好きな小説の文章を教えて

  • 1二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 14:46:59

    ラノベとかでもなんでもいいよ
    みんなのイチオシを教えて

    人でなしの恋、この世のほかの恋でございます。そのような恋をするものは、一方では、生きた人間では味わうことのできない、悪夢のような、或いはまたおとぎ話のような、不思議な歓楽に魂をしびらせながら、しかしまた一方では、絶え間なき罪の呵責に責められて、どうかしてその地獄を逃れたいと、あせりもがくものでございます。【人でなしの恋 江戸川乱歩】

  • 2二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 14:57:12

    「下人の行方は、誰も知らない。」

  • 3二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 14:58:37

    春が二階から落ちてきた

  • 4二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 15:01:23

    俺は子供じゃなかったのに。
    パウロは俺の親だったのだ。
    【無職転生】

  • 5二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 15:02:39

    たとえば、夜明け前の穏やかで 厳かなひととき。ひとり目ざめて外に立ち、ほの暗い天空を仰ぎ見るうちに、地平から 曙光がさしはじめ、人知の及ばぬ変化が顕れ、やがて東方が呱呱の声を発したかと思われる一瞬を経て、昇りはじめた太陽の不可知にして不変の荘厳に心臓さえ鼓動を忘れる──何万年ものあいだ毎朝くりかえされてきた神秘ではあるが、そんな一瞬、人は永遠の命を確信することがある。
    秘密の花園

  • 6二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 15:03:45

    死してなお、勝利の栄冠に輝かんことを-ダレン・シャン

  • 7二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 15:25:35

    禿男(ボルドマン)・ハゲフラッシュ!!

    ──終わりのクロニクル

  • 8二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 15:54:20

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  • 9二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 16:02:19

    馬は一声嘶きながら、早くも尾を宙に振るう。
    その尾の先をかすめながら、犬は虚しく二郎の脛巾を食いちぎって渦巻く獣の波の中へ真っ逆さまに落ちていった。
    芥川龍之介 偸盗

  • 10二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 16:04:48

    どうか 私の死が 彼女にやさしく伝わりますように
    『BASARA』

  • 11二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 16:07:02

    あのイーハトーヴォのすきとおった風、夏でも底に冷たさをもつ青いそら、うつくしい森で飾られたモリーオ市、郊外のぎらぎらひかる草の波。

    これほんとすき
    透明感すごい

  • 12二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 16:12:36

    夜が来て、朝が来ます。春が来て、秋が来ます。みんな半分ずつです。草が育って、木が枯れて、動物が子供を産んで、それから死んで……土といっしょに生活してると、自然はそういうふうに、半分ずつで成り立っていることが、だんだん判ってきます。ある悪いことが……嵐や土砂崩れなんかが起こった時は、なんだかそういう悪いことがずっと続くような気がしてしまいますけど、ホントはいいことも悪いことも、全部まとめて自然なんだって……生きることなんだって、村ではみんなそう考えてます。
    文豪ストレイドッグス BEAST

  • 13二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 16:17:59

    生きることの前には天文学的な数の選択肢がある。だが、愚かにも最良の選択肢を心得ていると錯覚したおまえに今、死が訪れようとしている。
    おまえは私の恥だ。しかし、死は厳粛だ。それは、おまえがノイズへと帰還する最後の手段。
    さあ、そろそボートが桟橋に着く。ここから”看取る”者をおまえに送ろう。突風のワゴン車で間もなくおまえの元に着く。おまえを看取るのはSayaだ。

    さあ、死.ね。

    【ナーシサス次元から来た人/平沢進】

  • 14二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 16:18:28

    虚構船団の1ページ目

  • 15二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 17:13:34

    式。君を─── 一生、許(はな)さない

  • 16二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 17:19:48

    マシンガン。ピストル。弾倉。ナイフ。それから棒つきキャンディ。シナモンとペパーミントとココナッツのやつを。
    レジの子はわたしを抱擁せんばかりに愛想よい笑みをうかべている。
    「ギャングごっこをなさるんですか?」
    「本物のギャングをやるんです」
    「まあ」
    「ですからレジをうたなくてもいいですよ、強盗するんだから」
    「まあまあ」

    高橋源一郎『さようなら、ギャングたち』

  • 17二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 17:22:06

    二人組の銀行強盗はあまり好ましくない。二人で顔を突き合わせていれば、いずれどちらかが癇癪を起こすに決まっ ている。縁起も悪い。たとえば、ブッチとサンダンスは銃を持った保安官たちに包囲されたし、トムとジェリーは仲が良くても喧嘩 する。

    三人組はそれに比べれば悪くない。三本の矢。文殊の知恵。悪くないが、最適でもない。三角形は安定しているが、逆さにするとアンバランスだ。

    それに、三人乗りの車はあまり見かけない。逃走車に三人乗るのも四人乗るのも同じならば、四人のほうが良い。五人だと窮屈だ。

    というわけで銀行強盗は四人いる。

    伊坂幸太郎『陽気なギャングが地球を回す』

  • 18二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 17:24:04

    桜の樹の下には屍体したいが埋まっている!

    これは信じていいことなんだよ。何故なぜって、桜の花があんなにも見事に咲くなんて信じられないことじゃないか。俺はあの美しさが信じられないので、この二三日不安だった。しかしいま、やっとわかるときが来た。桜の樹の下には屍体が埋まっている。これは信じていいことだ。

    桜の樹の下には
    梶井基次郎

  • 19二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 17:25:11

    「君は寝ているうちに血を吸わされたと怒っているようだけどね、本来その人――名前聞いてないね。なんとか君? のそれは美徳だよ」
    「寝ている女の口に指を突っ込むのが?」
    「困っている人のために些細であれ血を流してあげられる感性が、だよ。たったそれだけのことを世の皆ができるのならば、この刑務所だって半分は空き室のはずさ」

    【吸血鬼に天国はない/周藤蓮】

  • 20二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 17:25:43

    然らずは一殺多生の理に任せ 、御身を斬つて両段となし 、唐津藩当面の不祥を除かむ 。されば今こそは生死断末魔の境ぞ

    『ドグマ・ドグラ』夢野 久作

  • 21二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 17:36:20

    愛は祈りだ。僕は祈る。僕の好きな人たちに皆そろって幸せになってほしい。それぞれの願いを叶えてほしい。温かい場所で、あるいは涼しい場所で、とにかく心地よい場所で、それぞれの好きな人たちに囲まれて楽しく暮らしてほしい。最大の幸福が空から皆に降り注ぐといい。僕は世界中の全ての人たちが好きだ。名前を知ってる人、知らない人、これから知ることになる人、これからも知らずに終わる人、そういう人たちを皆愛している。なぜならうまくすれば僕とそういう人たちはとても仲良くなれるし、そういう可能性があるということで、僕にとっては皆を愛するに十分なのだ。世界の全ての人々、皆の持つ僕との違いなんてもちろん僕は構わない。人は皆違って当然だ。皆の欠点や失策や間違いについてすら僕は別にどうでもいい。何かの偶然で知り合いになれる、ひょっとしたら友達になれる、もしかすると、お互いにとても大事な存在になれる、そういう可能性があるということで、僕は僕以外の人全員のことが好きなのだ。一人一人、知り合えばさらに、個別に愛することができる。僕たちはたまたまお互いのことを知らないけれど、知り合ったら、うまくすれば、もしかすると、さらに深く強く愛し合えるのだ。僕はだから、皆のために祈る。祈りはそのまま、愛なのだ。

    舞城王太郎 『好き好き大好き超愛してる。』

  • 22二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 17:53:05

    噂というのは第三者が適当に語る噓のことじゃないか。当事者が自分達のことを噂するか馬鹿者。林檎は赤くて丸いが、赤くて丸いものは必ずしも林檎じゃないだろうが。林檎だったら林檎と一言云えば済むことなのに、赤いとか丸いとか蔕が付いてるとか、一寸酸っぱいとか、そんなことばかり言われたって林檎だか梅干しだか判らないだろうが!

    京極夏彦「陰摩羅鬼の傷」

  • 23二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 18:57:54

    「脳髄は国家組織だ」と画家は言った「なので突然無政府状態におちいる」。

    トーマス・ベルンハルト『凍』

  • 24二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 19:04:32

    変にくすぐったい気持が街の上の私を微笑ませた。丸善の棚へ黄金色に輝く恐ろしい爆弾を仕掛けて来た奇怪な悪漢が私で、もう十分後にはあの丸善が美術の棚を中心として大爆発をするのだったらどんなにおもしろいだろう。
    私はこの想像を熱心に追求した。「そうしたらあの気詰まりな丸善も粉葉みじんだろう」

    梶井基次郎「檸檬」

  • 25二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 19:10:52

    こんな無情な世界だから
    今 全て伝えておきます
    あなたが今 目の前にいるうちに
    ありがとう
    あなたに会えて良かった
    愛していました
    愛しています
    これからもずっと
    いつか急に会えなくなっても
    確かに愛していたのだと
    ずっと愛しているのだと
    覚えていて欲しい
    それだけが 私の生きてきた証だから
    いつまでも このままでいたいけれど
    それが出来ないことも分かっているから
    今のうちに全て伝えておきます
    ありがとう
    私はあなたを愛していました
    愛しています
    この先どんなひどいことが起きても
    それだけは確かなことだから
    どうか覚えていて下さい
    それだけが私の願いです
    愛しています

    狂気太郎『陰を往く人』

  • 26二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 19:16:53

    “あなたがもう少し早くこのページを開いていたなら、僕はここにいなかったろうし、遅かったなら通り過ぎていたはずだ。だから、あなたが僕を選んだのだということになり逆ではない。まあ、出会頭の衝突が今起こったのだとったあたりか”

