「ビート選手、優勝おめでとうございます!」

  • 1二次元好きの匿名さん22/08/17(水) 17:49:21

    「ついに優勝されましたね!ご感想は!」

    カメラのフラッシュが絶え間なく閃いて、マクロコスモスのスポンサーボードに新しいチャンピオンの影が落ちる。
    祝福を受ける新チャンピオンの顔には、しかし不機嫌さが―――彼がまだジムチャレンジャーだった頃のような不機嫌さが―――ありありと浮かんでいた。

  • 2二次元好きの匿名さん22/08/17(水) 17:49:35

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  • 3二次元好きの匿名さん22/08/17(水) 17:49:51

    「こういう場合無理に喜んで笑顔でも見せるべきなのでしょうが」

    前置きして、ビートは話し始める。

    「僕は納得が行きません!
     チャンピオンを辞退します!
     こんな形での優勝なんて意味がない!」

    聴衆にどよめきが走り、そしてまた眩いばかりにフラッシュが焚かれた。

    「皆さんもご存知の通り、
     チャンピオンのユウリさんは、これまで圧倒な強さで挑戦者を下し続けてきました!
     その彼女を抜きに争った所で意味なんてありません!恐らく他の誰が優勝しても同じ事を言ったでしょう!
     この大会に参加した全員がチャンピオンを下すための秘策を用意していたというのに、そのチャンピオンが不参加で残った者だけで勝手に次のチャンピオンを決めてくれだなんて、失礼にも程があります!
     そもそも今回のトーナメント表は僕に有利すぎた!こんなの偶然です!」

    日頃パフォーマンスで見せるものとは違う激しい怒りに、いつの間にかスタジアムは静まり返っている。
    静寂を裂くのは幾人かの職務に忠実な記者がシャッターを切る音だけだった。

    「チャンピオン、僕はあなたに話します!
     僕の求めている優勝とはあなたを倒した上での優勝です!そうでなければ意味がない!
     こんな形での優勝では満足できません!早く帰ってきてください!」

  • 4二次元好きの匿名さん22/08/17(水) 17:50:35



    結局決勝は見る事ができなかった。
    だけどニュースを見ると優勝したのはビートだったようで、意外さと嬉しさと、それに安心とで笑みがこぼれる。
    元々彼の力はかなりのものだったし、特に今回の大会での勢いには目を見張るものがあったけど、それにしてもきちんと勝ち切るとは成長したものだ。
    インタビューでの彼は喜ぶどころかチャンピオンが不参加であるという非礼について強く糾弾していて、まったく耳が痛かった。
    何しろ変わらない奴だ。いつになっても妙に生真面目で生意気で…いや変わったかな。
    薬のせいで考えるのが億劫で、私はその答えを出す気になれなかった。
    スマホロトムの電源を落とすと枕の横に放って、そして目を閉じる。

  • 5二次元好きの匿名さん22/08/17(水) 17:51:07

    ユウリさんは、以前の見た時とは比較にならない位やせ細っていた。
    いつまでたっても子供っぽいと言われていた顔は何歳も年を取ったように見えて、
    憎々しいくらい健康的だった体は骨ばって頼りない。
    衝撃を受ける僕を彼女はどうしてか微笑みながら見ていた。
    何が面白いというのか、いや違う、

    「…いつからですか」

    自分の声が震えているのが分かる。
    問いながら、けれど僕はその答えを察していた。

    「ちょっと前かな、前の大会…スタートーナメントの後…ちょっと立ちくらみがしただけだと思ったんだけど」

    そうだ、そうに違いない。怠惰さとか多忙さとか理由をつけて模擬戦を断るようになった頃。
    近づいてみると彼女の姿はますます酷かった。白い光の中でその血色の悪さはグロテスクなほどだ。

  • 6二次元好きの匿名さん22/08/17(水) 17:51:28

    「どうしてです、何の病気ですか?」

    これも想像はついている。

    「色々心当たりはあるんだけどね、どれなのかと言われると…」

    色々。そうだ、そうだろう。
    ムゲンダイナ、古代の英雄、豊穣の王、伝説の鳥、巨人…。
    模擬戦を挑んだ時や大会の後のちょっとした時間、たまに彼女は秘密だと言って手にした珍しいポケモンの由来を話してくれた。
    彼女だけが立ち入る事を許された領域、途方もない冒険。
    そのどれかが、ただの人間でしかない彼女の身に悪く作用したのだろう。
    違う、想像の付くことを聞いてどうする。

    「いいえ、それよりも」

    聞くべきことはそれじゃない。

    「治るんでしょうね。
     いつまで…」

    僕はその先の言葉を選ぶ事ができなかった。
    ”いつまで席を空ける?”それとも、”いつまで生きていられる?”

