- 1二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 19:15:01
- 2二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 19:30:14
「シリウス、ヤバい、めっちゃ腹痛い。なんで?」
「知らねェよ。拾い食いでもしたか?」
「せんわそんなこと。水しか飲んでない」
「……お前水道水飲んだんじゃねェだろうな?」
「ダメなの?」
「お前なァ!日本以外で水道水は危ねェっつったろ!」
「そうなの?マジで?」
「あちょっとトイレヤバい」
「……どんだけアホなんだアイツは」 - 3二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 19:38:05
「うおおおお!!本場のバーガー屋さんですよ皆さん!」
「誰目線なんだよ」
「……お前何サイズ頼んだ?」
「もちろんL!」
「お、来たよシリウス!」
「……デカすぎん?」
「本場をナメすぎたな、トレーナー」
「俺今からこれ全部食うの?」
「そりゃそうだろ、自分で頼んだんだからな」
「俺が爆発しそうになったら止めてね」
「まぁ、応援くらいはしてやるよ」 - 4二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 19:40:21
かわいいなこのjapanese trainer…
- 5二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 19:53:35
「お、路上ミュージシャンだよシリウス」
「なんで洋楽って全部かっこいいんだろうね」
「お前は雰囲気だけで楽しンでるからじゃねェのか?」
「まぁ、否定はできない」
「歌詞調べたらめちゃくちゃエロくてビビったことあるもん」
「なぁ、せっかくここまで来たんだ、ちょっとは勉強したらどうだ?」
「いや、俺は日本人だから」
「なンの意地だよ……」 - 6二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 20:02:39
「まさか異国の地で迷子とは…」
「変な感じ!このひとりごとも誰も理解してないんだ。ちょっと悲しい」
「どこいっちゃったんだよシリウス…」
「Excuse me.」
「え!?やべぇ!えーと……あの、その」
「……やるしかねぇ!NINJA!SAMURAI!Sushi!tenpura!」
「HAHAHA!Brother!Year!goodbye!!」
「……なんとかなるもんだなぁ」 - 7二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 20:16:36
「よし、慣らしも済んだろ。明日からはいよいよパリだ」
「英語すら分からんのにフランス行って大丈夫?」
「私がいるだろ。向こうでも通訳してやるよ」
「マジ?ありがとうシリウス!」
「ハッ、私がいない時は自分でなんとかしろよ?」
「ずっとついてまわるわ」
「やめろ。鬱陶しい」 - 8二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 20:24:01
「あれが凱旋門?はあッ!地獄の凱旋門──ッ!!」
「やめろ恥ずかしい。ほら、早速取材陣がお出迎えだ」
「日本の漫画わかるかな?」
「レースの話しろよ……」
「じゃあ通訳よろしくね!シリウス」
「ああ」 - 9二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 20:31:21
「当日はどのようなレース展開にしたいですか?ってよ」
「あぁ〜。なんかこう、グワッ!と行きたいね。グワッ!と」
「そんな抽象的な表現はできねェ」
「がんばります、って言っといて」
「はいはい」
「疲れたなぁシリウス」
「まさか知らん言語で問いかけられるのがあんなに怖いことだとはね」
「でも勉強する気はねェんだろ?」
「俺は日本人だからね」
「郷に入っては郷に従え、って言うだろ?」
「でも俺は……日本人だし……」
「わかった、わかったよ。」
「まったく、困ったトレーナーだ」
「これじゃどっちが面倒見てるのかわからねェ」
「頼りにしてるよ、シリウス」
「……ああ」 - 10二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 20:57:49
