ……アハハハハ!」
    「な、なんだよ!
    何がおかしいんだよ!
    今度お前が泣いてても
    声かけてやんないからな!」
    「ハハハハハハ!!
    …ごめん!さっきは言い過ぎた。
    なんか、アホらしくなってきた。
    あんた見てるとさ。」
    「…なんか気に食わないな…
    謝ってくれたからいいけど…」
    「……というか、走らなくていいの?
    もうすぐ16時20分だけど。」
    「!ヤベェー!
    もう10分くらいしか無いじゃん!
    よーし!全力で一本走るぞー!」
    「……ねぇ。」
    「なに!?
    今から超全力で走るから手短にな!」
    「…一緒に走っていい?」
    「いいぞ!!!
    決まったなら早くこっち来いよー!!!
    …えぇっと…」
    「タイシン。」
    「え?」
    「ナリタタイシン。私の名前。」
    「…おう!じゃあ走ろうぜ!タイシン!」
    「…うん。」
    友達のいない少女に
    少しうるさい男の友達が出来た瞬間だった。

  • 7121/10/07(木) 23:01:51

    続きは明日の11時半くらいにあげるつもりです。
    では、お休みなさい。

  • 8二次元好きの匿名さん21/10/07(木) 23:04:11

    期待してます

  • 9二次元好きの匿名さん21/10/07(木) 23:11:58

    おいスレが落ちてしまうぞ!

  • 10121/10/07(木) 23:13:17

    >>9

    やっべ。あげとくわ

    つうかここ何スレ以上だと期限伸びるんだろ…

  • 11二次元好きの匿名さん21/10/07(木) 23:13:58

    10レス越えれば12時間持つはず

  • 12121/10/07(木) 23:14:45

    >>11

    おけ、また昼頃上げないとな

  • 13二次元好きの匿名さん21/10/07(木) 23:17:41

    >>12

    頑張れ👍

  • 14二次元好きの匿名さん21/10/07(木) 23:19:22

    >>12

    期待してるぞ!

  • 15二次元好きの匿名さん21/10/07(木) 23:42:38

    期待してるぞ

  • 16121/10/08(金) 10:42:41

    すみません、12時でもいい?

  • 17二次元好きの匿名さん21/10/08(金) 12:41:29
  • 18121/10/08(金) 13:36:02

    めっちゃ遅れた。申し訳ない
    では続きを…

  • 19121/10/08(金) 13:36:47

    『今日、確かいたよな。』
    帰り道を歩きながらタイシンは
    ふと思い立った。
    何かを言われたくもなく
    目立ちたくもないので
    意見もしない。
    小学校でのタイシンは
    そういう子供だった。
    当然友達と言えるような存在も
    学校にはおらず
    無言のまま学校から帰る事も多かった。
    親以外の他人を自分の領域の中に
    入りこませたくなかったからだ。
    『…ッたく…変な奴。』
    だが、そんな気持ちも
    この前出来た体の大きなの友達の前では
    どうにも揺らぐ。
    ここ最近、公園に行く事を
    楽しみにしている自分がいる。
    声がでかくて言葉使いは乱暴な癖に
    妙な所で親切でやっぱりバ鹿なあいつ。
    『…まぁいいか。』
    次の角を右に曲がると
    寂れたいつもの公園だ。
    ランドセルをひょいと背負い直した。

  • 20121/10/08(金) 13:37:17

    その声は急に聞こえた。
    「お前ふざけんなよ!」
    角の向こうから
    誰かが騒ぐ声が聞こえた。
    『…他の人がいるのか…やだな…』
    帰ろうとした時だった。
    「覚えてろよ!デブ!!」
    ドタドタと角から背の高い
    3人くらいの少年達が
    捨て台詞を吐きながら走り去って行った。
    『…まさか、あいつ…』
    公園の方に行くとあの少年が
    不機嫌そうに地面に埋まったタイヤの
    近くに立っていた。
    顔は傷だらけで
    服の回りも砂まみれ。
    どうも喧嘩をしていたようだ。
    「おう!タイシン!
    立ってないでこっち来いよ!」
    しかし、不機嫌な顔はこちらが
    見ている事に気づくと
    すぐに普段の間の抜けた笑顔になった。
    「………あんた…それ何?」
    「…?
    …あぁこれ?ちょっと転んだ。」
    「…嘘つかなくていいから。
    …なんで喧嘩してたの?」

