【🎲SS・オリキャラ・閲覧注意】麦わらとハートがとある国を解明する（5）

[1 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/31(火) 12:32:52]

【あらすじ】
　行方不明のローからのメッセージを受け取った麦わらの一味とハートの海賊団。
　『ピエロは敵だ』の血文字に、暗黒女のロビンの脳裏には猟奇事件を起こすピエロが浮かび上がる。
　チョッパーとローを捜すためピエロ捕獲に乗り出す一行だったが、さらにそこへゾロとブルックの仲を引き裂く匂いを撒き散らすおじさんまで現れてしまった。
　次々に現れる敵にこの国の闇を感じ取っていく面々。
　
　そしてまた新たな強敵が、ルフィとロー不在の船員たちに忍び寄る――！

次回【よくわからねェがおれたちのところにもドジな鎧が来たぞ】
お楽しみに！

[2 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/31(火) 12:33:21]

▼前回の記録

【🎲SS・オリキャラ・閲覧注意】麦わらとハートがとある国を解明する（4）｜あにまん掲示板

▼最初から

【🎲SS・オリキャラ・閲覧注意】麦わらとハートがとある国を解明する｜あにまん掲示板

[3 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/31(火) 12:52:45]

続きは夜になると思いますので気長にお付き合いくださいませ〜！
いない間に落ちてたらすみません…

[4 二次元好きの匿名さん 23/01/31(火) 12:52:56]

立て乙です

[5 二次元好きの匿名さん 23/01/31(火) 12:53:56]

乙です

[6 二次元好きの匿名さん 23/01/31(火) 12:56:51]

支援

[7 二次元好きの匿名さん 23/01/31(火) 12:57:06]

10まで埋めた方が良さそう

[8 二次元好きの匿名さん 23/01/31(火) 12:57:21]

立て乙

[9 二次元好きの匿名さん 23/01/31(火) 12:57:31]

保守

[10 二次元好きの匿名さん 23/01/31(火) 12:58:28]

立て乙です
ひょっとして警備隊長さんはローのこと知ってたりする？対応がずっと優しいし
これからどうなるのか楽しみだ

[11 二次元好きの匿名さん 23/01/31(火) 17:41:22]

たて乙！前スレの絵可愛くて好き

[12 二次元好きの匿名さん 23/01/31(火) 21:19:51]

船長たちと隊長さんのやりとりも気になるが船側の状況もわりとヤバそうなので早く船へ行ってくれ医者ー！という気持ちもある

[13 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/31(火) 21:29:21]

ふと彼は何かを思い出したようにしてルフィを見る。

「そうだ、すっかり忘れていた。ルフィ君たちに渡す物があったんだ。
ここで会えると思わなかったけど……ある意味、きみたちは幸運なのかな？」
「渡す物？」

　ちょいちょいと手招きされるがままルフィは歩き出す。
　彼は目の前にまでやってきたルフィの手を取ると、その手の平に小さな何かを乗せた。

「ん？」

　一度握り込み、その形を確かめる。棒状で、ほんの少し凹凸のある形状だ。
　ルフィが手の平を開くと、それはころりと転がった。

「鍵？」
「……なに？」

　ルフィが指で挟んで持ち上げた鍵を見て、反応したのはローだ。
　隊長はローのほうへ顔を向けて頷いた。そして、なんてことないように言う。

「海楼石の枷の鍵だよ。ずっと大変だったろ？
それがないときみも能力が使えなくて困ると思ってね」
「おーッ！　良かったなァ、トラ男！　白鎧ありがとうなッ！」

　ルフィはすぐにローの手にその鍵を押し付ける。
　彼は己の手の平に乗せられた鍵に対し、信じられない物を見る目を向けた。
　少しして、彼はその鍵を己の手枷に挿し込んだ。すると、簡単に枷は開き、その足元に散らばるようにして落ちていった。

「……何が狙いだ、テメェ」

[14 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/31(火) 21:30:38]

「おい、鍵持ってきてくれたんだぞ。礼くらい言わねェと」
「馬鹿野郎！　敵に鍵を渡す奴が何処にいるってんだッ！」
「ここにいるだろッ！」

　ぎゃあぎゃあと騒ぐルフィとローのやり取りを見て、隊長は小さく笑った。

「随分と警戒されてしまっているね。本当に今後、きみが困ると思ったから渡しただけなんだ」
「だからッ！　それが胡散臭ェって言ってんだよ！」

　真正面から睨みつけながらローが叫ぶ。
　隊長は兜の上から頬を掻く仕草をした。どこまでいっても、彼はマイペースだ。
　ルフィは両手を頭の後ろで組みながら下唇を突き出して言った。

「せっかく海楼石が外れたのにそう怒んなよ」
「テメェがどれだけこいつと仲良しこよしか知らねェが、色々とおかしいだろうが。
こっちはこいつらの隊をほとんど壊滅させてるんだぞ。なのになんで怒りもしねェんだ。職務放棄もいいとこだ」
「おれ別に仲良しじゃねェぞ。昼間一回会っただけだし」
「だったら余計にじゃれ合うんじゃねェよッ！！」

　ふふ、と笑い声が聞こえる。
　ルフィもローもぴたりと止まって声の主を見た。もちろんそれは隊長だ。

「ああ、ごめんね。きみたちがあんまり楽しそうだったから」
「楽しくねェよ」
「トラ男は頑固なんだよなァ」
「麦わら屋に言われたくねェッ！！」

[15 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/31(火) 21:31:54]

　ローがルフィの胸倉を掴んで怒れば、また笑い声がした。
　よほどツボに入ったのだろう。ひとしきり笑ってから、また、街のほうを見た。

「……仕事はしているよ。だって明日は大切な日だからね」
「明日？」

　ルフィが首を傾げる。しかし、ローのほうは意味を知っているらしい。
　表情が強張ったのが見えた。黙り込んで街を眺める隊長に、彼は語り掛ける。

「……聞きてェことがある。お前は明日、出荷する商品が何だかわかってんのか」
「え？」
「トラ男？」

　ローの急な質問に隊長が振り返る。
　僅かに首を傾げている彼を見て、ローの眉間にしわが寄った。

「世界政府とこの国が交わした契約書も見た。
商品の審査と費用の免除……なんの弊害もなく、政府に商品が届くんだろ？」
「ああ、あれか。うん、苦労したんだよ。この国の人たちがより良いものを作ろうと努力した結果でね。
喜ばしいことだよね。私はお酒が苦手だからあまり飲めないのだけど、美味しいって評判さ」
「よくわかんねェけどスゲェことなのか？」

　何の話をしているのか正直さっぱりだ。
　頭の上に疑問符を飛ばしまくっていれば、ローがルフィに目を向けないまま言った。

[16 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/31(火) 21:33:31]

「簡単な話だ。運んだ商品がノーチェックで政府の懐に入るんだぞ。
商品箱の中に全く違う物が入っていても誰も止められねェ」
「違う物が入ってんのはまずくねェか？　開けた奴びっくりするだろ」

　ルフィの頭の中で、リンゴのパッケージの箱からバナナが出てくるイメージが踊る。
　そんなことも知らずにローは話を続けた。

「びっくりするだけならまだマシだ。もしそれが政府に都合の良い、後ろめたい物品であっても誰も気づけねェんだよ」
「ええと、ごめんね。話がよく見えないのだけど……」

　首を傾げるルフィと同じように隊長も大きく首を傾げていた。何なら頭上に疑問符が飛び交い、声にも戸惑いが混じっている。
　どうやらルフィと彼はローの話がわからない者同士らしい。
　ローは隊長の反応にやりにくそうな顔をしていた。一度目を閉じ、眉間を指で揉んだ彼は最終的に叫ぶように言う。

「『珀鉛』のことだ！！　あれは人体に蓄積する毒だぞ！！
そんなもんが入った商品をどうして政府に卸すのかって言ってんだよ！！」

　そこまで言ってから彼は据わった目で鬼哭の柄に触れる。
　やはり彼が何の話をしているのかルフィにはわからなかったが、それが怒りの原因であることだけは察せられた。

「……もし、金のためだとかふざけたことを言うんなら、テメェをここで解体して城に乗り込んでも良い」
「え、私、解体されるのかい。それって死ぬんじゃないかな……」
「おー、トラ男に斬られるとバラバラになるんだよな。
でも痛くねェし、死なねェし、あちこちでくっついて面白いぞッ！」
「話を聞け、テメェらッ！！」

[17 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/31(火) 22:09:32]

　隊長は死なないと聞いて安心したのか、胸を撫で下ろしている。
　ローはそんな彼とルフィを見て額に青筋を浮かべていた。

「なんだよ……お前は知らねェとでも言うつもりか？　んなわけねェだろうが……ッ！」

　どうやら随分と苛立っているらしい。
　ルフィは腕を組んで、強めの口調でローに言った。

「さっきからどうしたんだよ、トラ男。もっとはっきり言わねェとわかんねェぞ！」
「この国が毒入りの商品を政府を通して世界中に売りさばこうとしてるって言ってんだよッ！！」
「それはヤベェッ！！　おいッ！　白鎧本当かッ！？」

　急に大変な話が飛び出てきた。
　思わずルフィは隊長に振り返って問い掛ける。しかし、そこにいた彼は顎に手を掛けて首を大きく傾げたままだ。

「白鎧？」
「えッ？　……エッ！？」

　隊長は間を開けてから驚いた声をあげる。それは心の底から予想外だった、というような声音だった。
　この反応にはローも言葉を失う。
　その間にも隊長は「え？　え？　え？」と、こちらが冷静になるほど狼狽えていた。
　ルフィはローを見た。ローもルフィを見た。黙り込んだローにも隊長の混乱が移ったように、困惑が滲んでいる。

[18 二次元好きの匿名さん 23/01/31(火) 22:14:10]

あれ隊長さん知らなかった……？

[19 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/31(火) 22:32:15]

　ならばここはもうルフィが彼に声を掛けるしかないだろう。

「白鎧、トラ男の言ってることに心当たりはあんのか？」
「ええと……そんなふうに思われているなんて知らなくて、今、とても驚いているところだよ」
「うーん、だよなァ」
「あれ？　もしかしてきみが工場で暴れていたのってそういうことなのかい？」

　逆に隊長から聞かれ、ローは顔を歪めながらも頷いた。
　やはり隊長は「えー……」と声を出す。ルフィはそんな彼の様子に首を捻った。

「トラ男、これ多分、白鎧に訊いてもどうにもなんねェぞ」
「……そのようだな」
「あ、待ってくれないかい？　とてつもない誤解があるみたいだ。できればそれを解かせて欲しい」

　慌てたように両手を振る隊長にローは一瞥して溜息をつく。

「愛国心に溢れてるのは結構なことだが、おれはおれ自身が見たものを信じる。
誤解もクソもねェよ。あんたが知らなかったってんなら不幸なことだがな」
「もう。だから、そんな恐ろしいことをするわけないだろう？」

　隊長はローに対して優しく、穏やかな声で言う。
　それはまるで、偶然出会った隣人に雲ひとつない空を指差しながら天気の良さを教えるような、そんな声だった。

「だって――殺すのは天竜人だけなんだから」

[20 二次元好きの匿名さん 23/01/31(火) 22:35:38]

やっぱりかぁ…

[21 二次元好きの匿名さん 23/01/31(火) 22:37:32]

そっちかよ！
十分世界がやばいだろ！

[22 二次元好きの匿名さん 23/01/31(火) 22:42:03]

やっぱり珀鉛は天竜人への報復に使うつもりだったのか……
嗜好品として献上されれば天竜人たちは喜ぶだろうし、毒だなんて思わないだろうからなぁ

[23 二次元好きの匿名さん 23/01/31(火) 22:42:46]

元天竜人の兄弟たちと関係の深いローにとっては本当に因果の深い国だよな

[24 二次元好きの匿名さん 23/01/31(火) 22:43:50]

珀鉛病は治療法も確立されてないし、確実に死ぬだろうなあ
子供たちが天上金として捧げられたこの国の恨みは根深いね

[25 二次元好きの匿名さん 23/01/31(火) 23:17:56]

最初はまた忘れ性で忘れてるだけかなー隊長さん、と思ったらあぁ～...
前から思ってたけど誰かさんの日誌の人だったりしないかな隊長さん

[26 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/31(火) 23:55:37]

　ルフィもローも一瞬、何を言われたのか全くわからなかった。
　そこにいる隊長は十秒前の様子とひとつも変わらない。
　どこか抜けた雰囲気を纏った、のんびりとした男がそこに立っているだけだ。

「……おい、おれの耳はおかしくなっちまったか？」
「白鎧、お前、何言ってんのかわかってんのか」
「うん？」

　兜で彼の顔は見えない。だが、その下でニコニコとしているのだけが、なんとなくわかった。
　彼は笑っている。とんでもないことを口走ったことすら、ルフィたちに忘れさせそうな様子だ。

「ずっと、ずーっと……十三年間、みんなで準備してきたんだよ」

　隊長は柵のあるほうへ踏み出した。
　よく見れば、彼は足の裏を擦るように歩いている。
　柵に辿り着き、そこに手を置いた彼は街を見ろして言う。

「みんなよく働いてくれたなァ。王もね、私たちの提案に飛びついてきてくれたんだ。
あの人は天竜人のことが大嫌いだったみたいでさ。だって、泣きながら私みたいな子供に縋りつくくらいだよ？」
「……おい」
「あ、子供っていうのは昔の話でね。今はほら、ちゃんと大人になれたから」
「――おいッ！！」

　ぺらぺらと喋り出す隊長にルフィは吠えた。
　すると、彼はきょとんとした様子でルフィに顔を向ける。

「ルフィ君、どうしたんだい？」
「どうしたって……お前がどうしたんだよ。何の話してんだ、意味がわかんねェ……！！」
「私？　私はどうもしないよ。ああ、でも、そうだね。
ふふ、夢が叶うかもしれなくてワクワクしてる、かな」

[27 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/31(火) 23:56:36]

　子供のような無邪気さで彼は言う。
　本気の声だった。そこに邪悪さも怒りも嫌悪も存在しない。
　――そんなもの、何処かに落として来てしまったかのように。

「美味しい美味しいって飲んだり食べたりした物で死ぬことができるんだ。それってすごく幸せなことだよね」
「……反吐が出そうだ」

　吐き捨てるように言ったのはローだ。
　彼は怒りで手を震わせ、隊長を睨みつけた。

「歴史を見りゃあ、確かにこの国は天竜人に対する恨みはデカいだろうよ。
だが、まともじゃねェのはテメェらもだろうが……ッ！！」
「あれ、もしかしてまだ誤解されている気がするな。
……ああ、でも確かに王様は恨みつらみっていうものかもしれないなァ。大変だよね、そういうの」
「白鎧……おれらは真面目に話をしてんだ」

　ルフィは拳を握り締めて言う。
　この段階になっても彼からはこれっぽっちも悪意というものが感じられない。
　だが、それこそが異常なのだということをルフィは肌で感じ取っていた。

「お前、おかしいぞ」

　ルフィの言葉に隊長は黙り込む。
　風が吹いた。雲が動き、月明かりが差し込んでくる。
　彼が身に纏う、純白の鎧が鈍く輝いた。

[28 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/31(火) 23:57:38]

「……この街がどうして白いか知っているかい？」
「は？　知らねェよ、なんか貝殻の粉を塗ってんだろ」
「おい、話を逸らしてんじゃ……」
「――〝フレバンス〟を真似してるんだよ」

　ローの言葉が途切れた。ルフィは眉間にしわを寄せる。

「フレバ……？　なんか、どっかで聞いたような……」
「真っ白でとても美しい国だよ。……この国にはね、病気のお姫様がいたんだ。
とても長く生きられない命で、病に伏せてからはいつもベッドの上で本を読んでいたらしい。
そんな自分の子があまりに不憫になった王はね、その子がいつか行ってみたいと言った白い町を真似したんだ。
だって、本物の町にはどうしたって行けないからさ」

　隊長が見降ろす街は白い。
　月明かりが街にまで差し込み、キラキラと輝く光景は確かに本の中にいるようだった。
　そうして彼は嬉しそうに声を綻ばせる。

「だから私――『ぼく』はこの街が好きなんだ」
「……？　白鎧……？」

　彼は街から視線を外し、再びルフィたちに振り返った。
　そして緩やかに顔をローに向ける。ルフィも釣られるようにして、隣に立つローを見た。

「……トラ男？」

　ローの顔からは表情らしきものは失われていた。

[29 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/31(火) 23:58:52]

「お前……」

　狼狽するローとは異なり、隊長は無邪気に告げる。

「ロー君、きみと会えて良かった。こんな形になってしまったことは驚いたけど」

　隊長が身じろげば、カシャン、と鎧が擦れる音が響いた。

「トラファルガー先生にはお世話になったから、お話してみたかったんだよね」
「――――ッ！？」

　ローが鬼哭の柄を握り締めた。ルフィは目を瞬かせてふたりを交互に眺める。

「え？　お前ら知り合いか？」
「いいや、初対面だよ。……うん？　多分？」
「なんだよ、紛らわしいな。トラ男は知って……トラ男？」

　ルフィが声を掛けてもローから反応はない。
　だが、彼は宙に片手を浮かし、瞬く間にその能力を解放する。
　体を包み込む半透明の空間は全てローのテリトリー――手術室と化す。
　鞘から抜かれた鬼哭が青白い光を放った。それは体を切開するものではない。
　光が体を通過していくのを感じ、思わずルフィは自分の腹や背をぺたぺたと触った。

「トラ男、こんな時に何して……」

　カラァン、と音が響く。
　顔を向けると鬼哭の鞘がローの足元に落ちていた。ルフィはその鞘から視線を徐々に上げていく。
　そうして最後に見えたのは、青くなったローの顔だった。

「……なん、で」

[30 二次元好きの匿名さん 23/02/01(水) 00:00:23]

これ、本当に本人かな
珀鉛病で逃れてきた子は確かにいても実際オペオペでどうにかなった病気が治るとは思えない

[31 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/01(水) 00:01:10]

　喉を震わせて出た声は、ローの動揺をありありと伝えていた。
　彼は一歩踏み出し、そして、叫んだ。

「なんでそんな体で生きているッ！？　ありえねェッ！！」
「お、おい、トラ男……？」

　その気迫に流石のルフィも一歩下がった。
　しかしそんなことにも気づいていないのだろう。ローは隊長に詰め寄る。

「よく転ぶ？　ドジ？　ハッ……そんなもんじゃねェよ、ふざけんな……！
そもそもその足で歩けること自体がおかしいんだよッ！！
胃腸も脳も珀鉛でボロボロじゃねェか！！　なんで、どうしてお前は……ッ」
「痛いのも苦しいのも慣れちゃったからね」
「違うッ！！　もうお前には……苦痛を感じる機能も残ってねェだけだ……！
いつからだ……ッ！？　治療すればまだ命までは――」
「十六年前からだよ」

　ヒュッ、とローの喉が鳴った。
　ルフィはただ、そのふたりを眺めて立っている。
　ローが必死に訴えている間も、隊長の様子には変化がなかった。
　そこにいるだけだ。人から寄せられる感情に少しも揺らがない。
　まるでそういう『物』のように佇んでいた。

「……馬鹿を、言うな。珀鉛病だ。数年で死ぬ。お前は、末期だ。もうとっくに、死んでいたって……」
「うん。きみの言うことは何も間違ってない。だって『ぼく』は十三年前に死ぬはずだったから」