「これが欧州の芝かぁ。どう?いけそう?シリウス」
「関係ねェな。どんな馬場でも勝ってやる。安心してな」
「心強いなぁ」
「勝つよ、シリウス」
「……当たり前だろ」
「やあ!君がシリウスシンボリかい?」
「あ?」
「私はオベイ。オベイユアマスターだ!よろしくね!」
「……ああ、もちろん知ってるぜ」
「ハッ、元気いっぱいじゃねェか。安心しろ、お前も負かしてやるよ」
「おお、ロックだね。怖い怖い」
「ところで、そこのトレーナーくんはなんで泣いてるんだい?」
「日本語……久々の日本語だ……」
「よろしくなぁ、オベイ!出来ればたくさん話しかけてくれ!このままだと日本語忘れちゃいそう」
「ははっ!面白い人だ」
「それじゃあね!わたしもトレーニングの時間だ」
「……めんどくさそうなのがでてきたなぁ、シリウス」
「ああ。だが、私は負けねェ」
「信じてるよ、シリウス」 - 11二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 03:02:45
「やべぇ!なんか車支給されたんだけどさ!!左ハンドルだコレ!!」
「初めてなのか?」
「産まれて初めて!日本で左ハンドルって言ったら高級車じゃんね」
「うわぁ〜。ちょっと感動」
「とりあえず会場まで運転してみるね」
「事故ンなよ?」
「もちろんめちゃくちゃ安全運転する」
「アクセルどっち!?動かんけど!」
「こっちだアホ!」
「擦る擦る!ヤバい!」
「車体が左に寄りすぎだ!左ハンドルなんだから右に寄るイメージしろ!」
「シフトレバーがないよ!シリウス!」
「逆だ逆!右側にあンだよ!」
「おい、話がある」
「ごめんなさい……」
「慣れてないんならそう言え」
「すいません……」
「はぁ〜〜。お前が謝ることじゃねェよ」
「ほら、もう一周だ。本番に事故られちゃ目も当てられんからな」
「えっ?」
「お前が左ハンドルに慣れるまで付き合ってやるって言ってんだよ」
「……シリウスお前、ガチで優しいのな」
「もっとそういうとこ出せばいいのに」
「面倒事が増えるだけだ。それにお前にはトレーナーしてもらってる恩があるからな」
「ほら、早く車出せ」
「ありがとう!シリウス!!」 - 12二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 04:14:07
「あ、オベイちゃんだ!」
「シリウスのトレーナーくん!どしたの?」
「いやね、ちょっと散歩してんのよ」
「ここはいっつも散歩日和だなぁ」
「いい所だろう?欧州は」
「めっちゃいいわ。正直羨ましい」
「……あれ?オベイちゃんアメリカ産まれじゃないの?」
「そうだよ。でもここには因縁がある」
「ああ、確か、デビューが欧州だったね」
「そう、あの時は全然勝てなかったよ。デビュー戦もボロ負けだった」
「だからここでの大一番、凱旋門賞。それには絶対に勝ちたいんだ」
「欧州で勝ちたいんだね。まあ確かに、負けっぱなしは気持ち悪いよな」
「そうそう、そうなんだよ。ロックだろ?」
「すげえ、オベイちゃんめちゃくちゃ日本語イけるじゃん」
「でしょ?頑張って勉強したからね!」
「めちゃくちゃすげえ」
「俺も外国語勉強しろって言われてるんだけどさァ。まずやり方からわかんないのよね」
「シリウスは小さい頃から世界飛び回ってて話せるようになったらしいけど、俺ずっと日本だし」
「シリウスの負担は減らしてやりてぇけどなぁ〜」
「わたしが教えてあげようか?」
「マジ?」
「マジだよ。フランス語と英語しか教えらんないけど」
「マジかぁ。ちょっとお願いしようかな」
「しゃあこれ、わたしの連絡先。なんかあったら連絡してね!」
「おお、俺のも渡しとくよ。ありがとうオベイ」
「どういたしまして。ふふっ、これでオトモダチだね」
「おお、よろしくな」
「Yes!よろしくね!」 - 13二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 04:34:09
「おい、最近オベイユアマスターと会ったか」
「え、なんで分かるの」
「見りゃわかる。お前ああいう女好きだろ」
「身長も乳もデカい、闇抱えてそうな女」
「いや、まあ、その…………はい」
「いやでも!そういう目では見てないよ!?信じて欲しい!」
「さァどうかな。私を差し置いて、他のウマ娘に鼻の下伸ばしてるとは。恐れ入ったよ、トレーナー」
「違うんだよシリウス、これには事情があってね?」
「うるせェ。話しかけんな変態トレーナー」
