【SS】果たす約束、変える未来

  • 1スレ主22/11/19(土) 16:45:46

    〘注意〙

    こちらのスレの175と177にて、SSを書かせて頂いた者です。今回のSSは、その続きとなります。

    ウマ娘入れ替わりスレPart4|あにまん掲示板ウマ娘の入れ替わり関連妄想のスレです基本自由以前はトレウマ入れ替わりスレでしたがトレウマ以外もなんでもどうぞ(オレウマとかモブウマとか)前スレ↓https://bbs.animanch.com/boa…bbs.animanch.com

    あれから細々とメモ帳アプリに書いていき、先ほどようやく完成致しました。

    しかし入れ替わりのジャンルから少々はみ出ており、またかなりのレス数を使用することになると思われるので、こちらのスレにて投稿することにしました。

    次のレスからコピペして順番に投稿していきます。

  • 2スレ主22/11/19(土) 16:46:39

    「タイシンちゃ〜ん…あら?」
    クリークが部屋に戻ると、そこにタイシンの姿は無かった。もぬけの殻となったベッドの上には、一枚の書き置きがあった。

    『急用を思い出したので、少し出掛けてきます。黙っていなくなってごめんなさい。すぐに戻るので心配しないでください。』

    「あら、大変…」
    風邪が悪化してはいけない。
    そう思ったクリークは、お粥の入った器と水を入れ替えたトレイを机の上に置いて、厚手の上着を羽織る。
    寝ていたときに着ていた半纏がベッドの上に無いので、それを着て出かけたのだろう。天皇賞(春)も終えて疲れも来ていたのかもしれないと、彼女のトレーナーからは聞いている。暖かくなってくる季節とはいえ、弱った身体では何が起こるかわからない。

    マフラーとカイロも持って出ようとすると、扉がノックされた。
    「は〜い…あら、ロブロイちゃん! どうかしましたか?」
    扉を開けると、ゼンノロブロイがこちらを見上げていた。
    「すみません、こちらにタイシンさんはいらっしゃいますか?」
    「いいえ? ちょうど私も、タイシンちゃんを探しに行こうとしてたところなんですよ〜。」
    「そうですか…あの、タイシンさんなんですけれど、先ほどこちらの部屋にいらっしゃいました。」
    「まあ、そうなんですか?」
    「はい。ライスさんにご用があったみたいで、言伝を預かろうかと申し出たら慌てて寮をあとにしたんです。ライスさんのことで、何か聞いていませんか?」
    「いいえ、特に何も…」
    なんとも言い難い不安が、2人の胸中を占め始めていた。

  • 3スレ主22/11/19(土) 16:50:54

    「美味しかったね〜、ライスちゃん。」
    「だね…さて、それじゃ行こうか。」
    「うん! タイシンさんに用があるって言ってたけど、何しに行くの?」
    「ホントに個人的な話だよ。超がつくくらいだから、ウララちゃんには教えられないかな〜、なんて。」
    「え〜?」
    いつもなら食べ切れないほどの量が、あっという間に胃袋の中に入っていった。これでもいつもより少ないというウララからの指摘にライスシャワー…になっているナリタタイシンは、その体の異常さに慄きながらも食事を済ませ、食堂をあとにした。

    (そもそもゲームでもして…っていうのが、間違いだったなぁ。)
    春天も終えてさあこれから、というときに風邪を引いて寝ていた…と思ったら、何故かライスシャワーになって屋外にいた。夢かと思ったが、長い髪の指通りや、微かに鼻孔をくすぐる薔薇のような香りは間違いなく現実のものだった。スマホデータもザッと目を通した限りでは間違いなくライスのもので、詳細を確認するのはなんだか憚られた。
    そしてホーム画面に戻ると、自分がやり込んでるゲームのアプリが目に入った。とりあえず一回だけやって落ち着こう。そう思って起動したはいいものの、慣れない指使いに思うようなスコアが取れず、つい熱くなってしまった。結果、ウララに見つかって今に至る、という訳だ。
    ちなみにわずかに体が重く感じるのは、どうやら先に出走した京都の春天の疲れによるものだろうということが、ウララと話してわかった。