　彼はローの胸を軽く押して距離を作る。
　そして自身の胸の上に手を置いて、嬉しそうに言うのだ。

「でも、友達が『ぼく』に魔法を掛けてくれたんだ。だからこうして『ぼく』は生きている」

[32 二次元好きの匿名さん 23/02/01(水) 00:01:26]

うおあああああ……トラ男大丈夫かよ

[33 二次元好きの匿名さん 23/02/01(水) 00:02:09]

トラ男の精神耐性テストですねこれは()

[34 二次元好きの匿名さん 23/02/01(水) 00:02:45]

もうこの子心も体もぶっ壊れているな
あと実は女の子だったりしない？

[35 二次元好きの匿名さん 23/02/01(水) 00:03:47]

治療法ないけど状態維持します的な？
いっそ地獄･･･

[37 二次元好きの匿名さん 23/02/01(水) 00:07:23]

末期の状態のまま13年間固定されてるのか…？

[38 二次元好きの匿名さん 23/02/01(水) 00:07:33]

もしかして天竜人の女の子が魔法をかけて延命してたのか？
例えばトメトメの実の停止人間で症状を抑えることができたとか
元天竜人のコラさんに魔法を掛けられて助かったローと同じだねワーイ

[39 二次元好きの匿名さん 23/02/01(水) 01:56:51]

これはつまり隊長さん=白粉操る能力者＝××ちゃんってことになるのか...クソ野郎を見すぎた結果こうなっちゃったと...
××ちゃんとしての「私」は死んじゃったけどお友達＝誰かちゃん=ピエロ?が魔法をかけてくれたから「ぼく」として生きられるようになった、って感じかな一人称が変わってるあたり
誰かちゃんは器を生み出したり操れる能力で、それで××ちゃんの体を器に変えて体の成長を止めた。

読み返して思ったけど誰かちゃんの記憶に出てきた■って仲介者かな？
だから誰かちゃんが化け物=能力者になった時に奴隷の数をより簡単に増やせるって思考で喜んだんじゃないかなと、その後すぐ死んじゃったけど

[40 二次元好きの匿名さん 23/02/01(水) 02:30:45]

ローにとってのifの姿か…
でもなんとなくローは堕ちても珀鉛は使わなさそうな気がする

[41 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/01(水) 08:09:46]

　その姿は誇らしげでもあった。
　ルフィは彼を眺めて、麦わら帽子のつばを掴んで軽く持ち上げる。
　――言葉が届かぬ者など、この世にはいくらでも存在するのだ。
　そしてその内のひとりが今、目の前にいる男であっただけで。

「……トラ男、無駄だ。こいつにはなんも話が通じねェぞ」
「麦わら屋は黙ってろッ！！　魔法だかなんだか知らねェが、お前は正常じゃねェんだよ！！
そんな体でおれの前をうろちょろされるほうが迷惑だ……ッ！！」

　ローは宙に手をかざす。今から手術でも始めそうな気迫だ。
　きっと、彼自身はそのつもりだったのかもしれない。
　だが、それを止めたのは隊長だった。

「ダメだよ、ロー君。きみはそんなことをしている場合じゃないだろ？」
「おれに命令するな。患者は患者らしく大人しく治療されていろ」
「……すごいね。治せるつもりなんだ。ああ、いや、本当にできるのか。うん、きみを見ていればわかるよ」

　隊長はひとりで問い掛け、ひとりで納得している。
　そして彼はおもむろに己の兜に手を掛けた。カシャ、と金属の擦れる音と共にそれが外される。
　冷たい風が柔らかな髪を撫で上げた。

「ッ……！」

　元は亜麻色の髪の毛だったのだろう。だが、頭頂部のあたりを残して、それ以外はすべて白色に染まっていた。
　髪だけではない。肌の色は蝕まれたように無機質な白で覆われ、鼻の上だけが僅かに肌色が見えていた。
　よく見れば目の下の血色は悪く、濃いクマのようでもある。
　ルフィでもわかった。彼は病人だ。ベッドの上で今にも息絶えそうな、そういう姿をしていた。

[42 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/01(水) 08:10:39]

　彼は兜を脇に抱え、己の髪を指で摘まんで笑う。

「ちょっと中途半端だよね。いっそのこと全部白くなれば綺麗だったのに」
「……なんにも笑えねェよ。ジョークのつもりか？」
「そうじゃないけど……。おかしいなァ。あの子は綺麗だって言ってくれて……あれ？
あ、それはもうダメだったんだ。うーん、気を付けないとあの人に怒られちゃうな……」

　頭を掻いて、彼は肩を竦めた。
　顔が見えると途端に幼さが目立つ。見た目の話ではない。その表情と振る舞いが子供のように目に映るのだ。

「でも本当に、この姿にも価値があるんだよ」
「どうでもいい。……さっさと解体すか」
「うわァ、ロー君、顔が怖いよ。嘘じゃないって。だって『ぼく』を助けてくれた海兵のお兄さんが教えてくれたんだ」
「……ああ？」

　ローが低い声で凄んだ。
　今にも首を斬り落とし、よく喋る口を縫い付けでもしそうな気配だった。なんとなくルフィは自分の口をキュッと閉める。
　もちろん隊長にはそんな空気も伝わらない。
　彼はローの様子を気にすることもなく微笑んだまま小さく首を傾げ、青ざめた唇を開いた。

「――生きた珀鉛病患者は高く売れるんだ、って」

　何の話をしているのか、ルフィにはわからない。
　ただ、ニコニコと笑う彼の瞳の色が白く濁ったグレーだということに今更気づく。

「何処に行っても化け物だって殺されそうになっていた『ぼく』にも価値があったし、生きていて良い場所があったんだ。
だから大丈夫。『ぼく』はこのままで良いんだ。この体じゃなければ『ぼく』には何の価値もないんだし」
「……胸糞悪くて吐きそうだ」

　もはやローのほうが病人に近い顔色をしている。しかし、その目に宿るのは確かな怒りであることはわかった。

[43 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/01(水) 09:11:09]

「テメェがどんなクソ野郎に会ったのかは知らねェが不幸自慢に興味ねェ。
おれはテメェを治療する。テメェは大人しく治療される。必要なのはそれだけだ」
「……そっか」

　隊長は緩やかに頷き、そしてルフィたちから視線を外して夜空を見上げた。
　星と月があるだけの空に目を細めた彼は言う。

「じゃあ尚更早く帰ったほうが良い」
「……なんだと？」
「実はね、少し前にきみたちの船に寄ったんだ。鍵を渡そうと思って。
まァ、きみたちは留守だったんだけど」
「おれたちの船に？」

　ルフィとローは顔を見合わせる。
　隊長は兜を被り直し、ゆっくりと歩き出した。
　ルフィたちの横をすり抜けていく彼の背にローが何かを言おうと口を開くより先に、彼は言葉を続ける。

「ルフィ君には言ったっけ？」

　振り向いた彼は兜の下で、きっとあの微笑みを浮かべていたのだろう。

「〝あんまり勝手なことをしたら、大切な人たちを失ってしまうかもしれないよ〟」

[44 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/01(水) 09:11:54]

　その瞬間、ルフィの視界にもうひとつの世界が重なる。
　戦いの中で研ぎ澄まされた見聞色がルフィに与えた恩恵。見えたのはほんの少し先の未来だ。
　ほぼ反射的にルフィはローの腕を掴み上げた。

「なッ……麦わら屋！？」
「……トラ男、ダメだ。能力使うな」

　ローが何をしようとしたのかわかっている。見えたからだ。
　彼もまた、隊長の言葉に嫌な予感がしたのだろう。
　だから――〝シャンブルズ〟による瞬間移動で船に戻ろうとした。そしてそれには数秒も掛からない。そんな未来だ。
　しかし、その未来の最後に見えた光景にルフィはふつふつとした怒りが湧き上がる。

「トラ男は体力残しとけ。おれが運ぶ。
……船に着いたら、おれにはやれることがねェから」

　ローが息を飲む。文句らしいものも上がらない。
　ルフィの怒りを正面から受けてなお、隊長に変化はない。手応えのなさが彼の人間味のなさを表している。

「白鎧――あとで殴りに来るから待ってろよ」

　彼が病人でもなんでも関係ない。
　すでにルフィにとって決定事項だ。

　きっと、それをわかっていても彼は笑っていた。

[45 二次元好きの匿名さん 23/02/01(水) 12:18:47]

もしやクルー達が吸わされてたのって……？

[46 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/01(水) 12:41:18]

★エンディング分岐に関わる選択肢は終盤になります。
★エンディング分岐までの選択肢はストーリー差分、もしくは読者向けの情報開示になります。
★【××の記憶】を再生します。
――――――――――
　――××は白い町で育ちました。
　それももう随分前のことです。
　行き場を失った××は様々な街や村に足を運びましたが、その度に『ホワイトモンスター』と呼ばれて銃を向けられ続けました。
　まだ小さな子供の××には身を守る術も、守ってくれる大人も近くにいません。
　いつだって命からがら逃げ出していました。
　唯一の持ち物である二冊の本を大切に大切に抱えて、ゴミ捨て場の残飯や食べられそうな野草で命をつなぎました。
　そんな生活を続けて一年は経ったでしょうか。
　病も進行して、弱りきって倒れていたところに優しく声をかけてくれる人がいました。
　それは海兵のお兄さんです。
　××は海兵が好きでした。
　彼らは海と弱き者を助ける正義の味方。そして××も好んで読む英雄譚のヒーローのモデルだったからです。
　白い体の××を恐れることもなく、海兵のお兄さんは美味しいお茶とおにぎりをくれました。
　久々に人の温かみに触れて、××は泣くほど嬉しくなったのを覚えています。
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[47 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/01(水) 12:42:46]

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　海兵のお兄さんは××を何処かに連れて行ってくれました。
　白い毒に侵された××でも受け入れてくれる場所があるのだと言うのです。
　すっかり海兵のお兄さんのことを信頼した××は倒れそうになる体を何とか引きずって、彼に着いて行きました。
　そして、辿り着いた場所には様々な人がいました。
　肌に鱗がある人。手や足の関節が多い人。体がとてもとても大きい人。普通の人であっても美しかったり逞しかったりと特徴があります。
　もし全員に共通点があるとすれば、檻の中に入って首輪や手錠をしていることです。
　怖くなった××は海兵のお兄さんの手を繋ごうとしました。
　しかし、その手は振り払われました。かわりに××の手を取ったのは、そこの場所の偉い人でした。

「よく生きた状態のを見つけてくれましたね！　見つかるとすぐ殺されちまうっていうのに！
アアッ、本当に肌が白い！　いやァ、死体しか手に入らなくて辟易してたんですよ！
そもそもお客様も無茶な依頼をなさるもんで。どうやってあの国境を越えてきたんだか……」
「生き汚いガキがいて助かったな。それより手短に頼むよ。おれも忙しいんだ」
「わかってますわかってます。ではこちらが報酬です。またよろしくお願いしますよ」

　海兵のお兄さんが重そうな大きな包みを受け取ります。
　呆然と彼を眺めていれば、××の視線に気づいたのでしょう。
　彼は笑みを深めて××に言いました。

「ホント生きてて良かったよ。生きてるのは高く売れるんだ」

　ああ、なるほど。と××は理解しました。
　この世にはヒーローなんてものは、そもそも存在していなかったのです。
　遠ざかる背中を××は檻の中から眺め続けました。
　ずっとずっと眺め続けました。
――――――――――
【再生終了しました】

[48 二次元好きの匿名さん 23/02/01(水) 12:45:41]

海兵･･･！！！

[49 二次元好きの匿名さん 23/02/01(水) 13:22:37]

ネズミとかラーテルみたいな金目的のクソ海兵がよぉ！！
いい海兵さんがいる一方でこんな奴らがいるってのがもう最悪だ…

[50 二次元好きの匿名さん 23/02/01(水) 13:42:34]

海兵のコラさんに助けられたローと本当に対照的な人生だな…

[51 二次元好きの匿名さん 23/02/01(水) 15:48:14]

これ船にいた皆はホワイトモンスターになったな…

[52 二次元好きの匿名さん 23/02/01(水) 18:08:24]

まぁ復讐する権利もある気がするんだが、珀鉛使うのはなぁ……
もう何が正義なのか分からなくなってきたけどひたすらローのメンタルが心配だ
これでハートのクルーが珀鉛病に罹っているの見たらキツすぎるだろ

[53 二次元好きの匿名さん 23/02/01(水) 18:21:10]

珀鉛病の子どもを奴隷商に売り払ったのがよりにもよって海兵さんなのが憎いな……
精神ぶっ壊れて死に際にようやく終わる……ってなるほど追い詰められてもおかしくないよ

[54 二次元好きの匿名さん 23/02/01(水) 18:48:55]

天竜人の女の子が天竜人の父親を殺したのかな……？

[55 二次元好きの匿名さん 23/02/01(水) 19:46:24]

生きてるのは高く売れるって死んでるのも売れてるってこと？
お客様ってこの感じだと王様なのかな...珀鉛を手に入れたのも
××ちゃんの操る粉って石灰とかかね、早く船に戻ってみんなの身体に入っちゃった粉を取り除いてくれトラ男...その後は休んでくれ肉体的にも精神的にも

[56 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/01(水) 22:20:37]

サニー号⇒麦わらの一味（ルフィ）

　サニー号は崖の影に隠れた場所に錨を降ろしていた。
　波の音がやけに響いて聞こえるのは、普段は騒がしい船員たちの声がないからだろう。
　ルフィはローを担ぎ上げて何度も腕を伸ばして、出来うる限り最短の速さでその場に辿り着いていた。
　崖下には確かにサニー号とポーラータング号がある。
　ふたりはそれを見下ろして少しの間、言葉を失った。
　だが、その時間すら惜しいと、ふたりはそのままサニー号の上へ飛び降りる。
　慣れた芝生の感触に何かを思う暇もない。

「ッ……ああ、ルフィさん！　トラ男 さん！　無事に戻ってきてくれたんですね！！」
「ブルック！」

　真っ先にふたりを迎えたのはブルックだ。
　彼は自慢のアフロはなんだか粉っぽく白くなっていた。
　しかし、それよりも彼の足元に並べられている見慣れた者たちの姿にルフィたちは足を止める。

「あ……キャプテ、ン……」

　薄い笑みを浮かべて気怠そうに手を挙げたのはシャチだ。
　すぐ膝をついたローが彼の手を取った。

[57 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/01(水) 22:22:06]

「お前、これ……」

　ローの言葉が詰まって続かない。その理由はルフィにも理解ができた。
　周囲をぐるりと見渡す。ハートの海賊団の中にはルフィの仲間たちも混ざっている。
　だが、そんな彼らの肌に見えるものに息を飲んだ。

「……みんな、白鎧とおんなじじゃねェか」

　船の上に倒れる彼らの肌は白に侵食されていた。
　人の熱を感じさせない、無機質な白色はあまりに不自然なものとしてそこにある。
　そして、確かに未来を見る見聞色で垣間見た光景と一致した。
　ひとりだけ立っていたブルックは手に持っていたタオルを握り締めて、感情を堪えながら言う。

「敵襲がありました。……粉のようなものを操る能力者です。船上にいた方々は全員巻き込まれて……。
粉の量が落ち着いたと思ったら、もうこんな状態に。
皆さん、熱が出て皮膚に痛みも覚えているようです」
「……わかった。ブルックはなんともねェんだな」
「はい、私は……こんな体だからですかね」
「だから看病できたんだろ。ありがとな。
それと……戻ってくんの遅くなって悪ィ」

　ルフィの言葉にブルックが、ぐ、と堪える。
　本当ならばルフィたちを呼びに行きたかっただろう。
　しかし、こんな惨状で何の守りもなく船を離れることだってできなかったはずだ。

[58 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/01(水) 22:23:14]

　ローはひとりひとりの容態を見ている。
　彼本人の顔色が悪いのは横から見ていてもよくわかった。

「トラ男、これ」
「……ありえねェ、なんで、これが……」

　黒い髪をくしゃりと握り込んで、吐き出すように言った。

「こんな、短時間で――何をしやがったんだあいつ……！！」

　混乱と怒りが渦巻いている。
　そんな彼の服の裾をシャチとペンギンが引っ張った。
　
「キャ、キャプテン……」
「喋んな！　とにかく『珀鉛』の除去を……ッ！」
「おれら、あとで、いいから」
「……は？」

　ローの声が震えた。
　シャチたちは這うようにして、船の一角を指差す。その白く染まった指の先をローとルフィは見た。

「ぁ……トニー、屋？」

　そこにいたのはチョッパーだ。いや、きっとチョッパーなのだろう。
　体のほとんどを白く染めた彼は、小さな体をさらに小さく丸めて動かない。
　ルフィは目を見開いて駆け出した。

「チョッパー！！　おい！　大丈夫かッ！？」
「……あ、る、ふぃ。よかった、戻って…きてくれた……」

[59 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/01(水) 22:24:07]

　頭をわずかに持ち上げ、チョッパーは苦しそうに息を吐き出した。
　そんなチョッパーの傍にいたのはロビンだ。彼女もまた白くなった頬を歪めて、ルフィに小さく微笑みかける。
　ルフィがチョッパーの体を抱き上げると、普段よりも体温が高いことがわかった。
　毛皮に入り込んだ白いものがざらついて、触り心地だって悪い。
　ペンギンが、くい、とまたローの服の裾を引く。

「キャプテ……ン、麦わらの、とこの船医……先に治して、やって……」
「あいつ、ちっこくて、一番体おかしくなるの、早かったのに……薬とか作って、みんなの様子見るために動き回って……」
「おれら、まだ、全然へーき、ですから……」
「――ッ！」

　ローの目に迷いが生じる。
　ルフィには何が優先させるべきものなのかはわからない。そういうことは全部チョッパーがやってきたからだ。
　すると、シャチが笑うように言った。

「トリアージくらい、ちゃんとできんでしょ、キャプテン……」
「……おれに、命令すんな」

　立ち上がったローが荒く息を吐く。
　そして宙に手を翳し、瞬く間にサニー号とポーラータング号を〝ROOM〟に閉ざした。

[60 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/01(水) 22:25:42]

「ふざけるな……ふざけんじゃねェよ……。こんなの、おれは認めねェ……！」

　ローが手を振るたびに船員たちの位置が変わる。
　まるでパズルのように整列させられていく彼らにルフィは視線を巡らせるだけだ。
　そしてふいに腕の中が軽くなる。視線を落とせばチョッパーが消えていた。
　顔をローに向けると、彼の足元にチョッパーが寝転がされている。
　チョッパーも己を見下ろすローに気付いたのだろう。蹄のある手を小さく振った。

「トラ男……おれ、薬作った、から……。
今日、ずっとさ、考えてて……まさか、ほんとに作ることになるって、思わなかった、けど……。
でも、多分効くはずなんだ、だから……」
「……ああ、お前が作ったもんなら確かだろ。だけどそれも後だ。今は大人しくしてろ。
おれひとりじゃ……手に余る」
「エッ、エッ、エッ……ごめ、んな。動けるように、なったら、ちゃんとやる、から」

　ローが唇を噛み締める。歯が唇の表面を破って僅かに血が滲んだ。
　そしてローは告げた。

「麦わら屋」
「おう」

　様々な感情を抑えた声は、低いのにやけに響いて聞こえた。
　彼は鬼哭を抜いて、鞘を投げ捨てて言う。

「今から全員緊急手術だ。おれはこれだけに集中する。
――外から余計なもんが来たら全部テメェに任せる」
「おう、おれも――おれの仲間をトラ男に任せる」

[61 二次元好きの匿名さん 23/02/01(水) 22:28:22]

あ～トラ男頑張って……
船長同士の結束力に涙出てくる

[62 二次元好きの匿名さん 23/02/01(水) 22:29:44]

天竜人への報復を考える彼らにも大義名分はある気もするが、これはもう麦わらと死の外科医に計画めちゃくちゃにされるな…

[63 二次元好きの匿名さん 23/02/01(水) 23:20:26]

辛い...でもこれでもちゃんと自分の役割理解して動けるのはすごいよ...
確実に××ちゃんの夢は邪魔されるけど、夢を邪魔される理由も怒りをぶつけられる理由も彼は理解できないんだろうな...××ちゃんも救われてはほしいがその役目を持ってるのはピエロだろうし
メンタル負けしないでくれ船長たち...

