【ホラーSS】マジック・ナンバー

1二次元好きの匿名さん21/11/04(木) 00:09:32

……おはようございます。そうですよね、今回のことをきちんと相談できるのは、あなたしかいないと思ってました。

はじめに「あれ」が見えるようになったのは……半年くらい前だったでしょうか。

朝起きてタンホイザさんの顔を見てみると、頭の上にぼやっ、と数字が浮かんでたのが最初でした。あまりハッキリとは覚えてないんですけど、確か「60」とかそれぐらいだった気がします。

どうしてそんなもの乗せてるんですかって、何度聞いてもまるでわかってもらえなくて……これですよ、って二人で鏡の前に立ったとき、ようやく気づきました。鏡の中には、数字が映ってなかったんです。

――数字は、私にしか見えていないようでした。

2二次元好きの匿名さん21/11/04(木) 00:10:30

友達にも先生にもトレーナーさんにも、みんなの頭に数字が浮かんで見えました。「50」だったり「70」だったり、人によって値は全然違ってましたけど。

最初は私と同じ数字が見えるか聞いてみたり、頭の上の数字を教えて心当たりがないか尋ねてみたりもしたんですけど、そのたびに変な顔をされるだけで。

何回目かで保健室に連れていかれた後は、私は数字のことを口に出さないようにしました。

誰にも見えない数字が見えるなんて言い続けたら、頭が変になったって思われてもしょうがないですよね……いえすみません、そんなつもりじゃなくて。ただ、あなたのとは違って正体も目的も分からない以上、私にとっては気軽に話せることじゃなくなった、ってだけなんです。

……気にしてない？　ありがとうございます、それじゃあ、私の話を続けますね？

数字のことを人に聞く代わりに、私は周りの数字を見て、意味を考えはじめました。誰かの数字が見えるたびにメモを取るようにして……今じゃこの量ですから、いつの誰の数字でも調べられますよ。

あたり一面に見えている数字がいったい何を示すのか、気になって仕方がなかったんです。

3二次元好きの匿名さん21/11/04(木) 00:11:26

最初に気づいたのは、数字は人によって決まっているわけではなく、増えたり減ったりする、ということでした。

前の日は「65」だったスズカさんが翌日は「74」だったり。

ずっと「83」とか「87」だったタイキさんがその次の週には50台になっていたり。

変化のペースも振れ幅も、人によって全然違うようでした。

誰でも最初に思いつくでしょうけど、最初はその日の運勢の数値かな、と考えてたんです。

でも、「81」のドトウさんがコケて水たまりに突っ込んだり、「45」のネイチャさんが福引きに当たったり……

同じ数字の時にみんなに同じことが起こっているようには、とても見えませんでした。

だからと言って何かの回数なら減るのは変だし、カウントダウンみたいなものなら逆にたびたび増えるのがおかしいはずです。

数字には何か別のルールがある、そう思えました。

4二次元好きの匿名さん21/11/04(木) 00:12:12

それから数字の「性質」も少しずつわかってきました。

鏡に数字は映らない、っていうのは最初に言いましたよね？

それだけじゃなくて、写真とかビデオなんかでも数字は見えませんでした。

ただ、カメラのレンズ越しのブルボンさんはちゃんと数字が見えたので、機械を通すとダメってわけじゃなくて、生の動きが直接目に入れば大丈夫みたいです。

距離は……表現が難しいですね。実際に視界にあるものじゃないので、どれだけ遠くからでも人だとわかれば見える、って感じでしょうか。

5二次元好きの匿名さん21/11/04(木) 00:13:15

1週間くらい経って、ようやく数字の意味がわかったんですけど……はい、それはあなたの想像通りだと思います。私がここから出られないのは、「わかってしまった」ことがきっかけなんです。

数字が見えるようになってから、初めての本格的な模擬レースの日でした。私は恥ずかしながらスタートに失敗して出遅れてしまって。どこかで抜けて出られないものかと前をうかがっていたところだったんですが、そこで気づきました。

前を走る人たちの数字が、目に見えて減っていっていたんです。減りが早い人も遅い人もいましたけど、その場の全員が、少しずつ。周囲の数字が同時に動くなんて、初めて見ることでした。

そうしてもう一つ気づいたのは、数字が大きく減った人は、速度を急に落としていったことです。逆に数字の減りが緩やかな人は、だんだんと前に出てきていました。

私は数字の減りが大きな人に狙いをつけて、順位を逆転していきました。前に出たら、また次に減少している人へ。ぴったり後ろに付けば緩やかだった数字の減りも一気に早くなりました。

そのレースは、2バ身差をつけて私が勝利しました。

6二次元好きの匿名さん21/11/04(木) 00:13:59

私の理解はこういうことです。あの数字はスタミナや体調よりさらに大元にある生命力の根源――いわば「命のエネルギー量」。だから毎日変化するし、本気で走れば激しく消耗していく。

