ここだけダンジョンがある世界の掲示板イベントスレ 第84層

  • 1白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/04(日) 23:16:19

    現行スレ

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    ここは「ここだけダンジョンがある世界の掲示板」の番外編みたいなスレです。


    己の在り方と理想の乖離に悩みながらも、成長を望んで中級試験に挑む白騎士の数か月を舞台としたSS。

    拙い文章ではありますが、もしよろしければご覧になってください。

    (文字数18580)

  • 2白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/04(日) 23:17:30

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    「わたしは正義のために戦う。だが正義はわたしのために戦ってくれるのだろうか?」
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  • 3白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/04(日) 23:17:58

    雨が降りしきる原野を超えると、小高い丘陵に挟まれたあ要塞が見えてくる。
    白い鎧の上に雨具を羽織り、フードから滴る水滴に眼を細めて見やる。一角獣のような角飾りが聳える兜は外していた。

    白騎士。本名「ライオット・アルカデリアス」。チサーナ王国よりセントラリア王国へ武勲を上げるためにやって来た下級冒険者。正確にはまだ。眼前に立つ要塞へ向かうのは中級冒険者への昇級試験を受験するためだ。

    突き出した木製の大きな櫓が左右に立てられた門の前に立ち、名乗りを上げる。
    開かれたのは多少遅かった。石畳をこする金具が軋み、重苦しい音を上げて白騎士を迎えた。

    白騎士(騎士と名乗るのは…今更ながら、少し可笑しいのだろうか。馬にでも乗って赴けば恰好はついたかもしれない。)

    門は二重の構成で、奥の門は手前のものと比べるとやや小さいが、より堅牢なようにも見えた。固く閉じられた錠が、しぶしぶといったような様子で解かれる。少なくとも歓迎されているような気配はあまり感じられない。

  • 4白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/04(日) 23:19:10

    喧噪。門の向こうにある広間では、雨の中兵士たちが互いに稽古していた。
    木剣は使用していない。真剣と粗末な甲冑と盾を用い、ほぼ実戦と等しい。

    白騎士はやや気押されていた。
    確かに、彼も王都にて「闘技場」という冒険者向けの訓練施設…そこでは蘇生と治癒の魔法がかけられており、仮に戦闘で死亡したとしても問題なく復活できる…をそこそこ頻繁に利用しており、ある種自身の死は日常にすらなっていた。

    だが、ここで訓練している兵士たちにそういったセーフティがかけられているような、少なくとも魔法的効果は感じ取れない。ただの訓練、ただの日常にて、彼らは死ぬかもしれない戦いで自身らを鍛えている。その事実と、そこから感じ取れる「守護」という義務への、兵士たちの気迫に、白騎士は気押されていたのだ。

  • 5白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/04(日) 23:20:14

    白騎士「………すごいな。」
    司令官「貴様は訓練の邪魔をするためにそこで突っ立ているのか?それともただ見学に来たのか?どちらかであっても邪魔だ。」

    訓練の様子に見入っていた白騎士の死角から厳めしい声が響き、思わず肩をすくめて振り返る。
    声の主もその声色と同じか、それ以上に厳めしい。皮が厚い顔に大きく刻まれた裂傷跡は、どことなく闘牛犬を思わせる。使い込まれて何度も拭き直されたであろう汚れた胴鎧に、金の飾りが付いていた。
    彼がこの要塞の司令官だ。

    白騎士「失礼致しました。わたしはセントラリアの冒険者ギルドから中級試験を受けに来た…」
    司令官「社交辞令は無用だ。要件は既に知っている。私の執務室へ来い。」

  • 6白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/04(日) 23:20:54

    ……挨拶すら途中で遮られた。
    司令官は訓練を続けるよう兵士たちに号令し、隣に控える補佐官へ何か伝えて、白騎士を一瞥すらせず砦の中へ去って行った。

    白騎士「………………迅速な対応、痛み入ります…。」

    誰に届くでもなく、訓練の喧噪な只中、白騎士は雨に打たれて挨拶の続きを言った。遅すぎる。
    自分だけがまったく違う世界へ放り込まれたようで、まったく自分のペースを見失ってしまった。
    この感覚はサンレインでの監獄塔調査に参加した時のものとやや似ていた。流石にあれ程ではないが、自身の経験のまったく外側にある。チサーナでも、セントラリアでも、なんなら例のサンレインですら、これほど雑に扱われた覚えはない。

    雨はまだ降り続いている。想像以上に居心地の悪い、中級試験の始まりだ。

  • 7白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/04(日) 23:22:04

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    通されたのは指令室だった。
    石造りの壁に暖炉の明かりが赤々と照り、雨空が写す薄暗い青冷めた空気と境を線引く。
    白騎士と他の受験者たち、計4名はその黒い影の境に立っていた。
    視線は窓から訓練風景を後ろ手に眺めている砦の指令官、同時に本試験の検査官へ向けらている。

    「それで?つまり、ギルドの冒険者連中と彼らを贔屓にするセントラリアの王侯貴族の方々は、日頃迫る様々な危機に対応すべく入念な訓練と準備を欠かす事が出来ない多忙な我々の元へ、経験にも乏しいひよっこ共を監査させるべく送り込んだというわけか?」

  • 8白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/04(日) 23:22:59

    ………侮蔑的、とまではいかないと譲歩しても、決して友好的ではない態度と雰囲気だ。
    このような「いびり」は軍の、特に最前線ではよく見られるものでこそあるが………そうはわかっていても見る迫力は聞きしに勝る。既にS等級のクエストと英雄登竜門の試練へ紛いなりにも同行した白騎士はともかくとして、他の現下級冒険者たちは萎縮してしまっていた。
    しているようだった、ではない。
    司令官は続ける。

    「私には兵士たちを監督し、砦を管理する務めがある。兵士たちには鍛錬を積み、地域と砦の秩序維持に努める務めがある。」

    「だのに、我々はこれから右も左もわからぬようなお子様を相手に、行動の端々に目を光らせ、軍曹ごっこに付き合わなくてはならない。これがどういうことかわかるか?そこの。貴様だ。」

  • 9白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/04(日) 23:23:33

    猛犬のような眼光は列の真ん中あたりにいた女性冒険者を捉えた。
    使い込んでこそいるようだがまだ新しさが抜けきれない革鎧を着て弓矢を背負っていた。盗賊(ローグ)か弓手(アーチャー)、野伏(レンジャー)だろうか?

