- 1二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 16:18:56
「すっげー強いのに、なんでデビューしないんだ?」
さんさんと照る太陽の距離が一段と近く感じる真夏の昼間、ビコーペガサスはヒシアケボノに向けてそんなことを話していた
「う〜ん、なんでだろうね〜?」
確かにそのとおり、今までの模擬レースでもしっかりと走りきったボーノには何人ものトレーナーたちが声をかけていたのだ
しかし、ボーノはそれをやんわりと断っていた
「まぁ急がなくていいと思うぞ!ボーノはどっしり構えるのが似合ってるからなー!」
ボーノはわがままな方ではない、デビューへの意欲もよく教室で聞いている
それなのに、トレーナーどのお話を終えると「う〜ん、なんだかボーノじゃないんだー」と少し寂しそうに断りの連絡を入れていたのだった
ビコーにとってはそれが不思議でならなかったが、しっかりした友人に何かしらの考えがあるのならば、それはきっと正しい考えなのだろうと飲み込むことにしていた。
─────────
「そろそろ、決めないとだよねぇ」
トレーニングを終えた夜の寮、ベットに腰掛けてふと独りごちる
彼女の懸念は正しい。トレーナーから声を掛けられて断るウマ娘は少ないからだ
トレーナーからスカウトを受けると簡単な質問を2つ3つしてみるのだ
・トレーナーさんは晩ごはんは何が食べたい?
・トレーナーさんはどんなとき笑顔になる?
そのどれも、否定されるか凍りついた表情で相づちを打たれるだけだった。お互いプライベートには踏み込まない関係性を望んでいる人がほとんどだった
また、大人はそう簡単には笑わないのだと言うことも知った。お相撲さんたちがプロとして人を笑顔にさせているのは凄いことだと改めて感心した
合わせてくれる人もいた、美味しいと言ってくれる人もいた。だがボーノがまた次作ってくると今度は遠慮するようになってしまった。不幸にしている。と感じた。
なにより無理して相手に付き合わせてしまうことが彼女にとっては耐えられなかった
大人って難しい、ボーノの等身大の気持ちを受け止めてくれる人はなかなかいないのだ
パワフル少女の小さな悩みは、今日も大きな鍋とともにかき混ぜられ煮詰められているのだった - 2二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 16:27:46
可愛い絵だね♡
- 3二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 16:31:32
幸せに正直なのはいいことだよな
- 4二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 16:32:48
私はいつもボーノの供給を願う何某
ありがてえありがてえ……
こういう前日譚もあっていいよねって - 5二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 16:34:59
素直に好意を受け取って幸せを感じとれるのも才能なんやな
- 6二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 16:36:17
こう見るとある意味女帝と真逆な訳か。女帝は少なくともスカウト受ける前はトレーナーはレースを走る上でのパートナーなだけって認識で、プライベートに干渉して欲しくないって考えだったし
- 7二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 17:33:52
(もうすぐ、また模擬レースだねぇ)
ヒシアケボノはレースが近づくと、とあるルーティンを取るくせがあった
自分のコンディションを整えていくように、食材を自分で調達して料理を作るのだ
「今日は海鮮ちゃんこ鍋でも作ろうかなぁ〜」
勝負にしっかり腰を据えようとしていたヒシアケボノは仲の良い漁協に許可を取り、とても良い昆布を得るために島に来ていた。
海に潜る準備体操として砂浜をゆっくり歩いていたところ、奇妙なものを見つけた。黒い塊、スーツ姿の…大人?
「ここまでか……」
倒れ込んで独り言を呟く大人は、どうやら遭難者のようだった。
「わわっ!大変〜!」
ひどく痩せこけたその大人はぐでっと砂浜に倒れ込んで動かなくなったので、急いで介抱することを決めた
大人一人を抱えて砂浜を超えるのは大変だが、ボーノにとっては朝飯前なのだ、ちょうど今の時間帯のように。
かたかたと手際よく水と消化にいいものを用意する。
「えっ……女神……?」
「ふふっ、違うよ〜!まずはお水をどうぞー」
意識を取り戻した大の大人が開口一番急に何を言い出すかと思い、少し吹き出してしまった。
水筒から水を渡すと、勢いよくその大人は飲み始め、むせる
ボーノはその背中をゆっくりとなでながら、飲み終わるのを待っていた
「もう駄目かと思った……!美味しい……美味しい……!」
「ふふふっ、いっぱい作るから、ゆっくり食べてね〜」
その大人があんまりにも美味しそうに味噌汁をすするので、ボーノはなんだかとても嬉しい気持ちになった。
(あ、こういう気持ち、最近忘れてたなぁ……)
作った料理が人に断られることは、ボーノにとって少なくないストレスだったが、目の前の人が幸せそうにボーノの作る料理を食べるさまをみて、胸の奥でじわじわと温かい気持ちが膨らんでいくようだった
(あたしは、こんな人にトレーナーさんになってほしかったんだなぁ)
美味い美味いと目の色を変えて頬張る姿を見ていると、自分がなぜトレーナーさんたちを断ってきたのかの理由が、自分の中で鮮明になっていくのを感じていた