【SS】深夜なので、

  • 1二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 01:59:08

     飲食は控えるべきとされる。
     もっとも、何事にも例外がある。それは今だ。晴れて20歳になったファインモーションはそう判断する。
     ふたたび訪れた懐かしき青春の大地は、なんだかガヤガヤしている。大地というより、アスファルトとコンクリートだ。看板は忙しなくピカピカと光っており、路面には威風堂々とのぼりが掲げられ、夜風に吹かれてはためいている。すれ違う人たちの足取りは覚束ない。店名と売り文句を記した旗の揺れる動きに合わせるように、誘われるように、ともに踊るようにして、夜の闇か店の中へと消えていく。
     飲み屋街である。
     おおよそ貴人には似つかわしくない。お忍びで訪ねるにしても、もう少し場所がある。格式高い名店を選ばなかった理由は一つ、
    「飲んだ後のラーメンは美味い」
     という指摘に尽きる。
     シチュエーションが味覚に与える影響というものは大きく、たとえば日常何気なく口にする水と、激しいトレーニングを終えて口にする水とでは、自然と味わいが変わってくる。留学中、何度となくラーメンを口にしたファインである。その味は大切な思い出として胸に深く刻み込まれている。とは言えどうしても嗜めなかった一品があった。それが先の指摘であり、今回のお忍び訪問の目的でもある。
     変装のため、伊達メガネをかけている。ベースボールキャップをかぶり、髪を下ろす。ジーンズなども履いてみる。SPには止められたが、まず着そうにない衣装に身を包むから変装なのである。それに、今回の訪問目的を鑑みれば、上品な装いなど望むべくもない。
     今もトレセンに務めるかつてのトレーナーは、忙しい身の上だろうに、ファインの呼びかけに快く応じてくれた。「この国の気取らない飲み屋(パブ)を楽しみたい」という旨を述べ、「それからその後にラーメンが食べたい」と希望を伝えると、トレーナーはすべてを察してくれた。そして今に至る。「ツキダシ」「トリアエズナマ」の洗礼を受けつつ、殿下は飾らない異国の下町情緒を楽しんだ。

  • 2二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 01:59:49

     さて、ラーメンである。
     ここからが本番である。
     むろん、酔っている。千鳥足というほどではないが、浮き足立っていると言ってもいいだろう。判断は鈍っていないが、それを下すまでのラグがある。正しくほろ酔いといったところで、心地好い。素面ならやや肌寒く感じられるであろう夜風が、火照った体にちょうどよかった。
     かつてのトレーナーの隣を歩く。手を繋いだりはしない。しかし、肩は預けているような感覚もある。ジャケットを羽織るかという気遣いがあり、今は大丈夫だと返事をする。まったく心地好い限りだった。星は明るく、空はいつも祖国とこの国を繋いでいる。
     さて、ラーメン屋に着く。
     屋台風の店構えで、入り口がない。のれんを潜ると、カウンター席がある。客足は入れ替わり立ち替わり、途切れたりはしないものの、混雑している印象はなかった。入りやすく、座りやすい。
     まず、鶏ガラスープの爽やかな香りが鼻をくすぐる。丁寧に掃除され、じっくりと煮出されているだろうことが、口にしなくてもよくわかった。次は鰹節だ。強い薫香が、ともすればパンチに欠けるスープを補う。この二つがベース。カエシは醤油ダレ。二種の出汁の調和を損なわないよう、この二つを際立たせるように、塩気を強めにエッジを効かせているらしい。入っただけで名店とわかった。
     冷たい水で喉を潤しながら、ファインはラーメンを待った。壁がないので、夜風がそのまま体を叩く。秋でこれなのだから、冬はどうなるのかと思う。厨房では、もうもうと湯気が立っている。もっと迫力が出るのではないか。
     トレーナーが瓶ビールとメンマの盛り合わせを頼むのを聞いて、「ずるい」と呟くと、にっこり笑ってグラスを差し出してきた。二人で分け合おうと言うのだ。ビールはいわゆる七:三に注がれ、ファインはトレーナーとグラスを打ち付ける。ムードもへったくれもないが、ここはそういう空間だ。
     メンマをつまみながら、一口、二口とビールを飲み干していく。積もる話は居酒屋で済ませてきた。まだまだ話し足りないのだが、今は無言のままでいい。

