- 1レイニーデイ・イン・ザ・ルーム21/10/19(火) 23:16:08
──ナイスネイチャとキスをした。
ベッドの上で枕に突っ伏し、トウカイテイオーはその事実に深く熱く息を吐いた。
秋の始めの冷たい空気が、火照った足の裏を冷やして心地よい。電気を消した部屋の中に、窓の外からカーテン越しに街灯の明かりが差し込んでいる。
しとしとと降る、雨の音。うつ伏せになったテイオーの腰ほどの位置の隣に、ウマ娘一人分の体重。シングルサイズのベッドがきしみ、テイオーの体はほんの少しだけそちら側に傾いている。横腹に感じる高い体温。尻尾がふわりと背中に乗せられ、心臓がどきりと跳ねる。
「雨、止まないね」
ナイスネイチャが座ったまま、誰に聞かせるでもなくぽつりとつぶやいた。
それに、何と返したものだろうか。あー、とかうん、とか。そんな唸りのようなものしか出てこない。
彼女が何を考えているのかが全くわからず、それ以上に自分自身が何を考えているのかもわからなかった。
どうしてこうなっちゃったんだろう。きっかけは、恐るべきことに自分だった。ネイチャをこの部屋に招き入れたのも、自分だ。その理由を作ったのも、比重で言えばやっぱり自分。
つまりは、一連の流れはすべてトウカイテイオー自身がプロデュースした事になる。そんなばかな。
というか、なんでナイスネイチャはこの流れに乗ってきたのか。いつでも降りられただろうに。
唯一の救いは、この行動がお互い同意の上での物だった事だろうか。
酸素不足で頭がくらくらしていた。我ながらとんでもなかった。今夜、誰もが羨む天下のトウカイテイオーは、ルームメイトが留守なのを良いことに、同性の友人を真夜中のお部屋に連れ込んで、お互いの欲望のままにちゅっちゅしていたのだ。それもさっきまで。 - 2レイニーデイ・イン・ザ・ルーム21/10/19(火) 23:16:58
(……ちゅっちゅって何さ)
鈍い頭は本当に下らない事ばかり考えてしまう。
それでもトウカイテイオーは考えることを止めなかった。なぜならば、どうして自分がナイスネイチャにキスをしたのか、その理由が今になってもわからなかったからである。
【ネイテイ短編】レイニーデイ・イン・ザ・ルーム
その日は朝から台風の予報で、テイオーは普段よりかなり早めの時間に栗東寮を出た。どうせ屋外の施設は使えないし、屋内は予約でいっぱいになってしまうだろうから、それならば雨風が本格的になる前に登校してしまおうと考えたのだ。
ところが思ったよりも早く天候は悪化し、校門が開いてほどなく、何処からか吹き飛ばされてきた大きなトタン板が、電線を巻き込みつつ体育館の窓ガラスを粉砕してしまった。
当然体育館は使用禁止。電線が切れたので電源が必要なトレーニング機器も動かず、復旧と生徒たちの安全のため、本日休校の連絡がスマホに届く。
照明も落ち、窓の外はとんでもない暴風雨。とても寮に帰れるような天気ではないし、そもそもさっきの今である。何が飛んでくるかもわからない。
教室は解放してくれるというので、そこで外が落ち着くまで時間を潰そうと向かった先、トウカイテイオーはナイスネイチャと出会ったのであった。
「あれ、おはようテイオー。テイオーも来てたんだ」
「おはよー! ネイチャ。ねえねえ見た? 体育館凄いことになってたよねー」
「ああ、あれ凄かったね。どーんっ! って音がめっちゃ響いてて。ネイチャさんちょっと怖かったかも」
雨の音に満たされた教室での、二人きりの他愛のないお喋り。人気のない校舎での非日常の共有は、二人の間になんとも言えない楽しげな連帯感を生む。
水筒の暖かいお茶を分け合い、湿り気のある空気のにおいを吸い込む。薄暗い部屋はほんの少し肌寒くて、思わず指先をこする。
窓からのぼんやりとした光源に浮かぶシルエット。時にスマホをいじったり、天気予報を調べたり、ネイチャお気に入りの猫動画を肩を寄せ合い一緒に見る。 - 3レイニーデイ・イン・ザ・ルーム21/10/19(火) 23:17:28
ふと横を見ると、間近に彼女の横顔があった。薄暗い教室で、一緒に見ていた手元からの明かりに照らされて、うっすらと輝いていた。瞳に反射した光は、銀の粒子を吹きつけた水盆のように、控えめに瞬いていた。
そうして、そうして。気が付いたらトウカイテイオーは、ナイスネイチャにキスをしていたのだった。理由なんてわからなかった。いつのまにかだ。電光石火の早業か、それとも意識のスキをつくような、達人のなせる技なのか。
ともかく、自分から仕掛けた事だけは覚えていた。彼女の灰色の瞳が驚愕に大きく見開かれるのを、文字通り目の前で見た。
ネイチャはそのまま少しだけ瞳と尾を揺らすと、何故だか、振り払う事もなくそっと瞼を閉じた。
ずいぶんと長い間、口をくっ付けていたように思う。どちらも身じろぎすらしなかった。テイオーは目を閉じることもせず、ぼんやりとネイチャの顔を見ていた。ぼやける視界。雨の音が耳に染み入る。お互いに息すらも止めていたんじゃないだろうか。
初めての唇の感触は、別に漫画で読むような、素晴らしいものだったりはしなかった。唇なんて自分にもついている。上下の唇をすり合わせれば、お手軽に再現できるだろう。
ネイチャの肌からは、肌みたいなにおいがした。これも当たり前だった。
永遠に思えるほどの時間が過ぎ、いい加減息も苦しくなってきた頃、二人の唇はようやく離れた。
教室内に、ぴち、と湿ったものが離れるような、決して大きくはない音が響いた。