    「え?あ………その…………」
    「なんだ?招来有望な冒険者様は何か言いたいことがあるのかな?ん?」

    執拗だった。見た目だけでなく中身まで猛犬のようらしい。
    このように詰められたことがないのか、迫力のせいか、彼女はいよいよ答えられずしどろもどろ。涙さえ浮かんでるようだった。

  • 10白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/04(日) 23:24:05

    「ええ、その通りです。司令官殿。」

    見ていられなかった。純白の鎧が暖炉の火に赤く照らされる。
    窓から差し込む暗い青が引いたようだった。

    「………貴様には聞いていないが?」

    じろりと睨みつけられる。
    だがこの程度、竜の眼と比べればなんということもない。

  • 11白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/04(日) 23:26:01

    「失礼、しかし司令官殿はお話の通り御多忙な様子。でしたなら円滑に事を進めるべく、早急に双方の事実確認をすべきだと判断して発言させていただきました。」
    「………だから、貴様には、聞いていない。そして、ここの時間を仕切るのは私だ。貴様では、ない。」

    司令官は、ゆっくりと、詰るように語気を強めて歩み寄ってくる。
    なるほど確かに大迫力だ。新兵であればこの場で泣き出しても不思議ではない。おそらくこれまでもそうしてきたのだろう。

    「勿論です。だからこそ、これからの業務における時間の仕切りに差支えがないよう、かわりにお答えしたまでのことです。」

    だが、既に死線を数度超えてきた白騎士にとって、その風貌も話術も脅しにはならなかった。なんということもなさげに落ち着いて回答するだけの余裕を持てる。
    ある種の賭けではある。
    この試験の試験官は目の前のいかにもプライドがありそうな男で、彼に口答えすればこの場で不合格にされても最悪おかしくはないのだ。
    ただ、そういった打算を立ててもそれに従えなかった単純な男というだけの話である。

  • 12白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/04(日) 23:27:00

    司令官は目を見開いて下から白騎士を覗き込むように睨みつけ、歯を食いしばった頬がわずかに膨らんでいた。
    白騎士も正面から視線を毅然と衝突させる。

    「………いいだろう。事実、そうだ。さっさと試験内容を伝え、さっさと仕事を終わらせよう。」

  • 13白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/04(日) 23:27:40

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    ──────────




    「つまり────盾を持つ護衛の基本的な立ち位置は─────────」

    訓練指導を始めて早4日。依然状況は芳しくなかった。
    明確に反抗されたわけではない。なんと表現すべきか、「認められていない」という一言に問題の根本が収束していた。

    「であるからして、護衛の心得とは────。」

  • 14白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/04(日) 23:28:56

    並ぶ兵士の数人があくびを噛み殺しているのを尻目に内心歯嚙みする。
    わかっている。これは当然基礎的なことだ。ここにいる殆どが知っていることだろう。今更教えるようなことではない。

    だが、白騎士にとって基礎とは奥義にも等しい。
    この呆れるような単純運動と学習の反復こそがいざという時の切り札となりうる。
    そう教えられてきたし、経験則からもそれが事実であると確信していた。

    よっていくら簡単な事項であっても無視して学び手側が望むようにさせるということなど、白騎士には想像もつかないという程でもないにせよ、看過できることではなかった。生来の生真面目さもあったのかもしれない。

  • 15白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/04(日) 23:30:20

    それが招いたのが現状であった。
    代わり映えしない訓練、不和が積もる日々。

    そもそも前提からして全てが違っていた。
    もし自分が持ち得る基礎を全て投じた実戦形式の訓練を行ったとして、それでは実力差がありすぎる。

    自分は訓練から実戦へのプロセスで学んだが、彼らは実戦から訓練への。
    自分は敬愛する祖父から尊重すべき伝統を学んだが、彼らの目の前に立って教鞭を振るうのは身も知らぬ若造。
    どれも自身がこれまで知りえなかった世界と人々と試みであった。



    「─────────────以上をもって、本日の訓練を終了します。お疲れ様でした。」

  • 16白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/04(日) 23:31:24

    汗を拭う。嫌な汗だ。
    立ち去る兵士たちは振り返りもせずに兵舎へと戻っていく。
    肺に溜まった重い空気を吐き出した。


    「順調なようだな?白騎士殿?」


    背後から司令官が声をかけてきた。起伏に乏しく、ただ事実のみを告げるような、けれど確実に皮肉であることは確かな声色だ。もしくはそう聞こえているだけなのだろうか?
    振り返ってみても表情は相変わらず固く、目線は去って行く兵士たちの集団へ向けられており、白騎士には向けられていない。

  • 17白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/04(日) 23:32:44

    (………ままならないものだ。)

    間違いなく評価はされていない。
    評価されていないだけマシかもしれない。そういう状況だ。
    しばらく沈黙が間に漂う。

    司令官は何も口にしなかった。
    兵士たちがそれぞれの舎に消えて見えなくなってからも。

    試されている、という直観が白騎士にはあった。
    何を試されているのか、忍耐か、指導力か、対応力か、それとも人間性?
    何かはわからない。
    試されているという直観をおぼろげに感じているだけだが、その直観が沈黙の中で慎重な行動を採るよう促していた。

    「先日、あの小娘は試験を辞退したよ。」
    「………そうですか。残念なことです。」

    あの小娘というと、最初の尋問じみた説明会でしどろもどろになっていた女性だろう。
    確かに初日から斥候たちの指導に苦心していた印象が強い。
    昨夜の夕食を一緒にした時も限界が近いようだった。
    慰めの言葉をかけこそしたが………思いとどまらせるに自分は力不足だったらしい。

  • 18白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/04(日) 23:34:13

    (ギルドの先達方なら上手く勇気づけることができただろうか。)

    ふと試験を申し込む前日のことを思い出す。
    あの夜の公園で声をかけてくれた二人の姿。言葉。
    心が温かった。
    取り乱して上手く応対できなかったことが今になっても悔やまれる。
    自分に余裕がないから、余裕を持てるだけの実力がないから、未熟だから、非力だから─────。

    そんな自動思考に陥っていることに気づいて雑念を振り払う。
    今は自分がすべきことに集中するべきだ。
    今試験にあたっているのは自分で、あの二人でも、彼女でもない。
    自身の非力のせいで不足を嘆いても、今は仕方ない。
    まずは今。今に集中しなくては。


    (おそらく………揺さぶりをかけられてる。わたしの試験が好調でないことは明らかだ。それを知ったうえでこの知らせをどう受け止めるかの反応を見ているんだ。)

  • 19白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/04(日) 23:36:40

    司令官の様子を伺う。
    なるほど鉄面被だ。なにを意図しているのか読めない。

    初日の高圧的な態度すら本心でないのだろう。
    すべて計算に裏付けられた態度なのだ。
    彼は今、司令官という役割と試験官という役割、つまり「訓練官を監督する訓練官」を担っていると言っていい。
    あくまで憶測でしかないが、ギルドと国家が共同して行っている試験を任された人物だ。
    信頼や保証がなくては任せられる仕事ではない。
    経験としても隣に立つ人物が横暴なだけの猛犬でないことは察せられた。
    あくまで憶測だが。


    「明日、希望する受験者には3日間の行軍訓練の代行を任せようと思っている。受けるつもりはあるか。」
    「………はい。謹んでお受けする所存です。しかし、そういった報告は受験者全員が揃う場面ですべきではないでしょうか?公平性を期して。」
    「勿論これからするつもりだ。だがこれを受けであろう比較的マシな者は貴様くらいだからな。」


