- 1121/10/07(木) 22:58:14
- 2121/10/07(木) 22:58:47
「お前、こんな所でなにしてんだ?」
「…あんたには関係ないでしょ…」
放課後16時10分。
小学校から少し離れた古い公園。
曇り気味の空の下
体の小さなウマ娘の少女と
むっくりとした恰幅のいい少年が
ブランコの柵ごしに向き合っている。
ブランコに座った少女を前にした少年が
口を開いた。
「俺が話かけたから関係は出来ただろ?」
「……うざいんだけど…」
砂ぼこりだらけの服を着た
少女の目元はひどく腫れていて
睨み付ける目は赤くなっていた。
吐き出す悪態は少し震えている。
先ほどまで泣いていたのだろうか。
その事に気づいているのかいないのか
分からない顔で少年は続けた。
「なぁなぁ、なんでこんな
小さい公園にいるんだ?
ここ、タイヤとブランコしか無いのに!」
「…あんただってここに来てるじゃん。」
「ここだといっぱい練習出来るからな!」
「……なんの練習?」
怪訝そうに首を捻る少女を尻目に
少年はニヤリと破顔し言ってのけた。 - 3121/10/07(木) 22:59:19
「柔道!」
「…うん、そんな体型だもんね。」
「おう!先生からもいい体だって
よく言われるんだ!」
「フーン………」
少年は背も高ければ横幅も広い
柔道家らしい体つきだった。
日に焼けた顔とほっぺたの絆創膏が
いつもの彼の言動を想像させる。
妙にこちらに興味を示すよくわからない
少年の勢いに、少女は半ば飲み込まれそうになりながら少し毒づく。
「……凄いね。あたしとは全然違うじゃん」
「…何が?」
「……ッ!
馬鹿にしてんの!?
恵まれた体のあんたと!
ウマ娘の癖に体の小さな私!
全然違うじゃん!
嫌味のつもりならどっか行けよ!」
少年のとぼけた態度が癪に触った少女が
ブランコから立ち上がる。
『あんたみたいなチビが
レースで勝てる訳無いでしょ?』
言われ馴れた言葉が少女の脳裏によぎる。
同情のつもりなら絶対に蹴ってやる。
少女はそう考えていた。 - 4121/10/07(木) 22:59:37
だが、帰ってきた言葉は意外な物だった。
「…?…ごめん…
でもお前、この公園で
スッゲェ走ってるじゃん。
俺もよくここで走るからさ。
同じだなぁって思って。」
「………ハァ?」
「俺先生からシュンパツリョク?つけろって言われててさ。
練習の前にここの公園走ってるんだよ。
今日も走ろうと思ってここに来たら
お前がいたから声かけたんだよ!」
「……もしかして
どっちも走ってるから[同じ]だと
思ったワケ?」
「うん。お前もかけっことかの
練習してただろ?
似た事する奴いるんだなーって。」
少女はなんとなく頭を抱えたくなった。
どうにもこの少年は… - 5121/10/07(木) 23:00:25
「………バ鹿でしょ…あんた。」
「あぁ!いきなり人にバ鹿って
言っちゃダメなんだぞ!
母ちゃんから習わなかったのか?」
「いや、バ鹿でしょ…
会話の流れとかで分かるでしょ?
こっちが嫌味言ったって。」
少年のまるっこい顔が更に丸くなる。
「…!
お前嫌味言ったのか!?」
「むしろなんで気づか無いのよ。」
「意地悪言う奴は俺嫌いだぞ!
この前クラスの人をイジめてた奴が
いたからおもいっきり…」
「………プ…」
「……?」 - 6121/10/07(木) 23:00:43
「……フッフフ……アハハハハ!」
「な、なんだよ!
何がおかしいんだよ!
今度お前が泣いてても
声かけてやんないからな!」
「ハハハハハハ!!
…ごめん!さっきは言い過ぎた。
なんか、アホらしくなってきた。
あんた見てるとさ。」
「…なんか気に食わないな…
謝ってくれたからいいけど…」
「……というか、走らなくていいの?
もうすぐ16時20分だけど。」
「!ヤベェー!
もう10分くらいしか無いじゃん!
よーし!全力で一本走るぞー!」
「……ねぇ。」
「なに!?
