リコリコ最終話if part3

  • 1二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 19:11:40
  • 2二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 19:13:17
  • 3二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 19:14:27

    元ネタ

    このコピペを参考におおまかなストーリーを構成しています

    コピペは↓に

    たきなが私に人工心臓を届けてからいなくなって一年…|あにまん掲示板bbs.animanch.com
  • 4二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 19:15:01

    そのコピペ⬇️
    テロップ(あの戦いから一年…)(延空木と旧電波塔のカット)
    楠木「ついに真島の隠れ家を特定した。太平洋上、仲間の支援を受けながら、タンカーで移動を繰り返している」(作戦室)
    千束「たきな、どこにいったの」(リコリコで窓の外を見ながら)
    テロップ(任務(ミッション)は…)
    クルミ「たきなの居場所がわかった」(押入の中でPC操作しながら)
    楠木「保護対象になっていた行方不明のリコリスと」
    (監視カメラの映像、テロの現場と黒髪の後ろ姿が映っている。振り返ってカメラを撃ち抜くたきな)
    楠木「見つけ出し」
    テロップ(錦木たきなを)
    テロップ、楠木「抹殺せよ」(バーン)

    主題歌(さゆり)君の手をどうのこうのと歌い出す

    サクラ「やっぱ人を殺す時にしか笑わないんすねぇ!」(肩から血を流すサクラと銃を向けるたきな)
    真島「最ッ高に面白い飼い犬だぜぇ!」(目に包帯を巻いた真島がニヤつく)
    フキ「ウチのアホに何吹き込みやがった。真島ァ!」(銃を構えてガチギレ)
    ミカ「たきなを救ってやってくれ」
    たきな「私はもうあなたの相棒じゃない」(暗い顔で睨む)
    千束「必ず、助ける」
    テロップ(必ず帰る)
    (爆発炎上するタンカー)(吹き飛ぶモブリス)
    フキ「ぜってぇ戻ってこい」(傷だらけのフキ)
    たきな「わたしの居場所は、どこにもない!」(炎の中銃を向けるたきなと棒立ちの千束と髪を掠める銃弾)
    千束(水族館や公園のデートシーン)「たきなは私を撃てないよ」
    テロップ(二人の場所に)
    千束「たきなああああ!」(爆炎の中から飛び出してジョンウィック撃ち)
    劇場版リコリス・リコイル(タイトルどーん)

    サクラ「このパフェ、ウンコっすねぇ!ぁいだっ!」(両脇から千束とフキに殴られる)

  • 5二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 19:16:38

    結局想定より長くなってpart3になりましたが、残りのプロットは本当に少しなので今度こそもう終わります
    保守、感想くださってありがとうございます
    完結までもう少しお待ちください

  • 6二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 19:17:55

    全裸待機しております

  • 7二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 19:18:10

    10までセルフ保守

  • 8二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 19:18:22

    します

  • 9二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 19:18:42

    ksk

  • 10二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 19:18:58

    gnsk

  • 11二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 20:46:45

    >>1

    「それ、何ですか?」

    「うん? 自作のゲーム、だな」

    「へぇー、佐賀さんってそんな趣味あるんですか」


     DAの休憩室。

     その一角で、若い男が話しかけてくる。

     手持ちの端末画面には、腕のついたデフォルメ姿の可愛らしい、潜水艦のキャラクターが泳ぐ姿が映っている。

     端末のレバーを動かせば、その通りに上下左右へ。

     プレイヤーの思い通りに動く、忠実なペットだ。


    「これはどうすればクリアなんです?」

    「探し物を見つけて回収すれば、条件クリアだ」

    「水中の探し物、っていうと宝物とか?」

    「宝物……そうだな、そうかもしれない」


     男の言葉は、当たらずとも遠からずというべきか。

     ある者にとってはそうでもないが、ある者にとっては宝にも見えるだろう。

     少しすると、端末から小さく「ぴこん、ぴこん」と音が鳴る。


    「おっ、宝物発見ですか?」

    「そうだな、これだ」

    「へえー、グラフィック凝ってますね」


     画面に映るのは、またデフォルメされた、小さな人間のキャラクター。


    「これ、宝物っていうか、人間ですよね」

    「宝さ、人の命は宝だ」

    「おお」

    「どんな機械も、AIも、それを作るのは人間だ。私はそれを宝だと思う」

  • 12二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 20:47:05

     科学の発展は著しい。
     いつか人工の知能はシンギュラリティを迎え、産みの親である人間たちさえも超越して、この世界を支配しうるかもしれない。
     そんな科学に頼りきって、いつか支配されるかもしれない人類たちにとって、この人間は宝に成りうる存在だと私は考える。
     世の均衡を、こよなく信仰する男。

    「佐賀圭人だな」

     突如、部屋に大勢の職員が踏み込んでくる。
     先頭に立つのは、司令官の楠木。
     両隣には、自動小銃を構えた兵士を引き連れて。
     若い男は驚き飛び退いて、身を竦めている。

    「これは楠木司令、随分と仰々しい。どうされました?」
    「佐賀圭人……いや、名前はないのだったな?」
    「……便宜上の呼び名があった方がいいでしょう」
    「抵抗はするな、ついてこい」

     両手をあげて、無抵抗の意思を示す。

    「私はラジアータのリストに載っていなかったと思いますが」
    「先ほど捕らえた真島一派の『青森アカネ』が吐いた。海外行きのチケットはもう必要ないぞ」
    「なるほど」

  • 13二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 20:47:28

     まさかあの戦いの中で生け捕りにしていたとは。
     現場のテロリストは残らず殲滅したと報告にあったはずだが。
     どこかにラジアータを通さない、極秘のルートがあったのだろうか。
     ラジアータさえ騙していれば、何のことはない連中だと結構のんきしていたが、私もまた表面上のデータだけで物事を判断する側の人間だったということか。
     人生は何があるのかわからない。
     錦木千束の言葉、月並みで深みのない言葉と思っていたが、案外真理なのかもしれないな。
     これから転勤してとんぼ返り、なんてことは絶対にないだろうが。
     深みといえば、一つ思い出す。

    「楠木司令。一つだけ、我が儘を聞いて頂けますか?」

     あの喫茶店のコーヒーは、実に味わい深いものだった。
     二度と味わうことはないだろう、コクの深い……。

    「コーヒーを一杯、いただきたい」
    「……それで知っていることを全て吐くとでも?」
    「お約束しますよ」
    「……検討しよう」

     テーブルの上に置いた端末は、まだゲームの画面を映している。
     人工の知能が人の手を離れ、自動で宝を水面まで運んでいく。

     私の仕事は、これで終わった。
    

  • 14二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 20:47:47

    一旦ここまで

  • 15二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 20:49:48

    やっぱり真島は生きてないとな、その程度で死ぬわけない

  • 16二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 20:54:58

    あこれ真島引き上げてんのか、鳥肌たった

  • 17二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 21:05:21

    オリキャラの繋げ方と消化の仕方よ…

  • 18二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 21:42:03

    これ真島かぁ…
    すご…

  • 19二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 22:18:54

    スーパーメカニックだけど機械やデータに頼る人間を見下して最後は自分も同じ機械やAIに頼ってたっていうのはすごく好き

  • 20二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 07:25:51

    age

  • 21二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 10:58:21

    >>13

    29.哀別


     目を覚まして最初に視界に入ったのは、知らない天井だった。

     真っ白なシーツと布団の上で点滴に繋がれ、右の肩は動かないように、腕をギプスで固定されていた。

     頭には顔半分を覆うように包帯を巻かれて、左目の視界がひらけることは、なかった。

     病院の一室。

     はっきりわかったのはそれだけで、そのほかの状況を理解したのは、DAの職員を引き連れた医者が病室にきて、説明を受けてからのことだった。

     ミズキのヘリで救助されたあと、千束とわたしは、急ぎ近くの病院に搬送されたらしい。

     当然、作戦区域を飛ぶヘリをDAが見逃すはずもなく、わたしには監視が付くことになったようだ。

     すぐに殺されなかったのは、わたしから国内外のテロリストや、闇商人の情報を聞き出すため。

     常に室内に誰かががいるような厳しい監視体制でないのも、わたしが休めるようにと店長が強く楠木司令に掛け合って、楠木司令もそれを飲んでくれたらしい。

     その分、院内には通常よりもカメラが多く取りつけられ死角は存在しなくなり、十分おきの短い周期で見回りが部屋を覗きにくる。

     室内に入ってくるまではしないが、扉の小窓から覗けば、ベッドの中にいるかどうかは確かめられる。

     そうしてしばらくは怪我の治療につとめ、ある程度まで回復し次第、DAに引き渡されて尋問を受ける。

     今後のわたしのスケジュールは……、

     ──それが、最後だった。



    

