- 1二次元好きの匿名さん22/08/21(日) 12:16:55
「バクシンオー。君のスピードは桁外れだけど、そのスピードを適切に活かすためには頭を使うことも大切だ。少し疲れも溜まっているようだし、しばらくレースに関する勉強をして体を休めよう」
「い、や、で、すぅー!」
今日は昨日よりさらなるバクシンを目指す予定だったというのに。
勉強をしている場合ではありません。そんな私の拒否の返事にトレーナーさんが苦笑します。
「まあまあそう言わずに。いずれ長距離に挑むためには短距離よりもペース配分とか考えることが大切だから。優等生たるもの、少し落ち着いて勉強に取り組んでみないか?賢くバクシンするのはきっとみんなの模範になるぞ?」
「ふむふむ」
一理あるような……でもバクシン理はないような……?
「ちゃんとバクシンオーの勉強に付き合ってくれる相手も探してきた。彼女達と一緒に頑張ってみてほしい」
そう言って彼はトレーナー室のドアを開けてお客さんを招き入れました。
入ってきたのは──。
「バクシンオーさん。私と一緒に勉強しようよ。勉強した後のラーメンはとっても美味しいんだよ!」
ファインモーションさんと。
「ど~も、ナイスネイチャでーす。あの、あたし、学年違うんですけど……レースのこと、一緒に勉強できたらなって」
ナイスネイチャさんでした。
「むむむ。つまり、学級委員長として彼女達の勉強を見てほしい、そういうわけですね!?」
私の百点満点の返事にトレーナーさんはなぜかわずかに固まって。
「……ああ。ただ、見るだけじゃなくてバクシンオーも一緒に考えてみてほしい。きっと為になるから」
そう答えられました。
「わかっていますとも!それではお二人共!さっそくバクシン的学習法に取り掛かりましょう!」
「よろしくね!」
「よろしくでーす。……ところでバクシン的学習法ってなんですか?」
そんな感じでしばらくの間、二人とともに勉強を重ねた結果。
──すべてが、わかってしまいました。 - 2二次元好きの匿名さん22/08/21(日) 12:17:37
「さて、今週からまたスピードを強化していくぞ。次はこの間のマイル戦を正しく振り返るためにも、その差を実感するために一度短距離に戻して調整し直す。準備はいいかな?」
トレーナーさんは目をキラキラと輝かせながら言います。
それに対して私は。
「もちろんですとも!バクシン!バクシン!バクシーン!」
そう、調子良く答えてみせます。
……ああ、またなのですね。
あなたが私を長距離どころか、中距離にすら挑ませないことはもうちゃんとわかっています。
1200mを3回走れば3600mだなんてトンデモ宇宙論が成り立つわけがありません。
そのバカバカしさと……その裏側にある無慈悲な優しさに私がまだ気づいていないと思っているのでしょうか。
「スピードに合わせてパワーも強化していこう。短距離だけでなくマイルで勝つにはパワーも欠かせない。理由はわかるかな」
「バクシン的加速のためですね!わかっていますよ!」
私の返事を聞いてトレーナーさんが「すごいな!勉強の成果が出てるぞ!」と褒めてくださります。
褒めてくれるのはすごく嬉しいです。
でも……私が欲しいのは、それだけではないのです。 - 3二次元好きの匿名さん22/08/21(日) 12:18:03
私は自分の足を見ました。
明らかに筋肉質で、速筋の多い足。
これでは長距離の有馬記念などで勝利を掴むことは夢のまた夢と言ってもいいでしょう。
しかし、トレーナーさんはいつも前向きです。諦めている様子はありません。
私を騙している……のは確かですが、それが後ろ向きな意味合いを持つことはないようです。
そしてもう一つ。
以前トレーナーさんがおっしゃっていた「羽化を待って私を飼いたい」という実に不届きな発言……。
これらの事実を、勉学を励みIQ894まで到達した私の超学級委員長的頭脳で総合バクシン的に考えて。
その結果、導き出される答えは……。
──超長期的計画に基づく、次世代でのバクシン的長距離挑戦。
間違いなく、これでしょう!
……ちょわっ!?
