- 1二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 21:55:22
風に踊る艶やかな黒髪が。
「はっ……はあっ……」
憂いを帯びたアメジストの瞳が。
「井ノ上先輩!」
待ち合わせた駅の前で、その人は既に立っていた。
グレーのシャツに緑のカーディガンと、すらっと伸びた足のラインが出る黒のパンツ。落ち着いた雰囲気の色合い。
私の声に気づくと、スマホに落としていた視線をあげて、そっと手を振ってくれる。その手は指先まで、ひらひらと真っ白な絹糸のように美しい。
「チユリ」
「遅くなってっごむみすみませんでしたぁ!」
噛んだ。駆けつけ一番、90度の角度で頭を下げる。周囲の目線を独り占めする勢い。遅刻だ。
この黄名瀬チユリ、一生の不覚。
待ち合わせの時間から30分。寝坊してバスに乗り遅れてしまった。楽しみすぎて、昨晩はちっとも眠れなかったのだ。
ぽんっと頭に、軽い衝撃。思わずビクッと全身が震えたが、痛みはない。それどころか、これはもしかして。
「いいんですよ、ちゃんと連絡はもらってますから」
撫でられている。ああえぇ、おっおお? マジで、うっそ、すごぉい。あ、あ、あの憧れの井ノ上先輩に。
「では、いきましょうか。チユリは買い物に付き合ってほしいんでしたね?」
「は、は、はいっ!」
頭から離れていく感触を惜しみながら、ぴんっと背筋をはって返事する。体が上手く操作できなくて、全身が一本の棒のように"気をつけ"の姿勢になってしまう。
先輩は目を丸くして、それから「ふふっ」と手を口に当てて笑った。……恥ずかしい。でも、先輩の上品に笑った仕草が凄く綺麗で。このためなら、こんな恥いくらでもかける。なーんて。
「年上だからって、そんなに緊張しないでください」
「……はい」
先輩はDAにいた頃とは、全然別人のようだ。昔はもっと尖って、人を寄せ付けない雰囲気を纏っていたけど。上の指示で出向してから、外の世界で経験を積んで成長した、とみんなは言う。でも、私は昔の先輩も……。
おっと、今はそれよりも、大事なことがある。ようのやっとで手に入れた先輩の連絡先。勇気を出して取りつけた休日の約束。失敗は許されない。
先輩にとっては単なる後輩とのお出掛けでも、これは私の"初デート"だ。プランも入念に組んだ。詰め込みすぎないよう時間の余裕も含めて。
「では、どこからいきましょう」
行き先は任せますよ、と先輩が微笑む。さあ、ミッションスタートだ。 - 2二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 21:55:38
「すす、少し早いですけっ、ど、はらごっ……ご、ご飯から、とか、いかがでしょう」
「そうですね、少し喉も乾いてきましたし」
「あわ、わ、私が遅れた、せいで!」
「それはもういいって、言いましたよ」
謝ろうとした私の頭を、ピシャッと白い指先が先制して止める。
遅刻した分、先輩と散歩する時間はやむ無く削り、早々に屋内へ場所を移すことにした。散歩だけならまだ大きな痛手ではない。今日は一日一緒なのだ。移動時間は、散歩の代替にするには充分すぎるだろう。
「あ、あのお店なんてどう、どうでしょう!」
いかにも今目についた、という自然な演技で、道角に佇むこ洒落たカフェを指差す。自然な演技で、指を指す。
「チユリがいいなら構いませんよ」
先輩は柔らかく微笑んで、承諾してくれる。あのカフェは下調べ済みで、店内は落ち着いたシックな雰囲気。この時間帯であれば、人で込み合うことはあまりなく、角の席は壁に遮られて、周囲からは少し離れた個室のような空間になっている。
そこで誰にも邪魔されず、先輩と二人きりの時間に持ち込みたい……!
