虹夏ちゃんの記憶が

  • 1二次元好きの匿名さん23/03/13(月) 16:24:23
  • 2二次元好きの匿名さん23/03/13(月) 16:24:59

    おお....ついに救いの手が.....?

  • 3二次元好きの匿名さん23/03/13(月) 16:28:49

    万歳!

  • 4二次元好きの匿名さん23/03/13(月) 17:10:05

    作品のキャッチコピーとか曲調とかがめっちゃこのシリーズに合ってるのでは?と思ったゼーガペインED

    リトルグッバイ


  • 5二次元好きの匿名さん23/03/13(月) 18:22:06

    回復してねえ!

  • 6二次元好きの匿名さん23/03/13(月) 18:22:55

    かわいそうな虹夏ちゃんがかわいい

  • 7二次元好きの匿名さん23/03/13(月) 19:45:52

    スレ立ったのか
    3スレも完走したしそろそろ一旦休眠してもいいかなと思ってたが

  • 8二次元好きの匿名さん23/03/13(月) 19:47:48

    待て待て 記憶が回復したと書いているだけで、全員無事とは書いてないぞ…。

  • 9二次元好きの匿名さん23/03/13(月) 21:34:34

    >>7

    それも手かな…。はっきり言って、大分心が圧し折られたし…。

  • 10二次元好きの匿名さん23/03/13(月) 21:35:49

    やっぱり虹夏ちゃんが元気じゃないと、収まるものが収まらない!

  • 11二次元好きの匿名さん23/03/13(月) 23:25:46

    こんな動画見つけた…。記憶喪失スレ見た後だと堪えられない、泣く。

  • 12二次元好きの匿名さん23/03/13(月) 23:42:20

    >>11

    これ最初は笑ってみてたけど一時間くらいしてまた見たら泣けた

  • 13二次元好きの匿名さん23/03/14(火) 07:01:20

    治ったらまた夢に向かって前進再開!でも良いんだけど数日間遊び倒すのも良いよね…

  • 14二次元好きの匿名さん23/03/14(火) 09:13:18

    >>11

    喜多ちゃんのはまだ笑えたんだけどね…

  • 15二次元好きの匿名さん23/03/14(火) 20:36:18

    >>11

    心音が止まった時にリアルで「あ」って声が出た…。

  • 16二次元好きの匿名さん23/03/14(火) 21:22:52

    >>13

    全員集合して、一週間位虹夏ちゃんの快復祝いをやるんだ。オールナイトで飲み会をしたり、旅行に行ったり、久々に全員揃ってライブをしたりするんだ。こんなに嬉しいことはない…。

  • 17二次元好きの匿名さん23/03/15(水) 09:18:40

    このレスは削除されています

  • 18二次元好きの匿名さん23/03/15(水) 21:10:34

    虹夏ちゃんの記憶が回復した!
    その報せを聞いた時、私は走り出したいような湧き上がる心持ちになった。
    取るものも取り敢えず、私はSTARRYへ直行した。二時間の往路は不思議と今日は苦にならなかった。
    店の前にはこれまで見たことの無いほどの行列ができていた。
    「後藤さんだ!」「ギターヒーローさんだ!」
    私の存在に気づくや否や、居並ぶ人々は私に道を開けてくれた。そして、私は階段を下り、ドアをバンと開ける。
    「あ、ぼっちちゃん!」
    久々に聞く虹夏ちゃんの呼び声が五臓六腑に染み渡る。
    「あ…、に、虹夏ちゃん。記憶が、も、戻ったんですね。」
    「うん、そうだよ!」
    彼女の満面の笑みに、私は心の底から湧き上がる慟哭を抑えられなかった。
    「う…ウウ‥。本当に(グスッ)、よかったです…。もう…駄目かと何度も、思ったけれど、無事に…無事に…。」
    感極まって蹲る私の背中を、虹夏ちゃんはそっと撫でる。
    「大丈夫、大丈夫。私はもうここからいなくならないから。」
    「は…はい。よ、よかったです…。」
    そうしていると、外から大勢のお客さんが入ってきた。色んな人が虹夏ちゃんの快復と、これからの結束バンドの再始動を祝うべく集まって来たのだ。
    私たちは取り敢えず即興でライブをすることにした。一曲目は「忘れてやらない」。虹夏ちゃんは最前列のど真ん中で私達が弾くのを見ている。途中、私はドラムの鳴っていないことを思い出し、ぞっとする。周りを見れば、喜多ちゃんもリョウさんも同じ心持ちだったようで、虹夏ちゃんの座るべき位置を不安そうにちろりと見ていた。
    「んもー、じれったいんだから!」と言うやいなや虹夏ちゃんはステージの上に駆け上がり、そうあるべき位置に座る。そして、ぎこちないながらも軽妙なリズムを取ってドラムを叩き出す。
    (皆、行ける?)
    虹夏ちゃんの目配せに、あっけらかんとしていた私たちは力強く頷き、演奏を再開した。あぁ、後ろからドラムの音がする。カルテットが再び交わる日が来たんだ。私は嬉し涙の前兆を感じながら、力強く弦を弾いた。

  • 19二次元好きの匿名さん23/03/16(木) 06:55:18

    ハッピーエンドだ…!
    でもぼっちちゃんが名前を覚えられてるって結構時間経過はしてるな?

  • 20二次元好きの匿名さん23/03/16(木) 07:23:27

    よかった…

  • 21二次元好きの匿名さん23/03/16(木) 08:00:55
  • 22二次元好きの匿名さん23/03/16(木) 09:12:42

    よし!このままどんどん明るい展開を書いていこう!

