分身分裂スカーレット

  • 1二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 02:18:52

    『すまないトレーナー君、私の不手際でスカーレット君が二人に分裂した。』

    まだ朝6時、アグネスタキオンのそんな声とともにLANEに画像が送られてきた。
    昨日、自分が担当して5年になるダイワスカーレットは、今は現役を退き新婚生活真っ只中のアグネスタキオンにお呼ばれしてお泊りパーティーに行っていた。

    アグネスタキオンは自分の先輩と最初の3年間を駆け抜けた後、いつの間にかしれっと入籍し、そして学園のスタッフとして働いている。
    普段は後輩ウマ娘の健康を支え、仕事を終えたあとは家で先輩の手料理を食べるのが楽しみだそうだ。
    先輩からもタキオンからも想像付かないが、家では“あーん”とかやっているらしい。
    料理を頬張るタキオンは世界一かわいいとは先輩の談。
    全く惚気けてくれる。

    先輩の方はトレーナーを続けているが、元担当どころか現担当の身の回りまで世話を始めたらしい。
    几帳面で世話焼きなのは先輩の美点ではあるが、あの人、一体いつ寝ているんだろうか。

  • 2二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 02:19:18

    しかし昨日は、そんな愛する夫が出張で不在らしく、寂しさを紛らわせるためにウチのスカーレットに白羽の矢が立った、ということらしい。
    ここ最近は性格も落ち着き、やや大人に近づいてきたスカーレットだったが、トレーニング後に弾む声で、そしてやや緊張した面持ちで外泊先へと向かっていく姿を覚えている。
    スカーレットとタキオンの交友も長くなるし、いまさら気を張る仲でもないと思うが、大人に近づいて色々考えるようになったのだろうか。
    リスクマネジメントとか。

    であれば、何故かアグネスタキオンを全肯定していた頃からの成長ぶりに感心したかったところだが、この事態を見るに、どうやらその程度では不足していたらしい。

  • 3二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 02:19:45

    『起き抜けになにかドリンクでもと活力剤を用意したんだが、寝ぼけ眼のスカーレット君が別の薬品の入ったビーカーに口をつけてしまってね。』

    画面を見れば方やパジャマに身を包んだスカーレット、もう片方はバスタオルに身を包み、なんだか淡く光っているスカーレット。
    光っているのが増えた方のスカーレットだろうか。
    そして写真を撮る前に、せめて服を着せてあげてくれないか。
    体を冷やしたらどうするんだ。

    『元気な女の子が産まれたね!』

    やかましい。
    先輩が帰ってきたらたっぷりと怒られるがいい。
    普段は優しくてイケメンな先輩だが、顔の整った人が怒ると怖いのだ。
    尤も、今では眩しすぎてよく見えないのだが。

  • 4二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 02:20:03

    『マウスでの実験結果によれば、分身は18時間もすれば消えるだろうねぇ。』

    「マウス?先輩を被検体にしないのは珍しいね。」

    『私のモルモット君はたった一人で十分だよ。』

    彼女なりの愛情表現だろうか。
    あまり触れたくない。

    ともかく、今日は平日だ。
    自分もスカーレットも学園に向かう時間が近づいている。
    薬効が切れるまで分身の方は責任を取って先輩宅で匿ってもらい、今日もスカーレットのトレーニングを―――

    『ちょっと待ってくれ。本体のスカーレット君には学園に行ってもらうとして、君には分身スカーレット君の相手をして欲しい。』

  • 5二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 02:20:23

    急に真剣な声色になったタキオンに引き止められる。

    『分身も本体と同じ記憶を持っているんだよ。そしてこの薬は効果が切れると、二人が一人に戻るのではなく分身が“消滅”するんだ。今は落ち着いているけれど、自分が消える恐怖は耐え難いもののはずだよ。』

    ……急に話が重くなった。
    いつものタキオン事変なら、ちょっと怒ったあとに笑い合っておしまいの流れなのに。
    それじゃあ、消える方のスカーレットにとっては、今日一日の命も同然ということか。
    今まで連れ添った愛バの命が、残り一日。
    そう考えると―――耐えられそうにない。

