- 1キャラシート23/01/26(木) 22:46:19
安価でオブジェクトの設定を作るスレを語るスレです
二次創作等も大歓迎
楽しくやりましょう
前スレ
安価でオブジェクト制作について語るスレ|あにまん掲示板今からちょうど一年前の今日始まった安価でオブジェクト制作シリーズ半年以上前に一旦終了したとはいえ、安価スレとしてはなかなかの長期シリーズだったので覚えている方も多いのではないでしょうか?自分としてはと…bbs.animanch.com - 2キャラシート23/01/26(木) 22:48:47
最初のスレ
安価でオブジェクト製作|あにまん掲示板正直需要あるかどうか解らないけど、まずは所属から。正統王国、情報同盟、資本企業、信心組織、その他の5つの中から一つを選んで下さい。>>5bbs.animanch.comWiki(これまで作ったオブジェクトや二次創作の情報まとめ)
安価でオブジェクト製作スレ @ ウィキ【12/14更新】 | ヘビーオブジェクトの安価スレまたは関連する二次創作等の情報まとめwiki安価でオブジェクト製作スレ@ウィキへようこそ あにまん掲示板 での安価によってオブジェクトを作成するスレの情報まとめです。 付随する二次創作情報なども載せていきます。 作成者が初wikiなので精度につ...w.atwiki.jp - 3編集初心者マン◆bvw/mWLSaA23/01/26(木) 22:49:24
縦乙です
- 4キャラシート23/01/26(木) 22:51:55
少なくとも6巻を完結させるまでは終われませんなあ
- 5キャラシート23/01/26(木) 22:52:30
個人のSS保管庫みたいになっちゃいそうだけど
- 6キャラシート23/01/26(木) 22:53:30
2巻兄貴もためにも受け皿になってあげねば
- 7編集初心者マン◆bvw/mWLSaA23/01/26(木) 22:57:40
うんうん
自分も都合がついたら続き書きたいなあ - 8キャラシート23/01/26(木) 23:03:12
- 9編集初心者マン◆bvw/mWLSaA23/01/26(木) 23:07:33
とりあえず10まで伸ばそう
- 10キャラシート23/01/26(木) 23:08:57
うむ
- 11キャラシート23/01/26(木) 23:15:19
とりあえず今のところ総文字数は約13000字
構想では一章は20000字ちょいで終わる予定 - 12キャラシート23/01/28(土) 12:17:45
トンデモ理論でも「莫大なエネルギー」という力技でふわっと説明できるJPlevelMHD動力炉ってマジで便利
- 13二次元好きの匿名さん23/01/28(土) 19:51:51
これって「その他」が安価未登場オブジェクトで「オブジェクトまとめ」が全部って感じでおk?
前スレで存在知ったけどwiki読んでるだけでわりと楽しいわ - 14キャラシート23/01/28(土) 20:42:48
- 15二次元好きの匿名さん23/01/28(土) 21:02:15
変態理屈をこねくり回すのが楽しいんですよねオブジェクト
トンデモやっても本編のトンデモがあるので自由度高いし - 16二次元好きの匿名さん23/01/28(土) 21:55:20
地中組み立て強襲モーニングツリー
海中上下高速移動ラブカ706
空に連れ去って突き落とす、ポケモンで言えば「フリーフォール」みたいなオブジェクトはいないのね
ザッと見ただけだけどやっぱりオブジェクトは重いか - 17編集初心者マン◆bvw/mWLSaA23/01/28(土) 22:05:52
- 18二次元好きの匿名さん23/01/28(土) 23:03:00
今更なんだけど小説兄貴のオブジェクトって変なのしかないな?
ジャックポッドだのモーニングツリーだの - 19キャラシート23/01/28(土) 23:31:40
7
示されたポイントまでの10kmに満たない距離は、時速500kmを超えるスケールで戦場を駆け抜けるオブジェクトにとっては僅か数分の道のりに過ぎない。
『ベイビーマグナム』は的確に『ロックンロール』が操る液体金属を蒸発させながら、目的地となる左右を高い崖に挟まれた斜面までさり気なく後退して罠まで誘い込んでいく。
「よし、上手いぞ!そのまま悟らせるなよ」
「『ベイビーマグナム』登坂確認、っと。でもよぉ、あんな古典的な作戦に嵌ってくれる保証なんてあんのか?」
「大丈夫だ、成功しても失敗してもここまで誘導された時点であいつは詰んでいる」
弱気なヘイヴィアに対して、よほど勝利を確信しているのかクウェンサーの自信は揺るがない。
タイミングは良好。その時はやって来た。
「そこだお姫様!今登ってきた坂を余ってしょぼくれているコイルガンとレールガンでぶっ壊せっ!」
合図と同時に今まであまり役に立てなかった鬱憤を晴らすかの如く、『ベイビーマグナム』の各砲門から斉射された実砲弾の雨が激しい轟音を立てながら、数百mの長さに渡って伸びる斜面を跡形もなく破壊し尽くして瓦礫の山へと変貌させていく。
あまりの衝撃に、十分な距離を取って退避していたはずの二人のいる地点の地面まで天変地異のように大きく揺れる。
ここでようやく罠に気づいた『ロックンロール』が、今度は逆に後退して態勢を立て直す動きを見せようとしたがもう遅い。
「おっしゃ!てめぇの読み通り!ほら次だ次!」
「わかってるよ。おかわりを召し上がれ、お客様!」
見ているだけのくせに急かしてくる相棒に若干イラッとしつつ、クウェンサーは無線機のスイッチを押す。
すると予め仕掛けられていたハンドアックスが起爆され、後退しようとしていた『ロックンロール』の逃げ道を阻む形で左右にそそり立っていた崖が崩れ、こちらも瓦礫の山となって埋め尽くしていく。 - 20キャラシート23/01/28(土) 23:34:27
「瓦礫を除去するための砲を無くしたのが仇になったな。檻に閉じ込められて、奥の手の液体金属の剣山も届かない。このままだと上から一方的にお姫様に嬲られるのを待つだけのお前はどうする?」
当然聞こえるはずのないの少年からの問いに対して『ロックンロール』は答えることはない。ただその場に留まって回転し、練り上げた磁力が液体金属に形を与えていく。
『ジャンプ台……?あれで脱出するつもり?』
「いいや、それだけじゃない。お姫様、もう撃たなくていい。あれが本当に最後の攻撃だ」
『まさか……』
「そう、あいつ渾身のボディプレスがなっ!!」
その場で回転していたのは自動車のロケットスタートのように速度を蓄えていた意味もあったのだろう。解き放たれた回転は爆発的な加速を生み、フルスピードで射出された『ロックンロール』は自らが形作った銀色に輝くジャンプ台を乗り上げて、500mを超える高さまで一気に跳躍した。
夕暮れの空をスクリーンに舞う巨大な茶色の球体が、地球に衛星がもう一つ増えたと錯覚してしまいそうな光景を生み出す。夕焼けが反射してキラキラと光っているのは、内部に残った数少ない液体金属を航空機やミサイルの尾翼のように展開して、落下地点を『ベイビーマグナム』の真上に調整しようとしているからだろうか。
「来るぞ、ギリギリまで引き付けてくれ!それとくれぐれも俺達の策に巻き込まれないように!ヒント:ここは何が有名でしょうか!?」
『っ!なるほど!』
クウェンサーの意図を察したお姫様がカメラのレンズ越しに上空の『ロックンロール』を見据える。今更主砲で迎撃しても自由落下は止まらず、相手の目論見通りに押し潰されてぺしゃんこにされてしまうだろう。
だから全力で避ける。勝つために。生き残って次に備えるために。
そして、
その衝撃は周囲約200kmまで伝わり、中心部では瞬間的に最大震度7の揺れを観測した。 - 21キャラシート23/01/28(土) 23:36:35
一旦ここまで
オブジェクト戦終わり!
戦闘描写むずいいいい
文章が固くなって躍動感出せんんんんんんんん! - 22キャラシート23/01/29(日) 23:50:22
8
「げほっ……、えっふぉっ……、ゔぇっ!こんなに揺れるなら最初から言いやがれってんだクソッタレ!地割れにはさまって上半身と下半身が永遠にお別れするとこだったじゃねぇかモヤシ野郎!」
「ひぃ……ひぃ……!お、俺だって地面がトランポリンみたいに跳ねたおかげで3階建てくらいの高さまでかち上げられたんだけど……。砂の上に足から落ちてなかったら絶対に死んでた……」
あちこちがひびだらけとなった大地でクウェンサーとヘイヴィアは大の字に倒れ込んで荒い呼吸を整えていた。
地味に死にかける目にあっていたようだが、お互いにヒヤリハット自慢ができる程度には元気らしい。
「ベースゾーンの方は無事なんだろうな……。それよりあのフンコロガシ野郎は?」
「今確認を取る。お姫様、無事か?」
『あたりまえでしょ。敵性オブジェクトはせんとうふのう。もうちょっとしたらそこからでもみえるとおもう』
荒野の風は強く速い。落下の衝撃で生じた砂煙の粉塵を瞬く間に遠くへ攫い、景色を晴れ渡らせていく。
クウェンサーは起き上がって多機能双眼鏡を覗き込むと、高所から大質量で落下したのにクレーターを作らずに地盤をそのまま踏み抜いてしまって地下空洞で沈黙する『ロックンロール』、そしてそれを見下ろすように主砲を突きつける『ベイビーマグナム』が目に映った。
地面に新しく開いた直径数百mの穴の周囲ではコウモリの群れが驚いたように飛びかっている。 - 23キャラシート23/01/29(日) 23:51:55
「こちらでも敵性オブジェクトの撃破を確認。結果的に『ベイビーマグナム』も無傷で俺達の完全勝利だ。めでたしめでたし」
『でもこのさくせんならおもいついた時点でぜんぶせつめいしてくれればよかったのに』
「手品と一緒でこういうのはタネを下手にすぐ見せびらかさないからかっこいいんだよレディ。痛っ!何すんだよヘイヴィア!」
「けっ、よく言うぜ。ようはただの『落とし穴』じゃねぇかこんなもん。場末のドッキリ番組と変わんねぇよ」
ドヤ顔でかっこつけている様子に我慢できなくなったのか、ヘイヴィアはもやし野郎の尻を後ろから蹴飛ばしながら吐き捨てる。
「素直に『斜面を調査するための地形データを閲覧してたら、この辺の地下は蜘蛛の巣のみたいに洞窟が拡がっている情報を見つけてさ。「ベイビーマグナム」や他の一般的な推進方法で宙に浮いているオブジェクトと違って、地面と接しながら移動するやつなら岩盤の薄い場所を踏み抜かせて自滅させられるんじゃないかって思ったわけ』、っていつもみてぇに長ったらしい説明するほうがてめぇらしいぜクウェンサー」
「自分のものまねって目の前でやられるとすっごい腹立つな!全然似てないし!それに長ったらしくないし!もっとスマートだし!イケメンだし!」
カールズバッド洞窟群。
それがこの戦場の舞台となった場所の名前だった。 - 24キャラシート23/01/29(日) 23:53:48
「やっぱ尖らせすぎた第二世代って、条件が不利に傾いたらあっさり負けちまうもんなんだな」
「地盤がしっかりした他の地形だったら、結果は逆だったかもしれない」
『そんなことないってば。100%で私がかつ』
「わかってるって。お姫様がさいきょーさいきょー」
『こころがこもってない……。それと「ロックンロール」のエリートの……』
何かを言いかけたお姫様だったが、その前にフローレイティアからの通信が無線機に割り込んで遮った。
『無事戦闘は終了したようで皆ご苦労。私達の損害を軽微と判断した「ハイエナ」共も寄ってくる気配はなし。上々と言える結果ね。ミリンダ、そこでめり込んでいるボーリング玉のエリート様への降伏勧告は?』
『うんいまそれについてそうだんしようとしてた。さっきからおくってはいるけどだんまり。撃つ?』
『まだ撃たなくていい。そう。だんまりか……』
「え、何?なんすか?」
「面倒事ごとの匂いがプンプンしてくるんですけど」
思案に耽る敏腕上官の様子にすっかり研ぎ澄まされた「嫌な予感」への嗅覚が反応する二人を他所に、携帯端末が何かを自信する音を発した。送り主は案の定フローレイティアからだ。
添付されたファイルを開いてみるとそれは一枚の画像だった。
『「ベイビーマグナム」と共有している映像データの切り抜きなんだけれどわかるかしら。画質は粗いが「ロックンロール」が落とし穴を踏み抜いた直後、装甲側面の一部が小さく開いているように私は見える』
「「『あ』」」
『やつは常時転がっているオブジェクト。脱出装置の経路を複数の方向に用意していると考えるのが自然だと思わない?』
「つまり……」
『ピクリとも動かない機体。だんまりどころか息遣いすら感じられないコックピット。そしてこの画像』
「エリートは洞窟内に逃げた?」 - 25キャラシート23/01/29(日) 23:55:12
一旦ここまで
このペースなら前に宣言したとおり、1月中には一章終われそう - 26キャラシート23/01/30(月) 17:42:11
9
一つの戦いの終わりは次の戦いを呼び、螺旋を紡ぐように騒乱の火種を燻らせる。
同時刻、カールズバッド洞窟群から北北東に26km地点────。
「あれがウワサの『正統王国』第37起動整備大隊かあ!アハハハッ、いやーつよいつよい!」
『だろ?あの第一世代に乗っているお嬢ちゃんも手練だが、何よりあの「ドラゴンスレイヤー」コンビが面白い』
やかましいくらいに大きな女の声と軽薄そうな男の声だった。
「ここでつぶしておかなくていいんですかあ!?」
『ああ、後回しでいい。向こうの損害は軽微のようだし、あの地形はお前のオブジェクトとはどうにも相性が悪そうだ』
「なにぃ!?きこえないんですけどお!!」
マイクの端子が壊れんばかりに声を張り上げる女に対して、男は同じく張り上げて声を返す。二人の間では慣れたやり取りなのだろう。
『だーかーらー!放っておいて構わないってこと!てったいてったーい!……難聴にも困ったもんだぜまったく』
「りょーかーいですう!「お宝」についてはあ!?」
『正体はまだだがその鍵になりそうなもんはいくつか!「情報同盟」をつついてみるのがいいかもしれない!』
「わかりましたあ!……それとさぁ、ジン」
『……どうした?』
敬語をやめてトーンを落とした女の声に男も纏う雰囲気を落ち着いたものに切り替える。こういう場合はいつだって彼女が強い決意を秘めている時だとジンと呼ばれた男、ジン=ヤナギカゲは知っている。今は「部下」としてではなく、「友人」として話したいのだろう。
「あたしがんばるからさ」
『そんなこと堅苦しく宣言しなくても、お前さんはいつだって頑張ってるよ。なんだ?やる気アピールで給与アップでも狙ってんのか?』
「ちがうよ。アンタ、なにかヤバそうな事件にかかわっていたでしょ。それにあたしたちをなるべくかかわらせないようにうごいていたのも。しっぱいしていろいろ失ってめんどうごとをかかえこんでしまったのも。あたしだけじゃない、ヤナギカゲの社員みんながしってるよ」
『……………………。』 - 27キャラシート23/01/30(月) 17:43:52
ジンは肯定も否定もしなかった。ここで何か反応して答えてしまえば、その時点で「巻き込んで」しまう。だから沈黙を貫くしかない。
「あたしたちのきゅうりょうをへらしたり、リストラしないようにかなりむりしてるんでしょ?『むりするな』なんていわないよ。そうしないとどうしようもない状況なんだから。だったらあたしたちにもせおわせてよ」
『っ!……馬鹿野郎、それは』
「こたえなくていいよ。なんといわれようとかってにやるから。アンタがそうしたように」
『……すまない』
「はい、あやまるのはそれでさいご。つぎやったらゆるさないから。まわりから失くしたくないとおもわれるていどにはだいじにされていることをわすれんな。かいしゃも、アンタも」
ジンは具体的なことは語れない。だから、シンプルな感謝だけを友人に伝えた。
『そっか、ありがとな』
それで十分と満足したのか、女の口調は元のやかましい大声に戻っていく。
「どういたしましてえ!かえったらまたいっしょににじっけんしましょおおお!!」
『おう、若干死亡フラグくせぇが作戦成功の健闘を祈る!フェイ=ファング火器開発部室長!落ち目と侮った全員に「ヤナギカゲ重工」の名を知らしめてやんな!』 - 28キャラシート23/01/30(月) 17:46:30
ジンとの通信を終える。
そのタイミングを見計らうように、フェイ=ファングの駆るオブジェクトに新しい相手からの通信が入る。
『おわったかい』
穏やかだか少し陰気さが漂う少年の声がコックピット内に響き渡る。それに対してフェンは再び申し訳無さを含んだマナーモードに戻ってしまっていた。
「ナイジェル君?えーと、もしかしてぜんぶきこえてた?」
『わざとじゃなかったのか……。だとしてもどちらにせよ卑怯じゃないかな?あのやりとりは』
「アハハ……、おなみだちょうだいなんて『資本企業』がいちばんつうようしないのに。なんかごめんね」
『べつにいいよ。けいやくでつながっているあいだはぜったいにうらぎらない「仲間」。それが「資本企業」流だろ?ほうしゅうぶんはきっちりはたらかせてもらおう。「宝探し」のしょうしゃとなるのは僕たちだ』
金による関係かもしれないが目的と見ている方向は同じ。それだけで『資本企業』の兵士達はお互いの背中を預けられる。
フェイとナイジェルの間にも決して細くない確かな絆が生まれようと
「ええ!?なにぃ!?もっかいいって!」
『いや、ここで難聴はつどうするんかいっ!』 - 29キャラシート23/01/30(月) 17:51:12
一旦ここまで
ジンの口調はともかく、フェイの方は3巻最終章の冒頭でチラッとしか出てないから果たしてこれでいいのか……?アマミヤ先生みたいになる
勝手に『ジェネシス』の事件にはヤナギカゲ重工の社員達は最低限しか知らないことにしてるし
洞窟パートはもう出来てるから、添削次第投稿する - 30編集初心者マン◆bvw/mWLSaA23/01/30(月) 19:00:43
お疲れ様です
いやー自分が書いたキャラが他の人に書かれるのめっちゃむず痒いっすね - 31キャラシート23/01/30(月) 19:20:11
- 32キャラシート23/01/30(月) 19:56:44
10
『現場にいる全兵士達に指揮官のフローレイティア=カピストラーノが告げる。「ロックンロール」のエリートは逃走した!「お宝」に関する情報を握っている可能生も否定できない!輝かしき第一発見者というトロフィー獲得のため、洞窟内を捜索し見つけ次第即確保!生け捕りが望ましい!以上っ!』
というわけで捜索開始である。
現実はフィクションと違って大ボスを倒してそのままエンドロールというわけにはいかない。その裏側で決してスポットライトの当たらない地味でめんどくさい後始末の全てを済ませてようやく「作戦完了」と言えるのだ。
「あんっの爆乳っ……!また恒例の無茶振りかよ!こんなだだっ広い洞窟の中を探せだぁ!?先に俺達が遭難して餓死するか、現地住民の目撃情報から新種のUMA認定されるに100ユーロ賭けるぜクソッタレ!」
「落ち着けってヘイヴィア。戦闘は終わったばかりで相手は徒歩、しかもこっちは人海戦術に任せたローラー作戦の虱潰しだ。それにそのアサルトライフルに取り付けられたアクセサリーが飾りじゃないなら見つかるのは時間の問題だよ」
『ロックンロール』の落下地点とそこに繋がる地下洞窟の入口を地形データから割り出してピックアップ、落下地点側と入口側からそれぞれの部隊が合流するように進んで挟み打ちを行うという寸法だ。ジャガイモ二人は大穴に最も近くにいた歩兵という単純な理由で一番乗りを命じられ、落下地点側から地下洞窟に侵入していく。ダンジョン攻略の開始だ。
「生身でオブジェクトに突撃を命じられるよりかはマシって思わねぇとやってらんねぇな。それより落盤事故とか起きねぇだろうな?さっきまでオブジェクト2機が真上でデカいケツを振りながらダンスしてたんだ。もたもたしてるとUMAの前に生き埋めにされて化石になっちまう」 - 33キャラシート23/01/30(月) 19:57:39
文句を言いつつもヘイヴィアは各種センサー、集音マイク、音響ソナーなどの索敵用のハイテク機器に彩られたカービン銃をあちこちに向ける。一方で、書類上では「学生」に銃を持たせるのは軍規に反するのでクウェンサーはほぼ手ぶらだ。背中のバックパックに収納されているハンドアックスは、落盤への懸念や爆風を逃がせない地形との相性の悪さからただの高級粘土に成り下がってしまっている。手持ち無沙汰で仕方がないから、軍用懐中電灯で暗闇を照らす人間松明に徹するしかない。
洞窟内部は鋭い鍾乳石が地面や天井に所狭しと立ち並び、まるで巨大な怪物の口の中にいるかのようだった。うっかり足を滑らせて串刺しは勘弁したい。
「今更遅いけどさ、こんなに大声を出しながらピカピカ灯りを振り回していいのかな?相手にバレちゃわない?トラップや奇襲を捌ける自信無いよ俺」
ふと疑問を浮かべるもやし野郎。それに対して先行する貴族のボンボンはこちらを振り返りもせずに説明する。
「わざとこっちの位置を知らせて投降するよう促してんだよド素人。どうせ咄嗟の判断での脱出だ、サバイバルキット以上の装備なんて持ち出せねぇよ。それに人間ってやつは視界0の暗闇に長く居すぎると『壊れる』んだと。だから情報を引き出せねぇ状態になる前にわざわざこうやってお迎えを用意してんだ。エリートの野郎が事前に持たされた『お守り』を使っちまってたらそれまでだけどな。いっそここでバーベキューパーティーでもやったらひょっこり顔を出すかもしれねぇな」
「『島国』にそんなおとぎ話があったような……。クソ不味いレーションしか串に刺さってないバーベキューなんてネズミも寄り付かないと思うけど。じゃあもう大声で点呼でも取るかー」
「おうやっちまえやっちまえ。素直に出てくるもよし!ビビって追い立てられた先で他の連中に捕まるもよし!とびきりでけぇのかましやがれ!」
どこまでも緊張感の感じられない会話を続ける二人。命の危機が関わらない任務などこんなものである。ましてや先程までオブジェクト同士が火花を散らし合う戦場にいたのだ。彼らの気が緩むのも無理はないのかもしれない。だから、
「せーの、転がりオブジェクトのエリートさーん!!いらっしゃいませんかー!!」
「はい、ここに」
背後から聞こえる知らない誰かの声に直ぐ様反応できなかった。 - 34キャラシート23/01/30(月) 20:00:19
本当に出てきてしまった。
「どうせいないだろ」、「手柄を得るのは他の班の人間だ」などと心の隅で思っていたらこのザマだ。
完全に不意を突かれてヘイヴィアは僅かに硬直するが腐っても鍛えられた軍人、1秒後には振り向きざまにアサルトライフルを握り直して声の方向に銃口を向けようと身体を捻る。彼の視界の端ではクウェンサーが爆弾を使えないなりに足元に落ちているソフトボール大の石を拾おうとする姿が映っていた。咄嗟に発砲にまで移行しなかったのは「生け捕りが最優先(絶対♡)」だと怖い上官に叩き込まれたからか。
「……あんたがあのオブジェクトのエリートか?」
「さきほどそうこたえたはずですが」
声の主は女だった。年はクウェンサーの母親と同じくらい。『信心組織』らしく緑系のぴっちりとしたエリート専用スーツを着用し、適当な長さの黒髪をルーズサイドテールにまとめている。
顔立ちは間違いなく美人の部類ではあるが、自身の胸の真ん中にアサルトライフルのレーザーポインターを当てられても動揺して怯えるどころか細胞の一つすら微動だにしない完璧な無表情。
いっそそういうお面を貼り付けていると言われたほうが納得してしまうほどの人間味の乏しさが感じられた。
「このポンコツめ!どうしてセンサー類に引っかからずに接近を許してんやがんだよっ!?」
「いいえ、こしょうではありません。さくてきはんいをひろくせっていしすぎましたね。『灯台下暗し』とはよくいったものです。おかげでこうしてすりぬけることができましたが」
女は聞かれてもいないのにスラスラとどこまでも油断していた馬鹿の疑問に答える。実際にセンサーが役に立たなかったことから事実を述べているのだろう。 つまり見られていた。近くから。ずっと。
「クウェンサー、俺エリート相手に油断してかかるのとミョンリへのセクハラは今後一切しねぇと女神サマに誓うぜ……」
「『信心組織』のは特にな……。後者は知らないけど」 - 35キャラシート23/01/30(月) 20:02:37
今更思い出したかのように頬やうなじを伝う冷や汗の感覚が気持ち悪い。
もしもこの女が拳銃の一丁やナイフの一本でも所持し、こちらに明確な敵意を抱いていたのなら自分達はとっくにこの世にはいなかったかもしれない。しかしそうなってはいないということは、
「純粋に投降しに来たってことか……?」
「ええ、すでに私はていこうのいしをほうきしています。脱出装置のさどうはわたしのいしではありません」
「しばらく潜伏していたのは?俺達を監視していた理由は?」
「はっけん即さつがいのおそれがあったので、あなたたちの人柄をみさだめさせてもらいました。いつでもいのちをうばえたのにばかしょうじきにすがたをあらわしたことが『合格』のしょうこであるととらえてもらえればさいわいです。所持品もおみせするのできけんとはんだんしたものはとりあげてもらってかまいません」
感情の起伏や抑揚が感じられない、目を瞑って聞けばAIが合成した音声と言われれば間違えてしまいそうな口調のまま女性エリートは腰に取り付けていたポーチを静かに地面に置いた。どうやら所持品はそれしかないようだ。
それから大の字のような姿勢で立ちながら、相変わらず感情の読み取れない瞳でこちらをジッと見つめている。ボディチェックをしろということだろうか。
目を丸くして手にした獲物を構えることしかできないクウェンサーとヘイヴィアに女性エリートは淡々と言葉を紡いでいく。
「じこしょうかいがまだでしたね。アリア=スピカ。一応はほんみょうといっておきましょう」
「「……。」」
生殺与奪の権利を自ら捨てたアリア、そんな彼女に武器を突き付けるジャガイモ二人組がペースを呑み込まれている奇妙な状況が出来上がってしまっていた。
「(おい、誰がどこからどう見ても完全降伏のサインだが信じていいと思うか?)」
「(うーん、アリア……だっけ?彼女の言っていることはごもっともだしなぁ……。なんとなくだけどあの冷徹マシーンウーマンは嘘を『つかない』んじゃなくて『つけない』人種な気がする)」
- 36キャラシート23/01/30(月) 20:04:04
このままでいるわけにはいかないのでアリアに従うような形になってしまうが、彼女の身体や所持品を検めていく。
ボディチェックはクウェンサーが担当したが緊張とストライク範囲外の年齢差、そして何より身体を触られても彫像のようにピクリとも反応しないアリアのおかげでムフフ要素は一切なかった。恥じらいって大事!