「外の席にしましょうか、今日は風が気持ちいいですし」
「あっはい……」
そして意外というか、予想外というか。
先輩は慣れた様子で、呪文を唱えるように長い名前のスイーツメニューを注文していた。
「……? どうしました?」
「あっ、いや、なんか意外だなって……」
思ったことをそのまま口にしてしまった。失礼だと思われただろうか。
先輩は、指を顎に添えてなんのことだというように首をかしげた。頭の動きに合わせて、長い黒髪がぱらぱらと舞う。綺麗。 - 3二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 21:55:59
「あぁ、なるほど」
それから、得心がいったようにうんうんと頷く仕草は、年相応よりも幼く見えて、可愛らしい。こんな一面も、勇気を出して誘わなかったら、きっと見られなかったな。
「食事は大切だと、私も先輩に教わったんですよ。楽しく、美味しくあれ、と。その人によく連れられていくうちに、私も」
……そっか。誰かの影響。井ノ上先輩は、昔と変わった。そこにはきっと、私の知らない時間と、人がいる。
すっと自分の中に影が差したような感覚を飲み込んで。ぐっと顔を上げて笑顔を作る。
「へ、へぇー、そうだったんですねぇ! 勝手なイメージで、もっと機能的なお店とか、使ってると……」
「ええ、その通りですよ。普段はもっと、手軽でコストパフォーマンスを重視した……あぁチユリが選んでくれた、こういうオシャレなカフェも好きですよ」
連れてきてくれてありがとう、と先輩はにっこりと聖母のような柔らかい眼差しをくれる。
風に揺れる髪が日の光を反射して煌めいて、まるで街の風景の中に、有名な絵画が浮いて出てきたようだった。
その瞳が私に向けられてるって事実だけで、先ほどの影はすんっと身を潜め、今度は頬のあたりに、ふつふつと熱が差してくる。まったく現金な女だなぁ、なんて自分のチョロさに呆れながら、運ばれてきたスイーツを一緒に先輩と半分こして食べた。
あーんは、さすがに高望みだったけど、先輩が「半分こ」って言葉を使うのが可愛すぎて、キュン死しそうになった。 - 4二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 21:56:20
「そういうわけで、週末はお休みをいただきます」
「……どういうわけ?」
外回りの仕事を片付けて、リコリコに帰ってくると、丁度たきなが先生に休日のお願いをしている場面に出くわした。
「おつかれさん」
「千束、お帰りなさい」
「たっだいまー。たきなー、休み取るの?」
簡単な挨拶を交わして、両手にぶら下げた、仕事の報酬やらついでに頼まれた買い出し物やらが、ごったにまぜられた荷物を下ろす。
たきなが自分から休みを求めるなんて、珍しかった。
「ええ、少し出掛ける用事ができまして。」
「ほほーん。それはなにかね、もしかして、お・と・こ・の・こ?」
からかってやるつもりで小指くいくいっと立てる。「んなっ」ガタン、と厨房の方からなにか落とす音とが聞こえたが、あれは無視していいだろ。
「少し急ですが、忙しい休日にすみません」
「あぁ、構わんよ。その分、出る時にはきっちり働いてもらうさ」
無視された。ちさと寂しい。
ぶー、とあからさまに口を尖らせて不満を訴えるが、たきなは私を一瞥だけして、髪をほどきながら休憩室に消えていった。ノリの悪い子だね、全く。
「私も休んでついていっちゃおうかなー」
「お前は仕事だ。楠木から直接の依頼がきている」
「えぇ~……」 - 5二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 21:56:38
思い付きを口に出してみたが、先生にバッサリ切り落とされた。
週末に予約かぁ。結構でかめのやつかな。
たきなの用事ってのも気になるけど。
急な用事なら仕事なのかとも思ったけど、それなら休みを取る必要ないし、プライベートだろうか。たきなのプライベート、一人でどこにいくんだろ。そういえば、たきなとも結構長い付き合いになるのに、私はそんなことも、まだ知らなかった。
「出掛けるのっていつも一緒だったもんなぁ」
たきなは休日には、遊びにいくよりも、自宅や射撃場で訓練に励んでいるイメージだ。