    「コルタサル・パス」 円城塔

    ちょうど読み返していたので
    連載のプロローグになる予定だった短編の、書き出しの部分です

  • 27二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 19:24:02

    「その広告を読んで、私は闘争心をかき立てられた。なぜなら私は、幼いころから、オナニーだけにはぜったいの自信を持っていたからだ(まあ、それには、幼いころから、彼女ができなかったという理由もあるのだが……)。
    そんな私に向かって、われこそはと思うオナニーさんなどと、この広告はまるで挑戦状をたたきつけているようなものではないか。
    それに正直、会社が休みの日に、簡単な仕事で一日三万円ももらえるというのはかなりの魅力でもあった。
    その妙な広告は、木曜と金曜の新聞にも掲載された。そして、私のオナニー連盟に応募してやろうという決意は、日増しに強まっていった。
    たとえ全国からどんなオナニー上手の人間が集まろうとも、私はそれらのライバルたちをすべて蹴散らしてみせるぜったいの自信があった。
    いや、もし首尾よくオナニー連盟の末席に名を連ねることができたなら、私は短期間のうちに、強者ぞろいの会員たちと互角以上の戦いをしてみせる自信さえあった。
    そして私はいつの日か、マスター・オブ・オナニーの称号を手にするのだ。
    そう、私こそは、オナニーをするためにこの世に生まれてきた男なのだ。」

    —『六枚のとんかつ (講談社文庫)』蘇部健一著

  • 28二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 19:34:55

    「風が、月水の匂いを吹き送ってくる。──」

    伊賀忍法帖より

  • 29二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 19:41:58

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  • 30二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 19:44:28

    それから、――僕はまだ鮮かにあの女給の言葉を覚えてゐる! 女給は立ち去り難いやうにテエブルへ片手を残したなり、しけじけと谷崎氏の胸を覗きこんだ。
    「まあ、好い色のネクタイをしていらつしやるわねえ。」
    十分の後、僕はテエブルを離れる時に五十銭のティップを渡さうとした。谷崎氏はあらゆる東京人のやうに無用のティップをやることに軽蔑を感ずる一人である。この時も勿論五十銭のティップは谷崎氏の冷笑を免れなかつた。
    「何にも君、世話にはならないぢやないか?」
    僕はこの先輩の冷笑にも羞ぢず、皺だらけの札を女給へ渡した。女給は何も僕等の為に炭酸水を運んだばかりではない。又実に僕の為には赤い襟飾りに関する真理を天下に挙揚してくれたのである。僕はまだこの時の五十銭位誠意のあるティップをやつたことはない。

    「谷崎潤一郎氏」 芥川龍之介

  • 31二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 19:45:15

    私は所詮、商人だ。いやしめられている金銭で、あの人に見事、復讐してやるのだ。
    これが私に一ばんふさわしい復讐の手段だ。ざまあみろ!

    太宰治『駆け込み訴え』

  • 32二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 19:53:45

    ——きょう、ママンが死んだ。
    (冒頭第1行目)

  • 33二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 19:53:46

    僕にはね許せないものがあってね。ワースト三だよ
    料理に入ったパイナップルと、リスクのない暴力と、それから、薫くんをいじめる奴ら、だ

    ↓(次のページ)

    僕が世の中で許せないものはね、料理に入ったパイナップルと、非協力的な大人と、それから『さっきのワースト三と違うじゃないか』って指摘してくる人だよ

    伊坂幸太郎「陽気なギャングが地球を回す」

    とにかく料理に入ったパイナップルはダメらしい

  • 34二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 20:00:18

    けれども幸福は、それをほのかに期待できるだけでも、それは幸福なのでございます。
    太宰治「愛と美について」

  • 35二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 20:11:50

    夏海はそれきり戻ってこなかった。

  • 36二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 20:23:42

    心を絶望が支配して、周囲の世界も何もかもが黒い影に覆われて、とめどなく垂れ流される虚ろな愛の告白が、蹲る人の形をしたゴミの処分に迫ってくる。

     あの中に呑まれれば、消えてなくなれるだろうか。
     死よりも遠い、虚無の中へ沈めてくれるだろうか。誰の目にも届かない、暗黒空間みたいな、そんな都合のいい、何もない場所へ捨ててくれるだろうか。

     そこで、死.ねるなら、俺は――。

     俺は――、
     ナツキ・スバルは、その全てを塗り潰すような、絶望の中へ――、



    「――そこまでよ」


     ――声が、した。

     この世の終わりを否定する、銀鈴を思わせる、声が、した。

    『リゼロ』

  • 37二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 20:26:44

    漁夫達はだんだん内からむくれ上ってくる性慾に悩まされ出してきていた。四カ月も、五カ月も不自然に、この頑丈がんじょうな男達が「女」から離されていた。(中略)
    ――それから、雑夫の方へ「夜這」が始まった。バットをキャラメルに換えて、ポケットに二つ三つ入れると、ハッチを出て行った。
     便所臭い、漬物樽の積まさっている物置を、コックが開けると、薄暗い、ムッとする中から、いきなり横ッ面でもなぐられるように、怒鳴られた。
    「閉めろッ! 今、入ってくると、この野郎、タタキ殺.すぞ!」
    『蟹工船』小林多喜二

  • 38二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 20:27:57

    「ザコを倒していきがるな、鋼鉄番長!我が燃える魂のナイフ術をくらえ!」
    「おお、勝負だ!だが心は燃えても肉体が弱ければ意味がないぞ!」

    歩はそこまで読んで本を閉じた。
    話の流れからして、鋼鉄番長はナイフ番長を見事に倒すのだろう。倒すに違いない。もう勝手にしてくれと言うしかない。

    「スパイラル〜推理の絆〜鋼鉄番長の密室」

    この作品のノリと重要な伏線がバッチリまとめられた名文。

  • 39二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 20:37:16

    だいたい、親というのはえてしてだらしがなくて、なんのかんのいって子供に頼っているものだ。親は子供にいつも嘘ばかりついている。また今度ね。そのうちね。そう言っていつも答を先送りにしている。でも、子供はいつも最後は許してくれるのだ。それは、ただ単に俺たちが親だからだ。俺たちが、日々変化し成長して、見たこともないものに変わっていく子供たちを信じていいのかどうか、いつもくよくよ悩んでいるのに比べ、子供たちはいつも最後のところで必ず親を信じてくれている。その比率は親と子で逆だ。親は 概ね子供を信用しているが、最後のところで信じていない。子供は普段の生活の 細々したところでは親のことを信用していないけれど、最後のところでは信じている。そのボタンの掛け違いが、お互いに不信感を生んでいることになかなか気付かない。

    上と外

  • 40二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 20:37:53

    「神を信じていなくたって、地獄はありますよ」
    アレックスはそう言って、悲しそうに微笑んだ。
    「そうだな、ここはすでに地獄だ」
    ウィリアムズが笑う。 (中略)
    しかし、アレックスはそうじゃないと言って自分の頭を指差した。
    「地獄はここにあります。 頭のなか、脳みそのなかに。大脳皮質の襞のパターンに。目の前の風景は地獄なんかじゃない。 逃れられますからね。目を閉じればそれだけで消えるし、ぼくらはアメリカに帰って普通の生活に戻る。だけど、地獄からは逃れられない。だって、それはこの頭のなかにあるんですから」

    伊藤計劃「虐殺器官」

  • 41二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 22:24:21

    「この世界に、本も想像も、星の数ほどあるのよ!」
    “文学少女”と慟哭の巡礼者/野村美月

  • 42二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 22:42:10

    よだかは、どこまでも、どこまでも、まっすぐに空へのぼって行きました。もう山焼けの火はたばこの吸殻のくらいにしか見えません。よだかはのぼってのぼって行きました。
    寒さにいきはむねに白く凍りました。空気がうすくなった為に、はねをそれはそれはせわしくうごかさなければなりませんでした。
    それだのに、ほしの大きさは、さっきと少しも変りません。つくいきはふいごのようです。寒さや霜がまるで剣のようによだかを刺しました。よだかははねがすっかりしびれてしまいました。そしてなみだぐんだ目をあげてもう一ぺんそらを見ました。そうです。これがよだかの最後でした。もうよだかは落ちているのか、のぼっているのか、さかさになっているのか、上を向いているのかも、わかりませんでした。ただこころもちはやすらかに、その血のついた大きなくちばしは、横にまがっては居ましたが、たしかに少しわらって居りました。
    それからしばらくたってよだかははっきりまなこをひらきました。そして自分のからだがいま燐の火のような青い美しい光になって、しずかに燃えているのを見ました。

    よだかの星/宮沢賢治

  • 43二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 22:46:23

    こんな夢を見た。
    腕組をして枕元に坐っていると、仰向に寝た女が、静かな声でもう死にますと云う。女は長い髪を枕に敷いて、輪郭の柔らかな瓜実顔をその中に横たえている。真白な頬の底に温かい血の色がほどよく差して、唇の色は無論赤い。とうてい死にそうには見えない。しかし女は静かな声で、もう死にますと判然云った。自分も確にこれは死ぬなと思った。そこで、そうかね、もう死ぬのかね、と上から覗き込むようにして聞いて見た。死にますとも、と云いながら、女はぱっちりと眼を開けた。大きな潤のある眼で、長い睫に包まれた中は、ただ一面に真黒であった。その真黒な眸の奥に、自分の姿が鮮に浮かんでいる。

    夢十夜/夏目漱石

  • 44二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 22:54:16

     狗道供界が手にしたロックシードが黄金に輝く。そして、もう片方の手にはザクロロックシードが。
    『ザクロ!』『ゴールデン!』
    「――変・神」
     狗道供界の全身を、鮮血と黄金の鎧が覆っていく。
    『ブラッドザクロアームズ! 狂い咲きサクリファイス!』
    『金!ゴールデンアームズ……黄金の果実……!』
     血の色でありながら黄金の輝きを持つ、異形の救世主が降臨する。
     アーマードライダーセイヴァー ゴールデンアームズ!

