オリキャラ集めてバトロワ書きます2

  • 1◆xaazwm17IRZa23/03/31(金) 03:20:12

    https://bbs.animanch.com/board/1712644/?res=192

    https://bbs.animanch.com/board/1720355/?res=991


    「バトロワするからオリキャラ募集します」の3スレ目です。


    ※最初のスレで皆さんから頂いたオリキャラを元に私がデスゲーム小説を書くスレです。

    ※一か月で完結を目指しています。

    ※ジャンルの都合上、残酷なシーンが多く、キャラクターがどんどん減っていきます。ご了承ください。

  • 2◆xaazwm17IRZa23/03/31(金) 03:22:17

    ☆関係者ダイス

    せっかくクラスメイトなので、初登場の回で関係者ダイスを振らせていただきました……!

    関係人物dice1d33=30 (30)

    関係性dice1d100=51 (51)

    でダイスを振り、数字が大きい程好意を抱いています。


    だいたいの目安としては

    0~20 嫌い

    21~40 まあまあ嫌い

    40~60 普通(やや嫌いからやや好き)

    61~80 まあまあ好き

    81~100 好き


    ただ、キャラクターの設定によっては100でも0でも、あまり強い感情を向けないタイプのキャラもいると思うので、その辺りは設定に準拠します。関係値ダイスは設定を覆しません。

  • 3◆xaazwm17IRZa23/03/31(金) 03:23:04

    ☆アイテムダイス


    それぞれ生徒に配られるランダムアイテムは、初登場話にてダイスで決定しました。

    アイテムdice2d100=80 12 (92)

    左の数字が大きい程アイテムの当たり度が高くなり、右の数字が大きいほどアイテムのオリジナリティ(?)が高くなります。


    当たり度のなんとなくの基準としては

    0~20 外れ枠(鍋の蓋、フォークなど)

    21~40 やや外れ(ナイフ、ハンドアックス、鉈など)

    41~60 普通(日本刀、弓矢)

    61~80 やや当たり(拳銃類)

    81~100 当たり(散弾銃、ショットガンなど)

    かなりアバウトなので、上の表からズレる可能性もあります


    オリジナリティに関しては明確な基準がなく、低かったら原作に登場した武器、高かったら生徒の私物や皆さんの挙げたアイテムくらいのふわっとした認識です。

  • 4◆xaazwm17IRZa23/03/31(金) 03:23:32

    ☆幸運ダイス
    その話のキャラクターが「どれだけ思い通りにできるか」を判定するダイスです。
    ※90以上なら、どんな絶望的状況でも生存します。
    ※10以下なら、どんな安全な状況でも死亡します。
    低い程思い通りに進まず、高い程思い通りに進みます。
    ただ、参加者間の能力格差や装備の差、状況次第では、ダイスが高くても低い相手に敗北することがあります。
    また、10以上でも、状況によっては死亡します。50以下は危ないし、50以上でも普通に危ないと思っていただければ幸いです……! 絶対安全範囲は90以上からです……!

  • 5◆xaazwm17IRZa23/03/31(金) 03:26:30

    本スレの進行ですが、「安価系」のカテゴリに立っているにのに申し訳ありませんが、
    ①私の投稿が不安定で、安価に参加するには一日に何度もスレを確認しなければならない不親切な仕様
    ②時間帯によっては参加できない人も出てくるため
    ③皆さんのアイデアはなるべく取り入れたい
    という考えから、基本的に安価は取らず、ダイスと私の駄文で進行していきます……!
    ご了承いただけると幸いです……!

  • 6◆xaazwm17IRZa23/03/31(金) 03:31:06

    本スレは皆さんからオリキャラを募集し、私がそのキャラをお借りしてデスゲーム小説を書くという、かなり悪趣味なことを行うスレです。キャラクターはバンバン死んでいき、悲惨なシーンや猟奇的な描写もあります。ご了承いただけると幸いです……!

  • 7二次元好きの匿名さん23/03/31(金) 03:32:43

    たておつです

  • 8二次元好きの匿名さん23/03/31(金) 03:33:35

    建て乙

  • 9◆xaazwm17IRZa23/03/31(金) 03:33:44

    皆さんからは常時
    ・アイテム
    ・施設
    ・デストラップ
    ・ミッション
    などを募集しています。今後の展開に対する要望や、特定のキャラクターへアイテムを渡して欲しいなども受け付けています。ただ、上記のダイスにより、それらが叶わない可能性があります。これらもご了承頂けると幸いです……!

  • 10◆xaazwm17IRZa23/03/31(金) 03:35:51

    他にも質問などがあればどんどんお願い致します……!

    一応過去スレを見て頂ければ各用語の説明や、これまでの流れを終えるとは思いますが、質問いただければ、早めにお答え致します……!

    今後ともよろしくお願い致します……!

  • 11◆xaazwm17IRZa23/03/31(金) 03:47:04

    18話補足
    ・新條アキラはマジで七原枠を考えてたというか、「主人公」という属性持ちだし、主催の茜音沢の教え子だし、燃える剣とかちょうカッコいいしで、これからどんどん伏線を巻いて、対主催の中心として活躍させようと思っていたので……まさかここで落ちるとは……。闇堕ちした小田斬との剣士対決とか、終盤で茜音沢と師弟対決とか、色々構想があっただけに、正直1時間くらいPCの前で固まってました。昨日の小田斬でも思ったんですけど、幸運値ルールやめときゃ良かったなと……でも一度出したルールをここで曲げるわけにはいかず、(これからどうしよ)と思いながら泣く泣く18話を作製しました。
    ・キルスコア稼ぐはずだった小田斬が退場したことで対主催かなり有利になるはずだったんですけど、対主催要の新條アキラが堕ちたので、マジでどうなるかわかんないっぴ……
    ・文乃あかりも、登場話は過去の因縁の消化だけで終えてしまい、これから新條とタッグを組んで「明るい文学少女」というキャラクターで一種の清涼剤として活躍してもらう予定でした……。
    ・新條アキラ、文乃あかりの制作者様……活躍の機会が少なく、申し訳ありません……!

  • 12◆xaazwm17IRZa23/03/31(金) 03:53:12

    ☆宇都創希のスマホ☆
    ここに送られたレスは、宇都に伝わります。次の登場話まで反映されません。

  • 13◆xaazwm17IRZa23/03/31(金) 03:55:42

    午前6時~午前8時の

    1廃村

    2灯台

    3廃工場

    4防空壕

    dice1d4=1 (1)

  • 14二次元好きの匿名さん23/03/31(金) 03:57:54

    だいぶキャラ減ってきたし自作キャラがいつまで生きてられるのかとても気になる
    あと廃村楽しみ

  • 15◆xaazwm17IRZa23/03/31(金) 03:57:56

    第19話は午前6時~午前8時辺りの廃村が舞台です……!


    石川 大輔(いしかわ だいすけ)

    幸運dice1d100=89 (89)

    放送理解dice1d10=2 (2)

    金輪 幹久(かなわ みきひさ)

    幸運dice1d100=66 (66)

    放送理解dice1d10=4 (4)

    虎肝 ドラギモス(とらきも どらぎもす)

    幸運dice1d100=61 (61)

    放送理解dice1d10=4 (4)

  • 16◆xaazwm17IRZa23/03/31(金) 04:02:39

    この時間帯は放送に対する反応と今後の方針を決めるパートのはずだったんだよね
    なのにダイスを振る度に祈っているのが俺なんだよね

    以上の情報をもとに、第19話を作製します……!
    明日は19時頃から始めさせていただきます……!

    今日は更新が深夜になってしまい、本当に申し訳ありません……!
    また新スレを立てるのも遅くなってしまい、申し訳ないです……!
    皆さんの感想やアイデアに支えられてやっております……とても楽しいです……!
    ありがとうございます……!

    それでは、本日はここまでとさせていただきます……!

  • 17二次元好きの匿名さん23/03/31(金) 04:21:44

    >>12

    宇都くん、6時間の生存おめでとう。

    大切な友達3人を失ってしまった君の心中をお察しするよ。

    だが、思い出してみてほしい。

    文乃あかりを、新條アキラを、結栞奈を殺したのは本当に君だっただろうか?


    違う。

    クラスメイトの中に、君の友人を殺したジョーカーが紛れている。

    私が認めよう、君は主人公だ。

    卑劣なジョーカーの息の根を止めて、残りの友達を守ってご覧。

  • 18二次元好きの匿名さん23/03/31(金) 04:36:07

    乙でした
    安価カテにずっといた訳じゃないけどこんな良スレは初めてだなぁ

  • 19二次元好きの匿名さん23/03/31(金) 04:55:39

    21 霧田キルコ(空っぽ不良少女)
    【武器】六法全書,竹槍【状態】好戦,索敵,オルランド探索,復讐?【場所】西部樹海
    オルランドの死をもって茜音沢の指示に従い殺し合いに本格参戦。オルランドを復活させるため優勝商品を狙う。

    20 姫氏原小毬(悪霊に憑かれた少女)
    【武器】不明【状態】中立,隠避,負傷,恋人探索【場所】西部樹海
    恋人の堀木彩を探して廃校へ向かう。廃校に皆が集まっている場合、どんな惨状を招くかも忘れて。

    3 宇都創希(メカクレ)
    【武器】鎖鎌【状態】極めて不安定【場所】南部
    文乃を殺 害した後 新條と対決。勝利するもミニチュア砲を失った上嘘がバレて自分を見失う。

    10 新條アキラ(主人公属性)
    【武器】レミントンM31【状態】秩序,死亡【場所】南部,文乃と行動
    宇都と交戦し、殺 害される。死際に宇都の嘘を暴く。

    27 文乃あかり(幸運優勝者)
    【武器】グロック19 9ミリ【状態】秩序,死亡【場所】南部,新條と行動
    ミニチュア砲による不意打ちを受けて宇都に殺 害される。

  • 20二次元好きの匿名さん23/03/31(金) 09:01:02

    ミッションの案

    【名前】キラー・バスターズ
    【説明】
    会場内に無差別に生徒を攻撃するキラー(殺人役)がワープされる

    キラーは火炎放射器や銃器、大剣、長柄のような強力な武装をしているが異能は持たず防弾装備も有してはいないので各自の異能や支給武器での打倒は可能
    (武器や人数はダイスでもいいかもしれません)

    生徒は次の六時間まで生存するかキラーを排除しなくてはならない

    キラーにトドメを差した生徒には有益なアイテム(異能製の強力な治療薬、アサルトライフル等の重火器など)を与える

  • 21二次元好きの匿名さん23/03/31(金) 09:40:47

    幸運値ダイスは6時間に一回なんだっけ?
    それとも登場する度?

  • 22二次元好きの匿名さん23/03/31(金) 09:53:25

    今回は致命的な幸運値の人はいなかったけど、メンツ的には死人出てもおかしくなさそう

  • 23二次元好きの匿名さん23/03/31(金) 17:54:59

    アイテム案
    【名前】未来視のタリスマン
    【説明】ギョロギョロと動く目玉が貼り付けられたメダルのようなお守り。
    所持していると「接触すると大きな怪我を負う恐れがある物体」の接近を感知し、その軌道を数秒前から脳内に映像イメージとして投影する。対象は銃刀や格闘家の拳、落下してくる隕石まで「物体」であれば何でも感知するが霊体やエネルギーのようなものは含まれない。
    効果は自動的に発動し、3回発動すると目がボトっと落下して力を失う。

  • 24◆xaazwm17IRZa23/03/31(金) 19:09:55

    本日も始めさせていただきます……!



    >>19

    まとめありがとうございます……! 今回もわかりやすくて助かります……!



    >>20

    ミッション案をありがとうございます……! 殺し合いの停滞時あるいは終盤で使えそうなミッションですね……!





    >>21

    登場の度に幸運値ダイスを振らせていただきます……!

    第一回放送後に登場し生き残ったキャラも、第二回放送まで生きている保証は出来ません……!




    >>23

    ロッカーの武器枠あるいは隠しアイテムとして採用させていただきます……!


    19話は完成次第投下します

  • 25◆xaazwm17IRZa23/03/31(金) 19:27:11

    19話①を投下します。

  • 26◆xaazwm17IRZa23/03/31(金) 19:27:56

     石川大輔は、深い悲しみに包まれている。
     放送が始まり、敬愛する茜音沢が脱落者の名前を読み上げて言った。
     有象無象の雑魚共が死のうと別にどうでもいい。むしろ喧嘩の邪魔だからさっさと自殺して欲しい。
     石川を悲しませたのは

    「オルランド……麻井……結……」

     バスケターミネーター、オルランド。
     異能持ちの弓道部、麻井。
     怪異遣い、結。

    「お前ら、俺を置いて逝っちまったのかよ……!」

     皆、強かった。
     強い、はずだったのに。
     石川が一発も殴ることなく、石川を一発も殴ることなく。
     彼らは、居なくなってしまった。

  • 27◆xaazwm17IRZa23/03/31(金) 19:28:31

    「畜生…………、俺が何をしたってんだよ……どうして、こんな……あんまりだ……」

     放送では、新たな報酬が提示されていた。
     その中に含まれている文言。
     死者蘇生。

    「違う、違うよ先生……。死んだ人間は生き返らねぇ。だから戦うのは楽しいんだろ」

     涙を拭いながら、石川は立ち上がる。
     認めよう。彼らとはもう二度と戦えない。

    「なんか平和ボケしてたのかもな、俺。人っていつ死ぬかわかんねえ。こんな島なら猶更だ。……急がねえと」

     目指すは廃校。ロッカーを開けねば首輪爆破。……だからこそ全参加者が集まる。

    「みんな、俺が行くまで死なないでくれよ……!」

     戦闘狂は廃校を目指す。

  • 28◆xaazwm17IRZa23/03/31(金) 19:29:12

    19話①を終了します。
    時間を置いて、19話②を投下します。

  • 29二次元好きの匿名さん23/03/31(金) 19:31:46

    そうだよね推しが死ぬと悲しいよね…

  • 30二次元好きの匿名さん23/03/31(金) 21:11:01

    サイコパス描くの上手えなやっぱり

  • 31二次元好きの匿名さん23/03/31(金) 21:47:05

    狂人ほど真っ当に強い傾向がデスゲームとして100点満点
    そしてそんな中での下剋上ドラマが一番楽しみ

  • 32二次元好きの匿名さん23/03/31(金) 22:40:56

    武器案

    【名前】魔弾の鳥銃
    【説明】かつて悪魔と共に鋳造した魔弾を発砲したマスケット銃。魔弾に込められていた魔力に影響を受けたのか素人でもプロ並に当てる事ができる。ただし7発目は注意が必要。銃弾が自身に跳ね返る可能性がある。