なんということでしょうか!! - 4二次元好きの匿名さん22/08/21(日) 12:18:30
「よし。それじゃあいつも通り、まずはウォーミングアップから……」
「ところで、トレーナーさん!」
私はズバッと手を上げて発言を求めます。
「なんだ?」
「そろそろ今後の……その、長距離な、いえ、長期的な計画、つまるところですね!将来設計をお聞きしたいのですが!」
ついモジモジとしながら、それを尋ねました。
本当は堂々と学級委員長らしく尋ねれば良いのですが……さすがにこういったことを聞くのは憚られます。
今の私はいろんな「好き」くらいわかりますからね!学級委員長ですから!
「長期的な計画……?あ、ああ、あと1年くらいはトゥインクル・シリーズで頑張った後に、ドリームトロフィーリーグに移行して、ドリームトロフィーの夏冬制覇を目指そう。距離についてはおいおい……」
「いえ!そうではなくてですね!もっと、もーっと、バクシン的長期計画をお聞きしたいのです!トレーナーさんがお考えのはずの!」
「バクシン的長期計画……?」
トレーナーさんが首を傾げます。 - 5二次元好きの匿名さん22/08/21(日) 12:18:55
「トレーナーさん。私、わかっているんです。私の足では長距離で勝つのが厳しいということは。いくらバクシンを続けてスピードを重ねても、難しいことは」
「そんなことは……」
私はトレーナーさんの言葉を遮り、続けます。
「ですがトレーナーさんは諦めていらっしゃられない!そうですね!?」
「……ああ!」
彼が少し間を開けてから、力強く頷きます。
やはり私の想像は正しかったのでしょう。
トレーナーさんは……すべてを考えていらっしゃるのだと!
なんといっても私のトレーナーさんなのですから!
「私の体では難しいですが、私の子孫ならきっと長距離でバクシン的勝利を収めるだろうと!そのために暖かな家庭を築いて子供にバクシン的教育を施していこう!そういう計画ですね!?」 - 6二次元好きの匿名さん22/08/21(日) 12:19:18
「……うん?」
「ああ、そんな曖昧な返事はいりません!学級委員長はすべてをお見通しですよ!優等生ですから!それにしても……なんて大胆な計画なんですか!これは簡単には丸を差し上げられません!」
「ちょ、ちょっと待って、バクシンオー」
トレーナーさんが慌て始めます。
きっと内緒にしていた計画を見透かされたことに驚いているのでしょう。
「待ちません!あの話を聞いた時はなんという過激なことを、と思いましたが、私もそろそろ高等部を卒業します。バクシン的蝶に羽化した身であるならば、トレーナーさんがアプローチをしてくることも許して差し上げましょう!」
3年間ずっと一緒に歩んできたのです。
トレーナーさんには少なからず、いえ、バクシン的に好意があるといっても差し支えないです。
ならば……しっかりと責任を取ってくれるのであれば……すべて問題はありません! - 7二次元好きの匿名さん22/08/21(日) 12:19:45
「トレーナーさん!」
「……はい」
彼は頭に手を当てながら何かを考えています。
きっと愛の告白に違いありません。
しかし!それを聞くのは、もう少し……。
「顔が熱くなってきました!ちょっと走ってきます!正式なお言葉はぜひ両親の前でお聞かせください!バクシンバクシンバクシーン!!」
後ろの方でトレーナーさんが何かを言った気がしますが、それを置き去りにするように、私は走り出します。
こんなにも顔が熱いです。
胸がどきどきするのは全力疾走しているからでしょう。
コースの遠くの方でキタサンブラックさんで走っているのが見えます。
きっと距離にして……ええと、よくわかりませんが!
彼女が走っているところまで追いつけるくらいに、私はバクバク鳴る胸をそのままに。
グングンとスピードを上げていきました。 - 8二次元好きの匿名さん22/08/21(日) 12:20:09
パラパパーパッパパー
!育成継続!
『スピード★★★』
『長距離★☆☆』
『優等生×バクシン=大勝利ッ★★★』
『押し切り準備★★★』
『先駆け★★☆』
おしまい - 9二次元好きの匿名さん22/08/21(日) 12:21:35
しっとりバクシンオーSSだと思って身構えて読んでた
ち が っ た ! - 10二次元好きの匿名さん22/08/21(日) 12:30:11
そのプランの成功例を視界の端に捕らえるのは良いね!
- 11二次元好きの匿名さん22/08/21(日) 13:18:05
バクシンオースレ大好き
きっとドリームトロフィーで3600走るんでしょう