たきなテロリスト落ち概念SS前日譚

  • 1二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 23:34:04

    まずこちらは概念スレとコピペ改変を元ネタにした、SSの前日譚になります


    元ネタ↓

    たきなテロリスト落ち概念|あにまん掲示板真島がたきなを気に入り、仲間になるなら千束の吉松から盗んだ新心臓を渡す、ならないなら破壊すると脅され仲間になった世界線。もちろん、たきなは隙を見て逃げ出そうとしたり殺そうとしたりするが、真島にあっさり…bbs.animanch.com
    たきなが私に人工心臓を届けてからいなくなって一年…|あにまん掲示板bbs.animanch.com

    SSスレ↓

    リコリコ最終話if|あにまん掲示板1.不明 目を覚ますと、胸に鋭い痛みが走った。 触れるとそこには、真白いガーゼがでかでかと当てられていて、胸を張ると裂けそうな痛みでずきずきする。「千束」 聞きなれた声が耳から入って頭の中にこだまする…bbs.animanch.com

    加筆修正版↓

    #リコリス・リコイル #井ノ上たきな 劇場版リコリス・リコイル ~井ノ上たきなを抹殺せよ! リコリス 東 - pixiv元ネタの映画風コピペです。 次のページから本編になっています。 テロップ(あの戦いから一年…)(延空木と旧電波塔のカット) 楠木「ついに真島の隠れ家を特定した。太平洋上、仲間の支援を受けながら、タンカーで移動を繰り返している」(作戦室) 千束「たきな、どこにいったの」(リコリコで...www.pixiv.net

    また、上記のSSのネタバレとオリキャラ要素を多分に含むので、本編をご覧でないと意味不明になります。

    よければご覧ください

  • 2二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 23:34:50

    0.1. 青森アカネと刃の女

     日本。
     噂には聞いたことがある、他国と比べて抜群に治安がよく、中でも首都東京は安全神話とまで呼ばれるような、ボケて腑抜けた国だと。
     今回、私の仕事はその日本で行うことになる。
     その仕事がどんな内容になるのかは、現地についてから雇い主から直接説明があるらしい。
     仲介業者からはそう聞いた。

    「おじさん、アランチルドレンって本当なんですかぁ?」
    「……ん? ああ、私か」
    「アランチルドレンはこんなとこに何人もいないと思いますけど」
    「それもそうだな」

     日本へと向かって太平洋を走る、タンカーの一室。
     休憩用に用意された共有スペースで、たまたま一緒になっただけの仕事仲間に声をかける。
     普段ならこんな歳のいったおっさんに話しかけるなんて、お金でも貰わなきゃ割に合わないと思うけど、今回に限っては、中でも珍しい肩書きの奴がいたもので。
     テレビのニュースでも聞くことが珍しくない『アランチルドレン』と呼ばれる、ごく一握りの天才たち。
     そんな才覚に恵まれた呼び名を持つ男が、テロリストグループに雇われて日本まで協力しにいくというのだから、どうしたって興味は沸く。

    「本当だが」
    「盗んだものとかじゃないんですかぁ」
    「何の意味がある」

     おっさんは上着のポケットから、雑に放り込まれたフクロウ型のネックレスチャームを取り出して、ぶら下げて見せた。
     それが『アラン機関』から支援を受けるチルドレンの証明らしいが、そんなちんけなもの一つで天才の証明になってしまっていいのだろうか。
     しかし確かに、誰かから盗んだところで才能が目覚めるわけでもないし、チルドレンを名乗ったところで実際に結果を残さなければ貰えるものもないのなら、盗んで別に特はないのか。

    「おじさんは何の天才なんですかぁ?」
    「天才か……確かに人々は私たちをそう呼ぶ。だが、私が天才と呼ばれることは些末なことに過ぎない。この世界は常に一握りの天才たちが動かしてきた、群集の多くはそれに追従していくだけの、機械とそう変わらない意志薄弱な……」

  • 3二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 23:35:04

     うわ、最悪。変なスイッチ踏んだ。
     なんか意識の高い面倒くさいやつだこれ。
     しかもナチュラルに自分と、自分と同列の天才以外を見下してるタイプっぽいし、無理。
     ただ興味本位で質問しただけなのに……。
     そうして目的地に到着するまで、つまらない講義を延々聞かされる羽目になった。

