私はとある島の金持ち 第3幕

  • 1122/08/28(日) 21:19:40
  • 2122/08/28(日) 21:20:08

    フレバンス壊滅から1ヵ月
    世界の市場はようやく落ち着きを取り戻してきた
    新たな素材の供給もあり、高騰していた代替品となる素材たちの値も適正価格帯にほぼ戻っている
    新聞でも大きく報道されることはなくなり、せいぜい関連情報が隅の方に小さく載っているだけだ
    風評被害に関しては相変わらずだが、1月前よりは多少マシになった
    このまま風化していってくれることを願おう

    それはそうと、今回の一件で思わぬ収穫があった
    高騰していた素材の価格是正のため、様々な市場関係者に連絡を取っていたのだが、その中である商会の重役から面白い話を聞けた
    なんでも、新世界に貝殻の研究をしている一団がいるらしい
    貝の研究と聞いて最初は食用貝の研究でもしているのか?と思ったが、何でも彼らが研究しているのは「音を蓄えられる貝」なのだそうだ
    その重役はそんなおとぎ話のようなものを本気で研究している奴らがいると嘲るように笑っていたが、私はその話に衝撃を受けていた

  • 3122/08/28(日) 21:20:34

    音を蓄える貝
    間違いない、音貝(トーン・ダイヤル)だ
    音貝、空島にのみ生息する貝の一種、その貝殻
    空島の貝の殻は種類によって水や空気など様々なものを吸収、自在に取り出すことが出来る
    その一つが音を蓄えられる貝。音貝だ
    その存在を知るものは業界でもごく僅かであり、そもそも空島を空想の産物と思っている者も多い
    私でも、実物を見たのは2,3度だけだ
    初めてその存在を知った時の衝撃は今でも覚えている
    これがあればエンターテイメント業界に革命をもたらすことが出来る、そう考えた
    だが、生息地が生息地だけに、商品にできるだけの数を用意するのもほぼ不可能
    直接出向こうにも、あまりにリスクが大きすぎたため、泣く泣く断念したこともある
    その研究がどのようなものかはわからない
    だが、その研究結果によっては地上で安定した音貝の入手、もしくはその代替品を手に入れられる、その手掛かりを掴めるかもしれない
    私はすぐさまその一団に関しての情報を重役から聞き出し、自身の持つあらゆるコネを使って接触を試みた

  • 4二次元好きの匿名さん22/08/28(日) 22:00:43

    保守

  • 5二次元好きの匿名さん22/08/28(日) 22:09:44

    age

  • 6二次元好きの匿名さん22/08/28(日) 22:10:41

    10まで保守

  • 7二次元好きの匿名さん22/08/28(日) 22:10:52

    保守

  • 8二次元好きの匿名さん22/08/28(日) 22:11:12

    保守しろCP0!

  • 9二次元好きの匿名さん22/08/28(日) 22:11:55

    保守

  • 10二次元好きの匿名さん22/08/28(日) 22:48:20

    このレスは削除されています

  • 11二次元好きの匿名さん22/08/29(月) 00:19:04

    保守!
    音貝便利だよな〜

  • 12二次元好きの匿名さん22/08/29(月) 07:33:28

    あの世界の貴重な録音装置だもんな、TD

  • 13二次元好きの匿名さん22/08/29(月) 16:04:35

    色んな手立て考えてるのすごいけど、それもこれもテゾーロの黄金の才能に出会ったからってのが本当に熱い

  • 14二次元好きの匿名さん22/08/29(月) 16:26:33

    あの日出会えたキセキ

  • 15122/08/29(月) 21:40:05

    音貝を研究する一団―といっても博士と助手の二人だけだったが―とのコンタクトは思いのほかスムーズに行えた
    今は電伝虫越しに博士と会話しているが、その声の節々に疲れの色が見える
    話を聞くとこの博士、何でも元はとある国所属の探検家だったが数年前、全くの偶然から空島へのルートを発見
    島自体は廃墟となっていたが、そこに生息していた生きた音貝を数匹捕獲することに成功したそうだ
    さっそく祖国に持ち帰ったが、王や国民はこの成果を信用せず、逆に彼らをペテン師扱いしたらしい
    結局二人は国を追われ、今は自分たちを追放した国を見返してやろうととある島で音貝の研究を続けている
    ただ、そんな夢物語に協力する人間には出会えず、貯金を切り崩して細々と続けているようだ
    そんな彼らを、件の商会の重役のように奇異の目で見ている人間もいるようで、この電伝虫も冷やかしか何かだと思われているようだ

    私は早速この博士に研究への出資と、研究成果の独占的な使用権に関する契約を申し出た
    最初博士は私が何を言っているのかわからないという様子だったが、徐々に言葉の意味を理解していったようで、最終的には電伝虫越しにも狂喜しているのが分かった
    移動時の危険性を考えれば今の島で研究を続けてもらいたいところだが、研究の秘匿性と緊急時の安全を考慮し、幸いにも生きている音貝を安全に運ぶ方法もあるそうでなので、こちらで移動手段と護衛を用意し、我々の暮らすこの島まで来てもらうことにした
    一番は海軍の船に乗せてもらう事だが、後ほど交渉してみよう
    無理なら多少金はかかるが、向こうの代理人を通して腕利きの傭兵を集めるしかないか
    とにかく、これは千載一遇のチャンスだ
    この音貝をビジネス化できれば、最終的には電伝虫放送と同様、業界に革命を起こせるだろう
    いくら金がかかろうと、どのような手を使おうと、必ずものにしなければならない

  • 16二次元好きの匿名さん22/08/30(火) 01:21:12

    >>15

    研究にはお金がかかるからなぁ…金持ちさんと出会えて良かったね

    これが成功すれば夢にまた一歩近づくな!

  • 17二次元好きの匿名さん22/08/30(火) 05:55:41

    ここを独占できればかなり大きいな
    がんがれ

  • 18二次元好きの匿名さん22/08/30(火) 13:29:22

    どこまで行くんだこの金持ち

  • 19二次元好きの匿名さん22/08/30(火) 13:59:54

    保守

  • 20二次元好きの匿名さん22/08/30(火) 16:09:18

    >>18

    世界のエンタメ牛耳るまで?

  • 21122/08/30(火) 20:27:30

    相場より割増の金を払ったおかげで海軍との交渉はスムーズに進み、博士たちは無事、我々のいる島までたどり着いた
    長旅の疲れを癒させるべく到着から丸1日宿で休ませ、その翌日には電伝虫で伝えられたとおりに揃えた研究施設兼彼らの住居に案内した
    その過程で現時点での研究成果として、人工繁殖の成功例だという音貝見せてもらい、試しにテゾーロに歌を入れてもらった
    その結果分かった音貝のクオリティーは、まぁまぁ上等と言えるもの
    生の歌声と比較すると多少ノイズが入っている気がしなくもないが、テゾーロの歌声を聞きなれている私だからこそ気になる程度で、商品化に支障を来すほどではない
    そもそもまだ商品化前の研究段階だ、クオリティーよりも生産性を重視させるべきだろう
    博士に今後、音貝が安定生産できるレベルになるまでどれほどの期間が必要か聞いたところ、今回の出資による研究の加速を鑑みても、少なくとも10年はかかるとの見通しらしい
    私はそれを了承し、改めて10年間の出資と研究結果の独占使用権契約を結んだ
    10年後以降に関しては、その時点での研究の進み具合によって再契約を結ぶ運びだ
    少なくとも現時点で、私はこの事業を捨てる気はないが、将来的に出資の継続が大きなリスクになることも考えうる
    そのための期間設定だ
    この間に一定の成果を上げられれば、博士たちには高額な成功報酬を支払う約束もしてある
    おかげで二人は俄然やる気を出し、さっそく研究に取り掛かり始めた
    そのやる気が最後まで続いてくれることを願おう

  • 22122/08/30(火) 20:28:26

    さて、それからの1年ほどは大きな事件もなく平穏無事に過ごせていた
    音貝に関する研究は牛の歩みだが少しづつ進んでいるし、放送用電伝虫の普及・新型の開発・劇団やグラン・セーニョ号の興行も、失敗やいくつか細かい問題はあるものの順調にいっている
    グラン・セーニョ号に関しては、連結船として食事のできるレストラン船とグッズやそのほかブランド品が購入可能な商業船を現在製造中だ
    今回トムは海列車の開発が忙しそうだったため船の設計だけ頼み、あとは私の信頼する別の造船会社に依頼した
    さすがにトムのようにほかの業務の合間に半年で、というわけにはいかないが、それでも1年以内には完成する見通しだ
    これが完成すれば、次はホテル船やカジノ船を造る予定だ

    他に特筆すべきものはこれと言ってないが、強いてあげるならテゾーロとステラの子育てに関してか
    もともと二人ともあまり幸せな家庭環境とは言えなかったようで、それまでのことを取り戻すように現在の幸せを満喫している
    おかげで休みを調整するこちらとしては気を遣わされている
    だが、最近はさらに忙しくしているテゾーロには、良きリフレッシュとなっているのは確かだ
    十分な時間を与えねばならない

    そんな平穏な日々のさなか、あの世界を揺るがす大事件は何の前触れもなく起こった
    その日私はグラン・セーニョ号でとある島に訪れていたが、屋敷に待機させていたタナカからの緊急連絡でその事件を知った
    『魚人による聖地マリージョアにおける奴隷解放』の報を
    この報せを受けた時、私は世界が大きく動く音を聞いた気がした

  • 23二次元好きの匿名さん22/08/30(火) 20:50:57

    >>22

    ビッグニュース!!!!

    文字通り世界が動いたな!!!

  • 24二次元好きの匿名さん22/08/31(水) 02:35:58

    テゾーロとステラが幸せそうで何より…
    ここでタイガーさんの奴隷開放か!あれは今考えるとすごい事件だよな…

  • 25二次元好きの匿名さん22/08/31(水) 06:33:33

    >>21

    10年って長く感じるが、繁殖期が年一回だとしたら実験のチャンスはたった10回だからな

    この辺は生物相手の難しいところだ

  • 26二次元好きの匿名さん22/08/31(水) 13:41:00

    地道な研究の積み重ねでやっと成果が出るものだよな…対象が生き物だと特に
    上手くいきますように!

  • 27二次元好きの匿名さん22/08/31(水) 19:24:43

    本来だとテゾーロはこの事件にいたんだよなぁ
    この世界ではどうなるか

  • 28122/08/31(水) 21:48:45

    この世界を一周する唯一の大陸「赤い土の大陸(レッドライン)」
    その大陸上に存在する神々たる天竜人の住まう地、聖地マリージョア
    そこで、大規模な奴隷解放事件が発生したという知らせを受けたのは、つい先ほどだ
    そもそも本来であればどの国でも奴隷という存在とその売買は禁じられているが、そんなものは建前
    いくつかの大きな町には色々と理由を付けて奴隷を扱っている店がある
    ステラが売られていた店などまさにそれだ
    とにかく、いくら禁止されていようと奴隷は未だ存在し、それを政府は見ぬふりをしている
    当然、マリージョアの天竜人達も数多の奴隷を所持しているが、それが今回解放されたのだ
    もちろん彼らが自主的に開放したのではなく、ある下手人が力づくで引き起こしたのだ
    その名をフィッシャー・タイガー、タイの魚人で冒険家だ
    一度ある島であったことがあるが、気のいい男でこんな大事をしでかすような奴には思えない
    とはいえ人には様々な事情という者がある、奴にもそれほどのことことをするほどの何かがあったのだろう
    とにかくそこら辺の考察は後回しだ、今はとにかく情報を集めなければ

  • 29122/08/31(水) 21:49:09

    すでに政府公認の業者や世経新聞の放送用電伝虫では、この一件に関する放送―情報提供の呼びかけや事件の概要説明などがが行われている
    それを含めて今現在手に入れられている情報では、タイガーはマリージョアで大暴れしたのち逃亡
    解放された奴隷たちも何人かは捕らえられえたらしいが、逃げ出した人数の全体から見れば1割にも満たないらしい
    聖地への侵入を許しただけでも大問題だというのに、ここまで暴れられ、かつ逃げ切られたとあれば政府の大失態と言っていい
    全力を挙げてタイガーや逃げた奴隷たちを追うだろ
    また、逃げ出した奴隷を連れ戻すため、天竜人が自ら出てくる可能性もある
    政府の動向を注視し、あらゆる状況に対応できるよう準備を整えねば・・・

    そこで私はあることに気が付き、背筋が凍った
    この事件に関する放送を、他の奴隷たちが聞いたらどう思うか
    脱走防止用の首輪もあるため大半はそんな気は起こさないだろうが、それでも一部の奴は自分もと行動を起こすかもしれない
    最初はその意思がなくとも、行動を起こした者たちに感化され、賛同するものが増えるかもしれない
    その行いが逃走であればまだいいが、これが暴動に発展すればどうなるか

  • 30122/08/31(水) 21:49:43

    私が懸念しているのは、私が購入し電伝虫の養殖場で働かせている奴隷たち
    現在時刻は夜、奴隷たちは夜勤の者を除き食後の自由時間をとっている頃だ
    彼らの一番の楽しみは電伝虫放送であり、おそらく今晩も何人かは聞いているだろう
    それがもし、この放送を聞いていて、先ほどの最悪の可能性に行き着いてしまっていたら…

    私は慌てて予定していた翌日の公演をキャンセルし、本拠地の島へ戻った
    奴隷たちが行動を起こすとして、逃げるだけなら構わない
    何処へなりとも行くがいい
    だが、施設が破壊せれていたらたまったもんじゃない
    今が一番のかき入れ時だ、ここで供給施設を破壊されるのは痛手どころの話ではない
    私は最悪の状況になっていないでくれと、1分1秒でも早く着くよう祈りながらなんとか島にたどり着き、そのままの足で養殖場に直行
    そこで私の目に飛び込んできたのは…


    …普段と変わらぬ様子で仕事にいそしむ、奴隷たちの姿だった

  • 31二次元好きの匿名さん22/08/31(水) 23:16:33

    買った主人がまともな人ならそっちのが安定してるからなあ
    マリージョアの奴隷環境は最悪だけど、一般にはどこまで知られてるやら…

  • 32二次元好きの匿名さん22/09/01(木) 03:07:37

    それなりの環境できちんと給料がもらえるなら充分だよなぁ
    金持ちさんの下で働けるのはむしろラッキーだわ

  • 33二次元好きの匿名さん22/09/01(木) 06:16:19

    社会かなりクソだからな
    金持ちさんのこの扱いなら奴隷の方が利がある

  • 34二次元好きの匿名さん22/09/01(木) 12:22:38

    アルスラーン戦記だっけ、奴隷解放して奴隷に「なんて事しやがる!」って言われたの
    選択肢増えるだけだと本人の能力無いと詰むよね

  • 35二次元好きの匿名さん22/09/01(木) 13:44:11

    そろそろ金持ちさんは自分が皆にどれだけ慕われてるのか自覚した方がいいと思いますよ!

