リコリコ最終話if part2

  • 1二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 19:08:30
  • 2二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 19:10:53
  • 3二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 19:12:36

    元ネタから派生したスレッド

    話の大筋はこのコピペを参考にしてます

    たきなが私に人工心臓を届けてからいなくなって一年…|あにまん掲示板bbs.animanch.com
  • 4二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 19:13:53

    そのコピペ⬇️
    テロップ(あの戦いから一年…)(延空木と旧電波塔のカット)
    楠木「ついに真島の隠れ家を特定した。太平洋上、仲間の支援を受けながら、タンカーで移動を繰り返している」(作戦室)
    千束「たきな、どこにいったの」(リコリコで窓の外を見ながら)
    テロップ(任務(ミッション)は…)
    クルミ「たきなの居場所がわかった」(押入の中でPC操作しながら)
    楠木「保護対象になっていた行方不明のリコリスと」
    (監視カメラの映像、テロの現場と黒髪の後ろ姿が映っている。振り返ってカメラを撃ち抜くたきな)
    楠木「見つけ出し」
    テロップ(錦木たきなを)
    テロップ、楠木「抹殺せよ」(バーン)

    主題歌(さゆり)君の手をどうのこうのと歌い出す

    サクラ「やっぱ人を殺す時にしか笑わないんすねぇ!」(肩から血を流すサクラと銃を向けるたきな)
    真島「最ッ高に面白い飼い犬だぜぇ!」(目に包帯を巻いた真島がニヤつく)
    フキ「ウチのアホに何吹き込みやがった。真島ァ!」(銃を構えてガチギレ)
    ミカ「たきなを救ってやってくれ」
    たきな「私はもうあなたの相棒じゃない」(暗い顔で睨む)
    千束「必ず、助ける」
    テロップ(必ず帰る)
    (爆発炎上するタンカー)(吹き飛ぶモブリス)
    フキ「ぜってぇ戻ってこい」(傷だらけのフキ)
    たきな「わたしの居場所は、どこにもない!」(炎の中銃を向けるたきなと棒立ちの千束と髪を掠める銃弾)
    千束(水族館や公園のデートシーン)「たきなは私を撃てないよ」
    テロップ(二人の場所に)
    千束「たきなああああ!」(爆炎の中から飛び出してジョンウィック撃ち)
    劇場版リコリス・リコイル(タイトルどーん)

    サクラ「このパフェ、ウンコっすねぇ!ぁいだっ!」(両脇から千束とフキに殴られる)

  • 5二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 19:16:57

    残りの長さ的に今スレ中に完結すると思います
    前スレの続きは明日以降になりますのでもう少しお待ちください
    読んでくださって、感想くださってありがとうございます

  • 6二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 19:24:36

    保守

  • 7二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 19:24:46

    10まで

  • 8二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 19:24:56

    セルフ

  • 9二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 19:25:07

    ksk

  • 10二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 19:25:17

    します

  • 11二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 20:12:43

    保守

  • 12二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 22:57:49

    保守

  • 13二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 02:05:31

    hosyu

  • 14二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 07:24:37

    19.沈痛

    「あれっすね……けっこー高いな……」

     甲板の上には既に大半のリコリスが乗り込み、ほぼ制圧。
     屋外の戦闘は決したと言っても過言ではなかった。
     しかし艦内に待ち伏せる敵戦力は、一切不明であるため、まだ油断はできない。
     味方間での通信手段を確保するため、上空のドローンを急ぎ破壊し、妨害電波の停止させる必要がある。
     乙女サクラは、チーム内でもその正確な射撃の腕を買われ、狙撃銃を手に屋外に取り付けられた階段を登っている最中だった。
     甲板での戦闘中、上から敵の掩護射撃が飛んできていることには気づいていた。
     先行して制圧隊の何人かがブリッジ内へと侵入し敵の排除に向かったので、サクラは安心して狙撃銃を上空に向けて構えることができる。
     甲板上の銃声も止み、ブリッジの中からも戦闘音は聞こえない。
     静かにスコープを覗き込み、上空に漂う小さな的へと意識を集中する。
     角度のある上空を狙う都合、銃身の固定はできない。
     ゆらゆらと漂うドローンの動きと呼吸を合わせ、心の中でカウントダウンを取る。
     三、二、一、ゼロ。
     激しく空気を震わす轟音を立てて、強烈な反動が少女の体を揺らす。

    「げぇ……」

     上空には、未だ健在の目標。
     狙撃銃はボルトアクション方式で、一度撃った後は手動でボルトを引いて弾薬を排出し、次弾を装填しなければならない。
     そのため連射性能は低いが、精度や耐久性の面では信頼がおける。
     何よりサクラは、狙撃銃は自動装填よりも、この手動の装填方法が格好いいと思っていたので、そこで気分が少し浮かれていた。

  • 15二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 07:24:50

    「いよっしゃ! 当たりぃ!」

     二発目の狙撃は、ドローンの側面を掠めるように命中し、半分ほど胴体を吹き飛ばされたドローンは、激しく回転しながら海へと落ちていった。
     サクラは鼻歌交じりに次弾を装填しながら、次の標的を狙うポジションに向かうため立ち上がる。

    「フキせんぱーい、やりましたよ! ……って一機だけじゃ通信回復しないかぁ」

     その背後、屋内からカツカツと金属の床を踏み鳴らす足音が響いてくると同時、サクラの耳元で、装着していたヘッドセットが粉々に弾け飛んだ。
     次いでぷしゅっと空気が小さく弾ける音が二回。
     サクラの持つ狙撃銃の胴がひしゃげ、肩の肉が抉れて鮮血が散る。

    「いっっっ……づぅう!」
    「サクラか」
    「……! アンタ……味方殺し……!」

     傷口を抑えて膝をつくサクラに、銃口を向けて佇む黒い影。
     井ノ上たきながそこに立っていた。

    「いや……もう味方じゃないっすよねぇ……」
    「相変わらずですね、その態度」
    「アンタは変わったんすかね……少しはいい奴だと思ったのに……それとも、そっちが本性だとか?」
    「……どう、なんでしょうね」
    「笑わないんすか? 人を殺す時にしかさぁ、笑わないんだって……味方殺しが本当なら、やっぱそっちも本当なんすかねぇ!?」
    「…………」
    「……船内に向かったリコリスたちはどうしたんすか」
    「…………」
    「なんとか言えよ裏切り者!」

     銃口が眼前に迫ってなお、サクラの言葉は止まない。
     たきなはその無表情を、微塵も揺らすことはない。

  • 16二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 07:25:01

    『おい! 他の箇所もドローンが落とされてるぞ! 早くなんとかしろよ!』
    「ちっ……アカネはどうした、突入後は合流する手筈だろう。突入してきた全員を止めるのは無理だ」

     たきなの無線機からノイズが走り、ロボ太の必死な叫びが聞こえてくる。

    『電波塔のリコリスに正体がバレてた! 分断した後やられて、今は通路で伸びてるよ!』
    「千束はもう中に……!」
    『予備のドローンも全部飛ばした! これがやられたら次はない……お、おい! どこ行くんだよ!?』
    「待て! 逃げるんすか!?」

     報告を受けたたきなは、膝をつくサクラを放って船内へと向かう。

    「甲板での迎撃はもう失敗だ。外の連中は全員やられて、この数をわたしだけで抑えることはできない、船内に残った戦力とトラップで迎撃する」
    『ドローンはどうするんだよ!?』
    「妨害範囲を狭めてもいいから、狙撃されにくい位置を確保しろ、切るぞ」
    『ちょっ……』

     甲板はたきなの想定以上の早さで制圧された。
     それは突入部隊の生き残りが多かったこと、その中に複数のファースト・リコリスが存在したこと、そのせいで味方戦力の減りが想定よりも早かったこと。
     狙撃手一人で押し寄せる軍勢を止めることはできない。早々に作戦を切り替えて、次の手を打つべきだと判断したのだ。
     たきなはブリッジに向かう階段で転がるリコリスたちの亡骸を避け、下のフロアへ向かう。
     通りすぎざまに、その亡骸に向けた視線。
     先程のサクラの言葉が、彼女の脳裏によぎる。

    「…………んなさい……」

     何も感じなくなったと思っていたはずの胸に、鋭く刺す痛み。
     その苦渋に歪んだ顔も声も、誰の目にも耳にも届くことはない。
     足を止めることなく、明かりの消えた薄暗い階段を下に向かって走る。
     暗く沈んで行く闇の底へ。

  • 17二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 07:25:45

    続き開始です
    一旦ここまで

  • 18二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 09:31:20

    前スレであったクルミのアナログ云々のやり取りって突入あたりと繋がってるんだな

  • 19二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 11:51:15

    また千束優先で走ってる…

  • 20二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 11:54:29

    セミオートよりボルトアクションの方が格好良いというのは、本当によくわかります
    それはそうと、たきなのメンタルがすでにボロボロなんですが······

  • 21二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 16:09:51

    >>19

    そりゃあ、やりたいこと最優先ですから

  • 22二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 18:50:17

    >>16

    20.一心


     ・・・・・


    「これは?」

    「うちの電脳戦担当お手製ドローン」

    「でけぇ荷物背負ってきたと思ったら、どうすんだそんなもん」

    「向こうのドローンの真似事だってさ、そこまで強力じゃないけど、電波妨害さえ潰せばタンカーの制御を乗っ取れるんだって」

    「何者だよあいつ……」

    「……フキ、お願いがあんの」


     ・・・・・


     甲板の敵戦力を掃討し、海上の遊撃部隊に制圧完了の信号弾を打ち上げる。

     あとは遊撃部隊と合流し、ドローンの撃墜と、船内の敵戦力を殲滅する手筈になっている。

     既にサクラと数名のリコリスが、ブリッジへ先行し、敵の狙撃手の撃破とドローン撃墜に動いていた。

     残りは船首と船尾、二方向に別れて船内で挟み撃ちにする形になるように、他チームと連携を取りながら突入チームを組む。


    「お疲れさん、制圧早かったね」

    「遊撃部隊のおかげで、突入がスムーズにいけたからな」

    「このカスミさんのおかげってわけ」


     カスミは遊撃部隊を任されたファースト・リコリス。

     高い狙撃能力を持ち、高速で海上を移動しながらでも、的確に甲板上の的を撃ち抜いて突入を援護した。

     接近戦闘能力は並のリコリス程度だが、狙撃手としての能力はファースト内でもトップの実力者だ。

     そうして遊撃部隊も合流し、広い甲板の各所で上空の目標へ向けて発砲音が響き始める。

     突入前に通信を回復させておけば、館内の制圧は連携を取れてよりスムーズにいくはずだ。

  • 23二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 18:50:32

    「もう少し高い足場ないかな」
    「そこのコンテナに乗って、あのクレーンのワイヤーで吊り上げるとか?」
    「それ名案!」
    「ヨシ! んじゃクレーンの操縦は任せて! やってみたかったんだー!」

     タンカーの甲板は平たく、中心や船首付近では、少しでも高い足場を求めて工夫を凝らすチームもいる。なかなか無茶なこともしているようだが。
     そういえば、サクラの方は順調だろうか。
     ブリッジの外周にある階段から上に……。

    「……サクラ!?」

     そちらを見ると、階段の中ほどに肩を抑えて、ふらつきながら降りてくるサクラの姿があった。
     遠くからではよくわからないが、紺色の制服には赤い大きなシミが広がっているように見える。
     急いで駆けつけて安全な場所に運び、手当てを行う。

    「フキ先輩……たきなが……裏切り者が……」
    「わかった、とりあえず治療が先だ」
    「中に先行した連中も、やられて……」
    「黙ってろ。止血すりゃなんとかなりそうだな、あとは鎮痛剤か……サクラはひとまずここで待機だ」
    「……まだ、やれます……!」
    「駄目だ。これは命令だ。誰かサクラを頼む」

     悔しがるサクラには悪いが、傷は決して浅くはない。
     通信が回復すれば、本部の貨物船周囲に待機した脱出用のモーターボートも呼べる。

    「カスミ、ドローンは?」
    「この辺りから見える分は、大体落とせたかな」
    「よし、なら行けるか」
    「お? そのでっかい荷物は武器じゃなかったのかい?」
    「武器っちゃ武器だな」

  • 24二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 18:50:47

     ゴムボートに積み込んできた、大きなボストンバッグを引き上げて、中身を取り出す。
     それは千束が持っていた、相手の真似事をしたという、電波発信器を搭載したドローン。

     ・・・・・

    「……フキ、お願いがあんの」
    「あ? なんだ改まって」
    「このドローン、フキに預かってほしい」
    「はぁ?」
    「そんで、敵のドローン落としたら、これ飛ばして」
    「自分でやれよ、そんなもん。DAの作戦にはねえぞ」
    「私は、突入したらすぐ船内に行く」
    「……お前の独断行動なんか知るかよ、作戦に従え」
    「……やっぱりさ、真島は私がやる」
    「海の上だ、逃げ場もねぇ。数で押せば全員で真島をやれる。お前だって、その為にDAの作戦に参加したんだろ」
    「そうだけどさ、やっぱ自分のけじめっていうか……あいつは私の責任っていうか」
    「たきなはどうすんだ?」
    「ん?」
    「たきなは、抹殺しろって命令が出てる。お前が真島の相手してる間に、私や他の奴がたきな見つけたらどうすんだ。殺されるぞ」
    「…………」
    「お前のやりたいことってのは、真島と決着つけることか?」
    「そういうわけじゃ……」
    「真島は、私がやる」
    「フキ……でも……」
    「勝てねぇってか? 舐めんな。お前はあのアホふん縛ってでも連れてこい。そのドローンも、仕方ねぇから預かってやる」
    「フキ……」
    「ぜってぇ戻ってこい、二人でな」
    「……おう」