    砂阿久 雁、鋼屋ジン 監修 虚淵玄『小説 仮面ライダー鎧武』

  • 45二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 22:58:56

    私が姉に「ジィさんのくちびるから、祭ばやしが聞こえるねェ」と言ったら、彼女はまた台所のゴキブリになってしまった。
    さくらももこ『もものかんづめ』

  • 46二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 23:02:43

    国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。
    向側の座席から娘が立って来て、島村の前のガラス窓を落した。雪の冷気が流れこんだ。娘は窓いっぱいに乗り出して、遠くへ叫ぶように、
    「駅長さあん、駅長さあん」

    川端康成『雪国』

  • 47二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 23:16:29

    火は、目くばせし合い、笑いころげ、地面を這い、支柱をよじのぼり、勝利の旗を打ち振った。逃げる子供たちに抱きつき、頰ずりした。鬣をなびかせる深紅の馬の群れになり、じゃらじゃらと音をたてる鎖となり、壁も天井もすべてが一つの哄笑となった。
    少年十字軍 皆川博子

  • 48二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 23:38:14

    けれども私は待っているのです。胸を躍らせて待っているのだ。眼の前を、ぞろぞろ人が通って行く。あれでもない、これでもない。私は買い物籠をかかえて、こまかく震えながら一心に一心に待っているのだ。
    私を忘れないで下さいませ。毎日、毎日、駅へお迎えに行っては、むなしく家へ帰って来る二十(はたち)の娘を笑わずに、どうか覚えておいて下さいませ。その小さい駅の名は、わざとお教え申しません。お教えせずとも、あなたは、いつか私を見かける。

    太宰治 『待つ』よりラストの一文

  • 49二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 23:48:51

    マンションでの家具の配置を、お互いの頭を突っつき合わせて決めたのを思い出す。
    幸せで積木遊びをするような、そんな思い出だった。

    入間人間 安達としまむら 「Abiding Diverge Alien」

  • 50二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 23:49:33

    「可能性と言う言葉を無限定に使ってはいけない。我々という存在を規定するのは、我々がもつ可能性ではなく、我々がもつ不可能性である」 
    「我々の大方の苦悩は、あり得べき別の人生を夢想することから始まる。自分の可能性という当てにならないものに望みを託すことが諸悪の根源だ。今ここにある君以外、ほかの何物にもなれない自分を認めなくてはいけない。           
                       森見登美彦 四畳半神話大系            

  • 51二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 00:10:28

    ダフネ・デュ・モーリアのゴシックミステリー小説
    『レベッカ』

  • 52二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 00:32:04

    「それでも良ければ、お前に一国をやる。ーー玉座が欲しいか」
    六太が見据える視線に、尚隆は静かに視線を返した。
    「……欲しい」
    六太は頷き、舳を離れて尚隆の足許に向かう。そこで膝を突き、深く頭を垂れた。
    「ーー天命をもって主上にお迎えする。これよりのち、詔命に背かず、御前を離れず、忠誠を誓うと誓約申し上げる」
    「ーー六太?」
    六太は顔を上げる。尚隆を見据えた。
    「国が欲しいと言え。おれを臣下に迎えると。お前が期待を背負っているというなら、おれが国を背負っている」

    小野不由美『東の海神 西の滄海』より

  • 53二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 00:41:33

    (ボンタン飴は)「うざったい友だちみたいな味だよね」

    重松清『きみの友だち』

  • 54二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 00:56:50

    その後、どちらが勝ちとはわからぬまま、気が付けば手が重なっていた。
    鳳仙からは甘い言葉もなにもなかった。自分もそんながらではなく、ある意味、似た者同士だろう。
    ただ、鳳仙は腕の中で「碁がやりたい」とつぶやいた。
    自分とて将棋をやりたいと思っていた。

    【薬屋のひとりごと2 日向夏】

  • 55二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 01:09:30

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  • 56二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 01:14:44

    ──しかし『三国志』は後漢末、黄巾の乱が起きた184年から司馬氏の晋が成立する265年までのたかだか80年の間に起きた出来事なのであり、長寿の人なら治乱興亡のすべてを見分に入れることが出来たろう。

    「しかし、こいつら、なんでこんなに戦争ばっかりしてるんだ?」

    と感想せざるを得ず、大陸人同士が、やめりゃあいいのに人口が半減するほどの殺し合いを飽きもせずに続けるという異様な話なのである(だが中国史とはこのような強烈な話の連続なのであって、三国時代がとりたてて異常なわけではない)。
    現代の、平和を愛する日本人たちが見たら、身震いするほどおぞましい時代のはずである。

    ──のそりと馬を下りてレストランに入ってきた髭面の巨漢の服が裂けてあまりに汚いので、ウェイターがおそるおそる注意すると、

    「いささか戦陣にまみれてき申した」

    と真顔で言われたり、ただいま、と元気に帰ってきた息子が片手にまだ血のしたたっている首をぶら下げていて、

    「でへへへ」

    と照れ臭そうに笑って、

    「わが君に検分してもらわなくちゃならないんだよ。腐ると臭うから冷蔵庫にいれといて」

    と、ママに渡して晩ご飯を食欲旺盛にかきこみ始めたりするのが日常茶飯事であったのだ。家に人の首や四肢を飾ったり収蔵したりしておく、これは決して連続快楽殺人者の仕業ではないのである。

    そして、そこには悠久の歴史ロマン、また男のロマンとやらがあるらしいが、英雄豪傑どもの果てしない戦いの背後では、老人幼少が分け隔てなく大屠殺され、女はさらわれ見境なく繰り返し繰り返し強.姦されているのであり、残虐この上なく、『三国志』には踏みにじられた人々の怨嗟の声が満ち満ちて抑圧され秘められているのである。『三国志』を面白がっていいものかどうかいささか悩むところである。

  • 57二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 01:26:29

    血も流す。命も賭ける。
    そんな自分に対する誓いを、これまで何度となく破り続けてきた。しかし、今度こそは最後までやろうと思う。今度こそは口先だけの空威張りではなく、自分の言葉と決意に最後まで殉じよう。
    覚悟を、決めた。
    世界を滅ぼそう。

    「ぼくは、伊里野のことが好きだ」

    秋山瑞人 『イリヤの空、UFOの夏』

  • 58二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 01:37:01

    「言うね。これでもけっこうもてるんだぜ。あの先生だって、俺が行ったらイチコロだって」
    「お前に文化的な会話ができるとでも……」
    「エスキモーの雪の話をする」ウィリアムズは言い、「あるいは、カフカの話を」
    「お前、『不条理なもんはみんなカフカだ』ってものすごいこと言ってたじゃないか」
    「隙は重要だ。アクセントとして。女性に突っ込まれる可愛げを残しておかないとな」
    「隙というよりクレーターだ、それは。自分がモテると思い込んでて、その実、女性にいちばんウザがられるタイプだぞ」
     ぼくはいつものウィリアムズ節にうんざりする。

       伊藤計劃『虐殺器官』より

  • 59二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 01:42:02

    「……」彼はスシを食べ始めた。マグロ……いや、タマゴだ。それからマグロ。シロミ。イカ。トビッコ。チャをすすり、マグロ。バイオウニ。アボカド。オキアミ。マグロ。成形もの。タマゴ。イカ。トビッコ。シロミ。サバ。マグロ。
    シロミ。イカ。サバ。マグロ。バイオアナゴ。成形もの。サバ。オキアミ。イカ。バイオウニ。トビッコ。グンカン。グンカン。バイオアナゴ。イカ。マグロ。サバ。サバ。タマゴ。チャを飲む。チャを飲み干す。
    フジキドは立ち上がった。空になったスシパックを重ね、ゴミ袋に入れた。UNIXの電源ボタンを押した。反応が無い。彼は電源コードをさぐり、コンセントに挿した。そして、あらためて電源ボタンを押した。「パボッ」起動音が鳴り、モニタが点灯した。
    彼はIRCクライアントを立ち上げた。そしてコンタクトサインを送った。返事はすぐに返ってきた。
    # ns_gokuhi : ycnan : で、何から始める?

    ニンジャスレイヤー第三部「不滅のニンジャソウル」から
    「フー・キルド・ニンジャスレイヤー?」より
    ここだけだとちょっと分かりづらいかもだけど本当に良いシーンだと思う

  • 60二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 01:43:27

    この哀れな男にスコッチのソーダ割りを!

  • 61二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 01:45:31

    春の東雲のふるえる薄明に、小鳥が木の間で、わけのありそうな調子でささやいている時、諸君は彼らがそのつれあいに花のことを語っているのだと感じたことはありませんか。

    茶の本/岡倉天心

  • 62二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 01:46:56

    ヴァン・ダインです

    たった一言で声が出るほど驚いたのは初めてだった
    あまりにもシンプルなのも良い

  • 63二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 01:49:18

    22歳の春にすみれは生まれて初めて恋に落ちた。
    広大な平原をまっすぐ突き進む竜巻のような激しい恋だった。

    それは行く手のかたちあるものを残らずなぎ倒し、片端から空に巻き上げ、理不尽に引きちぎり、完膚なきまでに叩きつぶした。
    そして勢いをひとつまみもゆるめることなく大洋を吹きわたり、アンコールワットを無慈悲に崩し、インドの森を気の毒な一群の虎ごと熱で焼きつくし、ペルシャの砂漠の砂嵐となってどこかのエキゾチックな城塞都市をまるごとひとつ砂に埋もれさせてしまった。

    みごとに記念碑的な恋だった。
    恋に落ちた相手はすみれより17歳年上で、結婚していた。
    さらにつけ加えるなら、女性だった。

    それがすべてのものごとが始まった場所であり、(ほとんど)すべてのものごとが終わった場所だった。

    スプートニクの恋人 村上春樹

  • 64二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 01:49:30

    御行為奉

    巷説百物語/京極夏彦

  • 65二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 02:02:51

    ヒュー・ロフティング著 井伏鱒二訳「ドリトル先生のサーカス」
    「そうか。それではね。」と先生は、ベッポーのほうを向いていいました。「おまえ、年寄馬が暮らすところには、どんなのが理想的か、どんなのが住み心地がいいと思うかね?」
    「わたしの、いつも夢見ている場所は……」とベッポーは、年とった目にあこがれの表情を浮かべ、目の前の景色を、じっと眺めながらいいました。
    「それは、こういうところです。半分は坂、半分は平地です。坂というものは、変化があってよろしいのです。━━草が、すぐ鼻にとどきます。平地は、坂を歩いたあと、体をやすめるのによろしいです。それから、そこには木が━━大きな、枝をひろげた、幹の太い木が━━おなかいっぱい御飯をたべたあとなど、馬がその下に立ったり、その下で考えごとをしたりするに良いような木が立っています。それから、そこには薬草や野生の山菜なんかが生えた草むらがあります。こんなのをかじるのも、また趣きがあって悪くないものです。━━ことに、あんまりたべすぎたときに、野生のハッカを用いますと、おなかがスッといたします。それから、そこには、きれいな水があります。泥水の小さな池でなくって、いつも水がきらきら輝き、すきとおっている、素性の良い小川です。それから、そこの窪地には、雨のもらない、コケの生えた瓦屋根で、かわいた土間のある、気持ちのよい古い小屋があります。草原も色々で、あるところは、かたい短い芝地、あるところは、味の濃い長い青草がしげって、オダマキ草や、においの良い草花がまじっています。そして、その丘からみると、西に日が沈み、南のほうは、見はらしがきくようになっています。丘のいただきには、首をこすりつける、手ごろの、しっかりした杭があります。私は、夕方、首をかきながら、夕日の沈むところを眺めるのが好きです。そこには、ぐるりに、じょうぶな柵をめぐらして、わんぱく犬や、うるさい人間が、立ち入らないようにしてあります。そこは、静かです。そこは、平和です。ドリトル先生。これが、わたしの老後を送りたいと思う場所でございます。」