「……来る前にはちみー飲んだ?」
「……リップ」
「……。そっか」
それきり会話はなかった。
ほどなく台風はその目に到達し、雨と風が和らいだ。
トウカイテイオーは逃げるように教室を出て、寮の自室のベッドへと飛び込んだ。 - 4二次元好きの匿名さん21/10/19(火) 23:18:11
村上春樹みてえな文だな
- 5レイニーデイ・イン・ザ・ルーム21/10/19(火) 23:18:16
普段ならばすぐに話しかけてくるであろうルームメイトのマヤノトップガンは、父親に会いに行くから外泊許可を取ったと昨日の晩に言っていた。
もしも今ここに居たなら、勘の良い彼女の事だ。具体的な事はまあ別としても、何かあった事をたちどころに察知してしまうだろう。ただ、それを抜きにしても、今日はこの静けさがありがたかった。
うつ伏せにシーツへ顔を埋めながら、驚くほどに心は落ち着いている、気がする。レース中、ゾーンに入った時のような集中力。部屋の天井から自分を見下ろして、感覚が透き通り、頭上から舞い落ちるほこり一つ一つの動きさえ、手に取るようにわかるような錯覚。
どれほどそうしていただろうか。具体的な思考は像を結ばず、そっと唇に指を這わす。指の感触。廊下を行き交う寮生たちの声が扉越しに薄く聞こえてくる。
ぼうっと唇の弾力を確かめながら、トウカイテイオーはいつの間にか眠りに落ちていた。
「…………ん……」
目が覚めるともう外は暗くなっていた。うつ伏せだったせいか首が少し痛いし、髪をほどかなかったせいで肩もこっている。前髪にはよくわからないクセがついており、おまけに妙な時間に寝たせいか寝汗が気持ち悪い。
時計を確認すると中々に良いお時間だった。寮の大浴場を使うなら、そろそろ出なくてはならない。
何せ栗東寮にはあのテイエムオペラオーがいるのだ。彼女は独自のこだわりをもって毎日、浴槽に大量の薔薇の花びらを浮かべて楽しんでいるのだが、他の寮生に迷惑を掛けないよう、大浴場の終了間際にやってくる。
当然皆はその事を知っているので、少しだけ早めに入浴を終える。あくまで共用の施設ではあるので別に一緒に入っても問題は無いし、彼女も気のいいウマ娘。嫌がったりはしないだろうが、なんとなく癒しのひと時を邪魔するのも忍びない。
軽く首をほぐしつつ、ぐちゃぐちゃした頭をそのままに着替えをまとめて部屋を出た。廊下で何人かのウマ娘たちとすれ違う。談話室からはテレビを見ながら談笑する声。通りすがりにちらりと横目で見るが、特徴的な赤茶のツインテールの姿は無い。
その事にほんの少しだけ安堵しつつ、小走りで脱衣所の暖簾をくぐった。
そして銭湯に似た作りの通路を進み、角を曲がった先、ぽつんと一人佇む、灰色の瞳とばっちり目があった。 - 6レイニーデイ・イン・ザ・ルーム21/10/19(火) 23:18:50
「あっ」
不意打ち。なんてやつだ。なんとも見事な伏兵だった。きっと、お互いに。
思わず視線を下げると、彼女の柔らかそうな、形のいいバストが優しげな緑色のブラジャーに支えられていた。それが何だというのだ。だが今この瞬間だけは、なんだか本当に見てはいけないもののような気がして、視線を上に戻した。当然目が合う。ここは地獄か。
「ねぐせ……」
ナイスネイチャが口を開く。はっとなって前髪を押さえた。なんだか少し、責められているような気分になったのだ。
お前、あんなことをしておいて、よくもまあスヤスヤと眠っていられるものだな、と。もちろんただの想像だったが、なにせ巨大な負い目がある。居心地の悪さを感じつつ視線をさ迷わせていると、ふとある事に気がついた。
「……もしかしてネイチャも寝てたの?」
いつものツインテールが妙な形にねじれていた。下は制服のスカートで、なんだか大きなシワがある。おまけに頬の片方がほんのり赤くなっていた。うつ伏せて寝ていたに違いない。
「あ、あはは……うん。アタシもちょっと寝ちゃってました……はい」
「そ、そうなんだ。……ボクと同じだね」
「そっか、そっか。テイオーも寝てたんだ」
「うん……」
「ねぐせだもんね」
「ネイチャもね」
「いやあ、お恥ずかしい」
「あはは……」
「はは……」
会話が途切れてしまった。沈黙が場を支配し、気まずいようなそうでもないような、中途半端な硬さの空気が脱衣所に満ちた。
「あの……テイオー……あんまり見られてると、その、ちょっと、脱ぎづらいかなーって……」
「うわっ、ごめんっ!」
慌てて目の前の脱衣カゴに取り付く。熱くなった顔を冷ますように息を吐き、テイオーはおずおずと服を脱ぎ始めた。ぱさりぱさり、自分の衣擦れの音を聞かれる事が、なんだか恥ずかしく思えてくる。 - 7レイニーデイ・イン・ザ・ルーム21/10/19(火) 23:19:31
すぐ隣でスカートのジッパーを下ろす音がした。隣に居るので必然、音の流れは双方向。ネイチャが服を脱ぐ音を聞いてしまった。それを意識した瞬間、猛烈に恥ずかしくなってくる。けれどもここまで来たとなるともはや後戻りはできない。浴室の扉が開き、タオルを持った後ろ姿が湯気の向こうに消えてゆく。意を決して下着を外し、その背中を追いかけた。
「……静かだね」
「……うん。静かなお風呂もいいね。ボク、この時間に来るの初めてかも」
「確かに。アタシもこの時間に来るの初めてだから、新鮮。たまに来てみよっかな……」
「あー、あー。ネイチャ、すっごい声響くよ」