     ・・・・・

  • 25二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 18:50:59

     ドローンを飛ばして、しばし様子を見る。
     動作に問題はない。
     ただ……、

    「通信の回復はまだか?」
    「あらら、また相手さんのドローンが飛んでるね。あれが原因だ」
    「めんどくせぇ……」

     海外側のタンカーから、予備が控えてあったのだろう、追加のドローンが飛び立つのが見える。
     今度は上空ではなく、狙撃されない位置に隠れるように、向こうのタンカーの影へ。
     しかしその影響か、上空を飛んでいた時よりも、範囲が狭まっているようで、一部で通信が繋がった。

    「あれは私のチームだけでやっておくよ、数も少ないし、すぐ追いつく」
    「わかった、任せる」
    「落としたら増援と脱出挺も呼んでおくから」

     隠れたドローンは、カスミたちが海上から回り込んで狙撃するということで、狙撃手の数名を残して船内への突入準備を整える。
     千束は既に船内へ、たきなと真島も未だ健在。
     真島は、私がやる。

    「……任せろ」

     誰に頼まれたわけでもない返事を、虚空に向かって呟く。
     船内への扉を開き、薄暗い通路の先を確かめる。
     突入。

     ────ミッション、スタート。

  • 26二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 18:51:15

    一旦ここまで

  • 27二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 18:54:04

    フキかっけぇ

  • 28二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 18:57:58

    狙撃手対決見たいけどなぁ

  • 29二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 19:08:13

    スレ画えっちだね

  • 30二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 19:18:56

    戦力が一ヶ所に集まっていくのは終盤感ある

  • 31二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 23:06:16

    >>25

    21.邂逅


    「おわっ……またかよ……」


     アカネをぶちのめして船内の探索を始めたものの、至るところで電子ロックの鉄扉が邪魔をする。

     まずブリッジの上部が閉ざされていて登れなかったことが、船底に向かって誘導されている気がする。しかし動かないままでいるわけにもいかないし、とにかく探し回るしかない。

     明かりもまばらで薄暗い通路には、ワイヤートラップや、足場の天板が外された箇所もあり、さらにはガスボンベがいくつも積み込まれた部屋もあった。ありゃ絶対爆破トラップだ、真島だし。

     船内はあらゆる迎撃手段を用意してあるのか、かなりの荷物が積み込まれていて、実際の空間以上に狭く感じる。

     アカネの言うことではないが、これでは正面から攻撃を回避するのは難しい。何度かテロリストたちともかち合い、この狭さに思うように動けず、足踏みさせられもした。

     広いところにでれば少しはマシになるだろうが……。

     移動に手こずっていると、ヘッドセットからざざざとノイズが走る。


    『……ちら、チャーリ…………ヤートラップで、負傷……』

    『了か……各自、慎重に……』

    『……ルタ! 敵と……援護を……』


     通信が少し回復している。フキたちがやってくれたみたいだ。

     だがそれは同時に、船内にリコリスが突入してきているということ。

     未だにたきなを発見できていないのに、これでは先行して突入した意味がない。

     解除可能なトラップはいちいち解除していたためか、予想以上に時間がかかってしまっている。


    「ちくしょー、ロボ太め……どわぁ!?」


     区画を繋ぐ連絡通路に差し掛かった時、通路の根本が爆発して、足場が階下へと落ちていく。少しタイミングがずれていたら危なかった。

     侵入してきたリコリスたちも、こういったトラップや敵に苦戦しているのだろう。


    「クルミぃ……まだか?」


     ────通路に、明かりが灯った。

  • 32二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 23:06:38

     ・・・・・

    「な、ななな、なんだ!? 何が起こった!?」
    『やっと触れたか。久しぶりだな、ロボ太』

     無数のモニターが並んだタンカーの一室。 
     そこに備えられたスピーカーから、加工された無機質な音声が室内に響く。

    『そっちのドローンは全て落とした、もうお前のネットワークはないぞ』
    「うぉ、うぉ、ウォールナット!」

     海上へと飛ばしたドローンを、リコリスたちがウォーターバイクで追ってきていたのは確かめていた。
     その対策に、今度は撃ち落とされないようドローンのカメラを確認しながら操作に集中して、実際に狙撃を躱していたはずだったのに……。
     それなのに、赤服のリコリスが銃を構えた瞬間、回避行動をとる間もなくドローンが撃ち落とされ、それならとめちゃくちゃに飛ばして起動を読めないようにしたのに、今度はきっちり射線を合わせて的確に撃ち抜いてきた。
     そして最後のドローンが撃ち落とされた瞬間、室内のモニターが全てジャックされ、船の操作権限は完全に失われてしまった。
     思い出すのは一年前。
     延空木をジャックしたあの日の記憶……。

    「………………ボクは逃げる!」

     部屋を飛び出して脱出用のボートへ向かう。
     こちらのタンカーには脱出用に船の脇へモーターボートが取り付けられている。
     それに乗ってさっさと逃げてしまおう。
     分が悪くなってまで勝負を続けるほどボクはマヌケじゃない。
     甲板に飛び出し、ボートが取り付けられているクレーンまで走る。
     あった……と思ったのも束の間、クレーンが動き出し、ボートを海面へと降ろしていく。

  • 33二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 23:06:56

    「ま、待って! ボクも、ボクも乗るぅ!」

     迷っている暇はなかった、ジャンプして降下途中のボートに飛び乗る。
     かなりの高さだったが、ここで乗らなきゃDAの連中に殺される。
     着地に失敗してぐきりと足が妙な方向に曲がる。
     かなりの激痛だが、死ぬよりはマシだ。

    「うぎぎ……こ、これで助かった……」

     何とか這いずって、船内を確かめる。
     しかし、誰もいない。全くの無人。

    「お、おーい! 誰か、誰かいないのか!?」

     返事はない。
     操舵室まで入っても、やはり無人のボート。

    「よくわからないけど……自動操縦は……あった! これならボクにも動かせる……!」

     ひたすら痛む足をなんとか堪えて、船のコンピュータを操作する。
     しかし、画面は反応しない。

    「あれ……あれ、あれ!? な、なんで……なんで反応しないんだよ……!」

     それどころか勝手に行き先を指定し始めて、船は一人でに動き出す。

  • 34二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 23:07:17

    「ま、待て待て! どこ行くんだおい! 止まれよ! 止まれったら!」
    『ボクが行き先を設定しておいてやったぞ』
    「なっ……」

     船の無線から響く、やはり無機質な音声。
     自動操縦の行き先は、東京最寄りの港。

    『ちゃんと保護者も呼んでおいてやるから、足の怪我は安心しろ』
    「保護者って…………まさか…………!」



    「あ、もしもしポリスメン?」



    「またかよぉ! ウォールナットぉー!」

     叫びも虚しく、船は真っ直ぐに海原を走り続けた。

     ・・・・・

  • 35二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 23:07:35

    『エコースリー、接敵! 援護をお願い!』
    『チームジュリエット、区画制圧しました!』
    『こちらブラボーワン、敵殲滅、前進する』

     ドローンが全て破壊され、通信は完全に回復。
     クルミは船の操作権限を掌握し、通路に仕掛けられたトラップの正確な位置が示されたデータが各リコリスのスマホに送信される。
     機械で遠隔操作するタイプは起動しないので無視、ワイヤートラップなどの物理的に反応するトラップに注意を払い、場合によっては敵を誘い出して逆利用する。
     そうして各所から制圧報告があがり始める。
     しかし同時に急がなければ、私は相変わらずたきなを見つけられていない。
     個人用のスマホからクルミと直接連絡を取り、船内の監視カメラからたきなを探してもらうようお願いする。

    『見つけたぞ! そこから広い倉庫を挟んで逆側の階段だ!』
    「さんきゅークルミ様!」

     通路を渡り、だだっ広い空間に出る。
     天井は高く、いくつものコンテナが迷路のように配置されて、向かいまでは真っ直ぐに走っていけない。
     二階の足場からならコンテナの上を走って行けただろうが、生憎一つ下の階から出てきてしまった。
     ここにもトラップが仕掛けられていて、天井に爆弾や、壁に対人地雷のクレイモアなどが仕掛けられている。
     面倒なことこの上ないが、無視できないものは解除して進むしかない。
     コンテナの隙間に見えるワイヤーを飛び越えて、安全な位置から爆薬に銃弾を撃ち込み起爆させる。
     ちまちまやるよりこの方が早い。
     どこまで進んだか、天井を見て確かめれば丁度、この倉庫の中心ほど。
     ここはコンテナの迷路の中心でもあるのか、コンテナが配置されておらず、スペースが広く取られている。
     左右の壁には避難通路らしき通路が開いていて、そこにも電子ロック式の扉が設置されている。
     だが、今向かう先は正面。
     たきなはすぐそこにいる。
     逸る気持ちを懸命に堪えて、トラップの一つ一つに目を凝らす。
     スマホの画面を見て送られたデータを確かめる。次のコンテナの角にトラップはない。
     一秒でも早く、速く。
     真っ直ぐに加速して、曲がり角でかかとに力を入れ、急ブレーキをかけてドリフトする。

  • 36二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 23:07:48

    「よお!」
    「っ!?」

     ドリフトをかけた進行方向とは逆の脇腹に、強い衝撃。
     跳ね返るように元いた方向へと身体が吹き飛ばされて、床を転がる。
     全く予期していなかった衝撃に、口をついて息が何度も吐き出される。

    「げほっ……真島っ……!」
    「お前ならさっさと一人で乗り込んでくると思ってたけどなぁ。金色んのに案内されてりゃ、もっと早く俺に会えただろ?」
    「こっちはアンタになんか会いたくもないっての……」

     その角に立っていたのは、真島。
     小型の拳銃を顔の横に構えて、余裕綽々の態度でこちらを見下ろしている。

    「邪魔の多い決闘になっちまったな?」
    「決闘のつもりかよ、この殺人トラップまみれで」
    「スリルがあるだろ」

     真島の様子を窺いながら、ゆっくり起き上がって体勢を整える。
     そのまま睨み合い、動き出すタイミングを探り合う。
     迷う暇はない、先に動くか。
     指先にぴくりと力を込めた瞬間、真島が何かに気づいたように視線を逸らす。
     そして、迷路の先から聞こえてくる、走る足音。
     コンテナの壁の向こうから滑るようにして、銃を構えた人影が飛び出してくる。

  • 37二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 23:08:02

    「たきな!」
    「……!」
    「なんだ、来たのかよ『相棒』」

     ほぼ同時に、後方からコンテナを跳び移ってくるような硬質の足音。
     中央の広場に飛び込んでる小さな人影。

    「フキ!」
    「真島……たきな……!」
    「……千束、フキさん……」

     私とフキ、たきなと真島。
     中央のラインを挟んで、並び、睨む。

    「まあ、余興も必要だよな」

     頭を掻いて真島が嗤う。
     銃を握る手に、足に、全身に、力を込めて前を見据える。
     たきなを取り戻す、今、ここで。

  • 38二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 23:08:28

    一旦ここまで

  • 39二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 23:12:41

    ワクワク感がやべえ

  • 40二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 00:06:46

    敵の時でも天才の間に割り込む女

  • 41二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 06:39:35

    保守

  • 42二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 07:46:41

    安定のロボ太…

  • 43二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 11:21:21

    フキとかいう株が上がるだけの女

  • 44二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 18:01:42

    >>37

    22.仲間


     最初に動いたのは、真島。

     拳銃を前方に構えて、フキに向けて発砲する……はずだった。

     それよりも速く動いたのが、千束。

     微細な筋肉の動きすらも捉える異能とも呼べる目と、その動きに追いつく驚異的な反射神経、身体能力で真島の身体に銃弾を素早く撃ち込む。


    「がっ……」


     間髪を入れずに容赦なく全弾を頭、腕、足、と全身に叩き込む。この男には、それでも足りない。そのコート、服の下には、千束の扱う非殺傷性のゴム弾──プラスチック・フランジブル弾──では衝撃を伝えきれない、防弾チョッキが着込まれている。

     千束と真島が動いたと同時、お互いの背後に控えた、フキとたきなも弾けるようにして動き出す。

     たきなは真島を盾にするようにその背中へと身を隠し、フキの足元を目掛けて、撃つ。

     フキは姿勢を前傾に倒し、普通の人間であればそのまま地面に倒れ伏すほどの超低姿勢を取る。そのまま前方に倒れるよりも速く脚を前に出し、恐ろしいまでの勢いで脚を回し地を蹴って走り、千束の横から回り込んで真島とたきなの両方を常に視界に入れる。

     たきなの射撃は、狙撃を専門とするファーストのカスミですら感嘆の声を漏らす程。

     それが前線に立って動きまわりながら飛んでくる。たきなを自由にすれば、その射撃で刺されること請け合いだ。

     常にたきなを牽制し、的を絞らせない。同時に隙を見て真島の頭も狙う。

     フキの移動速度で正確な射撃は困難であり、千束を背後から撃たない位置から牽制の射撃をばら蒔く。

  • 45二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 18:01:59

    「ははっ!」

     真島はゴム弾を撃ち込まれながらも、怯んだのはほんの一瞬。ふらついた姿勢からあっという間に走行の姿勢へと身体を捻り、拳銃を再び構える。
     千束はそれに張りつくようにして平行方向に走り、真島の銃撃を最小限の動きで躱しながら、素早く弾倉を交換する。
     再び真島の動きを止めるため、走りながらその身体に向けて引鉄を引く。弾は真島を掠めて、その背後のコンテナに当たって砕ける。
     更に狙いを絞り、頭部に銃口を向けた瞬間、真島の身体が視界下へと消えた。床の上を滑るような水面蹴りが鋭く放たれ、千束はそれをすぐさま跳んで躱す。
     地上と空中、上下で睨み合う形。
     その僅かな制止を、フキとたきなの二人が見合う。フキが真島へ、たきなは千束の手元へ、銃口を向ける。
     発砲の刹那、視線でそれぞれの銃口を確かめた二人の天才が、またそれぞれ己に向けられた銃口へと引鉄を引く。フキとたきなの射撃は直前で妨害され、狙いは大きく外れて壁と床に火花を散らした。
     着地し、立ち上がり、体勢を戻して後方に飛び退いて仕切り直し。
     たきなはまた身を隠すように真島の後方へ、フキは射線を切らさないよう素早く回り込む。
     空間の中心を二人の天才で挟み、大きく円を描くように四人の影が目まぐるしく動く、激しい銃撃戦。止まることのない、一種の膠着状態。

    「いいねぇ!」
    「何がだよ!」

     言葉を発する余裕があるのは前の二人。その二人も、呼吸の合間に短い言葉を吐き出す程度。
     フキはチームの中でも先行して千束と合流した。
     あと数分もすれば、後からチームの仲間と他のリコリスたちもまとめて合流する。
     そうなれば数で優位に立つことで、この均衡を崩して真島を討つこともできるだろう。
     だが、たきなは。
     たきなを生かして捕らえることを考えているのは、今この場にいる千束とフキの二人だけ。このまま仲間の合流を待って真島を討つことは、同時にたきなが撃たれることにも繋がる。
     動かなければ、動かさなければ。

  • 46二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 18:02:12

    「スモーク!」

     フキは武装鞄から特殊グレネードの一つを取りだし中央に向かって転がす。
     グレネードは床を回転しながら、激しく煙を吹き出して視界を覆っていく。

    「はっ、正気かよ」

     真島の耳は千束の目と同様、異能とも言える性能を備えていることは、フキも事前に聞いて把握していた。それでもスモークを投げたのは、それ以上に視界を塞ぐことに意味があったからだ。
     視界が塞がれて、たきなの射撃が一時止む。フキは二つ目のグレネードを手に取り、ピンとレバーを飛ばして煙の中へと放り投げる。
     音でこの、物を投げる動きが真島に『視え』ていても、投げた物の正体までは、音では視えない。
     真島はグレネードから距離を取ったのか、床を蹴る音。
     千束はその目で放り込まれた物の正体を見て、既に耳を塞ぎ目を閉じている。
     直後に爆音と共に、眩い閃光が煙の中で炸裂する。

    「がっ……ぐぁっ……!」
    「っ……ぅ……」

     閃光手榴弾《スタングレネード》。
     凄まじい光と爆発音で、相手の視覚と聴覚を奪う非致死性の兵器で、突発的な目の眩みや難聴を引き起こさせる。
     今回は煙で光は完全な効力を発揮しないが、それで構わない。本命は、音。
     音の反響では物の輪郭しか捉えられない真島は、その爆音を至近で受けることになった。
     その音はジェットエンジンの間近に立つ以上の爆音。
     耳を塞いでも、至近では耳鳴りが止まないほど。だが、真島の異常聴覚ならば、耳を塞いでいても動きを止められるほどの威力。
     フキは目を開けて、煙の中へと走る。
     煙の中は殆ど視界が利かないが、およその位置はスモークを投げる前に把握している。
     目的は、真島の後方。壁際付近を立ち回っていた、たきな。

  • 47二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 18:02:28

    「うおおおお!」
    「うあっ!?」

     煙の中に見えた黒い影に、全力で殴りかかる。
     その手に確かな手応え。呻き声は、少女のもの。
     体勢を崩したのか、どたどたと尻餅をつくような音を耳鳴りの中で聞き取る。

    「千束!」

     煙が薄れ始め、耳鳴りの止まない耳で聞き取れるようにフキは声を張り上げて叫ぶ。
     それを受けて千束も煙の中へと飛び込み、耳を抑えてふらつく影に向けて滑り込む。
     下から腹部目掛けて蹴りを繰り出し脚で身体を持ち上げる。そのまま巴投げのような形で頭上に向けて投げ飛ばし、更にその浮いた身体へとゴム弾を撃ち込む。
     もう視界は数メートル先まで確かめられる。
     たきなが中央のスペースから左右にあった、避難通路の入り口を支えに立ち上がっているのが見えた。千束はそこへ向かって走る。

    「っ……お前はこっちだろ電波塔!」
    「てめぇはそこにいろ!」

     真島はまだ聴力が完全に回復せずも、歯を食い縛って立ち上がり、視界で確かめた千束の姿を追って走る。
     それをフキの銃弾が足元に火花を散らして、動きを止める。

    「クルミぃ!」

     千束の呼び掛けに応えるように、天井から爆音──この倉庫の天井には、爆弾が仕掛けられている──が轟き、鉄骨や金属の破片が雨となって降り注ぐ。

  • 48二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 18:02:40

    「……!」

     真島が横に飛び退いて転がる。フキは金属片から身を守り、千束はたきなを抱くように体当たりする。避難通路の奥へと絡まるようにして転がりこむ二人。
     電子ロックの鉄扉が、勢いよく閉じて完全に二人を倉庫から遮断する。
     たきなは被さる千束を蹴り飛ばし、転がるように船底へ続く階段へと退避していく。

    「たきな! 待って!」
    「いけ! 千束!」

     隔たれた鉄扉を挟んでフキが千束を押す。
     階段を蹴る足音を背に倉庫に残ったフキの姿を、耳の調子を整えながら立ち上がる真島の瞳が、ゆっくりと動いて捉える。
     この倉庫に残ったのは、二人。

    「……なんだ、ハズレが残るかよ」
    「ああ、お前にとっちゃハズレだ。千束みたいにぼんぼん弾むゴムは使ってやらねぇからな」

     真島の顔は、興味を失くしたように退屈の色に染まる。
     お互い、相手との距離を保つように、中央に崩れ落ちた天井の残骸を挟んで、時計のように回り、様子を窺う。
     共に残弾の無くなった銃へ、弾倉と薬莢をゆっくり装填しながら、その合間を埋めるように口を動かす。

  • 49二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 18:02:55

    「たきなに何をした?」
    「なんだそりゃ」
    「あいつは超がつくほどバカ真面目に悪党撃ち殺すリコリスだ。バカすぎて命令も聞かねぇぐらいにな」
    「へぇ、それが今じゃ立派なテロリストか? お前らリコリスが社会のバランスを崩すから、テロリストのリコリスもいた方が、世の中バランスが取れていいこった」
    「たきなの意思じゃねぇ、お前に無理矢理やらされたのはわかってんだ……ウチのバカになに吹き込みやがった、真島ァ!」
    「何も吹き込んじゃいやしねぇさ、目の前に欲しがってた餌ぶら下げてやったら、物欲しそうに着いてきただけでな」
    「それが……千束の側に置いてあった……!」
    「あいつはもう戻れない、民間人も、リコリスも手にかけた。この国のバランスを取り戻すための、こっちの人間だ、俺のもんだ」
    「……言葉は慎重に選べよ真島」

     フキの手に、足に、全身に力が込められる。その脚に、再び走るための力が溜められていく。血液が巡り、額に青筋が浮かぶほど、強く怒りが彼女の感情を支配する。

    「たきなは、DAのリコリスだ!」
    「ありゃ最高に面白い玩具《ペット》だぜ」

     その脚に溜めた力が、構えた銃の火薬が、感情が、全てが──同時に弾けた。

    「ぶっ殺す!」

  • 50二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 18:03:14

    一旦ここまで

  • 51二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 18:12:49

    フキファンになりそう

  • 52二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 18:18:19

    たきなの正義感の強さだと今更よっぽどなことしないと戻って来なそう
    拉致監禁でもしない限り

  • 53二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 18:22:39

    フキがちょいちょい千束と同じ地の文や台詞使ってるのいいね

  • 54二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 18:53:17

    やっぱ真島はこういう殺伐とした距離感なのがいいキャラだ
    その中でふと見せる人間らしい距離感があるのがいい

  • 55二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 19:52:21

    これはもはやフキSS

  • 56二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 20:36:07

    >>52

    ヤンデレ千束か

    アリだな

  • 57二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 20:37:29

    フキさん惚れちゃうーー

  • 58二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 21:18:41

    やっぱ何やかんやいっても、フキもたきなの事信じてたんだね
    人工心臓の事も察してるようだし

  • 59二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 21:20:04

    >>58

    一年後だからね…

  • 60二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 22:41:21

    劇場版リコリス・リコイル製作委員会はここですか?

  • 61二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 23:55:24

    >>49

    23.相対


    「いっ……てぇ……」


     たきなを抱えて通路に思いきり飛び込んだのはいいものの、勢い余って転がった拍子に後頭部を床にぶつけた。たきなの頭には手を回して守ったが、自分の頭まで守る余裕はなかったのだ。

     おまけに通信用の無線機も外れて階下に落ちた。がしゃんという音的に多分、壊れているだろう。

     背後にある電子ロックの鉄扉は完全に閉じて、もう倉庫のフキとは合流できない。

     これで真島のことは、フキたちに任せる他はない。


    「……っ!」

    「うぐぇ!」


     打った後頭部をさすっていると、横っ腹に鈍い衝撃が走る。私の下に押し倒されていた、たきなの膝蹴りがモロに突き刺さったのだ。

     再び床に転がって、脇腹を押さえる。お前ら揃って人の脇腹ばっかり狙いやがって……。

     うずくまっている横で、カンカンと金属を踏み鳴らす音が下へと遠ざかっていく。


    「たきな! 待って!」


     やっと捕まえたと思ったのに、二人になったのに。ここで逃げられるわけにはいかない。


    「いけ! 千束!」


     鉄扉の向こうからフキの叫ぶ声が聞こえる。

     そうだ、膝をついて痛がっている場合じゃない。立ち上がり、たきなを追って船底へ向かう。

     手すりを飛び越えながら下へ。

     足音は既に一人分、たきなの音は聞こえない。

  • 62二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 23:55:41

    「たきなー!」

     身を乗り出して階下に呼び掛ける。
     コトン、小さく金属質の音が鳴る。
     振り返ると、下から放り投げられたらしき『それ』が床に跳ねて……。

    「うわっ……」

     気づいた時には防ぐ暇はなく、その瞬間には眩い光が目蓋を貫いて視界が真っ白に染まり、耳がキィンと高音に包まれる。
     閃光手榴弾、やり返された。
     タイミングも、防がれないようこっちに届く丁度で爆発するように調整して。いつか見せた私のやり方を覚えて身につけたのだろう。やってくれる。
     足音が聞こえなかったのは、このタイミングを計っていたからか、また足音が下へと向かう。
     酷い眩暈と耳鳴りで、手すりに掴まって立っているのがやっとの状態。目の前は眩んでほとんど見えず、音も全然聞こえない。
     それでも、足は止めない。
     現状で生きている感覚だけを頼りに、手すりを伝って船底へ向かう。
     絶対逃がすもんか、どれだけ私がたきなに「会いたい」と思い続けてきたのか。

    「たきな……」

     少しずつ感覚を取り戻しながら、前へ前へ、下へ下へ。
     どれだけ私が、衝撃を受けたか。

    「ふざけんなよ……」

     最下層へ辿り着く。
     エンジンルーム、船の動力炉。
     どれだけ、私が、

    「…………」
    「……見つけた」

  • 63二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 23:55:54

     ごぅんごぅんと大きな音が唸る、巨大なタンクの並ぶ空間へと足を踏み入れる。
     そこに立っているのは、見慣れない黒衣に身を包んだ、見慣れた後ろ髪。
     長く艶めく、流れるような美しい黒髪。
     振り向いて、その顔がこちらを向く。暗い顔が、黒い銃口と共に。
     髪が音と共に舞い上がり、バキンと金属の弾ける音が背後から響く。
     顔の横を、銃弾が横切った。

    「……ご挨拶だね、たきな」
    「…………」
    「そんな趣味の悪い服着ちゃってさ」
    「…………」

     まるで死んだような無表情で、暗く濁った瞳が私を真っ直ぐに捉える。

    「たきな……何があったの、教えて」
    「…………」
    「この心臓のことも、この一年のことも」
    「…………」

     たきなは、人形のように固まって動かない。
     その表情からは、何も見えない。
     かつて見た、どのたきなよりも、深く澱んだたきなの顔。

  • 64二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 23:56:06

    「じゃあ、何も言わなくていい」
    「…………」
    「帰ろう? たきな」
    「…………もう……」
    「うん」
    「わたしの居場所は、どこにもない……!」
    「そっか」