「ああ、明日からの練習も来なくていい。全部自分でやるからな」
「お前が考えたメニューなんぞ当てにならん」
「……ごめんねシリウス」
「私の名前を軽々しく呼ぶな」
「……あの、話を聞いて欲しい…です」
「なんだ?」
「その、俺は、シリウスが一番だと思ってて、それで」
「ああもう!うるせェなぁ!」
「私はもう出ていく。着いてくンなよ?浮気トレーナー」
心がガラス細工のようだ。今すぐにでも壊れてしまいそうな、でも美しくて、壊したくない、トレーナーとの、たくさんの思い出。私が今まで、大切に、壊さないように扱ってきたものを、コイツは雑に、扱いやがった。まるで私がばかみたいじゃないか。反省しているのはわかる。だけど、許す気にはなれそうもない。結局アイツも、私を捨てるんだ。こんな想いをするのなら、いっそ自分から─── - 14二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 05:07:34
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- 15二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 05:16:40
外に飛び出した私の後ろを、トレーナーは無言で着いてくる。気がつけば、エッフェル塔の近くまで来てしまっていた。
「着いてくンなって、言ったよな?」
「そんなことできるわけないじゃん……」
「〜〜!!なんなんだ!!!お前は!!何がしたいンだ!?」
「……シリウスと仲直りがしたい」
「ッ……!!」
「言い訳くらいさせてくれよ…」
涙ながらに、トレーナーが訴える。このまま涙を拭って、抱きしめてやりたい。前に私が、そうしてもらったように。だけど、コイツのことを想えば想うほど、私以外のウマ娘とよろしくやってたことが許せない。
許したい自分と、許せない自分がいる。どうすればいいのだろう。そんな中、トレーナーがひとりごとのように、ぽつぽつと話し始める。
「シリウス、俺がオベイと連絡を取ってる理由は、オベイに外国語を教えて貰うためなんだ」
「ほら、通訳とかシリウスに任せっきりじゃん?だから」
「シリウスにはレースだけに集中して欲しいし、その、シリウスの負担を、少しでも減らせたらなって思って、内緒で勉強してたんだ」
「でも逆にシリウスのこと、不安にさせちゃったみたい……」
「ごめんね、シリウス。最初から全部言っとけばよかった」
「黙ってた俺が悪かった」
「許してとは言わない。けど、これが本当の話」
「……それじゃあ、俺戻るから。気をつけてね、シリウス」 - 16二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 16:06:43
保守
- 17二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 16:10:48
待ってたよ
- 18二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 23:22:41
せつねぇ~
- 19二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 02:34:38
「……待て!」
とっさに、トレーナーを呼び止める。正直、どうしたらいいのか分からない。だけど、このまま別れるのはダメだ。ここで呼び止めなかったら、一生後悔する。そんな気がした。
「トレーナー、待ってくれ……」
言葉が続かない。
「トレーナー……」
情けない。ごめんの一言が、言えない。コイツは、ちゃんと謝ってくれたのに。こっちも勘違いして、ごめんな。たったそれだけの言葉が、喉につっかえて出せない。そもそも、勘違いさせたのは向こうじゃないか、私が謝る必要は無い。そんな意味の無い意地が、私の頭を何度もよぎる。そんな自分が嫌になる。いっそこのまま、私と離れた方がコイツは幸せなんじゃないか。こんないじの悪いひねくれたウマ娘なんかより、もっといい娘がいるんじゃないか。私の嫌な部分が私の頭の中をぐるぐると回り、立ち尽くしたまま、うつむくことしか出来ない。そんな私を見かねたのか、トレーナーがこちらへ歩いてくる。ああ、きっとこのまま、お別れなんだな。心の何か大事な部分に、ヒビが入っていく感覚。二度と後戻りできない時の、あのふわふわした感覚。脳が痺れて、何も考えられない。そんな私の頭に、ぽん、と手を置いて、トレーナーが話し始める。 - 20二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 03:04:34