    『本当に申し訳ない。分身とは言えスカーレット君にそんな思いをさせるなんてねぇ。普段から身の回りを片付けられない自分を、今回ばかりは深く悔いているよ。そして今スカーレット君に必要なのは、事態を引き起こすきっかけになった私ではなく君だ。すまないが、すぐに来てあげてほしい。』

    寝ぼけて薬を誤飲したのはスカーレット自身だし、今タキオンを責めたところで事態が好転するはずもない。
    そんなことより、まずは彼女を迎えに行こう。
    急いで身支度を済ませ、車を走らせた。

  • 6二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 02:20:44

    迎えに行ったスカーレットは、恐怖を感じていると言うよりは何だか緊張しているようだった。
    昨日、先輩宅に向かうときと似た反応だが、それが一層に強まった印象だ。

    「トレーナー……って呼んでいいのかな。アタシ、本体の方じゃないから、何だか偽物みたいで……。」

    ああ、自分のことが受け入れてもらえるか、不安だったんだな。
    こんな弱気なスカーレットは初めて見る。
    レース前でもここまで不安になることはなかった。
    なら安心させるのがトレーナーの役割だろう。

    「当たり前だろ、君もスカーレットなんだから。ほら、今日のトレーニングはお休みにして、たまにはどこかに出かけよう。」

    せめて不安や恐怖を吹き飛ばせるような、楽しいことをしよう。
    背中からタキオンの声がかけられる。

    「……頑張ってくれたまえよ。」

    言われるまでもないさ。

  • 7二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 02:21:14

    ここに来るまでにプランを考えていたが、時間もあまりない中では限度があった。
    ともあれ、一日で行ける場所は限られている。
    もし自分に残された時間がわずかで、スカーレットと遊びに行くならどこだろうか。
    何度も二人いっしょに走り抜いたレース場、合宿で行った海―――大切な思い出ではあるけど、何だか違う気がした。
    もっと彼女の不安を和らげてあげられるような、そう―――

    「今日は遊園地にでも行こうか。」

    最初の3年間のいつだったか、二人で外出して遊びに出かける事があった。
    スカーレットは根を詰めすぎる傾向が強く、息抜きの一環でもあった。
    遊びに行くときまで“1番”を意識する彼女の徹底ぶりに舌を巻いたものだが、しっかりと芯を持った彼女の気高さは、5年目の今もなお輝いている。
    今更遊園地で喜んでもらえるかは怪しいが、それでも思い出の場所であるのには変わらないし、多くのアトラクションと賑やかさが彼女の気を紛らわしてくれるだろう。

  • 8二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 02:21:35

    なんとか午前中に入場できた遊園地は、平日だったこともあって、さほど混雑はしていなかった。
    以前訪れたときとくらべ、いくつかのアトラクションが新しいものに換装されていたが、あの時は200分待ちで諦めたコースターは健在で、今回はすぐに乗れそうだった。

    「桜花賞、オークスに有マ記念。いろんな高みは見てきたけど、これを逃したのが心残りだったよなぁ。なんだかんだこうして遊びに来る機会もなかったし。」

    「……確かにそうよね。今までレースが最優先だったし、アタシも遊ぶ時間なんてないって思ってたし。あ、でもコーヒーカップとかシューティング、あれはすっごく面白かったわね!」

    「そうだな。特にコーヒーカップは年甲斐もなく張り切っちゃってたよなぁ。お、そろそろ俺たちの番だな。」

    会話の中で、スカーレットも少しずつ元の調子を取り戻してきたようだ。

    「さあ、1番の高みを見に行くぞ!」

  • 9二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 02:21:54

    コースターを楽しんだ後、アトラクションを以前巡ったものや新設されたもの含めて回り終える頃にはすでに日も傾いていた。

    「楽しかったわね!シューティングの記録も更新できたし、スワンボートも、1番スピード出てたわよね!」

    「そうだな。ちょっと周囲の視線が痛かったけどね。」

    ゆったりとまどろむような雰囲気の中、スカーレットの横顔を見ていたら、ふと目の合う瞬間があった。
    静かな時間の中でしばし見つめ合う形となり、恥ずかしさから視線を外そうと思った矢先、突然スカーレットがニヤリと笑うと、凄い勢いでボートを漕ぎ始めた。
    スワンボートの後部からは水しぶきが高く吹き上がり、迫力だけならモーターボートに迫る勢いだった。
    ボートののどかなイメージとはかけ離れていた気がするが、まああれはあれで俺達らしい楽しみ方だっただろう。