     ようやく、その表情が動く。
     しわくちゃに、辛そうに。噛みしめて、苦しそうに。今にも、壊れそうに。
     ほんと、なんて顔だよ。

     ────船内に、今までにない爆音が、轟く。
     ────エンジンが吹き飛び、爆風に髪が靡く。

     ……真島の奴、また爆弾かよ。
     フキは、きっと大丈夫。
     頭の中で、スイッチを切り替える。

    「とりあえず」

     相棒の私に黙って消えた、一人で何かを、何もかもを背負ったこの大バカを。

    「帰ってから、話そうか」

     わからせてやる。

  • 65二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 23:56:35

    一旦ここまで

  • 66二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 23:58:57

    クライマックスももう近いな…

  • 67二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 00:19:57

    劇場版で船なら爆発しない理由はない

  • 68二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 07:02:31

    会いたいと相対にかかってるのね

  • 69二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 09:10:48

    大バカではあるけど何もかも千束の命のためなんだよな 辛い

  • 70二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 09:30:38

    >>69

    千束の命最優先なら他に手段が無かったので…

  • 71二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 09:46:18

    >>64

    24.限界


     頭の中で煮えたぎる怒りに震える自分と、それを俯瞰して眺める冷静な自分。

     二つの感情を並べてコントロールし、怒りを原動力に身体を動かしながら、目の前の状況を冷静に分析して判断する。

     真島と一対一、その状況で仕掛けはしたが、立ち話での時間稼ぎは充分だった。

     走り出し、天井の残骸に身を隠して、撃ち合ってから数秒の後、階上から無数の足音が響く。


    「目標を発見! ブラボーワンと交戦中、援護します!」

    「正面に敵複数! 注意しろ!」


     リコリスたちが倉庫に踏み込んでくると同時に、逆側からも真島の手下たちが踏み込んでくる。

     まだそれだけの戦力が残っていやがったのかと、内心で毒づく。

     頭上を無数の弾丸が嵐のように飛び交い、撃ち抜かれた死体が倉庫の下へと落ちて転がる。

     さすがの真島も、この弾丸の雨の中では下手に動けず、天井の残骸を挟んで背中合わせに固まる形となった。

     このまま上の決着がつくまで固まって待っていられるはずもない。

     案の定、動きはすぐに訪れた。

     残骸から回り込んで真島が発砲してくる。それは読んでいた、私は既にその場を離れて、コンテナの迷路部分まで後退している。

     真島はそのまま、こちら側のコンテナを背にしてリコリスたちの射線を切り、再びお互いに出方を窺う。

     スピードに自信はあるが、飛び交う弾を避けながら走れるほどの力が無いのは自分が一番よくわかっている。

     隙を見て階上のテロリストたちへの射撃をしながら、真島からも目を離さずに威嚇射撃で牽制する。


    「っ! 下がれ!」


     階上を見ると、テロリストの一人が持った火器が目に入った。

     構えているのは、擲弾発射器《グレネードランチャー》。

     既に発射体制に入っていて止められない。

     ボッ、と榴弾を勢いよく吐き出す音。微かに間を置いて、爆音が倉庫内に響き渡り、焼け焦げた倉庫の壁と、その周囲に複数のリコリスたちの身体が転がっているのが目に映る。

  • 72二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 09:46:36

    「ち、くしょ……!」

     形勢は一気に不利へ傾く。
     物陰に身を潜めていた真島も、中央のスペースからより安全な物陰まで、不快な笑い声と余裕の動きを見せて距離を取る。
     向こうの備えている装備は、海外から流入してきた戦地でも扱われる面制圧の兵器。こちらとは火力が違う。
     一度防戦に回ればジリ貧になる。なんとか突破口を見いださなければならない。
     しかしその前に、次弾が込められたランチャーの銃口はこちらへと向けられる。
     マズイ……。
     鋭い銃声が一発響き、ランチャーを手にしたテロリストの頭が、構えられたランチャーもろとも弾け飛ぶ。
     二発、三発。
     銃声一発と共に、一人散る。

    「おせーぞカスミ!」
    「すまんねぇ、援護するよ!」

     狙撃チームが追いつき、一斉に射撃を見舞う。
     天井の爆破で空いた穴からも、甲板で待機していた数名の掩護射撃が届く。そこには、片手で狙いを定めるサクラの姿も。

    「じっとしてろって言ったろうが……」

  • 73二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 09:46:52

     コンテナの影から飛び出し、階上へ向けて狙いを定める。
     一人二人、三人。
     動かなければ、大したことの相手。
     物陰から真島がこちらへ銃口を向け、すぐさま物陰へ回避する。
     狙撃銃の鋭い音が再び倉庫内に鳴り響き、カスミは『一射一殺』と評されたファースト・リコリスの面目躍如と言わんばかりに、次々にテロリストたちを屠っていく。
     形勢は再び傾き、今度はこちらが優位。
     テロリストたちはあっという間に血の海に沈んでいき、真島を残すのみとなる。
     それでも、油断はできない。真島は『あの』千束とも渡り合ったという男だ。
     どんな手を使って……、
     真島が隠れたコンテナの影から、勢いよく小さな影が飛び出してくる。
     それは高く放物線を描いて、階上の方へ。
     グレネード、カスミなら空中でも撃ち抜け……いや、違う。
     ────対人地雷《クレイモア》。
     コンテナの迷路に仕掛けられていたもの。

    「撃つなカスミ!」

     時既に遅く、銃声が鳴り響き、爆音。
     撃ち抜かれた地雷は空中で爆散し、中に仕掛けられた無数の小さな鉄球が、指向性を失って無差別に散乱する。

    「きゃ」
    「わっ……」

     複数の悲鳴があがり、狙撃チームの銃声が止む。
     飛び散った鉄球は通常よりも広範囲に散らばった分、密度が薄まって殺傷力は低下したが、狙撃手たちを負傷させるには充分な威力。
     階上の足場で、腕から血を流して倒れる赤い制服。

  • 74二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 09:47:11

    「真島っ……!」

     これ以上の様子見は、不可能だ。援護の手も止まった。
     一対一。振り出し。
     コンテナから飛び出して、距離を詰める。
     同時に、真島も陰から姿を表して、こちらへ銃口を向ける。
     横に躱して射線を切り、素早く切り返してジグザグに走りながら、真島めがけ引鉄を引く。
     向こうも素早い動きで、射線を切って弾丸を躱す。ならば逃がさない。もっと低姿勢に、的を小さく、速く。
     懐に飛び込み、至近からその頭に鉛をぶちこんでやる。
     大人の目線からは死角になるその位置へ。体の横へ潜り込むように、走り、刺すようにして銃口を突きつける。
     終わりだ。

    「なっ……」

     銃身が強く握られて、逸らされている。
     引鉄とグリップの間に指を入れられ、撃つこともできない。
     真島はこちらを見ないまま、器用に腕だけ捻って私を捕まえたのだ。

    「お前はすばしっこいだけだな、ちいせぇの」

  • 75二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 09:47:29

     腹部に一撃、膝が入る。ごきん、と顔面に強い衝撃を浴びて、体が後ろに吹き飛ぶ。
     真島に握られたままの銃を離してしまう。
     背中が床に打ちつけられる感触。死ぬ。転がっている暇はない。
     瞬間的に受け身を取って、吐き出された息も吸い直さないまま、その場を蹴って離脱する。
     今しがた倒れたその場所に、二発の火花が散って咲く。
     呼吸も止めて、残りわずかな酸素で止まることなく走る。
     背後に次々火花が散る。
     真島の手元には、自前の拳銃とは別に、私から奪った銃がある。
     まだ残弾は四発入ってる。止まれば、死ぬ。

    「ひゅっ……」
    「やっぱお前じゃ電波塔みてぇに、俺とはバランスが取れねぇな」

     真島が弾の切れた拳銃を捨て、銃を持ち変える。
     一発……二発目は、撃たれない。
     ゆっくり狙いをつけられて、二発目がこちらへ向く。
     もう酸素が切れる。足がもつれそうになり、体勢を維持できない。
     やられる……。

  • 76二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 09:47:43

    「うぉっ!?」

     真島の目の前を、目では捉えられない何かが横切り、その先のコンテナに風穴を空ける。
     真島が仰け反り、体勢を僅かに崩す。
     一発の銃声、狙撃音。
     倒れたカスミが、片腕で一発だけ。
     ここだ……この一瞬、一息だけ、小さく息を吸い込む。この一息保てばいい。
     鞄からナイフを取って、正面に走る。
     全霊で地を蹴って、今までよりも更に速く。

    「ちぃっ!」

     体勢を崩したまま、真島の銃口が正確にこちらを捉える。真っ正面。頭。
     止まらない、止まるわけにはいかない。もう二発目の援護はこない。
     全ての意識を一ヶ所に集中させて、前だけを見据える。
     勝ちを確信した真島が嗤う。
     引鉄にかかった指が動いて、
     銃口が、光る。

     ────飛び散る私の鮮血が、見えた気がした。









    

  • 77二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 09:48:00

    「………っ!?」

     それは、真島の鮮血。
     その右腕に深々と突き刺さる、ナイフの刺し傷から。
     左耳の感覚がない。顔の左半分が焼けたように熱い。
     銃撃の刹那、世界がスローモーションになって見えた。真島の指が動いた瞬間、頭を横に傾けて、走りつづけた。
     銃弾は左耳を肉ごと抉り、私の後方へ。
     完全に予想外だったのだろう、真島は今までの余裕を完全に崩し、驚きの色をその顔に浮かべる。
     突き刺したナイフから手を離し、開きかかった真島の手から銃を奪い返す。

    「くたばりやがれ!」

     真島の反撃を受けぬよう、後方に飛び退き二発。
     不安定な体勢で、どちらも狙いは大きく逸れる。
     左の二の腕と、右のふくらはぎ。
     腕は完全に捉えたが、足は掠める程度。
     弾切れ、リロードを挟まなければならない。
     ひゅうと息が切れ指先が震える。上手く替えの弾倉を取り出せない。

    「待ち、やがれ……真島……!」
    「く、そっ……!」

     真島が、逃げる。
     よろめきながら、コートの中に手を入れて何かを取り出すのが見える。
     一見すると胴長のグレネードに見えるそれは……何かの、スイッチ。
     咄嗟に全体無線を入れて、叫ぶ。

    「全員、防御!」

     真島の指がスイッチに触れると同時────船が、揺れた。

  • 78二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 09:48:22

    一旦ここまで

  • 79二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 09:52:15

    フキが弾避けしてる…やはりちさフキ

  • 80二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 11:47:20

    ライバルの技を使うのいいよね…

  • 81二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 16:16:17

    保守

  • 82二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 18:33:44

    保守

  • 83二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 18:34:36

    >>77

    25.愛憎


     その銃口は、私の身体を射線に捉えない。

     それだけでたきなが、たきなだと確信できる。


    「のわっ、と」


     足元に投げつけられた小瓶が砕けて、ばちばちと火花を上げる。

     その中身は、少量の火薬。たきなは散った粉塵を銃撃で発火させる。


    「……舐めてんの?」


     爆竹のような、まるで子供騙しの火遊び。

     こんなもので足止めができるとは、思われてないだろうな。

     体を狙ってこないのは結構なことだが、こちらは非殺傷性のゴム弾だ。当たってもメチャクチャに痛いだけなのだから、遠慮なく当てさせてもらう。


    「うわっ!」


     たきなが逆の手に構えた、銃身の平たい銃。捕縛用の拘束銃から発射されたロープが、すんでで伏せた頭上を掠めて飛んでいく。隠し持ってたのか、或いはここに至る逃走中に装備を補充したのか。

     たきなは更に、銃のトリガーガードを小指にかけて持ちながら、ジャケットの内側から器用に投擲物を取り出して投げつけてくる。

     小型に改造され効力はかなり落ちているが、発煙、焼夷手榴弾。発火性の薬品が入った小瓶に、クラスター状に拡がり弾ける閃光弾。

     次から次へ、四次元ポケットのごとく面白兵器を取り出してくる。

     だがそのどれも、動きを阻害するだけで、私の足を止めるまでには至らない程度。

     拘束銃で捕まえるための牽制なのだろうが、今さらこの程度で私に勝てると思われているのなら、全くもって舐められたものだ。私の実力を、よく知っているはずのたきなが。

     小手先の小細工にいい加減、苛立ってくる。

  • 84二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 18:34:54

    「ふざけてんなら……」

     銃を構え、撒かれた発煙手榴弾の煙を避けて、たきなを視界に入れた瞬間、目が合う。拘束銃ではない方の銃口が、完全にこちらを向いて、

    「いぃっっっ、っづぅ……!」

     予想外のことに身体が一瞬硬直し、判断が遅れた。
     その一瞬で、右肩に激痛が走る。
     私の扱うものとはまた別の、非殺傷弾。弾頭が弾けることなく突き刺さるように皮膚にめり込み、跳ね返る。
     こんなものまで用意してあったのか、本当にいつからこんな、ネコ型ロボットみたいな戦い方をするようになったんだ。
     足元を狙う拘束銃を、痛みに呻く身体をむりやり跳ばして、ぎりぎり避ける。

    「しつこいですね!」
    「めんどくさい!」
    「どっちが!」
    「たきなが!」

     お互いに反射的な言葉の応酬。
     たきなの取り出す武器も無制限ではないが、船の各所で起こっている爆発の音がこのエンジンルームまで響いてくる。
     なによりこの場所も、既に火の手が回り安全ではない。
     いつまでもこのまま、もたもた手こずっているわけにはいかない。
     たきなが頭上に物を投擲する。浮かび上がったのは、またクラスター状の閃光弾。
     ばちばちと激しい明滅が視界を眩ませて、私の動きを鈍らせる。
     それと同時に大きな爆音も轟く。
     エンジンの一つが巨大な火を吹いて、私とたきなの間を遮るように黒煙をあげる。

  • 85二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 18:35:08

    「千束……!」

     黒煙の先から聞こえてくるたきなの声。
     私は、迷わず煙の中へと、片目を閉じて身を投じる。
     視界はほぼ無し、だがそれの位置は把握している。煙の中にある、腰ほどの高さの機械を見つけて踏み台に、高く前方へと飛び上がる。眼前に銃を傾けて両手で構えるC.A.R.──センター・アクシズ・リロック──の形をとり、目に染みる煙を抜け、開ける目を入れ換える。
     いつもならば両目で狙いをつけるのが私のやり方だが、黒煙を抜けるのに片目を使った。故にC.A.R.システム本来の、片目で狙いをつける方法を使う。
     この煙を、この高さから抜けてくることは想定外だったのか、たきなはこちらを見上げて驚きの表情で硬直する。
     片目で狙いをつけ、その身体へ……たきなへと向けて連続で引鉄を引く。
     胴体と、拘束銃を握る左腕。体勢が崩れたところに、さらに足と胸に銃弾を叩き込み、たきなは完全にバランスを失う。
     そのまま空中蹴りで右手から銃を蹴り飛ばし、着地と同時に空の弾倉を捨てて、コンペンセイターに取りつけられたスパイクで腹部に一撃。たきなの体が『く』の字に折れ曲がったところでリロードを終え、体当たりして再び押し倒す形で、たきなの上に四つん這いにのし掛かる。