「あー。……ホントだ」
ボディソープでぴかぴかに磨き上げた体を肩まで湯船に浸すと、ざばりと溢れる音がした。じわじわと全身から染み込んでくる心地よさ。体を洗う内に、お湯の温かさはある程度心も体も解きほぐしてくれたようで、テイオーとネイチャは並び合って座っていた。
ふんわりと投げ出された四肢がお湯にたゆたい、未だ緊張はあるものの、ぎこちない空気はある程度緩和されている。普段通りとまでは行かないがそれでも会話ができるようになっていた。
「ねえ」「あのさ」
被った。
「あ、お先にどうぞ……」
「あ、えっと、うん。ネイチャから言ってよ」
「あ、うん……」
ネイチャは浴槽の縁に敷いたタオルに頭を預け、枕にするようにして天井を見上げていた。暖色の明かりに照らされて、額から輝くしずくが流れ落ちる。
「その……ですね、アタシたち、朝さ……その……ス……しちゃった、じゃないですか。その……なんでかなって……」
やはり来た。このまま今朝の出来事もお湯に溶けてしまえばよかったのに。テイオーはほんの少しだけそう思ってしまった自分を、頭の中でくしゃくしゃに丸めてゴミ箱に放り込んだ。
下まぶたに知らず力が入る。結局のところ逃れることなんて出来ないのだ。テイオーはネイチャと同じように浴槽の縁を枕にしながら、彼女を見た。ここに来てからもずっと考えていた。体を洗っている時も、髪を洗っている時も、尻尾の手入れをして、ネイチャとぎこちなく話題のトリートメントについて話をしていた時も、今こうして湯船に浸かり、隣り合って座っている時も。
だって、きっとネイチャだってファーストキスだったのだ。それを、奪った。そして、その理由を未だ出せずにいる。 - 8レイニーデイ・イン・ザ・ルーム21/10/19(火) 23:19:55
「その……」
「うん」
「あ、あの……」
「うん……」
湯気の向こうからネイチャがじっと、テイオーを見ている。
不安げに揺れて、こちらの答えを待ってくれている。
そして、時間が経つほどに自身の行いが重く心にのしかかってくる。
答えは出ない。いくら考えてもあの時の自分が何を思っていたのかがわからない。そもそも理由なんてないのだろうか? それはない。わからないが、断言できる。物の弾みだった? 本質はそれに近いのかもしれない。でも違う、ような、気がする。何か大事な真ん中が抜けている気がした。
あの時、二人きりの教室。仲のいいともだち。薄暗くて、灰色の瞳が銀に照らされていた。風が強くて、危険なこともあって、でも安らかで、そして窓の外には……
「あ……雨が」
「雨……?」
「雨が、降ってた、から……」
なんだそれは。涙がこみ上げてきた。お風呂場で、素っ裸で、ホントのホントはもう逃げてしまいたくて、全てをさらけ出していて、もう何もないのに、こんな言葉しか出すことができない。
意味不明な事を言いつつ、急に泣き始めた自分を見て、ネイチャが慌ててこちらに駆け寄ってきた。酷いことをしたのに、慰めてくれようとしている。ごめんね、なんて謝っている。謝らなきゃいけないのはこちらの方なのに。浴室にすすり泣きが反響し、もし誰か他のウマ娘が聞いていればきっと七不思議の仲間入りだ。
ネイチャに背中をさすられながら、しゃくりあげる。俯いた視線の先で、ネイチャのむき出しの胸が、泣いている自分をなで擦るたびに、ふるふると形を変えている。
頭の中はぐちゃぐちゃでも、その柔らかそうな感触だとか、先端の色の部分だけははっきりと自覚できて、そんな事を考えている自分にさらに自己嫌悪が加速した。
「テイオー、泣かないで、大丈夫だから……ごめん、テイオー……」
「ち、ちがっ……っ……ごめん……ネイ、チャ……ボク、わから、なく……って……ごめん……」 - 9レイニーデイ・イン・ザ・ルーム21/10/19(火) 23:20:33
それからしばらく、テイオーが落ち着くまで、ネイチャはテイオーの背中をさすり続けた。
なんだか堂に入った慰めっぷりだなと思っていたら、彼女は実家がスナックで、時たまこんな風に泣いている大人を見てきたと教えてくれた。
お風呂から上がって服を着ると、ネイチャはテイオーを鏡台の前に座らせ、その長い髪を漉き始めた。優しく頭を滑る指先に、また泣きそうになってしまう。軽く鼻をすする音は、ネイチャがスイッチを入れてくれたドライヤーの音と彼女の指先に混じって、あたりに散らばっていった。
「ねえ、テイオー」
鏡に映るネイチャは、Tシャツに短パンというラフな格好をしている。
顔を見るのがなんだか憚られて、目を伏せた。
「……なに」
「その、さっきのさ……」
「……」
「さっきさ、話し始めが被ったじゃん」
「……」
「あの……何だったのかなって……」
つま先を見ながら考える。確かに、テイオーはネイチャに聞きたいことがあった。もちろん一番は謝ろうと思っていたのだが、それももう瓦解した。今はこうして気を使ってくれているが、ここを出れば気まずい空気のまま別れ、次第に話さなくなり、きっと自分は友達を一人失うのだろう。
ならば、最後に聞いてみるのもいいかと思った。心に引っかかっていた事を。今朝、教室でキスをされた時、どうしてネイチャは。
「なんで……目をつぶったの?」
「へっ?」
「その……朝、ボクが……キス……した時。なんで目をつぶったのかなって……ボク、自分でもワケわかんなくって、でも、蹴っ飛ばされても、しょうがないって思ったのに……その……」
