大体一年たったのでSSをリメイクしました

  • 1二次元好きの匿名さん22/08/16(火) 22:26:53
  • 2二次元好きの匿名さん22/08/16(火) 22:27:30

    「ありがとう、トレーナー」
    桃色の髪を揺らし彼女は笑う。
    限界まで潤った瞳から涙はこぼさずに、彼女は微笑む。
    そんな彼女を見て俺は大人気もなく声を上げて泣く。
    「不甲斐ないトレーナーですまなかった⋯⋯」
    最後の最後まで勝たせてやれなかった、あと少し俺の力が有れば、子供の言い訳の様に言葉を紡ぎ泣きじゃくる俺に彼女は小さな手を頭に置いた。
    「そんな事はないよ、わたし、トレーナーが担当してくれて本当に良かった。」
    だからね、と俺の頭を優しく撫でる。
    小さな温もりはまるで春の木漏れ日の様に暖かかった。
    「ありがとうトレーナー⋯⋯ばいばい⋯⋯」
    手を離し彼女は去っていく、伸ばした手は届かずに空を掴み彼女の影は遠くなっていく。

    そこで目覚ましの音が響き飛び起きる、久々に彼女の夢を見た。
    体は汗でびっしょりだった、顔を触れると汗だけではなく涙も流していたらしい。
    「夢見て泣くとかガキかよ⋯⋯」
    悪態をつきながらシャワーを浴びる。
    あの最後のレースからもう3年、自分はチームを持ったしすっかりと中堅トレーナーだ。
    「何やってるのかな、アイツ」
    夢で久しぶりに見た、初めての担当ウマ娘の彼女の顔を思い出していた。
    「っと、遅刻する!」
    急ぎで準備を済ませて家を出る。
    外に出ると肌寒くヒヤリとした風は肌を刺した。

  • 3二次元好きの匿名さん22/08/16(火) 22:28:16

    「よし、全員集合!」
    トレーニングを止めてミーティングを始める、勝ち星を上げられそうなレースへの出走をメンバーに告げ、彼女たちが目指す目標へ出走できるように予定を伝える。
    「後は解散、水分をよく取って体を冷やさないようにしろよ」
    「は〜い!」
    バラバラと解散していくメンバーの中で一人残り何か聞きたそうにする子がいた。
    「どうした、何かあったのか?」
    「あの〜⋯⋯トレーニングに関係ない事なんですけど〜⋯⋯」
    「別にそこまでかしこまらなくて良いぞ、なんだ?」
    ウマ娘でアスリートと言っても女学生だから色々悩みはあるだろう、中には厳しく私語厳禁にしたり、そう言う事はスクールカウンセラーに任せるチームもあるだろうが、自分は出来るだけ聞いてあげたい。
    「トレーナーって、あのハルウララさん担当してたって本当ですか!?」
    それは、あまり予想していなかった質問だった。
    「あ⋯⋯ああ、そうだよ」
    「あの!ファンだったんです、ずっと!」
    その子はありったけの思いを俺にぶつけると満足したように寮に戻っていった。

    ハルウララ、俺がトレーナーになって初めて担当になったウマ娘。
    勝ちには恵まれなかったが類稀なる頑強な脚と、負けても挫けずに笑い続けるその姿は見る者を勇気付けてくれた。
    大量のレース、無理な出走も二人で駆け抜けた。
    『勇気を貰えるウマ娘』と雑誌で書かれた事もあったが、彼女にの笑顔に一番勇気を貰っていたのは自分だった⋯⋯今はそう感じる。
    ファンの教え子に色々聞かれて思い出に浸りながら片付けをしていると後ろから声を掛けられる。
    「あの、少しよろしいですか?」
    振り返るといつの間にか、たづなさんがそこにいた。
    「あぁ、すいません少しボーッとしていました、なにか御用ですか?」
    「トレーナーさんにお客様が来ていますよ、トレーナー室にお通しして頂きましたので向かってあげてください」
    それだけ言うとたづなさんはペコリと頭を下げて学園の方へ戻っていった。
    「客か、誰だろうか」
    トレーニング用具を急いで片付けて俺はトレーナー室へと走って向かった。