    「捕まえたっ……!」
    「ぅ……ぐ……」

     たきなが痛みで動けない隙に、両手首を片手で掴み、胸元にスパイクを押し当てて動きを止める。

    「もういい加減にして、たきな」
    「っ……!」

     振りほどこうと踠くたきなの手首を、これでもかと力を込めて押さえつける。
     それで力では敵わないと悟ったのか、悔しそうに顔を歪めながらも、たきなは大人しくなった。

    「……ねぇ、教えて……」
    「…………」
    「どうして、黙っていなくなったの……」

  • 86二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 18:35:26

     帰ってから話そう、そう言ったのに。
     やはり、この想いだけは堪えきれない。

    「私の心臓は、たきなが……真島が持ってきたんでしょ……? たきながいなくなって、真島と一緒にいて……先生もミズキもクルミも、皆そうなんじゃないかって……」
    「…………」
    「あいつに、交換条件とか不利な取引とか、させられたんだよね……私が不甲斐なかったから……私のために……」
    「…………」
    「でも、だったら……どうして……」

     たきなと見つめあい、問いかける。

    「どうして、その後に頼ってくれなかったの……」

     逃げ出すことだって、できたはずだ。
     できなくとも、隠れて私やクルミと連絡を取ることだって、助けを求めることだってできたはずだ。
     なのにどうして、一年もずっと、言いなりになんてなり続けたんだ。

    「なんで一人で……信じてくれなかったの……私たち、相棒だろ……」
    「…………」

     悔しくて、悔しくて、目の前が滲んで、涙が溢れそうになるのを必死に堪える。
     腕に込める力も、銃を握る力も、抜けていく。
     どうして、信じてくれなかったの。

  • 87二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 18:35:49

    「………………相棒?」
    「……えっ?」
    「……信じてくれなかったのは……千束だ」
    「……え」
    「わたしのことも、心臓のことも……!」
    「た、」
    「余命のことだって! 真島との戦いだって! 何も、何も教えてくれないで! 全部全部、一人で選んだくせに、何が相棒だ!」

     違う、私は。

    「っ……」

     言葉が、出ない。
     私はそんな、そんなつもり、

    「馬鹿に……」
    「ぐっ……!?」

     鳩尾に、体が浮くほど強く刺さる、鋭い膝の感触。
     げぇっと品の無い音が口から漏れ、全身の力が抜ける。
     手元から離れた銃が奪われ、腹部にぐり……と当てられる。

    「馬鹿にするなぁぁあ!」

     どん、どん、どん、どん、どん、どん、と容赦無く腹部に叩き込まれる衝撃が、一発ごとに私の意識を飛ばしていく。

  • 88二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 18:36:01

    「わかるか!? 千束に、わたしがどれだけ!」
    「がっ…………だ、ぎ…………」

     浮いた体を押し退けられ、床に転がる。どちらが上下で左右なのかも掴めない。

    「あの男が……! わたしがどれだけ手を伸ばしても、叫んでも届かなかった、千束の……!」

     ごひゅっと鳴る空気と共に、胃液が口の中から撒き散らされる。

    「あいつが……あっさりと届かせて……あの、惨めさが……! わかる、もんか……」
    「………………ぁ」
    「千束、に…………違っ……ちがう…………ちさと、ちさとは……ごめ……」

     視界が、白くちらつく。耳に水が入ったように、音が籠って聞こえる。

    「……ちさ、ちさと、は……も、なやん…………わかって…………でも……」

     たきな……。

     そんなに、つらそうな顔、しないで。

    「………………」
    「…………き、……な」

     銃口が、私に、向けられる。

     だめ、たきな。

     だめ

  • 89二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 18:36:14

    「……さよなら……」

     二度目の別れの言葉。
     私の意識は、
     そこで途切れた────

  • 90二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 18:36:31

    一旦ここまで

  • 91二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 18:44:59

    たきなの気持ちを考えても千束の気持ちを考えても辛い…

  • 92二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 18:54:26

    やっぱりミカじゃないと…

  • 93二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 19:40:29

    辛いねえ
    やっぱり心臓関連をたきなにやらせるのは残酷な結果になっちゃうな
    そもそもの始まりを作った大人であるシンミカで解決した本編がベストなんだろな

  • 94二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 20:58:55

    真島も残りここからどう着地するのか…

  • 95二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 21:06:03

    もうバッドエンドしか見えねぇや…
    辛ぇよ……

  • 96二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 21:14:21

    一年間のブランク(真島と居た時間のほうが長い)
    既にキルスコア重ねまくってる
    DAの正式な始末対象
    秘密裏に連れ戻しても罪悪感で自壊しかねない
    何よりたきなが千束を拒絶している


    ……どうすんだコレ

  • 97二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 21:17:11

    本編たきなも起こってる出来事的にはこんな精神状態になってもおかしくないんだよね…

  • 98二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 22:00:55

    やっぱりミカはすげえよ…

  • 99二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 22:10:57

    >>89

    0.夢間


     子供が泣いている。

     一人でうずくまったまま。


    「どうしたー? なに泣いてんのー」


     その子に近づいて、そっと頭を撫でる。

     触れれば壊れてしまいそうなほど、透明な硝子のように儚げな子。

     私に抱きついて、わんわんと泣きじゃくる。


    「大丈夫、もう泣かないで」


     壊れてしまわないように、優しく抱き締める。

     それで安心したのか、その子は泣き止んで、次第にうとうとと眠ってしまった。

     とても愛らしい黒い髪の少女。

     妹みたいに、可愛くて。

     家族みたいに大切で。

     私の、最高の……、

  • 100二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 22:11:13

     ふと顔を上げると、こちらを見つめる人影が立っている。
     何故だろう、その姿は靄がかかったように朧気で、はっきりと確かめることができない。
     でも、不思議とその人が知っている人なのだと、直感的に感じる。
     その人影は、こちらへと手を伸ばす。
     私も立ち上がって手を伸ばし、その手に触れようとする。
     だけど、二人の間には見えない壁があって、その手が触れあうことはなかった。
     何か言っているようだけど、その声はこちらに届かない。
     人影は諦めたように俯いて、腕を下ろす。
     その顔は、やっぱり靄がかかったままで、見えないのだけど。
     ──キミの悲しむ顔が、くっきりと想像できてしまう。
     だってキミのことは、よく知ってるから。
     ごめんね。
     待ってて。
     独りになんて、させないから。
     キミの代わりなんて、いないから。
     やっぱり、キミじゃなきゃダメだから。
     たきな

  • 101二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 22:11:30

    26.愛惜

    「……さと……千束!」

     名前を呼ばれる声に目を覚ます。
     見回すと、明かりの消えた薄暗い通路に横たわっている自分に気がついた。

    「……おー、フキ……」
    「なに寝ぼけてんだ! たきなはどうした!?」
    「たきな……? ……たきな!?」

     跳ね起きて、がつんと凄まじい音が頭の中で響く。
     ぶつかった反動でフキは大きく仰け反り、私は再び床に寝転がる。

    「っ~……! なにしやんだこのアホ!」
    「ぃっ~……んなとこにいんのが悪いんだろぉ!」

     起きて早々、騒々しい女にアホ呼ばわりされるこっちの身にもなってほしい。
     頭がぐわんぐわん揺れて気持ち悪い……いや、気持ち悪いのは、頭をぶつけただけが原因じゃない。お腹がずきずきと締めつけられるように痛い。

    「うっ……くぅっ~……」

     たきなのやつ、遠慮無くばかすか撃ちやがって……たきなのゴム弾で撃たれた右肩の痛みもまだ引いてない……。
     たきな……そうだ、たきな。
     たきなは、どこにいったんだ。私は、エンジンルームでたきなと戦って……。

    「フキ! たきなは……なにその傷!?」
    「あぁ? あぁ……掠り傷だこんなもん」
    「嘘つけ! 包帯めっちゃ血だらけじゃん!」

  • 102二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 22:11:44

     現状の確認をするためにフキに向き直ると、まずフキが確認しなければならない状態になっていることに気がついた。
     頭に巻かれた包帯は顔の横が真っ赤に染まり、ガーゼとテーピングがベッタベタに貼りつけられている。

    「止血剤も応急処置も済んでるし、血が出てるだけで大したもんじゃねぇ」
    「大したもんだよ! 真島か!? ……そうだ真島! 真島はどうなったの!? やった!?」
    「うるっせぇ、忙しいやつだな……一つずつ確認するから待ってろ」

     そんなこと言われたって、わからないことが多すぎる……。
     船が爆破されたのは、今も遠くからたまに爆音が響いてくるのと、火災らしき明かりが遠くに見えているので間違いないと確認できるが。
     この周囲はまだ火の手が回っていないようで、炎の明かりに包まれておらず薄暗いまま。

    「まず一つ、真島は……取り逃した。手傷は負わせたが、これはこっちのミスだ。傷は死ぬほどじゃねぇ、こっちも、真島も」
    「そっか……でも、フキが生きててよかった」
    「次に、千束の持ってる発信器の情報を追ってきたら、ここにお前が寝てた。一人でな」
    「ん……? おぉ?」

     フキが自身の襟元を指差して、確かめてみろとジェスチャーをする。
     手で触ってみると確かに、捕獲対象に取りつける用の発信器が、私につけられていた。
     これは……たきなが、私に……?

    「……たきなは、逃げられた」
    「そっちもか……作戦は失敗だな」
    「……失敗?」
    「撤退命令だ、真島との交戦と船の爆発で、部隊のほとんどが戦闘不能になった。今は上で脱出用のボートに怪我人を運んでる」
    「そんな、たきなはまだ……! 私は残る!」
    「撤退だ、お前の装備も全部失くなってる」
    「……うえぇ!?」

     本当だ。銃も鞄も、太もものホルスターに差した予備の弾倉も、全部、失くなっている。
     嘘でしょ……たきなに持ってかれたのか……。

  • 103二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 22:12:03

    「それじゃ残っても戦えない、タンカーもじきに沈む」
    「くそ……」
    「たきなも生きてんなら、またチャンスはくる。今は、一度退いて次に備えるべきだ」
    「…………」

     ダメだ。
     それじゃダメだ。
     今ここで諦めたら、絶対、ダメなんだ。
     ────さよなら。
     嫌な予感がする……ここでたきなを諦めたら、もう二度とたきなに会えない、そんな予感が。

    「私は……やっぱり残る」
    「はぁ!? なに言ってやがる! たきなにのされて寝てたくせに、武器も無しにどうすんだ!」
    「それは……」

     現実問題、たきなも真島も健在で、そのどちらも徒手空拳でなんとかなるような相手かと聞かれれば、そんなことは全くなくて。
     なにかささやかでも武器になるものが残ってないかと、家の鍵を探すようにして全身をまさぐる。
     ちゃり。
     ポケットの中で、小さく固い物に、指が触れる。
     取り出してみるとそれは、

  • 104二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 22:12:16

    「…………」

     しわしわに潰れた顔をした、犬のストラップ。
     私の鞄に、ついていた、たきなから貰ったもの。

    「それ……延空木ん時のか」
    「…………」

     たきなが、一つだけ残してくれたもの。
     ある。
     武器なら、ある。

    「フキ、頼みがある」
    「……んだよ」

     何故か、どこか知らない壁の向こうで、悲しそうな顔を浮かべるたきなが思い浮かぶ。
     私は、たきなのそんな顔、見たくない。
     笑ってほしい、笑っていてほしい。

    「銃と弾、貸して」

     必ず、助ける。

  • 105二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 22:12:29

    一旦ここまで

  • 106二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 22:55:42

    緩急のつき方がリコリコ

  • 107二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 23:28:04

    たきなのメンタルはもうグッチャグッチャじゃん
    本当にどうすんのこれ?

  • 108二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 23:33:04

    乙です

    めちゃくちゃ気になるところで終わる…!!

