【オリキャラ注意】「ドジって前世を思い出しちまったぜ」外伝その10

  • 11◆A8pWn3jbyg23/03/04(土) 23:28:25

    ナギナギの実を食べてすっ転んだら前世の記憶を思い出しちゃったコラさんの話、の続編。


    SS+ダイス+安価スレになると思います。ただしダイスと安価は要所要所。

    思いついちゃったボスがボスなのでボリュームが広がっていくかもしれない。

    書き溜めゼロなのでライブ感で行くのをご了承ください。

    転載は禁止とさせていただきます。


    【注意事項】

    ・このスレの時系列はごちゃごちゃです。劇場版時系列と思ってください。

    ・ワノ国後っぽい雰囲気が見られたりするかも知れませんが、時系列はパラレル。

    ・ローはK・ROOM、R・ROOM使えるローなのか現状定めていませんが、『凪(サイレント)』は使う事はないと思います。


    前スレ

    【オリキャラ注意】「ドジって前世を思い出しちまったぜ」外伝その9|あにまん掲示板ナギナギの実を食べてすっ転んだら前世の記憶を思い出しちゃったコラさんの話、の続編。SS+ダイス+安価スレになると思います。ただしダイスと安価は要所要所。思いついちゃったボスがボスなのでボリュームが広が…bbs.animanch.com

    最初のスレ

    【オリキャラ注意】「ドジって前世を思い出しちまったぜ」外伝|あにまん掲示板前スレhttps://bbs.animanch.com/board/1079485/の続編です。ナギナギの実を食べてすっ転んだら前世の記憶を思い出しちゃったコラさんの話。SS+ダイス+安価スレになると…bbs.animanch.com

    前作

    「ドジって前世を思い出しちまったぜ」|あにまん掲示板ひっくり返って呆然と青空を仰ぎながら、おれは手に持った一口分齧られた跡があるその実をまじまじと見つめていた。一気に頭の中に起こった記憶の濁流はひどい頭痛と吐き気と倦怠感と悪寒と等々重たい風邪症状をタイ…bbs.animanch.com
  • 21◆A8pWn3jbyg23/03/04(土) 23:29:17

    【このスレだけのオリジナル設定・オリジナルキャラ】

    ・コラさん
    一応色々あって今世の名前をロシーと自称しているが、ローもとい他の船員からはコラさん呼びされています。
    身長166㎝の伸び盛り。将来的には288㎝(ダイスで決定)
    治安悪めのスラムみたいなとこ生まれだけど特別な血統とか病気とかはないまま育った(安価で決定)
    現在大木に向かう途中。

    ・クオル
    前作からのオリキャラ
    安価で悪い医者と出たせいで徹底的にローと対比を取られつつ、神絵師のネコチャンイラストによって野良猫要素が継ぎ足された属性過多男。悪魔の実の能力者。
    不治の病の治療法を見つけるために勉強中の医者。
    ハートの海賊団に居候中。
    ホーキンスと馬が合っているかもしれない。
    現在森の鎮静化中。

  • 31◆A8pWn3jbyg23/03/04(土) 23:33:39

    このスレからの新オリキャラ

    ・マリー
    色付き眼鏡、腕には入れ墨、屋台で威勢のいい掛け声をするファンキーなシスター。
    面倒見のいい姐さんタイプ。
    過去神様にあったことがあるらしい……?
    悪魔の実を食べドラゴン姿になりつつ再登場。
    メモメモの実のフィルムによって過去を思い出した。

    ・クリストファー
    ギャンブル好きの生臭神父。人当たりはいいけれど結構適当でろくでなし。
    マリーの養父。
    右腕は義手。
    元兵士。

    ・レミ
    本名レミリオ。優しそうな丸眼鏡のお兄さん。
    頬から首を渡って大きな傷がある。死んだ兄がいるらしい。
    過去失踪したことがあるらしい……?
    現在何かに乗っ取られている可能性有。

  • 41◆A8pWn3jbyg23/03/04(土) 23:34:12

    ・ラミ
    レミのお兄さん。すでに故人。元神父。
    コクレア様を蘇らせようとしていた。
    豹変した姿で登場。何かに乗っ取られている……?
    けれども、霊体のような姿で登場。
    元メモメモの実の能力者。

    ・サルヴァドール
    コクレア様を信仰する神父。すでに故人。
    通称サルヴァ。
    クリスと似た性格をしており、そこそころくでなしだが人当たりはいい。

  • 5二次元好きの匿名さん23/03/04(土) 23:46:17

    立て乙です!
    登場人物紹介がこまかく変わっている

  • 61◆A8pWn3jbyg23/03/05(日) 00:18:05

    いや、え、そうなの、そうなの……?!
    今までこれっぽっちも出てこなかった情報におれはただただ驚くしかない。
    けれどもローは少しばかり察していたようで、わずかに目を見開きつつ『やっぱりな』と言っていた……やっぱりってどういうこと!?

    「クリスがラミロの両親を嫌いと言っていた。その理由だ」
    「理由って……」
    「ここまでの情報でわかるだろコラさん。生贄だ」
    「……っ」

    わかる、けどさァ! そんなの、あまりにも、だ。
    ラミロたちの両親がマリーさんを生贄にしようとしたなんて、信じたくない。
    というか、人が人を生贄にしようとするなんて、考えたくもない。
    ……けれど、そんな甘いことを言っていられないのもわかっている。

    「だが、ラミロは花ではなく、コクレアを信仰した」

    様子を見ていたホーキンスが口を挟む。マリーさんはああ、と頷いた。

    「どうしてだかは知らない。記憶を消されたか、話していないのか。ただアタシたちが思い出した記憶の中で、ラミはコクレア様を信仰しながらも、花の教会に在籍していた」
    「ば、罰当たりな話ですね……」
    「とんでもない話サ」

  • 7二次元好きの匿名さん23/03/05(日) 00:37:51

    ラミロくん大人しそうな顔して(レミくんのイメージからの勝手な想像)けっこうロックだ

  • 8二次元好きの匿名さん23/03/05(日) 01:02:15

    でもいけにえを必要とする神と、神父から聞くなんだか可愛げのある神様なら後者選びたくもなるわかる

  • 9二次元好きの匿名さん23/03/05(日) 01:49:57

    このレスは削除されています

  • 10二次元好きの匿名さん23/03/05(日) 01:50:49

    このレスは削除されています

  • 111◆A8pWn3jbyg23/03/05(日) 02:27:39

    「……でも、そこらへんはいい。どうでもいいんだ」

    ずれがあるんだよ、と続ける。

    「アタシは二度森の中に入ったことがある。一度目の時にアタシはコクレア様から悪魔の実をもらって、恐らく二度目の時にラミは死んだ」
    「二度……?」
    「確か海賊たちにも話したね。アタシたちは別々の日のことを話したことになる」

    話したって………? おれは記憶を巡らせる。

    『まァ、ガキの頃の記憶だからね。薄らぼんやりしているけれど。アタシはどこか森の奥深いところに立っていてね、うっすら霧がかかっていたかな。アタシは見上げるように、その銀色の――そう、コクレア様がアタシをじっと見つめていたから、見返していた。
    そうしたら何かを手渡されて……そう、そこで記憶は途切れていて、気付いたらあんたにおんぶされていた。クリス、あんただよ。あんたこそ何か覚えていないのかい?』

    『確かその時、マリーちゃんは家に、教会に居たはずだったんですけど、なぜか森の入り口で眠ってたんですよね。だから私慌てちゃって。そう……そう、そう、思い出してきた。そう、その前にレミくんが消えて、ラミくんが探しに行って……島の人たちも同じように街の中を捜索していたんですけど、私は街の外側をぐるっと移動していたから、森の入り口付近まで行って……それでマリーちゃんを見つけた』

    ……確か、そんな話をしていたけれど。
    この二つは同時期に起こったことじゃなくて、別々に起こったことだったってことか?
    しかもその間、少なくとも半年から一年ぐらい間が空いていると仮定して。

  • 121◆A8pWn3jbyg23/03/05(日) 03:40:05

    「その一度目の時に、生贄が出されるところだったんだ。他ならぬラミの両親によって」
    「……!」
    「い、生贄って……」

    さっきも言われたけれど、それでもつい反応してしまう。

    「どこぞの子どもだった。別に子どもが条件なわけじゃなくて、単純に攫いやすかったんだろう。島外の子どもをどこからか調達してきた。調達方法は知らない。家のない孤児だったのかもしれないし、ただ外に出ていただけの子どもだったのかもしれない。けれど、そういった罪のない子どもを、あいつらは花に喰わせようとした」
    「……マリーは?」
    「アタシはね、たまたま人が森に入っていくのを目撃したんだ。気になって背後からつけていった」

    行動がアグレッシブすぎるぜ、というのは置いておいて。
    ひとまず、やはり神様に捧げるような生贄があって、それが行われようとしていた。
    ……じゃあ時折出る失踪者も生贄に捧げられたのか?
    うーん、いや、普通に花が襲ってそうだな。街には出れなくても、海賊とか普通に森に入っちゃうだろ。
    脳裏に以前出会った麦わら帽子がよく似合う青年を思い出す。うん、入っちゃうな。

    「つけていって…何がどうしたんだ?」
    「あの祭壇……わかるかい、ピラミッド型になっている花の祭壇なんだけど」
    「それならわかります。実際にも行きました」
    「話が早いね」

    つまりそこで生贄が捧げられようとしていたんだ、とマリーは言う。

    「アタシは飛び出して止めようとした」
    「マリーちゃん!?」
    「そんなん見たら止めに行くだろう!」
    「そりゃマリーの性格ならそうでしょうけど、その時8歳…7歳? でしょう!? 無茶が過ぎますよおバカー!」

  • 131◆A8pWn3jbyg23/03/05(日) 04:01:55

    クリスが慌てたように怒るのを煩わしそうにしているけれど、これは怒ってもいいと思うぜ。
    ローが話を進めろとばかりにイラついた顔をしている。

    「結果的に止めに行けなかった。その直前に背後から手が伸ばされて、口を塞がれてね。それがサルヴァだった」
    「おお……サルヴァ神父ありがとう……」
    「けどもね」

    マリーさんはそこで一旦区切る。

    「そこでアタシは“初めて”会ったんだ。本物の、コクレア様に」

    ……え!?

  • 141◆A8pWn3jbyg23/03/05(日) 04:02:18

    というところで今日はここまでで。
    また明日投稿すると思うので保守のご協力をお願いします。
    次は回想シーンかな……。

  • 15二次元好きの匿名さん23/03/05(日) 12:45:30

    流石マリーちゃん…小さな頃から変わらないんだな

  • 16二次元好きの匿名さん23/03/05(日) 20:27:19

    スレ立て乙です
    前スレのざっとした説明(今回は省略気味)
    ・ペンギンが起きてからの状況説明、ムルフェニフソについて特徴や信仰の経緯を情報共有
    ・敵の様子を探ると静かになっていたが木の破裂音と共に何かが来た
    ・ラミロの回想、コクレア様の新たな一面

    ・洞窟で正しい歴史が描かれた壁画と天秤を発見、彫られた文字のギミックをオペオペでクリアするロー
    ・隠されていた扉の先の通路、突き当りの扉を開くと水晶体の中で眠るコクレア様が
    ・調べてみるも詳細不明、手帳との関連に気づく
    ・クリスの勘で森に戻ると敵の数が少なくなっていた、何かとの遭遇
    ・手渡されたものについてのローの考察、マリーさんが悪魔の実の能力者だと判明

    ・二手に別れていたシャチたちと合流、手鏡のこと含め情報共有、マリーさんが攫われた後の武勇伝を聞く
    ・祭壇の欠けた台座部分の在り処をホーキンスが占う、確率の高い教会をベポたちに探してもらうことに
    ・心配したクリスがマリーさんも探索チームに加えようとするも本人に一蹴され説得される
    ・ベポの宣言と出発を見届けた後、花がマリーさんを襲ったタイミングについてローが推測
    ・本気を出した花からの一斉攻撃が始まる、巨大な木を怪しむホーキンスにローも賛同するが猛攻が休むことはない
    ・クオルの病魔促進によって攻撃の手が弱まる、ペンギンも護衛として残る
    ・巨大な木に向かう6人の珍道中
    ・ラミロの過去、前任者の神父との交流、跡継ぎの約束
    ・ベポを筆頭にハートの船員たちが教会を捜索するも見つからない
    ・匂いが薄い礼拝堂で探し続けるベポの背中に何かの重みが
    ・ラミロに託されていたフィルムを思い出したコラさんがマリーさんに返却
    ・記憶を取り戻したマリーさんが泣きながら前任の神父―――サルヴァと記憶を消したラミロを詰る
    ・消えていた記憶は一年分、クリスはサルヴァから仕事を教わっていたこと、ラミロは花を信仰する教徒の家系だった

  • 171◆A8pWn3jbyg23/03/06(月) 01:43:59

    今日は投稿できそうにないので、また保守のご協力をお願いします!


    >>16

    今回もあらすじを書いていただきありがとうございました!

    省略と書いてあるけれど、前回起こったことをぎっしり書いてくれていつも助かってます!

  • 18二次元好きの匿名さん23/03/06(月) 10:47:37

    このレスは削除されています

  • 19二次元好きの匿名さん23/03/06(月) 20:05:05

    これまで登場したコクレア様、形態が複数あるよね
    コラさんたちが洞窟で発見した大きいコクレア様が本体と言っていいかわからないけど
    ラミロの回想で出てくる小型サイズのコクレア様は力を意識して抑えてたか封じられた時バージョンなのかな
    でもそれはそれとして悪魔の実もあるの気になる

  • 201◆A8pWn3jbyg23/03/07(火) 01:04:39

    感想と保守ありがとうございました!
    今日も少しだけ書かせていただきます!

  • 211◆A8pWn3jbyg23/03/07(火) 01:26:16



    「シー。マリー、出てはいけない。お口はチャックで、この場で待機。アッそんなじたばたされるとなんか悪いことしているみたいだからやめておくれ、さすがに傍から見たら私の状況って小児性愛者みたいな感じでかなり気まずくて、アッ噛まないでスミマセンスミマセン」

    背後からしっかりと身体をがっちり抱えられ、口を塞がれたマリーは、さすがにこの時まだ幼かったので、単純に恐怖を感じた。恐怖を感じながらも、聞き覚えのある気の抜ける声が背後から聞こえたので、歯で容赦なく自分の口を塞ぐ手を噛んでやった。
    彼はサルヴァドール。通称サルヴァ。自分と親代わりであるクリスを自分の教会に招き入れ、コクレア様について教えてくれる聖職者である。
    このサルヴァ、なんとろくでなしのスカポンタンとして定評のあるクリスとかなり似通った性格をしていた。
    クリスはクリスで最初に会ったときはそんな感じではなかったのに、どういう化学変化を起こしたのか今では毎日賭場に行きたがる尻をマリーが蹴っ飛ばす日々。
    そのクリスに比べて先天性にエンジョイ勢なのがこのサルヴァだった。綺麗な鳥だと思ってふらふら近づいたら遠近法の錯覚で実は滅茶苦茶でかい鳥で、半泣きになって襲われて逃げていたようなアホなところがある、全体的に人生を楽しんでいそうな男だ。

    「マリー、落ち着いて。今は私の指示を聞いてください」
    「………」
    「ああ滅茶苦茶抗議の視線……。ラミロくんと同系統のものを感じる。つまり心が痛い」

    飄々と続けるサルヴァを思わず睨んだが、数瞬置いてマリーは目を丸くする。
    ふざけた口調で話しながらも、サルヴァの目は油断なく、前を睨むように見据えている。

    「もうわかるだろうが、あれは豊穣神に生贄を捧げる儀式のようだ。一年に複数回執り行われているらしくて、毎回破落戸や海賊を捧げているみたいだけど……今回は、子どもだな」
    「……!」
    「あ、いや、私もついこの間知ったばかりなので、そんな怒った目で見ないでもらえると……」

  • 221◆A8pWn3jbyg23/03/07(火) 01:50:13

    目の前、マリーの見える光景には、植物を象ったような模様のローブを着た集団がピラミッド型の祭壇の周りに溢れている。
    信じたくはない話だが、集団の先頭に立っているのは確かラミとレミの両親だ。
    元々はラミは豊穣神を信仰する家系だったらしいが――とりあえず、あの中にラミとレミがいなくてほっとはした。
    だがしかし、状況は最低だ。最悪じゃなくて最低。そりゃそうだろう、――人のいのちを、神に捧げるだなんて。
    そんなマリーの怒りを感じ取ったのだろう、サルヴァがなだめる様に口を開く。

    「……本来、生贄文化は一概に悪ってわけじゃなくて。飢饉にも、洪水にも、干ばつにも、救われたいという悲痛な願いが込められているものなんだ。そこの裏には必ず悲劇がある。だから生贄を捧げようとする人間を、すべて悪だと断じるわけにはいかないけれど、」
    「―――」

    何を言っているんだ、とマリーは怒りを込めてサルヴァを睨む。
    言っていることは……確かに、マリーからしても、否定できることじゃない。幼くても彼女は柔軟であったから、ゆえに自分のこの怒りは、目の前で起こっていることがどうしても受け入れられない衝動からのものだとも、正しく理解していた。
    それでも、受け入れられないのは確かなのだ。けれどサルヴァはそんなマリーをなだめるように続ける。

    「だからそんな抗議するような目で見ないでおくれ。……悪と断じることが出来ない、けれどだからといって、それでかけがえのない命が失われる。自身の身内かもしれない、親友かもしれない。恩人かもしれない。天涯孤独の人間だとしても、いつかの未来、誰かの何かになる可能性を秘めた素晴らしい生命だ。それが失うのも……苦しく、辛い」
    「……」
    「……そして、ここからが問題で。その捧げた先――神様が、その願いを叶えてくれることを保証することが出来ないのも確かだ」
    「!」
    「それでいて、ただの私欲のために、利用するために、救う気なんてないのに、求めるのは、――人の悲痛な願いに対して、あまりにも――あまりにも、だ。例えそれが、人と神ゆえの価値観の差だとしても」

    マリー、いいかい、とサルヴァは続ける。

    「私もね、怒ってるんだよ。途方もなく」

  • 23二次元好きの匿名さん23/03/07(火) 01:50:30

    年一じゃなくて年に数回もあるんかい…しかも自分たちの中からじゃなく外の人間ばっかりとかマジでろくでもねぇ…

  • 241◆A8pWn3jbyg23/03/07(火) 02:04:32

    何かを知っているのだろう、とマリーは思う。
    何かを知って、何かに怒って、人生を正しく楽しく生きているサルヴァはそれを受け入れられなくて――ああ、だから。
    だからここにいるのか、とようやくマリーは思い至った。

    「私はあの人たちが何かを願って、祈って、縋って、それでこんな凶行に手を染めたように思える。私の信仰と彼らの信仰は違って、あまりにもかけ離れていて、そのかけ離れた差そのものが価値観や目に映るものの理解の拒絶を生む」

    マリーはサルヴァが何を言っているのかは、全てを理解することは出来ない。
    けれど、理解できることがある。

    「私には彼らを理解することも、共感することも、恐らく出来ない。でも、それでも、その理解も共感も出来ない隣人を、私は愛しているんだ」

    だから、と。サルヴァは怒った顔を、緩やかにほどき――、眉を下げ、困った顔をしながら、マリーを見て、それから宙を見上げた。
    そして、マリーは見た。
    まるで鱗粉のように、銀の粉が周囲に漂うのを。
    そしてそれらは、どこにも付着することも、落ちることもなく、柔らかに空気に溶けていくのを。
    ――何故か胸が軽くなった。いつから重かったのかわからなかったことも、今更気が付いた。

    「コクレア様」

    どうか、どうか、お救いください。

    「くるる」

    ―――予想に反して、その鳴き声は、可愛らしかったとマリーは我に返ったあと、そう思うのだ。

  • 251◆A8pWn3jbyg23/03/07(火) 02:05:21

    というところで今日はここまで
    早くド派手なアクションをさせたいこの頃
    また保守のご協力をお願いします!