  • 4二次元好きの匿名さん22/08/16(火) 22:29:01

    「すいませんお待たせしました」
    謝りながらトレーナー室の扉を開ける。
    「まだトレーナーが道具の片付けまでやってるんですね」
    読んでいた本を閉じて微笑むその女性の長く伸びた桃色の髪は、陽の光を受けて輝いた。
    「あの⋯⋯え?」
    言葉に詰まる、今日ずっと頭の中に居たその人物がそこにはいた。
    「あれ、もしかしてトレーナーわたしの事分からない?⋯⋯⋯⋯う、うっらら〜!」
    「ウ⋯⋯ウララ⋯⋯?」
    「酷い!長い間一緒にいた担当ウマ娘を忘れるだなんて⋯⋯!」
    大袈裟な言い方をし、彼女はよよよと顔を覆う。
    「す、すまん、綺麗になったから見惚れてしまったよ」
    慌てふためく俺をちらりと指の隙間から見て、今度は彼女はケラケラと笑う。
    「本当に、綺麗になったかな?」
    「うん、凄く綺麗だよ」
    本当に、と続ける。
    初めて出会った時は幼い少女だったハルウララは見違える様に成長していた。
    「えへへ、よかった〜」
    気が抜けたのか、敬語が抜けたウララは大人びた顔つきの中に昔の面影が滲みだした。
    変わらないポニーテールも落ち着いた印象を出しており思わずその姿に見惚れてしまう、教え子であった故にまるで自分の子供の様に感じていたが、こうやって出会ってしまうと少しドキドキする。
    「そういえば今日はどうしてここに?」
    間を持たせる為に話題を変える、純粋に疑問でもあったので丁度いい。
    「わたしね、今先生目指してるんだ」
    「ほう、先生⋯⋯」
    「そう、それで卒業とか実地研修とかはまだなんだけど、どうしても雰囲気に触れてみたくてダメ元で理事長さんに聞いたら『承諾!元生徒の君なら歓迎だ!』なんて即決してくれて、わたしの学校にも手を回してくれたみたいであれよあれよと⋯⋯」
    ウララは物真似を挟みながら大振りなジェスチャーで話す。
    「今日は下見、久しぶりにトレセン学園の空気を吸いたいのと⋯⋯」
    段々と声が小さくなりチラリとコチラを見た。

    「ねえ!学校の中一緒に歩かない?」

  • 5二次元好きの匿名さん22/08/16(火) 22:30:43

    自分の話を途中で切り上げてウララは提案した。
    少し疑問はあったが、俺たちはトレーナー室を出て学園を歩き始めた。
    「あまり変わってないね〜」
    「数年じゃあな、多分他のトレーナーも知ってる人とか居るんじゃないか?」
    他愛のない思い出話に花を咲かせながら長いトレセン学園の校舎を歩く。
    途中にウララの事を知っている先生やトレーナーに出会い話を積もらせる。
    気がつけばよく一緒にトレーニングをしたダートの練習場までたどり着いていた。
    「そういえば高知でのイベント成功させたらしいじゃないか?」
    「あれは⋯⋯故郷のみんなのおかげ、わたしだけじゃどうにもならなかなった⋯⋯」
    少し俯き呟く、俺には分からない所で沢山の苦労をしたのだろう。
    学生時代には見せなかった影がその苦労を物語っていた。

  • 6二次元好きの匿名さん22/08/16(火) 22:31:06

    「少し走ってみるか?」
    「えっ?」
    彼女はキョトンとした顔でこちらをみる。
    「っていうか俺が走って欲しいだけなんだけどな」
    ウララの一番のファンは俺だからと言いかけて辞めておく。
    「でも、スーツだし汚れちゃうよ」
    「あ、そうだよな⋯⋯クリーニング代出すからって言うのは⋯⋯」
    と言っている間にウララは軽く足の裾を捲り上着を俺に渡してきた。
    「クリーニング代、お願いね!」
    軽い体操をした後コースのスタート位置にたつウララ、その姿に不思議と昔の姿を重ねた。
    スタートの合図を出す。
    舞い立つ砂埃と共に桜色の髪が夕暮れの空に靡いてゆく。
    「ふぃ〜⋯⋯久しぶりにコース走った〜⋯⋯」
    一週走り切ったウララは汗を腕で拭いながら戻ってきた。
    「久しぶりのわたしの走り、どうだった?」
    「変わってなくて良かったよ」
    走っている時の表情、キラキラしたあの笑顔が変わってない事を見てホッとする。
    「も〜変わってないって褒め言葉?」
    「褒めてるよ、物凄く褒めてる」
    靴に入った砂を出しながらウララは訪ねた。
    「現役の時よりは走れなくなってるよね」
    「それはしょうがないだろ、走る練習もしばらくしてないだろ?」
    「それもそっか」

  • 7二次元好きの匿名さん22/08/16(火) 22:32:11

    暫く沈黙が訪れた。
    ウララの息を整える息遣いだけが聞こえる。
    「ねぇトレーナー、最後のレース覚えてる?」
    沈黙を破りウララが出した話題。
    それは今朝の夢で見たウララとの最後のレースの話だった。
    「忘れた事はないよ」
    あの時、ウララの調整は完璧だった。
    引退試合ではあったがウララの現役で最高のコンディションだったと今思い出しても言い切れる。
    だからこそ、だからこそあの敗北は自分の不甲斐なさがあったものだった。
    「あの時、本当はね、勝ってトレーナーに言いたい事があったんだ」