  • 36二次元好きの匿名さん22/09/01(木) 15:48:25

    自由より首輪がほしい人もいるだろうな

  • 37122/09/01(木) 21:30:37

    申し訳ございません
    諸事情により、本日分の投稿は休止させていただきます

  • 38二次元好きの匿名さん22/09/01(木) 22:20:47

    >>37

    無理なさらずー

    のんびり待ってます

  • 39二次元好きの匿名さん22/09/02(金) 02:11:57

    毎日更新するのは大変だよなぁ…
    保守は任せろ!

  • 40二次元好きの匿名さん22/09/02(金) 06:07:06

    (バリバリ~~

  • 41二次元好きの匿名さん22/09/02(金) 13:34:56

    スレ主さんがほぼ毎日更新できるの尊敬してるわ…凄いのよ毎日書くのって

  • 42二次元好きの匿名さん22/09/02(金) 18:17:52

    この金持ちさんなら奴隷になりたい

  • 43122/09/02(金) 21:34:08

    子どもたちのはしゃぐ声が聞こえてくる
    すでに満腹で眠気眼の子もいるが、大抵の子は昼に遊べなかった分この自由時間で思いっきり遊んでいる
    ここはとある島にある電伝虫の養殖場
    私たちのご主人様である、○○様が所有している施設だ
    私たちは、そこで働いている奴隷で、この施設だけでもおおよそ80人くらいいる
    大半が女子供で、10人ほど力仕事のための男の奴隷もいるが、みんな気の優しい穏やかな人たちばかりだ
    ここでの仕事は大きく分けて3つ
    電伝虫達の世話、改造と出荷の手伝い、身の回りの雑務だ
    前二つは言わずもがな、最後の一つに関しては、主に自分たちの食事作りや施設の掃除、後は電伝虫達の餌になる植物の育成など
    餌の育成を行っている畑では、同時に自分たちが食べるための野菜も育てていて、島の温暖で安定した気候や○○様が足りない分を支給してくださっているのも相まって、私たちは毎日十分な食事にありつけている

    今は夕食後の自由時間、夜勤の人間以外は寮に戻り、本を読んだり遊んだり、思い思いに過ごしている
    中でも人気なのが、○○様の興行の一つであり、この施設が存在する理由でもある電伝虫放送だ

  • 44122/09/02(金) 21:34:35

    「さぁみんな、今日はどれを聞こうかしら?」

    この施設一の高齢であり、奴隷たちのまとめ役であるエイダおばあさんが聞いてくる
    どれ、というのはもちろん、電伝虫放送のチャンネルのことだ
    1年ほど前までは一つだったが、最近になってチャンネル制が導入され、複数の業者がそれぞれ別個に放送するようになった
    また、もともと放送自体電伝虫の体調なども考慮して1日に1~2時間程度しか行っていないこともあり、みんながそれぞれ違う業者の放送を聞きたいというようになってチャンネル争いが勃発
    見かねた○○様の命でエイダおばあさんを中心に意見を纏めて多数決で見るチャンネルを決めるよう指示された

    「私、シューエツ歌劇団がいい!マダム・ポフィーの歌また聞きたい!」
    「えぇーあれのどこがいいんだよ、それよりケッサク音楽団にしようぜ
    今日はロックバンドのCrushersが歌うって言ってたし、そっちの方が盛り上がるだろ!」
    「あ、あの…、わたしは、できれば、『船上の星』の朗読会が、いいかな、なんて…
    前回が、恋のライバルが登場したいいところで終わっちゃいましたし…」
    「朗読会なら海軍のチャンネルがいい!ソラの朗読聞きたい!」

    皆が思い思いに見たいチャンネルを言っていく
    最終的に意見が出きったところで、エイダさん監督のもと、仁義なき決闘、という名のじゃんけん大会で見るチャンネルを決める、というのが毎日の流れだ
    そして今日決まったのは

  • 45122/09/02(金) 21:35:29

    『そこまでだ、ジェルマ66!!』
    『おのれソラめ!また邪魔をしよったな!』
    「やっぱかっこいいなぁ、ソラ!絵物語よりも迫力ある!」

    海の戦士ソラ、世界経済新聞で連載している、絵巻物だ
    海の上を歩ける戦士ソラが、巨大合体ロボとカモメを従えて悪の軍団『ジェルマ66』と戦うヒーローものだ
    世界中にファンがいるらしく、この寮においてある連載分をまとめた単行本は複数人が何度も回し読みをしている影響で少しボロくなっている
    そのソラの物語を、海軍のチャンネルでは朗読会として放送している
    しかも、本職の劇俳優を態々雇っているらしく、その臨場感は本当にすごい
    先ほどは色々文句を言っていたものも多かったが、今はみんな食い入るように聞いている
    そして、放送が終わればそのまま就寝時間
    各々の部屋に戻って眠り、明日はまたお仕事を頑張る
    それがいつものパターンだった
    が、今日はいつもとは違っていた

    『放送の途中ですが、臨時ニュースです』
    「えぇー-⁉」

    ソラの朗読会が中断され、ニュースが流れる
    海軍や世経のチャンネルでは、たまにこういうことがある
    凶悪な海賊が事件を起こしただとか、そういった緊急のニュースを流すのだ
    放送が始まる前までは普通の電伝虫でも同じようなことはあったが、今ではその頻度が確実に多くなっている

  • 46122/09/02(金) 21:36:23

    大概は遠い海の出来事のため私たちには関係がなく、せっかくのお楽しみを中断されたみんなは文句を言っているが、今回はそうはいかなかった
    流れてきたニュースの内容が、信じられないものだったからだ

    「ねぇ、これって…」
    「う、うん…」

    話を要約すれば、マリージョアで奴隷の大規模解放事件が起こった、というもの
    建前もあるのか直接的な単語はだしていないが、奴隷の証である天翔ける竜の蹄の焼き印を持つものと、事件の犯人である赤い肌の魚人を探しているとのことだ
    私たちの奴隷の扱いは程度の差はあれど―ここを除き―どこも似たり寄ったりだ
    でも、天竜人の奴隷は想像を絶する
    人間扱いなんてもってのほか、動物扱いされればまだいい方、物扱いされ壊されるものが大半だ
    ここにも数名だが元天竜人所有の奴隷がいるが、話題が出るのもトラウマなのか速報が流れ始めたときから青ざめた顔で震えている
    そんな彼らが解放された
    それはいい、見たこともない人たちだが、同じ奴隷として喜ばしく思う
    でも、わたしたちにとっての本題はそこじゃない
    周りの皆は真剣な顔で黙っているが、そんな沈黙に耐えかねたのか、一人がおもむろに口を開いた

    「ねぇ皆、もし、もしもだよ?ここから出られるってなったら、出たいと思う?」

    その質問はまさしく、私たちの心中の核心だ
    遠い海だが、確かに奴隷が解放された
    本来同じ奴隷がこのニュースを知れば、大半の者は自分たちも自由になりたいと思い、中には行動に移す者もいるかもしれない
    でも、私たちは…

  • 47122/09/02(金) 21:36:49

    「…わたしは、ここがいい…!ここにいたい…!」

    一人が声を上げる、先ほど言った天竜人の奴隷で、施設の中でも特におとなしい子だ
    それを皮切りに、あちらこちらで「あたしも」「自分も」と声が上がる
    正直、私もそうだ
    私を含め、この施設の奴隷のほとんどの者には身寄りがない
    戦争で家を焼かれた、海賊に目の前で家族を殺された、など
    挙げればきりがないが、とにかく家族を亡くし天涯孤独の者や故郷そのものがもうないという者が殆どだ
    そんな私たちが自由になったところで、生き残るすべなどない
    身体を売って生計を立てるか、犯罪者に身をやつすか、最悪野垂れ死にや人攫い屋につかまって奴隷に逆戻りが関の山だ
    これで明日死ぬかもしれないとか、死んだほうがマシという状況だったら、一か八かの賭けに出るかもしれないが、ここは違う
    十分なご飯がある、安心できる寝床がある、なにより安全がある
    無いのは外を好きに出歩く自由くらい
    それだって、施設内であればある程度散策できる
    ここに執着する理由はあれど、逃げ出す理由のあるものはいない
    …一部を除いて

  • 48122/09/02(金) 21:38:19

    「…私は、やっぱり帰りたい。家に、お父さんとお母さんの所に」

    そう声を上げたのは、この施設では珍しく故郷が健在な娘
    3年ほど前人攫い屋につかまり、流れ流れてこの施設に来たそうだ
    他にも2,3人が同じように声を上げる
    まぁこういう子もいるだろうが、だからと言って逃げられるかもということ自体架空の話だし、一応逃走防止用の爆弾付きの首輪もまだ嵌っている
    逃げたいからといって、逃げられるわけでは…

    「でしたら、○○様にお願いしてみましょう!
    神のように御心の広い○○様であれば、真摯にお願いすればきっとわかっていただけるはずです!」
    「えぇ!?」

    奴隷が言っているとは思えない頓珍漢なことを言っているのは、昔はシスター見習いだったという娘
    海賊に故郷を焼かれてヒューマンショップに売られ後、相当ひどい主人に買われたらしくその主人が飽きて再び売られ、ここに来たときは生傷に覆われた身体と光のない瞳で薄ら笑いを浮かべた、見るに堪えない姿だった
    今では傷も癒え、自然な笑顔で日々を過ごしているが、その過去から今の生活を与えてくれた○○様のことを深く尊敬、いやあれはもう崇拝の域に達していて、○○様は神の使いとか危ない発言を度々している
    実はこの施設にはそういった者が他にも何人かいるが、今はどうでもいい
    とにかく、奴隷が逃がしてくれと主人に直談判するなど聞いたこともないが、○○様であれば軽く叱られるくらいで済むだろう(本来なら折檻だ)
    それをわかっているのかいないのか、次に○○様が視察に来られた時にダメもとで話してみようという流れになり、その場は解散になった

    奴隷であれば誰もが自由に憧れるわけではない
    少なくとも私は、明日も知れない危険な自由よりも、多少の束縛はあっても安全で安寧のある不自由がいい
    奴隷根性と笑うなら笑えばいい、私にとっては今が確かに幸せなのだ

  • 49二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 01:58:05

    奴隷にも色々あるんだな…やっぱり金持ちさんの所は破格の待遇だわ
    直談判に金持ちさんがどう返すのか気になるな

  • 50二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 02:04:20

    保守

  • 51二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 11:51:07

    神のように心が広いで笑いかけたけど、あの世界で奴隷にまでまともな待遇してくれる金持ちってめちゃくちゃ少ないだろうからなあ

  • 52122/09/03(土) 17:36:37

    以上が、施設の奴隷の一人から聞き取りした昨日の様子と奴隷たちの心情だ
    …正直、なんと言っていいのかわからない
    確かに私は意図して身寄りのない女子供を中心に奴隷を集めていた
    外に頼れる親族や帰れる故郷がある場合、望郷の念がいずれ反抗心に変わることを恐れたからだ
    十分な食事や寝具、娯楽遊具を置いておいたのも似たような理由
    彼らの反抗心を削ぎ、積極的に労働に従事させるためだった
    が、私が想定していたのはあくまで反抗心の軽減
    こんな、反抗を通り越してここにいたいとか言い出す奴隷がいる、というかほとんどだとは想定していなかった
    奴隷は皆自由になりたがっているものだと思っていたが、どうやら違うらしい