「シリウス、悪いのは俺だ。謝って済む問題じゃないけど、ごめんな」
「シリウスは何も悪くない。何も悩む必要は無い」
「悩んじゃダメだ。いらないものは切り捨てて、前に進むんだ」
「そうじゃないと凱旋門は勝てない。俺の、トレーナーとしての最後の意見だ」
「いらなくなんかねェ!!」
気がつけば叫んでしまっていた。
「最後だなんて言わないでくれよ……」
「シリウス……」
ずっと一緒だって、言ってくれたじゃないか。言えなかったあの言葉、今なら言える。今しかない。意外とすんなりと、それは私の口から出た。
「……トレーナー、ごめんな」
「私も、意地張ってた」
「事情知らなかったとはいえ、酷いこと言っちまった」
「許してくれ……」
「こっちこそ、ごめんな」
「最初にシリウスに相談するべきだった。大人として、トレーナーとして、配慮が足りてなかった」
「本当に、申し訳ない」
お互いに謝ったが、まだ足りない。ケンカした分、もっとトレーナーを感じたい。
「トレーナー」
「どうした?」
「ハグしてくれ」
「……わかった」
トレーナーが、ぎゅっ、と抱きしめてくれる。私も強く、抱きしめ返す。お互いの存在を確かめ合うように。そして、トレーナーの匂いに包まれる。優しくて、ちょっとタバコ臭い、いつもの匂いだ。だんだんと気持ちが落ち着いてくる。 - 21二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 03:12:32
「おい」
「ん?」
「勉強してどこまで喋れるようになったンだ?」
「なんかね、数字が、アンとかドゥとか。そんな感じ」
「……それだけか?」
「うん」
「挨拶とか日常会話はできるか?」
「いや、まだまったくできません」
「…………ハッハッハッ!!」
「……ふふっ!あはははッ!」
自然と、今までの分を取り返すように笑みが溢れる。やっぱりまだ、コイツには私が必要だ。そして私にも、コイツが。
ライトアップされたエッフェル塔とパリの夜景が、私とトレーナーを優しく照らしていた。 - 22二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 04:04:34
「おはよう、シリウス」
「ああ、おはよう」
あのあと私たちはホテルに戻り、同じベッドで一緒に寝た。動揺するトレーナーを少しからかってやると、とてもいい反応をしていたのが面白かったなぁ。やっぱり、仲直りしてよかった。 - 23二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 04:12:29
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- 24二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 04:18:40
「シリウス、今日から最終調整だよ」
「分かってる、いよいよ来週だ。気合い入れて行くぞ」
「おうよ!」
国際レースの最高峰、凱旋門賞。去年私が、いいとこなしで終わったレース。今回こそは、絶対に勝つ。あの雪辱を晴らすんだ。
「今回は前回よりも荒れそうだもんなぁ」
「リベンジのシリウス。欧州に名を刻みたいオベイ。二連覇をかけたダンシングブレーヴ」
「気が重ぇ〜〜」
「ダンシングブレーヴの練習みた?あれほぼ拷問でしょ」
「オベイは練習風景全然見れんかったけど、ジャパンカップ見るに相当ヤってるよ、あれは」
「だが、私達も負けてねェ」
「うん。シリウス頑張ってるもんね」
「いや、お前もだよ。トレーナー」
「フツーこんなとこまで着いて来ないぜ?」
「だってシリウスのこと好きなんだもん。しょうがないよ」
「一緒にいるって約束もあるしね」
「ハッ、じゃあとことん付き合って貰うぜ?」
「望むところだよ、シリウス」
「じゃあコースに行きますか!」
「ああ、ちゃんとしたメニューじゃなかったら承知しねェからな」
「ふふっ」
「何が可笑しい」
「いや、いつものシリウスだなって」
「……なんだそりゃ」
凱旋門まで、一週間。心機一転、最後の追い込みに向かう。 - 25二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 12:45:56
保守します!!!