  • 26二次元好きの匿名さん23/03/07(火) 12:30:46

    ちょっと早いけど保守

  • 27二次元好きの匿名さん23/03/07(火) 21:48:25

    やっぱ鳴き声かわいいんだ…え、すき…

  • 281◆A8pWn3jbyg23/03/08(水) 01:54:55

    保守と感想ありがとうございます!
    今日も少しだけ書かせていただきます。

  • 291◆A8pWn3jbyg23/03/08(水) 02:24:05

    それは、ドラゴンのようで、蛇のようで、魚のようで――マリーが今まで見たことない生き物だった。
    サルヴァの背後から出てきたそれは、鈴のような透明な音を鳴らしながら、一気に儀式を執り行っている集団の方へと飛んでいく。
    木々をすり抜けるように飛んだそれは――恐らく顔の大きさがマリーの身長ほどもあって、だからあまりの驚きに、身体中から力を抜かしてしまった。
    けれど、恐怖は無かった。
    強い驚きこそあれど……呆然としたマリーの心中にあるのは、その生き物が美しかったという、単純な感想だった。

    「……さ、サルヴァ」
    「コクレア様は頼もしいから大丈夫。美しく、それでいて強い。まぁ多少ドジなところはあるけれどもね」

    コクレア様。それは、マリーとクリスが学んでいる神様の名前だ。
    その名前を持つ生き物が、まるで存在しているかのように実態を伴って飛んでいく。
    ――その銀の竜は、あっという間に集団を取り囲む。そうした次の瞬間、ぱた、ぱた、と一斉に皆が倒れていく。

    「死、」
    「死んではいないよ。眠っただけ。人は夜まで廻れば眠る生き物だから」
    「……まったくもって意味わからないよ。アンタなんなのさ」
    「私は素敵な神父さんです。ほら、マリー。戻るよ。子どももコクレア様が回収している」
    「え、あ、ほんと、……あれ、食べてないかい!?」
    「食べてない食べてない、くわえているだけだよ」

    サルヴァは身体が固まって動けずにいるマリーを抱き上げると、足早にその場から移動する。

    「サルヴァ、アタシ動けるよ」
    「すみません、急がないと。……花に気付かれる前に。いや、もう気付かれているかもしれないがね」
    「花?」

  • 301◆A8pWn3jbyg23/03/08(水) 02:45:49

    森から出た後、真っすぐに教会に向かって行った。
    ちなみに子どもはサルヴァが受け取った。受け取った瞬間コクレア様らしき生き物は見えなくなった。が、傍にいるのだろう。サルヴァが声をかけているのをマリーは見ていた。

    教会に着くと中にはラミロがいて、厳しい顔をしている。その隣には困惑した様子のクリスがいて――恐らく、今回の件はラミロも知っているのだろうとうかがい知れる。

    「儀式は……」
    「大丈夫、止めたよ。子どもも無事です」
    「よかった。とりあえず目を覚まして様子を見せて、それから何が起こったか覚えているのか確認したら、元の場所に返そう。確かこの島に補給に来たい一般の連絡船の子、だよね?」
    「ああ。もし覚えていたら、ラミくん。頼んだよ」
    「わかった。……それから、おれのやることも許可してくれるよね?」
    「――ううん、まあ、そうだな。そうするしか、ないかな」

    何の会話をしているのだろう、とマリーは思った。
    ラミロはずっと怖い顔をしていて、拳を握りしめていて。サルヴァはどこか悲しそうな顔をしながらも、頷いて。
    クリスが間抜けな顔をしているのにようやくほっとする。――いったい何が起こっているんだ、と。マリーは怒りのような気持ちを抱いた。

    「……それで、説明してくれるんだろうね」
    「………うん、話すとも」

    そこで聞いた話は、――なんとも現実味のない、恐ろしい話だった。
    豊穣神と謳われている花のこと。それが力を取り戻すために人々に生贄を捧げるように要求していること。
    生贄を捧げれば今後の豊穣は約束されること。もし怠れば、この先この地に人の食べるものは芽吹かなくなること。
    ただ、生贄を捧げさえすれば――今後一切困らない、飢えで人が死ぬことのない、素晴らしい人生を約束すること。
    “それ”に対する恐怖心を、彼の花の持つ力によって――麻薬によって、緩やかに幸福だと錯覚させていったこと。

  • 311◆A8pWn3jbyg23/03/08(水) 02:46:08

    というところで今日はここまでで。
    また保守のご協力をお願いします!

  • 32二次元好きの匿名さん23/03/08(水) 13:24:45

    保守

  • 33二次元好きの匿名さん23/03/08(水) 22:17:55

    例のクソ花にも劣らないド畜生クソ花じゃないか…!
    心置き無く倒せるという意味では素晴らしい悪役ですねうーん根絶やしにしてやりてえ…

  • 341◆A8pWn3jbyg23/03/09(木) 02:24:58

    保守と感想ありがとうございました!!
    今日も少しずつ書いていきます!!!

  • 351◆A8pWn3jbyg23/03/09(木) 02:43:35

    「胸糞悪い話だね!」

    マリーは当たり前のように憤慨し、花に対する怒りを見せる。
    大してクリスは静かに考え込み、どこか落ち着かない姿を見せた。

    「あの、お二人は……」
    「クリスたちと会う少し前くらいかな。それを知ったんだ」

    ラミロが前に出る。それからしっかりとクリスを見つめながら口を開いた。

    「おれたちには武力がない。……おれは多少“ちょっと”だけ、反則技みたいなことが出来るけど、あとはコクレア様の力を借りることしか出来ないんだ」
    「なるほど。いろいろめっちゃくちゃ聞きたいことがありつつもひとまず置いておいて。その武力とやらって、もしや」
    「そう、クリス。君のことだ」
    「……わ、わぁ……あてにされるのってプレッシャーが……」
    「いやクリスを宗教の儀式であてにするってどういう了見だい! クリスもなあなあで受け入れない!」

    ばしりと背中を叩かれ、クリスは情けない声をあげる。
    クリスの代わりにマリーが二人を睨みつけた。

    「だいたいあいては神様ってやつなんだろう! クリスがいて何か意味があるのかい! こいつはあんぽんたんでろくでなしで、人の生き死にを一枚のコインで決めるやつだけどそれでもアタシの親代わり名乗ってんだ!」
    「頑なにパパではなく親代わりと呼ぶ上にちょっと昔のことを持ち出されてパパは……でも庇ってくれて優しい……」
    「……こんな時でもにぎやかだな、君たちは」

    ラミロが困ったように苦笑する。

  • 361◆A8pWn3jbyg23/03/09(木) 03:17:25

    「――いやでも、確かに。言われると納得できない部分があります。私軍人ではありましたけれど、だからといって神様に勝てるとはこれっぽっちも思えないんですけど。こう、覇王色の覇気とかの秘められたパワーがあるわけじゃなしに」
    「はおうしょく?」
    「アッご存じでない」

    まあそれはいいとして…とクリスが気を取り直す。

    「別に私は定職につけたし、比較的楽な仕事なのにお賃金もらえてるし、ギャンブルは楽しいし、マリーちゃんものびのび育ってるし、ラミくんもサルヴァさんもいい人なので協力するのはやぶさかでも。あ、マリーちゃんがいるので生命が危ない系はご遠慮させてもらうんですけど」
    「最後のは結構な心掛けだけれど、アンタはほいほいと……」
    「まあまあ。それで、私に何をさせたいと?」

    それにサルヴァが答えようとして、ラミロがそれを押さえる。それから一度目を伏せてから、覚悟を決めたようにしっかりとクリスを見た。

    「……君が、」
    「はい」
    「君が、人殺しだったからだ」

    その言葉に。
    その言葉に、マリーは激情を滾らせてラミロに飛びかかろうとした。
    既に足は地面を蹴っていたし、手は拳の形をとっていた。
    例え幼い少女であろうと、それでも激しい怒りを持って、ラミロに攻撃をしようとした。

    けれど、それを止めたのほ他でもないクリスだ。
    困った顔をしながら、マリーの脇に手を差し込み、救い上げるようにして持ち上げ、片腕に乗せるように抱く。

    「まあまあ、マリーちゃん」

    困ったように笑いながらも腹が立つほどいつも通りで、マリーは声すらあげられず、怒りのままクリスの頭を叩く。

  • 371◆A8pWn3jbyg23/03/09(木) 03:45:12

    「マリーちゃんが驚いちゃったじゃないですか、ラミロくん」
    「……君は怒らないの?」
    「うーん、露悪的に言ってるなあって思います」
    「……なんだそりゃ」

    またそう言うんだ、とくしゃりと顔を歪めるラミロに、クリスは首を傾げる。はて、前も言っただろうかと。

    「まあともかく。私がその、軍人ゆえにアレコレしていたことは本当なので。ラミロくんの言葉を否定はできません」
    「否定していいんだよ。ふざけるなと怒ってもいい」
    「まあ悪意あったら怒ったと思いますけど、そんな意地悪な感じはしなかったんでね」

    ほら、だから早く話の続きを。
    そう促すように目線を向けるクリスに、ラミロは唇を一瞬噛んでから頷く。
    泣きそうな顔だと思ったし、怒ったような顔とも思った。――自分で言ったことだろうに、と、クリスは少しおかしい気持ちになった。

    「……神は、不浄――穢れを嫌う」
    「はい」
    「人の糞尿もそうだけれど、見方を変えれば堆肥になる。そういった見立てをするならば、元が植物のあいつにとってはそう意味をなさない。ならば、血だ。血なんだよ。
    「――――」
    「染み込んでいるんだ。君が、軍人であるから」

    君が、いいやつで、優しくて、おれの話を真剣に聞いてくれて、頼み事も受け入れてくれる、そんな、人殺しだから。
    おかしな話だとクリスは思う。
    人殺しは自分の方であるのに、まるでラミロの方が懺悔するように語っている。

  • 381◆A8pWn3jbyg23/03/09(木) 04:08:10

    「うーんと、ホラ、こう……まあ、いろいろありますよね。うんうん、それで私のそういう不浄部分がどう役に立つんです?」
    「……話を受け入れるのが早くないかい」
    「神様とかそういう系の話を聞かされちゃあねェ……」

    仕方ないってものですよ、とクリスは笑う。そんなクリスの頬をマリーの小さな手が叩いている。
    ラミロは何かを言いかけ、けれど今度は先ほどとは逆に、ラミロの言葉を継ぐようにサルヴァが口を開いた。

    「つまり、敵意を持ってやつに対峙すればいい。倒すことは出来なくても、弱らせることは出来るから」
    「……なんかこう、デバフ撒くみたいな?」
    「そんなものだと思ってもらっていいよ」
    「なんかすごいですね……」
    「クリス!」

    他人事のように感心するクリスに、マリーが声を上げる。

    「今言ってることがわかってるのかい! その神とやらに、人をどうこうできたりする人間じゃないものに対して戦えって言ってるんだよ! もう軍人じゃない、すこぽんたんでろくでなしのアンタが!」
    「手厳しいなあ」
    「へらへら笑ってんじゃないよ!」
    「いやでも、ちょっと驚きなんですよね」

    まさか、人を殺したことが、何かの役に立つなんて。

  • 391◆A8pWn3jbyg23/03/09(木) 04:45:45

    「―――そんなことをへらへら笑って言ったクリスに、ラミたちに向けた以上にアタシはブチ切れた」
    「クリス……」
    「………」
    「どうかと思うぜ」

    マリーさんの言葉に反応したのは、上からおれ、ロー、シャチである。ローは半目でクリスを見ていて、ホーキンスはノーリアクション。クリスはまったく身に覚えがないんですが!と言って無罪を主張している。そりゃ記憶は抜かれているらしいからなあ……。

    「悪質なことに、自分を卑下した結果の言い分ではなく、いかにも『わーすごーい』というリアクションだったわけサ。アタシは大暴れした」
    「デリカシーが足りない」
    「………」
    「どうかと思うぜ」
    「味方いないなァ!」

    いやでも、こう、単純な感想だったというか……と言うが、あそこで単純な感想としてそんな風に『役に立つなんてすごいなあ~』とか思ってる時点でさあ。
    というか、つまりクリスを島に誘ったのもそれが理由だったわけだろ?
    それってクリス的に複雑じゃねェのかな、と思ったんだけれど、クリスは話を聞いてもなお堪えている様子はない。

    「……自己防衛本能かと思ったが、天性の才能か」
    「キャプテンの苦手なタイプですねあれ」
    「元から苦手だ」
    「あっそうだったんだ!?」
    「……別にそうでもねェ」
    「ロー!?」
    「いやここで意地張っても」

  • 401◆A8pWn3jbyg23/03/09(木) 04:46:59

    というところで今日はここまでにさせていただきます
    回想まだ続けようと想定していたけれど、コラさんたちを出せねえ!と打ち切った所存
    記憶開示も考えものかも知れない
    また保守のご協力をお願いします!

  • 41二次元好きの匿名さん23/03/09(木) 07:41:33

    ほんとにどうかと思うぜクリス

  • 42二次元好きの匿名さん23/03/09(木) 11:38:40

    >「………」「どうかと思うぜ」

    同じリアクションを繰り返していて草、話を聞いたらそりゃそうなるわな

    クリスのフィルムもどこかにないかな

    片方は記憶あるのに、もう片方は記憶がないって不便そうだよなあって思ったから

    あの2人の様子を見るに、なくても会話は成り立ちそうではあるが

  • 43二次元好きの匿名さん23/03/09(木) 21:30:08

    このレスは削除されています

  • 441◆A8pWn3jbyg23/03/09(木) 22:30:38

    感想と保守ありがとうございます!
    続きを書いていきます!

  • 451◆A8pWn3jbyg23/03/09(木) 22:52:25

    まあ、クリスのことはいいとして。なかなかにとんでもない話だ。
    とりあえず、なんとなくサルヴァという男の性格がわかった気がする。
    なんの因果かクリスとかなり性格が似通っているらしいが、聞く限りじゃなかなか愉快な人で、多分いいやつ、だ。

    でも、そうか。人を殺したことが“不浄”とやらになって、例の花に対してダメージを与えられるのか。

    「……その不浄とかって、いったい何があてはまるんだ?」
    「さっきも言った通り糞尿、命を奪う行い、血、罪人、死に近いもの。曖昧な区分だけど、そういったものかね」
    「死に近いもの……じゃあ、医者は? どちらかと言えば死から引っ張り上げる方だろうけど」

    ちらりとローを横目で見ながら呟けば、マリーさんは頷く。

    「生きるか死ぬか、どちらにしても死に近づいていることに違いない」
    「ていうか海賊さんな時点で割と罪人では?」
    「おいクリス。……まあ間違ってないけどさ」
    「アンタは発言が毎回迂闊なんだよ!」
    「あれ?」

    ……正直ローとシャチが罪人とか言いたくないけど!
    でも海軍の時に記憶があるおれとしては、海賊はとりあえず捕まえる区分なので……ウン……。
    脳内で小さいときのローが浮かぶ。生意気でクソガキで可愛げあるロー。
    それが次の瞬間、背後に悪人!って文字を背負った入れ墨塗れで行儀の悪い指の立て方をする悪い顔したローが浮かぶ。

    ……ウン、やんちゃに育ったなあ!(やけくそ)

  • 461◆A8pWn3jbyg23/03/10(金) 00:14:28

    けれど、だとしたらおれたちも花に対してある程度のダメージを負わせることが可能かもしれない。
    それに死に近いとか、ほら、おれ一度死んでるし。かなり近いだろコレ!
    ……かといって戦えるかどうかは別なんだけどよ。

    「……あ、それでどうなったんだ? 儀式失敗したんだろ。大騒ぎになるんじゃ……?」
    「……不思議なことにね、儀式が失敗したっているのに、何故か儀式を行っていた人間は騒ぐことはなかった。儀式が達成されてないことにすぐ気づくはずだろうにね。まるで儀式のことなんて忘れたかのように」
    「……それって」
    「あの時はラミの能力なんざ知らなかった。――メモメモの実の能力で、消したんだね」

    メモメモの実。
    確かに――儀式のことは消した方がいい。そうしないと他の人間に被害が出る可能性がある。
    でも、……でも、それってさ。ほら、生贄は花が要求したっぽいんだろ。
    それを邪魔されたとしたら。

    「儀式が行われなくなり、神は腹をたてた。そうすれば神は怒りのまま行動する。……島のものに被害が出たな」

    淡々とそういったのはホーキンスだ。マリーは一瞬無言になってから、ああ、と頷いた。

    「五人、死んだ」

    ―――――――。
    それは。

  • 471◆A8pWn3jbyg23/03/10(金) 01:11:54

    「五人はまだ少ない方だ。なんとかサルヴァやクリス、コクレア様が防いでいたけれど――それでも限界はある」
    「コクレアはその時力が封印されていたわけじゃなかったんだろう? 直接花に対峙することは出来なかったのか」
    「……コクレア様は本調子じゃないんだ。それに花は人を喰い、信仰を得てそれを自分の力にしていた。森から出られないという点や、コクレア様そのものが弱点ではあれど――やつには、知能が芽生えてしまった」

    あいつは、コクレア様が優しいってことを知っているんだ。
    後手に回ってしまったのだ、と悔しそうにマリーは語る。

    「信仰するもの問わず、人間に種を植え付けたのさ」
    「種?」
    「発芽すると、身体の栄養を吸い取って成長する。ものによっては人間の身体から木さえ生える。これで10人死んだ」
    「……!?」
    「コクレア様が森の奥深くへ行こうとすると、やつが現れたんだ。植物を絡み合わせて人型を取ったような奇妙な見た目をしているやつが現れた」

    ――『“らせん”、お前がこれ以上進むなら、ひとつ進むごとに人が死ぬよ。もう三人死んだ』

    「その言葉を聞いて、コクレア様は元の場所にすっ飛んだらしくて。本当に三人死んでいたから、それ以来森に入らなくなっちまった」
    「なんつー悪辣な……! 結局コクレア様が怖い臆病者じゃねェか!」

    シャチが怒りの声をあげている。かくいうおれも腹立たしくて自分の膝を拳で打つ。

  • 481◆A8pWn3jbyg23/03/10(金) 01:41:27

    「話を聞くにコクレア様ってのは随分人に寄った存在らしいな。……“らせん”ってのは別名か?」
    「そこは知らないけれど、まァ古くから存在しているらしいから、名前をいくつも持っているのかも知れないね」
    「いや、そ、それでさ。どうしたんだよ。そっから……少なくとも、今の状態になるまでは鎮静化してたんだろ?」

    何かがあって、現在に至るまで花は弱体化していたはずだ。
    コクレア様が手出しできなくなったのなら、ならどういった方法で?
    問いかければ、一気にマリーさんの顔が歪む。
    そう、そうだ。この記憶を思い出した時、マリーさんは泣いた。泣いて起こった。
    そこには確実に、悲しみに至る悲劇があったのだ。

    「あいつが、サルヴァがしでかしやがったのさ」
    「しでかした?」
    「あいつは……、あいつは……!」

    じわり、とまたマリーさんの目元に涙が浮かぶ。それを乱暴に擦ると、そのまま怒りをぶつけるように吐き捨てた。

    「あいつは、劇薬を飲み込んでそのまま花に喰われやがった……!」

    ――――は?