    そしてそれ以上に信じられなかったのが、奴隷の何人かが故郷に帰りたいと直談判に来たことだった
    普通に考えて奴隷が直接解放してくれと主人に直接、しかもこんな堂々ろ頼みに来るなど、かつてあっただろうか?
    おまけに直談判に来た一団の先頭にいる女―確か海賊に子故郷を焼かれたシスター見習いだったはず―の目が、これまた異様だ
    なんというか、聖なる物を見るような。妙にキラキラとした目で私を見ている
    奴隷が主人を見る目ではない
    ハッキリ言ってしまうと、薄ら寒いものを覚えて少し恐ろしいまである

  • 53122/09/03(土) 17:37:16

    私個人としては、彼らを帰すのにそこまでの反対の意思はない
    殆どの者たちが故郷や親族を失っている中、彼らにはそれがある
    その意識の違いはやがて奴隷たちの中で不和を生み出す原因になりかねない
    それならば彼らを手放し、同じように家族も故郷もいない奴隷を新しく仕入れた方が安全だ
    彼らをまた人間屋に売る手もあるが、彼らの今後を知る手立てのない奴隷たちはまだしも、元奴隷のステラもいる手前、あまりそういったことはできない
    聞いた限り彼らの故郷は距離こそあるものの、同じ海にある
    連れていくのにそこまでの苦労はないだろう
    また、彼らがここに来てからの労働を類似業種の平均月給で試算した結果、生活費や送っていく場合の必要経費を計上しても、あと数ヵ月で必要分に達することが分かっている
    殆どの者が普通の人間で、おまけに技能のない者や子供が多いため元値が安かったのも影響しているが

    とにかく、私としては彼らを解放するのに異存はないが、それはそれとして問題がある
    今回の聞き取りで感じたが、奴隷たちからの私への畏怖があまりにもなさすぎる気がする
    今回の直談判などその最たる例だ
    威厳のない主人ではいずれ奴隷たちも私のことを侮り、言うことを聞かなくなる可能性もある
    とはいっても今から方針を転換すれば、今までなかった不満が一気に募る可能性もある
    正直両方にリスクがある
    これを解決できない以上安易に開放するわけにもいかないため、私は直談判してきた者たちに「考えておくと」とだけ伝え、屋敷への帰路に就いた

  • 54二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 21:15:07

    この世界、移動が安全じゃないのが、クソ世界度かなり高めてるよなぁ……

  • 55二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 23:31:30

    畏敬より畏怖気にしてるのも慎重で好きだけど、帰っていいよしたところで送って行く位じゃないと帰れないよねえ…

  • 56二次元好きの匿名さん22/09/04(日) 00:23:47

    シスターがやべー奴で草
    奴隷じゃなくて普通に雇用主と労働者にしちゃダメなのかな?

  • 57二次元好きの匿名さん22/09/04(日) 00:33:17

    >>56

    残念ながら企業スパイが来る可能性を考慮しての奴隷だからなぁ

  • 58二次元好きの匿名さん22/09/04(日) 06:18:57

    機密保持で缶詰は今でも、ね

  • 59二次元好きの匿名さん22/09/04(日) 16:50:00

    保守

  • 60二次元好きの匿名さん22/09/04(日) 20:01:08

    >>57

    なるほど、そういう事情があったのね…

    さすが金持ちさん、リスク管理がしっかりしてらっしゃる

  • 61122/09/04(日) 20:42:10

    帰宅したのち、この問題をバカラに相談した
    我が娘ながらバカラはとても優秀だ、そして柔軟性もある
    電伝虫放送やグラン・セーニョ号の構想をした彼女なら、私が思いつかない解決法を見つけてくれるかもしれない

    一連の話しを聞いたバカラは少し考えた後、「このままでいいのではないか?」と言ってきた
    曰く、今の環境が彼女らの望む場所であるなら、逆に言えば今の居場所を失うことを何よりも恐れるはず
    ならば、今のまま彼女らの安寧を保証し、問題を起こしたりすれば施設から無一文の状態で放り出す、と奴隷たちに伝える
    そうすれば、現状を失う恐怖で奴隷たちを縛ることが出来る
    今から恐怖による支配に移行させるのは難しいし、せっかく生まれていない反抗の意志を持たせることになりかねない
    であれば、このまま不自由な幸福と私への感謝によって縛り続ける方が得策ではないか、とのことだ

  • 62122/09/04(日) 20:42:38

    …確かに、昨日の時点で奴隷たちから畏怖の念はほとんど感じられず、逆に畏敬の念が強かった気がする
    私はこれまで奴隷という者を持ったことがなく、他の興行主仲間や仕事相手から話を聞いたことがあるくらいのため、正直彼女らとの正しい接し方というのが分からない
    これまでの方針から急転換してなにが起きるかもわからない、このまま畏敬路線で行くのが得策か

    結局バカラの案で行くことにし、ついでにあの元シスター見習いにも手伝わせて奴隷たちから畏敬の念をさらに集中させることになった
    正直私は反対したが、この路線で行くなら徹底的にした方がいいというバカラからの要望によるものだ
    …今後は施設への視察の頻度を減らそうか…

    そして件の解放希望者に関してだが、こちらは奴隷たちとの融和政策の一環で、数か月後に解放、電伝虫の営業に合わせて順次故郷まで送ることになった
    問題は解放した際の情報漏洩だが、彼女らが行っていたのは主に子電伝虫への餌やり等の比較的単純作業であり、繁殖作業などの機密に当たる仕事は関わらせていないため、危険性は低いと思われる
    また、彼女らを解放し故郷に送り届けた後、その恩人であるという精神的優位性をもって電伝虫の営業を有利に進めさせてもらう
    家族を解放した恩人が紹介し、かつその家族がその有用性を保証している物なら、契約をとれる可能性はグンと増すだろう
    少々セコく感じられるかもしれないが、せっかく買った奴隷を手放すのだ
    悪評にならない範囲で、最大限有効活用する
    イメージが重要なこの業界で、このバランス感覚こそが命なのだ

  • 63二次元好きの匿名さん22/09/04(日) 23:46:19

    やるんなら徹底的に、なタイプか…バカラちゃん強い
    まあタダで返すのももったいないよね

  • 64二次元好きの匿名さん22/09/05(月) 02:05:06

    このシスター見習い、そのうち神のご加護目潰しやってきやしないだろうな?

  • 65二次元好きの匿名さん22/09/05(月) 05:21:04

    保守

  • 66二次元好きの匿名さん22/09/05(月) 13:26:57

    保守

  • 67122/09/05(月) 21:48:37

    結局他の施設においても同様の対応を行う事になり、第2、第3養殖場においても聞き取りをしたところ、合計で7名の解放希望者が確認された
    この7名の施設内での労働時間とその内容を精査した結果、最短で3ヶ月、最長でも8ヶ月で解放に必要な労働期間に達することが分かった
    全員を分けて故郷に贈るのは手間もコストもかかるため、最短の者には悪いが8ヶ月必要な者が終わるまで労働に従事してもらい、その期間分の給料を解放時に支払うことにした
    最短の者はそこまでしなくともと言っていたが、十分な就労期間が過ぎたものは解放するという最初の約束を反故にしているのだから、これくらいは当然だ
    こういった部分をなぁなぁですまそうだとか、奴隷だからと平気で契約を破るようなことがあれば、私自身の沽券にかかわる、決して手抜きしない
    特に金に関しては、な
    と言ったら、なぜか周り奴隷たちの何人かが涙ぐみ、他にもキラキラとした―あの元シスター見習いの娘のような―目でこちらを見ているものもいる
    これでもまだましな方で、場合によっては祈りだすやつとかもいる
    たまったもんじゃない

    業務精査のために彼らのデータを見直してみて分かったが、そういった反応をしているのは大概が出戻り―1度他の主人に買われ、飽きたなどの理由で再び売られた者たちが殆ど、というか全員だ
    そういったのは自然と安値になり、予算の関係からこの施設に買い集められた者にはそういう類が多い
    前の主人のもとでよっぽどな目に合ってきたのか、ここに来た時点でほとんど者が多かれ少なかれ体にも心にも傷を負ったボロボロの状態だった
    特にこの施設は業務内容と反逆時の対処のしやすさの観点から女子供の奴隷が多く、そういった奴らが売られる前に何をされていたのかなど、わかり切っている
    今は治療や時間をかけた自然治癒で生傷を負っているものはいないが、大きな痕になっていている者は依然として多い
    その影響か、こういった人間扱いしているだけであんな反応をされるのだ
    正直最初は私に気に入られようと打算でやっているものと思っていたが、本人たちへの聞き取りの内容を聞く限り本心からの行動らしい
    余計にたちが悪い、やはりしばらく施設への視察の回数を減らすとしよう

  • 68122/09/05(月) 21:49:57

    結局、解放する奴隷たちは8ヶ月後に纏めて故郷に送ることで決定し、それまではこれまでと変わらず施設で労働に従事させることになった
    後は引き続き、残っている奴隷たちから畏敬を集中させる路線で行くのだが、正直これ以上必要なのかは疑問だ
    バカラ曰く、マリージョアの奴隷脱走で皆の気持ちが浮つきかけている今こそ深く楔を打つべき、とのことだ
    こういった人心掌握術は私も多少は得意だが、彼女のソレは現時点でも私を凌駕しうる
    将来何処まで行くのかが楽しみだ

    とにかく私の奴隷問題は収まったが、これですべて解決したわけではない
    まだマリージョアの奴隷解放事件は解決していないのだ
    レッドラインから距離のあるこの地ですぐさま影響が出ることはないだろうが、世界政府の動きも含めて何があるかはわからない
    警戒し、何が起きても対処できるよう準備しておくに越したことはないだろう

    そう考えながら養殖場から舞台の練習をしている劇団のもとに向かうと、テゾーロがしきりに背中を気にしていた
    どうしたのか聞くと、右肩のあたりが妙に疼くそうだ
    虫にでも刺されたのかと服を脱がせてみたが、刺された様子も何の痕もない
    それをテゾーロに告げると途端に疼きが止んだらしく、本人も何だったのかよくわかっていないようだ
    まぁ気のせいだろうが、また疼きだしたらかゆみ止めでももらってくるように言い、私はその場を去った

  • 69二次元好きの匿名さん22/09/05(月) 22:49:20

    金持ちさんマジ理想の上司
    テゾーロ大丈夫かな…?何事もなければいいけど…

  • 70二次元好きの匿名さん22/09/06(火) 06:27:07

    奴隷はホントに世界の闇だな

  • 71二次元好きの匿名さん22/09/06(火) 17:03:41

    保守

  • 72122/09/06(火) 22:16:17

    その後、タイガーと逃げ出した大部分の奴隷たちの行方は分からず、海軍はじめ政府の役人たちは血眼になって探している
    一説にはタイガーは魚人島の仲間たちと合流し海賊団を結成したという情報もあるが、真偽のほどは定かではない
    とにかく、これに関してはこちらに実害があるわけでもないため、追加の情報がない限り動けない
    今後の動向に注視しつつ、放置するしか手がないのが実情だ
    基本それ以外は平和なもので、祭りやの異名をとっていた海賊フェスタが海王類に食われて死んだとか、ソコソコ有名だったボクサーのフォクシーが凶器使用の発覚でライセンス取り消しになったりしたくらいだ
    個人的にフォクシーのライセンス取り消しは驚きだった
    割と面白い試合をするため少し気に入っていたのだが、残念だ

    そして個人的な要件だが、最近のテゾーロに関してだ
    1年前、おつるに助言を受けてから仕事の合間を縫ってコツコツと修行に励み、最近では自身の3倍の程の大きさの金を操れるようになるまで成長している
    実はグラン・セーニョの建造に当たり、人の手では難しい金細工の装飾をテゾーロに修行がてら作ってもらっているのだが、それが功を奏したようでただ操るのではなく自身の手足のように自在に操れるのだ
    このまま順調に成長すれば、その内建物や船のような巨大建造物サイズの金を操れるようになるかもしれない
    そのレベルだと操るための金を集めるのも不可能に近いが、本人が金を生み出せるためそこは問題ない
    むしろ問題は使用後の金の後始末だが、市場に流さず保管しておくだけなら市場価値を下げることにもならないだろう
    そのままグラン・セーニョの装飾に利用してしまえば予算も浮いて一石二鳥だ

  • 73二次元好きの匿名さん22/09/06(火) 22:16:32

    このレスは削除されています

  • 74122/09/06(火) 22:17:39

    まぁそこまでいかなくとも、ある程度の量の金を操れるようになったら、本格的に戦闘訓練を積ませるべきだろう
    本人の能力も加味して自身やステラ達家族を守るための自衛能力は必要不可欠だ
    その訓練のためのインストラクターと、昨今の荒れる世界情勢への対策も合わせて、タナカと同様戦える側近がもう一人欲しいと考えている
    誰かいい人材がいないか、いろいろと当ってみるか
    先日のマリージョアの一件のように、いつ何時何が起こるかわからない
    対策はしてしすぎるということはないのだ