[65 二次元好きの匿名さん 23/02/02(木) 11:13:37]

××ちゃんって何で名前忘れてるんだと今思った。
脳がやられてるにせよピエロやおじ様たちは名前を呼んでないのかな、それとも白い体に価値を見出しちゃってるからホワイトモンスターと呼んでほしいって言ってるのかな

[66 二次元好きの匿名さん 23/02/02(木) 11:26:04]

大切な身内
使った毒が珀鉛
1人どころか複数人

海賊である死の外科医の地雷踏み荒らしてるな白鎧ちゃん…
さて、ここまでやって望みが叶うかな？

[67 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/02(木) 12:40:12]

　――夜が更け、月が隠れ、空が白んできてもローは手術を行い続けた。
　船の上では時折、苦痛に呻く誰かの声が波の音に混じる。彼はひとりひとりに小さく声をかけ、その意識を保たせていた。
　彼の額には大粒の汗が浮かび、疲労を濃く知らしめている。
　それでも弱音も吐かず、船員たちの体を解体しては丁寧に処置を行っていた。
　船員たちも謝罪と感謝の言葉だけを口にする。
　おそらく今の彼を見て、『海賊』と呼ぶ者はいないだろう。
　ルフィもまた、微動だにせず船に近寄るもの全てを監視し続けた。
　潮風の動き、匂い、野生の獣が発する気配をつぶさに感じ取る。何ひとつ逃すことがないように。
　そもそも獣もルフィの発する気迫に怖気付くようにして、船のある崖に近づかない。
　朝焼けの空に鳥が飛び始めても、サニー号の上には全く寄り付かなかった。
　真っ先に治療を終えたチョッパーはブルックの傍で眠っている。
　彼自身が作ったという薬も投与しているらしい。寝顔に苦しみは見えなかった。

「麦わら屋」

　手術を始めてから何時間経ったのだろう。朝日は完全に昇っていた。
　初めてルフィに対して呼びかけたローが振り返る。
　いつも目の下にあるクマが、さらに濃く見えた。
　ルフィもわかっている。彼が今、向かい合っていた者が最後のひとりだったと。

「……色々言いてェことはあるが、ひとまず終わりだ」
「おう」
「トニー屋の薬の投与も終わった。
片付けとか、急変しねェかとか、本当なら見ていないといけないわけだが……」
「おう、わかった」

[68 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/02(木) 12:40:56]

　ルフィは立ち上がって足を踏み出す。そして崩れ落ちたローの腹を片腕で受け止めた。
　全く力の入ってない体の重みを感じながらルフィは言う。

「わかったから寝てろ。もう大丈夫だ」

　返事はなかった。すでに気絶したような形でローは意識を手放している。
　ひとまず他のハートの海賊団の船員たちの近くに寝かせ、ブルックが引っ張り出してきていた毛布を被せた。
　そしてサニー号の甲板を見渡す。
　均等に整列させられた状態で眠りに落ちている、両船の船員たちからは苦しみの音は聞こえない。
　ローが除去したという白粉――『珀鉛』が詰まった透明な器は船の隅に何個も積み重なっている。
　ただ、ルフィは静かにこの異常な光景を眺めていた。

「なァ、ブルック」
「はい、ルフィさん」

　少しの間も開けず、返事が来る。
　ブルックの手の中にはチョッパーの帽子があった。彼は大切そうに抱えたそれを、そっとチョッパーの横に置く。

「おれ、ぶっ飛ばさねェといけねェ奴ができた」
「ええ――お供しますよ。何処へでも」

　やがてチョッパーも目を覚ますはずだ。
　きっと起きてすぐに彼はローに代わって、忙しそうに走り出すだろう。
　目を焼くような朝日に顔を向け、そしてルフィは麦わら帽子を押さえるように傾ける。

　怒りで滾る血は、ルフィに空腹を忘れさせるには十分だった。

[69 二次元好きの匿名さん 23/02/02(木) 19:10:52]

ブチギレルフィ良い…

[70 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/02(木) 19:45:36]

★2日目夜が終了しました。

3日目午前
サニー号/視点チェンジ
⇒麦わらの一味（チョッパー）

「おれたち、べつに『珀鉛病』にはなってはねェんだ」

　そうチョッパーが言えば、周囲の者たちはだいたい首を傾げた。
　――悪夢のような白い夜を越え、真っ先に目を覚ましたチョッパーは目の前に広がる光景に慄いた。
　ローが治療をしてくれたということはわかっている。この人数を夜通し手術してしまったという彼の無茶は、心配もあれど、同じ医者として敬意を払うことでもあった。
　しかし、その反動でローは体力を根こそぎ――むしろ限界を越えてしまったのだ。
　今もまだ死んだように眠っている。
　起き出してきたハートの海賊団の船員たちなど、いまだに調子の出ない体を引きずって泣き出す始末だった。
　だからチョッパーはその後のケアをそれぞれに行った。ローほど『珀鉛』に対する理解が及んでいないことはわかっている。
　しかし、医者としてバトンを渡されたのだから受け取らなくてどうするというのか。
　今までも未知の病に対し、解析と対応はし続けてきたのだ。今回もまた、それと同じである。

「……珀鉛病じゃねェって……いや、おれたち、ほら、なァ？」

　驚いた様子でシャチが自分の体を指差す。
　彼の言いたいことはわかっていた。チョッパーもあの論文を机の上に広げて頷く。

「確かに症状は『珀鉛病』と同じだった。でも皮膚の痛みや発熱、その他の不調も急激に濃い毒素を与えられたせいだ。
肌が白く染まったように見えたのだって、かなり細かい珀鉛の粉末が毛穴まで入りこんで固まってたからだな」

[71 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/02(木) 19:49:02]

　そう説明しながらチョッパーは珀鉛の粉末が入った瓶を前足で持つ。
　傾ければさらさらと揺れるそれは、信じられないほどきめ細かい粒子になっていた。

「肌の色が変色したら、こんなすぐに元には戻らねェ。
肌の新陳代謝の速さにもよるけど……数ヶ月かけてゆっくり白色が薄くなっていくんじゃねェかな」

　そんなことを言えばシャチやペンギン、ベポあたりが少し顔を見合わせていた。
　何か心当たりがあったのだろう。
　チョッパーは特に気にせず、珀鉛の入った瓶を机に置いた。

「トラ男もそこはわかってて、オペオペで皮膚の表面と体内に入った粉末を全部取り除いたんだと思う」
「……この細かい粉の一粒一粒を？」
「この細かい粉の一粒一粒を、だ」

　チョッパーの答えを聞き、ハートの海賊団の船員たちは腕で目元を押さえておいおいと泣き出す。
　嗚咽に「キャプテェ〜ンッ！」などという鳴き声が混じった。
　気持ちはわかる。オペオペの力がなければ、血液の中に入り込んだ粒子を捉えることはできなかっただろう。
　そして、だからといって簡単なことではない。むしろ神経をさらにすり減らすような気の遠くなる作業である。
　それをたったひとりで、この人数の患者相手にやってのけてしまったのだ。

「おれ、今までもキャプテンに解体されたことあるけど頭まで割られたの初めてだったな……」
「流石に脳まで入っちまうとヤベェからな。
一応言っとくけど……今回は擬似的な状態になっただけで、あのままなら本当に珀鉛病になってたんだぞ」
『えっ』

[72 二次元好きの匿名さん 23/02/02(木) 22:37:25]

白い肌なんてトラウマしかないだろうに体内に入り込んだ粉一粒一粒を摘出したロー、改めて凄いな…
精神にも肉体にも疲労が溜まっただろうにやりきるのは医者の鏡だし己のプライドもあったんだろうな…

[73 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/02(木) 22:38:13]

　体内から取り出された珀鉛の粉末をチョッパーも分析をしたのだ。
　そして、その毒性の強さに驚きを隠せなかった。

「論文には珀鉛に含まれている毒性はごく微量だってあったけど、これは違う。
どうやったかわからねェけど猛毒になってんだ。
トラ男がさっさと除去してくれなかったら……その毒が回って本当に珀鉛病を発症していたと思う」

　まさにスピード勝負だった。今も毒の影響で皮膚がぴりついているのだ。
　だから暫くは油断せずに中和薬を飲んだほうが良いとチョッパーは考えていた。

「……本物の珀鉛病も、あんなに痛くて苦しいの？」

　ベポが青い顔で問い掛けてくる。
　チョッパーは少し考えてから首を振った。それは悪い意味での否定だ。

「……珀鉛病になっちまったら、もっと酷い。
中毒の性質で考えれば慢性的にあれ以上の苦痛が付きまとうし、珀鉛の毒で体がどんどん壊れてく。
重症になっちまったら人格や記憶にも異常を引き起こすかもしんねェ」
「……そっか、ホントに、ホント、酷い病気だったんだ。……治って、良かったァ」

　涙声で小さく呟くベポの背中を、シャチとペンギンが無言で軽く叩いた。
　ふいに、チョッパーの前から珀鉛入りの瓶が取り除かれ、代わりに大きな白い皿が置かれる。

「おら、解説も良いけど飯も食え」
「あッ！　わたあめサンドだーッ！」

　サンジ特製の、ふわふわのわたあめが挟まれたサンドイッチによだれが出る。温かいミルクも一緒についていた。
　渡されたおしぼりで前足を拭いて、やわらかくて甘いサンドイッチにかぶりついた。

[75 二次元好きの匿名さん 23/02/02(木) 22:41:16]

ベポが言ってるの、自分の事じゃなくてローについてだろうなぁ
治ってよかったよな本当に…

[76 二次元好きの匿名さん 23/02/02(木) 22:48:52]

ベポが言ってることの真意を理解してるペンシャチ好きだよ
毒性が強いってホントに殺しに来てるな...サンジもワイン飲んじゃってたけどキャプテンが一緒に取り除いてくれてるだろうから良かったね、というか危なかったね...

[77 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/02(木) 23:59:55]

「うおお……しみるゥ……！」
「体も頭も使ったしな。お前らもさっさと食え食え。冷めちまうだろ」
「ありがてェけど……お前、もうそんなに動いて大丈夫か？」

　シャチの言葉にサンジは鼻を鳴らした。

「こう見えて結構頑丈なもんでね。……それにローがこんなに頑張ってくれたんだ。
おれらも今の内にやれることやっとかなくちゃいけねェだろ」

　チョッパーはサンドイッチを食べる手を止める。サンジの言う通りなのだ。
　ルフィからこの国――あの男の真の目的は聞いた。
　世界中に毒をばらまくわけではなくて良かった、などとチョッパーは考えない。
　腹や胸の内にわだかまる気持ちの悪さは怒りか、哀しみか。
　残っていたサンドイッチを口の中に押し込め、ホットミルクで流し込む。
　そして空っぽになったマグを机の上にドンッと置いた。

「おれッ、絶対にあいつを止めなきゃなんねェ！
相手が誰だとしても、こんなの絶対に間違ってる！」
「……〝天竜人の抹殺〟か」

　ずっと黙り込んでいたジンベエが口を開いた。まだ熱が残っているため、その頭には氷嚢が乗ったままだ。
　世界貴族である天竜人を殺す計画。それだけ聞けば荒唐無稽であまりに馬鹿げた話である。
　しかし、彼らは本気でやろうとしているのだ。
　十三年間、殺意を隠して政府に腹を見せ、計画実行の瞬間を待ち続けていた。
　その手段がこの、珀鉛を利用した天竜人に対する献上品だ。

「おれとトラ男が工場から持ってきた酒、さっき分析してみたんだ。
……あんなの飲み続けてたら数十年どころじゃねェ。下手すりゃ数年で……珀鉛病を発症しちまう」
「なんと……」
「……元々の珀鉛病は確か百年近く経ってから、一気に発症したのよね？」

[78 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/03(金) 00:02:43]

　ロビンの問い掛けにチョッパーは頷く。
　ゆえに本気であることが窺えるのだ。世間的に珀鉛病の治療法は存在していない。
　だからもし数年後に天竜人の間で珀鉛病が広まったとしても、すぐに治せる医者はいないのだ。

（……トラ男なら治せるだろうし、おれの作った薬も役立つとは思うけど）

　チョッパーたちは海賊だ。
　いくら治療法を訴えたところで信用してもらえないどころか、武器を向けられかねないだろう。
　天竜人に対して、チョッパーも良い感情は持っていない。
　だが、それとこれとでは話が違う。どんな者であっても患者は患者だ。
　毒と病を利用して人の命を奪う行為を容認していいはずがない。

「数年って……。おいおい、そりゃホントかよ。それはその、危なかったな……」

　何故かウソップが顔を青くした。
　チョッパーが首を傾げれば、彼はサンジを指差す。

「こいつ、ルフィが取ってきた酒を味見したんだよ。それにその珀鉛とかいう毒入ってたんだろ？」
「あッ！？　ウソップ、テメェ黙ってろ馬鹿ッ！！　別にもう終わった話だろ！！」

　サンジが慌ててウソップに吠えるがもう遅い。
　耳に飛び込んで来た話にチョッパーは頬を引き攣らせた。

「……多分、トラ男がその分も除去してくれてると思うけどよ……。
なんかあってからじゃ遅いから、そういうこと隠そうとするなよ。絶対だからなッ！！
念のため追加で血液検査するから腕出せコノヤローッ！！」
「善処シマス……」
「善処じゃ足りねェんだよッ！！」

　袖を捲ったサンジの腕に駆血帯を巻きながら目を吊り上げる。

[79 二次元好きの匿名さん 23/02/03(金) 07:05:01]

ナイスですゴッド！
サンジ……お前ホンマ……
この場合善処は事前に話す前提ぞ？おん？

[80 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/03(金) 12:28:54]

　彼が終わった話と言ったように、今更と考えて口に出さなかったのだろうとは予想がつく。
　しかし患者側が勝手に判断して黙り込んでいたら医者側は気づくのに遅れてしまうのだ。少しでも不安ごとがあれば申告して欲しかった。
　きっとサンジの場合は不安ごとと感じなかったのかもしれないが、それが一番困る。

「でもそんな計画を企てていたってことは、この国は天竜人に恨みがあったのよね？
……過去に子供たちを売っていたのは本意じゃなかった、ってこと？」

　温かいお茶が入ったカップを手の中で弄りながらナミが言う。その表情には陰りが見えた。
　少し間を開けて、ジンベエが口を開く。

「……隠れ港で見つけた日誌の持ち主は、少なくとも苦痛を感じていたようじゃな。
そいつは末端なのじゃろう。上に逆らえず、というのはあるが……もしそれがこの国の王族も同じだったとすれば、或いは」
「……そっか」

　ナミは長い髪をくしゃくしゃとかき混ぜて俯いた。

「なんか……色々と複雑な気分」
「……だからといってやって良いことと悪いことがあります。もちろん、今回の計画は悪いことだと思いますよ。
まあ、それよりなにより……」

　ブルックの持つカップから湯気が揺れ、紅茶の匂いが漂った。

「ルフィさんはもうやる気ですから」

　それが答えであると言外に感じる。

[81 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/03(金) 12:29:53]

　チョッパーもナミも頷いた。もう引けないところまで来ているのだ。
　珀鉛を利用した世界貴族を害する計画に、チョッパーたちやハートの海賊団に対する襲撃。
　このまま何も見なかったことになどできるはずもない。

「おれたちだって同じだ。ここまでされて引き下がれるかよ」
「絶対に許さねェ……」

　めらめらとやる気を燃え上がらせるようにペンギンとシャチが低い声で言う。
　味方は多いほうが良い。元から今回は協力関係を築いていたが、目的が一致していれば動きやすいだろう。

「トラ男に打ってる点滴もそもそも終わるだろうし、体調確認してから……。ルフィはもう起きたか？」
「ルフィさんなら甲板でサンジさんの食事を食べながら寝ていましたが、あと少しもすれば目を覚ますでしょう」
「寝ながら飯食う奴初めて見たけど、麦わらっていつもあんななの……？」
「寝ている間に出された食事を食べ逃さないように身につけた特技ね」

　もうチョッパーたちにすれば慣れた光景だが、ハートの海賊団たちにすれば異様なものとして目に映ったかもしれない。
　しかし、食事も休息も同時に取れるので時間のない今はありがたいところでもあった。

[82 二次元好きの匿名さん 23/02/03(金) 12:33:51]

面白れぇ…
王族も天竜人には逆らえないしどうしようもないよな

[83 二次元好きの匿名さん 23/02/03(金) 21:38:58]

ずっとワクワクしながら見てる。

[84 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/03(金) 22:59:38]

「今日はもう祭りの最終日……そんで商品の『出荷日』だ。とにかく荷物を止めなきゃなんねェ」
「商品も天上金と一緒に乗せて行くんでしょ？
ひとまず天竜人の船が港から出港しないように押さえられれば……」
「――それなんだが、バッドニュースを持ってきたぜ」

　ダイニングの扉を開けて入ってきたのはフランキーだった。
　例の襲撃で船に不調がないかと、あちこちチェックしにいっていたはずだ。
　彼はサングラスを押し上げて肩を竦めた。

「ちっと港を覗いてみたが、天竜人や商品が乗るような船がねェ。……ありゃ他に港があるな」
「……そう。でもそれくらい問題ないわ。
この辺りの海流を把握できれば船が出せる場所を割り出せるから。あとはそこを張って……」
「もうひとつ、サニー号が動かねェ」
「エッ！？」

　これにはチョッパーたちも目を丸くさせた。
　フランキーは頭を掻きながら、憂鬱そうな息を吐く。

「あの野郎、どさくさに紛れてサニー号の一部を壊しやがってたんだ。
もちろん修理はできるが、時間が掛かる」
「ちょ、ちょっと！　サニー号がそう簡単に壊されるわけないじゃない！」
「それに間違いはねェ。だけどな、あの野郎……粉みたいなもんを操るだけじゃなく、物を粉にできるみてェだ」

　そう告げたフランキーが取り出したのは一部が欠けた、一枚の板だ。しかし、それは不自然な欠け方をしていた。
　まるでその一部だけが風化したかのようにぼろぼろになっているのだ。
　フランキーがその部分に触れれば、細かな粉が散った。

[85 二次元好きの匿名さん 23/02/03(金) 23:49:00]

ほ

[86 二次元好きの匿名さん 23/02/04(土) 00:46:21]

これは厄介すぎる...何でもばら撒けちゃうのか

[87 二次元好きの匿名さん 23/02/04(土) 08:51:23]

ここまで来たらトゥルーエンド行って欲しいなぁ

[88 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/04(土) 11:22:23]

「見ろ、こんな調子だ。船底に穴ァ開けられなかっただけマシだけどよ。しかも細けェのなんのって掃除も大変だぜ
「穴って……」

　話を聞いてゾッとする。
　襲撃を受けた時にそんなことをされていれば、船ごと沈んでいたかもしれない。
　なにせ、あの時はまともに動ける者も少なかったのだ。

「能力がわかるだけでもありがたいわ。これから戦う相手だもの。
クロコダイルに似た能力、ということで良いのかしら。彼の能力は人にも効いたけど……」
「――人間も粉にできんだろ」