  • 8二次元好きの匿名さん22/08/16(火) 22:33:13

    「言いたい事?」
    「⋯⋯なんて今言ってもしょうがないしね、わたしそろそろ帰るから理事長さんの所に行ってくる!」
    踵を返し校舎に向かうその姿が今朝の夢と重なる。
    ここで手を伸ばさなかったら一生彼女に会えない、そんな気がして。
    「ウララ!今からレースだ」
    なんてよく分からない事を口走る。
    「え?」
    ウララはキョトンとした顔で振り返る。
    「トレーナー室まで俺とレースだ!」
    言い切る前から自分は走り出した。
    なんで俺はこんな事をしているのか、それは分からないが後ろからウララが追いかけて来てくれているのを感じて少し笑った。
    結果は校舎に入る前から抜かされる、相手はウマ娘だし当たり前だ。
    全力で走る俺の前で余裕そうに振り返るウララを見ながらトレーナー室に転がり込んだ。
    床に転がり息を切らす俺をウララは心配そうに見下ろす。
    「急にどうしたのトレーナー⋯?」

  • 9二次元好きの匿名さん22/08/16(火) 22:34:03

    息を整えながら俺は今日のウララを思い返していた。
    コースを楽しそうに走る姿、俺の前を走り続ける姿、その姿を見て吹っ切れる。
    担当だから、娘に見えるから、教え子だから、そんなの全て言い訳だった。
    「ウララ、一着だな」
    倒れながら人差し指を立てて笑う。
    ウララの驚いた顔が段々とくしゃくしゃになり⋯⋯その頬に一雫の涙が落ちる。
    「なんで⋯⋯ずるいよそんなの」
    ポロポロと溢れる涙が俺の上に落ちる。
    それはレースに負けても決して見せなかった彼女の涙。
    「ずっとずっと好きだったの⋯⋯」
    絞り出すように出した彼女の告白を起き上がり聞く。
    「ずっとわたしを見てくれたトレーナーの事が⋯⋯ずっとずっとわたしの為に頑張ってた背中が⋯⋯好き⋯⋯!!」
    告白の言葉を紡ぎながら溢れ続ける涙を拭う。
    気がつくとそんな彼女を俺は抱きしめる。
    それは俺なりの答え。
    「ありがとう」
    絞り出した俺の告白。
    「俺もウララが好きだ、ファンとしてでも担当としてでもなくて⋯⋯」
    「走る姿が好きだ、楽しそうな笑顔が好きだ、何事も一生懸命な姿が好きだ。」
    「俺もハルウララが好きだ。」
    抱きしめながら静かに言い切る。
    細い体は静かに震えトレーナー室には彼女の泣き声だけが響いた。

    お互いの何年にも想い続けた気持ちは一つになった。

  • 10二次元好きの匿名さん22/08/16(火) 22:34:21

    「目、真っ赤だから理事長さんに疑われちゃうかもね。」
    「お互い真っ赤だし久々に会ったから泣いちゃったとでも言えばいい。」
    手を繋いでトレーナー室を後にする。
    「これからは一緒なんだし隠す必要もないしな。」
    空いた窓から吹いた風は仄かに暖かく、春の訪れはもうすぐな事を知らせてくれた。

    うららかな春はもうすぐだ。

  • 11二次元好きの匿名さん22/08/16(火) 22:36:04

    最後まで書きたかったけどまだ書き切れてないのでここまでになります

  • 12二次元好きの匿名さん22/08/16(火) 22:40:52

    前のも好きだけどリメイクありがとう。ありがとう!!楽しみに待ってる!!

  • 13二次元好きの匿名さん22/08/16(火) 22:41:11

    すき

  • 14二次元好きの匿名さん22/08/16(火) 23:40:57

    なつかしい

  • 15二次元好きの匿名さん22/08/17(水) 08:25:15

    保守

  • 16二次元好きの匿名さん22/08/17(水) 08:28:37

    あぁ、懐かしいな…やっぱりいいな…

  • 17二次元好きの匿名さん22/08/17(水) 08:46:27

    リメイクか
    自分もやってみるか

  • 18二次元好きの匿名さん22/08/17(水) 19:34:21

    久しぶりに前のも読んだわやっぱり良いなぁこれ

  • 19二次元好きの匿名さん22/08/18(木) 01:22:32

    保守

オススメ

このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています