【SS】秋の初風

  • 1二次元好きの匿名さん22/09/06(火) 00:20:43

    「━━━ッ!はぁー!!坂道ダッシュ終わりっ!」
    夕暮れ時の河原で、パーマーが最後の1本を走りきった。そのまま法面の芝生へ一直線、バタンと大の字に倒れる。
    「お疲れ様だ、はい水……少し休んでくか?」
    「はぁ……はぁ……うん!」
    パーマーの走りはいつだって、最初から全力でかっ飛ばすスタイルだ。
    練習だってそれは同じ。最後にはへろへろになって、倒れ込む。でもそれがパーマーにとっては心から気持ちいいと思えるものなのだ。
    寄り添うよう隣に座り、川むこうへ沈む夕日と街並みをぼんやり眺める。
    季節は夏の終わり。来る秋を予感させるような冷たい風が吹き抜けていく。
    「フゥ……ん〜!涼しくてサイコーだね!」
    「ようやく外で走るのにも快適になってきたな」
    「だね〜、今年もマジ暑かったもん……んしょっと」
    呼吸の落ち着いてきたパーマーがゆっくりと体を起こす。
    もう帰ってしまってもいいのだが、この心地よい涼風にもう少し身を委ねたくなった。

  • 2二次元好きの匿名さん22/09/06(火) 00:21:39

    「……夏も終わっちゃったって感じだね」
    「まあ、そうだな」
    月が変わって、ここ数日は肌に触れる空気が変わって来たのを感じる。メジロ家の避暑地へ連れて行ってもらったりと、パーマーとは色々な場所へ出かけもしたが、思い返せばあっという間だった。
    「……私さ、秋ってなんか苦手なんだよね」
    「そうなのか?」
    「だってさ、夏ってすっごく楽しいじゃん?テンションテンアゲで、たくさんイベントがあって遊びまくってさ……でも、もうそれも全部終わっちゃって」
    言葉を遮るように、強い風が吹き抜けていく。冷たさに体が震えた。
    「そう……こんな感じ。ああ……月日が過ぎちゃったなって、心がきゅっとするんだよね。そんで将来の不安とかが頭をよぎって……うあー!!ってなるんだ」
    確かに時間が過ぎていくのを日々実感する。歳を取ればとるほど、そのペースは早くなっていく。
    「パーマーなら大人になっても大丈夫だよ、一番近くで指導してきた俺が保証する」
    「ほんと!?だったら嬉しいな!」
    寂しげだったパーマーの表情に明るさが戻った。
    この3年間、ずっと横でパーマーの成長を見てきた。もう彼女は1人でも走って行けるだろう。

  • 3二次元好きの匿名さん22/09/06(火) 00:22:25

    「将来の夢とか、考えてるか?」
    「うーん……まだわかんないや」
    「まあそんなものだよな。焦らずゆっくり見つけていけばいいよ」
    ふと、なにか閃いたのかパーマーが口を開いた。
    「そうだ。夢って程じゃないけど……結婚、とかは、したいかも……」
    視線が重なる。上目遣いで見上げるその瞳は、不安げに揺れていた。
    「そんな恥ずかしがることじゃないさ」
    結婚だって立派な夢だ。特にパーマーは両親に愛されて育ってきたことがよく伺えるし、彼女自身も必ず素敵な親になるだろう。
    「パーマーならきっといい人が見つかるよ」
    「…………」
    彼女の目が見開かれ、ぽかんと口が開く。暫くそのまま声も出さなかった。
    「……ははっ」
    やがて発せられたのは笑い声。困ったような、何かを察したかのような。
    日も落ち、気温はどんどん下がっていく。吹き付ける風も心地良い段階をとうに過ぎている。
    「……さむっ」
    パーマーは両手で体を抱いた。視線は既に逸れ、どこを見つめているのかは分からない。
    「……やっぱり、秋は嫌いだな」
    そしてぽつりと、そう呟いた。

  • 4二次元好きの匿名さん22/09/06(火) 00:25:39
  • 5二次元好きの匿名さん22/09/06(火) 00:29:45

    そろそろ風が酷くなってくる頃だなぁ…久々見た気がするな湿っけパーマー

  • 6二次元好きの匿名さん22/09/06(火) 00:49:56

    どれほどの思いを押し込めて「……ははっ」ってパーマーは笑ったんだろうと思うと胸が苦しい

  • 7二次元好きの匿名さん22/09/06(火) 01:05:35

    切ねえ…

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