　カウンターにいたゾロが口を開いた。
　周囲の者の視線を受け、ジャッキを傾けながら言葉を続ける。

「おれらが隠れ港から持ってきた新聞にゃ、十三年前に体の半分が粉になって死んだ男の話が載ってたろ。
……どう考えてもあいつの仕業だ。つまり物だけじゃなく、人の体も粉にできるってこった」
「こっわ……」
「え……その粉って成分何になんの……？　肉……？　タンパク質の何か……？」
「やめやめ怖い話やめろ！」

　チョッパーは口元を引き締める。聞いた話によると他にも能力者がいるらしい。
　厳しい戦いなどこれまでに何度も行ってきた。だからといって油断は禁物である。

[89 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/04(土) 17:40:11]

　そこで紅茶を飲み終えたらしいブルックが席を立つ。
　彼は被っている帽子のつばを指先で持ち上げた。

「さて、サニー号が使えないのであれば私たちは内側から攻めるしかないでしょう」
「内側って……」
「ゾロさんたちが見つけた隠れ港と同じです。
きっと商品は工場から直接出荷されるのだと思いますよ。なら天竜人の船もそちらに移動しているはず」

　工場ならばチョッパーとローが捕らえられていた場所だ。
　確かにあそこの工場長である巨人族は言っていただろう。船の準備をしなければならないと。

「直接乗り込むってことね」
「ええ、躊躇う必要などもうないでしょう。扉も乱暴に蹴破って暴れ散らして声高に歌ったって構いません。
なんてったって私たち――」
「「――海賊だからな」」

　扉が大きな音を立てて開かれる。室内にいた者たちが一斉に顔を向けた。
　そして一瞬、誰もが言葉を失う。
　視線の先にいたのはふたり――ルフィとローだった。

「ッ、キャプテン！！」
「もう体大丈夫なんすか！？」
「ルフィ！　目が覚めたの？」

　一気に騒がしくなった船員たちにもふたりは動じない。
　ローは、あの白い帽子を僅かに下げて目を隠す。

「別になんともねェ。そもそも、こんな時にゆっくり寝てられるか」
「サンジのメシも食ったからな。もういつでも行ける」

[90 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/04(土) 20:18:50]

　ルフィは鼻息荒く、拳を手の平に打ち付けた。
　ハートの海賊団からは口々に体調を心配する声が上がるが、そんなことを聞くローではない。
　ルフィだって同じだ。そもそも、チョッパーたちも止めるつもりはなかった。

「ヨホホ、おふたりともお若いですねェ」
「むしろ叩き起こす手間が減ってちょうどいい」

　笑いながら刀の柄に手を掛けたゾロが腰を上げる。
　チョッパーも椅子から飛び降りて、ルフィとローを見上げた。

「一応確認しとくけどよ、ふたりとも本当に体大丈夫か？　一晩中見張りと手術してて消耗してるのに……！」
「問題ない。おい、ポーラータング号は無事だろ。
お前らはナミ屋と一緒に天竜人の船がある港探して張れ。
絶対にこの国から出すな。最悪沈めても良い」
「そ、そりゃやりますけど……キャプテンは？」

　シャチの問いかけにローは薄く笑う。

「おれは工場側から行く。……決まってんだろ」
「……デスヨネー」
「あーもう、言い出したら聞かないんだから……」

　頭を抱える船員たちも、複雑そうな笑みを浮かべていた。
　チョッパーは何となくその気持ちがわかる気がする。
　それは、突っ走り始めたルフィをサポートする時の仲間たちに似ているからだ。

「おれも行くぜ。……と言いてェとこだが、サニー号の修理があるからな。
さっさと終わらせてスーパーに駆けつけるとするか」

[91 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/04(土) 20:53:56]

　本当は誰もがその体に昨晩のダメージを残しているのだ。

　しかし、そうとは感じさせずに各々のやるべきことを見つけて動き出す。

「さて、そうすると侵入路ですが……」

　ブルックがトンッとテーブルの上に紙を押し付ける。

　それはチョッパーたちが工場で出会った女性から拝借した見取り図だ。骨の指先で紙をなぞりながら彼は言う。

「敵の戦力を削ぐため、撹乱も必要でしょう。それは私にお任せを。……少し、城のほうに興味がありますから」

「ブルックだけってわけにはいかないでしょ？　あとふたりくらい連れて行きなさいよ」

　ナミの言葉にブルックは「そうですねェ……」と言いながら考える様子を見せる。そしてすぐに顔を上げて明るく言った。

「じゃあ、ジャンケンで決めましょうか！」

「それが公平ね」

「軽ッ！！　公平さよりも普通戦力考えて分けねェ！？」

「考えねェんだよ、こいつらは……」

★ブルックと一緒に城内で暴れる2人

※ルフィは工場・フランキーはサニー号・ナミはポーラータング号固定。

1：チョッパー

2：ゾロ

3：ウソップ

4：サンジ

5：ロビン

6：ジンベエ

dice2d6=6 6 (12)

★上記ダイスが被った場合下記の結果も併用

dice2d6=6 4 (10)

[92 二次元好きの匿名さん 23/02/04(土) 20:55:24]

3/4ジンベエ親分！

[93 二次元好きの匿名さん 23/02/04(土) 20:58:46]

ここのダイスは出目が極端すぎる

[94 二次元好きの匿名さん 23/02/04(土) 22:22:13]

🎲＜ジンベエ親分には絶対に城内で暴れてもらう！絶対にだ！！！

[95 二次元好きの匿名さん 23/02/05(日) 07:39:17]

なかなか強いメンバーが陽動だね

[96 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/05(日) 10:40:46]

★【××の記憶】を再生します。

※閲覧注意。

★【××の記憶】を再生します。

[97 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/05(日) 13:07:47]

3日目午前
街の中/視点チェンジ
⇒麦わらの一味（ブルック）

　――それは歌だ。
　上機嫌に響く音色に、街の誰もが耳を傾けて自然と心躍らせていた。
　メインストリートの真ん中で堂々とブルックは演奏し、声高に歌う。
　白く輝く街を讃え、祝福する明るい歌だ。
　周囲の人々は祭りの催しのひとつとでも思ったのか、笑みはあれど不安は見えない。
　だから進む。
　歌っているのが骨の体の男でも、後ろにいるのが巨躯の魚人でも、煙草を吸った青年でも、人々は熱に浮かれた様子で気にしない。
　やがて城が迫る。街の騒ぎを聞きつけていた警備兵たちが城門を固めていた。しかし、向けられる切っ先や銃口に戸惑いが現れている。
　ブルックは骨の顔に笑みを浮かべた。

「おや、迷いがあっては我々に傷をつけることも叶いませんよ」

　音楽には力がある。人々を絶望から奮い立たせ、心に安らぎを与えてくれる。今までも、これからも、無限の可能性を秘めているのだ。
　弦を鳴らしてブルックは彼らへ歌うように言った。

「ええ、では――失礼いたします」

　ひと際高い音が響く。警備兵たちの精神が僅かに緩んだ。
　同時に踏み出したジンベエが厚い城門に対し、拳を突き出した。

「――魚人空手〝唐草瓦〟……〝正拳〟！！」

　彼の拳を中心に衝撃が走る。まるで鐘を突いたかのような音が鳴った後、遅れて城門に鋭いひびが走った。
　割れる音と共に崩れ落ちていく城門に、警備兵たちが慄く。
　腕を払ったジンベエが息を吐いた。

[98 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/05(日) 13:09:50]

「命が惜しくば去ねッ！！　さすれば追わんッ！！」

　混乱に場が満たされる。震える体で武器を向ける者、忠告通り逃げ去る者、叫びながら飛び掛かってくる者。
　サンジが襲い掛かって来た警備兵のひとりを軽く蹴り飛ばし、喉を鳴らして笑った。

「流石だな。気迫から違うぜ」
「ヨホホ、頼りがいのある御仁です。さて、私たちも続きましょうか」
「そうだ、なッ！　と……」

　飛び出したサンジが迫った相手の銃を蹴り上げる。
　回転しながら宙を舞う武器が地に落ちるより先に、彼は持ち主を地に寝かせた。
　ブルックは楽器を降ろさず、弦に弓を添える。

「もう一曲参りますよ！　それではお聞きください。〝眠り歌・フラン〟！！」

　――ブルックたちは陽動だ。
　できるだけ派手に、騒がしく、敵の目を引きつける。
　その裏ではルフィたちを筆頭に工場に侵入するグループが動き出していた。
　今頃、ローの能力を使って城の地下に入り込んでいることだろう。
　彼らの行動から目を逸らさせ、かつ、消耗を減らすのが目的だ。

（特にトラ男 さんは気丈に振る舞っていらっしゃいますが、まだ体力は全快していらっしゃらないはず。
私たちの踏ん張りどころですね）

　混乱のせいで工場の守りを増やされる可能性があるが、その分こちらが暴れれば良いことだ。
　実際に人数が必要だと判断すれば、警備兵を城に回さざるを得ない。
　何故ならここには国の要である王族が存在しているのだから。

[99 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/05(日) 13:59:03]

　踏み入れた城内に対し、ブルックは僅かに懐かしい気持ちになる。
　ゾロを捜して入り込んだのはこの国に来て一日目だった。意図せず迷い込んでしまったからこそ、ブルックはこの国の闇に触れたのだ。
　それが回り回ってこんな大騒動に繋がるとは思いもしなった。
　別にブルックたちは正義の味方でもなんでもない。自由に生きる海賊だ。
　この国の過去に何があっても、何をしようとしているのだとしても、本来ならまったく関係ない。
　ただ『そうしたい』から動いただけである。
　ブルックがこの陽動の末に求めているのは真実だ。簡単に言えば自己満足。そしてそれこそが今のブルックには必要なものだった。

「き、貴様らッ！！　『麦わらの一味』だなッ！？」
「ここを通すな！　早く王と王妃を……！」
「クソ遅ェ」

　床に手をついたサンジが全身を捻り、その両脚で周囲の兵を蹴り抜いていく。
　白い鎧が無残にへこみ、砕け、中身ごと吹き飛んだ。
　軽い動作で立ち上がった彼は煙草の煙を吐き、目を細めた。

「……例のクソ野郎と魚人の副隊長がいねェな」
「もう既に工場のほうへ向かったのかもしれん」
「まァ、ちょうど良いんじゃないでしょうか。……ルフィさんが〝ぶっ飛ばしたい〟のは彼ですし」

　ブルックの言葉にサンジは鼻を鳴らし、つま先で床を軽く叩く。

「おれはおれであいつを蹴り飛ばしてェがな」
「ヨホ、それは私たち全員共通の想いだと思いますよ」

　大切な仲間に手を出されたのだ。あと少しで失うところだったのかもしれない。
　――船の上で毒に侵されて死にゆく仲間など、もう見たくもなかった。

[100 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/05(日) 14:00:37]

　ピクリとジンベエの手が跳ねた。
　ブルックも剣を抜き、顔をゆっくりと上げる。
　城のホールには白く大きな階段が備えられていた。その上にふたつの影があった。

「またお会いしましたね。〝お嬢さん〟」

　ブルックたちを見下ろしているのは派手な泣き化粧を施したピエロと、腕の長い青年だ。
　あれがチョッパーたちの言っていた手長族だろう。彼は不機嫌そうな顔を隠さず、舌打ちをした。

「あの馬鹿野郎がッ！！　しくじりやがって！！」
「……いいえ、ここにこうして存在していること自体がおかしいのです」
「そうだけど、そうじゃないじゃん。……船も連中も全部『粉』にしちまえば良かったんだよ」
「あの人の、選択ですから」

　ピエロの静かな言葉に青年は頬を膨らませる。
　そして携えていた武器――ヌンチャクを素早く構えた。

「おい、海賊共。ここが何処だかわかってんのか？　罪を重ねて懸賞金の値上げでも狙ってるわけ？」
「そんなみみっちいこと、誰がするっていうんです？」
「ハッ、単純にテメェらが気に食わねェから暴れてんだよ。それで答えとして十分か？」

　サンジが笑みを浮かべ、指に挟んだ煙草の火を手長族の青年に向ける。
　くゆる煙に彼は顔を歪めた。

「ならおれもお前らが気に食わねェから、ここでぶっ殺すッ！！」
「もうこれ以上――邪魔はさせません」

　手長族の青年が床を蹴って飛び掛かってくる。ピエロはその背後から同じ姿をしたピエロが複数現れ始めた。
　各々の手に様々な凶器が握られている。

[101 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/05(日) 14:47:01]

「サンジさんッ！！　気を付けてください！！」
「なんだよ、おれがあいつら程度にやられるとでも――」
「ピエロさんは女性です！！」
「ヨシッ！！　こっちの男は任されたァッ！！」

　跳び上がったサンジの蹴りが手長族の青年のヌンチャクと激突する。
　ヌンチャクというよりも、それは多節棍と呼ぶべきだろう。
　いくつもの棍を金具で繋げた武器を、彼は人間よりも多い腕の関節に挟みこんで巧みに操った。
　まるでそれはもう一本、腕が生えたかのように見える。
　目にもとまらぬ速さでサンジの蹴りと互角にぶつかり合う。ふいに青年の口元に笑みが浮かんだ。
　彼は鎖を右腕の第二関節に絡め取り、その反動で回転した多節棍の先端でサンジの足の裏を強く突いた。
　――プシュッ！
　そんな小さな音が聞こえたかと思えば、覚えのある香りが漂い始めた。

「これは……ッ！」

　襲い掛かってくるピエロの群れを剣でいなし、ブルックが叫ぶ。
　同時に目の前でサンジが吹き飛ばされた。白い壁に背を打ち付け、彼の体がずり落ちていく。
　それを眺めていた手長族の青年が鼻で笑った。

「ハンッ、悔しいが身の程は弁えてるもんでね。テメェら化け物連中に勝てるとは思ってねェんだよ。
……なに、強いんだからこれくらいのハンデは許してくれるじゃん？」
「サンジッ！　どうした……！」
「クソッ……あの匂いを嗅いだら、頭がくらくらして……！」
「〝パフュパフュの実〟の能力……いえ、それで作られた香水ですか……ッ！」

　手長族の青年は多節棍の先端と先端をぶつけ合った。プシュッと香りの飛沫が飛ぶ。
　彼が両腕に多節棍を絡めて高速で回転させ始めれば匂いが周囲に広がっていった。
　匂いを強く知覚するとブルックの手足から力が抜けていく。
　しかし既に彼とピエロには耐性でもあるのか、この香りの中でも悠々と動いていた。

[102 二次元好きの匿名さん 23/02/05(日) 15:30:16]

後味の悪い結末にならなきゃいいけど

[103 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/05(日) 19:34:35]

「あのおっさんも何だかんだ熱血でいけねェや。……いまだに海賊嫌いだとか変なプライドに拘っちまってさァ。
ま、おれらは勝てれば何でもいいんじゃん？」

　四方からピエロが走ってくる。
　それを見てブルックは力の入りにくい手で剣を握り、ジンベエに叫んだ。

「一体一体は大したことありません！　しかし、爆薬を仕込んでいる可能性が高いです！」
「厄介じゃな……さっきから手応えがありゃせんわい！」

　ジンベエは流れるような動作で数人のピエロをひっくり返して吹き飛ばす。
　壁や床に激突すると共にそのピエロたちは消えていった。
　再びピエロが走り出してくる。そしてブルックたちにぶつかる直前で爆ぜた。

「グッ……！？」

　しかしそれは昨日のような攻撃的な爆発ではない。目が眩むような閃光だ。
　視界に張り付く眩さが晴れるより先に飛び込んでくるものがあった。ブルックとジンベエが素早く身を捻る。

「ッ甘い！　〝鮫肌掌底〟ッ！！」
「〝夜明歌・クー・ドロア〟！！」

　空気を揺るがす衝撃波と貫く衝撃波。そのどちらもが襲撃者――ピエロの分身を打ち破る。
　だが、顔面に冷たい液体を浴びせられ、ブルックが震え上がった。

「イヤァ――――ッ！！　く、臭いッ！！」
「こりゃあ……！」

　ジンベエも同じ状態に陥ったのだろう。濡れた腕と袖を払っている。
　ブルックは顔についた臭いの元を袖で拭いたり走り回ったりして振り払おうとした。
　だが、残念なことに鼻孔の奥までしみ込んだそれは剥がれない。

[104 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/05(日) 19:36:10]

「私、鼻ないんですけどォ！　ヨホォッ、ウゲホッ、ゲホォッ！！」
「汚ねェッ！！」

　顔にある穴という穴から色んな体液を流し、ブルックは手にしていた剣を自然と抜いた。

（――あれ？）

　青白い肌が眼前に迫っている。体が反射的に動き、鞘と刃を交差させて力強い打撃を受け止めた。
　全身の骨が砕けそうな衝撃に悲鳴も出ない。そんなことよりも信じられないことが起きたのだ。

「ジ、ジンベエさん……ッ！？」
「なんじゃこれは……！？」

　ブルックはジンベエに刃を向け、ジンベエがブルックに拳を向けている。
　ふたりして顔を見合わせ、驚愕に目を見開いた。

「私、目がないんですけどとか言っている場合じゃないですねこれェッ！」
「まさか……おい、テメェら、こいつらに何しやがった！」

　サンジが吠えながらピエロと手長族の青年を睨む。
　手長族の青年は多節棍をいじくりながら笑みを浮かべていた。

「いやァ、おっさん曰く、昨日のアンタらのおかげで思いついたらしいじゃん？」
「な、なんですって……どういう意味ですか……？」

　ジンベエの凄まじい膂力の圧に耐えつつ、ブルックが問い掛ける。
　彼は笑みを深めた。

「なァに、お互いを強く惹かれ合わせて尚且つ闘争心を高める……。
ま、簡単に言えば『楽しく殺し合ってくれる香り』ってわけだ。アッハッハ、こりゃ効果覿面じゃん」

[105 二次元好きの匿名さん 23/02/05(日) 19:50:06]

おじ様の発想力流石だね
サンジが香水奪い取ってほしいけどピエロに渡されたら...
ブルックとジンベエ自力で抜け道を探してくれ！

[106 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/05(日) 20:10:07]

　手長族の青年の言葉にサンジが頬を引き攣らせた。

「ブルック、昨日のテメェらどんな戦い方しやがったんだ……？」
「濡れ衣ですゥ――――ッ！！」
「しかし、これでは……ッ！」

　ジンベエがブルックの刃を弾く。その反動を手首を返して逃がし、ブルックはジンベエに斬りかかった。
　半歩分だけ体をずらし、身を翻して刃を避けたジンベエがブルックの全身を背で打つ。

「ッぐぅ……！？」

　全身の骨が軋む。ほぼ吹き飛ばされる形で床を滑り、何とか体制を整えた。

「す、すまん！」
「いえ、大丈夫、です……！」

　ジンベエとは相性が悪い。ブルックのこの骨の体はとにかく衝撃に弱いのだ。
　彼ならばこの身を砕き切ることすら容易いだろう。
　だが、言うことを聞かないブルックの体も大人しくしていない。
　完全に彼を獲物として捉え、黄泉の冷気を纏い始めていた。

「やめろ、お前らッ！！　こんなことしてる場合かよ！！」
「やめられたらとっくにやめていますよ！！」
「ブルック！　避けるんじゃッ！！」
「えッ」

　思いきり足を踏み込んだジンベエが真っ直ぐに突っ込んでくる。

[107 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/05(日) 20:11:15]