  • 23二次元好きの匿名さん23/03/16(木) 16:23:53

    心が安定する…。

  • 24二次元好きの匿名さん23/03/16(木) 21:29:04

    ある日突然、虹夏ちゃんが記憶喪失になって

    みんな落ち込んだ。辛かったし、悔しかった。

    現実と見紛うほどの悪い夢も時々見た。どれも生々しくて怖い夢だった。

    記憶の退行ならまだ生易しい。なんなら心中するほどまで追い詰められる夢も見た。あぁヤダヤダ。

    けど、現し世は思ったより親切だった。

    枚挙に暇がないほどの数多くの心優しい人たちが、最早と思う私達を引き止めた。

    音楽が、仲間が、家族が、ファンが、そして、皆の虹夏ちゃんを想う心が、私達を掴んで放さなかった。

    最初あった絶望感は、何時しか羨望、そして希望に変わり、私達は再び前を向いて歩くようになった。

    今日、あれほど来るのが怖かった夜明けは、初めて前向きな気持ちで見ることができた。

    もう朝は怖くない。何時もの皆がいる、普段の結束バンドがここにある。

    私は…、今日初めて覚えた感情を何と言えばよいのか分からない。

    嬉しいも楽しいも通り越し、喜怒哀楽の垣根を超えた全ての感情が躍動するこの前向きな感情を。

    ただ一つ言えるとするなら、これが全てを超越する『生』の感情だと私は思うんだ。

    TVアニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」本PV


  • 25二次元好きの匿名さん23/03/17(金) 07:24:03

    よかった…

  • 26二次元好きの匿名さん23/03/17(金) 16:17:01

    これまでの出来事振り返るか…。
    いっぱいあったなぁ…。

  • 27二次元好きの匿名さん23/03/18(土) 01:24:38

  • 28二次元好きの匿名さん23/03/18(土) 09:40:06

    >>26

    長かったなぁ…。

  • 29二次元好きの匿名さん23/03/18(土) 09:46:26

    >>14

    笑えたってちょっと不謹慎すぎない?

    虹夏持ち上げるためなら何言ってもいいってわけじゃないと思うが

  • 30二次元好きの匿名さん23/03/18(土) 09:47:36

    >>29

    不謹慎ギャグの動画に何言ってんのお前

  • 31二次元好きの匿名さん23/03/18(土) 09:48:51

    >>30

    虹夏の動画もそうだけど泣けたっていうのが大本じゃん

  • 32二次元好きの匿名さん23/03/18(土) 09:51:47

    何だこいつ
    本気で不謹慎だって思うならそもそもその動画作ったやつに言えよ…

  • 33二次元好きの匿名さん23/03/18(土) 10:02:44

    虹夏が記憶戻って、裏暗い独占欲を仄かに抱えてた山田が「あれ?せっかく虹夏に記憶が戻ったのに何で素直に喜べないんだろ?」と自分の感情に困惑しててほしい。

  • 34二次元好きの匿名さん23/03/18(土) 12:46:48

    山田は重い感情が似合いますねぇ!

  • 35二次元好きの匿名さん23/03/18(土) 23:59:24

    やっと追いついた
    ハッピーエンド書けないか頑張ってみる

  • 36二次元好きの匿名さん23/03/19(日) 00:20:25

    このレスは削除されています

  • 37二次元好きの匿名さん23/03/19(日) 00:20:40

    >>35

    がんばえ〜

  • 383523/03/19(日) 02:26:44

     私にはとある難しい病気があった。あったとするのは病気が寛解したためだ。かつて私はこうして毎晩日記を書いていた。最近は忙しくてサボる日も多かったができるだけ書く習慣は続いている。
     近頃、病気のことを知った編集者からこの日記を出版したいとう依頼まで来てしまい、悩んだ末に私はこの日記の書籍化を了承した。最近の結束バンドは順調に人気を伸ばしているがまだまだ武道館ライブをやったりするレベルではない。この出版には結束バンドの注目を集めるきっかけの一つになればという打算もある。それと、こんな私を見捨てず数年がかりで支えてくれた皆の素晴らしさを伝えたいという公開ラブレターのような意図もある。そして、実は少なくないらしい私と似たような症状を抱える人とその支援者たちを勇気づけることができたらという考えもあった。決意が固まったので、私は出版社と書面を交わした本日の日記にこんな説明口調の文章を書いている。編集さんに頼んでこの文章を本の冒頭に持ってきてもらうつもりなので、おそらく皆さんは「記憶障害を乗り越えたらしいバンドのノンフィクションの導入」という形でこの文章を読んでいるのだろう。
     この日記には読み返すだけで照れくさくなるような家族やメンバーへの感謝と愛情。そして病気に押しつぶされそうで取り乱す恥ずかしい私たちの姿がありのままに記されている。でも、これが私達の歩んだ道。その先の夢までこの道は続く。私達の音楽からか、この日記からか、何がきっかけで始まった付き合いでも良いので結束バンドの歩みをこれからも見守ってくれたら嬉しい。

  • 393523/03/19(日) 02:33:09

     明日は中学2年生の始業式。新学期は私にとって過ごしやすい。なぜならお互いに知らない人同士である確率が高いからだ……ということを中学校入学式の日記に書いていたので、多分そうなのだろう。タイミングが良いのか悪いのか、今朝起きたら数カ月ぶりの完全リセットを食らってしまった。私の抱える病気は記憶が長持ちしないこと。動作や学校の勉強は問題ないのだが思い出が残らない。お医者さんが言うには「エピソード記憶」を思い出せない状態らしい。徐々に特定のエピソードが抜けるし、今朝のように突然全消しを食らうこともある。外で全消しされると怖くて仕方ないので、この病気を知ってる親しい人以外とは外出しないようにしている。一人で外に出ることはまずない。全消しの頻度はこれまで短くて3ヶ月、長くて1年だから頻繁ではないとはいえ、一人のときに発生すると犯罪に巻き込まれかねない危険がある。日記を読む限り山田リョウという人(私は彼女をリョウと呼んでいるらしい)がいつも一緒に登下校してくれるらしいので明日はリョウを待って登校すれば安心だ。明日いきなりではなく、今日リョウと話をしておきたい気持ちもあったのだが、今日はお姉ちゃんとの諸々の確認と病院。それに5年分の日記を読むだけで終わってしまった。明日、リョウになんて話そう。「はじめまして」を言うと悲しませると最初の全消しの日の日記に書いてあるので、それは避ける。昨日までの私の言葉を読むだけで「はじめまして」の気分がしないのはよかった。さあ、頑張ろう。ちゃんと伊地知虹夏になるんだ。

  • 403523/03/19(日) 02:33:51

     今日はやってしまった。せっかくのステージだっていうのに演奏中に全消しされてしまった。楽器を弾く技能は消えないとはいえ、今どうしてここにいるのか、今日のプログラムは何か、そういうものを全部吹き飛ばしてしまった私は演奏を止めてしまった。バンドメンバーは責めはしなかったけど、「一緒に演奏するのはやめようか」という話をやんわり伝えられてしまった。そうだよね。仲間は病気を理解してくれるけどお客さんは事情を知らない人も多い。突然手をストップさせるドラムの演奏なんて問題外だ。私だってこういう経験を繰り返したらいつか心が折れてしまうかもしれない。闘病する意志を失ってしまうかもしれない。終わった後に楽屋で皆で泣いたあの時間が私にとっても皆にとっても、とにかく辛くて、もう続けられないと思わせてしまったんだ。だから、私も脱退を了承した。
     でもね。やっぱり楽器は続けたい。エピソード記憶のない私にとって昔の自分とのつながりを感じられるのはドラムだけだから。こんな私と一緒にバンドやってくれる人いるかな。自分がリーダーになって、自分でバンドを作って、一緒に病気を乗り越えられる仲間を見つけられるかな?
     せっかくなら、そこにはリョウもいてくれたら良いんだけど贅沢だよね。過去の日記を読むとリョウのベースを聴くと懐かしさを感じるらしいんだ。今の私はリセットされたばかりだからわからないけど、今度リョウのベースを聴いたら懐かしいって思えるかな? そこに記憶を取り戻す鍵があったらいいな。とりあえず次のライブの日程調べて聴きに行ってみよう。