    え、いや、それって。

    「毒だ。毒なんだよ。あいつば馬鹿だから毒とか除草剤とか農薬とか、全部効きそうだからって飲み込んだ。しかも動物の血液すらもそのまま飲み下した。クソ野郎の馬鹿だ。毒も、薬も、不浄も全部飲み込んで、やつはそのまま死にに行ったんだ!」
    「しかも、それを、その記憶を……!」
    「ラミが、消しやがった………!」

  • 491◆A8pWn3jbyg23/03/10(金) 01:42:47

    というところで今日はここまでです。
    また保守のご協力をお願いします。
    ちなみに病も不浄判定なので、クオルの病気振りまき攻撃もそこそこ効いてます。有効打にはならないけど。

  • 50二次元好きの匿名さん23/03/10(金) 07:32:18

    凡そ一般人メンタルじゃないクリスさんが一般人やれてるのは愛娘の功績がだいぶ大きいね…?普段の俗っぽさとたまにこぼれるヤバめの無邪気さのギャップ好きです
    と思ってたらサルヴァさんあなたもほんとどうかと思うぜそういうの…!自分の苦痛度外視でやれること全部やってから行こうって姿勢が武力がない者なりの覚悟でとてもつらい

  • 51二次元好きの匿名さん23/03/10(金) 17:22:04

    体に種かぁ…寄生させて人質にされるのはえぐい…

  • 52二次元好きの匿名さん23/03/10(金) 21:06:49

    サルヴァさんあんたそれ、禁じ手中の禁じ手でしょうが…お花がクソ過ぎて気持ちは大いにわかるけどそれはやっちゃダメだよ…
    でも多分当時かつ彼にとっての最善策だったんだろうなってわかるんだよなあ…悲しいな…

  • 53二次元好きの匿名さん23/03/11(土) 01:14:17

    なんでこうも優しい人は自らを犠牲にするのか…
    あと劇薬を飲んだでソラさんを思い出したわ

  • 54二次元好きの匿名さん23/03/11(土) 08:15:40

    やんちゃに育ったね!それもこれもコラさんの功績だぞ!てニコッとしてからの落差ァ!

  • 55二次元好きの匿名さん23/03/11(土) 19:08:58

    保守

  • 56二次元好きの匿名さん23/03/12(日) 01:02:06

    コクレア様やっぱりかなり大きいんだなぁ顔の大きさが子供の身長ほど、潜水艦からコラさんが見た時も鱗の大きさが子供の顔ほどありそうなって描写だった気がするし
    神々しい……

  • 571◆A8pWn3jbyg23/03/12(日) 03:28:36

    保守と感想ありがとうございました!
    こんな時間ですが少し書かせていただきます。

  • 581◆A8pWn3jbyg23/03/12(日) 03:47:24

    絶句する。いや、そりゃ、死ぬとはわかっていたんだ。だってマリーさんの反応からすると、そうとしか思えなかったし。
    でも、そんな壮絶な死に方をするなんて思ってもみなかった。
    ごくり、と喉が鳴る。
    毒を、飲んだ。薬も、血も、手当たり次第に全部腹の中に含ませて、そして自ら喰われに行った。
    ――それは、どれほどの覚悟が必要なのだろうか。
    ほら、例えばおれが死んだときは割と運がなかったから受け入れられたけど、サルヴァはそういうのなかっただろ。
    いや、あったのか? その場にいなかったからわからねェ!

    涙を拭ったけれど、いまだ泣きそうな顔をしながら怒り続けているマリーさんにどういう反応をすればいいかわからなくなる。
    このくらいの歳頃の娘さんに対しての慰め方をおれは知らない。
    シャチは『お嬢……』と気づかわし気に見ている。……いつの間にお嬢という呼び方になってたのかはいいとして。

    けれど、そんなマリーさんはクリスがその大きな身体を使ってぎゅう、と抱きしめている。
    それからぽんぽん、と背中を叩きながら、優し気な声をあげる。

    「悲しかったですねえ、マリー」
    「………」
    「大丈夫ですよ、パパがついていますから。それにパパはマリーのパパなので、マリーを置いて行ったりしません」

    そう言いながら、マリーさんの頬を両手で包み込む。

    「私の天運はあなたです。なので、マリーがいるだけで私は最強なんですよ。何せパパなので」
    「……本物じゃないのに?」
    「本当の親子じゃなくてもパパはパパです。パパはすっごく強いので、サルヴァという方の仇だって、打ち取って見せますよ」
    「なんだいそれ」

  • 591◆A8pWn3jbyg23/03/12(日) 03:59:01

    マリーさんがおかしそうに笑う。クリスは、そんなマリーさんをもう一度ぎゅっと抱きしめると、よし!とマリーさんの頭に手を置いた。

    「今泣くのはやめにしましょう。敵を倒したらその時、パパの胸を貸してあげますからね~」
    「……酒と煙草臭いのはやめておくれよ。あと香水も嫌だよ。花の臭いがしたら腹が立つからね!」

    ――マリーさんが少しばかり照れたように頬を赤くしてふいっと顔を反らす。
    素直じゃないことを言っているように思えるが、なんだかんだ胸を貸される気はあるらしい。……ちょっとおれも照れ臭い。
    親と子ども。うん、さっき本当じゃないのに?とマリーさんは言っていたけれど……本当でも、本当じゃなくても、あったかい信頼がそこにあると思うぜ。

    こほん、と咳ばらいをしてから、マリーさんは顔をあげる。

    「さっきも言った通り、サルヴァは毒を飲んで喰われに行った。アタシが思い出すことが出来たのはそこまでだ」
    「……つまりそこまでの記憶が返却されたということか。これを、ラミロはクリスに託した」
    「ひどい記憶を思い出させるという意味もあってのことですよね。でも確かに。儀式のことや花のこと、不浄のことも、全部収められてますからね」
    「いやでも、おかしいよな? そしたらクリスの記憶でもいいはずだろ?」

    なんで他でもないマリーさんの記憶を? そりゃ儀式をきっちり目撃したのはマリーさんだけどさ……。

    「確実性の問題でしょうね。マリーちゃんがこのことを知ったら100%どうにかしようと思うでしょうが、私が知ったら、マリーちゃんを連れて別の島にとんずらこく可能性があるので……」
    「あるのかい? ラミロが懇願していても?」
    「………」

    ……まあ、マリーさんから見たクリスはそうかもだけれど、ラミロから見たクリスは娘を溺愛する父親だもんな。でもおれも、なんだかんだ言ってクリスも見捨てられないんだろうな、と思うぜ。

  • 601◆A8pWn3jbyg23/03/12(日) 04:07:32

    ひとまず、マリーさんの記憶が戻ったことで、花にダメージを与える方法が見つかったかもしれない。
    少なくとも、おれたちはみんなその適正があるだろう。
    ……おれはあまり戦闘能力を持たないけれどもさ!

    話を聞き終わったおれたちは、再び大木へと向かう。
    かなり重要な情報を手に入れた今、例え相手が神という途方もつかない存在であろうとも、もしかしたら、という気持ちになる。
    というか、ならなくちゃいけない。誰かが命をかけて何かを為そうとしたのだ。
    おれは相変わらずローに背負われているというなんとも格好着かない場所にいるけれど! やる気はあります!

    「……サルヴァは花に喰われた」

    そんな折、ローがぽつりと呟く。

    「なら、ラミロはどうして花に喰われに行ったんだ?」

    ―――――それは、確かに。

    確かに、ラミロが書いたであろう手帳にはそう書いてあった。それがラミロが死んだ原因だろう。
    サルヴァと同じように毒を飲んで食べられに行った?
    そんな二回も同じ手が、あの花に通用するのか?

    ……微妙に腑に落ちない点が残る。
    どうしてラミロは自ら喰われに行ったのだろうか。

  • 611◆A8pWn3jbyg23/03/12(日) 04:11:42



    優しい声が聞こえる。血の気を失って、冷え切った手を、暖かい手が握る。
    どんどん身体の力が失われていく。意識が遠のいていく。待って、と手を伸ばした。

    「大丈夫」

    行かないで。行かないで。行かないで。
    力が入らない。指一本動かせない。声を発することも出来ない。ああ―――甘い、臭いが、

    「大丈夫」

    励ますように、諭すように、落ち着かせるように、笑うように。いつも通りの姿で、声で。
    いかないで。
    どうか、いってしまわないで。

    「大丈夫さ。すべてが上手く行くよ」

    なにをどうして。なんで、そんな風に。信じられない。信じられるわけがない。

    「愛しているよ。だからどうか、生きなさい」

    嫌だ。やめて。お願い、やめて。

    「どうか、幸せに、生きなさい」

    ――――やめてくれ!

  • 621◆A8pWn3jbyg23/03/12(日) 04:21:35

    というところで今日はここまでで
    話で必要だからと思いつつオリキャラに尺を割き過ぎずにバトル!アクション!バトル!アクション!とさせたい欲に苛まれている ダイナミックに行きたいんだって
    また保守のご協力をお願いします

  • 63二次元好きの匿名さん23/03/12(日) 11:39:39

    父娘愛があったけえ…

  • 64二次元好きの匿名さん23/03/12(日) 16:42:25

    クリスに対するマリーちゃんのデレ好き
    これは求婚者沢山いてもそうすんなりはいきませんわ
    最後の回想は前にも出てきていたな…

  • 65二次元好きの匿名さん23/03/12(日) 18:00:57

    マリー守るためにクリスが自分の頼み聞かないのも無理ないだろって想定してるラミくんとラミくんはそういう風に想定するだろうなって認識のクリスとでもラミロの懇願なら聞くだろ?って分かってるマリーさんのこの三者の関係がさ…上手く言えないけど好き…

  • 661◆A8pWn3jbyg23/03/13(月) 02:14:58

    保守と感想ありがとうございました
    今日も少しだけ投稿させていただきます

  • 671◆A8pWn3jbyg23/03/13(月) 02:32:43



    何か忘れている気がするのです。
    何か大事なことを忘れている気がするのです。
    甘い臭いに頭がくらくらして、馬鹿になって、幸せになって、白 痴のようになりはてて。

    痛みで気がおかしくなりそうなのに、どこか気持ちいい。
    僅かに開いた唇から、よだれが溢れてしまいました。
    けれど拭う腕一つ動かせず。
    最早人間として何も機能しないまま。

    ――何か忘れている気がするのです。
    ――忘れてはいけないことを、忘れている気がするのです。

    兄の、優しい声が、聞こえます。
    けれど、こんな声だったのかとも思います。
    頬に触れるその手が、まるで自分の顔を引き裂きそうだなんて。
    どうして、信頼すべき、兄に対して、そんな風に思えるのでしょうか。

    「愚かだね、背信 者の弟なばかりに」

    ―――ああ、兄の声が。
    雑音のように、耳元でがなります。
    兄の声は、果たしてこんな声だったのでしょうか。
    自分は。
    何を、忘れたのでしょうか。

  • 681◆A8pWn3jbyg23/03/13(月) 02:45:49

    ――とうとう大木についたけれど、近くで見るそれは遠目で見るよりもずっと、邪悪だった。

    木の表面に所狭しと眼球が覗いている様子は、見ているだけで吐き気を催してくる。
    おれたちが近づけば、それらはぎょろっと一斉におれたちを見つめてくる。

    「ひええ……」
    「気色が悪いな」

    隣でホーキンスが真顔のまま観察している。本当にそう思ってる?と言いたげだ。ローもちょっと眉間に皺寄ってるってのに。ほら、シャチなんて普通にビビッてるじゃん。おれも怖いよ!

    木の幹は全体的にどす黒い紫色だ。まるで血管のように浮き出ている箇所がどくり、どくり、と脈動していて、植物は生きているものだってわかっているけれど……それは見るからに何かしらの生命を持っているのだと直接的に思い知らされる。
    本能的な恐ろしさ。ただ傍にいるだけで威圧される。身体が強張る。
    あれは本体じゃないとホーキンスは占ったけれど――、でも、それでも、何か目的があって作られたのだろう。
    おれたちを見つめながらも、それは攻撃をしてくることはない。
    じゃあなんだ、と思った時。
    全体を観察していたローが、愕然とした声をあげるのを聞いた。

    「あれはなんだ」
    「……ロー?」

    ローが木の根元を見ている。
    同じようにおれも視線を下げて、――そして、その光景が一瞬理解できなかった。

  • 691◆A8pWn3jbyg23/03/13(月) 02:57:42

    人がいる。
    人がいる、なんてものじゃない。
    木の根が身体に埋め込まれている。本来土へと沈む箇所が、人の肌を突き破り、その背中を浸食している。
    ――いや、逆か。
    その背中から、“生えている”。
    人間の身体から。天高く生える、この大木が。

    「――――な、」

    そして、おれはその姿に見覚えがあった。
    クリスとマリーさんが言葉を失っているのがわかる。
    なんで、も、どうして、も。口から漏れることすら出来ず、悲鳴染みた息が喉の奥で絡まる。
    どくり、どくり、と。
    その人の身体から何かを吸い出しながら、成長を続けている、その木が。

    レミの、身体から。

    「―――――レミくん!」

    クリスが駆け寄ろうとする。その瞬間、凄まじい勢いで木のつるが攻撃意志を持って迫るのを、この一瞬で再びドラゴンの姿に転じたマリーさんが力任せの蹴りで弾く。
    さらにそれを、ローの能力によって鬼哭を振る……一気にバラバラにする。
    おれはただそれをぽかんと見ることしか出来なくて。
    そして、同時に思い知る。
    ―――花の、悪辣さを。

  • 701◆A8pWn3jbyg23/03/13(月) 02:58:01

    というところで今日はここまでで。
    また保守のご協力をお願いします!

  • 71二次元好きの匿名さん23/03/13(月) 03:33:02

    レミくん、人質としてクリスさんやマリーさんを誘き寄せるとか動揺させる面でも適材だし花の弱点にあたる不浄とか罪とか一欠片もなさそうって面でも花さんに好かれる(利用される)要素しかなさそうで…
    めちゃくちゃ美味しく頂かれてそうで心配すぎるな…

  • 72二次元好きの匿名さん23/03/13(月) 13:05:40

    ワンピース世界にはクソ花が多すぎる

  • 73二次元好きの匿名さん23/03/13(月) 15:18:54

    もうみんなで各種除草剤用意しよう
    竹枯らしとして名高いヤツもってきますね
    地下茎まで根こそぎ殺ったる…

  • 74二次元好きの匿名さん23/03/14(火) 00:35:46

    このレスは削除されています

  • 751◆A8pWn3jbyg23/03/14(火) 01:59:06

    保守と感想ありがとうございました!
    今日も少しだけ書いていきます!

