- 1二次元好きの匿名さん23/02/21(火) 18:40:01
- 21/923/02/21(火) 18:40:23
──2月12日 日曜日 栗東寮──
「シャラララ♪ すーてきにフンフーン♪ シャラララ……、あれ?」
「あら、ジョーダンちゃん、おかえりなさい。お出かけしていたんじゃねぇ」
「アキュートさんただいま〜、そーなの、火曜日バレンタインデーじゃん? だからさ、ショッピングモールのバレンタインデーフェアでチロルたっくさん買ってきたった! 友チョコ用〜!」
「あらまぁ、ちろるちょこ! ジョーダンちゃんはお友だちたくさんだものねぇ?」
「そ! あたしけっこー顔広いし? ってそーじゃなくてさ、なんで栗東のキッチンにナカヤマもいんの? なになに、アキュートさんとなんか作ってんの?」
「うふふ、そうなの。あたしたち、友ちょこを作っているのよ」 - 32/923/02/21(火) 18:42:43
「友チョコ? アキュートさんはともかく、ナカヤマが?! え、何、最近ちょっとずつ暖かくなってっけどまた寒くなんの?!」
「気候の変動をひとのせいにするんじゃねぇよ、ジョーダン。あと私のは友チョコじゃない」
「おや、そうじゃったねぇ。……ジョーダンちゃん、買ったチョコレート、キッチンストッカーにしまっちゃいなさいな。すぐ溶けるような室温じゃないけど……」
「あ、そーね、……他の子のチョコと混ざらないようにしねーと……、ナカヤマがキッチン立ってんの意外だけど美浦のキッチン空いてなかったん?」
「美浦は今ヒシアマによるチョコレート作り教室が開催されててな……混ざる程のもんじゃないし、キッチンの端を借りようと思っていたんだが……」
「あたしとナカヤマちゃん、ちょうど買い出し中に出会ってねぇ。ナカヤマちゃん、こういうのを興味津々で見られるの、あまり好きじゃないでしょう? だから栗東のキッチンにいらっしゃいって、お誘いしたのよ」
「あ〜、ヒシアマさんのお手製チョコとかめっちゃおいしそー……見なくてもわかる」
「あの人のチョコレートは美味いぜ? 甘いものは好かないが、寮生の好みに合わせて甘さやフレーバーを変えてくるからな。細かい気遣いにゃ毎年舌を巻いてるよ」
「フジさんも毎年チョコ用意してくれるよね。ちょっとしたメッセージと一緒に」
「寮長さんっていうのは大変よねぇ。いつもあたしたちのことを見守ってくれていて、ありがたいことじゃよ」
「ほんそれ。で、ナカヤマはなに? 友チョコじゃなきゃ何作ろうとしてんの? ……牛乳パックと……シリアル……? マシュマロ??」
「馴染みの店の連中に、ちょっとな……あいつらこういう時にだけ矢鱈と冴えやがって……クソ……」
「ナカヤマちゃん、よく行くご飯屋さんの常連さんたちに、チョコレートをあげる約束をしちゃったんですって」
「なんかの勝負して負けたってこと? んで手作りチョコ作ってんの? なんかウケる。撮ってい?」
「よくねぇに決まってんだろ」 - 43/923/02/21(火) 18:45:32
「ナカヤマそーゆーとこ律儀だよねぇ。踏み倒さねーの。で、牛乳とかで何作んの?」
「チョコレートバー」
「……? どう作んの?? 牛乳で……?」
「牛乳パックは型がわりなのよね、ナカヤマちゃん。湯煎したチョコレートの中にね、シリアルとか、あとマシュマロとかを入れて、冷やして固めてざっくり切れば、完成!」
「牛乳の中身は?! 中身の出番ねーの?!」
「空のを学園の食堂から貰ってきたんだよ。……ほらジョーダン、暇してんなら手伝え」
「えでもあたしネイルしてっし!」
「調理用の手袋あるから、良かったらどうぞ?」
「え、ええー、でもぉ……あ、メンドーとかそーゆーのじゃないけどぉ……」
「別に技術的なことを求めやしねぇよ。アンタの役目は、私とアキュートが湯煎したチョコレートに中身を突っ込んで混ぜることだ。配合は任せる」
「中身?! 中身ってなに?」
「ジョーダンちゃんおちついて? そこに千切ったマシュマロがあるでしょう? このマシュマロと、さっき言ってたシリアルとか……砕いたミックスナッツもあるから、食べたときにさくっとなるくらいの量を入れる、それだけじゃよ、だいじょうぶ、らくちんらくちん」