  • 413523/03/19(日) 02:34:22

     すごい動画投稿者を見つけた。いや、見つけたと言うと語弊がある。見つけていた。
     リセット前のわたしが"見つけていた"ギターヒーローさんの動画を聴いたのだが、不思議と聞き覚えがあるような気がしたのだ。これはリョウのベース以来のことだ。(リセット後に初めて行ったライブでリョウのベースを聴いたがやはり懐かしさを感じることができた)
     リセット前の記憶はまっさらなんだけど、断片的に覚えてるものはある。例えば私はリセット後にお父さんやお姉ちゃん、写真のお母さんの顔を見たときに不安を感じたことはない。家族であるということは頭が忘れても心が覚えているのかもしれない。となると、リョウのベースやギターヒーローさんのギターは、家族レベルで私が大好きな音色だから覚えていられたのかもしれない。
     だとしたら、第二の家族レベルで信頼できるメンバーが集まると私の症状も改善するのではないか。目指すべきバンドの方向性が少し見えた気がする。仲間にしたい相手がすでに別のバンドで活躍してるリョウとどこに住んでるかもわからないネットの動画投稿者というのはハードルが高いが。まあ、この二人は理想だけど他にも良い仲間が見つかるかもしれないので頑張ってみようと思う。


     結束バンドのメンバーが3人になりそうだ。喜多ちゃんを入れようと思った理由は単純で「第二の家族」というものを求めてると聴いてもしかしたら私の目指す方向に寄り添ってくれるのではないかと思ったからだ。ただ、本当にメンバーにするなら私の病気のことを話すことは避けられない。話すのが怖い。この病気を理由に断られたらどうしよう。とりあえず最初のライブまではお試し期間ということで秘密にしても良いだろうか? ……駄目だな、逃げちゃってる。こんな逃げ腰のリーダーに人はついてこないよね。気合をいれて今度の合わせの練習のときに言ってみよう。

  • 423523/03/19(日) 02:37:49

     3人が2人になって3人になった。喜多ちゃんが逃げちゃったときは焦った。逃げ腰だった私に罰が当たったと思ったんだ。焦って探しに一人で飛び出したのは危なかった。全消しこそなかったけど道順はわからなくなって迷ってしまった。でも、そんなとっきにぼっちちゃんに出会ったんだ。
     ギターを背負う彼女を見たときピンと来た。家族やリョウのように「初めて会った気がしなかった」んだ。もしかしたら私が日記に残してないところで会ってるのかもしれない。できるだけ詳細に書くようにしてるけど、全部は書ききれないし、9歳以前に会ってたら本当にわからない。日記は母を失ってから発症した記憶喪失と戦うためのもの。ようするに9歳以前のわたしは日記を書く習慣がなかった。たとえば私がお母さんと一対一で話をした内容はわからない。私の知る母は、全て父と姉が四人でいた頃の思い出話として語り、それを私が日記に書き残したものだ。話がそれたが、ぼっちちゃんももし幼少期にどこかで会って遊んだことがあった場合それは私には思い出すことができない。ぼっちちゃんも私を初対面だと思ってるので可能性は低い気がするが、すごく幼少期の話だったらあちらも忘れてるかもしれない。
     とりあえず結束バンドの初ライブは一応なんとかなった。ステージ上で記憶が飛ぶこともなかった。

  • 433523/03/19(日) 02:39:49

     今回は1ヶ月で全消しされた。過去には3ヶ月の全消しがあったので短期間の全消しも覚悟がなかったわけではない。でも、それがこれで2回続いてる。喜多ちゃんが加入して4人になって、バンドメンバーは私の事情をよく理解して支えてくれるのに。演奏は楽しい。演奏していると皆が病気が始まる遥か昔からの仲間だったような気持ちに包まれる。前回も今回も、全消しを知るとすぐに集まって自己紹介から初めてくれた。こんなに環境が良いのにどうしてなんだろう。
     昨日、家に帰って日記を書く目前に食らった私は昨日やった結束バンドの大切なライブの記憶がない。今日4人で色々お話したあと、ぼっちちゃんが残りたいと言ってほんのついさっきまで二人だけで話をしていた。家が遠いのにありがとうね。ぼっちちゃんはライブ後の打ち上げで私達の間で交わした約束を教えてくれた。悔しいな。自分の言葉で記録できたらそのときどんな気持ちだったか、全部わかったのに。そうか、ぼっちちゃんがギターヒーローなんだ。1回目は私から見破られて、2回目は自分の口から伝えて、ぼっちちゃんは秘密をどんな気持ちで明かしたんだろう。
     早く4人で楽器鳴らしたいな。ライブの記憶ないのが辛い。4人で演奏したらこのざわざわする心が落ち着く気がする。


     結束バンドの活動は充実している。未確認ライオットではファイナル行けなかったけどレーベルにも所属することになった。記憶喪失持ちでリーダーやるのは大変だけど、司馬さんもやみさんも私の病気を理解して接してくれるので大きな問題もない。ただ、なぜかバンド活動が順調になってるのに症状は改善しない。結束バンドを組む前のほうが全消しに遭うスパンは圧倒的に長かった。それでも私を支えて一緒に頑張ってくれるのだから仲間たちには頭が上がらない。
     ところで、ぼっちちゃんの書く歌詞はなんとなくだけど私の事情を歌ったものもある気がする。フラッシュバッカーは絶対そう。あんなの反則だよ。レコーディングのとき喜多ちゃん歌いながら泣いちゃってなかなか収録が進まなかったんだから。

  • 443523/03/19(日) 03:07:03

     お姉ちゃんはお母さんの話をするときにとても気を使う。私の症状が始まった時期を考えると原因は間違いなく母の死なのだから当然だろう。でもそうして楽しい思い出話ばかりしてあの日の前後の話題を避けていたから気が付かなかった。
     本当に偶然、お父さんとお姉ちゃんと3人で話をしていて気づいてしまった。私が本当に隠したかったこと。お母さんの死は私に原因があったんだ。
     お姉ちゃんとの喧嘩にすねたいた私のわがままを叶えるために買い物に出たお母さん。そのタイミングで起きた事故。私が聞き分けの良い子なら遭わなかったかもしれない事故。お父さんとお姉ちゃんの口からあの日の流れを聞きながら当時をイメージしていたら驚くほど自然とあの日の自分を思い出してしまったのだ。私とお母さんの二人だけの場での会話を。
     こんな身で「お母さんに輝きが届くような星になる」だって? 無理だよ。多分これが最初に抹消した記憶。その後、思い返せば私が記憶を全消しするタイミングは夢を強く意識したときが多かった。馬鹿らしい。この矛盾から目をそらし続けていただけなんだ。
     会話中に突然泣き出して自室に帰ったことでお姉ちゃんたちに心配かけてしまった。バレてないよね、まだ全部じゃないとはいえ記憶を取り戻したこと。


     解散を持ちかけた。猛反対された。「なら、私が抜けるから新しいいドラムと結束バンドとして活動続けて」と言った。喜多ちゃんを泣かせちゃった。ぼっちちゃんも涙目だった。リョウからは「本音はそれじゃないでしょう。本当のことを言って」と言った。「みんなで夢を叶えたいです」だって? やめてよぼっちちゃん。頷かないで喜多ちゃん。私は夢を見ることを辞めたいんだ。
     根本的な事は思い出した。あの瞬間から九歳以前の記憶がじわじわと戻っていた。けど、九歳以降の記憶は日記で知ってる以上のことはわからない。前回の全消しから日が浅いので私の結束バンドの仲間への気持ちはまだふわふわしている。ここでお別れするのが良いんだ。これ以上一緒にいると心の奥底にある滅することのできない気持ちがすぐに形を取り戻してしまう。そうなると次のリセットまで解散なんて持ち出せなくなる。そしておそらくだが、次のリセットはもう来ない気がしていた。

  • 453523/03/19(日) 03:08:33

    「虹夏ちゃん、こんなことを考えていたんですね」
     ぼっちちゃんの手には私の日記があった。
    「やっぱり思い出していたんだ。何かあったなって思ってた」
     リョウには隠しきれてない。付き合いの長さ故だろうか、私は日記の文章を通じての知識ばかりなので逆にリョウのことを見破るのが難しいのに。
    「勝手に日記を読んじゃってごめんなさい。でも緊急事態だと思って星歌さんに家に上げてもらったんです」
     先日の会議で納得せず再び開かれた会議。まさかこんなことになるとは。
    「読まれちゃったならもうしょうがないよ。書いてある通り、夢を目指すのが辛くなったから」
    「でも、虹夏ちゃん『辞めたい』って言ったとき酷く辛そうな顔してましたよ……もしかしたらですけど、辞めるのも辛いんじゃないですか?」
     図星かもしれない。
    「とりあえず別れ話の前に一回やってから考え直さない? 楽器持ってきてるから」
    「言い方……」
    「あ、じゃあ……是非やりたい曲が。フラッシュバッカーを書いたとき、虹夏ちゃん『私達のこと赤裸々に表しすぎ』って冗談めかして言ってましたよね。私にとって、私達自身のことを強く強く意識して作った曲はもう一曲あるんです」
     その曲について、当然私もああ、あれだろうなという確信がある。
    「君と集まって星座になれたらー」
     喜多ちゃんが口ずさんで微笑む。そうだよね、なんてぴったりなんだろうね今の状況に。
    「じゃあスタジオ行こうか」
    「結束バンドで星座になりましょう」

  • 463523/03/19(日) 03:10:43

     リョウの言い方に乗るなら口答えはしても体は正直というやつだろうか。一緒に演奏したくなってる自分がいる。渋々準備をして演奏を始める。
     ……なんだろう、すごく良い。人気曲だからライブでもよくやってきた曲なのに、今までで一番良い星座になれたらができてるんじゃないかな? みんなとても気持ちが乗ってる。
     3人と目が合う。みんなこっちを見てる。
     そうか、今「星座になれたら」って皆が心から思ってるんだ。私もそう思えたらこの演奏もっと良くなるのかな? 思っていいのかな?
     不意に蘇るのは私だけが聞いていた母の大事な言葉。
     ――夢はね。どんな辛いときも道を照らしてくれる光になるんだよ。
     なんでこの言葉を忘れていたんだろう。ここでこの記憶が帰ってくるのは、母が私の背中を押しているんだろうか?
     喜多ちゃんの声を引き継いてぼっちちゃんのソロが歌う。リョウも楽しそうに弾いてる。ドラムを叩くのが楽しい。
     遥か彼方、僕らは出会ってしまった。
     気がついたらドラムを叩きながら私も喜多ちゃんに合わせて口ずさんでいた。
    「だから集まって星座になりたい」
     答えだった。
     私の声に気づいて3人が喜ぶ。まだ戻らない記憶も全部帰ってくる。そう思えた。万が一戻って来ないとしても私たちはやっていける。そういうカルマだから。

    筆がノリすぎて予定の3倍くらい長くなりました。連投ごめん

  • 47二次元好きの匿名さん23/03/19(日) 04:59:12

    大作が投下されている…発症したのが最近ではなく割と長い付き合いのパターン、そういうのもあるのか
    すごい良かった!

  • 48二次元好きの匿名さん23/03/19(日) 10:38:19

    圧倒的な感情の大爆撃を喰らった…。うん、すごい良い!

  • 4935とは違う人です23/03/19(日) 21:45:36

    少し思いついたから、待っててね…。

  • 503523/03/19(日) 22:28:55

    >>49

    EDはいくつあっても良いからどんどん書いてこう


    スレがまだ続くようなのであとがきめいた蛇足。1スレ目から読んで特に刺さった書き込みを遠慮なく行間に練り込むつもりで書いた。先人たちに感謝

    最初は演奏中に記憶を戻す流れだけで書くつもりだったけど、失った理由と取り戻す理由は一体にしないと話が弱いなと思ったので取り戻した後にもう一山作って一緒に演奏させることにした

  • 5135とは違う人です23/03/19(日) 23:18:04

    今日で私が虹夏と交換日記を始めてからはや7年となる。普段はずぼらだと虹夏から言われている私だが、この交換日記だけは音楽を例外として唯一継続していることだった。
    小学四年生の春、虹夏と私は初めて同じクラスになった。このときもあいも変わらず一人でいた私だったが、あの日を境に虹夏と友達になったのだった。
    確かゴールデンウィーク開けだっただろうか。私が寝坊して遅れて登校していると、道角で、見たところ同じ学校に通う少女が泣いてみるのを見た。普段なら急ぐところだが、どのみち急いでも遅刻に変わりはなかったなということに気づいた私は、その子に声をかけることにした。「ねぇ君、何で泣いているの?」その子は私の声を聞くと、ビクッとして怯えるように顔を上げた。
    「あ、あ…、分からないの。」
    「分からない?」
    「学校へどう行くかが分からない…。家を出たら、皆忘れちゃった…。」
    皆忘れた!?私は動揺を抑えつつも根気よく質問を続けた。
    「だ、誰か連絡できる大人の人はいないの?」
    と聞いても彼女は頭を振るばかりである。これでは埒が明かぬと判断した私は、泣く彼女の手を握って学校に連れて行くことにする。どのみち遅刻する運命だ。
    私は少女と手をつないで歩きながら話をする。
    「ところで貴方の名前は?」
    「…虹夏。確か、虹に夏と書いて虹夏だったはず。」
    その名前を聞いて、そういや同じクラスだったなということを始業式の日以来に思い出す。
    「あー、確か名字は伊地知だった?」
    コクコクと彼女は頷く。
    「私のことは知ってる?」
    イヤイヤと彼女は首を振る。
    「私の名前は山田リョウ。貴方と同じクラスだよ。」
    「あ…、リョウちゃん?あ、ありがとう。」
    「ううん、どういたしまして。」
    それが虹夏との最初の出会いだった。因みに学校には何故かぎりぎり間に合った。

  • 5235とは違う人です23/03/19(日) 23:18:38

    その日以来、私は虹夏を気にかけるようになった。虹夏も私を頼るようになった。そんなある日、虹夏が突然の提案を持ちかけてきた。
    「あのね、リョウちゃん。良ければなんだけど、私と交換日記しない?」
    「よし分かった。」
    二つ返事で交換日記をすることになった。翌日、私は虹夏から日記を受け取り、早速一筆書き上げることにする。その前に、虹夏が書いたことを見ておくことにする。
    (さてさて、どんなことを書いているのやら…)私は色んな期待を込めて表紙を捲る。
    『一日目
      リョウちゃんへ。私のお友達になってくれてありがとう。ちょっと長くなるかもしれないけれど、私の話を聞いてください。実は私は記おくそう失という病気にかかっているんです。どうしてそうなったかは深くは語らないけれど、かんたんに言うと、私は今日あった出来事を明日にはわすれているのかもしれないということです。リョウちゃんが私を学校につれて行ってくれた日、実は私はその記おくそう失の発作を起こしていました。どうすればよいのか分からなくなって泣いているところを、リョウちゃんが助けてくれました。あのときは本当にうれしかったよ。ありがとう。後、しつもんになるんだけど、リョウちゃんは何か好きな音楽とかはあるかな?私はロックのドラムが好きなんだ♪返事をよろしくおねがいします。虹夏より。』
    私は想定外の告白に戸惑いつつも、返事を書いた。
    『虹夏へ。私はバイオリンが、今のところ好きです。これからも友達でいようね。山田より。』
    こうして交換日記が始まり、それは夏休みに入るまで続いた。

  • 5335とは違う人です23/03/19(日) 23:19:20

    夏休みに入ると、私は家族と軽井沢やハワイへ旅行に行く忙しい日々が続いたので、交換日記も一時的に停止になったと思われたのである。が、これが良くなかった。
    夏休みも終盤になり、軽井沢から帰ってきた私が全く手を付けてなかった宿題に追われている頃である。外から呼び鈴を鳴らす音がした。
    「はい、誰ですか」と私は扉を開ける。外は丁度俄雨が降っていた。
    「あ…、リョウちゃん?やっと出てくれた…。」
    呼び鈴を鳴らしたのは虹夏だった。雨に降られながらも、日記帳を抱えてやってきたのである。
    「日記、沢山書いてきたから、読んでみて。もっと、リョウちゃんと…」
    それを言うなり虹夏は倒れ込んだ。私はアッと驚いて、虹夏を抱きかかえ、親を呼ぶ。
    「ママ、パパ!私の友達が、虹夏が…」
    程なくして虹夏は私の実家でもある病院に搬送され、私は病室の前で、日記帳を抱えながらぽつねんと座り込んでいた。
    どうしようかと寄る辺もない思いをしながら、日記帳をこっそりと読む。確か私が最後に書いたのは、旅行に行く前日だった。問題は、その翌日からである。
    「57日目
      今日からリョウちゃんはハワイへ旅行へ行くんだって。だからその分、私が日記帳を代わりに書くことにします。
     ︙
     65日目
      明日はついにリョウちゃんが家へ帰ってくる日です。旅行はどうだった?私はしばらくみんなでお出かけしたことがないから教えてほしいな♪
     ︙
     75日目
      リョウちゃんへ。今日はお姉ちゃんと久々に焼肉へ行けたんだ!とてもおいしかったよ!リョウちゃんはなんの肉が好き?私はハラミと…」
    しまった!私はハワイへ旅行に行くことだけを虹夏に伝えていたのだ!自分の余りにもの無神経さに絶句した。虹夏は私が軽井沢にも行ってる間、日記を書き続けていたのだ。
    それに気づいた時、動悸が高まった。何か!何か書かなければ!という焦りを嘲笑うかのように、動悸は高まる。私はボトルの水を1杯飲み、ソファの隙間に挟まっていたボールペンを拾って、返信を書く。あまり長くは書けなかったが、せめて概況報告だけはとの思いを込めて、18日分の返信を眠気が襲うまで書く。

  • 5435とは違う人です23/03/19(日) 23:23:57

    そして翌朝、虹夏の目が覚めたという報告を聞いて、私は一目散に病室へ駆け込んだ。

    「虹夏ァ!」

    病室には、虹夏のお父さんと今の店長がいた。

    「おや、星歌。この子が、確か虹夏が話してた子かい?」

    「あー、確かそうだったな。おーい、虹夏。お前の友達がやってきたぞー。」

    店長の声を聞いて、虹夏がのそりと起き上がる。

    「あ…、リョウちゃん。持ってるの私との日記帳だよね?」

    「そうだよ。ごめん虹夏。返信、大分遅れてしまった。ちゃんと書いてきたから…」

    私は震える手で日記帳を手渡す。虹夏は、目を輝かせながら読み始めた。

    30分くらいかけて虹夏は日記を読み、そして父親から鉛筆を貸りると、あろうことか返信を書き始めた。

    「え…、虹夏。また、私と交換日記をするの?でも私は…」

    あれで私は交換日記を終わらせ、同時に虹夏とケジメとばかりに縁を切るつもりだった。だが、彼女の返答は一つ上を行くものだった。

    「実はね、私昨日、また忘れちゃったんだ。けど、けどね、この交換日記だけは何でか覚えていたんだよ。これって不思議だと思わない?だからね、私はまたリョウちゃんと交換日記を始めたいんだけど、ダメかな…?」

    こう言われた以上、断れる余地はない。私は止めどない感情に襲われつつも、絞り出すように決意を込めた返事をした。

    「ウン、虹夏、虹‥夏。もうずっと一生そばにいるから、あの…、よろしくね…」

    そして私は泣き出してしまった。一生分の涙を使い尽くすように、私は泣いていた。

    こうして交換日記は再び始まったのである。その日以来、私が返信を欠かすことは一度もない。もう虹夏を悲しませたくはないからだ。(了)

     これにておしまい。日記が虹夏とリョウを繋ぎ続けるという話にしました。>>35さんに感化されて書き上げました。

  • 55二次元好きの匿名さん23/03/20(月) 07:27:45

    こっちも大作だぁ
    こういう「ずっと待ち続けた」系の話は心に来るね…報われて良かった

  • 56二次元好きの匿名さん23/03/20(月) 08:06:31

    重い友情は心が安定する…

  • 57二次元好きの匿名さん23/03/20(月) 16:29:03

    よし、これからどんどん空白を埋めて、ハッピーエンドに繋げよう!

  • 5835とは違う人です23/03/20(月) 23:16:08

    『80日間記憶一周、その気付き』
    私達が虹夏ちゃんの記憶喪失に一定の周期があることに気が付いたのは、丁度出会ってから一年くらいだった。
    「…やっぱり、周回してますよね。」
    「ウン、間違いない。私が記録を見返す限り、約80日くらいで虹夏は記憶のループを繰り返している。」
    喜多ちゃんとリョウさんは、二人ボソボソと会話をしている。どうやら虹夏ちゃんの記憶に関することのようだ。
    「郁代、分かったのはいいけれど、これでどうするの?」
    「それなんですよね~。どうにもならないというか、科学的な対応ができないというか…。ひとりちゃんはどうしたらいいと思う?」
    そこで私に振るのか…。確かこういうときは、、、
    「あっ、普段どおりに楽しくすればいいと思います。私達がどうこういじれることじゃありませんし…。」
    「模範的な回答だね、ぼっち。けど、時間切れがあと一週間に迫っているとしたら?」
    なっ!?あ、あと一週間しかない!?それを聞いた時、私の理性は硬直を起こし、思いもよらぬ発言をしてしまった。
    「…えー、じゃあ、早速楽しい思い出を作りにいきましょう!」
    「おっ、おお…。」「ひとりちゃん、珍しく積極的ね~。」
    早速私達は虹夏ちゃんを誘いに行く。幸い今はゴールデンウィークだ。予定なら沢山放り込めるはずである。
    「あっ、あの、虹夏ちゃん!! 良ければなんですけど、今から遊びに行きませんか!?」
    「おぉ~、ぼっちちゃんが自分から誘うなんて珍しい。よし、最近練習だらけで皆疲れているだろうし、リフレッシュがてらに行こうかな?」
    「虹夏、私は表参道の新しいカレー屋と、ハードオフショップと後は古着屋に行きたい。」
    「あっ、私最近オープンした新しいカフェを知ってますよ~!」
    こうしててんやわんや揉めながら、期待すべき一週間が始まった。
    今日は古着屋、明日は八景、その明日は江ノ島次いで表参道…。私達は虹夏ちゃんと離れないように色んな所へ行った。
    私は柄にもなく、積極的に明るく振る舞うようにした。普段は撮らないプリクラだって撮ったし、カラオケで光年単位振りに歌ったりもした。
    皆からは大丈夫か?と真面目に心配されたが…。

  • 5935とは違う人です23/03/20(月) 23:16:43

    そして今日が最終日、つまりその日である。明日にはもう…、その考えが私達の脳裏を過ったが、そのことは忘れておこうと思った。
    精一杯遊び倒した後の帰り道である。私達はやはり緊張と遊び倒したことですっかり疲れていた。
    「あっ、みんな。あそこにベンチがあるけど休憩しない?」
    虹夏ちゃんの提案で私達はようやっと腰を落ち着けた。自販機で買ったジュースを飲みながら、一時の団欒を楽しむことにする。
    「あー、虹夏。この一週間ずっと遊び通したけどどうだった?」
    「ウン、楽しかったよ!けど…」
    「けど?」
    「なんか皆無理してないかなぁって感じた。ぼっちちゃんはやけにハイテンションだったし、リョウは普段よりお節介だし、喜多ちゃんはあまり写真パシャパシャ取ってなかった。皆、何か遠慮しているんじゃないかって感じたんだ。ねぇ、皆何か不安なことでもあるの?」
    こう言われては仕方がない。私達三人は目を見合わせて、正直に話すことにする。
    「虹夏、実はね…」
    私達は口々に、時には涙ながらになりつつも、なぜ一週間もの大遊行を思い立ったのかを話した。記憶の周期のことはぼかしながらも、虹夏ちゃんに私達のことを忘れてほしくはないということ、だからこそ精一杯思い出を作りたかったということ…三者三様の思いをぶちまけた。いや、正確には言い訳に近かった。私達は普段どおりドンと構えておれば良かったにも関わらず、無理に行動を起こしたことで、却って虹夏ちゃんを不安にさせてしまったのだ。

  • 6035とは違う人です23/03/20(月) 23:18:10

    話し終えると、夕焼けの明るい日差しが一直線に差す間に沈黙が流れた。虹夏ちゃんが今どんな表情をしているのかは見たくなかった。憐れみともいえる私達の行動に嫌われたのかもしれないと思うと、より一層申し訳無さが募った。
    「私ね…」
    虹夏ちゃんが口を開く。私は思わずビクッとして口元を見上げる。
    「こういう記憶喪失の病気にかかっているでしょ。そして、一定の周期があるってことも薄々気がついてたんだ。その日が近づくと、何か皆がよそよそしくなって、遠くなったような気がしていたのを微かに覚えてる。確かに記憶は一周して消えているかもしれないけれど、私はここにいるんだよ?だから、この一週間は楽しかったけれど、何か心苦しいところがなかったと言えば嘘になるんだ。ごめんね、皆。皆は私を楽しませようとしてくれたのに…。」
    虹夏ちゃんは口元に微笑を湛えながらも、涙を零していた。
    「けどね、これだけは忘れないでね。明日皆が会う私も、ずっと私だからね。記憶が一周してもそれは変わらないよ。だから、ウン、変に気に病むことはないよ。これからも普段どおりに楽しくやっていこう?」
    そういい終えると同時に、西日が後光とばかりに虹夏ちゃんの背中を差した。その眩しさに、私達は思わずハッと目を上げ、初めて顔を見る。その顔は天使のような笑顔だった。
    「そうだね、虹夏。ごめん、深く気にしすぎた。」
    「先輩…。そうですよね。私達、同じ一つのバンドですものね。ちょっと神経質になりすぎてました。」
    「あ、虹夏ちゃん…。ご、ごめんなさ… いや、ずっとよろしくお願いします。」
    「サ、皆STARRYへ帰るよー。今日はバーベキューだー!」
    こうして、感情のジェットコースターの一週間はバーベキューで幕を閉じた。濃縮な一週間だったけど、楽しく終えることができたのは何よりの幸いだった。

    翌日の放課後、私は喜多ちゃんと普段どおりSTARRYへ向かっていた。何となく浮足立つような気持ちだった。なぜなら、虹夏ちゃんが相も変わらずそこにいると分かったからだ。たとえ月日が巡ったとしても、それは変わらないと確信できたからだ。朗らかな心持ちで私は今日の虹夏ちゃんに挨拶をする。
    「虹夏ちゃん、今日もよろしくお願いします。」(了)
    やっぱり、前向きでいるのが精神に一番いい。

  • 61二次元好きの匿名さん23/03/21(火) 08:25:31

    これまた大作だぁ。
    善意の空回りは辛いし、後味が悪くなるよね…。けど、報われたのでヨシ!

  • 62二次元好きの匿名さん23/03/21(火) 11:13:24

    ようやく光が見えてきたか…?

  • 63二次元好きの匿名さん23/03/21(火) 22:20:09

    よし、一本書けた。

  • 64二次元好きの匿名さん23/03/21(火) 22:21:38

    『音声周波数529kHz』
     さて、今日もその時間が来た。私はラジオを点けて、チャンネルを合わせていく。531、530、…529!後は放送が始まるのを待つだけだ。時間差はあるが、大体何時に始まるのかは把握している。このチャンネルは基本的には無音、つまりただザーザーと音が流れているだけである。ところがある日、私はたまたまその放送を聞いたのだ。私が知っている誰かによく似た声がただ滔々と話をしているのだ。話の内容は、今日誰かと初めて会ったとか、新しい服を買ったとかという近況報告に近いもので、日の終る直前に大体十分から30分位の放送が続く。ただ奇妙な点があるとするならば、この放送は2日くらい途切れることがある。それも予告なく突然にだ。そして放送が再開する前日は決まって、大体1時間位の定型的な文章が読み上げられ、そして翌日には普段どおりに、何も無かったように放送が始まる。とまぁ、これは一旦置いておいて、今日の放送を聞くことにしよう。今日の放送は、『自身の将来について』であった。放送は時間をかなりオーバーして1時間も続いた。最近はこういう長時間の放送が増えており、私は何かが起きるのではないかと身構えながら放送を聞いている。ただ、何も悪いことが起きるだけではないという希望的な内容も文面には含まれていた。まぁ多分大丈夫なんだろうなという思いを込めて私は今日は床に就いた。
     
     今日の放送は、驚くべきことに(!)夜明けまで続いた。これまで無かったことだ。内容は多岐にわたり、これからの活動、これまでの総括、そして自分自身のことについて語られた。私は一聴取者としてただ呆然としながら、その長大な感情が入りこもった文章を聞くしかなかった。何かしら手紙を一つ意見として書きたいところだが、止めておこう。以前送ったところ、中断を挟んでしまったため、具体的な返事は帰ってこなかったのだ。個人的な事情なので責めるべき余地は微塵もない。寧ろ、話を聞かせてもらってありがたいくらいだと今は思っている。何しろ、このチャンネルを知っているのは私だけなのだ、多分。それは私にとって誰にも計り知ることのできない栄誉であった。そんな優越感を心に秘めつつ、今日は朝寝をすることにする。

  • 65二次元好きの匿名さん23/03/21(火) 22:22:19

     驚いた。今日の放送、いや正確には昨日からの放送は日夜を問わず延々と続けられている!明らかに過去のややノイズが強い幼い声から、前聞いた音声、そしてこれまで流れることがなかった他人の声までが流れているのだ!内容は恐るべきほど雑多で、悲観的かつ楽観的、最早何を言っているのかを理解するのを放棄したくなるほどだった。私は思わずラジオを切ってしまった。これ以上聞いていると、頭が破裂しそうだったからだ。とは言え、やはり気になるものは気になる。1時間後、私は頭を落ち着かせながら、再びチャンネルを合わせた。ただ無音、ザーザーと音も流れぬ純粋な無音が流れていた。私はやはり何かあったのではないかと勘繰り、真剣に耳を澄ませる。
     そして更に30分後。急に「蛍の光」が流れ出し、今日を以て停波となる旨の放送が行われた。その声はこれまで聞いたことがないほど穏やかでよく澄んでいた。そして、チャンネル529から二度と放送が始まることはもう無くなったのである…。

     それから1週間後、私は普段どおりStarryで練習をしていた。あの放送の主が一体誰だったのかは気になるところだったが、今となってはそれはもうどうでも良かった。何故なら、その放送が終わった翌日、私達のバンドのリーダーの記憶喪失がすっかり治ったからだ。そういえば、ややノイズ混じりだったものの、あの放送からしていた声はその子に似ていたような気がしないこともない。音声周波数529kHz。私はおそらくこれから生涯二度と合わせることがないであろうチャンネルに思いを馳せつつ、私に呼びかけるその子の声に振り向くのであった。(了)