  • 761◆A8pWn3jbyg23/03/14(火) 02:15:09

    クリスたちが駆け寄ろうとすると、木の根元が一気に膨らみ、まるで丸のみするかのようにレミの姿を覆い隠した。
    それを見てクリスがすぐさま飛びかかるが、――見ている限り、びくともしていない。木の独特なしなりすら感じられない。岩みたいに微動だにしていない。

    「ッ、蹴り倒すよ!」

    マリーさんが勢いのままにドラゴンの足で大木に穴をあけようとする、が。
    それは直前でローの“タクト”によって無理やり軌道を変えられる。

    「んなっ、」
    「やめろ! ……そんな傷を負わせた時点で、レミリオは死ぬぞ」
    「は!?」

    なんで!?とマリーさんが叫ぶ。
    ローは舌打ちをしながら、その大木に視線を向けた。

    「……さっき枝を切り落とした瞬間、木から液体が漏れ出た」
    「それがどうしたって言うんだい!」
    「あれはレミリオの血だ」
    「―――ッ!?」
    「能力で例の木を確認した。何がどうなっているかは知らないが、あの木とレミリオはほぼ一体化している。内臓の機能すら同一となっているうえに、血液すらあの木の中を循環していると来た。あの木はもはやレミリオの身体の一部なんだよ」
    「は!? なんすかそれ!?」
    「知るか。それがあの神とやらの権能の一部とやらなんだろうな。――おれの能力も中途半端にしか効かない。木のつるを切断したわけだが、本来おれの能力だと血が噴き出すようなことなんてないのに、れっきとした傷になっている。ひとまず血液が漏れ出たところは塞いだが、――人間でいえば指を一本切っちまったようなもんだ。死にはしないが、胴体を斬ればまず即死は免れない」
    「……!?」

  • 771◆A8pWn3jbyg23/03/14(火) 03:02:36

    なんだそれ、なんだそれなんだそれ!
    血の気が引く。
    あの木が、あの木がレミの一部?
    どす黒い紫色の表面にどくりどくりと血管が脈動し、金色の目がぎょろぎょろと森を監視しているように動き回る、見ているだけで鳥肌が立つ、生理的嫌悪感を生じさせるような代物がかよ?!
    しかもローの能力でさえも取り外すことが出来ない。
    神の力かなんなのか知らないが、切った瞬間レミが死ぬような、そんな邪悪なものがあっていいのかよ!

    「っ……舐めた、真似を……!」

    動揺を隠せないようで、低く激情を込めた声がクリスから漏れる。
    なんでこんなことを。こんな残酷なことを。
    ローの背中から降りているおれは駆け寄ろうとして、ローに襟首を捕まれる。おいロー!止めるなよ!

    けれどおれの横をすっと通り抜けるように歩いていく影が一つ。
    ――ホーキンスだ。

    「……なるほど」

    なるほど、……ってなんなんだよ。何かわかることがあるのか?
    シャチがどかどかと歩いて行って、ホーキンスの横に並ぶ。それからガンつけるように下からホーキンスを睨み上げた。

    「わかることがあるなら言え! 早急に!」
    「……神の祟りというわけではなく、呪いのように見えた」
    「は? 呪い?」
    「以上だ」
    「以上だ……ってなァ!」

  • 781◆A8pWn3jbyg23/03/14(火) 03:17:11

    「なんかいいアイデア出せよこの野郎!」とシャチが騒ぐがホーキンスはどこ吹く風と言った様子だ。
    レミが危機だというのに焦りも何も感じていない。……まあ、そりゃ特にすごく関りがあったわけじゃないだろうけどよ!
    でもその反応はさァ…!と苦々しく思っていると、ホーキンスの周りで騒いでいたシャチが、ふと顔をあげ、ホーキンスの顔を見て、訝し気な顔をする。

    「……いやお前、何か思いついてんじゃねェの?」


    ――――次の瞬間。
    おれたちに向けて、一斉に大木の上空からにょきりと花のつぼみのようなものが出たと思ったら―――くちがぱかりと開き、そこから一斉に種のようなものが射出される。
    おれが反応する前に戦闘が出来るロー、シャチ、ホーキンス、クリスが一斉に反応する。
    おれは気付いていたものの、この子どもの身体じゃ動きもままならない。あーもどかしい!と思っている間に、同じく反応が遅れたマリーさんがおれを守るように片腕で抱き上げてくる。
    ……女の子に守られるってのも! コラさん複雑だなァ! そんなこと言ってる暇はねェか!

    ローは能力によって弾丸のエネルギーの向きを反転。シャチは大振りにハルバードで弾幕を振り払う。ホーキンスは片腕を巨大な藁に変えて受け止めるし、クリスは二丁の拳銃で正確に撃ち抜いていった。
    おれたちのもとに来る攻撃はゼロ。マジで頼もしいやつらだぜ……。

    そんなことを考えていると。
    涼やかな声がこの場に響く。

    「悪夢を潜り抜けて、忌々しい“らせん”の能力を継いで、どうもご苦労様。忌々しい背信 者ども」
    「……生憎、信 者になった覚えもないものでな」

    ――一番に、皮肉気に答えたのはローだった。

  • 791◆A8pWn3jbyg23/03/14(火) 03:41:42

    というところで今日はここまでです。
    また保守のご協力をお願いします!
    そういえばこの一連の話が終わったらリクエスト募集させていただいて小話をばしばし書いていきたい所存。

  • 80二次元好きの匿名さん23/03/14(火) 06:49:57

    わ~出た!ピラミッドのとこで出会った時もそうだったけどラミくんをベースにして(?)喋ってる花さんヴィランとして雰囲気あってかなり好き
    ホーキンスの表情でシャチが何かに気づくのもいいな
    この島来てからだけでも短いながらも濃い付き合いあるもんな…

  • 81二次元好きの匿名さん23/03/14(火) 16:56:09

    今更だけどキャラも戦闘スタイルもバラエティ豊かだな…どうなるのかドキドキする
    小話差し込まれるのも楽しみだ

  • 82二次元好きの匿名さん23/03/14(火) 20:06:30

    本体を傷つけたら贄にダメージがいくとなると
    なんか似たようなヤツ知ってんなぁ
    それはそれとして誰よりも早く皮肉気に答えるキャプテン素敵ー!(うちわを振る)

  • 831◆A8pWn3jbyg23/03/15(水) 02:35:05

    今日は更新できそうにないため、また保守のご協力だけお願いしたいです!


    小話差し込むつもりじゃなくて、この一連の事件が収まったら(花のあれそれが解決したら)と思っていたけれど、気分を変えたいために新年特別編みたいな小さな小話挟みたくなったため、安価取ります

    この事態に関係ない話でも、会話文でも、ワン学パロでもなんでも


    >>84>>86をダイスで

    保守代わりに小話安価いただけると嬉しいです

  • 84二次元好きの匿名さん23/03/15(水) 03:42:51

    ワン学パロ楽しくて大好きだったので新オリキャラ勢でも見たい…でもどうせなら本編でしっかりキャラを知った上で見たい…等と心が揺れ動いてしまった

    「クオルホーキンス間の会話」が気になるので読んでみたいです
    3スレ目の別行動時にはベポと三人でランチ食べたのかなとか想像するとフフってなるなと思ったのがきっかけですがシチュエーション問わずパロでもifでも…!

  • 85二次元好きの匿名さん23/03/15(水) 11:46:18

    コラさんとハートの海賊団の日常話をもう少し読んでみたいです!潜水艦の中でも今回の舞台の島とはまた別の島のどっちでも良いので!

  • 86二次元好きの匿名さん23/03/15(水) 20:00:26

    コラさんとハートの日常みたいとてもわかる
    他だとあの人は今的に前作の関係者の今とか、麦わらの一味やキッド海賊団の皆様にはトリカゴ島のダンスアフロのアレコレはどう伝わってるのかとか気になる

  • 871◆A8pWn3jbyg23/03/16(木) 01:03:34

    保守ありがとうございました!

    というわけで今回はちょっとだけ小話を書かせていただきます。


    1.「クオルホーキンス間の会話」

    2.コラさんとハートの海賊団の日常話

    3.あの人は今


    dice1d3=3 (3)

  • 881◆A8pWn3jbyg23/03/16(木) 01:15:57

    【特別編】
    『コザーの今』

    「なあじいさん。流石にパンを作りすぎなんじゃねェか」
    「うん? 味見したいのか?」
    「あーいや……さっきもらったけど……いや美味いけどさ……」

    おじいさんからパンをもらったコザーは、これで通算五個目のパンを仕方なしに腹に収めている。
    美味しいから構わないが、もともと小食の気がある。普通に苦しくなってきたし、そろそろいい加減にしてほしいが、こんがりと焼きあがった香ばしい香りに満足そうにしているおじいさんを見ると、何も言えなくなる。
    センゴクに似ている顔がいけないのだ、というのはコザーの談だが、そうでなくてもそもそもコザーは年長者に対してあまり強く出にくい節がある。だから島を歩いていている時八百屋のおかみさんや魚屋のおじさんに物を押し付けられると、ついそのまま押し切られてしまう。特に一般人に対してはそうだ。海軍という組織の一員であるコザーは気質的にことなかれ主義なところがある。つまりぐいぐい来られると押し切られてしまうらしい。

    そして今回もおじいさんからパンを大量にもらい(道中基地に持って帰るように近くにいた海兵に渡した)そのままくたびれた様子でコザーはのそのそ歩く。
    パンを作ることにしこたま精を出すおじいさんは特に軽くボケが入っていることから気にかけてはいたが、あの様子じゃまだまだ現役でパン屋でいられそうだ。と自分より随分はきはきしていた姿を脳裏に描きながら、――ふと思い立って足を海の方へと向けた。

    向かった先は、しなぎの塔のすぐ近くにある港だ。
    そこにあるやや錆びたベンチに持たれて深く息を吐く。
    それから波の様子を見て、もうすぐだな、と軽く予想し、そしてその予想が違わぬのを示すように、数秒してから、かもめに似た高い音が鳴り響いた。

  • 891◆A8pWn3jbyg23/03/16(木) 01:28:34

    ――しなぎの塔の歌う声を聴きながら、脳裏に描くのはあの騒がしいアフロと、無気力な医者と、夢見がちな子どものことだった。
    最近気が向けばよくここを訪れているものだから、思い出す機会も多い。
    そして思い出すたびに微妙な心地に苛まれているのは――仕方のないことだろう。
    それでも足を運んでしまうのは、自分が不協和音にさせてしまっていた音が、改めて高らかに音を奏でる様を見ているのが、……到底自分が言っていいことではないと思っているが、好ましいからだ。

    この音は心を穏やかにする。ヒーリング効果というべきか。すぐに効能があるわけではないものだが、それでもその音を聞いて過ごしてきた島民の気質は穏やかだ。
    人に親切で、人に優しくて、人の悲しみに寄り添おうとする。
    損な性分だろうな、と思いながらも、ばっちりそれら全部をひっくるめ利用していた自覚のあるコザーは、まあそれなりに複雑な気分のままにその音を聞く権利を享受していた。

    ――『美しい音だな』

    なんの因果か、この島にセンゴクが立ち寄ったことがある。
    本当になんでこうなったんだ、とコザーは今でもたまに思い出したりしているが。
    センゴクが塔の逸話を聞き、実際の塔の音を聞いて、そう零した言葉。

    ……コザーは、今でもあの時自分がしなぎの塔を利用して自分の為すべきだと思ったことを為そうとしたことを、後悔はしていない。
    もしあのまま邪魔されずに済んだとしたら、例え何のリスクを負ってでもやるべきことを実現させていただろう。
    けれどもその長年かけた果てなき理想は見事に打ち砕かれて、悪者である自分は生きながらえている。別に理想のためなら捨て駒にしてもいいと思っていた命で。
    でも、けれど、それでも。

    そのセンゴクの言葉が、妙に嬉しかったことを、覚えているのだ。

  • 901◆A8pWn3jbyg23/03/16(木) 01:37:29

    「……………はー」

    色んな感情を込めたため息を吐きつつ、懐からとある一面だけを切り取った新聞紙を取り出す。
    それをこれまたすさまじく複雑な感情が籠った目で見つめた。

    【――――『パッショネイト・ダンサー』アフロミンゴ率いるアフロミンゴ海賊団が、とある島で舞台を占拠して公演を開始―――――】
    【元七武海・ドフラミンゴとの関係はいかに――――】

    「……………」

    これまたこれまたとんでもなく絡まりまくった感情を抱えた沈黙だった。
    この文章を見るたびやっちまったなァ、とか。やっぱりやったなァ、とか。何してんだお前、とか。ツッコミとか諸々脳裏に山ほど浮かんで、けれどもツッコミを入れる気力は湧かないので強制的にシャットダウンする。
    貼られている写真には、ド派手な衣装を着たアフロミンゴがなんか増えている仲間と共に大舞台でダンスを楽しそうにダンスを踊っている。楽しそうだな。くそが。

    こと彼に関して妙な友情意識を抱いているコザーではあったが、それでも海のクズは海のクズ。
    さっさと捕まれと思うばかりだ。
    切り取った新聞紙は紙飛行機にしてそのまましなぎの塔に向かって投げた。途中で海に落ちるかと思ったが、背後から追い風が吹き、少々遠い場所にしなぎの塔はあるのに、すいすいとそのまま飛んで行ってしまったのだから、なんとも、なんともなことである。

    「海のクズが天下に蔓延りやがるな……」

    ……さて、そういえば。
    海のクズの船に同乗していた仕事仲間はどうなっただろうか。

  • 91二次元好きの匿名さん23/03/16(木) 01:53:05

    ワァ…ァ…コザーだ!本人のメンタルは中々特異だけどやっぱり穏やかな天気のなか海を眺めるような風景が似合うなコザー…
    年長者に弱いのは育ての両親の影響もちょっとあったりするのかな
    アフロミンゴの一面記事が風に乗ってスイスイ飛んでっちゃうところなんとも自由で大好きだ

  • 921◆A8pWn3jbyg23/03/16(木) 02:02:18

    クオルは無気力で不愛想で、常にやる気がなく気まぐれで、それでも仕事だけはきっちり行う男だった。
    思えば、あいつが仕事をこなさなかったのは、あの子どもをみすみす自分のところまで来させたのが初めてだったか、コザーは思う。依頼していなかったことは堂々とさぼるが、依頼したことを、果たさなかった。それはコザーから見て、かなりの異常事態だったなと、今更ながらわかるのだ。
    その初めての依頼未達成が、長年の悲願を打ち砕く一手になるとは。
    けれども今となってはあまり怒りがわかないのは、きっとクオルが自分より一回りほど下だったのもあるだろう。
    思い返せば、どこか常に迷子のような青年だった。血を吐きながら歩き続けているが、その目指す場所が見えない。そんな印象を抱かせる。

    けれども、それをあのガキどもが。
    忌々しいガキどもが、どうにも変えたのは、喜ばしいことか、この野郎と思うべきか。

    脳裏によぎる眩しい金髪。
    あの圧倒的な力で次々と塔を砕いていったマジで忌々しい海賊よりそれが浮かぶのはなぜだろうか。

    「……あー」

    ――コザーはふと、過去の記憶を回帰する。
    それは大分昔――10、何年前だろうか。
    まだ自分が若かった頃、本部で人に下について訓練をしていた頃。
    自由時間、煙草が吸いたくて喫煙室に入ったとき――そこでとある海兵と話をしたことがある。
    それを不意に、唐突に思い出した。

  • 931◆A8pWn3jbyg23/03/16(木) 02:22:34

    何を話したのか正確には覚えていない。何せ十数年前の話だ。
    その男の顔だって覚えていない。かなり大柄の体格で、あの子どもと似たような髪の色だったことをようやく思い浮かんだありさまだ。
    それでも、忘却の波によってそのまま奥深くに沈んで行かなかったのは。
    センゴクを尊敬していると言っていたことと、恥ずかしそうに、一見不愛想に見える顔を破顔して青臭い理想を語っていたところだろうか。

    最早覚えてもいない会話内容。
    けれど、それでも覚えていたことが一つ。

    『―――救われたことがあったんだ』
    『だから、おれも誰かを救える人になりたいんだよ』

    そう照れ臭そうに言っていた男。
    目標とか、理想とかを話していたのだろうか。
    あれから本部に行くことはあれど、見たらきっとすぐに思い出せるであろうその男のことを見かけることはなかった。
    恐らく半ばで心折れたか、――それとも、殉職したのか。
    なんとなく後者だろうな、とコザーは思う。
    別段、あの一室での小一時間にも満たない出来事だ。だから悲しいとか感傷に浸るつもりはない。
    けれど、あの子どもを思うと、ふとその記憶が浮かぶのだ。

    青臭く、理想的で、夢見がちで。
    でも、なんとなく。
    その時、コザーは確かに言ったのだ。

    「叶うといいな」なんて、そんなことを。

  • 941◆A8pWn3jbyg23/03/16(木) 02:35:30

    きっとそれは、恐らく自分自身が、青臭いなんて言いながらもその願いを美しく思っていた証左だった。
    救われたから。
    だから、救いたい。
    ―――きっと、根源的な願いは、コザーも同じだった。
    だから無謀とも思える舞台に飛び乗った。自分が一番向いてないとわかっているのに。それでも、為さねばならないと、理想を抱いて。

    自分が、あの子どもに、誰にも言うべきではなかった過去を語ったとき。
    あの時自分は――あの喫煙室に居たのかもしれない。
    なんて、今更ながらそんなポエムのようなことを考えて、自嘲した。てんでおかしな話だ。
    顔も覚えてすらいない誰かのことを、それで思い出すなんて。

    「………」

    コザーは、しばらくその場にとどまってから、無言で立ち上がる。
    しなぎの塔に背を向けながら、そのままのそのそと、相変わらずくたびれた動きで――海軍基地へと向かう。

    「……仕事するか」

    特に何も変わりない島だが。どこもかしこも平和だけれど。
    それでも、コザーは海兵だったので。

  • 951◆A8pWn3jbyg23/03/16(木) 02:40:11

    という感じであの人は今・コザー編でした!
    今日はここまでで、また明日から本編を書いていきます。
    保守のご協力をお願いします!!

    ちなみに麦わらの一味やキッド海賊団の反応はまったく浮かばなかった……
    キッドはあったことを酒交じりに報告するし、ルフィも食事を食べながら報告して『食べてから話せ!!!』と怒られるし。
    でも恐らくナミさんはロシーのことについて心配してくれるはず。
    大丈夫かしら…と思うし、まあトラ男くんのところだから大丈夫か……とも思ってる

  • 96二次元好きの匿名さん23/03/16(木) 03:15:05

    大柄で金髪で喫煙者でセンゴクさんを尊敬しているコザーと同年代の海兵さんかぁ…ぼやさかれてるけどとても心当たりがあってにっこりしてしまうな
    コザーの過去話ほんとにびっくりしたけどこの海兵さんへのコザーポイントがあの時のロシーくんに無意識に加算された結果聞けたエピソードなのかもと思うととんでもなくエモい

  • 97二次元好きの匿名さん23/03/16(木) 14:41:23

    センゴクさんの来訪も回収されててにっこり
    過去につかの間の邂逅があったのじーんとしてしまう

  • 98二次元好きの匿名さん23/03/16(木) 18:39:32

    全体的にしんみりするのに挟まるアフロがおもしろすぎる
    やってんなぁ…
    何となくだけど一味の方はルフィの「すーんげえアフロだった!」という謎の報告に「はぁ??」てなるナミさんと「アフロはすげぇよな」と謎の納得する男どもが見えました

  • 99二次元好きの匿名さん23/03/17(金) 01:17:21

    少食なのに好意で食べ物出されると受け取っちゃうコザー好き さすが海兵人の好意を無下にはできない

  • 100二次元好きの匿名さん23/03/17(金) 02:15:10

    『パッショネイト・ダンサー』でやっぱりウフフってなっちゃう 糸…
    アフロミンゴとドフラミンゴどういう関係!?って世間がなるのも無理ないけどゴーイングルフィセンパイ号みたいなリスペクト示す奴もいるから海賊って面白いよね…

  • 1011◆A8pWn3jbyg23/03/17(金) 02:33:59

    眠気に敗北したため今日は書けないようです……。
    また保守のご協力だけお願いします!!

