【SS】商店街の端の定食屋 〜炊き込みご飯とお味噌汁、玉子焼き〜

  • 1二次元好きの匿名さん22/09/21(水) 03:00:40

    ボーッと、トレセン近くの商店街を歩くタイシンは元より小さな体がなお小さく見えるくらい落ち込んだ様子であった。
    (…気分悪い…)

    その原因は、昔のクラスメイトからのとある悪舌によるものだった。

    『……似合ってないよ?その制服』

    気にする必要もない、嫉妬なんだから無視すればいい。そうやって理性が抑えつけても、何度も頭をもたげるその言葉への悪感情が消えない。

    (…いつまで気にしてんだアタシ!)

    頭を振って、思考を無理矢理に中断させて周りを見渡したタイシンは少し驚きの表情を浮かべた。

    「もしかしてここ…商店街の端っこ? どんだけボーッとしてたんだアタシ…」
    「まぁいいや…さっさと帰ってトレーニングしよ…」

    そう言い、トレセン学園に向かい走り出そうとしたタイシンのお腹がなる

    「…そういや昼ご飯食ってなかったな…でもまぁ…食べなくても…」

    と、考えたときにとある口うるさいおせっかいなウマ娘の言葉が脳内に浮かんだ

    (タイシンお前体が弱いのだからもっと多方面から見直した生活をだな〜…)

    タイシンは誰に言い訳するわけでもないが独りごちる

    「別に…そう言うんじゃないけど…まぁお腹は空いてるし…」
    「っても…お金もあんまないし…そもそもここら辺に店って…ん?」

    視線の先には、かなり年季の入った見た目の暖簾には『食事処』とかかれている店があった。

  • 2二次元好きの匿名さん22/09/21(水) 03:01:11

    店の壁に貼り付いた木の板には、『昼の日替わり定食 500円』とかかれていた。

    「そんくらいならあるし…まぁ入るか…」

    そういうと、タイシンは横開きの扉をガラリと開けると、そっと入る。

    扉を開けた瞬間、ふわりと香る出汁の香りを感じる。 優しい…しかし、食欲を沸かせるその香りにタイシンはお腹をクゥと鳴らせた。

    開けて少し待つと、厨房からパタパタと白髪が混じった初老の女性が小さく駆けて出てくる。

    「…ん? あら、ウマ娘のお客さんかい? いらっしゃい お好きな席にどうぞ」

    柔らかく、落ち着いた声でそう促されると、タイシンはそっと店内の隅の方のテーブル席へ座る。

    「お茶どうぞ…メニューはどうします?」

    まるで本当の祖母のように優しく接する女性にタイシンはぶっきらぼうに喋ることが出来ず、つい敬語で話してしまう。

    「え…と、今日の日替わり定食ってなんですか?」

    「今日は…炊き込みご飯とお味噌汁
    あとは玉子焼きとお漬物かしら」

    「じゃあ…それでお願いします。」

    「はい…わかったわ じゃあ少し待っててね」

    そう言うとまた、厨房の方に戻っていった。

  • 3二次元好きの匿名さん22/09/21(水) 03:01:38

    手持ち無沙汰になったタイシンは、温かく、少し渋いお茶をちびりちびりと啜りながら店内を見渡す。

    年季の入ったながらも清潔に磨かれた机や壁はどこか懐かしさを感じさせる。
    床は板張りで歩くとかすかにキイキイとなるが、静かな店では一つのBGMのようだった。

    インテリアといえるほどおしゃれなものはなく、置かれているものといえば木彫りの熊や王将の大きな駒といったようなものだった。

    (すっごい失礼だけど…こういう店ってまだ残ってるんだ)

    そうやって、十分ほど店内をしげしげと眺めていたタイシンのもとにホカホカと湯気を立たせた料理を携えた笑顔の女性がやってくる。

    「はい…炊き込みご飯と…お味噌汁 玉子焼きにお漬物…やかんも置いておくからゆっくり食べてってね」

    そう言うと軽く頭を下げ、奥の厨房へ下がっていった。

    (なんか…こういうの久しぶりかも)

    普段は栄養補助食品かカフェテリアの高級ホテル並の食事のどちらかしか食べないタイシンは、久し振りの家庭的な和食に目を取られていた。

  • 4二次元好きの匿名さん22/09/21(水) 03:02:09

    炊き込みご飯…鶏肉と薄揚げ、ごぼうが入っており、出汁と生姜の香りがふんわりと立ち上る

    味噌汁…具は豆腐とワカメとシンプルだが、カツオの出汁が香る

    玉子焼き…出汁を含んでいるのか柔らかそう

    漬物…少し厚めに切られたキュウリと大根の浅漬


    目で楽しむようにじっくりと見ていたが、普段はロクに食べ物を欲しがらないお腹がぐぅぐぅと鳴り、急かされる。

    「じゃあ…いただきます。」

    それに焦らされたようにタイシンは手を合わせて、食べ始めた。

    (まずは…お味噌汁からかな)

    左手で椀を掴むと、顔に近づける。

    温かな湯気を吸い込むように嗅ぐと、カツオのしっかりとした出汁を感じる。

    ズズッ…

    熱々の味噌汁を少し啜ると、喉を流れていく感触すら感じるようで、胃が温まると同時にどこか心も暖まるようだった。

    そして、一口啜ったお味噌汁を置くと次は炊き込みご飯の茶碗を手に持つ。

  • 5二次元好きの匿名さん22/09/21(水) 03:02:17

    夜中になんちゅうSS投下してやがる

  • 6二次元好きの匿名さん22/09/21(水) 03:02:47

    (具沢山だな…なんか母さんが作ってくれたやつと似てるかも)