  • 33◆xaazwm17IRZa23/03/31(金) 22:58:40

    19話②を投下します。

  • 34◆xaazwm17IRZa23/03/31(金) 22:59:29

     虎肝ドラギモスは、よく分からない、と周囲に思われている。
     性別もよく分からないし、性格もよく分からないし、経歴もよく分からない。異能があるのか無いのかもよく分からない。
     ドラギモスからすれば不本意な話だ。ドラギモスは自分の性別が■だと知っているし、■■■■■■で産まれ、■■■■■で■■■に■■、それ以来■■■■を■■■し、■■を■■■■■。ドラギモスという名前も■■で、■■■■■■な■■■■■■■に■■■■■。
     しかし、それが、他者に伝わることはない。

    『お、お前は苦手だ。お前の心は、読めない……』

     芝野にそう言われたとき、ようやくドラギモスはこれこそが異能なのだと理解した。他者に自分の情報が伝わらないという異能。
     ドラギモスに友人は少ない。胡散臭い、怪しい、裏がありそうというレッテルを貼られてしまう。どれだけドラギモスが自らを開示しても、それらは何故か他者に伝わらない。
     けれど、数少ない友人は居たのだ。

    「……結」

  • 35◆xaazwm17IRZa23/03/31(金) 23:00:09

     居た。
     もう居ない。
     ドラギモスの友人は、居なくなってしまった。

    「お前、死んだのか」

     計画は全て狂った。結の怪異「時空のおっさん」によって脱出するプランは全て白紙だ。

    (たぶんお前、何を具現化していいか迷ってたんじゃないか。……責任感強いもんな、どうすればクラスメイトの役に立てるか、色々考えてて、その隙を狙われたんだろうな)

     結は強者だが、抜けている面も多かった。殺し合いにおいて一人で生き残れるタイプではなかった。

    (僕が合流すれば色々カバーできたんだが。残念だぜ、結)

     ドラギモスは頭が良い。
     サンプルさえ集まれば首輪を解除できると自信をもって断言できる程度には。
     けれど、ドラギモスは高校生である。

  • 36◆xaazwm17IRZa23/03/31(金) 23:00:47

    多くの参加者が気づいたミッションのギミック、「他者の首輪を集めると有利」という部分に気が付くことが出来なかった。友人の死が、ドラギモスの頭脳に影を落としている。
     義務感に突き動かされ、ドラギモスは前に進もうとしたとき。

    「あれ、ドラギモスくんちゃんじゃないっすか」

     背後から能天気な声が聞こえた。
     既に声と口調で誰か分かっていたが、それでもドラギモスは振り返る。

    「……6時間ぶりか、金輪」

    「相変わらず外見と声のギャップすごいっすね……」

     外見だけなら堀木と遜色ないほどの美貌である。しかしそこから、色気こそあるがどう聞いたって女性とは思えない、というかCV神谷じゃんとなる声が聞こえてくるのだ。
     ドラギモスの外見にも声にも明確な理由があり、ドラギモス本人はまったく隠しておらず、何度か説明を行っているのだが、クラスメイトに伝わることはない。

    「■■■■■■■■■で、■■■■■■■■だからだよ」

     と、話しても、首を傾げられるばかりだ。

  • 37◆xaazwm17IRZa23/03/31(金) 23:01:22

     学業にも戦闘にも、生存にも役立たない異能。
     おまけに武器はDXである。荒事どころか運動全般が苦手だ。
     この島で最もか弱き生命体なのかもしれない。

    「一応聞くが、金輪はゲームに乗っているのか?」

    「乗るわけないっすよ。俺、喧嘩とか苦手っすから」

    「そうか。だったら一緒に行動しないか? お前も知っている通り、僕は弱いんだ。というか次の放送までに廃校たどり着けるかもちょっと危ういぞ」

    「それはいいんすけど……」

     金輪は気まずそうに空を見上げ、意を決したのか恐る恐る口を開いた。

    「……大丈夫なんすか」

    「何がだよ」

    「結さんとは、仲良かったっすよね?」

    「…………そうだな。クラスで一番仲良いのは、あいつだった」

     けど、とドラギモスは続ける。

  • 38◆xaazwm17IRZa23/03/31(金) 23:01:54

    「悲しんでたり、落ち込んでても、しょうがないだろ。泣いたら結が生き返るわけじゃないんだしさ。茜音沢先生は何でも願いが叶うとか死者蘇生がどうの言ってたけど、僕は信じない。……人は死んだらおしまいなんだ」

     ドラギモスの死生観、それは■■年前に、■■■■という■■■が起こり、そこで■■■ことで身に着けたのだろう。

    「ドラギモスくんちゃんは、強いっすね。俺は、駄目っス。亡くなった7人、みんな一度は料理を食べてもらったことあるんすよ。俺、まだ修行中で、大人になったら、もっともっと美味しい料理作れるようになるっす。そうしたら、クラスのみんなを呼んで、俺のレストランで同窓会とか、妄想してたんすよ……もう叶わないんすね。
     たぶん、俺無理っす。一生引き摺るっすよ、これ。吹っ切れる気、しないっすよ」

    「一生引き摺るだろ、そりゃ。クラスメイトが死んだんだぜ」

     ドラギモスは、前を向く。

    「だから、僕は茜音沢先生を、たぶんその背後に居る黒幕を許せない。絶対にこのゲームをぶっ壊してやる」

    「何か、アイデアがあるんすか……?」

    「僕は、この首輪を外せる」

  • 39◆xaazwm17IRZa23/03/31(金) 23:02:38

    「…………マジすか」

    「すぐには無理だ。サンプルをいくつか集めて解析すれば、外せる可能性が高い。……でも、サンプルを集めるってことは……金輪なら分かるだろ」

     首輪は、首についている。それを集めるということは。

    「クラスメイトの首を、斬り落とすってことっすか」

    「そうなる」

    「それって、許されることなんすか!?」

    「許されない。死者にだって尊厳がある。
     でも、尊厳を貶めないと、僕らはここから出られない」

     生き物は、他の生き物を殺して生きる。金輪も、つい数時間前に生息していたイノシシを殺し、食っている。食べてあげるのがイノシシのため、なんて価値観は金輪にはない。イノシシは食べられるために生きているわけではない。生きるために生きている。それを自らの食事のために殺し、食べた。イノシシも金輪に食べられることは不本意だったはずなのだ。
     生きるとはそういうことなのだ。
     潔白では、生きられない。

  • 40◆xaazwm17IRZa23/03/31(金) 23:03:03

    「そうしないと、脱出できないんすよね」

    「そうだ」

    「じゃあ、首を斬るのは俺がやるっすよ」

    「……いいのか?」

    「ドラギモスくんちゃん、箸より重たいもの持てないじゃないすか。俺は動物解体するの、慣れてるすから。…………人間の首を斬り落とすのも、そう苦労しないと思うっす」

    「……ありがとう、金輪」

     二人の脱出派は廃校を目指し歩き出した。
     生者以上に首輪が集まるであろう、廃校を目指して。

  • 41◆xaazwm17IRZa23/03/31(金) 23:03:23

    19話②を終了します

  • 42◆xaazwm17IRZa23/03/31(金) 23:04:32

    午前6時~午前8時の

    1灯台

    2廃工場

    3防空壕

    dice1d3=3 (3)

  • 43二次元好きの匿名さん23/03/31(金) 23:05:44

    首輪を取ろうとするのは死亡フラグだなぁドラギモスちゃん…

  • 44◆xaazwm17IRZa23/03/31(金) 23:07:21

    20話は午前6時から午前8時頃の防空壕が舞台です……!


    マネモフル=タマネ

    幸運dice1d100=39 (39)

    放送理解dice1d10=7 (7)

    三田 哲(みた とおる)

    幸運dice1d100=58 (58)

    放送理解dice1d10=10 (10)

    金木 冥(かねき めい)

    幸運dice1d100=53 (53)

    放送理解dice1d10=10 (10)

    千頭之 のづち(ちずの のづち)

    幸運dice1d100=41 (41)

    放送理解dice1d10=5 (5)

  • 45二次元好きの匿名さん23/03/31(金) 23:08:43

    探偵組の理解度が高いな
    金木が裏切らなければ一気に攻略へ近づけそう

  • 46◆xaazwm17IRZa23/03/31(金) 23:09:12

    以上の情報を元に、第20話を作製します……!

  • 47二次元好きの匿名さん23/03/31(金) 23:10:45

    幸運が全体的にしょっぱい……
    けど突出して高いキャラもいないって事で先が読めない

  • 48二次元好きの匿名さん23/03/31(金) 23:11:49

    そう言えば幸運で死体見つけるとかあるのかな?

  • 49◆xaazwm17IRZa23/03/31(金) 23:20:41

    >>32

    ありがとうございます。ロッカーのジャンル:武器に加えさせていただきます……!

  • 50◆xaazwm17IRZa23/03/31(金) 23:24:43

    20話①を短いですが投下します
    ちなみに運営はタフを把握してないらしいよ

  • 51◆xaazwm17IRZa23/03/31(金) 23:25:17

    「カリカリニ焼いてやねぇ、頭から食べるのも上手いで!」

     オオアナコンダとの激闘を征したマネモフルは、防空壕で火を起こすと、オオアナコンダの調理を始めた。

    「ククク……アナコンダは肉質、タンパク質、そしてミネラルが含まれた完全食材だぁ!」

    なんだか幸せな気分やなぁ、満腹になったからねとマネモフルが腹をさすっていると、「レクイエム」が響き、放送が始まった。
    7人の死んでいったクラスメイトに対し、マネモフルがどう思ったのか、外側からは何も分からない。

    「ふぅん、首輪を集める必要があるということか」

     どうやらロッカーのギミックに気づいたらしい。
     マネモフルは立ち上がった。廃校を目指すのだろう。

    「何やねんロングソードって。ワシは知らんで」

     ロングソードをその場に放置し、あらゆる意味で危険な男は動き出した。

  • 52◆xaazwm17IRZa23/03/31(金) 23:26:39

    20話①を終了します。

    20話②はがっつり考察する回になりそうなので、本日の投下はここまでとさせていただきます……!

  • 53二次元好きの匿名さん23/03/31(金) 23:28:11

    今日も乙でした〜
    マネモフルは出オチかと思ったけど結構生き残るの草

  • 54◆xaazwm17IRZa23/03/31(金) 23:30:20

    今回も感想・アイデア・まとめなどをお送りいただきありがとうございます……! 少しでも面白くなるように頑張ります……!
    元々このパートは各キャラの放送への反応・行動方針を示す繋ぎパートで、三日ほどで次の時間帯に進む予定だったのですが、思った以上にダイスが跳ね、5日経ってしまいました、進行が遅くて申し訳ないです……!

    それでは、本日はここまでとさせていただきます……! ありがとうございました……!

  • 55二次元好きの匿名さん23/03/31(金) 23:39:17

  • 56二次元好きの匿名さん23/04/01(土) 00:20:55

    そういえば明日は何時からですかね?

  • 57のづち作者23/04/01(土) 01:11:54

    ストームは蛇尾に伏したよ
    骨はマネモフルが食べ残してある

  • 58◆xaazwm17IRZa23/04/01(土) 01:26:46

    失礼致しました……!
    明日は休日なので13時頃から始める予定です……!

  • 59二次元好きの匿名さん23/04/01(土) 01:28:23

    そういえばストーム死んだのか…黙祷

  • 60二次元好きの匿名さん23/04/01(土) 09:54:01

    とりあえず保守

  • 61◆xaazwm17IRZa23/04/01(土) 13:59:13

    本日も始めさせていただきます……!

    20話②を投下します

  • 62◆xaazwm17IRZa23/04/01(土) 13:59:55

     放送が終わった。

     (もう7人も死んでる……)

     金木の心を再び絶望が支配しようとしていた。

    (みんなやる気満々じゃん……無理でしょこれ……)

     こちらを殺す気で向かってくるクラスメイトに、鍋の蓋でどう対抗しろというのか。

    (やっぱ自殺しようかな……その方が楽だし……)

     隣の冴えない男を見る。本人は鍛えているとのたまっているが、石川のような野蛮さは感じられないし、オルランドのような体格もない。

    (文化系の鍛えているは信用できないな……)

     かなり失礼なことを考えながら、それでも金木は三田に意見を求めた。

    「三田くんは、この放送どう思う? 7人も死んじゃって、頼りになりそうな麻井さんや結さんももう居ないわけだけど」

    「そうだね……運営はかなり焦っている、というのは分かったよ」

     三田の言葉は金木の予想を覆すものだった。

  • 63◆xaazwm17IRZa23/04/01(土) 14:00:28

    「どうして?」

    「ミッションと、追加報酬だよ。廃校に集まれ、ロッカーからアイテムを取れって、どうにかして殺し合いを活性化しようと試行錯誤しているのが見て取れる。追加報酬を今更提示するのも、思った以上に積極的な生徒が少なかったんだろうね。つまり……このデスゲームは、運営者の思い通りには全然進んでないってことさ」

    「じゃあどうして7人も死んでるの? 残りの生徒は25人、一人が一人殺したとして、25人中7人がゲームに乗ってるんだよ? 4人に1人以上が殺人鬼って、最悪の状況じゃん、あ、なんか言ってるだけで死にたくなってきた……」

     金木は鍋の蓋を使ったエキセントリックな自殺方法を考案しようとするが、三田は得意げに指を振った。うぜぇ。

    「本当に7人も積極的な生徒が居るのなら、運営はこうも焦らないと思うよ。ミッションも追加報酬も諸刃の剣なんだから」

    「向こうになんかデメリットあるわけ?」

    「勿論。まず、廃校に生徒を集めるとする。けどさ、茜音沢先生がいる本部って、廃校のすぐ近くにあるんだぜ。もし廃校に集まった生徒が、一致団結して、何らかの手段で首輪を解除した後、本部に総攻撃を仕掛けたとしたら……。集まるってことは大規模な戦闘が起こる可能性もあると同時に、大連合が結成される可能性もあるってことなんだ。そのリスクを冒しても運営は生徒を廃校に集めたかった。それだけ殺し合いは停滞していたんだと分かる」