  • 102二次元好きの匿名さん23/03/17(金) 07:32:27

    このレスは削除されています

  • 103二次元好きの匿名さん23/03/17(金) 19:03:26

    花の特徴に養分を溜め込む袋があるってあったけど木になってる場合どうしたらいいんだ…
    胎児みたいにへその緒みたいな一本線じゃないだろうし

  • 1041◆A8pWn3jbyg23/03/18(土) 00:20:11

    保守のご協力ありがとうございました!

    今日も続きを書かせていただきます!


    >>103

    一応木自体は花とは別物です

    レミくんと一体化しているやべー木です

  • 1051◆A8pWn3jbyg23/03/18(土) 00:50:54

    そこにいたのは、クリスと同じ神父服を着た、レミとよく似た青年だった。
    おれの視線に気づいたのか、にこり、と人好きのする笑みを浮かべる。――けれど、その裏側にある酷薄さは消えていない。うすら寒さを覚える。

    えっと……確か、ラミロと区別化するためにミラ呼びすればいいんだったな。

    「レミくんに、何をしたんですか」

    おれの横で怒りを隠しきれていないクリスがミラに銃を向けている。
    手の甲には血管がびきびきと浮かんでいて、発砲していないのが不思議なくらいだ。
    それに対してミラは平然とした顔のまま、こてんと首を傾げる。

    「ひどいなクリス。おれに銃を向けるの?」

    半笑いで呟いた言葉にクリスは即座に発砲した。
    そしてそれは寸分の狂いなくミラの脳天に直撃する――本当容赦ねェな!
    仮にも友人だった人間の顔。それでも躊躇なく撃ち抜けるくらいにはもうすでに、覚悟が決まっているのだろうか。
    ちらりとクリスの顔を見上げる。……冷たい顔をしている。

    「……ひどいなァ。クリス。なんでおれのことを撃つんだ? やっぱり――人殺しだから?」

    銃の衝撃によって仰け反っていたミラは、その仰け反った状態からまるで平常通りに元の体勢に戻る。
    頭の上部は爆ぜているのに、平然と話を続ける。わかってはいたが、致命傷にはならない。それは恐らくあの身体が花の本体というわけではないからこそなのだろう。

    「お前のその弾丸は汚いね。血と鉄と死に塗れている。気持ち悪くて気色悪い。お前の一挙一動が気に障る。人を大勢殺してきた人殺しが、よくものうのうと人の親の真似事をして生きられるものだね。楽しい? 楽しくて結構。そうやって恥知らずに生きさらばえてきたくせに、お綺麗なふりをして娘の傍で生きられると思っているの? 仮にも殺そうとしたくせに。お前は汚いまんまだよ。不浄塗れの殺人者」
    「――――ッ」

  • 1061◆A8pWn3jbyg23/03/18(土) 01:02:32

    にこにこと笑った顔のまま、その頭が人外の力によって修復させながら。
    軽やかに動く口で発せられたのは―――間違いなく呪いの言葉だ。
    クリスは目を見開き固まっている。心なしか顔が青い。

    「記憶、を」
    「さあ。読み取ったのかもしれないね。でも――間違いなくお前の気にしていることだろ?」
    「ぐ、」
    「飄々としたふりをしながら生きているのは楽だね。親子のおままごとをしながら享楽的に生きていくんだよね、これからも。汚い自分の手を無視して」

    身体が動かない。どこを切り取っても悪意しか感じられない、その声がただただ恐ろしい。
    マリーさんを助けるためなら夢中で何を投げ出してで走ってきたクリスが、友人の姿かたちを使われ激高していたクリスすらも動けないまま。
    その中でまるでたった一つの異質が、恐ろしく残酷な顔で、嗤う。

    「人のために神父をやっているのは愉しいねェ、友人に頼られて嬉しいねェ、娘に愛されて幸せだねェ、クリストファー。ところで」
    「お前は自国のために戦ってきたんだろう。それが兵士の役割で、それを割り切ってきたようだけれど」

    幾つも円を描く金色の目が、クリスを見つめた。

    「かつて、逃亡する自国の兵士の背中に、逃げたからだと銃弾を撃ち込む気分はどうだった?」
    「―――――あ」

    あ、これ、だめだ。
    多分一番駄目なところを突かれた。
    そしてその瞬間―――。

    ――クリスの左胸が、木のつるによって貫かれた。

  • 1071◆A8pWn3jbyg23/03/18(土) 01:19:30

    背後からの強襲だった。そしてその木のつるは――レミから生えたものだ。
    木のつるが抜けた胸からは大量の血が噴水のように溢れる。
    それを近くにいたマリーさんが、まともに被る。
    口からも血を吐き出したクリスは、そのままがくがくと身体を震わせ、崩れ落ちる。
    呆然とした顔のマリーさんが受け止めて、それから、なんで、とか細い声で呟いた。

    「ッ……ロー!」

    おれは固まっていた身体を無理やり軌道させ、喉を張り上げる。
    悲鳴染みた声にすぐさまローは反応した。
    クリスを受け止めたまま何もできずに固まっているマリーさんは、今起こった現実が理解できないままなのか、クリスを抱きしめたまま動かない。

    「すぐに治療する。離れろ」
    「あ、ぇ、クリス、なんで、」
    「しっかりしろ! このままじゃ死ぬぞ!」

    「―――死んじゃえよ、クリス。汚らしいお前はいらない」

    ……お前は、お前は、お前は……!
    余裕の表れなのか、おれたちがクリスに駆け寄る間、ミラは動こうとはしなかった。
    おれは怒りで真っ赤になる。このまま殴りかかりたくなる。――けれど、おれより先に行動するのが早かったのは、シャチだった。

    「お前、よくもラミロの身体で……!」

    そう言いながらハルバードを振りかぶる。

  • 108二次元好きの匿名さん23/03/18(土) 01:59:39

    左胸はちょっとやばすぎて震えてしまう……
    少し前の親子のハグから間を置かずこんな形でまたマリーさんがクリスさん抱きしめてるの辛すぎる

  • 1091◆A8pWn3jbyg23/03/18(土) 02:02:47

    ハルバードはミラの身体を切り裂く。容易く。
    なのに切り裂いたのは肉体じゃない。割かれた身体の断面から見えるのは、敷き詰められた木のつる、枝、繊維、葉、花、すべてがごちゃ混ぜになって詰められた何かだ。
    案の定ミラにダメージが入った様子はない。
    ここにあるミラの身体は偽りだからだろう。

    「なんで君が怒るのかな、……忌々しいね。あのまま悪夢の中でたっぷり苦しめてやるはずだったのに、元気になっちゃって」
    「うるせェよ! てめェの方が大分忌々しいわ!」

    切り裂いた力のまま、一回転しそのままミラを両断する。
    されるがまま真横に真っ二つになるのに。切り離された胴体同士のつるがすぐにお互いを結び合い、しゅるしゅると元通りに直してしまう。
    きっと、何をしても意味などない、のだろう。
    あれが花の本体ではないからだとわかる、わかるけれど、このまま本体がわからないままだとあまりにも一方的だ。
    しかも花の倒し方も現状わかっていないと来た。コクレア様を復活させることが出来ていないのだから。

    (……ベポ……!)

    台座は、見つけたのだろうか。
    今おれらは、大分ピンチ、だぜ……!

  • 110二次元好きの匿名さん23/03/18(土) 02:13:55

    クリスさんが喋るといつもパッと明るくなって大好きだから大分つらい…つらい…
    そしてシャチがラミロくんの尊厳のために怒るの悪夢の中のやり取りを思い出してグッとくる…この二人も好きだ…

  • 111二次元好きの匿名さん23/03/18(土) 02:41:38

    敵前逃亡の粛清かぁキツイ役回りだ…ちょっと頂上戦争の時の海軍を思い出す…
    そんでクリスさんも背中から貫かれてるの酷い

  • 1121◆A8pWn3jbyg23/03/18(土) 03:49:00

    「人間は愚かで脆い。だからおれを崇めて、おれの言うことを聞いて、大人しく信仰を続けていればよかったんだ。別におれはね、信仰してくるものをそこまで無下に扱うつもりはないよ。決して食い物に違いはないけれど、どいつもこいつもおれの養分でしかないから、だから別にどの対象を選んでも構わなかった」

    それこそ島外の人間でもどうぞ、といった風にね、特別扱いしてあげていたんだよ。
    演説をするように、ミラは語る。
    ……言っていることが理解できない。いや、したくない。まるで譲歩してあげている、という言い分が。島外の人間でもいいと許容するかのような発言が。
    そんなおれを見透かすように、『そんなおれを崇めたのが人間さ』と語る。

    「けれどもね、おれにも一つ特別な人間というのが出来たのさ。それがラミロという男なんだ」

    ミラの手が、ラミロの顔にかかる。
    そこにわざと強く爪を立てて、笑いながら、ラミロの顔を切り裂いていく。

    「本当に、おれが特別を作るなんて大変なことなんだよ。だっておれは崇められるものだから、そんなものが特例を作ることなんて本来ありえない。みいんなおれの養分なのに」

    でも決めたんだ、とミラは言う。

    「―――ラミロの周囲だけは、全部、すべからく、不幸にしてやろうって」

    その瞬間、轟音を立てながらシャチに向かって木の鞭が迫る。
    凄まじい速さで繰り出されたそれをシャチはハルバードの広い面で受け止めるが、受け止めきれずに吹き飛ばされる。そして吹き飛ばされた先には、鋭く尖る茨が自らの腕を広げて待っていた。

  • 1131◆A8pWn3jbyg23/03/18(土) 03:52:31

    というところで今日はここまで
    クライマックス近づいてきたな~~~と実感
    ライブ感なのでどこまでこねくり回されるかわからないけれど
    また保守のご協力をお願いします!
    日中スマホしか触れない中で、スマホだと何故かIP規制でマジで出来ないことが多いので助かってます……!

  • 114二次元好きの匿名さん23/03/18(土) 12:50:14

    ラミロにクソデカ感情持ってるクソ花ってコト…!?

  • 115二次元好きの匿名さん23/03/18(土) 20:45:22

    色んなとこピンチだけどシャチ!シャチー!!!!!
    このクソ花ァ!と口汚く罵ってたら心の中のアフロミンゴ御一行が「なぁ〜にが特別よ!思い上がってんじゃないわよ!!!」「そうだ!こちとらパッショネイト・ダンサーアフロミンゴ様だぞ!」「アフロ舐めんじゃねえっすよ!!!」て代弁してくれた幻覚を見た

  • 116二次元好きの匿名さん23/03/18(土) 20:55:10

    殺しに関してあっけらかんとしてて割り切りの才能がすごいと思ってたけど精神攻撃まったく効かない訳じゃないんだなクリスさん…
    花にも人(を愛したり憎んだりするような)心が!?と一瞬思ったけどこれそういうんじゃないな…どこまでも上位存在思考で話が噛み合わないの最悪でちょっと好き

  • 1171◆A8pWn3jbyg23/03/19(日) 02:44:13

    感想ありがとうございました!
    今日も続きを書かせていただきます!

  • 1181◆A8pWn3jbyg23/03/19(日) 03:10:09

    シャチがその茨の腕に身体を締め付けられる寸前、網状に延ばされた“藁”がシャチの身体を掬い上げる――ホーキンスだ。
    その勢いのままホーキンスは半回転し、シャチを思いっきり上空へと投げる。
    急なそれに体制を崩したシャチだったが、すぐに立て直し、一気に真上からミラを縦に両断した。

    「っくそ、助かったホーキンス!」

    ホーキンスが目線だけシャチに向けてから、すぐさまミラに対峙する。
    それを、ミラは呆れた顔で見るばかりだ。

    「なに、わかってないのかな。いくら攻撃されようとおれには露ほども効かないけれど」
    「わかってる。でもそれでも目の前にお前がいたら――我慢できねえし、ラミロの身体が使われていることに腹が立つんだ!」
    「意味が分からないな。……ああ、夢の中で話でもした? 夢の中でもとことん邪魔をしてきて、本当に忌々しいなあ。他の魂と同じく、おれの腹の中で揺蕩い続けるべきなのに」

    そう言いながらミラがざっと周りを見る。

    「思えば、うん。なかなかに面白いことをしてくれたよね。急に森全体の調子が悪くなるし。君たちは本当におれのことをどうにかするつもりでいるのかな。不敬ってやつじゃないかな。まあ、別にいいけど」

    朗らかに言うけれど、逆にその気にしてなさが異様とも思えた。
    ラミロのことはあんなにも敵視しているけれど――こちらのことは歯牙にもかけていない。いや、愉快がってはいる、のか?
    その様は、虫を弄ぶ幼子を連想させた。

  • 1191◆A8pWn3jbyg23/03/19(日) 03:28:48

    というか急に森全体の調子が悪くなったって、クオルがやったやつのこと、だよな。
    あいつの能力によって今森はかなりの範囲が病気にかかっているはず。
    限界が近くなったら撤退する、と言っていたけれど……今はいったいどうしているんだろうか。

    そんなおれの疑問に答えるかのように、ミラの口から言葉が放たれる。

    「ああ、おれの身体に病を発生させたやつのもとには虫を送っておいたよ。まあ、1000体ほど」
    「え、」
    「おれの手で編み出したものだからね。病のような不浄で行動不能になんてさせないよ。死んでなければいいね」

    ―――え、な、――――せん、たい?
    脳裏に浮かぶのは、手から血を流したクオル。そして残ることを選んだペンギンの姿。
    そこに殺到するであろう、1000体の虫――恐らく植物を模した化け物のことだろう――それが。
    ひ、と。喉の奥で掠れた空気が擦れた音が漏れた。

    「驚く必要があるかい? 外敵は殲滅すべきだろう。ましてやそれが汚らわしいものならば、さらに」
    「て、めェ!」

    話を聞いていたシャチが、怒りのままにハルバードを振るう。
    その場から動きもしないミラは、どんどん細切れになっていくのに、そのたびに修復している。
    シャチは存在すること自体が許せないようで武器を振り回すけれど、攻撃が決して届くことはない。
    今シャチは怒りで頭が染まっている。それを否定するつもりはない。……おれだって、今、腹の底が熱いを通り越して、凍えるほど、冷たくて、それくらい――目の前のそれをぶちのめしたいと、思っているのだ。

  • 1201◆A8pWn3jbyg23/03/19(日) 04:00:34

    ミラが煩わしそうにシャチの刃から抜け出し、バックステップで後退すると、片手を上げる。
    その瞬間、ミラの背後にあった幾本かの木がまるで切り倒されたかのように倒れる。
    けれど次の瞬間、木の胴体に幾つもの木の枝が、元あったものを超えて、木の根元近くまで生え始める。
    そしてまるで百足のように足をバラバラに動かしながら一気にこちらへとやってくる。

    「コラさん、後ろに下がってて! おいホーキンス、半分は何とかしろ!」
    「人使いが荒い、な!」

    シャチとホーキンスが飛び出し、シャチがハルバードを、ホーキンスが刀を一気に振るう。
    ハルバートの刃はまるで薪割の要領でシャチが木の百足を真横から一気に胴体、根本にかけて両断していく。
    対するホーキンスは幾本もの藁で木の百足の足を拘束すると、しなる刀で切り裂いていった。

    おれはそこで出来ることなんて一つもなくて。
    ……だから、言われた通りに下がりながら、――ローたちのもとへ行く。
    見ればローはクリスの胸を割り開きながら、損傷によって欠けてしまった部分を縫合しているらしい。

    「ロー! クリスは……」
    「ぎりぎりで心臓のすれすれを通っていた。今のところ命に別状はない」
    「よ、よかった」
    「よくない、よ」

    思わずほっと零れた言葉に、――か細い声が反応する。
    血まみれのまま呆然と座り込んで、震える目をしながらぎゅっとクリスの手を握りこんでいるマリーさんがいた。

    「く、クリスの胸が、胸に、木が……あんなの、あんなの、死んじゃうかって、」
    「……マリー」
    「ッ……! クリス、くりす、くりすっ……! 早く、早く森から出るよ。アンタ、このままここにいたら、死んじゃうかもしれない、」

    そう言いながらクリスに縋りつくマリーさんは、いたって普通の少女そのものだった。

  • 1211◆A8pWn3jbyg23/03/19(日) 04:09:04

    マリーさんの言葉に、クリスは閉じていた目を開いて、ぼんやりとマリーさんを写す。

    「まりー、マリー、私は、……私は、ずっと、後ろめたくて、」
    「な、にが、なにがだい」
    「いいのかと、あの日から。殺すことに、迷いはなく。けれど、それがその時、仕方なかったとはいえ、――逃げる同胞を、撃つのは、つらかった」
    「………」
    「割り切っていたとはいえ、それで、必死に逃げようと、戦場から離れようと、生きようとしたものを殺して、それは、敵を殺すのとは……違うそれが、なのに、私はのうのうと逃げて、そんな私が――あなたを、抱きしめる、ことなど」

    資格がないのかもしれない。そうクリスは続ける。
    ……意識が混濁しているのかもしれない。
    だって、多分これ、クリスは言いたくなかったことだろ。
    罪を吐くように。告解するように。仮にも神父がシスターにそうするのは、どこか不思議で、まるで懺悔室にいるかのようだった。