    「ああ、うん、それだけど、ごめん」

    面白そうに僕を見ていた視線が、下を向く。

    「わからない。全然」

    そう言って、ユウリさんは力が抜けたように笑った。

  • 7二次元好きの匿名さん22/08/17(水) 17:51:52



    「わからないって、それは…!」

    手を上げると、彼は言葉を飲み込んだ。
    私が彼と模擬戦を行う、つまり事実上私が彼を指導する時の取り決めで、この仕草には彼の言葉を制止する力が与えられていた。
    昔はこうでもしないと永遠に口論が終わらない事があったのだ。
    彼の感情に流されて忘れてしまうと困る、用意しておいた言葉を言おう。

    「ビート、よかったよ、今日の試合。
     最後までは見れなかったけど…でもおだてじゃなくて本当によかった」

    ビートは何かを言いかけて、しかし行儀よく口を噤んだ。

    「あなたは私を目指していたから、だから私がいなかったらやる気を失くして試合を投げだすんじゃないかなって心配してたんだけど、
     …正直ちょっと、ダンデさんがまた優勝するかなって思ってたんだ。
     でもあなたはさっき言っていたようにきちんと戦い抜いた。
     対戦相手とあの大会に礼を尽くした。
     さっきの大会であなたは誰よりも強かった。
     …口ではああ言っても、もうあなたにはそれがわかってるよね。
     あなたの優勝は偶然じゃないって。
     私がそうじゃないとしても、ビート、あなたはチャンピオンに相応しいよ」

    まるでチャンピオンみたいな、私らしくない立派な言葉。
    自分の声なのに、私の言葉は他人が話しているかのように聞こえた。

  • 8二次元好きの匿名さん22/08/17(水) 17:52:20

    「なんですか、それは」

    彼は拳をぐっと握ったまま、絞り出すように呟いた。

    「ああそうか、ごめん。
     言い忘れてたよ、最初に言おうと思ってたのに」

    私はうまく笑えるだろうか?
    本当はこれを言ってあげる時はもっとずっといいシチュエーションのはずだったけれど。

    「新チャンピオンおめでとう、ビート」

    けれどこればかりは心からの言葉だった。
    蒼白だった彼の顔に怒りが燃え上がる。

    「ふざけるな!!!」

    力強い両手が私の両肩を掴んで、そして一瞬の後に離れた。
    悔しさとも怒りともつかない視線が彼の手に落ち、私の身体に向けられる。

    「っ、…ふ、ふざけないでください!!」

    顔を腕で拭って、それでも歯噛みしながら彼は私をにらみつけた。

  • 9二次元好きの匿名さん22/08/17(水) 17:52:50

    「いいですか、ユウリ!
     僕は認めませんからね!こんな形であなたが王座を退くなんて!
     僕が勝つまであなたはいなくなっちゃいけないんです!
     リーグの都合なんて、僕には、いえ、僕とあなたの勝負には関係ない!
     やるとしたら…、まともに、まともに僕がチャンピオンをやるとしたら、万全のあなたを下した時だけです…!
     あなたは!、あなたが!一番…!あなたは誰よりも、僕よりも強いんだ!!
     だからあなたが、帰ってこなくちゃ…っ…、あなたはリーグに戻らなきゃいけないんです!
     あなたが戻ってくるまで、僕はずっと勝ち続けて、チャンピオンは毎回辞退してやる!」