  • 22二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 10:58:39

     ベッドの上からガラスの窓越しに外の世界を眺めていると、ノックの音もなく病室の扉が開かれる。
     二名のスーツを来た男と、その先頭に楠木司令の姿。
     男たちは護衛だろう、病室の前に待機させられ、病室の中にはわたしと司令の二人だけになる。

    「気分はどうだ、井ノ上」
    「……良くはありません」

     形式的な挨拶から始まった面会は、この数週間で、わたしの数少ない人との繋がりだった。
     面会は当然ながら、司令以外は完全に謝絶。
     警備は部屋まで入ってこないで、小窓から顔を覗かせるだけ。
     監視の付いた状態で担当医が傷の具合を確かめに来て、看護師が食事を運んでくる。
     そうしたごく少数の決まった人員がローテーションして、わたしに会いに来るだけだった。

    「貴様の身柄を上層部に引き渡す日取りが決まった。今日から三日後の正午過ぎ、退院したその場で迎えが来て、即引き渡しを行う」
    「……」
    「その後の扱いは上層部に任せてある」
    「……」

     DAの上層部。
     司令よりも、さらに上の権限を持つ、事実上の国のトップ相当の存在。
     そこに引き渡されたあと、わたしは、

    「そこで尋問を行い、情報を吐かせた後……」
    「……」
    「処刑されるだろう」

  • 23二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 10:58:53

     当然の、帰結。
     今までわたしが重ねてきた罪を思えば、こうして今、少しでも生き長らえていることが、破格の温情とも言える。
     その気になれば、こちらの体調など知ったことかと、力ずくで連れ出して拷問にかけることもできるのだ。
     そう思えば、人と、少なくとも誰かと会話が可能な状況にあるだけ、自由にさせてもらっていると思う。
     会話といっても、医者に傷の具合を聞かれて答えたり、今のように形式的な報告に一言だけ返事を返すようなものだが。
     わたし以外の人間なら、もう少し気の利いた会話もするのだろうか。
     真島なら、洋画のように皮肉の混じった押収でも繰り広げるのだろう。

    「千束は……元気にしていますか」

     あれから……一度も会えていない、連絡することもできない彼女のことを尋ねる。

    「貴様に教える必要はない」
    「……そう、ですね」

     冷たく返される一言。
     当たり前か。
     千束の安否さえも確認できないまま、わたしは三日後にはここからいなくなる。
     この世界から、いなくなる。
     千束がいる、この……。

    「今日はそれだけ伝えに来た。私が貴様に会うのも、今日で最後だ」
    「……」
    「……なにか、言い残すことはあるか」

     遺言。
     それを聞いてくれるだけ、司令は情けをかけてくれている。
     それだけどころか、わたしがこれだけ静かに過ごすことができているのは、店長の頼みを楠木司令が聞き入れてくれたからだ。

  • 24二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 10:59:10

    「司令には、感謝しています」
    「そうか」
    「それから千束に……元気で、と」
    「……伝える義理まではない」
    「わかってます」

     ただ、それを知ってくれている人が、この世界に一人でもいるのなら、誰かの記憶に残るのなら、それでいい。
     それはわたしがここにいた証明。
     わたしが千束のことを想っていた証明。
     その相手が楠木司令なら、わたしが残すものとしては上等も上等ではないか。

    「……懺悔もあるなら、聞いてやるぞ」
    「……後悔は、あります」

     もっと……もっといい選択肢はどこかにあった。
     わたしはそれを取り零して、取り返しの付かない、決して戻れないところまで進んでしまったのだ。

    「ですが、それはわたしの責任です」
    「…………」
    「わたしが、背負うべきものです」
    「そうか……」
    「……ありがとう、ございます」

     ベッドの上から楠木司令へ向けて、腰を折って深く頭を下げる。
     それ以上は何も言ってこなかった。
     沈黙のまま数十秒ほど。
     司令は足を翻して、病室の扉に手をかける。
     そこで一度、立ち止まり、背中を向けたまま。

  • 25二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 10:59:26

    「たきな」
    「……はい」
    「……いや、なんでもない」

     それを最後に、司令は病室を出ていった。
     わたしに残された時間は、三日。
     それまでに会う人物は、もう担当医と看護師だけ。
     充分だ。
     司令は、伝言を伝える義理はないと言った。
     それは、伝える相手が健在だということ。千束は、無事だということ。
     少し遠回しだが、司令の確かな気遣い。
     それがわかっただけで、わたしが思い残すことはもうない。
     ベッドから降りて、窓を開けて、今度は外の世界を直接眺める。
     空には透き通った青とまばらな白い雲が広がり、爽やかな風が室内に吹き抜ける。
     こんなにも晴れやかな気分は、一体いつぶりだろうか。
     ずっと、忘れていた気持ち。
     沈んだままだった、心。
     この人生の最後に、また千束に会えて、また幸せな気持ちを取り戻せた。
     上等どころか、きっと最上に近い、わたしにはあまりにも贅沢なクライマックス。
     きっと千束は、気まぐれな神様がわたしにくれた、最高の贈り物。
     最後に、千束の命を守るために、真島を倒すための引鉄を引かせてしまったこと。
     それを直接、本人に謝れないことだけが、唯一の心残りかもしれない。
     でも、もう大丈夫。
     千束は生きたいと言ってくれた。
     この街で千束は生きている。
     この世界で千束は生きていく。
     この先、どんな理不尽が降りかかっても、千束は乗り越えていける、強い人だ。

     どうか、いつまでも元気で────。
    

  • 26二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 10:59:49

    
    「あの海域から引き上げた死体の中に、真島のものはなかったと」
    「捜索範囲をさらに拡大して探させていますが、やはり現在まで発見されたものの中に、真島のものはありません」
    「魚にでも食われたのではないかね?」
    「真島のものとおぼしきコートは見つかりましたが、その他に身につけていたものも、骨も、全く」
    「……やはり井ノ上たきなか。報告では錦木千束と共に真島にトドメを刺したというが、元は裏切って真島についていたリコリスなのだろう?」
    「井ノ上が、真島を逃がすための一芝居を打っていた、と?」
    「そうとしか考えられまい。やはり早々に拷問にかけるべきだったのだ。これだけの期間が経てば、真島はとっくにどこか遠くへ逃げおおせている」
    「そうでしょうか……」
    「何か言いたいことでもあるのかね、楠木くん?」
    「……いえ」

     DA本部に設けられた司令室。
     そこでリコリスとリリベル、両部隊の司令官が顔を付き合わせて、近況の報告を受けていた。
     真島・井ノ上たきな討伐作戦の後、全力の捜索をもってしても真島の死体を見つけることはできなかった。

    「青森アカネと佐賀圭人はどうなのだね」
    「両名とも既に知っていることは全て話したと」
    「それを、信じるのかね?」
    「少なくとも、青森アカネの方は、嘘はついていないかと」