    比較的マシ、その言葉に安堵を覚えなかったといえば嘘になるが、この場面ではそれ以上に反発心の方が強かった。「比較的マシ」? この試験を受けている誰もが懸命に自分がすべきことをしている。
    その過程で成否は大いに問われるだろう。だがそれは挑戦していたからがためであって、いくら試験官とはいえど侮辱されるいわれはないはずだ。辞退の決断すらも。

    口に出したいところであったが、奥歯と拳に力を込めるだけに留める。留めるよう努めた。
    評価は評価、気に入らなくとも。互いに果たすべくを果たすのみだ。今は。

  • 20白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/04(日) 23:39:48

    出発の朝、部屋に残っていたのは自分だけだった。
    唇を浅く噛んで荷物を纏める。行軍訓練は最終日まで。
    つまりこれが最終試験と言える。
    ここまでの成果は好ましいものではない。最後のチャンスだ。

    砦の門を出て集合地点で待つ。起床時間の半刻前だけあって一番乗りだった。
    これから兵士たちが集まってくる。
    息を整え、集中。自分がここに来た意味を思い出す。

    理想のため、騎士としての責務のため、家名のため、信じてくれた人たちのため、残されたもののため─────。

    朝日が鈍い。厚い曇天から光は覗けない。だが降らないだけマシだ。


    集まった兵士たちはやや若い、新兵が大半を占めていた。
    ざっと見て実戦形式の場で見た顔は無い。
    もしかするとこれが初の訓練となる者もいるのだろうか?

    目的地は砦から北上してソワスレラの国境付近までの関所までで、1日と半日あれば到着、折り返して予定期限となる。早くつく分には問題ないとしても遅れれば減点であろう。
    眠気が抜け切れていない様子の兵士たちに内容を手早く説明し、出発した。

  • 21白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/04(日) 23:41:10

    風が唸る。
    荒涼と開けた丘陵を30人程度の集団が黙々と進んでいた。

    白騎士と同伴する他数名の士官は騎乗していたが、続く新兵たちは徒歩だ。
    いくら訓練言えど正直かなり心苦しい。
    自分も歩こうかと思ったが、騎馬の数が足りない。

    そもそも軍とは上下関係に基づく規律が主軸だ。
    自身らが騎乗するには指揮の在処を明確にするだけでなく軍団内部の秩序を権威の下維持するためでもある。
    交代で乗らせる方法もあるが、乗り換えの手間暇と新兵の騎乗技術を考慮すれば時間ロスは勿論、事故のリスクも無視できない。

  • 22白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/04(日) 23:41:41

    (………ここに来てもままならないものだ。)

    ため息は漏らさない。吐露は内に隠す。
    今自分にできることはせめて休憩時間を増やすことくらいだ。
    進行自体は概ね問題はない。このまま上手くいくなら。

  • 23白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/04(日) 23:43:13

    ㅤㅤㅤㅤㅤ
    関所に到着したのは予定よりもずっと早かった。
    初日の日没直後には手前の谷についており、先頭を駆ける白騎士の光の魔法を導にそのまま行軍したのだ。

    野宿用の荷物が無駄になったことへの不満は多少あるようだったが、吹きさらしの原野で一晩明かすのではなく古びたレンガの壁の内側で、そして早ければ明日にも帰れそうなことの前では些末なことらしい。
    兵士たちの士気は高かった。士官たちも悪い気はしていないように見える。

    普段人のいない辺境の関所となれば野盗や魔物が住み着くこともある。
    ここはソワスレラとの国境というだけあってそういったことはまず無いであろうが………少なくとも無人なままであったことは喜ぶべきことだった。

    とはいえ、監視は続けなくてはならない。形式上のことがそのまま訓練となるからだ。
    斥候たちは胸壁に登って月明りと松明を頼りに見張りについている。
    白騎士は彼らの様子を見に行った。

  • 24白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/04(日) 23:45:15

    「外の様子はどうだい?」

    立派な白甲冑を纏った騎士の来訪に斥候たちはやや驚いた様子だったが、「何もないです。酒が飲めれば良い夜だったのに」と軽口を交えて返した。
    思わず笑ってしまった。
    斥候の一人の隣に立って同じく暗い地平を見やる。

    「君はなぜ兵士を?」
    「唐突ですね?まあ…俺は学が無いんで。就ける食扶持がここくらいだったからですよ。」

    「今の時世、街を探せば学歴を問わない仕事はあるのでは?」
    「そういう仕事にも競争はあるんですよ騎士様。冒険者だって実力が要るでしょう。」

    「つまり、兵士の道はあくまで生活のため?」
    「俺だけじゃないですよ。大体そんなものです。」

    あまり想像がつかないことだった。
    白騎士にとって、騎士の道を選ぶことは必然だと思っていた。

    殉ずるのは理想、献身と言う名の義務。

    それらを重いと感じることはあれど捨てることなど考えたこともなかったし、他の生き方など想像もつかなかった。
    誰かに強制されたわけではない。
    自分で望んで。

  • 25白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/04(日) 23:45:25

    (自分で望んだことなのだろうか?)




    ㅤㅤㅤㅤㅤ

  • 26白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/04(日) 23:47:01

    次の瞬間、若い斥候の胸に血の花が矢の枝葉に咲いた。
    全てがスローモーションに見える。
    色が消えうせ、血の赤だけが鮮明に空中で橋を描く。
    我に返ったのは身体が石畳に倒れこむ音が止んでからだ。

    「敵襲!!」

    素早く渾身の勢いで号令をかける。
    矢は次々暗黒の彼方から飛来してきた。
    斥候の新兵たちは突然のことに驚いたのか訓練の成果かは知らないが、その場に身をかがめて壁面の凹凸に隠れる。
    白騎士は自身に飛来する矢を盾で防ぎ、即座に結界を貼って追撃を遮断する。


    「篝火だ!明かりを消すんだ!」


    光から闇は見えないが、闇から光はよく見える。
    敵は胸壁の明かりを頼りに狙いをつけていることは明白だった。
    結界の裏で余裕を持たせ、新兵たちに明かりを消させると矢の雨は止んだ。

    「敵はまだいるぞ!油断するな!まずは負傷者を安全な場所へ移動させる!」
    ㅤㅤㅤㅤㅤ

  • 27白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/04(日) 23:49:16

    近くにいた者たちに倒れている斥候を運ぶのを手伝うよう指示する。
    皆青褪めていた。指先の震えが見て取れる。
    彼の出血はかなり酷かった。
    もはや一刻の猶予もない。魔法で応急処置を施すが鏃を摘出しない限り腐敗の危険性もある。

    下の階に降りた時には混乱の渦であった。
    何が起こったのかと叫ぶ声と、同じく別の場所で襲撃を受けたであろう人のうめき声、すすり泣き、悲鳴、それらを抑えつけて状況を落ち着かせようとする士官たちの怒号。
    だが白騎士が姿を見せた時に混乱は一応の方向性を得た。
    この行軍訓練の監督である白騎士へ集中したのだ。

    「ま、まずは落ち着いて!怪我人の治療に当たる必要がある!まずは1つ1つのことに集中するんだ!」

    人込みを割って怪我人を寝かせる場所を確保する。
    幸いにも数はそれほど多くない。
    衛生兵が道具をもって駆け寄り処置を開始した。しかし、たどたどしい。

    (何が起こっている!?敵襲!?どうして!?そもそも誰が!?)

