【SS】ユア・アイズ・オンリー

1二次元好きの匿名さん22/11/23(水) 21:57:11

カメラあるところにマーちゃんあり。
そんな言葉があるように、今日もマーちゃんは撮影の気配を感じる場所へひとっ飛びです。
URA公式マーちゃんグッズの売上も上々な今日この頃ですが、日々の地道な宣伝活動を怠る理由にはなりません。
テレビカメラや自撮りの隅に、どうもこんにちは、アストンマーチャンです。
どうか覚えて帰ってね。

2二次元好きの匿名さん22/11/23(水) 21:57:56

今日も今日とてマーちゃんセンサーは絶好調。びびびとマーちゃんの大好きな気配を察知、自然と足が向かいます。
廊下の流れに逆らって、階段を登ればそこには仲の良さげな2人組さんがいました。
虹色に揺れる鮮やかなアクセサリーたちを、掲げた自撮り棒の先に映そうとしています。この後ウマトックに投稿するに間違いないでしょう。
ではでは画面の端をお借りして、プリティーなマーちゃんをまたひとつネットの海に━━━あ。

彼女らが作った腕の輪の先。そこに、いました。
視線は彼の僅かな微笑みにすうっと吸い寄せれらます。
マーちゃんのトレーナーさんです。お仕事のお話でしょうか。同僚のAさんと廊下で立ち話のご様子です。パリッとしたスーツを着て、普段とは違う真剣な眼差し。
くっきりとした黒の瞳の奥へ、すとんと落ちていく感覚。あれを真正面に受けてしまったら、マーちゃんどうなってしまうでしょう。きっと映画の悪役のようにイチコロです。トレーナーさんは凄腕スパイの資格ありだったのです……マーちゃん専属の、ですけれど。

｢━━━━━━……！｣

トレーナーさんはマーちゃんの視線を感じ取ったのか口を止め、視線が一直線に重なります。
瞼が緩み、いつものトレーナーさんに戻ります。
ほんのすこしだけ残念ですけど……マーちゃんのあられもない姿をさらけ出さずに済んで一安心。
ぴこぴこ、マーちゃんですよ〜。
お仕事の邪魔にならないよう、小さく手を振ります。

3二次元好きの匿名さん22/11/23(水) 21:58:40

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4二次元好きの匿名さん22/11/23(水) 21:59:20

｢━━━━━｣

トレーナーさんは一瞬の間の後、くすりと微笑み腕を畳んだまま手をふりふり、振り返してくれました。
そして、するりとまたお仕事に戻っていきます。

━━━━これはいけません。マーちゃんイエローカードを出さなければです。大人なあなたのお茶目な一面が、マーちゃんハートを掻き乱します。
固まったほっぺをぐりぐりほぐして……深呼吸を繰り返して、ようやく熱が引いたのを確認して。改めておふたりさんの自撮りを━━━あう。
気づけば、二人組さんは動画を撮り終えて廊下の向こうの小さな影となってしまっていました。

｢むう。マーちゃんとしたことが気を取られてしまいました｣

なんという失態。プロ失格の烙印を押されかねません。
気持ちを入れ替えて……次こそはしっかり映ってみせましょう。

5二次元好きの匿名さん22/11/23(水) 22:00:12

ところが、です。
学園の中ではどうも最近調子があがりません。
向かう先々で同じ影を見つけて、気を取られてしまいます。マーちゃんの記憶フォルダばかりが潤う毎日。1人でいる時の油断しきった表情だとか、どんどん新鮮な顔を見せてくれるのが楽しみで━━━ではなくて。これではマーちゃんの目的が達成できません、困った限りです。

ここは、休日をまるっと使って街に繰り出すのがよいでしょう！学園以上にたくさんのレンズが見つかるはずです。これまでの失敗を取り返せる天才的アイデア。ノーベル賞ものマーちゃんなのです。
商店街の人混みもなんのその。ほら、マーちゃんセンサーも非常に強い電波を受信していますよ。
足を早める度、胸が高鳴ります。新たなレンズの予感にときめきを抑えきれなくなって━━━━

｢ん、マーチャン……？奇遇だね｣

トレーナーさんの私服姿を、久々に見ることになったのでした。

6二次元好きの匿名さん22/11/23(水) 22:00:58

｢むぅ。良くありませんよトレーナーさん｣

｢どうして急にお叱りタイムなのかな……？｣

せっかく休日に鉢合わせたのだからと、喫茶店の席で隣り合わせ。優しく沈むジャズの音色と、香ばしく揺らめくコーヒーの香りに包まれて一息……と思ったら大間違いなのです。

｢最近のトレーナーさんは専属レンズとしての自覚に溢れすぎています｣

｢自覚に欠けてる、じゃあないんだね……｣

｢いくらマーちゃんがプリティーといっても、トレーナーさんはマーちゃんの瞳に映り込みすぎなのです｣

｢……確かに最近、ふとした時にマーチャンと目が合うことが増えたとは思うね｣

｢そうなのです。マーちゃんは困っています。マーちゃん発信活動に支障ありです｣

えいえい。腕にしがみついて抗議のゆさゆさです。
これは毅然とした対応なのです。決してトレーナーさんのがっしりとした腕の感触を感じるためではないのです。

｢よ、よくわからないけど……｣

困り果てたトレーナーさんは、空いたもう片方の腕をするりと持ってきて……ふにゃっ。

7二次元好きの匿名さん22/11/23(水) 22:01:32

｢……ごめんね？｣

マーちゃんのそれよりふた周りも大きな掌が、頭を梳いていきます。
撫でられたところから広がって、頬が、胸が、果ては指先まで熱くなっていきます。
むずむずして、内側から爆発しそうにかあっと気持ちが膨れ上がります。

｢……ゆるし、ません｣

ぎゅうっと力がこもって、顔を埋めてしまいます。
あなたの瞳を見ないように。

｢……もっとしてくれないと、お許しゲージは満タンになりませんので｣

｢ふふっ……それなら仕方ないね｣

8二次元好きの匿名さん22/11/23(水) 22:02:06

結局のところ、マーちゃんセンサーはどこも壊れてなどいなかったのです。
覚えておいて欲しい━━━その気持ちは全く揺らいではいません。
ただ……マーちゃんの願いを越えて、単純で純粋な強い想いがマーちゃんを瞳の輝きへ引き寄せていただけなのでした。
それならばもう……どうしようもないですね。

｢……ちらり｣

見上げれば、やっぱり視線が合ってしまいます。
黒い瞳の奥に、りんごみたいになったマーちゃんがいます。
ますます恥ずかしくなって……でも、嫌じゃないのです。
プリティーな姿も、あられもない姿だって、全部映していて欲しいので。
わたしの『すべて』をまるごと全部、焼き付けてくださいね。

そう、あなたの瞳だけに━━━