- 1二次元好きの匿名さん23/02/28(火) 13:57:06
- 2二次元好きの匿名さん23/02/28(火) 13:57:20
太陽は沈みきり、静寂に包まれた夜。
その静寂を引き裂くように、一人踊るウマ娘。
『こんなところにいたのか。探したぞ…タップ』
「ん___トレーナーか」
彼女は呼びかけに動きを止め、こちらに向き直る。
「どうした?…オレを止めにきたのかい?悪いがオレは今ダンスをしていたい気分でね。邪魔をしないでくれるとありがたいな」
『止めるわけないさ。君は自由にすれば良い』
「…相変わらず、トレーナーとしては変な奴だ。だがオレにとってはそれが心地良い」
彼女はまた踊り出した。タンタンと、トトト、と…心地の良い足音が響き渡っている。それは音楽が流れていなくても旋律を想起させるもので_
『…Special Record、か』
「ご名答。オレはあの曲が気に入っていてね。いつか披露できると良いな、ウイニングライブの舞台で」
『タップならできるさ』
「………気軽に言わないでもらいたいね」
彼女はふと足を止める。脳内で流れていた曲も途切れてしまう。
「オレのここまでの戦績、トレーナーと歩んできた道のり。G1のライブの舞台は遥か遠いじゃないか」
明るく踊る彼女の心に、表からは見えない影が落ちている。この間の重賞も結果が振るわなかった。それに大きな怪我を2度も経験している彼女。明るく振る舞う様に見えて、かなり負担なのだろう。
『…それでも、踊るのか』
「好きなんでね。踊るの」
それだけ短く答えると、彼女はふいと視線を逸らし、また踊り出した。踊る彼女に問いかける。
『パドックでもよく踊ってたよな。疲れないのか?』
「疲れるよ。ダンスは自分との真剣勝負さ」
『それでも、レース前にやるんだな』
「やめろっていうのかい?」
『言わないさ。君は自由でいれば良いんだ』
「…変なトレーナーだな、相も変わらず」 - 3二次元好きの匿名さん23/02/28(火) 13:57:32
『なぁ』
「なんだい」
彼女の弾むような動きを眺めながら、足音に耳を傾けながら、ぽつりと疑問を漏らした。
『なんで君は踊るんだ?』
「………オレを見てもらいたいからさ」
『見てもらいたい?』
「トレーナー、君みたいな人の話さ。今のオレは正直勝ちきれていない。それでも、オレの良さをわかって、そばにいてくれるだろう?」
『君は強いよ』
「おバ鹿。今はそういうのは良いからさ。…とにかく、オレが”タップダンスシチー”であることを、オレがここにいることを。全身で示していたいから」
『成程な』
「…納得するのかい?オレ自身が言うのも何だけどさ。だいぶ無茶苦茶な話と言うか、わざわざレース前に着かれる理由にはならないけど」
『君は自然体でいるのが一番良い』
「そうかい」
彼女が踊るうち、夜はどんどんと深まってゆく。
門限も何もかも破っているだろう。それでもただ眺めていた。
「…なぁ。本当に良いのかい?オレを止めなくて」
『何度も言ってるだろう。君は君がしたい様にするのが一番なんだ。それにそう言うってことは、ある程度自制はするだろう?』
「信用してるんだな」
『信頼してるんだよ』 - 4二次元好きの匿名さん23/02/28(火) 13:57:47
「………だいぶスッキリしたしもういいか。次のレースに向けて調整しよう。トレーナー、次のレースはどんな条件だったかな?」
『芝2000mだな』
「ん、了解したよ。オレ少し走りたくなってきてね。それでいいかい?」
『当然』
彼女は駆け出す。持ち前の軽やかな足捌きで、まるで踊る様に駆けてゆく。
「はっ、はっ、は………」
彼女は踊る時より苦しそうな顔をしている。
『………ちょっと、待ってくれ』
「ん…どこかフォームがおかしかったか?」
『………苦しそうだと思って』
「あー。そうだね。少し苦しいかもしれないな。でも走るってそういうものだろう?常に自由でいるわけにはいかない。事前に決めた作戦通りの位置取りなんかを気にしながら………」
『気にしないでいい』
「…常々変な奴だと思ってたけどさぁ………走りの常識まで否定し出すとは思わなかったね」
『常識や駆け引きにとらわれなくて良い。君は君の走りをすればいいんだ。”タップダンスシチー”のレースをただしていれば良いんだ』
「………つまり。レースの舞台で自由でいろ、ってことだね?」
『ああ。自由に走れ、タップ』
「…ははっ。君は本当に変な奴だな、トレーナー。オレの走りをしろってことか。わかったよ」
彼女は小さく呆れた様に、しかし楽しそうに笑いながらこちらを向いて。
「…トレーナーに言われた通り、オレは自由に走る。これがオレ達の走りだ。そう示してくるよ」
『…オレ”達”、か』
「オレとトレーナーは二人三脚。そうだろう?」
『その通りだよ』
夜が明けるまで、後少し。 - 5二次元好きの匿名さん23/02/28(火) 13:58:00
以上になります
タップダンスシチーがビジュだけで好きなウマ娘五本の指くらいに食い込んできた。
だけどタップダンスシチーをタダシって略したのが忘れられないせいでタダシって呼びたくなる
過去にはこんなものを書いておりました
【SS】マーちゃんトレーナーの日記帳|あにまん掲示板注意事項人によっては不快になる要素が含まれますご注意ください次レスから始めますbbs.animanch.com【SS】実装記念SS|あにまん掲示板『…疲れた…』時計の音だけが聞こえてくるトレーナー室。自分の仕事は終わらせたが、すっかり体力を使い切ってしまった。最近担当ができたからと、張り切りすぎただろうか。『…5分だけ仮眠を取ろう…』そう言って…bbs.animanch.comクソスレタイからお出しされるSSは神というジンクスがあります|あにまん掲示板「トレーナーさん、好きな宝石はありますか?どんな色ですか?どんな形ですかっ?」不意に、担当のサトノダイヤモンドにそう声をかけられる。『………どうしていきなり、そんなことを聞くんだ?』「…なんとなく、で…bbs.animanch.com - 6二次元好きの匿名さん23/02/28(火) 14:24:41
常識にとらわれず、自分の走りを極めて欲しいトレーナー
2人の二人三脚が勝利を掴むと思うと胸が熱くなりました
いい小説読めました、感謝