  • 21121/10/08(金) 13:37:57

    「…あいつらお前の事
    ウマ娘の癖に足遅いとか
    俺ならあいつに喧嘩で勝てるとか
    バ鹿にしてたからぶん殴ってやった。」
    どうにもこの少年は気が短いようだ。
    「…学校の先生に怒られるだけだから
    そんな事しなくたっていいのに…
    別にあたしなんかのために
    あんたが傷つく必要は無いでしょ?」
    少し呆れたような口調でタイシンは言った。
    すると少年は、先ほどの不機嫌な顔より
    険しい表情でタイシンを見ながら言った。
    「…お前、悔しくないのかよ。」
    「…ハ?」
    「お前、ウマ娘だろ?
    ホントは俺の何倍も早いだろ?
    …バ鹿にされていいのかよ。」
    「…何?
    あたしがふざけた事言われても
    ヘラヘラしてるとでも言いたいの?」
    「だったら[あたしのなんか]とかって
    言うなよ!
    もっと自分に自信を…」
    「うるさい…」
    「…え」

  • 22121/10/08(金) 13:38:09

    「うるさい!!うるさい!
    うるさいんだよ!
    そんな物持てるなら最初から持ってる!
    でもあたしは持ってないんだよ!!
    長い手足も!!強い食欲も!!
    何もかも持ってないんだよ!!!」
    「その…ごめん…」
    「あんたはいいじゃん…!
    褒められるくらいデカイ体でさ!
    食えば食うほどデカくなってさ!
    いいじゃん!頑張れよ!
    自信持ってればいいじゃん!
    そのままどこまでも行って
    強い奴に負けてろよ!!!」
    「……ごめん…」
    「それでやっと私と一緒じゃん!
    良かったね!!
    あたしもあんたも同じで!!」
    「………」
    少年が黙りこくった様を見て
    タイシンはよく分からない腹立たしさを
    覚えた。
    心の中は、混ぜた絵の具のように
    ぐちゃぐちゃだった。
    「…」
    タイシンは、その場から走り去った。
    少年の顔をまともに見る事は出来ない。
    今の自分の顔を見せたくないからだ。
    少年は、一人その場に立っていた。

  • 23121/10/08(金) 13:38:52

    次は明日の昼頃に投稿します。
    また遅れたら申し訳ない。

  • 24121/10/08(金) 23:40:57

    あかん…タイシンの一人称と三人称間違えた…
    次から修正させて頂きます…
    申し訳ない…

  • 25121/10/09(土) 11:02:22

    続きです

    「…何してんだろ…アタシ…」
    自宅のテーブルで
    タイシンはポツリと呟いた。
    あれから、あの少年には会えていない。
    公園にも、行けていない。
    『…最低じゃん…勝手にキレて
     勝手に傷ついて…』
    夕御飯を待つテーブルに体を埋める。
    彼のした事にありがとうの一言も言えず
    言われたくない事を言われて腹を立てた。
    自分を励ましてくれたというのに。
    自分がなんとなく情けなくなった。
    「…あんたどうしたの?」
    テーブルに突っ伏す娘を見て
    母が声をかけた。
    「…なんでもない」
    「なんでもないなら
    そんな事しないでしょ?
    ほら、なんでも言ってみなさい!
    受け止めてあげるから」
    タイシンはゆっくりと顔を上げる。
    「……実はね」