    指揮を任されている者として可能な限り平静を保つよう努めている白騎士だが、内心ではかなり混乱していた。
    突然のことだった。
    致命傷を受けた者がいる以上訓練の域を超えているのは明白だ。
    だが、それなら何故、誰が。

  • 28白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/04(日) 23:51:20

    関所の門から激しい金属の衝突音が響き渡った。
    次いで身を裂くような絶叫。いや、実際…。
    想像に鳥肌が立つ。
    動ける近衛志望の者だけを引き連れて門へと向かった。

    門の周辺は戦場と化していた。
    警備に当たっていた8名の内既に半数が倒れ伏しており、残る者は狂乱状態で剣を振り回しているか逃げ惑っているかのどちらかだ。
    黒々とした門の向こう側から二十余名の粗野な皮鎧を身に着けた男たちが押し寄せてきている。

    白騎士は迅速に敵集団の塊の鼻先へ突撃し、勢いのまま閃光のシールドバッシュを放った。
    夜ごと賊数人を遠く押しのける。

    返す刃で新兵を追っていた賊一人を背後から貫き、反応して襲ってきたもう一人を宙を駆ける盾で殴打し、生まれた隙を縫い留める。

    「私が抑える!負傷者を中へ運べ!」

    指示を飛ばして前線に立つ。
    乱入者に戦線が泡立ったが形勢は不利に傾いたままだ。
    賊たちは雑ながら隊列を組んで白騎士と相対する。

  • 29白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/04(日) 23:52:16

    (統率が取れている。背後に誰かいるな。)


    闇の奥を見通すことはできない。
    だが、この襲撃を先導している存在は確かに感じ取れた。

    門を閉めなくては。
    おそらく先ほどの攻撃でこちらの戦力がほとんど未熟であることを感づかれた。
    このままでは敵本隊が関所内部へ押し寄せてくるだろう。
    そうなれば皆殺しにされる。朝を迎えることはない。

    門へ突撃した。
    閉めるまで見積もって12秒、閂を施錠するまで3秒、敵の配列が完了するまで10秒。
    時間がない。
    先ほどのシールドバッシュで稼いだ時間だけが今の優位だ。

  • 30白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/04(日) 23:54:07

    (わたしは壁だ。意志の壁。生ける城塞。)

    暗示を唱えながら前進する。
    疎らに立つ者を光の剣で撫で斬る。

    扉に手をかける。
    4秒。

    矢が肩の装甲に当たって跳ね返る。扉へ力を込める。
    7秒。

    闇の向こうから殺到する足音。
    12秒。

    扉が閉じた瞬間に向こう側から大人数が激突する。
    門が押し返される。
    13秒。

    閂に手を伸ばす。
    門から離れられない。
    届かない。
    14秒。

    背後から数人の手が伸びて閂を掴んだ。15秒。
    負傷者を運び終えた新兵たちと士官一人が、白騎士が抑える門を完全に閉じた。

    16秒。

    間に合った。
    止めていた息を吐き出す。夜の冷えた空気が激しく脈打つ心臓と不和を生むが気にしていられない。

  • 31白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/04(日) 23:54:50

    「あり…がとう、ございます。助かりました。」
    「ええ、どうも。けどまだ。」

    終わってはいない。
    最悪の状況を避けた先にあるのは悪い状況だった。


    今現在自分たちは籠城しているといわけだ。
    しばらく手入れされていない古びた関所で。
    綻びがあるレンガの壁で。
    錆びた鉄で補強された薄い木の扉で。
    3日分もない食料と物資で。
    怪我人を抱えた新兵ばかりの部隊で。

  • 32白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/04(日) 23:56:21

    ㅤㅤㅤㅤㅤ

    関所内の大広間は臨時の作戦会議室となった。
    見渡せば不安そうな顔が一面に並んでいる。
    ガタつくテーブルの上に砦の見取り図を広げ、白騎士は周囲の士官たちと共に状況について検討していた。

    「敵の姿はほぼ確認できず、対して敵はこちらの全貌を把握し、包囲されている。おまけに門も数時間持ちこたえるかどうかだ。」
    「怪我人は?」
    「重症6、軽傷8。約半数が負傷している。対応する衛生兵の数を抜けばこちらは総勢14人と1人。」

    状況を再確認するほどに夜の闇が深まっていくようだった。
    燭台の灯が頼りなく揺れる。壁のどこかに隙間があるのだろう。
    白騎士はテーブルに両手をついて黙し、必死に打開策を思案していた。


    (考えろ。考えろ。考えろ!何か方法があるはずだ!この危機を打破する方法が!きっと──────)

  • 33白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/04(日) 23:57:24

    ㅤㅤㅤㅤㅤ

    「あ、ああああああああ!死ぬんだ!俺たちはここで殺されるんだ!」


    群衆の中から新兵の一人が半狂乱の悲鳴を上げた。
    部屋にどよめきが走る。
    それはこの場の誰もが胸中に隠し持っていた爆弾だった。
    それがさらけ出されたことで誰しもが恐怖を再確認する。
    死の恐怖だ。

    「貴様!何を泣き言を!」
    「だって本当のことだろう!?あんただって一体何ができるってんだ!もうダメだ!おしまいだ!」

    新兵はいよいよなりふり構わずわめき散らす。
    剣を捨て、兜を乱雑に放り投げた。
    恐怖の強張りで青褪めた皮膚に冷や汗で髪が張り付いている。

    震えでぶれる関節を不格好に振りながら、部屋から出ていこうとしたところを士官と同輩に取り押さえられた。
    獣ような悲鳴が部屋に木霊する。

  • 34白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/04(日) 23:59:26

    白騎士は、どうするべきかわからなかった。
    こういった状況を目の当たりにしたことがなかったからだ。
    誰もが危機に陥ったとしても気高さを失わず、勇敢に、果たすべき義務に殉ることができると内心のどこかで思っていたからだ。
    自分がそうだとは思わない。
    だが少なくとも、自身が知る人々はそうであると思う。
    例えば祖父母、ギルドの先達たち、父と母──────。


    『つまり、兵士の道はあくまで生活のため?』
    『俺だけじゃないですよ。大体そんなものです。』


    (──────かつてわたしは、使命に揺れるわたしを恥じた。醜いと断じた。悪だと。)

    (では、目の前のあの者をどう思う?)

    蟻地獄の声。
    もういないはずだ。
    幻聴だとわかっている。それでも。
    一歩前に踏み出す。人だかりが僅かに割れる。

    (醜いか?)

    左右から見つめる無数の瞳。
    目の前には取り押さえられた男の姿。

    (断罪すべき悪か?)