  • 66二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 02:06:06

    「──いや」
     哀川さんが、ゆるりと首を振った。
     なんだか大物の風格だった。
    「いやいや」
     哀川さんは「いやいや」と言った。
    「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや」
     哀川さんは「いやいや」と十回言った。
    「うん、そりゃまあ確かにさあ、あんときぶん殴られて意識オチちゃったけどさあ、勝ちとか負けとか強いとか弱いとか、そういうのをあれだけの材料で判断されても、こっちは困っちゃうわけだよ。あれだけのことでもう哀川潤は最強じゃなくなったなんていって欲しくないなあ、うん」
    「…………」
    「…………」
     ………………。
     人類最強の請負人の言い訳が始まった!
    「最強っていうのはそういう意味じゃないでしょ。こっちはもっと長いスパンで物事を考えてるんだから。大人だからね。そんな些細なことにいちゃもんをつけられても困るわけよ。重箱の隅をつつくかのように揚げ足とられても、もう、なんていうかさ。わかるだろ、ほら最強っていうのは、やっぱりそんな短期的なサンプルじゃ、計れないわけだし。一回や二回じゃまぐれってこともあるし、やっぱさ、長い積み重ねとか、頑張りとか、そういうのも考慮に入れた上で、そういう判断はしなくっちゃ、ねえ。まあまあ、言うこともわかんないでもないよ、あたしも一応、柔軟な対応をね、考えてるし」
    「…………」
    「…………」
     わかった……
     わかったからもうやめてくれ哀川さん……

    ネコソギラジカル(下)/西尾維新

  • 67二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 03:12:19

    まだ一度も作られてことのない国家をめざす
    まだ一度も想像されたことのない武器を持つ
    まだ一度も話されたことのない言語で会話する
    まだ一度も記述されたことのない歴史と出会う

    たとえ
    約束の場所で出会うための最後の橋が焼け落ちたとしても

    寺山修司「事物のフォークロア」

  • 68二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 09:58:44

    「もうちょっと云い方はないんですか?」
    「どう云えばいい?『まだ新人なのだから気にするな、次から気をつけようね』とでも云うか?」綾辻先生の表情には容赦がない。「君が市警の事務作業員だったらそれでもよかっただろうな。だが人の命に『次』はない」

    ────文豪ストレイドッグス外伝 綾辻行人VS.京極夏彦

  • 69二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 11:13:02

    ああ、孤独。それをいいたもうなかれ。孤独は、人のふるさとだ。恋愛は、人生の花であります。いかに退屈であろうとも、この外に花はない。

    坂口安吾『恋愛論』

  • 70二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 12:52:44

    猫の耳というものはまことに可笑しなものである。薄べったくて、冷たくて、竹の子の皮のように、表には絨毛が生えていて、裏はピカピカしている。硬いような、柔らかいような、なんともいえない一種特別の物質である。私は子供のときから、猫の耳というと、一度「切符切り」でパチンとやってみたくて堪なかった。これは残酷な空想だろうか?
     否。まったく猫の耳の持っている一種不可思議な示唆力によるのである。私は、家へ来たある謹厳な客が、膝へあがって来た仔猫の耳を、話をしながら、しきりに抓っていた光景を忘れることができない。

    【愛撫】梶井基次郎

    梶井基次郎多くて嬉しい良いよな…

  • 71二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 18:24:42

    恥の多い生涯を送って来ました。
    太宰治『人間失格』

    やっぱり有名だけどこれ。この一文で興味なかったのに一気に小説が好きになった

  • 72二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 18:27:34

    刀語のちぇりお関連

    遺言にまでちぇりお

  • 73二次元好きの匿名さん22/08/21(日) 00:27:28

    ここには来ない方がいい、と思った。オレがここに来ると、いつまで経っても先に進めないのだ。オレも、この人も。時間があの日のまま止まってしまう。いい加減、後ろを振り返るのはやめなければならない。
    最後にしよう、と思った。親友の見舞いは、これで最後だ。
    「最後にもう一度だけ、壮真の顔を見ていってもいいですか」という大和の頼みに、母親は頷いた。ドアを開け、大和を中へと招き入れる。
    親友は相変わらず眠ったままだった。規則的に鳴り続ける電子音に耳を傾け、大和は心の中で呟く。
    ──なあ、壮真。オレも、前に進んでいいのかな。  親友の体に手を添え、告げる。
    「次は、お前が退院するときに来るから」
    未来の話をするのは久しぶりだ。その言葉に答えるかのように、壮真の睫毛が微かに震えた。そんな気がした。

    博多豚骨ラーメンズ-9巻

  • 74二次元好きの匿名さん22/08/21(日) 00:41:15

    「爆弾って何よ?君にはそんなものつくれないと思うよ」

    『新興宗教オモイデ教』大槻ケンヂ

  • 75二次元好きの匿名さん22/08/21(日) 02:03:35

    こうして司祭が踏絵に足をかけた時、朝が来た。鶏が遠くで鳴いた。

    遠藤周作「沈黙」

  • 76二次元好きの匿名さん22/08/21(日) 02:15:10

     しかし私は、三週間ばかり前から大評判になっている「檜御殿」の謎を解く目的でこの筆を執ったのではない。同時に私が監房の中で自殺を決心したのは、一文無しになった自分の前途を悲観したからではない。
     又は、
     ……叔父も伊奈子もシンカラの悪魔ではなかった。彼等を眩惑して悶死させながら、平気で冷笑していた私こそ……ホントウの……生れながらの悪魔であった……。
     という事をシミジミ自覚したからでもない。
     伊奈子の恐ろしい死に顔を見た瞬間に、彼女の真実を知ったからであった。
     眼に見えぬ鉄鎚で心臓をタタキ潰されたからであった。

    夢野久作_鉄鎚

  • 77二次元好きの匿名さん22/08/21(日) 02:50:53

    履き違えてはなりませぬぞ。忘れてはならぬのは死者ではなく、亡くなった方の生前でございます。
    死者に拘泥してはなりませんぞ、それは死者を死者と認めぬ行い。繰り返しまするが、死者は二度と戻りませぬ故、死人はきちんと送るが作法。
    決して生者と同じに扱ってはなりませぬ。死者を慕い死者に焦がれるは想い出に浸るだけの無為なる生にございます。死に絡められた生を送るは生き乍ら冥府を行くようなものかと存じまする。
    死者は死者。死人にはもうこの先はないのです。
    私の申しておりますのは、なくなった方の生前こそを、お心に留め置いて戴きたいということにございます。

    書楼弔棠 炎昼
    京極夏彦

  • 78二次元好きの匿名さん22/08/21(日) 02:54:29

    「もう指一本動かせなくなるまでわがままを貫いて、人の形なんて完全に失って、本当にただの肉の塊になるまで正しく死を迎えたら・・・・・・。今度こそ帰ろう、私達の住む街に」

    一一月の、寒空の下での事だった。
    数年の時を経て、一人の少女は一人の男の隣に立つ事ができた。
    それは。
    誰もがいつかは乗り越えなくてはならない、大切な人の死を呑み込めた瞬間だった。

    【鎌池和馬】新約 とある魔術の禁書目録⑧

  • 79二次元好きの匿名さん22/08/21(日) 03:08:49

    報道陣も街の住民も、誰一人、居残るものはいなかった。暖かい部屋、暖かい夕食が彼らを招いていた。
    寒々とした広場に灰色の猫二匹だけを置き去りにして、誰もが足早に引き上げていったころ、あの奇跡的な秋の陽気も立ち去って行った。そして、その年の初雪が舞い始めた。

    トルーマン・カポーティ 「冷血」

  • 80二次元好きの匿名さん22/08/21(日) 09:00:45

    「カムパネルラ、また僕たち二人きりになったねえ、どこまでもどこまでも一緒に行こう。僕はもうあのさそりのようにほんとうにみんなの幸さいわいのためならば僕のからだなんか百ぺん灼やいてもかまわない」
    宮沢賢治『銀河鉄道の夜』

  • 81二次元好きの匿名さん22/08/21(日) 09:04:52

    僕は養家に人となり、我儘らしい我儘を言つたことはなかつた。(と云ふよりも寧ろ言ひ得なかつたのである。僕はこの養父母に対する「孝行に似たもの」も後悔してゐる。しかしこれも僕にとつてはどうすることも出来なかつたのである。)今僕が自殺するのは一生に一度の我儘かも知れない。

    芥川龍之介 遺書

  • 82二次元好きの匿名さん22/08/21(日) 09:11:25

    テーブルの上に置かれた記念品は、四角いプラスチックの黄色いブロック……、
    それは、立派なおもちゃの兵隊になることを夢見た小さな孤独だった。

    すべてがFになる/森博嗣

  • 83二次元好きの匿名さん22/08/21(日) 11:34:28

    夜は若く、彼も若かったが、夜の空気は甘いのに、彼の気分は苦かった。

    ウィリアム・アイリッシュ『幻の女』より冒頭
    稲葉明雄の訳は詩情を感じて好き

  • 84二次元好きの匿名さん22/08/21(日) 20:49:48

    『クラムボンは死んだよ。』
    『クラムボンは殺されたよ。』
    『クラムボンは死んでしまったよ………。』
    『殺されたよ。』
    『それならなぜ殺された。』
    兄さんの蟹は、その右側の四本の脚の中の二本を、弟の平べったい頭にのせながら云いました。
    『わからない。』
    魚がまたツウと戻って下流のほうへ行きました。
    『クラムボンはわらったよ。』
    『わらった。』