  • 27二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 11:00:02

     どちらにもその気配はない。
     ラジアータの機能を用いた高精度の精神分析装置でも、嘘をついているようすは見受けられなかった。
     唯一怪しいのは、佐賀の持っていた機械の端末。あの男は宝物を回収するゲームだと言っていたが、佐賀を捕まえた時以降、画面に反応はない。
     解析班にも調べさせたが、アランチルドレンだというあの男が組んだ機械は、他に使われていない設計で、何のためのものかは判別できなかった。
     牢獄内での佐賀の態度も、落ち着いた調子を崩すことがないことから、まだ保留して調べる必要があるだろう。
     青森アカネは常に不機嫌で、口が軽く、待遇改善を訴えている。
     短いながらも、リコリスとして活動した期間があったことを評価しろ、という主張だった。聞くに値しない。

    「楠木司令! 虎杖司令!」
    「……何かね、会議中に騒々しい」
    「し、失礼します!」

     ノックもなく司令室の扉が開かれ、慌てた様子で職員が飛び込んでくる。
     虎杖が苛ついた様子で足を揺すりながら、その職員から報告を受ける。

    「い、井ノ上たきなが……病室から……」


    

  • 28二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 11:00:13

    




     ────風が吹き抜ける。
     白いカーテンをはためかせ、病室内に柔らかな空気が循環する。
     数刻前には人が一人寝ていたベッド。
     真っ白いシーツと布団に眠る者は、今は誰もいない。
     空になった病室に、優しいそよ風だけが、窓から吹き込んでいた。
    

  • 29二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 11:00:30

    一旦ここまで

  • 30二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 11:07:35

    「たきなと」千束が生きたいことを、たきなは分かってませんねクォレは……

  • 31二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 12:04:17

    前スレのラストからどうして…

  • 32二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 12:27:08

    最後だけ呼び方が一瞬だけたきなになるの楠木さん…

  • 33二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 12:43:57

    お目々も居場所も無くなってる…
    早く助けてちしゃと…

  • 34二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 12:51:11

    まぁクルミがいる時点でリコリコ組はたきなをみすみす殺させないわな…本人が望んでいたとしても

  • 35二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 12:54:45

    病室から抜け出すのは言うまでもなく13話の千束の逆だな…
    たきなが自分で逃げたかリコリコ組が誘拐したかだけど、たきなはあんまり生きるつもりなさそうかなぁ

  • 36二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 14:20:01

    真島の一本釣り
    これサルベージされる時の真島はどんな顔してたんだろうか?

  • 37二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 18:36:03

    >>28

     ・・・・・





     窓から吹き込む風が、病室内をぐるりと回って優しくわたしの体を包み込む。

     鬱屈とした気分など、微塵さえも残さずにさらっていって、心をどこまでも晴れやかに吹きさらしてくれる。

     口角が微かに上がるのを感じて、口許に指で触れると、笑っている。笑うのも、いつぶりだろう。

     一年前は、よく笑えていたな、と懐かしみながらベッドに戻り、布団の中に足を伸ばしてリラックスする。

     本当に、憑き物が落ちたような気分。

     全身が軽い。

     これで本でも読めたら、きっと病院にありふれた、昼下がりの午後の光景にでもなるのだろうか。

     今のわたしに許されたのは、こうして病室から外を眺めることだけだが。

     この街の、今もどこかにいる千束を想いながら、残り少ない時間でこの目に、この景色を焼きつけよう。

     遠くに見える、あの延空木。

     あの日、わたしが皆と違えた道が、再び一瞬でも交わった、


    「あれ? 窓開いてるじゃん」

    「いっ!?」


     突然、窓の外から声が聞こえて、窓枠に指がかけられる。

     さながらジャパニーズホラー映画の金字塔のように、がし、がし、と。

     井戸の底からではなく、窓枠の外から現れたのは、痛んだ黒い長髪……ではなく、薄く金色に輝く白い髪。

     見慣れた、何度もこの目で見て、今も脳裏と目蓋の裏に強く焼きついた、その人の……。


    「えー、せっかくガラスカッターとか用意してたのにぃ……もっとインポッシブルな侵入がしたかったよぉ……」

    「ちち、ち、千束!?」

  • 38二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 18:36:20

     紛れもない、見紛うはずもない、錦木千束その人が、そこにいた。
     ピッチリした白いボディスーツに身を包み、背中には何やらスパイグッズのような道具の詰め込まれた鞄を背負って、窓から病室へと侵入してくる。

    「あ、よっこらしょ」
    「な、何してるんですか!?」
    「しぃー! 外に聞こえちゃうでしょ!」

     千束は口の前で指を立てるジェスチャーをして、小さな声で叫ぶ。

    「あーあー、メーデーメーデー? こちら千束、目標のポイントに到着、どうぞ」

     メーデーは遭難信号だし、繰り返しは三回がオーソドックスだ。千束は多分、メーデーと言いたいだけだろう。
     いや、そんなことよりも……。

    「りょうかー、ぐおぉおぉうぉ!?」
    「な、に、や、っ、て、るんですか……!」

     ベッドから飛び出して、自由に動く左腕で千束の肩を掴んで思いきり揺さぶる。
     千束の頭ががっくんがっくん揺れて、ヘッドバンギング状態になっている。

    「こんなとこ見つかったら、千束だってなにされるかわかりませんよ!?」
    「うあ……目が、回る…………こ、ここ隔離病棟の裏手だし、見張りにも見つかってないから……」
    「そういう問題じゃ……」
    「ほら、ボディスーツも壁と保護色」
    「……そういう問題じゃなくて……!」
    「てか急がないと、次の見回り戻ってくるよ」
    「千束!」
    「はいっ」

     語気を強めると、千束はびしっと『気をつけ』の姿勢で固まった。

  • 39二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 18:36:37

    「何してるんですか、こんなところに侵入したのがバレたら、冗談じゃ済まされません」
    「そりゃ冗談じゃないからだよ」
    「……は?」
    「はいこれ、ここの看護師の制服ね。ミズキが用意してくれた。ギプスはもう外せるでしょ? あと監視カメラはクルミが映像変えてくれるって。見回りが戻ってきたらバレるからそれまでに着替えて抜け出すよ」
    「……ちょっ、ちょっと待って……」
    「いやいや待ってる時間なんてないから、ほれ、脱いだ脱いだ」
    「え、えっ、ええ!?」

     千束が背負っていた鞄から、変装用の衣装を取り出してわたしに迫ってくる。
     困惑している間に、あれよあれよと脱がされ着せられ、髪を纏められ、連れられて部屋を飛び出す。
     通路の天井には、大量の監視カメラが設置され、そのレンズに映らないスペースは存在しない。
     本来なら、ラジアータの高精度な表情解析で、わたしの顔がカメラに捉えられた瞬間に警報が鳴り響き、見張りが飛んでくる設計なのだが、警報器は沈黙を決め込んでいる。
     これがウォールナット驚異の技術力か。
     千束は看護師制服の襟につけた小型マイクに向かって、小さく話しかける。
     髪に隠れた右耳を指で押さえているのは、そちらにイヤホンを装着しているのだろう。

    「病室から出たよ、クルミ、ナビよろしく」

     病室前の通路を抜けて、突き当たりを曲がると、その外には通常の警備員が控えている。
     さすがに中に通していない看護師が出てくれば、無視もできないだろう。
     逆の通路へと曲がり、職員専用の物置へ。
     鍵がかかっていたが、ここで千束は無駄にグッズを詰め込んできた鞄の中から、道具を選んで取り出す。
     鍵穴の中に粘土のようなものを少量詰めて、細い金属の棒を差し込む。、その上から機械の取り付けられた道具で蓋をして、タイマーを設定すると……。
     ぼんっ、と小さく音を立てて煙が昇り、蓋を外すと、鍵が壊れていて扉が開く。

