- 1第五園長21/11/21(日) 03:59:31
- 2第五園長21/11/21(日) 04:00:25
- 3第五園長21/11/21(日) 04:01:05
江戸の大通りに賑わいの絶える日は無い。そして天下の8代将軍吉宗もまた、ここにいた。
───お花、いりませんか?─
───お花、いりませんか?─
「お、お侍しゃんっ、おひゃな!いりませんか?」
─あうぅ…
「おお、これは見事な薔薇だ。1つ頂こうか」
「あ、ありがとうございまひゅっ!」
「ははっ、こちらこそありがとう。また、買わせてもらうよ」 - 4第五園長21/11/21(日) 04:01:48
「それで買ってきたのがこの薔薇なのかい、新さん?」
「ああ、見事な薔薇だろう。童(わらべ)の花売りだった。この薔薇も素晴らしいが、
健気に花を売る少女の姿もまた、1輪の花のように可憐であったよ」
「あら、そんならあたしも一目会いたかったねぇ。せっかくだ、この薔薇はここに活けておくよ」
「ああ、おかみさん助かるよ」
「えへへ〜。あのねお兄さま、今日ね、今日ね、
お花を買ってくれた人がいたの!」
「そうかー、良かったなライス。明日も頼めるかい?」
「うん!また行ってくるね!」
─ライスのお花で、誰かが幸せになってくれるなら─ - 5第五園長21/11/21(日) 04:02:26
翌日、大通りにて─
「お花、いりませんか?」
「お花、いりませんか?」
「ほっほっほ、そこのお嬢さん。素敵なお花ですね、1輪買おうかな」
「ありがとう、ございまひゅ!」
─あぅぅ…
「はっはっは、ところでお嬢さんは1人で花売りをしてるのかい?」
「ううん、お兄様がこのお花を作ってるの。だから、2人なの」
「そうか、お兄さんと2人かい」
(…こりゃ丁度いいわい)
「お爺さん、どうしたの?」
「いやいや何でもないよ、また買いにくるよ」
「うん、ありがとうございまししゃ!」
「さっきのお爺さん、笑ってくれたなぁ…。えへへ」
「昨日ぶりだな、お嬢さん」
「わぁ、昨日のお侍さんだ〜。今日も、お花買ってくれるの?」
「あぁ、また買わせて貰おうか」
「ありがとう、ございましゅ!」
あぅぅ… - 6第五園長21/11/21(日) 04:04:20
(おい、あのガキだ)
「やはり子供は国の宝よ。良い物を見たわ」
──お花、いりませんか?──
──お花、きゃっ──
──貴様、何をする!この我を武士と知っての狼藉か!?──
「む!騒ぎになっておる、行くか」
「小娘が!この場で斬り捨てても良いのだぞ!!」
グシャグシャ
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
「止めよ、子どもを泣かせるな」
「何だ貴様は!?纏めて斬られたいか!?」
「俺は天下の風来坊・徳田新之助。この場で腰の物を抜くと言うなら、俺が相手してやろう」
スッ チャキ…
「チッ、この落とし前は必ずつけるぞ!」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「謝るな。顔を上げろ」
「あ…、昨日のお侍さん…」
「また花を買わせてもらおうと思ってな。しかし、この花は踏まれてダメになってしまったか。とりあえず、あそこに行くか」
「え?」 - 7第五園長21/11/21(日) 04:05:06
「女将、客人だ」
「あら新さん、今日は随分小さいお客さんだねぇ」
「そうかい、そりゃ災難だったねぇ」
「ライスが悪いの。ライスがいると、周りの人を不幸にするから…」
「そんな事ないよ。ホラ、お茶だよ」
「ありがとうございま…ひゃっ!?」
バシャッ
「あっつ!あっつ!」
「アンタ、五月蝿いよ!ごめんねぇ、熱かったかい?」
「いや五月蝿いってお前、俺ァ」
「お黙り!向こうで着替えておいで!全く、鈍臭いったらありゃしない」
「やっぱり、ライスは悪い子なんだ…」
「そんな事ないったら。悪いけど新さん、後でこの娘を家まで送ってやってくれよ」
「元よりそのつもりだ、任せておけ」 - 8第五園長21/11/21(日) 04:07:31
「あぅ…、お煎餅食べ過ぎちゃったかな…」
「なに、子どもは元気が一番。女将たちも喜んでいただろう。
して、これがお主の家か。街から遠いな、不便ではないか?」
「ううん、お兄さまと一緒ならどこでも幸せだよ」
「ほう、兄上がいるのか」
「うん!あっ、お兄さま!」
「おお、ライスお帰り。…そっちの人は?」
「ただいま、お兄さま!この人は徳田新之助さん。ライスのこと、助けてくれたの」
「おお、それはかたじけない」
「いや、礼には及ばんよ。それより、ここにはお主ら2人で?」
「はい、手狭ですが幸せですよ」
「失礼だが、手に職はあるのか?」
「はい。この家の裏で、薔薇を育てています。それをライスに街で売ってもらってます」
「えへへ…。お兄さまはね、青い薔薇を育ててるの。…あっ!言っちゃったぁ…」
「青い、薔薇?」
「ああ、ライス。悪いけど、裏の花を見てきてくれないか?俺はこの人をもてなすから」
「うん、わかった」 - 9第五園長21/11/21(日) 04:09:23
「さて、改めて、ライスを助けていただき、ありがとうございました」
「何、子供は国の宝だからな。それを守るのは武士として当たり前の事よ。それより、青い薔薇とは何だ?この世にその様な物はなかったはずだが」