  • 10二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 02:22:15

    さて、この後だ。
    通勤時間を削るため普段はトレーナー寮で寝泊まりしているため、滅多に帰ることもない自宅。
    連れ込むような形になってしまうが、翌日近所の噂になったとしても、せめて今日は一緒にいてあげたい。
    ナビのルートに「自宅」を設定しようとすると助手席から声がかかった。

    「ねえ、待って。実は、タキオンさんからこれをもらったの。今回のお詫びと、どのみち夫が出張でいけなくなったからって。」

    そうして差し出された彼女の手には温泉旅館のペアチケット。

  • 11二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 02:22:33

    「この旅館は―――」

    「そう。最初の3年間に一区切りついたときに行った旅館よ。覚えてるわよね?」

    忘れるはずがない。
    トゥインクル・シリーズが最高の形で終えられたと思ったら、突然連れて行かれた温泉旅館。
    旅行券の期日が近いから慌てるのも仕方ないが、なんでトレーナーとなんだろうと思っていたら、まさか仕事で疲れていた俺を気遣ってのことだったとは。
    本当に優しい、いい娘だと改めて思った出来事だ。

    「もちろん。放り投げて溜まった仕事を手伝ってもらったことも含めて覚えてるよ。あの時からかな?仕事の面で、少しずつ君を頼らせてもらい始めたのは。」

    「そうね。でも当然じゃない、アタシだっていつまでも子供じゃないんだから。三年も連れ添ったパートナーに少しも頼らないなんて、そっちのほうが関係としては不健全よ。」

    自分は社会人で君は学生だから、仕事を任せるのは間違っているような気もするが。
    ……いや、トレセン学園の生徒会は裁量権を持って学園の仕事をこなしているな。
    彼女らが執り行う行事は大人も顔負けなレベルのものが多く、つくづく色々と常識の通じない職場だ。

    「そうかもな。じゃあ、3年ぶりに羽根を伸ばしに行こうか。」

    そうして話に区切りをつけ、目的地を再設定した。

  • 12二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 02:22:51

    「月並みな感想だけど、いい湯だったな。」

    「そうね。相変わらずお肌もすべすべになったみたいだし。」

    温泉から上がりたてのスカーレットは頬が上気し、ラウンジで満足げな表情を浮かべていた。
    さて、この後は部屋に戻るのだが。

    「……この後は、一緒にいてくれるのよね?」

    「もちろん、君が望んでくれるならね。俺も今日は一緒にいたいかな。」

    「いてよ。いてくれなきゃ駄目なんだから。」

    やや彼女の横顔がこわばり、上気した顔がほんのり赤みを増している気がする。
    最近では珍しく、わがままっぽく言い返すスカーレットだが、彼女も恥ずかしかったのだろうか。

    「わかったよ。じゃあ、部屋に戻ろうか。」

  • 13二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 02:23:09

    到着が遅くなったこともあって、部屋に戻るころには22時。
    すでに敷いてある布団に座り込む。
    今日は長い一日だった。
    トレーナーとしてではなく、彼女のことだけをこれほどまでに考えた一日は初めてかもしれない。
    最初は彼女の不安を和らげることだけを考えて連れ出した遊園地も、気づけば自分も楽しめていた。
    彼女に残された時間は、いよいよあと2時間しかない。

    ……寂寥感がこみ上げてくる。
    スカーレットが、自分の前から消えてしまうなんて。

    「この先の話なんだけど。」

    何を話そうか。
    そう考えて口をついて出た言葉がそれだった。
    これまでの話はもう十分だろう。
    分身なんて関係ない、これからの彼女が歩んでいく未来の話をすべきだと思った。
    スカーレットがこちらを見つめる。

  • 14二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 02:23:26

    「あと数年、走ってみないか。ウマ娘全体の傾向からして、本格化が始まって数年をすぎるとウマ娘の脚力は下降傾向になる。君にもその時期が訪れると思う。だけどピークを過ぎたあとで、そんな体とどう向き合っていくかの経験も、これからの糧になると思うんだ。……その、これからの進路をどうしていくにしてもさ。」

    こんな提案をする理由は、本当は別れるのが寂しいから、なんてことは言えない。
    別れが待っているのは今日だけじゃない。
    スカーレットがトレセン学園を卒業し、レース以外の道に進めば、こうして話すこともできなくなるだろう。
    でも高等部を出た後もトレセン学園所属の社会人ランナーとしてレースを志すなら、もうしばらくはトレーナーとしてそばにいられる。
    我ながら女々しいことだが、そんな感情が自分に深く根ざしていたことに今日、気付かされた。
    一呼吸置く。

  • 15二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 02:23:49

    「その後はお母さんと同じ会社へ入るのもいいし、後進を鍛えるアドバイザーになるのもいい。レースの器具メーカーを起業するのだって面白そうだ。だけどレースと同じで、どの道も順調に進むだけじゃなく、これまで以上に苦しむ場面だってあるだろう。そんな状況を乗り越えるために―――」

    「アタシの未来は!」

    スカーレットに遮られる。
    今の彼女に話すには、やはり無神経に思えてしまったのだろうか。
    すまない、短慮だった。
    そう謝ろうとすると、

    「アタシの未来は、願いは、アンタとずっと一緒にいることよ。これまで5年も一緒にいたじゃない。なのにアンタはアタシが卒業して、それで終わってもいいの?アタシはそんなのは嫌!今この瞬間、アタシがママでもウオッカでもなくて、アンタといることを選んでるのよ?察しなさいよ!」

    予想外の返答に怯んだ瞬間、布団に押し倒された。
    覆いかぶさるスカーレットの、怒ったような表情に別の感情が混じる。

    「それとも、アタシじゃ嫌なの……?」

  • 16二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 02:24:14

    一転して、こちらの返答を恐れているように弱気な顔を見せる。
    コロコロ変わる彼女の表情を見ながら、やっぱり自信満々に笑った顔をしていてほしい、なんて、そんなことを思った。

    今が、腹を括るべき時だろう。

    出会ったときの彼女は中等部で、自分もトレーナーとして彼女の理想を叶えることしか頭になかった。
    しかしトゥインクル・シリーズを共にに走りきり、絆の成長を感じた頃から、「ずっと隣にいてくれたら」なんて考えが頭をよぎり始めていた。
    今までは自分を律することで抑え込んでいた感情が、彼女もそう思ってくれていたと知り、溢れ出しそうになる。

    「嫌な訳がないよ。できることなら、ずっと一緒にいてほしい。」

    「ホント?嘘だったら許さないから。」

    「嘘でなんか言わないよ。」

    「じゃあ、証明しなさいよ。」

    覆いかぶさるスカーレットの唇が触れ、しばしの後に離れる。

    「今日はたくさんの思い出をありがとう。最後に、アンタをちょうだい。」

  • 17二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 02:24:33

    0時まで残すところあと数分。

    隣にはスカーレットが寝転がり、そばでこちらを見つめている。

    「ねえ。」

    「どうした?」

    「本物のほうにも、同じことをしてあげてよね。」

    「……なんだか浮気するような感じで気が引けるな。」

    「どっちもアタシって言ったのはアンタでしょ?なら何も問題ないわよ。別の娘だったら許さないけど。」

    「わかった。ちゃんと気持ちを伝えるよ。」

    「言葉で伝えるだけじゃ駄目よ。態度や行動で示しなさいよね。子供だってたくさん欲しいし。」

    「気が早すぎないか?」

    冗談を交えていると、スカーレットの体が淡く光り始めた。
    これは―――

  • 18二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 02:25:40

    「あら、もう時間みたいね。」

    「スカーレット……!」

    ああそんな、消えてしまう。
    彼女を失いたくない。
    嫌だ。

    ぐちゃぐちゃの感情が頭を支配するまま、体を起こして彼女を抱きしめる。

    「いい?毎日ちゃんと気持ちは伝えること!」

    「ああ、約束だ!―――だから消えないでくれ!」

    「さっきも言ったけど、言葉だけじゃ満足なんてしないんだから!アンタの1番はアタシ!」

    「わかってる、わかってるから!」

    スカーレットの身体が、一際大きく光り始める。

    「愛してるわ、〇〇さん!」

    「俺もだ、愛してる、スカーレット!」

    秒針が0時を回るころ、光がゆっくりと収まる。
    残されたのは。



    困惑するトレーナーと、幸せそうに目を細めるその愛バだった。

  • 19二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 02:26:03

    「え?」

    キョトンとするトレーナーの、涙でぐちゃぐちゃになった顔が目の前にある。
    こんなにもアタシのことを想ってくれてるんだ、なんて胸が高鳴るけど、今はやらなくちゃいけないことがある。
    自分のLANEを起動すると、ある人に通話をかける。

    『やぁスカーレット君、待っていたよ。この時間に君からかけてくるということは、うまくいった、ということかな?』

    「はい、タキオンさん!ご協力ありがとうございました!」

    通話の相手は協力者であるタキオンさん。
    今回の計画は彼女からの提案だ。
    第三者の登場でちょっと冷静になったのか、トレーナー―――〇〇さんは慌てて涙を拭いたみたいだけど、まだ目は赤く腫れている。
    でも表情を見るに、まだ良く状況がわかってないみたい。
    かわいい。

  • 20二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 02:27:22

    『トレーナー君、いくらなんでも人体を分身させるなんて、流石に私を買いかぶり過ぎだよ。私にできるのは、せいぜい身体を光らせるくらいさ。』

    それでも十分すごいと思うけどなぁ。演出面ですごく効果的だったし。

    「え?じゃあこのスカーレットは?」

    『紛うことなき正真正銘のスカーレット君さ。』

    「明日になっても?」

    『消えないね。』

    「不安そうな表情も演技だったの?それにしては随分と真に迫ってたというか……。」

    『それはそうだろう。愛する人を手に入れる一世一代の大勝負の前なんだからね。よく頑張ったね、スカーレット君。』

    「はい!お見送りのときも励ましてもらって、心強かったです!」
    「あれ、俺に言ったんじゃなかったのか……。」

    『まぁ、誤解を狙った口調にしたのは否定しないよ。』

    「じゃあ、LANEの画像は?」

    『もちろん合成だよ。画像編集は専門外だけど二回目だからね。うまく行って何よりだよ。』

    「二回目?」

    『同じ手を使ったことがある、ということだよ。』

    「あぁ……。」

  • 21二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 02:27:49

    そう。
    タキオンさんが引退直前に夫に使った手を、今回借りることにした。
    深い絆で結ばれるが、それ以上にはなかなか進展しづらいウマ娘とそのトレーナーとの関係を進めるには、トレーナー側にパートナーへの愛情を自覚させ、鋼の意思とも言える理性を超えるような強い感情を引き起こす必要がある。
    そのために利用したのが、5年連れ添った愛バを喪失するという恐怖だった。
    健康チェックは定期的にしているので仮病は使えないし、あまり大事にすると迷惑をかける人数が増えるので、かつてのタキオンさんと同じように不思議な薬のせいにすることになったのだ。

    アタシの不出来な演技で計画が露呈しないか、喪失感のもととなる愛情が〇〇さんの中で理性を溶かすほど大きく育っているかが気がかりだったけど、遊園地でのひとときでリラックスできたおかげで仕草のぎこちなさもなくなり、愛情への不安もボートでアタシを見つめる〇〇さんの目を見たらなんだか払拭できた。
    嬉しくなって、ちょっとはしゃぎすぎちゃったけど。
    それでも最後のひと押しは緊張したなぁ。

  • 22二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 02:28:10

    『しかし、トゥインクル・シリーズを勝ち抜いた君がこんなにもうまく転がされるとはね!いつもは警戒している私のことも今回は信じ切っていたようだし、トレーナー君も可愛いところがあるんだねぇ!』

    タキオンさん?かわいいのは認めますけどアタシのですよ?

    『まあモルモット君ほどではないけどね!』

    アタシのトレーナーの方がかわいいですよ?