年頃の女の子なんだから、もっと娯楽を楽しみなさいと漫画や映画も沢山貸したこともあった。その翌週には、原稿用紙に感想文をまとめて渡してきたんだっけ。馬鹿真面目というかなんというか、たきならしかった。
そんなことを思い出していると、勝手に口から「にひひ」と小さく声が漏れる。
「気持ち悪いな」
「なんだとぉ」
下から罵声を浴びせられた。
ノートパソコンを抱えたチビッ子がこちらを見上げている。
「顔がキモい」
「せめて表情って言え、表情」
このおチビのクルミちゃんは、滅多に働かないのに、なにしに来たかと思えば、お客さんが余らせた手付かずの団子を、ささっとさらって持っていきやがった。こういうとこだけちゃっかりしてる。
「クルミぃ」
「あんだー」
立ち去ろうとしたクルミに声をかける。クルミはもごもごと口を動かしながら、柱の影から顔だけ出して返事する。
「たきなが休日に一人で何してるか知ってる」
「知るわけないだろ」
吐き捨てるように早口で消えていった。興味ないことにはとことん興味持たないなぁ。無知は許せないんじゃなかったのかー。
「まあいっか」
別に知らなくて困ることでもないし、今度一緒に出掛けた時にでも、話題に出してみようかな。 - 6二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 21:57:01
「い、井ノ上先輩、その、すごく、お似合いまします……」
「ありがとう、チユリ」
どもって語尾がおかしくなってしまった。
先輩と食事の後、訪れたるは大型のショッピングモール。
寮生活に必要な備品を買って……これは買い出しの口実のためで、本命の買い物ではない。
この巨大な集合店舗、まさか小物だけ買って、はい終わり解散なはずはない。
「よ、良かったら、で……先輩が良けれべ、よかれば……」
「チユリ、落ち着いてください」
「は、はい……その、私用の買い物もしたくて、よければ一緒に、お店を、回っ、たりとか、なんとか……」
もじもじと、つっかえながら喋る私を、先輩は嫌な顔もしないで見つめてくれる。
宝石のような薄紫の瞳に見据えられるだけで、頭がぼうっと熱くなり、余計に口が回らなくなって、それでもなんとか、言葉を絞り出す。
「お、買い物、一緒に、しません、か」
「勿論、構いませんよ」
ふわりと音のつきそうな柔らかな微笑みで「今日はそのつもりでしたから」なんて言葉が付け足される。
う、うあぁ、なんだろうこの。なんだ。年上の余裕というか、魅力みたいなものが。井ノ上たきなという人の一挙手一投足が、私の全身にビリビリと電流を流してくるようだった。 - 7二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 21:57:18
そうして今、私は先輩と一緒に洋服店でお互いの選んだ服を見せあっていた。どこから回ろうかと、私がおたおたしていたら、先輩がそれじゃあと連れてきてくれたのが、このお店だった。
最初は私が前を歩いていたのに、いつの間にか先輩にリードされてしまっている。いっそリードでもつけて引っ張ってもらいたい。何を言っているんだ。
「チユリも、似合ってて可愛いですよ」
「あぶゃ」
予想もしなかった先輩の言葉に、意味不明な音が口から漏れる。いや、妄想はしていたけど、可愛いとか言われたらって思ってたけど。まさか妄想そのままの言葉が贈られてくるなんて。いいのかこんな幸せで。私、今日の代償で明日にでも死ぬんじゃないか。
「じ、じゃあ、このまま、着ていっちゃおうかなぁ、なんて、あはは」
「そうですか、じゃあ私も」
お、うおお、マジですか、なんですか、いいんですかそんな。
貴方がそうするなら私も、ってまるでカップルみたいで。やばい、ニヤける。もじもじるし、くねくねる。
そんなことをしている間に、先輩が店員さんに会計をお願いして、またしてもリードされてしまった。もう私の頭の中のデートプランは、全部捨ててしまっても構わないから、先輩にリードされるまま、どこまでも連れ回されてしまいたかった。 - 8二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 21:57:39
化粧品、バッグ、文房具、ぬいぐるみ……その後も色々なお店を先輩に連れられて見て回った。