    宮沢賢治 やまなし

  • 85二次元好きの匿名さん22/08/21(日) 20:57:23

    動物農場の「びっこを引き引き」のあたりがびっこって言葉を知らなかったこともあったし、妙にリズム感あって印象に残ってた
    差別用語だからか新訳版で消されてたの悲しい

  • 86二次元好きの匿名さん22/08/21(日) 23:57:34

    「ほんとはね、ほんとの友達を探しにきたの。大事な友達。
    ぼくのためにすげーがんばってくれるいい感じの友達。
    そいつがみつからないと、海の藻屑になっちゃうの」
    桜庭一樹さんの「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」より

  • 87二次元好きの匿名さん22/08/22(月) 01:38:54

    言葉は語るためのものでなく、伝えるためのものだ。
    秋田禎信「エンジェル・ハウリング」

  • 88二次元好きの匿名さん22/08/22(月) 01:42:24

    もし悪なら、成功を約束する様な真実で始まる筈はあるまい? 
    もし善なら、そんな浅ましい誘惑に、なぜ膝を屈するのだ。

  • 89二次元好きの匿名さん22/08/22(月) 02:58:27

    「人生は何事をも為さぬには余りに長いが、何事かを為すには余りに短いなどと口先ばかりの警句を弄しながら、事実は、才能の不足を暴露するかも知れないとの卑怯な危惧と、刻苦を厭う怠惰とが己の凡てだったのだ。」
    山月記(中島敦)より

    読者の急所を的確に刺すな(虫の息)

  • 90二次元好きの匿名さん22/08/22(月) 03:15:45

    これが私の最期なのか、それとも新しい出発なのか、私には分からない。私は既に見知らぬ者たちの手に私の運命を預けた。他にどうしようもないから。

    そういうわけで、私はステップを昇って闇の中へと入っていく。そうでなければ、光の中へ。
    『侍女の物語』

    絶望の未来に一筋の希望があるかもしれないし、気のせいかもしれない、の美しい言い換えだと思った。

  • 91二次元好きの匿名さん22/08/22(月) 11:36:07

    僕は自分がなぜ生きていなければならないのか、それが全然わからないのです。
    生きていたい人だけは、生きるがよい。
    人間には生きる権利があると同様に、死ぬる権利もある筈です。

    『斜陽』太宰治

  • 92二次元好きの匿名さん22/08/22(月) 13:33:38

    姉さん、僕は貴族です

    斜陽

  • 93二次元好きの匿名さん22/08/22(月) 16:34:15

    この世にはね不思議ことなど何一つないのだよ、関口君

    ああ、姑獲鳥の夏だ

    姑獲鳥の夏/京極夏彦

  • 94二次元好きの匿名さん22/08/23(火) 00:21:44

    これで私たち夫婦の記録は終りとします。これを読んで、馬鹿々々しいと思う人は笑って下さい。教訓になると思う人は、いい見せしめにして下さい。私自身は、ナオミに惚れているのですから、どう思われても仕方がありません。
    谷崎潤一郎 痴人の愛

  • 95二次元好きの匿名さん22/08/23(火) 00:25:02

    ペンギン・ハイウェイの最後の一文
    あれで主人公の人生の終わりまで飛んだように思えた

  • 96二次元好きの匿名さん22/08/23(火) 11:15:38

    昔、私は、自分のした事に就ついて後悔したことはなかった。しなかった事に就いてのみ、何時も後悔を感じていた。

    頭は間違うことがあっても、血は間違わないものであること。
    『光と風と夢』中島敦

  • 97二次元好きの匿名さん22/08/23(火) 12:11:08

    なあ、赤ちゃん、きみたちがこの星で暮らせるのは、長く見積っても、せいぜい百年ぐらいさ。ただ、ぼくの知っている規則が一つだけあるんだ、いいかい なんてったって、親切でなきゃいけないよ。

    カート・ヴォネガット・ジュニア 『ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを』

    ヴォネガットの初期作品群(デビューからスローターハウス5まで)はマジで強い

  • 98二次元好きの匿名さん22/08/23(火) 16:46:24

    では、あの丘のことはどうだろう?かつては修道院だったという、私が棲んでいた野生の麦の海に浮かぶ青い丘のことは?全ては夢だったのかも知れぬ。憂理の切れ長の瞳も、蜂蜜の入った紅茶も、図書館の張出窓に座って湿原を眺めていた彼も──これらが全て、幼い頃、雨上がりの庭で水溜まりに作った泥の城を見ながら作り上げた幻影でないと誰が保証できよう?

    恩田陸『麦の海に沈む果実』

  • 99二次元好きの匿名さん22/08/23(火) 16:49:33

    「俺の親友が、そう簡単に約束を守ると思うなよ」

    森見登美彦 新釈走れメロス

  • 100二次元好きの匿名さん22/08/23(火) 17:00:00

    ああ、あんたの記事のからくりがわかったわ。
    まともな人の証言は聞き流して、おかしな人の証言だけを集めて、
    それをさらにバカに受けるように作り変えているのね。

    湊かなえ 「白ゆき姫殺人事件」

  • 101二次元好きの匿名さん22/08/23(火) 23:19:18

    禁煙はたやすいことだ。
    私はすでに何千回もやった。
    マーク・トウェイン「トム・ソーヤーの冒険」

  • 102二次元好きの匿名さん22/08/23(火) 23:21:58

    たった一つの敗北を、決定的な敗北と勘違いしてはならない。
    スコット・フィッツジェラルド

    これ凄く心が救われた

  • 103二次元好きの匿名さん22/08/23(火) 23:28:57

    人間が不幸なのは、自分が幸福であることを知らないからだ。
    ただそれだけの理由なのだ。
    [悪霊]フョードル・ドストエフスキー

  • 104二次元好きの匿名さん22/08/23(火) 23:32:38

    「悪いことばかりじゃなかった」
    歩き出すのだ。このスローガンととともに。

    ティムール・ヴェルメシュ「帰ってきたヒトラー」

  • 105二次元好きの匿名さん22/08/23(火) 23:33:28

    好きなものは咒うか殺すか争うかしなければならないのよ。

    坂口安吾『夜長姫と耳男』

  • 106二次元好きの匿名さん22/08/23(火) 23:35:20

    森見登美彦『四畳半神話大系』
    「(悪友の小津について)なんだか月の裏側から来た人のような顔色をしていて甚だ不気味だ。夜道で出会えば、十人中八人が妖怪と間違う。残りの二人は妖怪である」

  • 107二次元好きの匿名さん22/08/23(火) 23:36:58

    どんな盾も貫き通す矛と、どんな矛も防ぐ盾。
     この二つが喧嘩する意味なんて……無いんだ。
     盾は全てを守り、矛は全てを貫く。
     それでいいんだ。

     だから――今の俺とラフタリア……一対の盾と剣が、こんな相手に負けるはずがない。


    WEB版盾の勇者の成り上がりより

  • 108二次元好きの匿名さん22/08/24(水) 02:05:19

    このレスは削除されています

  • 109二次元好きの匿名さん22/08/24(水) 02:10:27

    「父さんにも怖いものがあるの? 無敵のハリー・ポッターに?」
    「父さんにだって、怖いものくらいある。実を言うと、暗闇が怖い。それに……これは内緒なんだが、鳩が怖い」(中略)
    「なによりも怖いのは……アルバス・セブルス・ポッター。お前の父親であることだ」
    -ハリーポッターと呪いの子
    ハリーは決していい父親ではないし、アルバスは賢明ではなかった。それですれ違った二人が、お互いを知って少しある歩み寄り始めるのを表現しているいい会話。

  • 110二次元好きの匿名さん22/08/24(水) 02:13:00

    国家というこの世界を我が物顔で闊歩する巨獣が互いを喰らいちぎり、血を流し身もだえするかのような時代にセールイ・ユーリエヴナは産み落とされた。

    「アステリズムに花束を」の『月と怪物』の冒頭が好きですね

  • 111二次元好きの匿名さん22/08/24(水) 02:29:53

    光線が襲いかかる

  • 112二次元好きの匿名さん22/08/24(水) 02:44:41

    全ては主観性を失って、歴史的遠近法の彼方で古典になっていく。

    米澤穂信『氷菓』

  • 113二次元好きの匿名さん22/08/24(水) 08:03:13

    これが人間というものだ!

    ─中村文則 『R帝国』

  • 114二次元好きの匿名さん22/08/24(水) 09:57:17

    私がこの世でいちばん好きな場所は台所だと思う。

    吉本ばなな 『キッチン』

  • 115二次元好きの匿名さん22/08/24(水) 10:10:48

     そういうわけですからぼくわりこうになるようにがんばればまたああいう気ぶんになれるとおもう。いろんなことをしることやりこうになることわいいことです世界じうのことを全ぶしりたいとおもう。いますぐまたりこーになりたいな。すわって一日じう本がめたらいいな。 とにかくぼくわか学のためにじゅー用なことをはっ見したさいしょのばか人間なのわかけてもいい。ぼくわなにかをやったけどなんだかおもいだせない。たぶん、うぉれんや世界じゅーのぼくみたいなうすのろ人間のためになにかをしてやたのでわないかなとおもう。
     さよならキニアン先生ストラウスはかせみなさん……

    ダニエル・キイス 『アルジャーノンに花束を』

  • 116二次元好きの匿名さん22/08/24(水) 10:16:51

    架空線は不相変鋭い火花を放つてゐた。彼は人生を見渡しても、何も特に欲しいものはなかつた。が、この紫色の火花だけは、――凄まじい空中の火花だけは命と取り換へてもつかまへたかつた。
    芥川龍之介 『或阿呆の一生』

  • 117二次元好きの匿名さん22/08/24(水) 13:11:30

    渡されたメニューの金額も 噂通りの高値だったが 運ばれてきたものを見ると 投資の価値を知った。三段になっているケーキスタンドが織りなす感動はお金に代えがたいものがあった。
    好きな物をまずは一つずつ選ぼうと同席者と決める。凄く悩んで最初はアップルパイにした。 アップルパイをよそった皿をいそいそと近くに寄せてフォークを差し込む。一口食べてこれが欲しかったんだと実感する。暖かい店内で食べる甘い物は冬の醍醐味である。
    「……」
    同席しているラックス・シビュラはショコラケーキを前にしても手がつけられなかった。
    とても美味しそうだ。食べたい。だが会話の途中で店員がケーキを運んできてくれた為、完全に良いところで話の腰が折れていた。