今から超全力で走るから手短にな!」
「…一緒に走っていい?」
「いいぞ!!!
決まったなら早くこっち来いよー!!!
…えぇっと…」
「タイシン。」
「え?」
「ナリタタイシン。私の名前。」
「…おう!じゃあ走ろうぜ!タイシン!」
「…うん。」
友達のいない少女に
少しうるさい男の友達が出来た瞬間だった。 - 7121/10/07(木) 23:01:51
続きは明日の11時半くらいにあげるつもりです。
では、お休みなさい。 - 8二次元好きの匿名さん21/10/07(木) 23:04:11
期待してます
- 9二次元好きの匿名さん21/10/07(木) 23:11:58
おいスレが落ちてしまうぞ!
- 10121/10/07(木) 23:13:17
- 11二次元好きの匿名さん21/10/07(木) 23:13:58
10レス越えれば12時間持つはず
- 12121/10/07(木) 23:14:45
- 13二次元好きの匿名さん21/10/07(木) 23:17:41
頑張れ👍
- 14二次元好きの匿名さん21/10/07(木) 23:19:22
期待してるぞ!
- 15二次元好きの匿名さん21/10/07(木) 23:42:38
期待してるぞ
- 16121/10/08(金) 10:42:41
すみません、12時でもいい?
- 17二次元好きの匿名さん21/10/08(金) 12:41:29
- 18121/10/08(金) 13:36:02
めっちゃ遅れた。申し訳ない
では続きを… - 19121/10/08(金) 13:36:47
『今日、確かいたよな。』
帰り道を歩きながらタイシンは
ふと思い立った。
何かを言われたくもなく
目立ちたくもないので
意見もしない。
小学校でのタイシンは
そういう子供だった。
当然友達と言えるような存在も
学校にはおらず
無言のまま学校から帰る事も多かった。
親以外の他人を自分の領域の中に
入りこませたくなかったからだ。
『…ッたく…変な奴。』
だが、そんな気持ちも
この前出来た体の大きなの友達の前では
どうにも揺らぐ。
ここ最近、公園に行く事を
楽しみにしている自分がいる。
声がでかくて言葉使いは乱暴な癖に
妙な所で親切でやっぱりバ鹿なあいつ。
『…まぁいいか。』
次の角を右に曲がると
寂れたいつもの公園だ。
ランドセルをひょいと背負い直した。 - 20121/10/08(金) 13:37:17
その声は急に聞こえた。
「お前ふざけんなよ!」
角の向こうから
誰かが騒ぐ声が聞こえた。
『…他の人がいるのか…やだな…』
帰ろうとした時だった。
「覚えてろよ!デブ!!」
ドタドタと角から背の高い
3人くらいの少年達が
捨て台詞を吐きながら走り去って行った。
『…まさか、あいつ…』
公園の方に行くとあの少年が
不機嫌そうに地面に埋まったタイヤの
近くに立っていた。
顔は傷だらけで
服の回りも砂まみれ。
どうも喧嘩をしていたようだ。
「おう!タイシン!
立ってないでこっち来いよ!」
しかし、不機嫌な顔はこちらが
見ている事に気づくと
すぐに普段の間の抜けた笑顔になった。
「………あんた…それ何?」
「…?
…あぁこれ?ちょっと転んだ。」
「…嘘つかなくていいから。
…なんで喧嘩してたの?」 - 21121/10/08(金) 13:37:57
「…あいつらお前の事
ウマ娘の癖に足遅いとか
俺ならあいつに喧嘩で勝てるとか
バ鹿にしてたからぶん殴ってやった。」
どうにもこの少年は気が短いようだ。
「…学校の先生に怒られるだけだから
そんな事しなくたっていいのに…
別にあたしなんかのために
あんたが傷つく必要は無いでしょ?」
少し呆れたような口調でタイシンは言った。
すると少年は、先ほどの不機嫌な顔より
険しい表情でタイシンを見ながら言った。
「…お前、悔しくないのかよ。」
「…ハ?」
「お前、ウマ娘だろ?
ホントは俺の何倍も早いだろ?
…バ鹿にされていいのかよ。」
「…何?