私はぶっちゃけて言えば、お店も商品もよく見てなくて、先輩のことばかり見ていたのだけど、先輩は商品を手に取ったりしないで、あまり自分の物を買わないようだった。
とすると先輩は、私に合わせたお店を選んでくれていたのだろうか。うーん、大人だ。カッコうつくしい。
「チユリ、この後いいところにいきましょうか」
「なばんですかっ!?」
「……?」
「な、なんでもないです……」
なな、なになになに? い、いいところ? それってなにか意味深な意味とかあったり、歩くの疲れたからちょっと「休憩」なんて……お、おおお、おちおち落ち着け私。ぶんぶんと頭を振って、現実から飛びすぎた思考を振り払う。
「ど、どこですか? そのいいところって」
「秘密、です」
人差し指を口に当ててシィーのジェスチャー。なんだこのイケメン。
ちなみに休憩タイムは、結論から言えば……あった。
モール内の、スイーツショップで。
まっピンクな自分の頭を殴った。 - 9二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 21:58:05
「はーふぅー」
大きく息を吐きながら、ぐぐーっと背伸びをする。
楠木さんからの指令なんて聞いていたから、気合い入れていたのだけど。
「ボデーガードっすか」
それも、通常SPに複数のリコリスも警護につけた、大人数で。
いやまあ、確かに大仕事なんだけど。結論、私は立ってるだけだった。怪しい動きをする奴は何人も見かけたけど、その誰もが、私が動く前に群衆の中に紛れて消えていった。私より先に、他のリコリスにバレたのが運の尽きってことで。南無。
「やっぱり私も休みもらっておけばなー」
結果論だけど、私は必要なかったでしょ、と。
力を入れて一日立ちっぱなしだったのに、ろくに動くこともなかったからか、体はすっかり凝ってしまっている。ぐりぐりと肩を回して多少のエネルギーを発散するが、この程度ではちっともスッキリしない。
「こんな時はぁ~、遊びに行くのが一番っ」
日は傾いているが、沈むにはまだ早い時間帯。少し寄り道してから帰る余裕は、充分にある。
ただ、堅苦しい制服のままでは、ちょっと物足りない。エンジョイするなら気分もまるっと、お仕事モードから入れ換えないと。
歩きながら目についた洋服店で、下から上まで一式、ガバッと購入。スカートは微妙だったけど、この黄色のブラウスは中々気に入った。今度たきなと遊びに行く時に着ていこうかな。上に合わせたコーデも考えないと。たきな、褒めてくれるかな。
ふんふんと鼻唄を鳴らして、歩き慣れた通りに入る。そこから歩いてもうしばし、目に入ってくるのはお気に入りの水族館。
「やっぱ息抜きにはここだよねぇ」
水槽の中を気ままに泳ぐ生き物たち。
ゆらゆらと気持ち良さそうに揺れながら、私も水の中を自由に泳げたらなーなんて。でも水槽の中は、自由と呼ぶには、狭いかな。泳ぐならやっぱり、どこまでも広い、海がいい。
鳥が空を飛ぶように、私は広い海を泳いで回りたい。
「途中で食われなきゃいいけど」
ぽつり独り言を呟く。
「じゃ、じゃあ、このキーホルダー、とか!」 - 10二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 21:58:34
館内を一通り見て回って、息抜きもばっちり。さーて帰りますかと足を翻した時、無駄にでかい声が耳に届く。
なんだぁテンションの高い奴がいるな。
見回すと、声はお土産ショップの方から聞こえたようで、並べられたグッズの前で女子高生らしき女の子が興奮気味にぴょんこぴょんこ跳ねている。
「お、お揃い、にしても、いいかな、って!」
おーおー、お熱いことで。ラブラブカップルがお揃いのキーホルダー付けようねってことですか。それでテンション高いのね。
うん、まあでも、気持ちはわかる。好きな相手と同じものを身に付けられてたら、私だって嬉しい、と思う。
それってなんか、相手を独占しているような、そんな優越感とか、自分と同じに染めてるんだっていう快感みたいなのもある。ありそう。あるある。
まあでも、館内ではもーちょいお静かにーって感じ。いやー近頃の若いもんは。なんて、私もまだまだ若
………………え。
…………………………え。
「お揃いですか、まあいいですよ」
「ほほ、本当に!」
「ええ、大事にします」
「わ、わ、あ、ありがとうございます!」
……うそ。
その女の子の隣にいたのは、たきなだった。
