【SS】一人暮らし、二人のごはん

  • 1二次元好きの匿名さん21/10/17(日) 22:20:29

    「わん!わん!」
    「こらこら急かすな!貴様のご飯も今用意する!」
    エアグルーヴがお皿にドッグフードを入れた。しっかりと待てをしてから、食事の許可を出す。
    「はふっはふっ」
    勢いよく食べ始める様子を見て、思わず頬が緩む。
    「全く……喉に詰まらせるんじゃないぞ?」
    「わん!」
    わかったと言わんばかりに吠えた愛犬を優しく撫でつつ、エアグルーヴは自分の食事を準備する。いつもなら一人分で良いのだが、今日は二人分だ。エアグルーヴは時計を見た。迷っていなければ、そろそろ来る頃合いだろうか。そう思っていると、インターホンが鳴り響いた。

    「来たか」
    エアグルーヴが玄関を開けると、そこにはトレセン学園時代に同室であり、今でも連絡を取っているファインモーションがいた。手には山ほどの紙袋を持っている。
    「グルーヴ、久しぶり!お邪魔していいかなー?」
    「良いが……なんだその紙袋の量は」
    エアグルーヴが小さく溜息を吐く。何かのパーティーじゃあるまいし、まさかとは思っていたが、王族を甘く見ていたらしい。
    「あはは……グルーヴのお家にお邪魔するっていったら、家族に色々持たされちゃって」
    「私の寝床が狭くなるな」
    「でも美味しいお菓子とかいっぱいあるから、喜んでくれると思うよ」
    「それは有り難く頂戴するが……ううむ」
    悩ましい問題が一つ増えたが、エアグルーヴは立ち話もなんだとファインを家に招いた。ファインは礼儀正しく一礼すると、「お邪魔します」と言って中に入る。

  • 2二次元好きの匿名さん21/10/17(日) 22:21:26

    「わあー!綺麗なお部屋だねー!」
    「あまり広く無いから窮屈かもしれんが」
    「ううん!そんな事ないよ。あっ!わんちゃんだ!」
    ファインは犬に近づきわさわさと撫でた。犬もぺろぺろと甘えてじゃれる。
    「あっ、もう!くすぐったいってー!」
    「私は紙袋を整理するから、その間は遊んで待っててくれ」
    「わかった!」

    ここはエアグルーヴが住んでいるアパートだ。トゥインクルシリーズに続きドリームトロフィーリーグまで駆け抜けたエアグルーヴは、一人暮らしを始める事にした。適度な立地条件と家賃、ペット可のアパートを探すのは中々骨が折れ苦労したものの、今はここに落ち着いている。

    「今日は誘ってくれてありがとね」
    「いや、良いんだ。こちらの要望だからな」
    「まさかグルーヴがお夕飯を誘ってくれる日がくるなんて」
    「おい、それはどういう意味だ?」
    整理も終わり、二人で軽い会話を交わす。トレセン学園を離れてからというもの、エアグルーヴは誰かと食事をする機会がめっきりと減っていた。賑やかな学園の食事とは似ても似つかない静かな食事の日々。そこに一人暮らしの寂しさも募り、エアグルーヴは少々センチメンタルになっていた。そんな折、ファインが近くに来るという連絡を貰ったエアグルーヴは、それならばついでにとファインに夕飯を一緒に食べないかと提案したのだ。

  • 3二次元好きの匿名さん21/10/17(日) 22:22:01

    久々の会話もいい感じに盛り上がり、時計の針が七時半を回った所で夕飯にする事にした。飽きずに構えと襲いかかってくる愛犬をファインに任せ、料理をよそう。
    「ねえグルーヴ。この匂いはもしかして」
    犬の嗅覚並みに鋭くファインが反応した。
    「ふむ。気づいたか」
    「それは気づくよ!ああ〜良い匂い……」
    「ふふっ。王族の舌に敵うかはわからんが」
    皿をファインの前に配膳する。ファインの目がおもちゃを見る子供の様に輝かいた。
    「わああ……美味しそう」
    出したのはラーメンだった。もちろんあまり高級な食材など買えず、家庭的なものではあるが。
    「エアグルーヴが一緒にラーメンを食べてくれるなんて。以前は中々食べてくれなかったのに〜」
    「それは毎日の様にお前が勧めるからだろう」
    「ラーメンは毎日食べても身体にいいも〜ん。あ、君も食べる?」
    「犬に食わすな!」

    二人は「いただきます」を言うと、ラーメンを啜り始めた。
    どうやらエアグルーヴのラーメンはファインの舌によく合ったらしく、あっという間に啜り上げおかわりを求めた。エアグルーヴとしてはあまりの早さに驚くばかりだが、事あるごとに「美味しい」と言いながら笑顔で食べてくれるので悪い気分ではない。

  • 4二次元好きの匿名さん21/10/17(日) 22:23:05

    三十分後。
    「ごちそうさまでした」
    「片付けはこちらでやっておこう」
    「え、遠慮しなくていいのに」
    「客だからな。これくらいはさせてくれ」
    楽しい時間はあっという間に過ぎる。エアグルーヴは食器を片付けつつ、時間が経つのを拒んだ。ファインは食後の休憩がてら気楽にくつろいでいる。くつろいでいる姿すら礼儀正しい雰囲気を纏うのは王族の教育の賜物だろう。きっとファインのいる上流階級は寂しさとは無縁に違いない。

    「グルーヴはさ」
    「ん?」
    食器を洗う手を止める。
    「誰か一緒に住むような人はいないの?」
    「……は?」
    エアグルーヴは慌てて食器を握り直す。危うく落とす所だった。
    「な、何を言ってるんだファイン」
    「だってグルーヴ、ちょっと寂しそうだから」
    「それは……」
    予想外の一言に、エアグルーヴは思わず黙ってしまう。
    「まあ一人暮らしだからな、寂しく感じる時がないとは言わん。だが、別に誰かと一緒に住むなど、まだ」
    「あ!やっぱり図星だ。グルーヴが良いなら良い人紹介するよ?」
    「いや、ファインが紹介するような人は皆上流階級だろう」
    エアグルーヴは誘いを拒否した。悪い話ではないが、きっとそんな人達相手では息が詰まって疲れそうだ。
    「まあそうなんだけどねー。あっ」
    ファインがポン、と手を打った。
    「どうした?」
    「今、トレーナーさんとはどうなってるの?」

  • 5二次元好きの匿名さん21/10/17(日) 22:23:47

    「なぜそこでトレーナーの名前が出てくる」
    「だってグルーヴが一番信頼している人でしょ?」
    「いや、信頼していることとこれとは話が別だろう」
    エアグルーヴはファインからの目線を逸らした。確かに今も度々連絡を取ってはいるが。
    「そんなものなのかなぁ?」
    「そんなものだ」
    「そっかぁ。お似合いだと思ったんだけどな」
    ファインは納得していないのか、首を捻った。エアグルーヴは呆れ顔にならざるを得ない。ファインはその顔を見て、少し懐かしむように笑った。
    「でも、こうしてお夕飯に誘ってあげるぐらいはしても良いんじゃない?」
    「……まあ、それくらいなら」
    「グルーヴが寂しくなくなるといいね」

    そう言ってこの話題は幕を閉じた。その後もエアグルーヴとファインは夜中になるまで、思い出話やかつての友人の話に花を咲かせた。

    「じゃあ、今日はごちそうさまでした。また誘ってね」
    「ああ。夜道は暗いから気をつけろよ」
    「大丈夫。迎えのタクシー呼んであるから」
    そう言って玄関を開けると、そこにはいかにも高級車といった感じの黒光りするタクシーが待機していた。エアグルーヴも流石にこれには圧倒され、王族はやることのスケールに驚くばかりだった。
    「それじゃあ、また」
    「ああ。またな」