- 26二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 19:14:55
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- 27二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 21:05:25
「見てシリウス!葉巻!」
「どうした急に」
「いや、こっちじゃあんまタバコ吸えんからさぁ、葉巻買ってみたのよ」
「俺の人生初葉巻見ててくれ」
「もう今の時点で似合ってねェけどな」
「きびし」
「じゃあちょっと離れててね。煙出るから」
「わかってるよ。それよりお前やり方知ってンのか?」
「調べてます!まずは先端を切ります!」
「…………むずくね?」
「見てらんねェな」
「……よし切れた!見てシリウス!」
「見てるから。続けろ」
「咥えます!」
「やっぱり似合ってねェなァ」
「マッチで火を付けます!」
「イキるな。ライターでいけよそこは」
「あのな、こういうのは雰囲気が大事なのよ」
「……おお付いた!やべぇ!俺葉巻吸ってるよ!」
「良かったな。で?感想はどうなンだ?」
「あんま美味しくない」
「おいおい……」
「これの後にタバコ欲しくなる」
「意味なくないか?」
「いーや。あるね。いい経験できた気がするわ」
「次はキセルいこうかな」
「……楽しみにしといてやるよ」 - 28二次元好きの匿名さん22/10/19(水) 00:53:11
「うおおお!!このカーブでキメる!」
「調子に乗って事故起こすなよ?」
「大丈夫、左ハンドルめっちゃ練習したもん」
「まぁ今日で乗り納めなんだけどね」
「ああ、ついに凱旋門本番だ」
「この道も最後かぁ」
「ぜってェ勝つぞ、トレーナー」
「ああ。負けんぜ、お前は……」
「お前はもうちょっと気を引き締めろよ……」
「いいじゃん別に!あとはもうやるしかないよ」
「そうなんだが……なんかなぁ」
「お、着いたよ」
「じゃあ行くか。私の走りを、世界に見せつけてやる」
「その意気だ、シリウス」 - 29二次元好きの匿名さん22/10/19(水) 01:38:59
「控え室広くね?」
「まぁこんだけデカいレースだったらな」
「というかシリウスの勝負服久々に見たなぁ」
「そうかァ?」
「うん。似合ってるよ、シリウス」
「オーダーメイドだからな。どうだ?よれたりしてないか?」
トレーナーの前でくるりと一周回る。
「あ〜、大丈夫。キメキメだよ」
「改めて見たらすごいかっこいいなぁそれ」
「どういう意味だ?」
「いや、スーツみたいで好きだわ。それ」
「こういう時じゃないと見れないのもね、レア感出てる」
「そりゃどうも。それなりの態度でお願いすれば、いつだって見せてやるぜ?」
「おお、太っ腹じゃん」
「もうそろそろプライドを取り戻した方がいいぞお前……」
「ん。そろそろだな」
そう言って、手袋をはめ直す。
「おお、それかっこいい。手袋キュッてするやつ」
「気合い入れてンだよ」
「じゃあ俺からも」
トレーナーから、背中をばしんと叩かれる。
「ぶちかましてやれ、シリウス」
「ハッ、言われるまでもねェよ」 - 30二次元好きの匿名さん22/10/19(水) 03:00:17
コースへの出場口。体が震えている。いよいよだ。
「大丈夫か?震えてんぞシリウス」
「武者震いだよ。心配すンな」
「もしかして緊張してる?」
「するわけねェだろ」
「……今日はいつもより口数が少なかった」
「いつもはコーヒーに砂糖を三つ入れるのに、今日は二個だった」
「右奥歯からじゃなくて左奥歯から歯を磨いてた」
「何が言いてェ」
「他にも沢山あるけど……」
「シリウス、緊張してるだろ」
全部見られていた。自分でも気づかないほどの、小さな動揺。バレたのなら、仕方ない。正直にうち明ける。
「……ああ、緊張してる」
「しねェ方が、おかしいだろ。想いも、覚悟も、何もかもをここにつぎ込んで来た」
「また、掲示板外になんてなりたくねェんだ……!」
「ははっ、弱気だなぁ」
「いつもなら一着目指すとこだろ?」
「……お前にはお見通しか」
「正直、緊張してるし、ビビってる」
「オベイユアマスターにもダンシングブレーヴにも、勝てるビジョンが見えねェ」
「クソッ、私らしくねェ」
「まぁ、緊張しない方がおかしいよね、ここは」
「だからね、シリウス」
「俺からシリウスに、緊張を解す魔法をかけてあげるよ」
「魔法だァ?」
「うん、魔法」 - 31二次元好きの匿名さん22/10/19(水) 03:20:58
このレスは削除されています
- 32二次元好きの匿名さん22/10/19(水) 03:22:03
「こっちみな、シリウス」
トレーナーの方に顔を向けると、そこには満面の笑みが広がっていた。
「シリウス、レースを楽しむんだよ」
「キツい練習してきてるのは、みんな同じなんだ」
「だから、誰が勝つかなんてのは誰にも分からないし、そこがレースの醍醐味になるのよ」
「だから、楽しめ!」
「こんなすごいコースで、すごいメンツで、世界中に注目されて走れてるんだって、自信持って、笑顔で行け!」
「言うだろ?楽しんだもん勝ちって」
「そういうこと!」
「あとはもう、なるようにしかならん」
数瞬、呆気にとられる。そして、自然と笑いが出る。
「ハッハッハッ!なんじゃそりゃ!」
「魔法なんて言うから何すンのかと思ったら、ただ発破かけるだけとはなァ!」
一通り笑い終えてから、気づく。
「……でも、肩の力は抜けたよ。ありがとな、トレーナー」
「そりゃあ良かった」
「……でもねシリウス」
「さっきの話を踏まえた上で、言わせてくれ」
トレーナーが深く息を吸い、真剣な顔で叫ぶ。
「絶対に勝ってくれ!!!シリウス!」
「お前が一番だ!!俺、応援してるから!」
ハハッ、やっぱりコイツは、最高のトレーナーだ。
「……おう。よォく見てな、私の走りを!」
暗い通路から光の射すコースへ、迷いなく進む。ありがとう、トレーナー。 - 33二次元好きの匿名さん22/10/19(水) 14:46:30
- 34二次元好きの匿名さん22/10/19(水) 15:34:56
良い...