  • 64◆xaazwm17IRZa23/04/01(土) 14:00:55

    首輪を解除し、本部の茜音沢、黒服たちと全面衝突する生徒たち。想像すると、金木はいい気分になった。暴力を得意とする人間が、自分の味方なのは頼もしい。

    「追加報酬もそうだ。ちょっとでも頭の良い人間ならば、このタイミングの追加報酬に違和感を覚える。そこから殺し合いが停滞していたので運営がテコ入れした、と思いつくのはそう難しいことじゃないよ。つまり、さっきの放送で運営は自らの底の浅さを露呈したことになったんだ」

    「あのさぁ、さっきから殺し合いが停滞しているって前提で話してるけどさぁ、7人死んでんだけど。『そして誰もいなくなった』でも6時間で7人死んだりはしないでしょ。殺し合い、めっちゃ活発じゃん。どこが停滞してんのよ」

    「え、金木さん、もしかしてミステリ好きなの……?」

    「今その話どうでもよくない?」

    「あ、うん、そうだね。つまりね、この7人の死が、殺し合い停滞の理由なんじゃないかと思ってね」

    「どういうこと? 普通は7人死んだら虐殺でしょ。何で7人死ぬと停滞するの?」

  • 65◆xaazwm17IRZa23/04/01(土) 14:01:24

    「その7人が、ゲームに乗っていて、なおかつ穏健派に返り討ちにあったとしたら」

    「…………なるほど、なくもないわ」

     死んだ7人を思い出す。ほとんど接点がない生徒ばかりだが。

    (目裏は、乗っていたとしても、おかしくはない。オルランドも意味わかんない理由で乗ってそう。金島も山野もメンタル脆そうだし乗っていても違和感ないわ。宇多、結、麻井は……まぁ、殺し合いで頭おかしくなって乗ってもおかしくないか)

     つまり、この6時間で起きたことは。

    「殺人者がことごとく討伐されたってこと?」

    「もちろん真相はそこまで極端じゃないのだろうね。でも、本来ならキルスコアを稼ぐはずだった生徒が振るわずに退場したのかもしれない」

     普通は違う。殺しに積極的でない者と殺しに積極的な者。勝つのは積極的な方だ。殺意を持った襲撃とはそれだけ脅威なのだ。
     しかしこれはあにまん高校3年1組に当てはまると考えると、微妙なラインだ。例えば金木が「私が優勝するためにはみんな死ぬしかないじゃない!?」と突っ込んでも、殆どの生徒に返り討ちに遭うだろう。

  • 66◆xaazwm17IRZa23/04/01(土) 14:02:06

    ゲームに乗った生徒たちが各自ゲームに乗っていない生徒たちに襲いかかり、返り討ちに遭って死亡した。突飛だが、絶対にありえないとは思えない推測だった。

    「もしかしたらこの島にはもう、ゲームに乗った参加者はいないのかもしれない。なんて、さすがに楽観論すぎるな。
    ただ、運営の想定以上に少なかったのは確かだ」

     優勝しなくても帰れるかもしれない。金木はその可能性を脳裏に留めておく。

    「見て、出口だ」

     二人はようやく地上に出ることが出来た。

    「ここって……廃校?」

    「まさか真上にあったなんて」

     廃校が初期位置であった五人を除けば、全クラスメイトの中で最も早く、二人は廃校に辿り着いたのだった。

    「じゃあ、ロッカーを探しに行こうか」

    「……ええ」

     その時だった。

    「助けて! 2人とも、助けて!」

  • 67◆xaazwm17IRZa23/04/01(土) 14:02:30

     防空壕から一人の女子生徒が飛び出してきた。
     小柄だがグラマーな体型。

    「千頭之さん!? どうしたんだい、急に……」

    「私の、私の友達がピンチなんだ!」

    三田哲。
    金木冥。
    千頭之のづち。
    三人の参加者が、廃校の前に集まった。
    そして、もう一人。
    マネモフル=タマネもまた、確実に防空壕の出口を目指して進んでいるのだった。

  • 68◆xaazwm17IRZa23/04/01(土) 14:02:57

    20話②を終了します

  • 69◆xaazwm17IRZa23/04/01(土) 14:03:45

    午前6時~午前8時の

    1灯台

    2廃工場

    dice1d2=1 (1)

  • 70◆xaazwm17IRZa23/04/01(土) 14:05:30

    第21話は午前6時から午前8時頃の、灯台が舞台です……!


    垣根 澄花(かきね すみか)

    幸運dice1d100=9 (9)

    放送理解dice1d10=3 (3)

  • 71◆xaazwm17IRZa23/04/01(土) 14:06:25

    ……以上の情報を元に、第21話を時間を頂き作製します……!

  • 72二次元好きの匿名さん23/04/01(土) 14:06:28

    あっ

  • 73二次元好きの匿名さん23/04/01(土) 14:11:16

    めちゃめちゃ減るじゃないですかヤダー

  • 74二次元好きの匿名さん23/04/01(土) 14:55:02

    防空壕組が出揃ったので

    1 石川大輔(戦闘狂)
    【武器】不明【状態】好戦,索敵【場所】廃村付近
    残ったクラスメイトと戦うために廃校を目罪す。

    
6 金輪幹久(美食家)
    【武器】魔法のクスリ【状態】秩序【場所】廃村付近
    虎肝と合流。彼(彼女)が爆弾首輪を解析するため、死体の首を切ることを提案する。

    32 虎肝ドラギモス(cv神谷浩史)
    【武器】DX日輪刀【状態】秩序,友人捜索【場所】廃村付近
    実は認識阻害系の異能者だった。爆弾首輪を解除する方法を見つけようとする。


    15 マネモフル=タマネ(マネモブ)
    【武器】コルトM1848拳銃【状態】好戦,索敵【場所】廃校地下防空壕
    オオアナコンダのストームを殺して食べた。防空壕の出口へ向かおうとしている。

    
16 三田哲(高校生探偵)
    【武器】バール【状態】秩序,推理【場所】廃校地下防空壕→廃校,金木と共に行動
    金木と共に廃校に到達。運営側の考えを看破する。

    19 金木冥(薄っぺらな邪悪)
    【武器】鍋の蓋【状態】一時的秩序,好戦,保身【場所】廃校地下防空壕→廃校,三田と共に行動
    三田と共に行動。意外と気が合うかもしれない。

    24 千頭之のづち(蛇使い)
    【武器】丸腰【状態】中立,友人捜索【場所】廃校地下防空壕→廃校
    三田、金木たちと合流。マネモフルの接近を2人に伝え、助けを求める。

  • 75二次元好きの匿名さん23/04/01(土) 19:26:30

    防空壕三銃士、バール持ちでバリツかじってる三田はいいとして
    他二人が異能力者異能抜きとE:おなべのふたなの結構キツそうだが

  • 76二次元好きの匿名さん23/04/01(土) 19:50:25

    他が真っ当な異能バトル漫画の能力してる中ドラギモスくんちゃんだけアンデラみたいなハズレ能力なの可哀想

  • 77二次元好きの匿名さん23/04/01(土) 20:33:35

    灯台にもう一人しかいないのにどう死ぬんだろうねほんと、不思議だねハハハ…うん

  • 78二次元好きの匿名さん23/04/01(土) 21:01:35

    >>77

    オルランドとの戦いでボロボロだからね

    デストラップに出会したらアウトよ

  • 79二次元好きの匿名さん23/04/01(土) 21:19:19

    なかなか更新がないけど
    スレ主的にもかなり想定外なんだろうな

  • 80二次元好きの匿名さん23/04/01(土) 21:28:42

    【名前】強化剤(小麦粉)
    【説明】ラベルに強化剤と書かれている小瓶に詰められたただの小麦粉。これが持たらす薬効は無くせいぜいプラシーボ効果による自己暗示じみた薬効のみ。

    アイテム案

  • 81二次元好きの匿名さん23/04/01(土) 22:25:29

    >>79

    元々は一週間で完結する予定だったみたいなんだけど、思ってた以上に凝った内容になってんよな

    多分リアルスケジュールで余裕がなくなってるっぽい


    面白いスレなんで、のんびり待ちましょうや

  • 82◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 00:30:15

    第21話を投下します

  • 83◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 00:30:53

     『魔弾の射手』。
     ドイツの作曲家カール・マリア・フォン・ウェーバーが遺したオペラ。ロマン主義を代表する作品であり、後の楽劇王リヒャルト・ワーグナーにも影響を与えたという。



     オルランドとの死闘を征した垣根は、休憩がてら灯台を探索していた。

    「……宇多も、オルランドも、碌に探索してなかったのね」

     灯台最下部の隠し扉。その先に、一つのアイテムが隠されていた。
     マスケット銃である。
     既にベレッタ、毒ボウガンを所持している身としては、これ以上の銃器は必要ないといえば無いのだが。
     数時間前の死闘を思い出す。垣根は何度も銃を取り落とし、その度にピンチに追い込まれた。普段やっているサバゲ―と違い、銃は予備が合った方がいいと思い直し、マスケット銃を手に取る。

    「弾丸は七発。マスケット銃なんて、使うのは初めてだけど……」

  • 84◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 00:31:27

     それでも十全に使いこなせるのが垣根である。ジャンルがサバゲ―ならクラス最優の自負がある。

    「全身の痛みも少しはマシになってきたし……これからどうしようかしら」

     その時、放送が聞こえた。



    「何がミッションよ、馬鹿教師!」

     垣根は、樹上を疾走していた。
     パルクールを得意とする垣根にとって、枝から枝へ忍者のように移動することはそう苦ではなかった。それでも、数時間前の死闘の傷がずきずきと痛むので、こういったアクロバットは控えたかったのだが。

    「廃校めちゃくちゃ遠いじゃないっ!」

     西端にある灯台から、中央近くの廃校まで、かなりの距離がある。
     6時間で間に合う距離なのか、垣根の地図感覚としては微妙だった。否、例え間に合うとしても、道中何が起きるか分からない。やるべきことは手早くやるのが垣根のスタイルだ。例え全身が痛んだとしても、ゆっくり廃校を目指すという選択肢は存在しなかった。

  • 85◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 00:32:17

     と、人の気配を感じる。
     垣根は足を止め、周囲を探った。
     今まで出会ったクラスメイトは、全て死亡している。
     7人の死亡者のうち、3人は垣根の目の前、あるいは声が届く距離で亡くなっているのだ。
     そして、二人の生徒を殺したオルランドもまた、既に故人である。

    (案外ゲームに乗ってる馬鹿は少ないみたいだけど……)

     それでも油断は出来ない。
     今はデスゲームをしているのだ。そして垣根はもう人を殺す覚悟を手に入れている。

    (金島……あんたの暑苦しい正義、受け取ってあげるわよ……)

     相手は一人のようだ。
     単独行動を取っているということは、ゲームに乗っている可能性が高い。
     もちろんそれだけで撃つような真似はしないが……。
     垣根はマスケット銃を取り出し、構えた。

  • 86◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 00:33:11

     暗がりから、男が姿を現す。
     それは、垣根のよく知っている人物だった。
     背が高く、ワイシャツを着ていて、細く引き締まった体格をしている。そして、その首に首輪は付いていなかった。

    (茜音沢……!?)

     自分たちに殺し合いを強制している張本人との、6時間ぶりの出会いであった。

     ◇

    「この辺にあるんですか、その例のアイテムっていうのは」

    『ふむ、元々は目裏会長が自分の娘のために用意したアイテムなんだがNE、君も知っている通り目裏雨子は退場しているだろう。だったらこっちで回収しておこうと思ってNE、君にお願いしたわけなんDA』

    「それは構わないんですが……別に放置でもいいのでは? 置いとけば参加者が殺し合いで活用するでしょ」

    『駄目だNE、あれは殺し合いのバランスを大きく崩してしまうんDA。元々は愛娘が絶対に優勝できるように用意されたアイテムだからNE。そんなもの、殺し合いでは許されないんDA!』

  • 87◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 00:33:58

    茜音沢は溜息をつく。教師時代も、今も、結局は中間管理職である。しかし茜音沢は甘んじて邪悪の手先と化した。……ある目的のために。

    「また見つかったら連絡します。その時はワープをよろしくです」

    『君の実力なら例え生徒に見つかってもどうってことはないだろう? 首輪爆破のリモコンが無くてもSA』

    「……俺は運営側の人間です。俺があいつらを殺したら、スポンサーの皆さんもお怒りになるでしょう」



    (間違いない、茜音沢だわ……。どうしてここに……?)

     こちらに気づいた様子はなく、スマホで会話をしている。
     無防備だ。
     今なら、殺せる。

    (ここでこの馬鹿教師を殺せれば、殺し合いは終わる……? 少なくとも、向こうの戦力は一つ削れる……)

     失敗すれば、首輪を爆破されて死ぬ。
     けれど、成功したら……。

  • 88◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 00:34:52

    (……金島、あんたから正義を託されたもんね。ここで逃げるわけにはいかないわ)

     マスケット銃で狙いを定める。
     狙うは後頭部。
     一撃。一撃で、全てが終わる。

    (…………撃つ)

     撃った。
     弾丸が、真っすぐに飛んでいく。
     金属音が、響いた。

    (……嘘でしょっ!)

     鉄棒。
     そうとしか形容できない鉄の塊が、垣根の弾丸を受け止めていた。

    (どうして分かったのよ!?)

    「殺気が漏れてるぞ、垣根」

     茜音沢が口を開く。

    (不味い、私だってバレた。首輪を爆破される……!)

  • 89◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 00:35:24

     咄嗟に首輪を握る。対処手段はない。もう死ぬしかない。

    (くそっ……せっかく生き残ったのに、せっかく託されたのに)

     あっけない幕切れ。垣根は死を覚悟する。
     しかし。
     茜音沢はスマホをポッケに仕舞った。
     そして、鉄棒を構え直す。

    (……どうして首輪を爆破しないの?)