    「ライスー!」
    そんなこんなで寮へ脚を運んでいると、後ろから男の人に声をかけられた。
    「あ! ライスちゃんのトレーナーさんだー!」
    「おっ、ウララちゃんも一緒だったのか…なかなかミーティングに来ないから、なにかあったのか心配してたんだぞ?」
    「あぁ、ごめん。えっと…」
    「ライスちゃんね、タイシンさんに用があるんだって!」
    「タイシンちゃんに…? とにかく怪我もなさそうでよかったよ。もし長引きそうなら、今日はこのまま休みにしようか?」
    「…ううん、なるべく手短に済ますよ。アタシ個人の話だし。」
    「…『アタシ』?」
    「! ところで、トレー…お兄さま。」
    「ん?」
    咄嗟に誤魔化すため何か訊ねようとしたが、何も思い浮かばない。しかし程なくして、記憶の中からスルリと、ある出来事が浮かんできた。

  • 4スレ主22/11/19(土) 16:52:12

    「…今年の宝塚記念、本当に京都で開催できるんだよね? 夢じゃない…よね?」
    ライスシャワーの活躍によって、今年は京都競バ場で宝塚記念を開催することができる。
    その事実は瞬く間に学園中に広がり、タイシンの耳にも届いていた。風邪を治してからの出走も、トレーナーと話し合ってそのレースに決めていた。

    「…ああ! 開催するためにあんなに頑張ったんだ、夢な訳が無い! 今日のミーティングも今の体調と照らし合わせて、スケジュールを組もうと思って予定してたんだ。」
    「そっか…すぐに終わらせて、トレーナー室に行くから。」
    「わかった、じゃあ待ってるね。」
    …そうしてその場をあとにしようとしたときだった。

    「痛ッ!?」
    突如として、キーンという高音と共に頭痛が走った。思わず右手で頭を抑えると、今度は何処からか声が聞こえてきた。

    《…ヤメロ…走ルンジャナイ!》
    (誰っ!?)
    「…あぁ、っぐァッ…!」
    頭痛はますます激しくなり、立っていられずその場でうずくまってしまう。
    「ライスちゃん!?」
    「ライス、大丈夫か!? ライス! ライスっ!!」

    ふたりの心配する声を最後に、タイシンの意識は暗闇に落ちた。

  • 5スレ主22/11/19(土) 16:58:31

    (タイシンさん、何処に行っちゃったんだろう…)
    半纏姿のナリタタイシン…になったライスシャワーは、タイシンを探していた。
    春天を終えてから妙に身体が重いことを自身のトレーナー――お兄さまに話すと、おそらく緊張状態からの反動による気疲れではないかということで、軽い自主練で数日間様子を見ることにした。次の出走レースについては宝塚記念に決めていたため、それに至るまでのスケジュールを今後のミーティングで詰めていこう、となった訳だ。
    そうしてミーティング前に軽くジョギングだけでも、と走っていると、突然視界が暗転し、気がついた時には風邪で寝込んだタイシンになっていた。
    風邪で体は重く感じるものの、居ても立っても居られなかった。せっかく看病してくれているクリークには申し訳ないが、この状況は明らかに異常なのだ。どうにか合流して、話ができれば…

