【SS】ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー

  • 1二次元好きの匿名さん22/09/16(金) 22:49:35

    色々なことがあって自分のために生きるようになってから、私自身というものが何となく分かってきたような気がする。

    あまり器用な方ではないけれど、それでも面倒見はいいみたいで人に嫌われることは少ない。
    身長に対して耳のサイズが大きい。オペラオーと比べるとかなり違う。
    ファッションには疎いけれど、同室のカレンさん曰く寒色系の服が似合うらしい。
    そして、好きなものはふわふわしたものと、天体観測。────そのはずだったけど、今はもうひとつ増えようとしている。

    「おはよう、アヤベ。今日も早いね」

    顔は……少なくとも悪い方ではないと思う。流石にテレビに出てくる俳優さんほどではないけれど、話を聞く限りでは私以外の生徒からの評判もいい。

    「……どうした?俺の顔に何かついてる?」
    「何もついてないけど……髪に寝癖はついてるわ」
    「えーっ、本当?ちょっと直してくる!」

    少し抜けているところはあるけれど、熱意は言わずもがな、仕事はしっかりこなしている。時々頑張りすぎて不安になるから、そこだけは気を回さないといけない。もっとも、そこはお互い様なのだけど……

    「……変な人」

    慌てて洗面所に向かった彼に聞こえないように呟く。本当に変わり者だ。
    こんな私を見つけ出して、何度も拒絶してもついてきて、私が隔てた壁をいとも容易くすり抜けてきて。誰よりもひたむきで、正直で、子供っぽくて、優しくて────

    「私はそんなところが……」

    昔、ある人が言った。"愛の反対は無関心だ"、と。
    その言葉が本当だとしたら、出会ったときからトレーナーさんを"変な人"と見なしていた私は、既にその頃から彼に何かしらの感情を抱いていたわけで。ましてや、そこから私の存在そのものを大きく揺るがす3年間をともに駆け抜けてきたのだから、ふわふわとしていたそれが特別な感情に変わるのはある意味当然のことだ。
    幾度となく救われて、どこまでも尽くされて。そういうことには全く以って疎かった私も、いつの間にかトレーナーさんのことを意識するようになった。────いえ、もう意識するというには進みすぎてしまった。

  • 2二次元好きの匿名さん22/09/16(金) 22:49:52

    「好き、なのよね」

    声に出すと実感する。そう、私はこの人を好きになってしまったのだ。どうしようもないほどに。
    今だって、こうやってトレーニング前に顔を合わせただけなのに胸の鼓動が早まって仕方がない。顔だって少し熱が集まってきている。

    「何か言った?」
    「……なんでもないわ。トレーニングに行きましょう」

    でも、その気持ちをトレーナーさんには伝えられていない。
    突然そんなことを言われたら彼だって困るだろうし、立場というものもある。もう自分が幸せになってはいけないなんて思ってはいないけれど────まだ、決心がついていないのだ。
    この気持ち、伝えるべきか。それとも、このまましまっておくべきか。他人に聞いたらきっと私のやりたいようにしろと言われるのだろうけど、実のところどうしたいのか私自身にも分かっていない。誰かを好きになったことなんて初めてなのだから。


    ねえ、あなたなら────"私"なら、どうする?

  • 3二次元好きの匿名さん22/09/16(金) 22:51:45
  • 4二次元好きの匿名さん22/09/16(金) 23:11:21

    タイトルはYMOの楽曲からとったのかな?

  • 5二次元好きの匿名さん22/09/17(土) 00:57:16

    良い…

オススメ

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