　汗の滲んだジンベエの顔が見えた。その拳は握られ、黒く染まっている。
　ブルックは考えるより先に刃を翻し、瞬間的に黄泉の冷気の出力を上げた。

「ッ〝魂のパラード〟！！」

　ぶつかるより先にジンベエの拳が凍る。冷気で絡め取りながら、氷の盾がブルックを守った。
　力と技のぶつかり合い。ジンベエの膂力によって氷が細かく震え、耳障りな音がし続ける。

（駄目だ、持たないッ！）

　パキンッ、とあまりに呆気ない音がした。砕けた氷が飛び散り、キラキラと輝く。
　氷の合間を縫うようにしてブルックの背骨にジンベエの拳が突き刺さる。そのまま全身で突進するジンベエが息を飲んだ。
　そして――ブルックとジンベエのふたりは壁を突き破り、中庭に転がり出た。

「ハッ、ゥ、ハッ、ァガガッ……！」

　吹き飛ばされた衝撃で柔らかな芝生に転がされたブルックは、剣を杖にするようにして何とか立ち上がった。
　すると腹の部分から大きな氷が転がり落ちる。
　それは地面に落ちるより先に砕け、細かく散っていった。

「ま、間に合わなかったら、本当に私、真っ二つでしたよ……！」

　しかし、非常にまずい。
　確かにピエロと手長族の青年はブルックたちの敵ではないのだ。それは確かである。
　ただこうなってしまえば関係ない。今のブルックの脅威はジンベエに他ならなかった。
　そしてそれはジンベエにとっても同じことだろう。

「……お前の冷気は肌に浸みて敵わん」

[108 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/05(日) 21:13:30]

「ヨホホッ……それは申し訳ありません！」

　冷気を纏った突き。額に突き刺さるはずだった切っ先が逸れる。覇気を纏った腕でジンベエが刃を払いのけたのだ。
　すぐさま胸元に叩き込まれそうになる掌底をブルックは跳んで避ける。身軽な骨の体はそのまま彼と大きな距離を取った。
　ブルックの放つ冷気で足元の草花たちが凍り付いていく。

「これ、とてもまずいですね」
「ああ……わしもそう思う」

　遠い昔に失ったはずの血が湧く感覚がする。
　手長族の青年が言った通り、闘争心が高められるというのは誠のようだ。
　すると周囲が騒がしくなり、武器を構えた警備兵たちが中庭にいるふたりを取り囲む。
　盾を構えてじりじりとにじり寄ってくる彼らに一瞥もせず、ブルックとジンベエはお互いだけを見つめ続けた。
　そして剣と拳を構え合い、叫んだ。

「死にたくなければ近づくなッ！！」
「ええッ、巻き込まれて氷漬けにされても知りませんよッ！！」

　魚人空手の衝撃波と黄泉の冷気がぶつかり合う。その衝撃の強さでほとんどの警備兵が吹き飛ばされた。
　冷気は衝撃に散らされ、周囲の全てを凍てつかせていく。迸る冷気が地面に巨大な氷の槍を生み出した。
　だがそれもジンベエの拳と足に砕かれ、巨大な氷の塊となって崩れていく。
　閃くブルックの刃は黒く染まったジンベエの腕に防がれた。刃と腕で鍔競り合いをするなどそうあることではないだろう。
　純粋な膂力はジンベエに圧倒的な軍配が上がる。だが、ブルックの真髄は力ではない。

「ほんっとうにすみません！」

　刃を伝い、覇気の上からジンベエの腕を氷で包み込む。今の彼にこの冷気は通じていないだろうが、動きを止めるという意味では効果的だ。
　ジンベエは間近から送られるブルックの謝罪に笑った。

[109 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/05(日) 21:15:07]

「気にするな。……ならばわしも先に謝っておこう」
「え、なんですか」
「なに――少しの間、我慢してくれ！」

　そう叫ぶや否や、ジンベエは氷で封じられた腕をそのままにブルックを押した。
　その勢いで足元が覚束なくなった瞬間、ジンベエが思いきり地面を踏み締め――ブルックにタックルを食らわせる。
　視界がぶれるほどの衝撃。すぐさま体勢を整えようとしたブルックは己の目を疑った。

「ちょ、ジンベエさ――――ッ」
「――すまん！　ブルック！！」

　ジンベエが全身で突っ込んでくる。それも、ブルックを下敷きにするように。
　ブルックは咄嗟に地面に手をつこうとし、息を飲んだ。骨の手が地面に触れることなどなかったのだ。
　一秒にも満たない間に身を捻って見た先にあったのは大きな池だった。
　――水柱と見紛うほどの豪快な水飛沫が上がった。

「――！？　ッ――！！」

　悪魔の実の能力者であるブルックはカナヅチだ。深い池の中で懸命に両手足を振り回すが、体は決して浮かばない。
　こうなっては黄泉の冷気も上手く呼ぶことができなかった。

（これ、ほんと、だめなやつですってば）

　パカッ、と開いた口から空気が出ていく。頭蓋からも絶えず細かい気泡が漏れていった。
　そうして徐々にブルックの意識が薄れかけた時だった。
　力強い腕がブルックの腰を掴み上げ、一気に水面に浮上する。

「ブハッ！　ゲホッ、ゲホボォッ……！」

[110 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/05(日) 21:16:18]

　力の入らない体が地面に投げられる。
　べしゃりと落ちたブルックはもう悲鳴を上げる元気もない。

「ジ、ジンベエさん、や、やるならやると……！」
「すまんかった。その暇もなかったものでな」

　そう言いながらブルックの傍らに立つジンベエに違和感を覚えた。
　ブルックはガバッと上半身を起こして、己の体と顔に触れる。そしてジンベエを見上げた。

「ジンベエさん」
「おお」

　それは普段と変わらぬ、ごく普通の言葉のやり取りだ。だからこそブルックは歓喜に震えた。

「ジンベエさんんんんッ！！　元に戻りました！！　えっ！？　元に戻りましたよね！？」

　ふくよかな足元にしがみついてからブルックはもう一度、己の体を確かめる。
　先ほどまで反射的に剣を彼に向けていたというのに、体の支配権が完全に戻ってきていた。
　驚くブルックにジンベエが笑みを浮かべる。

「なに、たまたまここに水場があったものでな。掛けられた香水が原因なんじゃったら、落とせば良い。
しかし水に沈めることになったのは悪かったのう」
「ジンベエさん！！　好きッ！！　許しちゃいますッ！！」

　ブルックの様子にジンベエは頷き、そしてその体を濡らす水を手の平で転がし始める。

「……さて、少しお遊びが過ぎたようじゃな」

[111 二次元好きの匿名さん 23/02/05(日) 21:57:38]

ジンベエの親分ガチカッケェ…！
そりゃない心臓もトキメキますわ
敵のオッサンタッグ戦の天敵だなマジで

[112 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/06(月) 00:00:09]

　凍り付いた草花を踏む音がした。
　そこに立つのはピエロだ。もちろんひとりではない。
　重なり合うように現れるピエロの集団にジンベエは肩を竦める。

「わかっているんじゃろう。数を揃えれば勝てるというものではない。先ほどの手ももう食わん」
「勝てなくても良いのです。あなたたちを止めることさえできれば十分でございます」
「……何？」

　ジンベエとブルックが訝しげに顔を顰めれば、彼女はゆらりと揺れた。

「だって、私など――死んだって構いませんから」

　ぞっとするほど冷たい声だった。

「ッ、ジンベエさん！」
「わかっているッ！！」

　ピエロたちがブルックたち目掛けて走ってくる。数体が途中で爆発して庭を壊していく。
　両手を広げ、抱き着こうとしてくるピエロの群れはもはや恐怖だ。
　しかし、ジンベエは力いっぱい地面を踏み鳴らした。水飛沫が飛び散る。

「魚人柔術〝水心〟――」

　水かきのある手が池の水を掴み、持ち上げた。腰を落としたジンベエが息を吐く。

「〝水流（かいりゅう）一本背負い〟！！」

　分厚い水の流れが文字通り投げられる。
　もはやそれは荒れた大波だ。植物を飲み込み、ピエロたちを巻き込み、勢いのついた水が全てを押し流す。
　そしてブルックたちが開けた城の大穴を更に破壊しながら吸い込まれていく。

[113 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/06(月) 00:01:43]

　残されたのは荒れ切って水浸しの中庭と、ブルックとジンベエのみだった。巻き込まれて倒れ伏せた警備兵はちらほらいただろう。

「相変わらず凄まじい技で……。あっ、サンジさん！」
「むっ……！」

　あの中ではおそらく未だにサンジが戦っているはずだ。
　忘れていたと言わんばかりにジンベエの顔色が変わる。
　その横顔を見てブルックは小さく笑った。

「ヨホホホホホッ、サンジさんなら私と違って溺れる心配はありませんから」
「……ついでにあそこの匂いも流されとると良いが」

　なんてことを言っていれば、ブルックたちの目の前で城の壁が吹き飛んだ。
　そして、白い石の破片を飛び散らせながら宙を舞うのは顔が潰れた手長族の青年だった。
　彼の顔についた靴の痕に見覚えがある。そのまま頭から落ちた彼を見送り、ブルックは鞘に納めた剣をくるりと回した。

「ヨホホ、心配はいりませんでしたね」
「そうじゃな」
「――クソ穏やかにお喋りしてんじゃねェよ」

　崩れた壁の穴から現れた人物が石を足蹴にする。
　濡れた金髪を掻き上げ、湿気てしまった煙草に顔を歪めていたのはサンジだ。

「ったく、無茶しやがるぜ。おかげであいつぶちのめせたが。……それよりちょっと来い」

　サンジが親指で城内を示す。どうしたのだろうとブルックたちも大人しく穴から中へ再び入り込んだ。
　中は酷い有様だった。ジンベエの放った水で調度品は流され、ことごとく破壊されている。

[114 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/06(月) 00:03:22]

　大きな柱も折れて流れた結果、いくつか扉を塞いでしまっているようだ。
　そしてそんな水浸しのホールに、彼女はいた。
　顔を押さえ、水の溜まった白い床を見つめ続けている。
　水に濡れたせいだろう。強く巻かれていた茶色の髪も形を失い、乱れ落ちていた。
　思わずブルックはサンジを見た。彼も苦々しい表情で、煙の出ない煙草をくわえる。

「……さっきからあんな調子だ。あの男もあの子に気を取られちまったから、その間に蹴り飛ばしたんだが……」
「なかなかの非道をなさりますね」
「ウルセェ！！　元々敵だろうがよ！！」

　きっと彼女が本体だ。もう分身を増やす体力も残っていないのかもしれない。
　それにしても様子がおかしかった。

「あ……」

　か細い声を上げ、頭を両手で抱えた。
　ガリッ――彼女の指がその顔に食い込んだ。

「あ、ぁ、あ、あああああああああああッ――――！！」

　悲鳴が響き渡るのと同時にホールの中に爆発的に〝彼女〟が増えた。
　ピエロの姿ではない。今の彼女と同じ、水で溶けかけた化粧と乱れた髪をしていた。
　ブルックたちは目を見張り、各々が構える。

「ど、どうしたってんだ……！？」
「早く止めなければならないかもしれません……！　あの能力はどうやら体力を消費するようですから！」
「なんだって……！？」

　サンジの顔色が変わる。しかし彼は歯を食いしばるようにして、目の前に迫ってくる彼女たちを見つめた。

[115 二次元好きの匿名さん 23/02/06(月) 08:38:54]

体力消費するタイプか…大丈夫なのか？

[116 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/06(月) 09:02:23]

「おれは女を蹴れねェ……！」
「ええ！　私たちが動きを止めますから本体を取り押さえてください！」
「……ああッ！」

　もう彼女たちは錯乱した人々の塊だ。
　火薬は水で湿気って使えないのだろうが、武器すら手にせずただ暴れ回る。
　もしこれが夜中などに見る光景だったら、ブルックは恐怖でちょっと泣いていたかもしれない。
　それほど鬼気迫る様子なのだ。
　全身に飛びつかれたジンベエも一体一体を剥がして放り投げていく。
　ブルックは前に出ると剣の柄に手を掛けた。そして一息に刃を引き抜く。

「〝魂のバラード〟……〝アイスバーン〟！！」

　目に映る彼女たちの体の合間を抜い、黄泉の冷気を開放する。
　水浸しの床は瞬く間に凍りつき、城のホールを氷の間に作り替えた。
　彼女たちは足そのものを氷で床に縫い付けられる。
　暴れようが何をしようが簡単に外れることはないだろう。

「今です！」

　ブルックの声に応え、サンジが宙を駆ける。
　彼は本体である彼女の頭上まで到達し、降り立った。
　彼女はすぐそこに敵がいるというのに気にした様子も見せず、ひたすら己の顔に爪を立てて唸っている。
　息を呑んだサンジは、爪先が赤く染まった彼女の手を取った。

「レディ、もうやめるんだ……！　どうして自分で自分を……ッ！」

[117 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/06(月) 12:41:47]

　濡れた髪を振り乱しながら、彼女は勢い良く顔を上げる。
　サンジの影になり、ブルックたちからは彼女のその容貌は窺えなかった。
　くひり、と笑い声が響く。

「――ぉ、ねぇ……さ、ま」
「……？　レディ……きみはもしかして――」

　戸惑いを含んだサンジの声が聞こえた。ふと、ジンベエが振り返る。

「いかん！　サンジ避けるんじゃ！！」
「ッ！？」

　ジンベエの叫びに合わせ、サンジが彼女の体を抱き上げると高く飛び上がる。
　ほぼ同時に響くのは耳をつんざくような破壊音。つい先程までサンジがいた場所には多節棍が突き刺さっていた。

「テ、メェ……ふざけんじゃ、ねェ……ッ！！」

　壊れた壁のところには全身ずぶ濡れになった、手長族の青年が立っている。顔は腫れていたが、意識は何とか保っているようだった。
　そして、前に突き出された長い腕は、多節棍を投げたのが彼本人であることを示している。
　彼は歯を剥き出しにして叫ぶ。

「その子に……姫ちゃんに触れてんじゃねェよ！！」

　ブルックやジンベエなどすでに眼中にないのだろう。彼は凍った床もものともせず、サンジ目掛けて走り出す。

[118 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/06(月) 12:42:46]

　サンジは凍りついた足場すら利用して、滑りながら彼からから繰り出される攻撃を避け続けていた。
　腕の中にいる彼女に衝撃がいかないようにしているのだろう。
　ブルックたちは手を出さず、彼らの行動を見守る。
　手長族の青年は怒りもあってか、動きが単調になっていた。サンジもそれに気づいているのだろう。
　もう火もつけられない煙草を吹き、手長族の青年の顔の中心にぶつけた。

「うわっ！？」

　ほんの小さなものだが、反射的に彼の目を閉じさせるには十分だったのだろう。
　軽い動作で彼の足を引っ掛ければ、足場の不安定さもあってその体は盛大にひっくり返った。
　蛙が潰れるような短い悲鳴があがる。

「こ、この野郎……！」
「落ち着け。そんなクソみてェな動きでおれが仕留められるわけねェだろう」
「ッ……返せ！！　姫ちゃんを離しやがれ！！」
「……ほんとに話聞かねェな」

　サンジは少しばかり迷った様子を見せ、ブルックたちに振り返った。
　ブルックもジンベエも目配せをして、同時に頷く。それを確認してから、彼は床に膝をついた。

「ほらよ。……顔、怪我してるから早く治療してやらねェとおれがテメェをぶちのめすぞ」
「ッ、姫ちゃん！」

　サンジの言葉が聞こえているのかどうか。彼は慌ててその長い腕で彼女を受け止めた。
　震える指先で髪を避けて、その顔に残る爪痕を目にしたのだろう。彼は自分の顔をくしゃくしゃに歪めて、目に涙を浮かべた。

[119 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/06(月) 12:43:29]

「ま、またこんなにしちまって……おれが、おれのせいで……」

　鼻を啜った彼は彼女の体をしっかりと抱きかかえて、ブルックたちに背を向けるのも厭わずに走り出す。

　ホールの奥の通路に向けて逃げていく姿に三人とも動かなかった。

　あれだけ溢れていた彼女の分身はもはやどこにもない。

　まだ無事だった煙草がかろうじてあったのだろう。

　サンジが新しい煙草に火をつけて、その煙を薄く吐き出した。

「……どうする？」

「ええ……まだまだ陽動として動き回るつもりですが……」

　彼の言いたいことはわかっている。

　だからブルックはその空っぽの頭で思考した。

1：「追いましょう」

2：「彼らはもう構わないでしょう」

dice1d2=1 (1)

[120 二次元好きの匿名さん 23/02/06(月) 13:33:24]

ピエロはお姫様だったか…他の子に比べてちょっと情報が少ないから、もう少し深掘りしたいところ

[121 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/06(月) 22:03:05]

「追いましょう」
「まあ、そうだよな」

　ブルックは頷き、人気のない奥の通路を見つめた。
　やがて警備隊の追撃も来るだろう。
　そこを派手に盛り上げるのがブルックたちの役目であり、目的だ。

「彼らはもう戦えないとは思いますが行き先が気になります。
それにもしまだ他に戦力があるのであれば、私たちで削いでしまわなければなりません」
「わしも異論はない。城の奥に入って行ったようじゃが……万が一、ルフィたちの後を追われても困る」
「だな。……それにしても、あの子……」

　煙を吐き出したサンジが目を細める。
　ブルックは首を傾げて問いかけた。

「そういえばピエロさん、彼に『姫』と呼ばれていましたね。それほど大切に想われているんでしょうか。
こんなことをしている私たちが言うことじゃないんですが……なんだか青春ですね〜！」
「……いいや、そうじゃねェだろ。半分くらい」
「え？」

　サンジは頭を掻いて、煙と共に告げた。

「あの子の顔、見たことがある。
……ジンベエたちが隠れ港から持ち帰ってきた写真――双子の女の子にクソ似てた」
「……何？」
「成長してりゃ、ちょうどあんな美人になるだろうよ」

[122 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/06(月) 22:05:22]

　サンジの言葉にブルックは息を呑んだ。
　隠れ港から出てきた双子の少女の写真。見つかった場所のことや、片方に描かれた大きなバツさえなければ、笑顔が素敵だと素直に褒められたものだった。
　しかし、ブルックは彼女たちが誰だか知っている。
　何故なら、この城で見た肖像画にそっくりだったからだ。

「双子……姫……。もしや、あの女性は……」
「……さあな。おれはもうよくわからなくなっちまったよ。
この国で何が起きていたのか、とかな」

　徐々に騒がしさが近づいてくる。
　決死の覚悟を決めた警備兵たちが再び集ってきたのだろう。
　ブルックたちは反射的に戦闘態勢に入り、ゆっくりと歩き出す。

「……でも、これから何が起こるかはわかります」
「ああ、そうじゃな。義理がなくとも……道理が通らんことを見過ごせんわい」

　黄泉の冷気が綻び、氷が砕けていく。
　振り向けば破壊された白いホールが見える。入り込む日差しに氷の破片がキラキラと輝いた。

「行きましょうか」

　本来ならば開かれるはずもなかっただろう釜の蓋。
　だが、偶然であっても、必然であっても、開かれてしまった。
　今は敵地を駆け抜けているだろう、ふたりの海賊の船長のことをぼんやりと考える。

（若いって良いですね）

　ならば年を重ねた自分はその背を押すまでだ。
　――そうしてブルックたちは、城の奥へと足を踏み入れて行った。

[123 二次元好きの匿名さん 23/02/07(火) 08:20:23]

ほしゅ

[125 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/07(火) 12:27:54]