    目と目が合う。
    剣の重さを感じた。

  • 35白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/05(月) 00:01:24

    男が吠える。

    「あんた!あんたは良いよな!?生き残れるに決まってる!その盾と鎧で!あんたは生き残れる!俺らを犠牲に!!」

    「なあ…頼むよ……逃げさせてくれ………!病気の妹がいるんだ。俺、俺はまだ死ぬわけにいかない。死にたくない。お願いだ。逃がしてくれ…頼む………。」






    「─────────いいや。違う。」

    否定の言葉に男が絶望した顔を上げる。
    違う。そうじゃない。

    これまで、自分は自分自身に「騎士としての自分」を強制してきたことに気がついた。

  • 36白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/05(月) 00:02:53

    生き方はたくさんあるのだ。
    チサーナの片隅で畑を耕していてもよかった。
    街で商売をしていてもよかった。
    騎士ではなく兵士と過ごしても。
    全てを捨てて一人旅発つことも。
    どれを選ぶこともできたはずだった。

    けれど自分は受け継いだことを、残されたことを言い訳にしていただけだったのだ。
    託された希望に自身を当てはめ、自分が勝手に作り上げた誰かの理想に縋っていただけなのだ。
    その理想に生きることこそが、両親に残された自身の価値だと決めつけて。


    (あの方はどう思われていたのでしょう。)


    思い出されるのはあの黄金の瞳。夜明けの色。
    皇族としての出生、女神の器、壊された国。

    どれも途方もない重責に思えた。
    それでも尚、彼女は自分の意思で他者を救う道を選んだ。
    誰のためでもなく。


    すべて自分が強いてきたことだ。
    目の前の男の姿は、かつての自分と両親の面影であることを悟る。
    片膝をついて目を合わせる。

  • 37白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/05(月) 00:05:44

    ㅤㅤㅤㅤㅤ
    「ここに残って戦うのです。」

    絶望の色が更に濃くなる。
    もはや暴れる気力すら失せたのか拘束をすり抜けて項垂れる。
    だが、白騎士は彼の方に手をおいて続けた。
    また目が合う。

    「けれど、私は貴方を決して死なせはしない。」
    「それはここにいる者全員もだ!」

    立ち上がり、拳を上げ、叫ぶ。

    「最後まで戦いぬくのだ!力を合わせて!」
    「けれど、私はここにいる誰も死なせはしない!必ず!」
    「皆で生き残る!勝って生き残るのだ!」

  • 38白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/05(月) 00:05:56

    項垂れていた者たちが顔を上げる。
    もう自分に強制はしない。騎士として理想に縋るのは止める。
    そしてもう一度回りを見渡す。

    薄汚れた顔、ささくれた手、恐怖に震える瞳。
    けれどそこには日々を懸命に生きる人々の姿があった。

    彼らのために戦いたい。
    それが白騎士の胸中に湧き上がった偽りない本心だった。

    「夜明けは遠い!だが明けぬ夜などない!」

    立ち上がる人々。
    無数の剣が抜かれ、掲げられる。

    灯の揺れはいつのまにか止まっていた。

  • 39白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/05(月) 00:07:01

    ㅤㅤㅤㅤㅤ
    ㅤㅤㅤㅤ
    「そして共に迎えよう!今は遠き夜明けを!遥かなる凱旋を!!」


    今にも押し破られそうな門を、内から押し返すかのような雄たけび。
    反撃開始だ。

    ㅤㅤㅤㅤㅤ

  • 40白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/05(月) 00:10:09

    ㅤㅤㅤㅤㅤ

    「ようやくやる気になったか?」

    闇の中、闇よりも暗い漆黒の鎧を纏い、黒馬に跨る男が血の通りを感じさせない声色で呟いた。

    元々、この襲撃は偶発的なものだ。
    偶然部下を引き連れ刃向かう競争相手を潰し、偶然近くを立ち寄って、偶然鴨がいたから、偶然殺そうとした。
    それだけである。

    想定では初撃でがら空き同然の門から中に入り、中の者たちを皆殺しにする算段だったのだが、あの白い騎士の存在はやや想定外だった。一時とは言え一人でちょっとした軍勢を押し返したのだ。

    だが、所詮は一人。
    このまま圧力をかけて臆病者どもがやけを起こすのを待っていたのだ。
    先ほどの叫びを聞くにまたも当てが外れたらしい。

    「どうされます?」
    「兵をぶつけろ。数でも質でもこちらが上だ。」

    正面から潰す。それで片が付くだろう。
    あの騎士を考慮すれば犠牲はそれなりに出るだろうが、駒は駒。自身の名を上げるための道具に過ぎない。
    ここで兵士が駐屯する関所を攻め落としたという事実さえ広まれば十分。
    むしろ出世前の厄介払いができて丁度いい。
    黒騎士は歪に棘が生え並ぶ大型のホースマンズ・フレイルを肩に担いだ。

    「面倒だが俺も出る。退く者は叩き潰すと伝えろ。」

  • 41白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/05(月) 00:12:21

    ㅤㅤㅤㅤㅤ

    『いいかい?敵はほぼ間違いなく正面から来る。先ほどの衝突で自身らが有利にあると確信しているだろうからね。』


    兵数僅か15人。
    うち実戦経験者は数名。
    対して敵は殺しに慣れ、数は40人以上は確実、位置は見えず、統率が取れている。


    『攻城戦三倍の法則というものを知っているかな。防備を固めた拠点を攻め落とすには三倍の戦力が必要、という定説だ。勿論絶対的なものではないがね。』


    もう少しで門が破られる。
    斧が木材に叩きつけられる音が夜に響く。


    『勝機があるとすればここだ。私たちは防御の側についている。これが数的不利を覆す最大の決め手になるはず。』


    正直、奇策名策とは言い難い。ごく普通の理論を集積しただけのものだ。
    それでも普通のことを普通に実践してくれるということがどれだけありがたいことか。

  • 42白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/05(月) 00:13:55

    『耐えるんだ。夜明けが来たなら事情が大きく変わってくる。』
    『奴らは闇を味方につけたと思っている。闇の化身であるかのように振舞っている。その慢心を利用してやるんだ。』



    門が破られると同時に押し寄せてきた野盗たちが目にしたのは、門と本丸の間に一人立つ白き守護者の姿。

    瞬間、閃光、衝撃。

    シールドバッシュで吹き飛ばされた野盗たちが入ってきた門の向こうへ消えていく。
    一撃、二撃、次々閃光が放たれ、遂に白騎士は門へ辿り着き侵入者を全員外へと押し返した。
    剣を杖にして仁王立つ。

    「新たな城門だ。破ってみせよ。」

    その言葉に怒髪天となった野盗が次々野蛮な叫びを上げながら突撃してくる。
    しかし。

    『………湖よ。光抱き、その涙、風雨に揺れず。慈愛満ち、その瞳、影を映さず。双界、相見え其の意思を為せ。』

    白騎士の前面に展開される巨大な純白の結界。
    意思の壁が迫る悪意の奔流を押しとどめる。
    放つ光は闇を押し込み、闇に潜む者の目をくらませ、その位置を露わにする。

  • 43白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/05(月) 00:15:43

    城壁の上の暗闇から矢が放たれた。
    その一撃は神の怒りの如く、過たず罪人の頭を穿つ。


    そう、「闇から光は良く見える」のだ。
    白騎士が破られた城門の前に陣取り、弓を扱えるものが門を挟む左右の城壁に身を隠し、光に照らされた者から射止めていくという作戦なのである。