  • 26121/10/09(土) 11:02:56

    「 …アタシがよく行く公園にさ
    最近、その、他の学校の男子が
    よく来るようになってさ。
    その…そいつ…その人とよく話すように
    なって…一緒に走る練習するように
    なって…さ
    それで…その…その人が言った事に
    アタシ…ひどい応え方しちゃって…
    それで…」
    「…嫌な事言われたの?」
    「…ううん
    アイツ…その人は何も悪くなくて…
    むしろ…心配してくれたというか…でさ
    …心配して言ってくれたのに
    アタシ、ひどい事言った…」
    「…あんたはどうしたいの?」
    「……………謝りたい
    ………だけど…謝りたくない…
    …言われた事を受け止めたく、ない…」
    作った夕御飯をタイシンの前に
    置きながら、母は言葉を紡いでいく。
    「でも謝りたいと思ってるんでしょ?」
    「………………うん」
    「ひどい事したって思っているんでしょ?」
    「……………うん」
    「なら、やらないといけない事は
    見えて来ない?」

  • 27121/10/09(土) 11:03:12

    「…………うん………謝って来る……明日」
    「偉い!よく言った!」
    タイシンの言葉を聞いた母は
    彼女を力強く抱きしめながら
    タイシンが恥ずかしくなるくらい
    褒め出した。
    「お母さん!恥ずかしいから…!」
    「よく認めた!
    誰だって正しい事でも認めたくない事
    くらいあるの。
    でもね!それを認められるように
    なったら、ね。
    最強なのよ!人間は!」
    『そういえばアイツは…』
    毎回並走する度に
    いつも少年はタイシンに抜かれていた。
    少年が彼女を追い抜けた事など
    ただの一度もなかった。
    そして、走る練習を辞める事も
    決してなかった。
    『……案外すごい奴なのかもね…』
    褒めちぎる母の手を制しながら
    タイシンはなんとなく
    気が楽になったのを感じていた。

  • 28121/10/09(土) 11:04:37

    今日の夜に続きを挙げます

  • 29121/10/09(土) 22:58:33

    続きです。お納め下さい…

    学校を出て徒歩で12分。
    目の前にいつかの曲がり角が見えて来る。
    『…今日、いるかな…』
    なんとなく背筋が伸びる。
    出来の悪いテストが返ってくる時のように
    胸がきゅうっと苦しくなる。
    『…許してもらえるかな……
     ………あぁもう!
     約束した癖にビビるなよ!アタシ!』
    意を決してタイシンは曲がり角に
    足を踏み入れる。
    砂に半分埋まったタイヤ。
    植えられた夾竹桃。
    ブランコの近く。
    『…どこにもいない』
    影も形もなかった。
    体の大きなアイツの姿はどこを見ても
    いなかった。
    『…そりゃ嫌だよね…
     …いきなり悪口言われたんだもの』
    さっきより重くなった体で
    ブランコに腰かける。
    赤く色づいた落ち葉がカサカサと
    足元を通り抜けて行く。
    10月も近くなってきた小学生最後の秋。

  • 30121/10/09(土) 22:59:08

    別に学校に未練がある訳ではない。
    なんなら忘れたいくらい
    教室の中でのクラスメイトの視線が
    嫌いだった。
    だが、彼には
    彼に対しての謝罪だけには
    後悔を残したくなかったのだ。
    『…ほっつき歩いてんじゃないよ…』
    目元が熱くなって行く。
    北風で滲みたのだろうか。
    熱い物は目元から溢れて、頬を伝い出す。
    今さらに、酷い事を言ったのだと
    改めて自覚し始めた。
    「…ごめんね…アンタのせいじゃないのに」
    声に嗚咽が混じり出した。
    あのときと、初めて会った時と同じだ。
    私は、泣いているのだ。
    自分への感情でなく、相手への感情で。
    『…泣いて許して貰おうなんて
     アタシも傲慢だな…………酷い奴だよね』
    顔を下に向けて蹲る。
    悔しさと謝罪の念が体に染み込んで
    離そうとしない。
    このまま、消えてしまいたい。
    そう思った時だった。