    碧眼がどこかぼやけて濁っている。
    ――悪夢の中にいるのかもしれない。あいつの能力の方ではなくて。今、ローから治療を受けながらも、意識がわずかに混濁しているクリスは。

    「私は、人殺しなのは、受け入れて、仕方がないと……でも、マリーは、マリーは、私の天使で、……私が、人らしく、出来る、愛しい、存在で……、でも、手が、汚れているのは……本当の、ことで、そんな私が、父親なんて、本当は、本当は、マリーは、他の人と、」

    何を馬鹿なことを言っているんだ。
    ――相手が怪我人だってことも構わずおれは怒鳴ろうとした。
    だって、それは。その言い方は、あまりにも、マリーさんが、

    けれど、口を開くのはマリーさんの方が早かった。

  • 1221◆A8pWn3jbyg23/03/19(日) 04:18:34

    「じゃあ、なんだい」

    マリーさんの顔が俯く。表情が見えない。

    「なら、アタシはあんたの恋人になればいいのかい?」
    「へ?」

    ……そして言われた言葉は、全くの予想外だった。

    「それとも妻? 母親? 妾? 愛人?」
    「ま、りー? なにを、」
    「妹かい? 友達? まさか奴隷とでも言うんじゃないだろうね」
    「だから、なに、」
    「アンタとアタシの繋がりの話さ」

    きっと上げた顔は、怒りに満ちていて。それでいて、悲しさにあふれていた。

    「アンタが望んだからアタシはアンタの娘になった。みなしごでいたアタシに、アンタが繋がりをくれたから今のアタシがいる。資格とか、人殺しとか、アタシは知らない。考えたこともない。ただ、あの時アタシの前に立ったのがアンタで、そいつがどうにもふざけたことを言う馬鹿だったから、やけくそで啖呵きって、それにアンタが何を思ったか丸ごと受け入れたから、こうして今ここにいる」
    「………」
    「アタシは、そうであることを選んで、娘であることも受け入れた。でも、アンタがアタシの父親でいるのが辛いなら、違う役割をおっかぶせてやる。今更アタシから逃げられると思うなよ。そもそもアンタは父親らしくないろくでなしで、阿呆で、スカポンタンなくせに!」

    そう半ば叫びながら、マリーさんの目から涙が零れる。

  • 1231◆A8pWn3jbyg23/03/19(日) 04:27:06

    「……アンタは、どれがいいんだい。恋人、愛人、妹、友人、奴隷? アタシに求めるものを言いなよ、そのくらいは出来るだろ、このぽんこつ」

    クリスは動揺したように目を見開いた。
    マリーさんの涙に、震える声に、それらをすべて浴びた。
    でも、だから――その目から濁ったような色合いが、薄れ、取れたように思えた。

    「……むすめ、」
    「うん」
    「マリーちゃん、は、……むすめ、私の、娘、可愛い、可愛い、一人娘、です、それがいい、それがいい、です」
    「……うん。……アタシも、それがいい」

    お父さん、と。
    本当に小さかったけれど、それでもわずかに聞こえた名称は、おれがマリーさんに会ってから、初めて聞く名称だった。

    「負けないで、お父さん」

    ――多分、だけれど。
    その瞬間、一気にクリスに生命力、みたいなのが灯ったと思う。
    だらんと地面に向かって緩く開いていた手のひらが強く、強く握りしめられる。

    「……パパに、任せてください」

  • 1241◆A8pWn3jbyg23/03/19(日) 04:30:31

    というところで今日はここまです。
    また保守のご協力をお願いします!

    あと保守ついでに、ホーキンスのこう……ストローマンズカード以外の技のアイデア……募集させてほしい。名称は考えなくてもいいから
    無双とかも見つつでもやっぱこいつ難しいね!?という気持ちです
    あとストローマンズカードは処理が難しい

  • 125二次元好きの匿名さん23/03/19(日) 08:23:42

    時々あれ?とは思ってたけどやっぱりマリーちゃん矢印でっっっかくて今まで以上に大好きになってしまったしマリーさんとクリスさんにしか出来ない乗り越え方したなって感じが清々しくて感動してしまった
    あと自分を拾ってくれた恩人が「私が父親なんて」って悔いるようなこと言うのお父さん大好きコラさん的に二重に地雷すれすれだった気もして色々感じ入ってしまう…

  • 126二次元好きの匿名さん23/03/19(日) 12:15:12

    クリスさんは10割パパ顔してるけどマリーちゃんはクリスさん取っ捕まえておけるなら別の関係でもよかったのかなっていうのがすごい器の大きさを感じて惚れそう…
    でもクリスさんが選んだ父と娘って関係がマリーちゃんにとっても一番だったのかなというか命に別状なくてよかった本当に!
    この戦いが終わったら胸を貸してあげますみたいなフラグあったからちょっとビビってたよ!

  • 127二次元好きの匿名さん23/03/19(日) 22:33:04

    語彙力無さすぎて感想が上手く書けないんだけど
    なんか泣いたよね…

  • 128二次元好きの匿名さん23/03/19(日) 22:40:09

    この二人どうなんだろって密かに気になってたけどこう落ち着いたか…すっごいドキドキしながら読んだ楽しい
    これはクリスさんバフで生きる力漲っちゃうし一緒に聞いてたコラさんも勇気凛々になってそうだな
    ホーキンスの技全然詳しくないけどスタンピードでわりと釘推しだったのが好きなので釘をこうたくさん浮かべて…ザシュザシュッみたいな…(小並案)

  • 129二次元好きの匿名さん23/03/19(日) 23:06:48

    >>124

    別作品のネタになってしまうかもだけど藁と釘(刃物)で共鳴り(依代を媒介に遠隔で攻撃)とか?

    自分への攻撃を他人と繋がった依代に移してるのができる以上、依代そのものを破壊して本体に呪詛を送る的なのも出来そう

  • 1301◆A8pWn3jbyg23/03/20(月) 03:19:22

    今日は書けなさそうなので、また保守のご協力をお願いします!

    クリスとマリーの評判よくて嬉しいです。双方クソデカ感情抱えてたりしています。


    >>128

    釘いいですね ビジュアルが格好いいし、是非に使いたい……


    >>129

    いいですねいいですね! こねくり回してなんかいい感じにワンピ能力にしてみたいです…

  • 131二次元好きの匿名さん23/03/20(月) 08:28:54

    マリーさんを殺すか生かすかコインで決めようとしてたクリスさんが
    マリーさんとどういう繋がりでいたいかちゃんと自分で答えを出せてるのが美しいね…
    これは双方巨大感情所有者

  • 132二次元好きの匿名さん23/03/20(月) 18:48:09

    藁で思い出すのが納豆の異臭と米俵ぐらいしか…
    でも日本人としては食べ物は粗末にしたくないし逆に供物として力蓄えられても困る…
    あとはしめ縄で思いついたのは藁でもドリームキャッチャー的なの作れそうぐらいかな、クソ花に効くかは不明だけど

  • 133二次元好きの匿名さん23/03/20(月) 21:05:40

    >>132

    ドリームキャッチャーいいとおもう

    それこそ悪夢を見せる能力があるわけだし

  • 1341◆A8pWn3jbyg23/03/21(火) 02:24:49

    保守ありがとうございました!

    今日も少しだけ投稿させていただきます


    >>132

    ドリームキャッチャーおもろいですね! ストローマンズカードが出来るなら出来そう

    ワラワラの実の拡大解釈たまらんな……

  • 1351◆A8pWn3jbyg23/03/21(火) 02:41:52

    ローの腕がぴたりと止まる。けれどそれからすぐに動き出す。

    「なんなんだこいつ……マジで諸々活性化してる……」

    ……何が見えているのかわからないけれど、とりあえずクリスはパワー全開らしい。
    左胸を貫かれたときはどうかと思ったけれど、ローもいるし、クリス自身も活力が溢れているようだし、どうにでもなる気がする。

    マリーさんはすん、と鼻を鳴らしながら立ち上がる。そして次にミラの方へと振り向いた時には、顔が変形し、さらに一歩踏み出した瞬間身体つきも大きくなっている。
    戦うつもりなのだ、と思った。

    「……医者なら、レミのあれもどうにか出来るかい?」
    「不可能、とは言わない。けれどおれの知らねェ範疇の外にある力がずっとそこにある。呪いだかなんだか知らないが、扱いきれない隔たりだ」

    それをどうにかしなければ、決してあいつに届くことはない。
    ローに見えていて、それでいて理解したことは多分なんか曖昧なもので、それが神様の力に掛かっているのだと思う。
    あやふやで、概念的で、手に掴むことも出来ない、悪魔の実由来とは違う、正しく神の――人の理を超えたもの。
    いやどうするんだよ、と思う。だってこれ、本当にコクレア様じゃないと対処できないんじゃないのか!?

    ミラの手から今もなお無限に植物の虫がシャチとホーキンスに襲い掛かっている。
    ざわりざわりと森が揺らぐ。
    ――ペンギンとクオルの方にも虫が行っているということは、クオルの能力で森はもう押しとどめられない。
    いやマジで、どうすんだこれ。

  • 1361◆A8pWn3jbyg23/03/21(火) 03:00:10

    「お前たちが何をやろうとしているか知っているよ。“らせん”を復活させたいんだろう?」

    涼やかで、余裕そうな声が響く。それが癪に障る。
    最初から無理だとそう決めつけている声だ。そうやって、人を嘲る声だ。

    「無理だよ。例え復活しても“らせん”は過去おれに負けた。おれはあいつに勝ったんだ。かつておれがあいつに敗北し、いいようにやられた過去があっても、それがおれの忌々しい弱点になったとしても、おれは“らせん”を超えることが出来る」
    「……その割には怖がってお嬢のことを始末しようとしていたじゃないか」
    「不穏分子は排除するのが当然だろう? それに、単純にあいつの力が受け継がれているのが面白くなかったからね」

    今だミラと戦うシャチとホーキンス、その足元がわずかに持ち上がる。
    次の瞬間二人はその場から飛びのくが、それを追いかけるように地面が口を開き、中から幾重ものつるをもつ毒々しい花が湧いて出た。
    それは柱頭近くから紫色の液体を吐き出し、それが蒸発するように空気に溶けていく。拡散する。
    とたん、吐き気のようなものが湧き起こる。
    いや、これ、毒、

    「ッやめな!」

    けれど、それを一陣の風が通り抜ける。
    マリーさんが無我夢中で辺りを飛びまわり、毒の息を吹き飛ばしているのだ。
    コクレア様の力は毒を無効にするのか!?と驚いたけど、いや、もしかしたらその力もあのミラの力であるから、だから跳ね返すことができるのかもしれない。

    「―――ああ、やはり、忌々しいなァ」

  • 1371◆A8pWn3jbyg23/03/21(火) 03:14:31

    「あはは、アハハハハハ、本当に“らせん”、お前の力は忌々しいよ。なんでおれを燃やした。なんでおれを燃やした。なんでおれを燃やしたんだ、“らせん”。ああ、忌々しい、忌々しい、忌々しい、忌々しい、忌々しい」

    ……? なんだ、様子がおかしいぞ。
    おれは急に様子が変わったやつの姿を注視する。
    ――ラミロに対しての、こう、純粋な悪意とか、そういうのじゃなくて。わからないけれど、何かいろいろ感情が混ざり合っているような気がする、というか。
    その深淵をかき混ぜたようなどす黒い目がマリーさんを見つめる。
    あ、やばい、と思った瞬間、ミラの背後から数千は行くだろう大量の木のつるが、マリーさんに向けて飛びかかった。

    「ッ、逃げろ、マリーさん!」

    おれの声にすぐさま反応して、その身体能力による力技で一気に木のつるから逃げるマリーさん。
    マリーさんを囲んで、一斉に木のつるが襲い掛かる。
    それを見てクリスがすっ飛んでいこうとするのを、ローが強引に押しとどめているのが視界の端でわかる。がなる声が聞こえるけれど――でも、治療が終わっていない今いっても、それは。

    「っく、ああ、もう、うざったい、ねェ……!」

    いくらか身体に木のつるがぶつかりはするが、何とか捕らえられることもなく、絡み合う木と木の間を潜り抜け、強烈な蹴り上げによって破壊し、助け船を出すシャチが切り裂くことで難を逃れ、間一髪のところで回避し続ける。
    逆に木のつるを伝って走りだし、その勢いのまま幾本ものつるを切り倒していく。
    それでも、つるは次々と増えていく。
    際限ないという言葉が悪夢みたいに脳内で反響する。

    「っう゛、ァ……!」

    そしてとうとう木のつるがマリーさんの腹を横殴りにするように弾き、吹き飛ばす。

  • 1381◆A8pWn3jbyg23/03/21(火) 03:41:52

    「ッマリー!」

    とうとう我慢できなくなったクリスさんが、治療途中にも関わらずローを振り払ってマリーさんを助けに飛び出す。
    ローがイライラした顔をしているが、でも、仕方ないと思うぜ。
    ああいう時勝手に身体が動いちまうのは、おれもよくわかるし。
    クリスは吹き飛ぶマリーを受け止めている。自分より大分大きくなったであろうマリーさんを受け止めて、襲い来るつるを銃で正確に撃ち抜いていく。
    そしてさらにローが能力によって一気に切り払った。ああ、でも、次から次へと出てきやがるけど!!

    「ロー、クリスは大丈夫なのか?!」
    「内臓の処置は出来たが、縫合がまだ未熟だ。そのうちかっぴらくぞ」
    「わぁ! ああくそ、かっぴらかないうちにどうにかなんねェかなァ!」

    「貴様ァ!!!!!!! よくも私の可愛い娘をォ!!!!!!!!」

    「クリスのやつすげェぶち切れてすげェどすの効いた声をあげてる!!!!」
    「血圧だけで傷が開くぞ」

    おれが見ているだけでも、クリスから血が滴り落ちているのがわかる。処置が完璧ではない証拠だ。
    けれどそれを気にすることなんてなく、些末事だというかのようにその動きが精彩を欠くことなんてない。
    マリーさんが怒っているのもどこ吹く風だ。
    父親として、娘が傷つけられて黙っていられないのだろう。

    「本当に、本当になんなんだ、貴様は! 人を喰い、弄び、私の大切な人を悉く傷つけるッ……! それが自身が生きるために食べるならともかく、人を見下し嘲り悪戯に苦しめる! そんな神など廃れてしまえ!」
    「あははは! 人間様の言い分だなァ! 都合の悪いものは切って捨てる悪性種。お前らこそ悪戯に花を千切って捨てるくせに、随分とお綺麗なことを言うんだね? ――そんな神を信仰したのは、お前ら人間様じゃァないか!」

  • 1391◆A8pWn3jbyg23/03/21(火) 03:54:18

    「――にしても、ようやくそのなりふり構わなくなった顔が拝めたなァ! おれはサルヴァを食べた。ラミロも食べた。レミリオを弄んだ。マリーを痛めつけた。軍人様は殺すことしか出来ないよね、人を助けるなんてもってのほか。お前の手から滑り落ちるよ。所詮お前の手の中に残るのはそんなロザリオじゃなくて、拳銃だけだよ、血みどろ神父!」
    「ッ、この、悪鬼が……!」
    「アハハハ! お前はラミロの誘いになんて乗らずにいればまだ幸せだったのにねェ。でもお前は選択を間違えた。お前は間違えてばかりの人生だ。お前の人生は無価値だ。お前の手は血みどろだ。お前の生きている意味は何一つも成せ」

    ―――ぱちり、と。指を鳴らした。
    その瞬間ミラの声が途切れる。

    「……もう、黙れよ、お前」

    なんで呪いしか吐けないんだ。
    神様のくせに。



    「―――悪魔の実の、能力者か」

    流石神様、と言ったところか。
    ナギナギの実が、ガラスの割れるような衝撃と共にすぐに破られる。
    覇気に似た力が、重く空間を支配した。

    「おれは悪魔の実の力が嫌いなんだ。戦う力がない癖に、そんな能力を持っているのなら、殊更」

    敵意が、おれの方を向く。

  • 1401◆A8pWn3jbyg23/03/21(火) 04:13:52

    その敵意を受け、おれの前に立ったローが鬼哭を抜こうとする。
    けれど、次の瞬間。

    「トラファルガー。ムルフェニフソについて知っていることを話せ」

    ――唐突に、そんなことを言い出したのはホーキンスだった。

    「はァ? いきなり何を、」
    「あいつは知っていた。ならばお前も知っている情報があるんじゃないか?」
    「だからなんで今この状況で」
    「言え」
    「マジでなんなんだてめェは!」

    ローが強くツッコミをするが、まともに寄り合わない様子に、チッと舌打ちをしてから、仕方ないと手早く口を開く。

    「今でこそ数が少なくなったが、別に生育自体は難しくはない。栄養自体も左程量を要求しない。数が少なくなったのは、種が少なくなったためだ」
    「……………」
    「おい、これでなんの意味がある。シャチを放っておいてどうした」
    「あいつには了承を取っている」
    「は?」

    何かやり取りをしていたのだろうか。
    おれたちがぽかんとするなか、あくまで自分の調子を崩さずに、マイペースに。
    ホーキンスは、なんてことのないように言う。

    「コクレアの復活は待たない。――今から、神殺しを執り行う」

    ……は、はあ?!!

  • 1411◆A8pWn3jbyg23/03/21(火) 04:14:32

    というところで今日はここまでで。
    また保守のご協力をお願いします!
    やっとこさホーキンスのターン来た来た。キャラは満遍なく活躍させたい。

  • 142二次元好きの匿名さん23/03/21(火) 07:23:52

    ローがコラさんに「間違ってばかり」って話すシーン作中でも特に大好きなんだけど花がクリスに言う「間違ってばかり」から伝わってくるものちゃんと全く別物ですごい~~~になってる
    凪も凪キャンセルも神殺し執行宣言もテンションあがっちゃったな続きが楽しみすぎる……

  • 143二次元好きの匿名さん23/03/21(火) 14:15:03

    これダイスによる台座の捜索場所次第でルート分岐あったりしたのかなドキドキする
    そしてマリーさん達の巨大唯一感情浴びた後に見返すとミラのラミロへの感情(悪意)とかはやっぱりちょっと違うな…所詮花よ…とか思ってたらコクレア様に対するデカめの何かがチラ見えした気がした

  • 144二次元好きの匿名さん23/03/22(水) 00:53:18

    コラさんがナギナギでその先を黙らせたの痺れたけど敵意が向いちゃったから心配
    でもすぐに守りに間に入るローで思わずペンライト振りそうになった

  • 145二次元好きの匿名さん23/03/22(水) 00:53:53

    花本来は栄養さほど要らないのか…
    ますます神として本来の生態から逸脱してる感じと強欲さが出てる

  • 146二次元好きの匿名さん23/03/22(水) 00:54:27

    傷かっぴらきそうなクリスも心配だしクオルとペンギンの方も気がかりだしベポとコクレア様の方も気になるしホーキンスのターンは楽しみ

  • 147二次元好きの匿名さん23/03/22(水) 01:31:59

    このレスは削除されています

  • 1481◆A8pWn3jbyg23/03/22(水) 02:12:17

    感想ありがとうございました!
    今日も少しずつ書いていきます!!

