- 1123/01/24(火) 19:51:11
- 2123/01/24(火) 19:52:11
あらすじ
カレンチャンに恋心を抱いていたカナロア。しかしある日、暗い部屋でトレーナーと抱き合う彼女を目撃してしまう。それが信じられず、彼女に二度も告白したカナロアだったが、待ち望んだ一言を貰うことはついぞなかった。
そんな二人が引退して……というお話。 - 3123/01/24(火) 19:53:03
あれから、何年経っただろう。
彼女は卒業と同時に、ドリームトロフィーリーグからも手を引いた。
当たり前のことだった。彼女と、バクシンオー先輩と、私。壮絶なレースは、観客を沸かせるのには充分で、それは短距離路線の盛況にも同じことが言えた。
つまり、現役でいられる、限られた期間の中で。
彼女は夢を叶えたのだ。
その後、私も後を追うように引退。
表向きは、肉体のピークを過ぎたからという説明だったが。
彼女のいないターフに興味がないというのが、実際のところだった。
むしろ、心が曇るほどに、私の脚はキレを増していた。本当、皮肉なことに。
あとは、ケジメでもあった。
彼女への、思いを断つための。
私は、切り替えのできる女だった。 - 4123/01/24(火) 19:53:38
今や彼女は、URAの宣伝部長。テレビやラジオ、新聞、勿論SNSまで引っ張りだこだ。
最近は世界を飛び回って宣伝をしているそうで、もう『世界で一番有名なウマ娘』という称号に、異を唱える者はいないだろう。
片や私は、なんとトレーナー。中々、難しい選択をしたと、自分でも思う。
名選手が名コーチとは限らない。少しでも後輩の面倒を見れればいいなと思っていたのだけど……これが見事に成功。人生うまくいくものだ。
自慢じゃないが、うちのチームは学園でも一二を争う強さである。師弟で香港スプリントを制覇したのはうちだけだし、ルドルフ会長を超えた9冠を制覇した子もいる。いずれも大偉業だ。
彼女達の才能がここまでさせたのは第一だが、彼女達が褒められているのをみると、自分のことのように嬉しいものだ。
そういう訳で、私も多忙。私のトレーナーは上手くやっていたんだなぁと、よく思う。トレーナーの言う通り、ひたすら走っていればよかった現役の時より、今の方がよっぽど大変だ。
そんな中、わざわざ2日ほど休みを取って、アパートに寝転がっているのには訳がある。
ふと埋め合わせを考えると、途端に頭が痛くなるのだが、そこまでするほどの訳があるのだ。 - 5123/01/24(火) 19:54:24
『ピンポーン』
インターホンが鳴る。
そう、私には待ち人がいた。また随分と、久しぶりのお客さんだ。
「鍵開いてるからー。入ってどうぞー」
入り口に向かって声をかける。
投げ出した体をなんとか立てて、そこで力尽きて。こたつの上にまた投げ出す。
ドアの開閉音と、バタバタ床を蹴る音。
上品とはとても言えないその足音に、変わってないんだなと、少しの安堵を覚えた。
「せんぱーーーーい!!」
「ん。ムーン、久しぶり」
満面の笑みで駆け込んでくる。かわいいかわいい後輩に、柔らかい笑顔で、手をひらひら振って返す。
後ろから、肩に腕を乗せて、もたれてくる。吐息が頬にかかって、少しくすぐったい。
「お久しぶりです、せーんぱい!」
「……変わらないね、後輩」
感動の再会だった。
卒業式以来、両方とも忙しくて、会う時間もなかったから。
涙が溢れるようなものではないが、笑顔は自然に表れた。
「えー、変わりましたよー。大人びたでしょ?」
「……ほら、そういうところが」
自分を客観視できないところ。何も変わってない。 - 6123/01/24(火) 19:54:58
「もうそろそろいい?お茶淹れてくるからさ」
「ダメでーす」
「煎餅とか和菓子も持ってくるから」
「……んー……」
背中を川が流れるかのように、後輩がずり落ちていく。体は完全にお菓子の誘惑に屈したようだ。