    「真島だ、よろしくな」

     日本付近の海洋上、別のタンカーから迎えにきたモーターボートへと乗り込む。
     そこに乗っていたのは、花のない服装と冴えない顔の男ばかり。その中で一番マシなのも、無造作に伸ばされた髪はもじょっとしたパーマが散らばっていて、目にかかる前髪が見ているだけで鬱陶しい。
     当分はこんな奴らに囲まれて生活しなきゃいけないと思うと、悲しくて泣けてくる。
     迎えだってヘリの一つでもないのかと思ったけど、日本のテログループに高望みしてはいけないと考えを改める。
     自制できる私って偉い。

    「お前たちには、半年後のでかい計画の要になってもらう。半年はその為の準備期間だ」

     アフロみたいなパーマの男から言い渡された契約期間にくらっとする。
     半年も船の上? ありえない。
     そもそも日本ででかいことって何すんの。治安がいい、だなんて威張り腐って平和ボケてる国なんて、好き放題荒らせるでしょ。
     真島って男とアランチルドレンのおっさんが詳細な内容について話しているのを横目に、うげぇとベロを出す。
     報酬がよかったからと思って受けたけど、こんな仕事受けなきゃよかった……帰りたい。

     ・・・・・

  • 4二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 23:35:18

    「どういうことだ真島、海外から人員を補充するなんて聞いていないぞ」
    「言ってなかったからな、そうカリカリすんなよ。歳食ったらシワがよるぜ?」
    「名簿や予算の管理はわたしの仕事だ。勝手なことをされると困る。お前は無駄遣いが激しいから……」
    「あーはいはい、わかったわかった。保護者かよお前は」

     タンカーを乗り換えて、日本のテログループに合流すると、がつがつ激しい足音を鳴らして一人の少女が怒声と共に私たちを出迎えた。
     後ろは腰まで伸びた艶のある長い黒髪、前髪は目の上で自然な形に切り揃えられていて清潔感があり、流れる清流のような美しさに自ずと視線が引かれる。
     キレのある鋭い目尻の目蓋は綺麗な二重で、その中に収まる薄紫の瞳は原石のまま掘り出された宝石のよう。白い肌はまるで作り物のようで、その黒髪と合わせて、以前観光ガイドブックで見たことのある「日本人形」を想起させる。
     一目見て「和の美人」なるものを感じた。

    「佐賀圭人だ、よろしく頼む」
    「青森アカネです、よろしくお願いしまぁす」

     おっさんに倣って日本語で柔らかく挨拶をする。
     どちらも偽名。日本の地名からとったものと、よく使われているらしい名前を検索して、上から目についたものから適当に組み合わせた。
     しかし私と歳の近そうなこんな子がテロリストやってるなんて、日本って聞いてたほど平和じゃなかったりするんだろうか。
     少女は鋭い眼差しで私とおっさん、その後ろにも控えている派遣されてきたテロリストを、訝しげな目で眺めてくる。
     それが汚物を見る、侮蔑した眼差しなのだと直感でわかる。

    「……井ノ上たきなだ、この組織の経理は全てわたしに任されている。今回は把握していなかったとは言え、こちらに雇われたからには勝手な行動は慎んで、指示に従ってもらうことになる」
    「無論、私たちはそのつもりだ」
    「…………」

     固い。よろしくの一言もないし、声色も冷たくて感じ悪い。さっき感じた和美人という印象はガラリと変わる。まあ美人は確かなのだけど……。
     きっと生真面目で頭の固い、私の苦手なタイプ。
     女同士だし、歳近そうだしと思って一瞬でも猫かぶって損した。
     仲良くは、なれそうにないな。
     やっぱり帰りたい。

     ・・・・・

  • 5二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 23:35:40

    「アカネにはリコリスとしてDAに潜入してもらう」
    「なんて?」
    「アカネにはリコリスとしてDAに潜入してもらう」
    「それはわかりました」

     自室の固いベッドに寝転がって観光ガイドで日本の観光名所を調べていると、たきなが部屋に帰ってくるなり意味不明なことを言い始めた。
     通された部屋はたきなと二人で共有のスペースで、お世辞にも広いとは言えなかった。というか狭い。ベッドに敷かれたマットも薄く、こんなところで寝泊まりしてたら三日で肩が凝る。
     たきなは私を部屋に案内したあと、真島と今後の方針について話し合ってくるといって出ていき、しばらくして帰ってきたと思ったら先ほどの意味不明な言葉というわけだ。

    「でぃー…リコ…?」
    「それも含めて説明する」

     DA。Direct Attackの略称だという、日本に存在する独立治安維持組織。
     日本、特に東京を中心に活動していて、孤児を引き取り少女兵に育てて犯罪者を独自に粛清する組織。
     その少女兵をリコリスという組織のエージェントとして総称し、彼女たちによって秘密裏に犯罪は裁かれ、或いは未然に防がれ、超高性能な人工知能によって情報は完璧に統制され、犯罪とリコリスの存在は隠蔽される。そうして日本は安心安全な平和な国としての地位を築いてきたらしい。
     へぇーそうなんだ。
     どこが安心安全なんだ。
     つまり街を歩けばその辺に暗殺者がうようよいて、私たちみたいな犯罪者を狙って目を光らせてる。そしてその場で射殺することが許可されていて、情報統制によって暗殺者の身は守られる。
     そこに潜り込めって?