「やっぱり何か隠し持っている感じじゃないな。ヘイヴィア、そっちはどうだ?」
「待て待て、えーとサバイバルキットに携帯端末……。あっぶねっ、拳銃発見!でもちっちぇな。2発しか込められねぇ自決用の『お守り』か?そして最後に……、ロケットペンダント?」
「それは、……なんでもありません。続けてください」
「?」
一通りの作業を終えてアリア=スピカの安全は証明された。
とりあえずサバイバルキット内のナイフと携帯端末と拳銃は没収、残りは嵩張るのでは元の持ち主に返却する。
アリアはヘイヴィアからロケットペンダントを受け取ると両手で抱き寄せるように胸の前で握り込んだ。 縋るように。祈るように。離れ離れになった家族にもう二度と離れないと誓うように。
「よかった」
安堵の言葉を浮かべるアリア。その様子を見てクウェンサーはようやく彼女の「人間らしい」情緒の兆しを覗いたような気がした。
「私物はそれだけだった。もしかして俺たちの前に無抵抗で姿を見せたり、『お守り』を使わなかったのはそいつが理由なのか?」
「ええ、『あの人』とのさいごの約束ですから」
アリアの答えは短く具体的なものではなかった。
「あの人」とは誰なのか、約束とはどういった内容なのか、機械的な彼女にとって決して高級そうではないシンプルな造りのロケットペンダントがどれだけの価値があるのかは少年達にはわからない。
「そうか」
捜索対象発見、あとは彼女をベースゾーンまで送り届ければ作戦は完了だ。 - 37キャラシート23/01/30(月) 20:05:07
他の班と合流しつつ洞窟の外に出るとすっかり日は暮れて夜となっていた。
ぼんやりと照らされる月光が網膜に優しく染み込んでいく。
『ベイビーマグナム』の無傷の勝利と敵エリートの生け捕りに成功した報告が重なって、我らが上官フローレイティアの無線越しの声は珍しく上機嫌だった。次に踏んでもらうときは少し優しくしてくれるに違いない。
迎えのヘリが到着するまでにはまだ少し時間がある。
「そういえばアリアさん」
「はい、なんでしょう」
「結局あんた達『信心組織』は何を追いかけていたんだ?」
部隊の誰もがずっと知りたかったシンプルな疑問に対して、アリア=スピカは相変わらず無機質に答えるだけだった。
「私はただとあるオブジェクトをついせきしろとめいじられただけです。それいじょうのことはしりません」
「とあるオブジェクト?」
「ええ、なまえはたしか『ダンタリオン』。しょぞくしている『情報同盟』では『ウェブ004』とよばれる機体です」 - 38キャラシート23/01/30(月) 20:08:06
一章 流転旋転ストレンジャー>>ニューメキシコ迎撃戦 終
一旦ここまで
二章の前に幕間書くと思うけど、とりあえず一章だけでも脱稿できてよかったぁ
モチベーション保てる範囲でこのくらいのペースを保ちながら進めていけたらいいかな
- 39編集初心者マン◆bvw/mWLSaA23/01/30(月) 20:09:51
あ、『懐古主義者の創世記』第四章wikiに載せておきました。
ちょくちょく更新はしていくつもりです - 40キャラシート23/01/31(火) 22:51:32
幕間
「やぁ、首尾の方はどうかな?」
『きかなくてもわかっているくせになにをいまさら』
「いやいや、私だって無知で博識かつ愚かしくも賢しい有象無象の『第一市民』の一人に過ぎない。神のように全知全能なんて畏れ多い。だからこの騒乱の引き金を引いた君の口から直接聞かせてもらえるとありがたい」
『あいかわらずあくしゅみね。……31きあつまったオブジェクトのうち、すでに10が撃破、もしくはたいはすんぜんのためてったい。そうぞういじょうにはやいしょうもうのペースに、かえってかくせいりょくのうえは戦力のついかとうにゅうをしぶってしまっているじょうたいといったところかしら』
「素晴らしい!流石は『アルカナ』に選ばれた精鋭だ。まったくいつも惚れ惚れするよ。さぁ君の望む自由まであと少しだ!それまでは共に歩んでいこう!」
『しらじらしいざれごとはけっこう。つぎにわたしはなにをすればいい?』
「そうだね。10減ったとはいえまだ少し多い。『住みやすい都市』は静かでなくてはならない。もう5つほど間引いてくれると助かるんだが。やってくれるかな?」
『そうやって「命令」じゃなくわざわざ「お願い」するあたり、ほんとうに性格がわるいわよね。そういうところがだいきらい』
「そう言いつつ引き受けてくれる君を私は好ましく思うがね。よろしく頼むよ、『女帝』」
「むしずがはしるけれどうけたまわったわ、『市長』」
「全ては『ネバー』のために」 - 41キャラシート23/01/31(火) 22:53:09
これで本当の本当に第一章終わりっ!
いまはまだすかすかのプロット段階を練る段階だけど、二章も似たような文字数だと思われる - 42キャラシート23/02/02(木) 18:33:23
むっ、ホワイトサンズか……
- 43二次元好きの匿名さん23/02/03(金) 22:50:00
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- 44キャラシート23/02/04(土) 17:31:43
お姫様の一人称ずっと間違えてた……
私✕ わたし○
一番エアプっぽい誤植やん
一応全巻読破しているはずなのに……
本当なんです!信じてください! - 45編集初心者マン◆bvw/mWLSaA23/02/04(土) 20:01:35
あるあるよね
たまーに読みっ返さないと忘れる - 46キャラシート23/02/04(土) 23:18:17
二章 万金に彩られし禁忌の箱>>ホワイトサンズ救出戦
エリートとは人間を薬品や外科的手術、暗示などのアプローチを用いて『改造』した人工的な超人である。
その結果、オブジェクトを操縦するために必要とされる高G環境への耐性やコンピュータに迫る情報処理能力や反応速度の飛躍的な向上を獲得していく。
未だにAIで代用不可能な「柔軟な判断力」という戦略の核を埋めるために、彼らはパイロットというよりも一つのパーツのようにオブジェクトに組み込まれる。
しかし「人間」である以上、長時間に渡って高い集中力を維持し続ければ、食事や睡眠だけでは回復できない部分への疲弊が蓄積し、肉体と精神は摩耗していく。
そしてエリートの不調が原因で戦力の大部分を占めるオブジェクトが撃破されたとなれば、部隊全体の死に直結してしまう。
そういったリスクを少しでも下げるために、エリートは『調整』を行ってパフォーマンスの安定を図る必要が出てくる。
『調整』方法は静かな空間で瞑想する者、動けなくなるまでひたすら泳ぐ者、同じ風景を何百枚もスケッチする者など個人で異なっており、『正統王国』軍第37起動整備大隊に所属する『ベイビーマグナム』のエリート、ミリンダ=ブランティーニの『調整』は教室ほどの広さの空間でフルートを演奏し、その際に発せられる音波で特殊な素材で折られた小さな飛行機を飛ばすというものだった。
- 47キャラシート23/02/04(土) 23:21:45
『少し旋回のペースが早い。もう少し落ち着いて吹くんじゃ。次、高度120cmを右回りにゆっくりと3分』
『調整』を行っている部屋とはガラスで隔てられた隣の部屋で、各種バイタルを測る計器群とにらめっこしながら整備兵の婆さんはお姫様に指示を送る。
『そうかな?いつもとおなじ感覚でふいていたのに』
それに対してお姫様は視線と脳波をリンクさせて操作するキーボードによって文字を入力することで会話を成り立たせる。
『お主のようなタイプの「調整」方法は本人の精神状態を反映しやすい』
『いまのわたしは不安定っていいたいの?』
『手の掛からん優等生のペースが乱れているのを見て、珍しいこともあるもんじゃと思っての。何か悩みがあるんじゃないか?』
『そんなことな』
『ほれ、言ってる側から高度が落ちとるぞ。集中せんかい』
慌てて元の高さに戻そうとするが、却って演奏が乱れて軌道がブレる。
コントロールを失った飛翔体はやがて壁にぶつかって床に墜落し、ピクピクと僅かに震えるだけのつまらないおもちゃに成り果てた。
お姫様はフルートから口を離すと、バツの悪そうに視線を逸しながら声を絞り出していく。
「……やっぱりわかる?」
『一応これでも母親じゃったからな。まぁエリートとはいえ、思春期の娘がまったく何も悩んでおらんというのも不健全だと儂は思うがの』
「ごめんなさい」
『謝らんでいい、儂は別に怒っとらん。逆に安心したわい。重要なのは原因とそいつを解決するのにどれ程時間がかかるかどうかじゃ。どうかの?』
「うーん、よくわかんない。なやんでいるのはたしかなんだけど言葉にするのがむずかしいというか……」
『その様子じゃと相談したい相手は儂ではないようじゃな』
『……うん、たぶんちがうと思う。ごめん』
『だから謝らんでいいと言っとるじゃろうが』 - 48キャラシート23/02/04(土) 23:23:46
整備兵の婆さんは一度だけ短く溜息をつくと、椅子から立ち上がりこちらに背を向けて歩き出した。
「どこにいくの?」
『どこって休憩じゃよ休憩。このまま続けてもどうせ身が入らんじゃろう?何か温かい飲み物と菓子でも持ってきてやろう。15分後に再開じゃ』
そう言うと婆さんはハキハキとした足取りで自動ドアを通って部屋を後にしてしまった。
そして、エリートの少女だけが『調整室』にポツンと取り残された。
つい先程まではフルートの音色で満たされていた空間だったのに、今は重たい静寂に包まれて鼓膜が痛いくらいに感じられる。
(原因か……)
一人寂しく立ち尽くす中でお姫様は、ずっと向き合うことを避けていた自身の悩みを分析するべく思考を張り巡らせていく。
きっかけは先日の『ロックンロール』との戦闘だった。
相手は最新の第二世代ではあったが、途中まではほぼ一方的に戦局を支配していた。だが、
(かくしだまの液体金属をだされてれいせいさをうしないかけた)
そして何よりも、
(また『たすけられた』。ひとりでかてなかった)
結局はそれが悩みの正体なのだろう。
『インドミナス』に『テトラグラマトン』、そして『フツノミタマ』。
数え切れない幸運に助けられた部分もあるとはいえ、ここ数ヶ月間で規格外の兵器であるオブジェクトの中でも更に隔絶した戦闘能力を誇る怪物達と渡り合い、生還を果たしてきた。
それらの死闘は自身の操縦士エリートとしての技量の向上に少なからずは影響があったのかもしれない。
しかし、それでもまだ足りなかった。 - 49キャラシート23/02/04(土) 23:25:18
(もしかして)
戦地派遣留学生の少年と出会ってから心の奥底でずっと抱いていた。
時代遅れの第一世代。エリートとしては若手故の経験不足。そして個人的な資質の限界。
ずば抜けた才能のエリートと出会う度に、敵軍のオブジェクトに追い詰められる度に、そんな自分を助けるために無茶をしてボロボロになる部隊のみんなから笑顔を向けられる度に膨らむ疑念。
(わたしって、よわいのかな……)
ネガティブな思考は少女を自縄自縛に陥らせ、意識を出口の見えない迷宮へと誘う。天井の蛍光灯の明度は変わらないのに、視界が黒いカーテンで覆われるように暗くなっていく。
(もっとつよければちがった結果になったのかもしれない)
もちろん過去には戻れないし、平行世界なんて存在しない。実際に有った出来事の積み重ねだけが現実だ。それでも頭ではありえないとわかっていても、「もしも」が溢れ出して止めることができない。
(もっと、もっとつよければ)
(わたしのちからだけでベースゾーンのみんなを……)
(クウェンサーをまもれ
「あれ?婆さんが話があるからここに来いって言ってたんだけど。お姫様一人しかいないじゃん。どうしたんだ?難しい顔して」
「呑み込まれる」一瞬手前だった。
ハッと我に帰って振り返ると、今まさに悩みの中心にいる件の戦地派遣留学生の少年がそこに立っていた。
「クウェン、サー……?」 - 50キャラシート23/02/04(土) 23:27:51
一旦ここまで
二章、開幕。
一人称間違いは気をつけよう!
婆さんも怪しかったけど、見返したら会ってた
見る側は気にしないかもしれないけど、書く側は少しの誤字でも気になるの!
100点が一気に50点くらいになるの! - 51キャラシート23/02/04(土) 23:28:37
ほら書いてる側から誤字ィ!
会ってた→合ってた - 52キャラシート23/02/06(月) 22:19:37
カテ欄で自スレが下段の方にいると焦る
明日には2節と3節投稿できそう 合計3000字くらいだけど - 53編集初心者マン◆bvw/mWLSaA23/02/06(月) 22:36:59
スレッドの期限過ぎなきゃセーフだから……
- 54キャラシート23/02/07(火) 21:48:33
2
(どういう状況なんだこれ?)
クウェンサーは困惑していた。
整備兵の婆さんに呼ばれて『調整室』にやって来たはいいものの、残されていたのはお姫様一人だけ。何やらぼーっとした様子で思い詰めたように何もない壁を見ているようで見ていない。
いつもの無表情とは明確な異様さを感じて声をかけたら、おぼつかない足取りでフラフラと近づいてきて、腰に手を回されて胸に顔を埋められた。
要するにハグである。
「あの、お姫様?」
「……………………。」
返事は帰って来ない。
胸板で顔が隠れているせいで笑っているのか泣いているのか怒っているのか表情を読み取ることすらできない。
(えーと、こういう時って抱きしめ返したり、頭をヨシヨシ撫でてあげるべきなんだっけ?でも昔モニカにそれやったら『セクハラすんじゃねぇっ!』ってビンタされたし。あ、お姫様のつむじの形綺麗。それとめっちゃいい匂いするなぁもう!)
残念ながら女性とは交際経験のないクウェンサー=バーボタージュくん。正解がわからず置き場所を決めかねている両手は着地点を見つけられずにただぎこちなく、寿命間近の蝶のように虚空を搔いて彷徨うばかり。今できることといえば、できるだけ心音を波立たせずにお姫様の頭皮の香りを堪能しながら時が過ぎるのを待つだけだった。
体感よりもずっと長く感じる沈黙の数分間の末、ようやくお姫様はそのままの姿勢で何かを呟いた。
「……って」
「はい?」
「いいからそこにすわって!あっちむきながら!」
「はいぃ!」 - 55キャラシート23/02/07(火) 21:50:38
普段の彼女からは考えられない唐突な大声による命令にクウェンサーはビクリッ!と飛び上がりながらも即座に実行に移す。
オーダーされてから3秒後にはスイッチ一つで変形するおもちゃのように、お姫様に背を向けながらコンパクトに身体を折り畳んでいた。胡座や体育座りではなく律儀に正座だったのは、いつも爆乳ドS上官にシゴかれている賜物か。
(え、なに?こわいんだけどっ!もしかしてクンカクンカしてたのバレた?殺される?俺殺される?スイカ割りみたいに頭パーンってされる!?)