    炊き込みご飯のすべての具を一度に口に運ぶタイシン。

    鶏、薄揚げ、ごぼうの旨味、生姜のほのかな辛味、そして米の甘みが渾然一体となって口に広がる。

    (ここはやっぱり出汁が美味しい…それに生姜の風味が少しピリッとして全体が引き締まってるし…)

    そんなふうに考えながら、タイシンは何度もご飯を口に運ぶ。

    普段のタイシンの食の細さを知っているとある二人の友人がいれば、驚いていただろう。

    (そうだ…玉子焼きもあるんだった)

    ご飯を1/3ほども食べたところでタイシンは玉子焼きに箸を伸ばす。

    「…あっ…すご…」

    玉子焼きは、箸でスッと切れるほど柔らかかった。更に箸で持ち上げるとふよふよとあるいは頼りなさすら感じるほど柔らかかったが、しかし、しっかりと火は通っており、オムレツとは違う良さを感じさせる。

    その玉子焼きを口に放り込み、咀嚼すると、その瞬間じゅわりと口の中に調味料と合わせられた出汁が溢れる。

    噛むと簡単にほどけ胃に落ちていく柔らかな玉子焼き、しかし、口の中には幸せな余韻が残る。

    (あっつい…けど…美味しい…それにこれ…多分炊き込みご飯に合わせて、薄めに味付けてるのかな…)

    それは美味しさは勿論、客への想いやりも感じさせる玉子焼きだった。

  • 7二次元好きの匿名さん22/09/21(水) 03:03:32

    その後はタイシンは完食まで止まることなく食べ進め、添えられた漬物も残さず食べきった。

    (ふぅ…なんか久しぶりに…気持ちいい満腹…かな…)

    タイシンは、体を大きくせんと無理に食べ物を押し込んでは吐き気と戦うといった食事が多く、ここ最近の満腹感とはタイシンにとっては嫌な感覚でしかなかった。

    そんなタイシンにとって、己の求める物を食べたいだけ食べた結果、心地よい満腹感を得られるというのは筆舌に尽くしがたい幸福であった。

    そして、タイシンは食後に暫しゆっくりとお茶を飲んでいたが、おもむろに立ち上がり、奥の厨房に向かって会計をしてほしいと声をかける。

    そうすると、奥から初老の女性が出てきて、タイシンの机をチラリと見て言った。

    「あらあら…全部食べてくれたのね、嬉しい 厨房に引っ込んでる主人も喜ぶわ」

    そんなことをニコニコとしながら言われるものだから、タイシンは照れるが、普段のような言葉遣いはできず、小さな声で返しながら、料金を支払う。

    「ん…はい。…美味しかったんで…」

    「そう? ありがとね はい…丁度いただくわ また来てちょうだいね」

    それにすぐには返さず、スッと顔を背け扉まで行くとボソリと言った。

    「うん…ありがと…また来る。」

    聞こえたのか聞こえてないのか、初老の女性はニコニコと笑いながら、ありがとうございました、と送り出した。


    後日、店に行ったとき、二人の友人も行きつけだったと知るのはまた別の話…

  • 8二次元好きの匿名さん22/09/21(水) 03:05:32

    深夜に滋味溢れる飯テロSSを投下するんじゃないよ!!!
    ごちそうさまでした

  • 9二次元好きの匿名さん22/09/21(水) 03:05:35
  • 10二次元好きの匿名さん22/09/21(水) 03:07:37


    テンポよく読みやすいし食事の流れも分かるわぁ…って感じでいいねぇ
    タイシンのリアクションもかわいくて好き

    だがこの時間は許されない

  • 11二次元好きの匿名さん22/09/21(水) 03:16:19

    飯テロめ来やがったな!夜中っからふざけやがって!

  • 12二次元好きの匿名さん22/09/21(水) 10:44:42

    孤独のグルメ感あるね

  • 13二次元好きの匿名さん22/09/21(水) 11:41:30

    昼ご飯終わったけどこの定食食べたくなった

  • 14二次元好きの匿名さん22/09/21(水) 17:04:24

    こういうの憧れるけど個人店の定食屋とか入れない…

  • 15二次元好きの匿名さん22/09/21(水) 19:35:00

    店であったときのチケゾーとハヤヒデの話も見たいな

  • 16二次元好きの匿名さん22/09/21(水) 23:51:02

    飯テロss夜中に投稿されがちだよね

  • 17二次元好きの匿名さん22/09/22(木) 00:07:30

    いっぱい食べてね

  • 18二次元好きの匿名さん22/09/22(木) 00:20:36

    >>17

    絵柄よい…

  • 19二次元好きの匿名さん22/09/22(木) 00:33:28

    >>17

    あら素敵

  • 20二次元好きの匿名さん22/09/22(木) 00:36:29

    素敵なSSに素敵なイラストだぁ…前のスペちゃんのもいいですね
    グラスのも書いてたりしましたか?

  • 21122/09/22(木) 01:42:23

    >>20

    ありがとうございます

    グラスのは違いますね

  • 22二次元好きの匿名さん22/09/22(木) 11:05:06

    洋、和と来たら次は中華料理かな?

  • 23二次元好きの匿名さん22/09/22(木) 19:00:17

    食事の描写が堪らなく好き

  • 24二次元好きの匿名さん22/09/23(金) 02:03:07

    おいしそうなssだった

  • 25二次元好きの匿名さん22/09/23(金) 02:06:16

    てっきり孤独のグルメとのクロスSS書いてた人かと思ったわ
    違うなら違うで楽しみ増えたわ、ガハハ!

  • 26二次元好きの匿名さん22/09/23(金) 02:10:18

    やばいこの時間にお腹空いてきた

オススメ

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