    「これから当面の間、わたしがアカネをリコリスとして鍛える」
    「えっ」
    「わたしは元リコリスだ、街中での動き方から戦い方まで教える。本来なら幼少期から何年もかけて身に付けるものだが、半年で覚えてもらう」
    「えっ」
    「多少厳しくなると思うが、海外での実戦経験があるなら大丈夫だろう。陸地での実地訓練になる、明日からだ。今日はよく休め」

     聞きたいことは色々あるけど。
     帰りたい。

     ・・・・・

  • 6二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 23:35:58

     鬱蒼とした森の中、道なき道を進むように草をかき分けて進んでいく。
     じわりと湿った不快な空気が肌を撫でて、全身からじゅわじゅわ汗が吹き出してくる。
     蒸し暑い。
     肌を守るためと着せられた長袖と長ズボンが、体にべったり張り付いて気持ち悪い。
     下着まで濡れて最悪の気分だ。

    「あ~のぉ~……まだ着かないんですかぁ……?」
    「もう少しだ」

     前を歩くたきなは、顔色一つ変えずに草むらの中をぐんぐん先へ進んでいく。
     ここは日本のとある県境にある山中。
     なんだって私たちがこんなところにいるのかといえば、この山の中腹にある廃墟の病院に、麻薬密売組織が潜んでいるという情報を掴んで、二人で山の裏手から回り込んでいるところなのだ。

    「見えたぞ、あれだ」

     視界の開けたところまで出てくると、切り開かれた土地にそこそこ大きな建物の姿が建っているのが見えた。
     壁はひび割れてボロボロに崩れ、窓ガラスはことごとく割れている。その代わり木の板が窓枠に打ち付けられていて、屋内の様子は窺えない。
     廃墟になる前はまあ、立派な病院だったのではないかと察することができた。
     であれば当然、廃墟まで車で来られる道もあったのだが、なんだってわざわざ道の整備された正面からでなく、裏手からなのかといえば、犯罪者同士なかよく協力しましょうなんて話し合いにきたのではなく……。

    「うわ、見張りだけで結構な数いますけど……帰りません?」
    「いや想定内だ、あれを殲滅する」
    「えぇ~、疲れますよぉ絶対……やだなぁ……」

     草むらに身を潜めて廃墟の様子を確かめる。
     建物の裏口だけで見張りが三人。建物の広さに比べれば少ないように思うが、こんな山奥の裏手の見張りに三人も人員を割けるということは、屋内にはさらに倍以上の人数いると考えていい。
     正面にも当然見張りがいて、こちらは二人しかいないことを考えると、戦力比は明らかに釣り合わない。

  • 7二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 23:36:12

     もっとも、負けるとも思わないが。
     たきなに連れられて、何度か街中でリコリスを実際に見せてもらった。
     本部のある東京ではなく地方の支部であったが、白い学生服を着て普通に街中を歩いているところを離れて後をつけてみた。
     リコリスはこちらに気づく様子もなく、そのまま追跡して通り魔らしき男を撃ち殺しているところも目撃した。
     訓練を受けたエージェントと聞いて警戒していたのが、とんだ拍子抜けだ。あんな連中なら私にも狩れる。
     そんな連中に気づかずやられる方も、所詮は腑抜けた国の犯罪者。
     どうせ治安維持部隊もテロリストも、ぬるま湯に浸かった者同士の戯れを続けてきたのだろう。
     潜入のための訓練とか、頑張って努力して完璧な仕事をこなすとか、そんな暑苦しいのは勘弁。
     私はそこそこの仕事をこなして、安全に報酬を受け取って帰りたいんだ。
     だから今だって、わざわざ自分から危地に飛び込んでいくような真似はしたくないのに……。

    「アカネ、この距離いけるか?」
    「バレずにですか? 無理無理ですよ、無理。見たらわかるでしょ」

     パッと見て、ここから建物の裏口までは五十メートル近くはある。
     草むらを出れば遮蔽物と言えるものは小さな物置小屋ぐらいなもので、それも建物から十メートル離れるかどうかの距離。
     あとは手入れがなされなくなり、ところどころ草の生えた駐車スペースが広がるだけ。
     バレないで近づくどころか、草むらから体を出した瞬間に見つかって仲間を呼ばれるのがオチだ。

