- 1二次元好きの匿名さん21/10/21(木) 00:14:13
トウカイテイオーにとって現在のトレーナーとの関係は、まるで神に仕組まれたような偶然の賜物だった。
無敗のまま周囲の期待を一身に背負った菊花賞の直前に骨折し、失意の内に出走を断念。最初こそもう一度頑張ろう、と通い詰めて説得を重ねていた女性トレーナーも、やがて重圧に耐えかねたのか顔を出さなくなり、ほどなくして職を辞してしまった。
そこに現れた彼は、生きる気力も失うほど打ちひしがれていたテイオーを献身的に援助した。折しも彼の担当ウマ娘が長期休学していたため、そんな二人三脚の状態が2年以上続いたとなれば、彼が文字通り唯一の心の支えとなったのは必然とも言えるだろう。
そして、年月を経るごとに彼我の年齢の違い、立場の違いをまざまざと思い知り、決して報われない恋心が少しずつ歪んでしまったのだとすれば――それもある意味で必然なのかもしれない。 - 2二次元好きの匿名さん21/10/21(木) 00:14:56
「ねぇねぇトレーナー、これ、そろそろイケるんじゃない?」
先週末のレースで勝利したテイオーが望んだのは、トレーナー宅での二人きりの祝勝会。いつもなら公私混同だ、と突っぱねるトレーナーも、駄々をこね続けるテイオーについに折れ、二人で鍋の材料を買い込んだ後で自宅へと招待したのだった。
「もう少し待った方がいいかな。肉がたくさん入って火が通りにくいから……っと、ポン酢が必要なんだけど、買い忘れたか……ちょっと待っててくれ、コンビニで買ってくる」
「はーい」
テイオーの返事を聞いて立ち上がったトレーナーは、しばらくドアの前でもたついていた。
「どうしたの?」
「いや、この家も古いからさ。一度鍵をかけると、開けるのにちょっとコツがいるんだよ」
「そんなに不便な鍵なら、もう変えちゃえばいいのに。それに……」
それにそもそも、こんなオンボロの家、二人で住むには狭すぎるじゃんか。いつかきっと、ボクがもっとずっと立派な家に住ませてあげるから。 - 3二次元好きの匿名さん21/10/21(木) 00:15:38
ドアの外側から鍵がかかった音を確認して、テイオーはあたりを見回した。
「さて……」
買い物の時、ポン酢をこっそり戻したのは正解だった。このタイミングでトレーナーが気付いて、コンビニへ買いに出かけるのも予想通り。帰りまでおよそ10分、時間をかけて家中を探索できる。
「にっしし、なっにがでるっかなー」
鼻歌を唄いながら寝室に侵入する。ベッドの匂いをしばらく堪能してから、向かいの机へ。
「やっぱり……ここ、だよね」
トレーナーの癖はこの2年で熟知している。大事なものほど上の引き出し、奥の方へ。一つ一つ匂いを嗅ぎながら、特に濃いものを探し当てる。
「これかな?」
一際強くトレーナーの匂いを放つ封筒。おそらくここ最近で何度も手に取ったのだろう。
「これがあれば、きっとトレーナーも、ずっと……」
ずっと一緒にいてくれる。担当契約が終わっても、選手生命が終わっても。
トレーナーの秘密を握って、自分に縛り付ける。許されない恋を成就させるために、考えに考えた最後の手段だった。 - 4二次元好きの匿名さん21/10/21(木) 00:16:44
「……なに、これ?」
出てきたのは、小さいが妙に頑丈な造りの鍵。小さく「1番」とラベルがつけられている。
「うーん……あれ?」
縦に横にと鍵を眺めているうちに、視界の端に映る引き出しの違和感に気付いた。見た目に比べて、内側がかなり浅い……二重底だ。少し躊躇ってから、仕切りを外してみる。
……そして、あまりの衝撃に一瞬呼吸すら忘れた。
下側の空間には、大量の写真が収められていた――テイオーもよく知っている、かつての担当トレーナーの隠し撮り写真が。写真の中の彼女は、明らかに周囲を気にして憔悴しきっていた。
思考がぐらつく。考えがまとまらない。なんで、どうして……これが、こんなものがトレーナーの隠したい秘密だって? - 5二次元好きの匿名さん21/10/21(木) 00:17:35
『スケルトン・イン・ザ・クローゼットって知ってっか?』
ふと、練習の合間に聞いたゴールドシップの言葉が頭をよぎった。
