- 1二次元好きの匿名さん21/10/10(日) 00:16:40
『どこにいたの 探してたよ 連れてって 連れてって 何もかも捨ててくよ どこまでも どこまでも』
6月の昼下がり。私が入っている老人ホームに遊びに来た息子夫婦。2人は施設の人と話すとかで席を外し、ここには孫と私だけが残された。そんな中、古い携帯端末から流している曲を一緒に聴いていた孫が、突然こんな事を聞いてきた。
「ねぇ、おばあ様。この曲は、何の曲でしょうか?」
「あぁ?この曲はな、私のトレーナーが一緒に走ってる時に聞いてた曲だよ。」
「おじい様が……と言う事はこの古い端末もおじい様の」
「そうだよ、アイツが使ってたヤツ。自分の身体は残さない癖して、コイツだけは遺して行きやがって…」
「……どうかしたのですか?おばあ様。」
「お、おい……あそこにアイツが…私のトレーナーが」
開いている窓にトレーナーが腰掛けていた。姿は、私と一緒に駆け抜けたあの時のまま。それに引替え私は齢78のババアだ。顔のシワやシミのケアをもう少ししとくべきだと思い、正直に言うと視線を合わせられない。
『元気なようで何よりだよ。シップ。ちょっと君が心配で降りて来たけど、大丈夫そうだね』
「…………………………」
なんて言えば良いか分からなかった。死んだ後にトレーナーに会ったら真っ先に何を言うかを決めていたのに、何も言えなかった。でも、とりあえず元気かどうか聞くことにした。 - 2二次元好きの匿名さん21/10/10(日) 00:17:12
期待
- 3二次元好きの匿名さん21/10/10(日) 00:26:00
保守!
- 4◆ysBob3G/Y.21/10/10(日) 00:29:08
ここから、トリップが付きます。書きかけでも感想やハートを付けて下さると嬉しいです。とりあえず、設定は
トレーナー 5人目の子供が産まれた年に家族水入らずで豪華客船の旅を楽しんでいた時に、乗っていた船が事故で沈み行方不明。後に死亡判定。
ゴールドシップ 引退後、担当トレーナーと結婚し5人のウマ娘を授かる。事故で夫を亡くした後は、実家からの縁談を全て断り女手一つで二人の子供を育て上げた。が、夫の葬式でも悲しんだ素振りを一切、見せなかったため本当に夫を愛していたのか?と世間では噂されていた。 - 5◆ysBob3G/Y.21/10/10(日) 00:49:05
「おう!最近調子どうだ?オメーは多分、天国に行ったと思うけど、どうなんだ?天国って寒ぃのか?」
『お生憎さま。僕は、地獄に堕ちたから暑すぎて困ってるよ。』
「マジか!?もしかして、アタシの事をほっといた罪で無間地獄とかか?」
『ハハッ、冗談。僕は天国に行けたよ。でも、天国は寒くはないね。』
「本当か、いや〜てっきり地獄で凍らされているか釜茹でにされているか、バケモノの餌にでもなってるかと思うと夜も眠れなくてよ。」
『君の優しさが心に染みるよ…所でそっちはどう?楽しい?』
「いんや、全然。それなりには楽しいいんだけどなぁ〜けど、なんか足りねぇンだよな。なんか。」
『そうか……気分屋の君を常に満足させるのは、大変だからね。』
「ンだと?アタシほどロジカルに動いているウマ娘は居ないと思うぜ。」
私がそう言った直後、2人して腹を抱えて笑いだす。そうだ、この感覚だ。言葉を言わないでも、アイコンタクトをしないでも、お互いの息がピッタリ合っているあの感覚。これが、私の求めていたものだ。 - 6二次元好きの匿名さん21/10/10(日) 01:02:27
面白そう!!!!