「さくっとなるくらいの量ってなに?! さくっとさせたことないんだけど?!」 - 54/923/02/21(火) 18:47:40
「こ、これで良さげ?」
「上出来だ。あとは牛乳パックにつめて、上に適当にドライフルーツを散らして冷蔵庫で冷やす」
「で、固まったらパックごと切ってはがして、ラッピングすれば完成ねぇ」
「ラッピングが面倒なんだよなァ……このまま持っていって奪い合いでもさせるか? 手作りを持っていくって条件だったが全員分とは言ってねぇし……それも見物ではあるか」
「なんかナカヤマがこえーこと言ってる……。……アキュートさんは友チョコなんだよね? どんなの?」
「あたしはねぇ、ジョーダンちゃんみたいに顔見知りがたくさんってわけじゃないから、ひとりひとりに小さなチョコレートを作ったのよ。もうそろそろ冷えた頃合いかしら……」
「わ! いろんな形のチョコレートがあるじゃん!」
「チョコレートの中にいろんなものを入れてたりするんじゃよ。……たとえばこれとか、中身はハスカップジャムにしているの」
「あ、タルマエちゃん用?」
「おおあたり~。この黄色いチョコレートは、ホワイトチョコにパンプキンパウダーを使ってね、リッキーちゃんに」
「すっげー凝ってる! あ、じゃあこれは? 星型のやつ!」
「これはねぇ……ふふ、誰宛だと思う? ヒントは、あたしのくらすめいと……ナカヤマちゃんもわかるかしら?」
「……アヤベか」 - 65/923/02/21(火) 18:50:13
「あ〜! アヤベさん、星好きなんだっけ! これはこれは? 黄色いチップ乗ってるやつ。あ、待ってあたしが当てたい! これも二人のクラスメート?」
「ふふ、そうじゃよ~、ちなみにバナナチップを乗せているの。味もバナナ風味でね」
「はいはーい! わかった! ハヤヒデさんっしょ!! 並走お願いするときお礼にバナナ持ってくあたしに隙はねーし!」
「おやおやジョーダンちゃん、とっても調子がいいわねぇ。じゃあこれはわかる?」
「……なにこれ、お月さま? 三日月にしてはちょっとヘンな感じ……星! とか、花! みたいにわかりやすくねーの……」
「ヒントは……がおー!」
「?!」
「ふふ、ナカヤマちゃんにはこっちを当ててもらいましょうか?」
「花束の形のチョコレートか……花束なら……タイシンだな」
「ナカヤマちゃん、よく見てるわねぇ。……ジョーダンちゃんはわかった?」
「がおーでしょ? がおー……。……ウインディさん?」
「はい、ふたりとも正解。ウインディさんのほうはね、お月様じゃなくてホワイトチョコで作ったキバなのよ。タイシンさんのほうはエアグルーヴさんとの引っ掛け問題ねぇ」
「てことはチケゾーさんのチョコ……これだ。チケゾーさんめちゃくちゃ喜びそー!」
「アキュートは相変わらず至れり尽くせり余念がないことで」
「楽しんで作っちゃったわ。独りよがりになっていなければいいのだけど……」 - 76/923/02/21(火) 18:53:07
「いやでもほんとアキュートさんすごいわ、あたしもね、いつメンとか仲いい子用は別に用意してるけど、こんなその人のための! ってチョイスじゃねーもん」
「ジョーダンちゃんもすごいと思うわよぉ? ちろるちょこ、いっぱい配るんでしょう?」
「そ。クラスメートとかーセンセーとか? あたしもなんだかんだで有名になってきたし? 日頃のお礼みたいなさぁ、そーゆーの? あらかじめ用意するよって言ってくれる子もいたし、うれしーじゃん? そしたらお返ししたくなんね?」
「うんうん、わかるわぁ。あたしも、余分にちょっと用意しておくつもりだもの」
「ナカヤマは今年もいっぱいもらえそーだよねぇ? 一昨年もすごかったけど、去年は凱旋門賞行ったし?」
「まぁな……」
「あれ、テンション下がってね? なに、なんか困ってんの? ジョーダンさんが聞いちゃろか?」
「ナカヤマちゃん、甘いものがあまり好きじゃない、というのもあるかしら……?」
「それはある。貰えるものは貰いたいって柄でもないしな。だが──用意されたものを受け取らねぇのも気が引ける」