『知られたくねー内々の事情って意味らしいけどさ、すげえ言葉選びだよな、“骸骨”って』
トレーナーの秘密……トレーナーのクローゼット。寝室の奥のそれには、がっしりした錠前がついていた。
『入るなって言われた部屋に死体を隠してた童話が由来、って説もあるから、ある意味最初は文字通りだったのかもな』
ふらふらとクローゼットに近づく。お願いだから、この鍵は違っていてほしい。
『それが今でも、人んちの内情に深入りすると後悔するぞ、って警告として伝わってる……なんつってさ』
鍵穴に鍵を差し込む……開いた。開いてしまった。
息を止め、ゆっくりと扉をずらしていくと――そこには誰もいなかった。 - 6二次元好きの匿名さん21/10/21(木) 00:18:27
「……は、ははっ」
そうだ。いくら何でも飛躍しすぎじゃないか。だいたい彼女は退職後、実家に帰ったと聞いている。関係なんてあるわけがない。今見たことは全部忘れて――
――気付かなければよかった、と後悔した。念入りに消臭されているが、わずかに漂う血の匂い。壁に残る赤黒い、指で引っ掻いたような形の染み。そして床に何本か落ちたままの、長くさらさらした尻尾の毛。
ここにいたのはウマ娘の「1番」だ。
違う。違う。だって、ウマ娘も行方が分からなければ大騒動になるのは同じだ。長い間休学でもして、学園にいないことが当たり前にならない限り……
そう、休学でもしていなければ。 - 7二次元好きの匿名さん21/10/21(木) 00:19:02
おっトレーナーのがやばいパターンか?
- 8二次元好きの匿名さん21/10/21(木) 00:19:17
揺れる視界の中、思考だけが冷静に答えを導き出していく。目的はボクの元トレーナーじゃなく、ボク自身だった。2年前から今日のため、ボクを「2番」にするために計画されていたことだった。
逃げなきゃ。今すぐここから離れなきゃいけない。ほとんど突進するようにドアへと走る。
鍵が開かない。あの時トレーナーはどうやっていたのか、開け方がわからない。押し破ろうとしても、まるでびくともしない。オンボロなのは見た目だけで、作りは異常にしっかりしている。
やがて足音が聞こえてきた。今ほど自分の耳の良さを呪ったことはない。
ドアから離れて反対側へ、なるべく遠くへ逃げ続ける。隠れられそうなのはあのクローゼットだけ。袋小路とわかっていても、本能的に逃げ込んでしまった。 - 9二次元好きの匿名さん21/10/21(木) 00:19:35
流れ変わったな
- 10二次元好きの匿名さん21/10/21(木) 00:20:06
薄暗い密室の中で、息を殺して足音を聞く。
これからどうなるのか。「1番」と同じように数年間閉じ込められて……その後は?
何もわからない。呼吸が苦しい。
指先が床の小さなでっぱりに触れた。ちょうど鎖を通せそうな穴だ。自分が「2番」としてこの家に繋がれる様を想像して、テイオーは全てを諦めた。
目を閉じるとトレーナーが近づいた感覚がはっきりしてくる。もう数歩できっとドアの前だろう。
足音の中に、じゃらり、と鎖の音が聞こえた気がした。
“テンプレ的に病んだテイオーとトレーナーの束縛にまつわるSS” - 11二次元好きの匿名さん21/10/21(木) 00:20:41
- 12二次元好きの匿名さん21/10/21(木) 00:22:51
- 13二次元好きの匿名さん21/10/21(木) 00:23:10
振れ幅広すぎる
- 14二次元好きの匿名さん21/10/21(木) 00:24:01
地球を縦に一周するぐらいの温度差!
- 15二次元好きの匿名さん21/10/21(木) 00:27:53
- 16二次元好きの匿名さん21/10/21(木) 00:32:13
俺は実はアニメしか観てなかったけど、この画像見てアプリやることに決めたわ
- 17二次元好きの匿名さん21/10/21(木) 08:24:56
あーなるほど、
「病んだ」と「束縛」がどっちにもかかってるのかw
精神で攻めるテイオーと物理で攻めるトレーナー、バランスの取れた名コンビだな! - 18二次元好きの匿名さん21/10/21(木) 08:32:16
面白い