突然抱きつかれたと思ったら、意味不明な命令を下してきた少女の謎行動に内心滅茶苦茶ビビりまくっていたクウェンサーだったが、不意にその無防備な背中に華奢な重みと温もりがのしかかった。
この部屋でそんな感触を生み出せるものといえば、
「あの、お姫様……?」
「こっちみなくていいから。はなしをきいてほしい」
背中合わせで密着しながら、感情の読み取れない平坦な声で、お姫様は淡々と会話を進めていく。
いつもの調子で茶化しながら無理矢理向き合うこともできたが、そうしたら少女が二度と手の届かない場所に行ってしまう気がしたので流石に弁えた。今はただ黙って従うしかない。
「ねぇ、クウェンサー」
余程話し出すのに勇気がいるのか、
「もしも、もしもだよ?もしわたしがものすごくつよくなったらうれしい?」
お姫様はたっぷりと間を置いて「本題」を切り出した。 - 56キャラシート23/02/07(火) 21:52:10
一旦ここまで
3節が思った以上に煮詰まってしまった もうちょっと待って
書きたいというか書かなきゃいけないと思っていたシーンなのにぃ! - 57編集初心者マン◆bvw/mWLSaA23/02/07(火) 21:53:57
考える内に煮詰まることはあるあるよね
自分はそうなったときは一旦別のこと考えて思考をリセットしてるけど - 582巻23/02/09(木) 02:34:43
生存報告がてら、カットした幕間を投下
本当にカットしてた奴だから、時系列とか気にしないでええで - 59二次元好きの匿名さん23/02/09(木) 02:35:07
―― 幕間 ――<<カット>>
オリヴィアにとって、これは極めて不本意な計画だった。そらそうだ、見せられたコンセプトプランは
彼女のロマンを刺激するには十分な代物。
だと言うのに、目の前のモニターの向こう側の人間はそれを実現させるつもりがなさそうなのだ。
『――そらね、時間があったらやりたいんだけどね。オブジェクトは可能性の塊よ。オブジェクトって付けてりゃ
どんなモノでも作るのを許容されるんだから。でも、あいつらの計画の完遂の方が早いのよ』
「なら、手伝っても良いのよ!! 良いじゃ無い! 恒星間宇宙船という名のオブジェクトの建造! ついでに
太陽系破壊も可能だなんて、最高にロマンだわ!」
目の前のモニターに映る緑髪の人間、ザザはロマンという言葉に一切の反応を示さない。
宇宙人にとりつかれたマッドサイエンティストは、だが、宇宙意外にはかなりの常識人で正直物足りない。
『――ソーラーイータープランAもプランBもなんだったら、あなたにあげるわ。概念モデルから設計図
建造に必要な基礎技術理論をいくつか。「プロジェクト-I」が完全に発動すれば、この地球って星は
最悪生命のいない岩の屑になるんだから、私には時間が無いの。プロメテウスの連中もう少し我慢を覚えろよ』
「……あなたの夢だものね。ファーストコンタクト」
『――だから、強行する。「7thコア」に連なる奴らがこちらの意図に気がつく前にアイリスバリエーションの名前で
作り上げた無数のパーツを適切な形で配列させていけば、最終的には限りなく光に近い速度で宇宙を旅し
冷凍冬眠技術により宇宙を旅する恒星間宇宙オブジェクトになる。奴らはアイリスの拡張パーツを
作ってるとしか思っていない。実際はそういう事にも使える宇宙船パーツだって言うのにね』
「そうやって、コストダウンして、無数に予算を引き出すあなたの手腕は好きよ。こんな事が無ければM&Aしたのに」
太陽を殺す能力を有する、ソーラーイータープランAの概算図を見ながら、コレからどこかに旅立つ女に最後の
挨拶をする。
- 60二次元好きの匿名さん23/02/09(木) 02:35:50
「それでは、もしもお互い生きていたら、どこかで会いましょう」
『――ああ、ソレなんだけど。もしもこの地球って惑星から命が消えなかったら……まぁ、最低限規模の文明が
残っている事前提なんだけど、私、擬似的な「不老不死」を実現させちゃったから、いくらでも会えるわ』
「へ?」
『――高々120年程度しかいきられない人間の寿命を冷凍しても確実性なのは精々1200年が限界よ。それよりは
「わたし」という個体を無限に生産できるようになるべきよ。デジタルなクローン、ナノデバイスを活用して
すでにそこに生きる人間を「わたし」で塗りつぶす。或いは純粋な「わたし」をインストールされた生物クローン
或いは、液体コンピューターという手もあるわね。海水に混ぜ込んでいって必要量を満たせば
後は意思の出力装置を確立させる事が絶対条件だけど、この惑星の海が事実上「わたし」となって
思考を続ける事になるわ』
『――或いは、これは思いついた時に実行しようと思ったけど、私の意図に気がつかれたら困ると
思ったから引っ込めたけど「地球大気圏流体演算ネットワーク」って代物を思いついたのよ』
『――これは、地球の大気圏に大量のマイクロプロセッサを常時バラマキ続け、後はいくつかの
量子コンピューターの気球を配置するだけで、地球という惑星そのものが巨大なスーパーコンピューターになる
と言うアイデアよ。これは、地球の気象現象や静電気と言った事象を動力として稼働することが可能で
地球という惑星が一つの巨大なスーパーコンピューターとなり、コレが完成すれば、2~3年で
完璧なワープ技術を作り出すためのシュミュレートだって可能だったハズなのよ。
それが無理でも地球と言う惑星が「わたし」という生物的個体、厳密にはデジタルだけど慣れたのよ』
『――宇宙人と交信する以上、オカルト的な方法にも目を向けたわ。正直こちらは私の手には
終えないモノが多すぎたけど、子供達に私の思考パターンを極めてアナログな方法で植え付け、
「わたし」として生活し「わたし」として思考を続ける。後は生殖能力さえ確保すれば、宇宙人の子供を孕めるのよ』 - 61二次元好きの匿名さん23/02/09(木) 02:36:20
『――ナノデバイスが、金属だから、それを何かしらの方法で駆逐されても困るから、流体繊維として
適当な植物たちに流し込む案も思いついたわ。こっちの完成度は7割ほど。惜しかったからこのまま
「わたし」のデジタルクローンが研究を続ける手配になっている』
『――海底の奥深く、とある場所に特殊なセーフハウスをいくつか用意しているわ。ここには私の
記憶をインストールした私の生物クローンたちがいて、私の活動を常に支援しているわ』
『――だからね』
『――私は、自分の夢が叶うその時まで』
『絶対に死んで溜まるか』
『 ―― この恋心は だれにも こわせないわ わたしは うちゅうじんのこどもをはらむおんなになるの 』
「うーん、ここまで行くと、あなたもやっぱり、ロマンがわかる人間ってのがむき出しね」
『――そう?』
「あなたのロマンティックな夢、かなうことを祈っているわ」 - 62二次元好きの匿名さん23/02/09(木) 02:37:45
終わりやで
本編は今、最初から誤字脱字修正しているで
さすがに前の奴はひどかった部分が結構あったからね。はずかしー - 63二次元好きの匿名さん23/02/09(木) 13:41:57
このレスは削除されています
- 64キャラシート23/02/09(木) 20:44:17
乙です
ザザって何気に友好・敵対に関係なく人脈広いな - 65キャラシート23/02/11(土) 15:56:18
3
(きいちゃった……。とうとうきいちゃった)
アラスカで助けられてから現在まで、ずっと心の奥底で燻りながらも膨らみ続けていた疑念。
それを打ち明けるのは、いつも命懸けで自分のピンチに駆け付けてくれるこの少年しかいないとは思っていた。
しかしいざ勇気を振り絞ってカミングアウトしてみると、もう後戻りはできないという事実が想像以上に少女の精神と肉体を苛んだ。
(ほんとうはよわいかどうかだったのにズルい聞き方してるし。ひきょうだな……わたし)
緊張で鼓動は早くなり、絶対に気の所為なのに身体の末端部分が冷えて部屋全体がゆらゆらと揺れているような感覚に襲われる。
(こわい。どんな『答え』がかえってくるのかがおそろしい)
少年からの返答がどういったものにせよ、自分の操縦士エリートとしての人生の方向性が決定的になってしまうような予感に恐怖心を炙られて、華奢な身体を締め付けるように少女は体育座りで折り畳んだ膝を両腕で更に強く抱き込んだ。
そんな様子など露知らず、背中越しの隣人は「うーん」だの、「えーと」だのと唸り声を上げながら考え込んでいた。慎重に回答を絞り出そうとしてくれていることには感謝したいが、その時間がもたらす静寂は少女の身体を内側からキリキリと締め上げた。
そして、
「あのさ、お姫様」
ビクンと反射的に身体が小さく跳ねる。
気づいているのかいないのか、背後の声が止まることはない。
「質問に質問で返すようで悪いんだけど、まず『ものすごく』ってどれくらい?」
「それは……」 - 66キャラシート23/02/11(土) 15:58:13
次は少女が考え込むターンだった。しかし、今度は答えを導くまでの時間は短かった。
要するに「強くなってどうしたいか」。そんなの決まっている。いつだって思ってきた。
「みんなをまもれるくらいだよ。クウェンサーたちがなにもしなくていいくらいに。『インドミナス』も『テトラグラマトン』も『フツノミタマ』だってやっつけられるくらい」
自分でも滅茶苦茶なことを言っている自覚はある。つまり世界最強になりたいと宣言しているのと同義だ。
挙げられた3機の詳細を知る者が聞いたら悪い冗談と捉えて、呆れられるのが当然なほど荒唐無稽なスケールだったが、その条件に該当している少年は嗤わない。
ただ「そっか」と短く呟いて、
「確かに死にそうな目に合う機会が無くなるのは楽かもしれないけど、まず最初に浮かんだのは『寂しさ』と『悲しさ』かな」
「は?」
「寂しさ」と「悲しさ」。
不意に飛び出した短い2つの単語に少女の脳内が「?」で埋め尽くされる。
喜楽のようなポジティブなものとはまるで正反対のネガティブな感想。
苦痛や恐怖を避けようとするのが人間の本能のはずだ。この少年だって相棒と共にいつも文句を垂れながら、危険に晒される自分達の境遇を嘆いているはずなのに。
正直な所、手放しで全肯定してくれると思っていた少女の心に予想外の「答え」が突き刺さっていく。
「たしかに『味方は誰も傷付かない』っていう理想は美しいかもしれない。でもその『誰も』にはお姫様自身が含まれていないだろ?そんなのアラスカでずっと独りで戦っていた頃と同じだ。お姫様だけに戦争の責任を全部押し付けてさ。今更あんなフェアじゃない状況には戻りたくない」 - 67キャラシート23/02/11(土) 16:00:07
アラスカ以前の自分。
戦えないベースゾーンのメンバーを内心で見下して馴れ合おうとせず、狭いコックピットに一人閉じ籠もって粛々と作戦だけを遂行していたあの頃。
誰にも理解されず、しようともせずに出口の見えないトンネルを歩き続ける真っ暗で孤独な道。
だとしても、それでも、
「そんなの世界最強になってかちつづければかんけいないでしょ」
「あるよ」
即答だった。
「最強だったはずの例の3機だって結局は倒された。圧倒的な『個』であっても、凡百の『群』には勝てないんだ。それに今日の最強が、明日も最強なんて保証はどこにもない。だからお姫様がやられそうになった時に、『最強』に威を借りていたせいで何もできない牙の抜けたフニャチン野郎に成り下がるなんて俺は嫌だ」
完璧だと掲げていた理想へのはっきりとした拒絶に、少女はついムキになって柄にもなく捻くれた態度で口を尖らせる。
「それはわたしによわいままでいろって言ってるの?」
「そうじゃない。何か勘違いしてないか?そもそも前提から間違っているんだ」
太陽が東から登るように、1の次の数字は2であるように、教科書に書かれていることをそのまま述べるようにクウェンサー=バーボタージュははっきりと告げる。
「お姫様は既に強いんだ」
彼の世界ではわざわざ語る必要すら感じていないほどの「当たり前の事実」を。
それはどこまでも愚直で、故に当事者である少女にとっては余りにも眩しく映った。
「……いいのかな」
次々と涙の代わりに今まで抱えていた自分の弱さに対する不甲斐なさがお姫様の口から零れ落ちていく。 - 68キャラシート23/02/11(土) 16:09:23
「あんなにすごいオブジェクトたちとたたかっておきながら、いまさら第二世代たった一機にてこずっているのに。みんなに心配をかけるばかりでぜんぜんせいちょうできていないわたしが自信なんかもってもいいのかな……?」
「いいんだよ。そんな簡単にいきなり強くなられてたまるか。ゲームのレベルアップみたいに経験値が現実ですぐに反映されていたら、オブジェクトをぶっ壊しまくった功績で今頃俺は研究開発機関のトップで、ヘイヴィアのアホは名門貴族の当主どころか一国の王様になってるよ。まさに世界の終わりだ」
吐露された不安の塊を受け止めても、クウェンサーの態度に揺らぎは生じない。
心を縛り付ける自己否定という名の鎖が頭の中で音を立てながら千切れていく。
「焦る必要なんてない。強くなりたいのはわかるけど少しずつでいいんだ。また不安に押し潰されて、自分を信じられなくなりそうになったらベースゾーンのみんなで何回でも叫ぶよ。『大丈夫、俺達が信じるお姫様は強いんだ!』って。だから忘れないでほしい。決して一人で戦っているわけじゃないって、今は『仲間』がたくさんいるってことを」 - 69キャラシート23/02/11(土) 16:10:47
それがずっとエリートの少女を側で見てきた戦地派遣留学生の少年が伝えたい全てだった。
聞き届けたお姫様は一度だけ深呼吸をし、静かに立ち上がる。クウェンサーの背中にのしかかっていた重みと温もりがフワリと消えていく。まるで次の目的地を定めて、湖面を飛び立つ水鳥のように。
そして、クウェンサーもよいしょ、と呟きながら膝をほろって腰を上げた。彼もまた、飛び立つ時だ。
二人はタイミングを測ったわけでもないのに、自然と同時に振り向いて正面から向き合う形となった。
「もう大丈夫?」
「…………………………うん!」
少し目元を赤くした跡が残りつつも、微笑むお姫様の顔にもはや迷いは存在しない。
曇りの晴れた、「納得のした者」の表情だった。
「クウェンサー」
「ん」
「いつもわたしと一緒にたたかってくれてありがとう。わたしがピンチになったら、またたよらせてね」
「こちらこそいつも俺達を守ってくれてありがとう。俺達がやられそうになったら、また助けてくれよな」
そして二人は固く握手を交わすと、ビリビリと痺れるくらいに勢い良くハイタッチでお互いの掌を打ち付けた。パァンッ!と小気味の良い音が部屋全体に響き渡る。
迷いを断ち切り、信頼を結び直した。だからこれ以上の会話は必要ない。
- 70キャラシート23/02/11(土) 16:13:40
4
「遅くなってすまん。ちょうど給湯室の茶葉が切れておってな。ほれ、『島国』産の抹茶じゃ。流石フローレイティア、珍しいものを持っておったわい」
クウェンサーが部屋を後にして、ちょうど一分後に整備兵の婆さんは戻って来た。
(そういえばクウェンサーは『ばあさんに呼ばれてきた』っていってたっけ)
最初からこの老女はお姫様の抱えていた問題も、その解決に必要な方法と人物が全てわかっていたのだろう。年の功恐るべしである。
「ありがとう、ばあさん」
「何じゃ急に?儂には何のことだかさっぱりわからんな」
テキパキと茶の準備を進めるとぼけた態度の婆さんだったが、その横顔の口角が一瞬だけ僅かに上がったのをお姫様は見逃さなかった。
改めて、自分は周囲の人間関係に恵まれていると自覚する。
それに報いる方法といえば、
「ばあさん、お茶はやくいれてもらってもいい?わたし今なんだかすっごいじぶんの力をためしたい……!」
「さっきとはまるで別人じゃな。いいじゃろう、お主の絶好調がどれ程のものか、目に物を見せてもらうとしよう」
今なら負ける気がしない。 - 71キャラシート23/02/11(土) 16:16:50
一旦ここまで
いやー、人を納得させるのって現実でも創作でも難しい
最初の段階ではお姫様をもっと感情的に爆発させる予定だったけど、そうすると「なんかキャラ違うな」と思ったり、落とし所が迷子になりそうだったから断念
ノエルちゃんの登場はもう少し先になるんじゃ - 72キャラシート23/02/11(土) 16:20:06
それと書かなきゃって思ったのは
あれだけの化け物とやり合っても、『ベイビーマグナム』自体の強さは変わらんから流石のお姫様も焦るだろうなって
ここでクウェンサーに説得してもらって、一旦軌道修正が必要だと思った次第 - 73二次元好きの匿名さん23/02/12(日) 20:30:09
安価は上限1000だから実質5倍
他カテ基準で言えばpart180まで行ったようなもんか
長生きしてたんだな - 74二次元好きの匿名さん23/02/12(日) 22:32:54
アニメ化したとはいえ、有名とは言い難い作品でよくぞそこまで伸びたもんだ 驚き
- 75編集初心者マン◆bvw/mWLSaA23/02/13(月) 23:05:36
保守っとこ
- 76キャラシート23/02/14(火) 22:05:04
書きたいシーンが終わっても嬉しいことにまだまだ物語は続いていく 燃え尽きたわけじゃないから安心してください
続きは今日か深夜に出すつもり - 77キャラシート23/02/14(火) 23:34:44
5
「拿捕した『ロックンロール』のエリート、アリア=スピカを尋問したところ、彼女は『とあるオブジェクト』を追跡しろという命令を受けていたらしい。それも詳しい理由を説明されずにとのことだ。さらに同勢力内で情報共有はされていないとも」
「我々第37機動整備大隊と共通すると思わない?寧ろ闇雲に他勢力のオブジェクトを破壊しろとしか言われていない我々よりも、ピンポイントで一機に狙いを絞っていた向こうの方が情報的には先んじていると判断ができる」
「その『とあるオブジェクト』とは、『情報同盟』に所属する『ウェブ004』。『正統王国』軍では『サイトシーカー』と呼称される第二世代よ。もちろん今回の『宝探し』に集まった31のオブジェクトの中に含まれている」
「データベース上で把握できる限りでは第二世代を名乗ってはいるが、あちらではありふれた情報収集用の一機に過ぎない。搭載している兵装に特徴は見られず、戦績や撃破スコアも凡庸以下。主な運用方法は僚機と共に出撃し、腰巾着として戦場の隅からコソコソ狙撃するふりをして相手を牽制したり、ジロジロ眺めてエリートの戦闘パターンの分析などの後方支援。正に『情報同盟』らしい臆病で陰湿なもの。はっきり言って、単体ならお姫様の敵ではない」
「そして幸いにも、奴は私達のベースゾーンから西に約100km地点で珍しく単騎でうろうろしているのが衛星で確認されている。よって今回の作戦の目的はこの絶好の機会を逃さずに、『宝探し』の『鍵』となり得る本機を発見後、即無力化して確保することよ。こいつを他勢力及び友軍の誰かさんに撃破される前に早々にけりをつけたい。頭に叩き込んだなら速やかに出撃の準備に取りかかれ、以上!」 - 78キャラシート23/02/14(火) 23:37:07
麗しの銀髪爆乳上官、フローレイティア=カピストラーノ少佐がブリーフィングで述べた、ざっくりとした作戦内容はこんな感じだった。
要するに仲間と逸れてぼっちになっているおいしく脂の乗った雑魚を、他のおっかない猟犬に狩られる前にさっさと独り占めしろということだ。単純な殺害よりも遥かに難しい生け捕りで。
そして現在、第37機動整備大隊のジャガイモ達が放り込まれたのは辺り一面真っ白な砂の大地だった。
ホワイトサンズ。
カールズバッド洞窟群から約150km程北西に位置する、700km²以上の広さを誇る石膏と硫酸カルシウムで構成された砂漠。
そこでドラゴンスレイヤーコンビが目にしたのは地平線まで砂糖や小麦粉をぶち撒けたかのような幻想的な風景と、
『たしゅけてええええええぇぇぇぇぇ!』
『そこのオブジェクトおお!とうそうをやめて止まりなさああい!』
『フェイ、めんどくさいからもううっちゃっていい?』
件の情報収集オブジェクトが、他の敵性オブジェクトとみられる2機に追い回されている地獄絵図だった。
「おもっくそ先を越されてんじゃねぇか!あんの爆乳!いつものことながら、いくら美人でもうっかり属性なんて俺はプラスで評価しねぇからな!何故なら尊い命がかかってるから!」
「問答無用で破壊じゃなくて、わざわざ止まるように警告してるってことはあの2機も『サイトシーカー』が『鍵』なのを知ってるってことでいいのか?」
感情を爆発させるヘイヴィアとは対象的にクウェンサーは淡々と状況を整理していた。懲りずに不毛な憤りを抱く者と諦めて流される者との違いか。どちらが悲惨かは判断を委ねる。
本格的な砲撃戦にもつれ込み、、つまらない流れ弾で殉職しては天国のバーで自慢ができない。とりあえず二人は腹ばいになって姿勢を低くし、無骨な双眼鏡をオペラグラス代わりに戦場を見渡していく。
真っ白できめ細かな砂は、太陽の光と熱を蓄えずに反射するためひんやりとして心地良い。 - 79キャラシート23/02/14(火) 23:39:05
「フローレイティアさん、ちょっといいですかすか?」
『んんっ、最初にお前達に言っておくが私にうっかり属性なんて断じて無いからな!いつもたまたま間が悪いだけだ!』
「(これで一言目が謝罪だったら、許してやってもよかったんだがよ……。とうとう開き直りやがったよコイツ……。生きて帰ったらマジで覚悟しやがれよ……)」
「(今はまだやめとけヘイヴィア、こういうのは薬局のポイントカードと同じで貯めれば貯めるほどプレミアムなご褒美が待っているって考えよう。罪悪感でドSの女王様がポッキリ折れるのを待つんだ)」
「(確かにそいつは見物には違ぇねぇが、その『いつか』を拝む前にくたばっちまったらやられ損じゃねぇかクソッタレ!)」
変態共がボソボソと囁やき合う様子に背筋へ嫌な悪寒が走るフローレイティアだったが、彼女なりの(絶対に表には出さない)申し訳無さに免じてここは不問とした。
『話を戻すとしよう。クウェンサー、お前が聞きたかったのは今まさに目標に噛みつかんとしているあの2機の詳細か?』
「ええ、ミサイルポッド?を大量に取り付けているグレーのと機体全体が金属質とは違うテカテカしている黒いやつなんですけど、データベース上に登録されていたりしませんか?共闘していることから、同じ勢力だとは思
「ヘイ、モヤシ野郎!俺ちょっと嫌なモン見ちまった気がするぜ!あれ見ろあれ!」
「何だよヘイヴィア、こんな真っ昼間の砂漠でブギーマンなんか見つけたって怖くもなんとも……」
「違ぇって!ミサイルポッドの方の装甲をよく見ろ!どっかで見た名前がねぇかっ!?」 - 80キャラシート23/02/14(火) 23:41:02
話を遮られて少し不機嫌になったクウェンサーだったが、ヘイヴィアに促されるままに双眼鏡でグレーのオブジェクトを拡大して覗いてみる。
するとその表面には『Hejjihoggu Bomber』、機体の名前とみられるアルファベットの並びと電子回路を樹木の形に集めたようなロゴの下にデカデカとプリントされた「Yanagikage」という文字があった。
クウェンサーの脳裏に軽薄そうな笑みを浮かべたとある男の顔が過る。
「ジン……ヤナギカゲ……!」
『こちらでも確認した。厄介なことになりそうね』
先の事件で煮え湯を飲まされた男が絡むと知り、フローレイティアはため息の代わりに吸い込んだ紫煙を深く長く吐き出した。
『おそらく奴らは「資本企業」に属している。となるともう一方は外見の特徴と照らし合わせるに、おそらく「ラバースキン」というコードネームで呼称している第二世代。妙な光沢はオニオン装甲の上から分厚いゴムの膜を被せているからよ』
「ゴムだと?そんなもんで砲弾を防げるのかよ?」
身近な輪ゴムや空気しか詰まっていないボールの素材となるイメージが先行してしまっている不良貴族には、いまいちオブジェクトの堅牢さには結び付かない。
しかし一方で設計士志望の学生は顎に手を当てて、どこか納得したように「うんうん」と頷いた。 - 81キャラシート23/02/14(火) 23:43:34
「ヘイヴィア、分厚いタイヤならわかりやすいんじゃないか?ちょっとした重機のやつでも一本300kg近くになるんだと。そいつを地層みたいに高密度で貼り付けていったら?」
「成程、そういうことなら馬鹿でかい主砲クラスのレールガンやコイルガンでも弾性で跳ね返しちまうかもしれねぇな」
『そういうこと。因みに、奴は主砲もゴム弾頭を採用している。「非殺傷」って触れ込みらしいが、シュミレートによると近距離で直撃すれば大抵の砲は真ん中で折れ、中のエリートは衝撃でトマトジュースになるそうだ。とんだ欺瞞ね』
どちらにせよここで黙って指を噛みながら、『サイトシーカー』が捕獲されるのを見ているつもりはない。
『お姫様、一対二、下手すれば一対三になるかもしれないけど行けるかしら?』
『だいじょうぶ。いまのわたし、なんだかものすごく力がみなぎってる……!』
フンスと力強く答えるエリートの少女の様子に以前垣間見えた不安定さはどこにもない。
フローレイティアは安堵の笑みを浮かべると通信機を手に取り、交戦開始の宣言を行った。
『心配無さそうで何より。全軍に通達する!予定とは少々違うが我々のやることは変わらん!目標以外はブチのめしてスクラップにしろ!これより敵性オブジェクト、「ヘッジホッグボマー」と「ラバースキン」を撃破し、「サイトシーカー」を保護せよ!健闘を祈る!』 - 82キャラシート23/02/14(火) 23:44:26
【サイトシーカー/Site Seeker】
全長…75メートル
最高速度…時速550キロ
装甲…一センチ×1000層
用途…戦場制圧兵器(情報収集、保存用兵器)
分類…水陸両用第二世代
運用者…『情報同盟』
仕様…エアクッション
主砲…多目的切り替え式主砲
副砲…小型多連加速式三連レールキャノン×6、ドローン射出機など
コードネーム…サイトシーカー(敵オブジェクトの観察に長けた性能から。なお、『情報同盟』の正式名称はウェブ004)
メインカラーリング…ホワイト - 83キャラシート23/02/14(火) 23:44:57
【ヘッジホッグボマー/Hejjihoggu Bomber】
全長…70メートル
最高速度…時速420キロ
装甲…二センチ×800層
用途…武装兵器破壊用兵器
分類…陸戦特化型第一世代
運用者…『資本企業』、『ヤナギカゲ重工』
仕様…エアクッション+ミサイル用燃料転用ジェット推進
主砲…マルチロックオン式大型クラスターミサイル×20
副砲…多種弾頭搭載型100連ミサイルポッド
コードネーム…ヘッジホッグボマー(ハリネズミのように並んだミサイルポッドで爆発をまき散らすところから)
メインカラーリング…グレー - 84キャラシート23/02/14(火) 23:45:35
【ラバースキン/Rubber Skin】
全長…90メートル
最高速度…時速450キロ
装甲…一cm×700層+特殊ゴム装甲100cm
用途…対オブジェクト非殺傷兵器
分類…水陸両用第二世代
運用者…『資本企業』
仕様…エアクッション
主砲…衝撃特化式特殊ゴム弾頭専用空圧砲
副砲…特殊ゴム粘着弾+トリモチ弾+遠距離狙撃特化ゴム弾他
コードネーム…ラバースキン(機体本体をゴムの膜で覆っているところから。なお、『資本企業』の正式名称はクララ)
メインカラーリング…ブラック - 85キャラシート23/02/14(火) 23:49:53
一旦ここまで
ふぃー、どうにか今日中に投稿できた
放っておくと馬鹿二人と敵オブジェクトでどんどん話が進んでいくからお姫様やフローレイティアさんの出番は出せるときに出すのだ - 86編集初心者マン◆bvw/mWLSaA23/02/14(火) 23:51:13
乙です
話書いてるとキャラが勝手に一人歩きしだすことありますよね - 87キャラシート23/02/15(水) 00:06:59
- 88編集初心者マン◆bvw/mWLSaA23/02/15(水) 00:10:56
楽しみにしてます
- 89キャラシート23/02/16(木) 21:27:07
6
戦場に乱入した『ベイビーマグナム』の第一手はシンプルだった。
逃げる『サイトシーカー』とそれを追う『ヘッジホッグボマー』・『ラバースキン』。そのちょうど真ん中に主砲のレールガンを撃ち込んでこちらに注意を向けさせる。
白い砂が爆風と衝撃で高く巻き上げられ、激しいブリザードに見舞われたように追跡者達の視界を遮り、一時的なホワイトアウトに陥らせる。
「そこの『資本企業』機とみられるオブジェクト2機、こちら『正統王国』軍第37機動整備大隊しょぞくのそうじゅうしエリート、ミリンダ=ブランディーニ。あなたたちがとらえようとしているそれはわたしたちのえもの。おとなしくひきさがるならみのがしてやってもいい」
突然の闖入者の登場に、それまで規格外のカーチェイスを繰り広げていた3機の反応は様々だった。
『おっと、レーダーでほそくはしていたけどこんなに早くおでましとは。忠告いたみいるがこちらもビジネスでね、第一世代一機ていどにしっぽをまいて逃げてさくせんしっぱいしましたじゃ会社のしんようとこけんにかかわる』
『ちょうはつならもっとおおきなこえで言ってくれないときこえませんねえ!うちの社長のはなしをきくかぎり、あなたたちにもすくなからず興味はありますがそれはそれ、これはこれえ!じゃまをするならはいじょお!』
『え、なに?なに!?あらての追手!?「本国」と「信心組織」と「資本企業」におわれつづけてとうとう「正統王国」さんせんでよんだいせいりょくコンプリートかよっ!こんなモテかたぜんぜんうれしくなーい!』 - 90キャラシート23/02/16(木) 21:30:40
素直に撤退してくれるなど端から期待してはいない。割り込ませた最初の一撃をどちらかにクリーンヒットさせて葬ることもできたかもしれないが、それは『正統王国』風に表現すれば「騎士道に反する」からしなかっただけだ。
今の自分の力を試すためには、ヨーイドンのイーブンな状態でなければ意味がない。
しかしながら、いくら勝てる自信が十分に有ったとしても3機を同時に相手取って無傷で済むと考えられる程、今のお姫様は自分の実力を過信してはいなかった。
前回と同様に、この作戦を終わらせても満身創痍の状態では、虎視眈々と疲弊した獲物を狙っているハイエナに噛まれてしまう。
そういったリスクを少しでも避けるための策は一つ。
(『サイトシーカー』をいったんみかたにひきいれて、二対二のこうずをつくる……!)