- 35二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 00:32:35
もう踏み慣れた欧州の芝と、大歓声が私を出迎える。既に、他のウマ娘達は出揃っているようだ。その中から、目当ての相手を見つける。
「オイ、お前。お前だよ。ちょっとこっち来い。」
「ん?どうしたの?シリウス」
「馴れ馴れしく呼ぶな。オベイコラてめェ。うちのトレーナーに色目使いやがって。お前だけは叩き潰してやる」
「おおこわい。色目使った気はないんだけどなぁ」
「単純に善意だよ。あれは」
「シリウスは純愛が好みかい?意外とかわいいとこあるんだねぇ」
「よォ〜くわかったよ。てめェは気に入らねェ。覚悟しとけ」
「ふふっ、楽しみにしてるよ」
その時、ゲート入りの指示が出る。本当はダンシングブレーヴにもアイサツしときたかったが。仕方ない。
ゲートに入ると、実況と共にファンファーレが鳴る。 - 36二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 01:42:10
『さあ、いよいよ始まります!凱旋門賞!!』
『三番人気はこの娘、シリウスシンボリ!』
『リベンジのために日本から弾丸ツアーを決行!去年の借りは返せるのか!?』
『僕は練習見ましたけどね、見違えるほどでしたよ、彼女。もしかしたらもありそうです』
『続いて二番人気!オベイユアマスター!』
『謎の多い彼女ですが、果たしてどのようなレースを見せるのか!?』
『ジャパンカップを見る限り、相当強いですよ。期待できそうです』
『そしてもちろん一番人気はこのウマ娘、ダンシングブレーヴ!!』
『二連覇をかけた大勝負!気合いも調整もバッチリといわんばかりの顔です!』
『やはり彼女からはなんかこう、風格というか、格の違いみたいなものを感じますね。大いに期待ができそうです!』 - 37二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 02:22:12
いよいよ始まる。私の大一番。大きく深呼吸をし、身体をリラックスさせる。こうなったらもう、自分との勝負だ。今までで一番の走りを、見せつけてやる。
スタートポーズをとる。永遠とも取れる数瞬の後、ゲートが開く。
『さあついに凱旋門賞スタートです!!!』
私は今回先行策を選んだ。まずは良い位置を狙う。なんとか先頭集団の中辺りにつくことができた。が、周りにはオベイもダンシングブレーヴもいない。思いっきり差してくるつもりだ。後方から常に圧を感じる。油断するとそのまま飲み込まれてしまいそうな、闇のような圧。その圧から逃げるように走っていると、早速登り坂に差し掛かる。高低差は10m。確実にスタミナを奪ってくる。前回はここで息が切れ始めていたが、練習のおかげか、思ったよりもロス無く坂の上まで到達する。ここから少しづつ、コースが牙を向いてくる。ここからは下り坂になっているコーナーを曲がらなければならない。少しでもミスれば、脚が潰れる。少し速度を落としつつ、コーナーを曲がる。ふと、後ろからの圧が強くなっていることに気がつく。既に先頭を捲るために、後方に待機していたウマ娘達が徐々にギアをあげてくる。そうしてコーナーを曲がりきると同時に坂もくだりきる。ここからは、フォルスストレートと呼ばれる直線に入る。最終直線のように見えて、そうでは無い。ここの後に、本物の最終直線があるのだ。ここではガマンだ。踏み込みたい気持ちをグッと抑え、ついに本物の最終直線。運命の、530m。に入った途端、私の横を一つの影が抜けていく。 - 38二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 02:44:54
……オベイだ。今まで温存していた脚を存分に使い、既に先頭に追いつこうとしている。モタモタしてると、このままレースが終わっちまう。呼応するように私もスピードを上げる。二人横並びでトップに躍り出る。残り400。ここで、もう一人。最後方から、とてつもないスピードで、隙間を縫うようにダンシングブレーヴが追いついてくる。相変わらず、イカれた末脚だ。ついに三人が並ぶ。横一直線だ。全員が、絶対に負けられない勝負。ここで、なぜか私の視線がゴールから外れる。脚は悲鳴をあげていて、そんな余裕ないはずなのに。外れた視線、その先には、トレーナーがいた。少しの時間だったし、結構離れていた。だが確実に、トレーナーと目が合ったのだ。瞬間、なぜか気力が湧いてくる。今までの思い出が、走馬灯のように頭をよぎる。そして、自分のことばかりで忘れていた。レース前に言ってくれたこと。今になってわかる。大事な気持ち。残り300。全員がラストスパートをかける。全員が限界を超えている。
