【CP注意】ゾロ……? ああ、俺の弟子だ……

  • 1二次元好きの匿名さん22/11/23(水) 23:23:30

    「ゾロ……? ああ、俺の弟子だ……」

     俺の家の近所には、ちょっとボケた爺さんがいる。聞くところによれば御年100才。丘の上の公園の、海が一望できる位置にあるベンチが指定席。杖をついて出てきては、天気のいい日に一日中そこで座って過ごしている。
     この島で一番大きい病院の設立者……の夫である。
     周囲の人間曰く、若かった頃も定職にはついておらず、ぶっちゃけただのヒモだったらしい。若い頃は美人で有名だった院長をひっかけたとして、周囲からはやっかまれていたとか。しかもぶらっといなくなってはぶらっと帰ってくる、といった事を繰り返していた根っからの風来坊。どこからどう見ても、いい所のお嬢さんがロクデナシに騙された図にしか見えない。
     院長さんの方が相当にベタぼれしてたそうで、あんなヒモの何処がいいのかと問う周囲に対し、「長い鼻がチャームポイントなの」とのろけ倒した事もあったとか。

     同年代からは嫌われる一方で、子供達……親父の世代には人気があったらしい。法螺話が抜群に上手く、その語り口は子供達を引きつけた。
     今も指定席になっているあのベンチ。あそこに子供達を集めて様々な冒険譚(法螺話)を身振り手振りを交えて語たり倒したのだとか。うちの親父もその中にいた。
     そして、そこで語られた法螺話は、巡り巡って俺の記憶にも刻み込まれている。
     島と見まごうばかりの金魚の糞。はるか上空、固まる雲の上に有る空島。花咲く楽園にある小人の国……成長した今なら法螺とわかる親父から聞かされた話。幼い俺は夢中になって、親父に続きを強請ったものだった。

    「あれ、全部あの人が教えてくれたんだよ」

     親父にそう教えられて、あの人にそんな一面があったのかと驚かされた。
     まあ、そんな因果も昔の話。若い俺には関係のない事。
     今現在の俺からすれば、ただの斑ボケた爺さんである。

    「ルフィもサンジも俺の弟子さぁ……」
    「はいはい、わかったよ爺ちゃん。ほら、そろそろ冷えるから」

  • 2二次元好きの匿名さん22/11/23(水) 23:23:52

     公園のベンチで、聞かれてもいないのに法螺話を繰り返す老人を、若者が手を引いて立ち上がらせる。
     爺さんのひ孫……件の病院の次期跡取りだ。老人に対してじゃっかんうんざりしている風ではあったが、決して粗略には扱っていない。
     彼に限った話ではない、この島全体に共通する事実として、老人はそう扱われている。
     法螺吹きで、ボケていて、それでもなんか憎めない爺さん。
     そういう存在なのである。
     ……この事実に気づいた時、あれ、この爺さん割と人望あるんじゃね? と俺は思った。だってロクデナシの風来坊がそんな状況なら、もっと悪辣な扱いを受けていてもおかしくないのに、一番被害を被ったであろう身内でさえ、普通の介護をしている。
     親父に問いただしてみると、実際そうだった。まあ、子供達に大人気の語り部……時には本格的な玩具まで配っていたというかなりの子供好きだったから、爺さん世代はともかく、親父世代からの人望は結構なものだったらしい。特に実の孫……今の院長からはかなり好かれていたと。
     ヒモといっても、嵐やら火事やらのトラブルの折には率先して避難誘導に参加していたり、そこまでろくでなしではない、というのが親父達の認識だ。
     まあ、なんにせよ俺には関係ない。俺にとってその爺さんは、ただのボケた法螺吹き爺なのだ。ファンなのか知らないが、二言目には麦わらの一味の師匠なのだとほらを吹く。誰からも相手にされないけれども、邪険にもされない。微笑ましく見守られる存在。

     ――そんな俺の認識が書き換わったのは、ある昼下がりの事だった。

     俺はその日、ボランティアで講演のゴミ拾いに精を出していた。自主的にではない、親父に無理やり押し付けられたのだ。
     心の中でふぁっきゅーふぁっきゅー親父を罵りながら、ゴミを拾っていた。傍のベンチでは、爺さんが夢うつつでふがふがと、なんか言ってた。

    「ヤマトもぉ、俺の弟子でなぁ……」

     ……そんな爺さんの言葉が止まった。
     俺はその時、単純にこう思った。あ、お迎えが来たか!? と。
     なんだかんだで講演の名物爺さんで、俺もそれなりに親しみを覚えている相手だ。もしお迎えならばできうる限りの事はしなければならない。そう思い、爺さんの方を見たのだが。

     そこにいたのは、別人だった。

  • 3二次元好きの匿名さん22/11/23(水) 23:24:16

    「…………」

     うつろを見ていた眼は、しっかりと焦点を結び。うわごとを呟いていた口は引き締められ。
     大きな――Y字型の、変わった杖を手に、爺さんは立ち上がった。

    「お、おい! じいさ――」

     何事かと思い、俺は爺さんに声をかけたのだが。

    「そこ、退け」

     情けない話だが。
     俺はその時、御年百歳の爺さんに……気圧されて、引き下がった。
     いや、引き下がったんじゃない。その時俺は、腰を抜かしたんだ。
     ぞっとするような、冷たい目だった。間違っても、ボケた老人の目じゃない。
     そんな俺に構うことなく、爺さんは手にした杖を大きく掲げて……Y字型の頂点から、『何か』を引っ張る仕草をした。
     ゴムのような何かが、爺さんの手で退かれるのを見て、俺は自分の思い違いに気が付いた。
     あれは杖じゃない。
     巨大な、パチンコだ。

    「緑星 眠り草」

     引き絞ったパチンコを、放す。
     何かを狙い撃ったのか……? 手にしたものとその動作から連想して、俺の視線は自然と、その先に流れた。
     パチンコの先……海の彼方へと。
     そこに見えたのは、小さな点。
     大海原に、よくよく目を凝らすと船の姿が確認できたのだが……

  • 4二次元好きの匿名さん22/11/23(水) 23:24:50

    「ルフィとは、イーストブルーからの、馴染みでなあ……」

     何が起こったのかわからない俺をよそに、爺さんはベンチに座りなおして、再びまどろみの世界へと旅立っていた。

     俺が海のかなたに見た船が、この島への略奪が目的でやってきた海賊船だったことを知ったのは、その日の夕方。父親の口から食事中の話題として告げられた時である。
     島の海軍支部に捕捉され捕らえられたそうだ。
     不思議な事に、船員全員が眠りこけていたので、苦も無く捕縛できたとの話。
     一体何が起こったのか、因果関係の説明はできないが、直感で俺は思ったのだ。
     あの爺さんが、何かしたのだと。

     何が何だかわからないが……あの爺さん、ひょっとしてただ者ではないのでは……?

     自分でも説明できない直観に突き動かされて、俺は親父に詳しい説明を請うた。
     そんな俺の様子を見て、親父はけげんな顔をしたが……すぐに納得した風になった。

    「そうか、お前……あの時、公園にいたのか」
    「あ、ああ……」
    「じゃあ、見ちゃったんだな。爺さんのアレ」
    「え?」

     爺さんが急にしゃっきりポンとなってパチンコ撃ったアレ。
     俺にとっては驚天動地のアレが、親父にとっては既知の物だったらしい事実に衝撃を受けた。
     そんな俺に、親父はため息と共に教えてくれた。他言無用だぞ、と前置きして。

    「……息子よ、ここは何処の海だ?」
    「え? い、東の海(イーストブルー)」
    「うん、海賊王麦わらのルフィの出身地だ。
     ……そんな海で、麦わら一味の師匠だなんて大法螺吹いてるのが、あの爺さんだ。
     おかしいと思わないか? なんで、あの爺さんがほったらかしになってるのか」

  • 5二次元好きの匿名さん22/11/23(水) 23:26:43

     あ、と思わず声が出た。
     東の海には、麦わらシンパ……というか、ファンが多い。この海で海賊となれば、ほぼ麦わらに憧れた荒くれだ。
     そんな海で、麦わらの名を騙るような真似をすればどうなるか。
     多くは歯牙にも介さないだろう。だが、全員がそうだとは限らない。ぶっちゃけ、因縁の一つもつけられてもおかしくないのだ。

    「結論から先に言うとな、あの人のあれ法螺じゃないんだわ」
    「え?」
    「流石に師匠ってのは嘘だと思うが、麦わらの一味だったんだよ、あの人。
     ゴッド・ウソップ。知ってるか?」

     知らない方がおかしいビッグネームが出てきた。
     ゴッド・ウソップといえば、最大バウンティは十億を超える麦わら海賊団の幹部……どんな的だろうと的中させるという伝説の狙撃手だ。

    「海賊の世界じゃ、あの人がゴッド・ウソップ本人だってのは有名な話でな。
     喧嘩を売る奴なんているわけがない。いや、逆の意味でいるか。伝説を討ち取って名を上げようって輩が。
     いつもの日向ぼっこだってそうさ。あれは海を一望できるベストポジションで、敵を迎え撃つ……街を守るためにやってる事なんだ」
    「街を……!」
    「俺も前に目撃した事がある。
     水平線に敵船が見えれば、それはもうウソップ爺さんにとっては射程距離だ。はき、とかいう技術で、敵意のあるなしはその時点でわかっちまうらしい。
     後は、麻酔ガスみたいなのが詰まった弾を打ち込むだけだ」
    「打ち込むて」

     あの時水平線に見えたのは、まるっきり点だ。何かを打ち込むなんてとてもじゃないができやしない。普通なら。

    「それが出来るから、ゴッドなんだよ。
     ……島に駐在してる海軍曰く、ウソップ爺さんがいなかったら、十回ぐらい荒らされてるらしいぞ、この島」
    「……えっと、風来坊だったってのは……」
    「麦わらと一緒に冒険してたんだな」
    「法螺話って……」
    「八割がた事実らしいぞ」

  • 6二次元好きの匿名さん22/11/23(水) 23:27:49

     衝撃の事実が津波のように襲い掛かってくる。

    「で、引退して故郷であるこの島に引きこもった……故郷を守る方を優先したそうだがな。
    実際、あの人のおかげでこの島の平穏はあるようなもんだ……
     そういう訳で、爺さんの存在は島の住民にとっちゃ公然の秘密って事だ。ただ、外聞は悪いから、他言はするなよ?」

     海賊王の元クルーが捕まることなくのんびり老後を過ごす。
     ……そりゃあ、社会風紀的に外聞が悪いなんてもんじゃない。むしろ、何で海軍があの人を放置しているのかが不思議でならない。

    「俺達に限らず、味方からの人望もあったらしくてな、あの爺さん。
     とっ捕まえたら、系譜の海賊が奪還のために暴れ出しかねんから、放置されてるんだと」

     もう無害な存在だしな、と親父は俺の疑問に答えた。

    「……あの、それって、爺さんの身内は……」
    「当然、知ってるさ」
    「って事は……」

     学校で習ったり、新聞で目にしたりした近代の歴史と照らし合わせ、俺は呆然と呟いた。

    「あの人、麦わら一味の最後の生き残りって事……」
    「そうだな」
    「……死んだら、葬儀とかどうなるん……?」

     単純でありながら深刻な疑問に対し、親父は遠い目をして言った。

    「……来るんじゃないか? みんな」

  • 7二次元好きの匿名さん22/11/23(水) 23:29:28

     一週間後、ウソップ爺さんの訃報が島中に知れ渡った。人知れず島の守護神をしていた老人は、百一歳の誕生日を迎える前日に、死んだ。
     夜は生きてたのに翌朝ぽっくり。眠るように死んだのだという。
     誕生日パーティの準備をしていたのに、とひ孫が涙ぐんでいた。
     墓は、妻である初代院長の隣。ウソップの意識が確かだったころの遺言に従って並べて埋葬された。
     御爺ちゃんはおばあちゃんが大好きだったと現院長は涙ぐみながら呟いていた。


     で、問題になったのはその後。
     死者を悼む相銀会場には、なんでお前こんな最弱の海にいるの!? ってレベルの大海賊がわらわらと押しかけて。
     暴れる者が一人もおらず、全員がしめやかに老人を見送った事が、せめてもの救いであった。

  • 8二次元好きの匿名さん22/11/23(水) 23:30:36

    なんかあってみっともないとか、リアリティがありすぎて笑えないとか言われてた『なんかあったウソップ』をかっこよくしてみた! ただそれだけです!
    さあみんな俺に続け! なんかあったをかっこよくするんだ!!

  • 9二次元好きの匿名さん22/11/23(水) 23:32:20

    >>8

    無茶言うな!!

  • 10二次元好きの匿名さん22/11/23(水) 23:32:36

    確かに100も超えりゃなにかあった未来の見た目になってても不思議じゃないな…
    それはそれとして文才凄いな

  • 11二次元好きの匿名さん22/11/23(水) 23:34:58

    どう続けってえんだ(釜を沸かしながら)

  • 12二次元好きの匿名さん22/11/23(水) 23:35:20

    ボケてなお故郷を守る為に狙い撃つウソップ かっけぇな
    そしてカヤと結ばれたのか ええなあ

  • 13二次元好きの匿名さん22/11/23(水) 23:36:17

    このウソップって、何もなかった未来の40、60と続いて、何かあった未来の60の見た目になったのか

  • 14二次元好きの匿名さん22/11/23(水) 23:38:11

    >>13

    孫が生まれて幸せ太りしたんじゃよ(強引

  • 15二次元好きの匿名さん22/11/23(水) 23:38:45

    >>14

    幸せ太りはむしろカヤのほうだろうがよい!?

  • 16二次元好きの匿名さん22/11/23(水) 23:39:33

    1(から続くSS)で完(成度の高く)結(びまで駆け抜け)しているスレ(の後続SS)は伸びないぞ……
    それはそれとして煮込むね
    🍢🔫🐉
    🍲
    🔥

  • 17二次元好きの匿名さん22/11/23(水) 23:40:55

    こんな最高のSSを書いておいて続けだと!?
    かすむんだわ!!!

  • 18二次元好きの匿名さん22/11/23(水) 23:42:21

    すごいよかったヤバ!!しめやかに行われる葬儀参列したい

  • 19二次元好きの匿名さん22/11/23(水) 23:53:07

    >>18

    しめやかに参加しない海賊は死ぞ

  • 20二次元好きの匿名さん22/11/24(木) 00:14:31

    ウソップ100才ってことはバルトロメオとかももうお爺ちゃんだろうから下手すりゃ先に逝ってるかもしれないけど
    ウソップシンパには長寿の巨人族がいるからな!
    賑やかな葬儀になるだろうな

  • 21二次元好きの匿名さん22/11/24(木) 00:21:55

    素晴らしいSSだった。ぜひpixivに投稿するなどして世に広めてくれ。

  • 22二次元好きの匿名さん22/11/24(木) 00:26:45

    最高だった。びっっくりした。
    いいな、味方全員を現世から見送ったのが、後方支援のウソップって。

  • 23二次元好きの匿名さん22/11/24(木) 00:27:44

    葬儀の日にトンタッタ族を初めて見るシロップ村の子供の笑い声が響いてんだろうな

  • 24二次元好きの匿名さん22/11/24(木) 01:57:19

    素晴らしいSSだった……読めて嬉しい
    読ませてくれてありがとう……

  • 25二次元好きの匿名さん22/11/24(木) 12:25:40

    モブ海賊「何!? ゴッドウソップが死んだだと……! そりゃあいい! 野郎共! 錨をあげろ! 略奪だ!!
         奴は腐っても海賊王のクルーだった男だ……! グランドラインの情報やお宝をたっぷりとため込んでいるにtがいないぜ!!」

    Q.この海賊は、どうなったでしょう。

  • 26二次元好きの匿名さん22/11/24(木) 12:27:17

    >>25

    A:事前に任せていた「本当のウソップの弟子」に退治された

  • 27二次元好きの匿名さん22/11/24(木) 12:38:05

    >>20

    忘れがちだがトンタッタもあれで大人間よりは長寿だからレオとかの当時若手組はまだ生きてる可能性があるな

  • 28notスレ主22/11/24(木) 22:08:59

    ゾロのやつ書き途中だけど、ここに載せたらいい?それとも派生スレ建てた方がいい?
    ちょっと長めなんだよね

  • 29二次元好きの匿名さん22/11/24(木) 22:51:11

    別にいいんじゃない?