    「ターイシーーーーーーーーーーーン!!」
    「ヒャッ!?」
    大声が耳を突いたと思うと、物凄い勢いで抱きつかれた。
    「やっと見つけた〜! も〜、どこ行ってたのさ!」
    「あぅ、ええとぉ…」
    「見つけたか、チケット。」
    「ハヤヒデー、見てよタイシンの顔! 風邪引いてるから真っ赤〜!」
    「まったく…クリークさんから急にいなくなったと聞いて、あちこち探したんだぞ。」
    「あうぅ…ふたりとも、心配かけてごめんなさい。」
    「えっ…ハヤヒデ、これ…」
    「………」
    「え、っと…ふたりともどうし――」
    「タイシィィィィィィィィィンッ!!」
    ふたりの反応に困惑していると、今度は暑苦しい男の声が飛んできた。
    「ハァッ、ハァッ…ふたりとも、ありがとう…っハァッ、疲れた〜!」
    「礼はいい、それよりタイシンだ。」
    「そうだよトレーナーさん! タイシンがなんかおかしいんだ!」
    「そ、そんなこと無いよ! ライ…私はいつも通り、だから!」
    「ほら〜、いつものタイシンとなんか違うよ〜!」
    「早いところ部屋に戻って、安静にしていた方がいい。」
    「みたいだな…さぁタイシン、はやく部屋に戻るんだ。」
    「でも…!」
    「クリークさんから話は聞いてる。ライスちゃんへの伝言なら預かるし、必要なら電話で繋ぐ。直接会うにしても、今だと風邪が感染る。とにかくあとは、俺たちに任せてくれ。」
    真っ直ぐこちらを見つめて言われては、これ以上文句は言えない。そう思い仕方なく首を縦に振ろうとしたときだった。

  • 6スレ主22/11/19(土) 17:02:52

    「おい、あれナリタタイシンじゃないか?」
    「ホントだ、マジで風邪引いてるのか?」
    後方からコソコソと話す男の声が聞こえた。マスコミか、トレーナーが呟く。

    「こりゃインタビューはやめといたほうがいいな。」
    「だな。ていうか、こんな時期に風邪引くとか、なーにしてんだか。」
    「そもそもがあんなちっちゃい体だしな、風邪になるのも仕方無いんだろう。」
    「次、宝塚だろ? 春天までは調子良かったけどなぁ、はたしてどんな体たらくになるやら…」
    こちらが聞こえていないと思っているのか、勝手に品定めをするような物言いだ。立ち上がったトレーナーがふたりのところに行こうとするが、それを引き止める。
    「タイシン…?」
    戸惑うトレーナーをよそに振り向き、一歩歩みを進めたところでようやく気づき離れようとするが、ひと睨みすると男たちは全身を強張らせて停止した。頭にチリチリと、歯車同士が噛み合わなくなるような痛みが走る。

    「トレーナーさん、タイシンが!」
    「おい、止めなくていいのか!?」
    後ろで困惑しているふたりの声を捕らえつつ、男たちまであとニ、三歩のところまで近づく。

    「ふざけ、ないで…!」
    左手で頭を抑え、頭痛を堪えつつ、相手をしかと睨みつける。
    「確かに、風邪を引いたのは、私の…ナリタタイシンの落ち度、だよ…でも、だからって…勝手に、決めつけないで!」

  • 7スレ主22/11/19(土) 17:03:42

    《…モウイイ…モウ、ヤメルンダ…!》
    「ぅあッ…くっ!!」
    頭の中に声が響き、より一層頭痛が激しさを増す。手放しそうになる意識の糸をなんとか手繰り寄せる。
    「次の宝塚記念、絶対に観に来て…今のその評価が間違ってたこと、思い知らせてあげるから…!!」

    「…これ以上はタイシンの身体に差し障ります。本日は大変、失礼いたしました。また京都競バ場で、お待ちしております。」
    振り返ると、いつの間にかトレーナーがすぐそばに佇んでいた。口調も表情も穏やかだが、声に静かにドスが効いていた。

    「…おい、行くぞ。」
    「えっ…あぁはっ、はいっ!」
    慌てて撤退する男たちを見届けると、不意に全身の力が抜ける感覚がした。後ろに倒れてしまうのを、逞しい腕で受け止められる。

    「お疲れ様、タイシン。ゆっくりお休み。」

    先ほどとは違う、眩しいような笑顔を最後に、ライスは意識を手放した。

  • 8スレ主22/11/19(土) 17:06:30

    段々と人の声が聞こえてくる。何人いるんだろう…そう思いながらタイシンが目を開くと…

    「…えっ、なにこれ!?」
    どうやらレース場の観客席にいるらしい。目前には芝で覆われたレース場に、自分たちがレース開始前に入るゲート。ここまでは自分たちにも馴染みがある。タイシンが驚いたのは、そのゲートに入っているのがウマ娘ではなく、人間を乗せた四足歩行の生き物だったからだ。