     運営への攻撃という明確なルール違反を犯しているにも関わらず、垣根は死んでいない。

    (爆破できるリモコンを持っていない? あるいは、通信距離に入っていない……?どちらにせよ、これはチャンスだわ……)

     垣根はマスケット銃に弾を装填し。

    (ここで、仕留める)

     覚悟を決めた。
     状況は、垣根に有利である。

  • 90◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 00:35:51

     向こうの武器は鉄棒。こちらはベレッタ、毒ボウガン、マスケット銃。
     フィールドは森林。垣根は常に『高い位置』を取りながら、狙撃を行うことが出来る。

    (勝負よ馬鹿教師……!)

     垣根は枝を蹴った。

     ◇

     殺気で分かる、と茜音沢は言った。
     それで銃弾弾かれたら溜まったものじゃないが、現実に受け止められている以上、受け入れるしかない。
     殺す気で撃つと当たらない。

    (いきなり無理難題……でもないわね)

     殺す気で撃たなければいいだけだからだ。
     元々垣根は殺し屋でも軍人でもない。超高校級のサバゲ―女子である。
     殺さない戦いこそが真骨頂。

  • 91◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 00:36:19

     樹々を猿のように移動し茜音沢に居場所を悟らせない。オルランド以上に、近づかれれば終わりということは分かる。枝から枝へ。幹から幹へ。場合によっては一度地面に降り、再び枝へ飛び移る。
     時折、小石を投げて無人の枝をしならせ、相手を攪乱する。
     そして、頃合いを見て。

    (倒す……!)

     マスケット銃による、二発目の発砲。
     再び、金属音。
     またもや、鉄棒で受け止められた。

    (くそ、今度は殺気を込めてないのに……!)

     どういう理屈で弾丸を受け止めているのか。
     何かの異能によるものなのか。
     それとも、弾丸を視認し、反射神経で受け止めているのか。

    (『落花果』だって使ってるのに……!)

  • 92◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 00:36:52

     オルランドでさえ掴めはしたが勢いは殺せなかった垣根の異能。それが、茜音沢の鉄棒は微塵も揺るがない。

    (銃で茜音沢は倒せないってこと……?)

     否、まだだ。まだ垣根は全てを出し切ったわけではない。
     鞄からベレッタを取り出す。
     マスケット。ベレッタ。異色の二丁拳銃。

    (手が使えない分、機動力は落ちるけど、これなら)

     後方で轟音が聞こえた。

    (何? 爆弾……?)

     樹々が、次々に倒れていく。

    (嘘……!)

     垣根は急いで枝を蹴ったが……。
     次の枝に飛び移る前に、四方から倒れる樹々の倒壊に巻き込まれ、大地に落下した。

  • 93◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 00:37:26

     茜音沢のやったことはシンプルだった。
     周囲の樹木を、手あたり次第に鉄棒でへし折る。言葉にすればあまりにも簡単な、実際に行えばあまりにも困難なことをあっという間にこなしてみせた。
     鉄棒でチェーンソーを再現、どころか鉄棒で重機と同じ働きをする。あにまん高校最強の男、茜音沢仁史にとってこれらの行動は児戯に等しかった。
     巨大台風が通過したかのような惨状を示す森林地帯を、茜音沢はゆっくりと進軍する。
     ポケットから取り出したのは煙草だった。ピース。殺し合いにはあまりそぐわない銘柄を口に加え、煙を吐き出す。

    「これで終わりか?」

     返答は、弾丸で来た。
     マスケットの弾丸。
     それを羽虫でも払うかのように鉄棒で弾く。

    「……あん?」

     同時に、鉄棒を後方に回転させ、ベレッタの弾丸を弾いた。

    「……どうなってやがる?」

  • 94◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 00:37:57

     垣根が得意とするのは二丁拳銃。そこまでは分かる。生徒のプロフィールは全て頭に入っている。……殺し合いが始まるずっと前から。
     問題なのは。

    「今、どこから撃った?」

     マスケットとベレッタの弾丸は、まったく違う場所からほぼ同時に放たれた。
     マスケットを撃って、移動してベレッタを撃った。否、そこまで高速で動けるはずがない。

    「二人居るのか?」

     それも否。感じ取れた気配は一人だけだ。武人である茜音沢に察知できない程気配を消せる人間が居るとは思えない。

    「……ということは」

     再び弾丸が来る。今度も、ほぼ同時。
     ベレッタの弾丸を首を捻って回避し、マスケットの弾丸を弾き落とす。やはり、弾丸が来た場所がバラバラだ。

    「アイテムの力か。垣根、お前隠しアイテムを見つけやがったな」

  • 95◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 00:38:21

    (これでも駄目かっ!)

     垣根は毒づく。灯台で見つけたマスケット銃は、ただのマスケットではなかった。弾丸を、撃った本人の意志で操れる。説明書などは一切用意されておらず、垣根は当初、ただのマスケットとして運用していたが、2発目を撃った段階から、違和感を覚えていた。初めて扱う銃、相手は茜音沢、いつ予想が外れて首輪が爆破されるか分からない。様々な状況から、弾丸は僅かに狙った位置から外れる。垣根の異能は狙撃を補正するものではないからだ。ところが。

    (微妙に弾道が修正されている感覚があったわ。何というか、撃った後微調整できている感覚が)

     気のせいかと思った。けれど、2発目の時点で気づく。これは、そういう武器なのだと。撃った弾丸をコントロールできる魔弾を撃てるマスケット銃なのだと。

    (だったらまだやりようはある……! それに、面白いものも見つけたし……)

     飛び移れる樹々は周囲に残っていない。他の樹々まで走るには、垣根の足は遅すぎる。平均的男子よりは遥に早いのだが、茜音沢には追い付かれてしまうだろう。近づかれたら、死しか待っていない。

    (短期決戦だわ……! 持ってる弾丸、全部使ってやる……!)

  • 96◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 00:39:06



     音が聞こえた。
     茜音沢はそちらに歩き出す。

    「楽しいか垣根」

     鉄棒を肩に担ぎ、鬼のように歩き出す。

    「殺し合いは楽しいだろ垣根」

     煙草を投げ捨て、堂々と歩く。

    「先生はな、楽しいぞ」

     修羅のように、笑う。

    「朱音も、楽しんでるといいなぁ……」

    「一人で楽しんでろ、変態教師」

     垣根は、正面から茜音沢と相対した。
     ベレッタの銃口を向ける。

    「くたばれ」

     撃つ。撃つ、撃つ、撃つ……!

  • 97◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 00:39:41

    ベレッタの弾丸を一気に撃つ。

    「…………やけくそになってもいいことないって、教えたはずなんだがなぁ」

     茜音沢は鉄棒を振った。それだけで、ベレッタの弾丸は全て地に落ちる。
     次はどうする、と垣根を見据えたとき。

    「シバクヤンケ」

     後方で、電子音声が響いた。

    「なっ!?」

     垣根は振り返る。いつの間にか、人型のロボットがすぐ傍まで迫っていた。
     鬱陶しいとばかりに垣根は鉄棒を振るった。

    「ヨワイヤンケ」

     ロボットは、その鉄棒を日本の鉄腕で受け止める。

    「何だと!?」

     樹々を一撃でへし折る茜音沢の一撃が、たかが人型ロボットが受け止められるはずがない。

  • 98◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 00:40:10

     しかしこのロボはただのロボではない。一人の邪悪が、娘にデスゲームを楽しませるために用意したチートアイテム。異能者が、強者が渦巻くこの島で、なお他の生徒を蹂躙し、娘が一切のストレスなくゲームを楽しむために作らせた最悪の親バカ兵器。
     本来使うはずだった少女は辿り着く前に死亡し、現在このロボットの主人は「垣根澄花」になっていた。
     倒壊に巻き込まれた際、垣根は偶然にも隠してあったこのロボを発見。即座に登録を行い、自身の道具としたのだ。

    「舐めるな鉄屑!」

     茜音沢の振るう鉄棒を、人型ロボは受け止め、受け流し、弾く。その動きには確かな武術を感じさせた。鉄の体に人間の技術。二つが組み合わさったこのロボは、なるほど確かに所有するだけでこの殺し合いで優勝しうるものであるのだろう。

    「シバクヤンケ」

     それでも、相対するのは茜音沢である。どれだけ生徒相手に蹂躙できようと、教師に勝てるかはまた別の話。茜音沢は攻め方を変えた。自分の戦闘スタイルが既に学習されていると理解したからだ。薙ぐ動作から、突く動作へ。一撃一撃が人体を容易く貫通する一撃は、それでも人型ロボへ浅く傷をつけるだけで終わる。が、それは一撃しか入れなかった場合の話である。

  • 99◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 00:40:35

     何度も。何度も。同じ個所を繰り返し攻撃する。

    「ヤメロヤンケ」

     徐々に火花が飛び散り、パーツが弾け、チューブが晒される。
     人型ロボが思わず、損傷部位を庇った。その隙に茜音沢の鉄棒が人型ロボの頭部を粉砕する。

    「ククク……所詮機械だな……っ!」

     風切り音が聞こえた。
     茜音沢は振り返る。
     二射のボウガンがこちらに向かって飛んでくる。
     撃ち終えたベレッタを捨てた垣根は、毒ボウガンに持ち替え、連続で装填し、発射していた。
     つまり、茜音沢と人型ロボの死闘は、その僅かな時間、二、三秒の出来事に過ぎないのである。
     今更ボウガンだと?

  • 100◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 00:41:01

     茜音沢は訝しむ。彼の動体視力は、ボウガンの先に毒が塗ってあることに気づく。が、当たらなければどうということはない。弾いてもいいし、交わしてもいい。ボウガンには操作能力が付随していないことは、飛び方を見れば分かる。
     垣根は片方の腕でマスケットを撃った。
     撃つ、撃つ……!
     二発の弾丸が、鼠のように自在に移動しながら茜音沢に迫る。

    「どれだけちょこまかしようが、無駄だぜ」

     茜音沢は鉄棒を構え直す。
     叩き落とした弾丸はもう操作できない。
     ならば鉄棒のリーチに入ればどうとでもなる。
     ちょこまかと動き回る弾丸は、やがて、既に撃たれていた毒ボウガンの矢に当たった。
     矢が、弾かれる。
     前へと、加速する。

    「あん?」

  • 101◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 00:41:44

    マスケットの弾丸が、次々と二つの矢を弾く。その度に矢は加速し、軌道を変え、いつしか、弾丸に混じって不規則な軌道を辿る。

    (そうか、操作できるマスケットの弾丸で、矢を操作可能にしたのか。考えやがって)

     それは、空中を走る鼠の群れだった。一つ一つは小さくとも、必殺の牙を持ち、いつかは猫をも噛み殺す、窮鼠の群れである。

    (だから何だってんだ?)

     茜音沢の前では、ただの大道芸に過ぎない。
     いつまでも空中を飛ばしていても、何も変わらない。
     それとも時間稼ぎのつもりか。
     茜音沢は前進を始める。
     弾丸が自由に動けるのは、茜音沢に到達していないからだ。
     近づけば、全て叩き落とされる。

    (どうするんだ、垣根。もう後がないぞ?)

     後方で、僅かな駆動音が聞こえた。

  • 102◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 00:42:06

    「コロスヤンケ」

     人型ロボットに内蔵されていたマシンガン、それが火を噴く。

    「チッ」

     茜音沢は鉄棒を払い、迫りくる弾丸を全て弾き落とした。同時に、鉄棒を人型ロボに叩きつけ、今度こそ完全に破壊する。
     しかしそれは、垣根に致命的な隙を晒すこととなった。
     魔弾が、矢を弾きながら、茜音沢に迫る。

    「だから……それがどうしたってんだ!」

     遅い。どれだけ弾丸が早くても、茜音沢には間に合わない。
     弾き落とす。鉄棒が薙ぎ払いの姿勢に入り。
     弾丸が二つ重なった。
     二つの弾丸は、毒矢の背後に回り——急加速させる。
     通常の弾丸の、何倍もの速さとなって。
     ——それでも、茜音沢には届かない。
     鉄棒は、なお速い。

  • 103◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 00:42:40

     毒矢は、弾き落とされる。

    (ここまでは、想定内よっ!)

     最後の毒矢が、その隙を縫うように、茜音沢の喉元を狙う。

    「だから遅えって」

     鉄棒は間に合う。間に合ってしまう。
     矢と鉄棒は接触し

    「何っ……!」

     茜音沢の体勢が崩れた。
     矢が、重い。
     隕石を受け止めたかのような重みを感じるのだ。

    「一体、どうなって……っ!」

     矢の後ろで、二つの弾丸が回転している。

    「馬鹿な、たかが弾丸だろ!?」

    「違うわ、この銃はね」

     灯台で見つけたこのマスケット銃は。

  • 104◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 00:43:07

    「撃てば撃つほど威力が上昇するのよ……!」

     一発目より二発目が、二発目より三発目が。
     そして、三発目より重い、四発、五発、六発。
     軽やかに動かしたことはブラフであった。
     バレないために三発目はわざと威力を落として撃っていた。
     その結果、生まれた。鉄棒と毒矢の拮抗状態。しかも

    「俺の鉄棒が……!」

     不死を殺す毒は、鉄にさえも有効なのか。じわじわと腐食していく。
     いずれ鉄棒は腐り落ち、毒矢は茜音沢の首を貫くだろう。

    「……仕方ねぇ。久しぶりに本気を出すぜ」

     周囲に闘気が殺到した。
     茜音沢の上腕が膨張し、額に青筋が浮かぶ。
     押し返される。弾かれる。
     たかが隠しアイテムと当たりアイテムでは、茜音沢は殺せない。

    (力を貸して、金島……!)

  • 105◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 00:43:28

     故に、垣根は火縄銃を取り出し、銃口を地面に突き刺した。
     そして、その上に飛び乗る。
     一時的に、茜音沢より「高い位置」に移る。

    (これで、終わらせる……!)