言葉が止まる。ネイチャは少し、考え込んでいるようだった。ドライヤーが切られる。 - 10レイニーデイ・イン・ザ・ルーム21/10/19(火) 23:21:22
「その……」
「うん」
「えっと……ね……」
「うん……」
「わ……わかんない……」
言葉が耳を飛び越え、頭上を通り過ぎていった。
「え……?」
「その……ええと、雨が、降ってたから……とか……?」
「……あの、ネイチャ」
「ああいや! 違うから! バカにしてるとか、蒸し返してるとかそういうんじゃなくって! その、ほんとに! ええっと……」
ばたばたと手を振る気配に振り返ると、ネイチャは首まで真っ赤になっていた。尻尾はせわしなく振られ、耳も落ち着かない。困ったように下げられた眉の下で、迷いに濡れる瞳がくるくると回っている。
「アタシにもよくわかんなくって……それで、その……なんか、テイオーの目を見てたら、その……アタシも、目をつぶっちゃったって言うか……」
「ええー……?」
「ああっ、なにその反応! テイオーだって分かんないのは同じじゃん!」
「それはまあ、そうなんだけどさ……」
「なんかグルグルなってたら、テイオー行っちゃうし! 帰ってモヤモヤしてたら、そのまま寝ちゃってるし、それで! それで……」
不意にボリュームダウンする声。俯いたネイチャからは表情が伺えない。ひとしきりもじもじした後、ナイスネイチャは顔を上げ、未だ赤みの残る頬でテイオーを見た。
「あ、あのさ、テイオー……」
灰色の瞳が揺れる。
「今日の夜中、さ。……また雨が降るんだって。今朝、教室で天気予報見たときに、ニュースに出てた……んですケド……」 - 11レイニーデイ・イン・ザ・ルーム21/10/19(火) 23:21:48
確かめてみる? その一言で、今夜の予定が決まった。
ネイチャがスマホを取り出し、ルームメイトに泊まりを伝えている。お互い一言も喋らないまま、ぎこちない動きで寮の廊下を並んで歩く。
扉の前につくと、周囲に誰も居ないのを確認してからさっと部屋に入った。
とりあえず自販機で買ったにんじんジュースだとか、備蓄のお菓子を用意したりしてみるが、お互い緊張しており食指も伸びない。
予報の時間が近づくにつれ口数も少なく、時刻はそろそろ日付が変わろうという頃。窓枠に静かに雨粒が伝っていた。
「……テイオー、電気消していい……?」
「……うん」
ありがたい申し出に明かりを落とす。お互いに茹で蛸のような顔色をしている。もし電気をつけたまま近づいたなら、恥ずかしさと興奮のあまり気絶するかもしれない。
ばくんばくんと心臓がうるさい。耳や尻尾はむずむずして、手が細かく震えている。落ち着くために吐いたため息さえも震えている。
ベッドの上で静かに膝を付き合わせて座った。そっと膝立ちになり、ネイチャの肩に手をかける。彼女はびくりと一つ大きく震えて、ぎゅっと胸の前で手を握る。
柔らかなベッドに膝がめり込み、体勢が悪い。背中も反り腰になって少し辛い。だが、視線は目の前の少女から離せない。期待と不安に潤む大きな灰色の瞳が、光を受けて白い月のように輝いている。
キスをする。今から、トウカイテイオーは、ナイスネイチャとキスをする。
キスの理由を見つける。そういう名目で。自分の意志で、お互いの意志でキスをするのだ。
「てい、おー……」
呼吸が浅い。二人の影がゆっくりと近づく。短すぎる距離が、一つに重なった。
「……んっ……」
ぺったりと、触れ合っているだけのキス。
くらくらと快感を伴うめまいに脳が揺れる。まるで背骨から後頭部にかけて、優しく宙に放り投げられたような不思議な浮遊感に見舞われる。 - 12レイニーデイ・イン・ザ・ルーム21/10/19(火) 23:22:32
唇の感触は朝に感じた時と変わらなかった。伝わってくるものはあくまでも体の一部に触れた感覚であり、新鮮さだとか物珍しさは一つも無いのに、それとは全く別の部分で衝撃が走り抜けている。ふにふに。ぶにぶに。感触が唇から唇に伝う。鼻息が相手の顔に掛かるのがなんだか恥ずかしくて、ものすごくゆっくり息を抜く。
おずおずと、ネイチャが背中に手を回してくる。今度はこちらの肩がびくりと跳ね、そのまま静かに、抱きしめ合う。そして、もつれるようにゆっくりとベッドに倒れ込んだ。
触れあっていた唇が音もなく離れ、二人は涙のにじむ瞳を見つめ合ったまま余韻に浸る。
「……なんか、テイオーのにおいがした」
「そっ、そういう感想やめてよ!」
ネイチャが少しだけ荒い息を整え、とろけた瞳で話しかける。
「ほら、朝は、リップしてたじゃん……」
「う、うん……」
「こっちの方が、好きかも……」
「……ぅぁ……」
もう顔も見られない。
ずばっと音を立てながらうつぶせに寝転がった。くすくすと笑う声。
心臓は未だ早鐘。ただ、緊張のピークを飛び越えたためか、テンションの波はそのままに徐々に落ち着いてきていた。ほっと弛緩した空気に、窓の外から入ってきた低い温度が忍び寄る。しばしの沈黙。ただ、窓の外を眺めるだけの時間が過ぎて行く。
背中のシャツがはだけ、ちょっとだけ肌寒さを感じるそこに、体を起こしたネイチャの尻尾がふわりと乗せられて心臓が跳ねた。
望む答えはあっただろうか。街灯は青く輝く。外界から切り離された部屋は静かな雨音に満たされて、二人の周囲が水底に沈んでゆく。
「……雨、止まないね」
ナイスネイチャが座ったまま、誰に聞かせるでもなくぽつりとつぶやいた。
