- 1二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 01:29:16
「トレーナーってさあ、ライトハローさんに告白とかしないの?」
トレーニング開始前の軽いミーティング、何気ない会話。
週末の予定のことを話した途端、担当ウマ娘がニヤリと笑い。
唐突にそんなことを言ってきた。
「な、何をいきなり……」
動揺を抑えるのに失敗したのは情けない。
こんな年下の少女に翻弄されるなんて。
「ふーん。その反応。まだ告白してないんだ~」
つまんないの。そういった風に担当が呆れたように首を振る。
明日は休みだし、ライトハローさんが誘ってくれたアミューズメントパークに一緒に行ってくる。
そんな話を担当ウマ娘にした反応がこれである。
まったく。この年頃の女の子はなんでも色恋沙汰にしたがるから困る。
まあ……下心がないわけでもないので、強くは否定できない。
「つまらないこと言ってないで早く外周に行きなさい」
「つまらなくはないでしょー。あたし、結構真剣にトレーナーとハローさんのこと考えてるよ。デートプランとか相談に乗るよ?」
「そんなこと考えなくていいから」
彼女を追いやるようにバインダーを振る。
そんな俺の態度を受けて、仕方がない、今は見逃してやろう……といった空気を醸し出しながら彼女は正門の方へと走っていった。
たぶんこの後も散々絡んでくるだろう予感を漂わせながら。
ウマ娘の鋭い聴覚でも聞き取れないくらいに彼女が走り去った後で。
「……告白、か」
俺は一人、つぶやいてみた。 - 2二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 01:29:37
グランドライブの復活に全力を尽くす彼女に協力をしたり。
根を詰め過ぎな彼女をたまに息抜きに誘ったり。
そんな3年間を経て彼女、ライトハローとの距離はグッと近づいた。
今ではお互いを下の名前で呼び合う仲だ。
あと一歩進めば……そんな予感を感じてる。
きっと向こうもその気があるのはなんとなくわかっていた。
だけど、あれからお互い忙しくて。
頻繁に顔を合わせることも減ってスマホを介したコミュニケーションが増えて、近づきすぎない心地よい距離に収まってしまった。
そして何より……恒例にしている『息抜き』の時間が楽しくて。
その貴重な時間を、そこにある空気を、距離間を失うのが怖くて。
二人してお互いに足踏みを続けていた。
担当ウマ娘のトレーニングメニュー。それが書かれた紙を挟んだバインダーを手にしたまま、俺はスマホを手にメールアプリを起動した。
マークを付けているメールがいくつか。
その中の一つ、『TODO』『重要』『生活』のタグをつけたメールを開く。
『学園トレーナー寮、退寮希望者の募集について』
『いつもお世話になっています。学園寮管理の~~です。~月~日現在、来年度の新採用のトレーナーのための部屋が不足しています。そのため、トレーナー寮在寮3年以上の方に対して退寮希望者を募集しています。必要な空き部屋が確保できなかった場合、抽選にて退寮者を選ばせていただくことがあります。つきましては……』
何度も見たメールをもう一度全文読んでから、俺は再びため息をつく。
「さすがに順番がおかしいよなあ……その前に告白、お付き合いからだろ、普通」
その独り言はたぶん誰にも聞かれなかったと思う。思いたい。 - 3二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 01:29:56
「あーもう、汚くしちゃって。仕事が忙しいのはわかってるけれど、もうちょっとちゃんとしなさいよー」
「もーわかってるわよ。疲れてるんだからあんまり色々言わないで」
都内に住む友達と久しぶりに会うし、ちょっと泊まって行くわね。
そう言って金曜日の夜、私、ライトハローの住むアパートにやってきた母は部屋に入るなり説教を始めた。
「仕事が大切なのはわかってるし、ハローが頑張ってるのも知ってるけど。日常生活を粗末にしたら駄目よ?」
「してないわよ。もう。今はちょっと忙しくてこうなってるだけだから。普段はもっと綺麗にしてるんだから」
「そんなこと言って……ハローの部屋は昔からこんな感じでしょ」
母は呆れたように部屋を見回し、ま部屋干しにしたままの洗濯物を手に取って畳み始めた。
最近買ったばかりのちょっと冒険した下着なども手にしては、あらあら~といった顔を見せる。
「お母さん! 自分でやるから置いておいて!」
「はいはい。わかったわよ。じゃあ自分でちゃんとしなさい。お母さんご飯作るわね。にんじんスパゲティでいい?」
「うん、お願い」
私は言葉少なく返事をして母から洗濯物を奪い取り、それをタンスにしまい始めた。
久しぶりに食べる母の手料理は昔と変わらぬ味がした。
料理の腕に関しては私は全然母に及ばない。最後にフライパンを握ったのはいつだろうか……彼と出かける際にお弁当を作ったときくらい?