  • 31121/10/09(土) 22:59:54

    「……俺こそごめん」
    「…え?」
    ハッと顔をあげると、申し訳ない顔の
    いつものとぼけたような顔が見えた。
    「…俺、お前の事分かってるつもりだった
    でも…そんなつもりだったのに
    俺、お前が嫌な事言ったゃった。
    …………ごめん」
    「…アンタは悪くないよ…
    アタシが勝手に怒っただけだから…」
    「…だけど…」
    「………………アタシ、諦めてたんだよ
    ウマ娘らしく、堂々と生きるなんて…
    …でも、アンタは、堂々と生きて
    いいって言ってくれた。
    嫌な時は嫌って言っていい、って。
    …………すごく、嬉しかった。
    自分の事を分かってくれたみたいで。
    …でも、私はそんな気持ち蓋をして
    アンタに嫌な事を言った…
    …酷い奴だって思う。身勝手だと思う。
    …許してくれなくったっていい。
    改めて言う。
    ごめんなさい。」
    頭を深々と下げたタイシンを
    少年は居づらいような顔で眺めていた。

  • 32121/10/09(土) 23:00:21

    「…わかった。でも…」
    少年の手が首を下げたタイシンの顔に
    触れると、そのままあげさせる。
    そして、親指で目元の涙を拭き取った。
    「こうすれば、もっと堂々と
    しているよ?タイシン」
    少年の顔には屈託のない笑顔が
    浮かんでいた。
    出会いの時にも見た、豪快な笑顔。
    タイシンの目を、力強い瞳が
    射抜いていた。
    「………うん………ありがと」
    「…もう遅いし、帰らねえ?」
    「うん…わかった」
    二人は揃って家路に急ぐ。
    16時50分。
    帰るのにはちょうどよい時間だった。
    曲がり角を通り、枇杷が生えた家の
    近くを通って近道をする。

  • 33121/10/09(土) 23:00:45

    「へへ!良かった!
    俺、あのあとタイシンが心配でさ。
    すげえ探したんだよ!タイシンの事!
    タイシンを泣かしたまま
    家に帰ったら母ちゃんに
    怒られるからな!」
    「…じゃあ何?お母さんに怒られたから
    今謝ってんの?」
    歩いて気持ちが落ち着いてきたタイシンが
    少し意地悪な事を言った。
    「ち、チゲーよ!
    確かに母ちゃんから謝ってこいって
    言われたけど、俺だって悪い事
    したなって思ってるから…タイシン?」
    「………フフ…ッッ…!!」
    「な、なんだよ!!
    そんなに俺おかしいのかよ!?」
    「いや、ごめん…ッ………!
    あんたがさ…ッ…さっきさ…ッ…!
    涙拭いた時さ…ッ………!」
    「…!
    いや!あれはただなんとなく…!」
    「似合わないなぁーッて…ブフッ!!」
    「カッコつけみたいにゆうなよ!
    つうかお前だって!
    さっき俺が見つからなくて
    ピーピー泣いてたじゃん!」

  • 34121/10/09(土) 23:02:35

    「ハァ?アタシピーピーなんて泣いてないけど?」
    「お前どの面下げて言ってんだよ!
    言っとくけどお前今
    目真っ赤だからな!?」
    「ハァ!?
    あんたのあの告白みたいな奴だって
    人の事言えないからな!」
    「お前…!人が親切にしてやれば…!」
    「…ありがとね、友達になってくれて」
    「…え?」
    「…じゃ、アタシ家こっからだから
    じゃあね、お・う・じ・さ・ま!」
    「あ!お前最後にバ鹿にしてったな!
    クッソ、明日も来いよ!」
    バ鹿な事を言い合いながら家に帰る。
    今までは出来なかった事だ。
    縁もないと思っていた。
    だが、今は違う。
    アイツがいる。
    バ鹿で、真っ直ぐなアイツが。
    『…心配して損した…』
    「………フフッ…」
    あと半年を退屈せずに過ごせそうだ。
    タイシンは口元を緩ませた。
    トレセン学園の門を
    なんとなく意識し始めていた。