顔は見えなかったが、なんとなく微笑んでいるように思えた。 - 13レイニーデイ・イン・ザ・ルーム21/10/19(火) 23:22:54
返事を何と返したものだろうか。あー、とかうん、とか。そんな唸りのようなものしか出てこない。
けれども、心は大いなる充足感に包まれていた。
彼女が何を考えているのかが全くわからず、それ以上に自分自身が何を考えているのかもわからなかった。
ぐるぐると考えてみる。真面目に、真剣に答えを返したいと思った。けれども心地よかった感覚はすうっと冷えて、なんだか思考がくだらない方へ向かおうとする。
なんでだろう。本当はわかってるのかも。だってキスだよ。キスだもん。マヤノがいなくてよかった。どうしよう。普通じゃないかも。なんでネイチャは。ちゅっちゅ。いやなにそれ。どうしよう。ボクは。もしかしたら。ネイチャは……。
「テイオー」
はっと我に帰る。いつの間にか、同じようにうつ伏せになったネイチャがこちらを覗き込んでいた。
「難しい顔してるよ」
優しい眼差しだった。その瞳に見つめられて、雑念がほどけてゆく。
何もかも、わからないままだ。それでもただ一つ確かだった事。それは「トウカイテイオーはナイスネイチャとキスをすると幸せな気持ちになる」という事だった。
ならば、それを真っすぐに伝えればいい。物事はシンプルで、きっとこれが正解に一番近いのだ。
そうして。もしも本当に許されるのならば。ネイチャも、同じ気持ちだったらいいのにな。そんな風に思う。その瞬間、何かが見えた気がした。
「ねえ、ネイチャ」
「……なに?」
「……目、閉じないで。ボクのこと、見てて欲しいな……」
頬に手をやり、唇を寄せ、繋がる。そっと背中に手を回し、体も密着させる。お互いの胸が押し付けられ、形を変えている。
幸せな時間。間違いなく、この瞬間トウカイテイオーという少女は世界で一番幸せな少女に違いないのだ。
たっぷりと時間をかけてお互いの体温を伝えあい、息を吐く。ネイチャはずっとテイオーを見ていた。テイオーは唇を離すと、彼女のその瞳を真っ直ぐに見据えて言った。 - 14レイニーデイ・イン・ザ・ルーム21/10/19(火) 23:23:14
「手を、つないでも、いいですか」
まさかの敬語である。でもしょうがない。もう首まで真っ赤になっている自覚がある。
そろりそろり、お互いの手を胸の前で、指を絡めて握りあった。あごを引いてこつんとおでこを触れさせる。心臓が高鳴り、なんだか顔を見られない。口を開くと声が震えた。
「ネイチャ」
「何……?」
「……明後日もさ、雨なんだって」
「うん。……いいよ、テイオー」
「……でもね」
「……?」
勝負所だぞ、トウカイテイオー。
「明日は……いや、明日っていうか今日なんだけどね……朝からさ、晴れの予報なんだよね。……よかったらさ、ネイチャ。その……一緒にさ、出かけない? あの……雨の日に部屋にいるならさ……晴れの日は、一緒に外に出ようよ」
ボク、ネイチャともっと仲良くなりたいんだ。正真正銘の想いを乗せる。
窓から光が差し込み、ネイチャの灰色の瞳に掛かるのが見える。
ほんの少し開いた瞳が、キラキラと灰銀に輝く瞳が、しょうがないなあ、じゃあ付き合ってあげますか。なんて言いたそうな優しい笑顔に変わる。
その顔がなんだか嬉しくて、その距離感がこそばゆくて。めまいのするような幸せな気分になって、テイオーも笑った。笑顔の彼女に見とれていた。
繋がれた手が暖かい。さあ、起きたら何をしようかな。明日の予定に想いを馳せながら、二人の夜は更けて行く。目覚める頃には、きっと澄み渡る秋空が広がっているだろう。 - 15レイニーデイ・イン・ザ・ルーム21/10/19(火) 23:24:36
- 16二次元好きの匿名さん21/10/19(火) 23:26:20
えっちい……よい………
- 17二次元好きの匿名さん21/10/19(火) 23:26:56
グレートだぜ
- 18二次元好きの匿名さん21/10/19(火) 23:28:30
いいテイネイだった
ありがとう - 19レイニーデイ・イン・ザ・ルーム21/10/19(火) 23:29:44
前書いたの
キングと毎週末映画を見る話……いつ始まったのか正確には覚えていないが、週末にキングヘイローと並んで映画を鑑賞することが習慣になっていた。毎週土曜日のトレーニングが終わった後、私達は解散後に交代でレンタルビデオ屋に向かい、決まっ…bbs.animanch.comおバカぁ! へっぽこぉ! えっと、こっこの…|あにまん掲示板……っ好き!!わかってるわよ! 実らないなんて! あなたにも立場があるでしょうし! 私はまだ中学生だし! 受け入れる訳には行かないでしょうし!? でもしょうがないじゃない! 好きになっちゃったんだから…bbs.animanch.comねえ、お姉ちゃん!|あにまん掲示板もし生まれ変わったらさ、次は男の子と女の子どっちがいい?女のままがいいかなそう? じゃあカレンは男の子になろっかなーカレンが男の子って意外かもだれよりもカワイイ男の子って面白そうでしょ新しい境地かな……bbs.animanch.comこっちには絵を沢山投げました
タイシンの♀トレは身長低いって概念出したそこのアナタ|あにまん掲示板末代まで誇れbbs.animanch.com - 20二次元好きの匿名さん21/10/19(火) 23:32:21
ウマ娘カテゴリに住まう神の一柱じゃないか!
- 21二次元好きの匿名さん21/10/19(火) 23:39:16
現人神
- 22レイニーデイ・イン・ザ・ルーム21/10/19(火) 23:39:34
これのオマケ後日譚もあるから暇な時にでもまた立てます
読んでくれて本当にありがとうー - 23二次元好きの匿名さん21/10/19(火) 23:43:43
よかった…とてもよかった…
甘酸っぱい…こんな経験してみたかったなってなる
いいな…テイネイにはゆっくり答えを探して欲しいね - 24二次元好きの匿名さん21/10/19(火) 23:57:48
ウワーッ!神!
- 25二次元好きの匿名さん21/10/20(水) 00:07:44
感謝…
- 26二次元好きの匿名さん21/10/20(水) 00:13:49
よかった、ありがとう…
- 27二次元好きの匿名さん21/10/20(水) 00:15:05
誰かと思いきや神じゃねーか!!!
- 28二次元好きの匿名さん21/10/20(水) 00:15:32
ありがとうございました…
貴重なテイネイを… - 29二次元好きの匿名さん21/10/20(水) 00:16:24
YOU ARE GOD…
- 30二次元好きの匿名さん21/10/20(水) 00:17:35
ありがとう……本当にありがとう……最高だった……
- 31二次元好きの匿名さん21/10/20(水) 00:19:56
1000円札で紙飛行機おって投げたい
- 32二次元好きの匿名さん21/10/20(水) 00:40:11
ありがとうよ…
- 33二次元好きの匿名さん21/10/20(水) 00:57:25
世界一興奮した。この方の小説サイトのアカウント頑張って見つけたい
- 34二次元好きの匿名さん21/10/20(水) 01:00:12
- 35二次元好きの匿名さん21/10/20(水) 02:30:29
自分の気持ちに混乱しているテイオーの描写がとても素晴らしい…こういう百合は大好きで…
情景描写とか修辞法も上手いし、おまけに絵まで…
もう感謝しかない… - 36二次元好きの匿名さん21/10/20(水) 08:34:48
えっちでした…
- 37二次元好きの匿名さん21/10/20(水) 08:45:02
いいものを見た
- 38二次元好きの匿名さん21/10/20(水) 09:50:06
あぁ〜…(言語化不可能)
- 39二次元好きの匿名さん21/10/20(水) 11:29:26
嘘だろ。この文章力で初心者だって?