  • 109二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 23:49:56

    イッヌのストラップはここでか…

  • 110二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 06:41:13

    >>104

    27.哀憫


     幾度となく船内に響く爆音。

     鉄製の階段を上へと踏みしめながら、日の光が差し込む先へと足を運ぶ。

     衝撃でひしゃげた扉を蹴破り、甲板に出ればそこは数時間前の光景とは全く違う、原型の無いほどに荒れ果てた荒野が広がっている。

     積み上げられたコンテナはぼこぼこに凹み、崩れて散らばり、海に落ち。平らだったデッキはひび割れてあらゆる場所が隆起して、陥没して、真っ直ぐに歩くのも一苦労だ。

     倉庫がある中央付近には大きな穴が空いていて、その穴の上には誰が勝手に動かしたのか、クレーンに吊り下げられたコンテナが揺れている。

     その穴の側に座り込む一人の男。


    「お、無事だったか」

    「……ああ、お前もな」

    「言うほど無事じゃねぇがな、ロボ太も連絡つかねぇし」


     真島は雑に布を巻いて止血した二の腕を見せてくる。

     その腕にはナイフも深く刺さっていて、引き抜けば大量出血は免れないだろう。


    「リコリスどもは撤退だとさ、お前の勝ちだな」

    「……なんの勝負だ?」

    「あ? もう忘れたのかよ、俺が電波塔と決着つけるかどっちが先かってやつ」


     ああ、そういえばそんな勝負をしていたんだったか。内容はともかく、勝負自体はどうでもよかったので忘れていた。

     結果として千束が無事に戻れるのなら、それでいい。


    「んで、今からその下に待機してるDAの船奪って逃げようと思ってたんだが、人手が欲しくてな。丁度よかったぜ」

  • 111二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 06:41:35

     真島は立ち上がって、手に持っている自動小銃を見せびらかす。
     適当にその辺りの死体から回収してきたのだろう。
     真島が指差した方向には人はいないが、甲板の下に脱出用のボートが停まっているらしい。
     恐らく千束や、まだ脱出できていないリコリスを待っているのだろう。
     だがそれももうすぐ限界のはずだ。この船はじき沈む。爆発や沈没に巻き込まれないよう距離を取らなくてはいけない。これが最後の脱出の機会になるだろう。
     このボートに乗れなかった者は、このタンカーと運命を共にするわけだ。

    「一緒に来るだろ? 相棒」
    「ああ、そうだな」

     背を向けたその男に、銃口を向けて引鉄に指をかける。

    「……なんのつもりだ?」

     千束から取り上げた、銃身の先端にスパイクが取りつけられたガバメントのカスタム。
     だが、中身はプラスチック製のフランジブル弾ではなく、殺傷性能を持った実弾。
     背中に背負った千束の武装鞄に積まれた弾倉も、道中倒れたリコリスたちの鞄から実弾を拝借して入れ換えてある。

    「今さらDAの正義でも取り戻したか?」
    「そんなもの、もうない」

     振り返った真島は興味もなさげな顔で聞いてくる。相変わらず、敵対すればこの男の眼中にわたしはいない。この男がわたしを眼中に収めるのは、仲間にいる間だけだ。
     正義、正義か。
     わたしの正義なんて、あの日、延空木の展望台で死んだ。

    「だったらなんだ?」

  • 112二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 06:41:53

     だったらなんだ?
     決まっている。
     この時のために、ずっと生きてきた。
     お前が、逃げ場のないこの場所で。
     傷つき、追い詰められる。
     この瞬間を、待っていたんだ。

    「船内には、まだ千束がいる」
    「それで?」
    「この船に残るのは、お前だ。ここで死ぬのも、お前だ」
    「……へぇ」
    「お前と、わたしだ」

     あの日、決めた。決意した。

    「お前を殺す」

     地獄まで、こいつを抱えていくと。
     引鉄を引くと同時に真島が動き出す。
     弾は小銃に当たり、銃身は歪んでもう使い物にならない。真島は小銃を投げ捨て、ひび割れてでこぼこになった甲板の上を器用に走りながら、コートからグレネードを取り出し正確にこちらへ放ってくる。
     放物線を描きながら飛んでくるそれを、丁度二人の中間ほどの距離で撃ち抜き、起爆させる。爆煙の下を潜るように真島が飛び込んできて、こちらが銃で狙いをつけるより速く腕を掴まれた。
     アゴを砕く勢いで蹴り上げて振りほどこうとするが、腕に食い込む力は緩まない。真島はその腕に突き刺さるナイフとは別に、自らのコートから取り出した小型のナイフを横に一薙ぎする。仰け反って紙一重のところで刃先を避け、掠めた髪が切られてはらりと舞う。
     順手から逆手に持ち変えられて戻ってくるナイフを、懐に潜って腕の中に入るようにして躱し、掴まれた銃を連射しながら、真島の足の間に脚を入れる。膝を浮かせるように蹴り上げながらシャツを掴んで真島の体を背負い、投げる。
     予想外に容易に浮かんだ体は、空中で一回転してわたしの腕を千切らんばかりに捻りあげ、筋肉が悲鳴をあげた。腕が曲がらぬ位置まで曲がってしまわぬよう、膝を崩して歪な体勢で床に脚をついてしまう。
     右肩にずくっと熱い感触。
     ナイフが突き立てられ、銃を握る手が緩み、手放した千束の銃がナイフを手放した真島の手に渡る。
     直後、左の顔面に強い衝撃。
     スパイクのついた銃身が左目に突き立てられ、頭蓋にめり込む。頭の中でぱちんと弾ける音がして、体が頭ごと後ろに倒れて転がった。

    「ぐ、ぁがあぁっ、ぁあっ!」

  • 113二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 06:42:08

     凄まじい激痛に、顔を手で押さえて、のたうつ。

    「お前じゃ無理だ」

     腹部に爪先が突き刺さり、甲板をボールのように転がされる。転がった先に、階下の倉庫へと繋がる、大きな穴。
     足先から重力に引きずり込まれて、下へと体が滑っていく。
     顔の痛みを必死に堪えて、むき出しになった金属の骨組みに手を伸ばし、穴へ落ち行く体を辛うじて支える。

    「ガッカリしたぜ」

     穴の縁にぶら下がったわたしの上に陣取るように、真島が銃を突きつけて立つ。

    「お前とはなかなか相性がいいと思ってたんだがな」
    「……ふざ、け、るな」
    「大真面目さ」

     真島の顔は、霞む視界と逆光でよく見えない。

  • 114二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 06:42:22

    「お前がつけたこの顔の傷、結構気に入ってるんだぜ。いつ仕掛けてくるか、いつ寝首をかかれるか。あの緊張感は楽しかった。だから近くに置いてやったんだ。それで俺とお前はバランスが取れる。お前はリコリスなんかより、こっち向きだった」
    「ぐっ…………」
    「それに、お前との生活が楽しかったのも嘘じゃないぜ? こんな仕事だ、死なずに着いてきて、付き合いの長くなる仲間ってのはなかなか貴重だ。お前は腕もそこそこ立って、仕事の管理も引き受けてくれた。いい女房役だったよ、しばらく代わりは見つからないだろうな、寂しくなる」

     握力が落ちてくる。
     気力を振り絞り、肩から先へと力を入れて踏ん張る。
     だが……、

    「じゃあな」

     長話が嘘のようにあっさりした別れの言葉で、銃声が遠く耳に響く。
     ああ、また、わたしは、
     あの日と同じ、無力を噛み締めながら……。

    「ぐあっ!?」

     銃声は、遠く。
     銃を構えた真島の手から火花と鮮血が散り、わたしの顔にぱたぱたと降りかかり、穴の下へ銃が落ちていく。
     真島は指が一本失くなった手を押さえ、こちらから顔を背けて銃声の方向へと向き直る。
     声が、聞こえた。

    「たきなああああ!」


    

  • 115二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 06:42:41

    一旦ここまで

  • 116二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 07:03:32

    6話の逆か…銃だけ狙って当てれたたきなが凄かったんだよなぁ。手に当てれる千束も大概だが

  • 117二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 07:18:08

    たきな、これ左目逝ったな…………

  • 118二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 07:44:55

    >>117

    高性能カメラアイセンサー機能搭載義眼を代わりに埋め込めば、更に狙撃能力強化できる

  • 119二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 07:46:53

    >>96

    + 片目がお釈迦に NEW!



    ……うん、終わったな(確信)

  • 120二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 08:23:10

    結局大していいところ無かったたきなさんである
    フキ先輩の方が相棒にふさわしいッスね

  • 121二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 08:35:23

    >>120

    刈り上げ見えてんぞサクラ

  • 122二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 08:39:16

    >>120

    実際本編最後のスーパープレイも宮古島も無かったことになるから、そのうえでこれなら本編以上にこういう意見ばかりになりそう

  • 123二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 08:41:58

    やはりラスボスは真島さん
    フキも援護射撃で隙作ってもらったからね

  • 124二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 08:54:48

    >>122

    そうは言っても千束も心臓取り替えられたのはたきなの犠牲のお陰だから

  • 125二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 08:55:39

    なんかキツイ結末で終わりそうで挫ける

  • 126二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 08:58:48

    いよいよコピペ改変の予告を使いきったな

  • 127二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 09:02:52

    >>124

    ただそれもそもそも真島が…

    となるわけでたきなが「勝ち取った」ものが何もないのはあると思うよ

    弱いから清いまま千束と共に生きることも、真島を殺すこともできない。たきなの望みは叶わない、この繰り返し

  • 128二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 09:09:58

    >>124

    弱くね?わざわざ真島が心臓持ってきたってことは最初から千束を助ける気あっただろ

    たきなは都合よくついてきたオプションでしかない

    っぱ真島さんカッケー!


    ………とか言われてそう〜〜〜〜!

  • 129二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 09:19:40

    たきなの活躍どうこうよりも闇堕ち系の話のお決まりのパターンでは?

  • 130二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 09:20:49

    時間戻すしかないレベルの絶望ですな

  • 131二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 09:22:21

    物語重視のIF話においてすら功績の量なんて気にしながら読んでどうすんねん

  • 132二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 09:23:22

    >>129

    だな

    リコリコ闇堕ちSS少ない印象だけど

  • 133二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 09:24:31

    >>131

    これ

    変に考察しないでバッドエンドのひとつとして楽しめばいいと思う

  • 134二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 09:25:52

    本編ばりの盛り上がりを見せてて草
    みんな楽しんでるな(すっとぼけ)

  • 135二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 09:33:47

    そもそもたきなはあの場で真島に屈するしかなかった自分の弱さが嫌で拗ねてるというか病んでるみたいなところあるからな
    千束にも秘密にされてることが多かったりすぐ1人ですぐどっか行くし、ただでさえ自分に厳しいたきなはもうボロボロよ

  • 136二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 09:36:33

    たきなの相棒としての存在意義を巡る話だし、注目するところとしては別におかしくない
    終わってもないのに文句言ってんのは意味わからんけど

  • 137二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 09:45:32

    それだけのクオリティだということ
    デデッデデッイントロが聞こえてきそうな引きしてる

  • 138二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 09:47:35

    これでコピペ使い切ったか

  • 139二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 09:56:33

    >>137

    イントロでも中和しきれない暗黒…

  • 140二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 10:22:27

    >>114

    >>115

    乙です


    本編と立場が逆になったね

  • 141二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 12:41:46

    二人三脚の歌詞が刺さる…

  • 142二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 12:50:22

    真島も意外と寂しがりやというか、結構仲間(部下ではない)に飢えていたのかも

  • 143二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 13:22:13

    マジでクオリティ高すぎて最近の楽しみ

  • 144二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 13:26:01

    >>143

    オマケに投稿頻度も高いときた

  • 145二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 16:22:37

    28.相棒

     船内から階段を駆け上がり、千束が甲板へと勢いよく飛び出す。その手にはフキから預かった、殺傷性の実弾が込められた銃を手に、荒れ果てた甲板をじぐざぐに駆けながら、穴の傍らに立つその男へと向かい発砲する。
     残弾は本体と、太もものホルスターに差した弾倉一つ。
     あの穴の中に向けられた銃口の先には、きっと……間違いなくたきながいるのだと千束は確信していた。
     何よりもまず、その銃撃を止めるために、狙い済ました一撃を放ち、真島の手を叩く。真島の手をまるごと吹き飛ばすつもりだったが、銃を撃ち落とせたのなら御の字であった。
     後は注意を完全に自分に引きつけるため、走りながらぶれる狙いで真島へと向けて弾を乱れ撃つ。ここは当てる目的ではない、残りの弾数を気にするよりも、千束は距離を詰めるために脚に力を注ぎ込み、ひたすら前方へと走る。
     真島はこの乱入者に、歓迎の色は見せない。あまりにも、分が悪い。
     死を際にして殺しあう緊張感と、死を与えられるだけの恐怖は、違う。
     弾けた指を見て悟る──殺される。
     脱出用のボートに拘る余裕はない。手持ちの武器は、もうない。走って海に飛び込み、海中に逃げ込む以外の身を守る術はもう残っていない。
     身体を掠める銃弾から守るように傷ついた腕を盾にし、身を翻して走り

     ────足が動かない。

  • 146二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 16:22:48

     真島が視線を落とした先には、甲板に開いた奈落から伸びた手が、その足首に巻きついている。
     動かないのは足だけではなかった。身体が、全身が動かないのは、硬直するのは。
     穴の中から睨む、紫に光る一つの眼。
     それはまるで、地獄の淵から覗き込む、

     ────死の、

    「はっ……」

     身が、竦んだのだと、息を飲んだ真島が気づいた時には、その穴から乗り出してきたたきなの身体が脚にさらに強くしがみついていて、奈落へと向かって恐ろしい力で引っ張り込む。
     指を吹き飛ばした千束の扱う銃弾が、殺傷弾だとたきなは気づいた。
     千束に、人を殺させはしない。例え誰が相手でも、己の命を諦めてでも貫いたその信念を、輝きを。傷つけさせない、穢させない。この男のためになど。
     それだけが、たきなの身体を強く押し動かしていた。

    「てめっ……!」

     真島は体勢を崩し、奈落へ……炎が燃え盛る地獄の入り口へと、その体が投げ入れられるように浮き上がる。

    「ぃ……たきなっ……!」

     悲鳴にも近い千束の叫び声が走る。
     引鉄を引くよりも、腕を振って全身全霊で前へ。
     あと五メートル。秒では間に合わない。出したことのないほどの力で、強く踏み込み一気に距離が縮まる。
     穴の中へ手を伸ばし、たきなの手を……届かない、千束の指先は空を切った。

  • 147二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 16:23:05

    「ぅあ゛ぁっ!」

     刹那さえの逡巡もなく、千束はさらに前へ、穴の中へと飛び込む。剥き出しになった鉄骨を蹴り、重力に従い下へ向かって加速をかける。
     千束は空中でたきなの身体を、強く抱き締めて、たきなと共に金属の床へと勢いよく落ちて行く。

    「っ……!」

     叩きつけられる直前、たきなの背に回した手で、そこに背負われた武装鞄を叩いてエアバッグを起動させる。
     ぼむ、と音を立て、弾性のあるエアバッグが二人分の体重を受け止めぐにゅうと形を歪める。
     二人はそのままスーパーボールのように大きく弾んで、離れた位置まで跳んで床に叩きつけられる。
     弾む直前からエアバッグの収縮が始まっていたことと、上ではなく横方向に跳んで転がったことで、落下の衝撃は大きく軽減された。
     千束はたきなの体が傷つかないように、ありったけ包み込むように抱き締める。

    「っつ~……たきなっ!?」

     転がる二人の体は、壁にぶつかって停止した。
     千束はすぐに起き上がり、抱き締めたたきなの身体を確かめる。
     息を、している。
     ほっとしたのもつかの間、その肩に刺さったナイフが抜けかけていて、そこから大量の血が流れ出ている。