思い付いてからは早かった。
指差しをするように『ベイビーマグナム』の主砲の一門が白い『情報同盟』のオブジェクトに向けられる。
「そこの『サイトシ……『ウェブ004』のエリートのあなた」
『ひゃ、ひゃいっ!』
未だに状況が飲み込めず軽いパニックに陥っているのか、突然お姫様に声をかけられた『サイトシーカー』のエリートは上擦った声を上げた。 - 91キャラシート23/02/16(木) 21:32:15
「あなた、なまえは?偽名でもいいから」
『ノ、ノエル!ノエル=メリーウィドウでしゅっ!としは16さいでたんじょうびは5がつ2か!おっぱいはちゃんと測ったことないからわかんないけどたぶんおっきいほうだとおもいましゅっ!コワイカラシュホウムケナイデ……』
(そこまではきいてないんだけど……)
ノエルと名乗った少女はまるで圧迫面接を受ける就活生のように余裕というものが消し飛んでいるようだった。しかし、今はその余裕の無さに付け込ませてもらうとする。
まるで詐欺師の常套手段のようだと自嘲しながら、お姫様はなるべく相手を刺激しないように淡々と話を持ちかけていく。
「ノエル、いきのこりたければここはわたしたちと共闘して」
『ぶぇっ!?いきなりなにいってんの!?』
「よくかんがえて。どうせ四大勢力からずっとにげきるなんてできない」
『そ、それはそうだけど……』
確かに闇雲に逃げていても事態は好転しないことをノエルだって理解しているだろう。
いくらオブジェクトであろうともその動力は有限で、いつか必ず「限界」はやって来る。
彼女も彼女でなるべく早く決断する必要に迫られているのだ。保護されるのに一番マシな勢力を。 - 92キャラシート23/02/16(木) 21:34:12
「きょうりょくするならきちんとほりょのあつかいにかんする条約にしたがうとやくそくする。それにさいわいわたしたちはつよい。そっちのデータベースで第37機動整備大隊のせんとうきろくをちょっとしらべれば実績はじゅうぶんわかってくれるとおもう。いのちをベットするにはなかなかわるくない物件じゃない?」
『ううぅ、あうぅ……』
ノエル=メリーウィドウには現在3つの道が残されていた。
・このまま逃げて見つかるかわからない「第一希望」を探し続ける。
・『資本企業』に迎合して『ベイビーマグナム』を袋叩きにする。
・『正統王国』の誘いに乗り、この場を切り抜けつつ保護してもらう。
一つ目はあまり期待できない。自分を狙っているオブジェクト3機を振り切るのは現実的ではなく、既に気力は限界だった。
その次の二つ目にも不安が残る。今のところ直接的な攻撃を加えられていないとはいえ、いきなり襲いかかって来たので心証は大きくマイナス。その後の命の保証が有るかは不明。
となると残る三つ目だが、最初に対話を臨んでくれた点は心証でプラス。言われたとおりに記録を閲覧したところ、実力は相当高そうではある。しかし、捕虜となった自分への扱いが口約束由来だからと反故にされたら全てが瓦解してしまう。 - 93キャラシート23/02/16(木) 21:36:28
『えーと、えーと……どうしよう』
天然のスモークはまもなく晴れて、『ヘッジホッグボマー』と『ラバースキン』との本格的な戦闘まで幾ばくもない。
ウダウダ堂々巡りを繰り返すノエルに、お姫様は痺れを切らして伝家の宝刀を発動する。
「10、9、8、7、……」
『あぁっ、よくわかんないカウントダウンはじめないで!のります!ノエルちゃん『情報同盟』はつ、『正統王国』いきのさいしゅうれっしゃにのりましゅぅ!キョウカラトモダチヨロシクネ!』
「よろしく。ともだちはしらないけど一応かんげい。いぇーい」
『あのー……、ちなみにもし断ってたらどうなってたの?』
「………………………………。ききたい?」
『いえ、けっこうですっ!むごんがいちばん怖いいい!!』
半ば強制的な気がしないでもないが、こうして即席のユニットが成立した。
あとは邪魔者を迎え撃つのみ。
「というわけなんだけど。フローレイティア、これでいい?」
『事後報告極まりないが止む終えん。追われているのを発見した時からこうなる気がしていた。あとはあなたに任せるわ』
「りょーかい」
軽い調子で答えるお姫様とは対象的にフローレイティアは憂鬱そうに頭に手を当てつつも、どこか楽しそうに苦笑を浮かべていた。
『それにしてもミリンダ』
「なに?」
『随分と口先が達者になったじゃない。どこかの「学生」の影響かしら?』
「ふふっ、そうかも」 - 94キャラシート23/02/16(木) 21:36:55
一旦ここまで
ノエルちゃん喋らせるの楽しいなチクショウ - 95編集初心者マン◆bvw/mWLSaA23/02/16(木) 21:38:22
安価の時点で珍獣扱いだったからね……
- 96キャラシート23/02/17(金) 20:01:33
下書き→このスレに投下→wikiに載せるの三段階で誤字や文章の修正しているのに読み返すとまだまだ添削し足りない部分が次々と……うぬぬぬぬ……
- 97キャラシート23/02/18(土) 22:04:01
やはり戦闘シーンは難しい
前回はタイマンだったけど、今回は2vs2のタッグマッチだから難易度跳ね上がりィ! - 98キャラシート23/02/19(日) 20:28:35
7
同盟結成を喜んでいる(?)暇もなかった。
モクモクと煙る砂塵が巨大な爆炎でブワリと内側から吹き散らされ、微かな残滓を切り裂いて『ヘッジホッグボマー』と『ラバースキン』が姿を現す。
『フェン、ミサイルをうちわ代わりにするならもうちょっとデリケートにたのむ』
『ノンノンノン!地味なばくはつなんてきわめてナンセンスっ!あちらのすけっとさんがヒロイックに登場したぶん、あたしたちもインパクトでまけてられませんよお!』
『そんなところきそってどうする……』
『サイトシーカー』が自分達の手を離れて、敵に回っても彼らの口調から焦りは微塵も感じられない。
両者共、自らの実力に自負を抱いていないと取れない態度だ。
一筋縄では行かない難敵の予感に、お姫様は操縦レバーを強く握り直す。
『まったく、たいがいにしてくれよ。さて、はなしはおわったかな?』
「わざわざまっててくれたんだ。おそらくさいごのチャンスかもしれなかったのに」
『あなたを先にたおしてじつりょくをしめせば、そこの『情報同盟』機だってていこうする気がうせてしたがってくれるでしょおお!』
『わわわっ、わたしたちむてきのコンビにかてるとおもってんのかぁ!かかかか、かかってこいやぁ!』 - 99キャラシート23/02/19(日) 20:30:24
西部劇のガンマンか『島国』のサムライの決闘のようにお互いを見据える4人だったが、砂漠に吹く風がピタリと止んだ瞬間が開戦の合図となった。
最初に動き出したのは『資本企業』。
『んじゃあ、ナイジェル君!うちあわせどおりにい!!』
『りょうかい、それときこえているからもうちょっと声量をミュートしてくれ!こまくがそろそろイカれそうだ!』
決められたフォーメーションなのか、『ヘッジホッグボマー』と『ラバースキン』はお姫様達を円の中心に据えて取り囲むように散開した。
高速で円の外周を旋回する2つの無機質な巨大兵器は「絶対に逃さない」と主張しながら、見る者に多大なプレッシャーを与えてくる。
「とりあえずわたしからなるべくはなれないでかいひに専念して。あなたにはいままでのようにけんせいとぶんせきをまかせる。ぜったいにまもりぬくからまずは落ち着いて」
『お、押忍っ!やるぞー、やってやるぞー!戦友(トモダチ)とのはじめてのきょうどうさぎょう……!ふ、フヒっ……!』
一方で無敵コンビ(笑)はこの死のすり鉢に呑み込まれて引き潰されないために、回避の邪魔にならない距離を保ちつつ、背中合わせで敵の動きに直ぐ様反応できるよう五感を尖らせていく。
『はいポチっとなあ!ほんじつのてんきは晴れときどきミサイルでございまあす!』
いっそ間の抜けたフェンの声と共に『ヘッジホッグボマー』に搭載された夥しい数のミサイルポッドが展開し、解き放たれたミサイルの群れが噴射煙と発射音を置き去りにして、『ベイビーマグナム』と『サイトシーカー』に襲いかかる。 - 100キャラシート23/02/19(日) 20:32:16
「くる!もう一機にちゅういしつつたいくうげいげき」
『じだいおくれのミサイルなんて、レーザーのまえじゃイチコロだもんね!』
確かにノエルの台詞は正しかった。
いくらミサイルの波状砲撃といえど、所詮はジェット推進。光速の対空網から逃れる術はなく、ほぼ全てが目標に噛みつく前に空中で撃ち落とされてしまった。しかし、
『ちょっ、なにこれ!?スモーク!?ぶええっ、なんにもみえないようっ!』
『さっきのおかえしでえす!ひっかかってくれましたねえ!』
爆散した偽装スモーク弾から大量の煙が立ち昇り、巨大な壁となってお姫様達を包囲する。
(……っ、はでな一斉掃射はデコイ!ほんめいは!?)
このままでは格好の的となってしまう。
そうならないために複雑な蛇行を描きながら機体を揺らそうとする『ベイビーマグナム』と『サイトシーカー』だったが、煙に阻まれてしまったこの状況では、お互いに接触する危険性が頭にチラついて満足に動けない。
そんな両機を嘲笑うかのように視界を塞がれて役立たずとなったカメラの代わりに、熱源感知センサーが今更反応を検知した。
「ノエル、うえ!」
『わかってる!』
『おそい。いったでしょう、「晴れのちミサイル」だって』
フェンの言うとおり一手遅れた。
咄嗟に再び対空迎撃を行おうと砲を真上に向けようとしたが、既に大型のクラスターミサイルはマトリョーシカのように子弾から孫弾にまで分かたれていた。
オブジェクトにも通用するようにナイズされた爆発物が『ベイビーマグナム』達の周囲一帯に降り注ぎ、莫大と表現するには生易しい熱と光と音の渦に叩き込んだ。 - 101キャラシート23/02/19(日) 20:33:52
一旦ここまで
やべっ ノエルちゃんカミングアウトのタイミングをいつにしよ まぁなんとかなるやろ
ライブ感ライブ感 - 102編集初心者マン◆bvw/mWLSaA23/02/19(日) 20:35:35
乙です
ヘッジホッグボマーのミサイルカーニバルは絶対見てて楽しそうだなとは思う
尤もその場にはいたくないけども - 103キャラシート23/02/19(日) 20:40:52
ただやはり第一世代だけあって広範囲殲滅攻撃持ちだから、原作通りジャガイモコンビと致命的に相性が悪いという
だから今章は基本アドバイザーに徹するしかない哀しみ
ヘイヴィアのやつが真っ当にレーダー分析官やってら
- 104二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 23:54:06
ノエルちゃん喋らすと無限に話すリアクション芸人になりかねないからカットカーット!
困った女だ…… - 105編集初心者マン◆bvw/mWLSaA23/02/21(火) 23:47:22
おもしれー女……
- 106キャラシート23/02/22(水) 20:34:09
8
その巨大な爆発は爆心地から数km離れていたはずの軍用車両を衝撃で横転させた。
オブジェクトの前ではその程度のサイズなど、小虫にまでスケールを貶められるということか。
乗っていた更に小さなクウェンサーとヘイヴィアは180度ひっくり返った世界から、ノソノソと這いずりながらも惨めに脱出するしかない。
「づ……ぁ……!クソッタレが……、ちょっと油断してやがったらすぐこれだ!相変わらずあのデカブツ共は加減ってもんを知らねぇ!」
「そうやって悪態を付けるならまだまだ元気だと認定されるから、こういう時は黙ってた方が良いって俺思うの。それにしてもあのミサイルオブジェクト、おそらくは第一世代か?無差別広範囲攻撃持ちなんて俺達と一番相性が最悪だろ……。これ以上近づくことさえ出来そうにないな」
「人間とオブジェクトに相性も糞もあるわけねぇだろ……。っ、それよりもあっちはやべーんじゃねぇの!?流石のお姫様でもお荷物抱えてちゃきびしかったってか!?」
「お姫様、無事か!?応答してくれ!」
巨人達の戦いを黙って見ていることしかできずに歯噛みしながら、クウェンサーは『ベイビーマグナム』に呼びかける。
『しんぱいしなくてもなんとかぶじ。ばくはつははでだけどいりょくはそこまででもないみたい。副砲はいくつかやられちゃったけど、主砲はまだだいじょうぶ』
『こっちもおんなじかんじれーす。チミたちが例の「ドラゴンスレイヤーコンビ」ってやつ?きょうからおせわになるノエル=メリーウィドウちゃんデス!あとだれが「お荷物」じゃーい!』
「思ったよりもダメージが少なそうでよかった。さっきのクラスターミサイルはもしかしたら装甲を貫くのが目的じゃないのかもしれないな」
『ちょっと!?スルーすんなし!あいさつだいじ!ナイストゥミーチュー!ワッチュアネーム!』 - 107キャラシート23/02/22(水) 20:35:54
どうやらこの拾ったエリートは中々に愉快な性格をお持ちのようだ。
大変面倒臭いがこれからの連絡の為にも、名前を伝えておくのは確かに必要ではある。
「クウェンサー=バーボタージュです。どうも」
「ヘイヴィア=ウィンチェルっす。以上」
『よそよそしさマックスのさいていげんのプロフィール!?塩い!あまりにも塩い!ナンデ!?』
「「いや、だってなんか苦手なタイプだし」」
『ぐはっ!』
デリカシーの欠片も無い馬鹿二人による言葉のストレートが、ノエルの精神の顎っぽい部分にクリーンヒットする。
それでも打ちのめされ、項垂れても不思議と敵からの砲撃をヒラリヒラリと的確に捌けているのは、流石エリートといったところか。若しくは慣れているのだろうか、こういった扱いが。
『うぅ……、たしかにウザがらみが過ぎたかもしれないけどさぁ……。わたしだってほんとはすごいんだぞぉ……。「スペシャルナンバーズ」の「4」を任されてたりさぁ……』
「ヘースゴイデスネ。先に傷付く前に言っておくけどよぉ、俺達はアンタを保護はしても馴れ合うつもりはねぇからな」
「いい加減話を戻していいか?お姫様、『ヘッジホッグボマー』の方は大体わかったけど『ラバースキン』の方はどうだ?」
『主砲のゴムだんはきんぞくほうだんほどのおもさはないから、けっこうブレてめいちゅうに難があるみたい。ほんらいは近距離でうんようするものなのかも』 - 108キャラシート23/02/22(水) 20:39:02
アドバイザーに徹するしかない現状、敵の攻略に必要なピースを埋めていくためには、戦場で直接対峙しているエリートから「生きた情報」を得ていくしかない。
そんな中、最初に「違和感」を提唱したのは不良貴族だった。
「んー、なんかチグハグじゃね?ミサイル馬鹿はともかくとして、コンドーム野郎はあんなめんどくせぇ布陣なんか敷いてねぇで正面から突っ込んじまった方がセオリー通りなんだろ?」
「お前もそう思うかヘイヴィア。2機共ゴリ押ししたほうが手強そうなのに来る様子がない。ということはそうしたくない理由があるってことだ」
相手の言動、円の描くようなフォーメーション、広範囲に熱と爆風をばら撒くミサイル、近距離用の主砲なのに離れたポジショニングを保っているスタイル、そして両機がコンビネーションを営む上で生じてしまう粗。
些細な要素を抽出し推理していくことで、彼らは今まで勝利を繋いできた。
とりあえず今のところ出せる結論は、
「おそらく『ヘッジホッグボマー』はどこまでもサポート役だ。大量のミサイルの目的は威力が減衰している『ラバースキン』の主砲が、有効になるくらいまで相手の装甲を柔らかくすること」
「んで、味方同士で離れてグルグル回ってんのは攻撃に巻き込んじまった場合、ミサイルの熱にゴムが耐えられねぇから。タイマンじゃ厳しいからツープラトンで挑んで来たみてぇだけど、おかげでお互いに全力が出せねぇヘンテコなチームワークが出来上がったっつーわけだ」
歪みの正体が明かされたのならば、今度はこちらが攻めに転じる番だ。
『じゃあどうすればこのばんめんを崩せる?』
「それは……」
問題はその手段をどう用意するかではあるが。
幾らチグハグやヘンテコと評しても、相手の策は盤石には違いない。
このままではこちら側の武装を全て破壊されるか、いつか訪れる致命の一撃を待つしかないジリ貧に陥ってしまう。
『……できるよ』
頭を悩ませている馬鹿二人に、この場で最もイレギュラーかつ足手まといとなっていた存在から突然の通信が入る。
「「は?」」
『だーかーらー、このわたしがなんとかしてとっぱこうになってあげるって言ってんの!めっちゃ怖いけど!』
つい先程まで精神的ノックアウトを食らってダウンしていたはずのへっぽこエリート、ノエル=メリーウィドウである。 - 109キャラシート23/02/22(水) 20:41:04
────そして数分後。
『ナイジェル君、そろそろ直径をちぢめててもいいとおねえさんおもうんだけどお!いいかんじにおあいてもこんがりローストされてきたしい!』
『ああ、さすがの「英雄」サマも二対一どうぜんのハンデありじゃ僕たち2機をあいてにするのはむぼうだったか。フェン、まだミサイルをきらさないでくれよ!』
じわじわと勝利に近付きつつある『資本企業』の操縦士エリート達は、更に確実なものとするためにフォーメーションを次のフェーズへ移行しようとしていた。
(しょうじき拍子抜けもいいところだったな。まぁしごとがらくに越したことはないし、ほかのハイエナどもにかまっているヒマもないからべつにいいんだけど。…………ん?)