「それから、もう少し声を抑えてくださいね」
「あ、や……ご、ごめんなさい……」
周囲に向けて頭を下げるその子に、困ったように笑って、ぽんぽんと頭を撫でている。
それからたきなは、その子の手を引っ張って会計を済ませると、私に気づくこともなく、手を繋いだまま外へと向かっていった。
手を引かれて、満面の笑みを浮かべる女の子。
その手を引いて、にこやかに笑う、たきな。
お揃いのキーホルダーを指にぶら下げて。
私は、ただ独り、二人の姿を見送った。
「たきな」 - 11二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 21:59:55
ここまで
別スレで書いたSSに肉付けしたら長くなったので別に立てました - 12二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 22:04:17
嫉妬千束可愛い
- 13二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 22:10:01
重力発生しそう
- 14二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 22:12:11
上質な千束嫉妬SSはいいね
後で摂取するちさたきイチャラブがより美味しく感じるのだ - 15二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 22:14:06
デート中にほかの女の話されて後輩ちゃんもちょっと可哀想なところあるからな。女たらしたきなめ、、、いいぞもっとやれ!
- 16二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 22:28:04
これ「ここ前に来たことある」デートなんだよね…
後輩ちゃんは前に別の女と来たところを案内されて
千束からは一緒に来た思い出の場所を他の女と来られてる - 17二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 22:39:35
千束に優しさを教わって後輩に優しくなるたきな概念はいいぞ
ちさたきがセットだから嫉妬千束もついてくる - 18二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 22:50:18
初期は千束が人たらしだと思ってたけど今はたきなが女たらしのイメージが強いのはやはり男装のせい
- 19二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 22:51:10
変わり始めてた流れを蒲焼太郎でしっかり掴んだ
- 20二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 22:53:23
スタッフも本編で終わった出番を翌週のアイキャッチで使うぐらいには蒲焼推してる
- 21二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 23:07:26
千束みたいな明るい子が信じられないものをみてスンッてなる瞬間がすき
- 22二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 23:09:03
リコリスリコイルで推しは誰かと聞かれたら俺は迷いなく蒲焼太郎と答えるね
- 23二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 23:21:10
- 24二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 23:24:16
千束に教わったお姉さんムーヴが千束に刺さる
- 25二次元好きの匿名さん22/08/27(土) 00:54:55
このレスは削除されています
- 26二次元好きの匿名さん22/08/27(土) 00:59:24
続きは!続きは無いんですか!?
お金なら払いますから是非とも続きを! - 27二次元好きの匿名さん22/08/27(土) 02:02:56
たきな…罪なコ!