    「たきなっ……待って、いま手当てを……」

     たきなが背負っている千束の鞄の中には応急キットがあり、それで止血することができる。
     倉庫内は既にコンテナの中に積まれた火薬などが爆発した影響か、各所で激しく炎が燃え盛っている。
     だが、コンテナの少ない中央スペースの壁際なら、まだ火の手は届かない。
     銃を脇に置いて、たきなの体をゆっくり抱き起こす。傷口を高い位置へ持っていき、少しでも血が吹き出すのを抑える。

  • 148二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 16:23:18

    


     ──か、つん。

    「…………」

     千束は、一度脇に置いた銃へ、手を伸ばす。

     ──ざり。

     がむしゃらに撃ちながらも、数えていた残弾は、残り、一発。
     右足のホルスターには、まだ満タンの弾倉が差してある。
     弾倉を捨てて銃を左手に持ち替える。たきなの体を膝に抱えて、素早く右手をホルスターへと伸ばし、一発。銃声が燃え盛る倉庫内に響く。
     千束の右肩を弾丸が掠めて、鉄板の壁に風穴を空ける。

    「っ……」

     右手は弾倉を取りこぼし、指先で弾いて床の上を滑らせてしまう。手を伸ばしても届かない離れた位置へ。
     これで、正真正銘……残弾は一。 
     かつ、ん。ざり……。
     炎の向こう、足音と、何かを引き摺る音が交互に聞こえる。
     かつん、ざり。
     黒煙と陽炎に揺らめく景色の先に、その男が、立っていた。

  • 149二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 16:24:08

    一旦ここまで
    どんな感想もありがたく頂戴しています

  • 150二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 16:28:32

    たきなとかいう確定演出がいないと不安がやばいな

  • 151二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 16:30:31

    このレスは削除されています

  • 152二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 16:33:42

    千束に向けて撃ってるから状況的にも真島ではないかな

  • 153二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 16:35:19

    たきなにも恐怖感じるのええぞ〜

  • 154二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 16:35:52

    >>152

    まじやわ読解力なくてすまぬ

  • 155二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 16:45:46

    やっぱりたきなの強さは土壇場の執念だ…

  • 156二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 16:45:47

    >>150

    本編は後半ではたきながいるって希望で見続けられてたからなあ

  • 157二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 16:46:34

    今度は13話の対比か、違和感なく本編の対比仕込めるの凄いな

  • 158二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 16:49:20

    千束が引きずり落とすシーンか…
    天井の穴とかそこまで考えてあったのか…

  • 159二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 19:39:18

    エアバッグの使い方が上手い…
    落下した後に一拍おいてからくる緊張感

  • 160二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 21:37:42

    >>148


    「やってくれるなぁ、黒いの」

    「……ゾンビかよ」


     崩れた天井の残骸、そこに重なるように身を守りながら、真島が千束へ銃を向ける。

     甲板で千束に撃ち落とされた銃を拾い、指が一本失われた右手ではなく、左の手で構えながら。


    「かっはは、ゾンビか! そりゃいいな!」


     その右脚部、ふくらはぎの肉に金属片が貫通し、膝が曲がらないのか無理やり引き摺って身体を移動させている。


    「なら、しっかり狙え? ゾンビの弱点は、ここだ」


     真島は天井の残骸から顔を僅かに覗かせ、自らの額を指で軽く二度叩いて挑発を行う。一撃で、頭を撃ち抜けと。

     そのまま再び、黒煙を纏って残骸の向こうへ、千束の視界の届かぬ先へと姿を消す。

     あの身体ではそう早く、遠くへは移動できないと千束は判断する。それでも、真島は音で黒煙の先を探知し、残弾にもまだ余裕があると見た。

     対して千束は視界が利かない場所で、弾も残りは一発。無駄に撃てる弾は、一発もない。

     千束は銃を右手に持ち替え、左の腕でたきなの体を守るように抱き寄せる。

     炎と煙と残骸の先、見えない景色の先へと銃口を向けて、僅かでも動く影を見逃すまいと意識を集中する。

     ごう、とコンテナが炎を吹き。

     かつ、と金属の床を叩く靴底。

     ざり、と肢体が引き摺られる。

     千束の額を伝い、背中を濡らす汗は、倉庫内の熱に蒸されたものだけではなかった。

  • 161二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 21:37:58

    「はっ……はっ……」

     体力が切れたわけではないのに息が切れるのは、弾がない、ことの重圧ではない。それだけなら、こんな重圧など、彼女は感じない。
     船があとどれだけ浮いていられるのか、たきなを抱えたまま勝てるのか、たきなの体はどれだけ保つのか、この一発で真島を撃ち抜けるのか……。
     たった一つの弾丸に、今、全てが乗っている。
     全ての重圧が、この肩に乗っている。
     右か、左か、右か。どこからくるのか。
     真島は動きを止めて身を潜め、足音が聞こえなくなる。

    「…………」

     ぱち、
     火の粉が弾け、
     影が、飛び出す。
     千束はその影を正確に銃口の先へ捉え、ミリも照準を外さずに引鉄に力を、

    「……!」

     その影は、少し進んだ空中で広がって、大きく減速する。
     空っぽのロングコート。真島が着ていた、黒いコートが、一人で舞っていた。

    「ぅあっ!」

     釣られた。千束が思った瞬間、銃声が三発。
     真島は残骸の影から腕だけを出して、おおよその位置へと弾を撃ち込んだのだ。
     その内の一発の弾丸が、千束の右肩を貫く。
     衝撃で右手の力が緩み、銃がこぼれ落ちる……。

  • 162二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 21:38:10

    


     ────その手を、包むように

    「……たき、」

     銃が、握り直される。
     強く、二人の手で。

     真島はすぐに腕を引いて再び残骸の後ろに隠れる。
     残骸の鉄の塊でできた盾が、真島の身を完全に覆い隠して守る。
     一発の弾丸では、どうしようもない。

    「……千束、撃って」

     たきなが、千束の腕を持ち上げて照準を合わせる。
     正面の残骸ではなく、その遥か頭上へ。
     千束は、躊躇することなく、その固定された照準を信じて、引鉄を引いた。
     一発の銃声が鳴り響き、バキン、と金属の弾ける音がする。
     頭上から聞こえた音に、真島が天を仰ぎ見る。
     弾丸が飛んだ先は、天井の穴の上。
     甲板のクレーンに吊るされた、コンテナ。
     そのコンテナを吊るす、ワイヤーの、一本。
     立ち上る炎の熱で柔くなったワイヤーが弾け、重心が傾き、均衡《バランス》を崩して、その重量に耐えられなくなった金具と他のワイヤーが、コンテナを手放す。
     甲板に空いた、穴の底へ。

  • 163二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 21:38:27

    「…………は」

     船体を引き裂く、凄まじい轟音。
     金属が粉々に砕け、さらに階下へと繋がる巨大な穴が倉庫の中心に開く。
     下ではエンジンが炎上し、倉庫よりも激しく燃え盛る地獄の業火が広がっている。
     真島は砕け散ったコンテナと共に、その業火の底へと消えていった。

    「……や、った……?」
    「…………はい」
    「………………ぶっはぁぁぁ~……」

     ごうごうと燃え盛る炎の音だけが倉庫内に残り、二人揃って脱力する。
     応急処置も、脱出も、勝利の余韻も、少しだけ後に回して。

    「……くたばれクソヤロウ」

     千束は地獄の業火へと親指を振り下ろした。

  • 164二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 21:38:47

    一旦ここまで

  • 165二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 21:43:02

    真島ならまだ生きてそうだな…
    本編では千束の左肩今回は右肩に弾が撃ち込まれてますね
    本編の対比探すの楽しくなってる

  • 166二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 21:49:06

    なんでたきなは片目潰れた状態で遥か上空のワイヤーの一本を狙えるんだ……?

  • 167二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 21:55:28

    >>166

    銃は片目で狙いつけるだろ?

    両目でわからなくなるのは前後の距離感だ

  • 168二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 21:57:54

    洋画チックな決着だぁ…
    バランスが崩れて真島を倒すってのがいいね

  • 169二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 23:11:37

    これは絶対生きてるやつだな…

  • 170二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 01:04:05

    たきなしっかり活躍したじゃないか

  • 171二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 09:14:08

  • 172二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 16:46:12

    ここの千束は「マザーファッカー」とか言いそう

  • 173二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 18:58:18

    >>163

     ────カキンッ

     真島を倒し、傷ついたたきなと肩を貸しあって、すぐそばにあった避難通路の中を通って、火災の影響が少ない場所までなんとか避難してきた。

     応急手当のために銃を置いて、たきなから返してもらった武装鞄の中から応急キットを取り出していると、目の前で軽い金属音が鳴る。

     たきなが、弾の入ってない銃を自らのこめかみに当てて、引鉄を引いていた。

     慌ててたきなから銃を取り上げる。


    「……なにやってんだよ……バカ」

    「……弾、出るかな、と」


     そういう意味じゃなくてさ……。

     あまりにも自然な動きで銃を手に取って頭まで持っていくものだから、ぼけっと眺めてしまった。

     落とした弾倉を回収し忘れていたけど、回収して装填していたらと思うと……ゾッとする。 

     鞄の中には、たきなが実弾を込めた替えの弾倉がきっちり揃っているので、もうこの鞄は絶対に返さない方がいいだろう。そもそも私の鞄だし。

     ジェル状の軟膏を傷口に塗り、止血剤を投与してガーゼと布で覆う。包帯でぐるぐるに巻いてしっかり固定し、痛みは鎮痛剤で抑える。

     私の戦闘スタイル上、普段から多めに救急キットを持ち歩いているので、二人分の治療には充分に足りた。

     たきなと二人揃って、利き腕側の肩をやられていたので、順番に相手の治療を手伝って。当然、たきなを先に。

     ただ、たきなの顔の……左目の怪我は、応急処置でどうこうというものでは、なかった。


    「たきな、次バカなことしようとしたら気絶させるから。勝手なことするな」

    「…………」

    「返事は」

    「っ……はい」

  • 174二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 18:58:33

     黙ったまま俯いているたきなに、デコピンを叩き込んで無理やり返事をさせる。
     とりあえず言質は取ったので、今度はさっさと船から脱出してしまわないと。さっきから船が平衡を失っていると思うのは、私の気のせいではない。
     船のあちこちでめきめきと金属の軋む音が鳴り響き、いよいよもって本格的に船が沈み始めているのだと察する。
     頭と肩から血を流して貧血になっているたきなに肩を貸し、甲板を目指して船内を進む。
     船内には、敵味方ともに大勢の亡骸が転がっていた。
     これから彼らは、光の届かない深い海の底へと沈んで、生命の一部に循環されていく。
     それもきっと一つの運命。
     悲しいと悼む気持ちはあるけど、今が急場でなかったとしても、足を止めて祈ることはしないだろう。
     心の中でだけそっと手を合わせ、彼らの亡骸を越えて歩む。

    「たきなさぁ、ちょっち聞きたいんだけど」
    「……なんですか?」

     ゆっくり、確実に、船内を進みながら。ふと気になったことを聞いてみる。

    「この一年、何してたの?」
    「……真島と、各地でテロ行為を……」
    「んなこたぁわかってんじゃい」

     天然な返答に、思わず笑みが溢れる。
     ああ……たきなだ……。
     たきなが、ここにいる。

  • 175二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 18:58:49

    「だからさ、その間どんな生活してたのかな~って」
    「……生活、ですか」
    「そ、たきながあいつとどんなこと話すのか、とか全然想像できなくて」
    「……そんなの聞いても、楽しくないと思いますよ。別に大したこと、話してませんし」

     それは、私もそう思う。
     だって、必然的に真島の話を聞くことにもなるし、たきなが真島と一緒に生活してたとか、それだけでむかっ腹立ってくるし。

    「でも、知りたい。たきながどこで、何してたのか。『相棒』のこと、ちゃんと知りたい」
    「……わたしはもう、貴方の相棒じゃない」
    「相棒だよ、たきなは千束の相棒。それともなに? 真島の方がよかった?」
    「……死んでも、嫌です」
    「でっしょ~? だからさ、ここがムカついたとか、ぶっとばしてやりたかったとか、言いたいこといっぱいあるでしょ。千束に教えなさい」
    「……黙って歩いてるのが、嫌なだけでしょう?」
    「あ、わかる?」

     さすがだね、よくわかってる。
     二人の間に沈黙が流れるのが、何となくイヤで、何でもいいから話したかった。
     それに、

    「私の知らない、この一年のたきなを知りたいのは、本当だよ」
    「……そうですか」
    「そうそう、それに話してれば、気を失わない」
    「……体力を、使うと思います」
    「じゃあ、無理しない程度で!」
    「……わかりました」

  • 176二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 18:59:19

    「……武器の作り方を、教わりましたね」
    「武器?」
    「手製の手榴弾とか」
    「あー、私に使ったやつか、ありゃなかなか面倒くさかったね」
    「音の殺し方も、教わりました。わたしの足音は、殺気が強いんだとか」
    「へぇ、殺気とか映画みたいなこと言うね、音の世界は私にはわからんな。てか、あいつも人にもの教えられるんだ」
    「ええ、千束より説明がわかり易かったですよ」
    「……あ、そう……」
    「武器や取引の管理と連絡も、ほとんどわたしがやってました」
    「なんだそりゃ、自分でやらんのかあの男」
    「千束の家事と同じです」
    「……真島と、同じは……キツイな……」
    「あとは……映画の話もしてました」
    「あー……それは私も少しだけ話したな、うちに来た時」
    「ああ、どおりで」
    「なにが?」
    「千束に借りた映画と、真島と観る映画が、妙に被ることがあったんです」
    「へぇー…………え、真島と映画観てたの?」
    「いつでも隙をついて殺せるように、一緒にいたので」
    「……そ、そっか……そう……」
    「それから、その日の献立の話とか」
    「待って」
    「はい?」
    「ご飯?」
    「はい」
    「……作ったの?」
    「はい、当番制だったので」
    「……手料理?」
    「出前は取れませんよ、レトルトや缶詰ばかりでは栄養が偏って体調にも悪影響が出ますから、自己管理のためにも日持ちする食材を買いだめて……」
    「ああ、うん、わかった。たきな、そういうとこあるもんね……」

