「…そこを退けよ」｜あにまん掲示板

1二次元好きの匿名さん24/06/10(月) 22:46:01

「が…はぁっ…！」

仮面ライダーバッファが火花を散らしながら硬いアスファルトに背をぶつけた。受けた猛撃によるダメージは深く、起き上がろうにも体がそれを拒む。
武器であるゾンビブレイカーは自分の手の届かない所まで飛ばされ丸腰状態となったバッファの元に黒き影は瞳を血のように赤黒く染めながら満身創痍となった敵を見下した。

「こんなので終わるだなんて思うなよ」

黒く濁った煌めきを纏う刀を握る右腕に、力が込められる。誰かを救う為ではなく誰かを殺める為の力、その象徴である刀は容赦なく自分にとって殺すべき相手に振り下ろされた。

「ごハァッ……ッ！グッ、がぁぁぁッッッ…！！」

悲痛な呻き声を掻き消すようにその者の刃は躊躇なくバッファの体をめった斬りにした。紫の堅牢な鎧は深く抉られ、脆い体を守る鎧としての役割を為さなくなっていく。
何度も何度も刃を振り下ろしながらその者は狂ったように叫ぶ。

「痛いか！？なぁッ！？苦しいのか！？」

バッファの体から迸る火花の光をも漆黒の鎧が揉み消す。腹の底から一音発する度に自分の感情を凄まじくヒートアップさせているかのような激情を込めながら言葉を紡ぐ。

「お前に殺された姉ちゃんはもっとずっと苦しかったんだろなぁッッ！！」

力いっぱいに刀を握る。許さない。絶対に殺してやる、という確固たる殺意を持って鞭でも振るっているかの如く激しく刀を振るう。
黒き戦国武将のような姿の戦士─仮面ライダータイクーン　ブジンソードフォーム─は冷たいマスクの下で既に虫の息になりかかったバッファにドス黒い憎悪の眼差しを向けた。

仮面ライダータイクーンの変身者、桜井景和は目の前の男…仮面ライダーバッファにただ一人の家族である最愛の姉を殺された。
未来人の最悪な置き土産…怪人ジャマトに変貌してしまった彼女を救うにはこうするしかないという己の正義を貫いた結果の惨劇であった。
しかしそれはただ一人残された景和の心に深い泥沼のような闇を堕とした。
たった一人の家族という桜井景和という人間の根幹を形成する核が壊され、空虚となった器。
そこに″憎悪″を一滴垂らされれば瞬く間にそれは器を止め処なく満たしては溢れ、やがて自分自身でもコントロールが出来ぬまでに己という人間を浸食した。
桜井景和は今、自らの憎悪のままにただ一人殺すべき敵を殺すだけの復讐鬼と成り果てたのだ。

2二次元好きの匿名さん24/06/10(月) 22:46:29

『─BUJIN SWORD VICTORY─』

タイクーンの腰に巻かれたドライバーが無慈悲に冷たく、バッファをせせら笑うように電子音声を鳴らす。
破壊のエネルギーを纏った必殺の刃は振り下ろされ、バッファの体を容赦なく引き裂いた。

「かはぁ…ッッ……」

その斬撃によってとうとう仮面ライダーバッファという変身者を守る外装は完全に崩壊した。
その身は鈍く弱々しい光に包まれ、その中から現れたのは体中から血を流し最早呼吸1つままならない迄に瀕死の状態で倒れているバッファの変身者、吾妻道長だ。

少しの沈黙。その間にタイクーンは静かに刀の刃先を道長の喉に向けた。

「これで終わりだ」

憎悪の感情が限界にまで達した事でかえって冷静になったのか、それとももう抵抗することもままならない敵を見て何処か興が醒めてしまったのか、先程とは打って変わって静かな声色だった。
しかしその声はやはり道長への確かかつ強い殺意を孕んだものでもあった。

「また何度もゾンビのようにしつこく這い上がるつもりならそうしろよ」

しかし言葉を紡いでいる内に一度落ち着いたかに見えたボルテージがふつふつとまた湧き上がって来たのか、力を入れ直した手は揺れ、声は強い怒りで震えていた。

「その度に何度でもまた姉ちゃんが受けた苦しみをお前にも味あわせてやる」

そう言いながらタイクーンは刀を天に構える。生身の状態となった道長に刀を振り下ろし、ついに終わらせようというのだ。
ここまでか─道長は薄れ行く視界の中で目を背けたくなるようなまでに強い激情を宿したタイクーンの眼差しと掲げられた刃の煌めきを見てついに覚悟を決めたと、目を強く瞑った。