ぼんやりと考え事をする余裕さえ見せるナイジェル=スリングショットだったが、突如レーダーに映る光点の動きの変化に顔を顰める。
今までの対象の臆病な傾向から考えて、ありえないと頭の隅に追いやっていたはずの行動。
しかし機械は噓をつくことはなく、カメラにも現実としてその暴挙を映し出している。
『どういうことだ……』
『?』
それは即ち、
『どうして「目標」がたんきでこちらにとつげきしてくるんだ!?』 - 110キャラシート23/02/22(水) 20:43:09
一旦ここまで
どんどん最初に想定していた展開から外れていっているような気がする……
そうするということは「こっちの方が面白い」と思ったからなんだろうけどさぁ
常にオリチヤーの綱渡り - 111二次元好きの匿名さん23/02/24(金) 14:39:19
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- 112キャラシート23/02/24(金) 14:39:51
嗚呼、2月はどうして短いの?
今月中に2章を終わらせたかったのにどんどん文字数と書くべき場面が間延びしていくー - 113キャラシート23/02/25(土) 11:03:18
9
臆病なはずのエリートの少女が立案した作戦とは、至極単純なものだった。
『まずぜんていとして、「資本企業」のれんちゅうはわたしをとっつかまえたいんでしょ?しかもなるべく生かしたままで』
「そりゃそうだ。だから火力が控えめで相手のオブジェクトを『完膚無きまでに爆散させる』ではなく、『適度に壊して降伏を促す』ような機体が差し向けられたんだろうけど……。ノエル、まさかと思うがアンタ……」
『あぁっ、まって!じぶんのくちからじゃないと「決意」がにぶっちゃいそうだから言わないで!』
ノエルはおそらく「正解」を察してしまったであろうクウェンサーの言葉を遮ると、自身に言い聞かせるように震えながらもはっきりした声で高らかに宣言した。
『わ、わたしがちょくせつ「ラバースキン」につっこんで隙をつくりましゅっ!』 - 114キャラシート23/02/25(土) 11:06:12
10
『どりゃあああああぁぁぁぁぁっ!!カチコミじゃあああぁぁぁぁい!!』
白亜の砂漠にノエル=メリーウィドウの雄叫びが響き渡る。
尾を引く砂煙を背に最速最短・猪突猛進で『ラバースキン』へと向かっていく。
『やぶれかぶれのとっこうですかあ!?いまさらどうしてえっ!?』
『そんなことぼくが知るもんか!きょうふにたえられず、ヒステリーでもおこしたのか!?と、とりあえず無力化だ!わざわざちかづいてきたのなら、そのぶんかっこうのまとになるはずなんだ!』
とにかく狼狽えている場合ではない。この無謀な暴走としか言いようがない突貫を止める方が先だ。
なんとか『サイトシーカー』の正面に直撃させないように『ラバースキン』からは幾つもの砲撃が放たれるが、その尽くが先を読まれているかのように、紙一重で躱されてしまい当たらない。
虚空だけを貫く砲弾を尻目に、どんどんと間合いを詰められていく。
『(このっ……、どうして……!ダメだ、おいつかれる!このままじゃ、めいちゅうさせてもしょうげきで死なせてしまう!)』
『フハハハハ!このきょりならごじまんの主砲は撃てまい!ちょくげきしたらたいせつな「目標」こと世界の美少女ノエルちゃんがR-18Gなミンチになっちゃうもんねぇ!』
お互いの砲と砲が触れ合いそうなほどの肉薄を許してしまった『サイトシーカー』を引き剥がすべく、複雑な軌道で愛機を操縦するナイジェルだったが、まるで影か社交ダンスのパートナーのようにピタリと密着して離れない。
そこへ更に揺さぶりをかけるべく、ノエルは追い打ちを仕掛けていく。
『ほれほれー、主砲撃っちゃおかなーっと!ふぁいあー!』
『!?』
芝居がかった台詞と共に砲門が明確にこちらへ向けられ、ゼロ距離砲撃を警戒して反射的に大きく後ろへ下がる。
しかし、数秒経っても『サイトシーカー』の主砲が発射される気配はない。 - 115キャラシート23/02/25(土) 11:11:13
『ただのブラフじゃないか!ナメやがって!』
『チッチッチ、ざんねん。「ほんめい」はわたしじゃない』
「なんだと?」と聞き返す暇もなかった。
何故ならその前に、思わぬ方向から伸びてきた一条の光線が、『ラバースキン』の球状本体の側面を多数の武装を巻き込みながらごっそりと抉り取ったからだった。
大きく揺れるコックピット内でナイジェルは、鳴り止まない警報アラームに包まれながらも不意を突いてきた下手人を睨みつける。
『わたしをわすれてもらってはこまるんだけど』
『ぐっ……、「正統……王国」……!』
明らかに戦闘開始当初の警戒度では、『正統王国』機の方が圧倒的に上回っていた。『目標』である『情報同盟』機は殆ど眼中になどなかったはずだった。
しかし、『目標』の自分が重要人物である点を逆手に取った命懸けの奇策で、注目を奪われて手痛い一撃を食らわされた。
そして仕上げとばかりに大破寸前の『ラバースキン』の眼前へ、『サイトシーカー』がこれみよがしにと躍り出る。
『これでとどめじゃああああっ!!』
『ナイジェル君!』
『く……るな……、これもブラ……フだ……』
警告虚しく、ピンチに陥った僚機を救援しようとして、クラスターミサイルを発射せんとするフェンに制止を促すには、些か彼の声量は足りなかった。
『ええ!?なにい!?きこえないっ!?』
『(ここで難聴……!)』
走馬灯のように体感時間がゆっくりとなったナイジェル=スリングショットの視界の端では、既に爆発圏内からの離脱を果たした『サイトシーカー』の姿が目に焼き付いていた。
『クソっ……!!』
飛翔する爆発物の群れが『ラバースキン』の周囲一帯で炸裂する。もはや逃れる術はどこにもない。
何度目かわからない爆轟と閃光ががホワイトサンズを走り抜ける。
しかし今までとは一味異なり、此度はゴムの焼ける匂いを伴っていた。 - 116キャラシート23/02/25(土) 11:12:33
一旦ここまで
夜にもう一節出せるかも - 117キャラシート23/02/25(土) 11:26:08
エリート同士で会話させると読みにくすぎる誰が話しているのか分かりにくすぎる問題
- 118キャラシート23/02/25(土) 23:15:29
11
そんな次々と繰り広げられるカオスな展開を、ドラゴンスレイヤーコンビは相変わらず横転した軍用車両付近から、大して動きもせずに遠目から眺めていた。
消しゴムのような味のないレーションとよく冷えた水筒の水をポップコーンとコーラの代わりに、観戦気分のヘイヴィアは呑気に呟いた。
「おーおー完全にこっちのペースだなありゃ。すっげぇ。前回に引き続き、俺様普通にレーダー分析官っぽいことしてやがる。もうやることねぇから。ソシャゲの周回してて構わねぇか?」
「軍の端末からログインしたら一発でフローレイティアさんにバレるよ。しかもそれってオブジェクトを美少女に擬人化っていうコンセプトの『島国』製だろ?各勢力から『うちの軍事機密の結晶を愚弄し、あまつさえ拡散するなんて許さーん』とのことで訴えられて、もうすぐサービス終了って聞いたけど」
一方のクウェンサーも日陰でだらしなく裸足の脚を伸ばしてリラクゼーション全開。
普段の泥臭い戦いから開放されている反動から、二人揃って堕落の道へ一直線なのであった。 - 119キャラシート23/02/25(土) 23:17:18
「それにしてもノエル、回避だけは上手いと思ってはいたけどまさかこれ程までとはな。砂と機体のカラーリングが同じなおかげで、距離感が錯覚されやすかったせいもあるんだろうけど」
「あー、ウユニ塩湖で撮ったトリック写真とかのあれか。つーかどうして最初からこうしなかったんだ?舐めプってやつ?」
『ちーがーいーまーすー!いつもいっぱいいっぱいのギリギリでいきてるっての!これは「解析」がだいたいおわったからできている芸当ですぅ!かってにかいかぶるんじゃねぇ!』
「「『解析』?」」
『ほら、わたしの「ウェブ004」……「サイトシーカー」ってじょうほうぶんせきようの機体じゃん。いつもあいてのエリートをかんさつしているから、10ぷんもみていれば個人のくせやこうどうパターンが読めちゃうんだよね。しゅうちゅうするからめっちゃ頭がつかれるんだけどネ!』
さらりと説明されたが、割りと洒落にならない能力である。
言っていることが事実ならば、彼女の前では「解析」されてしまったエリートは攻撃を当てることは叶わず、一方的に蹂躙されてしまうことを意味する。
しかし馬鹿二人が抱いた感想といえば、
「そんなチート能力持ってんのになんであの程度の実力?」
「やべーことやってるのはわかるが、あんま強そうに見えねぇなぁ」
『いがいとしんらつゥ!……まぁお察しのとおり、はんしゃそくどや情報処理能力がおいつけなければ宝のもちぐされなんです、はい……。おまけにノエルちゃん、まとあてがてんでダメだからへいわしゅぎの「避け専」なんだよね。たぶんそっちのお姫様、ミリンダちゃん……だっけ?とガチンコでやりあった100パーでまけるとおもう。マァツヨクナクテモ「ウェブ004」ノシンカハベツナンダケド……ヘッ……ヘヘ……』 - 120キャラシート23/02/25(土) 23:20:24
長台詞の途中から悲しくなったのか、自虐モードで尻すぼみに声が小さくなっていくノエルをクウェンサーは無視した。
そんなことよりも気になる点が浮かんだからだ。
「へい、どうしたんだよギーク。急に考え込んで?てめぇがそうするってことは良くねぇことが起きる前兆だから勘弁してほしいぜまったく」
「なぁ、ノエル」
『んあ?』
「その『解析』したエリートのデータって全部アンタの頭の中にあるのか?」
『ちがうヨー。ぶんせきしたけっかは「パラメーターリスト」ってやつにあてはめて、デジタル化してほぞんされてまーす。あれ?これいってよかったんだっけ?まぁいいや、ほとんど亡命中だし!』
「やはり」という納得と「これ以上聞くのはまずい」という心のブレーキが頭の中で、坂を転がる雪玉のように膨らんでいく。
それを言葉でまとめて表現するならば「嫌な予感」と呼ばれるものだろう。
しかし、質問することを止められない。
「へ、へーそりゃすごい。それともう少し聞いてもいいか?」
『なーにー?』
「アンタは全勢力から追われてる立場なんだよな?」
『うん』
「原因ってもしかしてそのデータ関連だったりする?」
直後、通信機越しにガタリという驚いて飛び上がったような音と、ゴヅッというどこかに身体を強打したような音が『サイトシーカー』のコックピット内部から響いてきた。 - 121キャラシート23/02/25(土) 23:23:15
『いったぁ……、おもいっきりひじぶつけたぁ……!し、シラナーイ……!ノエルシラナーイ!おえらいさんさんたちのじょうほうなんて売ってナーイ!ひゅーひゅー♪』
少し暑苦しいくらいの砂漠の空気が、一瞬で凍りつく。
少女が真実を語っているかどうかは、彼女の白々しすぎる態度が雄弁に語っているだろう。
「「…………………………おい、ちょっと待て」」
『アレ?ナンカワタシマズイコトイッチャイマシタ?』
体温が上がっていくのをクウェンサーとヘイヴィアは明確に感じ取った。凍てついた空気が元の体感気温に戻ったからではない。
怒りによって熱せられた血液が、爪先から脳天に向かって導火線のように立ち昇っているからからだろう。
そして起爆すればどうなるかは明白だ。
「じゃあ何だ?『宝箱』の中身は各勢力の上層部の重要情報だったってことか!?」
「てめぇがこの騒動の元凶かよ!?どの面下げて『助けて』なんてほざけた!ふざけんじゃねぇクソ女っ!面の皮何mだコラァ!」
「そのデータとやらって、もちろん俺達『正統王国』の物も含まれているんだろ!?『知りすぎた罪』容疑でこっちまで危ないじゃん!」
「もしかしてウィンチェル家のデータも有るってのか!?今更だが『情報同盟』共のコンプライアンスはどうなってやがる!プライバシー侵害もいいとこじゃねぇか!」
『いや、えっ、あのぉ……。しつもんはひとつずつ……ゆっくり……』
学生と貴族に早口で捲し立てられて、すっかりオドオドモードで怯えるノエルを状況は待ってはくれなかった。
『いいや。すこしばかりききずてならないな』
『やっぱり、ジンのよみどおりってわけね』
質疑応答の参加者が更に増えたからである。 - 122キャラシート23/02/25(土) 23:26:27
『え?ちょっ、なんで「資本企業」にまで回線がひらかれてんの!?あっ……、さっきぶつけたときにまちがえて押しちゃったのか……。って、わたしのアホ!』
『だまれっ!きかれたこといがいはしゃべるな!』
語気を荒げる『資本企業』所属のエリートの少年の操る『ラバースキン』は既に大破しているに等しい。
機体全体を覆うゴム装甲の大部分は溶け落ち、武装の大半は失われている。
そんな状態にありながら、誰も止めを差したり、撤退を促したりはしない。
戦闘を中断し、ノエル=メリーウィドウに全員の目と耳が釘付けとなっていた。
『僕たちはそのオブジェクトには操縦士エリートとじゅうようじんぶつらに加えて、われわれのきんゆう関係をふくめたあらゆる機密プロジェクトがおさめられているときいた!……げほっ……!どうなんだ!?』
『ナイジェル君、きずはあさくないんだからあまりおおごえをださないで。それでノエルさんとやら、ほんとうなの?』
普段の喧しさから一転して、『ヘッジホッグボマー』のエリートの声は冬の湖のように冷たく静かな声だった。おそらくこれが彼女の怒り方なのだろう。
「なぁ」
「おい」
『にげるな』
『ねぇ』
『『「「なんとか言ってみろ!」」』』
お姫様を除く全員から詰め寄られる圧力に、ノエル=メリーウィドウの精神は遂に限界に達した。
その結果、糾弾するメンバー達へ更に大きな情報爆弾を落とすことも知らずに。
『そ、そもそもいまの『ウェブ004」から情報はほとんどどぶっこぬかれてて価値なんかないんだってばぁ!』 - 123キャラシート23/02/25(土) 23:27:24
一旦ここまで
なんとか間に合ったぁ
こういうシーンは書いていて胃がものすごく痛くなる - 124編集初心者マン◆bvw/mWLSaA23/02/25(土) 23:30:31
- 125キャラシート23/02/27(月) 20:34:45
カテの最下層にいると不安になるのじゃー 保守
- 126キャラシート23/02/28(火) 21:54:00
12
突如投下されたあまりにもあんまりな問題発言は、それまでの怒声飛び交う喧騒を跡形もなく吹き飛ばし、全く真逆の痛いくらいの静寂へと一変させた。
『『「「………………………………は?」」』』
憤怒の炎に包まれていたはずだった弾劾の中心に居た4名は呆けた返事をしたきりで、その「次」へは続かない。
皆一様に絶句してしまい、次のアクションすら取れなくなってしまっているのだ。
開いた口が塞がらないとは、まさにこのシチュエーションのために使われる慣用句だろう。
そんなどうしようもない空気を最初に打ち破ったのは、現場を最も冷静に俯瞰していたお姫様だった。
『ノエル、どこまでが「ほんとうのこと」?』
しかし放たれた口調はどこまでも平坦で、磨き抜かれた刀身のように鋭い。
『ベイビーマグナム』の主砲も、いつの間にか『資本企業』の2機だけでなく、『サイトシーカー』にも向けられていた。
当たり前だ。命懸けで守ろうとしていた存在はもしかしたら全ての元凶で、自分達は下らない茶番に付き合わされているだけなのかもしれないのだから。「回答」の内容によっては状況がまるごとひっくり返る。
この『情報同盟』の少女はもはや同盟相手かどうかすら怪しい。限りなく黒に近いグレーだ。
『ひっ……!ぜ、ぜんぶ、ぜんぶほんとうだってばっ!いろいろとじゅうような情報をかかえこんでいたのも!いまはだれかにそれらぜんぶをぬきとられて中身がからっぽなのも!うそじゃない!しんじてよぉっ!あ……、ください……!』 - 127キャラシート23/02/28(火) 21:56:29
いっそ痛々しさを感じるほど必死に、自身の潔白を訴えるノエルだが、当然周囲からの反応は冷ややかな沈黙だった。
これまでの経緯から声は泣いていても、どうせコックピット内の実際の表情はほくそ笑んでいるに違いないと疑われても無理はない。
お姫様は面倒くさそうにこめかみに指を押し付け、司令室へと通信を繋げる。
「疑わしきは始末する」が一番手っ取り早いと理解はしている。しかし、最終的にノエル=メリーウィドウをどうするかを決断する権限を持つのは彼女ではない。
『だって。フローレイティア、ぜんぶきいているんでしょう。撃つ?』
『うーむ、正直今すぐにでも衝動に任せて「全てを焼き払え」と命じたいところだが、生憎私は理性を優先できる文明人だ』
『つまり?』
『結論としてはまったく忌々しいが、そこのバカエリートの保護は継続。少なくともこの戦闘の間は生きていてもらわないと困る。先程の供述が真実なら、他の勢力にババ抜きのジョーカーみたいに押し付けるわけにはいかない』
『いまこのばで処分してぜんぶなかったことにするのは?』
『ゔぇっ!処分!?』
自分を取り巻く不穏な雰囲気と、飛び出した物騒なワードに素っ頓狂な声を挙げる推定有罪にいちいち反応を返す者はいない。
もうこの全自動失言散布機を無駄に喋らせても、誰一人得しないと全員が短時間で学んだようだ。
『大変魅力的な提案だがそれもナシ。そうするには騒ぎがデカくなりすぎた。もう誰かが「お宝」の「第一発見者」としてそれっぽく名乗り出ないと、この戦争は年単位の泥沼化は必至。だから「合っているかもしれない事態収集の鍵」をそう簡単に壊すわけにはいかないの。我々第37機動整備大隊が囲い込んで、これ以上の混乱の元を断つしかないわね。最悪なことに』 - 128キャラシート23/02/28(火) 21:59:41
フローレイティアの声は目を瞑って額に手を当てているのを鮮明に幻視出来そうなほどの陰鬱さが込もっていた。
今頃ベースゾーンの諜報部門と電子シュミレート部門は対応に追われ、てんやわんやであることが容易に想像できる。もちろん、それらを束ねる立場である彼女も含めて。
彼らの負担を少しでも減らすには、事態を一刻も早く収集するしかない。
『わかった。というわけでノエル』
『はいぃっ!』
『この場はまもってあげる。あんぜんがかくほされたらおとなしく投降するように。それからわたしのめいれいには絶対服従。やぶったら、わかるよね?……へんじは?』
『は、はいっ!ぜんぶしっていることは洗いざらいはなしマスっ!ほごしていただきたいへん光栄であひましゅっ!ふちゅちゅかものですがよろしくおねがいしますっ!!』
改めて不本意ながら、再び奇妙な共闘関係が無事に(?)結ばれた。しかし忘れてはならない存在がまだ残っている。
口を挟めなかったおかげで、ポツンと話題から取り残された『ヘッジホッグボマー』と『ラバースキン』、『資本企業』のオブジェクト達だ。
『そういうわけなんだけど、つづける?』
『あたりまえだろう!ここまできてひき下がれるかっ!こちらも真偽をたしかめるまではっ……、づぐっ……!』
戦意を喪失しようとせず、作戦を遂行する意思を示すナイジェル=スリングショットだが、『ベイビーマグナム』の主砲が直撃した時点で、機体と肉体へのダメージは限界を迎えているのは明らかだった。
そんな危険な状態で頭に血が昇りつつある彼を諫めるべく、フェイ=ファングの取った行動は、
『作戦本部へつうたつ、こちら「ヤナギカゲ重工」しょぞく、「ヘッジホッグボマー」の操縦士エリート、フェイ=ファング。「クララ」大破につき、これいじょうのせんとうぞっこうはふかのうとはんだん。これより本機はてったいをしえんする』
『ラバースキン』へのタオル投入。戦闘行動に対する棄権の進言だった。 - 129キャラシート23/02/28(火) 22:01:19
『なっ!?』
似合わない冷静な口調で淡々と作戦本部とのやり取りを進めていくフェンに困惑するナイジェルだったが、その僅かな間に全ての手続きが滞りなく終わってしまう。当事者である本人を置き去りにして。
『これでよし!』
『フェン!かってになにをっ!』
『ナイジェル君、ここはひいて』
『でも……ッ!』
『じぶんでもわかっているんでしょ?どうせそのキズじゃなにもできない。だからはっきり言ってあげる。あしでまといだから消えて』
『………!』
突き放すような言葉を受けて、漸く彼は喧しくも賢しい相方の真意を理解した。
これより彼女は不利な戦いに挑む。勝率ははっきり言ってかなり低い。
それでも自分を逃がすためここに残る。
契約上の短い付き合いだったのに。とっとと見捨てて盾や囮として使い潰すなりだってできたのに。
無断の撤退進言や一見厳しい態度は、少しでも「一人で情けなく帰る罪悪感」を軽減させるための彼女なりの不器用な気遣いか。
『……すまない。損なやくまわりをになわせて。おかげであたまがひえた』
『いいってことよお!しんがりはおねえさんにまかせなさああい!』
『「クララ」、これよりてったいに移行する。……フェン、なるべくむちゃはするなよ』
『あたぼうよおっ!それじゃあ、またあとでっ!!』
『またあとで!』 - 130キャラシート23/02/28(火) 22:04:17
別れではない短い再会の約束を交わすと、『ラバースキン』は敵に堂々と背を向け、出せる全速力を持って逃げていく。
相方が必ず役割を遂行し、生還してくれると信じて。
『ベイビーマグナム』は当然主砲を向けるが、ロックオンを終える前に、射線上にスモークミサイルが着弾して阻まれた。
拡がる煙幕の前には『ヘッジホッグボマー』が立ち塞がり、「ここは通さない」と力強く主張している。
『「ラバースキン」逃走。フローレイティア、ついげきは?』
『追わなくて結構。スナイパーが中途半端にターゲットを死なない程度に負傷させるのと一緒よ。なんせ生きてさえいれば治す手間や人員が割かれて、その分向こうの財布が圧迫されるんだから。それに今の「ヘッジホッグボマー」を振り切って止めを差すのは中々に骨が折れそうだ』
『りょうかい。おなじ意見でよかった』
数の優位は得た。
しかしここからの『ヘッジホッグボマー』は背水の陣から生じる揺るぎない闘争心と、僚機を気にしなくてもいい無差別爆撃が解禁されたまさに真のフルスペックで襲いかかってくるだろう。 激戦は避けられない。
『な、なんかあのミサイルオブジェクト、さっきよりもつよくなったようにみえるんだけど……』
『あなたにもそうみえるんだ。だったら気をぬかないで。もうすこしで決着がつくまえに死んじゃうのはいやでしょ?』 - 131キャラシート23/02/28(火) 22:06:22
一旦ここまで
グッバイ2月 2章はあと推定3節くらい?あ、幕間もあったわ
5月中には完結できるといいなぁ…… - 132キャラシート23/02/28(火) 22:19:11
どっちが主人公かこれもうわかんねぇなぁ
- 133二次元好きの匿名さん23/03/02(木) 17:47:46
戯れに一章のwikiを修正してみたら、出るわ出るわ誤字脱字・変な言い回し 推定100箇所
最初に載せた時には全然わからなかったから成長した証なの、か?