    次は明日の昼頃に挙げます。
    たぶん次で最後…かも
    ここまでの感想頂けると助かります。

  • 35121/10/10(日) 10:31:44

    続きです。

    「アタシ、トレセン学園に行くから」
    11月中頃。
    風が冷たさを含みはじめた秋の暮れに
    タイシンは少年に告げた。
    名門、トレセン学園。
    審査を勝ち抜いたウマ娘達が
    全国から集まる、日本有数の学園。
    ウマ娘達憧れの場所。
    ブランコに並んで座った少年は
    まんじりともせず聞いていた。
    「…やっぱり、アタシ諦めたくない…!
    絶対に入学してバ鹿にしてきた奴らの
    鼻を明かしてやる!」
    タイシンの決意は硬い。
    石にかじりついてでも
    入学するつもりだったのだ。
    暫く黙って聞いていた少年は
    後ろ頭に手をやりながら
    「お前もかよ…」
    そう、ポツリと呟いた。
    「…アンタもどっか行くの?」
    タイシンが隣の少年の方に向き直る。
    少年はバツが悪そうな顔で告げた。
    「…前出た大会でさ。スカウト受けた」
    小学生最後に出た大会で
    少年は無名ながら表彰台に乗ったのだ。
    それを見た強豪からのスカウト。
    少年はそれに応じるつもりでいた。

  • 36121/10/10(日) 10:32:46

    「…どこの中学?」
    「同じだよ。東京。
    あとそこ中高一貫だから
    中学っつうか中等部になる。
    ……レースの時なら挨拶出来るか?」
    少年は、離れたあとも
    まだ友人として出来るだけ
    一緒にいるつもりでいた。
    「ねぇ、アタシ思うんだけどさ…
    もしアタシが入学出来たら、さ…
    連絡取らないでおかない?」
    しかし、タイシンの考えは逆だった。
    「…え?なんで?」
    「…連絡取ったらさ。
    頼っちゃいそうじゃん。お互いに
    …だから、お互い成果が出るまで
    連絡は取らないでおこうかなって…」
    少年は再度無言になった。
    7ヵ月もの間ほぼ毎日顔を合わせた存在が
    いなくなる上に連絡も取れなくなるというのだ。
    彼は、タイシンの意見に賛同しかねていたのだ。
    「…タイシンはいいのか?
    向こうで友達作れるか?」
    「今だってアンタぐらいしか
    いないんだから友達居なくたって
    どうにかなるよ」
    「…そうスカ………だったら…………」

  • 37121/10/10(日) 10:33:28

    「だったら?」

    「…俺が行く学校の近くに

    デカイショッピングモールが

    あるんだけどさ。

    6年後の4月…俺達が会った日の12時に

    そこで会わない?」

    「…それならいいけど。

    …遅れて来んなよ?」

    「当たり前だろ?俺が提案したんだから」

    少年はタイシンの顔を見てニヤリと笑う。

    そして一言、元気を込めてこう言った。

    「<約束>だからな?」

    「……うん」

    拳を互いに合わせ、二人は目標の成就を

    誓った。

    二人の、長い闘いが始まった。

  • 38121/10/10(日) 10:33:49

    それから、二人は公園に行く事もなく

    互いの目標の為の努力を開始した。

    来る日も来る日も、体力作りと試験勉強に

    明け暮れた。

    そして3月。タイシンの入学が決まる日。

    「……受かってる…受かってるよ!タイシン」

    学園から届いた資料には

    合格の二文字が刻まれていた。

    タイシンは、今まで見せた事もないほど

    喜び、公園でその事を少年に伝えた。

    「おぉ!良かったじゃん!