    暁佳奈『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝』

  • 118二次元好きの匿名さん22/08/24(水) 13:15:47

    「もし私が犯人だと仮定して、あの少女を殺し、写真を撮っていたら、きみはどうしてた?」
    「あなたをさがしだします」
    「復讐をしたか?」
    「いえ、作品を見せてもらうようにお願いしたことでしょう。写真をゆずってもらうように交渉もしたはずです」
    「その後は?」
    「何も」
     吐き気がした。少年のなかに、人間が愛と定義づける一切のものは見あたらない。

    乙一『GOTH モリノヨル』
    ヤバイ少年にドン引きしてる側もヤバイ殺人犯なのでとてもシュールで好き

  • 119二次元好きの匿名さん22/08/24(水) 13:18:17

    夜の新宿の雑踏の中で、その少年をはじめて見たとき、青鹿晶子は、以前どこかで逢ったことがある、と思った。
    むろん、そんなはずはなかった。 よくある記憶の錯誤、心理学の用語でいう既視感(デジャヴュ)にちがいないとわかっていた。 初めての場所や初対面の人物のいつわりの記憶だ。 過去の出来事がそっくりふたたびくりかえされる、そんな奇妙な感覚のことである。
    その少年は、ほっそりと痩せぎすの体躯を持っていた。
    が、ひ弱な感じがしないのは、一種独特の野性味をおびた精気を発散してるからだった。 若い野獣の精気だった。
    しかし、粗暴な雰囲気というにはあたらない。 ときおり、非行少年がそなえているギラギラするような獣性とは、およそ異質のものだった。
    顔立ちは、美少年タイプではない。 荒けずりなタッチの未完成の顔だった。 特に印象に残るのは、よく光る眼と、やや皮肉なおもむきをそえて、ひきしめられた厚い唇だった。 耳の形も一風変わっていた。 獣の耳朶のように上端がぴんととがっていたのだ。
    一度見たら、容易に忘れられない顔であった。 二度目に逢えば、すぐにそれとわかるはずなのだ。


    平井和正 ウルフガイ狼の紋章(エンブレム) 冒頭部分より抜粋

  • 120二次元好きの匿名さん22/08/24(水) 13:36:14

    というわけで、僕は幽霊なんて見なかった。僕が見たのは──ただの僕自身さ。僕はあの夜味わった恐怖だけはいまだに忘れることができないでいるんだ。 ところで君たちはもうこの家に鏡が一枚もないことに気づいているよね。鏡を見ないで髭が剃れるようになるには結構時間がかかるんだぜ、本当の話。


    村上春樹

  • 121二次元好きの匿名さん22/08/24(水) 23:23:39

    見ないふりをするのが親切だ。同情なんかしちゃいけない。何もないような顔をして気分良く挨拶するんだよ。そして、深く関わらないでいるんだよ、と

    中略

    世の中とはそういうものなのだ。
    「わたし、今になってわかるけど、うんと深い根っこのところでは、わたしたち家族は松太郎さんのこと、ちょうど、丸千に来る飯盛女の人たちと同じように扱っていたんじゃないかと思うんです」
    親切にする。困っていれば助ける。笑顔を交わすことだってあるし、何かあれば案じる。そうしておけば互いに利得のある間柄だからだ。
    でも、線は引いている。

    宮部みゆき『三島屋変調百物語 おそろし』第三話 邪恋

  • 122二次元好きの匿名さん22/08/25(木) 05:27:04

    保守

  • 123二次元好きの匿名さん22/08/25(木) 10:48:52

    「行かぬか、博雅」
    「これからか」
    「行かぬか」
    「む、むむ」
    「行こう」
    「行こう」

    夢枕獏の「陰陽師」シリーズのよくあるやり取り

  • 124二次元好きの匿名さん22/08/25(木) 20:56:10

     ああ神様…………私たち二人は、こんな苛責に会いながら、病気一つせずに、日に増し丸々と肥って、康強に、美しく長って行くのです、この島の清らかな風と、水と、豊穣な食物と、美しい、楽しい、花と鳥とに護られて…………。
     ああ。何という恐ろしい責め苦でしょう。この美しい、楽しい島はもうスッカリ地獄です。

    夢野久作『瓶詰地獄』

  • 125二次元好きの匿名さん22/08/25(木) 23:06:25

    胎児よ
    胎児よ
    何故躍る
    母親の心がわかって
    おそろしいのか

    ドグラ・マグラ-夢野久作

  • 126二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 01:13:14

    僕がイカレてるなんて思わないでくれよ、エリオット──これよりおかしな偏見を持ってる人間は、大勢いる。自動車に絶対のらないオリヴァーのお祖父さんを笑ったらどうだね?

    「ピックマンのモデル」 H・P・ラブクラフト

  • 127二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 09:18:24

    「私も君も、一日の価値は一緒だよ」

    住野よる『君の膵臓をたべたい』

  • 128二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 15:32:49

    成就した恋ほど語るに値しないものは無い

    森見登美彦
    四畳半神話大系

  • 129二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 17:38:36

    なにしろ、暑かったので、キラップ女史はまず手近のレストランに入りました。入るなり、別の客のテーブルに置かれた華麗なるクリームソーダの色彩に目をうばわれました。 あまい透明な緑の上に、まっ白なアイスクリームが神秘な氷山みたいにうかんでいました。てっぺんには一つぶのまっかなサクランボがつやつや光っていました。チューリップ型の下ぶくれのコップは、こまかな水滴にぬれそぼたれ、生きてすやすやと呼吸しているように思われました。

    クレヨン王国月のたまご-Part7
    福永令三

    この後のクリームソーダの飲み方含めて凄く好きな文章

  • 130二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 19:34:20

    テーブルの上には、ずんぐりした形のポットと二つの小さなコーヒーカップとおさら、それにスプーンとナイフがならんでいました。どれもこれも、ピカピカの金でできています。小さなかごには金褐色にパリッと焼けたパン、小さなボウルには金色のバター、もうひとつのボウルには金の液体のように見えるはちみつ。マイスター・ホラは、ずんぐりしたポットから両方のカップにチョコレートをついでから、身ぶりよろしく食事をすすめました。
    「どうぞ、小さなお客さん、たくさんめしあがれ」
    モモは食事にとびつきました。飲めるチョコレートがあるなんて、ちっとも知りませんでした。
    バターとはちみつをぬったパンだって、これまでの生活では、めったにないごちそうの部類に入っていました。それにしても、こんなにおいしいパンには、いまだかつてありついたことがありません。はじめのうち、この食事にすっかり没頭して、ほかのことはなにひとつ考えず、むちゅうで口につめこみました。

    ミヒャエル・エンデ『モモ』

  • 131二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 19:34:30

    「きみは、どうやらいま、パトロール隊長だな。このまえはどろぼうだったが。——いいかね、人は、おなじときにはおなじ顔しかできないものだ。しかし、ちがうときにはちがった顔をしているものだ。パジャマをきて、ナイトキャップをかぶって、こんなすがたで力んでみてもおかしなものだからな」
     そして、ネダマンネンは、みるみるやさしい顔になりました。
    「きみは、何年生だね」
    「五年生でした」
    「そうか、算数はなにをやっている?」
    「円の面積とか、割合とか」
    「理科は?」
    「音とか、光のくっせつ」
    「きみは、学校ではおしえてもらえないものをよくまなんだね。愛とか、勇気とか」

    福永令三『クレヨン王国のパトロール隊長』
    クレヨン王国懐かしいなって思ったので、自分も同シリーズで好きな文章を挙げてみる

  • 132二次元好きの匿名さん22/08/27(土) 00:00:04

    「石炭をば早や積み果てつ。中等室の卓のほとりはいと靜にて、熾熱燈(しねつとう)の光の晴れがましきも徒なり。今宵は夜毎にこゝに集ひ來る骨牌(かるた)仲間も「ホテル」に宿りて、舟に殘れるは余一人のみなれば。」
    森鴎外-舞姫

  • 133二次元好きの匿名さん22/08/27(土) 09:32:13

    ほしゅ

  • 134二次元好きの匿名さん22/08/27(土) 09:36:56

    「嘘だけど」

    嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん

  • 135二次元好きの匿名さん22/08/27(土) 12:00:50

    第一、足が四本あるのに二本しか使わないと云うのから贅沢だ。四本であるけばそれだけはかも行く訳だのに、いつでも二本ですまして、残る二本は到来の棒鱈ぼうだらのように手持無沙汰にぶら下げているのは馬鹿馬鹿しい。
    「吾輩は猫である」夏目漱石

  • 136二次元好きの匿名さん22/08/27(土) 14:19:56

    「そうやって、『自分のため』の気持ちで結びつき、相手に執着する。その気持ちを、人はそれでも愛と呼ぶんです」
    (中略)
    「ふみちゃんが悲しいことが、苦しいことが、本当に嫌だったんでしょう?それを愛と呼んで何がいけないんですか」

    ぼくのメジャースプーン/辻村深月

  • 137二次元好きの匿名さん22/08/27(土) 15:14:58

    「ふたりとも、それぞれに人の親になったのですね」
    「さようですな」
    「文四郎さんの御子が私の子で、私の子が文四郎さんの御子であるような道はなかったのでしょうか」
     いきなり、お福さまがそう言った。だが顔はおだやかに微笑して、あり得たかも知れないその光景を夢みているように見えた。助左衛門も微笑した。そしてはっきりと言った。
    「それが出来なかったことを、それがし、生涯の悔いとしております」
    「ほんとうに?」
    「……」
    「うれしい。でも、きっとこういうふうに終るのですね。この世に悔いを持たぬ人などいないでしょうから。はかない世の中……」

    藤沢周平『蝉しぐれ』

  • 138二次元好きの匿名さん22/08/27(土) 19:38:54

    保守

  • 139二次元好きの匿名さん22/08/27(土) 19:46:58

    はい、愛していました、とおれはここで答えるんだ。でも、おれたちは二人とも、愛のためになにもしなかった。だから、いけなかったんです。

    アラン・シリトー「漁船の絵」

  • 140二次元好きの匿名さん22/08/27(土) 19:59:14

    数年前に私と極めて親しかった姪の一人が二十一の年に自殺したとき、美しいうちに死んでくれて良かったような気がした。

    坂口安吾「堕落論」

  • 141二次元好きの匿名さん22/08/28(日) 01:52:23

    このレスは削除されています

  • 142二次元好きの匿名さん22/08/28(日) 05:24:04

    「君はちょっと考え過ぎだな。力があるんだから、それを利用するくらいの気持ちで良いと思うよ」

     単にチートをもらうのなら大歓迎で、喜んで活用するだろう。授けてくれた相手に感謝して、信仰さえするかもしれない。だが、それを授けた相手がアレというだけでこうも不快感が生まれてしまう。