  • 30二次元好きの匿名さん22/11/24(木) 22:53:47

    ここでいいよい

  • 312822/11/24(木) 23:09:14

    >>29

    >>30

    さんきゅ。もうちょっとしたら上げるわ。

  • 32二次元好きの匿名さん22/11/24(木) 23:09:38

    やったぜ!

  • 33二次元好きの匿名さん22/11/25(金) 00:28:01

    すまんがゾロのやつってなんだ?

  • 34二次元好きの匿名さん22/11/25(金) 00:42:55

    これのゾロ版書いてくれたんじゃないの?

  • 35二次元好きの匿名さん22/11/25(金) 00:43:18

    >>8を読め。つまり『なんかあった』ゾロがかっこいいSSって事だ。

  • 36二次元好きの匿名さん22/11/25(金) 11:58:59

    保守

  • 372822/11/25(金) 12:09:13

    書けた
    ちょっとずつ載せる

  • 38二次元好きの匿名さん22/11/25(金) 12:11:29

    「止めときな刀を咥えるのは。…背中の傷イッテー」


    世界に名を馳せる大剣豪が産まれた村、シモツキ村。おれはそこの小さな道場に通う門下生の一人だ。
    あの"海賊王の右腕"が昔ここで剣を学んだことは今や世界に知れ渡り、噂を聞きつけた者達が何人も道場の門をくぐってきた。
    おれはこの村の子どもで特に力を求めているわけでもないが、やっぱり男という生き物はわかりやすい「強さ」に憧れるものだ。
    同じくキラキラと目を輝かせる友人二人を誘って、昨年から道場に通い始めた。

    正直に言えば、おれはとてもガッカリした。

    あの大剣豪の基礎を作った場所だというからどんな凄い訓練セットがあるのかと、半分、物見遊山の気分で道場に入ったのだ。
    だというのに、あるのはただの砂地と竹刀。それと黒い道場着だけ。
    師範代は眉を下げて頼りなさげだし、案内された先でそれらを見た時は、こっそり友人ともう帰ってしまおうかと耳打ちしあったほどだ。
    だけど、そこまで余裕が有るわけでもない家計なのに道場の月謝を払うと言ってくれた両親を悲しませたくなくて、その日から渋々ながら稽古に励むことにした。

    転機が訪れたのは、それから半年後のことだった。

  • 39二次元好きの匿名さん22/11/25(金) 12:13:25

    「海賊が来たぞォ~!」

    あの日の朝は、そんなありふれた言葉で始まった。
    実は、もう何十年もの間、この村には道場破りに来る海賊や無法者が絶えないのだそうだ。おれが産まれた時は既にこの状態だったので、海賊が来たと言われても、(ああ、またか…)という気持ちでしかない。
    毎回、いつの間にか村の誰かに倒されているんだ。どうせ小物海賊なんて大したこと無いんだろう。最近じゃおれも稽古の成果で強くなったからな。
    それこそ、海賊王の一団でもなければ相手にならねェんじゃねェか?ふふん。

    そんな風に、あの頃は思っていた。

    「"海賊狩り"の故郷ってのはここかァ!?」

    港から現れた海賊は、くさい息を吐いてツバを飛ばしながら怒号を浴びせた。しかし村人はチラッと視線を寄越すだけで意にも介さない。
    ああ、まあそうだけどそれが何か?なんて声が聞こえてくるようである。
    コケにされたと思ったのか、その海賊はワナワナと体を震わせ始めた。

    「て、てめェら立場がわかってねェようだな……!このガキの頭吹き飛ばされたくなきゃおれ様の言う通りにしろ!」

    そう言うと、海賊は近くに居たおれを人質にして銃を突きつけた。

  • 40二次元好きの匿名さん22/11/25(金) 12:13:51

    「なっ…!おいその子を放せ!!」

    海賊の暴挙に、村人が焦る。
    本当はこういう時に子どもが外を出歩いちゃいけないと、ずっと言われてきたんだ。そして子ども達は言いつけを守ってきた。だから村の皆もおれがいることに気づけなかったみたいだ。
    だけど、道場へ通うには港を通過するのが速いしおれも強くなったからな、大丈夫だろ、なんて思ってしまった。
    うぬぼれたんだ。
    銃を突きつけられて、その時初めておれは死の恐怖に怯えた。

    「一刀流……三十六煩悩砲!!」

    ズァッ!

    ………!??今、何が起きた!?
    突然風が吹いたかと思えば、こめかみに当たっていた銃が地面に落ちた。振り向けば、海賊の船長らしき男が血を流して倒れていた。

    「え?え??」
    「よかった間に合ったようだね」
    「先生!!」

    現れたのは、なんと師範代だった。

  • 41二次元好きの匿名さん22/11/25(金) 12:15:24

    「先生すっげーー!!さっきの技、もっかい見せてくれ!どうやって切ったんだ!?あいつの前にも後ろにもいなかっただろ!?」
    「まあまあ落ち着いて……」

    興奮冷めやらぬおれは、師範代の服にしがみついてピョンピョン跳び跳ねた。
    師範代は困ったような笑みを浮かべておれを宥める。技は見せてくれそうにない。
    なんだよケチ!減るもんじゃねェだろ!

    「先生だ…助かった」
    「流石先生…!我々ではどうにも出来なかったのに」
    「"飛ぶ斬撃"を習得している者達はみんな村を出て武者修行の旅に行ってしまったからな…」

    村の大人がほっとした顔で何か話している。
    わ、悪かったよ心配かけて…。

    「さて、言いつけを守らなかったことへの説教は君の親御さんにお任せするとして……」
    「うっ!」
    「道場へおいで。君に会わせたい人が来ています」

    君達もどうですか?と、師範代は大人達も声をかけた。
    (どうする?)、(先生から誘われるのって結構珍しくねェ?行こうぜ)なんてやり取りをして、大人達と師範代とおれは連れ立って道場まで向かった。

    その時は思いもしなかった。まさかおれの憧れが脆く崩れる日が来るなんて。

  • 42二次元好きの匿名さん22/11/25(金) 12:17:33

    「紹介します。ウチの門下生のゾロだ。君達の兄弟子ですよ」
    「「「ええ~~~~!!!??」」」

    こ、これがあの"大剣豪"ロロノア・ゾロ!?
    凄い、凄いんだけど、外見は手配書より…大分あの…うん……。

    「あァ?てめェらが弟弟子?そこのガキもか。なんだ先生、まだ隠居してなかったのか?」
    「ふふふ、私は生涯現役だよ。私も侍の血を引く身だからね。ゾロはワノ国に行ったんだろう?どうでしたか、父の育った国は…」

    な、何だかとんでもないことになったぞ。
    道場にゾロが来るなんて。こんなこと一度もなかったはずだ。後でお父さんとお母さんにも教えねェと!
    え?
    稽古の様子を見ていくって?
    え、あのゾロが!!?マジかやったー!