  • 1491◆A8pWn3jbyg23/03/22(水) 02:29:06



    「考えろ」

    暗い部屋の片隅に座り込んで、ずっと、ずっと、おれは考え続けている。
    神父様は死んだ。神父様の記憶は周りから消した。やつの記憶も同等のこと。
    やることは終わった。なら、今からおれは何をすればいい。

    「考えろ、考えろ、考えろ」

    辺りに散らばる本。くしゃくしゃになった羊皮紙。インクが出なくなったペン。割れた花瓶。砕けた置物。潰れた果物。ちぎれた写真。
    蹲って、髪の毛を引っ張って、冷たい汗をだらだらと出して、吐き気がして、頭の奥がガンガンと痛んで、唇がひび割れて、手のひらから血が零れた。
    絶望するな。思考を止めるな。逃避するな。

    「考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ」

    お前に残されたものはなんだ。お前に出来ることはなんだ。神父様の死を無駄死ににさせる気か。
    ―――『どうか、幸せに、生きなさい』
    ああ、無理だ。無理だとも。無理です、神父様。幸せになるためには、前提条件が必要だ。レミリオがいる。クリスとマリーちゃんがいる。それはここにある。神父様がいる。これで崩れた。そしてあの花が在る――ああ、現在進行形でおれの幸せは崩れている!
    逃げてもだめだ、だめなのだ。あれがいる時点で駄目だ。頭を掻きむしる。あふれ出る憎悪を抑え込む。思考を制限させるな。考えろ、考えろ、考えろ、能力者でありながらの役立たず。神父様をみすみす殺したくせに! 止められもしなかった、くせに!
    どうすればいい、どうすればいい、どうすればいい! おれには倒せない、コクレア様の力も封じられた! やれるべきことがわからない、見つからない、こんな矮小な自分には、そんな、大それた、ことなんて、

  • 1501◆A8pWn3jbyg23/03/22(水) 02:48:23

    「考えろ、考えろ、考えろッ……! 考えろ考えろ考えろ! 何か、何かあるんだ、あるはずなんだ、ないといけないんだ……!」

    がつん!と柄に額を打ち付ける。それだけじゃ飽き足らずがん、がん!と何度も額をぶつけた。
    見れば床に赤い痕がついている。構わない。そんなのどうだっていい。なんでもいい。なんでもいい。おれに出来ることを考えないといけない。なのに、思いつかない。思いついてくれない。これほどまでに、考えても、考えても、考えても!


    「くるる」

    不意におれに、銀色のそれがまとわりつく。胴体を回ってくるりとおれの凶行を優しく止めるように現れたそれは、気づかわし気におれの顔を覗き込んでくる。――いつの間に、現れたんだろうか。暗闇の中、発光する身体はあまりにもか細い。

    「コクレア様、おれ、おれは」
    「くるる……」

    どうすればいいんですか、と愛おしい神様に問いかける。きっと、コクレア様だって、わからないだろうに。
    花の脅威は健在だ。今も勢力を伸ばし――やがて、この島を支配する。きっと近いうちにあの森を抜けだす。そうして、全てを捕食する。
    考える。思考する。予測する。想像する。何をしても最悪の様しか浮かばない。いっそ発狂してしまいたいのに、この胸の内に宿った使命感がそれを許してくれない。
    神父様、おれは、あなたの身を投じた献身を、いったいどうすれば守れるのだろうか。
    涙が零れる。役立たずの自分が嫌になる。神父様は毒を飲んだ。じゃあおれは? 今更毒を飲んだとて、最早あいつに通用するはずがない。なら、なら、なら! なら、おれは、何をすれば?

    せめて、せめて、時間稼ぎが、出来れば……!


    「――――――――――、あ」

    その時、唐突に、ふと、思い浮かんだ。思いついて、しまった。
    馬鹿みたいな……馬鹿みたいな、愚かしい時間稼ぎ。

    何にも冴えない、本当に馬鹿みたいに泥臭い、そんな方法を。

  • 1511◆A8pWn3jbyg23/03/22(水) 03:30:25

    「おいお前、神殺しって……」

    ホーキンスの言っていることはどうにも現実味のない話だ。
    神殺しとかって、こう、童話とか昔ばなしとかで出てくるような単語だ。
    それを今、確かに神の脅威を感じている今、堂々と言ってのける――、おま、お前、なんかかっこいいな!?

    「昔から化け物退治とは、正体を見破ることから始まると相場が決まっている」
    「決まってるのか?」
    「海ソラにも似たような話があった。化け物の正体はジェルマの科学で作られた機械で、水を浴びせることでショートさせた」
    「……!」
    「あ、ホーちゃん海の戦士ソラ見てたんだ。ローも好きだったよな~」

    小さい頃のローのことを思い出す。旅の時海ソラ見れないことに文句言われたことあったっけ。
    確かローの部屋に本が揃ってたし。意外な共通点ってやつか?

    「……『幽霊の正体見たり、枯れ尾花』だ。やつが神であることが、何故なのか紐解く。秘匿性と神秘性というのが信仰の理由なら、それを台無しにさせる」
    「それって、効くのか?」
    「信仰が力になるのなら、逆を言えばその信仰を打ち崩せばいいだけのこと。何、証人ならいるだろう」
    「どこに」

    「この森すべて」

    ―――――――。
    風が吹く。ざわめく。……鳥肌のようなものが身体を駆け巡った。
    信仰って、それって。
    この森の全て――この森の意志みたいなものが、存在するとして。
    それが、やつに力を?

  • 1521◆A8pWn3jbyg23/03/22(水) 03:32:03

    というところで今日はここまでです
    また保守のご協力をお願いします!
    ホーちゃんにはこっちのオカルト方面で力になってくれたらいいなという妄想
    スレ主はホーちゃんの1%を常に願ってます

  • 153二次元好きの匿名さん23/03/22(水) 08:06:23

    証人ならいるだろう、どこに?ってやり取りがホラーでぞわっとした…
    そんな急に夕食の席に一人分食器が多いみたいな雰囲気出さないでくださいよ…怖いけどどうなるのか続き楽しみ…

  • 154二次元好きの匿名さん23/03/22(水) 19:34:09

    アホなのでラミくんが何を思いついたか全然予想がつかないんだけど予想がつかないと楽しみを先にとっておけるのでお得(ポジティブ)

  • 1551◆A8pWn3jbyg23/03/22(水) 23:51:58

    感想ありがとうございます!
    今日も続きを書いていきます!
    ホーちゃんには多分寺生まれのTさんみたいなポジションでいてもらっている気がする
    北の海生まれのHさん……

  • 1561◆A8pWn3jbyg23/03/23(木) 00:25:25

    「神が信仰心を得て力を蓄えていたとするならば、ラミロによって島民の記憶が書き換えられ、やつの信仰すべてが消え去った現状で何がやつを信仰するとしたらそれ以外ないだろう」
    「え、えと、でも……植物だぜ?」
    「おかしなことを言うな。やつも元は単なる“花”だ」

    そうだけど! 確かに言っていることは間違ってないのかもしれないけど、でもすぐさま納得とか出来ない。
    けれどそんなおれに、ホーキンスは平坦な目を向ける。

    「ありえない? そもそもただの花が神になるなどそれこそ納得のいかない話だ。お前もやつの術中にはまっていると何故わからない。――この時点ですでに、お前もあいつが神だと納得している。確信している。信じ込まされている。疑っていない」
    「え、」
    「やつは人に悪趣味な悪夢を見せることができる――なれば、奴の方はとうに人間の弱味を知っているのだ。人間に対しての理解はなくとも、人間を甚振るうえでの愉しみ方を知り尽くしている。人間の心は知らずとも、その心の傷つけ方を知っている」
    「神というよりも悪魔だ。そして悪魔は、神になどなれない」

    ――やつは、決して神ではない。
    ごくん、と唾を飲み込んだ。
    えっ、と。うん、それは、……ホーキンスの言う通りだ。
    確かにおれは神様だって認めたくないって、ミラに対して思っていて――でも、逆にそれは、神様だって認めている前提での話、なんだよな。
    隣でローが盛大に舌打ちをしている。恐らく、ローも同じだったのだろう。

  • 1571◆A8pWn3jbyg23/03/23(木) 00:52:27

    「『幽霊の正体見たり、枯れ尾花』――幽霊だと恐怖していたものが、ただの枯れたススキでしかなかった。正体不明の恐ろしいあやふやなものは、たったそれだけで定義づけされる。神というものが、信仰されたという曖昧な概念でしかないのなら、それを証明しよう」

    「神殺しとは証明だ。神を神でなくするための」

    「断言しよう。ムルフェニフソ。お前はただの花だ。ただ、“運がよかっただけの”ただの代わり映えのない、一輪の花だ」

    堂々と、宣言のように示された宣告。
    告げられた言葉は、あまりにも――あまりにも、やつに喧嘩をこれでもかってくらい大盤振る舞いで売っているのと同じで、だから逆にむしろすげェと思ったって言うか感心したっていうか。

    「……とんでもねェ挑発だな」

    ローが呆れながらも、口元に笑みを浮かべた瞬間。
    四方八方至る所から、ホーキンスに向けてミラによる攻撃が放たれた。

    木のつる、茨の檻、様々な昆虫を模した植物、散弾銃のように撃たれる種、鋭く飛びかかる葉の刃、毒液。
    どれもこれも殺意しか乗っていないような凶悪な攻撃。
    それを黙視したローは三本の指をくるりと回転させた。

    「“シャンブルズ”」

    ――その瞬間、おれたちは空中に移動している!

    「……お前の証明に乗ってやるよ、バジル・ホーキンス。その代わりしくじるんじゃねェぞ」
    「当たり前だ」

  • 1581◆A8pWn3jbyg23/03/23(木) 01:15:31

    「まずそもそも花が何故神になったか。何故人が花を信仰したか? それはやつが麻薬の原料となる花だったからか? いいや、それだけでは足りない」

    次々と殺到する攻撃を受け流しながら、ホーキンスは語るのをやめない。

    「この島の歴史の話をしよう。この島では飢饉が起こった。そこで人死にが多発したな」
    「もしかしてだから麻薬に縋ったとか……?」
    「厳密には違うと考える。まず、豊穣神がそこで称えられていたという事実――信仰されるほどの事態となるならば、その飢饉を救った、というのが一番可能性が高いだろう」

    そう言いながらちらりとローを見る。

    「予想はしていたが、トラファルガーの知識で裏付けはとれた。恐らく、大型の鳥の糞か何か――ともかく、この痩せた大地に外部からの影響によって、大地が肥えた。その結果、まず他の植物が実るより先に咲いたのが、ムルフェニフソだった」

    想像する。痩せた土地に、力強く咲いた花。
    それはこれからの実りを予測する第一歩、だったのだろう。

    「無論これから先食物が実り始めるなんて知らない島民は、どうしたか――その花を食べた。麻薬成分のある花を、咲いたものを手当たり次第に」
    「あ………」
    「結果、麻薬独特の幸福感に酩酊し、理性があやふやになる。花が無ければどうしようもなくなる。花を食べて、食べて、食べて――そうしていたら、やがて木々は茂り、他の花も咲きだし、果物が実り始める」

    「―――豊穣神の完成だ。麻薬の幸福に脳を侵されたものたちは、だからこそお前を信仰した!」

  • 1591◆A8pWn3jbyg23/03/23(木) 01:17:20



    昔々、小さな花がありました
    美しい花でした
    人々は花を崇めました
    だから花は思いました
    ああ、なるほど
    自分は拝まれ、傅かれ、敬われる存在なのだと

    ならば、神になるのもさもありなん
    そこに疑いはなく
    神は全てを捧げられるべきであり
    神は全てにおいて優先されるべきであり
    崇拝されるのは、当然のことなのです

    故にあなたも身を捧げよ
    目の前にあるのは神なるぞ
    さもなくばお前にも悪夢を見せてやろう
    絶望の味はひたすら花の蜜の如く

  • 1601◆A8pWn3jbyg23/03/23(木) 01:17:59







    ――――そう、お前たちが、

    望んだのでしょう―――――――?





  • 1611◆A8pWn3jbyg23/03/23(木) 01:18:19

    というところで今日はここまでで
    また保守のご協力をお願いします!

  • 162二次元好きの匿名さん23/03/23(木) 10:35:59

    まず勘違いで信仰があって花自身も自分を神だと思うようになってその後「本物」の神様のコクレア様がこの島に来たのかな
    北生まれのHさんがすごい精密に花の地雷真ん中踏みに行った感じがしてファンになってしまう…

  • 163二次元好きの匿名さん23/03/23(木) 20:24:49

    ホーキンス「概念バトルで勝負だ」
    オカルト方面に詳しいからこそこういう一手も打てるのかぁ

  • 164二次元好きの匿名さん23/03/24(金) 00:33:51

    繁るのにたいして栄養も必要ないから痩せた大地で真っ先に花が咲いたんだなぁ…
    最初の力関係としてはある意味人間が花に縋って搾取していたっていうのも、その後大地が豊かになった事が花の功績でも何でもないのも、別方向に皮肉を感じてじっとりしてて好きだな…

  • 1651◆A8pWn3jbyg23/03/24(金) 01:10:45

    感想ありがとうございます!

    また続きを書かせていただきます


    >>164

    言葉足りないかなあと思っていたので、ちゃんと読み取ってくれてとても助かる……

  • 1661◆A8pWn3jbyg23/03/24(金) 01:11:50




    「なあお前、道間違えてるんだって。こっちじゃなくてあっち!」
    「!?」
    「!? ……じゃないんだよ! 方向音痴か!?」


  • 1671◆A8pWn3jbyg23/03/24(金) 01:34:30

    ホーキンスが高らかに謳いあげたことは、恐らく証拠とか、真実だと確証たるもの、そういうのは何もないんだと思う。
    可能性を組み上げて、過去何が起こったかを想像して、けれどそれが矛盾なくやつの正体として成立するように完成させた。
    多分――ずっと、考えていたんだ。この島で何が起こったか、豊穣神ってなんなのか、あの花はいったいどういうものなのか、そして、それで神殺しを行うことを。
    マイペースでデリカシーとかあまりなくて割と自由気ままな猫みたいなところがあったけれど、今も大分ゴキゲンなサングラスつけてたりするけれど、それでもとんでもなくかっこいいぜ、とおれは心の底から思う。
    ……まあ、海賊行為していのは褒められたもんじゃねェけどな!

    「……驚いた。森が騒めいた。まさかそんな、言葉だけでこんな影響を齎すことが出来るなんて」

    温度のない声が響く。
    地面に立っているミラが、おれたちの方を下からじっと見上げている。
    金色の目が、おれたちを睨む。

    「何が神殺しだ? ……ふざけるなよ、神が矮小な人間に敵うわけないだろう。たった一輪の花に縋り、命すら捧げるような種族が、――単なる食物が、」

    「おれを、見下ろすな」


    瞬間、今までのものとは比べ物にならない速度の木のつるが、――ホーキンスの横腹を掠る!

    「ッぐ、」

    ――確かに、おれの視界では、ホーキンスは避ける動作を行おうとしていた。
    していたけれど、それでも間に合わなかった。
    それ以上の速度でホーキンスを狙ったのだ。

  • 1681◆A8pWn3jbyg23/03/24(金) 01:53:09

    「なっ、あっ、」
    「黙れコラさん、飛ばすぞ」

    ローがおれと、そしてホーキンスを引っ掴んでその場から移動する。
    地面へと着地した瞬間、地面を蹴ってミラに向かう。
    大量にローに向けられた木のつるは、鬼哭を抜くことによって一気にバラバラになる。――だがしかし、そのバラバラになった木が、一気にローに向かって、散弾銃のように飛び出す。

    「――“ROOM”、“シャンブルズ”!」

    けれど、それらはローの作り上げた青いドームの中でシャッフルされ、一つが一つとぶつかり合い、すべて相打ちとなる。
    おれはその間ホーキンスに駆け寄った。
    横腹を押さえているホーキンスに簡易的な止血をする。……おれだってこのくらい出来るんだぞ!

    「大丈夫かホーキンス! ていうか絶対あいつ怒ってるって、お前に敵意バチバチだったし!」
    「……ライフのストックを増やしておくべきだったか。あいつらの藁人形を使ってもいいが、今の状況ではな」
    「ライフ? ストック?」
    「――――、一つ取っておいてあるが、流石にどうなるかわからないから、使いべきではないだろう」
    「おれにわかる言葉使ってくれねえ?」

    なんか一人で考えて一人で納得した! 多分おれの発言何一つも聞いちゃいないだろう。
    こういうのシャチがいたら絶対に怒ってるって。
    ……ってあれ、シャチは?

  • 1691◆A8pWn3jbyg23/03/24(金) 02:23:46

    今日は少ないですがここまでとさせていただきます
    また保守のご協力をお願いします!!

  • 170二次元好きの匿名さん23/03/24(金) 10:46:43

    ゴーイングマイウェイホーキンスに理解が追いついてないコラさん好き
    ちなみに自分も追いつけてない

  • 171二次元好きの匿名さん23/03/24(金) 21:08:45

    ベポもしかしてコクレア様と一緒にいる?

  • 1721◆A8pWn3jbyg23/03/25(土) 03:22:22

    今日は投稿できなさそうです!
    また保守のご協力をお願いします!!

  • 173二次元好きの匿名さん23/03/25(土) 08:48:48

    アイアイ> >1!任せてよ!