    「わかった、わたしがやろう」

     ……へぇ?
     どうやらこの無愛想女には、この距離をバレずに接近する作戦が何かあるらしい。
     サプレッサーを取り付けたハンドガンを取り出して、前方に構えている姿を横目にちらりと確かめる。
     日本という温室で育った、リコリス出身テロリストのお手並み拝見と、

  • 8二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 23:36:27

    「……えっ」

     ハンドガン。
     構えている。
     この五十メートルの距離から。
     ぷしゅ。
     乾いた空気の音が響く。
     視線を正面に戻し、見張りの姿を確かめる。
     三人のうち一番左端に立っていた男が、まさに頭から大きく仰け反っているところ。
     ぷしゅ、ぷしゅっ。
     続けざまに二発、空気が小さく弾ける音。
     並んで立っていた右の男二人が異変に気づいた瞬間、頭から赤い飛沫を噴き上げて地面に倒れ伏す。
     あっという間に物言わぬ肉塊が三つできあがり、しんとした静寂だけがこの建物の裏手に残った。

    「よし、いくぞ」
    「…………」
    「……? アカネ? 早くこい」

     開いた口が塞がらなかった。

     ・・・・・

  • 9二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 23:36:44

     見張りのいなくなった建物の裏口から中の様子を窺う。
     やはりというか、当然というべきか、中に明かりと呼べるようなものはなく、窓巻くに打ち付けられた板の隙間から微かに差す外の光だけが足元を照らしている。
     恐らく建物全体が使われているのではなく、外に人工の明かりが漏れない、建物のより内側の方に敵は潜んでいるのだろう。

    「わたしが先行する、後についてこい」
    「りょーかぁい」

     たきなは躊躇うことなく廃墟の中へと足を踏み入れ、足音を立てることなくするすると進んでいく。
     その後に続いて、足元にた散らばったガラス片などを鳴らさないよう、外の光だけを頼りに慎重についていく。
     しばらく進むと暗闇に目が慣れてきて、壁の輪郭やヒビなどもうっすらと見えてきた。スプレーで落書きされた跡もあり、建物全体の劣化具合から、廃墟化してから相応の年数が経過しているのが読み取れる。

    「静かですねぇ」
    「上の階にいくぞ」
    「はぁい」

     一階は一通り見て回ったが、正面入り口の見張り以外に人がいそうは気配はなかった。
     正面の見張りは六人。裏口と違い一ヶ所にまとまらずにバラけていて、バレずに一気に仕留めるのは無理だと判断して放置することにした。
     挟み撃ちのリスクは背負うが、二人で複数を相手取るなら狭所になる屋内の方がなにかと都合がいい。

    「……この上だな」
    「みたいですねぇ」

     二階に上がると、階段の先から微かに人の声が聞こえてくる。内容まではハッキリ聞き取れないが、耳を澄ませば確かに喋っているのが確認できる。
     念のために二階も一通り見て回って、敵がいないことを確かめる。

  • 10二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 23:36:57

    「ステーションの前に二人、突き当たりに二人か」
    「中にはもっと……てことですねぇ」

     階段を上がり三階へ。
     たきなは小さな鏡を取り出して、角から通路の様子を確かめる。
     長い通路には計四人の姿が確認できたが、ステーションの中からは、他にも声と明かりが漏れ出している。
     ここで通路の連中をやってしまうこともできるが、そうなれば他の連中に見つかってしまうだろう。
     バレずに行動するのは、この辺りが限界ということだ。

    「一気に仕掛ける、いけるか?」
    「余裕ですね」
    「よし」

     物陰に身を潜めて、息を合わせる。
     向こうからは、明かりのない通路の奥にいるこちらの姿を、すぐには捉えられない。
     裏口の時と同様、たきなが膝をついてハンドガンを構える。
     ステーションの前に立つ二人を無視し、その向こうの通路突き当たりに立つ二人を狙って遠距離狙撃を仕掛ける。
     ぷしゅっと空気の弾ける音が連続で聞こえたのを合図にして、ステーション前の二人に向けて走る。
     たきなほどではないが、私も射撃の腕には自信がある。距離を詰めながら、物音に驚いて振り向く二人に向かって引鉄を引く。
     サプレッサーが空気を弾く音を立て、手が反動で跳ね返る。
     走りながら照準が正面に戻ったタイミングで、引鉄を引く。薄暗い廃墟の通路に、駆ける足音と小さな銃声が響く。
     突き当たりの二人が静かに倒れ、ステーション前の二人は身体にいくつも穴を開けて血溜まりを作る。