  • 43二次元好きの匿名さん22/11/25(金) 12:18:28

    「せいっ!」
    「やーっ!」
    「たーっ!」
    「とりゃー!」

    砂地の稽古場に降りて、門下生達が思い思いに声を上げ竹刀を振るう。
    打ち合う者、巻藁を打ち据える者、ひたすら素振りをする者と、動きは様々だ。

    「どう思いますか、ゾロ」
    「本当にこれ…おれのせいか…?」
    「さあどうかな。でも私は、君の影響は大きいと思いますよ?それだけのことをしてきたのですから」
    「だからって、何で道場の奴ら全員三刀流なんだよ……!!」

    ゾロが顔をしかめて叫んだ。


    三刀流の剣士に憧れた奴が三刀流を真似することの、どこが不思議なんだ?
    三刀流はこの村の伝統流派だろ?
    おれと師範代に着いてきた大人達も、遅れてやって来た門下生の子ども達も、みんなポカンとしてゾロを見た。

  • 44二次元好きの匿名さん22/11/25(金) 12:21:16

    「本当に良いのかい?その刀は既に君に託したんだ、好きに使ってくれて良いんだよ」
    「いや…和道一文字はくいなの代わりに世界に連れてった刀だ。散々振り回してきたんだ。目的を達した以上、いい加減休ませてやっても良いかと思ってな。…先生、おれは…三刀流をやめるぞ」

    な、何てことだ!友人二人と一緒に、道場の裏に向かった師範代とゾロを追いかけたら、衝撃的な話を聞いてしまった!墓に白い刀を置いて、師範代のゾロが話し込んでいるみたいだ。

    ゾロが三刀流をやめる…そんな…。
    おれも、友人達も、なんならここの今の門下生はみんな、ゾロに憧れて剣を取ったんだ。それなのに、トレードマークとも言える三刀流を捨てるだって!?畜生!おれの憧れた男は、そんな簡単に剣を手放せるような奴だったのかよ!?

    テンパったおれ達は、何故か走って道場の外に出ていった。
    もしかしたら誰かに話したかったのかもしれない。この大事件を誰かに共有したかったのかもしれなかった。だが突然、そこへ師範代に斬られたはずの海賊が現れて、おれを捕まえた。

    「よォ~てめェはさっきのガキンチョじゃねェか…。見たぜ…今、確かにあの道場から出てきやがった。そうか、てめェ門下生か…」
    「は、放せてめェ!」

    生きてたのかこいつ…しぶてェな。

    「口のきき方に気ィつけろ…。おれは今虫の居所が悪い。……オイそこのガキ二人。一人は道場まで行って師範代を連れて来い。裏山の山小屋だ。一人で行って一人だけ連れて戻って来いよ。もし援軍でも呼んでたらお友達の頭をザクロにしちまうぜ……?」

    ガクガクと震え、友人は頷いて道場まで走って行く。
    でもこいつ師範代を呼んでどうするつもりだ?朝に斬られたの、気づいてないのか?


    「つ、連れてきたぞ!そいつらを解放しろ!」
    「は?解放なんかするわけねェだろ。バカか?………おれはロロノア・ゾロがまだこの"東の海"にいた頃、手酷くやられてなあ……奴の大切なもの全て壊してェのさ………!」

    ガッとおれを足蹴にする。奴は、おれ達を人質にして、無抵抗の師範代をいたぶるのだと言った。

    (そんな…!おれのせいで先生が!)

  • 45二次元好きの匿名さん22/11/25(金) 12:23:03

    バキッ

    海賊に顔を殴られ、師範代が地面に転がる。
    師範代はおれ達を守るために何もせず、全身ボロボロになってしまった。

    「ハハハ、奴の師匠ってんだからどんなバケモンかと思えば…こりゃいいサンドバッグだぜ!」
    「…!やめろ!先生が本気ならお前なんか…!」
    「先生もう良いから…!おれら守らなくていいから!だからもう抵抗してくれェ~!」

    悔し涙で前が見えない。
    おれがみすみす捕まってしまったために、師範代が犠牲に……。おれがもっと強ければこんなことには…!
    自分の無力さに打ちひしがれていた瞬間、

    ドカァァン!!

    「うわあぁぁああ!?」

    小屋が吹き飛んだ。

  • 46二次元好きの匿名さん22/11/25(金) 12:25:24

    「ハァ…ハァ…ふふ…随分と荒い切り口だ。君らしい」
    「うるせェ。おれは今頭にキてんだ……おい小物野郎、てめェ骨も残らねェと思え」

    「はん刀流おうひ…」

    ゆらり…と空気が揺れたかと思うと、そこには墓で見た白い刀を咥え、両手に刀を構えたゾロが立っていた。

    「ば、馬鹿やろ…人質のガキがどうなっても良いのか!?」
    「三・千・世・界!!」

  • 47二次元好きの匿名さん22/11/25(金) 12:26:05

    ザンッ

    海賊が銃の引き金を引くより素早く、ゾロが斬りつけた。
    速すぎて全く目で追えなかったが、おれが無事なんだからきっとそうだ。
    ぎゃあああああ!!と海賊の断末魔が山に木霊する。
    一瞬の勝負とは、剣の極意とは、こういうことを指すんだろう、なんてヒヨッ子のくせにしたり顔で頷いてみる。
    やっぱりおれがゾロは凄い人だった!イメージとは若干違ったけど!

    と、ゾロがムグムグと口を動かし、ペッと何かを吐き出した。
    これは………歯?

    「はー、いっはは。ほえ、はいほほふーほんあっはんは(あー、逝ったな。それ、最後の数本だったんだ)」
    「ゾロ………やっぱりそうだったんだね…。歯が無くなってしまっては、三刀流は出来ないから…。君がくいなに和道一文字を返すと言ったのも、そう言うことなんだろう?」
    「はあは。…は?ほーひゅーほっひはふはは、はへほひは、ははあほふあへふほは。……へあはほひふいっへー!(まあな。…な?こーゆーことになるから、止めときな、刀を咥えるのは。………背中の傷イッテー!)」

  • 48二次元好きの匿名さん22/11/25(金) 12:29:44

    「あははっ、あんた遂に全部歯がぬけたの!?…って、フガフガフガフガうるさい!もー。チョッパーに総入れ歯渡されてるから、それ使いなさいよ」
    「ハァ…ハァ……」カポッ

    「あー、ん"ん"。おお、ありがとうナミ。……ん?これ使えばまだ刀咥えれるんじゃェか?」
    「あーダメダメ。絶対、途中でズレるから。それ取り外して洗うタイプなのよ。接着剤も強力なのは使えないって言われてるわ」

    道場へ戻ると、タバコをスパスパと吸う女性がドンと居座っていた。
    その人は、ゾロの口に気づくと大笑いして入れ歯を取り出す。
    なんでこんなにゾロと気安いんだ?あれ?「ナミ」って、まさかこの人が……!?

    「そ、れ、に!入れ歯って材料費だけでも結構お高いのよ!?刀咥えてガリガリ削られちゃ堪んないわ!」
    「わァったようるせーな。…んじゃ先生、咄嗟に持って来ちまったが、改めて、和道一文字はくいなに返すぜ」

  • 49二次元好きの匿名さん22/11/25(金) 12:31:23

    その翌日、道場は人だかりでぎゅうぎゅう詰めだった。

    「聞いたぜ!あのゾロが帰ってきたんだってな!?」
    「しかも今日は先生と仕合うそうだ!こりゃ観なきゃ一生の"くい"になるってモンよ!」

    昨日あの後、師範代とゾロのどっちが強いかで言い争いしていたおれ達をみかねて、急遽開催が決まった仕合。

    「オッズは…見事に半々だな」
    「おれはゾロさんに一万ベリー!」
    「ならおれは先生に二万だ!」
    「あんた達、そんな端た金じゃなくてもっと大金賭けなさいよ。ハイ、賭け金はこの袋の中ね~」

    ……後ろの方でコソコソと何か行われているようだが、気にしたら負けだ。

    「あら、昨日の子どもじゃない。あんたも賭ける?」
    「い、いえ!」
    「あっそ。だったら魔法の壺なんてどう?天候の卵が入ったツ・ボ♡「晴れの壺」、「雨の壺」、「雪の壺」なんてのもあるわよ。一つ十万ポッキリ♡♡」

