ふたつの英雄譚

  • 1二次元好きの匿名さん22/09/07(水) 20:04:41

    誰もいない夕暮れに照らされた図書室で、私は英雄譚をぺらぺらとめくっていた。おとぎ話の中、実在した歴史の中、近い未来の世界の中。彼等は必死に生きて、戦い、紡いだ物語が一冊の本になる。
    私はそんな「英雄」に憧れてこのレースで競い合う世界に来た。しかしそんな現実は甘くなかった。憧れだけで勝てる世界があったならどれほど幸せだっただろう。

    橙に染まる図書館の静寂を、ひとつの足音が切り裂く。
    「今日も図書委員お疲れ様、ロブロイ。」
    トレーナーさんが目の前の椅子に座る。目を合わせるのが恥ずかしくてつい机に目線を伏せてしまう。
    「何か悩み事?」
    心臓が跳ねる。夕日で赤く染まった顔がさらに紅潮しているのが自分でもわかる。

    トレーナーさんには助けてもらってばかりだ。いつもこうやって一人で悩んでは彼が相談に乗ってくれる。ここに来たばかりの時もそうだった。私の夢を真剣に受け止めてくれたのが彼だった。

    彼に思い悩んでいることを打ち明ける。
    「私はやっぱり英雄になれないんじゃないかって思っちゃうんです。英雄に憧れるだけの存在が剣を振っても空を斬るだけなんじゃないかって。」
    言葉にすると余計に悲しくなり目が潤む。彼は少し考えてこう言った。
    「英雄っていうのは勝つだけじゃダメだと思うんだ。たとえ誰かに気づいてもらえなくても、逆に英雄自身が気付いてなくても、誰かのために戦ってるのが英雄だと俺は思ってる。」
    確かにエゴだけで戦うのは英雄とは言えない。彼の意見は一理あると思ったし、何より独りよがりに走ってきた自分にその言葉が刺った。
    勝つことも出来ず自分のためだけに走る私が英雄になんてなれない。そう思った時、彼は言った。

    「だから俺にとってロブロイは英雄なんだ。一途に夢を追いかけて走るその姿に勇気をもらったから。」

    彼の言葉で目が覚める。英雄譚は誰かを救う物語だけじゃない、救われた誰かが書いた物語も英雄譚だ。自身が気付いてなくても、誰かのために戦ってるのが「英雄」。伏せていた視線を前に向けると彼が真剣さを帯びた笑顔をしていた。
    椅子から立ち上がり、彼に悩みが解決したことと感謝を述べる。彼はいつもの優しい笑顔に戻っていた。

    「私にとっても英雄です。トレーナーさんは。」
    沈みゆく夕日の中で、ふたつの英雄譚が新しい物語を紡いでいた。

  • 2二次元好きの匿名さん22/09/07(水) 20:12:32

    読んでくれてありがとうございます。ひとくちSSです。ロブロイ未実装なのも含めて実際のキャラと差異があったらごめんなさい。

  • 3二次元好きの匿名さん22/09/07(水) 20:28:21

    英雄さああああ
    良い……

  • 4二次元好きの匿名さん22/09/07(水) 21:12:25

    良かった

  • 5二次元好きの匿名さん22/09/07(水) 21:20:48

    確かに未実装ではあるけど、このスレに出てくるロブロイトレーナーみたいな人だったらいいなあと思いました
    良SSありがとうございます!

  • 6二次元好きの匿名さん22/09/07(水) 23:13:27

    実装・育成シナリオが待ち遠しくなるSSでした。

  • 7二次元好きの匿名さん22/09/07(水) 23:38:37

    情景描写好き

オススメ

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