  • 11二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 23:37:20

    「どうした?」
    「おい、今の何の音だ?」

     異変に気づいた仲間たちが、ステーションの中から足音を鳴らして移動してくる。
     その手前、通路脇にあるトイレの入り口へと身を潜め、奴らが出てくるのを待ち伏せる。

    「前の見張りは……」

     一人の男が通路に頭を出した瞬間、ぱんっと頭から血飛沫をあげて派手に倒れる。
     後ろからたきなが、静かに距離を詰めながら合流してきていた。

    「おいっ!? くそ、敵だ! 入り口の連中は何やってんだ!」
    「お前らこい! 敵は何人だ!?」

     がしゃがしゃと一気に慌ただしく動き回る音が聞こえてくる。

    「どこのどいつだ!?」

     怒声をあげながら飛び出してきた男が、一瞬で頭と体から鮮血を噴き出す肉塊へと変わり果てる。
     頭悪いなー、順番に出てきてくれるなんて。

    「待ち伏せされてるぞ……! 外の見張りはどうした!?」
    「今きます! 裏口とは連絡がつきません……!」

     さすがにこうも立て続けにやられれば、向こうも警戒するだろう。すぐ近くだから会話筒抜けだけど。
     向こうから動いてこないなら、今度はこちらが動けるようになる。たきなとアイコンタクトを取り、通路に出てステーションの入り口、受け付け前へと揃って滑り込み、中にいる人影へと弾丸を乱れ撃つ。
     次々と断末魔の悲鳴が上がり、反撃のマズルフラッシュが瞬く。
     素早くステーションの下に身を隠し、壁を挟んでお互いに出方を窺う形で固まる。
     こうなると不利になるのはこちら。
     階下から複数人の足音が騒がしく登ってくるのが聞こえてくる。

  • 12二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 23:37:40

    「どうします?」
    「……ん」

     隣で座るたきなに指示を仰ぐ。
     既に口許には金属製のピンを咥えていて、その手には閃光手榴弾《スタングレネード》が握られている。
     閃光手榴弾はそのままステーションの中に放り込まれ、凄まじい炸裂音と閃光が廃墟の通路を走り抜ける。暗いこの空間に慣れた目では、閃光に焼かれてもはや機能しなくなるだろう。
     私も危うく耳をやられるところだった。

    「そういうのは先に言ってくださいよぉ……キンキンする……」
    「下からくるぞ」

     階段から飛び出してくる影を遠目に見て、ステーション前から前方、エレベーターホールになっているスペースへと退避する。
     一歩遅れて無数の銃弾が通路を火花を散らして飛び去っていく。既に私たちがいない場所へ向けて、無駄な弾をばちばちと。
     それが一度止んだ隙に、たきなが通路を横切りながら通路の奥へと数発の弾丸を素早く撃ち込む。奥から悲鳴が上がり、反撃が飛んでくる。
     その反撃も無駄に終わって、今度は私も一緒に通路の奥へと腕を出して射撃する。
     次第に反撃も少なくなり、やがてこちらに飛んでくる銃弾はなくなった。

    「お、まだ生きてるのがいますねぇ」
    「こんな……ガキどもが……」

     静かになったことを確認して、ライトを照らしながら階段前まで確かめにいくと、息があるのが二人。
     私たちの姿を見て、愕然としている顔が面白い。
     倒れたその頭に腰をかけて、アゴの下から銃口をグリグリと押し当てる。

    「ひっ、ひいぃ……」
    「ぷっ、きひひ! たきなさん聞きましたぁ? だいの大人が「ひぃ」だってぇ! ひひ、うひ!」
    「遊ぶな」

  • 13二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 23:37:58

     たきなはもう一方の生き残った男に、容赦なく弾丸を撃ち込み、息の根を止める。
     そのまま先ほど閃光手榴弾で目を焼かれたであろう、ステーション内の生き残りのトドメへと向かっていく。

    「な、なんなんだ、お前たち……」
    「んー? 悪い人たちをやっつける、正義の味方……ですかねぇ?」
    「くぅ……」

     銃身でコツコツと男のアゴを叩いて、反応を楽しむ。
     人を撃ち殺すのに正義のお題目があるっていいかも。別に普段から躊躇することなんてないけど、引鉄を引く指が一層軽くなる。
     自分がやってることが正しいって思うと、ずいぶん気が弾むものだ。
     ろくな見返りもない悪人退治なんて慈善事業、やる気ないけど。