あたしがふざけた事言われても
ヘラヘラしてるとでも言いたいの?」
「だったら[あたしのなんか]とかって
言うなよ!
もっと自分に自信を…」
「うるさい…」
「…え」 - 22121/10/08(金) 13:38:09
「うるさい!!うるさい!
うるさいんだよ!
そんな物持てるなら最初から持ってる!
でもあたしは持ってないんだよ!!
長い手足も!!強い食欲も!!
何もかも持ってないんだよ!!!」
「その…ごめん…」
「あんたはいいじゃん…!
褒められるくらいデカイ体でさ!
食えば食うほどデカくなってさ!
いいじゃん!頑張れよ!
自信持ってればいいじゃん!
そのままどこまでも行って
強い奴に負けてろよ!!!」
「……ごめん…」
「それでやっと私と一緒じゃん!
良かったね!!
あたしもあんたも同じで!!」
「………」
少年が黙りこくった様を見て
タイシンはよく分からない腹立たしさを
覚えた。
心の中は、混ぜた絵の具のように
ぐちゃぐちゃだった。
「…」
タイシンは、その場から走り去った。
少年の顔をまともに見る事は出来ない。
今の自分の顔を見せたくないからだ。
少年は、一人その場に立っていた。 - 23121/10/08(金) 13:38:52
次は明日の昼頃に投稿します。
また遅れたら申し訳ない。 - 24121/10/08(金) 23:40:57
あかん…タイシンの一人称と三人称間違えた…
次から修正させて頂きます…
申し訳ない… - 25121/10/09(土) 11:02:22
続きです
「…何してんだろ…アタシ…」
自宅のテーブルで
タイシンはポツリと呟いた。
あれから、あの少年には会えていない。
公園にも、行けていない。
『…最低じゃん…勝手にキレて
勝手に傷ついて…』
夕御飯を待つテーブルに体を埋める。
彼のした事にありがとうの一言も言えず
言われたくない事を言われて腹を立てた。
自分を励ましてくれたというのに。
自分がなんとなく情けなくなった。
「…あんたどうしたの?」
テーブルに突っ伏す娘を見て
母が声をかけた。
「…なんでもない」
「なんでもないなら
そんな事しないでしょ?
ほら、なんでも言ってみなさい!
受け止めてあげるから」
タイシンはゆっくりと顔を上げる。
「……実はね」 - 26121/10/09(土) 11:02:56
「 …アタシがよく行く公園にさ
最近、その、他の学校の男子が
よく来るようになってさ。
その…そいつ…その人とよく話すように
なって…一緒に走る練習するように
なって…さ
それで…その…その人が言った事に
アタシ…ひどい応え方しちゃって…
それで…」
「…嫌な事言われたの?」
「…ううん
アイツ…その人は何も悪くなくて…
むしろ…心配してくれたというか…でさ
…心配して言ってくれたのに
アタシ、ひどい事言った…」
「…あんたはどうしたいの?」
「……………謝りたい
………だけど…謝りたくない…
…言われた事を受け止めたく、ない…」
作った夕御飯をタイシンの前に
置きながら、母は言葉を紡いでいく。
「でも謝りたいと思ってるんでしょ?」
「………………うん」
「ひどい事したって思っているんでしょ?」
「……………うん」
「なら、やらないといけない事は
見えて来ない?」 - 27121/10/09(土) 11:03:12
「…………うん………謝って来る……明日」
「偉い!よく言った!」
タイシンの言葉を聞いた母は
彼女を力強く抱きしめながら
タイシンが恥ずかしくなるくらい
褒め出した。
「お母さん!恥ずかしいから…!」
「よく認めた!
誰だって正しい事でも認めたくない事
くらいあるの。
でもね!それを認められるように
なったら、ね。
最強なのよ!人間は!」
『そういえばアイツは…』
毎回並走する度に
いつも少年はタイシンに抜かれていた。
少年が彼女を追い抜けた事など
ただの一度もなかった。
そして、走る練習を辞める事も
決してなかった。
『……案外すごい奴なのかもね…』
褒めちぎる母の手を制しながら
タイシンはなんとなく
気が楽になったのを感じていた。 - 28121/10/09(土) 11:04:37
今日の夜に続きを挙げます
- 29121/10/09(土) 22:58:33
続きです。お納め下さい…
学校を出て徒歩で12分。
目の前にいつかの曲がり角が見えて来る。
『…今日、いるかな…』
なんとなく背筋が伸びる。
出来の悪いテストが返ってくる時のように
胸がきゅうっと苦しくなる。
『…許してもらえるかな……
………あぁもう!