    敵は白騎士の光で目が眩み夜目が効かなくなり、位置が明らかになり、結界に阻まれて前進できない。
    対してこちら側の射手は闇の中から筒抜けになった敵の位置を把握し、攻撃の瞬間だけ身を乗り出して攻撃、すぐさま城壁に隠れる。

    敵はかなり接近しなくては射手を視認できず、視認したところで矢玉は角度の関係上当たらない。
    かといって角度のために離れれば姿を捉えられない。

    この作戦はひとえに白騎士が「秘策」の成就まで耐え続けられるかに懸かっている。
    普通に考えれば不可能な前提だろう。
    しかし、英雄登竜門の試練を潜り抜け、天を裂く一撃すら凌ぎ切った防御力は伊達ではない。

    意識を集中させ、入口を完全に塞ぐ。
    叩きつけられる鉄塊の連続に湖面は波紋を立てるが、揺らぐことはない。
    まして砕けるなど。後は集中力、精神力の問題だ。
    月はいつの間にか隠れてしまったが体感で計算すれば今は丁度夜の折り返しあたり。
    残り4時間から6時間耐え続けることさえできれば。

    射手の矢弾は決して多くない。
    もし流れ弾が当たって一人脱落するだけでも戦況は大きく不利になる。
    幸運を祈るしかなかった。それ以外は己の役目を全うするのみ。

    「どうした!?来い!!」

  • 44白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/05(月) 00:17:21

    ㅤㅤㅤㅤㅤ


    思ったよりもやるものだ。
    門前に立ちふさがる白い騎士は既に2時間近くも攻撃を耐え続け、戦況をつないでいる。
    兵力の7割を送り込んでいるはずだが、一向に敗れる気配はない。
    それどころか城壁に隠れる数人の射手によって少しずつ数を減らされている。

    はっきり言って、態々出向くのは面倒だった。
    こうして後方に控えているのは逃亡者を叩き殺して恐怖をふりまき戦線を押し上げるため、そして見物と厄介払いのためだ。
    勝利を確信していただけにあの騎士の頑強さか、もしくは手下どもの脆弱さにはうんざりしてくる。

    とりあえず近くで尻すごみしていた者の頭をフレイルで吹き飛ばす。
    頭蓋とその中身に詰まっていたものが夜闇にぶちまけられた。
    周囲が驚きと恐怖で震えあがり、目の前に転がる物体の二の舞いになる運命を逃れるため門前へ駆け出す。

    (つまらん。実につまらん。)

    いい加減チェスごっこは飽きてきた。億劫だがそろそろ幕引きとしよう。

  • 45白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/05(月) 00:18:48

    ㅤㅤㅤㅤㅤ


    迫る危険に全身の神経が警笛を鳴らす。
    闇の向こうに揺れる血塗られた鉄塊、黒い鎧、髑髏のような兜。悪夢の似姿だった。
    あの黒い騎士の登場に賊の集団は明らかに萎縮し、道を開ける。

    「貴様が首魁か。」
    「如何にも。」
    「なぜこんなことを。」
    「名を上げるため、ここを選んだのは偶然だ。」

    言葉を僅かに交わすだけで察した。
    この男は危険だ。
    他者を踏みにじることに少しでも躊躇いがない。むしろ嬉々として行う類の人間だと。
    部下の屍を踏みつけ、滲む血の道を黒騎士は歩み出る。

    「随分と粘るではないか?弱者など無価値なものは捨ておけばいいものを。」
    「この場に無価値なものなどいない。」
    「自らの身すら守れない者が弱者でなくてなんと言う?」
    「私と貴公では価値基準が違うようだ。」

  • 46白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/05(月) 00:20:08

    攻撃が止んだ。
    この男の前に立つことを誰もが恐れている。
    結界を一時解き、剣を地面から抜き取る。月明かりはなくとも切っ先が白に輝く。

    「弱者であろうとなかろうと、今を生きる全ての者に生きる価値と権利がある。」

    それは例え襲撃者たちであろうと変わりない。
    これら流血は、彼らを殺傷という手段でしか止められなかった私自身の不徳だ。
    だがそれを今嘆く暇は無い。果たされるべき正義を早急に果たし、罪悪の成就を防ぐ。
    今できる最善がそれだ。
    最悪の道より少しでもマシな悪い道を選ぶしかない。

    「綺麗事を垂れるのが好きな奴だ。虫唾が走る。正義の味方という奴か?」

    黒騎士はフレイルを回し始める。
    鎖が軋んで風が引き裂かれた。

    「では貴様の正義が、貴様の味方をしてくれることを精々祈っているがいい。」

  • 47白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/05(月) 00:21:55

    地面を蹴り飛ばし、黒い巨躯が猛然と突進してくる。速い。
    瞬時に盾を展開し、自他の間に壁を作る。が。

    「!!」

    フレイルの一撃は容易く壁を打ち砕き、盾を弾き飛ばす。
    反動を折り返して迫る鉄塊の追撃を身をかがめて躱し、剣で刺突を繰り出す。
    だが黒騎士も驚くべき敏捷性で身を逸らして剣先を逃れ、フレイル先端の遠方へ働く反動を活かし、柄で白騎士の兜はカチ上げる。
    一瞬白騎士の意識が飛ぶ。間髪入れず再び逆方向から鉄塊が襲い掛かってくる。

    「くっ!!」

    弾き飛ばされた盾がギリギリの所で手元に戻り、致死の一撃を防ぐものの、再び弾き飛ばされた。
    剣を払いながら後方へステップして間合いと時間を稼ぐ。

    黒騎士は白騎士が予測した通り突進してきた。
    この男は完全にフレイルの扱いを心得ていると確信する。

    フレイルとは独特の形状と攻撃手段が生み出す左右両端へ大きな反動をリスクとして呑むことにより、重厚な鎧すら容易く打ち砕く破壊力を手に入れた武器とされる。
    故に重心の移動を絶えず繰り返して勢いを殺さず、隙を抑えながらも攻撃し続けることが肝要となる。

    戦場においてそのような攻勢を保つことは達人でも無い限り難しい。
    まして反撃の恐れを知るなら足がすくみ動きが止まることも決しておかしいことではない。

    だがこの黒い騎士は違う。
    はじめから反撃されることなど恐れていないのだろう。
    自分が常に他者を攻撃し、支配することが当然の節理とさえ思っているのかもしれない。

    その読みは少なくとも遠くはないようだ。
    兜から覗いた赤い瞳から嗜虐的興奮が身に刺さるかのように感じられたからだ。

  • 48白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/05(月) 00:22:52

    稼いだ僅かな隙に剣へエンチャントを施す。
    光の刃。以前ソワスレラにも似たような姿の武器があると聞いたことがある。
    この形態となった白騎士の大型エストックは全方向に刃を備えているに等しい。
    軽くなぞるだけでも光の奔流が名刀の如き切れ味を再現してくれる。