    「…………っでぁ!」
    「おわぁっ!?」

     突然、体が浮き上がって前のめりに倒れこむ。
     椅子にしていた男が力ずくで起き上がって、押し倒されたのだ。放っておけば死ぬような怪我だったのに、まだこんな力が残ってたなんて。迂闊だった……。

  • 14二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 23:38:12

    「アカネ!」
    「動くんじゃねえ! 銃捨てろ!」
    「いだだ……!」

     物音に気づいたたきながステーションの入り口から振り返って叫ぶ。
     私は銃を奪われ、後ろ手に締め上げられて、銃口をこめかみに突きつけられている。
     男は私を盾にするようにして、たきなに武器を捨てるよう命令する。
     捨てたところでたきなを撃ち殺して、そのあと私も殺されるだけ。
     だったらたきなは武器を捨てない。私を見捨てて男を殺すだろう。
     やば、死んだな私。
     まさか最期がこんなマヌケな死に方なんて、全く考えたことなかった。

    「何してんだ! さっさと銃を捨てろって言ってんだよ!」
    「…………」
    「……たきな、さん?」
    「アカネ、」

     たきなは棒立ちのまま、銃を捨てる気配はない。
     通路の先から小さく反響する声は、取り乱す様子もなく落ち着いている。
     暗い通路の先に、紫色の瞳が光る。そこにはまるで、刃物の如く牙を研ぎ澄ませた肉食の獣がいるような……。
     廃墟の裏口での出来事が思い返される。
     ちょちょちょ、まさか、

    「動くな」

     目を閉じて、一発の銃声が、耳に響いた、

     ・・・・・

  • 15二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 23:38:26

     その日は船に帰らず、近くの街でホテルに宿泊することになった。
     たきなさんの訓練中の良いところは、船の固いベッドではなく、こうしてふかふかのベッドでゆっくりくつろげること。
     辛気臭い顔の男もいなければ、男どもの洗ってない汗の臭い立ちこめる空間もない。
     多少安いホテルも、あの船の中に比べたら天国のような時間。

    「たきなさんて、スゴく強いんですね」
    「……なんだ急に」
    「ほら、今日のアレ。遠距離からぱすぱすって」

     ベッドの上にあぐらをかいて、指でピストルの形を作り、ばきゅんとジェスチャーをする。
     備え付けのテーブルに向かって、ノートに今日の実戦で浮き彫りになった課題を纏めているたきなさんに話しかける。

    「機械みたいに正確な射撃で惚れ惚れしちゃいましたよ、アレどうやってやるんですか? コツとか教えてもらいたくて」
    「…………特訓……」
    「すごぉ」

     努力の人ってわけかぁ、私には絶対無理だ。素直に尊敬。
     その一方でたきなさんは怪訝そうな顔でこちらを見つめる。まあ、私が態度変えたら大体の人はそうなるし、気にならないけど。

    「それだけの腕なら狙って殺さないこともできますよね。そうなったら、生け捕りにして尋問とかもお手のものですね」
    「…………」
    「あ、あとはこう……しゅばばっと。まさか助けてもらっちゃって……たきなさん、めっちゃカッコよかったですよ」
    「……そう、……」

  • 16二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 23:38:39

     ん、あれ。
     嫌味とかじゃなくて素直に褒めたんだけど、なんか暗い顔。
     船の上で見た、触れれば切れる刃のような雰囲気はまるっきり身を潜めて、すんと落ち込んだ年相応の女の子が顔を出す。
     もしかして地雷でも踏んじゃったかな。
     そういえば、たきなさんには色々と聞きたいこともあるし、この際だから気にせずいくらでも踏んでしまおうか。

    「たきなさんって、なんでテロリストやってるんですか?」
    「もう寝ろ」

     いきなり特大アウトを踏んだっぽい。
     これテロリストトークの基本の掴みなのに。大体これでみんな憎いあんちくしょうとか、不平等で不公平な社会の不満とかを吐き出しあって、仲良くなる一歩を踏み出すのに。
     一瞬で目付きは鋭く戻り、ズバッと容赦なく会話を切り捨てる一言。

    「いやいやいや、だって気になるじゃないですか。なんでテロリスト撃つ側から、こっちにきたのかって」
    「……知ってどうする」
    「興味本位ですよ、それ以上も以下もないです。あ、なんなら約束とかしてもいいですよ、他の誰にも喋らないって」
    「…………」