「ハッ、見とけよ。トレーナー」
その中で、私だけが笑っていた。 - 39二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 03:06:18
一番内にオベイ、外にブレーヴ、真ん中に私。この並びで、最後の競り合いが始まる。一人を抜いてはもう一人に抜き返され、また私も抜き返す。残り200。私以外の二人が、少しだけ先に出る。負けじと、もう感覚のない脚を回す。勝つと言う想いだけで、身体を無理やり動かす。なんとか二人に追いつく。残り100。最後の力を振り絞る。ひたすら前に、前に。視界には誰も映っていない。だが自分が先頭なのかも分からない。次の瞬間、抜かれているかもしれない。ゴールが目の前まで迫る。未だ三人横並び。
「───いけェ!!!!シリウス!!!」
「ああああああああ!!!!」
倒れ込むようにゴールへ突っ込む。息も絶え絶え。少し進んだところで、実際に倒れてしまう。仰向けになり、空を仰ぐ。水の中にいる時みたいだ。実況も、歓声も、くぐもって聞こえる。トレーナーが駆け寄って来てくれる。よく分からないが、心配してくれてる様だ。肩を借りて、なんとか起き上がる。だいぶ息が落ち着いてきた。トレーナーに、大丈夫だと伝える。……そうだ。着順は。レースの結果は。トレーナーと一緒に、掲示板を見る。そこには────。 - 40二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 14:08:42
『一着はダンシングブレーヴです!!見事二連覇を成し遂げました!!』
『二着はオベイユアマスター!続いてシリウスシンボリです!』
「ははっ。勝てなかったなぁ、シリウス」
「……そうだな」
「悔しいか?」
「ああ、悔しいよ。デカい口叩いて負けちまったからな」
「……そうか」
「でもな、トレーナー」
「このレースは、楽しかった」
勝てなかったのに、なぜか清々しい気持ちだ。何も後悔はない。とびきりの笑顔で、トレーナーに伝える。
「楽しかったし、満足だ!」
少しだけ驚いた顔をしたあと、トレーナーも笑う。
「……そりゃあ良かった!!」 - 41二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 01:57:10
「おい!またグダるじゃねェか!早くしろ!」
「ごめんてシリウス。飛行機まだ慣れてないのよ」
「言い訳はいい。早くしろ。遅れる」
「すいません」
「なんとか間に合ったなぁ」
「ほぼお前がモタモタしてたせいだけどな」
「さっきからどしたのシリウス?ご機嫌ななめ?」
「いや、凱旋門の時のこと思い出してな」
「満足だって言ってたじゃん」
「そのあとだよ。レースが終わったあとの、オベイの勝ち誇ったような顔!」
「思い出すだけで腹が立つ」
「だからって俺に当たらんでもよくない?」
「うるせェ。お前がまだオベイの連絡先消してないの知ってるんだからな」
「あぁ〜、拗ねちゃってるんだ」
「でも大丈夫でしょ。日本に戻ったら物理的に会えないし」
「まぁ、そうだけどよ…」
「気になるんなら消そうか?」
「いや、いい。残しとけ。後々役に立つかもしれん」
「……素直じゃないなぁ、シリウスは」
「それにしても日本かぁ、すごい久々な感じ」
「実際久々だからな」
「……長かったなぁ。けど、あっという間だった」
「……そうだな」
「おお、雲の上だ。これだけは慣れねぇなぁ」
「お前なぁ…… はァ〜〜。私にも見せろ」
「ん。いいよ。こっちおいで」
眼下には、どこまでも、雲海が広がっていた。 - 42二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 02:14:07
〜空港〜
「に・ほ・ん!に・ほ・ん!」
「すし!天ぷら!おでん!早く食いてえ!」
「おいおい、はしゃぐな。走るな。踊るな。私まで白い目で見られるだろ」
「でもぉ〜……」
正直、久々の日本で私も少し浮かれている。
「この後にインタビューが山ほど待ってンだ。気ィ引き締めろ。その後に嫌という程食わせてやるよ」
「シリウスの奢り!?」
「ンなわけねェだろ。アホ」
「はい……」
「シリウスは何食べたい?」
「……お前に任せるよ」
「マジで!?いっぱい食べようね!」
「だから何を食うンだよ……」
「なるべく早くインタビュー終わらせてくれ、シリウス!」
「わかってるよ。私だって苦手なんだ、アレは」
「お、早速取材陣だ」