     落花果:相手より高い位置から放つ攻撃の破壊力・貫通力が上がる。
     七発目、最大威力のマスケット銃に、落花果が組み合わされば。
     茜音沢だって、殺し得る。
     垣根は銃口を引いた。



     それで、全てが終わりになった。

  • 106◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 00:43:57

     隠しアイテム。魔弾の鳥銃。素人でもプロ並みに当てることが出来、才ある者が持てば弾丸操作すら可能になる。さらに一発撃つごとに威力が上昇する。しかし、七発目は必ず撃った本人の心臓を射抜く。

  • 107◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 00:44:30

     何が起きたのか分からなかったのだろう。
     呆けた表情のまま、垣根は死んでいた。
     生徒の死体を見下ろしながら、茜音沢は煙草に火をつける。

    『終わったのかNE』

    「はい。例のアイテムも破壊できましたし、襲ってきた生徒も殺せました」

    『前者はともかく、後者はいただけないな。殺し合いに、運営が介入するのは許されないんDA!』

    「しかし爆弾卿、運営を襲うのはルール違反でしょう。ルールを破ったんですから、殺さなくては」

    『君なら殺さずに無力化できたのではないかNE? さっきの戦いも、最初から本気を出していれば瞬殺だっただろうに』

    「ここ半年、まともに鍛えてないですから。買いかぶりですよ」

     それに、茜音沢は煙草を投げ捨てる。

    「生徒相手には俺はいつだって本気ですよ」

     やがて、茜音沢は姿を消し、後には戦場のような破壊の痕と、心臓を射抜かれた少女の死体だけが残った。

    【垣根澄花 死亡】
    【残り 21人】

  • 108◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 00:44:44

    投下を終了します

  • 109◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 00:55:53

    21話補足

    ・皆さんもお察しの通り、ここで垣根澄花退場はめっちゃ予想外です。これだけ時間がかかったのも、ほとんど展開練ってる時間でした。遅くなって申し訳ないです……また、製作者様、イラストも頂いておきながら、活躍の機会が少なく申し訳ありません……!

    ・展開の都合上、募集したアイテムの設定を一部改変しました、改めてアイデアの提供ありがとうございます

    ・人型ロボは元ネタより大幅に性能は劣化しています

  • 110◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 00:58:06

    今日は残った廃工場組のダイスだけ振って終わりにしようと思います


    パンパンパン・ラッタッター

    幸運dice1d100=42 (42)

    放送理解dice1d10=7 (7)

    堀木 彩(ほりき あや)

    幸運dice1d100=23 (23)

    放送理解dice1d10=3 (3)

    ねうねい・めあめえ

    幸運dice1d100=42 (42)

    放送理解dice1d10=9 (9)

  • 111◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 00:59:54

    以上の情報を元に第22話を作製します……!
    明日は13時から開始します、もう少しこまめに投下できるよう心がけます……
    それでは本日はここまでとさせていただきます……! 感想・アイデア、ありがとうございました……!

  • 112二次元好きの匿名さん23/04/02(日) 01:00:36

    乙です
    幸運値10以上だからって死なないとは限らないんだよな……
    この場合堀木が危うい

  • 113二次元好きの匿名さん23/04/02(日) 01:07:10

    乙です。先生相手でも戦えてたし魔弾の効果さえ知ってればまだ行けたかもしれないけど…惜しい

  • 114二次元好きの匿名さん23/04/02(日) 01:09:58

    乙でした〜
    かなりキャラも減ってきたし話練るのが大変そうだな

    こういう話をして良いのか分からないけど自分で投げた数人のキャラが全滅しかけてるから毎回ヒヤヒヤしてる

  • 115二次元好きの匿名さん23/04/02(日) 06:21:30

    まさかさっそく魔弾の鳥銃が使われるとは…
    魔弾が目立つ話貰えて嬉しい

  • 116二次元好きの匿名さん23/04/02(日) 08:00:52

    ミッション報酬

    【名前】星5異能者復刻ガチャ
    【説明】
    皆さまがあまりにも報酬を信じて下さらないので、力の一端をお見せする事にしました。
    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
    最も貴重なアイテムとして、黄金のチケットが次のミッション報酬に追加される。
    これに伴い、島の特定の場所に存在するアイテムボックスがガチャマシンに変化。
    チケットを消費してガチャを行うことで、死亡した生徒の"異能"または"記憶"のどちらかを得ることが可能。
    チケットの総枚数には当然限りがある。

    扱いづらければ改変したり、弾いて頂いて結構です

  • 117二次元好きの匿名さん23/04/02(日) 08:06:26

    異能と記憶はプッチ神父のDISCみたいなイメージです

  • 118◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 13:28:26

    お待たせ致しました……本日も始めさせていただきます……!

    22話①を投下します

  • 119◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 13:28:55

     放送が聞こえた。
     「レクイエム」が使われたことに怒りを感じたことは、星峰と同じであった。
     そして、死者の名前が呼ばれ、その中に幼馴染の名前もあった。
     金島明宏。アキ。
     新聞部に所属する、正義感の強い男だった。
     彼はジャーナリズムで、ラッタッターはダンスで世界を変えようと誓い合っていた。
     そんな彼はもういない。
     ラッタッターは踊ろうとした。足が縺れて上手く踊れなかった。こんなことは今までなかった。心の一部がぽっかりと欠けた気がした。

    「ちょうちょの、ゆめだね、ふれんど(大丈夫、ラッタッターくん?)」

     工場の入り口に、人影が二つ。
     ねうねい・めああえ。護衛忍者。
     小柄な少女と大柄な忍者が、手を繋いで現れた。

  • 120◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 13:30:31

    「ほしのなみだ(それは辛いね)」

     ねうねいはそう言って、そっとラッタッターの背中を摩った。
     ねうねいが何を言っているのか、ラッタッターには分からない。けれど、彼女の心は、ラッタッターにも伝わっていた。
     アキはもう居ない。ならば自分がやるべきことは何なのか。——踊ることだ。
     自分にはそれしかない。それだけでいい。
     ラッタッターはその場で踊り出した。
     ねうねいはそれを微笑んで見守り、言った。

    「ぶれーめんの、ばんさんかいだよ、さぁ、いこう(いや、廃校行こうよ)」

  • 121◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 13:31:01

    22話①を終了します

    時間を置いて、22話②を投下します

  • 122◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 13:38:13

    >>74

    まとめをありがとうございます……! これ見ながら書いてる節もあります……! 助かります……!


    >>80

    意地の悪いアイテムですね……! ロッカーのジャンル:武器、あるいはジャンル:医薬品に加えさせていただきます……!


    >>116

    ミッション報酬ありがとうございます……一部改変して使わせていただくかもです……! 助かります……!

  • 123◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 13:45:38

    22話②を投下します

  • 124◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 13:46:06

     放送が聞こえた。
     七人のクラスメイトの名前が呼ばれる。

    「残念だよ……平和が一番なのに🥺」

     堀木は顔を俯かせる。彼には心がある。喜怒哀楽が存在する。
     できれば死ぬことは避けたいという生物らしい欲求もちゃんとある。

    「……まぁ、落ち込んでても仕方ないよねw」

     立ち直るのが異様に早いだけである。
     放送で追加された新情報、「ミッション」と「追加報酬」。
     「ミッション」については、漠然と廃校に言ってロッカーを探せばいいと理解。他人の首輪を集めたほうがいいという裏情報までは読み取れなかった。あるいはそこまで興味を持てなかったのか。
     追加報酬についても、堀木の心を擽るものではなかった。願いがないのか、それとも運営を信じていないのか、はたまた別の理由か。
     数多くのクラスメイトが死に、傷つき、土に塗れるなか、未だ堀木彩の美貌は一切の陰りを示していなかった。肉体も精神も、完全である。

    「廃校行ったらみんなに会えるかな~!(^^)! 小毬も来てるといいけど🤗」

     楽し気な表情を浮かべ、堀木は廃校へ向かう。

  • 125◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 13:46:21

    22話②を終了します

  • 126◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 14:00:49

    今後の流れですが、午前8時~午前10時の各視点を書きます。

    視点人物を一人ダイスで選び、その人物の周辺にいる人物も合わせてダイスを振り、作製していきます。


    視点人物

    dice1d32=12 (12)

  • 127◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 14:04:24

    12 パンパンパン・ラッタッターとその周辺人物


    ここに来て、廃工場の場所を設定していなかったので、ダイスを振ります。

    1廃校の近く

    2旧海軍台場跡の近く

    3樹海地帯の近く

    4廃村の近く

    5漁港の近く

    6廃医院の近く

    7灯台の近く

    8防空壕の近く

    dice1d8=7 (7)

  • 128◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 14:06:25

    廃工場は灯台の近く……ということは午前8時~午前10時段階では廃校に辿り着いていないと仮定し、周辺人物を決定します。

    パンパンパン・ラッタッター

    幸運dice1d100=71 (71)

    堀木 彩(ほりき あや)

    幸運dice1d100=65 (65)

    ねうねい・めあめえ

    幸運dice1d100=98 (98)

  • 129◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 14:07:17

    以上の情報を元に23話を時間を置いて作製します。

  • 130◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 15:36:37

    23話を投下します。

  • 131◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 15:37:12

     背後から足音が聞こえ、堀木は振り返った。
     異形の少女、背の高い黒人、屈強な忍者装束が歩いてくる。

    「うわー('Д')、なんかすごいメンバーだね😏」

     ねうねい・めああえ、パンパンパン・ラッタッター、堀木彩、ついでに護衛忍者、一癖も二癖もある人物が今ここに集ったのだった。

    「……金島くんのことは残念だったね(+_+)」

     ふざけているとしか思えない言葉に、ラッタッターは悲し気に頷く。
     悲しい。悲しいが、ここで負けるわけにはいかない。亡き友のために立ち上がらなくては。
     ラッタッターはその場で踊り始めた。
     ねうねいと堀木はそれを微笑ましそうに見守り、互いに視線を合わせる。

    「そういえばあんまり話したことなかったよね😀、ねうねいちゃんは探している人とか居るの(笑)」

    「まねもぶ(マネモフル=タマネ)」

     意外な人物の登場に堀木の顔が珍しく驚きで崩れる。

  • 132◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 15:37:57

    「へぇw……恋人とか?( *´艸`)」

     ねうねいは首を傾げ、やがて横に振った。

    「うみだよ、だけど、のどかなふれんずなんだ(違うよ、けど大切な人なんだ)」

    「あはは! ごめん、何言っている全然わかんない……😟」

     堀木がやや引きつった笑みを浮かべるが、次の瞬間には普段の怪しげで蠱惑的、しかし同時に天真爛漫な表情に戻る。

    「みんな廃校に行くんでしょう? 一緒に行かないかい(‘ω’)ノ」

     ラッタッターは頷く。
     ねうねいも笑顔を浮かべる。

    「とうぞくが、まちを、おそうかも。らんぷは、もってる?(ゲームに乗っているクラスメイトもいるかもしれない。武器はあるかい?)」

    「えっと……もしかして武器について聞いたのかな😅」

     堀木は鞄から、ランダムアイテムを取り出した。
     「ウィンチェスターライフル」。西部開拓時代に開発されたレバーアクションライフルである。古い銃だが、人間を殺すには十分な代物だ。

  • 133◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 15:38:24

     なお、今まで描写されていないが、ラッタッターのアイテムは薙刀であった。
     彼はそれをダンスに使うべく、今も持ち歩いている。
     護衛忍者、ライフル、薙刀。集まった三人は、その奇抜な個性とは裏腹に、武器はガチであった。

    「じゃあ行こうか(笑)。間に合わないと死んじゃうし、それは勿体な……」

     堀木の足が止まる。
     前方の森が、消失している。
     台風が通過したかのように。あるいは、爆弾が爆発したかのように。
     三人は垣根澄花の死体を発見するのは、その数分後のことであった。

  • 134◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 15:38:44

    23話を終了します。

  • 135◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 15:39:37

    24話の視点人物

    dice1d32=9 (9)

  • 136二次元好きの匿名さん23/04/02(日) 15:42:20

    ねうねいちゃんとかいうアウトプットがバグってるだけで発想はまともな子

  • 137◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 15:43:17

    24話は午前8時から午前10時の芝野 貴仁(しばの たかひと)とその周辺人物が登場します。

    舞台はとうとう廃校です。


    廃校組・防空壕組は合流するとして、距離的に廃病院と台場も合流でいいでしょう。

    廃村組が合流できるかだけダイス振ります。


    dice1d2=2 (2)

    1:合流できる

    2:合流できない

  • 138◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 15:49:01

    廃村組はこの時間帯にはまだ廃校に着いていないようです。


    とりあえず廃校に居る生徒全員の幸運値ダイスを振ります。

    篠宮 纏(しのみや まとう)dice1d100=49 (49)

    芝野 貴仁(しばの たかひと)dice1d100=9 (9)

    星峰 灼(ほしみね あきら)dice1d100=48 (48)

    瀧沢 魁(たきざわ かい)dice1d100=53 (53)

    歯荷 仄花(はに ほのか)dice1d100=63 (63)


    マネモフル=タマネdice1d100=39 (39)

    三田 哲(みた とおる)dice1d100=41 (41)

    金木 冥(かねき めい)dice1d100=86 (86)

    千頭之 のづち(ちずの のづち)dice1d100=80 (80)


    Nek-O(ネック・オー)dice1d100=45 (45)

    里美 綾香(さとみ あやか)dice1d100=35 (35)


    宇都 創希(うと そうき)dice1d100=12 (12)

  • 139◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 15:50:35

    ……以上の情報を元に、時間を頂き24話を作製します……!
    たぶん今まで一番長くなるので、分割しながらこまめに投下しようと思います……!

  • 140二次元好きの匿名さん23/04/02(日) 15:59:45

    あら…瀧沢ちゃんが曇ってしまう

  • 141二次元好きの匿名さん23/04/02(日) 16:06:00

    流石にこの人数をまとめて動かすのは難しいだろうし、どういう構成になるんだろうな

  • 142二次元好きの匿名さん23/04/02(日) 17:02:27

    割りと廃校が蠱毒になるなこれは

  • 143二次元好きの匿名さん23/04/02(日) 17:50:56

    大勢の合流はワクワクするな
    それにしても廃村組好きだけど廃校に来るのは怖いわ

  • 144二次元好きの匿名さん23/04/02(日) 17:58:00

    >>142

    放送があった時点で判り切ってたことだな!(白目)

  • 145二次元好きの匿名さん23/04/02(日) 21:21:59

    20以下の生徒はそんなにいないけど、高いのもそんなにいないから巻き込まれ死も多そうでヒヤヒヤする

  • 146二次元好きの匿名さん23/04/02(日) 22:33:23

    これは波乱の予感…

  • 147◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 22:45:31

    24話①を投下します

  • 148◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 22:46:23

    (どうしてこうなるんだ……?)