    …そんなことを考えていた矢先だった
    私のもとに、ある一通の手紙が届いたのだ
    内容はお茶会への招待状、だが実際は地獄への召集令状
    宛先人の名はシャーロット・リンリン、新世界は万国の女王にして四皇の一角を担う女傑
    大海賊"ビッグ・マム"主催のお茶会への誘いだった

  • 75二次元好きの匿名さん22/09/06(火) 22:21:21

    ひぇ…

  • 76二次元好きの匿名さん22/09/06(火) 23:58:54

    テゾーロが順調に強くなってるようで何より…と思ったらマム!?
    金持ちさんが目をつけられてしまった…

  • 77二次元好きの匿名さん22/09/07(水) 07:52:20

    保守

  • 78二次元好きの匿名さん22/09/07(水) 15:00:33

    そりゃこんだけ大事業やってたら目つけられるわなぁ

  • 79二次元好きの匿名さん22/09/07(水) 18:37:41

    政府も怖いが海賊も怖い

  • 80二次元好きの匿名さん22/09/07(水) 18:47:07

    テゾーロの右肩が疼いてるとき、傷のない綺麗な肩と愛する女が傍らにいる姿を見て泣いてる原作テゾーロの亡霊というか思念を幻視して俺は泣いてる

  • 81二次元好きの匿名さん22/09/07(水) 21:25:11

    このレスは削除されています

  • 82122/09/07(水) 21:26:09

    本日は1レス分のみになります
    短くて申し訳ございません

  • 83122/09/07(水) 21:27:17

    ビッグ・マム主催のお茶会
    開催理由はその時々で異なるが、今回は彼女の第77子にして36女に当たるフランぺのお披露目会という名目だった
    …相変わらず冗談のような数だ、というかまた増えたのか
    彼女ももう50は超えているはずなんだがな
    それも含めて恐ろしい女だ

    正直に言えば行きたいとは思わない、が、出席しないわけにもいかない
    奴と私の関係は彼女も知っていて必要以上の手出しはしてこないだろうが、だからと言って自身の顔に泥を塗ったものを簡単に許すような女ではない
    特に、赤の他人に対しては
    要求通り参加し、適当に相手をして帰ってくるのが得策か
    となれば、いろいろと準備が必要だ
    まずはバカラとタナカに今進めている仕事の引継ぎと裁量権を与えておく
    お茶会の開催は1ヶ月半後、ここから新世界にある万国まで最短海路を通っても2週間はかかる
    また、安全面から魚人島を通るルートは当然通れず、マリージョア経由で新世界に入らなければならないが、その申請待ちにも2週間かかるとして、片道だけでも丸1ヵ月はかかる
    これが往復だ、その間仕事を止めるわけにはいかない
    後は持っていくプレゼントも必要だ
    ビッグ・マム――リンリンは財宝よりお菓子を好むが、財宝が嫌いなわけではない
    特に宝箱を開けるのは大好きで、当然その中身も必要だ
    早急に用意しなければ
    準備も警戒も怠らず、とは言え一応お茶会だ
    せいぜい、楽しませてもらうとしよう

  • 84二次元好きの匿名さん22/09/08(木) 00:37:16

    地獄の招待にも冷静に対処して準備する金持ちさんかっけえ…
    何事もなく帰ってこれますように…!

  • 85二次元好きの匿名さん22/09/08(木) 02:56:04

    さすがの胆力だ

  • 86二次元好きの匿名さん22/09/08(木) 12:59:16

    海賊(マム)も怖いけど航路も怖い。
    金持ちが無事に帰って来れますように。

  • 87二次元好きの匿名さん22/09/08(木) 21:01:20

    あのお茶会メンバーくらいの格はあるわけだ、金持ちさん

  • 88122/09/08(木) 21:24:18

    本日の投稿分に関しまして、都合により休止させていただきます
    誠に申し訳ありません

  • 89二次元好きの匿名さん22/09/08(木) 22:12:33

    ゆっくりで大丈夫だよ!いつもありがとうイッチ!!

  • 90二次元好きの匿名さん22/09/09(金) 00:08:14

    保守

  • 91二次元好きの匿名さん22/09/09(金) 05:20:06

    保守貝

  • 92二次元好きの匿名さん22/09/09(金) 14:16:30

    保守

  • 93122/09/09(金) 21:51:06

    「やっとついた、か…」

    招待状を受け取って一月半、島を出発してから一か月が過ぎた
    レッドラインまではグラン・セーニョで問題なく航海できたが、シャボンディ諸島での通行許可町が予定より数日かかってしまい、新世界での旅路は少々難所越えを余儀なくされた
    普段であれば荒れ狂う気候や海賊たちによって危険な航路だったが、護衛がついていてくれたおかげで問題なく進むことが出来た

    「ここまでの護衛、感謝するよタマゴ君」
    「礼には及ばないでソワール、○○殿はこの茶会の大切なビッグゲストだボン
    傷の一つでも付けられればママの顔に泥を塗ることになるブプレ」

    ビッグ・マム海賊団の戦闘員、タマゴ男爵を始めとした護衛がついていたことが大きい
    マリージョアを通過後、私を含めた数人のお茶会ゲストが乗り込んだのは自身で購入した船ではなく、ビッグ・マムが用意した客船、に見せかけた海賊船だった
    乗組員もほとんどが偽装されたビッグ・マム海賊団の構成員であり、そのおかげで少々強行軍になった旅路も無事に乗り越えられた
    他にも別の船で来た招待客が続々到着しているようで、会場に続く港はそれなりに賑わっている

  • 94122/09/09(金) 21:52:04

    「よぉ~○○!ひさしぶりじゃねえか!」
    「…ギバーソン、また吞んでいるのか」

    話しかけてきたのは、老舗倉庫業の主、”隠匿師”の通り名を持つギバーソンだ
    彼もビッグゲストの一人のようで、ビッグ・マムの主要戦闘員たちに守られながらの登場だ

    「かてぇこというなよ、せっかくの祝いの席なんだからよぉ」
    「茶会で酒を飲んでいる人間に言われたくはない」
    「ギャハハ!ちげぇねぇ!」

    こいつとはトム同様古い仲だが、昔からこのノリにはついていけない
    プライベートの付き合いはなく、こういった社交の場以外ではビジネスの付き合いしかないが、向こうは度々このノリで絡んでくるので少々鬱陶しい
    おまけに目立ってしまったようで他の客や万国の住人たちがこちらを見ながらヒソヒソ話している
    居心地悪いことこの上ない

    「最近、またお前の名前を聞くようになってうれしいぜぇ~
    この前のフレバンスの件でもご活躍だったようじゃねぇか」
    「嫌味はやめろ、あの時は代替品の値を吊り上げようと画策してただろう
    「まぁな、だが恨んじゃいねぇぜ?新しい取引も増やしてくれたからなぁ
    それでトントンで貸し1つにしといてやるぜ?」
    「好きに言っていろ」

    何が貸しだ、失った儲け分を他のルートで取り戻せるよう計らってやったというのに
    こういうノリが苦手なのだ

  • 95122/09/09(金) 21:53:09

    「そう邪険にすんなよ○○、古い裏社会を知ってる奴らも少なくなってきててよぉ、お前がまた活動しだしたのがうれしいのは本当なんだぜ?」
    「…だったら新しい奴らを相手したらどうだ?
    ル・フェルドの倅なんぞ将来有望だろう」
    「あぁ、跡取りはあいつだろうなぁ
    他だとピエクロんとこも最近大頭し始めてるって話だしなぁ」
    「そういえば、今回モルガンズは来ないようだな」
    「らしいな、まぁ今はこの間のマリージョアの一件もあって忙しそうだしいいんじゃねぇか?」
    「…かもしれんな」

    そんな感じで会場までの道すがらや豚車の中で―あくまで暇つぶしのために仕方なく―雑談をしながら進んでいると、会場の入り口が見えてきた
    入り口になる顔のついた扉―絵ではなく本当に生きている―の前に立っているのは、ズボンとマントだけという格好に赤とオレンジの髪をした、身長5m近い大男
    ビッグ・マムの四男、オーブン君だ

    「失礼だがお客人、ボディチェックにご協力願いたい」
    「珍しいな、息子である君が直接指揮を執るなど」
    「あぁ、本当はうちの参加の海賊にやらせる予定だったんだが、そいつらが奪った宝をちょろまかしていたことが分かってな
    皆殺しにしたのはいいんだが替えが用意出来なくて、急遽おれ達がやることになったんだ」
    「ギャハハ!とんだ命知らずがいたもんだ!」

    確かにその通りだ
    まぁ、そんな蛮勇があったからこそこの海で生き残れたという事か
    いや、もう死んでいるのか
    まぁそんな奴らのことは今はどうでもいい
    私たちはオーブン君たちに持っていた武器を預け、案内されるままに扉をくぐる
    いよいよ、地獄のお茶会の始まりだ

  • 96二次元好きの匿名さん22/09/10(土) 00:10:49

    ビッグマム海賊団に護衛されるとか超VIP待遇だな!
    オーブン兄さんをオーブン君呼びできる金持ちさんすごい…

  • 97二次元好きの匿名さん22/09/10(土) 08:14:01

    どきどきしてきた
    金持ちなら大丈夫だろうけど

  • 98二次元好きの匿名さん22/09/10(土) 18:03:27

  • 99122/09/10(土) 18:17:45

    「…おい、今のって…」

    隣にいた友人が話しかけてくる
    話の内容は当然、今まさに我らの目の前を隠匿師ギバーソン氏と話しながら通って行った紳士のことだろう
    周囲の人間もその話題でもちきりだ

    「あぁ間違いない、○○氏だ」
    「やはり…、数年前から再び活動を再開したとは聞いていたが…」

    言いたいことはわかる
    あの生きる伝説が10年以上ぶりにこの新世界に姿を現したのだ、動揺するのも無理はない
    事実、私も驚いている

    「そんなに、すごい方なのですか?このお茶会にビッグゲストとして呼ばれているからには、相当な人物とはわかりますが…」

    そういっているのは某大商会の跡取り息子だ
    確か彼の実家もそうだったはずだが、彼はまだ実務を勉強中で業界のことも分からないことだらけだと言っていた
    その事も知らないのだろう

    「だったら覚えておきなさい若いの、○○氏という方はな…」

  • 100二次元好きの匿名さん22/09/10(土) 18:17:58

    このレスは削除されています

  • 101122/09/10(土) 18:22:45

    表裏に関わらず、社会の上層に坐する者たちの中で○○という名を知らないものはいない
    事の始まりは40年以上前、彼は偉大なる航路でも1,2を争うカジノ街で、常勝無敗、恐れ知らずのギャンブラーとして名をはせていた
    己が全財産をかけた一点張りの繰り返し、恐怖というものを知らぬかのようなその賭けによって彼は瞬く間に世界有数の財力を手に入れた
    当然イカサマを疑われたが、誰一人としてそれを証明できたものはいない、いや、実際ないのだろう
    全ては彼の強運ゆえだ
    しかし、ある時を境に彼はギャンブラーを引退、それまでに得た金を使い投資家として活動を始めた
    そこからだ、彼の本当の伝説が始まったのは

    投資家としての彼の腕は、ギャンブラー時代とは真逆
    ともすれば臆病と言えるほどに、警戒し、情報を集め、慎重に慎重を重ねて投資先を決める
    それだけならそこらの投資家と変わらない
    問題だったのは、その投資先の数と規模だ
    彼は一度投資先を決めれば、妥協することなく徹底的に自身の懐にそのすべてを入れる
    すなわち、一件の投資先を決めれば、そこに関連するすべてに投資をするのだ
    一時期は一つの商品をとっても、その販売から製造、流通、素材に至るまですべての資本に彼の名がある、なんてこともあった
    そんな投資案件が少なくとも100や200では効かない数あったのだ
    最も隆盛を極めた時期には、世界の3割の資本を彼が握っているといわれた時代もあった
    さすがに現在はそこまでの勢いはないが、それでも今なお世界に名だたる大企業の大株主であったり、巨大施設や有名船舶を多数所有しているのだ
    それがどれほどのことか、言うまでもないだろう

    そんな彼を指す通り名は多い
    "投資王"、"世界のフィクサー"等々…
    だが一つ、最も使われている通り名がある
    彼の投資手腕に恐怖を覚えた同業者が彼を揶揄して言ったのが始まりと言われているが、その真偽は定かでない
    とにかく、その短いながら端的に彼の異常性を示したそれが、彼の異名として世界に広まっていった
    すなわち、"怪物"
    "怪物"○○、それが彼の名前だった

  • 102二次元好きの匿名さん22/09/10(土) 18:24:14

    新世界の怪物、か……
    新商品を販路までがっつり囲いこむのは利の独占として強すぎる……

  • 103二次元好きの匿名さん22/09/11(日) 00:44:29

    金持ちさんの通り名どれも格好良い!
    第三者目線で語られるの良いね…

  • 104二次元好きの匿名さん22/09/11(日) 00:47:20

    テゾーロ以前の『怪物』だった男概念はちょっと良すぎる

  • 105二次元好きの匿名さん22/09/11(日) 06:02:14

    投資家始めてからは自分の力で戦ってるのつよい

  • 106二次元好きの匿名さん22/09/11(日) 17:48:28

    保守

  • 107122/09/11(日) 22:12:08

    「よく来てくれた、○○殿、ギバーソン殿
    ウェルカムドリンクはいかがかな?」
    「スムージー、せっかくだが私は紅茶で結構」
    「俺も、こいつがあるからな」