  • 1741◆A8pWn3jbyg23/03/25(土) 19:13:49

    保守ありがとうございました!
    また続きをのんびり書いていきます。

  • 1751◆A8pWn3jbyg23/03/25(土) 19:32:43

    「ホーキンス、これで証明ってのは終わりなのか?」
    「正体はただの花、これに間違いはない。けれどやつは神としてこれまで実績として表し続けた。――言葉をやつに通すには、もっとあいつを根本的に揺さぶらなくてはいけないが、」

    でも好都合だ、とホーキンスは告げる。

    「やつは機械然とした思考を持っているわけじゃない。判断や倫理観そのものこそ人外のそれであるが……、腹が立ったら普通に怒りを見せるし、屈辱だと感じたら攻撃性を見せる。感情の動き方は人間と同じなんだ」
    「つまり?」
    「滅茶苦茶怒らせればボロが出るからそこを突く」
    「すげェわかりやすいな……」

    でもそれって危なくないだろうか、と思いながら、おれはさっき気付いたことを問いかける。

    「あのさ、気付いたらシャチがいなくなってたんだけど」
    「あいつには祭壇を破壊しに行ってもらっている」
    「祭壇を……?」
    「あれがやつの神として君臨する原点だ。それに、――低い、可能性だが」
    「?」
    「ワンチャンあると思ってな」
    「ホーちゃんもワンチャンとかいうんだ……」

  • 176二次元好きの匿名さん23/03/25(土) 20:08:17

    このレスは削除されています

  • 1771◆A8pWn3jbyg23/03/25(土) 22:06:12

    何がワンチャンあるんだ?と聞きたかったけれど、それより前に、おれたちを囲むように森の中から一斉に昆虫を模した植物が出てきて話を止めることになった。
    大小さまざまな虫たちがおれたちに飛びかかる――が、それはおれたちの前に飛び降りたクリスによって、一斉に撃ち抜かれる。
    そして大きな津波のように、マリーさんがドラゴンの姿で虫たちにタックルする要領で複数体をすっ飛ばしていった。

    「なんか……なんか攻撃が激化してますね!? 凌げるかなァこれ!」
    「弱気なこと言ってるんじゃないよ!」
    「マリーちゃん戦ったことないからほぼ勢いだけの突貫攻撃でしょう! パパ心配!」
    「知らないよ、ぶっ倒せればいい!」

    あ、なんかいつも通りのペースの二人だ、とちょっとほっとする。
    あれだけラミロを模した姿であるミラから心を切り裂くような悪意塗れの言葉を吐かれていたんだ、すげェ心配だったんだけど……どうやら自分の常を思い出したらしい。

    「ええと、ホーキンスさん。何かやろうとしているなら、私たちがカバーします。多分、それが今一番すべきことだと思うので」
    「そうか、わかった」
    「前から思ってたけど表情ぴくりともしないから会話しづらい……」
    「思ってても言うもんじゃないよ!」

    クリスがホーキンスに宣言した通り、こちらに向かってくる敵は二人が対処している。
    そして大量の木のつるや種の弾丸は、ローがすべて防いでいる。
    こちらに被害が来ることはなく――だからなのか、ホーキンス自体は構えないままにミラに向き直った。
    ――ミラは、相変わらずそこにいる。ラミロの姿のままで。
    じとりと、深淵みたいな目がおれたちを見た。

  • 1781◆A8pWn3jbyg23/03/26(日) 04:04:42

    「勝手に祈って、勝手に縋って、勝手に救われて、それで今度はおれにどうしてほしいの、人間」
    「おれたちはお前に何も望まない。――あえて言うのならば、消えてほしい、その一点のみだ」
    「いいね、シンプルで」

    ミラの地面が浮き上がる。そこには新たに生えてきた新芽。小さな葉を足場にして、どんどんミラの身体は高く昇っていく。
    ぱちん、と指を鳴らす。
    その瞬間、一斉に足元に草が生い茂る。そしてその茂った草が、おれたちの身体に巻き付いた。

    「んなっ」

    伸びた草は身体中に巻き付き、やがて自然と首に巻かれ締め付けてくる。
    必死に首元に巻かれた草を取り除こうとするが、首をひっかくばかりでどうにもならない。
    ――だが、数秒置いておれの身体は宙に投げ出される。ローが位置を入れ替えたのだ。
    そんなおれの首根っこを引っ掴んで、ホーキンスは飛びのく。

    「ムルフェルニソ、お前の信仰は順風満帆であった。コクレアという神が訪れてくるまで」
    「………」
    「コクレアに身体の大半を燃やされ、力を失い、――恐らく、コクレアも同等の負傷を負い、眠りについたのかなんなのか。ともかく、お前は力を無くして以降、着々と自身の力を取り戻すために暗躍していた。
     それが生贄というやり取りもあるのだろう。生贄は人が救われたいと願った形。目の前にある飢饉や災害などのわかりやすい不幸から逃れるための、命を捧げる信仰行為。それでどうにかなるかはともかく、そんな祈りの形がないと生きていけないものがいて、そしてその祈りは、神であるお前によく効いた。
     そして島に信仰するものが増えてきたとき、コクレアも目を覚ました。そしてひっそりと生き残っていた信仰者たちの力を借りて、自身の力を取り戻してきた」

    結果、お前を止めるために、サルヴァという神父も毒を飲んだ。
    それは、マリーさんの記憶で確かなことだ。

  • 1791◆A8pWn3jbyg23/03/26(日) 04:27:16

    「おれは、サルヴァがお前に喰われたこと前提で話す。――そしてラミロも同様に、お前に喰われに行った。日記でこれは明言されている。ここで気になるのは、何故同じ方法を行ったかだ」

    花粉のようにばらまかれる毒の粉を、マリーさんが勢いよく跳ぶことで弾き飛ばす。
    めりめりと地面から急成長した花が口を開いて、よだれを垂らしながらクリスに突っ込むけれど、その口内めがけてどこから取り出したのか、クリスがバズーカを取り出しぶち込む。

    「ラミロは、サルヴァと同じように不浄を腹の中にため込んだ。サルヴァが食べられた前提で話すとするならば、花の捕食は、食べられる本人の胃の中までを確認する術がない。お前は不浄を喰らったことで、多少のダメージを得た。別に大したことがなくても構わない。“ダメージを負わせる”こと自体が大事なんだ。
     ――ならラミロは? 果たしてサルヴァと全く同じ方法で喰われに行ったのか?」

    「いいや、いくら戦いについて知らなくても、まったく同じものを馬鹿正直に繰り返すわけがない。それに花だって弱点をそのままにしていないだろう。狡猾なお前が」

    ホーキンスの真横から、その顔に噛みつこうとする植物が現れる。
    ……が、ホーキンスは手のひらサイズの釘を使い、上から突き付けるためにその昆虫の頭を地面に縫い付ける

    「じゃあどうしたらいいか」

    「――都合のいいお前の弱点が、そこにいた」

    おれに向かって飛んできた木の破片も、ホーキンスが腕を藁化して一気に弾いてしまう。
    そうしながら、ホーキンスは高い位置にあるラミロの顔を見上げた。
    それはどこか、確信のようなものを持っている表情だった。

    「お前は食べた。腹の中に隠した。それを持った状態で、お前に喰われることを決めた。それはいったいなんだ? 毒か? 不浄か? いいや、違う」


    「―――ラミロは、コクレアを食べたのだ」

  • 1801◆A8pWn3jbyg23/03/26(日) 04:27:51

    というところで今日はここまで!
    明日は新しいスレ立てるかな……?
    また保守のご協力をお願いします!

  • 181二次元好きの匿名さん23/03/26(日) 10:02:49

    食べたの!?あの可愛いコクレア様を……!?
    敬愛する神様であると同時に人懐っこくてちょっとおバカな小動物みもあるからラミくんにとっては毒を飲むよりもしんどい行為に該当してそう…

  • 1821◆A8pWn3jbyg23/03/26(日) 16:27:07

    感想ありがとうございました!
    今日も少しずつ書いていきます!!

  • 1831◆A8pWn3jbyg23/03/26(日) 16:34:54



    「痛くしてごめんなさい」
    「くるる」

    少し欠けたコクレア様の身体。きっと、コクレア様が神様だから、許してもらわなければできなかった。
    最初は拒否された。それは自分が食べられることにではなく、おれの身を案じて。
    力が封印されたとしても――それでも、コクレア様は神様で、だからおれがコクレア様の肉を、血を食べたら、ただで済むわけがない。
    神父様と同じように死ぬ。まるで毒を飲むように――あまりにも、人間には過ぎたものだ。

    けれど、おれが思いつき時間稼ぎの方法はこれしかなくて。
    コクレア様に、頼み込んだ。縋った。懇願した。乞い願った。おれのことを好いてくれてはいるけれど、この島だって、コクレア様が愛してくれていたことを、おれは知っているから。
    だから、少しずるい方法かもしれないけれど。

    肉を食べた瞬間、身体に酷い拒絶感が出た。内臓すべてがコクレア様の肉を拒否して、吐き気がこみあげてきたけれど、そんな嘔吐物が口から溢れる前に飲み込んだ。その代わり胃液の味がするよだれが口から零れ落ちたけれど。
    吐き出すことなんて許されない。コクレア様に痛い思いをさせたのに。
    胃が激しく揺れ動く。吐き出せ吐き出せと警告音が鳴る。それで意地と根性で飲み下した。手の中に溜まった赤い血も、口の周りを赤く染めながら、それでも飲み込んだ。
    ――次に来るのは酷い痛みだった。
    まるで全身が刃物で突き刺されたかのような痛みがする。身体中の骨がバラバラに砕けたような、発狂するかのような痛み。
    悲鳴を上げておれは倒れ込んで、その痛みに意識を失うのと覚醒するのを一日中繰り返した。
    痛みをこらえるために地面をひっかいて、指先の爪を剥がした。痛みを喰いしばるために歯を強く噛んで、奥歯が割れた。
    けれど、そんなおれに――仮にもその身を食べたおれに、コクレア様は寄り添ってくれた。ずっと、おれを心配するように。

  • 1841◆A8pWn3jbyg23/03/26(日) 16:55:42

    しばらくして、ようやく痛みに慣れたのか。酷い気持ち悪さと、激痛は変わらずとも、それでもなんとか我慢できるくらいには、慣れた。回復なんてこれっぽっちもしなかったけれど。
    コクレア様は、やっぱりおれのことを心配そうに見ていて。
    あまりにも、優しかったわけだから。
    ……泣きそうな気持ちのまま、笑った。

    何にも冴えない、本当に馬鹿みたいに泥臭い、そんな方法だ。
    神父であるサルヴァが行った方法の二番煎じ。
    ――むしろ、コクレア様の肉を使っている時点で、あまりに醜悪だろうけれど。

    「おれは行きます、コクレア様」
    「………」
    「あ、ちょっと服の裾噛むのやめてくれませんか、首が締まる締まる」

    本当に優しいこの神様は、こんなに追い詰められた状態でもやっぱりおれのことを心配してくれる。
    もしおれが辞めたいって言ったら、この身体の状態もどうにかしてくれるのだろう。
    絶えず気持ち悪さと激痛が走る身体から逃げたいという気持ちはある。あるけれど。
    それでも、これはおれがやるべきことだから。

    「おれは、何百年と続いた呪いを解きたいんです。でもそのためには時間も力も何もない。きっと、いつか来る誰かを待つしかない。神を名乗るものを相手にするような――そんな不遜な輩とか」
    「くるる」
    「でも、多分、もっと純粋な……勇敢で、素直で、愛があって、善い子どもを見つけるべきでしょうね」
    「?」
    「なぜって、そうでしょう――子どもはみんな、ドラゴンが好きなんですよ」

    だからきっとあなたを好きになってくれるはず。
    そんなことを、いたずら気に笑った。

  • 1851◆A8pWn3jbyg23/03/26(日) 17:20:54
  • 1861◆A8pWn3jbyg23/03/26(日) 21:08:08

    【小ネタ】
    当たり前ですがクリスはローよりも弱いです
    けれども殺した人数はローを軽く超えます……言うてローは人を殺すようなことあまりなさそうですけど
    兵士である分敵も侵略地の人間もとにかく始末し続けていたので、不浄ポイントダントツで高いです

  • 187二次元好きの匿名さん23/03/27(月) 00:33:34

    子どもはみんなドラゴンが好き、そうだな!って説得力とカタルシスで胸がぎゅっとなる~~愛情や祝福がつまったセリフだなぁ
    野暮かもだけどマリーからクリスへの感情について何かあれば聞きたく…!
    前作のクオルがクオルちゃんだったらのif解説と勝手に重ねて読んでしまったんですがそういうの(初恋概念)混じってましたか?乙女の勘は絶対あったって言ってるけどいやそういうのは全然なかったよの可能性も感じる…

  • 188二次元好きの匿名さん23/03/27(月) 02:27:24

    前作のを含めて誕生日とか決まってたら知りたい

  • 189二次元好きの匿名さん23/03/27(月) 13:11:53

    証人がこの森すべてってところすごい、ぞわっとした
    その土壌で自分の力で成長しただけなのに一番乗りしただけで花の眷属扱いされたの森にとっても不満だったのかな

  • 190二次元好きの匿名さん23/03/27(月) 21:13:20

    クリス精神攻撃受けての重症負ってのマリーからの言葉にパパ精神復活して超元気になるの浮き沈み激しくて笑った
    個人的にサラダ化したらどうなるのか知りたい
    余裕があれば前作の3人含めて、さらに余裕があったらフラムちゃんとデコくんも

  • 1911◆A8pWn3jbyg23/03/28(火) 02:55:02

    >>187

    マリーちゃんからクリスに関しての感情諸々はまた描写すると思うのでお待ちを!

    的外れではないかもしれないようなこともあるかもしれない可能性もなきにしもあらず的な諸々

    にしてもクオルのクオルちゃん概念覚えててくれて嬉しい どこだったっけ


    >>188

    オリキャラの誕生日ぱっと考えた

    アフロミンゴ 1月26日(アフロの日)

    コザー 5月3日(語呂合わせ)

    クオル 9月6日(クオル=906で語呂合わせしようと思ったら96=黒と難儀な誕生日)

    フラムちゃん 4月25日(ペンギンの日)(でもよく考えたらキャラの方のペンギンと同じなので、ハナちゃんから8月7日でもいいかもしれない)

    デコくん 10月5日(語呂合わせ)


    クリス 9月25日(国際平和デー)

    マリー 3月5日(シスター=巫女=35)

    ラミロ 3月6日(語呂合わせ)

    レミリオ 3月6日(双子なので兄と同じ)

  • 1921◆A8pWn3jbyg23/03/28(火) 03:03:31

    >>189

    どちらかというと、森そのものからも信仰を得ていたりするかも


    >>190

    多いので適当に サラダ化なので本編とはほぼ別人という認識です


    アフロミンゴ みためそのままで体つきが女性的になるのでは

    クオル ダウナー系でややロりみあると思う

    コザー パンツスーツでロングのくたびれた美女枠。多分妙にファンがいる

    フラムちゃん アイドル系高飛車美少年

    デコくん パン屋の娘さんみたいになったらいいな


    クリス ギャンブル好きでポンコツろくでなしの息子溺愛のエロゲにいそうな美女。

    マリー 絶対とんでもない男前になってる サラダロビンみたいにガタイがいい

    ラミロ 20代ぐらいの姿で止まっている。ショートカットのシスター。

    レミリオ 30代くらいの幸薄そうなロングの髪で顔に傷持ってるお姉さん。タートルネックを着てそう。


    こんなもんかなァ!

    別に今適当にばばっと書いたので、実のところ好きに想像して大丈夫です

  • 193二次元好きの匿名さん23/03/28(火) 10:37:44

    マリーちゃんの感情くるのとっても楽しみだしサラダクリスの説明は笑ってしまった シャチの呻き声の時も思ったけど何てこと言うんだ!
    クオルちゃん概念は前作の18スレ目にあったよ

  • 194二次元好きの匿名さん23/03/28(火) 18:25:32

    昨日からぶっ続けで前作から読み進めてて、今死にそう(すき)(身悶えしてる)

    スレ主にたくさんの愛と尊敬とエールを!
    ちな私は箱推し、登場人物みんな濃ゆくてみんな大好き!

    小ネタ質問はいいの思いつかなかったから、ラミくんレミくんの好物で。近日の夕飯にする

  • 195二次元好きの匿名さん23/03/28(火) 18:55:53

    ラミレミマリーお誕生日近いのなんか可愛いな…一度くらいクリスとサルヴァも含めた5人皆で祝い飯するチャンスとかあったかな…
    あと語呂合わせのはずなのに黒卑病に寄っちゃうクオルやっぱりそういう星の元に…いやこれはきっとクロネコチャン要素だ

  • 196二次元好きの匿名さん23/03/28(火) 23:56:22

    森の植物はなんで信仰してるんだろう……生贄が養分になってその恩恵を受けてるからとかかな?

  • 197二次元好きの匿名さん23/03/29(水) 00:20:03

    今更だけどこれまで出てきた「大丈夫」とか「幸せになりなさい」って言われてる回想ってラミロの?

  • 1981◆A8pWn3jbyg23/03/29(水) 02:41:37

    >>193

    クオルちゃん概念のスレ教えてくれてありがとうございます どこに何書いたか忘れるんだよな


    >>194

    長いのに全部読んでくれてありがとうございます!

    ラミレミの好物はなんだろう、ぱっと思いついたのは、ラミロはたまごサンドでレミは豆腐ハンバーグとかうどんかな

    夕飯に出来るだろうか?


    >>195

    サルヴァの誕生日考えるの忘れてた

    11月1日(諸聖人の日)にします。それっぽかったので

    きっとレミラミマリーのお誕生日には盛大にお祝いしたことでしょう

    サルヴァ神父はみんな丸ごとひっくるめて大好きだったので、クリスと共謀して教会中に派手な飾りつけをして怒られるまで1セットです


    >>196

    お花くんとても強いのでね……


    >>197

    レミの回想に見せかけたラミロの回想ってやつですね

  • 199二次元好きの匿名さん23/03/29(水) 13:30:52

    時系列は大火災で花の力が削がれる→生贄の儀式が始まる→コクレア様が阻止したけど花の脅しで膠着状態に、かな?
    それとも儀式は信仰が始まった頃からあった?

  • 200二次元好きの匿名さん23/03/29(水) 16:41:35

    200ならハッピーエンド

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