    俺も推薦入試合格したぞ!」

    肌寒い2月の下旬だったものの

    二人の心は、暖かかった。


    4月。タイシンは東京にいた。

    桜が咲き乱れ、自分と同じ耳をした少女達が

    そこかしこに歩いている。

    ここで、一番速いウマ娘になる。

    そして、絶対に<約束>を果たす。

    入学する校門の前で、タイシンは

    決意を新たにする。

    小さい体の一歩は、想像以上に

    大きく踏みこまれた。

    後にBMWの一人になるナリタタイシンの物語。

    その始まりの一歩だった。


  • 39121/10/10(日) 10:34:23

    受けが良かったら後日談書きます

  • 40二次元好きの匿名さん21/10/10(日) 11:44:08

    >>39

    おつ!続きも期待してるぞ!

  • 41121/10/10(日) 18:52:15

    続きです。これ投げた後少し時間開きます。

    「ねえねえ!
    向こうに新しいお店出来てたから
    行こうよー!」
    休日の朝9時
    食堂でハヤヒデと話している時に
    チケットからそう言われた。
    「あぁ、いいじゃないか。
    今日は休息を取るつもりだったしな。
    私は行くがタイシンはどうだ?」
    「…ごめん。
    アタシ今日用事あるからパス。」
    「えぇ!?どういう用事!?」
    「…友達と会うんだよ。
    今日会おうって言われてさ」
    「…うーん…一緒に行きたかったのにぃ…」
    「まあまあ
    タイシンにとって大切な事なら
    そちらの方を優先するべきだからな」
    「…分かった…タイシン!!」

  • 42121/10/10(日) 18:52:40

    「何?」
    「用事終わったら来てよ!
    場所は後で言うから!!」
    「…分かったよ。後でね」
    「わーい!ありがとう!タイシィン!」
    「あぁもう!うるさいよチケット!」
    『友達…でいいんだよね』
    二人して喜ぶチケットとハヤヒデを見て
    タイシンは思い出した。
    あの日の少し心配気味なアイツの顔を。
    『…早めに出よっかな』
    準備はもうしてある。
    おしゃれ目な服。
    チケットとハヤヒデが写った写真。
    携帯と財布。
    そして、思い出話。
    それだけあれば何も要らなかった。
    『…遅れて来たら蹴ってやろ』
    内心ニヤつきながら
    頼んだ朝ご飯を食べきり
    二人に挨拶をして部屋に戻る。
    10時になったら、出発だ。

  • 43121/10/10(日) 18:53:06

    『…早く着きすぎたかな』
    昼11時00分。
    アイツが入学した学園の近くにある
    ショッピングモールに着いた。
    休日だけあって人混みはまあまあある。
    『…集まる場所くらい
     決めとけば良かったかな…』
    入り口の近くのベンチに座りながら
    軽く後悔していた。
    ショッピングモールが相当に広いからだ。
    人混みの事も考えれば
    さがしだすのは大変になるだろう。
    『…まあ、アイツの見た目なら
     一発で見つかるだろ』
    だが、タイシンは心配していなかった。
    丸々とした巨体の少年。
    柔道をしているともなれば
    体は確実に当時より大きいだろう。
    それだけ分かれば
    見分ける事くらいはたぶん出来る。
    タイシンはそう考えていた。

  • 44121/10/10(日) 18:53:36

    ちょっと空けます

  • 45121/10/10(日) 22:32:43

    続きです

    『…全然見つからない…』
    昼11時55分。
    件の少年らしい青年が
    一向に見つからない。
    『…どうしよう…』
    広場。
    イートインスペース。
    食材売り場。
    駐車場のベンチ。
    至る所を探したのに、アイツらしい男の
    影は見つからない。
    『…まさか……』
    来てないのではないか。
    自分の事など
    忘れてしまったのではないか。
    タイシンは広場のベンチに座り込んだ。
    背中に嫌な汗が流れ始める。
    アイツの事を、友達を疑いたくない。
    だが、もう59分だ。
    約束の時間まで後一分。
    来ない可能性を信じたくないのに
    ふつふつと、嫌でも分かって来る。
    自分が忘れられた。
    『…そう…まあ、そんなもんだよ、ね…』
    目が潤み出す。
    あの時の様に泣き出す前に
    トイレに行こうとした。