    言いながら彼は泣き出していた。
    いや、彼だけではない。気が付くと私も涙を流している。
    ぐちゃぐちゃの視線が交差する。

    「僕は、勝ち逃げなんて、ぼくは、許しませんからね…!」

    勝ち逃げではない。私はもう負けてしまった。
    そして目の前の青年はそれがわからない人間ではない。
    今すぐは無理でもわかってくれるだろう。

    「そうだね、じゃあ、おこぼれ優勝のビートくんには
     私がいない間の穴埋めをお願いしようか。
     私が帰るまで優勝し続けてよ。
     それで、…。
     治ったら…私がまた試合に出られるようになったら、
     また決勝で戦おう?
     こんな最初から王座を拒否するような偏屈より、私の方が強いもんね?
     すぐに取り返してあげるから、それまでその座席を温めといてよ、ずっと」

  • 10二次元好きの匿名さん22/08/17(水) 17:54:08

    なんか受信したので書きました
    ここで怪文書スレ立てるの初めてだったのでなんか失敗があったらゴメン
    imgでやろうと思ったんだけどこっち向きっていうかimg向きじゃないかなって

  • 11二次元好きの匿名さん22/08/17(水) 17:54:54

    このレスは削除されています

  • 12二次元好きの匿名さん22/08/17(水) 17:55:49

    ラスボス完成!!!!!

  • 13二次元好きの匿名さん22/08/17(水) 17:56:54

    乙です
    面白かった

  • 14二次元好きの匿名さん22/08/17(水) 17:57:26

    誰かハッピーエンドに導けるポケモンを連れてこい!

  • 15二次元好きの匿名さん22/08/17(水) 18:00:46

    ソードシールド2のラスボスになるんだよね
    勝手に新設した「チャンピオン代理」の地位にビートくんが5年無敗・5年連続優勝で居座り続けてるせいでガラルはチャンピオンが空位なんだよね

  • 16二次元好きの匿名さん22/08/17(水) 18:01:57

    >>14

    ダークライ!これをうたた寝していたビートにお前が見せた悪夢だったってオチにしろ!

  • 17二次元好きの匿名さん22/08/17(水) 18:02:43

    ううっ、こんななのってないよ…

  • 18二次元好きの匿名さん22/08/17(水) 18:03:22

    >>17

    チャンピオンって重圧もあるけどもっと気持ちよくなるものでしょう!

  • 19二次元好きの匿名さん22/08/17(水) 18:07:09

    面白かった
    ここからガラルのチャンピオン不在期が始まるのか……

  • 20二次元好きの匿名さん22/08/17(水) 18:07:14

    ユウリと争うために他の誰にもチャンピオンの座を渡さずに守り続けて欲しいよね…
    戻って来るはずないのに

  • 21二次元好きの匿名さん22/08/17(水) 18:09:52

    ダサTどこ…、どこ…?

  • 22二次元好きの匿名さん22/08/17(水) 18:12:57

    ユウリが最強だったって信じてるから誰にも負けずチャンピオンの座を自分以外の誰にも渡さない事でそれを示すんだよね
    ダンデさんやポップがなんとか負かして開放してやろうとするけどビートの勢いが凄すぎて倒せないんだ

  • 23二次元好きの匿名さん22/08/17(水) 18:15:30

    ダンデやユウリに並ぶ無敗の最強王者路線だけど場を盛り上げるスター性じゃなくて圧倒的な強さで捻じ伏せるスタイルで恐れられる新チャンピオンになって欲しい

  • 24二次元好きの匿名さん22/08/17(水) 18:18:50

    ビートを倒す新主人公はユウリチャンピオン期のビートのファンであって欲しい

  • 25二次元好きの匿名さん22/08/17(水) 18:27:18

    >>14

    ホウオウ!今すぐ飛んでこい!!

  • 26二次元好きの匿名さん22/08/17(水) 18:32:00

    >>14

    バドレックスが頑張っていい感じの人参育てたら何とかなるかも…?

  • 27二次元好きの匿名さん22/08/17(水) 18:33:45

    自分も泣いちゃってるのに余裕ぶって見せるユウリいいよね…

  • 28二次元好きの匿名さん22/08/17(水) 19:40:42

    なお個人的なお気に入りポイントは激昂してユウリの肩を掴むけどあまりに痩せ細った体がショックで怯む所です

  • 29二次元好きの匿名さん22/08/17(水) 22:03:30

    二次裏仕込みの文章力、最高だぜ
    また受信したら書いてくれ

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