     上手くいかない。芝野がどれだけ頑張っても、何一つ事態は好転しない。
     クラスメイトの瀧沢がコモドドラゴンに噛まれた。毒により出血は止まらなくなり、芝野は素人なりに輸血処置を行い、一命を取り留めた。といっても毒を消せたわけではなく、現在も瀧沢の右手首からは出血が続いている。流れた分新しい血を入れただけであり、所詮は付け焼刃の処置、というか人間の体はそんな簡単に出来ていない。瀧沢の超人的な回復力とタフネスにより、治ったかのように振る舞っているだけだ。
     それも、限界に近い。
     壁に身体を預け、瀧沢は目を閉じている。意識を失っているのか、余計な体力を失わないよう、あえて安静にしているのか、外からは伺い知れない。
     瀧沢を助けるには、早くロッカーを開けなければならない。分かっている。分かっているが、

    「くそ……何だよこの扉は!」

     蹴る。当然びくともしない。

    「芝野くん。どいてくれ」

     そう言って篠宮が透明な銃で撃つ(当然弾丸も透明だ)が、扉はびくともしない。

    「駄目だ。もっと火力の高い武器じゃないと……」

    「じゃ、じゃあこれなら……」

     芝野が取り出したのは瀧沢のランダムアイテム、チェーンソーである。

  • 149◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 22:46:49

    エンジン音を響かせ、鉄の扉に刃を当てるが。

    「な、何なんだ、この異様な硬さは……!?」

     傷ひとつつかない。

    (これでも足りないっていうのか……! 他にどうしろと)

    「窓伝って外から行くのはどうでしょう……あら、窓が開きませんわ」

     歯荷がちゃっかりズルい提案をするが、窓が開かない。
     篠宮が窓に向けて発砲した。傷一つつかない。

    「……どうやら、これも何らかの異能の力のようだね」

     事態を静観(見てないけど)していた星峰が言う。
     その冷静な態度が、芝野には気に喰わない。
     瀧沢の命が危ないのに、どうして彼はこんなにも落ち着いているのか。
     芝野は相手の心が読める。だから分かってしまう。星峰は瀧沢の容態を心配し、どうすれば彼女が助かるのか、真剣に考えている。落ち着いているのは、瀧沢がどうでもいいからではなく、星峰が元来冷静で、頭脳が明晰だからだ。

  • 150◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 22:47:15

     よりシンプルに言えば、芝野より星峰の方が、器が大きく人間が出来ているので、落ち着いているのである。芝野はそう感じた。劣等感。何が嫌だって、この劣等感も恐らく星峰に読まれていることだ。

    「このままだと私たち、死んじゃいますわよー!?」

     歯荷が叫ぶ。
     芝野が心を読む限り、この女、若干ゲームに乗っている節がある。今のところこちらに積極的に害を為す気はなく、未だ誰も殺していないようだが、信用は出来ない。それでも、芝野が今歯荷を糾弾しないのは、ここで彼女を排除したら、開けられるロッカーが一つ減るからだ。瀧沢を助けるアイテムが手に入るまで、ロッカーガチャを繰り返さなければいけないのだから。

    「この扉が出ずっぱりだとは思えない。何らかの条件で解放されるはずだけど」

     星峰の言葉に芝野は頷く。
     一応門にも能力を行使してみたが、当然門に心があるはずがなく、そもそも人ですらないので、異能の適用外となった。
     ふと、星峰が何かに気づいたのか、扉に近づいた。

    「……アカネ、この扉の開け方を教えてくれ」

  • 151◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 22:47:48

    『承知しました。この門を突破するには幾つかの条件が御座います。①首輪の提供②エネミー型デストラップの撃破③向かい側に生徒が立つ』

     ロッカーと同じくアカネと名乗るプログラムによって制御されているらしく、扉から電子音声による返答があった。

    「……なるほど」

     永遠に閉じ込められるわけではないと気づき、芝野はホッとする。他のメンバーも同様らしく、張り詰めていた空気が僅かに緩んだ。

    「そ、それでどうする……? 首輪は持っていないが……」

    「エネミー型デストラップ……? 御免ですわ。どんな化け物が出てくるのか、分かったもんじゃないですわ」

    「そうだね。一番簡単なのは、向かい側に誰かが来ることを待つことだが」

    「だ、だが、間に合うのか!?」

    「……『自分のロッカー』と聞いて、まず連想するのは3年1組だ。全てのクラスメイトが真っ先にここを目指す。最初から廃校に居た僕たちが一番乗りなのは当然として、そろそろ他の場所に飛ばされていた生徒が来る頃合いじゃないかな」

    「ま、間に合うんだな……!?」

  • 152◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 22:48:14

    「……僕たちの首輪爆破には確実に間に合う、と断言できる。けれど、瀧沢さんに関しては、ごめん、分からないよ……。だから、そうだね。後1時間待って誰も来る気配がなければ、エネミー型デストラップとやらに挑戦しよう」
    「私は嫌ですわよ!?」

     歯荷は一瞬で瀧沢並みに顔を青白くさせた。

    「私たちはくそ雑魚なんですのよ!? どう考えてもデストラップとやらに勝てるとは思えません!」

    「お前、瀧沢を見捨てる気か……!」

    「見捨てますわよ……! 当たり前でしょう! 一番は自分の命ですわ!」

     悔しい。悔しいが、反論できない。
     しごく正論なのだ。
     瀧沢と歯荷は、あくまでクラスメイト。亡くなれば悲しいが、命がけで助けるほどの関係ではない。

    「ぎゃーぎゃーうるせぇよ芝野」

     座り込んだまま瀧沢が言った。

  • 153◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 22:48:47

    「歯荷の言う通りだぜ。アタシが死にかけてるのはアタシのミスで、それに歯荷が巻き込まれる謂れはねぇよ。何なら襲いかかってこないだけ感謝するべきなんじゃねーの? なぁ歯荷?」

    「な、わ、私はゲームに乗っていませんわ。勘違いしないでください」

    (げげ、何かバレてませんかしら、これ!? 私、そんなに怪しいかしら……?)

     芝野は黙る。瀧沢が大怪我をしたのは自分のせいなのだ。芝野のミスで、彼女は今、生死の淵を彷徨っている。

    「エネミーだっけか。たぶんコモドドラゴンみたいな奴がまた出るんだろ?……いぜ、アタシがぶっ倒してやるよ」

    「む、無茶言うな! お前、絶対安静なんだぞ!」

    「もやしっ子共に任せておけねえよ。ただでさえ人にアイテム恵んでもらう立場なんだ。ここで有用性を示すべきじゃねぇか?」

    (何ですのこの人? 価値観中世で止まっていらっしゃる?)

    「実際、僕たちじゃ戦力不足だろうね。けれど、今の瀧沢さんに戦わせるのも気が引ける。……とりあえず1時間待たないかい? その後改めてもう1時間待つか、デストラップとやらに挑戦するか考えよう」

  • 154◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 22:49:18

     星峰の言葉は一定の説得力を持っていた。歯荷も渋々頷き、芝野も一応納得する。瀧沢はシニカルに笑い、篠宮は一言も喋らず、事態を静かに見守っていた。
     何分経ったのだろうか。
     10分、20分、30分は経ったように芝野は思った。

    「足音が聞こえる」

     と、星峰が口を開いた。
     芝野もまた、能力で訪れた人物の心理を探る。

    「ちょっと待ってくださいまし。来た人物が乘っていたらどうするんですの?」

     今更のように歯荷が訊いた。

    「扉を開けるんですの? 私たちが扉の前に立たなければ、扉はずっと開かないのですから、息を殺してやり過ごしますの?」

    「……そうだね。相手によってはそうなる。向こうが諦めて別の場所に行くまで。それがどれだけ時間がかかるか分からないが」

     芝野は心配そうに瀧沢を見た。既に彼女の周囲には血だまりが出来ている。輸血した分が全て出てしまったのかもしれない。
     これ以上時間のロスは命に関わる。
     来た人物がゲームに乗っていないことを芝野は祈った。
     異能の射程範囲に入った人物の心の内は——。

  • 155◆xaazwm17IRZa23/04/02(日) 22:49:35

    24話①を終了します。

  • 156二次元好きの匿名さん23/04/02(日) 22:52:59

    ウワァ誰がくるんだこれ!?

    そして24話は長いから芝野は死ぬとしても終盤かも知れないのよね…

  • 157二次元好きの匿名さん23/04/02(日) 23:29:57

    今日はまだありそうで嬉しい

  • 158◆xaazwm17IRZa23/04/03(月) 01:23:50

    24話②を投下します
    本日最後の投下です

  • 159◆xaazwm17IRZa23/04/03(月) 01:24:21

    「私の、私の友達がピンチなんだ!」

     廃校を前にして、現れた女子生徒、千頭之のづち。

    (千頭之さんの友人……霧田さんか鰐淵さんか?)

     訝しみながらも、三田は千頭之を落ち着かせようとする。

    「何があったんだい?」

    「マネモフルが、マネモフルがいきなり襲いかかってきて、ストームが私を逃がしてくれたんだ!」

    「ストーム……?」

     綽名だろうか。

    「ああもう、蛇だよ! オオアナコンダ! 分かったら早く助けに!」

     三田と金木は顔を見合わせた。共に困惑の表情が浮かんでいる。

  • 160◆xaazwm17IRZa23/04/03(月) 01:24:52

    「相手はマネモフルなのよね……?」

    「そうだ! あいつ、絶対許さない……!」

    「自称鍛えてる三田君、マネモフルに勝てそう?」

    「言い方にそこはかとない悪意を感じるけど……無理だね」

    「そんな!? 強い武器とか配られてないのかい!?」

     三田がバールのようなものを示す。
     千頭之は悔し気に顔を歪ませる。この程度の武器では勝てないと彼女も分かっているのだ。
     一応金木も鍋の蓋を示した。

    「ふざけないでくれるかな金木さん!」

    「え、ごめんなさい……」

    「…………ひとまず廃校に行ってロッカーを開けないかい? ロッカーの中にマネモフルに勝てるアイテムが入っているかもしれない」

     え? と金木は三田に顔を寄せた。

  • 161◆xaazwm17IRZa23/04/03(月) 01:25:30

    「たかが蛇のためにマネモフルと戦うの? あいつ、石川がピックアップしてたクラスメイトの一人よ。無謀が過ぎない?」

    「さっき言っただろう。この殺し合いはショーの可能性がある。だったら、僕らでも強者に勝てる武器が手に入れられる可能性が高い。全てはロッカーを開けてからだ」

    「……私は嫌だからね」

    「探偵はね、確実な推理しかしないんだ」

     金木は納得したように、顔を離し

    「あれ? 別に関係なくないそれ?」

     と首を捻った。

    「話してないで早く廃校に行こう! こうしている間にもストームが……!」

    「分かった。ただ、先に来ているクラスメイトが待ち伏せしているかもしれない。慎重にね」

     三田哲、金木冥、千頭之のづち。廃校に新たに三人の参加者が加わる。
     しかし、これは廃校で起こる激闘の些細な先触れに過ぎなかったのである。

  • 162◆xaazwm17IRZa23/04/03(月) 01:27:46

    24話②を終了します。

    本日はここまでとさせていただきます……!
    来週からの予定ですが、24話はおそらく短くとも3日ほどかかると思われます、お付き合い頂けると幸いです……!

    明日は19時から始めさせていただきます……!

    今日も感想やまとめをありがとうございます……! またお手すきの時に見ていただけると幸いです……!

  • 163二次元好きの匿名さん23/04/03(月) 01:34:52

    乙でした〜
    楽しみにしてます

  • 164二次元好きの匿名さん23/04/03(月) 01:44:22

    こうなるとズレて到達する生徒の方がツイてるのかな

  • 165二次元好きの匿名さん23/04/03(月) 01:49:03

    久々に見たら作ったキャラが死んでた
    文乃ぉ……

  • 166二次元好きの匿名さん23/04/03(月) 02:29:02

    エネミー型デストラップって前に出てた2体1組のやつよね?
    撃破とかできるんかな

  • 167二次元好きの匿名さん23/04/03(月) 05:53:21

    こうみると垣根ちゃんが意味わかんない位強かった23話まとめ
    めあめえが堀木とラッタッターを何て呼ぶのか一生気になる


    18 垣根澄花(パルクール少女)
    【武器】ベレッタPx4ストーム,トダー,魔弾の鳥銃,毒のボウガン【状態】秩序,死亡【場所】灯台付近
    廃校に向かう途中茜音沢と戦闘。かなり追い詰めるも魔弾の効果により死亡。

    12 パンパンパン・ラッタッター(ダンス黒人)
    【武器】薙刀【状態】秩序【場所】不明な廃工場→廃校
    本当は踊りたかったが、めあめえに付き添う形で廃校へ向かった。下2人と共に垣根の死体を発見。

    14 堀木彩(イカれメス男子)
    【武器】ウィンチェスターライフル【状態】中立,恋人捜索【場所】不明な廃工場付近→廃校
    ラッタッター、めあめえと合流。間一髪で茜音沢の攻撃に巻き込まれずに済んだ。

    25 ねうねい・めあめえ(???)
    【武器】護衛忍者【状態】中立,友人捜索【場所】不明な廃工場→廃校
    ラッタッターを廃校に連れて行く。マネモフルを探索中。

  • 168二次元好きの匿名さん23/04/03(月) 06:03:48

    根拠はないけど芝野たちと合流するのは宇都と予想
    読心vs自分自身をも騙す嘘が見てみたい

  • 169二次元好きの匿名さん23/04/03(月) 13:41:20

    パルクールとサバゲーってすげえ!

  • 170二次元好きの匿名さん23/04/03(月) 14:41:26

    誰が死ぬか全然わからん…

  • 171◆xaazwm17IRZa23/04/03(月) 19:20:31

    本日も始めさせていただきます……!