    ぐ、ぐいぐい来るなこの人…。

    「ガキ相手に商売なんかしてんじゃねェよ」

    ゾロだ!ゾロが来た!
    門の前で道場を覗き込んでいた人だかりは、ゾロが来たと気づいてザッと真っ二つに割れた。
    その中央を堂々と歩いて門をくぐると、ゾロはそのまま稽古場に入って行った。

  • 50二次元好きの匿名さん22/11/25(金) 12:34:23

    「君の剣は昨日、十分に見せて貰いました。……ちゃんと物質の"声"を聴けているようだね」

    稽古場で師範代とゾロが対面している。

    「昔先生に教わった時は意味がわからなかったけどな。だが、お陰で鋼鉄も斬れた。ありがとう」
    「ほう…真髄を得ましたか。ふふ、弟子の成長はやっぱり嬉しいものですね。……では、そろそろ始めましょう」

    師範代の言葉を受けて、審判が合図を放つ。

    「では両者共に礼を…三歩進んで刀を構え…いざ尋常に!仕合い始め!」

    ゾロと師範代が刀を構え、両者睨み合う。
    仕合開始の合図がされた瞬間、ドウッと二人から途轍もない気迫が放たれた。
    な、なんだ!?
    どっちも何もしてないのに、なんて圧力…!

  • 51二次元好きの匿名さん22/11/25(金) 12:36:20

    二人とも気迫をぶつけ合い、一歩も動かないまま日が暮れた。
    たまに、じりじりと足を擦らせるだけで他はピクリとも動かない。

    どうなるかと固唾を飲んで見守っていると、不意に圧が消える。

    「なるほど……凄まじいですね。世界一の剣豪ともなればこんなにも…」
    「それに食らいつく先生も相当なバケモンだぜ。ガキの頃は全く気づかなかったが。すっかり騙された」

    どうやら仕合が終わったようだ。


    「ちぇっ、つまんねーの。全然打ち合わねェじゃねェか。もっとスゲー戦いになると思ってたのによー」
    「なーっ!拍子抜けだよな」
    「ゾロが強いって嘘だったのかな」

    子ども達がブツブツと不満を言い合う横で、大人達もワイワイと盛り上がっている。

    「こ、腰が抜けた…」
    「おれも足に全然力が入んねェ。ずっとガクガクしてるよ……」
    「達人どうしの戦いともなると、全く動かないもんなんだな」
    「ってお前、審判じゃねェか!しれっと混ざりやがって!さっさと終了の合図出してこい!」

    そんなこんなで結局引き分けで仕合が終わり、夜は道場で宴が開かれた。

  • 52二次元好きの匿名さん22/11/25(金) 12:39:25

    「あ"ァ~っぱ故郷の酒はうめェな!」
    「…君がここを出てもう何十年経ったかな…。便りがないのは良い便りと思って君達の記事を読んでいましたが…一度くらい帰ってきても良かったんだよ?」
    「ムリムリ。この迷子のファンタジスタが自力で海を渡れるわけないじゃない。今回だって、絶対里帰りするって聞かないから私がついて来てやったのよ」

    ま、私もついでに里帰りできたからそれは良いんだけどね。とナミが返す。
    皆は宴で盛り上がりつつ、ゾロとナミと師範代の様子をチラチラと窺ってるみたいだ。
    それも仕方ない。なんせ伝説と伝説の間に師範代が挟まってるんだ。
    そんなの誰だって気になる。

    「でもおれ、「"泥棒猫"ナミ」って言やあ、もっと…こう…」
    「言うな。今まで通り昔の手配書を崇めてりゃ良い」
    「そんなにか?おれは今のナミさんもアリだと…」

    ……うん、村中から人が集まってるんだ。猛者の一人や二人くらいいてもおかしくねェよな!

  • 53二次元好きの匿名さん22/11/25(金) 12:43:52

    「しかし酒飲むとアッチーな。昔は気にならなかったのによ」
    「お酒は糖分が多いもの。あんたの歯が抜けたのもそのせいよ?理解してないんでしょうけど。ハァ…私もまさか若い頃に飲み過ぎたツケ今更来るなんて、思いもしなかったわ…。こんなことならもっとセーブしておけば良かった…」

    暑い暑いとゾロが言い、ガバッと上着を脱いだ。
    ゾロは上半身裸になって再び酒を飲み始める。

    「うわっゾロさんの体すげェ傷跡だらけだ」
    「腹の袈裟斬りの縫い跡もやべェけど、背中の傷もすげェぞ。あんなデカイ斬り傷受けて何で生きてられんだ?」

    ゾロの体を見ると、胸や腹、腕だけでなく背中にも傷がついていた。

    「あァ?てめェらこれが気になるのか?」

    ゾロがこっちを見た。き、聞こえてた!?

    「これは昔…まあヘマやらかした時についた傷だ。んな大層なモンじゃねェよ」

    そうゾロは言うが、いつの間にかおれの横に来ていたナミが

    「あいつはあんな風に言ってるけどね、本当は船長を庇ってケガしたのよ。……いつも"背中の傷は剣士の恥"だなんて言ってるから複雑なのかしら?"逃げ傷"じゃなくて"守り傷"だと思えば、別に気にすることないのに」

    と、こっそり教えてくれた。


    そうして夜が更けてゆき、次の朝を迎えた。

  • 54二次元好きの匿名さん22/11/25(金) 12:45:43

    「じゃあな先生。くいなとの約束通り、おれは世界一の剣豪になった。和道一文字は墓に供えてくぜ」
    「ああ…ゾロは本当に立派になった。くいなもきっと喜んでいるとも」

    皆が見守る中でゾロは道場裏の墓に行き、ズッ……!と地面に刀を突き立てた。が、その瞬間。

    ピシッ!

    「あ?」

    ピシシッ!……バキンッ!

    「「「あ」」」

    長年、負荷を溜め込んでいた和道一文字。今突き立てた時の衝撃により負荷が限界突破し……鞘が割れた。

  • 55二次元好きの匿名さん22/11/25(金) 12:46:41

    「あー……修理…」
    「鞘作り直すのって高くつくんだよな……」
    「………………ナミ、金貸してくれ。土下座でも何でもする」
    「大事な刀なんでしょ?貸すわよ。利子三倍で」
    「まあまあ、ここは私が立て替えますから」

    何とも言えない結果になったが、必ず金を返しに来ると約束して、ゾロとナミは去って行った。

    港からは、

    「アウッ!用事は終わったみてェだな!フランレコーズで本体と同期しとくか!」

    とかなんとか、船が喋ったと騒ぎになっていたがそれはまた別の話。

    あれから半年。
    おれ達は今日も元気に剣を振るう。
    以前の想像とは大分違ったけど、それでも格好良かったあの憧れを目標に。

    最近出来た夢は、世界一の剣士になること!強くなって、いつかゾロに挑むんだ!!
    大剣豪に、おれはなる!!

    (完)

  • 56ゾロSS書いた人22/11/25(金) 12:47:31

    かっこいい...かな?うーん、どうなんだろう...?

  • 57二次元好きの匿名さん22/11/25(金) 12:49:22

    まあ、ああいう戦闘スタイルなら歯は折れるよなw 乙でした!

  • 58二次元好きの匿名さん22/11/25(金) 16:49:02

    しれっとベガパンクの技術も継承されてるの草

  • 59二次元好きの匿名さん22/11/25(金) 17:03:41

    >>58

    まあ戦艦フラン爺になってるならそれくらいはね?