席を立ち、キッチンに向かう。
立派な湯呑みを二つ。
中身がインスタントなのは、勘弁してほしい。
____それから、いろんなことを話した。
久しぶりに会った旧友に、話す話は尽きなくて、私も後輩も、ただ語り合った。
私のチームに、私達三人に憧れた子がいること。
その子も短距離路線に行って、重賞で好走はするんだけど、あと一歩で勝てないこと。
それを、「先輩に負けた後の私みたい」と後輩が言って、「あなたほど惨敗しない」と私が言って、彼女の戦績の話になって。
ムラがあるけど、「本格化した私を倒せたのはあなただけ」と私が言ったら、後輩が得意になって、得意にならせるのもアレなので、「旋回癖は最後まで治らなかったね」と、少しちくっと言葉を刺す。
そしたら、変わらないその回転を部屋で見せつけてくれちゃって。
散らかった部屋に西日が差して、あまりにバカらしくて、
二人で笑った。 - 7123/01/24(火) 19:55:50
そう、気がつけば、夕日も沈む頃。
時間も忘れるという言葉を、レース以外で感じたのは数年ぶりだった。
そう思った次の瞬間には日も落ちきって、暗闇だけが空を支配していた。
日の入りの速さには、私達ウマ娘も見習わなければならない。
「____もう暗くなってきた。いやいや、あっという間に冬だねえ。こないだチームで夏合宿行かなかったっけ?」
「学生だったあの頃も、レースまでを思うとあっという間でしたけど。引退するとまた変わりますねー。振り返ってあっという間だなんて、思ったことありませんでしたもん」
確かに現役の頃には、思い出したら止まらないほどに、沢山の記憶があった。
懐かしむように、目を窓の外に向けて、
そこで気づいた。
「おぉ、雪。また珍しい」
「え!?ゆき!?ゆきですか!?」
とんでもないスピードで、後輩がこちらを向く。また散らかるんじゃないかと、一瞬ヒヤリとしたが、大丈夫。
……生徒達を見ていた方が、まだ楽だと、ふと思った。
「ほんとだ〜……すご〜……」
情緒の欠片もない感想を述べる。
まぁ、いちいち情緒を求めていないのでそれはよいのだが、興奮の仕方まであの時と変わってないのは如何なものか。
窓にほっぺをくっつけて、寒くないのかな。
私もゆっくり外を見る。ちらちらと、妖精のように空を舞う、白い白いもの。
それが沢山見れるとなったら、テンションがあがるのもわかる気がする。
いわゆる東北だとかのドカ雪じゃなく、こんな雪なら大歓迎だ。
あれは下手すると、生活に支障がでるから。 - 8123/01/24(火) 19:56:30
「きれいですねー……冬、どっか行きません?先輩」
すごく、唐突な誘いだった。
「急だなぁ……今日の予定空けるのも苦労したのに」
とは言ったものの、年末には私も予定が空く。正月休みくらいはトレーナーも取れるのだ。……1日くらいは。多分。
「まぁわかったよ。どこ行く?温泉とか?」
「私、スケート行きたいです!スケート!」
待ってましたと言わんばかりに、後輩が声を張り上げる。
取り敢えず、好きそーな競技なのは良くわかった。
「何か技できるの?」
「スピン!」
「まぁ、そりゃね」
すごく、予想通りだった。 - 9123/01/24(火) 19:57:51
その時
ふと思い出したことがあった。
いつかだれかに、買ってもらったプレゼント。
スケート靴が、物置きかどこかにあった筈。
後輩に見せてやろうと、物置きの襖を開ける。
「たしかー……このへんに……」
埃まみれの物置きを、掻き分けながら進む。
随分と奥の方で眠っているようだ。久しぶりに、叩き起こしてやろう。
それにしても、色々と出てくるものだ。アルバムだとか、写真だとか。
湧き出るのは懐かしさと、ほんの少しだけの、
何故か、恐怖があった。
がちゃがちゃという音と一緒に、後輩の声が聞こえてくる。