また彼のためにお弁当を作って二人で食べるのもいいかもしれない。
「何ニヤニヤしてるの?」
「ニヤニヤなんかしてないって」
むしろニヤニヤしているのは母の方だと思う。
「ハローは顔に出やすいのよ。それはともかく、たまには自炊くらいしなさいよ」
「はいはい」
母の軽い説教を聞きながら食事をするのも懐かしい。
仕事から帰って疲れてる時には遠慮したいものだったけど。 - 4二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 01:30:15
「お母さん、明日は8時頃にここを出るけど。ハローは明日は仕事? 朝ごはん作っておいてあげようか?」
「お願い。明日は仕事じゃないけど出かけるから」
客用の予備の布団を広げている最中に、母が聞いてくる。
「そう。もしかしてデートだったりする?」
「ちがっ……」
否定する言葉を思わず止めてしまった。
デート。多分デート言ってもいいはずだ……と思う。
私はもうずっと前からその気持ちだし、きっと彼だってそのつもりに違いないのだから。
ただ、良い距離感に収まってしまって、最後に一歩が踏み出せていないだけで……。
「いい人がいるならさっさと捕まえなさいよ。仕事人間なハローにはチャンス少なそうだし……結婚が女の幸せなんて古いこと言うつもりはないけれど、私が孫の顔を見たいって思ってるのは忘れないように」
「お母さん!」
結局その夜はいろいろ考えてしまって、上手く寝付けなかった。
母のせいだ。
でも……彼だって悪いと思ってしまう私は、ちょっとズルいウマ娘だろうか? - 5二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 01:30:34
『早めに着いてる。最寄りの喫茶店にいます』
彼からのLANEを見たのは私が1時間も早く家を出て、もう待ち合わせ場所の近くまで来たときだった。
『私も早めに着きそうです』
待ち合わせ時間は10時なのに、二人して1時間前にいるなんて。
お互い『息抜き』を楽しみ過ぎな気がする。
「きっとこんなのだから、最後の一歩が無理なのかなあ」
ついそんなことを言ってしまうくらいに。
喫茶店の外から見えた彼の姿に、尻尾が揺れる。
こんなに感情をあらわにして尻尾を動かすのは大人なウマ娘として恥ずかしい。
でも、それくらい良いよね。息抜きだから。我慢する必要なんてないから。
そう自分に言い聞かせながら私は彼の元に向かう。
「おはよう、ハロー。早いね」
「そういうあなたこそ早すぎませんか?」
私の言葉に彼はわずかに苦笑した。
「そうかも。まあ、ちょっとモーニング食べてコーヒー飲みながら考えたいこととかあって」
そう言って彼は手にしているタブレットをテーブルに置いた。
画面に写っているのは……不動産、賃貸のサイト。
「引っ越し、するの?」
私の質問に彼は頷く。
「ハローは知ってるかもしれないけれど、トレセン学園のトレーナー寮って長居できないんだよね……新人が入ってくると追い出される。実際は抽選なんだけど、追い出されるかどうかソワソワするくらいなら早めに出ようかなって」
そして彼は隣においていたリュックから賃貸情報誌を取り出した。
「最近トゥインクル・シリーズの人気高いし、公開模擬レース目当てとかでトレセン学園付近のアパートは結構埋まってるんだよなあ」
彼が付箋の入ったページは府中近辺だった。
それ以外にもいくつか。 - 6二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 01:30:54
「こっちの方は?」
隣りに座った私は、雑誌を覗き込んで。
別のページについている付箋をわずかに引っ張ってみる。
「ええと、これは……担当の取材対応やらでこれから都心の方に行く機会も増えそうだし、もうちょっと都心のアクセスも考えた方」
彼がページをめくると、そこには中央線沿いのアパートや京王線沿いのアパートにいくつか印が入っていた。
どれも家賃が高めで、一人で暮らすには広そうなところばかりだ。
「こことかどう?」