     小指を立ててくいくいっと揺らす。

    「…………」
    「はぁー、ダメかぁ……まあ、いいですけど。じゃあ他のこと聞きますけど、実際たきなさんってリコリスでどれぐらい強かったんです?」
    「……階級の話はしたな」
    「ええ、はい。ファーストからサードまであるって」
    「私はセカンドだ」

     以前、街中で見かけた白服のリコリスはサードだという。
     あんな射撃をするたきなさんがセカンドで、その上にはまだファーストがいるってことは。

  • 17二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 23:38:54

    「ひょっとしてファーストってメチャクチャ強いんですか……?」
    「少なくとも、わたしから見れば誰も化物のような次元だった。ファースト・リコリスになることは、リコリスたちの憧れで、夢でもある」
    「たきなさんも、前は?」
    「…………」

     それは、NGということか。
     さっきの、なんでテロリストにってところにかかってるのかな。
     しかし、たきなさんから見ても化物とは、ファーストってのは一体どれほどの強さなのか。
     聞いてみれば、とんでもない脚の速さでセカンドが束になっても敵わないとか、超長距離狙撃を確実に当てるとか、二丁拳銃で同時に複数の敵を処理するとか、漫画や映画みたいな話ばかり聞かされた。
     中でも群を抜いてファンタジーだったのが、

    「弾を避けるなんてありえないですよ」
    「その目で見ればわかる」
    「じゃあDAに潜入したら見てきます、その東京ナンバーワンってリコリス」
    「……その人は……DAにはいない」
    「じゃあ、どこにいるんです?」
    「…………」

     NG。
     テロリストになった理由、憧れと夢、東京で一番のリコリス。
     朧気ながらも、たきなさんの輪郭が見えてきたような気がする。

  • 18二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 23:39:06

    「その人って、たきなさんの知り合いなんですか?」
    「っ…………」

     たきなさんの肩が小さく揺れる。
     わかりやすい。
     何週間か付き合ってみて、この人は口数少なく、深く考え込むタイプだとわかった。でも、その考えは口に出さない。
     そして考えの深さの割に、思考と行動は直線的。
     昼間の廃墟でもそうだったように、思考してからの判断が恐ろしく早い。行動と思考がイコールになっているのではないかと思うほど。

    「あ、まだ寝ませんよ、寝かせませんし」
    「…………」
    「その人のこと、もっと教えてくださいよ」

     簡単なことを無駄に難しく考えたり、逆に難しいことはあっさり最短で結論を出す。
     まるで小学生。
     簡単な問題に悩んでから大人では思いもつかない非常識な答えを出して、難しい問題にはするりと真理をついた答えを出すような。
     頭の中をそのまま行動にしたかのような人。
     好きだな、この人のこと。
     わかりやすいっていうのは、いいことだ。
     あの佐賀とかいうおっさんや、真島とかいうもじゃ頭は、変に難しいことばかり言う。
     たきなさんぐらいストレートに行動と思考が直結している人が、私にはわかりやすくて丁度いい。

    「……千束……その人の、名前……」
    「ほうほう」
    「わたしの……わたしと一緒に、任務をやっていた人……」

     その一方で、言葉のどこかに明確な線を引いている感覚。さっきのNGラインがあったように、踏み込めない距離が、まだ先にある。
     たきなさんは観念したのか、ぽつりと呟くようにその名前を口にした。

  • 19二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 23:39:21

     ここではない、どこか遠くを眺める憂いを帯びた瞳。綺麗だ、と思う。

    「パートナーってやつですか。生きてるんですか? 任務で死んだとか」
    「千束は生きている」
    「暗い顔してるから、てっきり死に別れでもしたのかと」
    「…………」
    「どっちなんですか……」

     まあ、生き別れたというのが、有力だろう。
     しかしその千束って女が生きているというのなら、なんだってテロリストをやっているのか。千束って女がリコリスで、たきなさんもリコリスだったのなら、リコリスを抜けて、パートナーをおいてきてまでテロリストをやっている理由は……そこに私は触れられないなら、外側から触れていこうか。

    「どんな人なんですか? その千束って人」
    「……不思議な人」
    「それじゃわかりませんよ」
    「一緒にいると……それだけで楽しくて、嬉しくて、明るい気持ちになれる……眩しくて……あたたかい、そんな……」
    「…………」