    25話③を投下します

  • 172◆xaazwm17IRZa23/04/03(月) 19:21:00

     吾輩はNek-O(ネック・オー)である。殺されたことは、未だ無い。
     クラスでの吾輩の評価は二分されている。
    「かわいい」「思ったよりデカくて怖い」「欠伸してて可愛い」「喋り方がウザい」「喉を鳴らしてるのカワイイ」「猫のくせに私より勉強できるのムカつく」……。
     しかし吾輩は人間の評価など気にしていない。吾輩は吾輩であり、それ以上でも以下でもない。クラスメイトに好かれようが嫌われようが、どうでもいい。
     ……と、思っていたのだが、どうやら吾輩の考えは間違っていたらしい。
     殺し合いである。こんなことになるならクラスのマスコットを目指すべきであった。CV大谷育江枠に収まるべく努力するべきであったか。全ては後の祭りだ。「Nek-Oは可愛いから見逃してあげる」みたいな展開は期待できまい。吾輩はマスコットではなく、一匹の獣として殺し合いを生き抜かねばならない。
     鞄に仕舞った首輪の持ち主を思う。より正確には、麻井涼も首輪を付けられたのは不本意であっただろうから持ち主では無いのかもしれないが、まぁ便宜上持ち主であろう。
     吾輩が男子トイレを散策している間に、麻井は女子トイレで死んでしまった。「トイレの花子さん」とやらに殺されてしまったのだという。トイレの花子さん……何と荒唐無稽な存在か。サスペンスドラマで「被害者はトイレの花子さんによって殺されました」などと語られれば100%人間の仕業であろう。……待て、本当に人間の仕業なのではないか? あの女子トイレには麻井涼の他に里美綾香も居た。里美が麻井を殺した可能性もあるのではないか?

  • 173◆xaazwm17IRZa23/04/03(月) 19:21:20

     むぅ……いかんせん、ノイズが多い。世間一般の常識で考えれば、犯人は里美綾香だ。「トイレの花子さん」などというものは実在しないからだ。しかし、世間一般の常識で考えれば、そもそも吾輩のような人語を介し、七つの魂を持つ猫は居ない。異能者なる者も存在しない。しかし現に吾輩は実在し、異能者が通う学園に籍を置いている。また、トイレの花子さんとやらは吾輩も視認している。おかっぱ頭に赤いスカートの童女であった。
     果たして里美綾香は白か、黒か……。廃医院で流した涙は偽りだったのか……。
     考えても仕方ないのだろう。どのみち彼女を信用しているわけでもない。もし彼女がこちらに殺意を向ければ猫じゃらしで誘惑の後、牙を首筋に突き立ててやろう。奴の方が一枚上手で先手を取られたとしても、吾輩は七つの魂を持つ。どう転んでも吾輩の勝利は揺るがない。
     そんなことを考えているうちに、廃校に着いた。吾輩たちが通うあにまん高校とよく似ている。里美と共に外から様子を伺うが、戦闘音のようなものは聞こえない。もし吾輩たちのクラスメイト、それも上位層が戦えば、ここからでも分かるほど大きな物音を立てるはずである。

  • 174◆xaazwm17IRZa23/04/03(月) 19:21:47

    「吾輩たちが一番乗りであろうか?」

    「どうかしら、既に放送から2時間以上経過しているわ。先客は居た可能性が高い。……問題はその先客が移動しているか、待ち伏せているか」

     慎重に慎重を期し、吾輩は廃校の様子を探る。
     ……分らん。気配を探る、といったスキルは持ち合わせていない。嗅覚にはそれなりに自信があるが、どうも不明瞭なのだ。最近ずっと使っていないため、錆びついてしまったのだろう。

    「……ここで時間を潰しても仕方ないわね。行きましょう」

    「そうさな」

     吾輩は廃校に近づく。
     正門を通り、グラウンドの端を歩き、やがて本校舎の中に足を踏み入れた。

    「トラップの類は無いみたいだけど」

    「ふむ、油断はするなよ」

     まだ時間に余裕はあるが、早くロッカーに行かなければ。

  • 175◆xaazwm17IRZa23/04/03(月) 19:22:14

     さて、吾輩のロッカーは廃校のどこにあるのか。やはり3年1組の前だろうか。
     階段を見つけ、吾輩は段差に足をかけた。
     ——腹部に、熱が来た。

    「ぐっ……」

    「Nek-O……!」

     里美の叫び声。
     吾輩の胴体を、何か嫌な物が貫通した。それだけは分かった。

    「くっ……」

     里美が周囲に視線をやろうとして。
     銃声が響いた。
     里美は糸の切れた人形のようにその場で崩れ落ちる。
     それを見て、ようやく吾輩は理解する。
     銃撃されているのだ。
     一体誰が……!?
     吾輩は下手人を探そうと首を動かし。
     ——脳天を撃ち抜かれて、意識を闇に沈めた。

  • 176◆xaazwm17IRZa23/04/03(月) 19:22:43

    25話③を終了します

    時間を置いて、25話④を投下します。

  • 177二次元好きの匿名さん23/04/03(月) 19:25:45

    銃撃…犯人は限られてくるな…
    そして首輪があるとはいえやっぱり不死能力は強いか

  • 178◆xaazwm17IRZa23/04/03(月) 19:28:36

    >>167

    まとめありがとうございます……! 垣根はこの話で退場するのでぶっ壊れってくらいくそ強アイテムをゲットさせましたね……元々特技と異能が噛み合いまくってるやべー奴ではあったのですが……

  • 179二次元好きの匿名さん23/04/03(月) 20:03:00

    現状廃校にいて銃を撃ってくるってことはマネモフルなんだろうか…

  • 180二次元好きの匿名さん23/04/03(月) 20:09:58

    一応篠宮が見えない銃を持ってる、けどスタンス的に撃ちそうもない
    おそらくマネモフルによる犯行かと思われるが…

  • 181◆xaazwm17IRZa23/04/03(月) 20:13:50

    >>12

    廃校に行って、自分のロッカーをあけるんDA

    そうしないと、君の首輪がBOMB!

  • 182二次元好きの匿名さん23/04/03(月) 20:18:23

    不死身のNek-oはともかく里美ちゃんが"崩れ落ちた"のに死んでないのが気になるんだよな

  • 183◆xaazwm17IRZa23/04/03(月) 21:01:43

    25話④を投下します

  • 184◆xaazwm17IRZa23/04/03(月) 21:02:19

     殺し合いに参加させられた俺、宇都創希は、クラスメイトと合流するために、海岸地帯を走り回っていた。
     そこで恐ろしいものを見つけた。
     バラバラになって殺されている文乃あかりの死体。
     全身が黒焦げで、首を切り裂かれた死体、新條アキラ。

    「嘘だろ……!」

     文乃が、新條が、もう殺されてしまうなんて……!
     俺は新條が使っていたショットガンを調べ、放置することにした。砲撃、そして炎剣として使われたこれが、ショットガンとしての機能を果たせるとは思えなかった。幸い文乃の鞄の中身は無事で、俺は拳銃(正式名称なんか知らねぇよ、銃は銃だろ)を鞄に仕舞った。
     誰が新條と文乃を殺したのか。もう乗っている生徒が居る。
     右手からは常に激痛が発せられている。それだけ新條の攻撃は強烈だった。今こうして俺が生きているのも奇跡だ。

  • 185◆xaazwm17IRZa23/04/03(月) 21:02:45

     ん? どうして俺が新條に攻撃されたかって? だって俺はジョーカーだからな。新條アキラは強敵だった。
     放送は完全に聞き逃してしまったので、俺はスマホに頼ることにした。このスマホは俺のランダムアイテムだ。

    【宇都くん、6時間の生存おめでとう。
    大切な友達3人を失ってしまった君の心中をお察しするよ。
    だが、思い出してみてほしい。
    文乃あかりを、新條アキラを、結栞奈を殺したのは本当に君だっただろうか?

    違う。
    クラスメイトの中に、君の友人を殺したジョーカーが紛れている。
    私が認めよう、君は主人公だ。
    卑劣なジョーカーの息の根を止めて、残りの友達を守ってご覧。】

    何を言っているんだ?/やはりそうだったか。
    ジョーカーは俺だ/ジョーカーは敵だ。

  • 186◆xaazwm17IRZa23/04/03(月) 21:03:32

    俺は皆を殺すんだ/俺は皆を守るんだ。

    「…………嘘だけどな」

     疲労が溜まっている。
     右腕が痛い。畜生、マジで痛い。ちょっと洒落にならないくらい痛い。
     だから、幻想に縋りそうになる。
     分かってるよ、まだ俺は狂ってない。狂い切れていない。
     今日一日何があったのか、ちゃんと覚えている。
     そして、俺のやるべきことは変わらない。

    【廃校に行って、自分のロッカーをあけるんDA
    そうしないと、君の首輪がBOMB!】

    「やべーじゃん」

     痛みにのたうち回っている場合じゃない。
     俺は急いで廃校を目指した。
     まだ死ぬわけにはいかない。俺にはやるべきことがあるのだから。
     こんな痛みに負けるわけにはいかない。

    「新條、お前の仇、取ってやるからな!」

     かくして、道化(ジョーカー)が一人、廃校を目指す。

  • 187◆xaazwm17IRZa23/04/03(月) 21:04:01

    25話④を終了します
    時間を置いて、25話⑤を投下します

  • 188二次元好きの匿名さん23/04/03(月) 21:12:28

    廃校組はこれで出揃ったかな?
    合流話が楽しみだ

  • 189◆xaazwm17IRZa23/04/03(月) 22:46:01

    25話⑤を投下します

  • 190◆xaazwm17IRZa23/04/03(月) 22:47:11

     篠宮纏は、3階に集ったクラスメイトを今一度観察した。
     星峰灼。自分の生命線。彼を失った場合、「透明な武器」を作れる自分は、誰からも信用されなくなる。後、自分と口調が被っているのも気にはなっている。別にいいけど。
     歯荷仄花。いまいち信用できない女子生徒。彼女に銃を渡したくない。もしロッカーによって彼女が銃を手にしたら、それをこっちに向けない保証はあるのだろうか。

    (幸い、こっちも透明な銃を持っている。抑止力はあるけど……)

     もし歯荷がリスクを度外視して撃ち合いを始めた場合、勝てるかどうかは五分五分だ。どちらも素人。できれば撃ちあいは避けたい。

    (そして、新たに加入した二人)

  • 191◆xaazwm17IRZa23/04/03(月) 22:48:21

     芝野貴仁。同じボランティア部所属の男子生徒。読心の異能を持っている。テンパりやすいのが玉に瑕だが、人助けに熱心で、部内での信頼も厚い。星峰と同じく、自分の生命線になりうる存在。

    (三年一緒に活動してきた身だし、できれば死んでほしくないな……。でも、今の芝野くんは、酷く冷静さを欠いている。その原因は……)

     瀧沢魁。今まさに死にかけている少女。そして、このメンバーで唯一の武闘派。コモドドラゴンに噛まれた(コモドドラゴンとか居るの、怖っ! と話を聞いて思った)らしいが、芝野に輸血されて何とか命を繋いだ。右手からは出血が続いている。彼女を救うには血清あるいは何らかの解毒薬が必要らしい。そしてそれはロッカーに入っている可能性がある。
     だとすれば一刻も早くそれぞれのロッカーを開けて瀧沢を助けなければならない。
     ロッカーで手に入るのは①武器②医薬品③情報。幸い武器は篠宮が生産できる。解毒薬が手に入るまで医薬品を選び続けることに篠宮は異論が無かった。

    (それに……打算的な話だが、瀧沢さんが復活すれば戦力としては申し分ない)

     自分たちは弱い。瀧沢が健康ならば、四人でかかっても蹂躙されるだろう。

  • 192◆xaazwm17IRZa23/04/03(月) 22:48:57

    (だから早くロッカーを開けたいのだけど)

     扉。あるいは門。鉄製のそれは、篠宮たちの行く手を塞いでいる。
     篠宮の透明な銃弾も、芝野のチェーンソーも刃が立たなかった。
     恐らく、異能によるもの。
     星峰の推理ではそう時間を経たずに開くとのことだったが、篠宮は気が気ではなかった。瀧沢の体が保たないという理由もあったが、何より、自分の心配である。
     ロッカーを開けなければ首輪が爆発する。
     まだ、篠宮は自分のロッカーを開けていないのだ。
     怖い。
     このまま扉が開かなければ、後4時間も経たないうちに自分は死ぬのだ。不死太郎のように。あるいは数時間前に死んでいったクラスメイトたちのように。

    (まだか……)

     気が狂いそうだ。
     ようやく、星峰が足音を察知した。
     篠宮は救われた気分になる。

  • 193◆xaazwm17IRZa23/04/03(月) 22:49:42

     相手は何者だろうか。
     何者でもいい、と篠宮は思った。どれだけ危険な相手でも、扉さえ開けばここから移動できる。危険な相手をやり過ごしてロッカーを開けに行くことも出来る。
     僅か1時間あまりの拘束。しかしそれは篠宮の精神を摩耗させていた。
     芝野が目を瞑り、じっと扉の外を窺っている。
     読心で相手を探っているのだろう。便利な異能だ、と篠宮は羨ましくなる。
     ふと、星峰と芝野が目くばせをした。お互い、相手が何を感じ取ったのか、理解しているのだろう。

    「…………だ、大丈夫、安全、安全だ!」

     芝野は叫んだ。そして、門の前に立つ。

    「誰が来たんですの!? 早く教えてください!」

     歯荷が叫ぶ。

    「……今に分かるよ」

     星峰の声は落ち着いていた。危険な人物ではないらしい。
     ずずず……と引き摺るような音と共に扉が開いた。

  • 194◆xaazwm17IRZa23/04/03(月) 22:50:20

     現れたのは三人の人物だった。
     三田哲。
     金木冥。
     千頭之のづち。
     真っ先に門を潜ったのは千頭之だった。

    「ロッカー! ロッカーはあるの!?」

     その後を、金木、三田が潜り、集まっている五人に気づくと、警戒の表情を浮かべる。
     最後尾の三田が潜った瞬間、扉は煙のように消え失せていた。

    「一応確認しておくけど、君たちはゲームに……いや愚問か。乗った人間が五人で行動するとは思えない」

    「さすが三田君。その通り。僕たちはゲームに乗ってないし、君たちもゲームに乗っていない。……幸先が良いね」

    「まったくだな。合わせて8人。連続殺人事件が起こりそうな数だぜ、まったく」

    (また口調が似ている人が来たな……どうでもいいけど)

  • 195◆xaazwm17IRZa23/04/03(月) 22:51:02

     ちょっと自分のアイデンティティが不安になってきた篠宮(今から語尾に御座るとか付けるか。いや、もう遅いか)だが、ふと、扉が開く直前の星峰と芝野の目くばせが気になった。あれはどういう意図があったのか。安全なら、その場で安全だと宣言すればいいのに。

    (安全じゃないのか?)