城の地下/視点チェンジ
麦わらの一味（ウソップ）

「――おい！　侵入者だ！！」
「上に戻れッ！！」
「城門が突破されたと報告がある……急げッ！！」

　ガシャガシャと鎧が擦れる音が響く。
　警備兵たちが薄暗い通路を駆け抜け、去っていくのを静かに待つ。その数は決して少なくない。
　やがて通路は静かになった。ウソップは通路の端に置かれた樽の蓋を内側から蹴り飛ばす。

「プハァッ！　い、行ったか……？」
「気配はねェな」
「匂いも遠ざかってる……ブルックたちがうまくやってくれたんだな！」
「すごい音もしたわね」

　隠れていた樽の中からウソップたちは這い出る。
　すると頭上からストンッと人影が落ちてきた。それは麦わら帽子を片手で押さえたルフィだ。

「派手に暴れてんだなァ。こっちまでなんか響いてきたぞ」
「……おい、麦わら屋。なんだこれは」

　――そしてもう片腕にはローが括り付けられている。ルフィは彼を肩に担ぐと眉を吊り上げた。

「トラ男まだ本調子じゃねェだろ。途中まで運んでやるよ」
「……体力を温存するのに異論はねェが腕を巻き付けんのはやめろ。腹部を圧迫するな」
「トラ男はワガママだな〜」
「それでいいのかよオイ」

[126 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/07(火) 12:29:47]

　彼もルフィに負けず劣らずマイペースな男である。
　結局は腕で支えてもらいながら肩の上に腰掛ける形で落ち着いたらしい。やたらと不遜な態度に見える姿でローは見取り図を広げた。

「船でも説明したが、工場の『倉庫』から直接外繋がる通路がある。
おそらくこの向こうにもうひとつの『港』があるはずだ」
「それ以外に怪しいところはなさそうね」

　ロビンも横から見取り図を覗き込んで頷いた。

「ああ。ここはまだ城の地下だが通路はそう分かれてねェ。
工場まではまっすぐ進めば良い。いいか？　まっすぐ、だ。わかったか、ゾロ屋」
「なんでおれだけ名指しなんだよ」
「いやだってお前ゾロだし」
「どういう意味だコラ」

　当たり前のように言うルフィの頬をゾロが掴んで伸ばす。
　後ろにいたウソップとチョッパーは腕を組んでうんうん頷いた。
　念押しをするローには悪いが、とりあえず誰かしらゾロの行き先には常に目を配っておかねばならないだろう。
　とにかく時間がないためウソップたちは軽く走りながら話し合いを続けた。

「工場以外はどこに繋がってるんだ？」
「何箇所か城の内部や街のはずれに繋がっているみたいだ。
……骨屋が言っていた『隔離塔』にも繋がってるな」
「ピアノの音が聴こえるっていう塔ね。……亡くなった姫の霊が今も死んだことに気づかずに弾いているのかしら」
「なんでスルッと怖い話するんだよォッ！！」

　持っていた十字架を掲げてウソップは叫ぶ。おばけには出会ったことはないが、恐ろしいものは恐ろしいのだ。

[127 二次元好きの匿名さん 23/02/07(火) 12:51:11]

この島はお化けよか怖い人間が多くてロビンちゃんの怪談が悲しくも綺麗に感じてしまう…そんでもってルフィの肩で優雅にお運ばれあそばすローに誰か突っ込んでくれオマエが姫かよォ！？

[128 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/07(火) 12:56:33]

「雑魚は放置して進むぞ。相手してるだけ時間が勿体ねェ」

「おう！　任せとけ！」

　ルフィが胸を張って言う。彼の覇気ならば警備兵程度はすぐに無力化させられるはずだ。

　もしその中に立っている者があればウソップたちにとって、戦わなければならない相手となる。

「確か巨人とかもいるんだよな……？」

「昨日、睡眠薬飲ませたけど流石に起きてるかもしれねェ。……多分起きてる？　起きてるよな……？」

「なんでそこがわかんねェんだよ」

「ルフィ用の睡眠薬だし、量を加減できなかったからちょっと怪しいんだよ……」

　何故かチョッパーだけでなくローも遠い目をする。ルフィは首を傾げていた。

　それの意味するところとしては、おそらくよほど強力な睡眠薬だったのだろう。

「ま、まあ、もしもまだ意識戻ってねェならこっちとしてもありがてェしな！」

　適当に話を切り上げ、長い通路を走り続ける。

　ローの言っていた通り、とにかく真っ直ぐな廊下だ。ただ、ここは白く塗られてはおらず、灰色の石の色をそのまま残していた。

★ゾロ

dice1d100=80 (80)

※80以上の場合迷子になる。

[129 二次元好きの匿名さん 23/02/07(火) 12:58:13]

うーんお見事

[130 二次元好きの匿名さん 23/02/07(火) 13:04:15]

お見事

[131 二次元好きの匿名さん 23/02/07(火) 13:09:24]

大喜利かな

[132 二次元好きの匿名さん 23/02/07(火) 13:10:31]

ドンピシャ引くじゃん…ゾロ…

[133 二次元好きの匿名さん 23/02/07(火) 13:13:00]

ほんと期待を裏切らないなゾロは

[134 二次元好きの匿名さん 23/02/07(火) 13:15:05]

ここにもファンタジスタ

[135 二次元好きの匿名さん 23/02/07(火) 15:01:05]

さすがゾロ、期待を裏切らない

[136 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/07(火) 22:29:15]

（80…？　80…？？？？？）

★ゾロが迷子になりました。

下記ダイス結果に迷い込みます。

1：不思議な匂いのする空間

2：見たことのある人物の前

3：ポツンと佇む白い全身鎧の前

dice1d3=2 (2)

[137 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/07(火) 23:38:10]

　――ブルックたちの騒ぎがよほど効いたのか、もしくは元々地下に割いた人員が多くなかったのか。
　しばらく走っても地下通路には警備兵たちの姿は見受けられなかった。
　ウソップは周囲を見渡して安堵の息を吐く。

「この調子なら工場までは何もなさそうだな」
「もしかしたらもう警備兵たちが港に行ってしまった可能性もあるわ」
「うおッ、それもそうか！　マジで急がねェとな……！」

　船が海に出てしまえばそれまでだ。
　ナミがハートの海賊団と共に港を海側から見つけるとしても、可能ならば出航前に止めてしまいたい。

「工場では警備隊以外に、守衛隊なんてもんもいやがった。数は増えるだろうよ」
「まあそこらへんはあれよ、ここに頼もしいうちの剣士だって……」

　ウソップは走りながら振り返る。
　後ろには薄暗い地下通路が広がるだけで、人の姿はない。ウソップは目をぱちくりさせ、改めて周囲を見渡す。
　ルフィ、ルフィの肩に座ったロー、チョッパー、ロビン、そして自分。何度数えてもひとり足りない。
　なるほど、とウソップは表情を引き締めて頷く。
　何度探してもあの特徴的な緑髪が見えない。
　ウソップは覚悟を決めてぴしりとまっすぐ挙手をした。

「キャプテンウソップより大事なお知らせがありまァす！」
「鼻屋、こんな時になんだ。工場の入り口ならそろそろ……」
「えー……ゾロが、いません」

[138 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/07(火) 23:39:40]

　シン、と静まり返る。なんなら全員の足が止まった。
　チョッパーが目をまん丸にしてあちこちを見渡し、ロビンが頬に手を添えて目を瞬かせ、ルフィが居た堪れなさそうに口をキュッと引き締めて奇妙な顔をした。
　そしてルフィの肩に腰掛けたローの顔が顰められる。

「……鼻屋、なァ、おれの聞き間違いか？　今、なんつった？」
「トラ男……悪い……おれの話を聞くより現実を見てくれ……」

　そっ、と誰もいない空間を手で示す。もちろんそんなことをしても消えたゾロは出てこない。
　ローは上、下、左、右と顔を動かして辺りを確認する。
　目当ての姿が見当たらないとやっと認め、その額に手を押し付けるようにして俯いた。

「……ッ！！　…………ッ！！」
「トラ男すげェ叫ぶの我慢してるな」
「地下は響くから懸命な判断ね」

　きっと内心『ゾロ屋ァァァァァァァァッ！！』などと叫んでいることだろう。
　ゾロと同じ船に乗る仲間として、ウソップたちは彼に向けて両手を合わせることしかできない。

「ついに一本道で迷うようになったか……」
「ゾロは元々一本道でも迷うぞ」
「それもそうか。いつものことだ、すまんトラ男」
「ゾロがほんとに悪ィな、トラ男」

[139 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/07(火) 23:42:02]

　ここでゾロを見つけに行こうと提案はしない。彼が迷ったら最後だ。
　もし迷子の先で事件や騒ぎを起こされようが、今回ならばもう見逃すしかない。他の警備隊や守衛隊を集めて暴れ回るならそれはそれで有りだ。
　というよりもそう思っておかなければウソップたちも心が休まらない。

「じゃ、ゾロは元々ブルックたちと同じ陽動部隊だったということで」
『異議なし』
「あるだろ！！　異議！！」

　ウソップの言葉にルフィとチョッパーとロビンが応えるが、ローだけが青筋を立てて吠えた。
　彼はふうふうと荒く呼吸を整えて、最後に大きく息を吐き出す。

「……もういい。ゾロ屋に真っ直ぐ走れと言ったおれも悪かった。諦めて目的に集中するぞ」
「そうだな！」
「お前のとこの船員だろうが！！　お前は責任待て！！」
「ひゃってひょろのまいひょはどーにもにゃらねぇだほー」

　ギャアギャア騒ぐルフィとローを眺めてウソップは苦笑する。いったいいつ、何処のあたりではぐれたかはわからない。
　今はとにかく自分たちだけでも前に進むべきだろう。

「ま、ゾロならひとりでどうにかしてるだろ！」

　工場は目前だ。ひとり欠けたまま、ウソップたちは走り続けたのだった。

[140 二次元好きの匿名さん 23/02/07(火) 23:48:58]

50ｍでも迷子になっちゃうファンタジスタだもんな...
選択肢的に天竜人なのかな?

[141 二次元好きの匿名さん 23/02/07(火) 23:50:30]

おいたわしや、ロー
ひとえに…ひとえに？
うん、まぁ頑張れ

[142 二次元好きの匿名さん 23/02/08(水) 07:11:11]

本当に期待を裏切らない男すぎる。
神絵でさらにブーストかかって爆笑した。
煮込みましょう。

[143 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/08(水) 08:53:15]

？？？？/視点チェンジ
麦わらの一味（ゾロ）

「いねェ……」

　ゾロは顔を顰めて辺りを確かめるが、そこには見慣れた仲間やローの姿はない。
　ひたすら無機質な通路が続いているだけだ。走りながらゾロは大きなため息をつく。

「トラ男の奴、この通路をまっすぐって言ったよな？　……ったく、仕方ねェ。先に行っててやるか」

　時間がないとは聞いている。いなくなった仲間たちを捜す暇はないだろう。
　なんならひとりでも例の警備隊の隊長と初日の決着をつけるのも良い。ついでに船で受けた襲撃のお礼もできる。
　ゾロは口元に笑みを浮かべ、そのまま走り続けた。

「あ？」

　すると、通路の先に光が漏れているのが見えた。
　どうやら大きな広間か何処かに繋がっているらしい。
　人の気配も多く感じられる。ゾロは腰の刀に手を掛けて速度を落とさない。

「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」

　そしてゾロは飛び出す。石の床を擦るように止まれば、ざわめきが耳に飛び込んでくる。
　ガチャガチャと響く音は鎧が擦れるものか、武器を構えるものか。はたまたその両方か。
　ゆっくりと顔を上げれば予想通りの光景の中に、意外なものが視界に飛び込む。

「――よう、また会ったな」
「な……お、お前ッ……！？」

　それは、特徴的なマスクと白い装束で身を包んだ女――天竜人だった。

[144 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/08(水) 12:38:34]

　ゾロはゆっくりと周りを見る。
　ここにいるのは警備隊とはまた異なる鎧を身につけた兵士たちだ。
　鎧には見覚えのある大きな花の紋章がある。鎧を脱いだ警備隊長の胸にあった紋様だ。
　あれがチョッパーたちの言っていた『守衛隊』なのだろう。
　しかし、その中にひとりだけ警備兵が混ざっている。
　彼は天竜人を背に守るように、足を踏み出してゾロを睨みつけた。

「……こんなところまで押し寄せて来やがったか」
「よお、お前のとこの隊長殿はいねェのか？」

　それは魚人族の男。警備隊副隊長の肩書をもつ者だ。
　腕などに包帯が巻かれているのが見える。昨日、ナミが警備隊たちに電撃を喰らわせたという話は覚えていた。
　その傷がまだ癒えていなくとも、動き回れる程度には回復したのだろう。魚人の強靭な肉体のおかげかもしれない。

「お前に教える義理はねェよ。……あの馬鹿、変な手心加えやがって……」
「手心、ねェ。おれらも優秀な医者が偶然いたおかげで助かったんだ。
これも日頃の行いってやつかもな」
「抜かせ」

　天竜人の周りには数人の黒服もいる。銃を手にしているが、その程度はゾロにとって障害ではない。

（天竜人は移動の最中だったのか？　それなら足止めしておけば船は出ねェな）

　ゾロは刀の柄を咥え、両手にも二振り構えた。
　魚人の警備兵と共に守衛隊の兵士たちも武器を構え直す。

[145 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/08(水) 12:42:33]

「……こ、この私を誰だと思っているんでアマス！？　私は天竜人アマスよ！！」

「知ってるからピーピー喚くな」

「んなッ……！？　ぶ、無礼にも程がある……！

しかもまた私の前を塞ごうとするなんて……！！

お前たちッ、絶対にあの男を殺すでアマスよ！！」

　鋭く床を鞭で叩く音がした。マスクの中で声を荒げている天竜人をゾロは一瞥する。

　魚人の警備兵は彼女に振り返りもしなかった。

（商品とやらは天竜人たちを殺すためって話だが……）

　ジンベエ曰く、この魚人の警備兵は特に天竜人を毛嫌いしているそうだ。

　前に見た時はただただ天竜人に頭を下げて、鞭を打たれているだけだった。

　今こうして守っているのも一時のことであり、実際にはこの天竜人の死すら彼は願っているのだろうか。

（理解できん奴らのことを考えても仕方ねェ）

　無意味な思考を振り払う。

　そしてゾロは一歩を踏み出して、笑みを深めた。

「お前らにこのおれを殺せるかどうか……実際に確かめてみろよ」

★ゾロが倒した護衛の数

※魚人の警備兵、黒服は除く。

dice1d30=3 (3)

[146 二次元好きの匿名さん 23/02/08(水) 12:54:02]

ゾロ手加減したの？

[147 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/08(水) 12:58:37]

　守衛隊たちの動き自体は悪くなかった。だが、ゾロの相手をするには不足がある。

　適度に力を抜いて数人を斬り飛ばし、ゾロは常に周囲を窺う。

（全員ぶちのめしても良いが、引き付けて騒ぎをデカくしたほうが時間が稼げるか？

……天竜人に逃げられても厄介だな。さて、どうするか）

　剣を振りかぶって来た兵士に足払いをかけて転ばせ、思考を常に動かし続けた。

　そこへ鋭い殺気を感じ、ゾロは床を蹴って後退する。同時に床が細かく砕けた。

「……なんだ、お前もおれと遊んでくれるのか？」

「ああ、そうだな。水遊びってのはどうだ？」

　そう言いながら魚人の警備兵は手のひらに水を転がせる。先ほど床を打ち砕いた正体だ。

（武装色で防げそうだが面倒だ）

　しかし、兵士たちの中に紛れ込めば安易に撃ち込んではこないだろう。

　ゾロは足裏で床を擦るようにして再び前に出た。

★ゾロが倒した護衛の数

※魚人の警備兵、黒服は除く。

dice1d27=8 (8)

[148 二次元好きの匿名さん 23/02/08(水) 20:09:23]

ほ

[149 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/08(水) 21:32:19]

　少しずつ数を減らしていく守衛隊に天竜人が歯噛みしている。

　周囲の黒服たちに宥められながらもヒステリックに叫び、鞭を打ち鳴らしていた。

　本来ならさっさと逃げてしまいたいのだろうが、ゾロがそれを易々と許すわけがない。

　兵士たちの相手をしつつ、常に動き回っていれば相手も身動きが取れないようだった。

「ロロノア・ゾロォッ！！」

「おっと」

　怒声と共に放たれた水の弾を飛び退って避ける。

　地下の簡素な石の広間は、ゾロの斬撃と魚人の警備兵による攻撃で随分とぼろぼろになっていた。

　

「城に襲撃者ってのもお前らか」

「なんだ、知っててここにいるのか？　手に負えねェ奴らが暴れ回ってるのにのんびりしてて良いのかよ」

「……おれたちにはおれたちの任務があるんでな」

「そうかい。そりゃ大変、だなッ！」

　飛び上がったゾロが頭上から斬り込めば、魚人の警備兵は半歩退がってぎりぎりを避ける。

　しかし、その衝撃に巻き込まれた兵士から悲鳴が上がった。

　

★ゾロが倒した護衛の数・最後のターン

※魚人の警備兵、黒服は除く。

dice1d19=8 (8)

（ダイス結果を引いた残数が5以下で…？）

[150 二次元好きの匿名さん 23/02/09(木) 01:51:58]

ゾロの足止めがどう動くか……

[151 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/09(木) 08:59:55]

　半数以上は数を減らしただろう。
　普段のゾロならさっさと全員を片付けているところだ。気絶して倒れた兵士たちを見て、ゾロは眉間に皺を寄せる。

（援軍が来ねェな。思ったより城に手を取られているのか、商品の運搬でもしてんのか。
……もう全員斬っちまうか）

　天竜人は黒服のひとりでも残しておけばひとまず心配はないだろう。そもそも放っておいてもあちら側の戦力にもならない。
　刀を構え直したゾロの雰囲気に察するものがあったのか、魚人の警備兵が険しい顔をした。

「……手加減されているとは思ったが、嬲られてるみてェ気分が悪いな」
「そんな趣味はねェよ。結果的にそうなっちまっただけで」

　持ち上げた刀の切先を魚人の警備兵に向ける。
　もう彼の動きは把握していた。どう踏み込み、どう刀を振れば良いのか脳内に描き出す。
　ゾロは大きく息を吐き、彼に告げた。

「じゃあな」
「ッ――――！！」

　息を飲んだのはいったい誰だったのか。そんなことゾロには関係ない。
　――目の前の魚人を斬ろうとした、その時だ。
　ひとつの通路の奥から突然、手が伸びて来た。

『え』

[152 二次元好きの匿名さん 23/02/09(木) 12:00:56]

だれだ…？

[153 二次元好きの匿名さん 23/02/09(木) 12:03:16]

「伸びて来た」だからルフィじゃね？

[154 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/09(木) 12:39:49]

　その手が壁にある僅かな突起を掴むと、腕の部分が細かく振動し始める。まるで縮むゴムのように。
　徐々に通路の奥から賑やかな声が聞こえてくる。
　それがもはや悲鳴になった頃、ゾロはそっと後退した。

「……ゥォオオオオオオ―――――ッ！！」

　――雄叫びを上げながら、その塊は目の前を高速で抜けていく。
　数人が一塊になったそれは壁に激突して派手な破壊音を立て、周囲に壊れた石片を撒き散らした。
　頭上に降って来た石片を斬って避けたゾロは呆れた様子でため息をつく。