  • 3二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 02:00:07

     瓶の中身が空になった頃、ラーメンが出来上がった。タイミングを見計らっていたのだろう、やはり名店だったのだとファインは思う。割りばしを割り、綺麗に割れて内心ちょっと嬉しい。湯気が顔にあたり、温かい。両手を合わせて、いただきますと一礼する。
     レンゲでスープをすくい、口に運ぶ。
     ──ああ。
     ほっ、とため息が漏れた。アルコールの刺激を受け続けた体を癒すように、滋味にあふれたスープが染み渡っていく。カエシの塩気が、なぜか優しく感じられた。中太のちぢれ麺はどうだろう、するすると飲み込めてしまう。弾力は強すぎず弱すぎず、飲んでばかりの口には食べごたえがあり、食事としての楽しみをもたらしてくれる。
     チャーシュー、メンマ、ネギ──トッピングのすべてに至るまで、手抜かりのない一品だった。「シメ」とはこういうことかとファインは思う。もはや語る言葉はない。それがどういうものかを訊ねられたら、今後は迷わずこう答えるだろう。「食べてみればわかるよ」と。
    「楽しかった?」とトレーナーが笑う。かつてと変わらない表情だった。
    「楽しかった!」とファインは笑った。こちらもまた、かつてと変わらない表情だった。
    「ね、ね」空になったどんぶり鉢をカウンターに置き、ファインはトレーナーにねだる。「もう一軒行こう、もう一軒!」
     夜は更けていく。
     ファインモーションは新たな思い出を胸に帰国し──それを空港で見送ったトレーナーは、しばらくの節制を誓った。太り気味になっていたからだ。

  • 4二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 02:01:26

    成人後に飲んだ後シメのラーメンを食べるファインが書きたかったんだ
    でもなんか違うな
    おやすみ

  • 5二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 02:02:42

    とりあえずいつもの

  • 6二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 02:03:41

    どうしてくれるんだ腹が減ってきたんだが

  • 7二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 02:05:22

    >>6

    ラーメン食べればいいんだよ!

  • 8二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 02:06:49

    もう全部がいい
    酒の後にラーメンって妙に美味いよね

  • 9二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 02:14:16

    >>8

    アルコールを分解するのに水分が必要なんだ

    んで水分を効率的に吸収するには塩分に加えて糖分もいるんだ

    だからラーメンを食べたくなるんだ


    ポカリスエットやアクエリアスも甘いのはこれに由来するんだ

  • 10二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 02:16:05

    >>9

    はぇ〜凄くちゃんとした理由あるんやな

  • 11二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 02:17:02

    >>9

    This.

    だから飲んだ後のラーメンって合理的なのよね

    脂? 知らない

  • 12二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 09:19:06

    このレスは削除されています

  • 13二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 20:43:08

    良いね。すき。

  • 14二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 20:47:54

    身体に悪いと理解しつつもシメのラーメンはやめられない

  • 15二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 21:12:13

    おなかすいた

  • 16二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 21:36:44

    いいSSだぁ…

  • 17二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 01:05:38

    シメ用の、脂控えめカップ麺あったら売れそう 無いって事は需要薄いのかな?

  • 18二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 01:10:37

    >>17

    一人暮らしのやつが酔っ払った状態でお湯用意するのは危ないからとか考えてみる

    ポッド空焚きしたり、電気ケトルをコンロにかけたり、ヤカン沸騰してるのに寝落ちたりとか

  • 19二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 01:12:06

    なんだか詩的な言葉選びが素敵。

オススメ

このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています