そんな……トレーナーさんが浮気だなんて……！

1二次元好きの匿名さん23/03/10(金) 18:17:35

さて、確か今日の16時から北海道物産展の特集番組が放送されるんですよね。
苫小牧も出店していたはずですから、録画して後で見ましょうか。

おや？トレーナーさんから連絡が……。「ごめん！道が混んでいて出先から帰れそうにないんだ。トレーニングには少し遅れるかもしれない」ですか。
もう、トレーナーさんったら。

しかし、遅刻は感心しませんがちょうど良かったです。
トレーナー室にはテレビもあることですし、トレーニングが始まる前に見てしまいましょう。

『さあ私は今、このデパートで開催されている北海道物産展に来ています！いや〜すごい人だかりです！おっと、そこのスーツの男性に話を伺ってみましょう！』

『……え？僕ですか？』

なっ……あの人はトレーナーさんじゃないですか！
どうして会場にいるんですか！？

『そう、あなたです。まずはこの会場で一番美味しかったものを教えてください！』

……ふふん、少し驚きましたがそんなの決まっているじゃないですか。
さあトレーナーさん、全国の視聴者さん達に言っちゃってください。
そう、ホッキが

『いや〜この函館ラーメンですかね。最高でしたよ！』

…………えっ。

2二次元好きの匿名さん23/03/10(金) 18:19:32

風の次はふるさとナリタトップロードか？

3二次元好きの匿名さん23/03/10(金) 18:19:50

もしかして苫小牧以外にふるさと納税しても言われるんです？

4二次元好きの匿名さん23/03/10(金) 18:20:02

『おお、函館ラーメンですか！』

『そうです。透明感のある塩風味のスープとストレート細麺の相性がバッチリですね！毎日でも食べたくなっちゃいますよ』

『これは高評価！函館の皆さんには嬉しい声ですね！』

……トレーナーさん、なんですかこれは！
一緒に苫小牧を応援するって約束してくれたじゃないですか！
全く、信じられません！

『さて、一番美味しかったものには函館ラーメンに軍配が上がりましたが、北海道といえばデザートも豊富です！デザート部門の一番も聞いてみましょう！』

……今度こそ分かってますね、トレーナーさん。
あなたなら何と答えるべきか理解してくれているはずです。
そう、ハスカッ

『う〜ん、夕張メロンですかね。濃厚な甘さで口が蕩けちゃいそうですよ』

『夕張メロンですか！オレンジの果肉が特徴のとても甘いメロンですね。』

『はい、甘さなら今まで食べた中で一番のメロンでしたよ。お土産にいくつか買っていこうと思います』

なんですかこれは。
なにかのまちがいですか。

5二次元好きの匿名さん23/03/10(金) 18:21:14

『さて、現在会場ではゆるキャラ人気投票も行っています。今回の物産展に参加してくれた地域のゆるキャラたちがしのぎを削る、仁義無用のバトルです！せっかくなので、誰に投票したのかも聞いちゃいましょう！』

……とまチョップ。

『いや〜迷ったんですが、シスト男爵にしましたよ。あのキモチワルさは唯一無二の個性ですね』

『おお、これは大穴！まさかのシスト男爵です！シスト男爵はアンモナイトをモチーフとしたゆるキャラで、その姿を見た人からは「怖い」「気持ち悪い」などとてもゆるキャラとは思えない感想が出てくる、大変ユニークなキャラです！せっかくなので男爵ご本人にも感想を聞いてみましょう。』

『…………(ｳﾈｳﾈ)』

『はい、ありがとうございます！よく分かりませんが、とても喜んでおられるようです！』

…………

6二次元好きの匿名さん23/03/10(金) 18:21:47

お、おう

7二次元好きの匿名さん23/03/10(金) 18:22:10

気がつくと、スカートにポタリポタリと何かが滴り落ちていきます。
それは私の涙でした。

これまで私は故郷を盛り上げるために様々なPR活動をしてきました。
それは決して順調な道のりではなくて、時には心無い人たちからの言葉を受け取ることもありました。
それでもメゲずに活動を続けられたのは、トレーナーさんが私の隣にいてくれたから。「ずっと君のふるさとを見ていたんだ」と言ってくれたから。
そのおかげもあって、今の苫小牧は少しずつ知名度も上がっています。
私の努力は報われているんだと実感できて、トレーナーさんには感謝の気持ちでいっぱいでした。

それだけに、トレーナーさんの中で苫小牧が一番じゃなかったという事実は、私の心を大きく揺さぶりました。
本当はホッキ貝なんて嫌いだったのかもしれない。
酸っぱいハスカップなんて嫌で、夕張メロンにかぶり付きたかったのかもしれない。
とまチョップなんて無個性すぎると思っていたのかもしれない。

私は、彼に苫小牧を押しつけていたのかもしれない。

8二次元好きの匿名さん23/03/10(金) 18:22:51

その時、バタバタと慌てた足音が聞こえ、背後のドアがガチャリと開きました。

「ごめんなタルマエ！道が混んでいて遅れてしまったんだ。準備ができたらすぐにトレーニングを始めよう」

トレーナーさんが帰って来たのです。
息を弾ませながら話す彼は、私が沈んだ様子であるのを見て驚いたようです。

「ど、どうした！タルマエ。トレーニングが遅れたのがそんなに辛かったのか！？」

「……トレーナーさん」

テレビの音声だけが室内に流れる中、私たちの間に沈黙が訪れます。
トレーナーさんは、真剣な表情で私からの言葉を待っています。
伝えなくちゃ、私の素直な思いを。

「トレーナーさんは苫小牧がお嫌いですか？」

「そんなわけないじゃないか！俺は君のおかげで苫小牧が好きになったんだから。……ん？これはさっきの物産展の……まさか！」

トレーナーさんは、私の背後のテレビ画面を見て何かに気づいたような声を上げます。

9二次元好きの匿名さん23/03/10(金) 18:23:53

「まさかタルマエ。この番組で俺が他の地域の名産品ばかり紹介していたのを見たのか？」

私はコクリと頷きます。

「……そうか。よかった、誤解なんだよ」

「誤解……？」

「ああ、実は俺も苫小牧のどんな名産品が販売されるのか気になっててね、確認のために現地に行ってたんだよ。そうしたら、一部地域の商品は来週から販売しますって言われたんだ」

ほら、と彼はテレビを指します。

『なお、来週からは入れ替わりで、苫小牧・──以上の地域の名産品が続々登場します！』

「本当ですね……」

「おそらくだけど、集客力のある商品が期間中に品切れにならないように、こういう売り方をしているんだと思うよ」

販売されてない商品が一番好きですとも言いにくかったんだ、と苦笑するトレーナーさんの言葉を聞きながら、私はほっと胸を撫で下ろしました。

トレーナーさんは、ちゃんと苫小牧を受け入れてくれていた。
それが分かると、早とちりをしていた自分が急に恥ずかしくなってきました。

10二次元好きの匿名さん23/03/10(金) 18:24:43

「あ、あのトレーナーさん、ごめんなさい。私、勘違いでトレーナーさんのことを疑ってしまって」

「いいや、事情を知らない君が、あの様子を見たら不安になって当然だよ。俺こそごめんな」

「いいえ、そんな」

「前にも言ったけど、俺は君のおかげで苫小牧が好きになったんだ。あの街が俺にとっても一番なんだよ」

トレーナーさんの言葉が胸の中に暖かく染み入ってきました。
私は、涙を拭って笑いかけます。

「……ありがとうございます！これからも私と苫小牧をよろしくお願いしますね」

「もちろんさ、君のトレーナーだからね。……さてトレーニングに行こうと言いたいけれど、何だかそんな雰囲気でもなくなっちゃったな。せっかくだから最後まで見ていくかい？」

「そうですね！もしかしたら苫小牧の名物も紹介されるかもしれませんし、見ちゃいましょう！」

なりゆきでもう少し番組を見ることにした私たちは、お互いイスに座り、テレビ画面に意識を向けます。

11二次元好きの匿名さん23/03/10(金) 18:25:57

『さあ、最後に紹介するのは、ゆるキャラ人気投票の中間発表です！先程の方が推していたシスト男爵は、果たして何位でしょうかー！』

『……今、順位発表が始まりました！まず10位は──
次はいよいよトップスリーの発表です。……なんと3位はとまチョップ！GⅠウマ娘ホッコータルマエちゃんの故郷、苫小牧からのランクインだー！』

ええっ！とまチョップさんが3位に！

「やったなタルマエ！これは間違いなく君の成果だよ！」

「はい、とっても嬉しいです！トレーナーさんが支えてくれたおかげですね！」

私は、苫小牧の知名度がアップしている確かな実感を得て、喜びが溢れそうになります。
まさか、とまチョップさんが3位だなんて！
これもトレーナーさんの……あれ？

12二次元好きの匿名さん23/03/10(金) 18:26:50

「あの、トレーナーさん。トレーナーさんは、この人気投票で誰に投票したんですか？」

(ｷﾞｸｯ)

「私の思い違いじゃなかったら、シスト男爵さんに投票されていましたよね？」

(ｷﾞｸｷﾞｸｯ)

私は、トレーナーさんが明らかに動揺しているのを見て確信しました。
この人、とまチョップさんが投票対象なのを知っててスルーしたんですね！

「どういうことです！何だったんですか、さっきの言葉は！苫小牧が一番じゃないんですか！」

「ｲﾔｿﾉ､ｼﾞﾂﾊ､ｵﾚ､ｷﾓｶﾜｲｲｷｬﾗｶﾞﾂﾎﾞﾅﾝﾀﾞ」

「なんです！？もっと大きな声で言ってください！」

「……おおっと！そろそろトレーニングに行かなきゃいけないな！タルマエ、テレビ消しておいてくれ！俺は先にコースに行ってるよ！」

「待ちなさい！説明するまで離れませんよ！」

13二次元好きの匿名さん23/03/10(金) 18:28:26

ドタバタと部屋を出ていくトレーナーさんを追うために、私も素早くテレビ画面を消してトレーナー室を飛び出します。
ところが、ひえ〜と悲鳴を上げながら逃げていくその情けない背中を見て、私の怒りは急に萎んでいきました。
思わずクスッと笑いがこみ上げてきます。

まあ、いいか。ずっと私を支えてくれたトレーナーさんだもの。
ちょっとゆるキャラの趣味が独特なくらいは許してあげようかな。
そんな思いになりながらも、私は怒ったフリはそのままに、トレーナーさんに呼びかけます。

「待ちなさい！浮気は許しませんよ！トレーナーさんの一番は苫小牧なんですからねー！」