  • 46121/10/10(日) 22:33:06

    「<お前、こんな所でなにしてんだ?>」

    「………<あんたには関係ないでしょ>…」

    12:00ちょうどだった。

    ニヤケ面でいるのが手に取れるような。

    そんな声が聞こえたのだ。

    「よぅ。久しぶり」

    「…丁度で来る?フツー」

    「お前がどこにいるか分からなくて

    少し探してたんだよ。

    ワリイな。ギリギリで」

    「…覚えてたんだ」

    「言ったろ?俺の提案って」

    「…フフ…そうだったね」

    体つきは見違える様にしまっていた。

    背丈も180cmはありそうだ。

    そんな大きくなった体ではあっても

    顔つきはあの時のとぼけたような

    顔立ちそのままで

    間の抜けた笑顔も健在ようだった。

    「…どうする?

    近くのコーヒー飲める所で話す?」

    「奢ろうか?」

    「やめてよ。

    そんなのかっこつかないじゃん」

    「なに一丁前な事言ってんの?

    こんなでもアタシ

    わりと稼げているんだから。

    奢られればいいじゃん」

    「…んじゃ、そうする」

  • 47121/10/10(日) 22:33:33

    二人で話をしながらコーヒーショップを
    目指す。
    互いの学園の暮らし。
    互いの友達。
    互いの成果。
    コーヒーショップについても
    思い出話が尽きる事は無い。
    勉強はどうか。
    レースや柔道はどうか。
    近しい大会はいつか。
    時間が過ぎるのはあっという間だった。
    「…それでその後輩が…」
    「…待て。もう15時じゃねえか?」
    「あーそうっぽいね」
    「…俺16時から練習でさぁ…
    そろそろお開きにしねぇか?」
    「…そ。なら解散しよっか」
    「だな…タイシン?」
    「……何?」
    「URA、勝てよ」
    「…!…アンタこそ
    …インターハイ、勝てよ」
    「ったりまえだろ」
    「こっちこそ
    …ライブ行けそう?」
    「死んでも行くよ」
    「そう…そんじゃ、ライブでね」
    「おう、じゃあな」
    最後の言葉は
    力強く、はっきりした言葉だった。

  • 48121/10/10(日) 22:35:16

    かつての柔道少年が帰って行くのを見届けて
    タイシンは強く思った。
    『…負けられない』
    と。
    コーヒーショップにいた人は
    少しずつ多くなっている。
    休憩を挟んでまたショッピングをするのだろう。
    『…お土産くらいは買っておこ…?!』
    コーヒーショップの脇の植え込み。
    そのうちの手前の一つから
    白い髪がはみ出ているのが見えたのだ。
    (ハヤヒデ!もう少し詰めてよ!)
    (これが限界だぞチケット)
    (もう!ハヤヒデの髪が
    はみ出ているじゃん!)
    (私の頭が大きい風な言い方は
    止めてくれないか?)
    「…ねえ」
    「ど、どうしたのー…?タイシン?」
    「なんでいんの?」
    「…チケットと一緒に
    タイシンが心配だから見に行こうと思ってな。
    朝から様子が変だったものだから…」
    「…二人とも後でゲームに付き合ってよ?」
    「…ごめんなさい」
    「すまなかった」
    「…アイツはさ、全然悪い奴じゃ無いから。
    心配しなくていい」
    「…じゃあどういう人なの?」

  • 49121/10/10(日) 22:37:43

    「…バ鹿で、いちいち声がでかくて
    短気で、おっちょこちょいで…」
    「…最高にいい奴な、私の友達」



    これにて完結です。
    ヒト娘Bちゃんとかのスレを見て
    タイシンに一人くらい
    いい奴な友人がいてもいいのではと
    思って作りました。

  • 50二次元好きの匿名さん21/10/10(日) 22:42:49

    浄化されたわ(語彙力皆無)

オススメ

このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています