- 1◆bEKUwu.vpc22/08/20(土) 17:31:00
「前から一度ご一緒してみたいと想っていたんですよ~♪」
昼食時に担当のスーパークリークに集められ、今日は珍しいメンバーが集まった。
「クリークさん、呼んでいただきありがとうございます!」
「ありがとう、スーパークリーク。呼んでもらえて光栄だよ。」
対面するはニシノフラワーにシンボリルドルフ、そしてそのトレーナーたち。
普段は二組ともそれぞれ庭園で弁当を食べたり、食堂をともにしている姿をよく見かける。
新進気鋭のフラワーコンビに、皇帝の異名を持つ絶対王者のルドルフコンビ、その姿は学園内でもよく目立つものだ。
「トレーナーの僕たちまでお邪魔しても良かったんですかね?」
「……まあ、交流会みたいなものだろ?気負う必要はないと思うぞ。」
フラワーとルドルフのトレーナーたちはそれぞれ後輩と先輩だ。
後輩はやや恐縮しつつもハツラツとした力強さを感じるのに対し、先輩は目にくまを作り、何だか疲れた様子。
ちょっと心配になるが、やはり皇帝のトレーナーともなれば気苦労も多いんだろうな。
でもレースでの仕上がりは毎度完璧だし、さすが俺たち若手トレーナーの星、憧れの先輩だ。 - 2◆bEKUwu.vpc22/08/20(土) 17:31:21
しかしクリークはどういうつもりでわざわざこの面子を揃えたんだろうか。
やはり先輩の言う通り親睦を深め、やり手のトレーナーやウマ娘とレースの知見を交換することが目的だろうか。
後輩はまだしも、先輩に対しては一方的にアドバイスをもらう形になりそうだな。
申し訳ないことだが、流石にトレーナーとしての力量が違いすぎる。
「そのようなものです~。とりあえず、食べながらお話しましょう?」
「いただきます」、そう言って各々箸をつけ始めた。
俺もクリークから受け取った弁当を開く。
俺個人としてはちょっと恥ずかしいが、普段から世話を焼きたがるクリークをこまめに発散させるため、この程度の甘やかしは受けることにしている。
でなければ……もっと恐ろしいことになるのが目に見えているからだ。
今日はご飯にこぶりなハンバーグ、卵焼き、ほうれん草のおひたしにポテトサラダ……そしてタコさんウィンナーか。
うん、美味しそうだ。 - 3◆bEKUwu.vpc22/08/20(土) 17:31:41
「へぇ、先輩もお弁当を作ってもらってるんですね!これ、見てくださいよ!フラワーが作ってくれたんですよ。かわいいでしょう?」
後輩くん、いい笑顔だね。
どうかそのままの君達でいてほしいが、こちらの弁当については突っ込まないでほしかったな。
俺にとってのこれは、そんな平和なものではないんだよ。
「トレーナーさん、今日はスープもあるんですよ?熱いので、ふーふーしてあげますね?」
ほら見ろ、クリークのボルテージが上がってきた。
楽しそうに、優しく息を吹きかけるクリークに、ルドルフコンビは目を丸くしているし、フラワーは……なんかキラキラした目で見始めたぞ。
先輩後輩の目の前で子供みたいに甘やかされるとか、なんて拷問だ……!
「辛いのがお好きでしたよね?“ヒリ辛”スープにしてきました♪」
「わぁ、なんだかおふたりとも夫婦みたいですね!」
うん、まだマシな認識だねフラワー。
世の夫婦はスープにふーふーなんてしないと思うけども。
でも、対等な関係で例えられたからだろうか、お陰でちょっとクリークのテンションが下がったように感じる。
グッジョブだよフラワー。
後輩くんの失言をうまくフォローできたね。
流石、今をときめく名コンビだ。 - 4◆bEKUwu.vpc22/08/20(土) 17:32:04
「……それで、何の話をするつもりだ?さしずめレースやトレーニングメニューの情報交換ってところだろう?」
先輩の言葉を耳にしつつ、スープに口を付ける。
こういうときに話をリードしてくれる存在はありがたいな。
おぉ、このスープの辛さととろみ、すごくいい塩梅だ。
料理の腕もいいし、フラワーコンビのような健全な方向性なら普通にありがたいんだがな。
一歩対応を間違えると、出勤したくなくなるレベルでの辱めに合うのが本当に辛いところだ。
今のところはまだ誰にも痴態を見られてはいないので、一応まだ皆勤賞だけども。
……たまに思い出して悶えることはあるが。
そんな事を考えながらスープを喉に通していると、
「いえいえ、今日は“でちゅね遊び”を皆さんに広めたくって♪」
とんでもない爆弾が落とされた。 - 5◆bEKUwu.vpc22/08/20(土) 17:32:22
「ゲッフゥ!!」
まずい、ヒリ辛スープが気管に!
じゃなくて、なんてことを言い出すんだクリークは!?
とりあえず話題を変えなければ!
「ゲホっ、いや゛、クリー―――」
「でちゅね遊び?最近の新しいゲームか何かかな?」
しまった、咳のせいで出遅れた!
生徒との交流に積極的なルドルフが食いついてしまった。
「ええ、とーっても楽しい遊びなんですよ?でもそのまえに……大丈夫ですかトレーナーさん?お背中叩いてあげますね~?はい、トントン♪」
満面の笑みでクリークが背中を叩く。
辛味が喉にしみてなかなか声が出せない。
このままクリークの先行を許しては――― - 6◆bEKUwu.vpc22/08/20(土) 17:32:39
「会長さんにフラワーちゃん、お二人とも、とーっても楽しんでもらえると思うんです!でもそれを理解ってもらうには、トレーナーさんたちにも協力していただかないといけなくて……協力していただけますか?」
「だ……や……ゴホっ―――」
「大丈夫ですか先輩?……それで僕らは何をすればいいんです?」
やめろ後輩くん!
自ら馬群に埋もれに行くなど愚策だぞ!?
「ただ流れに身を任せてもらえればいいですよ♪何かをするのは私達ですなんですから。……さて、では会長さん?」
「なんだい?」
「会長さんのトレーナーさん、すっごくお疲れに見えませんか?目にくまを作って、すっごくお辛そうですよね?……その理由、知りたくありませんか?」 - 7◆bEKUwu.vpc22/08/20(土) 17:33:01
「……私のトレーニングや出走準備、取材対応などではない、特別な理由があるということかな?」
「クリーク君、何を知っているか知らないが、それ以上は―――」
「安心して、私に任せてください。悪いようにはしませんから♪……これ、あなたの自宅の前に落ちてたものなんですけど……見覚え、ありますよね?」
そうしてクリークは数枚の紙を取り出し、皆に見せた。
そこには先輩に対するあらゆる罵詈雑言が書きなぐられていた。
文字だけのはずなのに、妬みの感情がこれでもかと伝わってくる。
気まずそうに目を伏せる先輩。
信じられないという表情のルドルフ。
フラワーの目を覆う後輩。
咳き込みすぎて涙目の俺。 - 8◆bEKUwu.vpc22/08/20(土) 17:33:22
「トレーナー君、これは、一体―――」
「ル……ドルフ、気にすることはない。これは君が知らなくてもいいことだ。」
「そんな……いつから―――」
「最初から、ですよね?会長さんを担当し始めた頃から。これ以外にも、いっぱい届いてましたよね?」
「!……なぜそれを君が知っているんだ?大体いつ私の家の前に―――」
「ママはなーんでも知ってるんですよ~?」
おい、怖いぞ。
理由になってないし。
しかし有無を言わせない圧力に、先輩は黙ってしまう。
頑張れ、負けないで!
「それより会長さん、あなたのトレーナーさん、いーっぱい頑張ったんですよ?あなたに悪影響が及ばないように、学園から離れた場所に居を構えて、たった独りで戦っていたんです。」
「トレーナー君……。」
ルドルフまでうつむいてしまう。
まずい、これはまずいぞ、完全にペースを持っていかれている!
「決してあなたを信用しなかったわけじゃない。ただあなたのためを想っての行動なんです。……ねえ会長さん―――」
はっとルドルフが顔を上げる。 - 9◆bEKUwu.vpc22/08/20(土) 17:33:45
「健気ですよね?愛しいですよね?だから、あなたの“いいこ”にご褒美、あげませんか?今までの分、いーっぱい甘やかして、あげましょう?」
表情だけ見れば慈母のようなクリークに、まるで天啓を得たかのような皇帝様。
ルドルフはゆっくりと自分のトレーナーを振り返り、優しく微笑む。
その目はまさにクリークと同じ光を宿していた。
「……トレーナー君、今まで本当に辛かったね。君の苦しみに今日まで気付かなかったとは、私はパートナー失格だな。」
「……。」
先輩?
なんだか涙目になってませんか?
辛かったのは理解できますが、この場では堪えてください!