    「それが誘導された結果だとしても?」

    「誰がそれを保証するんだい? そいつ本人かな。でも、そいつも嘘をついてるかもね」
    「……そう……だな」

    「それが気に入らないというのなら、その力で殴りにいけばいい。それが君の目標なんだろう? 運命を操るなら、或いはそれは神と呼ばれる者なのかもしれないけど、僕たちはきっとそこへだって行ける」

    『その無限の先へ』第二章10話 決闘

  • 143二次元好きの匿名さん22/08/28(日) 12:49:23

    ほしゅ

  • 144二次元好きの匿名さん22/08/28(日) 20:04:31

    戸部新十郎の短編『必勝』より、真剣勝負の前の会話

  • 145二次元好きの匿名さん22/08/28(日) 20:55:22

    この異常な世界、とずっとそう思ってきたが、果たして異常なのは世界だろうか、陽子だろうか。
    答えなら分かっている。だから海客は追われるのだと、そんなことをようやく思った。

    小野不由美 「月の影 影の海」下巻

  • 146二次元好きの匿名さん22/08/28(日) 20:57:43

    甚三郎は、金などどうでもいいのだ。博打の一瞬一瞬に耽溺しているだけなのだ。 賽の目が思ったとおりに揃った瞬間の、この世の全てを自分が操っているかのような猛々しい喜びのためなら他の全てを投げ打ってもいいと思っている。
    今この急迫は、負けが続いて小銭さえ自由にならず、証文も書き増しできなくなって、少しでも精算しなければどこの賭場にも出入りできないから、純粋に勝負から遠ざかっているからだ。あの一瞬に飢えているからだ。
    もしも手足を、あるいは命を切り売りして賭けられる賭場があるのなら、甚三郎は喜んでそこへ通うだろう。命の最後の一片を賭け、負けたら死ぬという局面でも、怖じけることなどないだろう。それほどの勝負に勝ったなら、あの猛々しい喜びもまた、何十倍、何百倍にもなって甚三郎を満たしてくれるであろうから。

    宮部みゆき『黒武御神火御殿』

  • 147二次元好きの匿名さん22/08/28(日) 21:40:20

    五歳は子供にとってすばらしい時代だ……というか、ほかの子供たちが楽しむすさまじい残虐行為から比較的はなれた立場にいられるなら、すばらしい時代になりうる。五歳は、目が大きく見開かれている時代、行動様式がまだ固定していない時代だ。現実の厳しさと世知辛さがまだ頭にたたきこまれない時代、両手は十分に動かず、心は知識を充分に消化できず、世界は無限でカラフルで謎がいっぱいの時代だ。
    (中略)
    歓びと驚異と純真無垢の時代なのだ。
    ジェフティはその時代にとらえられているのだった。たった五つ。そのまま。

    ハーラン・エリスン『ジェフティは五つ』
    ジェフティは比喩ではなく五歳児だけど二十二歳のぼくと同い年

  • 148二次元好きの匿名さん22/08/28(日) 21:56:18

    「私は七年前に死んでゐるが、生き殘つてゐる友人の西寺とときどき短い話をする。長話はめつたにしない。お互ひにつかれるからだ。」

    川端康成『地獄』

  • 149二次元好きの匿名さん22/08/28(日) 22:48:05

    ほしゅ

  • 150二次元好きの匿名さん22/08/29(月) 00:11:33

    人生は地獄よりも地獄的である。
    芥川龍之介『侏儒の言葉』

  • 151二次元好きの匿名さん22/08/29(月) 01:31:59

    春に彼女に会えて良かった。彼女に出会わなければ、俺は、前を向かなかった。
    夏に彼女に会えて良かった。彼女に出会わなければ、俺は、腑抜けたままだった。
    秋に彼女に会えて良かった。彼女に出会わなければ、俺は、人知れず潰れていた。
    冬に彼女に会えて良かった。彼女に出会わなければ、俺は、強さを履き違えていた。
    葵せきな「生徒会の四散」

  • 152二次元好きの匿名さん22/08/29(月) 09:21:20

    俺はな!
    俺はもう、ホントに馬鹿で、どうしようもねえ!
    だから今回の話し合いで、俺の代わりに答えを出して貰いたくて
    しょうがなくてしょうがなくてしょうがなかった!
    俺がやりたいこと、ホライゾンにコクるために救いに行くことが、それが出来るようになるのかどうか!
    どうすれば出来るのか!
    俺は誰かに教えて欲しくてどうしようもなかった!
    セージュンはな!
    俺達の代表、副会長はな!
    俺がやりたいことを、その答えを見つけようとしてくれて、見つけてくれた!
    いろいろメゲることもあんだろうけど、やってやれないことはないってな!
    それは俺が出せない答え、俺以外の、守銭奴にも作家志望にも姉ちゃんにも誰にも出すことができない答えだ!
    だから――
    俺はセージュンを支持する!
    他の誰がなんと言おうとも、コイツのことをとやかく言おうとも、コイツは俺に答えをくれたんだ!
    コイツだけが、俺に答えをくれたんだ!
    それが俺にとってのコイツの絶対評価だ!
    だから俺は絶対にコイツの――!
    コ!
    イ!
    ツ!
    の!
    コイツの言ったことを俺は絶対に支持する!
    絶対に、そう、絶対にだ!

    「境界線上のホライゾン」川上稔

  • 153二次元好きの匿名さん22/08/29(月) 12:57:51

     言い訳するわけではないが、あれは多分、発熱のせいだ。まだ下がり切っていなかったのだろう。そうでなきゃ、和英辞典を手にとってみたりするわけがない。
     まして「義父」の項をひいてみるわけがない。
     そこにはまず[a father-in-law]とあった。法律なんて、縁起でもない。
     その下には[a stepfather]とあり、「継父」とカッコしてある。
     ステップファザーか。なんだか、ダンスばかり踊っている役たたずの親父のようじゃないか。でも「継父」というのは、「継ぐ父親」という意味なわけだな……などと考えた。
     やっぱり、熱があったのだ。絶対。

    宮部みゆき『ステップファザー・ステップ』
    泥棒から父親になった瞬間。

  • 154二次元好きの匿名さん22/08/29(月) 23:35:18

    "Eunice Parchman killed the Coverdale family because she could not read or write."
    「ユーニス・パーチマンがカヴァイデイル一家を殺したのは、読み書きができなかったためである」

    ルース・レンデル『ロウフィールド館の惨劇』

  • 155二次元好きの匿名さん22/08/30(火) 09:37:17

    「耳にはまぶたがない」

    伊藤計劃『虐殺器官』

  • 156二次元好きの匿名さん22/08/30(火) 09:41:16

    生きるという実感がなければ、死ぬという実感がなくて当たり前なのよ

    朱雀門 山岸涼子

  • 157二次元好きの匿名さん22/08/30(火) 14:29:00

    「ごめんね」や「許してね」や「ありがとう」や「気にしないでね」を伝える時を持とう
    そうすれば もし明日がこないとしても あなたは今日を後悔しないだろうから

    そして わたしたちは 忘れないようにしたい
    若い人にも 年老いた人にも
    明日は誰にも約束されてはいないのだということを
    最後だとわかっていたなら

    作 ノーマ・コーネット・マリック
    訳 佐川睦

  • 158二次元好きの匿名さん22/08/30(火) 15:50:28

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  • 159二次元好きの匿名さん22/08/30(火) 15:50:43

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  • 160二次元好きの匿名さん22/08/30(火) 15:51:00

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  • 161二次元好きの匿名さん22/08/30(火) 15:51:13

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  • 162二次元好きの匿名さん22/08/30(火) 15:51:27

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  • 163二次元好きの匿名さん22/08/30(火) 15:51:44

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  • 164二次元好きの匿名さん22/08/30(火) 15:52:06

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  • 165二次元好きの匿名さん22/08/30(火) 15:52:31

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  • 166二次元好きの匿名さん22/08/30(火) 15:52:42

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  • 167二次元好きの匿名さん22/08/30(火) 15:52:56

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  • 168二次元好きの匿名さん22/08/30(火) 15:53:10

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  • 169二次元好きの匿名さん22/08/30(火) 15:53:23

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  • 170二次元好きの匿名さん22/08/30(火) 15:53:37

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  • 171二次元好きの匿名さん22/08/30(火) 15:53:54

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  • 172二次元好きの匿名さん22/08/30(火) 15:54:07

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  • 173二次元好きの匿名さん22/08/30(火) 15:56:16

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  • 174二次元好きの匿名さん22/08/30(火) 15:59:52

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  • 175二次元好きの匿名さん22/08/30(火) 16:00:10

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  • 176二次元好きの匿名さん22/08/30(火) 16:00:24

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  • 177二次元好きの匿名さん22/08/30(火) 16:01:31

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  • 178二次元好きの匿名さん22/08/30(火) 16:01:52

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  • 179二次元好きの匿名さん22/08/30(火) 16:01:57

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  • 180二次元好きの匿名さん22/08/30(火) 16:02:04

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  • 181二次元好きの匿名さん22/08/30(火) 16:02:39

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  • 182二次元好きの匿名さん22/08/30(火) 17:03:48

    管理人かスレ主が対応してくれたんかな?
    ありがとう


    春が二階から落ちてきた。
    『重力ピエロ』伊坂幸太郎

  • 183二次元好きの匿名さん22/08/30(火) 17:20:36

    べつに、慌てて逃げ出したりする必要はないのだ。いま、彼の手のなかの往復切手には、行先も、戻る場所も、本人の自由に書き込める余白になって空いている。それに、考えてみれば、彼の心は、溜水装置のことを誰かに話したいという欲望で、はちきれそうになっていた。話すとなれば、ここの部落のもの以上の聞き手は、まずありえまい。今日でなければ、たぶん明日、男は誰かに打ち明けてしまっていることだろう。
    逃げるてだては、またその翌日にでも考えればいいことである。