また一ヶ月後にも同じこと言ってそうだな…… - 134キャラシート23/03/03(金) 19:26:00
13
ラストバトルの火蓋が切って落とされた。
追い詰められている戦局を物ともせずに、力を漲らせるフェイ=ファングの取った戦法は至極単純、それ故に隙がなかった。
「最大火力を間断なくぶっ放し続ける」。
味方へのフレンドリーファイアを考慮する必要がないおかげで、先程にも増して勢いを強める夥しいミサイルの嵐が吹き荒ぶ。
叩きつけられる暴風は『ベイビーマグナム』と『サイトシーカー』の2機がかりの光速のレーザー網や、ノエルの「見切り」すらも僅かながらにすり抜けていく。
『はわわわっ!あんなにバカスカ撃たれたら、ばくふうで実砲弾はそらされるし、レーザーはあっためられたくうきのせいでまがるからこっちからの砲撃があたらないんですけどお!』
「ノエル、あっちのエリートのくちょうがうつってる」
『む、むこうの弾切れをまつっていうのはどうかなっ!?』
「いつおとずれるかもわからないのに?『そのとき』になっても全身がボロボロじゃ、こっちにも決定打がないでしょ」
『クゥーン……』
漫才じみたやり取りが再結成された無敵コンビ(笑)間で交わされるが、本領を発揮した『ヘッジホッグボマー』は実際に手強い。
攻めるにしても守るにしても、膠着状態に陥ることが予想されるだろう。 - 135キャラシート23/03/03(金) 19:29:01
(やっぱりひだんかくごで接近戦にもちこむしかないか)
幸い飛来するミサイルの威力は、その辺の戦車までなら有効かもしれないが、オブジェクトのオニオン装甲の前では頼りない。
多少のダメージを負っても、それが軽微のうちに速攻を仕掛けてしまった方が吉。
そうお姫様が思った矢先だった。
お隣の『サイトシーカー』の装甲と主砲の一部が「ミサイルによって」吹き飛ばされた。
『ぎゃあああっ!!わたしのカワイイカワイイ「ウェブ004」のお主砲ちゃんがもげたぁっ!でもナンデ!?かりょくはたいしたことないんじゃなかったの!?』
「…………!」
急ブレーキをかけて発生した高Gのせいで、シートベルトが身体をミシミシと締め上げる。
しかしそんな肉体的に働きかけるものよりも、新たに発覚した脅威の方がお姫様の脳を強く圧迫した。
「敵はオニオン装甲を貫く手段を持っている」。
損傷することを度外視して無理矢理肉薄し、爆風と熱の影響など関係のない距離から撃ち抜くというプランに、突如として多大なリスクが絡みつく。
「クウェンサー!」
わからないことが起きて困ったら、頼れる仲間に頼るのが最善。戦場ではプライドを優先した者から死んでいくと相場は決まっている。 - 136キャラシート23/03/03(金) 19:31:42
『あいよーっと、知恵袋がご所望かい?』
「ふざけるのはあとにして。いまのは?」
『あ、はい』
いつもの軽口で殺伐とした空気を解そうとしたのに、冷たくあしらわれたもやし野郎は暇を持て余したユーモラスガイから、マジメな解説役へのスピードシフトを余儀なくされる。
今日のお姫様はなんだか少し怖い。
『えーと、あれはおそらくLOSATだと思う。まさかあんな骨董品引っ張り出してくるなんてな』
「ろーさっと?」
『炸薬を抜いて、運動エネルギーだけで装甲をぶち破る脳筋甚だしい徹甲ミサイルだよ。イメージとしては速度を犠牲にして、誘導性を獲得した圧縮金属砲弾に近い』
オブジェクトサイズにまで膨らませた運動エネルギーと質量の塊。そんな代物が球状本体に直撃してしまえば、主砲を喪失する程度では済まないと見て間違い無い。実際に被害も出ている。
『攻防一体の爆風と熱のバリアを展開して、紛れ込ませた対オブジェクトLOSATでオニオン装甲をぶち抜くってわけか。まずいな、俺達って今不利?』
「そうかもしれないからこうやって相談してるんでしょ。どうする?あと1ぷんいないになにもおもいつかなかったら、当初のよていどおりにひだんかくごの突撃でいくけど。ノエルが先鋒で」
『え"っ!?ナニソレキイテナインデスケドッ!?』
思わぬ会話の流れ弾を受けて、実家のような安心感すら覚えるリアクションを取るかわいそうノエルちゃんだったが、よく考えると推定元凶なので、あんまりかわいそうじゃないのかもしれない。 - 137キャラシート23/03/03(金) 19:35:58
『それは本当に最後の手段にしよう。うーん、一応策は有るには有るんだよ。もう少し安全なやつが』
『マジで!?ならはやく言ってよモー!「安全」ってワードノエルちゃんいちばんすき!そういうのもっとちょうだいほら!』
甘美な響きと意味を放つ言葉に食いついて、元『情報同盟』の少女のテンションは即座に浮き立った。情緒が何とも忙しい。
おそらくコックピットの中で目を輝かせているに違いない。
しかし、現実はそんなに甘くはない。
『その代わりアンタにはもう一度体を張ってもらうことになる。頼めるか?』
『え、やですけど』
「絶対服従」
『ハイ!ヤラセテイタダキマスッ!ダカラホウヲムケナイデクダサイ……』
捕虜に人権は有っても、仲間からの頼みを素のテンションで拒否ろうとする薄情者には、そんなものをくれてやる慈悲は無い。魔法の四字熟語を唱えて首を縦に振ることしかできない水飲み鳥になってもらうとしよう。
『……話が早くて助かる。なぁノエル、アンタはこの戦闘中ずっと「ベイビーマグナム」の操縦を近くで見てきたはずだ。例の癖や行動パターンってやつは既に「解析済み」なのか?』
『あったりまえじゃん。5ふんもあれば楽勝だったよあんなもん(笑)』
「は、『あんなもん』?それってわたしの操縦がたんじゅんだったって言ってるの?」
『お姫様!ムカつくのはわかるけど抑えて!それとノエルは言い方ァ!お前それでも人格プロファイリングの専門家かァ!』
今は向けるべきではない相手に火花をバチバチにぶつけるお姫様を諫めるべく、クウェンサーは声を張り上げる。
どうやらこのノエル=メリーウィドウという少女には、空気を読むという機能がすっぽり抜け落ちているようだ。それも本人の悪気は一切なく他人の神経を逆撫でするのだから始末に負えない。
だからさっさと彼女達のヒビだらけの絆に、決定的な亀裂が生じてしまうその前に、「共通の敵」を倒すための最後の策を言い渡してしまうに限る。
『こほん、とりあえずできてはいるんだな?それならなんとかなりそうだ。いいか、まずは最初に……』 - 138キャラシート23/03/03(金) 19:38:05
一旦ここまで
場面ぶつ切りでしか戦闘シーンを書けない奴www ……私です
次こそ戦闘パート多分終わり!
最初は2万字ちょっとのはずだったのに3万字余裕で超えそう 創作コワイ…… - 139キャラシート23/03/04(土) 23:11:45
ぐああああっ!はずかしいいいいい!
フェイ=ファングじゃねぇ!
フェン=ファングじゃねぇかド阿呆!
ずっと間違えてたああああああぁぁぁっ!!
もうちょっとで終わる前に何やってんだてめえええっ! - 140編集初心者マン◆bvw/mWLSaA23/03/04(土) 23:48:44
自分も当初フェンかフェイかどっちが合ってるんだっけとか思いながら書いてたからセーフセーフ
- 141キャラシート23/03/06(月) 19:57:30
ちょっと煮詰まり中
同じとこばっか修正してんな…… - 142キャラシート23/03/08(水) 21:52:57
14
2機を相手取りながら孤軍奮闘するフェン=ファングは、形勢の天秤が自分の方へ傾いていく足音をひしひしと感じつつあった。
オブジェクト同士の戦闘において、決め手となる主砲からの砲撃を当てられる手段を持つのはこちらだけ。残弾数にだってまだ余裕がある。
格闘ゲームのハメ技のように決まったコマンドを入力し続けるだけで、敵のダメージは確実に蓄積していく。やがて限界を迎えて倒れ伏すまでは時間の問題だろう。
砲を全て失うか、対オブジェクトLOSATによる致命の一撃に斃れるか。
どちらにせよ向こうが待ち受ける未来は敗北のみ。
(まぁ、あんまりやりすぎて『目標』を爆散させるのはさけたいんだけど)
戦闘に集中しつつ、『ヤナギカゲ重工』の女は自社の現状に思いを馳せる。
「終わった企業」と勝手にレッテルを貼りつけたマスコミ。
それを真に受けて、新たな搾取の対象に見定めて目を光らせる下卑た有象無象。
金が全ての『資本企業』なのに、苦境に立たされても殆ど出ていこうとしなかった馬鹿で律儀な同僚達。
そして自分達を心配させまいと、強がって「笑っているふり」をするもっと大馬鹿の……。
(まってて。もうすこし、もうすこしでとどくから。この『宝探し』の勝者となって、もういちどあたしたちはかえりざく!) - 143キャラシート23/03/08(水) 21:55:58
改めて勝利の誓いを結び直すと同時に事態は動き出す。
纏まった陣形を組んでいた『ベイビーマグナム』と『サイトシーカー』が、何も無い、正確には手前に広がっていた砂原に金属砲弾を撃ち込んだ。
舞い上げられた小麦粉のような砂塵が2機をすっぽりと覆い尽くす。
しかし、そんな幾度となく使い古された手垢まみれの目眩ましなど、フェンにとっては往生際の悪い延命措置にしか映らない。
「いまさらえんまくなんて見苦しいっ!そんなものでこの『ヘッジホッグボマー』の砲撃からのがれられるとでもお!」
視界が塞がれるのは双方にとって同じ。
そしてブラインド状態での撃ち合いならば、大雑把に広範囲を殲滅するのに長けた愛機に軍配が上がる。
先程までとやることは変わらない。
爆発物の流星群をただ殺到させていくだけ。
事実、十秒と経たずにオレンジと黒の爆炎が即席の白いカーテンを塗り潰していく。
(このていどじゃ死んでいないんでしょう?カメラや熱源センサーはきかないけどわかるよ。死んだふりしているのは、のこされた『最後の手札』を切るため!)
そう推測した直後、白亜の巨影によって分厚い黒煙が内部から突き破られた。
『チェストおおおオオォォォォァァァっ!!めにものみせたらああああぁぁぁ!!』
奇声を上げながら飛び出したのは『サイトシーカー』。
どうやら『クララ』が健在だった時のように、再び最短最速で突撃を敢行するつもりのようだ。
(やっぱりきた!こんどこそほんとうのやぶれかぶれの特攻!)
ここまでは完璧に予測済み。しかし、フェンには一つだけ気になる点が存在した。 - 144キャラシート23/03/08(水) 21:59:10
(単騎?『正当王国』はさっきの斉射でしとめてしまった?)
生きているなら二手に分かれて突撃してくるなり、動けないにしても後方からの支援砲撃で援護するなりできたはず。
そのどちらもないということは、英雄サマはラッキーパンチの前に沈んでしまったと考えるのが自然だろう。
いずれにせよ厄介な方は排除できた。ならば既に決着は付いたも同然。
ノエル=メリーウィドウは多少回避が上手いようだが、所詮はそれだけのエリート。ゴリ押し戦術でどうとでも料理できる。
(またじぶんには価値があるから、まえみたいにきずつけられないとおもった?あまい。これだけきょりが開いているなら、タッチダウンをきめるまえに無力化するなんてたやすい!)
じっくりと狙われている自覚があるのか、『サイトシーカー』は右に左にと蛇行を繰り返す。だが、無駄な足掻きだ。
今まで『ベイビーマグナム』に割いていた分を加えて、単純換算で2倍となった砲門から逃れる術はない。
(さぁ、これでチェックメイト。さっさとそこからひきずりだして、おはなしをたっぷりと聞かせてもらうとしましょう!)
オブジェクトが駆動するのに必要な全ての部位に照準を合わせながら、フェン=ファングはほくそ笑む。
あとはトリガーを引くだけ。たったそれだけで英雄を打破した栄誉と『宝探し』の『鍵』を手土産に凱旋することができる。
そのはずだったのに、
突然『サイトシーカー』が2つに増えた。
否、その背後からもう一機のオブジェクトが姿を現した。 - 145キャラシート23/03/08(水) 22:05:18
「は?」
虚を突かれたことで生まれる刹那。
最早ミサイルポッドと照準の矛先を修正することは叶わない。
そしてその僅かな隙さえあれば、「彼女達」が敵を撃ち抜くのに十分だった。
決着は一瞬。
下位安定式プラズマ砲と大型レールキャノンが、『ヘッジホッグボマー』の左側面と機体下部のエアクッションをそれぞれ大きく吹き飛ばした。
結果として残されたのは中心スレスレを撃ち抜かれて、正面から見ると中途半端に欠けた月のようになった球状本体と、方向転換すら覚束無い足回り。
この状態から逆転する方法を導き出すことは不可能。完璧な詰み。
フェン=ファングの敗北は決した。
できることといえばオープン回線を繋げて、勝者を讃えるぐらいか。
「いやー、こりゃいっぽんとられた。まさか生きていたとはね。『目標』がほかのエリートのうごきをトレースできるのを、あたしは一度みていたはずだったのに。でも、うしろをみずに違和感をあたえない精度でじっせんするなんてちょっと反則じゃない?」
『多少のあいずやかけごえはひつようだったけど。しょうじきここまでとはわたしもおもってなかった』
「アクセントはしろいちけいと機体のカラーリングの同期よる距離感のさっかくってところかな?」
『そんなところ。気はすんだ?ならこたえあわせはおしまい。とうこうして生きながらえるか、トドメをさされるか5秒いないにきめて』
絶対に反撃のできない左舷から、『正当王国』のエリートの少女は冷徹に告げる。
いや、選択の余地を与えてくれるのは彼女なりの慈悲か。
しかし、フェンはそれに報いることはできない。何故なら、
「うーん、どっちもダメっぽいかな。自爆シークエンスがさどうしちゃってる。たぶんもう止められない。かってに死ぬからはなれてたほうがいいよ。それいじょうダメージうけたくないでしょ?」
- 146キャラシート23/03/08(水) 22:07:04
第三の末路。
一定以上の損傷を負ったオブジェクトは敵軍による鹵獲防止と機密保持の為に、自爆するように予めプログラムされている。
大破した『ヘッジホッグボマー』のコックピット内では現在、モニターに表示された「DENGER」の羅列と警告のアラーム音で埋め尽くされていた。
今更躍起になってキャンセルのコードを送ろうが到底間に合わない。
脱出装置で外部に排出されたとしても、火器を大量に積んだ愛機の爆風から逃れられはしないだろう。
どうやら死に場所はここらしい。
『……………………。ノエル、クウェンサーたちのところまでいくよ』
『え?あ、はい。ほんとにいいの?』
『うん。ほら、モタモタしてるとじばくにまきこまれる』
『ひぇっ……、ちょっとまって!おいてかないでってばーっ!』
『サイトシーカー』を引き連れて、『ベイビーマグナム』は悠々とこちらに背を向けて去って行く。
こちらの意志を汲んでくれたのか、それとも自ら手を下す価値すら無いと判断されたのか。
そんなことに思考を割く意味は最早無い。
間もなく訪れる最後の時までのロスタイムを、フェンは一人きりの空間でただ享受する。 - 147キャラシート23/03/08(水) 22:10:52
(あーあ、けっきょくまけちゃったかー。けっこういいトコまでいったとおもったんだけどなぁ)
不思議と死への恐怖はあまり感じない。
操縦士エリートが為せる高速思考のおかげか、タイムリミットまでの体感時間は長く感じられた。
(研究中のあたらしいかやくは……、たぶんてきとうな子がひきついでくれるか。それとデイビスに200ドルかりたままだったっけ。でもこの前スシ食べ放題おごったからチャラでいいよね)
(パオラとは素手であくしゅしたかった。バーでボトルキープしてたテキーラはシンにのまれちゃうな。まだほとんど開けてないやつ)
(そういえばグレイシャーのひみつってなんだったんだろ?パルメーラがそだててたサナギはなにに羽化するんだっけ?)
(あ、そもそもナイジェル君とのやくそくもやぶっちゃってるじゃん。わるいことしたなぁ。これはほんとうにもうしわけない)
(ジン……。アンタのバカわらい、もう一度くらいききたかったかも)
満足しているつもりだった生涯をいざ振り返ってみれば、脳裏に浮かぶのは見知った顔達と彼らに関わる取るに足らない些事ばかり。
殆どが無駄な事柄なのかもしれない。しかし、無意味・無価値ではない。
それら全てが「フェン=ファングという人間」を形作り、彩るのに欠かせないパーツだった。
胸の内側に突っかかって腑に納まらない小さな棘の塊。
言い表すならば、心残りと罪悪感。
「あーあ」
「やっぱりあたし」
「もうちょっと生きていたかった」
そして未練が後悔へと移り変わる瞬間を待たずして、『ヘッジホッグボマー』はホワイトサンズの大地から永久に消失した。盛大な花火を伴って。 - 148キャラシート23/03/08(水) 22:12:40
一旦ここまで
戦闘パート終わり!