- 7◆ysBob3G/Y.21/10/10(日) 01:03:18
『そう言えば、この娘は誰だい?君に似て綺麗な芦毛だけど』
「あぁ、この子はアタシとオマエの孫だよ。」
『孫……か。因みに誰の子?』
「レーベンの子だよ。レーベン。覚えてるか?」
『あっ……レーベンか。大きくなったのかなぁ…レーベン』
「当たりめぇだろ!大きくなって無けりゃ、子供を産めるわけねぇだろ?」
『あっ…そうか。あぁ、自己紹介が遅れたね。僕はゴールドシップの夫……君のお母さんのお父さんで、君のおじちゃんにあたる者だ。よろしく」
とアイツが孫に挨拶をしたが、当の本人は目を白黒させながら錆び付いたロボットの様にゆっくりと顔を私の方に向けた。そして、その顔は青ざめていた。 - 8◆ysBob3G/Y.21/10/10(日) 01:15:02
「お…おばあ様………そこには誰も居ませんよ。」
「お前〜アタシを騙そうたってそうは問屋が卸さないぜ。現に窓に居るだろ?アイツが。」
とおばあ様が窓に指を指すが、窓には風に揺れるレースが有るだけでそれ以外は、何も無い。もしや、おばあ様はおじい様に会えない寂しさで耄碌してしまったのでは?
「い、いえ……本当に誰も居ませんよ…………この部屋には」
「やれやれだぜ。ほら、オマエが変な自己紹介するから、ビビっちまったじゃねぇか。」
『うーん、そうかもしれない……と言いたい所だけど今の僕は、幽霊だから普通の人には見えないからしょうが無い』
「へぇーそれなら、誰なら見えるんだ?」
『……その人に対して、重い感情があるか、その人に死期が近づいているかのどちらか。』 - 9◆ysBob3G/Y.21/10/10(日) 01:15:55
今夜はここまでです。続きは明日の朝、書き始めます。
- 10二次元好きの匿名さん21/10/10(日) 01:26:54
面白かったです!!
- 11◆ysBob3G/Y.21/10/10(日) 12:00:34
「って事は、アタシはもうすぐ死ぬのか?」
『さぁ…それは、分からないけど君もいい歳だからいつ迎えが来てもおかしくは無いと思うけど。』
「…別にアタシはオマエが迎えに来てくれたなら何時でも行っても良いんだぜ───────」
『なんだって?ハッキリ喋らないと分からない…あっ、ちょっと呼ばれたから戻るね』
「ハァ?おい!ちょっと待てよ!!オイ!!…ったく忙しない奴だぜ。話したいことを何一つ話せてないのに、どっか行っちまった」
どうやら、" おじい様 " は何処かに逝ってしまった様だ。しかし、さっき死ぬだのどうだの不穏な事を言っていたけど、若しかしたらおばあ様はこの先もう長くは無い?
まさか、確かに昔のように走れないとは言え、歩く分にはなんの問題も無いし、言葉や意思を通じるから流石に死ぬのは、まだ先だと思うのだけど……。
その後直ぐにお父様とお母様が医師と共に部屋に戻って来た。無論、おばあ様はその時もおじい様が部屋に居たと興奮気味に話したのだが、お父様と居る居ないの押し問答を繰り返した結果、伝家の宝刀である飛び蹴りが、お父様の顔に直撃したのだった。 - 12二次元好きの匿名さん21/10/10(日) 14:19:36
このばあちゃん元気すぎるw
- 13二次元好きの匿名さん21/10/10(日) 14:29:41
- 14◆ysBob3G/Y.21/10/10(日) 17:07:33
「……ったくドイツもコイツも私のことをボケ老人呼ばわり。アタシはまだ耄碌してないっての。」
『夜中の2時だってのに、元気だねぇ。あまり騒ぐと周りの部屋の人に迷惑だよ。』
夫がベッドの横にある椅子に腰掛けながら、腕時計と睨めっこしていた。
「あっ!オメーさっきは何処に言ってたんだ?妻にも言えない用事って一体何なの?」
『いや、突然 上に呼ばれてさ。" 君が今、会っている女性はまだ死ぬ順番では無いから、会いに行くな。会った方が、死期が近づく。" ってさ』
「ほーん。アタシがこの位で死ぬと思ってるのか?それに妻よりも大事な話しってあンのかよ。」
『そりゃ無いけどもさ、やっぱり上司の呼び出しは断り辛いでしょ?』