    『砂の女』安部公房

  • 184二次元好きの匿名さん22/08/30(火) 19:50:45

    小雨のふりそぼつ夜、女子学生が死んだ噂が、混乱の大群衆を一瞬静寂に戻し、ぐっしょり雨に濡れて不快と悲しみと疲労とにうちひしがれた学生たちが泣きながら黙禱していた時、おれは〇〇者のオルガズムを感じ、黄金の幻影にみな殺しを誓う、唯一人の至福のセブンティーンだった。

    大江健三郎「セブンティーン」

  • 185二次元好きの匿名さん22/08/30(火) 20:31:07

    親がなくとも、子が育つ。ウソです。
    親があっても、子が育つんだ。親なんて、バカな奴が、人間づらして、親づらして、腹がふくれて、にわかに慌てて、親らしくなりやがった出来損ないが、動物とも人間ともつかない変テコリンな憐れみをかけて、陰にこもって子供を育てやがる。親がなきゃ、子供は、もっと、立派に育つよ。

    『不良少年とキリスト』坂口安吾

  • 186二次元好きの匿名さん22/08/30(火) 22:16:19

    おれの目から見ると、あんたは、いまじゃ、ほかの十万もの男の子と、べつに変りない男の子なのさ。
    だから、おれは、あんたがいなくたっていいんだ。
    あんたもやっぱり、おれがいなくたっていいんだ。
    あんたの目から見ると、おれは、十万ものキツネとおんなじなんだ。
    だけど、あんたが、おれを飼いならすと、おれたちは、もう、おたがいに、はなれちゃいられなくなるよ。
    あんたは、おれにとって、この世でたったひとりのひとになるし、
    おれは、あんたにとって、かけがえのないものになるんだよ…

    サン=テグジュペリ「星の王子さま」

  • 187二次元好きの匿名さん22/08/30(火) 22:20:25

    時間をケチケチすることで、ほんとうはぜんぜんべつのなにかをケチケチしているということには、だれひとり気がついていないようでした。じぶんたちの生活が日ごとにまずしくなり、日ごとに画一的になり、日ごとに冷たくなっていることを、だれひとりみとめようとはしませんでした。
    でも、それをはっきり感じはじめていたのは、子どもたちでした。というのは、子どもにかまってくれる時間のあるおとなが、もうひとりもいなくなってしまったからです。
    けれど時間とは、生きるということ、そのものなのです。そして人のいのちは心を住みかとしているのです。
    人間が時間を節約すればするほど、生活はやせほそっていくのです。

    ミヒャエル・エンデ『モモ』

  • 188二次元好きの匿名さん22/08/31(水) 03:10:16

     その声は、震えていた。
     流れるはずのない涙が、マリーの目尻から零れ落ちる。
     女性の姿は、すぐにそれが幻だったかのように。
     ふわりと風に溶け、消えてゆく。
     マリーに向けて、慈しむような笑みを向けて。
     マリーを、抱きしめるように。
     それで、十分だった。
     すべてが伝わった。

     マリーは最初から、許されていたのだ。
     彼女はマリーを憎んでなど、いなかった。

     マリーが許しを求めていなかったから。甘い態度など望んではいなかったから。
     だから見守り、望まれたように叱り続けていたのだ。
     けして、その加護を剥奪することもなく、ずっと。ずっと。200年も。
     マリーが自分を、許せるようになるまで。


     ……ひたむきに自分を慕う娘の危機に、それを庇わぬ母親がどこにいよう。



     彼女は。マリーの信じ続けた神は。

     地母神マーテルは、偉大な女神だった。

  • 189二次元好きの匿名さん22/08/31(水) 10:41:53

    保守

  • 190二次元好きの匿名さん22/08/31(水) 11:36:54

    「ごめんなさいね。とってもお腹が空いたでしょうに、待たせてしまって」
    湯浴みを終えた少女は、本格的なディナーを作っていた。
    世界そのものを料理して食卓に並べるが如き、見事なものだった。メインは英国から、香草をたっぷり詰めて焼き上げたローストチキン、焼かれた外側と半生の内側との具合が絶妙なローストビーフ。スープには、数多のパプリカ粉による味わい深さを誇るというオーストリア風グヤーシュの二種。サラダや各種前菜は、特別に繊細な芸術家が手掛けたのだと見紛うばかりのフランス風。
    取り敢えずはこれで一通り。
    でも、ここまでであれば普通よね、と彼女は言う。
    「けれどあなたは人間以上、サーヴァント。何よりあなたはよく食べてくれるって、もう、わたしは知っているから……むしろ、ここからが本番よね」
    花の如く、微笑みながら。
    星の如く、輝きを纏って。
    舞うようにくるくると回りながら、少女は、広い食卓狭しとばかりに料理を並べる。
    ロシ.アからは鮮やかな赤のボルシチ。オリエントからはペリメニにケバブ、中華は焼売に刀削麺。日本の釜飯に加えて、大小さまざまな形の麺麭はドイツ風。更にまだまだ、あれこれと──
    「さあ、セイバー。たくさん召し上がれ♪」
    「すごいな、これは──」
    料理を山を前にして、目を見張る。
    ひとつひとつを彼女は一言ずつ紹介してくれたものの、途中から把握しきれなくなってしまった。あの、黒くて丸い卵はなんだろう。鶏卵に似ているものの、ああまで黒い白身は見たことがない。自分の知らない動物か、それとも魔獣や幻獣のそれか?
    (本当に。きみは、何でもできてしまうんだな。愛歌)
    専属の料理人でさえ及ぶまい。
    少女の料理の腕は、前にも増して完璧以上のものになっていた。
    「どうか、ご遠慮なく。好きなだけ食べてね?
    それから……できたら、一番美味しかったのがどれだったか、教えてね」

    桜井光『Fate/Prototype 蒼銀のフラグメンツ』

  • 191二次元好きの匿名さん22/08/31(水) 20:28:38

    保守

  • 192二次元好きの匿名さん22/08/31(水) 21:45:18

    「痛みますか」
    「いいえ、あなただから、あなただから」
     かく言い懸けて伯爵夫人は、がっくりと仰向きつつ、凄冷極まりなき最後の眼に、国手をじっと瞻りて、
    「でも、あなたは、あなたは、私を知りますまい!」
     謂うとき晩し、高峰が手にせるメスに片手を添えて、乳の下深く掻き切りぬ。医学士は真蒼になりて戦きつつ、
    「忘れません」
     その声、その呼吸、その姿、その声、その呼吸、その姿。伯爵夫人はうれしげに、いとあどけなき微笑を含みて高峰の手より手をはなし、ばったり、枕に伏すとぞ見えし、脣の色変わりたり。
     そのときの二人が状、あたかも二人の身辺には、天なく、地なく、社会なく、全く人なきがごとくなりし。

    泉鏡花 「外科室」

    とある病院、今まさに一人の婦人の手術が開始されようとしていた。しかし婦人は誰がどれだけ説得しようともかたくなに麻酔を拒む。仕方なく麻酔なしで手術が始まった…という場面です。
    ほんとに美しすぎて大好き。

  • 193二次元好きの匿名さん22/09/01(木) 01:55:21

    ---御行奉為。
    そう。
    又市の声を、その時山岡百介は慥かに聞いたのだった

  • 194二次元好きの匿名さん22/09/01(木) 04:33:18

    日本海合同

  • 195二次元好きの匿名さん22/09/01(木) 15:53:39

    「滅びの風をその身に受け、己が何者かすら知れず、餞もなく、ただ大海の泡と消えるとも」芥川は詩を吟じるかのように、天に向けてつぶやいた。「心は僅かも動かされぬ……あの人に知られず逝く寂しさに較べれば」
    熱殻本体がすぐそこまで迫っている。もはや押し寄せる熱波は摂氏数百度を超えている。空間の断裂の隙間から漏れる熱だけで、皮膚が泡を立てて焼けていく。 それでも芥川は微笑んだ。
    「今は……それだけが、寂しい」

    文豪ストレイドッグス 55Minutes

  • 196二次元好きの匿名さん22/09/01(木) 18:14:59

    お前が明日死ぬのなら僕の命は明日まででいい
    お前が今日を生きてくれるのなら、僕もまた今日を生きていこう

    終物語 下

  • 197二次元好きの匿名さん22/09/01(木) 23:01:58

    「セオリーなんてね、そんなもんですよ。セオリーは当てにならない、っていうセオリーだってありますよ」

    伊坂幸太郎「砂漠」
    伊坂作品の変な自信家たちがその場その場で思いついて言っただけの名言っぽい台詞が好きなんだ

  • 198二次元好きの匿名さん22/09/01(木) 23:14:22

    高い線路に突き当たって曲がる角で、ふと栗梅の縮緬の羽織をぞろりと着た恰好の好い庇髪の女の後ろ姿を見た。鶯色のリボン、繻珍の鼻緒はなお、おろし立ての白足袋、それを見ると、もうその胸はなんとなくときめいて、そのくせどうのこうのと言うのでもないが、ただ嬉しく、そわそわして、その先へ追い越すのがなんだか惜しいような気がする様子である。

    田山花袋『少女病』
    田山花袋特有の「〜ナ」も好きだけど、抜粋したらきりがない

  • 199二次元好きの匿名さん22/09/02(金) 00:27:40

     くまは一歩前に出ると、両腕を大きく広げ、その腕をわたしの肩にまわし、頬をわたしの頬にこすりつけた。くまの匂いがする。反対の頬も同じようにこすりつけると、もう一度腕に力を入れてわたしの肩を抱いた。思ったよりもくまの体は冷たかった。
    「今日はほんとうに楽しかったです。遠くへ旅行して帰ってきたような気持ちです。熊の神様のお恵みがあなたの上にも降り注ぎますように。それから干し魚はあまりもちませんから、今夜のうちに召しあがるほうがいいと思います」
     部屋に戻って魚を焼き、風呂に入り、眠る前に少し日記を書いた。熊の神とはどのようなものか、想像してみたが、見当がつかなかった。悪くない一日だった。

    川上弘美『神様』
    くまがいじらしくて可愛い。
    良スレありがとう。

  • 200二次元好きの匿名さん22/09/02(金) 08:01:15

    おしまい!
    良スレでした…

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