    「開きましたなぁ」
    「開けたんですよ、無理やり」

  • 40二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 18:36:57

     物置から天井の板を外し、真っ暗な天井裏へと侵入する。
     クルミのナビを便りに、警備員の位置から見て、病室の逆側に出るよう移動する。
     天井裏から出ると、そこは配電盤の並んだ電気の制御室のようだった。

    「うわー、めっちゃ埃ついちゃった……綺麗にしてから出ないと……」
    「……千束、本当に……」
    「いいから黙ってついてくる」
    「…………」
    「返事は?」
    「……千束が黙れって言ったんじゃないですか」
    「揚げ足とるな!」

     そこからは驚くほどあっさりだった。
     左目は髪の毛と眼帯で隠した上で、千束がわたしの左側に立って、警備員の視界から顔が見えにくい位置を陣取り隔離病棟から一般病棟へ。
     そちらは一般の患者もいるため、警備も普段通りで、顔を伏せて隠す必要もなく、カメラも避けて簡単に病院の裏口へ。
     そこからどうするかと思えば、白の軽自動車が物陰から凄いスピードで私たちの目の前へ。
     助手席の窓が開いて、運転席からサングラスをかけたミズキが顔を覗かせる。

    「合言葉は!」
    「おっすー、はよ乗れい」
    「ミズキ! 合言葉!」

     後部座席へと乗り込むと、同時に軽自動車が動き出す。

    「よーし、乗ったわね。んじゃ行くわよ」
    「合言葉!」
    「行くって、どこに……?」
    「んふふ~、い・い・と・こ・ろ♡」
    「あ・い・こ・と・ば!」
    

  • 41二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 18:37:23

     軽自動車は病院の裏手から堂々と一般道に出て、後方を確かめてもついてくるような不審な車両も、上空からドローンが追ってくるようなこともない。
     看護師の制服を脱ぎ、車内に用意された何の変哲もない洋服へと、黙って着替える。

    「たきな、あんたもけっこう元気そうじゃないの」
    「…………」
    「んもー元気元気、私の言った通りのたきなよ」
    「そりゃよかったわ」

     二人はまるで日常の一コマのようなやりとりをしている。
     よくよく考えなくとも、今しがた、どころか現在進行形で、とんでもないことをしているとは思えない空気。

    「どうして……」
    「うん? あー、クルミがDAのサーバーから情報ちょちょいっとね。それでたきなの病室とか、引き渡しの……」
    「そんなことじゃなくて!」
    「どうしたのよー、怒鳴っちゃって」
    「どうしたもこうしたも! 自分たちが何をしてるのかわかってるんですか!? わたしが、今どんな扱いの人間なのか!」
    「…………」

     千束とミズキはバックミラー越しに、キョトンとした顔を見合わせている。

    「真島に諭されて、リコリスを裏切って機密を持ち出した、東京大規模テロの最重要参考人で、そのほか多数のテロに加わって、市民やリコリスを殺した、DAに極秘で管理されてる、大犯罪者?」
    「よね?」
    「だったら! どうして!?」
    「どうしてどうしてって……何が?」
    「何がじゃないです! 千束も! ミズキもクルミも! ここまできたら店長も絡んでるんでしょう!? どうせすぐに見つかる……みんな……みんなもDAに追われて……」
    「…………」
    「どうして……わたしなんかに……」

  • 42二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 18:37:45

     軽は減速することなく、走り続ける。
     それからは、しばらく三人とも黙ったままだった。
     今ごろは、病室の見回りがもぬけの殻となったベッドを見つけて大騒ぎになっているだろう。
     千束の勢いに押されて着いてきてしまったが、すぐに街中に追跡部隊が駆り出される。
     そうなれば、わたしだけでなく、わたしを連れ出した千束やミズキも、当然そこから繋がるリコリコの皆の身が危険に晒される。
     今からでも、わたし一人の脱走ということにすれば……。

    「見えてきたわよ」
    「……?」

     ミズキの言葉に顔を上げて窓の外を見ると、見えてきたというのは……空港?
     まさか、

    「ふふん」

     隣の千束に視線をやると、窓に肘をついて得意気な顔で笑った。

    「たきなー、千束ー! 遅いぞミズキ! 何やってたんだ!」
    「飛ばして違反取られたら困るでしょーが!」
    「クルミ、先生は?」
    「もう中で待ってる、あとは乗り込むだけだ」
    「こ、これは……」

     空港。
     連れてこられたのは空港のロビーではなく、旅客機の離着陸に使われている滑走路とは、別の滑走路。
     そこにあったのは、小型の飛行機。
     いわゆる、プライベートジェット。

    「こんなもの、どこで……」
    「ふふふ~ん」

  • 43二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 18:38:05

    ・・・・・





    「い、井ノ上たきなが……病室から……消えました!」
    「なにぃ!? 見張りは、監視カメラはどうした!? 二十四時間体制で常に見張っているのではなかったのか!」
    「か、監視室のカメラ映像では、何の異常もなく……見回りが病室を確認した時には、既にもぬけの殻で……」
    「どうなっているのだね!? 楠木くん!」
    「……脱走、でしょう」
    「そんなことはわかっている! 監視体制はどうなっていたのかと聞いているんだ!」
    「監視を敷いた際に虎杖司令も確認されているでしょう。あれから変更はありません」
    「では井ノ上たきなはどこに消えた!」

    「さて……空でも飛んでいったのではないでしょうか」





     ・・・・・

  • 44二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 18:38:29

    


    「たきな。どうしてって、聞いたよね?」
    「え……? えぇ、はい……」

     ジェットに乗り込み、中を確認する。
     かなり豪華な作りで、五人でも広くゆったり使えそうだ。
     入り口で立ち止まっていると、後ろから千束が背中を押しながら声をかけてくる。

    「答えは簡単、私はいつでも……」
    「……やりたいこと、最優先……」
    「大正解!」

     千束は席に着きながら、ウィンクして人差し指をこちらに向ける。
     でも、だからって……。

    「それに、タンカーの中で言ったでしょ」
    「……?」
    「一人で死ぬより、死なせるより、たきなと一緒がいいって」
    「お前そんなこと言ったのか」
    「なにかねクルミくん?」
    「別に……」

     クルミがシートベルトをカチャカチャ鳴らして締めながら呆れている。

  • 45二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 18:38:46

    「だから私は、生きるならたきなと一緒がいい。たきな一人だけいなくなって生きるのは、イヤだ。たきなが私を守るために勝手なことした分、私もたきなを生かすために勝手にする」
    「…………」
    「たきながどこかで生きていられるっていうんなら、それでもいいけど……そうじゃないなら、私たちはこうするってこと」
    「ここで、逃げて終わり……じゃありませんよ。ずっと追われる身になるかもしれない」
    「上等だね、世界の果てまで一緒に逃げてやろうじゃん」
    「ボクたちも巻き込まれるんだがな」
    「ケチケチすんな、死なばもろともだー」
    「せめて運命共同体とか言え」
    「お前らうっせーぞ! 舌噛まないように黙ってろー」
    「やっぱり機長はミカにしないか? この機長は口が悪くてよろしくない」
    「クルミにおなじー」
    「あー! うっさいうっさい!」
    「ふっ、副機長でもそう変わらないさ。なあ、たきな」

     本当に、この人たちは……。

  • 46二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 18:39:02

    「おっ? なんだたきなぁ? 泣いちゃう? たきな泣いちゃう?」
    「……泣いてません!」
    「うっへへ! ごめんごめん!」

     視界が滲む。
     見えない左目が熱い。

    「それに実はこういうの、憧れてたんだよね!」
    「こういうのって……?」
    「組織に追われる映画のクライマックス」

     ぱちんと指を鳴らして、千束がニヤリと笑う。

    「んじゃあいくぞ相棒! 愛の逃避行だー!」









    