「ま、別に構わないけど何の仕事をしてんだ?アッチで」
『コッチと同じトレーナーだよ。実力がありながら怪我や病気で早逝したウマ娘のトレーナーをやってるよ。』
「ふーん、そんな事をやってんだ。相変わらずだな。所で見どころのあるヤツは居るのか?」
『居なくは無いけど、やっぱり君よりは劣るかな。』
「本当か?やっぱり、お前を満たすことが出来るウマ娘はアタシだけだな。」
『本当だね。あっ……もう少しで時間だ。』
「時間?なんだよ、終電はもう終わったぜ。」 - 15二次元好きの匿名さん21/10/10(日) 17:19:32
これは良SSの予感がするな
支援しとくぜ - 16◆ysBob3G/Y.21/10/10(日) 23:05:45
『……終電か。合ってるかも知れないね、さっき上に帰った時に、もう会うなと言われたけど最後に10分だけなら会って来ても良いって言われてさ。あともう少しで、その時間になる。』
「そっか………分かった、それなら最期に一つだけ聞きたいことが有るんだけどよ。あの時、なんで死んだ?」
『あの時、君と娘を救命ボートに押し込んで降りたのを見送ったあとに僕も別のボートに乗るつもりだったけど、乗り込む時に見たんだよ。壁に身体をピッタリつけて2人で身を寄せ合っている、自分の所と同じ歳の幼いウマ娘が…』
「………………」
『僕は、直ぐにその子達のもとに駆け寄って2人を抱えて僕の席に2人を押し込んだ。ハッチがしまって海面に降りた直後に船体が、激しく揺れて海面に投げ出された。
海面に叩き込まれた時に頭か何処かを酷くぶつけたみたいでそのまま、意識が無くなった。そして気が付いたら三途の川の浅瀬に横たわっていた。』
「………なるほどな。それで、オメーは自分の行動を後悔しているのか?」
『後悔はしてないよ、僕は』
「そう言うと思ってた。でも、遺された者も気持ちも考えて欲しいンだけどな」
『それについては、申し訳ないと思ってる。』
「ッ………!!あ……いや、何でもない……襟首掴もうとしても、どうせスカッと空を掴むだけなんだろ?」
『そうだね。今の僕は生きている者には触れない。……もう時間だ。』
夫が再び腕時計を見つめる。どうやら、タイムリミットが来たようだ。 - 17◆ysBob3G/Y.21/10/10(日) 23:58:40
『最期に何かして欲しい事とかある?出来る限りの事はするけども……』
彼は椅子から立ち上がり、私のベッドに座り直す。
「そうだなァ………それだったら、よく寝られる様に頭を撫でてくれ無いか?」
昔のような猫なで声で、彼に甘えてみる。そうすると彼は黙ったまま、自分の手のひらを見つめた後に私の頭へと手を伸ばす。
さっき、夫は誰も触れないと言っていたが、夫は確かに私の身体に触れていた。気持ちよさのあまり、目を閉じてしまった。
しまったと思い直ぐに目を開けるが、もうそこに彼はいかなかった。
「……」
本当は、あの時に一緒に連れてって欲しいって言いたかったけど言えなかった。けども、もう良かった。最期に夫と話せたのだから私はそれで十分だ。今日はいい夢が見れそうな気がした。
-了- - 18◆ysBob3G/Y.21/10/10(日) 23:59:57
これで、おしまいです。少し描写不足な部分が、合ったので分かりづらい部分が合ったかも知れないですね。それでは、失礼します。
- 19二次元好きの匿名さん21/10/11(月) 00:00:47
- 20二次元好きの匿名さん21/10/11(月) 00:05:14
一緒に逝きたいけど残される辛さも知ってるから言えないのよね…
- 21二次元好きの匿名さん21/10/11(月) 00:25:54
保守
- 22二次元好きの匿名さん21/10/11(月) 00:26:53
素晴らしいSSをありがとう。乙!
- 23◆ysBob3G/Y.21/10/11(月) 00:40:46
皆さん、コメントありがとうございます。次回作…と言うか別のトリップで書いている作品を完成させないと行けないので、この続きはあるのかなぁ…多分、無いと思いますね。それでは