おっかしいなぁ フェンはカラッとした気質をイメージしてたのに筆を進めるうちにどんどん賢く、湿度が増していく - 149編集初心者マン◆bvw/mWLSaA23/03/08(水) 22:15:49
フェン死んじゃったか
思ったよりも自分の中でのダメージがデカい……
HO世界だからそりゃ命は紙切れ並だわな……忘れてたよ - 150二次元好きの匿名さん23/03/11(土) 09:27:12
ぐぬぬ、3日に一度くらい頻度で投稿を目指していたのに難しくなってきた おのれ、年度松
- 151キャラシート23/03/13(月) 11:01:12
前章でもそうだったんだけど、最後の節は情報を整理したり次章への布石を描写しないといけないから長くなりがち 6000字超えそうだからちょっと待ってて
- 152キャラシート23/03/13(月) 23:25:17
15
『ぬぅあにが「もう少し安全」じゃーっ!おとりやくなんて危険度MAXでしょーがこのスットコドッコォイ!!』
合流して第一声がこれだった。
なんかもう、勝利の余韻や労いとか色々と台無しである。
「勝てたんだから別にいいだろ。そうやって喚く元気があるなら結果オーライだ」
「『必要な犠牲』ってやつ?五体満足で済ませられたならよかったじゃねぇか」
『からだはだいじょうぶでもセンシティブなノエルちゃんハートは重傷なのっ!ぜんち36じかんコースとしんだんしまーす!』
「「長いのか短いのかわかんねーよ」」
愛機である『サイトシーカー』の砲を腕のように振りかざして不満を訴えるノエルだったが、馬鹿二人はそれを緩く流すばかりであった。
このまま放っといたら延々とぐだぐたなトリオ漫才が続いてしまいそうなので、ここはお姫様が場の空気を引き締めるべく「本題」を切り出す。
『むだばなしはいったんそこまで。ノエル、あなたはまだ保護たいしょうとかくていしたわけじゃない。じぶんがけっぱくであることを示すひつようがあるのをりかいしてる?』
『あぅ、は、はい……』
『これからいくつかしつもんするから、ちゃんとうそをつかずにせいかくに答えて。黙秘はなし。いい?』
「だったら俺達も参加させてもらおうかな」
「ドサクサに紛れてスリーサイズ聞いたりとかはしねぇから安心しな」 - 153キャラシート23/03/13(月) 23:27:13
お姫様の言う通り、重要なデータが現在の『サイトシーカー』から失われていることが確定されなければ、いつまで経ってもノエル=メリーウィドウはグレーのままだ。
重要参考人としての価値を証明することで、初めて彼女の身の安全は保証される。
その為には、一旦情報を整理しなければならない。
『じゃあはじめるよ。あなたはいま全勢力からおわれている?古巣の「情報同盟」もふくめて?』
『はい。四大勢力その他もろもろぜんぶ』
「原因はさっきの戦闘中にアンタ自身が口を滑らせてた、各勢力のお偉いさんやエリートの重要な情報を握っていたからってやつか?」
『うん、それがわたしと「ウェブ004」のやくめだったから』
「てめぇはそいつが『誰かに抜き取られた』って言ってやがったな。その『誰か』っつーのに心当たりは?」
『ある。くろまくじゃなくて実行犯だけど』
『「「…………………………はぁ」」』
即席尋問官の三人は思わず揃って溜息を吐く。どうやら状況は想像以上に由々しき事態のようだ。
各勢力の上層部が30機ものオブジェクトを動員させてでも手に入れたいパンドラの箱。
それが流出した。
犯人がその気なら、今この瞬間にでも無限に広がる電子の海に拡散されて、世界中が大混乱に陥っても不思議ではない。
ステンドグラスのように区切られた世界地図が、粉々に砕かれるような戦争が引き起こされる可能性も十分に考えられる。
しかし未だにそうなってはいないということは、
「そのデータ群のプロテクトは?」
『ふだんは操縦士エリートのわたしでも閲覧できないくらいガチガチ。ちゃんとした手順でアクセスしなければ、かいじょにはさいしんスパコンでかいせきしても、ひとつきはかかるとおもう』
『ちなみにぬすまれたのはいつ?』
『………………。ちょうど3しゅうかんまえです……』
『「「……………………………………。」」』 - 154キャラシート23/03/13(月) 23:29:02
どのオブジェクトに最重要情報が蓄えられているのかを特定し、厳重に警備されたベースゾーンに侵入した後、軍事機密の塊からデータを抜き出してまんまと逃げ果せてみせる。
到底個人の力では不可能だ。大規模な組織による犯行と見て間違いない。
そうなると、奪った「中身」をものにするための設備や資金を揃えている可能性もかなり高い。
猶予はあと約10日。
黒幕の目的は不明だが、それまでに取り返さなければ、惑星規模で碌でもないことが起こるのはほぼ確実だろう。
『うそでしょ……』
「最悪だ……」
『だぁー!ちょっとまってちょっとまって!まだきぼうは潰えてないから!』
「あん?こちとら次から次へとてめぇが陳列する絶望のせいで、度数のイカれた酒をかっ食らってから、こめかみに鉛玉をブチ込みてぇ気分なんだよ。復帰するまであと5分黙れ』
『きーいーてーよーもー!言ったじゃん、実行犯にはこころあたりがあるって!てもとにそいつがうつった映像がのこっているんだってば!コックピットまでおりてきてかくにんしてよ!』
そうノエルが捲し立てるや否や、バシュッ!という音と共に『サイトシーカー』の頂上部にある脱出溝のハッチが真上に開かれた。
突然の出来事にクウェンサーとヘイヴィアは目を丸くして、お互いの顔を見合わせる。 - 155キャラシート23/03/13(月) 23:30:47
『え、なに?はやくきなよ。どうしたのさ?』
「いや、こうもあっさり中まで通してくれるなんて思わなくて」
「ヘタレなてめぇのことだから、警戒してそんなことまで許すとは絶対に無ぇと見てたもんだからよ」
『あーもうそういうのめんどくさいからスキップスキーップ。信用をかちとらなきゃずっとこういうあつかいなんでしょ?おそかれはやかれひきずりだされて徹底的にしらべられるんだから、すこしでも心象をよくしときたいの。あったかいごはんとベッドにありつくためなら、このくらいよゆーだって」
確かに今までのやり取りは口だけによるもので、具代的な物証が掲示されたわけではない。
直接確認することによって、情報の「解像度」を上げておくのは、残された短い刻限を有効に活用するためには必要な工程と言える。
「……わかった、今からそちらに行く。お姫様、上まで昇りたいから、ちょっと砲を下までかたむけてくれ」
『ほんとうにいくの?罠かもしれないよ?』
「そうだったらお姫様が何とかしてくれ。頼りにしてる」
『……ズルい言いかた』
お姫様は呆れや諦めに似た声と共に、『ベイビーマグナム』の一番外側の主砲の先端を地面まで降ろした。
どうやら乗り込むことを許可してくれたようだ。
振り落とされないように跨ってしがみついたクウェンサーは、ボケーっと突っ立っている相棒に手招きをして自分に続くよう促す。
「ほらヘイヴィアも来いって」
「え?俺も強制参加?」
「見張りと証人は多いに越したことはない。それともノエルが抵抗して『サイトシーカー』を暴走させた時に、真っ先に踏み潰されたいのか?嫌なら早く掴まれ」
「ちっ、かったりぃなチクショウ。サビ残なんてイケメン天才貴族の俺様に一番似合わねぇワードじゃねぇか」 - 156キャラシート23/03/13(月) 23:33:20
文句は言いつつも、どちらが自らの安全においてマシかを考慮した結果なのか、不良軍人は学生に倣って同じ姿勢で砲にしがみつく。
心臓に些か悪い束の間の空中散歩を楽しみ、ドラゴンスレイヤーコンビは『サイトシーカー』の頂上部に足を下ろした。
開け放たれた脱出溝を覗き込むと、入口のすぐ手前には自動で昇降する梯子が取り付けられているのが見て取れた。
どうやらこれが送迎を担うリムジン役らしい。
「わかっているとは思うが妙な気は起こすなよ」
『はいはい、りょーかいりょーかーい。こわくないよー。おりといでー』
「クソっ、女子のプライベートスペースへご案内だってのに色気ってやつが致命的に足りてねぇぜ」
「初恋みたいな緊迫感なら飽和してるけどね」
掴まるスペースはちょうど二人分。クウェンサーとヘイヴィアが身を預けると、滑らかなスタートと切った梯子は振動や音も立てずにスルスルと下降していく。何が潜むかわからない怪物兵器の最奥へ。
「どうぞいらっしゃーい!ノエルちゃんのおへやへようこそー!いやー、整備兵いがいにひとをいれるなんてハジメテだからきんちょうしちゃうなぁ!それもおとこのこ!せっかくだからお茶菓子でもだしたかったんだけど、ながきにわたる逃亡せいかつのせいでびちくがからっぽなんだよね……。キャンディが5つくらいのこってるから2つずつあげるね。たしかこのへんに……あだっ!」
そして虎口の果てで待ち受けていたのは、野暮ったい長い黒髪を二房の三つ編みで結んだ、何故か潤みがちの薄緑の瞳の上から赤いフレームの眼鏡をかけた黒髪の少女だった。
出会い頭早々、勝手にマシンガントークを披露し、勝手にゴソゴソとコックピットのあちこちをまさぐって頭をぶつけながら、勝手におもてなしの準備を進めようとしている。
如何にも「人と話すのに慣れていない者」の挙動。ぶっちゃけ見ていて痛々しかった。
ルックスは小動物系で悪くなく、ピッチリとした薄桃色のエリート専用スーツを隆起させるボディラインは無駄に豊満なおかけで、男受けは一見良さそうではある。しかし本人の性格を知っている野郎二人からしてみれば、「こいつを『そういう目』で見たら負け」感がどうにも拭えない。 - 157キャラシート23/03/13(月) 23:37:46
「なんつーか……その……」
「『想像通り』だな……」
「いくらちょっとぬけてるざんねん美少女なノエルちゃんでもいまのはポジティブなニュアンスじゃないとわかるぞこのやろー」
座席の下辺りで屈んで、こちらに尻を突き出している眼鏡の厄介エリートの声はどんよりとした曇り模様だった。
他人へは空気を読まずにズケズケと失言をかますのに、自分に対して向けられる言葉の色には敏感なノエルズメンタリティ。どうりで人との距離感覚の測り方がバグるわけである。
「おい、おもてなしなんかどうでもいい。『証拠』とやらを早く見せろ。こっちは一分一秒でも時間が惜しいんだ」
「はっ!そうだった!じゃあちょっとこっちにきて」
本来の目的を思い出したこの部屋の主は、床に散らばった色とりどりのクッションやぬいぐるみ、菓子の空き箱などを脚でぞんざいに隅へ追いやって、座席の隣に人一人分のスペースを無理矢理作り出してから座席に腰を据えた。どうやらそこが即席で設けられた共用閲覧スペースらしい。
クウェンサーはヘイヴィアに目配せをすると、数歩踏み出してそこへ収まった。相棒にはノエルが反抗した場合に備えて、押さえつける役を担ってもらうとする。
「始めてくれ」
「おっけー。じゃあまずこれなんだけど」
クウェンサーがモニターに目をやると、そこに映し出されていたのは、『サイトシーカー』を取り囲む鉄骨の足場やワイヤーとそれらを俯瞰するアングルで撮影した録画記録だった。
「これは……、アンタが所属していたベースゾーンの監視映像か?」
「そう。ちょうどいまから3しゅうかんまえのものなんだけど、このじかんたいはメンテナンスもとっくに終わってて、出入り口のけいびいがいはわたしもふくめて無人だったはず。それなのにほらここ!」
- 158キャラシート23/03/13(月) 23:40:10
ノエルが指を差したのは愛機の頂上部、先程クウェンサー達が利用した脱出溝のハッチ。
そこへ作業着を身に纏った何者かがゆっくりと周囲を警戒しながら、物音を立てないようにゆっくりと近づいて来た。
帽子を目深に被っているので顔立ちははっきりとは伺えないが、ウェーブのかかった長い金髪と丸みを帯びた体型のシルエットから女性のように見える。
そいつは自分以外に誰もいないのを確認したのか、堂々とコックピット内へ侵入し、15分程経ってから頂上部に戻って来た。
その手には往路の際には無かったUSBメモリらしきものが握られている。
そして再び周囲を見渡して、自身の犯行が目撃されていないことを確認すると、長居は無用とばかりに足早に去って行った。
「こいつが情報を抜き取った、今回の騒動を引き起こした犯人……?」
「そうとしかかんがえられない。このおんな?
はこの映像がろくがされたつぎのひにはベースゾーンのどこにもいなかったし、巧妙にかくされていたけど、ぎそうされたアクセスりれきを暴いたら身におぼえのないものが一件あった。じかんたいもみごとに一致している」
「外野から失礼するけどよぉ、上官や責任者に報告はできなかったのかよ?」
「やらかしがデカすぎて言えるわけないでしょうがそんなこと!だからひみつりにとりもどすためにかってにとび出してみたんだけど、脱走兵のうらぎりものにんていでおわれるようになったってわけ。なにやってんだろわたし……」
犯人らしき人物は絞れてはいる。しかし、未だ特定へ至るにはまだ道のりは険しい。
「今わかるのは精々性別くらいか」
「証拠としては不十分極まりねぇな。これだけを伝えるために俺達を招き入れたなら、無駄足を踏ませやがった代償は高く付くとだけ言っておくぜ」
「はなしはさいごまで聞けおろかものォッ!もういっこみてってば!」
「「あん?」」
危うく「処分」の憂き目に遭うデンジャラスな雰囲気に晒されて、涙目のノエルは先程のベースゾーンの記録映像を巻き戻し、犯人と思われる女の身体のとある一部を拡大する。
具体的に表すと、モニターいっぱいに引き伸ばされた豊かな胸元が映し出された。 - 159キャラシート23/03/13(月) 23:43:18
「なんだよ?おっぱいをドアップで見せとけば俺達の気分が和むとでも思っているのか?」
「安く見られたもんだぜ。おっぱいを平和利用するってのは大層夢があるが、生憎服の上からくらいじゃピクリともしねぇよ」
「ちがうわ性欲猿ども!そこじゃない!ネ・ー・ム・プ・レ・ー・ト!」
言われるがままに馬鹿二人は、視線を胸元から首に下げられた長方形へと移す。
そこにはこう記されていた。
「『アドレイド=ブラックレイン』、それがこのおんなのなまえ」
「待て、こいつがスパイならそんなもの偽名に決まっているだろ」
「結局は捜索の糸はプッツリと途切れてんじゃねぇか見苦しい!」
「さいごまではなしは聞けっていってるでしょうがっ!」
これまでとは違う少女の激しい口調に、思わずクウェンサーとヘイヴィアは押し黙る。
普段はどちらかというとオドオドしている彼女がこれだけ強く主張するなら、より明確に犯人へと繋がる糸口を掲示できるということなのだろうか。
「いくらきがるに閲覧できないとはいえ、わたしはたくわえられた情報をカテゴライズされたこうもくにおさめる編纂作業くらいはまかされていた。だからファイル名くらいにはめをとおすの」
「それがどうしたっていうんだよ?」
「てき勢力の操縦士エリートにかんするフォルダで、こいつと似たなまえを見たことがある。そしてこいつの駆るオブジェクトはこんかいのの事件であつめられた31機のなかにそんざいしている。そのオブジェクトは……」
核心に触れようとしたノエルの台詞が少年達に届くことはなかった。
その前に学生の通信機から鳴り響く、麗しの銀髪爆乳上官の美声によって遮られてしまったからである。
『クウェンサー、ヘイヴィアでも構わん。聞こえているなら応答しろ』
「ちょっとフローレイティアさん!今いいところだったのに水を差さないでくださいよ!」
「とうとう無意識に寸止めプレイを習得しやがったってのかこのドS爆乳は!?」
『どうして私がお前達のタイミングを伺う必要があるんだ?それよりも緊急事態よ。心して聞け』 - 160キャラシート23/03/13(月) 23:48:12
ものの見事におあずけを食らった馬鹿二人だが、無視を決めて営倉にブチ込まれるのは余りにも短絡的過ぎる。
とてつもなくモヤモヤするが、仕方がないので顔を寄せ合って耳を傾けるしかない。
『昨日までここ北米大陸南西部の砂漠には、私達も含めて15のオブジェクトがいたのは知っているな?』
「えぇ、さっき2機撃破したんで今は13でしょうけど」
『いいや違う。現在残っているのは8機だ』
「そりゃ随分とハイペースで潰し合ってやがるじゃねぇか。今の今まで膠着状態だったつうのに。大規模な乱戦でもあったんすか?』
『……半分正解だ』
「半分?」
通信機越しの上官の声のトーンは低く、これから語られる内容の重みを嫌というほどに感じさせられた。
『脱落した5機は、全て一機のオブジェクトによって葬られた。それもたった6時間という短い間に、だ』
「なっ!?」
「はぁっ!?たった一機でだとっ!?」
『正直私だって信じ難い。だが事実だ。そいつによって我々の同胞、かは不明だった「正統王国」軍のオブジェクトは「ベイビーマグナム」を残して駆逐された。撤退を一応は上に進言したが、返事は今のところ芳しくないな』
「マジかよおい……」
- 161キャラシート23/03/13(月) 23:49:11
敵勢力の『本国』に挟まれた大陸で孤立無援。それが現在の『正統王国』軍第37機動整備大隊の置かれている状況だった。
『何にせよ生き残るためには、勝ち続けて増援を迎えられる余裕を自分達で生み出していくしかない。そのためには最も危険な件のオブジェクトとの衝突は避けられない』
ただでさえ『サイトシーカー』から重要情報を抜き出した犯人の捜索を進めなければならないのに、状況は次から次へと最悪な方向へと転がり落ちていく。
『現状、奴について判明している情報は3つ。所属は『資本企業』、機体は『セリーヌ』と呼ばれてははいた、そして最後に操縦士エリートの名前だが……』
「セリーヌ」という単語を聞いた瞬間、クウェンサーはノエル=メリーウィドウの瞳が大きく見開かれたのを確かに目撃した。
「嫌な予感」が「確信」へと、望まれない進化を遂げていく。
「フローレイティアさん、それってまさか……」
『アドレイド=”エンプレス”=ブラックレイン。私達の次の敵よ』 - 162キャラシート23/03/13(月) 23:51:27
一旦ここまで
二章完結!幕間残ってるけど
いやー途中からプチスランプに陥ってペースが遅くなったけど、どうにか折り返し地点到達!
次章は割りとやることはシンプルそうだからなんとかなれー
それにしても結構安価無視しちゃったり、前後を入れ替えたりしちゃったな……反省 - 163キャラシート23/03/15(水) 20:12:06
あれ?消えてた なんでだろ
- 164キャラシート23/03/16(木) 21:15:16
幕間も長くなりそうで草
静まれ年度末の魔物よ - 165キャラシート23/03/18(土) 08:31:49
急用顕現
月曜日には絶対に投稿する - 166キャラシート23/03/19(日) 20:57:56
もう一息っと
- 167キャラシート23/03/20(月) 21:54:15
相次ぐ修正に次ぐ修正
ソシャゲのメンテナンスに追われる運営ってこんな感じなんだろうか……
今日中に出す、出すんだ俺 - 168キャラシート23/03/21(火) 15:25:15
幕間2
「うっ……ぅ、ぇ……ぁ……」
黒を押し固めたような暗闇の中でその女は目を覚ました。
いや、最初は視界を闇に埋め尽くされていたせいで、そのことすら認識できてすらいなかったと表現した方が正しいか。
そんな状態であっても時間が経つに連れて、散らばった細い糸のようだった感覚が徐々に束ねられ、意識となって再生されていく。
(あ……れ……、あたし……どうして……?)
見えないながらも思考する力を取り戻したことで、漸く自分を取り巻く環境に気を向ける。
身動きが自由に取れない。
呼吸と発声や首の旋回、掌の開閉はゆっくりとだが出来ているようなので、五体が存在しているのは把握できる。
しかし身を起こすことができず、上手く力の入らない四肢で周囲を探ろうとしても、ゴツゴツとした得体の知れない何かにぶつかるだけでそれ以上の情報は得られなかった。 - 169キャラシート23/03/21(火) 15:28:16
(むー、なんでこんなことになったんだっけ?前後のきおくがワチャワチャしてるー)
閉ざされた暗闇と満足に身体を動かせない不自由。
果たしてこれが死後の世界というものなのだろうか?
(こまったなぁ。このままずっとなにもないむげんじごくとか勘弁してほしいんだけど。たいくつで死ぬー、いやもう死んでんのかこれ……?)