  • 47二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 18:39:19

    一旦ここまで

  • 48二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 18:46:02

    楠木司令かっこいいな

  • 49二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 18:48:46

    乙です
    この元情報部当たり前のようにジェット機操縦してる

  • 50二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 18:56:33

    これは花の塔流れる

  • 51二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 19:44:53

    千束がきてからの空気の変わりようよ

  • 52二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 21:25:40

    喫茶リコリコ、最強すぎる独立愚連隊

  • 53二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 21:31:43

    忘れてましたが次が最終回です

  • 54二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 21:34:00

    あああああ、ついに最終回かぁ…楽しみがまた1つ減る

  • 55二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 22:04:59

    あくまでも泣きそうであって泣かないのはリコリコポイント

  • 56二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 23:54:58

    途中までバッドエンドしか見えなかったけどここまで持ち直せるものだな…

  • 57二次元好きの匿名さん22/10/19(水) 05:23:02

    千束はスパイ映画みたいなことできるとなったらノリノリでやりそう

  • 58二次元好きの匿名さん22/10/19(水) 09:12:57

    たきなは目、フキは耳、真島は指といった具合に、主要人物の多くが体のどこかしらを欠損する程の激戦ぶり

  • 59二次元好きの匿名さん22/10/19(水) 09:18:28

    次がラストならCパートにあたるとこかな…
    4人合流してからのバトルパートの加速度が凄かった

  • 60二次元好きの匿名さん22/10/19(水) 17:03:13

    >>46

    30.二人の時間


     どこまでも広がる青い海、目の前には白い砂浜がどこまでも伸びる。


     どこまでも空は高く蒼く、水平線の彼方に白い雲がどこまでも連なる。


     行き交う人々は老若男女、十人十色に個性的な衣を纏い、身長体格も千差万別、連れ歩く相手も各人各様。

     あらゆる人種が入り交じり、誰もが笑顔でこの場所を訪れ、去ってゆく。

     ここは、


    「へろー! うぇるかむとぅ、かふぇりこりこー!」


     メキシコ。

     カリブ海に面したユカタン半島に位置する、観光都市カンクン。

     様々な国や地域から観光客が訪れるこの場所は、ビーチにリゾート、ナイトスポット、多くの観光名所を揃え、一流の高級ホテルが並び立ち、ショッピングモールにレストラン、夜はナイトクラブにバーと、人々を飽きさせることのないパラダイス。

     夢の楽園。

     そんな楽園のビーチの一角に佇むキッチンカー。

     他の店舗よりは控えめに、しかし手軽気軽に触れられる親しみを持った、とってもフレンドリーなカフェ。

     喫茶リコリコ出張店、とでも呼ぶべきか。そこに今、私たちはいる。

     ここにはあまり高級感はないが、通りすがりに観光客が訪れては、明るく笑顔を支払いに来てくれる。

     だいたい英語で通じるので、会話に困ることもわほとんどないし。


    「千束、電話頼む」

    「あいあい」

  • 61二次元好きの匿名さん22/10/19(水) 17:03:29

     厨房で手が忙しい先生に代わって、鳴り響くベルの応対に手を伸ばす。

    「はぁい? こちら喫茶リコリコ……おー、楠木さん」
    『千束か、元気そうだな』
    「元気、げん……あ、いや、そうでもないかも……」
    『元気なのは結構だな、仕事の依頼だ』
    「えぇ~……」
    『日本から武器の密輸入業者が海外へ高飛びした、行き先は……』

     電話の主は日本から繋いできた、DAの司令官。
     こちらへ国外逃亡した犯罪組織を追って討伐、捕獲しろとのことだった。
     元気ですなんて言わなきゃよかった。言わなくても仕事は押しつけられたと思うけど。

    「ちょーいちょいちょいちょい楠木さん? そちら大陸の反対っかわですよね?」
    『泣き言は聞かん、グループの情報は後でまとめて送る』
    「はぁ~ん……」

     生憎こちらに拒否権はない。
     私は楠木さんに、『恩』がある。

    『……井ノ上たきなは発見できたか?』
    「いーやぁ、全っ然さっぱりですねぇ。今も『元気いっぱい』どこかを逃げ回ってるみたいで、足取りも掴めませんわー」
    『そうか……引き続き捜索にあたれ』
    「フキにもよろしく伝えておいてくださいねー」
    『自分で伝えろ』
    「DAが通話料負担してくれるならいいんで……あっ切った」

  • 62二次元好きの匿名さん22/10/19(水) 17:03:56

     ぶつんと躊躇いなく通話が切られた。
     結局、あれから私たちはDAに追われるような逃亡生活を強いられる……なんてことはなく、今もこうしてDAから渡される依頼をこなしつつ、喫茶リコリコの『表』と『裏』で人助けをしながら、この国で滞在生活を続けている。
     資金面に関しては、DAが一部活動費の補助と、現地の管理者と特殊な契約をしてくれて、別荘を居住スペースとして用意してくれているので、滞在費用がまるっと浮いているのが非常に大きい。
     その分、こちらに飛んでくる依頼は活動範囲がすこぶる広く、断れば支援も切られてしまう。
     内容も日本国内の犯罪よりもヘビーでベリーベリーハードな任務が多い。
     それは構わないのだが、私はせっかくのリゾートをもっと満喫したいのだ。

    「ミズキぃ~配達依頼~……コロンビアだってぇ~……」
    「かぁー、便利に使ってくれるわねぇ」
    「仕方あるまい、それを約束に飛ぶための足を用意してもらったんだ」
    「そうだけど~……」
    「楠木からその連中のデータが届いたぞ。ボクは居場所の特定してくるから店の方は頼んだ」
    「頼むぞクルミー」

     そういってキッチンカーから離れて別荘に向かうのは、我が喫茶リコリコの電脳担当。
     治安のいい観光地とはいえ、そのなりで一人出歩くのは些か不安がある。
     しかし、クルミがそんなすぐに取りかからねばならないほど、大きな組織が相手なのだろうか? その気になればすぐに特定できるのを、体のいい理由に使って店の仕事から逃げようとしているだけでは……。

    「では、わたしは少しクルミを送ってきます」
    「ほい、いってらしゃーい」

     さすがに子供一人では危険と判断したのか、そこは保護者が一人ついていくこととなった。
     一部だけ長く伸びた前髪で左目を隠した、黒髪の少女。
     その髪の下には、光の無い薄紫の瞳が時折りちらりと覗く。
     彼女は輝く右の目でこちらを見つめて、微笑んで、

    「いってきます」

     それは、また帰ってくるという、約束の挨拶。
    

  • 63二次元好きの匿名さん22/10/19(水) 17:04:10

    


     夜。
     もそもそという物音で意識がぼんやりとながら覚醒する。きし、と床板が音が立てて遠ざかっていく。
     なんだろう、重く勝手に落ちてくる目蓋を無理やり開いて、暗い部屋の中を月明かりを頼りに確かめる。
     隣に並んだベッドは、誰かが眠っていた痕跡を残したまま、空になっている。そこに寝ていたはずの人物が、いない。

    「んぅ……トイレかぁ……?」

     何となく自分もトイレにいきたくなって、ベッドから降りて部屋を出る。
     トイレを済ませてから下の階を見るとリビングのドアの隙間から、明かりが漏れているのに気がついた。
     誰かが起きている。
     時間は、深夜二時。
     こんな時間に何をしているのだろうか、気になって中を覗いてみると、そこには恰幅のいい黒人の男性がソファに腰を掛けて、一人でお酒を飲んでいる姿があった。
     何かあったのか、そっとしておこうか、そう思ったものの、気になって声をかけてしまう。