「甘いものならいらん、って言いそうだけど案外言わんもんね、ナカヤマ」
「それにナカヤマちゃん、一所懸命な後輩さんたちにちょっと弱いものねぇ」
「弱くねぇ。……ホワイトデーに期待はすんなとは言うんだがね。渡したかっただけだとか言うヤツが多いんだよ」
「んじゃさ、あたしのチロルとか、ナカヤマが作ったチョコレートバーみたいに、その場で返せるやつ用意したらいいんじゃね?」
「……どうしてそうなる」
「甘いのもらうのはしょーがないんでしょ? なんかよくわかんねーけど、お返しについて悩んでそーだなって思ったから。ちがう?」 - 87/923/02/21(火) 18:55:20
「おや、そうなの? ナカヤマちゃん」
「あ、ちがってたらゴメン。ホワイトデーに三倍返ししないといけないーとか、そーいうのじゃないっしょ?」
「……」
「……なにか話し辛いことだったりするのかい?」
「別にそんなじゃねぇよ。……学外で応援してくれてる『ファン』とは違うだろ、学内で渡してくる連中ってのはさ」
「……ちがうの????」
「そうねぇ……たとえば、あたしはダート、ジョーダンちゃんとナカヤマちゃんは芝を走るけれど、……トゥインクルシリーズという大枠の中では、競い合いながら走っているようなものじゃない?」
「ライバルってこと? たしかに学園生じゃなかったらライバルじゃないっか」
「そうなりゃそれなりの……願いだとか、希望だとか……それが私に向けられていなくても、何らかの決意だとか意地だとか……そういった重さが込められてるものさ。口にゃ出さなくてもな」
「……。……もうちょっとわかりやすく言え??」
「要は、ご利益があるように、だとか、願掛けのために、だとか、そういう意図でチョコレートを渡してくる連中も少なからずいるんだよ」
「あらまぁ……でも、わからなくはないわねぇ。ひとって、縁起のいいものに惹かれがちだし、あやかりたくなるものじゃもの」
「去年のバレンタインデーもそうだった。まだ凱旋門賞挑戦の準備中だったってのに、勇気づけられただとか、自分も頑張ろうと思うだとか……」
「ま、凱旋門賞ウマ娘をジャパンカップで返り討ちにしたスペちゃんとか、全盛期かってくらい戻してきたエルちゃんとか打ち破ってさ、ナカヤマは希望見せてきたわけじゃん。ナカヤマの『先生』とかにも。……自分もやってやりたい、って思う気持ちはさ、わかるよ。あたしもそんなよーなもんだし」 - 98/923/02/21(火) 18:57:20
「……ナカヤマちゃんは、そんな気持ちを貰うのが、重荷?」
「……拝もうが願おうが、好きにすりゃいいさ。私は求められるものや望まれるものを返してはやれない。そもそも返せないだろ。私に出来ることがあるとすれば、走り続けることくらいだ。……何かしてやりたいと思うくらいの義理もないしな」
「でも……気になっちゃうのよね? ナカヤマちゃん、やさしい子だもの」
「……おいおい、私の何をもって優しいなんて言うんだか。面倒だって憂鬱になってるところじゃねぇか」
「めんどーならグダグダ言わずに切り捨ててんじゃん。ナカヤマならさ。……ん〜、ナカヤマ、口開けろー?」
「何でだよ」
「ほらぁ、いいから!!」
「……ハァ。……んぐ。んだよ、甘いの好みじゃないって言ってんだろ」
「チョコクロ味のチロル、甘さ控えめなの知らねーの? 二日早いけどこれはあたしからナカヤマへの友チョコ! いつもありがと! って気持ち!」
「ナカヤマちゃん、ナカヤマちゃん」
「何だよアキュート」
「はい、あーんして?」
「んあ? ……、あのなぁ……」
「テリーヌショコラ、そんなに甘くないでしょう? ナカヤマちゃん、いつもありがとうねぇ、……の、気持ちよ」
「えっなんでアキュートさんのときは素直に口開けんの?! ……じゃなくてさ、お礼チョコと一言、それだけでもいいじゃん? ありがと、とか、そっちも頑張れ、とか。むずかしいこと考えなくてもさぁ」 - 109/923/02/21(火) 19:00:08
「そうねぇ、……学外のファンのひとたちと違って、学内の子たちは距離も近いし、目にする機会もあるから、意識しちゃうこともあるかもしれないけれど……たぶんね、みんな、それだけでいいと思うんじゃよ。だって、渡したかっただけ、なんだもの」