常人なら終わりの見えない不穏な雰囲気に押し潰されてパニックを起こすところだが、幸か不幸か脳に特殊な『改造』と『調整』を施されているおかげで、女の精神は容易に揺さぶられることはない。
今の自分に成すことのできる選択肢をあくまで冷静に分析・展開し、状況を打開する方法を模索していく。この辺りは操縦士エリートというよりは研究者寄りの思考を持つ彼女らしいといえば彼女らしいか。
そしてしばらく考え込んだ後、
(あ、そういえばまだ試してないことがあったな)
思いついたら早かった。
「だれかあアアアアアアアァァァッッ!いますかあアアアアアアァァッッッ!!」
自分以外の存在の有無の確認。
得意の大声が張り詰めた闇の中に木霊していく。
だが一縷の望みを賭けた、いるかもしれない誰かに向かっての呼びかけは、冷たい静寂に虚しく融けていくだけで応じる者は皆無であった。
(いるわけ……ないかぁ。やば、万事休すかも)
割と渾身の策が通用しない。若干凹む。
しかし、地味ながらも着実に追い詰められている女を励ましたり、救いの手を差し伸べる他人はここにはいない。
『音声を検知しました。照合のためしばらくお待ち下さい』
そう、「人」は。 - 170キャラシート23/03/21(火) 15:30:59
「は?」
『登録されているものとの一致を確認。緊急措置を解除致します』
「え?ちょっ?えっ……!?」
唐突に人間味の感じられない声が女の鼓膜を震わせる。
それが合成音声によるものだと彼女が理解するのにたっぷり15秒かかったが、その時には既に全てが終わっていた。
プシュー!という間の抜けたような音と共に世界に四角い風穴が穿たれる。
「まぶっ……!?」
差し込んだ光が暗闇に慣れ切った網膜に突き刺さり、反射的に久々の刺激から顔を背ける。
すると、まず目に映ったのは自分の胴。
ベルトで椅子のようなものに固定されている。これが身動きの取れなかった原因だった。
次に場所。
思っていたよりもかなり狭い。広さはせいぜいカラオケボックス程度の空間。彼女から見て前面にはレバーやボタンが大量に配備され、床には部屋の主の私物と思われるドリンクのボトルや花火セットが転がっている。
やはり人体の感覚受容において、最も大きな割合を占める視覚の機能を取り戻した影響は大きく、女が推理に必要なピースを埋めるのにはそれ程時間はかからなかった。
「ふむふむにゃるほどにゃるほど。これって……」
そして手に入ったあらゆる要素を統合させて思い至った結論といえば、
「『ヘッジホッグボマー』のコックピット?でもどうして……?」 - 171キャラシート23/03/21(火) 15:37:47
そう呟くオレンジの髪を雑にポニーテールで纏めた女、フェン=ファングは思わず首を傾げた。
いつも殆どノーメイクで身嗜みに頓着しないくせに、こういう時の仕草は女性らしい。
(そうだ。たしかあたしは自爆にまきこまれて死んだ、……はず)
何故自分は生存しているのか、コックピットが直接外へと通じているのか、現在地はどこなのか。
疑問は次々と湧いて出てくるが、行動を起こさねば答えは手に入らないだろう。
フェンはシートベルトの留め具を外し、己の身体を戒めから解き放つ。
全身が重く引き攣るようだが、我慢すれば多少の運動に支障はない。
二本の脚でゆったりと立ち上がり、開け放たれた穴から外へと飛び出していく。
「よーいしょっと」
そこに広がっていたのは強風吹き荒ぶ、砂と岩で構成された、だだっ広い荒野であった。
明らかに意識が途切れる直前まで自分の居た、白い砂漠とは異なる風景だ。
そもそも時刻からして違う。
陽光照らす昼から、薄ぼんやりとした月光降り注ぐ夜に切り替わっていた。
(ホワイトサンズじゃない?おなかのすきぐあいと星座のいちからかんがえて、ものすごく遠いわけではないとおもうけど)
謎を解明しようとして、また謎にぶつかってしまった。
ミステリー小説ならワクワクする展開かもしれないが、残念ながらこれは現実だ。厳しい気候、少ない備蓄、どこまで何をすれば一度拾った命は助かるのか。
最適な行動を取らねば、今度こそ死神に追いつかれるのは確実なのだろうが。 - 172キャラシート23/03/21(火) 15:40:37
(とりあえずコックピット?に一旦もどるか。にもつをまとめたり、機能がまだいきてるなら救難信号をとばしたりできるかもしれないし)
若干投げやり気味にフェンは踵を返そうとしたその時、腰に引っかかっていた通信機から突然電子音が鳴り響いた。どうやら壊れていなかったらしい。
手に取って発信元を見てみると、彼女の良く見知った相手からだった。
「ジン」
『おっ、繋がった繋がった。そうやって返事が出来るってことは無事に脱出したようで何より』
二度と聞くことはないと思っていた相変わらずの軽薄そうな声は、いざ耳にすると感慨に浸るなどといった殊勝な感想よりも、先に苛立ちがオレンジ髪の女の心に飛来した。感動の再会へは些かまだ遠い。
「……せつめいして、ぜんぶ」
『おいおい、いつもの大声はどうしちまったんだよ。お前さんらしくねぇぜ!ほら、スマイルスマーイル!』
「……………………。」
『はい、スンマセン……。ったく、姉貴といいお前らカンパニーの女性陣といい、女ってのは怒鳴り散らされるよりも黙って睨みつけられる方がおっかねぇ。で、ご質問は?』
「……なんであたしはいきてるの?」
少しご立腹の『ヤナギカゲ重工』の女は、自身の後ろで無造作に転がる直径5m程の球体に流し目を送りながら問いかける。
元コックピットのものと思われる残骸。
おそらくはあれによって自分は生き永らえた。
しかし『ヘッジホッグボマー』がそのような機能を有していたことなど、主人である彼女でさえ今日この時まではまるで把握していなかった。
真相を知っているとしたら、愛機の設計・建造に最も深く関わった、通信機の向こう側にいる馬鹿野郎に違いない。
当の馬鹿野郎は待ってましたとばかりにウッキウキで説明モードに突入する有様ではあったが。 - 173キャラシート23/03/21(火) 15:43:57
『よくぞ聞いてくれた!お前さんが助かったのは天才たるこの俺様考案の「アップルコアシステム」のおかげってこった!』
「アップル……なに?」
『覚えるまで何度でも繰り返すし、ちょっと長くなるから覚悟しとけよ。「アップルコアシステム」。コイツはヤナギカゲのオブジェクトの一部に試験的に組み込んである新型の脱出方式でな、まず従来のオブジェクトのものは、自爆する際にエリートとパラシュート付きの操縦席を排出するだけで、その後に続く爆風に巻き込まれて死亡するケースも少なくない。だが、「アップルコアシステム」は頑丈なコックピットごと、仕込んだブースターによって爆発で目が眩んでいる敵からは見えにくい方向に離脱することで、エリートの生存率を飛躍的に高めるっつーわけだ。その分コストはお高いがな』
「ああ、うん。りくつはだいたいわかった。でも、なんでそんな重要なことかくしてたの?」
『だってお前らのびっくりする顔が見たかったし』
「……………………。」
一秒の間も無い即答だった。
それに対してフェンは深く、深く息を吸い込んで、
「アホかおのれはアアアアアアアァァァァッッッ!!」
ありったけの声量で罵声を浴びせた。
かつてこの荒野をこれ程までの咆哮が貫いたことがあったか。いや、どのような自然現象や獣とて成し得なかったに違いない。
「まったくまったくまったくまったくまったくまったくまったくまったくまったくまったくまったくゥッ!!」
このジン=ヤナギカゲという男の開発者としての原動力は、「ロマン」と「イタズラ心」であると彼女を始めとする周囲の人々(被害者)は以前から薄々思ってはいた。そうでなければ、『スティンクディール』などという悪ふざけ全開の悪臭オブジェクトを考案したり、セクサロイドスレスレの殺人メイドロボットを大真面目に製作したりするはずがない。その他、彼が発明したトンチキ兵器も以下同文。
馬鹿と天才はナンタラカンタラとはよく言ったものだが、振り回される側にとっては今回のように驚くだけでは済まない結果を齎すので、その情熱は時として余りに度し難い。 - 174キャラシート23/03/21(火) 15:45:53
『うおっ、大声出せとは言ったがそういうのじゃねぇよ!鼓膜痛ってぇ……、今ので通信機の端子ぶっ壊れたんじゃねぇのかマジで!』
「うっさいわあっ!そういうのはさいしょから言えっ!おかげで自爆まえに一人ぼっちでむだにかっこつけちゃったでしょーがっ!」
『え、なにその話?ちょー聞きたいんだけど!おせーて、おせーて!』
「言・い・ま・せ・ん!そのにあってねぇグラサン叩き割られてぇのかこのやろうっ!かえせっ!かえせよあたしの覚悟としんみりタイムっ!あああァァもオオォう、はずかすぃぃぃィィッッッ!!」
『グラサンは今関係無ぇだろッ!?大体、生きてたからいいじゃねぇかよ!覚悟だか何だか知らねぇが、んなモンだって減るわけでもねぇだろうに!それともあのまま死んじまった方がよかったってのか!?』
「げんざいしんこうけいで死にたくなっとるわボケェええええええッ!!」
ギャーギャーワーワーと。
上司と部下の垣根を超えたしょーもない言い争いが、風の音以外に奏でられることのない寂れた大地に一時の喧騒を賑やかす。
「ぐっ……、んっ……くぅ……!」
『ぜぇ………、はぁ……っ!』
そうしてお互いの喉は枯れる程、一通り激情を吐き出し終えると、
「クスっ、フッフッフ……」
『ぷっ、くっくっく……』
「『アッハッハハハハハハハハハハッハハハハハハハッハッハハハハハハハッ!!』」
罵り合いはなんてことのない、どこにでも存在する友人同士の馬鹿笑いへと昇華していた。
「あーアホらし。ほんと、バッカじゃないの。アンタも、あたしも」
『違ぇねぇな。生きとし生けるもの、どいつもこいつも大馬鹿野郎だ。だから面白ぇ』
心身に溜まっていたあらゆるもの放出したフェンはその場で屈むと、固い地面へ大の字になって身体を投げ出した。
血が昇っている頭を冷やすように夜風が優しく髪を撫でつけていく。 - 175キャラシート23/03/21(火) 15:48:52
「ねぇ、ジン」
『あん?』
「思いっきりわらったきぶんはどう?」
『そういや久々だな……。うん、なかなか悪くねぇ。すっきりした』
「ふーん、そりゃよかった」
クールダウンを終え、女は満足そうに上半身を起こす。
聞きたかった答えは得た。今なら少しだけ素直になれるような気がする。
「ごめん。なにも達成できなくて」
『どうした藪から棒に』
「あんなに息まいて出撃したのにまけた。かいしゃがたいへんなときなのに」
普段は意図的にテンションを上げている部下/友人からの静かな謝罪。
それがどれ程の重みを持つかをジン=ヤナギカゲは理解していないわけではない。
しかし、彼はあえて軽い口調を崩さずに不敵に鼻で笑ってみせた。
『なーに、気にすんな。オブジェクトのたかが一機くらい』
「でも50億ドルのそんしつが……」
『それなら大丈夫だ。そもそも最初から「お宝」は第二希望に過ぎねぇよ』
「へ?」
『今回の騒動だけで20以上のオブジェクトが大破、もしくは完全破壊されているだろ?俺の狙いは大量のオブジェクトを失って、「空白」になることを怯えるお偉方に設計図を売りつけるのが目的だったんだよ』
「それじゃあ……」
『今週だけで5枚は売約済み。まだまだ注文は相次いでいる。「ヘッジホッグボマー」は確かに惜しいが、総合的に見ればでけぇ黒字になのは揺るがねぇ。だからヤナギカゲはしばらく安泰だ』 - 176キャラシート23/03/21(火) 15:50:21
それから『ヤナギカゲ重工』の社長は一拍置いて、止めの一言を言い放つ。
『作戦終了だ、フェン=ファング火器開発室長。だからさっさと戻ってこい。俺だけじゃない、他の社員だってお前の帰りを待っている』
誰にだって自分の居場所があって、そこを守るために頑張っている。
結局はそれだけが目的だったのだ。今回の事件に彼らが首を突っ込んだ理由は。他の勢力と争うのは、そのための一つの手段でしかない。
別の方法でアプローチを仕掛けたっていいのだ。ジンが示したように。
「うん、そうだね」
新しい発見なんて何もない。
ただ当たり前の事実を思い出しただけ。
「かえるよ、あたしたちのヤナギカゲに」
会いたい人がいて、果たさねばならない約束がある。そもそも自分の家へと帰るのに、いちいち小難しい理由なんて別に用意しなくたっていい。
となると、残る心配事があと一つ。
「あのー、それでさぁ……。はずかしながらこれこらどうすればいいかな?もよりのまちまでどこへ何キロあるかもわからないんだけど……。あれ?そうなんしたときってその場からうごかないほうがいいんだっけ?」
「ちょっとしんみりした途端これかよ。締まんねぇなぁ、俺達……」 - 177キャラシート23/03/21(火) 15:52:38
現在フェン=ファングがいるのは、世界でも有数の無人地帯。おまけにダメ押しとばかりに厳しい自然環境が脆弱な人体に牙を剥く。
徒歩以上の移動手段は無しに、裸同然の装備で帰還するのは難しいだろう。
『通信が繋がってるからそこまで心配はしてないんだろ?お察しの通り、そっちの座標は割れてるから大丈夫だ』
「だとおもった。それで?『タクシー』はいつ着くの?」
『もうすぐ来るぜ。とびきりのヤツがな』
「?」
ジンが嘯くと同時に、フェンの視界の端に映っていた地平線上に何かが煌めいた。舞い上がって月光を反射する砂煙だろうか?
ついでによく耳を澄ませると、腹の底に響くような重低音も轟いている。砂嵐はこんな音を響かせない。
どちらも時間と共に、こちらの方へ近付きつつあるのが感じ取れた。
それはつまり、
「オブジェクト!?」
『「俺が」呼んだんじゃねぇぞ。ナイジェルの奴がボロボロの「クララ」を引き摺って、お前さんを救援するように頼んだそうだ』
「そう、ナイジェルくんが……」
短いながらも共に轡を並べた少年を想い、オレンジ髪の女は口角を緩ませる。
どうやら帰らなきゃいけない理由がもう一つ増えてしまったようだ。
『続きは本社で!後は女同士、仲良くお茶でもしながら送ってもらいな!』
「あ、ちょっとジン!」 - 178キャラシート23/03/21(火) 15:54:38
もう既に身内の安全は確保されたと判断したのか、偶に薄情な上司/友人は一方的に通信を切ってしまった。
あっけない幕切れにやや呆然とするフェンであったが、寧ろ多忙を極める彼にしてはよく時間を割いてくれたとここは納得するべきか。
そうこうしている間に50億ドル超えの規格外兵器、今はたった一人の兵員輸送を担わされたオブジェクトが彼女の元へと辿り着いた。
取り付けられたスピーカーから、操縦士エリートであろう人物の艶のある声が鳴り響く。
『はぁい、あなたが「乗客」で合ってるかしら?ってほかにだれもいるわけないわねこんな場所』
「これはこれは『第二位』がおでましとは。いろいろあったけど、今日いちばんのびっくりかも」
『あら、私をしってるの?「ランカー制度」はいちおう秘匿されているはずなのだけれど。いがいとものしりなのね』
「うちのバカしょちょーがね。それにあたしがしってるのは機体だけでだれがのっているかなんてしらないし」
『だったらおたがい名刺交換しましょうか』
「いやいいよ。そういうのはかくせってうえから言われてるんでしょう?むしろこうやって姿をあらわしてくれた時点でちょっとしんじられない」
意外とフランクに接してくる迎えのエリートに面を食らうフェンであったが、同勢力だとしても初対面の人間に対してそう簡単に心を許したりはしない。
同じ資本企業だからこそ、今は優しくても後から情報料と称した馬鹿高い請求書を叩きつけられることだって普通にあり得る。彼女達が所属するのはそういった魔境なのだ。 - 179キャラシート23/03/21(火) 15:56:49
『えんりょなんてしなくていいのよ。どうせ本名じゃないし。だからお代いじょうはいただかないわ』
「あっそ、それならおことばにあまえて」
尤も、そういった汚い手を使うのは中層以下に属する連中だけで、トップクラスに稼いでいる操縦士エリートがわざわざ行う理由はないのだが。
よって本人が否定するなら、過度な警戒は気力と体力の無駄。これから世話になる相手に礼の欠けた態度をで接する程、ヤナギカゲの社員教育と品位は落ちぶれてはいない。
「フェン=ファング。よろしくおねがいいたします」
『アドレイド=”エンプレス”=ブラックレイン。とりあえず行き先は?さすがにあなたたちの本社のあるサンフランシスコはきびしいけど、ラスベガスまでならおくれるわよ?』
「うんにゃ、『クララ』のベースゾーンでいいや」
『あら、よりみち?』
「そんなトコ。あとはかってに輸送機にでもあいのりさせてもらうからだいじょうぶ。それにさ、」
オレンジのポニーテールをそよ風に揺らしながら、フェン=ファングは小さく呟いた。
「(やくそくしたからね。『またあとで』って)」 - 180キャラシート23/03/21(火) 16:05:16
一旦ここまで
ほんとの本当に二章完結 待たせて申し訳ない
ここまでの累計文字数を測ってみたら、約73500字!生涯で一番文章書いてるわ絶対!
でも文庫本は400ページくらいで12万字らしいからやっぱりプロは化け物デスネ……
更新頻度が鈍化してるのはちょっと許してください
完結させる気はちゃんとあるのでどうかご安心を
三章は多分今回よりは短いと思う……多分
4月中にはなんとか終わらせたい - 181キャラシート23/03/21(火) 16:26:18
フェンを生かしたのは別に日和ったからじゃないヨ
せっかくだからヤナギカゲ関連は出していきたいな思っていたら、「そういえば『アップルコアシステム』ってやつあったな……ぶち込むか」となって採用した次第
いないと思うけど初見の人はwikiを閲覧しないと何のことだかさっぱりだろうなぁ 不親切
まぁ、きっとここで彼女を生かしたことが巡り巡っていいことに繫がるかもネ - 182編集初心者マン◆bvw/mWLSaA23/03/22(水) 00:27:33
7万5000……本当にお疲れさまです
SSを書いて改めて気付くかまちーのヤバさよ - 183キャラシート23/03/23(木) 10:39:45
ロズウェル……飛行機の墓場
ニューメキシコはおもしろスポット多いなぁ - 184キャラシート23/03/25(土) 09:31:14
また沈んでるー
うぅ……書き出し難しい - 185キャラシート23/03/26(日) 22:59:32
あかん、スランプや……
落ち着け落ち着け - 186二次元好きの匿名さん23/03/28(火) 18:09:28
ようやく筆が進み始めた……
次スレ立てたほうが区切りいいかな - 187キャラシート23/03/30(木) 17:32:25
三章 千変万化の二番札>>ロズウェル空軍基地跡制圧戦
1
「諸君、事態は急を要する」
世界をオレンジ色に染めんと太陽が地平から顔を覗かせる直前、夜でも朝でもないその間。
フローレイティア=カピストラーノ。
クウェンサー=バーボタージュ。
ヘイヴィア=ウィンチェル。
ミリンダ=ブランディーニ。
ノエル=メリーウィドウ。
指揮官室にて彼ら5名は皆一様に険しい表情を浮かべながら執務デスクの周りを囲い、卓上に広げられた地図や資料を睨みつけていた。
「知っての通り、我々は現在友軍を失い敵地のど真ん中で孤立している。このままでは疲弊したところをハイエナ共に取り囲まれて貪り食われるのは必至だろう」
『正統王国』軍第37機動整備大隊のトップに立つ者として、フローレイティアはただ淡々と残酷な現実を述べていく。
今部下達に必要なのは甘っちょろい慰めではなく、早急な状況把握だと理解した上での言動であった。
「そろそろ一晩経ちますけど、援軍要請は結局どうなりました?」
それに対してクウェンサーはとりあえず上官に質問をぶつけてはみたものの、彼女の眉間に深く刻まれた皺から既に大体の察しはついていた。
案の定彼の予想は裏切られることはなく、最も聞きたくなかった答えだけが返ってくる。
「相変わらず芳しくないといったところだな。腰抜けの上層部はこれ以上の損害を避けるために、敵勢力の『本国』に挟まれた北米大陸に追加の戦力を投入することを躊躇っているようだ」
- 188キャラシート23/03/30(木) 17:35:51
この時代の戦争の本質とは『資本企業』にあやかるわけではないが、はっきり言ってしまえば「金」だ。
莫大な命や資源を消費して、最終的に黒字にならなければ続ける意味がない。
ましてや此度のようにわざわざ高いリスクを背負ってまで、時代遅れの第一世代たった一機を救援するという行動は、リターンが釣り合わないと判断されるのも無理はないだろう。
つまり現在、クウェンサー達は『正統王国』全体から見捨てられているに等しい。
「あのー……、ちょっといいデスカ?」
ここで徐ろに挙手したのは元『情報同盟』所属の操縦士エリートであり、先の件を経て第37に保護された亡命者兼捕虜、ノエル=メリーウィドウであった。
逃走防止用の手錠と首輪を嵌められた黒髪眼鏡の少女はおずおずと自信なさげに口を挟む。
「どうした?特別ゲスト様。意見する前に手を挙げるのを覚えていたことは褒めておいてやる」
「アッハイ……。えーと、いまたいへんなことになってるのはわかってるんですけどぉ、ぶっちゃけもう兵士でもなんでもない囚われのわたしがなんでここによばれたのかなーって……?」
部屋全体の空気がピリリと僅かに軋む。
フローレイティアは溜息混じりに紫煙を吐き出すと、露骨に大きな舌打ちを放ち、正面にいた学生と不良貴族を顎で指し示した。
どうやら麗しの銀髪爆乳上官は、これ以上馬鹿に向かって説明することが億劫になってしまったらしい。
仕方なく代役を預かった二人が、まるで子供にでも言い聞かすように丁寧に、執拗に、そして冷淡に理由をノエルに告げていく。 - 189キャラシート23/03/30(木) 17:40:58
「それはね、インテリジェンスガール。ほんとのほんとのほんとのほんっとーに忌々しいことに、次の作戦はアンタと『サイトシーカー』を投入しなきゃいけないくらいに危険で切羽詰まっているからだよ。アンタのような本来頼りたくもない存在を利用しなくちゃままならないくらいにな」
「え"ぇ"っ!ナニソレ!?」
「そもそもてめぇらが取り扱ってたモンが厄ネタ過ぎんだよ。ブリーフィングで現場にいた俺達以外のベースゾーンの連中においそれとバカ正直に伝えられるわけねぇだろ!それに元はといえばそっちの管理不十分でこうなったことを忘れんじゃねぇ。今更無関係なんて絶対に言わせねぇからなこの野郎」
「イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤ!ほごされれば安全だっておもってたからあなたたちに下ったわけであってぇ、ちょっとかおがかわいくてスタイルばつぐんで天才なだけのかよわいノエルちゃんが役にたてるばめんなんてないってば!ほ、ほら、エリートとしてもクソザコですし!」
いちいち大げさなリアクションで喚き散らす次作戦の要(双方不本意)だったが、その途中でカァンッ!と裁判官のハンマーのような威圧感を含む音が鳴り響き、強制的に黙らされた。
どうやら音源はフローレイティアが手に持っていた煙管を執務デスクの角に鋭く打ち付けたかららしい。
「貴様の首のそれ、」
そしてドSの女王様は自分の首の横、頸動脈をトントンとピアニストのような細長い指で軽く叩いた。
「正式名称は『エンゲージ・ハイロゥ』といってな、私の機嫌とスイッチ一つで貴様のku
「だああああああァァっ!ききたくない!ききたくないぃ!皆まで言わなくていいですハイっ!したがいますぅ!やらせてくださいっ!」
(((前にもこのやりとり見た気がするなぁ)))
半べそでその場に膝から崩れるノエルにデジャブを感じつつも、一同が彼女を特に気の毒と思うことはない。何故なら全ての元凶だからである。 - 190キャラシート23/03/30(木) 17:45:11
「それで?わたしたちのいまの最優先目標は?ぐたいてきに何をすればいいの?」
「うむ、何はともあれ援軍が呼べなければ多勢力入り乱れるこの戦場を突破するのは不可能だ。だから早急にお偉方が怯えている原因を取り除く必要がある」
「と、言いますと?」
「この北米大陸南西部に集まった31機のオブジェクトの中で最強の機体、『セリーヌ』改め適性コードネーム『ヴァニッシュラプター』を打倒する」
その名を聞いて、約1名のせいで緩みかけていた指揮官室の空気が再び引き締められる。
『ヴァニッシュラプター』。
オブジェクト5機を立て続けに相手取って撃破せしめたアンノウン。
いくらお姫様が手練といえど、『ベイビーマグナム』だけで挑むには確かに危険過ぎると断定できる強豪。
そして何よりも今回の騒動を引き起こした謎の人物、アドレイド=”エンプレス”=ブラックレインなる操縦士エリートが深く関わっている。
「やっぱりやるしかないのか……この化け物を」
「ああ、何れにせよこいつを倒さない限り私達はジワジワと嬲り殺されるのをただ待つだけ。それならば時間と物資に余裕があるうちに、こちらから出向いて直接叩く」
「そうすりゃメキシコ湾や中南米経由で増援をデリバリー可能になるっつうわけか。そんで?肝心な野郎の居場所は?」
「目星はとっくに付いているから焦るな足軽一等兵。衛星写真によれば、奴はとあるポイントに6時間以上留まっているのが確認されている。どうやらそこが虎穴らしい」
「とあるポイント?」
首を傾げるお姫様を他所に、フローレイティアは広げられた地図の赤く塗り潰された一点を煙管で指し示した。
「ロズウェル空軍基地跡。世界最大の航空機、及びオブジェクトの墓場よ」 - 191キャラシート23/03/30(木) 17:47:32
一旦ここまで
だいぶ文章の書き方忘れてた…… お待たせしてスンマセン
ちょっとずつ思い出して来たから更新頻度が遅くはなるかもしれないけどがんばるぞー
3章開幕 - 192編集初心者マン◆bvw/mWLSaA23/03/30(木) 17:48:47
乙です
ロズウェル基地ってUFOの事件で有名なとこかぁ - 193キャラシート23/03/31(金) 22:25:38
2節用意でき次第次スレ立てまーす
- 194キャラシート23/04/02(日) 20:59:50