  • 177二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 19:00:03

    「……?」
    「えっと……他には?」
    「他……あとは、下着の話でしょうか」
    「………………は?」
    「その時は、ロボ太も参加してましたね」
    「………………え?」
    「好みの色とか、形状……」
    「……………………」「ロボ太はトランクス派で、真島はブリーフ派、とか」
    「あ、ああ! そっちか!」
    「どっちとかあるんです?」
    「ない! ないから気にしないで、続けて! 他には!」
    「……? 他……ううん……」
    「ほら、服とかオシャレはどうしてたの?」
    「服はこれと寝巻きがあれば特に……出掛ける場所もないですし」
    「あー、そっか」
    「浴室もついてるので、体も清潔に保てましたし」
    「……男ばっかりで、大丈夫だった……?」
    「大丈夫とは、なにが?」
    「こう……イヤらしい目で見られたりとか」
    「嫌らしい目……常にですね」
    「くぁー! やっぱりかぁ!」
    「ええ、事故を装って手下どもの手足を撃ち抜いたりしていたのは気づかれていたのでしょう。常に奴らから探るような視線で見られていました、入浴の最中と前後は特に無防備になる時間ですし、常に気を張って警戒していましたよ」
    「……お前さぁ…」
    「はい?」
    「や、何でもない……」

  • 178二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 19:00:31

    「それに男性ばかりでもありませんでしたよ。少ないですけど、海外から補充されたテロリストの中には、アカネのように女性も何人かいました」
    「そうだアカネ! あいつめっちゃムカつくよね!?」
    「そうですか?」
    「たきなのこと酷く言うんだよ! 大量殺人犯とか! 裏切り者とか!」
    「事実を言ってるだけじゃないですか?」
    「……うぬぅ」
    「千束こそ、アカネとはどうだったんです? パートナーとして潜入させましたけど」
    「ダメだね、ダメダメ、全然ダメ」
    「実力は充分だったと思いますが」
    「まず私についてこれない」
    「大体の人はそうです、千束が一人で勝手に先行しすぎなんですよ」
    「次に私のフォローをできない」
    「先行しすぎです」
    「……私の言うことを聞かない」
    「勝手しすぎです」
    「たきなはどっちの味方なの!?」
    「敵とか味方とかじゃないです」
    「ぐぬぬ……あ、リコリコで配膳とか全然できてなかったな、不器用で」
    「え? アカネは何でもそつなくこなす器用な人でしたけど……」
    「……ドジっ子キャラアピールかよあいつはぁ! ほんっとムカつく!」
    「裏表の激しい人でしたからね」
    「それで済ますのかぁ……」

  • 179二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 19:00:47

    「わたしには良くしてくれましたよ、歳が近いとかで海外で流行のブランドなどを教えてくれました。その知識を活かす機会はありませんでしたけど。あとリコリス制服も捨てずに済みましたし」
    「あー! 制服! なんでリコリスの制服あげちゃったの!?」
    「リコリスとして潜入させるのに、最も合理的な判断だったと思います」
    「あんな奴がたきなの制服きてるのがイヤなの! あっ、リコリコの制服もたきなの制服貸してたんだった……うぇ~ぺっぺっ! あーやだやだ! 安心してたきな、先生に頼んでたきなの新しい制服用意してもらうから!」
    「…………そう、ですね……楽しみに、しています」
    「……帰ったらさ、またリコリコで一緒に働こ」
    「……………………」
    「たきなの助けを待ってる人がいる」
    「……………………」
    「たきなを待ってる人たちがいる」
    「……わたし、は」
    「だから、帰るよ」
    「…………」
    「二人で、一緒に」
    「…………」


    

  • 180二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 19:01:07

    「マジかぁ……」

     詰んだ。
     位置的には、船首付近の甲板に出られるであろう上開きの扉。
     なんとか出口に辿り着いたものの、扉は爆発の衝撃かなにかで酷く歪んでいて、押しても引いても、腕一本が通る程度の隙間しか開かない。
     銃で蝶番を怖そうかとも考えたが、固定している金具の主体は、甲板の方についているようで、内側からは壊しきれない。当然、人間の蹴りでどうこうなるような厚みでもない。
     外からも何か道具を使ってこじ開けでもしない限りは、ここから出ることはできないだろう。
     船の傾きは相当のものになっていて、フキも脱出艇に乗っただろうし、これだけ沈没が進めば、脱出艇も既に離れているはず。
     外からの救援は、もう期待できない。

    「映画ならこういう時、カッコよく扉開けて助けに来るもんだけど」
    「まあ、無理でしょうね」
    「はぁ~……ここまで来たのになぁ……」

     たきなと一緒に、壁に背を預けて座り込む。
     ここが船底ならともかく、外を目の前にして終わりというのは、悔しいものだ。

    「……でも、まあいっか」
    「……いいんですか?」
    「うん、たきなと一緒なら」
    「さっきは死ぬな、って言ってました」
    「勝手に一人で、ってね」
    「……一緒なら、いいんですか?」
    「……うん。そりゃ、できるなら死にたくないけど。私一人で死ぬよりも、たきなを一人で死なせるよりも、一緒の方がずっといい」
    「そういうものですか」
    「そういうものなのだ」

  • 181二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 19:01:24

     船が沈むまで、あとどのくらいだろう。
     それまでは、一秒でも長く、こうしてたきなと話していたい。
     さっきまで、歩きながらたくさん話したのも、正解だった。
     だって、たきなと話したいことがまだまだ沢山ある。
     それはこれっぽっちの時間じゃ全然足りないから、少しでも多く話せてよかったって、そう思って死にたい。
     何から話そうかな。
     たきながいなくなってから、沢山のことがあった。
     皆で必死に探し回ったり、フキやサクラがDAのお使いがなくてもお店に顔を出してくれるようになったり、お店に新しい常連さんが増えたり、たきなが帰ってきた時に遊びに行きたいところを下見したり、いつ帰ってきてもいいようにたきなの部屋を掃除したり、私の物を勝手にたきなの部屋に置いていったり、たきなに、……たきなと…………。

    「もっと……生きたかったなぁ……」
    「……言えるじゃないですか」
    「んあ?」
    「千束は、そういうこと、言わないと思ってました」
    「あー、はは、なるほど。私だってね、まだ何年も十年先も生きられるよって言われたら、生きたいよ。死にたいわけじゃないの」
    「聞けて、よかったです」
    「そーかそーか、素直な千束を褒めなさい」
    「はいはい、偉そうですね」
    「へへへ……」

     ん……?
     今のは偉いって褒められるのと、微妙に違うんじゃないか?

  • 182二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 19:02:15

    「そんな千束にご褒美です」
    「なんかくれるの?」

     頭でも撫でてくれるのかな。
     と思ったけど違うようで、たきなは黒ジャケットの内側をごそごそまさぐっている。でたな四次元ポケット。まだ何かあるのか。

    「どうぞ」
    「えっ……なにこれ」
    「グレネードですけど」

     見ればわかる。
     改造された小型の物ではなく、かなりゴツい、爆薬タイプ。
     まだこんなもの隠し持ってたのか。

    「本当は、真島を道連れに自爆するつもりだったんですけど、千束が来たものですから」

     マジかこいつ……。
     千束さんはたきなちゃんがちょっと怖いよ……。
     ま、まあ、これなら扉を吹っ飛ばせるし、ありがたく受け取っておくかぁ……。

    「っていうか、こんなのあるんなら最初から出せよ!」
    「……少し、映画的なジョークでも混ぜようかと」
    「こんな時にそんな茶目っ気いらんわ!」

     たきなを離れた位置に退避させて、少しだけ開いた扉にグレネードを挟んで落ちている瓦礫も使ってがっちり固定する。
     安全ピンにパラコードを巻きつけて、充分に距離を取り、ヒモを引っ張り、爆音に備えて耳を塞いで口を開く。
     ずん……という振動を体で感じて、退避位置から顔を出して出口を確かめる。
     これで通路が崩れて塞がっていたら、あの世で笑い話にでもしよう。

  • 183二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 19:02:35

    


    「外だー!」

     甲板に出て思いっきり肺に空気を入れる。
     不味い。爽やかな潮風など微塵も感じない。
     どこかに掴まってなければ、岩肌のように荒れ果てた甲板を滑り落ちていきそうなほど、船は傾いている。
     さて、これからどうしたものか。
     信号弾は持っていないし、スマホは画面バキバキで見えないし。
     たきなは肩を貸さないと歩けないぐらいに消耗してるから、泳いでいくのも厳しい。
     上空からばりばりと激しい音が聞こえてくる。
     何機ものヘリが旋回しているのは、救助のためではなく、隣にあった海外のタンカー。
     そちらに乗り込んでいるのは、リリベルの部隊のようで、ヘリはそっちのものだろう。
     ついでに助けてくれないかな、と思ったけど、たきながいるからマズイか。
     やっぱり外にでても、どん詰まり状態。

    「たきな、何か出して」
    「……もう何もありませんよ」
    「嘘つけ、何かあるだろ何か」
    「……ないものはないです」

     詰んだ。
     大きく息を吐く。
     空から蜘蛛の糸でも垂れてこないかなぁ……。
     もう一度、天を仰ぎ見る。

  • 184二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 19:02:51

     一機のヘリが、ほぼ真上に滞空している。

    「……あ」
    「千束ぉー! 生きてるかー!」
    「うおー! クルミー! ミズキぃー!」

     まさしく蜘蛛の糸、救いの手。
     ミズキの華麗なヘリ捌きによって、私たちの目の前に梯子が降ろされる。
     たきなの体をしっかり抱いて、ロープで縛って固定。そのまま梯子を掴んで、ヘリがタンカーから離れていく。
     梯子が巻き上げられて無事、たきなと共に生還を果たすことに成功したのだった。

    「しかしよく来てくれたねぇ、あの状況で」
    「クルミがあんたのスマホからずっと位置を追跡してたのよ」
    「おーマジっすかクルミさん、画面こんなだけど」
    「液晶が割れてるだけだ、その他は生きてる。追跡程度は朝飯前だな」
    「あぁ~ん、神様仏様クルミ様ぁ……」

     小さな体に抱きついて頬ずりする。
     持つべきものはクルミだよ。

    「やめろ千束! 血でべたべただぞお前!」
    「そんなこと言うなよー、汚れたらお風呂で私が洗ってあげるからぁ」
    「いーやーだー、ボクは一人でゆっくりしたい派だ!」
    「それじゃあ私の背中でも流して、肩でももんでもらおうかしら?」
    「水でよければ流しちゃる」
    「クソ生意気なガキめ……」

  • 185二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 19:03:09

     突入から、随分長い時間が経ったと感じる。
     このわいわいと賑やかな空気が、懐かしく思う。
     その中で、一人、俯く人影。

    「…………」
    「……たきな」
    「ぁ……」 

     呼び掛けると、びくんと小さく肩を震わせて、顔をあげる。まるで叱られることに怯えている子供みたいで、少し可愛いと思ってしまう。

    「……えっと…………ごめん、なさい…………」
    「はぁ?」
    「あーあ」
    「っ…………」
    「ちょいちょいちょい」

     勇気を出して謝罪するたきなに、二人が露骨に不機嫌な態度で返す。
     たきなは今にも泣きだしそうな顔で再び俯いてしまった。
     そっと、その肩に手を添えて囁く。

    「……たきな、違うよ」
    「ぇ……?」
    「帰ってきたらさ、まず言うことあるんじゃない?」
    「…………ぁ」

    「…………た……ただ、いま……」

     私とミズキとクルミ。三人で顔を見合わせて、頷く。

     ────おかえり。

  • 186二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 19:03:29

    


     どこまでも深い海が、地獄の業火さえも呑み込んでいくのをヘリの窓から見届ける。
     リコリスも、テロリストも、真島も。
     あの船の中であったこと全てを等しく呑み込んで、消えていく。

    「…………たきな?」

     左の肩に感じる重み。
     振り返って見てみると、たきなが頭を乗せて、小さく寝息を立てている。
     疲れて眠ってしまったのだろう。
     本当に……ずっと、疲れたのだろう……。
     たきなの体に体重をかけないよう、私も頭だけ傾けて、たきなの頭にくっつける。
     目を閉じると、驚くぐらいあっという間に眠気が襲ってきた。
     私も、今日は疲れた……。

    「お休み、お二人さん」

     小さく呟くミズキの声が聞こえて、私は意識を手放した。

  • 187二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 19:04:18

    一旦ここまで
    続きはまた次スレを立てます

  • 188二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 19:11:20

    おかえりぃぃぃぃぃぃぃぃ

  • 189二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 19:12:03

    この2人の掛け合いの安心感よ…

  • 190二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 19:17:26
  • 191二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 21:03:16

    なんかすごいバイオハザードのクライマックス感ある
    会話パートの空気がすごくいい…

  • 192二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 22:01:32

    言えたじゃねえか…

  • 193二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 23:10:44

    思ったより長くなってる……おつかれ

  • 194二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 23:11:20

    スレとしてもめっちゃ区切りがいいとこで終わってて引きが気持ちいい

  • 195二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 07:31:15

    途中の絶望しか感じない展開からここまでくるとは…

  • 196二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 07:38:07

    たきなサイドとアカネとの会話やパンツ談義も気になるところ

オススメ

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