約束した癖にビビるなよ!アタシ!』
意を決してタイシンは曲がり角に
足を踏み入れる。
砂に半分埋まったタイヤ。
植えられた夾竹桃。
ブランコの近く。
『…どこにもいない』
影も形もなかった。
体の大きなアイツの姿はどこを見ても
いなかった。
『…そりゃ嫌だよね…
…いきなり悪口言われたんだもの』
さっきより重くなった体で
ブランコに腰かける。
赤く色づいた落ち葉がカサカサと
足元を通り抜けて行く。
10月も近くなってきた小学生最後の秋。 - 30121/10/09(土) 22:59:08
別に学校に未練がある訳ではない。
なんなら忘れたいくらい
教室の中でのクラスメイトの視線が
嫌いだった。
だが、彼には
彼に対しての謝罪だけには
後悔を残したくなかったのだ。
『…ほっつき歩いてんじゃないよ…』
目元が熱くなって行く。
北風で滲みたのだろうか。
熱い物は目元から溢れて、頬を伝い出す。
今さらに、酷い事を言ったのだと
改めて自覚し始めた。
「…ごめんね…アンタのせいじゃないのに」
声に嗚咽が混じり出した。
あのときと、初めて会った時と同じだ。
私は、泣いているのだ。
自分への感情でなく、相手への感情で。
『…泣いて許して貰おうなんて
アタシも傲慢だな…………酷い奴だよね』
顔を下に向けて蹲る。
悔しさと謝罪の念が体に染み込んで
離そうとしない。
このまま、消えてしまいたい。
そう思った時だった。 - 31121/10/09(土) 22:59:54
「……俺こそごめん」
「…え?」
ハッと顔をあげると、申し訳ない顔の
いつものとぼけたような顔が見えた。
「…俺、お前の事分かってるつもりだった
でも…そんなつもりだったのに
俺、お前が嫌な事言ったゃった。
…………ごめん」
「…アンタは悪くないよ…
アタシが勝手に怒っただけだから…」
「…だけど…」
「………………アタシ、諦めてたんだよ
ウマ娘らしく、堂々と生きるなんて…
…でも、アンタは、堂々と生きて
いいって言ってくれた。
嫌な時は嫌って言っていい、って。
…………すごく、嬉しかった。
自分の事を分かってくれたみたいで。
…でも、私はそんな気持ち蓋をして
アンタに嫌な事を言った…
…酷い奴だって思う。身勝手だと思う。
…許してくれなくったっていい。
改めて言う。
ごめんなさい。」
頭を深々と下げたタイシンを
少年は居づらいような顔で眺めていた。 - 32121/10/09(土) 23:00:21
「…わかった。でも…」
少年の手が首を下げたタイシンの顔に
触れると、そのままあげさせる。
そして、親指で目元の涙を拭き取った。
「こうすれば、もっと堂々と
しているよ?タイシン」
少年の顔には屈託のない笑顔が
浮かんでいた。
出会いの時にも見た、豪快な笑顔。
タイシンの目を、力強い瞳が
射抜いていた。
「………うん………ありがと」
「…もう遅いし、帰らねえ?」
「うん…わかった」
二人は揃って家路に急ぐ。
16時50分。
帰るのにはちょうどよい時間だった。
曲がり角を通り、枇杷が生えた家の
近くを通って近道をする。 - 33121/10/09(土) 23:00:45
「へへ!良かった!
俺、あのあとタイシンが心配でさ。
すげえ探したんだよ!タイシンの事!
タイシンを泣かしたまま
家に帰ったら母ちゃんに
怒られるからな!」
「…じゃあ何?お母さんに怒られたから
今謝ってんの?」
歩いて気持ちが落ち着いてきたタイシンが
少し意地悪な事を言った。
「ち、チゲーよ!
