火焔太鼓【落語SS】｜あにまん掲示板

1二次元好きの匿名さん21/11/13(土) 20:43:59

江戸のあるところに道具屋を営むキングヘイローというウマ娘がおりました。
親子三人でつつましく暮らしているのですが、どうにも商人としてはへっぽこな様子。
今日もまたガラクタを買ってきてスカイに怪訝な目で見られているようでして───

2二次元好きの匿名さん21/11/13(土) 20:44:11

「……キング、また変なもの買ってきたの？」

「変なものって何よ！これはれっきとした掘り出し物なんだから！」

「どう見ても汚い太鼓にしか見えないんだけど……ほこりなんか被りっぱなしだしさ」

「ねえねえキングちゃん、それなあに？おみやげ？」

「あら、ウララさん。これは売り物よ」

「売り物ならキレイにしなくちゃだね！外でほこりはたいてくるね！」

「ああちょっと待ちなさい。ほこりを吸わないように布で口元を覆って……よし」

「それじゃいってきまーす！」

「……あの太鼓、ほこり落としたら消えてなくなるんじゃないの？」

「うるさいわよスカイさん」

3二次元好きの匿名さん21/11/13(土) 20:44:30

「よーし！きれいにするぞー！」

ﾃﾞﾝﾃﾞﾝﾃﾞﾝﾃﾞﾝ

「……あれ？ほこりをはたいてるだけなのに音が鳴ってる。おもしろーい！」

ﾃﾞｰﾝﾃﾞﾝﾃﾞﾝﾃﾝﾞﾃﾞﾝ　ﾃﾞﾃﾞﾃﾞﾝﾃﾞﾝ

「ウララさん？あんまり大きい音を鳴らすとご近所の迷惑に……」

「悪ィ、太鼓を鳴らしてンのはこの店で間違いねェか？」

「これはお武家様……！申し訳ございません、よく言って聞かせますのでどうかお許しを……！」

「いや、別に罰とかじゃねェンだが……太鼓の音を聞いたオヒメサマがどんな太鼓か見てェって言い出してなァ」

「……へ？」

「そういうワケでその太鼓を屋敷まで持ってきてもらいてェンだ。買い上げるかもしれねェからそのつもりでな」

「は、はい！かしこまりました！」

4二次元好きの匿名さん21/11/13(土) 20:45:07

「どうよ！見てたかしらスカイさん！？あっという間に売れたじゃない！」

「売れるわけないでしょ、あんな太鼓……話はよく聞きなよキング。そのお姫様ってのは音だけ聴いたんだよ？」

「だからその音を気に入ったから買うって……」

「音を気に入ったからって太鼓本体を見たわけじゃないでしょ。
　どれだけきれいな太鼓なんだろうなあ、ってところにあの小汚い太鼓を見せてみなよ。
　こんなものを持ってくるとはなんという無礼者！って逆鱗に触れること間違いなしさ。
　お武家様の屋敷によく生えてる立派な松の木に括りつけられてさ、一晩中寒空の下で放っておかれるのがオチだよ」

「ずいぶんと具体的な描写をしてくれるじゃない……でも行くって言っちゃったし、行ってくるわね……」

5二次元好きの匿名さん21/11/13(土) 20:45:44

「は～、ほんとキングってば商売下手だよね。
　すーぐ良い方に考えちゃってさ。
　いい？太鼓を売りに行く、なんて思っちゃいけないよ？
　太鼓を見せに行って万が一向こうが気に入ってくれたときに、はじめて売り買いが成立するんだからね？
　ほーんと、へっぽこキングなんだから。
　こんなへっぽこキングと一緒にいられるのってセイちゃんくらいしかいないんだからね？
　大丈夫、もし泣いて戻ってきてもちゃんと慰めてあげるから♪
　だからがんばってね～、へっぽこキング♡」

6二次元好きの匿名さん21/11/13(土) 20:46:09

「あーもう！何回へっぽこって言うのよスカイさん！
　いちいちバカにするような言い方をして！
　いくらなんでも怒るわよ！
　見てなさいよ！絶対にこの商談成功させてびっくりさせてあげるんだから！」

7二次元好きの匿名さん21/11/13(土) 20:46:37

「というわけでよろしくお願いいたします！」

「いや、そっちの事情を聞かされてもな……これがさっきの太鼓か？」

「はい。お約束通りお持ちいたしました」

「ン。それじゃあコイツをファイン……じゃねェや、オヒメサマに見せてくるから少し待っててくれ」

「はい、かしこまりました……ふう、とりあえず今のところは無事ね。
　今更だけどよくあんな小汚い太鼓を見せようだなんて思ったわね、あのお武家様。
　一応いつでも逃げられる準備はしておきましょう。
　……ずいぶん立派な松の木があるわね……スカイさんの話を思い出してしまうわ。
　おっと、さっきの人が戻ってきたわ……ど、どうでしたか……？」

「おう、オヒメサマが気に入ったみてェでな。あの太鼓お買い上げだとよ」

「……！ああ、そうですか！よかったあ……それで、おいくらで？」

「三〇〇両だとさ」

「ああ、なるほど三〇〇両…………三〇〇両！？噓でしょう！？」

※三〇〇両＝約1,200～3,000万円、とりあえずとんでもない大金だと思ってください

8二次元好きの匿名さん21/11/13(土) 20:47:27

「ホントだっての。五〇両ずつここに置くからな？まずこれが五〇両だ」

「ご、ごじゅうりょう……」

「で、コイツで一〇〇両」

「ひゃ、ひゃ、ひゃ……ひゃく、ひゃっく、りょう……」

「……しゃっくりでもガマンしてンのか？三つ目置くぞ？これで一五〇両だ」

「ひゃくごじゅうりょう……」

「ちゃんと確かめろよ？二〇〇両だ」

「にひゃくりょう……えぐ、ぐすっ……」

「オイオイ泣かれても困るンだが……ほら、二五〇両だ」

「に、にひゃくごじゅうりょう……おーいおいおい……」

「……オレ初めて生でその泣き声聞いたぞ。コイツで最後だ、三〇〇両！」

「さんびゃくりょおおお……！お水を一杯いただけますか……！？」

「そンだけ泣きゃノドも渇くだろうよ、ほら水だ」

「んくんく……ああ、助かりました」

「まったく世話が焼けるな……三〇〇両しっかり渡したからな？落とすンじゃねェぞ！」

9二次元好きの匿名さん21/11/13(土) 20:49:30

「あ～、お帰りキング。どうだった？」

「ふふん！聞いておどろきなさい！三〇〇両で売れたわ！」

「……キング。私はね、キングがどれだけへっぽこでも絶対に嘘をつかないから大好きなんだよ？
　それが見栄を張るためにそんな嘘をつくなんて……見損なったよ！」

10二次元好きの匿名さん21/11/13(土) 20:49:38

「いや、嘘じゃないわよ！？ほら、五〇両！」

「……え？」

「まだあるわよ！これで、一〇〇両！」

「うそお……」

「まだまだ！ほら一五〇両！」

「あわわ……ちょ、ちょっと腰が抜けちゃった……」

「ああもう！私の手に掴まってなさい！はい二〇〇両！」

「にひゃ、にひゃくりょう……」

「二五〇両よ！」

「ひええ！キングは商売上手だねえ！？」

「いまさらなに言ってるのよ！ほらこれで！三〇〇両よ！」

「わあああ！キングお水もらっていいかな！？」

「ほら見なさい！私だってお水もらったんだから！」