     具体的なことは何も伝わってこなかったけど、ただ、確かに伝わってきたことは。

    「そんな、人です」

     たきなさんのその顔は、たきなさんと会ってから一度も見たことのない顔。まるで、別人。
     笑顔とはいかないが、獣のような獰猛さも刃物のような鋭利さも、微塵さえ残さない柔らかな表情。柔らかな言葉。こちらが本当のたきなさん……というわけでもないだろう。いつもの態度からも、作り物の気配は感じたことはない。きっとどちらも本当の彼女の顔で、こちらの顔は本来なら私たちのような人間には見せない顔なのだ。
     千束という女が、たきなさんにこの顔をさせるのだ。
     俄然、興味が湧いた。その千束という女に。
     たきなさんから、凶器を奪う女に。

     似合わないなぁ、こんな表情。

     ・・・・・

  • 20二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 23:39:37

    「アカネ、計画に変更がある」
    「なんですかぁ?」
    「潜入先が変わった」

     リコリスの訓練も無事終了し、あとは東京襲撃計画に備えてDA内部に潜入しようかという時期になって、突然言い渡された計画変更。
     自室でごろごろしながら暇を潰していた体を起こし、部屋の入り口に立つたきなさんへと向き直る。

    「えぇ~、何ヵ月も訓練がんばったのにぃ……」
    「いや、リコリスとして潜り込むのは変わらない」

     んん? 話が飲み込めない。
     潜入先がDAでなければ、どこにリコリスとして潜入するのだろう。
     この数ヵ月、訓練した努力が無駄になるわけでないのはよかった。無駄な努力は私の嫌いな言葉トップスリーに入る。
     それに大義名分の元に人を撃ち殺すのは結構楽しいし、少しぐらいリコリスライフも期待してる。このカビ臭い船からも降りられるし。

    「喫茶店だ」
    「……はい?」
    「喫茶店に、リコリスとして潜入してもらう」
    「あー……意味がわからないんですけどぉ……」

     なんで秘密組織から喫茶店?
     そこがDAのお偉いさんの行きつけとか?

    「その喫茶店は、DAの支部として機能している」
    「ははぁ……なるほどぉ」
    「……そこで、その支部を任されてるリコリスの……パートナーとして、活動してもらう」

  • 21二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 23:40:02

     珍しくたきなさんの歯切れが悪い。
     急な予定変更だし、何か計画に支障がでたのだろうか。
     何にしても、私はたきなさんから次の言葉を待つ。
     そしてその言葉は、私にとって、青天の霹靂だった。

    「……千束の、パートナーとして」

     千束。
     たきなさんのかつてのパートナー。
     以前その存在について聞いた時、たきなさんは普段の鋭く尖った雰囲気を失い、他の誰にも見せないような優しい顔をして遠くを見つめていた。
     たきなさんにとっては、きっと大切な人。
     私にとっては……。

    「それで……千束さんのパートナーとして、何をしてくれば?」
    「……千束の行動を私に報告しろ。可能な限り、詳細に。あとは訓練通りにリコリスとして活動していればいい」
    「……わかりました」

     たきなさんから、刃を奪う人。
     どんな人か、会って確かめたいと思っていたのだ。
     思いがけない話に心が弾む。
     千束、千束かぁ。
     どんな人かは知らないが、たきなさんはもう、リコリスじゃない。

     きっちり、教えてあげないとね。

     ・・・・・

    「青森アカネです。今回の任務中、千束さんのパートナーとして選抜されました。よろしくお願いします」

  • 22二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 23:41:15

    おっマジか! うひょっ

  • 23二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 23:44:49

    ここまで
    本編ではポジションの都合上活躍できなかったアカネ視点からのたきなとアカネの話です
    テンポの都合上たんなるヒャッハーキャラみたいになってしまったのでその補完でした

  • 24二次元好きの匿名さん22/10/25(火) 00:17:57

    たきながまた女落としてる…
    アカネは相手が千束だったから瞬殺されてしまったな

  • 25二次元好きの匿名さん22/10/25(火) 07:04:49

    たきなさんの美貌は万人を釘付けにする…

  • 26二次元好きの匿名さん22/10/25(火) 07:14:10

    ~井ノ上たきなを抹殺せよ! リコリス 東京海上大激突!~

    このタイトルはなんだ

  • 27二次元好きの匿名さん22/10/25(火) 09:23:57

    どシリアスな本編からアホみたいなタイトル

  • 28二次元好きの匿名さん22/10/25(火) 11:13:07

    茜の花言葉『私を思って』『媚び』『誹謗』『傷』『不信』
    はえー

    たきなは原作だと笑顔のギャップや真っ直ぐさで落とすけど狂犬の面に惹かれたキャラってのはいなかったから新鮮

  • 29二次元好きの匿名さん22/10/25(火) 13:06:24

    リコリスクライシス閉ざされた延空木の次回作か…

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