- 40二次元好きの匿名さん21/10/20(水) 11:39:17
びっくりした。神が居たなんて
- 41二次元好きの匿名さん21/10/20(水) 13:09:04
スレが夜まで残ってるっぽいので帰ったら後日談というかオマケ編投下します。よろしくです。
- 42二次元好きの匿名さん21/10/20(水) 19:02:18
保守
- 43二次元好きの匿名さん21/10/20(水) 19:53:04
テイネイってカプをこのスレとお話で初めて知ったけど、すごく良かった…
自分の中の新しい扉が開いた瞬間を自覚できた…ありがとう… - 44オマケ編。二人の後日21/10/20(水) 20:45:54
帰ってきたのでオマケ編投下しますー
よろしくお願いしますー - 45オマケ編。二人の後日21/10/20(水) 20:47:23
「ネイチャー」
「んー」
「ねえってばさー」
「後でねー」
「……大好きだよー」
「知ってるー」
「んもー! ネイチャってばー!」
ぺちーん。両手のひらでテーブルを叩く。もちろん大きな音がしたり、広げた教科書やらノートやらが転げ落ちたりしないよう配慮を持ってだ。
そんなコンプライアンスを考慮しつつ駄々をこねる少女、つまりトウカイテイオーは現在、大変に退屈していた。
「暇ならテイオーも試験勉強すればいいじゃん」
「ボクはその範囲ばっちり解るからいいの! 折角のお休みなのに! 一緒に居るのにー! 」
「うん。テイオー先生、教えてくれてありがとう」
「どういたしましてぇー!」
学期末試験である。つまりは学生の本分。もちろん中央トレセン学園に通う二人にとってはレースこそが本分であるのだが、だからといって学問を疎かにする訳にもいかない。教養というものは生きていく以上どんな所でも必要だし、こうやって頭を働かせる事はひいてはレース中における判断力の柔軟さにも繋がる。
そこで企画されたのがこのお勉強会である。純粋に試験勉強がしたいナイスネイチャに対し、教師役として高らかに名乗り出たトウカイテイオー。
なにせ自他共に認めるレースの天才トウカイテイオーと言えば、学問においてもトップの成績。仮に調子が悪い時だって、上から数えて片手で足りるほどの柔らか頭の才女っぷりなのだ。
大船に乗ったつもりで任せてよね! 得意げに胸を張るトウカイテイオー、下心を満載した宝船で沖に出る。だがしかし、ネイチャも特に地頭が悪い訳ではない。躓いていた部分を教えてしまえば、後は自分ですらすらと問題を解き始めてしまった。 - 46オマケ編。二人の後日21/10/20(水) 20:47:52
こうなってしまうともう面白くないのがテイオーである。早々にお役御免となってしまい、目の前にある問題集といえばもはや解き方を熟知したパズルのようなもの。弄りまわした所で退屈でしょうがない。
向かいに座るナイスネイチャは目の前の問題集に掛かりっきりで、全然相手にしてくれない。ちょっと思ってたのと違う! なんというかもっとこう、もうちょっとドキドキするというか、青春の熱に溢れる勉強会デ、デートというか……? とにかくもっと色々あって良いはずでは? 具体的には知らないけど!
膝歩きでネイチャの後ろに回り、もふもふとツインテールを持ちあげる。朝一番にも関わらず、二人の為に部屋を空けてくれたマヤノは生ぬるーい微笑みを浮かべて出かけて行った。もしかしてこうなることが分かっていたのだろうか。
もふもふ。脇の下から手を伸ばし、今度は胸を持ち上げてみる。カップサイズは同じだと聞いているが、なんだかネイチャの方が大きい気がする。別に大きさに対しあまり頓着は無いけれど、それでもちょっぴり面白くない気分。
「楽しいですかー?」
「うん、楽しいー」
違う意味ではきちんと面白かった。耳たぶだとか、肘の余った皮だとか、猫の肉球を触るような感覚だ。
「テイオーってさ」
「んー、何ぃー?」
「結構エッチだよね」
「……」
ペンを走らせる音に時折交じる、参考書のページをめくる音。無言で勉強を続けるネイチャの背後に、うつ伏せで横たわるウマ娘一人。うなじまで赤く染まったそれは時折思い出したように、うぎぅ、だとかぐぅう、と言った唸り声を発している。先程の発言は中々にクリティカルだったらしい。 - 47オマケ編。二人の後日21/10/20(水) 20:48:21
そんなテイオーを歯牙にもかけずネイチャは勉強を進める。テイオーはベッドの上でバタ足を始める。クロールだ。彼女は今、真っ白いシーツの上を泳いでいる。
一五〇〇メートル自由形、地上の部を見事なタイムで泳ぎ切り、表彰台に立つ。さあヒーローインタビューを受けようかと言う頃、携帯のアラームが鳴った。
「あ、もうお昼か」
「やったー! ご飯買いに行こう! もう試験勉強はいいでしょ? 解らなかったらまたボクが教えてあげるしさ、それにまだ一週間もあるじゃん! ほらほら、根詰めてたからおデコとかテカってるよ!」
「えっ嘘、うわっちゃー。顔洗ってこようかな」
「あ、それならボクもシャワー浴びたい。ちょっと汗かいちゃったし」
「自分のせいでしょ……。ていうかこの時間はお湯出ないんじゃない?」
「半分くらいネイチャのせいじゃないかな……まあいいや。ふっふっふ、なんとこのワガハイ、いつでもお湯が出る秘密のシャワールームを知っているのであーる!」
しゃわしゃわと降り注ぐお湯。もくもくと立ち上る湯気。シャワーノズルがずらりと並び、鼻歌がこだまする。やって来たのは結構な広さの敷地を簡素な間仕切りで切り分けたこの場所。トレセン学園が誇る一流設備の併設トレーニングジム── の、シャワー室である。
「なるほどねー、学園は全然思いつかなかった」
「でしょでしょー! ここはお休みの日でもお湯が出るんだよね!」
隣り合ったブースに入り、声を飛ばし合う。貸し切り状態のシャワー室で真っ昼間にぬるめのお湯を浴びる。いつもと違う行為は特別感があって格別の楽しさだ。さわやかな心地良さは、なんだかお祭りの日のお昼時みたいに心を弾ませる。
「あれ、ネイチャ。髪も洗うの?」