確かに母ちゃんから謝ってこいって
言われたけど、俺だって悪い事
したなって思ってるから…タイシン?」
「………フフ…ッッ…!!」
「な、なんだよ!!
そんなに俺おかしいのかよ!?」
「いや、ごめん…ッ………!
あんたがさ…ッ…さっきさ…ッ…!
涙拭いた時さ…ッ………!」
「…!
いや!あれはただなんとなく…!」
「似合わないなぁーッて…ブフッ!!」
「カッコつけみたいにゆうなよ!
つうかお前だって!
さっき俺が見つからなくて
ピーピー泣いてたじゃん!」 - 34121/10/09(土) 23:02:35
「ハァ?アタシピーピーなんて泣いてないけど?」
「お前どの面下げて言ってんだよ!
言っとくけどお前今
目真っ赤だからな!?」
「ハァ!?
あんたのあの告白みたいな奴だって
人の事言えないからな!」
「お前…!人が親切にしてやれば…!」
「…ありがとね、友達になってくれて」
「…え?」
「…じゃ、アタシ家こっからだから
じゃあね、お・う・じ・さ・ま!」
「あ!お前最後にバ鹿にしてったな!
クッソ、明日も来いよ!」
バ鹿な事を言い合いながら家に帰る。
今までは出来なかった事だ。
縁もないと思っていた。
だが、今は違う。
アイツがいる。
バ鹿で、真っ直ぐなアイツが。
『…心配して損した…』
「………フフッ…」
あと半年を退屈せずに過ごせそうだ。
タイシンは口元を緩ませた。
トレセン学園の門を
なんとなく意識し始めていた。
次は明日の昼頃に挙げます。
たぶん次で最後…かも
ここまでの感想頂けると助かります。 - 35121/10/10(日) 10:31:44
続きです。
「アタシ、トレセン学園に行くから」
11月中頃。
風が冷たさを含みはじめた秋の暮れに
タイシンは少年に告げた。
名門、トレセン学園。
審査を勝ち抜いたウマ娘達が
全国から集まる、日本有数の学園。
ウマ娘達憧れの場所。
ブランコに並んで座った少年は
まんじりともせず聞いていた。
「…やっぱり、アタシ諦めたくない…!
絶対に入学してバ鹿にしてきた奴らの
鼻を明かしてやる!」
タイシンの決意は硬い。
石にかじりついてでも
入学するつもりだったのだ。
暫く黙って聞いていた少年は
後ろ頭に手をやりながら
「お前もかよ…」
そう、ポツリと呟いた。
「…アンタもどっか行くの?」
タイシンが隣の少年の方に向き直る。
少年はバツが悪そうな顔で告げた。
「…前出た大会でさ。スカウト受けた」
小学生最後に出た大会で
少年は無名ながら表彰台に乗ったのだ。
それを見た強豪からのスカウト。
少年はそれに応じるつもりでいた。 - 36121/10/10(日) 10:32:46
「…どこの中学?」
「同じだよ。東京。
あとそこ中高一貫だから
中学っつうか中等部になる。
……レースの時なら挨拶出来るか?」
少年は、離れたあとも
まだ友人として出来るだけ
一緒にいるつもりでいた。
「ねぇ、アタシ思うんだけどさ…
もしアタシが入学出来たら、さ…
連絡取らないでおかない?」
しかし、タイシンの考えは逆だった。
「…え?なんで?」
「…連絡取ったらさ。
頼っちゃいそうじゃん。お互いに
…だから、お互い成果が出るまで
連絡は取らないでおこうかなって…」
少年は再度無言になった。
7ヵ月もの間ほぼ毎日顔を合わせた存在が
いなくなる上に連絡も取れなくなるというのだ。
彼は、タイシンの意見に賛同しかねていたのだ。
「…タイシンはいいのか?