    「せんせ、こんな時間にどうしたの?」
    「……千束」
    「夜更かしして飲んでるなんて悪いんだ、体にもよくないぞー」
    「はは、そうだな。たまには悪いことをしたみたくなった。千束こそ、朝早く出発だろう? こんな時間まで起きていていいのか?」
    「夜更かししてたわけじゃないよ、トイレいきたくなっちゃって」
    「そうか」
    「あ、そうだ、こっちにたきな来てない? 起きたらいなかったんだよね」

     トイレにいったのかと思ったが、結局すれ違わなかった。
     リビングを見渡しても、たきなの姿は見当たらない。

  • 64二次元好きの匿名さん22/10/19(水) 17:04:30

    「……千束、少し話さないか」
    「……? いいよー。目、覚めちゃったし」

     たきなのことには答えてもらえなかった。
     でも、先生のことだから決して無視したわけじゃない。神妙な面持ちで、大事な話なんだと、その顔から読み取れる。
     先生の向かいに座って、背もたれに体を預けた。

    

  • 65二次元好きの匿名さん22/10/19(水) 17:04:43

    
    「私が戦争を経験したことは、知ってるな」
    「うん、当たり前じゃん」
    「大勢の人を殺した」
    「戦争だもんね」
    「まあ、戦争だからな、仕方がない……とは思いたくない。今は」
    「昔は違った?」
    「そうだな、それが兵士として、当たり前だと思っていた。これが正義だと」
    「…………」
    「今は、千束、お前が変えてくれた」
    「へへへ……照れるな」
    「……戦地では、罪の無い人も大勢殺してきた。この手で」
    「うん」
    「この手は、千束にはどう見える?」
    「大きくて、頼もしい、優しいお父さんの手」
    「……はは、千束なら、そう言うと思ったよ」
    「違うの?」
    「私には、今もこの手が赤く血に染まって見えることがある。何のことはない、本当に何も意識していない、ふとした時に、突然に……だ」
    「…………」
    「どれだけ昔のことでも、割り切ったと思っていても、心のどこかでは引きずっている。或いは、殺された人たちが「忘れるな」と、今もこの体に取り憑いて忠告しているのかもしれないな」
    「怖い……?」
    「昔はそう思うこともあった。あの世から引っ張られている……とな。今では動じることもなくなった」
    「…………たきなは、どうなの」
    「あの子は、ひたすら純粋で真っ直ぐで、正直な子だ」
    「……うん」
    「それに、まだ子供だ」
    「……うん」
    「たきなは……まだ引っ張られている」
    「…………」
    「千束、たきなを救ってやってくれ。今のたきなには、お前が必要だ」

  • 66二次元好きの匿名さん22/10/19(水) 17:05:08

    一旦ここまで
    次の投下がラストです

  • 67二次元好きの匿名さん22/10/19(水) 17:10:00

    既に泣きそう

  • 68二次元好きの匿名さん22/10/19(水) 18:16:18

    これは人を殺さない千束にはわからない問題なんだな…

  • 69二次元好きの匿名さん22/10/19(水) 20:32:54

    ある意味千束にとって一番難しい問題だね

  • 70二次元好きの匿名さん22/10/19(水) 20:52:40

    片目たきなは見てみたい

  • 71二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 00:12:39

    ついに次が最終回かぁ…

  • 72二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 06:45:11

    保守

  • 73二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 16:01:50

    >>65

    

     月の明かりを受けて白く輝く、長い長い砂浜の一角。頭の後ろで一つに束ねた美しい黒髪を夜風に揺らして座り込む、一人の少女。

     まるで絵に描いたような美麗な光景。

     両の手の親指と人差し指を使って、四角く額縁を作り、カシャリ。絵画を一枚、心に保存。

     その人影に近づいて、声をかける。


    「たーきなっ」

    「千束……すみません、起こしてしまいましたか」

    「どうしたー? 一人で泣いてんの?」

    「泣いてませんけど」

    「えぇー、本当にぃ? 怖ーい夢見ちゃったんじゃないのぉ?」

    「うるさいですね……」

    「冗談だって! 怒んないで、ね?」

    「……別に、怒ってません」


     よし、楽しく話せたかな。

     掴みはバッチリ。


    「となり、いい?」

    「どうぞ」


     まだ明かりのついた夜街からは、少し離れた静かなビーチ。

     たきなと二人で寄り添うように、砂の上に座り込む。

     たきなの左側に陣取ったけれど、こっちからでは、たきなが目を隠すために伸ばした前髪で表情は窺えない。

     失敗したかな、まあいいや。


    「そうだ、飲む?」

    「それは?」

  • 74二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 16:02:07

     手に持っていた金属の水筒……スキットルと呼ばれる、主にアルコール濃度の高いお酒を入れる小型の水筒をたきなに差し出す。

    「千束特製カクテル~♡ さっき作ってきたの♡」
    「……未成年ですよ」
    「こっちは十八歳からおっけーでしょ」
    「そうですけど、わたしはまだ十七です」
    「今年で十八なんだし、固いこと言わなーい。飲みやすいように甘くしてきたからさ、一口だけでも!」
    「…………じゃあ、一口」
    「おう、飲め飲め」
    「…………げほっ」
    「あっははは!」
    「……辛い」
    「先生が飲んでたやつ、そのまま貰ってきたからね」
    「千束……」
    「はいはいごめんって」

     形だけの謝罪をし、たきなからスキットルを受けとり、私もくいっと一口飲んでみる。
     うーむ辛い。が、飲めないほどではない。
     これが大人の味かと、ちびちび口に運びながら、横目でたきなを見る。

    「夜なのに髪、縛ってるんだ」
    「風でバサバサ揺れて、鬱陶しかったので」
    「たきなの髪は長くて綺麗だよね」
    「なんです? 急に」
    「いや、なんとなくそう思って」
    「そうですか」
    「私も縛ろっかな……どう?」
    「どうって……いつも通りじゃないですか。それに千束は、わたしほど長くないから、そんなに邪魔にならないでしょう」
    「そんなことないって、片側耳の後ろにまとめるだけでも全然違うよ」
    「はぁ……」

  • 75二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 16:02:24

     たきなは興味なさげに、曖昧な相づちを返してくる。
     この話題は盛り上がりに欠けたかな。私はたきなの髪、好きなんだけどな。
     今も風に流されて、ひらひらと尻尾のように可愛く揺れているその髪を手にとって、繊維に沿うように上から下へと優しく撫でる。一本一本が絹のように艶やかで滑らかな肌触り。毛先まで流れるようにサラサラとして、枝毛のない綺麗な黒髪。

    「……なんですか?」
    「んん、羨ましいなーって。私は毛先巻いちゃうから伸ばせないんだよね」
    「……千束の髪も、綺麗だと思いますけど」
    「おっ、嬉しいこと言ってくれるねぇ。なら千束は、今のこの髪で満足満足」

     たきなはお世辞を言うようなタイプじゃない。褒められたってことは、たきなはそう思ってるって本当のことを言ったのだ。
     内に跳ねた毛先を指でくるくる弄りながら、自然と笑みがこぼれる。
     さて、そろそろ話題も温まっただろうか。

    「それで」
    「はい?」
    「たきなはこんな時間に、こんなとこで何してんの?」
    「海を、見ています」
    「まあ、そうだね」
    「…………」
    「……なんで?」
    「…………なんで、でしょう」
    「眠れなかった?」
    「それは……はい……」
    「怖い夢でも、見たんじゃないの?」