「三着のこと言われてもキレるなよシリウス。絶対だぞ?」
「ああ。お前の方こそな」
「俺そんなガキじゃないよ!?」
「私もだよ!」
「……じゃあ、行くぞトレーナー」
「……う〜い」 - 43二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 05:01:18
相変わらずスゴい情熱と文章量……面白い!シリウス可愛い!
- 44二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 05:03:50
すげぇ…良かった…
- 45二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 09:24:48
kawaiiトレーナー
- 46二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 11:32:07
「結構あっさり終わったなぁ」
「何があっさりだ。結局三着のこと言われてキレてたくせに」
「あれは聞き方が悪いよ〜」
「確かにな」
「……」
「……」
「ねぇシリウス」
「ずっと気になってたこと聞いていい?」
「……なンだ?」
「お前これからどうすんの?」
「どうすんのって……どういうことだ?」 - 47二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 12:06:06
「いや、シリウス卒業してからすぐ海外行ったじゃん?」
「で凱旋門終わって、今帰ってきたとこだけど」
「大学とか行くのかなって」
「というか家あんの?」
「トレセン学園の寮も使えないし」
「なんか生活のアテあんのかなって」
「…………」
言われてみれば、帰る家がない。父親とは縁切ったし。母親はどこにいるか分からない。寮も使えない。どうしよう。
「やっぱりない感じ?」
「………………ああ」
「じゃあウチ来る?」
「は?」
「いや、嫌なら別にホテルとか取ってもらってね、全然構いません」
「これは、シリウスと離れたくないっていう俺のワガママだから」
「ハッ、教え子を家に連れ込むとは。なかなかやり手だな、トレーナー」
「そういうつもりじゃないんだけどなぁ…」
でも、コイツと離れたくないのは、私も同じ。
「……案内しろ。とりあえずお前の家に転がり込むことにするよ」
「……わかったよ、シリウス。海外行く時に時社員寮引き払っちゃってるから、新しいとこ契約してんだよね」
「時間なかったからダンボール山積みだけど」
「帰ってからも忙しいじゃねェか」 - 48二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 12:07:44
「着いたよシリウス」
「ああ、前とあんま変わってねェなァ」
「けど新築だよ。中すごいキレイだった」
「まぁ入ろう。ただいま〜〜〜〜!!!!!」
「めっちゃ声響くわ!すげぇ!」
「はしゃぎすぎだろ」
「……お邪魔します」
「いや、違うだろシリウス」
「……ああ、そうだったな」
「────ただいま」
「おう、おかえり、シリウス」 - 49二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 12:07:54
おわり
- 50二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 12:18:29
えがった...
- 51二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 19:17:08
書いてくれたことにただ感謝を
- 52二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 19:39:34
このトレーナーめちゃめちゃかわいいな
- 53二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 05:23:34
完結してしまったか……
いつも続きを楽しみにしてました
ありがとう - 54二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 11:58:49
- 55二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 20:49:15
このスレが終わっても、いつかまたSSを書く時はあなただと分かるようにして頂きたい
- 56二次元好きの匿名さん22/10/23(日) 00:11:59
頑張ります