向こうで友達作れるか?」
「今だってアンタぐらいしか
いないんだから友達居なくたって
どうにかなるよ」
「…そうスカ………だったら…………」 - 37121/10/10(日) 10:33:28
「だったら?」
「…俺が行く学校の近くに
デカイショッピングモールが
あるんだけどさ。
6年後の4月…俺達が会った日の12時に
そこで会わない?」
「…それならいいけど。
…遅れて来んなよ?」
「当たり前だろ?俺が提案したんだから」
少年はタイシンの顔を見てニヤリと笑う。
そして一言、元気を込めてこう言った。
「<約束>だからな?」
「……うん」
拳を互いに合わせ、二人は目標の成就を
誓った。
二人の、長い闘いが始まった。
- 38121/10/10(日) 10:33:49
それから、二人は公園に行く事もなく
互いの目標の為の努力を開始した。
来る日も来る日も、体力作りと試験勉強に
明け暮れた。
そして3月。タイシンの入学が決まる日。
「……受かってる…受かってるよ!タイシン」
学園から届いた資料には
合格の二文字が刻まれていた。
タイシンは、今まで見せた事もないほど
喜び、公園でその事を少年に伝えた。
「おぉ!良かったじゃん!
俺も推薦入試合格したぞ!」
肌寒い2月の下旬だったものの
二人の心は、暖かかった。
4月。タイシンは東京にいた。
桜が咲き乱れ、自分と同じ耳をした少女達が
そこかしこに歩いている。
ここで、一番速いウマ娘になる。
そして、絶対に<約束>を果たす。
入学する校門の前で、タイシンは
決意を新たにする。
小さい体の一歩は、想像以上に
大きく踏みこまれた。
後にBMWの一人になるナリタタイシンの物語。
その始まりの一歩だった。
完
- 39121/10/10(日) 10:34:23
受けが良かったら後日談書きます
- 40二次元好きの匿名さん21/10/10(日) 11:44:08
おつ!続きも期待してるぞ!
- 41121/10/10(日) 18:52:15
続きです。これ投げた後少し時間開きます。
「ねえねえ!
向こうに新しいお店出来てたから
行こうよー!」
休日の朝9時
食堂でハヤヒデと話している時に
チケットからそう言われた。
「あぁ、いいじゃないか。
今日は休息を取るつもりだったしな。
私は行くがタイシンはどうだ?」
「…ごめん。
アタシ今日用事あるからパス。」
「えぇ!?どういう用事!?」
「…友達と会うんだよ。
今日会おうって言われてさ」
「…うーん…一緒に行きたかったのにぃ…」
「まあまあ
タイシンにとって大切な事なら
そちらの方を優先するべきだからな」
「…分かった…タイシン!!」 - 42121/10/10(日) 18:52:40
「何?」
「用事終わったら来てよ!
場所は後で言うから!!」
「…分かったよ。後でね」
「わーい!ありがとう!タイシィン!」
「あぁもう!うるさいよチケット!」
『友達…でいいんだよね』
二人して喜ぶチケットとハヤヒデを見て
タイシンは思い出した。
あの日の少し心配気味なアイツの顔を。
『…早めに出よっかな』
準備はもうしてある。
おしゃれ目な服。
チケットとハヤヒデが写った写真。
携帯と財布。
そして、思い出話。
それだけあれば何も要らなかった。
『…遅れて来たら蹴ってやろ』
内心ニヤつきながら
頼んだ朝ご飯を食べきり
二人に挨拶をして部屋に戻る。
10時になったら、出発だ。 - 43121/10/10(日) 18:53:06
『…早く着きすぎたかな』
昼11時00分。
アイツが入学した学園の近くにある
ショッピングモールに着いた。
休日だけあって人混みはまあまあある。
『…集まる場所くらい
決めとけば良かったかな…』
入り口の近くのベンチに座りながら
軽く後悔していた。
ショッピングモールが相当に広いからだ。
人混みの事も考えれば
さがしだすのは大変になるだろう。
『…まあ、アイツの見た目なら
一発で見つかるだろ』
だが、タイシンは心配していなかった。
丸々とした巨体の少年。
柔道をしているともなれば
体は確実に当時より大きいだろう。
それだけ分かれば
見分ける事くらいはたぶん出来る。
タイシンはそう考えていた。 - 44121/10/10(日) 18:53:36