国分寺、武蔵境、吉祥寺、荻窪。
「うーん……悩ましい」
調布、つつじヶ丘、下高井戸、明大前。
なるべく都心の方に誘導する。してしまう。
私の勤務先のイベント会社は東京の都心の方にある。
トレーナーとして朝練に付き合う必要があるから、彼の朝は早い。
府中近くを選ぶのはわかっている。当然の選択肢だと思う。
でも、こんなに沿線を候補にいれてくれてるなら。
もう少し都心に近いなら……私も、一緒に……。
「ハローならどこに住みたい?」
「えっと、私なら……」
結局その話が盛り上がりすぎて。
予定よりもアミューズメントパークの入場が遅れて、私達は長蛇の列に巻き込まれてしまった。 - 7二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 01:32:03
アトラクションを待っている最中も、彼の引越し先の話ばかりしていた。
その合間に起こるイベントようにアトラクションを楽しんで、パークのパレードイベントを最後まで堪能して。
名残惜しさを感じながら、手が触れる触れないの距離を保ったまま夜の街を歩く。
「ご飯どこで食べる? 一応いくつかあてはあるけど」
「そんなに食べなくても平気かも。喫茶店とかで何か摘むくらいで」
アトラクションパーク内でいろいろと食べ歩きをしたから、そんなにお腹が減っているというわけでもなかった。
食べろと言われればまだまだ食べられるけれど……そんな大食いなところは見せたくない。
例えバレていたとしても。
「息抜き、終わっちゃったなあ」
彼が席の空いてそうな軽食場所を探しながらつぶやく。
それに私は無言で頷いた。
なにか言いたかったのだけれど、口にすると止まらなくなりそうだったのだ。
「このまま息抜き、続けたいね」
週末の混み合う街並みで、何とか開いてるところを見つけて座り。
注文をしたところで再び彼がそんなことを言う。
「……続けちゃいます?」
本心がむき出しにならないように、少しおどけた感じでそっと言ってみた。
「息抜きが続いたら息抜きじゃなくなっちゃうよ」
「そしたら……なんですかね?」
少しだけ。ほんの少しだけ踏み込んでみる。
「うーん。日常、とか?」
彼がそれを口にして、言葉を止めた。
一瞬、沈黙が二人の間に漂って。 - 8二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 01:32:40
「「あの」」
お互いの言葉が重なった。
「「どうぞどうぞ」」
また重なって、二人揃って苦笑する。
「……日常にしても、いいかな」
その言葉の意味は、もちろんすぐにわかった。
胸が一杯になって言葉が出せない。ただコクコクと頷くしかなかった。
あたりでわずかに風が起こる。きっと私の尻尾のせいだ。
彼がリュックから再び賃貸情報誌を取り出す。
「こことかどうかな」
「うん。うん。良いと思う。思います」
「それからここも悪くないかなって」
「うん。はい。そう、そうですね!」
もう頭が回ってない。尻尾だけがぐるぐる回ってる。
「……その、改めて。順番デタラメだけど……好きです。付き合ってください。俺と一緒に住んでください」
彼が一息をついてから、頭を下げる。
「はいっ。よろしくお願いしますっ!」
そして私は頭を下げたままの彼の額に、自分のウマ耳をぶつけながら。
同じように深く、頭を下げた。 - 9二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 01:33:01
「トレーナーってさあ、ライトハローさんと同棲とかしないの?」
トレーニング開始前の軽いミーティング、何気ない会話。
月末の引っ越しの予定を話した途端、担当ウマ娘がニヤリと笑い。
唐突にそんなことを言ってきた。
「……するよ」
この耳年増な担当ウマ娘はありがたいことに、引っ越しを手伝ってくれるという。
どうせそのときにバレるのだ。
俺は素直に告白した。
「えっ。マジで……マジで!? やるじゃんトレーナー!」
っていうかいつからさ? いつからなん? あたしいろいろアドバイスしたかったのに!