  • 60ゾロSSの人22/11/25(金) 22:54:11

    次は誰が来るだろう?
    個人的にはルフィとかサンジとか気になるなー
    後は他の人に託した

  • 61ゾロSSの人22/11/25(金) 22:57:05

    あと、1つ訂正。仕合のところでコウシロウ先生が「物質の”声”を~」って言ってるのは間違いです。
    正しくは「呼吸」。空島のマントラと混ざってました。

  • 62二次元好きの匿名さん22/11/25(金) 23:13:58

    元天竜人の育てた野菜を「腹に入れば何でも同じだ」と言ったりジェルマの最後の一人としての責任を果たすべく生物兵器まみれの海に毒をながしたりするサンジ。

  • 63二次元好きの匿名さん22/11/25(金) 23:27:01

    背中の傷が船長守ったっての凄く好き
    こんな神SSが拝めるなんて
    ( *ノ_ _)ノノ╮*_ _)╮アリガタヤー

  • 64二次元好きの匿名さん22/11/26(土) 08:27:38

    しまりきらない終わり方も含めてよかった
    なんというか…ちょうどいい感じに折れた感じ

  • 65二次元好きの匿名さん22/11/26(土) 12:16:45

    >>60

    サンジのあれは文末に一言付けりゃかっこよくなる。

    「腹に入れば何でも同じ……俺は食材を差別しねえんだ」

    腐った食材でも、可食部位を正確に切り分けて奇跡的な調理術で食わせるようにするんだ。絶対に食あたりはおこさせない。

  • 66二次元好きの匿名さん22/11/26(土) 12:18:48

    チョッパーでなんとなく思い付いたから気が向いたら書く

  • 67ルフィver. notスレ主22/11/26(土) 13:27:43

    「海賊王?夢見てんじゃねぇよ」


     ここはかつての海賊王、ゴールド・ロジャーが生まれ、処刑された始まりと終わりの街、ローグタウン。その一角にある酒場でおれはちびちびと一人寂しく酒を飲んでいた。周りはテーブルに立ち上がってビールを一気飲みする男に、それを囲んで囃し立てる仲間たち、うっとおしそうな顔をしておれのように一人で酒をあおる女、床に寝転がってけどばされる酔っ払いなど、散々たる有様だ。
     それもそのはず。麦わらの一味のラフテルへの到達と同時にロジャーの残したひとつなぎの大秘宝の正体が明らかになり、事実上大海賊時代は終わりを迎えたとはいえ、ロマンを求めて海に出る者たちは後を絶たない。そんな者たちの登竜門として未だローグタウンは賑わっている。
     かく言うおれもその一人。“あんたが海賊なんて無理に決まってる”という故郷の村の皆の言葉にカチンと来てそのまま村を飛び出し、ろくな計画も資金もないまま行き当たりばったりの旅路を辿ってようやくこの街に辿り着いたところだ。

    「いくら子供の頃からの憧れだったとはいえ、今思うとガキかよおれは……」

     いや、確かに年齢で言うのならおれは事実ガキと呼ばれてもいい歳ではある。けれど、かの麦わらの一味もクルーの大半が年若いながらも凄まじい強さであったと聞く。夢を追うのに若すぎるなんてないというのがおれの自論だ。
     ぐびっともう一口ビールをあおるが、やはりどうしても美味さが分からない。そんなおれの目の前の店の中央には相変わらず何杯目かも分からないジョッキを空にして騒ぐ一団も居るが、どちらかと言えばおれが気になるのはおれの横の隅の席に一人で陣取って凄まじい勢いで綺麗になった皿を積み重ねる一人の男だった。
     ぼさぼさになった、手入れをしていないことが伺える黒い短髪に無造作に生えた無精髭。この街で言うのも、という話ではあるが、身なりもどこの浮浪者かと言いたくなるくらいには汚らしい。1ベリーでも金を持っていたら奇跡だと言えそうなその風体で、合計いくらになるか考えるだけで気が遠くなりそうな量を食べているのだから気にするなというのも無理な話だ。

  • 68解釈違いあったらごめん22/11/26(土) 13:29:55

    (それにしてもいい食べっぷりだなぁ)

     そんな事を考えながら横目で見ていたのがバレたのか、男がいきなり首を回してこちらを見たものだからおれは思わず椅子から転げ落ちそうになった。
     何でこっちを見ていやがったと難癖をつけて殴りかかってこられたらどうしようか。いや、これでもいつか海に出るためそれなりに鍛えた身。いざとなったら腰に差した刀で立ち向かう覚悟くらいはある。ここまで考えて約一秒。
     来るなら来いと構えたはいいものの、一向に男の動く気配は無い。不思議に思って男を改めてよく見てみれば、その目はおれの机に置かれた肉料理に向けられていた。

    「それ、もらっていい肉なのか?」
    「────はぁ?」

     思わず間の抜けた声が漏れた。今こいつはなんて言った?おれの肉がどうしたって?
     返答に困って目を瞬かせていた次の瞬間、男の手がおれの机に伸びて肉料理をそのまま鷲掴みにしてかっさらっていった。

    「ぇ、ちょっと!お前何すんだ!!」

     おれの叫びも虚しく肉料理はそのまま男の口へと消えていく。一瞬のうちのあんまりな出来事におれは肉を取り返そうとした姿勢のまま、呆然と立ち尽くすだけだった。

    「あれ、もらっちゃだめな肉だったのか?返事がねぇからいいもんかと思ったんだけどな」
    「人のもん勝手に取っていい訳ねぇだろぉ!?これから食べようとしてたとこだってのに…!」

     傍若無人な男の振る舞いに、先程までの少しの恐怖心も吹き飛んだおれは男に詰め寄る。

    「おれはこれから海に出て海賊王と呼ばれる男になるんだぞ!未来のおれにかけていくら肉一つとはいえタダじゃ済まさねぇ!!」
    「海賊王?」

  • 69解釈違いあったらごめん22/11/26(土) 13:31:22

     男の眉がぴくりと動く。相手が反応を示したことに良い気になっておれはそのまま高らかに宣言する。

    「そうさ、今までの二人の海賊王に負けないくらいに強くなって、この海で一番の男になってやるんだよ!」
    「もう海賊王の残した秘宝もねぇし、昔よりずっと海は平和になったのに海賊王か?」

     何故だか妙に楽しそうなトーンの男の言葉にうっ、と詰まる。確かに俺は大海賊時代を知らない世代だし、海賊が昔よりずっとその数を減らしているのもその通りだ。

    「……っ!、それでもおれはずっと夢見てたんだ。なんにも起こらない平和な村で、地平線の向こうにおれの想像すらできない冒険が、とびきり自由な世界が広がってるんじゃないかって!」

     平和な日常が一番だろうという大人の言葉は聞き飽きた。生まれた村からここまでの旅をしただけでも海の過酷さの一端は目にした。だというのに子どもの頃人づてに聞いた、胸踊るような麦わらの一味の冒険譚が忘れられないのだ。ワンピースという明確な目標が無くなり「海賊王」という言葉が何を指すのか曖昧になった今の時代に、それでもロマンを追い求めてみたい。
     おれの言葉を聞いた男は食べる手を休めてふっと笑った。

    「お前、おれと似てるけど似てねぇなあ」
    「は?」
    「おれはあの時海の過酷さも自分の弱さも一応知ったつもりで海に出たんだ。それに、まずは仲間が居ないとなにも始まらねぇと思ってたしなぁ」

     いきなり自分語りを始めた男。おれは村のボケた爺さんを思い出して生暖かい目になった。そうか、こいつも元は海賊だったのだ。けれど仲間に逃げられたとか、格上相手にボコボコにされたとかでこの街で腐ってる。そんなところだろう。
     怒る気の失せてしまったおれは、自分の机に座り直して皿に少しだけ残った野菜を味わうことに決めた。そんな俺が見えているのか見えていないのか、男はその後も楽しげに航海の話を続けてきた。

  • 70解釈違いあったらごめん22/11/26(土) 13:32:47

     唐突に外が騒がしくなったのは、男がいくつめかの話を終え、おれが注文したぶんの料理と飲み物を綺麗に片付けたところだった。そして、バン!と勢い良く店の扉が開けられ、どやどやと海兵たちが中に乗り込んできた。
     当然店の中は蜂の巣をつついたかのように大騒ぎ。首に賞金のかかっているのであろう数人が慌てて武器を手に取って逃げ出す準備を始める。しかし海兵はそんな彼らに構わず、一斉に一箇所に向けて銃を構えた。