    そういって持っている瓶をラッパ飲みするギバーソン
    断った私が言うのも難だが、飲むならせめて用意されたものを飲めと思う

    「そうか、もうすぐママも来る、存分に楽しんでいってくれ」
    「あぁ、そうさせてもらうよ」

    実際、お菓子にうるさい彼女の本拠地とあって、ここで出される菓子の類は絶品だ
    紅茶と共にそれらを楽しんでいると、地響きと共に現れる9mにも届くかという桃色の影
    桃色の髪と服、そして三角帽を身にまとう女性、ビッグ・マム海賊団船長にして四皇の紅一点
    ビッグ・マムことシャーロット・リンリンその人だ

    「みんな!今日はよく来てくれたねぇ!」

    参加者が口々に挨拶する
    しかし、横から見ていればわかるがその顔は笑顔ながらかすかな怯えと恐怖の色が見える
    まぁむべなるかな、天災が服を着て目の前にいるようなものだ、恐怖するなというのが無理な話
    そうこうしているとついに我々の前にリンリンが到達した

    「おや、ギバーソン!それに○○!久しぶりだねぇ!」
    「お招き感謝するよ、リンリン、何年ぶりだったかな?」
    「そうだねぇ、前はジョコンドの誕生祝んときだったから、8年ってとこかい?」
    「もうそんなに経つか」

    本音を言えばまだ8年かという気分
    正直心臓に悪いので今回を最後にしてほしいところだ

  • 108122/09/11(日) 22:12:36

    「お前さんが新世界を離れてもう10年以上になるかね
    最近はまたいろいろ動いてるようじゃないかい」
    「ああ、おかげさまでな
    今日はその産物を贈り物として持ってきた、受け取ってくれ」
    「おや!」

    そう言いながら持ってきた宝箱をリンリンに渡す
    リンリンは心底嬉しそうに宝箱を開けると、その中身、彼女の巨体を考えるとあまりに小さな電伝虫を取り出した
    桃色の本体に宝石や金で装飾を施された、最新型の受信専用放送電伝虫だ

    「おぉ、こいつが噂の…」
    「噂以上、というべきだろうな
    こいつは品種改良の末に生まれた傑作、過去最高の音質を持った個体でな
    この日のために用意したんだ」
    「そうかいそうかい、そいつはうれしいねぇ!」
    「今の時間ならちょうど放送をやっているところもある
    さっそく使ってみてくれ」

    私がそういうと、リンリンはその巨体に見合った太い指で器用に受信用電伝虫を操作し始めた
    すると流れてくるのは放送を行っている業者の中でも上位の人気を持つシューエツ歌劇団の歌姫、マダム・ポフィーの歌う讃美歌だ
    その鳥のさえずりのごとき歌声が会場中に響き渡り、参加者たちは皆聞きほれている

    「んーいい歌だねぇ、素敵なプレゼント、感謝するよ○○」
    「なに、礼には及ばんよ」

    それなりに気に入ってくれたようで、ひとまずは胸をなでおろす
    ここで彼女がプレゼントを気に入らなければ、それで命を狙われる危険もあった
    とりあえずは安心、と、思っていたのだが…

  • 109122/09/11(日) 22:13:14

    次の瞬間彼女の眼はそれまでの童女のようなものから、一国を支配する大海賊のソレに変わっていた

    「それで○○、前の茶会での話だが、心は決まったかい?」
    「…リンリン、その話なら正式に断ったはずだが」
    「ママハハハ!そんなすぐに欲しいものを諦めるようなやつぁ、海賊失格だ」

    そう笑うと彼女は腰を低くし、私の顔を覗き込んでくる
    そして、問いかけるようにこう言った

    「何度でも誘ってやるよ○○、オメェ、俺の娘と結婚しろよ」

  • 110二次元好きの匿名さん22/09/11(日) 22:18:27

    ヒェッ、マム怖え…
    金持ちさん還暦なのに結婚させようとするのか…まあマムからすれば些細な問題か

  • 111122/09/11(日) 22:25:41

    本日の投稿分に関しまして
    本来ビッグ・マムの一人称は"おれ"の所を、変換ミスで"俺"と表記してしまいました
    謹んで、お詫び申し上げます

  • 112二次元好きの匿名さん22/09/12(月) 02:52:18

    マムやっぱしたたかだわ

  • 113二次元好きの匿名さん22/09/12(月) 07:32:15

    誰があてがわれるんだろう
    何だかんだでマム、マッチング能力高いからな

  • 114二次元好きの匿名さん22/09/12(月) 13:11:36

    >>111

    言われるまで気づかなかったから大丈夫ですよ〜

    細かいことは気にしない!

  • 115122/09/12(月) 22:26:02

    「そうは言うがねリンリン、長女のコンポート君ですらまだ36だろう?
    2倍近い歳の男に嫁ぐというのは度かと思うがね?」
    「おんやぁ○○、お前さん結婚に年齢が関係あるって思ってる口かい?」
    「少なからず人生設計には重要な要素だ、あっても一桁差が理想だとは考えているがね」

    冗談も交えつつ話しているが、実際は腹の読み合いだ
    リンリンにはこれまでに30人を超える夫と70人以上の子供たちがいる
    しかし、子供たちはともかく、夫となった男で生きている者はほんの数人程度だろう
    リンリンにとって夫とは子種を奪い子をなすための道具、必要なくなった道具は放り出すのものだ
    そういう意味ではただの人間でしかない私は彼女の夫としては求められなかった
    彼女が求めているのは、私の持つ財と資本
    それを間接的に手に入れるために、私と自身の娘を結婚させ、私を傘下に加えようとしているのだ

    「それに、私に妻はいないが娘はすでにいてね
    今になって新しい母ができるというのも、多感な年ごろだしどう思うか」
    「あぁ、バカラとか言ったかい?
    いいじゃないか、母親がいて喜ばない娘はいねぇだろ?」

    やはり知っていたか
    リンリン、というかビッグ・マム海賊団の情報収集力は同業者の中でもピカイチだ
    別に隠しいるわけでもないバカラの存在など、知っていて当然か
    しかしそうすると、最悪バカラの存在を脅しとして利用されかねない
    早めに話を終わらせる必要がある

  • 116122/09/12(月) 22:26:33

    「リンリン、やはり私のような老いぼれが、君の娘たちのような将来ある子たちを娶るなど釣り合わない
    もっとふさわしい者がいるのではないかね?」

    あくまでこちらを下げて、要求を取り下げさせる
    ビジネスでは使える手だが、ここではどうか…

    「ハァ、そうかい、そこまでいうんなら、仕方ないかもねぇ」

    諦めて、くれたか…?

    「だがね○○、老いぼれってのは聞き捨てならないねぇ
    欲しいもんを抜きにしても、おれはお前を買ってるんだよ、○○
    お前さんがいてくれりゃ、おれの海賊王への道がまた近づくってもんだ
    それを言う事欠いて老いぼれとは、お前を評価してる俺の目が曇ってると言いたいのかい?」
    「…そういうつもりはなかったんだが…」
    「とにかくだ、お前が嫌だからってそう簡単に引き下がったんじゃ、おれの面子にかかわる
    おれの誘いを断るってんなら、相応の落とし前を付ける覚悟があるんだろうね?」

    …少々まずいことになったかもしれん
    思いがけずリンリンの不評を買ってしまったようだ
    このままの流れだと、アレが来るかもしれない、いや十中八九来るだろう
    みすみす取られる気はないが、万が一もある
    持っていかれないよう、気をしっかりと持たなくては
    リンリンが口を開く
    来るか、と気を持ち直し、身構えようとした次の瞬間
    視界の端で、希望の光が瞬いた、気がした

  • 117122/09/12(月) 22:27:01

    「リンリン、いいのかい?マザーカルメルがいらっしゃったようだが?」
    「!!」

    私の声につられてリンリンが後ろを振り向く
    ちょうど会場の入り口から、写真立てをもった兵士が入ってきたところだった
    写っているのはリンリンが何よりも神聖視する老女、マザー・カルメル
    かつてエルバフに存在した孤児院『羊の家』の管理者であり、その昔巨人族と人間の懸け橋となったといわれる、まさに聖母と言われるにふさわしい功績をなした女性だ
    私も噂だけは知っていたので、裏の世界とかかわるようになり、彼女の正体が実は孤児売買のブローカー「山姥」だったと知ったときは大層驚いた
    そして聞けば聞くほどその非効率ながら隙のない稼ぎ方に嘆息したものだ
    なんでもリンリンも羊の家にいたらしく、そこから彼女をマザーと慕うようになったんだとか
    だが47年ほど前のある日を境に、羊の家にいたリンリンを除く孤児たちと共に彼女は消息不明になった
    その時、何が起きたのかは私は詳しくは知らない
    しかし、巨人族は何かを知っているらしく、彼らはひどくリンリンを毛嫌いし、同時に恐れている
    君子危うきに近寄らず、この件には首を突っ込まない方が得策だろう
    重要なのは、リンリンにとってマザーの存在は他の何を差し置いても最優先されるべきものだという事だ
    それを示すように、リンリンは腰を上げて満面の笑みでマザー・カルメルの写真の方へと歩き出す
    ひとまず、命の危機は脱せたようだ
    私がホッと胸をなでおろそうとすると、不意にリンリンが振り返った

    「○○、マザーの前だ、今日の所は勘弁しといてやる
    まだあの野郎と正面切ってやりあう気もないしねぇ
    だが、おれは欲しいもんを妥協するつもりは毛頭ない、それだけは憶えときな」

    そういって再び写真に向けて歩みだすリンリン
    緊張の糸が切れて自然と深いため息が漏れた

  • 118122/09/12(月) 22:27:37

    「ぎゃはは、よく生きてたじゃねぇか○○!やっぱ持ってんなお前!」
    「笑いごとかギバーソン、こっちは死ぬ思いだったんだぞ」
    「いいじゃねぇか生きてんだから
    あ~あ、だが久しぶりに見てぇ気もしたなぁ、ビッグ・マムの『魂への言葉』!」

    …仮に見れていたら、私が死んでいたかもしれないというのに、こいつは…
    やはりこいつは苦手だ
    それはともかく、今回のことでリンリンが未だに私を欲しているというのは認識できた
    今後の対応を改めて考えるという点でも、一度奴と連絡を取った方がいいかもしれない
    私は島への帰還後の予定を立てつつ、カラカラに乾いたのどを潤すため、すっかり冷めてしまった紅茶の残りを啜った

  • 119二次元好きの匿名さん22/09/13(火) 01:43:14

    さすがマム、一筋縄じゃいかないな…
    まだお茶会始まってもいないのに緊張感がやべえ

  • 120二次元好きの匿名さん22/09/13(火) 05:55:34

    やっぱ老獪だわ、マム

  • 121二次元好きの匿名さん22/09/13(火) 13:37:56

    保守

  • 122二次元好きの匿名さん22/09/13(火) 18:25:39

    怖い怖い

  • 123122/09/13(火) 21:42:03

    あれ以降リンリンは宣言通り結婚の誘いはしてこず、終始和やかな雰囲気でお茶会は進んでいき、大きな事件もなく無事閉会した
    皆に(表面上は)祝福されたリンリンは終始ご機嫌で会場を後にしたが、去り際にまたあの海賊の目で見られた時にはここにきて何度目かわからない死の恐怖を感じたものだ
    とにかく、今回の茶会は無事に済んだが、今後また招待されたときにはどうなるかはわからない
    早急に奴と連絡を取り、対策を講じなければならない

    しかし、悪い話ばかりではない
    万国からの帰り道、偉大なる航路前半に戻り迎えに来たグラン・セーニョ号と合流した際、うれしい報告を受けた
    報告の主はトム、内容は海列車が完成したというもの
    正確には細かな整備など含めてまだあと数ヵ月かかるらしいが、ほぼ完成と言っていいらしい
    処女航海の日程も大まかだが決められ、いよいよ造船の歴史に新たな1ページが刻まれる日が近づいたという事だ
    緊張しっぱなしだった今回のお茶会、この朗報は特に胸に染みた
    初航海の際には私もW7を訪れることを約束し、私は受話器を置いた
    こうなったら、それまでに何としてもこの問題を解決しなければならない
    私は再び受話器を取り、ある電伝虫への通信をつないだ
    数コールの後、応答の声が聞こえてくる

    『…誰だよい』
    「その声はマルコ君か、悪いがニューゲートに繋いでくれないか?
    緊急の要件でな」
    『あぁ、あんたかよい
    ちょっと待ってな、今繋いでやるよい』

  • 124122/09/13(火) 21:45:37

    申し訳ありません
    本日投稿は1レス分のみになります

  • 125二次元好きの匿名さん22/09/13(火) 22:51:30

    >>124

    ありがてえ。その1本で明日も生きていける、、、!