- 28二次元好きの匿名さん22/08/27(土) 07:47:57
四捨五入すれば浮気に入る
- 29二次元好きの匿名さん22/08/27(土) 07:48:39
- 30二次元好きの匿名さん22/08/27(土) 07:55:14
たきなが重いのでバランスを取るために千束も重くなるという風潮
- 31二次元好きの匿名さん22/08/27(土) 17:38:56
「レジ締め終わりました」
「お疲れ、あとはやっておくから」
「わかりました、お先に失礼します、店長」
カウンターの向こうで、たきなが一日の売上の清算を済ませて、店長にぺこりと一礼する。
その様子を私は、座敷席でごろごろと眺めていた。
「千束、何してるんですか」
「や、別に」
「はい、閉店ですよー」
たきながカウンターを回ってこちらに歩いてきた。だらだらと転がしていた腕を掴まれ、ムリヤリ体を引き起こされる。
一週間前の光景が、目蓋にちらつく。あの水族館で、私の知らない女の子と笑顔で手を繋ぐたきな。二人でお揃いのキーホルダーを手にもって、楽しそうに。
その光景を思い出すだけで、胸の真ん中がぎゅうっと締めつけられるようだった。私の胸には鼓動もないのに、どんどんと音を立てて心臓が鳴っている風にすら錯覚する。
心が、重い。
ずぶずぶと、底無し沼のように気持ちが沈んでいく。
人間は落ち込むと、体まで引っ張られて重たく感じる。
「早く着替えて帰りましょう」
「ぅあーい……」
重くなった体を引きずるように、ずるずると足を前に動かす。
たきなに引っ張られた腕は、立ち上がってから離されてしまった。たきなの手が触れていた箇所に目をやる。力を込めて握られた部分は、少しだけ手の形に赤い跡ができていた。
更衣室に入ると、たきなはもうほとんど着替えを済ませていて、その早さに相変わらずだなぁ、と感じる。
「千束? どこか体調が優れないんですか」
もたもたと制服に手を掛けていると、もう鞄を背負ったたきなが、心配そうに覗き込んでくる。
その鞄の縁に、ちゃら、と音を立ててぶら下がる、魚型のキーホルダーが見えた。
「ぁ……えぇっと、どうして……?」
「顔色が悪いように見えます。動きも、気怠そうで」
熱でもあるんじゃ、と伸ばされたたきなの手を、反射的に遮って拒んでしまう。行き場をなくしたその手は、空中をふらふらさ迷っていた。
「や、いやいや……大丈夫、平気……」
「……そう、ですか」
「うん……ちょっと、また夜更ししちゃって」
「あぁ……また映画でも見ていたんですか? 寝る前には……」
言いきる前に「わかってるって」と軽く手を振って返す。 - 32二次元好きの匿名さん22/08/27(土) 17:39:27
では、また明日、と更衣室を出ていくたきなの背中を黙って見送る。
出ていく時にも、ちゃらりと揺れる魚が目に映る。
たきなは、あの子とどういう関係なんだろう。休日の水族館に、お揃いのキーホルダー。たきながわざわざ休みを取って、プライベートで会いにいく相手。
そんなの、どう見たって、
「デートじゃん」
誰もいなくなった更衣室で、無意識にぽつりと言葉が漏れる。自分でもびっくりするぐらい、冷たい声。
たきなが休みを取る時、もしかして男かぁ、なんて茶化したことを思い出す。
実際には女の子だったわけだけど。
たきなは女の子で、相手も女の子。
普通に考えたらお揃いのキーホルダーなんて、仲良しの証、ぐらいのものなんだろうけど。
それでも、あの女の子の表情には、それ以上の特別な喜びが見えたような気がして。
たきなにお揃いを認めてもらった時、たきなに撫でられた時、たきなに手を握られた時、たきなに手を引かれた時。
その間、ほんの一時だって、あの子はたきなの顔を眩しそうに、目を輝かせて見つめ続けていた。
たきながそれに気づいていたのかは分からないけど、少なくともあの子の手を引くたきなは笑顔で、その足取りも楽しそうに弾んでいた、と私には見えた。