    …………おれに向かって

    「…………え?」

     まだ賞金首ではないがついでとばかりに捕まえられては困る、と彼らと同じく刀を手に持って逃げようとしていたおれはこちらを向く数多の銃口に腰を抜かしそうになった。
     なぜおれが、一体何をしたと言うのだろうか?まだろくに海にも出ていないのに人生終了はさすがに酷くないか?絶対になにかの間違いだ……そんな思考がバラバラに頭を過ぎっていく。
     流れ出した走馬灯を振り払い、死ぬにしても大人しく死んでやるものかと刀に手をかけた時、上官らしい男が叫んだ。

    「麦わらのルフィがこの店に入るのを見かけたという情報は確かだったようだな!」

     ……麦わらのルフィ?聞き間違いだろうか、目の前の海兵はおれの横の男に向けてその名前を言ったように思えたが……。ギギギ、とブリキの人形のように首を回したおれは、幸か不幸か横の男の傍らに麦わら帽子が置かれているのを見つけてしまった。
     口から出そうになった悲鳴を慌てて押し殺す。目の前に銃口が突きつけられていない状況であったなら絶叫しているところだった。麦わら帽子と薄汚い格好をした男に視線を戻して一度見、もう一度麦わら帽子に視線を戻して更に男を見直して二度見、更に更に麦わら帽子を……と五度見くらいに視線をさ迷わせてからやっとおれはこの状況が現実であることを認めた。
     目の前に大勢の海兵がいるのも関わらず悠々と食事を続け、最後の肉を口に放り込んだ男──麦わらのルフィはそのまま帽子を手に取って立ち上がる。

     銃を構えなおして警戒をする海兵たち。出口までぎっしりと敵だらけのこの店をどうやって抜け出すのだろうか。こんな貴重な状況を間近で見れるのは嬉しいが、おれまで巻き添えで死にかねない程の間近で見たくはなかった。おれの心臓がばくばくと煩く鼓動しているのがよく分かる。

  • 71解釈違いあったらごめん22/11/26(土) 13:34:50

     ゆっくりと麦わら帽子を頭に被ったルフィが海兵たちの方を見据えたその瞬間、凄まじい威圧感がその場に溢れた。まるで頭を殴られたかのような衝撃が走り、揺れる視界の端で海兵たちが地面に崩れ落ちるのが微かに見えた。
     しかし、このままおれも床に倒れるか否か、というところで頭の片隅にそれで悔しくないのか、と問いかける自分の声が聞こえた気がした。確かにおれは海賊王になる、と現海賊王に向かって宣言しておきながら無様に倒れ伏すというのはあまりにも格好がつかない。薄れかける意識の中でプライドだけで必死に刀を握り直して地面につき、どうにか姿勢を保つ。けれど、威圧感はとっくに消え去っているというのに全身の震えが止まらない。
     そんなおれの横でふぅ、と息を吐いたルフィはおれの方を見て小さく目を見開いた。

    「あれ、お前も気絶するかと思ってたのにな」

     立っているだけでやっとのおれは言葉を返すことすら出来ず、震えていた。

    「でもこれで分かったか?海賊王なんて夢見てんじゃねぇよ」

     そのままおれに一瞥もくれずにルフィは倒れた海兵と海賊たちの間を抜けて、店の外に向かって歩いていく。
     けれど、扉を開け外へ一歩踏み出したところで何故かこちらを振り向き、ガタガタ震える情けない俺の姿を見てルフィは口を開く。麦わら帽子に隠れて表情は見えない。

    「だけど、いつかおれの前に麦わら帽子が似合うような立派な海賊になって現れるってんなら手加減はしないぜ?」

     そうしてそのまま扉は閉じ、おれは緊張の糸が切れ、今度こそ床に崩れ落ちた。

  • 72解釈違いあったらごめん22/11/26(土) 13:35:57

    (あれが……海賊王……)

     床の木目を目の前に見ながら考える。村を勢いだけで飛び出して、船も仲間もいないおれがあれを超える?誰に聞いたって無理に決まっていると答えるに違いない。……けれど、どうしてもやられっぱなしは気に食わない。ようやく気がついたが、どうやらおれはとんでもない負けず嫌いのようだった。
     まだ上手く動かない体を起こして刀を握り直す。まずは仲間集めだ。おれだけではあんな化け物がごろごろ居るであろう海を渡っていくのは不可能だ。
     そんなことを考えながらふと後ろを見てみれば、机を支えに一人の女が立ち上がろうとしているのが目に入った。悔しげな顔をしている彼女も同時にこちらに気が付き、目が合う。気の強そうなその目を見て、思いつく。

    「────なぁ、お前さ…………」

  • 73二次元好きの匿名さん22/11/26(土) 14:46:57

    そしてまた、夢を掲げて海を行く戦士が一人……! 乙でした!

  • 74二次元好きの匿名さん22/11/26(土) 19:27:35

    >>72

    この女は誰?

  • 75二次元好きの匿名さん22/11/26(土) 19:34:28

    何かあったルフィをどうしてもデマロ・ブラックで脳内再生してしまうマンです。
    このデマロ...じゃなかった、ルフィ、カッコイイですね。
    大海賊時代の夢が覚めた未来で、それでも夢を見る少年にかつての自分を見る、と。
    成し遂げたからこそ言える、「そんな途方もない夢見るのは止めとけ」の言葉。でも本気で挑むつもりなら応援するぞ、いつか現れるお前を待っている、と。
    帽子を託して海賊の高みでルフィを待つシャンクスや、世界一の剣士の座にてゾロを待つミホークと同じように、ルフィもまた、頂点で若い芽の成長を楽しみに待つ側に行ったんですね...。

  • 76二次元好きの匿名さん22/11/26(土) 19:51:10

    神の溜まり場かここは

  • 77分かりにくくてすいません22/11/26(土) 21:26:57

    >>74

    冒頭で一行だけ描写のあった一人で酒を飲んでた女です

    ルフィは最初に刀が主武装のゾロを仲間にしたのでなら次の世代を担うかもしれない主人公は刀の使いで最初に勧誘するのは女の子にしたら対比っぽくなるかな〜と

    誰?と聞かれるとまだ名も無き根性のあるだけのモブです 麦わらの一味だって最初は他の人から見ればただのルーキーなので

  • 78二次元好きの匿名さん22/11/27(日) 07:53:36

    保守

  • 79二次元好きの匿名さん22/11/27(日) 14:17:48

    何年後?

  • 80二次元好きの匿名さん22/11/27(日) 16:23:37

    各々の解釈次第じゃないかな?

    新しく何か書く気なら、『なんかあった未来』をかっこよくするんなら年数は問わない……みたいな感じ?

    年数指定とか厳密なルールはないから、好きに書けばいい。

    なんだったらこのスレの>>1が60を100に超解釈してるしなw

  • 81チョッパーver notスレ主22/11/27(日) 16:57:39

    「生けにえつれてこいよ!!!」



    小さな村に私は生まれた。山の奥にある小さな集落で、貧乏だけどみんな幸せなのだという。

    「ごめんなさい……ごめんなさい……役立たずでごめんなさい」

    お父さんは出稼ぎに出ているからいつも家にいない。お母さんは役に立たない私を嫌っている。機嫌が悪いときは私を叩いたり、髪を引っ張ったりする。だけど、翌朝には私を抱きしめて「ごめんね」と言う。

    私は確かに日銭すら稼げない役立たずだし、その上ご飯を食べるのが大好きだから、お母さんに嫌われても仕方がないのだと思う。こんな私でもお母さんは捨てずにいてくれる。抱きしめてくれる。

    だから幸せなのだと思う。

  • 82チョッパーver notスレ主22/11/27(日) 16:57:59

    私はおばあちゃんが大好きだった。おばあちゃんは去年死んだ。
    おばあちゃんは私にたくさんのことを教えてくれた。

    よく分からないことも多かったけど、おばあちゃんの話を聞くのは大好きだった。

    『この村はね……獅子神様に見守られているの。だからみんな、貧乏でも幸せなんだよ』

    『ほら、私たちは病気や怪我をしないだろ。したってすぐに治っちまう。獅子神様のご加護があるからさ』

    『だけんど、獅子神様を怒らせちゃならねぇよ。怒らせれば最後、山には毒が霧散し、人も木々も、動物もみな潰えてしまうんだ』

    『人に優しく、山に優しく、動物に優しく。何に対しても慈しみの心を持って生きなきゃならないよ』

    『獅子神様はいつも私たちを見ているからね』

    その言葉の通り、おばあちゃんはこんな私にもずっと優しかった。
    目を覚まさなくなる間際まで、ずっと私の手を握っていてくれた。

  • 83チョッパーver notスレ主22/11/27(日) 16:58:18

    ある夜のことだった。まん丸な満月が私たちの村を照らしていた。
    突然、お腹の底が震えるような、低くて深いうなり声が山中に響いた。

    「獅子神様の雄たけびだ」
    「獅子神様がお怒りだ」
    「供物を用意しろ。急げ」

    途端に大人たちが慌てふためく。貴重な食べ物を各々の家からいっぱい持ってきて、祭壇に集めては、また慌ただしく家の中に戻っていった。

    「10年前と同じだ」
    「だめだ、繰り返すな」
    「隠せ。子どもを隠せ」

    そのただならぬ気配に、いったい何がはじまるのだろうと私は扉から首を覗かせていた。お母さんは毛布にくるまって震えている。何か怖いことが起こるのかもしれない。もしそうなら、私がお母さんを守らなければならない。

  • 84チョッパーver notスレ主22/11/27(日) 16:58:37

    ずしん…ずしん…と、まるで地鳴りのような振動。巨体が移動する足音だと理解したのは、その姿を視界に入れてからだった。

    間違いない。あれが獅子神様だ。

    腰を抜かすと同時に本能的に理解した。おばあちゃんが……大人たちが言っていたのは、これのことだったんだ。私たちは獅子神様を怒らせてしまったのだ。大人たちは怒りを鎮めるために供物を祭壇に捧げたんだ。

    「こんなもんいらねェ!!」

    獅子神様は人の言葉で咆哮なさった。ぶもおおお、という力強い雄たけびに、並々ならぬ怒りを感じ、気づいた時には涙があふれ出ていた。

    怖い。隠れなければ。でも体が動かない。小刻みに震えるばかりで。

    「生けにえつれてこいよ!!!」

  • 85チョッパーver notスレ主22/11/27(日) 16:59:19

     
     
     
    ――目が合った。


    地鳴りのような足音と共に、巨体がこちらに近づいてくる。私は生贄に選ばれた。
    言い表せないほどの恐怖で、呼吸がうまくできない。気づけば下半身は生ぬるい液体で濡れていた。

    近所の優しいおじちゃんが、獅子神様の足元に縋り付いて必死に叫んでいる。

    「許してください」
    「まだ子どもなんです。優しい子です」
    「肉は今、村にはありませんが、私が動物を刈ってきますから」
    「お願いします。お願いします」

    おじちゃんが、私のために泣いている。だけど、獅子神様の歩みは止まることはなかった。大きな指で私の首根っこを摘まみ上げ「こいつでいい」と言った。


    悪い子でごめんなさい。
    役立たずでごめんなさい。
    たくさん食べてごめんなさい。
    お父さん、お母さん。
    おばあちゃん。
    助けて。

    死にたくない。

  • 86チョッパーver notスレ主22/11/27(日) 16:59:42

    気が付けば、私は見知らぬ小屋で眠っていた。

    「……ここは?」
    「おい、まだ寝てろよ」

    「たぬきがしゃべった!」
    「おれはトナカイだ!」

    「お前、どうして誰にも言わなかったんだ。お腹も背中も痣だらけだ。痛いだろ?」
    「これは、私が悪い子だからだよ。お母さんは私のために怒ってくれるんだ」

    「内臓にまで影響が出てる。それに、服で隠れる場所ばかり。……これは躾のじゃない。暴力だ」
    「ち、違う!私がお母さんに嫌われるような子だから……悪い子だから……」

    「とにかく、しばらくは消化にいいものしか食べれないぞ」

  • 87チョッパーver notスレ主22/11/27(日) 17:01:07

    ここはどこなのだろう。獅子神様はどこに行ったのだろう。このたぬきみたいなトナカイは何故私の看病なんかしているのだろう。

    トナカイさんは毎日私のお腹や背中の様子を見て、薬を用意してくれて、ごはんも用意してくれた。よく噛んで食べろとか急に動くなとか、色々と口うるさかった。でも叩かれることは一度もなかった。

    たまに、女の人が訪ねてきて、食料とか薬とかをトナカイさんに渡していた。女の人はトナカイさんに会うととても嬉しそうな顔になって、抱き着いたり頬っぺたを擦り付けたりする。トナカイさんも口では嫌がっているけど、どこからどうみても嬉しそうにしか見えない。

    あの人は、誰なのだろう。


    「あいつは、おれの娘だ」

    トナカイさんは事も無げにそう言った。

    「10年くらい前にお前のいた村からさらってきたんだ。今は町で医者をやってる。可愛い子だろ? それにとっても優しいんだ」

    本当は分かっていた。トナカイさんは、獅子神様なんだ。
    怪我をした私のために、怒ってくれた。何も言わずに我慢していた私に気づいて、看病してくれた。
    あの女の人もきっと、トナカイさんに助けてもらったんだ。

    「お前があの村に戻りたいなら止めないよ。でも、ここに残ったほうがいいとおれは思う」

    いつの間にか、傷はすっかり治っている。体のどこかが夜中に急に痛み出すこともなくなった。ごはんが美味しく食べられるようになった。

    お母さんの笑った顔。おばあちゃんのお墓。お父さんの大きな手。村の人たちはみんな、優しかった。私の思い出は暗いものばかりじゃない。でも、本当は辛かった。いけないことをされているのも知っていた。
    ただ私には勇気がなかった。力もなかった。


    「お前はどうしたい?」

    ――私は、

  • 88チョッパーver notスレ主22/11/27(日) 17:02:16

    チョッパー書いてみました。上の人たちがクオリティ高くて恥ずかしいんですが、温かい目で見てください・・・。

  • 89二次元好きの匿名さん22/11/27(日) 19:31:16

    いやいや、十分に高クオリティ。
    チョッパーらしい作品でした。

  • 90二次元好きの匿名さん22/11/27(日) 21:25:15

    チョッパー一人で住んでるのか
    まだ薬の研究中なのかな

  • 91二次元好きの匿名さん22/11/28(月) 08:14:18

    保守

  • 92二次元好きの匿名さん22/11/28(月) 19:51:58

  • 93二次元好きの匿名さん22/11/28(月) 19:52:16

    保守

  • 94二次元好きの匿名さん22/11/29(火) 06:48:14

    保守

  • 95二次元好きの匿名さん22/11/29(火) 12:08:26

    保守

  • 96二次元好きの匿名さん22/11/29(火) 14:11:27
  • 97二次元好きの匿名さん22/11/29(火) 17:35:50

    ちなみに、一通り読んでから144まで見てもらえると言っている意味が分かると思う。

  • 98二次元好きの匿名さん22/11/29(火) 18:46:14

    >>97

    読んできたー

    面白かった

    人間的には最低な気がするが幸せそうなのはいいな!

  • 99二次元好きの匿名さん22/11/30(水) 06:29:48

    保守

  • 100二次元好きの匿名さん22/11/30(水) 17:09:35

    かなしすぎんか

  • 101二次元好きの匿名さん22/11/30(水) 23:57:19

  • 102二次元好きの匿名さん22/12/01(木) 11:18:56

    保守

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