「……なあにやってんだ、テメェら」
「え、あ、……ゾッ……ゾヒォ〜〜〜〜〜〜！！」

　目にいっぱいの涙を溜めて、鼻声で声を上げたのは床に転がるチョッパーだ。
　『毛皮強化』が間に合わなかったのか、帽子の上からもわかるタンコブを拵えている。
　すると崩れた石片の山から見慣れた顔――ルフィが勢い良く飛び出した。

「おっ！？　ゾロか！　ゾロいたぞー！！」
「いたぞー！！　じゃねェんだよこのアホ！！　バカ！！　あの距離をすっ飛ぶバカがどこにいるんだよ！！　死ぬかと思ったわ！！」

　一緒に飛び出して来たウソップがボコスカとルフィを殴る。
　殴られて揺れる頭を気にすることなく、ルフィは笑って服についた砂埃を払った。

「しししッ！　この工場の通路長ェし、こっちのが早ェだろ」
「とてもスリリングだったわ」
「……スリリングで済ませんな」

[155 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/09(木) 12:41:20]

　石片の山の中からロビンとローも同じように抜け出してくる。
　ロビンは可笑しそうに笑い、ローは青筋を立てた表情という対照的な姿だったが。
　しかし、ローはゾロの姿を見つけると、眉を吊り上げて声を低くした。

「ゾロ屋、わかってるんだろうな……」
「おう、遅かったな。どこで道草食ってたんだ？　おれのが先に着いたぜ」
「……ッ！？」
「その、悪ィなトラ男……」

　目を見開き、握った拳を震わせるローの肩をルフィが気遣わしげにポンと叩く。
　何故かゾロのほうはウソップから背中に無言で肘鉄を食らわされた。
　なんだ、と顔を向けても睨まれたのでとりあえず黙っておくことにした。

「――おい、お前ら。なんか忘れてねェか？」

　唸り声に近い言葉だった。
　ゾロたちが振り向けば、そこには魚人の警備兵を筆頭に、いまだ立ち続けている守衛隊たちの姿がある。
　ゾロが気絶させた者たちも数人はなんとか立ち上がったのだろう。武器を手に、険しい顔でゾロたちを見ていた。

「おっ、魚人のおっさん！　なんだ。白鎧はいねェのか？」
「……生憎な。報復でもしに来たってか？」
「悪いが、それだけじゃねェな」

[156 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/09(木) 12:55:11]

　前に出たのはローだった。
　彼は周囲にいる守衛隊や、その奥で黒服に守られている天竜人を確認する。
　そして、告げた。

「テメェらが今日この国から出荷する……天竜人を殺すための毒入りの商品を止めに来たって言や、理解してくれるよな？」
「――ッ！？」

　相手に動揺が走る。
　ただ、魚人の警備兵だけは顔色ひとつ変えず、ゆっくりと瞬きをした。

「……寝言は寝て言え」
「寝言かどうかは商品を確かめてみりゃわかる。酒に化粧品に甘味。どれもが直接体に取り込む物ばかりだ」

　指を折りながらローが話を続ける。

「天竜人は娯楽や嗜好品に飢えてるからな。高品質な高級品だと与えられりゃ喜んで着飾って飲み食いするだろうよ」
「…………」
「それで数年後には天竜人どもは毒に体を蝕まれて大騒ぎ。……世間では治療法も確立してねェんだ。あっという間に死ぬぞ」

　いつしか、守衛隊の者たちも表情を引き締めて、武器を握り込む手に力を入れていた。それは覚悟を決めた者たちの顔だ。
　やはり彼らもその真実を知っていたのだと理解できる。
　その中で狼狽えているのは黒服と天竜人だけだった。

[157 二次元好きの匿名さん 23/02/09(木) 19:20:49]

＞「おう、遅かったな。どこで道草食ってたんだ？ おれのが先に着いたぜ」

ローにこの上ない屈辱で笑った

[158 二次元好きの匿名さん 23/02/09(木) 19:30:10]

>>96

すごく胸が痛くなるが面白かった

ローはドンキホーテ海賊団で人間扱いしてもらったが、この子はしてもらえなかったんだなあ

なんか何が正しくて何が間違いなのか分からなくなってきたが、すごく面白い

このスレに出会えて良かった

[159 二次元好きの匿名さん 23/02/09(木) 19:35:46]

天竜人の前で計画を暴露したのか
この国の人たち天竜人に皆殺しにされないか?
心配だ

[160 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/09(木) 19:52:35]

「な、なんだと……ッ！？」
「あれは『死の外科医』と『麦わらのルフィ』だろう……！　海賊の言うことなど……」
「しかし……ッ！　おい、お前たち、どういうことだ！？」

　黒服のひとりが魚人の警備兵に訴えかける。
　彼は振り返らず、やけに重い息を吐き出すだけだ。その態度を見るに、もはや隠す気もないのだろう。
　しかし、そこに響いたのは天竜人の鋭い声だった。

「ふざけたことを……！　海賊の言うことなど信じるに値しないでアマス！！
どうせ何か企んでいるに決まっているアマス！！
惑わされれば相手の思うツボだということが理解できないのでアマスか！？」

　鞭で床を弾くように叩く。
　薄いヴェールに隠された顔は見えないが、その声には苦々しさと迫力が込められていた。
　黒服たちはこの状況に判断がつきかねている様子で戸惑いを滲ませている。
　ローが帽子を軽く下げ、肩を竦めた。

[161 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/09(木) 19:56:40]

「……まァいい。最初から話し合いなんざ期待しちゃいねェよ。

おれも別に親切でやってるわけじゃない」

　地を這うような低い声で言った。

「テメェらのやってることが気に食わねェから、ここにいるんだよ」

　ルフィがゆっくりとその横に並んだ。

　彼は麦わら帽子を手で押さえて顔を上げる。そこには笑みも浮かんでいなかった。

「そういうわけで、ここ、通してもらうぞ」

　ルフィの身に纏う気配が変わった。

　ゾロは静かに刀を収め、ただ、それを待つ。この場で武器を握る意味など、もうありはしない。

　そして――放たれた覇気が、この場の全てを飲み込んだ。

★ルフィが『覇王色』の覇気を放ちました。

①1〜60 　　守衛隊全員気絶

②61〜80 　①＋黒服全員気絶

③81〜100　①＋②＋天竜人気絶

dice1d100=2 (2)

※どの結果であっても『警備隊副隊長』は必ず立っているものとする。

[162 二次元好きの匿名さん 23/02/09(木) 20:31:30]

えらく手加減したな？

[163 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/09(木) 22:21:27]

　耳障りな鉄が擦れる音がけたたましく響いた。剣や槍も床に転がり落ちていく。
　床に倒れ伏せるのは口から泡を噴いた守衛隊の兵士たちだ。黒服たちもかろうじて意識を保っているようだが、なかば朦朧として床に膝をついていた。
　そんな中でしっかりと立っているのはひとりだけ――魚人の警備兵だ。
　彼も冷や汗を滲ませ、額に手を押し当てて荒く息を吐く。

「この……ッ、テメェ、なにをしやが、った……！？」

　ルフィは答えることはせず、ローに振り返る。

「道どっちだ？」
「この奥だ。倉庫もすぐそこだな」

　すでにこの場にいる者たちは眼中になかった。
　黒服のひとりが耐え切れなかったように床に頭を落とす。ゴンッ、という音がやけに響いた。
　ふと、ゾロは気づく。
　その奥に守られていた天竜人が床に座り込んだまま、震えていることに。

（……この覇気を耐えたのか？）

　彼女よりもよほど屈強な男たちが軒並み気を失っているのだ。
　その中で意識を保っているなど、見た目に反して強靭な精神力を持っているのかもしれない。
　しかし、それよりもゾロの目を奪うものがあった。

「あいつ……？」

　天竜人は震える手で襟元に手を入れ、ゆっくりと何かを引き抜いた。
　それは鈍く輝く小さな刀だ。

「なッ……！？」

[164 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/09(木) 22:24:32]

「ぅ、あァ、アァァァァァァッ――！！」

　天竜人は右手で小刀を振りかざし――床に置いた己の左手の甲に突き刺した。
　鮮血が飛ぶ。ゾロだけではなく、それを目撃していた者たちは言葉を失う。
　呼吸を乱しながらも彼女は刃を抜かない。ただ流れていく血を眺め、ぶるぶると震えていた。

「わ、たしは……たおれる、わけには……ッ！」
「な……何をなさっておられるのですか……！？」

　近くにいた黒服が焦りを滲ませ、天竜人に近づいた。
　その言葉も存在もまるで意識の外にあるのか、彼女は反応すらしない。
　流れる血を眺め、肩を大きく上下させている。　
　魚人の警備兵は顔だけ振り返り、言葉を失っていた。そのこめかみに浮かんだ汗が頬まで伝い落ちていく。

「お、おい！　何してるんだお前！　骨まで傷ついてるかもしれねェから動くなよ！？」
「やめろ、トニー屋ッ！！」

　半ば反射的にだろう。医療道具の入った鞄を手に、チョッパーが駆け出す。
　しかし、黒服が青い顔をしたまま銃を抜いた。

「この――近づくなァッ！！」

　床に倒れている兵士たちなどお構いなしに銃が撃たれる。
　意識が混濁しかけているせいで狙いが定まらないのだろう。
　撃った反動で跳ねた手が天井のほうを向いたまま、また何度か発砲された。
　空気を揺るがす銃声に混じり、ビシリ、と嫌な音が響く。
　音のしたほうへ顔を向け、ゾロは顔を顰めた。

「おい、天井が……崩れるぞ！！」

[165 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/09(木) 22:27:23]

　ルフィたちが突っ込んで壊した壁から伸びた大きな亀裂。
　それが小さな衝撃を受けたのを切っ掛けに自壊を招き、亀裂を伸ばし――天井の一部を崩した。

「……え？」

　子供のような呆けた声が響いた。
　壊れた瓦礫の下には天竜人がいた。きっと上を向いているのだろう。ヴェールのせいで顔が見えないが、それだけはわかった。
　視界の端でローとロビンが能力を発動させようとしていたが、一歩遅い。
　人をひとり潰すには十分な大きさの瓦礫は彼女に迫っていた。
　気づけばゾロも刀を手に走っていたが、僅かに間に会わない。

（クソ……ッ！！）

　天竜人が大きな瓦礫の影に埋もれかけた時、ゾロの視界に別のものが駆け抜けていった。目を見開いてその人物を見る。

「お前……！？」

　瓦礫が落ちた。床にぶつかった衝撃で完全に壊れたそれが四方に散る。
　鼓膜を揺るがす音と衝撃に息を飲む。
　天井と床が壊れて舞った砂埃が僅かに視界を悪くさせた。
　そんな中、新しい血の匂いがする。
　ゾロの目の前には砕けた大きな天井の塊があった。そして、その下からじわじわと血が広がっていく。

「……ぁ、あ？」

　か細い、困惑の声が聞こえる。
　ゾロが緩々と顔を上げれば、壊れた石の塊の向こうには床に手をついた天竜人がいた。
　自分自身で刺し貫いた左手以外の怪我はない。砂埃が晴れていく。
　そして、ゾロは眼下に見えたものに唇を引き結ぶ。
　――天井の破片の下敷きになっていたのは、魚人の警備兵だった。

[166 二次元好きの匿名さん 23/02/09(木) 22:44:03]

あっそんな切ないぞ
二人医者居るから大丈夫…大丈夫か？
たのむ大丈夫であってくれ

[167 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/09(木) 23:32:40]

「はっ……ははっ」

　気が抜けたような、笑い声がした。
　ゾロは無言でそちらを見る。そこにいたのは黒服の男だ。
　彼は顔に安堵すら浮かべ、下敷きになっている魚人の警備兵に言う。

「体を張ってお守りするとは、立派な心掛けだ！　ああ、やはり海賊共の言っていたことは戯言ォッフゥ――！？」
「黙ってろ」

　ゾロは剣の柄で黒服の頭を殴り抜く。吹っ飛んだ男は手足をぴくぴくと痙攣させたまま、気絶した。
　その音で我に返ったのだろう。天竜人が肩を大きく震わせた。

「え？　う、そ……？」

　ぽつりとそんなことを漏らした。
　白い服が汚れることも厭わず、彼女は座ったまま床を擦るように前へ這う。
　ゾロが訝しるより先に、彼女は放り出された魚人の警備兵の手に触れた。彼の手はぴくりともしない。

「あ……あ、あ、あぁ……ッ！」

　度重なる衝撃に耐えられなかったのだろう。幾分か薄くなっていたマスクがついに割れた。
　血や埃に塗れた手で彼女は頭を抱える。丁寧に手入れされている艶やかな金色の髪が汚れていった。
　くしゃくしゃと乱された長い髪は崩れて、肩にまで垂れてくる。
　ぽたり、と床に雫が落ちた。

「ぃ、や、いやッ、なんで、いやだ――――おじ様ァッ！！」

　弾かれたようにして彼女は瓦礫の下にいる魚人の警備兵に縋りつく。

「お、おじ様ッ！　そ、んな、どうして……！！　目を覚まして、ねェ、おじ様ッ……！！」

[168 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/09(木) 23:34:51]

　そこには高飛車で傲慢な天竜人など存在していなかった。
　しゃくりあげながら泣き叫ぶ、子供のような女がひとりいるだけだ。

「やだ、やだやだやだ……ッ！　どうしよう、血が、血が、止まらなッ……！
い、今、すぐに、止めて……おじ様……いや……ッ！」

　ゾロたちは異様な雰囲気に飲まれかけていたが、真っ先に動いたのはチョッパーだった。
　彼はゾロのいるところまで駆けつけ、すぐさま『重量強化』に変化する。

「少しどいてろ！　今この瓦礫をどけるから！」
「いやですッ！　お、おじ様に、これ以上、ひ、酷いことしないでェ……ッ！」
「な、治すだけだから！　な？　早く治療しないと本当に死んじまうぞ！！
あーもう！　ゾロあっち行ってろ！　お前の顔怖いだろ！？」
「おれのせいじゃねェだろうが！？」

　別に泣かせたのは自分ではない。腑に落ちない気分になりながら、ゾロも瓦礫をどかすのを手伝った。
　そして見えた光景に眉間にしわを寄せる。
　砕けた石が魚人の警備兵の背中の一部を貫通しており、そこから血がとめどなく溢れていた。チョッパーも表情を険しくさせる。

「トラ男！　止血手伝ってくれ！」
「……クソッ、わかった。異物の摘出はおれがする」

　医者ふたりが揃い、何やら言い合いながらテキパキと手を動かしていく。
　それを見て、天竜人は震える手を彷徨わせた。しかし音もなく忍び寄っていたロビンがそっと遮る。

「……落ち着いて。彼なら大丈夫よ。あのふたり、とても優秀な医者なの」
「ぁ……」

　乱暴に涙を拭ったせいか、ヴェールが乱れて白い頬に血がついた。金色の髪から覗いたのは、赤い瞳だ。
　するとウソップが首を傾げる。

[169 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/09(木) 23:35:55]

「あれ……？　どっかで見たような……？」
「こんな時にナンパか？」
「誰がするかそんなことォッ！！　そうじゃねェって！　あの子、確かに――」

　言い募ろうとするウソップの隣をルフィが追い抜かす。
　そして天竜人の前にしゃがみ込み、彼女の顔にそっと手を伸ばした。びくり、と彼女が震える。
　ルフィの手は金色の前髪をどかし、そしてすぐに払った。

「お前、こんなとこでそんな恰好して何してんだ――〝パッツン〟」
「ッ――！！」

　彼女は顔を腕で隠すが、それももう遅い。
　じっと見つめるルフィの視線から逃れられず、結局その両腕を降ろした。
　くしゃくしゃになったヴェールを剥がし、その白い顔を晒す。
　赤い瞳からぽろぽろと涙を零している女の顔はゾロの知らないものではあった。
　だが、心当たりがあったらしいウソップは顎が外れそうなほど口を開いて驚愕している。

「き、きみは果樹園にいた……ッ！？」
「おい、誰だ」
「おう！　パッツンだ！　昨日、おれを工場まで案内してくれた奴！」

　ルフィのあまり説明になっていない説明にゾロは頭を掻く。
　ウソップにいたっては混乱しているのか、ひとりで色々と唸っている。

「天竜人、なのよね？」

　ロビンの問い掛けに彼女は俯いて、何も話さなくなる。
　先ほどまで怒りに任せて鞭を振るっていた人物とは思えなかった。

[170 二次元好きの匿名さん 23/02/10(金) 02:52:39]

傲慢な態度は演技だったか
過去回想で幼少期の彼女っぽい人がいたから予想はしてた
海軍を本の国に置きたがらないとか、序盤から伏線は張られていたか

[171 二次元好きの匿名さん 23/02/10(金) 08:36:13]

やっぱ彼女が天竜人だったかぁ…
果樹園の時や記憶の描写でそうかもしれないと思ってたが…

[172 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/10(金) 09:05:34]

「……ぉ、おじ様は、助かるのですか？」

　彼女はひくりと喉を鳴らして声を漏らした。
　傷口の消毒や縫合に取り掛かっていたチョッパーが、顔も向けないまま声高に答える。

「大丈夫だッ！　絶対に助かる！」

　端的な言葉だったが、それで十分だったのだろう。
　顔を両手で覆った彼女は背を丸くさせて唸った。ぼたぼたと溢れた新しい涙が床を濡らす。

「うゥゥ、う、うゥ……ッ！」
「魚人のおっさん大丈夫だってよ！　言っただろ、チョッパーたちはスゲェ医者だって」
「は、はい……」

　ルフィがニッ、と笑って言う。ロビンやウソップが顔を見合わせた。
　ゾロも多少の困惑を滲ませて彼女を見下ろす。
　しかし、そこでルフィも「あれ？」と首を傾げた。

「ん？　んん？　白鎧たちは天竜人を殺すんだよな？　パッツンは天竜人？　なんだよな？
でもパッツンは魚人のおっさんと仲良いのか？　んん？」

　疑問符を飛ばしまくるルフィの言葉にウソップも息を飲む。

「そ、そうだぜ！？　この国は毒で天竜人を殺そうとしてる！　このままだと君も危な――」
「――ッ、『シロ君』たちは私のことを殺したりしません！！」

[173 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/10(金) 12:44:20]

　声を荒げた天竜人にルフィたちが目を丸くさせる。

「シロって誰だ？」
「……シロ君はシロ君です。ずっと、そう呼んでます。誰も……あの子の本当の名前を、知らないから」
「……もしかして白鎧のことか？」

　彼女は溢れる涙を一生懸命拭い、僅かに顔を俯かせた。
　そして震える声で問い掛ける。

「ル、ルフィ君は、どうして、私たちの邪魔を……するんですか……？」
「……〝私たち〟？」
「貴方、知っていたの？　いえ、むしろ……知りながら加担していたということ？」
「おいおい、そんなのって……！」

　この国が企てている天竜人を殺す計画。
　そこに天竜人である彼女が手を貸していたとなれば、また話が変わってくるだろう。
　しかし、同時に色んなものも繋がっていく。それにはロビンたちも気づいたようだった。

「じゃあ貴方が適当な理由をつけて海軍の介入を避けていたのは、この計画の露見を少しでも防ぐため……ね？」
「…………」

　無言は肯定だ。
　ルフィは無言で彼女を見つめている。ロビンは眉間にしわを寄せて首を傾げた。

「でも、わからないわ。こんな計画、貴方になんの利益があるというの？
もしも他の天竜人を殺して、貴方だけがその強大な権力と利益を受け取ろうと言うのなら……あまりに馬鹿げているけれど」
「ッ、そんなものいりません！！」

[174 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/10(金) 12:55:18]

　目を見開き、彼女は叫ぶ。

「天竜人なんか……私は……私は、天竜人なんかに……生まれたくなかった……ッ！」

　整わない呼吸のまま、服の裾を握りしめて震えている。
　ゾロは思わずウソップと顔を見合わせた。彼は困惑を顔に浮かべて口を開く。

「よ、よくわかんねェけど、天竜人なら毎日遊んで暮らせるんだろ？
そりゃおれたちや他の奴らにとっては、その、迷惑なこととかあるけどよ……」

　彼女は力無く、ふるふると首を振った。

「……私にはそれが耐えられない。同じ人なのに、どうしてあんなに酷い〝遊び〟ができるのか、理解ができない」
「……パッツン？」
「ねェ、ルフィ君はわかりますか？
勝手に奴隷にした人に日々の鬱憤をぶつけたり、余興で競い合わせたり、獰猛な獣に嬲られているところを笑いながら見ていたり、物のように天竜人の間で貸し借りしたり……。
こんなの、当たり前なんです。天竜人にとって、普通のことなんです。
もっと……もっと酷いことをする奴もいます。そうやってあいつらは遊んで暮らしてるんです」

　血に汚れた自身の手を彼女は見下ろす。
　赤い瞳には感情らしいものは浮かんでいない。それは何も感じていないわけではないのだろう。
　ただ、己の感情に抑え込むのに慣れてしまった者の顔つきだ。
　流石のゾロも察する。

（……〝まとも〟に生まれて育っちまったのか）

　生まれたのが何処かの海の片隅なら何も問題はなかった。だが、彼女はマリージョアに――天竜人として命を受けてしまったのだ。
　彼女は再び顔を手で覆って、笑いとも嗚咽とも取れる声を漏らす。

[175 二次元好きの匿名さん 23/02/10(金) 13:05:40]

コラさんと同じく瞳が赤いのか
変わり者のドンキホーテ一族だったりする?