    「あっ…え?」
    そして驚いた点はもうふたつ。自分が元の体に戻っていることと、なぜか勝負服になっていることだ。

    「タイシンさーん!」
    「ライス!? アンタもここに?」
    「うん、気がついたらここに…でも、ゲートにウマ娘が入らないし、周りの人たちにもライスたちが見えてないみたいだし、何がなんだか…」
    確かに、この群衆の中では明らかに目立つはずの勝負服姿なのに、誰一人としてこちらに注目しない。そもそも存在が認知されていないようだ。

    「! タイシンさん、あれ!」
    「4枠8番、かな…『ナリタタイシン』…って、はあっ?」
    見ると、自分と全く同じ名前を記した布が視界に飛び込んできた。乗っている人間の服の模様も、自分の勝負服の上着に似ている気がする。
    「8枠16番、『ライスシャワー』…ライスとおんなじ名前だ…!」
    「ふーん…聞いた感じ、ファン投票1位みたいじゃん。さすが人気者♪」
    「もう、タイシンさん!」
    ライスにポコポコ叩かれつつ、ナリタタイシンから離れたところに目をやる。ライスと同じ名前の布を背負った、ナリタタイシンとは毛の色が違う生き物がいた。その人間の服も原色ではあるが、どことなくライスの勝負服の配色に似ていた。

    「まぁなんかよくわかんないんだけど、一応レース、なんだよね?」
    「だと思う…それに近くにいた人たちが話してたけど、このレース…」
    しかしライスが話そうとする前に、どうやらゲートインが終わったようだ。続けてアナウンスが聞こえてきた。

    〔今年もあなたの夢、そして私の夢が走ります! 第36回宝塚記念!〕
    「宝塚記念!?」
    「開催場所も、阪神が震災に会ったから変更されたんだって。」
    「まさか、その場所って…」
    「うん…『京都競馬場』。」

  • 9スレ主22/11/19(土) 17:09:07

    斯くしてゲートは開かれた。レース自体は、自分たちが知っているものと酷似している。芝を駆けるのがウマ娘ではなく、人を乗せた謎の生き物(実況を聞くに、数え方は『頭』のようだ)であることに目を瞑れば。

    「…なんか、初めて見た気がしないんだよね、あの生き物。」
    「…うん、ライスも知ってる気がする…あの生き物さんたちのこと、周りのおじさんたちは『馬(うま)』って呼んでたよ。」
    「馬、か…ふーん。」
    それからふたりは、暫しレースを観戦することにした。この場をあとにしてあちこち散策することもできたが、なぜかレースから目が離せなかった。

    「あの『ナリタタイシン』ってお馬さん、去年の春天から怪我続きで、今回が一年一ヶ月振りの復帰なんだって。」
    「ウッソ!? 厄年だったのかな…」
    そして実況は馬たちの紹介に入った。

    〔そして内を通って、おお! ナリタタイシンの元気な姿も見えました! 8番はナリタタイシン! それから16番、春の天皇賞を制したライスシャワー!〕
    「元気な姿って、運動会じゃないんだから…」
    「あうぅ…春天のこと言わないでぇ…」
    自分たちのことではないのに、名前のせいで恥ずかしくなっていた。そして殿まで紹介が終わり、レース展開の実況に移る。

    〔早くも17頭が、第3コーナーをカーブして、第4コーナーに向かう―――〕
    「っ!!」
    「なっ…!?」
    そこでふたりが目撃したのは、一頭の馬の転倒だった。体勢が崩れ、上に乗っていた人は芝に叩きつけられた。

    〔ライスシャワー落馬! ライスシャワー落馬であります!〕
    「そんな…ライス、ライスが…あ、あぁ――」
    「ライスっ!」
    崩れ落ちそうになるライスの体を抱き止めつつ、タイシンの視界は変わらずレースに向けられていた。