尻尾をかつてないほどブンブンと振り回し、迫ってくる担当ウマ娘を押し返す。
「あとでちょっと話してやるから。早く外周に行きなさい」
「ホント!? 約束だからね! あーもうすぐ行ってくるから!」
ウォーミングアップのための外周なのにダッシュをする担当ウマ娘に「ゆっくり行け! 慌てるな!」と声を掛けて。
ウマ娘の鋭い聴覚でも聞き取れないくらいに、彼女が走り去った後で。
「……同棲、か」
俺は一人、幸せを噛み締めてみた。
おしまい - 10二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 01:35:22
- 11二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 01:36:42
あー、このお互いが一歩進んだ感覚いいな。こういうのいいな
- 12二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 01:43:36
いいね、すごくいい
ニヤニヤしちゃった - 13二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 01:44:08
なぜ深夜にあげた!
落ちちゃうだろ!! - 14二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 01:44:24
無限に口角上がるわ…
金曜の夜にこんないいSSと出会えたことに感謝 - 15二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 01:51:28
これお出かけイベ3回目の遊園地での話だとしたら、ピクニックとライトハローの地元へ行くイベントが控えてるのか
想像が膨らむ~本編時空より親密になった二人のグランドライブを見てみたいな - 16二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 01:59:50
いい・・・
- 17二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 02:32:32
素晴らしい……ゆったりとした雰囲気が好きすぎる
ちょうど今日ライトハローさんに挑むつもりだったけど恐る気持ちがなくなったよ、ありがとう財布死んだわ - 18二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 02:33:37
ふふふ…投下終了まで誰もコメして無くて見やすくて良いの
- 19二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 07:07:51
良かった…良かったよ…すごくすごく良かった
- 20二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 08:09:28
最高じゃねぇか…!!!
- 21二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 08:15:23
good!!
- 22二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 08:16:43
長すぎず丁度良くまとまってるのが上手い
- 23二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 08:17:51
あー素晴らしい……とても素晴らしい……
- 24二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 08:21:42
これは思わずニヤついちゃうやつだ…
最高だったぜ - 25二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 08:24:07
オレもこんな体験してみてぇ〜と過ぎた思いを抱いてしまった…ハローさん幸せになってくれ…
- 26二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 08:27:05
いいねぇ…いいねぇ…
えっ続きもあるんですか!?ありがとう! - 27二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 08:37:36
しゅき⋯
- 28二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 09:02:48
心が洗われる…
- 29二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 09:25:49
あるに決まってるだろ!!うおおおお!
- 30二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 09:31:13
素晴らしい!!
- 31二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 09:40:35
今散歩中なのにニヤけちまっただろ、これじゃ不審者だどうしてくれる
- 32二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 09:41:33
- 33二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 09:47:16
よがっだ…よがっだよぉ
- 34二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 11:17:00
良すぎる……
執拗な尻尾描写、私の癖に合いますね〜 - 35二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 13:09:10
いいもん読ましてもろたで…
- 36二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 21:58:42
気ぶり担当ウマ娘…
- 37二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 22:02:34
良いものを見た
- 38二次元好きの匿名さん22/09/04(日) 07:18:16
ウマ耳と尻尾の仕事ぶりよ
- 39二次元好きの匿名さん22/09/04(日) 18:30:53
𝓛𝓸𝓿𝓮…
- 40二次元好きの匿名さん22/09/05(月) 00:47:52
いいもの見たわ
- 41二次元好きの匿名さん22/09/05(月) 00:52:31
age
- 42二次元好きの匿名さん22/09/05(月) 00:56:34
ライトハローに脳を焼かれた人が多すぎる……
- 43二次元好きの匿名さん22/09/05(月) 01:14:06
何これ可愛い。ハローさんもトレーナーもクソ可愛い。なにこれ