ちょっと空けます
- 45121/10/10(日) 22:32:43
続きです
『…全然見つからない…』
昼11時55分。
件の少年らしい青年が
一向に見つからない。
『…どうしよう…』
広場。
イートインスペース。
食材売り場。
駐車場のベンチ。
至る所を探したのに、アイツらしい男の
影は見つからない。
『…まさか……』
来てないのではないか。
自分の事など
忘れてしまったのではないか。
タイシンは広場のベンチに座り込んだ。
背中に嫌な汗が流れ始める。
アイツの事を、友達を疑いたくない。
だが、もう59分だ。
約束の時間まで後一分。
来ない可能性を信じたくないのに
ふつふつと、嫌でも分かって来る。
自分が忘れられた。
『…そう…まあ、そんなもんだよ、ね…』
目が潤み出す。
あの時の様に泣き出す前に
トイレに行こうとした。 - 46121/10/10(日) 22:33:06
「<お前、こんな所でなにしてんだ?>」
「………<あんたには関係ないでしょ>…」
12:00ちょうどだった。
ニヤケ面でいるのが手に取れるような。
そんな声が聞こえたのだ。
「よぅ。久しぶり」
「…丁度で来る?フツー」
「お前がどこにいるか分からなくて
少し探してたんだよ。
ワリイな。ギリギリで」
「…覚えてたんだ」
「言ったろ?俺の提案って」
「…フフ…そうだったね」
体つきは見違える様にしまっていた。
背丈も180cmはありそうだ。
そんな大きくなった体ではあっても
顔つきはあの時のとぼけたような
顔立ちそのままで
間の抜けた笑顔も健在ようだった。
「…どうする?
近くのコーヒー飲める所で話す?」
「奢ろうか?」
「やめてよ。
そんなのかっこつかないじゃん」
「なに一丁前な事言ってんの?
こんなでもアタシ
わりと稼げているんだから。
奢られればいいじゃん」
「…んじゃ、そうする」
- 47121/10/10(日) 22:33:33
二人で話をしながらコーヒーショップを
目指す。
互いの学園の暮らし。
互いの友達。
互いの成果。
コーヒーショップについても
思い出話が尽きる事は無い。
勉強はどうか。
レースや柔道はどうか。
近しい大会はいつか。
時間が過ぎるのはあっという間だった。
「…それでその後輩が…」
「…待て。もう15時じゃねえか?」
「あーそうっぽいね」
「…俺16時から練習でさぁ…
そろそろお開きにしねぇか?」
「…そ。なら解散しよっか」
「だな…タイシン?」
「……何?」
「URA、勝てよ」
「…!…アンタこそ
…インターハイ、勝てよ」
「ったりまえだろ」
「こっちこそ
…ライブ行けそう?」
「死んでも行くよ」
「そう…そんじゃ、ライブでね」
「おう、じゃあな」
最後の言葉は
力強く、はっきりした言葉だった。 - 48121/10/10(日) 22:35:16
かつての柔道少年が帰って行くのを見届けて
タイシンは強く思った。
『…負けられない』
と。
コーヒーショップにいた人は
少しずつ多くなっている。
休憩を挟んでまたショッピングをするのだろう。
『…お土産くらいは買っておこ…?!』
コーヒーショップの脇の植え込み。
そのうちの手前の一つから
白い髪がはみ出ているのが見えたのだ。
(ハヤヒデ!もう少し詰めてよ!)
(これが限界だぞチケット)
(もう!ハヤヒデの髪が
はみ出ているじゃん!)
(私の頭が大きい風な言い方は
止めてくれないか?)
「…ねえ」
「ど、どうしたのー…?タイシン?」
「なんでいんの?」
「…チケットと一緒に
タイシンが心配だから見に行こうと思ってな。
朝から様子が変だったものだから…」
「…二人とも後でゲームに付き合ってよ?」
「…ごめんなさい」
「すまなかった」
「…アイツはさ、全然悪い奴じゃ無いから。
心配しなくていい」
「…じゃあどういう人なの?」 - 49121/10/10(日) 22:37:43
「…バ鹿で、いちいち声がでかくて
短気で、おっちょこちょいで…」
「…最高にいい奴な、私の友達」
完
これにて完結です。
ヒト娘Bちゃんとかのスレを見て
タイシンに一人くらい
いい奴な友人がいてもいいのではと
思って作りました。 - 50二次元好きの匿名さん21/10/10(日) 22:42:49
浄化されたわ(語彙力皆無)