じりっと喉が熱くなる。お腹にきゅう、と力が入って、どくどくと体を巡る血液の流れが急に速くなるのを鳩尾のあたりで感じる。
なんなんだ、これ。
「…………っすぅー……はぁー……」
息が乱れていたわけではないけど、一度こころを落ち着けるために、深く息を吸って、吐く。
すー、はー、すー、はー……よし、大丈夫。私は、大丈夫。
ぴちっと軽く頬を叩いて意識を入れ換える。
制服を着替えて、更衣室を出る。簡単な事務作業をしている先生と目があって、軽く手を振ってお店を出る。 - 33二次元好きの匿名さん22/08/27(土) 17:40:09
一歩踏み出したところで、お店の前のベンチが視界に入った。このまま帰る前にちょっと座っていこうかな。鞄を下ろして、ベンチに深く腰かける。
はー、とため息をついてから、あっ今幸せが逃げたかな、なんてことを考える。最近、自分でも溜め息が多いことに気がついた。
水族館でたきなを見かけて一週間。
たきなと一緒にいたあの女の子のことを、私はずっと気にしている。
なんてことない、ただ一言「一緒にいた子は誰?」って、たきなに聞けばいいだけなのに、私はその一言をずっと言えないでいる。他人のプライベートに踏み込んで、迷惑だって思われたくない。たきなには、私の知らない友人がいる。単純にそれだけのことで、昔は孤立していたたきなに、交遊の幅が広がるのはいいことで、私がその交遊関係に、首やら口やら手やらをどうこうする理由はない。
嘘だ。
千束流の強がりだ。
たきながなんて答えるのか、それを聞くのが怖いから聞けないでいるだけだ。
「あの子、誰」
暗くなった空を仰いで、今日のお昼を思い出す。
スマホを手にしているたきなを見た。誰かと連絡を取っているようで、たきなが指を動かした後に、スマホが振動するということが何度もあった。
その相手は、もしかしてあの子だろうか。
スマホの画面を眺めるたきなの顔は、弾ける笑顔!とまでは言わないが、なにもしていない時よりも、どこか柔らかい印象だった。
目があったけど「どうしました?」と聞かれて、私は「なんでもない」としか言えなかった。
たきなが誰と連絡しているのか、知りたかったのに、知りたくなかった。
視線を落とすと、鞄の縁できらきらと反射する光が目に入る。犬のストラップ。
去年、たきなに貰ったハロウィンのプレゼント。新品の時よりも、少し汚れてしまっているけれど、私の宝物で、今でもずっと大切につけている。
「お前、なに見てんだよー」
うりうりと、指先で犬の顔をつつきまわす。
お前のご主人様は、何を考えてるんだろうなー。
ん? ストラップの持ち主は私だから、ご主人様は私か? まあいっか。
ころころ音を鳴らして揺れるストラップを、ぴたっと指で止めて、再び夜の空へと視線を移す。
どうしちゃったんだろう、私。
たきなにあの子のことを聞いて、それがもし、単なる友達じゃなかったら、それが私になんの関係があるんだろう。 - 34二次元好きの匿名さん22/08/27(土) 17:40:59
ある。きっと。
だから私は、答えを聞くのが、知るのが怖いんだ。
じゃあ私にどう関係してるのかって聞かれたら、それを考えて、答えることも怖い。
怖い怖いで怖いものづくし。
その場凌ぎの都合がいい感情ばかり選んで、私は私を誤魔化している。
結局、振り返ってみれば私が全部のことから逃げているだけで、あと少し勇気を出して一歩踏み込めば、きっとこの悩みも解決して、でもその解決が望んだ方向にいくとは限らなくて、だから私はその一歩の勇気が出せないでいる。
「どっかに、落ちてないかな」
勇気。
いや、きっと違うなぁ。
もうどこかに、落としてきてしまったんだ。
私は、たきなと一緒にいて、嬉しくって、楽しくって、幸せで。幸せでいることが、怖くなってしまった。
幸せでなくなるのが、怖くなってしまった。