    「なにやってんだナリタタイシン!! 自慢の末脚はどうしたっ!?」
    同じ名を持つその馬が、一向に後方から上がってこない。届かないとわかっていながらも、声を張り上げずにはいられない。
    ライスシャワーは転倒し起き上がらず、ナリタタイシンは最終的に殿負け。
    信じ難い事実に、ふたりとも動けなかった。

  • 10スレ主22/11/19(土) 17:09:47

    …それからどれくらい経っただろう。再びコースに目を向けると、横たわるライスシャワーにシートが掛けられるのが見えた。

    「! 待って!!」
    「ちょっと、ライス!!」
    ライスは芝に降り立ち、無我夢中でライスシャワーのもとに向かった。何が行われるのかは分からない、けれど、止めなきゃいけない気がしていた。

    (やめて、やめて! やめて!!)
    しかし辿り着いた先でライスが見たのは、ライスシャワーの、明らかに治療が難しいとわかる状態の左前脚だった。

    「…ライス…」
    「…タイシン、さん…!」
    追いついたタイシンに抱きつき、ライスは声を上げて泣いた。タイシンは自身の上着が濡れるのも構わず、静かに背中を撫で続けた。

    その後生涯の幕を閉じることとなったライスシャワーは車で運ばれ、乗っていた男の人は敬礼してそれを見届けていた。

    (…お兄さま?)
    その男に対してライスは、なぜかそんな気持ちを覚えた。

  • 11スレ主22/11/19(土) 17:11:25

    《コレガ、僕ノ最期ダヨ。》
    「! タイシンさん!」
    「うん、アタシも聞こえた!」
    再びあの声が聞こえたと思うと、景色が変わりだした。砂でできた城のようにサラサラと崩れだし、あたり一面真っ暗な空間へと姿を変えた。
    そしてふたりの眼の前に、あの2頭の馬が姿を現した。霊体、というものなのか。白いオーラのようなもので体が覆われていた。

    《初メマシテ、エット…キミガ、ライスシャワー?》
    「あっ、はい…はじめまして、ライスって呼んでください。」
    「いやお見合いか。そんな緊張しなくていいじゃん、堅苦しい。」
    《マッタクダヨ、見テルコッチモ息苦シイ。ンデ…》
    「うん、アタシがナリタタイシン。タイシンでいいよ。」
    《フーン…コリャマタ生意気ソウナチビダネ。》
    「うっさい。」
    「ええっと、それで…ここはどこ? どうしてライスたちはここに?」
    質問をするライスに対し、二頭は顔を見合わせる。そしてライスシャワーがこちらを見やる。

    《キミタチガ今度出走シヨウトシテイル宝塚記念…ドウカアレニ出ナイデ欲シイ。》
    「…まあ、流れからしてそうかな、とは思ったよ。入れ替わりもその妨害、ってことかな。」
    「ライスシャワーさんはともかく、ナリタタイシンさんも?」
    「アンタは…事故には会わなかったの?」
    《一応寿命ハ迎エタ。デモレースニ関シテハ、アノアトマタ脚ガ悪クナッテ、ソノママ引退シタ。》
    「…そっか。ホント、最後まで大変だったんだね。」
    《他人事ミタイニ言ウナ、アンタタチモソウナルカモ知レナインダカラ。》
    「ライスたちと同じ名前、だから?」
    ライスの問いに少しの間を置いて、ライスシャワーは、ゆっくりと話しだした。

  • 12スレ主22/11/19(土) 17:12:01

    《…天皇賞春、ダッケ? 僕ハアノレースノアト、ナゼカ調子ガ悪カッタンダ。デモ人間タチハ話シ合ッテ、コノレースノ出走ヲ決メタ。》
    「…どこか具合、悪かったの?」
    《自分デモ、ヨクワカラナイ。デモ今ノキミモ、ソンナ状態ナンジャナイカナ?》
    その通りだった。まさしく原因がはっきりわからない疲労感が体に溜まっていて、そしてその状態で出走することを考えると…