    だがそれでも加速の果てに振り下ろされる超重量のフレイルとかち合うには不足であることは自明だった。
    ならばそれより速く。

    一陣の閃光が振りかぶった黒騎士の右肩を貫く。
    出鼻を挫けば威力も何もない。

    両者の目が合う。
    黒騎士の目は………笑っていた。

    白騎士の背筋に戦慄が走る。
    黒騎士は背斜の要領でフレイルを左手に映し、柄の先端に歪に生えた棘で白騎士の脇腹を突き刺した。
    突き刺すというより突き殴ったという方が適切かもしれない。
    鎧が軋んで鈍い音を立て、身体が更に後方へ吹っ飛ぶ。

  • 49白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/05(月) 00:23:53

    何とか門と外の境界で踏みとどまる。
    だが明らかに圧されていた。
    剣と盾を構えなおし、眼前の悪夢の如き黒い鉄塊を睨む。


    「もっと間合いを広く取れていれば、先ほどの突きは俺の動きを完全に止めることができただろうな。そのちっぽけな門に縛られているせいで叶わなかったが。」
    「縛れているのではない。自ら望んでここに立っている。」


    不意に黒騎士は城壁の上を見上げ、闇に隠れて矢の狙いを定めていた弓兵と目を合わせた。

    見えている。

    フレイルに闇夜よりもどす黒い暗黒がまとわりついた。
    墨をぶちまけたかのような衝撃波が城壁ごと兵士たちを叩きつけ、吹き飛ばした。
    耐えきれなかった石の構造が連鎖して崩壊し、大きな音を立てて沈む。

    この一撃。
    この一撃をもってすれば兵隊を差し向けるまでもなく、即座に襲撃を終わらせることができたはずだ。
    つまり、これまで奴は本気ではなかったのだ。
    振り返った赤い瞳に笑みを見る。

    嗚呼、最悪だ。
    本気どころではない。遊んでいたのだ。

  • 50白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/05(月) 00:25:16

    ㅤㅤㅤㅤㅤ

    最早崩れかけた防壁と白騎士以外に障害はない。
    故あって残りの兵士は、怪我人と衛生兵を除いて少なくとも今このとき関所にはいない。
    このままでは略奪と殺戮が始まるのは時間の問題だった。

    (………間に合ってくれ。)

    祈るように東の方向を盗み見る。
    兆しこそ感じるものの、まだ光は見えない。

    息と祈りを吐き出す。まだ終わりではない。
    終わりが見えないのなら─────

    これ以上押し下げられない決意を胸に一歩前に踏み出す。
    黒騎士は嘲笑で答えた。

    「なんだ。足手まといがいなくなったというのにまだ戦うつもりなのか?」

  • 51白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/05(月) 00:26:39

    「まだ終わっていない。守るべき者はまだ残っている。」

    「だから──────。」

    先ほどの一撃でも死者がいるとは限らない。
    位置の都合上、直撃はしていないはず。ならば一刻も早く生存確認に向かわなくては。

    意を決する。
    もう使うことはないと思っていた。もう呑まれてはならないと。
    心を研ぎ澄ます。
    臆するな。気をしっかり保て。

    白い鎧が割れるように展開する。
    溢れ出る光。
    赤。

    瞬間、黒騎士は爆音ともいうべき金属音とともに遥か後ろへ吹き飛ばされていた。
    1秒前に立っていた地点に白騎士が立つ。
    その純白の鎧は鮮血の如き赤光に彩られていた。

    どちらにせよ、時間がない。
    ならば今できる全てを賭して───────────


    「永遠に戦い続けるだけだ。」

  • 52白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/05(月) 00:27:40

    ㅤㅤㅤㅤㅤ



    一撃、二撃、凄まじい速度と破壊力で剣とフレイルの軌道が交錯する。
    秒間にして数撃、一呼吸にして数十、闇と光が互いの存在を否定しあうかの如く明滅を繰り返す。

    防ぎ漏らした余波が互いの身体を傷つけるが両者一歩も退かず。立ち位置が変わることもない。
    黒と白。闇と光。
    門を境界として完全なる対立が戦場を二分していた。

    この光景を目撃していた者たちは手出しすらできない。立ち入る隙がないからだ。ただひたすら勝敗の行方を傍観するのみ。

  • 53白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/05(月) 00:29:09

    (こいつ!なぜここまで戦って動ける!?もう少しで夜が明けるのだぞ!?どうしてそこまで戦える!!)

    黒騎士は凄絶な撃ち合いの最中、理不尽とも言える相手の頑強さに内心毒づく。
    自身が思う常軌を逸していた。
    孤立無援、足手まといを大勢抱え、それでも時間にして10時間近くも戦場の最前線に立って攻撃を一手に引き受ける。

    まるで生きた城塞そのものだ。

    それにもう何度もこちらの攻撃は命中している。
    自身の膂力を考えれば骨の十数本は損傷していても何らおかしくはないはずだ。
    なのに。

    「………ッ!なにをしているグズども!こいつを殺せ!!中にいる連中を殺せ!!」

    この赤い光を纏う狂人に恐怖を感じた黒騎士は突っ立つ配下たちへ攻撃の指令を出す。

    だが恐怖を感じていたのは配下たちも同じだ。
    息も絶え絶え、血を流し、傷ついてなお立ち向かう守護者の姿を前に脚が動かなかった。
    いくら命令に従わなければ殺されるとはいえ、この男に向かっていくこともまた死と同義に思えたのだ。進むも戻るもできず、右往左往するのみ。

  • 54白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/05(月) 00:30:04

    突然、白騎士が構えを解いた。脱力するように。

    何が起こったのか判断するために黒騎士の動きが止まる。
    そして自身も異変に気が付いた。


    小鳥のさえずり。










    「嗚呼………。」

    零れる吐息。
    この瞬間を白騎士が忘れることはないだろう。

        ・・・
    「………私たちの勝ちだ。」

  • 55白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/05(月) 00:31:38

    黒騎士が白騎士の視線の先を確かめるべく振り返る。

    そこには朝日に照らされ、銀の甲冑を輝かせる騎兵たちの姿があった。
    掲げる旗はセントラリア王家の紋章。
    賊たちの間にどよめきが走る。

    黒騎士は何が起こっているのか理解できなかった。
    否、理解することを自尊心が拒んでいた。耐え難い唯一の事実に。

    角笛。
    セントラリアの騎兵部隊が蹄鉄の轟きを引き連れて突進してきた。
    数百キロの筋肉と金属の塊が巨大な波となって悪意の群れへと進撃する。
    最早賊たちに逃げ道も対抗手段もなかった。
    ただ悲鳴を上げて逃げ惑い、否応なく蹂躙される。

    混乱の最中、白騎士は薄れゆく意識の最中、敗走する黒騎士の姿を目にした。
    いつの間にか黒馬に跨っている。召喚したのだろうか。

    降り帰った赤い瞳と目が合う。
    憎悪の色だった。身に覚えがある。

  • 56白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/05(月) 00:32:41

    (認めたくないものだな。)