たきなに踏み込むのが、怖かった。
踏み込んで拒絶されるのが、怖かった。
拒絶されて、私を見てもらえなくなるのが。
怖い。怖い、怖い、怖い。
だからもう、動けない。私は、動かない。
私とたきなの距離は一定で、進むことも戻ることもない。でもそれは、私から見た時だけ。
たきなからは、分からない。
私以外にも友達ができて、たきなにも大切な人ができて、その時たきなは、私よりも他の誰かを優先して、その時きっと、私たちの距離は離れていく。
動かない私を、置いていく。
「どうしたら、いいんだろ……」
誰にもともなく溢した疑問に、答えが返ってくることはない。
腕を前に伸ばして、先ほどたきなに掴まれたところをもう一度確認する。
もうそこに手の跡はなく、皮膚のどこも同じ色をしていた。いっそのこと、一生消えない跡になってくれれば、よかったのに。
そんなことを考えながら、跡の消えた腕に唇をつける。皮膚の表面を挟むように咥えて、ひっぱる。
唇を離すと、アザほどでない、ぽわっとした小さな赤みが肌に浮かぶ。
ここに、たきなの跡が確かにあったのだと、標し。
今日は、この腕を抱いて寝よう。
頭の中のもやもやは何一つ消えないまま、私は帰路についた。 - 35二次元好きの匿名さん22/08/27(土) 17:42:28
ここまで
- 36二次元好きの匿名さん22/08/27(土) 17:58:28
めっちゃ好き
- 37二次元好きの匿名さん22/08/27(土) 17:59:30
この千束は
しっとりだね - 38二次元好きの匿名さん22/08/27(土) 18:20:04
思いが重い
- 39二次元好きの匿名さん22/08/27(土) 19:23:02
重い女はいいぞ
- 40二次元好きの匿名さん22/08/27(土) 20:47:48
やっぱこう言うしっとり系修羅場は心に刺さる。切なくてとても良いですね
- 41二次元好きの匿名さん22/08/27(土) 20:51:53
しっとりかな…?
ずっしりかな… - 42二次元好きの匿名さん22/08/28(日) 02:43:17
自分の生にすら無頓着な千束がたきなだけには独占欲を示すようになるの好き
- 43二次元好きの匿名さん22/08/28(日) 02:45:02
9話見る限り千束はたきなの幸せを願って応援しそうなんだよなぁ…
そしてやっぱりたきなは千束以外眼中にないわ - 44二次元好きの匿名さん22/08/28(日) 02:54:21
だからこそ内心はもやもやを抱えているけどっていうのがいいんだ…
- 45二次元好きの匿名さん22/08/28(日) 03:45:05
このSS年跨いでる設定だし千束には是非たきなに救われて生き残ってたきなに独占欲を抱えてほしい
- 46二次元好きの匿名さん22/08/28(日) 03:54:41
- 47二次元好きの匿名さん22/08/28(日) 09:29:41
私のためにあんなに命を張ってくれたたきなが他の子と…なんてなったら凄く重たそう
- 48二次元好きの匿名さん22/08/28(日) 12:55:40
それでも千束は優しい女の子だから、たきなの幸せを思って遠慮しちゃうし、たきなの服の裾を弱々しく摘まんで「…行かないで」って言うのが精一杯なイメージがある
- 49二次元好きの匿名さん22/08/28(日) 15:42:15
続きはあるのかな
- 50122/08/28(日) 15:45:12
本編の重圧見て内容と着地点考えてます
- 51二次元好きの匿名さん22/08/28(日) 16:54:48
- 52二次元好きの匿名さん22/08/29(月) 01:34:21
>もうそこに手の跡はなく、皮膚のどこも同じ色をしていた。いっそのこと、一生消えない跡になってくれれば、よかったのに。
ここ本編の千束見た後だと本編でもありえそうなぐらいたきなのこと想ってそうで怖い