  • 66二次元好きの匿名さん23/03/22(水) 08:12:59

    これは山田…か?
    オカルト路線も良いね…

  • 67二次元好きの匿名さん23/03/22(水) 16:32:01

    甘酸っぱいものを書いてみたいな…。

  • 68二次元好きの匿名さん23/03/22(水) 22:26:35

     10年後の自分に向けて手紙を書こうという宿題が、小学生の時に出されたことがある。読み返す限り、確か私は記憶が元に戻っていますかと書いて、多分それを参観日にクラスの皆の前で読み上げた。その時の皆の反応は凄くギョッとしていて、何も言えなかったとリョウとお姉ちゃんは言っていた。まぁそうだろう。本当なら未来ある若人らしく、将来への展望を書くところであるべきを、私はそこで急に弔辞を読み始めたわけだ。引かれても仕方がないことであるが、その切実な思いは今日も変わっていない。私が自分自身に青い春なんてものが似合わないと思っているのは、その悲観的な思考にあるのだろう。何時記憶が吹っ飛ぶとも分からない自分にとって、青春の余韻なんてものを感じている暇は無かった。
     青春を全く楽しめないというわけではない。昔からの夢だったリョウとのバンドを結成することもできたし、いろんな紆余曲折もあったけれど、無事バンド活動も徐々に軌道に乗りつつある。それだけでもだいぶ上出来だ。けど不穏な想像が時々脳裏をよぎる。深層心理とやらが、所詮この世は泡沫の夢とばかりに話しかけてくるのだ。例え何度また忘れたとしても、記憶のバックアップは大量にしてきたから、いざという時はそれを読んで私を私にすればいい、そう返せば済む話なのだけれど、やっぱり不安は尽きなかった。時々、逆に私のことが忘れられるという夢を見ることがある。その時に決まって私は涙を流しながらはっと目を覚まし、そのまま朝がくるまで起きている。時々寝不足じゃないかと言われるのはそういうことだ。昔はほぼ毎日その夢を見て、泣きながらお姉ちゃんの布団に入り込んでいた。お姉ちゃんは気づいてないけど、いつも寝るときは一人分のスペースを開けている。私が入り込む内に自ずと癖になったのだろう。全くこういうところは律儀な姉である。
     とは言え、昔よりはだいぶ気楽になった。今日の私には結束バンドの信頼できる仲間と家族がいる。誰もいない家で、一人縮こまって帰りを待っていたであろう頃に比べれば幾千倍もマシだ。今、過去の私自身に対して手紙を書くとすれば、色々長ったらしく現状を書いた後短くこう締めるだろう。『安心してください。あなたは一人じゃありませんよ。』

  • 69二次元好きの匿名さん23/03/23(木) 07:28:14

    これは…完治してないタイプか

  • 70二次元好きの匿名さん23/03/23(木) 16:17:46

    ハッピーエンドを書きたいな…。

  • 71二次元好きの匿名さん23/03/23(木) 19:31:30

    つら

  • 72二次元好きの匿名さん23/03/23(木) 23:35:13

    虹夏ちゃんの記憶回復の記念ライブを行うことになり、沢山のお客さんがSTARRYに集まっていた。
    たっての希望もあり、今日のボーカルは、一曲だけ虹夏ちゃんがすることになった。
    歌う曲は『フラッシュバッカー』 私が一晩で書き上げた、いつか来るかもしれない今日のために作詞した曲だ。本当は内容が少しばかり照れくさいので別の曲にしようかと思っているところをリョウさんに横から掻っ攫われ、こうして曲をつけて初めて皆の前で披露する。
    「ハイ、みなさーん。それじゃ次の曲行きますよー!新曲『フラッシュバッカー』!歌うのは私達のリーダー、伊地知先輩でーす!」
    喜多ちゃんから虹夏ちゃんはマイクを受け取り、前口上を述べる。
    「ハイ、どーも。リーダーの伊地知虹夏でーす!何とこの曲は、私のために作られたそうで、私はあまり歌うのが得意じゃないけれど、せっかくなので一曲歌わせていただくことにしまーす。それじゃ、聞いてください。『フラッシュバッカー』。」
    リョウさんが合図を出すと同時に、私と喜多ちゃんはイントロを弾き始める。会場はこれまでの熱気は何処へとやら、すっかり厳かな雰囲気に包まれた。
    そして、虹夏ちゃんが静かに歌い始める。
    転換点 いつか あの書いた言葉たちは…

    私は演奏しながら、同時に今日まであった出来事を振り返る。
    『あ、いた―――――!』
    『ぼっちちゃんにはまだ秘密だよ♪』

  • 73二次元好きの匿名さん23/03/23(木) 23:37:23

    『あはは、ごめんね。何も覚えてないや…』

    『私、このバンドにいてもいいのかな。ねぇ、私はどうしたらいいと思う?』

    『また明日ね、ぼっちちゃん!』

    『ごめんね。もう…終わりにしよっか。』

    『私は私でいたいのに、なんでそうじゃないんだろう?』

    『本当は皆、私に無理に付き合わせているんじゃないかって思ったんだ。だから…』


    『お母さんに会いたいな…』

    『そっか、私、まだ子供だったんだな。』

    『皆!私やっと思い出したよ。遅くなってごめんね。』

    『ぼっちちゃんのロック、ちゃんと聞こえているよ!』

    弾いている内に止めどなく涙が流れた。確かに虹夏ちゃんを離すことなくそこにいて、しかもまたバンドをすることができる。その感慨は喜多ちゃんとリョウさんも同じようで、二人とも泣きながら演奏していた。

    そして最後、私達は思わず演奏を止め、虹夏ちゃんと合わせて歌うことにした。4人の声が初めて一つになる瞬間だ。


    君の言葉をぎゅっと 離さない 離さない… 『フラッシュバッカー 今も思い出してる』


    TVアニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」本PV


  • 74二次元好きの匿名さん23/03/24(金) 08:57:16

    保守

  • 75二次元好きの匿名さん23/03/24(金) 19:42:29

    保守

  • 76二次元好きの匿名さん23/03/24(金) 21:37:05

    虹夏ちゃんと皆には、このまま笑顔でいてほしい…。

  • 77二次元好きの匿名さん23/03/25(土) 09:28:45

    保守

  • 78二次元好きの匿名さん23/03/25(土) 21:19:48

    記憶が戻った虹夏ちゃんに、皆何か重い感情を持ってると丁度いい…

  • 79二次元好きの匿名さん23/03/25(土) 21:21:41

    今でも虹夏ちゃんを一人にせず誰かが常に一緒にいようとするやつですか。これじゃあ束縛バンド

  • 80二次元好きの匿名さん23/03/25(土) 21:31:22

    いつまたそうなるか分からないからね…。皆、怖いんだ。

  • 81二次元好きの匿名さん23/03/26(日) 01:46:50

オススメ

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