「あー、えっと、うん……さっぱりしようかなって思って……」
ひょいと覗けばネイチャが頭からざぶざぶシャワーを浴びていた。それならシャンプーも持ってきた方が良かっただろうか。一応設備の物もあるが、やっぱり自分で買った物の方が質が良い。
「テイオー、ちょっと……」
「何ー?」
「うん、ちょっと、こっち……」
「んー?」
手をつかまれ、するっとブースに連れ込まれた。 - 48オマケ編。二人の後日21/10/20(水) 20:49:14
「わぁ、待って! 髪濡れちゃうから! うわっぷ、ちょっと!」
「あっ、ごめん……じゃなくって、ええっと、あっ、ひゃあっ!」
二人仲良くバランスを崩し、壁にもたれるようにして思いっきり尻もちをついたネイチャに、覆いかぶさるように倒れる。顔面に直撃しているシャワーの向きをとりあえず変えて、体を起こしぺたりと床に座りこんだ。びたんびたんと尻尾が跳ねる。
「いたた……もう、頭びちゃびちゃじゃん! 何するのさー!」
「ご、ごめん……いやー、そのー……」
「んー?」
同じくぺたりと座ったネイチャは、何か言葉に詰まって両手を胸の前でモジモジし始めた。可愛い。凄く贅沢な時間を過ごしているような気がする。
ひとまず、この可愛い生き物を観察するため、声を掛けずに様子をうかがってみた。
すると何やら整理がついたのか、ネイチャはひとつ大きく息をして、こちらをまっすぐ見やった。急に視線を向けられてどきりとしたその隙に、ネイチャはすっと距離を詰め、テイオーの首後ろに手を回す。
思わず固まる。だってこんな、裸で、そんな。
「あのさ、テイオー」
「ひゃいっ……」
「午前中はさ、あんまりテイオーの相手してあげられなかったでしょ……」
「う、うん……」
「だから……その、埋め合わせ、とかじゃ無いんだけど……」
いきなりの展開に、耳が痛くなるほど心臓が鳴っている。二人のそばに、暖かい雫がとめどなく降り注ぐ。
「シャワー浴びてたら、なんかね。なんか……雨みたいだなって、思った……」
「……っ。……」
「テイオー……いいよね……?」 - 49オマケ編。二人の後日21/10/20(水) 20:49:36
返事も待たず、吸い付いてくる。いつもよりも高い温度で、唇が、素肌のままで、全身が吸い付いてくる。細まる瞳が心を乱す。
つるり、唇を掻き分けて何か入ってくる。ちょっと待って。これは、口の中を、舐められてる。お湯が口に入ってくる。唾液と混ざって、口の端からだらだらと垂れ流す。おへそを伝って床まで届く。待って。これは知らないやつ。わかんないけど。なんか、頭の中に、音が、響い、て。
──あったかい。あったかいなあ。なんか、きもちいいかも。だいすき。やわらかい。すき。もっとしていたい。
脳をゆさぶる温度の中で、暖かさの波に押し流される寸前、テイオーは思った。
──ネイチャの方が、よっぽどエッチじゃん。
「……」
「…………」
「……お腹空いたね」
「……そうだね」
しっかりと乾かされた髪からお揃いのシャンプーの香りを振りまき、ぐうぐう鳴りそうなお腹を抱える。
結局、お互いの全ての指がふやける程、たっぷりの時間をかけて唇を貪り続けた二人は、へろへろに疲れ果ててシャワー室を後にした。感情のジェットコースターで精神力を使い果たした。まだ一日が半分ほど残ってる? いやいやまさか。もう帰って寝るだけですよ。そんな気分。
「ご飯どうする? アタシもう作る気力無いかも……」
「食べに行かない? スペちゃんに教えてもらったお店があるんだ」
「それ、超大盛のお店とかじゃないよね……?」
なんでも無い会話が、中々どうして悪くない。右手の甲をネイチャの左手に当てると、そっと握り返してくれた。かっと頬が熱くなる。伝わる熱が愛おしい。
暖かい体に、少し冷たい風が心地よく頬を撫でてゆく。一緒にご飯を食べれば、きっとまた元気になるだろう。
きゅっと結んだ手をそのままに歩きはじめた。今日この後もきっと良い日になるだろう。
暖かな日差し、空に雲。前方には見慣れた風景。そして、右手には幸せを握っているのだから。 - 50オマケ編。二人の後日21/10/20(水) 20:50:50
これでこの二人のお話はおしまいです。
二日にわたってありがとうございましたー! - 51二次元好きの匿名さん21/10/20(水) 20:53:50
あまーい!!!
- 52オマケ編。二人の後日21/10/20(水) 20:54:34
レイニーデイと比べて、自分と向き合ってちょっと吹っ切れたので元気になったトウカイテイオー。
長い事ずっと見てた相手なので、実はけっこう掛かってるナイスネイチャでした。
イチャつけ…もっとイチャつけ……そして供給増えろ……
湿度高かったり低かったりしろ……
重ねてありがとうございましたー - 53二次元好きの匿名さん21/10/20(水) 21:03:31
最高だ...
掲示板に神はいた...... - 54二次元好きの匿名さん21/10/20(水) 21:06:58
すごい…テイネイもっと流行ってほしいね
- 55二次元好きの匿名さん21/10/20(水) 21:13:41
糖度が高い…
- 56二次元好きの匿名さん21/10/20(水) 21:26:29
俺は天国に居た…?
- 57二次元好きの匿名さん21/10/20(水) 21:27:15
神だ...ありがとうございます....
- 58二次元好きの匿名さん21/10/20(水) 22:10:27
ありがとう…
- 59二次元好きの匿名さん21/10/20(水) 22:17:31
Q.神はいるか?
A.あにまんで見た - 60二次元好きの匿名さん21/10/20(水) 22:19:05
美しいものを見れた。感謝。
- 61二次元好きの匿名さん21/10/20(水) 22:38:12
テイネイいいよね…いい…
- 62二次元好きの匿名さん21/10/20(水) 23:47:13
毎日生きていく意味を知れた
- 63二次元好きの匿名さん21/10/21(木) 00:17:33
少しづつ関係を深めていく二人に興奮します