「それは…。いえ、あなたはきっと悪人ではない。お話しましょう」
「私とライスは、本当の兄妹ではありません。しかし、常陸国(ひたちのくに)の美浦村というところで本当の兄妹の様に暮らしていました。
私は、幼いながらに彼女の両親の花売りを手伝っていたものです。
ところが、彼女の両親がある日攫われました。とある山奥で見つかった時には、阿片を吸わされ、芥子を育てていました。
何者かが植物に詳しい者たちを集め、ご禁制である筈の芥子を育てていたのです。」
「芥子の花は阿片の原料でもあるが、同時に薬ともなる。その栽培は将軍家が厳しく制限していたが、10年ほど前に常陸で秘密裏に栽培されていたのが発見された。
常陸を治めていた先の水戸藩主・徳川宗政(むねまさ)によって一味は捕らえられ、打ち首獄門となった。
だが、阿片に身を冒された者は今も苦しんでいる、か」
「よくご存知で。医者は、彼らを治すには青い薔薇が必要だとライスに言いました。もちろん、青い薔薇なんて物はこの世に存在しません。
あそこで何も打つ手はないと知れば、ライスは死を選んでいたかもしれない。それを察した医者は、ライスに嘘をついたのです。
そして私はライスを故郷から連れ出す事にしました。青い薔薇は、この土地では育たないと嘘をついて」
「ふむ…」
「彼女の両親は、今も生きています。しかし、もうライスをライスと認識出来ないかもしれない。いつかライスが現実を受け入れる程に強くなるまで、私は赤い薔薇を育てるのです」
「二度と阿片が世に現れることはない。余が約束しよう」
「え…?」
「と、将軍が言っていたそうだ」
「それは良かった…」 - 10第五園長21/11/21(日) 04:10:40
「では、俺は失礼する。また、薔薇を買わせてもらうぞ」
「ありがとうございました」
「ありがとう、ございましひゃ!」
「半蔵、ライスシャワーに因縁をつけた武士はどうした」
「ハッ、大商人(おおあきんど)・越後屋五郎兵衛の屋敷に」
「俺があの場を収めた時に、視線を感じた。必ず、何か裏がある」
「上様、大事(だいじ)にござります」
「おその、何があった」
「越後屋五郎兵衛の屋敷で、芥子の花を見ました」
「何!間違いないのか!?」
「多くはありませんでしたが、間違いなく」
「まさか、狙いはライスシャワーの兄君か!?
して、越後屋はどうした」
「代官・米山権左衛門の屋敷に芥子を運び込むと口にしておりました」
「米山権左衛門、奴は確か3年前まで水戸藩にいたはず。さては芥子を隠し持っておったな、悪党めが」 - 11第五園長21/11/21(日) 04:12:30
- 12第五園長21/11/21(日) 04:13:21
「う、上様!?」
「なんですと!?」
ハハーッ
「芥子だけでなくどす黒い悪意を隠し持ち、罪なき人々を脅かさんとする代官・米山権左衛門!並びに、金儲けの為ならば罪無き人々を食い荒らす事を厭わず、美しい兄妹の愛を利用せんとした商人・越後屋五郎兵衛!断じて許せん!!」
「両名潔く腹を切れぃ!」
「恐れながら、恐れながら上様には血の花を咲かせていただきたく…」
「貴様、まだ罪を重ねるか!」
「者共かかれ!こやつは上様を騙る偽物じゃ!!」
「であえ!であえ!」
ドタドタドタ
スラァ…
チャキッ
「半蔵!おその!」
「「ハッ!」」 - 13第五園長21/11/21(日) 04:14:15
デーンデーンデーン
「助けてくれぇー!金ならやる!いくらでもやる!!」
ザシュッ
「ぐ……」
バタッ バタッ
「残るは貴様のみぞ、米山!」
「ぬぅ、きぇぇぇ!」
キン! ガッ!
「成敗!」
ドシュッ
チャッ キン
- 14第五園長21/11/21(日) 04:15:50
数日後…
「お兄さま、ただいま」
「お帰りライス。どうした?そんなに暗い顔をして」
「お兄さま、ライスね、今日街で青い薔薇が売ってたんだ」
「えぇ!なんだって…!」
「でもね、それは青い薔薇じゃなくて、赤い薔薇を藍で染めた物なんだって。青い薔薇なんて、本当は存在しないんだって!街の人が言ってたんだ…。
ねぇお兄さま、ライスは、やっぱり誰も幸せに出来ないのかな…?」 - 15第五園長21/11/21(日) 04:16:49
その夜──
「ねぇお兄さま、この川に青い薔薇があるの?」
「うん、そうだよ。見てごらん。川に落ちないようにね」
「うん…、でも青い薔薇なんて何処にも……?
ううん、ある。青い薔薇が、ある!」
それは、月の光を浴びて水面に写った薔薇だった。
トレーナーは1輪の薔薇を持ってきていた。
何の変哲もない、赤い薔薇を。
しかし水面のそれはゆらゆらと揺れ、どこまでも深い青だった。
「ね?本当に、青い薔薇はあったでしょ?」
「うん、本当に、本当にあったんだ!」 - 16第五園長21/11/21(日) 04:18:17
- 17第五園長21/11/21(日) 04:19:40
1日目
【SS】暴れん坊将軍U|あにまん掲示板元スレでキングヘイローとマチカネフクキタルを書かせていただいた者です。https://bbs.animanch.com/board/165620/※このSSは暴れん坊将軍の世界観にウマ娘が登場するSS…bbs.animanch.com2日目
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- 18第五園長21/11/21(日) 10:28:16