【SS】Dr.Ma

  • 1二次元好きの匿名さん22/11/05(土) 23:45:55

    「おかげで具合もだいぶ良くなったよ、ありがとう」

    「いえいえ、マーちゃんにとっては当然のことですから」

    マーちゃんのトレーナーさんはとっても頑張り屋さんなのです。愛されマスコットを目指すマーちゃんのことを、いつもいつでも本気で手伝ってくれるのです。
    けれど、頑張りすぎると時には「ふへー」ってなっちゃいますよね。
    ベッドに体を預けているトレーナーさんは、まさにその「ふへー」となってしまったのです。

  • 2二次元好きの匿名さん22/11/05(土) 23:46:38

    数日前に風邪の連絡を受けるやいなや、マーちゃんはすぐにトレーナーさんのお部屋にお邪魔したのでした。

    『ゲホッ……そんな悪いよ……』

    『いいえ、今日のマーちゃんはとっても頑固です。カチコチです。完治するまでDr.マーの治療にかかって貰いますよ』

    大丈夫だなんてトレーナーさんは言っていましたが、病院通いだったマーちゃんの目は誤魔化されませんよ。
    顔色は悪いし、おでこをごっつんこするとお熱も高いようでした。これは一刻も早く看病に取り掛からないといけません。

    冷感シートの取り替えやお着替えの用意は朝飯前。マーちゃん秘伝のお粥もつくってしまいます、これを食べれば元気200倍とのお墨付きなのですよ。

    『お口開けてくださいね、あーんですよ、あーん』

    『あ、あーん……』

    どこか照れくさそうに視線を逸らすトレーナーさん。
    素直で少し幼いその姿は、巣の中で震える小鳥のぴーさぶろうを思い出させます。
    背筋の伸びたいつもの彼とは違う、普段は見せない鮮やかな色をマーちゃんの瞳に焼き付けたのでした。

  • 3二次元好きの匿名さん22/11/05(土) 23:47:13

    早く元気になりますように。
    夜空に願った祈りは通じて、今のトレーナーさんはほとんど普段と同じくらいまで快復したのでした。
    熱も下がって、翌日にはトレーナーのお仕事に復帰できるようです。

    「重ね重ねありがとう……それでその……」

    「はい、なんでしょう。今ならご機嫌マーちゃんがなんでもしてあげますよ」

    「いや、ありがたいけどそうじゃなくて。もうすっかり夜になってしまったし……」

    「つまり……寝かしつけですね?恥ずかしがらなくてもいいのですよ?」

    「いやそれも違くて……もう元気になったし。もうマーチャンが診てくれなくても大丈夫だよ?」

    トレーナーさんはこんな時でもマーちゃんのためを思って優しく告げるのです。低く湿った響きは、マーちゃんの縮こまった心にじっとりと染み込んでいきました。

  • 4二次元好きの匿名さん22/11/05(土) 23:47:58

    「……でも、病み上がりが一番危険とも言います。Dr.マーとしては認められません」

    「昨日まではちゃんと寮に帰ってくれてただろう?心配してくれるのはありがたいけど、流石に泊まりは許可できないよ」

    「でもでも、万が一があっては遅いのです。不安でぶるぶるです」

    「わがまま言われてもダメなものはダメなんだよ。大人として学園生とは健全な付き合いを━━━」

    「やです」

    気づけばマーちゃんの手は、マーちゃんの意識を離れてパジャマの袖を掴んでいました。
    上半身がぐらついて、トレーナーさんの顔がすぐそこまで来ています。

    「わがまま言います、言わないとなのです……わたし、忘れさせたくない」

  • 5二次元好きの匿名さん22/11/05(土) 23:48:27

    あなたが倒れた━━━マーちゃんに入ってきた第一報は、そんな一言でした。
    今でも忘れられません。杭が刺さったみたいな胸の痛みと、灰色に染った景色を。
    よくよく話を聞けばただの風邪でほっとため息をつきましたけど、あの瞬間よぎった想いは、ずっとわたしの後ろをつけて回っていたのです。
    看病している間もずっと、あなたの川だけが濁流となってあなたを押し流しているみたいに見えて。それがとても、恐ろしくて━━━

    「━━━わたしを置いて、先に流れていかないで」

    今ならわかります。海へ向かったわたしを、あなたが追いかけてきた時の気持ちが。
    この痛みと瞳から溢れる熱が、教えてくれたのです。

  • 6二次元好きの匿名さん22/11/05(土) 23:48:51

    「……心配かけたね、ごめん」

    ふわっと綿毛みたいに、マーちゃんの体が浮きます。袖を掴んでいた手を引き寄せられて、今やマーちゃんの体はトレーナーさんの胸の中にありました。

    「……他の人には内緒だぞ?今日だけだから」

    ちゃあんと聞こえます。あなたの心臓の鼓動、体温。あなたは間違いなくここにいる。
    約束は違えず、今も隣で流れ続けています。

    「……ふへっ」

    緩んだ緊張と、喜びと、恥ずかしさと。ゴロゴロとした色んな気持ちがミキサーにかけられて、出てきたのはおまぬけさんな笑いでした。

    「ひっつきもっつきのマーちゃんなのです」

    はしたなくも目元をトレーナーさんの胸元で拭いまして……そのまましなだれて横になります。

    「ラブリーマーちゃんが、おやすみまで一緒しますね」

    「……仕方ないなあ」

    うふふとお互いに笑いあって、目を閉じます。
    ぐっとぎゅっと、近くに寄り添って。
    すうっと息をする度、あなたの匂いを感じます。
    こんな体験きっと、絶対……忘れませんね。
    暖かな月の子守り唄に導きかれ━━━それでは、おやすみなさい。

  • 7二次元好きの匿名さん22/11/05(土) 23:52:09
  • 8二次元好きの匿名さん22/11/06(日) 00:01:25

    えがった(尊死)

  • 9二次元好きの匿名さん22/11/06(日) 00:52:23

    ボーノや007マーチャンSSの方!
    マーチャンのテンポ良い穏やかなモノローグが素晴らしい……
    今回のSSも面白かったです。次回作も期待しております。

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