[176 二次元好きの匿名さん 23/02/10(金) 13:08:26]

生まれ落ちた出自が残酷だな
本当はどこにでもいるような優しい女の子なのに、出自がそれを許さない

[177 二次元好きの匿名さん 23/02/10(金) 20:02:15]

ほ

[178 二次元好きの匿名さん 23/02/10(金) 22:27:37]

し

[179 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/10(金) 22:57:07]

「――だから殺して良いのか？」

　それは鋭く、険のある声だ。
　振り向けば指先を赤く染めたローがいる。床には包帯が巻かれた魚人の警備兵が寝かされていた。
　僅かに上下する胸は彼が呼吸をしていることを知らしめている。傍らには汗を滲ませたチョッパーがいた。
　彼は戸惑いを浮かべてローを見上げている。
　そんな視線も物ともせず、ローは取り出した布で血を拭い、鼻を鳴らした。

「確かに天竜人はおれも好きじゃねェ。だが、それであいつらを殺して良いっていう理由にはならねェだろ。
殺しなんてもんは結局エゴに過ぎないんだよ。たとえそれが人生を滅茶苦茶にされた復讐だったとしても、それこそエゴだ」

　血に染まった布が彼の手から離れた。ひらりと舞い落ちるそれを天竜人が涙に濡れた赤い瞳で見つめている。

「人の命は目に見えねェし、形もねェ。それでも不思議と重みがある。
ひとり分だけでも背負うのに精いっぱいだっていうのに……テメェには殺した命を全部背負う覚悟あるのか？
それともあるのは人殺しの罵りを受けても開き直れるほどの度胸のほうか？」

　ぐ、と彼女は息を飲んだ。
　涙や鼻水、血で顔をぐちゃぐちゃにさせ、何かを叫ぼうと口を開く。だが、戦慄く唇をゆっくりと閉じて体を震わせた。
　ローは目を細めて、そんな彼女を見つめている。

「……あの魚人――元奴隷だろ」

　びくりと天竜人の肩が跳ねた。
　彼女ほどではなくとも、ゾロたちも驚いてローを見る。
　集まった視線を振り払うように彼は僅かに顔を逸らし、重い溜息を吐く。

「背中に花の焼き印があった。手長族の野郎や、巨人にも同じ物があったな。
ずっと何かに似てると思っていたが、近くで見て理解した。ひとつの紋章にしては焼き色が異なる場所がある。
あれは天竜人の紋章の上から更に花のような紋章で上書きしたんだろ？」

[180 二次元好きの匿名さん 23/02/11(土) 08:10:47]

天竜人さん…

[181 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/11(土) 12:12:20]

「それって……」

　チョッパーが言葉を失い、傍らにいる魚人の警備兵を見下ろした。
　包帯の下に隠れているだろうその紋章を、彼も見たのだろう。

（つまり、あの粉野郎も……）

　頭に浮かんだのは白くなった肌に残る花の紋章だ。
　撒き散らされた粉で視界が悪かったとはいえ、目立つものだったからゾロもよく覚えている。

「お前らがどんな関係か知らねェし、興味もねェが……復讐目的の連中に唆されたってんなら止めておけ。
自分の意志もねェくせにそうやって周囲に流されるだけなんて馬鹿を見るぞ」
「……違い、ます」

　ギリッと歯を食いしばってから、彼女は顔を上げた。

「シロ君が約束してくれたんです……ッ！！　私が、私のまま、生きていける世界を作ろうって！！
私たちが……私とシロ君がずっと一緒にいるためにッ！！
復讐なんてそんなものじゃない！　彼は……天竜人すらどうだっていいんですッ……！」

　彼女は立ち上がり、震える体をそのままにローへ叫ぶ。
　赤い瞳からまた新しい涙を零し、ふうふうと息を荒くさせていた。
　ローは訝しげに眉を顰める。

「何……？」
「……そんなに嫌なら天竜人を辞めれば良いって思います？　無理なんです。
天竜人として生まれてしまった時点で、私はあの狭い世界でしか生きていけない……！
だって――天竜人は世界中から嫌われて、恨まれていますからッ！」

　彼女は歪な笑みを浮かべた。

[182 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/11(土) 12:13:38]

「過去に、神の権力を放棄して聖地の外で〝人間〟として暮らした天竜人がいたそうです。
〝彼〟は家族を連れて聖地を出て行きました。……どうなったと思いますか？」
「……それは」
「元天竜人だということが知られて家族諸共、周囲の人々に迫害されて破滅したんです。
……最期は実の子の手に掛かり、見るに堪えない姿だったと聞きます」
「「ッ……！！」」

　ローとルフィが顔色を変えて息を飲む。
　ウソップたちも汗を滲ませて顔を歪ませていた。あり得ない話ではない。
　天竜人に恨みを持つ民衆は多いだろう。実際に家族や知人が奴隷にされたり、機嫌を損ねて殺されたりする者たちもいるのだ。
　権力は時に、どんな鎧よりも命を守るものになる。
　何処で暮らしたのかは知らないが、話しぶりから海軍も介入してこなかったのだろう。
　彼女の言う『元天竜人』は何も理解せずに、自らその無敵の鎧を脱ぎ去ったのだ。

「待ってくれよ！　でも、それで他の天竜人を殺してどうするんだッ！？
そんなのただ、世界が混乱するだけだろ！？」
「……いや、狙ってんだろうよ」
「は？」

　ウソップの言葉にローが舌打ちをする。その表情は苦々しい。

「仮に……天竜人が珀鉛病になったとしても政府は隠すだろう。だが、そんなのいくら箝口令を敷こうが無駄だ。
死に物狂いで医者と治療法を掻き集めるはずだからな、いつかは何処からか漏れて瞬く間に世界中へ広がる。
……だが、そもそも治療すら間に合わねェ。ただの医者が治療法と薬を開発するのにどれだけ時間が掛かると思う？」

[183 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/11(土) 12:15:01]

「……数日？」
「……それは流石に……一週間？」
「お前たちに聞いたおれが馬鹿だった。んな早く物事が進んでたらこの世に病気なんて存在してねェよ」

　首をひねって唸るルフィとウソップにローが顔を引き攣らせる。
　そして彼は後ろにいるチョッパーを親指で示した。チョッパーは目をぱちくりさせる。

「いいか？　トニー屋を基準にするな。同じ船にあいつが乗ってる幸運を噛み締めて感謝しろ。
そして医者であるトニー屋の言うことは死んでも聞け。特にそこの馬鹿二名」

「おい、言われてるぞ、ゾロ」
「どう考えてもてめェのことだろ、ルフィ」
「お前ら両方に言ってんだろ」

　ウソップにどつかれる。解せない。
　これでもチョッパーの治療はきちんと受けているのだ。包帯などは鍛練の邪魔になるので自己判断で外すこともあるが。
　ローは溜息をひとつついて仕切り直した。

[184 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/11(土) 12:17:21]

「とにかく、普通は何年も掛かるもんなんだよ。治療法が確立する頃には生きてる天竜人はいねェだろうな」
「お、おう……」
「……もしそうなったら世界中が大騒ぎね。天竜人が病で滅んだ、って。
そして、例えば〝死んだはずの天竜人〟がひとりだけ、どさくさに紛れて聖地から消えても……誰も気づかないかもしれない」

　ロビンが傍らにいる天竜人を見下ろしながら言う。
　ゾロは違和感を覚えた。その言い草ではまるで――。

「――まさか、それだけのために、か？」

　だから、気づけばそう口から漏れ出ていた。
　視界の端で天竜人が拳を握るのが見える。だが、彼女は何も言わなかった。
　ローが喉を鳴らすように笑う。だが、そこに含まれているのは笑いなんてものではない。
　様々な感情が入り混じる、複雑な熱を伴っていた。

「そんな馬鹿げたことを本気でやるはずがない。……『普通』ならな。
だが、生憎『あいつ』は普通じゃねェ。天竜人のことをどうでもいいと思ってんのが本当なら、それが真実なんだろ」

　ローは足元に落ちていた壊れた瓦礫を踏んで、靴先で転がした。

「あいつにとって天竜人はそこらに落ちてる石と変わらねェ。歩くのに邪魔だからどかす。
……ただ、それだけなんだろ？」
「……そ、んな、そんなのって……！　それこそ命を何だと思ってんだよッ！？」

[185 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/11(土) 13:06:57]

　信じられないといった様子でチョッパーが叫ぶ。
　もう何がなんだかわからなくなってくる。ゾロは頭を掻いて呆れを滲ませた。

「それで国を丸ごとひとつ巻き込んだって？　そこまでいけば逆に感心するな……」
「おれにはもう意味わかんねェよ……。恨みとか、そういうもんがあるほうがよっぽど納得できるだろ……？」
「理解できなくて良いの。……いいえ、理解してしまったらダメよ」

　あの警備隊長はとっくに人としての『境界』の向こう側に渡ってしまったようだ。
　そんな男が躊躇うはずもない。彼にとって必要だからそうしているだけにすぎないのだから。

「……ッ、どうして、貴方たちには何も関係ないじゃないですか！
死ぬのは天竜人ですよ！？　あんな連中が死んだって――」
「パッツン」

　天竜人が言葉を飲み込んだ。
　それはまっすぐ、真正面からルフィに視線を向けられたからだろう。
　彼は一歩踏み込み、彼女に向けて告げた。

「おれ、やっぱり白鎧をぶん殴ってでも止めなきゃなんねェ」
「……なんで、ですか。どうして。だって、ルフィ君は、海賊で……」
「そうじゃねェ。そんなの関係ねェんだ」

　そして、当然のように言うのだ。

「だって、そんな方法で自由になって――お前は笑って生きていけんのか？」

[186 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/11(土) 18:46:36]

　沈黙が落ちる。天竜人は言葉を失った。
　握り込んでいた拳も力が入らないのか、だらんと垂れている。しかし、震える声をかろうじて紡ぎ出すように言った。

「わた、しは……シロ君たちが、いれば……〝普通〟の人間に、なれればッ……！」
「パッツンの言う普通の奴っていうのは人を病気にさせんのか？
やめとけよ。それで来年、あの子供と笑顔で遊べるわけねェだろ。お前には向いてねェって」
「――天竜人に生まれなかった人が勝手を言わないでよッ！！」

　乾いた音が響いた。それは彼女がルフィの頬を打った音だ。
　ルフィはそれでも動じない。むしろ手をあげた彼女のほうがよほど動揺している。
　彼女が小刀で刺し貫いたほうの手首をルフィが取った。

「見ろ。手ェ震えてる。……おれを叩くだけでこんなんになるのに、人を死なせるなんてできるわけねェ」
「ッ……見くびらないで！　わ……わたし、私、はッ……！　シロ君たちと一緒なら、なんだってやる！」

　ルフィの手を振り払い、自身の左手の手首を右手で握り込んで吠えた。

「ずっと耐えてきたのに！！　なりたくもない天竜人の真似をして、大好きな人たちと離れてッ……！！
あんな……父のようにおぞましい連中がいる狂った場所で十三年、ひとりで生きてきた！！
それも全部、シロ君やみんなと普通に暮らすために……ッ！！」
「おい、パッツン！」
「これ以上……私たちの邪魔をしないでくださいッ！！」

　叫んだ彼女が両手を宙にかざす。その瞬間、ローの〝ＲＯＯＭ〟のように半透明な空間がゾロたちを包んだ。
　ロビンが目を見開いた。

「能力者ッ――！？」

　ゾロが反射的に刀を抜こうとした瞬間、カチリ、と時計の針に似た音が聞こえた。
　息を飲んだ。刀を抜くどころか、踏み出そうとした足すら動かなくなる。

[187 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/11(土) 18:47:54]

（なッ……！？）

　驚愕の声は口から漏れることはなかった。
　空間内にいるルフィもウソップもローも同じだ。各々がぴたりと動きを止めている。
　体だけではない。ロビンなど揺れた長い黒髪が落ちることなく、宙に浮いたままだ。
　まるで体の全てがその場に固定されたかのように、ゾロたちは身動きが取れなくなった。

「どうしたんだ、皆ッ！？　へッ、え？　う、うわァッ！？」

　ひとりだけ離れた場所にいたチョッパーが悲鳴を上げるが何が起きているのかわからない。
　そちらを見たくとも眼球すら動かせないのだ。だが、すぐに原因がわかった。
　ゾロたちの横を巨躯が駆けていく。それは――あの魚人の警備兵だった。

（あいつ……ッ！）

　いつから目を覚ましていたのか。彼は傷ついた体を気にせず、天竜人の体を抱き上げる。

「お、おじ様……！　怪我がッ……！」
「すまん、お嬢……このまま行くぞッ……！」
「……ッはい！」

　ゾロたちを一瞥した彼は、もう何も言わない。
　彼は荒れた足場も物ともせずに、ひとつの通路に駆け込んでいく。その背中が見えなくなるのはあっという間のことだった。

「イテテ……って、皆！　大丈夫か！？　聞こえてるか！？　な、なんで動かないんだ……！？」

　魚人の警備兵に転がされたらしいチョッパーが慌てて起き上がる。
　ゾロたちの入っている謎の空間の周りをひたすらウロウロして、不安げに眉を情けなく下げていた。

[188 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/11(土) 18:49:23]

　応えたくとも口が動かせないのだ。彼からすれば今のゾロたちは物言わぬ彫刻に等しいだろう。
　呼吸はできている。自分の体内から響く鼓動の音も聞こえる当たり、動かせないのは表面的な部分のようだ。
　だからといってこの状況を打破する方法が浮かばない。
　あの天竜人を倒すなり何なりすれば良いのだろうが、そもそも動けないのだ。

（クソッ……！　こんなところで……！）

　このままでは船に乗られてしまう。
　海にはナミも乗ったハートの海賊団の船もあるが、もし海上戦になった時にあの男が能力を使って船を沈めたらどうするのか。
　そうでなくとも、この天竜人の謎の能力もある。楽観視はできなかった。
　ふいに皮膚がぴりつく感覚がする。それはルフィにいる場所から発せられていた。

（これは……）

　――稲妻に似た衝撃だった。ルフィの内側から膨れ上がったのは膨大な『覇気』だ。
　半透明の空間が彼の覇気の量に耐え切れず歪み始めた。そして、まるで空気を入れ過ぎた風船のように弾ける。

「ッは……！」

　同時に突然戻って来た体の自由にふらつく。ウソップに至っては前のめりに瓦礫へ突っ込んだ。
　ゾロは汗を手の甲で拭い、口の端を持ち上げた。

「おお……解けたな」
「無茶苦茶するぜ、まったく」
「ペッペッ……口の中に砂利が……。って、そうじゃねェ！！　早く追わねェとヤベェだろ！？」

[189 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/11(土) 18:50:19]

　跳び上がりながらウソップが叫ぶ。
　そんなことはわかっている。ゾロたちも体勢を整えると、ふたりが消えた通路に向かおうとした。
　だが、そんな中、ローが己の手の平を眺めて立ち尽くしている。そして、ぽつりとつぶやく。

「この力……まさか、あいつ……」
「……？　おい、何してんだ。置いてくぞ。ひとりで迷子になっても知らねェぞ」
「ゾロ屋ァッ！！　誰に言ってんだ、誰にッ！！」

　ゾロの呼び声にローが歯をむき出して叫ぶ。
　先ほど見えた妙な雰囲気は消え失せていた。彼は腕を組み、不機嫌そうに鼻を鳴らす。

「ああいう手合いはもう何を言っても意固地になって無駄だ。もう徹底的に潰すしかねェ」
「おうッ！　そういうの得意だッ！！」
「今までもそうやってここまで来たものね」

　この奥にはあの男が待ち受けているのだろう。謂わば最終決戦だ。
　ゾロは握った刀を振って、笑う。そして足を踏み出した。

「じゃあとっとと行くか。馬鹿野郎共を止めにな」
「ゾロ、ゾロ。……そっちじゃねェ、こっちだ」
「…………もっとちゃんと言え」

　チョッパーに服の裾を引っ張って止められ、ゾロは一歩、後ろに下がったのだった。

[190 二次元好きの匿名さん 23/02/11(土) 19:04:53]

…まさかナギナギの能力？？
流石に違うかな…？

[191 二次元好きの匿名さん 23/02/11(土) 19:15:17]

時間停止？　それとも現状維持？

[192 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/11(土) 21:44:16]

★【××の記憶】を再生します。

★【××の記憶】を再生します。

[193 二次元好きの匿名さん 23/02/11(土) 22:15:04]

一定範囲内のものの動きを止める...ローと同じような感じだと××ちゃんにかけられた魔法は覚醒技みたいな扱いになるから空間内で何かできる系じゃなくそもそも周りに影響与える系なのかね。でも対象に触れたりしてないしな...

[194 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/11(土) 22:31:45]

本日はおしまいです
実はもうエンディング確定したので正気に戻らないうちに最後まで駆け抜けます駆け抜けたい頑張ろうな親分

[195 二次元好きの匿名さん 23/02/11(土) 22:33:50]

シロ君の名前はフレバンスの人しかわからないんだな…
というかエンディング確定マジか！？
どっちになったんだ…どうか良い終わりだといいが…

[196 二次元好きの匿名さん 23/02/11(土) 22:34:53]

>>193

止める能力者が魚人の人でシロの粉を操る力はまた別能力かもしれない

[197 二次元好きの匿名さん 23/02/11(土) 22:54:46]

>>194

ジンベエ親分には絶対に城内で暴れてもらいたいダイス神の意思よ…

[198 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/11(土) 22:59:25]

とりあえず次スレ

次で終わりになると…いいな…？

【🎲SS・オリキャラ・閲覧注意】麦わらとハートがとある国を解明する（6）｜あにまん掲示板

[199 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/11(土) 23:23:42]

埋め落書き

[200 二次元好きの匿名さん 23/02/11(土) 23:32:12]

埋め