     その表情は、前髪に隠れて窺えないまま。

  • 76二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 16:02:41

    「…………」
    「……なんか、悩んでる?」
    「…………」
    「言いたくないなら言わなくてもいいけどね。そういうの、無理に聞き出したくないし?」
    「…………海に立っているんです」
    「誰が?」
    「わたしが……海の、上に」
    「……うん」
    「足を掴まれて、海の中に引きずり込まれて」
    「……うん」
    「下を見たら、数えきれないほどの手が海の底から伸びてきて、わたしの足を掴んで……どれだけ振りほどこうとしても、振りほどけなくて」
    「……うん」
    「そうして海の底に沈んでいく、夢を見るんです」
    「……そうかぁ」

     それなのに、海を見にきてるのかぁ。
     なんでなのか、本人もわからないって言ってるけど、うーん……。
     たきなは呼ばれている、なんて先生は言っていた。
     比喩みたいなものだと思っていたけど、この話を聞いたらちょっと怖いな。
     ──海。
     あのタンカーでの戦いから半年。
     真島と決着をつけて、たきなを取り戻した。
     取り戻したと、帰ってきたと、思っていた。
     でも、たきなはまだ……あの海の上にいる。

  • 77二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 16:03:06

    「わたしは、何をしているんでしょう」
    「と、言いますと?」
    「大勢の人を殺しました。男性も女性も、子供もお年寄りも、リコリスも」
    「……ふむふむ」
    「それなのに、今はこうして皆と一緒に、またリコリコで働いてる……接客をして、笑ってもらって、人を助けて、感謝されて……また、前にリコリコで働いていた時と、同じように……」
    「それが、ダメなの?」
    「…………怖いんです……幸せなのが、わたしなんかが、幸せでいられてしまうのが……そんな資格、わたしには…………」

     たきなは膝を抱いて、顔を伏せる。
     その表情は、やはりこちらからでは前髪に隠れてしまう。

    「わたしが、殺した人たちは……そんなの、認めてくれるはず……ないのに…………」
    「……そっかぁ。たきなは今、幸せか」
    「…………」
    「それでたきなは、その人たちに悪いと思っちゃってるんだね。だからそんな夢を見ちゃう」
    「…………そう、なんですか?」
    「そうそう、夢占い。たきなの後悔の表れだよ」
    「……わたしの、後悔……」
    「ってのを今考えた」
    「…………」
    「わー! ごめん! 真面目に話すから!」
    「もう千束には相談しません」
    「だぁい丈夫だから、ね? あと一回、チャンスください!」
    「……一回ですよ」
    「やった!」

     たきなは伏せていた顔を少しだけあげて、むぅっと可愛らしく唇を尖らせる。
     少し落ち着いたかな。

  • 78二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 16:03:21

    「……たきなは、自分が悪いことをしたんだって思ってるんだね」
    「……してましたから」
    「それは、まあ、そうだね。私もそう思う」
    「…………」
    「真島の奴はさ、DAとリコリス……私たちを日本のバランスを崩す悪だって、そう言ってた」
    「…………」
    「自分はそのバランスを直すために、正しいことをしてるんだー、って」
    「……だから、わたしがしたことも間違ってない、とでも言うんですか」
    「まっさか! 罪の無い人たちを巻き込んで、正しいことなわけないじゃん」
    「そうです、だからわたしは……」
    「でも、あの真島にも、あんな奴にも自分の正義ってのはあったんだ」
    「……正義、ですか」
    「たきなには、たきなの正義があったんじゃない?」
    「そんなもの……」
    「私のこれ……心臓。たきなが、真島から手に入れてくれたんだよね」
    「……わたしが、手に入れたわけじゃないです」
    「でも、私を助けてくれたんだよね?」
    「あの時は、そうするしかなかったから……」
    「なら、それがたきなの正義だ」
    「……それ?」
    「私のため。それだけのために、たきなは他の正義を全部捨ててまで、真島に従った。ほんとバカだねぇ」
    「それは……千束に、死なないでほしかった、から……」
    「うん、ありがと」
    「……その心臓のこと……吉松のことは、聞かないんですか」
    「聞いてほしいの?」
    「…………」
    「たきなが言わないなら、聞かないよ。ってか、ケース持ってたのが真島の時点で、どっちみち望み薄だし……」

  • 79二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 16:03:41

     ケースに人工心臓が入ってたってことは、移植はしてなかったってことなのか。それとも、本当に移植していて、取り出した心臓をケースに入れて持ってきたのか。
     それは、私にはわからない。きっとこの先も、ずっと。
     吉さんも、生きてるといいけど。

    「この世界はさ、理不尽なことがいっぱいだよ。私も、たきなも、先生もミズキもクルミも、フキやサクラや、楠木さんだって。みんなに理不尽なことがいっぱいある」
    「自分では、どうにもならないこと、ですか」
    「そ! 悩んでも仕方がない、って言っても今のたきなには難しいか」
    「……はい」
    「今日もたくさんお客さんきたねぇ」
    「……? はい」
    「あのお客さんの中に、悪人がいた、って思う?」
    「いたんですか?」
    「いや、知らん」
    「なんなんですか……」
    「きっとみんないい人たちだよ。みんな笑ってた」
    「……そうだと、いいですね」
    「うん。でも、もしかしたら、明日はその人が人を殺してるかもしれない」
    「…………」
    「逆に悪い人がいて、明日には改心して人を助けてるかもしれない」
    「…………」
    「それは、その人が自分が正しいと思う行動に従った結果なのかもしれない」
    「…………」
    「わかんないよ、世の中なにがあるかなんて。今日、仲のいい隣人が、明日には犯罪者になって誰かに理不尽を振り撒いていることだってある。今回のたきなも、たきなの正義がたまたま、誰かにとっての理不尽になった」
    「たまたま、ですか」
    「今回はさ、たきなの正義が、たまたまDAの敵だった。それだけだよ」
    「それだけ、では済みませんよ」
    「昨日の敵は、今日の友なんて言うでしょ? 次は味方かもしれない。今のたきなは、どっちだ?」

  • 80二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 16:03:55

    「……わたしは…………千束の、味方……で、いたい」
    「はい味方ー」
    「そんな簡単に……」
    「簡単でいいの。ただでさえ世の中ごちゃごちゃしてて、それぞれの正義なんて考えるだけで頭痛いのに、いつまで悩んでたって答えなんか出ないよ。真島ですら自分の正義を主張する、それぞれの定義なんてさ」
    「……考えるだけ、無駄、なんでしょうか?」
    「無駄ってことはないよ、きっと考える意味はある。でも、それで悩んで立ち止まるのは、時間が勿体ない。私たちがどれだけ悩んでたって、世界は勝手に進んでいく。時間は止まらない。だったら……」
    「…………」
    「いくらでも迷いながら、悩みながら、間違えながらでも、次に進んでみないと勿体ないじゃん?」
    「……取り返しのつかない間違いも?」
    「そう! どんな小さな間違いも、大きな間違いも、どれだけ悔やんだって時間は戻らない。私たちはどんなことも受け入れて、前に進むしかない。……私だって、吉さんのこともそう!」
    「…………」
    「それでたきなは、私のためにたっくさんの時間を使ってくれた。その結果、今もたくさん悩んでる」
    「でも千束のせいじゃない。わたしの責任です」
    「うんうん、それでもね。たきなが私の……私が生きるために時間を使ってくれて、それが今も自分の時間をこうやって使っちゃってる。私は、私が誰かの……たきなの時間を奪ってるのは、気分がよくない」
    「それは……」
    「悪人にそんな気分にさせられるのは、なおさらムカつく」

     ニヤリと笑って、たきなを指差す。

    「だから、たきなにそんな風に時間を使ってほしくない。もっと自分のために時間を使ってほしい」
    「……そんな、簡単にはできませんよ」
    「難しくてもやっていこう。忘れろって言ってるわけじゃないし、忘れたなんて言ったら私がたきなをぶん殴る」
    「では、忘れました」
    「私は真面目に話してるんだけど……」
    「真面目に殴ってほしくて」
    「たきなって、もしかしてマゾ……」
    「違います」
    「……じゃあ、殴られたら満足する?」
    「……わかりません」
    「たきなはさ……きっと罰が欲しいんだ。何でもいいから罰を受けて、それで少しでも殺した人たちに謝ったつもりになって、さっきの夢から解放されて楽になりたい」