「あの世で姉ちゃんに詫びろ──ッ」

そして躊躇いなく、その凶刃は道長へと振り下ろされた。

3二次元好きの匿名さん24/06/10(月) 22:46:51

道長は目を恐る恐ると開いた。
確かに刃は自分の身に振り下ろされた。当然相応の痛みは有るはずだがそれがない。
もしや既に自分は斬られ死んでいるのかと、自分が今存在していることに疑心暗鬼になりながら目の前を見る。

そこにあったのは…背中。道長とタイクーンを挟むようにして立つ、一人の男の広い背中だった。

「…やっぱ、マンガみたいには行かないもんだな」

その男は道長に振り下ろされた刃を真剣白刃取りの要領で抑え、道長の体が切り裂かれるのをすんでの所で止めていた。
しかし、完璧な白刃取りとはならなかったか、切れ味の鋭い刃の部分を手で強く握り込む形となってしまい、その手からはどくどくと血が流れ落ちている。
男のベージュのジャケットは鮮血でみるみる赤く染まっていった。

「…………誰だ…アンタ…」

一瞬動揺を見せるタイクーン。目の前に現れた謎の男の顔を見た時、自分の中の片隅にあったある1つの記憶が一気に掘り起こされる。
そう遠いわけでも無い記憶、ある1つの戦いがきっかけで出会った男。
終わりの無い戦いを決して恐れない、強い志を抱いた瞳が、自分の記憶の中に妙に強く焼け付いていた。

「…こんな形でまた君と出会うことになるとは思ってもみなかった」

4二次元好きの匿名さん24/06/10(月) 22:47:10

「…何処かで見たような気がすると思ったが…アンタか…今更ノコノコと何の用だよ」

光を灯さない景和の冷徹な眼差しを仮面越しに感じた男は悲しげに顔を顰めた。
過去に覚えがあるこの感触。
″願い″を掲げる者達は皆一様に仮面越しにこの凍てつくような眼差しを放っていたのだ。

「…君もあの頃と比べて幾分変わったみたいだな」
「そこで転がってる奴にもさっき同じ事を言われたよ。その時とそっくりそのまま返してやろうか？俺は何も変わってない。俺は俺だ」

″あの時″の桜井景和の眼差しも、確かに真っ直ぐ前を向いていた。それは今も変わらない。
変わらない筈だというのに、今のそれは幾分と自分勝手かつ独り善がりで、喩えそれが間違った方向だったとしても突き進む事を疑わない程に危うさを孕んだものだった。

「…そうか。俺も同じだよ。あの時から変わってない。俺は…」

右手で刀を抑えたままに、左手でジャケットの懐から一枚の黒いデッキケースをタイクーンの目の前にかざした。
タイクーンの持つ刀がそれを反射し刀身に映し出した瞬間、刃の中から白銀のバックルが飛び出し、それは男の腰に装着された。

「今までもこれからも、俺は俺の願いの為に戦い続ける」

「変身」、彼の掛け声と共に鏡映しのようにモノクロの戦士のビジョンが現れ、それは眩い光を放ちながら男に重なった。
鏡が粉々に砕け吹き飛ぶかのような衝撃波にタイクーンは思わず身を引く。
衝撃波が止み、光が収まるとそこには赤き装甲の戦士が龍の影を纏っていた。
周囲は激しい炎に包まれ、熱波にシルエットを揺らめかせる二人の戦士は向かい合って対峙する。
赤い視線と赤い視線が交錯した。

5二次元好きの匿名さん24/06/10(月) 22:47:28

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6二次元好きの匿名さん24/06/10(月) 22:47:48

「…そこを退けよ。俺にも叶えなきゃならない願いがある。その道を阻む者があればたとえ誰であろうが…この手で叩き斬るまでだ…！」

タイクーンが刀を構え直した。居合いの構えだ。

龍の戦士もまた、バックルのカードデッキから一枚のカードを取り出す。

炎に揺らめくそのカードを構えた時、左手のガントレット状の武器が龍の頭を模した大きな銃のような形状の武器へ変化した。

バイザーのスロットにそのカードを装填した戦士は噴き上がる炎に包まれ、その姿を真紅と黄金の龍の勇士へと進化させた。

「…俺は絶対に死なない。1つでも命を奪ったら─」

『─SURVIVE─』

それは、揺るぎの無い気高さを心に抱く戦士にだけ名乗ることを許される名だ。

「お前はもう…後戻り出来なくなる！」　