____聞こえないことには、できそうもなかった。 - 10123/01/24(火) 19:58:49
「いいですよねスケート……もしも、今年行くんだとしたら……」
「『三人』で行きましょう!あの時の、『三人』で!」
____ぴたりと、手が止まる。
『三人』
その言葉が、胸に突き刺さって、抜けなかった。
私と、後輩と、あと……
____ふすまを、閉じた。
「どうです?行きません!?多分、すっごく楽しいですよ!」 - 11123/01/24(火) 20:00:04
楽しい……かぁ。
そりゃあ、楽しいんだろうなぁ。
白い靴。ターンしながら、私に手を振って。
腕を組んで滑る二人を、遠くから見てる。
ムーン。
____もう『三人』じゃあ、ないんだよ。 - 12123/01/24(火) 20:00:35
外は雪。淡々と街を呑み込んで、明日には世界が変わるかも。
冬の静かな夜に、
暖房の、眠くなる音を聞きながら、
眉をひそめて、言った。
「……スケートは生まれつき、苦手なの」
新品の、スケート靴をしまって。 - 13123/01/24(火) 20:01:34
これにて後日談終了です。
待ってくれてた人達、ありがとう! - 14二次元好きの匿名さん23/01/24(火) 20:04:04
ありがとうございました。
脳回復用ハッピーエンドifも待ってる - 15二次元好きの匿名さん23/01/24(火) 20:14:48
待ってました!ムーンちゃんの無邪気さが刺さってこっちまで辛いです
- 16123/01/24(火) 20:25:38
- 17123/01/24(火) 20:59:46
- 18二次元好きの匿名さん23/01/24(火) 22:17:39
>外は雪。淡々と街を呑み込んで、明日には世界が変わるかも。
なんかちょっとキングヌーの白日も思い出しました。あれもなー別れの先の話だしなー割り切れてるんだかできてないんだか分かんない歌だしなーチラッチラッ
それにしてもカナロアめ、中学時代の恋を大人まで引きずるって相当ゴニョゴニョ……
一周回って親心まで芽生えてきました。いつまでも引きずってんじゃありません!キンカメ情けなくて涙出てきますよ
- 19123/01/24(火) 22:31:30
- 20123/01/25(水) 00:10:07
誰かSS書ける人、ムーンendも書いてくれねぇかなあ‥…
すごい愛着あるんだけど、多忙で書けそうもなくて……誰か頼みます - 21二次元好きの匿名さん23/01/25(水) 08:34:36
- 22二次元好きの匿名さん23/01/25(水) 18:38:14
保守
- 23123/01/25(水) 22:17:01
「ムーンに合う大滝詠一の曲あったかなー」って思ってたけども、よく考えたらありました。
ただ、『幸せな結末』を書いたあとになっちゃうので、その時は新しくスレ立てしようと思います。
タイトルは
『ナイアガラ・ムーンがまた輝けば』 - 24二次元好きの匿名さん23/01/26(木) 00:26:01
- 25二次元好きの匿名さん23/01/26(木) 09:39:43
保守
- 26二次元好きの匿名さん23/01/26(木) 21:13:43
あぶね保守
- 27二次元好きの匿名さん23/01/27(金) 07:50:36
保守
- 28二次元好きの匿名さん23/01/27(金) 18:58:56
保守
- 29二次元好きの匿名さん23/01/28(土) 05:20:37
保守
- 30二次元好きの匿名さん23/01/28(土) 16:49:00
保守
- 31123/01/29(日) 00:47:32
うお、久しぶりに覗いたら保守してくれている!?
大丈夫ですよ、遅くはなりますが必ず書きますし、その時新しくスレ立てするので
ありがとう! - 32二次元好きの匿名さん23/01/29(日) 02:19:54
わかりました!
完成と新スレ、お待ちしてます!