    殺到する騎兵、逃げ惑う侵入者、駆け寄る兵士たち。
    騎乗できる兵士たちは門が破られた直後に砦へと馬で走らせたのだ。
    全員分の鞍はなかったが、それがかえって敵の目を盗んで砦から脱出させるには好都合だった。

    脆くなった壁の隙間を広げ、そこから遠回りで迂回させて砦に襲撃を報告させる。
    どうせ暗闇で殆ど見えはしないし、いざ戦闘がはじまれば白騎士の方へ敵の注意は向く。

    勿論、そこを突かれれば一貫の終わり。人員を割く必要もある。
    だが「全員を生還させる」ためには、これが最も確率が高いと踏んで白騎士は実行した。
    功を奏したのは幸運であったと噛み締める。

    いよいよ限界だった。身体が崩れ落ちる。
    最後の瞬間に感じたのは安堵の他に。












    (私は、奴になっていたのかもしれないのか。)

  • 57白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/05(月) 00:34:41

    ㅤㅤㅤㅤㅤ














    目を覚ますと見慣れない天井がまず目に入った。
    外の喧噪から砦に帰ってきたことを悟る。
    砦に常駐している医師がこちらの目覚めに気がついて声をかけてきた。
    聞くところによると2日ほど寝込んでいたらしい。
    周囲を見渡すとベッドに寝ているのは自分だけであったことに不安が過り、あの戦いでこちらの犠牲者は出たのかと問うた。
    医師は首を横に振った。

    「奇跡のようだよ。あれだけの人数に襲われて死者はいなかった。重傷を負った者はいたが今は全員歩けるくらいにまで回復している。」

    初老の男は、軍をやめてしまった者もいるがね、と付け加えた。

    無理もないことだ。
    今なら理解できる。誰しもが命をかけて戦えるわけではないのだ。

    だからこそ、彼らの代わりに自分が戦うのだと、窓からから差し込む日差しに思った。

  • 58白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/05(月) 00:35:51

    少し経ってから司令官が病室にやって来た。
    抱える見舞いの花束が厳つい風貌と不似合いで多少コミカルに見える。
    あの時、騎兵隊を率いて先頭に立っていたのは彼であったと顔の傷を見て思い出した。

    「…調子はどうだ。」
    「ええ、もう大丈夫です。あの時は助かりました。」
    「礼を言うのはこちらの方だ。よく持ちこたえてくれた。ありがとう。おかげで多くの若者の命が救われた。」

    こういう風に笑うのか。
    申し訳なさと感謝と安堵とが混ざり合った不器用な、けれど優しい笑みだった。
    はじめてこの男に出会った気がする。

    「予定していた帰還日時より…遅れてしまいましたね。」
    「………いや、あの後は当日中に全員帰還した。むしろ予定より早いくらいだぞ。」
    「いえ、こういうのは報告までがワンセットでしょう?二日間眠っていたようなので一日遅れとなってしまいました。申し訳ありません…。」
    「………度を越して生真面目というのも考え物だな。」

    呆れたようにため息をつかれた。半分冗談のつもりだったのだが。
    司令官の目は青空へ向けられている。

    「冒険者というのはどいつも気骨の無い半端者の集まりだと思っていた。認識を多少改める必要があるな。」

    呟くように話す。
    再び向き直った。

    「この国にはお前のような者が必要だ。試験は合格と報告しておく。今後の活躍に期待しているぞ。」

  • 59二次元好きの匿名さん22/09/05(月) 00:39:17

    このレスは削除されています

  • 60白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/05(月) 00:42:39

    ㅤㅤㅤㅤㅤ














    「………というやりとりが二か月ほど前にありましたよね?」
    「ああ。」
    「試験は合格で間違いないんですよね?」
    「ああ。」
    「ではなぜ私はまだ砦にいて巡回警備と訓練監査の任についているのでしょうか?」
    「追加課題と思っておけ。ギルドも了承していたぞ。」

    そんな横暴な…、と内心愚痴る。
    この男が高慢で横暴なだけの人物でないことはもうわかっていることだが、それはそれとして気に入らないところはある。
    だが、人間とは大体そんなものだ。良いところと悪いところ、好きなところと嫌いなところがある。
    そういう風に割り切れるようになってきたのかもしれない。

    白騎士と司令官はセントラリア王家からの招集に応えるべく、部隊を率いて王都へ向かっている最中だった。
    青空と白雲の下、草原が涼風に波打つ。

  • 61白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/05(月) 00:43:59

    「だが、こうして追加課題が貴様の念願だった武勲へ繋がって良かったではないか。王都からの招集などそうない。」
    「ええ、まあ、そこは感謝しております。もっと素直な気持ちになれたらいいのですがね。」

    ここまでの日々を思い出される。
    見分を広め己を研鑽するには良い日々だった。
    言い換えると非常にハードな日々となる。

    「チサーナの出身とのことだが、セントラリアは知っての通り多民族が混在する国だ。功績次第で外部の人間でも地位を得ることができる。ここで騎士となるのか?」
    「………その件については熟慮しましたが、お断りさせていただくつもりです。非常に心苦しいですが。」
    「ほう?ではやはり郷土に拘るか?」
    「それも違います。何度考えても仕えるべき、いや、『仕えたいと私が思う方』というのは一人しか思いつかなかったのです。」

    司令官は何かを察したように、したり顔で黙った。
    少しの気恥ずかしさから馬の歩調を早める。

  • 62白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/05(月) 00:44:32

    しばらく席を開けてしまった。まだ皆と会えるだろうか。
    これから貴人との謁見だというのに、逸る気持ちを抑えきれない。

    (公私を弁えなくては。)
    (けれど、嗚呼。)

    枷が外れたように心が軽かった。
    晩夏の気配を虫の声に感じる。

  • 63白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/05(月) 00:45:29

    ㅤㅤㅤㅤㅤ


    -fin-


    ㅤㅤㅤㅤㅤ

  • 64白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/05(月) 00:48:52

    SS投稿は以上となります。
    長々とお付き合いいただきありがとうございました!

    途中「あれ?こんな描写挟んでいいの?」「あれ?こんな設定生やしていいの?」
    と不安になりましたが………勢いのまま投稿したことには反省を感じております。
    問題があらば削除 or 書き直しを検討します…(土下座)

    それより完成まで長すぎ?
    ええもう本当おっしゃる通りで…(土下座)

  • 65二次元好きの匿名さん22/09/05(月) 07:58:18

    おつですー
    内容からすると中級というよりは上級試験っぽいですね
    通り一遍の常識と冒険者としての力を試される中級というよりは、外への社会性と違う価値観に対する順応、軍もいう外の公的機関への信頼は襲撃というイレギュラーかなくてもギルドの顔案件に感じます

  • 66白騎士◆YJC.vXGK8Q22/09/05(月) 20:18:44

    >>65

    ありがとうございます。


    物事を大きくしがちなのは私も反省するところです…。

    ま、まあ、中級となるとそれなりに世間へ覚えられ始める頃かなと思いまして、その点では「ギルドの顔」案件が舞い込んできてもおかしくはない、よってその予行演習的なものを、と苦し紛れに言い訳させていたただきます…!

    教育実習のような立ち位置の認識ですかね。

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