    『何だか威圧感を感じるねぇ!?』

  • 23二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 02:28:31

    「ああ、まんまと騙された。けど、嫌な感じはしないというか、安心感のほうが強いな。よかったよ、スカーレットが消えなくて。」

    タキオンとの通話が終わり、やっと気持ちが落ち着いてきた。

    「当たり前でしょ。いつだってそばにいるわよ。……で、これからのことなんだけど、アンタの行った通り、高等部を出たらトレセン学園所属のウマ娘として、もうしばらくは走り続けることにするわ。」

    「そうか。スカーレットの走りがまだまだ見られるなら嬉しいよ。」

  • 24二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 02:28:53

    「それで、学生じゃなくなるから寮を出なきゃいけないんだけど、〇〇さんの家に住むから。」

    「……まぁ行く宛がないなら仕方ないよな。いいよ。」

    「愛情表現、言葉と態度、行動で示してくれるのよね?」

    「え?」

    「ちゃんと録音してあるから。聞きたい?」

    「録音!?いや、今回は特別だったけど、流石に普段から担当とそんなことをするのは―――」

    「外聞が悪い?大丈夫よ、信頼できる記者にも根回しは済んでるから。」

    「えぇ……?」

    あの記者かな。

    「今、違う女のこと考えた?」

    「いや!?」

    「本当でしょうね?」

  • 25二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 02:29:11

    スカーレットが目を細めながらにじり寄ってくる。
    なんだか愛バが急に嫉妬深さを前面に押し出してくるようになっているが、今はその重さすら心地よく思えた。
    今まで以上に親しい距離で、これからの日々が続いていくのだろう。
    愛バとその先輩の行動力に一抹の不安を覚えつつ、これからの未来に向かって共に走り続ける決意をしたのだった。

  • 26二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 02:29:35

    おしまい!

  • 27二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 02:31:02

    深夜にこんな良い話が読めるとは…

  • 28二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 02:33:38

    こんなところで天才に会えるとは思わなかった
    とても良かったよ

  • 29二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 02:33:58

    トレーナーを落とす為にここまでやるとは
    いやダスカならやるしタキオンもやるから二人合わさったら言わずもがなだ
    ダスカは愛が重いしそれが心地いい

  • 30作者22/08/20(土) 02:35:13

    スレへの投稿に慣れていないのでお見苦しい点があったらごめんなさい!
    楽しんで頂けたのであれば幸いです!

  • 31二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 02:37:58

    とりあえずお気に入りにした

  • 32二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 02:39:00

    っぱダスカよ

  • 33二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 02:40:48

    全部読んだしとっても良かったけどこんなとこにこんな時間に投稿してよかったのか

  • 34作者22/08/20(土) 02:44:01

    >>33

    こうして返信していただけるだけで幸いです!

    時間帯は……初スレ立てということもあって、ビビってこの時間を選びました!

  • 35二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 03:30:33

    いーや、このスレとSSはもっと多くの人に見てもらう

  • 36二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 06:55:42

    渋で見たことあるな……?

  • 37◆bEKUwu.vpc22/08/20(土) 06:59:22

    >>36

    はい、本人です。

    そちらの方でも読んで頂けていたんですね。

    ありがとうございます。


    あちらだと本当に一瞬で流れていくのでなかなか皆さんの目に止まらず……。

  • 38◆bEKUwu.vpc22/08/20(土) 10:29:04

    もっと多くの方に読んでいただきたいな、と思ってここを頼らせて頂きました。
    掲示板に上げるには少々長過ぎたかも知れませんが……。

  • 39二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 10:37:00

    野暮かもしれないけど騙されたトレーナーさん可哀想に思ってしまった

  • 40◆bEKUwu.vpc22/08/20(土) 10:45:22

    >>39

    色々と気を回していたことに対してですよね


    こ、コラテラルダメージ……

    結果オーライということでどうかひとつ(汗

  • 41二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 10:46:10

    お前よく天才って言われるだろ

  • 42二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 10:48:56

    やっぱりダスカが一番だわ

  • 43二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 14:25:36

    満足感がすごいんよ

  • 44二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 14:49:58

    タキオンが光量を間違えてスタングレネード食らったみたいになってその間にスタコラサッサパンサラッサする展開かと思った…

  • 45◆bEKUwu.vpc22/08/20(土) 15:27:47

    温かいコメントありがとうございます。

    ギャグ調なのは面白いかどうかはさて置き、あるにはあるので、宜しければそのうち投下させて頂こうかな、と思っています。

    ここから渋へ誘導するのはなんだか違う気がするので、この板でお待ちいただけたら幸いです。
    その時は、また感想をお願いします!

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