「ナカヤマにあやかって勇気出してさ、一歩進んでやろーって気持ちにはさ、ありがと頑張れのエールだけでじゅーぶん、ってこと! それ以上求められたら応相談? その場でチョコ返せばホワイトデーのこと気にしなくていいし? ど? 名案じゃね??」
「……ハハ、……名案かぁ?」
「ふふふ、名案だと思うわよ、ナカヤマちゃん 」
「つかあたしめっちゃいいこと言ったと思うわ……。我ながら……ヤバ……。ってことでナカヤマ、バレンタインデーのお返しチョコ、楽しみにしてっから! ね、アキュートさん!」
「そうねぇ。どうせなら、交換したいわねぇ?」
「……配布分も作ってたらアンタらのをこしらえる時間はないだろうが」
「えー?! まあいいけどぉ、去年もナカヤマくれなかったもんね?」
「そのチョコレートバーをちょこーっとだけでもいいのよ?」
「やらん。が……ホワイトデーになら、考えてやってもいいぜ?」
おしまい - 11二次元好きの匿名さん23/02/21(火) 19:04:40
ウインディちゃん育成にて、アキュートとウインディちゃんのクラスメート感を匂わせる台詞があったので、
ウインディちゃんとクラスメートな女帝、BNW、アヤベさん(あとトプロ……)ともクラスメートなんじゃ? というところから書きたかったものでした。アキュートさんナカヤマが授業中に気持ちよさそうに寝てるの見てるしウインディちゃんが熱心に脚本書いてるの見てるし、よく周囲を見ているおばあちゃん……
ジョーダンだけは未だどこにいるのかわからないので曖昧にしています。
よって、それぞれの呼び方についても推定です。ウインディちゃんとアキュートおばあちゃん「アキュートさん」「ウインディさん」って呼び合う仲だとは思わなかった。 - 12二次元好きの匿名さん23/02/21(火) 19:09:20
私も混ざりたい
- 13二次元好きの匿名さん23/02/21(火) 19:13:24
良き…良いSSで御座いました…
- 14二次元好きの匿名さん23/02/21(火) 19:20:58
こーゆーのいいよね〜
クラスメートとかもっと教えてほしいよね〜 - 15二次元好きの匿名さん23/02/21(火) 19:55:35
- 16二次元好きの匿名さん23/02/21(火) 20:18:47
凄く待ってました!
仲がいい感じがいいですね - 17二次元好きの匿名さん23/02/21(火) 20:20:13
09世代の人だ!!!いつも助かっています
- 18二次元好きの匿名さん23/02/21(火) 20:23:30
主様のSSはナカヤマの地の文マシマシのものも大好きなのですが、会話文SSもやっぱり良いですね!
登場人物の様子が自然と伝わってくるテンポ、楽しさ!
今回も良き青春のわちゃわちゃでした! - 19二次元好きの匿名さん23/02/21(火) 22:02:48
- 20二次元好きの匿名さん23/02/21(火) 22:31:42
いつもの3人会話SSの人やん!やったぜ
世話焼きと律儀と賑やかしの掛け合いがテンポよくて好き
>さくっとなるくらいの量ってなに?! さくっとさせたことないんだけど?!
ここすき。料理慣れした人の指示は料理しない人にとってはほぼ呪文だよね
- 21二次元好きの匿名さん23/02/22(水) 07:38:54
ありがとうございます!
会話文のみなのでいいテンポになれ〜と念じながら書いているのでそう言っていただき感謝です……!
ジョーダンはゆせん……? 牛乳パック食うの……? みたいになってそうだなと思いつつ書いてました……!
- 22二次元好きの匿名さん23/02/22(水) 18:17:55
- 23二次元好きの匿名さん23/02/22(水) 18:18:52【トレウマ/SS】ぱかプチヤマフェスタと春のあれこれ|あにまん掲示板よくあるぱかプチに嫉妬したりしなかったりするナカヤマと性別不問のトレーナーの話。14レス。bbs.animanch.com
こんなのも書きました
こたびも楽しんでいただけていますように!