    《…ゴメン、怖ガラセチャッタネ。》
    「…ううん、気にしないで。」
    それでもなお手の震えが収まらないライスに対し、ライスシャワーは無言で頭をライスに差し出した。ライスはおそるおそる手を伸ばし、やがてその毛並みを優しく撫で始めた。

    「えへへ、ありがとう、ライスシャワーさん。」
    《ドウイタシマシテ》
    「ハァ、ったくこんな時に…ライスシャワーがああなったってことは、アンタも?」
    《マアソウイウコト。口カラ血ガ出ルシ、アイツホドジャナイケド骨折シチャウシ、オ腹ノ調子モ悪クナルシ。デ、ヨウヤク走レタノガアノレースッテ訳。》
    「いや、アタシは風邪引いただけだし…」
    とはいえ大まかな状況自体は全く同じだ。このままいけばあのレースと同じように、末脚を発揮できないまま終わる。

    《サ、ドウスル? 言ットクケドモシ断ルナラ、2人トモ入レ替ワッタママダヨ?》
    《僕タチハ、キミタチニ辛イ思イヲシテ欲シクナイダケダ。コレハソノタメノ忠告。ドウカ、聞キ入レテクレナイカナ…?》
    魂だけの存在だからだろうか。2頭の思いが、直に伝わってくる気がした。何も言わず、2人は顔を見合わせる。そしてどちらともなく笑みを浮かべ、2頭に向き直った。

  • 13スレ主22/11/19(土) 17:12:53

    「気持ちは嬉しいんですが、それはできません。このレースを開催するのに、たくさんの人たちがライスたちに力を貸してくれたんです。その思いを、無駄にはできません。」
    何か言おうと歩み出たナリタタイシンだったが、それをタイシンが静かに押し留めた。

    「その代わり、約束させて。今度のレース、何がなんでも万全の状態で出走する。そして…」
    ライスの肩に手を掛けると、言葉を続けた。

    「アタシとライスで、1着2着を独占する! アンタらみたいな不甲斐ない結果は、絶対残さない!!」
    「…え、ええぇぇぇぇっ!?」
    突然の勝利宣告に、ライスは驚きを隠せなかった。2頭も呆然とタイシンを見つめることしかできなかった。

    「ちょ、ちょっとタイシンさん! そんな約束していいの!? 出来なかったらまた入れ替わっちゃうんだよ!?」
    「なにアンタ、1着取る気無い訳? ウララはあんなにやる気満々なのに。」
    「もちろん1着とりたいし、そのためにトレーニングも健康管理もするよ?」
    「じゃあそれでいいじゃん。」
    「でも頑張るのと結果が出るのはイコールじゃないでしょ! そういうタイシンさんはどうなの? 自信あるの!?」
    「ある訳ないじゃん。」
    「じゃあダメじゃん!」
    「だーかーら、さっきも言ったでしょ? 風邪は治すし、できることもやるべきことも全部やる。誰が見てもいけると思わせるくらい万全の仕上がりで挑む。自信はその後でついてくるもんだよ。」
    「…タイシンさん、なんか暑苦しいね。」
    「へ?」
    「…トレーナーさんに似てきた?」
    「似てきてないっ!!」

  • 14スレ主22/11/19(土) 17:14:15

    《…フフッ、アハハハハハッ!》 
    「…ふぇ?」
    《フン…マッタク、敵ウ気ガシナイヨ。》
    「え…?」
    2人が困惑していると、暗闇に真っ白な光の道が現れた。その道のずっと遠くにあるその先には、大きな両開きの扉がそびえ立っている。

    《分カッタヨ、2人トモ。ソノ代ワリソノ約束、シッカリ守ッテモラウカラネ。》
    「ライスシャワーさん…うん、任せて!」
    《アトデ吠エ面カクンジャナイヨ。》
    「その言葉、そっくりそのまま返しとくよ。」
    そうして歩き出そうとすると、2頭は背中をこちらに向けて来た。

    《セッカクダ、ボクタチニ乗ッテイキナ。》
    《自分ノ背中に乗ルノモ、悪クナイト思ウヨ。》
    「ふうん…ま、そうかもね。」
    「ありがとう、ふたりとも。」
    そうして背中に跨ると、それぞれゆったりと歩き始めた。道中誰も口を開かなかったが、その沈黙さえ、心地よく感じた。振動に身を委ねているうちに、扉の前に到着した。