「……いや。いや、そんなことは、ない。私は君と同じ夢を見る者だぞ。君さえ健在なら、私の夢も叶うんだ。だから余計な障害は私が―――」
「その夢の中に、君の姿もあるんだよ、トレーナー君。」
ゆっくりと先輩に近づくルドルフ。
すごく心温まる言葉なのに、その姿が捕食者に見えるのはなんでだろうか。 - 10◆bEKUwu.vpc22/08/20(土) 17:34:05
「君とともに並び立ち、ウマ娘の幸福を共に導くのが私の夢だ。辛いときは私に頼ってほしい。私に寄りかかってほしい。」
「……ぐっ……うぅ……。」
「私に身を委ねてほしい。……辛かったね。ほら、おいで?」
「……ルナっ……ルナぁっ!」
「よしよし、君のルナは、ここにいるよ。君にひどいことをする者たちから、君を守る、君だけのルナだよ。ふふっ。」
ついに先輩が皇帝に捕食された。
その様子を満足そうに見つめる我が愛バ。
「これが、“でちゅね遊び”の最初の一歩、ですよ。どうですか、会長さん?」
「ああ……素晴らしいな。私は、私たちは今、満たされている……。」
嗚咽を漏らして泣き続ける先輩。
そして恍惚とした表情で先輩を掻き抱くルドルフ。
普段からはかけ離れた、憧れの先輩の姿に戦慄している後輩くん。
いつの間にか目隠しから解き放たれていたフラワーも……あれ?
なにその小学生に似つかわしくない表情?
下手したらルドルフ以上の――― - 11◆bEKUwu.vpc22/08/20(土) 17:34:25
「トレーナーさん、トレーナーさん。」
「ん、うん、どうした?フラワー?」
「えいっ。」
突然横抱きにされ、そのまま膝枕をされる後輩くん。
困惑している表情を上からフラワーが覗き込む。
「いつもいつも、ありがとうございます。トレーナーさん。」
片手を後輩くんの頭に添え、もう片方の手でお腹をポンポンと叩いている。
「フラワー!?何を?」
「わたしもトレーナーさんを癒やしてあげたくて。わたしのために毎日勉強し続けてくれているトレーナーさん、レースに勝ったら一緒に喜んでくれるトレーナーさん、わたしのお弁当を食べておいしいって笑ってくれるトレーナーさん……。」
リズミカルに加わる振動に、だんだんと心地よくなってきたのか、まぶたを重そうにしている。
まさか、嘘だろ後輩くん!?
「ね、とってもいいこのトレーナーさん?ご褒美、欲しくないですか?」
「ご……ほうび?」
「はい、いいこ、いいこ……♪」
そうして頭をなで始めるフラワー。
その目は慈愛に満ちている。 - 12◆bEKUwu.vpc22/08/20(土) 17:34:44
「ふらわ―――」
「ママ、ですよ?」
「ま……?」
「マーマ♪」
「ままぁ……!」
後輩くんが堕ちていく。
あまりにも鮮やかな早業。
フラワーの小さな体に何故かクリークの姿がダブって見える。
まだ小学生でこのポテンシャルとは、数年後は一体――― - 13◆bEKUwu.vpc22/08/20(土) 17:35:05
「トレーナーさん。」
耳元で声がかかる。
優しい、甘い、絶望の声が。
「最近、ぜんぜん甘えてくれなくて、ママ、寂しかったんですよ?反抗期になっちゃったのかな、って思って色々考えたんです。」
「く、クリーク―――」
まだ口元がヒリつくがようやく声が出るようになった。
しかしもう何もかも遅い。
先輩は泣きつかれて皇帝の胸の中で眠ってしまい、後輩くんはなぜかガラガラを振られている。
「恥ずかしかったんですよね?他のみんなはでちゅね遊びをしていないから。でも、ね、見てください。」
クリークが目の前の地獄絵図を指す。
「今、この場ではトレーナーはウマ娘に甘えることが普通なんです。先輩さんも後輩さんも、みんな我慢してただけ。みーんなやってることなら、もう、恥ずかしくないですよね?」
ゆっくりと、俺の身体に魔の手が忍び寄る。
ガラガラと、哺乳瓶。
ああ、俺は今から―――
「お口、辛くて大変でちたね~?あまぁいあまいミルクを飲みましょうね~♪」
赤ちゃんにされる。 - 14◆bEKUwu.vpc22/08/20(土) 17:35:40
おしまい!
- 15二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 17:40:08
メリバかなぁ?
- 16二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 17:40:28
もう終わりや、このトレセン。
- 17◆bEKUwu.vpc22/08/20(土) 17:46:56
- 18二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 17:52:16
読み終わって思うなんだこの怪文書は……
- 19二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 17:55:54
助けてオグリ!