  • 126二次元好きの匿名さん22/09/14(水) 01:50:01

    白ひげとも繋がりあるんかい!?
    これは心強い味方だな…

  • 127二次元好きの匿名さん22/09/14(水) 05:23:08

    コネクションつえー

  • 128二次元好きの匿名さん22/09/14(水) 10:08:25

    マムの「あの野郎と正面切ってやり合う気はない」は白ひげか
    やばいコネだ

  • 129二次元好きの匿名さん22/09/14(水) 13:48:56

    保守

  • 130二次元好きの匿名さん22/09/14(水) 19:03:26

    金銭的なスポンサーとかやってんのだろうか

  • 131122/09/14(水) 22:10:26

    『お前か○○、わざわざ連絡なんざよこしやがって、何の用だ?』
    「悪いなニューゲート、マルコ君にもいったが緊急の要件でな」

    ニューゲート、本名はエドワード・ニューゲート
    ビッグ・マムと同じ新世界に君臨する四皇の1人にして、現世界最強と目されるの男
    海賊王ゴール・D・ロジャーと同じ時代を生き、その好敵手としても知られる男
    白ひげ海賊団船長、それが奴の肩書だ

    奴との出会いは、もう40年以上前になるか
    当時ギャンブラーを引退し投資家になって間もなかった私は、とある島で圧巻に襲われ命の危機に瀕していた
    そこを救ってくれたのが、当時まだ若く、あのロックス海賊団にも入る前の1海賊だったニューゲートだった
    そこからは航海の途中色々な海で度々再開し、気付けば奇妙な縁を結んでいた
    友人とは言えず、知り合いというにも浅くない縁だ
    今は、ビジネスパートナーというのがふさわしいか

    そう、あれからもう40年以上も経ったのだ
    私も今年で63、ニューゲートは59か60だったか
    ロジャーも死に、私も彼もリンリンも、昔の海を知るものは皆老いてきた
    まぁ、我々の誰もまだまだ現役を退くつもりはないようだが

    …40年前と言えば、そう、彼らのことも思い出される
    音楽が大好きで、陽気で気のいい彼ら、特にあのアフロのことは今でも鮮明に思い出せる
    彼らがどうなったのかはもう知る由もない
    …何もかも、懐かしいものだ

  • 132122/09/14(水) 22:11:07

    『おい、黙ってねぇで要件を言ったらどうだ?』

    おっと、感傷に浸っている場合ではなかった
    今は商談中だ

    「すまない、少々考え事をな
    話しの前に確認なんだが、交易路の方はどうだ?何か問題あるか?」

    交易路というのは、彼の故郷や白ひげ海賊団の縄張りの島を結んでいる海上交易路のことだ
    ニューゲートの故郷たるスフィンクスは元々天竜人への天上金を払えずに無法地帯と化した国であり、奴はそこに村を造って奪った金や物資を匿名で送っていた
    そのため世界最強の男と呼ばれながら趣味が貯金、好物が安い食べ物だというのだからお笑い種だ
    また同時に、数年前に宣言した魚人島をはじめ多数の縄張りとなる島を持っている
    私はその島々の交易に投資したり、奴が村に物資や金を送るための手助けをしている
    代わりに奴から借りているのはその名だ
    海賊たちの間には、私の裏に彼がついているのは知れ渡っている
    おかげで先日のリンリンも必要以上の干渉はしてこなかった
    ニューゲート率いる白ひげ海賊団とやりあうには、彼女も相応の覚悟が必要だろう
    当然、それ以下の海賊ならば(ニューゲートを狙うつもりがない限り)私を襲おうと考えることもないだろう
    まぁ、すべての海賊が知っているわけではないため、前のように襲われることが全くないわけではないが
    そういう意味で、今の私たちはビジネスパートナーというのがふさわしい関係だ

    『あぁ、なんも問題は起きちゃいねぇよ
    そんなことを聞くためにわざわざ掛けてきたのかアホンダラ』
    「いや、本題はそこじゃない、実はな…」

    私は本題に入り、先日のリンリンとの話をニューゲートに伝えた

  • 133122/09/14(水) 22:11:54

    『…で、おれにどうしろってんだ?』
    「私とお前の関係性をより強固なものに見せたい
    そのために、お前の縄張りでの事業投資を増やしたくてな、その許可がもらいたい」
    『グララララ!そんなもんいちいちおれに掛けてこねぇでテメェで決めろアホンダラ!
    そっちはオメェに任せるって言ってんだろうがよ』
    「言っておかないとお前が後からごねるからだろう
    図体に似合わずけち臭いからな、お前は」
    『アァッ⁉テメェ今なんて言いやがた!!』

    その後もこんな感じで会話は続いたが、結局取引は増やすということで落ち着いた
    軽く近況も報告しあい、そろそろ受話器を置こうかと思ったとき、私はふと思い浮かんだ疑問を投げかけた

    「そういえばニューゲート、おでんはどうした?戻ったのか?」

  • 134122/09/14(水) 22:12:36

    光月おでん、白ひげ海賊団2番隊の隊長を務めていた、ワノ国出身の男だ
    快活で気のいい男だったが、自由すぎて私とは馬が合わなかった
    ロジャーに引き抜かれ、一時の貸し出しという形で奴の最後の航海に同行したとは聞いているが、それっきりだ

    『………』
    「ん?どうしたニューゲート?」

    思ってもいなかった重い沈黙だ
    一体何があったというのか

    『…あいつは、ロジャーの船で国に帰った
    今どうしてるかなんて知らねぇな』
    「…そうか…」

    ここまで消沈しているニューゲートも珍しい
    ニューゲートにとって船に乗ったものたちは家族同然の存在、いや家族そのものだ
    実際、船員たちには自身のことを親父と呼ばせている
    おでんのことは息子ではなく弟のように扱ってたようだが、ロジャーに貸すときもだいぶ渋っていたというから、そんな彼が国に戻ったのがそれなりにショックだったのだろうか…
    あまり根掘り葉掘り聞くべきではないな

    私はそのまま彼に別れの挨拶をしてから電伝虫の受話器を置いた
    ひとまずはこれで様子を見よう
    だが、正直これだけではまだ安心できるとはいいがたい
    なにか、別の策を弄さねばならないだろう
    私は考えを纏めるため、自室の机へに向かった

  • 135122/09/14(水) 22:17:03

    今回の白ひげとの関係性に関しまして
    第2幕でステューシーが○○を殺そうかと考えていた場面がありましたが、正直に言うとその時はこの設定を考えていなかったため、ステューシーとその上官にまではその情報がいっていなかったと解釈していただけますとありがたいです

  • 136二次元好きの匿名さん22/09/15(木) 02:20:54

    白ひげと繋がりがあるなんて知ってたら暗殺なんて考えないもんな…
    マムの件は何とかなりそうかな?金持ちさんに何かあったらテゾーロとステラ、バカラちゃんが曇るからな…

  • 137二次元好きの匿名さん22/09/15(木) 05:48:03

    最初にトップに話通しておくのは大事


    >とある島で圧巻に襲われ命の危機に瀕していた

    悪漢かな

  • 138二次元好きの匿名さん22/09/15(木) 06:36:32

    新時代に対応できそうな気がするけど…いきてるかなぁ金持ちさん

  • 139二次元好きの匿名さん22/09/15(木) 12:38:00

    こうしてみると、テゾーロにお金恵んだの人をみる目ありまくりだな

  • 140二次元好きの匿名さん22/09/15(木) 19:22:20

    まさに運命

  • 141122/09/15(木) 21:55:26

    最近、本職に全く手が付けられていない気がする
    まぁ私の本職は投資のため、そういう意味ではずっと仕事をしていたことになるが、ここでいう本職とは舞台劇等の興行のことだ
    ここ最近は奴隷解放事件だのビッグ・マムのお茶会だのでてんやわんやだったため、劇団や電伝虫放送の興行に全く手を付けられていなかった
    とはいえ、何か問題が起こっているというわけではない、むしろ順調だ
    私がいない間はバカラやタナカが業務を代行してくれていたし、売り上げに陰りが見えるかと言えばそうでもない
    ごくごく順調だ
    だからと言って現状に胡坐をかいているわけにはいくまい
    今が安定だからと言って動きを止めれば、客はすぐに飽きてしまう、常に変革を求めていかなければならない
    規制とマンネリは、エンタメの大敵なのだ

    とはいえ一口に変革を求める、などと言ったところでそう簡単にいけば苦労はない
    ここ数日でいくつか新作の案は出してみたが、どれも過去作の焼き増しだ
    もっと、画期的な案とは言わないまでも、目新しさが欲しい
    そこでしばらく部屋でアイデアを出そうと唸っていたが、このままでは埒が明かないと判断して気晴らしに散歩に出ることのにした
    街は今日も活気であふれ、老若男女様々な者たちが闊歩している
    あちらこちらには受信用放送電伝虫が設置されており、それぞれ異なった業者―最近では事業内容を改めて放送局と呼称するようになった―の放送を流している
    ここ数年で日常になった光景だ
    その雑多の中を歩いている中、私の足はある場所で自然と止まった
    そこは、初めてテゾーロを見かけた場所
    …もう7年も前になるか、思えばあの時から私の第2の人生とでもいうべきものが始まったのだったな
    あの時はまさか小銭を恵んでやったあの男とここまでの付き合いになるとは思ってもみなかったが…

  • 142122/09/15(木) 21:55:39

    などと感慨に耽っていると、ふと近くの広場で遊ぶ子供たちの姿が目に入った
    どうやら『星空の唄』を真似て遊んでいるようだが、頻繁にセリフが間違っていたり場面が飛んでいたりしている
    本人たちがそれで楽しいなら問題ないが、間違うたびに皆集まって「あーじゃい」「こーじゃない」と言い合っている
    もともと『星空の唄』の原作である『深海の唄』自体古典と言っていい作品であり、言い回しや表現に難解な部分が多い
    『星空の唄』もそれは同様であり、テゾーロが作った原案はそれほどでもなかったが、手直ししていく中で原作に準拠した難解な表現が多用されるようになった
    そのため、正直に言えば子供が見ても内容を理解できているとは思えない
    台詞を完璧に覚えられていたとしても、その意味や言い回しに含まれる暗喩などは分からないだろう
    これがもっと直接的かつ分かりやすい言い回しであれば、あるいは…
    そこまで考えが至ったとき、私の脳裏に一つの"思い付き"が浮かんだ
    この案であればマンネリ防止にもつながり、あいつの要望を叶えるチャンスにもなるかもしれない
    私は早速その思い付きを纏めるため、足早に屋敷へと戻っていった

  • 143二次元好きの匿名さん22/09/16(金) 03:17:28

    劇団の話は久しぶりな気がするな…
    テゾーロが一際輝くチャンスくるか?

  • 144二次元好きの匿名さん22/09/16(金) 10:14:47

    発想力がすごいんだろうな

  • 145二次元好きの匿名さん22/09/16(金) 13:27:33

    保守

  • 146122/09/16(金) 21:26:33

    本日分の投稿に関しまして、作者都合につき休止させていただきます
    誠に申し訳ありません

  • 147二次元好きの匿名さん22/09/16(金) 21:51:23

    またなんか面白そうなこと始めるんだろうな

  • 148二次元好きの匿名さん22/09/17(土) 00:22:16

    保守

  • 149二次元好きの匿名さん22/09/17(土) 06:50:00

    >>146

    リアル大事に

    気長に待ってます

  • 150二次元好きの匿名さん22/09/17(土) 13:41:10

    保守

  • 151122/09/17(土) 18:51:37

    「テゾーロ、ちょっといいか?」
    「えっ?あ、はい!」

    とある日の休憩時間、劇の案内役を務めているドナルドさんと雑談していると、団長から急な呼び出しを受けた
    ドナルドさんに一言断って抜け出し、団長の元へと向かう

    「団長、何か御用ですか?」
    「いや、用があるのは私じゃなくて、オーナーなんだ」
    「…○○様が?」
    「あぁ、急で悪いんだが、今日の稽古が終わったらオーナーの屋敷に行ってくれないか?
    なんでも内密な話があるらしくてな」

    内密な話、とは何だろうか?
    すぐに思いつくのはゴルゴルの実に関してだが、その内容が思いつかない
    誰かに秘密がバレたとか緊急を要することなら、稽古事言わずすぐに呼び出されるはずだ
    それ以外では、残念ながらなにも思いつかない

    「それと、ステラにも用があるらしくてな
    さっき使いを出しておいたから、どこかで落ち合ってくれ」
    「ステラにも、ですか?」
    「あぁそうだ」

    用件を伝え終えると、団長は去っていった
    しかし、ステラも同時に呼び出されたとなると、ますます要件が分からない
    しかし○○様のことだ、もしかしたら新しい劇やショーに関してかもしれない
    どのみち後でわかるんだ、今気にしても仕方ない
    今は、稽古に集中しなくては

  • 152122/09/17(土) 18:52:36

    その日の稽古後、おれは○○様の屋敷の近くでステラを待っていた
    使いから戻ってきた仲間に、ステラからの「現地で集合しましょう」という伝言を受け取ったからだ
    待ち始めて30分もしないうちに、遠くから駆け寄ってくる2つの人影が見えた