    《コノ扉ヲ開ケレバ、モトノ世界ニ帰レル。》
    《ボクタチノ役目ハ、ココマデッテ訳ダ。》
    「ありがとう、ライスシャワーさん。」
    「ありがとね、ナリタタイシン。」
    背中から降りて、それぞれ頭を撫でてあげる。もう彼らに会うことは無いことを、彼女たちは分かっていた。

    左右の取っ手に手を掛ける。
    お互い頷き、同時に引く。
    眩い光に眩みそうになりながら、2人はその先へ脚を進める。

    《ケ ン ト ウ ヲ イ ノ ル》
    扉が閉まる直前に聞こえたのは、彼女たちに向けた最後のメッセージだった。

  • 15スレ主22/11/19(土) 17:17:09

    目が覚めてからは、あっという間だった。ひと晩以上寝込んでからの目覚めに、心配してくれていたトレーナーや友人たちは共通の休日を設け、回復記念と称したパーティーを催してくれた。

    「そういえば、ライス。」
    「なあに?」
    「ひとつ気になることがあってさ…」
    トレーニングの休憩中、タイシンは気になっていたことをライスにぶつけてみることにした。
    「アンタのスマホのホーム画面にさ、ゲームのアプリ入ってたよね? あれアタシもやってるヤツなんだけど、なんか意外だなーって思ってさ。」
    「ああ、あの音ゲー? チケットさんから、タイシンさんのお気に入りだって勧められたの。なかなか高得点獲れなかったのに、タイシンさんたらあっさりハイスコア更新しちゃって〜。」
    「あ~、それはホントごめん。ていうかアイツ、どこでなに話してんの…」

    それから綿密なミーティングも重ね、迎えた当日…


    パドックの裏では、2人のウマ娘が相対していた。
    どちらも体調に問題なく、まさに万全を期した状態だった。

    「ライス、絶対に1着穫るから! 後ろからしっかり見ててね、タイシンさん!」
    「最後に1着穫るのはアタシだよ。大人しく抜かれて、アタシの背中でも見てな!」


    そして二人はそれ以上、何を言うでもなく、静かに拳を突き合わせた。

    約束を果たす、そのために…!






    〔今年もあなたの夢、そして私の夢が走ります!〕

  • 16スレ主22/11/19(土) 17:20:32

    以上となります。

    5レスくらいかなーと思ってたら、結局10レス越えました。楽しそうなスレとそれを建ててくださったスレ主さんたちに、改めてこの場を借りてお礼申し上げます。


    現在進行中の入れ替わりスレ

    ウマ娘入れ替わりスレPart5|あにまん掲示板ウマ娘の入れ替わり関連妄想のスレです基本自由トレウマ、ウマウマ、オレウマ、モブウマなどなんでもどうぞ概念を語るのも良し、SS等を投下するのも良しですなお次スレは>>190を踏んだ人がお願い…bbs.animanch.com
  • 17二次元好きの匿名さん22/11/19(土) 20:36:44

    実馬を交えた不思議な体験って感じで面白かった
    全体的な構成力も高くて満足

  • 18二次元好きの匿名さん22/11/19(土) 21:00:48

    >>17

    書きたいことを盛り込みすぎてめちゃくちゃ長くなってしまいましたが、なんとかまとめることができて良かったです。

    感想ありがとうございます!

  • 1918もスレ主です22/11/19(土) 21:13:07

    >>18

    失礼、名前忘れてました。

  • 20二次元好きの匿名さん22/11/19(土) 23:12:03

    まさかあのスレからこんな大作が出てくるとは…!
    読んでて面白かったし史実要素も盛り込んであって大満足だった

  • 21スレ主22/11/19(土) 23:30:15

    >>20

    楽しんでいただけて何よりです!

    ここだけの話、自分でも書き終えてから文量に若干ドン引きしましたw

オススメ

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