    手を振って、二人は別れる。ファインはエアグルーヴが見えなくなるまで車内から手を振ってくれた。

  • 6二次元好きの匿名さん21/10/17(日) 22:24:47

    エアグルーヴが部屋に戻ると、そこはまた独りだった。愛犬が「くぅ〜ん?」と心配そうに近づいてくる。それを優しく抱き抱え、膝に置いた。
    「ふふ。心配してくれているのか?」
    「わん!わん!」
    「そうか、優しいな。お前は」
    エアグルーヴは愛犬のほっぺたをむにーと引っ張った。手でパシッと弾かれ怒られる。そろそろ風呂に連れて行かねばと思った所で、ふと愛犬に聞いてみた。
    「お前はトレーナーに会いたいか?」
    「わふ?」
    「河川敷でお前を拾ったとき、一緒にいただろう?」
    「……わん!わん!」
    何気なく聞いてみただけだったが、いかにも「思い出した!」という風だったので、エアグルーヴは思わず笑ってしまう。
    「そうか。なら今度はトレーナーを連れてこよう」
    エアグルーヴはスマホを取り、連絡帳を探す。そこには確かにトレーナーの名前が残っていた。時間はもう遅いが、あのたわけの事だから今も担当のために気を張っているに違いない。エアグルーヴは電話をかけた。

    プルルルル……プルルルル……

    「エアグルーヴ!どうしたの、こんな時間に」
    「いや、別に大した事ではない。来週、夕飯でも一緒に食べないかと思ってな」
    「嬉しいけど、それはまたどういう風の吹き回し?」
    「……失礼な。貴様もたまにはあの犬の様子が見たいだろうと思っただけだ」
    「ああ!あの時の!」
    「都合が合う日があったら連絡してくれ。では」
    「うん。身体に気をつけてね」

    電話を切り、エアグルーヴは愛犬を撫でた。相変わらず気持ちよさそうにごろごろとしている。全く甘えん坊になってしまった。
    「来週、楽しみだな」
    「わん!」

    一人暮らしは自由だけれど、ちょっと寂しい。でも、考える時間はたくさんある。
    「あのたわけは何が好物だったかな……」
    エアグルーヴは早速、来週の献立を考え始めるのだった。

  • 7二次元好きの匿名さん21/10/17(日) 22:32:13

    ここまでお読みくださり、ありがとうございます。

    今回はウマ娘が一人暮らしを始めたら?を妄想して書き上げました。

    ご意見、ご感想を頂けると嬉しいです。

    また、過去ログ行きになってしまいましたが「専属契約最終日」というシリーズ(と言っても3作ですが)も書いていますのでよろしければそちらもどうぞ

    【SS】今日は専属契約最終日|あにまん掲示板「……今日で専属契約は終了か」エアグルーヴがぼそっと呟いた。「長い間世話になったな。トレーナー」自分とエアグルーヴは長きに渡って二人三脚でレースに臨んできた。トゥインクルシリーズはもちろん、ドリームト…bbs.animanch.com
  • 8二次元好きの匿名さん21/10/17(日) 22:36:49

    このエアグルーヴすっごいかわいい

  • 9二次元好きの匿名さん21/10/17(日) 22:42:34

    幸せそうで何より

  • 10二次元好きの匿名さん21/10/17(日) 23:36:51

    >>8

    河川敷で犬を保護するイベントのエアグルーヴは可愛過ぎるのでオススメです

  • 11二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 08:38:20

    このレスは削除されています

  • 12二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 08:45:39

    いいね
    一人暮らしが寂しくなったOL?のエアグルーヴはきっと綺麗な大人の女性になってるんだろうなぁ
    これからトレーナーと同居の話が出るのかも知れないし、寂しさから婚活とか始めるのかも知れないし、エアグルーヴのこれからが色々と想像できてとてもよかった

  • 13二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 11:58:20

    >>12

    楽しんで頂けたなら嬉しいです

  • 14二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 12:04:52

    よかった
    トレーナーの性別は男女どちらでもとれるように書いている…のかな?主の意向があれば知りたい

  • 15二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 12:14:24

    >>14

    そうですね。他の作品だと明確にしている事もあるのですが、今回はトレーナーがそこまで関わらないので明確にしていません。お好きな性別で楽しんで頂けたらと思います。

  • 16二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 12:16:31

    >>15

    なるほど、ありがとうございます

    書きたいものが明確になっているからこそですねぇ、参考になります!

  • 17二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 12:19:28

    俺はもうすっかりあなたのファンだよ

  • 18二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 16:24:40

    >>17

    まさかこんなことを言われる日が来るとは……嬉しいです。ありがとうございます!

  • 19二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 19:16:36

    エアグルーヴと犬はもっと広まって欲しい(本音)

オススメ

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