    「テゾーロ、お待たせ!」
    「ぱぱ~!」
    「ステラ!リーテ!」

    愛する妻であるステラと、同じく愛しき娘のメテオリーテだ
    駆け寄ってきたリーテを抱き上げ、高い高いの体勢で回してやると彼女は天使のようにおれに微笑んでくれる
    その様子を横で見ているステラも、女神よりなお美しい微笑みを見せている
    今この世界におれより幸福な人間はいない
    そう思えるほど、おれは幸せに満ちていた

    「ごめんなさいテゾーロ、待たせちゃったかしら?」
    「いや、おれも今来たとこだよ
    それより、リーテも連れてきたのか」
    「うん、メリナさんの所に預かってもらうつもりだったんだけど、○○様の所に行くて知ったら自分も行くって聞かなくて」
    「おじいちゃまのとこ行きたい!」
    「ね?」

    メリナさんとは、近所に住んでいる劇団の仲間の女性のことだ
    おれたちが二人とも用事があるときは、よくリーテを預かってもらっている
    そして、リーテは○○様のことを「おじいちゃま」と呼んでいる
    彼女が今より幼いころからたまに遊んでいただいていて、その中で自然とそう呼ぶようになったらしい
    少し恐れ多い気もするが、○○様本人が「問題ない」と言っているため、そのままにしている

    「まぁ、来てしまったものはしょうがない
    それより○○様が待ってる、早く行こうか」
    「えぇ、そうね」

  • 153122/09/17(土) 18:52:58

    そうして○○様の屋敷についたおれたちはタナカさんに出迎えられ、そのまま○○様のいる執務室に通された
    部屋の中には向かい合わせのソファーに腰かけている○○様と、その後ろに控えているバカラがいた
    ○○様を認識した途端、リーテはおれの腕から飛び降り○○様のもとに駆け寄っていく

    「おじいちゃま~!」
    「あ、こらリーテ!」

    ステラが止めようとするがもう遅い
    リーテはそのままに○○様の足元に勢いよく抱き着いた

    「リーテか、よく来たな」
    「うん!」

    ○○様は嫌な顔をせず、リーテの頭を優しくなでている
    リーテも満面の笑みでそれを受け入れていた
    その様は本当の祖父と孫のようだ
    彼女には血のつながった祖父母はいない
    おれの母親やステラの親は、全員数年前に他界していたことが最近分かった
    正直ショックではあったが、おれは自分から家を出たし、ステラは父親に売られたのだ
    悲しむ権利や義理はないだろう
    そのため、リーテにとっては○○様こそ本当の祖父のようなものなのだ

    「悪いがリーテ、お前のパパとママに話があるんだ
    すまないが、しばらくバカラと外で待っていてくれないか?」
    「えぇ~!」

    リーテが不満げな声を上げる
    彼女からしてみればせっかく遊びにこれたのに、すぐに引き離されてしまうのだから、それも当然か
    しばらく○○様の膝でブーブー文句を言っていたが、話しが終われば一緒に遊ぶという約束で納得してくれたようで、バカラに手を引かれながら部屋を出ていった

  • 154122/09/17(土) 18:53:15

    残されたおれ達は○○様に即されるまま向かいのソファーに腰かける

    「急に呼び出して悪かったな、テゾーロ、ステラ」
    「いえ、そんなことは…」
    「それで○○様、内密な要件って何ですか?」

    ステラの質問に、○○様は手元にあった資料をおれ達に放ることで返した
    内容を見てみると、どうやらショーの企画書のようだ
    資料の表紙には「低年齢層向け『星空の唄』企画構想」と大きく銘打ってある
    もしかして、これが…

    「○○様、これは…」
    「あぁ、これがお前たちに今日来てもらった理由
    低年齢層向け、すなわち子供向けに『星空の唄』をアレンジするという企画についてだ」

  • 155二次元好きの匿名さん22/09/17(土) 22:51:55

    リーテちゃん可愛い!天使や…
    おじいちゃまって呼ばれてる金持ちさんも良い…
    そしてテゾーロとステラの共同作業きた!二人で歌ってほしいな〜

  • 156二次元好きの匿名さん22/09/18(日) 06:33:17

    素敵な家族だ

  • 157二次元好きの匿名さん22/09/18(日) 13:30:30

    保守

  • 158122/09/18(日) 18:20:04

    子供向けの舞台というものは、今までなかったわけではない
    ただ、間違ってもメジャーと言える存在ではなく、田舎の劇団が新人団員の稽古の一環として行ったり、孤児院などへの慰問として行うのが殆どだ
    理由は単純、金にならないから
    子供向けとは言え、金を払ってチケットを買うのは親だ
    しかし、この海で子どもしか楽しめない劇に大金を払えるような家庭は限られており、そしてそういったことが出来る上流階級の家庭は、子供に教養を積ませるためあえて難解な大人向けの作品を見せる
    需要がない者を作る人間はおらず、やうとしても新人や素人があり合わせでやることになるのだ
    結果として子供向けの舞台というのは、素人が安価でやるものというイメージがついている
    内容はと言えば、正直作りが雑なだけの大人向けの作品という印象が強い
    台本をはじめ舞台セットや道具類も大人向け作品の者をそのまま流用しており、違うのは演者の練度だけと言える
    まぁ当然と言えば当然だ、そんな金にならないもののために苦労を割いていいものを作る理由はない
    だが同時に、子どもであってもそんな子供だましには惑わされることはなく、大半は不評で終わるという
    それでも、本来なら舞台なんて見れない立場の子供からすれば十分な娯楽だ

    しかし今回、私はあえて子供向けの舞台の制作を決めた
    これは先述した新人の稽古目的ではなく、台本や舞台セットも専用のものを用意し、出演する俳優も相応の経験を積んだベテランで固めるつもりである
    内容は本来のものをベースにしつつ、抽象的・専門的な表現は省いて歌や台詞、ストーリーを簡略化させ、子供にもわかりやすく、かつ、飽きさせないよう演出は華やかかつ派手に
    ではその苦労に見合った料金を取るかと言えば、それは否
    通例通り、安価で公開する
    今回の目的は収益ではなく、先行投資だ
    子どもの頃に舞台というものへの好印象を持たせると同時に、より身近に感じさせる
    その子供が大人になれば、自然と舞台を見ることが慣例となる、または、そのハードルが通常より低くなるだろう
    同時に演劇やライブショーの世界進もうと考える子供が増えることも期待できる
    業界人口の分母が増えればその分次世代のスターが生まれる可能性も高くなり、単純に業界の活性化へも繋がる
    目先の利益は現時点で十分に得られている、ならばここからはそれを還元し、将来的な利益の模索につなげるべきだろう

  • 159122/09/18(日) 18:20:36

    「それが、この企画の目的だ」
    「それは、なんて…」
    「とっても、とっても素敵なことだと思います!」

    テゾーロとステラは目を輝かせて賛同してくれている
    素敵かどうかはともかくとして、企画の趣旨を理解してくれたのなら上々だ

    「それで、○○様…
    ”星空の唄”の台本を作り直すっていうのは、なんとなく察したんですが…、なぜステラも一緒に」

    テゾーロが聞いてくる
    もっともな疑問であり、本来であればテゾーロだけ呼べば十分だ
    ステラを呼んだのは、今回の企画に関連した重要案件のためだ

    「あぁ、さっきも言ったように、今回の舞台は子供向けと言えど普段と変わらないクオリティで制作する
    とはいえ、先ほどの話と矛盾するかもしれないが、セリフや歌を簡略化する以上、演者に求められる技能も通常時ほど高くある必要はない
    ある程度のものがあれば十分だ」
    「は、はぁ…」
    「そこで、だ
    私は今回の舞台、ステラにヒロインをやらせようかと考えている」
    「「えっ…」」

  • 160122/09/18(日) 18:20:51

    二人が驚いた顔で固まる
    そう、これが今回の企画の肝のひとつだ
    "星空の唄"初期企画段階では彼女の技量の問題から叶わなかった、ステラのヒロイン出演
    当時は彼女も完全な素人だったが、今ではテゾーロの練習に付き合ううちにそれなりのものになった
    当然、通常時に出る一流の演者たちには及ばないが、今回の舞台に出すには十分だと判断できる程度にはある
    ゆえにこそのオファーだ
    当然やるかどうかは彼女の意思次第、断れれば通常時と同じ女優にやってもらうつもりだったが…

    「や、やります!やらせてください!」
    「おれからも、お願いします!」

    この勢いを見るに、杞憂だったようだ

    「うむ、だが先に言った通り、私は子供だましを作るつもりはない
    稽古中でも私が不適格と判断すれば、即この話はなかったことにする、いいな?」
    「「ハイッ!」」

    快活に返事をし、二人でうれしそうに笑いあっている
    …このやる気であれば、問題はないだろう
    このまま話を進めよう

    …そういえば、この二人はアレをやったのだろうか
    少なくとも、私は呼ばれた記憶はない
    私抜きでやっていたとしたら少々思うところはあるが、まぁこの二人のことだ、もったいないからとか今のままで十分幸せだからとかの理由でやっていない可能性の方が高い
    だとすると…

    …うれしいサプライズであれば、いくつあってもいいも、だろうな

  • 161二次元好きの匿名さん22/09/18(日) 23:13:56

    やったーテゾーロとステラ主演きた!!
    おっと?もしかして結婚式ですか??

  • 162二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 01:44:08

    保守

  • 163二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 10:56:06

  • 164二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 19:28:22

    新事業、うまく行ってほしいがどうなるか……

  • 165二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 19:47:01

    >>164

    子供の娯楽作品が海の戦士ソラだけなら女のコ人気はありそうだし、学の無い海賊にも受けるかもしれない

  • 166122/09/19(月) 22:34:28

    こうして動き出した新企画
    今回はラブロマンスである『星空の唄』をもとに製作するため、メインターゲットは女児を設定
    男児をターゲットにした作品に関しては、海軍と世経新聞との協議の元『海の戦士ソラ』の舞台化を計画中だ
    まぁ計画が動き出したといっても、台本や道具類も新造する関係上、準備には相応の時間がかかる
    ステラの稽古の時間も考えて、準備期間は早くて半年、長くとも十ヶ月程度を想定している
    公演時期も未定のため今回は大規模な宣伝は行わず、その代わり島内の学校や孤児院に掛け合い特別招待という形で初公演の観客となる子供らを呼ぶつもりだ
    初回で記憶に残ればそれでよし、リピートしてくれるならなお結構
    また、庶民の学校や孤児に先に見せることで、上流階級の子供らへの焚き付けにもなる
    そういった身分の子供らは親に似て相応にプライドも高い場合が多い
    身分の低い者達が見ていて自分たちは見ていないという状況は耐えられないだろう
    そこでランクの高い席―といっても通常に比べれば破格だが―を売れば、それなりの儲けにつながるだろう
    今回の計画は、通常版の『星空の唄』と同じく、我が劇団のターニングポイントの一つになる
    同時進行で進めている別の計画とも合わせて、段取り良く進めていかなければ

    そうして数か月が過ぎ、台本が完成して出演者たちの本格的な稽古が始まったころ、その知らせはもたらされた
    W7にて、海列車"パッフィング・トム"完成の報だった

  • 167122/09/19(月) 22:36:08

    正確には、私がこの報せを受けたのは完成の1月ほど前
    もうすぐ完成し、1ヵ月後に初航海を行うというトムからの連絡を受け、私はすぐさまW7に向かった
    多少の嵐や海賊の出没情報もあって、到着したのは初航海の当日になってしまったが、何とか間に合ったようだ
    正面に見えるはW7、しかし、そこには以前グラン・セーニョを受け取りに来た時とは異なる景色が広がっていた
    目につくは海列車の始発駅"ブルーステーション"
    そこには浮かぶ鉄の巨体は見るも雄々しく、そのそそり立つ煙突からは火山がごとく黒煙を吹き出し、時折鳴らす警笛は波の音にも負けず私たちの元まで届いている
    あれこそがトムの夢の形にして、この島の希望、海列車"パッフィング・トム"だ
    運転席に乗っているのはココロか
    こちらに気付いたようで、笑顔で手を振っている
    正直もう少し近くで見たい気もしたが、先にあいつと話を付けなくてはならない

    船を廃船島に付けると、案の定奴らは海列車がよく見える丘の上に陣取っていた
    私は一人島に降り、彼らに近づいていく
    するとトムの横にいた青年―アイスバーグ君が私に気付き、トムに呼びかける
    私に気が付いたトムと、その横にいたペットである角界ガエルのヨコヅナと共に満面の笑みで出迎えてくれた

    「おぉ○○、来てくれてたのか」
    「当然だろう、トム
    ようやく実現したようだな、お前の夢が」
    「たっはっ!!!…!!!…!!!実現というにはまだまだよ!
    処女航海はこれからだし、まだあと3つ、島をつなげにゃならんのだからな!」
    「…そうだったな」

    そうして話していると、トムのもう一人の弟子、カティ・フラム君が丘を登ってくる
    私を見つけたフラム君は胡散臭そうな顔をしていたが、ちょうどその時、海列車がひときわ大きな汽笛を鳴らして走り出した
    海に如かれたレールの上を、パドルを回して走る力強さは離れたこの場所でも伝わってくる
    その姿を見た瞬間、皆涙を流して喜んでいる
    当然だ、あの海列車こそ、彼らの血と汗の結晶なのだ

  • 168122/09/19(月) 22:36:30

    その様子を見ていた私の口からは、自然と祝福の言葉がこぼれていた
    「…おめでとう、トム」
    「…あぁ○○、お前さんの
    そして、アイスバーグ、フランキー、ヨコヅナ、ここにはいないがココロ、オメェらみんなのおかげだ
    ありがとうな!」

    それを聞いたアイスバーグ君とフラム君、ヨコヅナがさらに激しく泣き出してしまう
    心なしか、トムの目尻にも光るものが見えた気がするが、言わないのが吉だ
    …そして、これは祝うべきことだ

    「トム、今夜は久しぶりに一杯やろうじゃないか、私が奢ろう」
    「おぉ、そいつはいい!なら、バンバン爺の屋台なんかどうだ?」
    「なんだあいつ、まだこの島にいたのか」
    「あぁ、あいつはこの島の塩から離れられなくなっちまったらしいからな」
    「なるほどな」

    そう言いながら、私はトムの弟子たちに向き直る

    「アイスバーグ君、フラム君、ヨコヅナ、君たちもどうかね?
    今夜は祝いの席だ、いくら食べても私が出そう」
    「ンマー!マジですか○○さん!」
    「よっしゃ宴だー!あとおっさん、おれのことはフランキーって呼べよ!」
    「ゲコッ!」

    …本当に、祝うべきことだ
    友がこうして、大切な者たちと共に夢をかなえる姿
    償いというわけでもないが、単純に
    それは、見ていてとても気持ちのいいものだ

  • 169二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 23:35:07

    海列車完成めでたい!
    幸せな時間だけどこの後のことを考える辛いね…

  • 170二次元好きの匿名さん22/09/20(火) 07:12:08

    トムさんはこの後……

  • 171二次元好きの匿名さん22/09/20(火) 18:09:35

    金持ちが初航海に間に合ってよかったです。
    お祝いできるときにしないとね。

  • 172122/09/20(火) 19:32:26

    海列車の初航海からさらに時は経ち、舞台の準備は着々と進んでいる
    すでに舞台セットや衣装等の小道具は完成し、個々の演技指導もできている
    今はすべての演者を集めた通し稽古の最中だ
    唯一の不安だったのはステラの完成度だったが、意外なことにかなり高い水準で出来上がっていた
    テゾーロに聞くと、どうやら台本を渡してから毎夜のように寝る間を惜しんで台本を読み込み、自主練を重ねているらしい
    見上げた覚悟だが、ここで無理をされて本番に響いては本末転倒だ
    一応注意はしておいたが、どこまで聞いているかは分からない
    テゾーロにも注視しておくよう伝え、後は好きにやらせてみることにした
    こういうのは、あまり言いすぎても逆効果だからな

    まぁステラの方はまだいい
    やる気があるに越したことはないし、練度が高いのも事実だ
    むしろ問題があるのはテゾーロの方だ
    よほどステラと同じ舞台に立ててうれしいのか、普段の稽古より明らかに張り切っている
    いや、張り切りすぎている
    いいところを見せようとしているのか大振りで見栄えのいい動きをしようとしているが、無駄が多いせいでいつもの切れがない
    台詞もところどころ間違えたり跳んでいたりする
    正直、見るに堪えない
    個人練習の際は完ぺきだっただけに、余計見れたもんじゃない
    ここはひとつ、奴の目を覚まさせてやる必要があるな

  • 173122/09/20(火) 19:34:00

    私はある日の練習の際、ステラに言って彼女らの娘であるメテオリーテを連れてこさせた
    テゾーロ達の練習風景を生で見させてやろうという名目だが、私の真の目的は別にある
    稽古が始まる前、見学のため舞台正面の席に私が座り、その横にリーテを座らせる
    彼女はもうすでに何度か見学には来ているが、その度に目を輝かせている
    正直今日の稽古はこの輝きを曇らせかねないが、これもテゾーロのためだ
    文句はテゾーロに言ってもらおう

    その日の稽古中も、テゾーロはミスを連発した
    いや、いつもよりひどい
    理由は分かる、リーテがいるからだ
    それまでは楽し気に見学していた彼女も、父親の情けない姿を見て徐々に冷めた目をし始めている
    …そろそろ頃合いか
    私はリーテにそっと耳打ちし、テゾーロにある言葉かけるように頼んだ
    彼女は言葉の意味は分かっていないようだが、私が頼んだという事実がうれしいようで満面の笑みで了承してくれた
    一度息を整え、大きく息を吸い、叫ぶ

    「ぱぱー!」
    「!リーテ⁉」

    いきなり大声で自分を読んできた娘に、テゾーロは驚いた顔を見せる
    まぁ今は通し稽古中、本来であれば私語は厳禁だ
    だが、すぐに中断するのだ、このままでいい
    驚いた顔を向けるテゾーロに向かって、リーテが続ける

    「ぱぱー!ダサーーイ!!」
    「!!!⁉??」

    突如愛娘から浴びせられた罵倒に、テゾーロが彫像のように硬直する
    その様子を見ていた周りの出演者やスタッフは一瞬の静寂の後、誰からとなく笑い出した
    彼の隣にいるステラまで笑っている

  • 174122/09/20(火) 19:34:20

    そう、こうやってリーテに罵倒させテゾーロの目を覚まさせてやるのが今回の目的だった
    見事役目を果たしてくれたリーテの頭を撫でながらご褒美に懐の飴を渡し、さらに私が追い打ちをかける

    「テゾーロ、ミスが目立ちすぎだ
    やる気が無いようなら主役降ろすぞ!」
    「えっ!ハッ、ハイ!すいませ、ってあぁっ!」

    私の言葉にさらに慌てたテゾーロが足を滑らせすっ転ぶ
    周囲から一段と大きな笑い声が響き、ついにはリーテも笑い出した
    笑われている張本人も、ばつが悪そうにから笑いしている
    まったく、これに懲りて二度とあんな無様な姿は見せてくれなければよいのだが

  • 175二次元好きの匿名さん22/09/20(火) 19:45:15

    か、賢いやり方だ
    というか別の未来であんな荒んだ映画ボスがこんな平和で実に幸せそうだ。いいな

  • 176二次元好きの匿名さん22/09/21(水) 01:28:11

    どれだけ幸せになってもよい

  • 177二次元好きの匿名さん22/09/21(水) 05:18:07

    保守

  • 178二次元好きの匿名さん22/09/21(水) 12:33:08

    保守

  • 179122/09/21(水) 20:21:08

    本日分の更新に関しまして、作者都合により休ませていただきます
    誠に申し訳ありません

  • 180二次元好きの匿名さん22/09/21(水) 22:49:28

    >>179

    ええんやで

    無理しないで

  • 181二次元好きの匿名さん22/09/22(木) 00:26:58

    上司に恵まれ家族に恵まれ…
    本当に良かったなテゾーロ…!

  • 182二次元好きの匿名さん22/09/22(木) 11:43:40

    保守

  • 183二次元好きの匿名さん22/09/22(木) 20:26:13

    保守

  • 184122/09/22(木) 22:23:08

    リーテの言葉が効いたのか、私の脅しが効いたのか、その後のテゾーロのミスは激減した
    もともと個人レッスンでは完ぺきだったのだ
    気合を入れつつ落ち着いてやれば、すぐにでも本番を迎えられるぐらいには完成していたというのに、全くいらん手間を掛けさせおって
    まぁこれで目下唯一の悩みの種だった案件が消えたのだ、過ぎたことは良しとしよう
    とにかく、テゾーロの不調さえなくなってくれれば、ステラを含めた他の演者たちの完成度も公演するに―加えていえばサプライズの方も―十分な領域に達している
    その後改めて行われた通し稽古でも問題なしと判断できたため、あらかじめオファーしておいた学校や孤児院の代表者と電伝虫を通して協議したうえで、初公演を2週間後に定めた
    当日にはおよそ200人近い女児とその保護者である教員等が、観客としてこの劇場に来る予定である

    また、同時進行で用意していたもう一つの計画、「ライブ映像配信計画」の準備も万全だ
    これまでも闘技大会の中継など映像電伝虫を利用したエンタメというものは存在したが、その殆どが俯瞰的かつ一方向からの映像のみで、少々マンネリ気味になっていた
    しかし今回我が傘下の研究所において、放送用電伝虫をもとに品種改良を重ねた結果、新種の映像電伝虫の作成に成功したのだ
    具体的な特徴としては、放送受信用電伝虫と同じく、送信用電伝虫から常時発信されている念波を受け取る側が選択して拾えるというもの
    放送用の際は複数の放送局が利用することを前提でこの仕様を作ったが、今回は一か所で使用することが前提
    すなわち、舞台上の複数個所に様々な角度で設置しつつすべての映像を同時送信することで、視聴者側が好きな位置と角度で歌劇を楽しむことが出来る
    例を出すなら、舞台全体で話が進んでいる際は俯瞰的な視点で、片隅で数人の役者がしゃべっている場面ではその部分をクローズアップできる視点で、といった感じだ
    未だ受信用の個体数が少ないため商業目的の運営は当分先を見据えており、今回は実験とイメージアップを兼ねて島内の小児科医療施設に実験的に貸し出す予定であり、これで評判が良ければ、本格的に大量生産に踏み切るつもりだ

  • 185122/09/22(木) 22:23:23

    ついでだが、今回の舞台の内容についても少し触れておこう
    今回の演目『星空の唄』は、テゾーロが古典演目『深海の唄』をもとに作成した歌劇だ
    『深海の唄』の内容は、端的に言えば悲恋もの
    とある王国所有の船の一乗組員だった主人公と、王国の姫であるヒロインの身分違いの恋をベースにした群像劇で、およそ200年前に作られた人気古典作品だ
    テゾーロの作った『星空の唄』は、この作品の登場人物の一人で主人公の上司に当たる船長の過去話という形で構成されている
    一流の船乗りを夢見る少年と彼が助けた奴隷だった少女のサクセスストーリーで、時折出てきて彼らを手助けする謎の紳士―実はこの国の国王だったという設定だ―を合わせた3人を中心に話は進んでいく
    悲恋ものでメリーバットエンドだった原作と違い、この作品では大型船の船長になった少年が船上で少女と永遠の愛を誓うというシーンで締めくくられる
    一般の観客からの評判は良く、原作でもおしどり夫婦として描かれていたキャラだっため古参のファンから評価も極めて好評
    結果、我が劇団の誇る名物舞台となった

    今回子供向けにシナリオを改変するにあたり、ラストの部分は多少の台詞の改変こそあれど殆ど元のままで行くことになっている
    テゾーロは少し表現を変えるべきではないかと言っていたが、私が押し通したのだ
    …その方が、こちらにとって好都合だったのでな

    そうして迎えた本番当日、客席は招待した子供たちでいっぱいだ
    演者たちの気合は十分
    本番を前にしてさすがのステラもだいぶ緊張しているようだが、テゾーロが横で支えてくれている、問題はないだろう
    今回の舞台は我が劇団は元より、テゾーロ達の今後にも大きく影響するものになる
    そうこうしているうちに開始の時刻、開園を告げるブザーが鳴り響く
    さぁ、張り切っていこうか

  • 186二次元好きの匿名さん22/09/22(木) 23:12:27

    いよいよ舞台が始まる…!
    素敵な舞台になるだろうなぁ…

  • 187二次元好きの匿名さん22/09/22(木) 23:48:38

    期待

  • 188二次元好きの匿名さん22/09/23(金) 05:27:09

    保守

  • 189二次元好きの匿名さん22/09/23(金) 05:50:24

    楽しみです。

  • 190二次元好きの匿名さん22/09/23(金) 16:44:00

    このレスは削除されています

  • 191二次元好きの匿名さん22/09/23(金) 20:40:00

    そろそろ次スレ?

  • 192二次元好きの匿名さん22/09/23(金) 22:06:57

    いよいよ4スレ目突入かぁ…最初のスレから見てきたから何か感慨深いな

  • 193122/09/23(金) 22:08:42

    次スレを立てさせていただきました

    完走まで頑張らせていただきますので、今後ともよろしくお願いいたします


    次スレ

    https://bbs.animanch.com/board/1059416/?res=3

  • 194二次元好きの匿名さん22/09/23(金) 22:16:23

    4スレ目からはタイトルにFilmGOLD ifが付いたか

  • 195二次元好きの匿名さん22/09/24(土) 00:15:21

    >>193

    わーい次スレありがとうございます!

    こちらこそよろしくです!

  • 196二次元好きの匿名さん22/09/24(土) 05:25:05

    新スレ建立乙

  • 197二次元好きの匿名さん22/09/24(土) 08:15:02

    おつ

  • 198二次元好きの匿名さん22/09/24(土) 08:36:10

    乙ー

オススメ

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