きっとレースで勝つ人は、あの数字が元々大きいか、なるべく減らさないよう本能的に調整しているのでしょう。

逆に言えば相手の数字をこちらのマークやコース取りで減らしていけば、ほぼ必ず優位に立てる、ということ。

……ここまで言えば、もうわかりますよね？

7二次元好きの匿名さん21/11/04(木) 00:15:11

そう、1か月前までの私のレースは、全部あの数字に頼っていました。

数字が大きく減っている人を見たら早めに前へ。数字の減りが鈍い人は、徹底マークで減らしてから一気に抜き去る。これだけでどんなレースでも勝つことができました。

トレーナーさんにとうとう努力が身を結んだな、と褒められた時はちょっぴり罪悪感もありましたけど……

でも、私は自分の実力以上のズルをしたわけじゃありません。ただ勝てるタイミングを絶対に逃さない方法がわかっていただけ。

あの時――この数字のもう一つの意味を知る時までは、何の問題もなかったんです。

8二次元好きの匿名さん21/11/04(木) 00:16:09

その日は、いつもの開運グッズのお店へ向かっていました。

……不思議ですよね。ある意味で占いよりずっと確実な力で勝っているはずなのに、その頃にはいつこの力がなくなるかが怖くて運頼みになっていたんです。

ふとすれ違った見知らぬ少女の数字を確認して――とっくに人を見れば数字を確かめるのが習慣だったので――私は背筋が凍りました。

「5」。一ケタ台の数字を見るのは初めてでした。

私の解釈が正しいなら、あの子の生命力はもうすぐ0になる……何をどうするとも考えないまま、私は彼女の後を追いました。

9二次元好きの匿名さん21/11/04(木) 00:17:28

その子はふらふらと、おぼつかない足取りで人通りのない工事現場に進んでいきました。

私は何度も彼女に声をかけようとしましたが、まるでノドに何かつまったように言葉が出ませんでした。

そもそも、なんて言えば良かったんでしょう？　「あなたの生命力はなくなりかけています」？……怪しい宗教じゃないんですから。

あとはニュースにもなった通りです。そうこうしているうちに突風が吹いて、束ねられた鉄骨が、ちょうど倒れてきて……

その瞬間、私は理解しました。数字……「生命エネルギー」が0になるということは、人生で起きるあらゆる障害への抵抗力が0になるということ。

それは運勢とか吉凶とか、そういう瞬間的な話じゃなくて――文字通りの「寿命」。

10二次元好きの匿名さん21/11/04(木) 00:18:20

それからのことはよく覚えていません。トレーナーさんに連絡して、警察に行って、気づけば部屋のベッドで寝ていました。

きっとあなたに私を説得するよう依頼した生徒会や理事長は、その一件がトラウマになっているから出てこないとか、そんなことを考えてるんでしょうね。

でも違うんです。今も数字が見えて困るとかではなくて……むしろここにいる間は、数字が見えていないとその方がずっと困ります。

何ならあなたの数字も教えましょうか？　いえいえ、あなたは大丈夫ですよカフェさん、数字が見えている私が保証します。

そう、あなたは大丈夫なんです。

11二次元好きの匿名さん21/11/04(木) 00:19:11

……もし、ですよ。自分の数字が見たいと思ったら、あなたはどうしますか？

鏡には映らない。写真やビデオにも記録されない。自分では絶対に確認できないと、そう思いますか？

答えは意外と簡単だったんです。ええ、さっきから気にされてる通り、このカメラをモニターにつないで自分の映像を見られるようにすれば、自分の数字が見えるんですよね。

わかります？　見えますかカフェさん？　私の数字、見るたびに減っていってるんですよ！

落ち着いてなんていられません！　もし外に出て、見てない間にまた数字が下がったらどうするんですか！？

昨日は「25」だった数字が、今日は「19」まで下がってたんです！　明日はもっと下がるかもしれないんですってば！

いえ、こうしてる間にも、ほんの少しでも目を離せばきっと――

12二次元好きの匿名さん21/11/04(木) 00:24:44

良いな……

13二次元好きの匿名さん21/11/04(木) 00:25:11

あ、感想言っちゃっていいすか
ゾクゾクしました

14二次元好きの匿名さん21/11/04(木) 00:25:23

過去作の

・こういうのに近い系

【SS】ウマジャーノンに人参を｜あにまん掲示板経過報告・一日目昨夜アグネスタキオンが訪ねてきて、君をウマ娘にしてあげよう、と言った。どうして俺なのか、本当にそんなことができるのか、一言一句が疑わしかったが、目の前にウマの耳をしたモルモットを持って…bbs.animanch.com

テンプレ的に病んだテイオーとトレーナーの束縛にまつわるSS｜あにまん掲示板トウカイテイオーにとって現在のトレーナーとの関係は、まるで神に仕組まれたような偶然の賜物だった。無敗のまま周囲の期待を一身に背負った菊花賞の直前に骨折し、失意の内に出走を断念。最初こそもう一度頑張ろう…bbs.animanch.com