  • 81二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 16:04:12

    「…………」
    「だから海だって見に来るんだ。この海から死んだ人たちが現れて、自分をあの海の底まで連れていってくれないかって」
    「…………そう、かも、しれないです」
    「そんなの許さない」
    「…………」
    「私は、たきなが生きていてくれて嬉しい、本当に嬉しい」
    「…………」
    「だからたきなが勝手に死んだら、地獄まで追っかけてでも、連れ戻してやる」
    「どうやって戻るんですか」
    「そのとき考える」
    「……命大事に、じゃないんですか」
    「たきなが自分を大事にしないから怒ってる」
    「……千束が死ぬのは、困ります」
    「そうだろう、そうだろう。私のために、あれだけ必死になってくれるぐらいだもんね」
    「……わたし、そんなに必死でしたか?」
    「メチャクチャ必死だったでしょ」
    「…………さぁ……」
    「お前……お前さ……色々あったじゃん……」
    「…………んん……?」
    「いや、もういいけど……とにかくさ」
    「……はい」
    「たきなには生きていてほしい」
    「…………はい」
    「もし一人が辛くなったら、頼ってよ。相棒でしょ?」
    「…………」
    「一人で悩んでも、決めてもいい。でも、それができなくなったら、言って」
    「…………は、い」
    「たきなが一人で背負えないものは、私も一緒に背負わせて。私のために背負ってくれたもの、私にも分けて」
    「………………ぃ」

  • 82二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 16:04:30

    「私も、たきなのこと、頼りにしてる」
    「…………また、間違えるかも……しれません……」
    「その時は、また連れ戻す。それに、たきなだったらもう間違えない」
    「…………なにを、根拠に……」
    「ふふーん、なぜなら~?」
    「…………」
    「たきなは『千束の相棒』だから」

     ウィンクして指を鳴らし、取っておきのドヤ顔でキメた。

    「………………………………ふっ」
    「笑った!? お前いま鼻で笑った!?」
    「なんですか、それ……なんの根拠にもなってない……ふふ……」
    「笑うなー! 私はたきなのためにキメ台詞考えてきたのに!」
    「今の、キメ台詞だったんです……? ふふ……あはは!」
    「あー! さいてー! じゃあたきなは何かカッコいいこと言えんのかよー! 言えないなら笑うなぁ!」

     いつ以来だろう。
     たきなが、こんなに楽しげに笑っているのを見るのは。口を開けて笑っているのは。
     たきなと再会してからは、初めて見たかもしれない。
     そっか。
     今、やっと、見つけたんだ。

  • 83二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 16:05:15

    
    「千束」
    「ん?」
    「少し、寝ます」
    「え? 帰ってからの方がよくない?」
    「ううん、今は……」
    「……そっか、いいよ。私が傍にいるから」

     だから安心して、寝てもいいよ。
     肩によりかかる体重を感じながら、遥か彼方の水平線まで続く海を眺めて、いつか二人で行った水族館の光景を思い出す。
     あの時は、私もたきなも、まだまだ何も知らない子供だったな。
     あの頃の私たちには、もう戻れない。
     でも、私たちは今もこうして一緒にいる。
     だから、ここから新しく始めよう。私たちらしく。
     いつまでも、変わらずに。

    「たきな」
    「………」
    「おやすみ」

     私の大切な、最高の相棒。




    

  • 84二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 16:07:08

    


    「二人して寝坊してんじゃねーよ! 朝イチでコロンビア行くっつったろ、コ、ロ、ン、ビ、ア!」
    「ふぁ……すみませ……」
    「あー……だる……」
    「仕事だぞ仕事! さっさと準備! 先に車出しとくから!」
    「二人とも朝から大変だな」
    「せんせ……おふぁ、よふ……」
    「おみせ、おねがいします……」
    「クルミに頑張ってもらうさ」
    「早めに帰ってこいよ、ボクには荷が重い」
    「あ~ぃ……」
    「ちさと、きがえてきますよ……」
    「千束、たきな」
    「んぃ……?」
    「はい……?」
    「いってらっしゃい」
    「……」
    「……」



     ────「いってきます」────




    END

  • 85二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 16:07:37

    おわり

  • 86二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 16:20:53

    失ったものは多いけれど本編同様千束とたきなはここからがはじまりだな
    終わってしまったと寂しく思ってしまうほど面白かっですお疲れ様でした

  • 87二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 16:47:36

    たきなが一度悪人側に行ったからこそ相手の時間を奪って嫌な気分にされるのが嫌とかプロよりのアマさんの時のたまたま敵だったって言葉がたきな相手に使えるようになるのか…
    名作だった

  • 88二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 16:53:01
  • 89二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 17:09:28

    いい劇場版だった…

  • 90二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 17:56:14

    おもしろかった!
    ありがとう!

  • 91スレ主22/10/20(木) 18:42:03

    感想や保守をしてくださってありがとうございます

    予定より長くなったり、ミリタリや機械関連の知識はほぼ無いのでガバガバな部分が多々あったと思いますが、最後まで読んでいただいてありがとうございました
    次はシンプルに短めのちさたきSSでも書きます

  • 92二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 19:04:45

    はい映画化決定!!!

  • 93二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 19:09:41

    いい作品だった…

  • 94二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 19:11:33

    乙でした
    毎回楽しく読ませて貰ってます
    最高でした

  • 95二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 19:19:05

    作品として素晴らしかったです
    同時に「ちさたき」の関係性としては本編が本当にベストの結末だったんだなと感じました
    たきなが本編最後に千束を救ったことに本当に大きな意味があったのだと逆説的に知れたのも、ひとえにこのssのおかげです
    お疲れ様でした

  • 96二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 19:21:15

    素晴らしかった…
    短めちさたきも楽しみに待ってますね

  • 97二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 19:31:17

    伏線や構成が凝っててキャラごとの活躍もあって実によかった
    オリキャラもメインを食わないで展開のサポートなのが上手い塩梅

  • 98二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 23:06:07

    メキシコは同性婚ができる…
    なるほどなぁ…

  • 99二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 09:21:19

    なる

  • 100二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 09:27:07

    これ病室に迎えに来て連れ出すのは宮古島まで迎えに来たたきなの対比か

  • 101二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 11:12:54

    素晴らしい……この文書きの才能を、早く世界に届けなくては……

  • 102二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 11:47:18

    このレスは削除されています

  • 103二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 11:49:42

    >>95

    まぁここまでくると本編の2人とは完全に別物だわな

  • 104二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 12:22:30

    >>103

    たきなの行動理念や千束の価値観はかなり本編に寄った解釈してると思うよ

    延空木からの一歩違っていればってルートとして上手く書けてると思う

  • 105二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 12:26:59

    劇場版かな?

  • 106二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 12:39:43

    ちさたきの二人もだけどフキとか真島とか他のキャラも上手いこと活かしてるなって
    個人的には楠木さんとフキが一杯食わせて活躍したのが好き

  • 107二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 13:13:22

    真島と行動してるけど惚れたり懐柔されたりしないでずっとこいつ殺すって内心で思ってるのはたきなっぽいよね
    むしろそういうキャラにされるよりずっと本編に近い

  • 108二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 16:03:12

    >>103

    二人が別物っていうよりルートが別物で二人の行動がルートでどう変化するかってイメージ

    個人的に一番納得できたのはちさたきの関係に恋愛が絡まないことと泣きそうでも涙は流さないってことかな

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