     分からない。篠宮の深読みかもしれない。
     とにかく扉は開いた。早くロッカーを開けなくては。

    「無い! 私のロッカーが無い! どうしよう、早くストームを助けに行かないといけないのに!」

    「そ、そのことなんだが! お前たちのロッカーアイテムで、瀧沢を助けてくれないか!? ど、毒が回ってるんだ! は、早く解毒剤を手に入れないと……頼む、協力してくれ!」

     芝野は新たに現れた三人に頭を下げた。

    「どういうことなんだい?」

     探偵・三田哲が芝野に問いかける。

  • 196◆xaazwm17IRZa23/04/03(月) 22:51:32

    「ロッカーを開くと、①武器②医薬品③情報が選べます。瀧沢さんを助けるために医薬品を選んでほしい、とお願いしているんだ」

     星峰が簡潔に伝えた。

    「ごめん、無理……! 私は武器を手に入れてストームを助けないと……!」

     千頭之は狼狽しきった表情で拒否する。

    「え、知らんし。普通に武器欲しいんだけど」

     金木が真顔で拒否する。
     芝野の顔に絶望がよぎる。

    (どうやらまた一波乱ありそうだな……)

     篠宮は心中で溜息をついた。

  • 197◆xaazwm17IRZa23/04/03(月) 22:52:15

    25話⑤を終了します。
    時間を置いて25話⑥を投下します

  • 198二次元好きの匿名さん23/04/03(月) 23:25:21

    相手の状態的に仕方ないが芝野君の幸運が交渉面にも作用してるかと思ってしまう程に絶望的だ

  • 199◆xaazwm17IRZa23/04/04(火) 00:10:19

    金木冥のロッカーダイスdice1d100=29 (29)

  • 200◆xaazwm17IRZa23/04/04(火) 00:54:36

    25話⑥を投下します、本日最後の投下です

  • 201◆xaazwm17IRZa23/04/04(火) 00:55:34

     探偵、三田哲は早くもこの状況に順応した。
     否、元々こういう状況こそを得意とする。
     武器を配られて殺し合い、そんなことは探偵の仕事ではない。探偵とは、謎の解明者にして状況の裁定者なのだから。

    「ちょっといいかな」

     既に険悪になっている空気を少しでも改善するために、三田は手を挙げた。
     その場に居た全員の視線が三田に集まる。

    「ロッカーの件だけど、僕は医薬品を求めることに賛成だ」

    「じゃあ三田君はそうすればいいじゃん、ご自由にどうぞ」

     茶化すような金木の言葉に、三田は少々苛つきを覚えるが……我慢だ。

    「状況を整理しよう。まず、芝野くんは、医薬品が欲しい。より正確に言えば、血清ないし解毒剤が欲しい。間違いないかい?」

    「……あ、ああ。瀧沢は僕のせいでこんなことになっているんだ……! 僕には、責任がある……!」

    「だーかーらーさ、それ私ら関係ないじゃん」

    (金木さん、自殺しようとしてたとは思えない元気さだな、こういう時だけ強気になるタイプなのか)

     嫌な奴だ。ミステリ好き(疑惑)を差し置いても、仲良くはしたくないタイプだ。
     それでも今は、共に脱出を求める仲間である。

  • 202◆xaazwm17IRZa23/04/04(火) 00:56:31

    「次に、千頭之さんは武器が欲しい。マネモフル君と戦っている、ストームという蛇を助けるためにね」

    「ああ、私には力が足りない……。友達を助ける力が無い……。武器だ、武器さえあれば……」

     歯荷がドン引きしたように千頭之を見たが、三田は気にしないことにした。

    「ふむ。次に金木さん。君も武器が欲しい、で間違いないんだよね」

    「当たり前でしょ」

    「なるほどね。……状況を整理すると実に簡単だ。千頭之さん、金木さん、君たちの願いは……ロッカーを開けなくても叶うね」

    「え!?」

    「はぁ? どういうこと?」

     二人の女子生徒から驚きの声が挙がる。

    「二人が求めているのは、シンプルに言えば、『戦力』だろう? そのために、武器が欲しい。……戦力は、もう集まっているじゃないか」

     この場に集まった8人。
     三田、金木、千頭之の3人だった時と比べ、戦力は何倍も膨れ上がっている。

  • 203◆xaazwm17IRZa23/04/04(火) 00:57:12

     武器もレイピア、クロスボウ、チェーンソー。篠宮の異能も考えると、まだほかにも武器を持っている可能性がある。

    「いくらマネモフルが強いといっても、この人数でかかれば勝機はあるんじゃないか。それに、僕は鍛えてる。何より、瀧沢さんが回復すれば、十分な戦力じゃないか」

     金木はまだ半信半疑の様子だった。
     千頭之は、今にも死にそうな顔色の瀧沢を覗き込む。

    「……本当に、回復したら、ストームを助けてくれるのか?」

    「…………けけけ」

     瀧沢は力なく笑った。

    「アタシはさ、どっちでもいいんだよ……。生きてんだから、死ぬときは死ぬだろ……。お前の好きにしろよ……。まぁ、でも、そうだな、医薬品を選んだら、もやし共の代わりに戦ってやってもいいぜ。……ここで死んだら、アタシはともかく、ジークンドーが弱いみたいなイメージ付くの嫌だしよ……」

  • 204◆xaazwm17IRZa23/04/04(火) 00:58:12

    「……済まない。私は最低だ。マングースより酷い。クラスメイトが死にそうだったら、普通は無償で助けるべきだよな。分かっている、分かっているんだ。ただ、頼む、ストームを助けると約束してくれ……」

    「……知らねぇよ。生きてねぇもんは、助けらんねぇだろうが、よ……」

    「生きてる。あいつは強い子だ。きっと生きてるんだ! もし死んでいたら、私は、マネモフルを絶対に許さない……!」

    「……あー、分かったよ。生きてるなら助けてやるし、ストームとやらが死んでたら、ぎゃは、マネモフルをぶっ殺してやるよ……」

    「……ありがとう。私は医薬品を選ぶ。その代わりに、瀧沢さんも、他の皆も、私に協力してくれ!」

    「はぁ、何で私がマネモフルと戦わなくちゃいけないの? 蛇のために? 絶対嫌だわ」

     金木はなおも拒否を示す。

    「わ、私もちょっと荒事は……御免遊ばせ~」

     歯荷もまた、乗り気ではない様子を見せた。

    「いや、僕たちはマネモフルを倒すべきだよ」

     と、三田は断言する。

  • 205◆xaazwm17IRZa23/04/04(火) 00:59:01

    「彼はゲームに乗っている。生き残るには必ず倒さなくちゃいけない。そして、この場に居るメンバーで彼とタイマンで勝てる奴は居ない……わ、瀧沢さん睨まないでよ! 今の君なら、ってことだよ! いいか、残り25人、そのうち8人がこうして団結できているのは奇跡的な出来事なんだ。僕たちは本来、マネモフルのような強者に一人ずつ殺されていく哀れな犠牲者に過ぎなかった。けれど、今僕たちは8人居る。だったらこの8人で協力してマネモフルを倒してしまおう。歯荷さん、その方が生き残りやすいはずだ」

    「う、うーん、そう言われるとそんな気も……」

    (よし、歯荷さんはこれでクリアだ。後はこの問題児を……)

    「私は絶対嫌だよ。何で武器も恵まれてないのに慈善事業しなきゃいけないのよ。貧乏人に募金させる馬鹿がいるかっての」

    「金木さん、ちょーとこっち来て」

    「はぁ? 何なの?」

     反発しながらも素直に三田の方に近づく金木。
     二人は小声で相談を始めた。

    「金木さん、はっきり言って、今の君やばいよ」

  • 206◆xaazwm17IRZa23/04/04(火) 00:59:45

    「何で?」

    「芝野くん、君のことをとんでもない目で見てたよ。忘れちゃいけない。彼はクロスボウを装備している。鍋の蓋じゃ勝てない」

    「何で瀧沢が死にかけてるのにあいつが怒んのよ。……もしかして、そういう関係? 全然接点なくない?」

    「この島に来て急速に仲を深めたのかもしれない」

    「瀧沢……あいつ、ハニトラの才能もあったってわけね、……分かったわ。クロスボウで死ぬのは痛そうだし」

     金木は三田から離れると、えーごほんと咳払いをした。

    「分かったわ。私も、医薬品を選ぶ。その代わり、ちゃんと私のこと、みんな守ってね」

     全員が思い思いに頷いた。
     芝野がほっと息を吐いた。星峰も満足そうに微笑を浮かべる。

    「さて、ここにあるロッカーは金木さんだけか」

    「全員で廃校中のロッカーを周ろう。ある程度の目星はついているし」

    「部活に関連した場所、だろう?」

  • 207◆xaazwm17IRZa23/04/04(火) 01:00:23

    「さすが三田君。もう見抜いたのかい」

    (星峰灼。推理ゲームをつまらなくさせるからあんまり好きじゃないんだが……こういう場ではやはり頼もしいな。精神的に安定しているのも高評価だ)

     金木が自分のロッカーに接近する。

    『№19、金木冥を認識しました』

     アカネが再び名乗りを挙げる。

    『では、オプションを選んでください。①武器②医薬品③情報』

    「……はぁ、医薬品をお願い」

     渋々金木が答える。
     ロッカーが開かれ、金木が手を伸ばす。
     現れたのは、小瓶に包まれた粉末状の何かであった。

    「あ、説明書も付いてる。『強化剤』だって」

    「血清や解毒剤じゃないのか……」

     芝野は落胆する。

    「強化剤か……免疫力が強化されるなら、飲んでおいて損は無いんじゃないかな」

  • 208◆xaazwm17IRZa23/04/04(火) 01:00:55

     三田の言葉に、芝野は頷く。

    「さ、瀧沢……口を開けるんだ」

    「勘弁してくれ、自分で飲めるよ……」

     瀧沢は芝野から薬を奪うようにして取り、水を使って喉に流し込む。

    「ど、どうだ? 大丈夫か?」

    「あー……なんか出血が緩やかになった気がするな」

    「薬が効くのは時間がかかるだろうね。それに、あくまで強化剤で解毒剤でも血清でもない。引き続きそれらが出るまで医薬品を選び続けよう」

     8人は、次のロッカーを目指して移動を開始した。
     彼らは気づかない。瀧沢が飲んだ「強化剤」は、ただの小麦粉であることに。
     そして、脅威がすぐ其処まで迫っていることに。

  • 209◆xaazwm17IRZa23/04/04(火) 01:03:37

    25話⑥を終了します

    本日はここまでとさせていただきます……!

    明日からはもう少し動きがあるかと思います……!

    まとめや感想、本日もありがとうございました……! 3週間目に入っても応援してくださることがとても嬉しいです……! またお手すきのときに覗いていただけるだけでも励みになります……!

    明日は19時から始めさせていただきます、ありがとうございました……!

  • 210二次元好きの匿名さん23/04/04(火) 01:09:52

    金木は初期から比べるとだいぶ丸くなったなぁ
    完全に毒気が抜けたタイミングが死亡フラグかもしれないけど…

  • 211二次元好きの匿名さん23/04/04(火) 01:10:38


    言い方最悪だけど、芝野一人の目的に引っ張られて武器入手の機会を捨てるのがキツいな
    好戦組はその間にも武器を調達できるわけだし

  • 212二次元好きの匿名さん23/04/04(火) 01:13:54

    不穏な展開続きでヒヤヒヤするな

  • 213二次元好きの匿名さん23/04/04(火) 01:17:30

    幸運なのは数の有利が効かない異能者がもう殆ど生き残ってないことだな
    それでも8人いれば8人分の戦力になる訳じゃないし結果は分からないけど

  • 214二次元好きの匿名さん23/04/04(火) 03:14:08

    >>211

    読者視点だとストームもう死んでるのが分かってんのも自体がちょっとずつ悪い方向に進んでる感を増大させててヒヤヒヤするわ

  • 215二次元好きの匿名さん23/04/04(火) 04:32:56

    敵対組が全滅すれば現状中立の生徒が好戦的になる可能性も高いし、そもそもこの状況でマネモフルに立ち向かうのは不正解な気もするな

  • 216二次元好きの匿名さん23/04/04(火) 09:48:33

    保守

  • 217二次元好きの匿名さん23/04/04(火) 13:17:32

    小麦粉ならプラシーボ効果くらいしか期待できないね
    マジで毒をなんとかできそうな万能薬を持っている金輪がまだ余ってるであろうイノシシ肉を料理するために小麦粉を欲しがりそうなのが救いかな

  • 218二次元好きの匿名さん23/04/04(火) 19:31:58

    そろそろ始まるかな

  • 219二次元好きの匿名さん23/04/04(火) 20:51:13

    なんかあったんかスレ主

  • 220◆xaazwm17IRZa23/04/04(火) 21:36:39

    申し訳ありません……寝オチしてました……

    25話⑦を投下します。

  • 221二次元好きの匿名さん23/04/04(火) 21:37:42

    待ってた

  • 222◆xaazwm17IRZa23/04/04(火) 21:37:52

     宇都が廃校に入ったのは、放送から二時間以上経ってからであった。
     放送をまるで聞き逃していた彼は、誰が死んだのか、ミッションの詳細も、追加報酬すらも把握していない。ただ、掲示板の情報を信じ、右腕の激痛に耐えながら、幸運にも他の参加者と出会うことなく廃校に辿り着いたのだった。
     問題は「自分のロッカー」が何を指すのかである。
     宇都は手当たり次第にロッカーらしきものを開けることにした。まず本校舎に入り、1階の散策を開始する。
     ミッションを聞き逃している彼は、この首輪爆破ルールが自分にだけ適用されているのか、それとも全員が強要されているのか、判断できなかった。冷静に考えれば分かったのかもしれないが……。
     下駄箱を覗き込み、掃除用具入れのロッカーを開き、どうもそれらしきものが見つからず、二階に上がろうかと考えたときだった。
     偶々、彼の前を二人の参加者が歩いていた。
     正確には、一人と一匹。里美綾香とNek-O。こちらに気づいた様子はない。

    (俺はジョーカーだからな。生徒を始末しないと)

     宇都は肉食動物のようにゆっくりと二人に忍び寄った。
     持っている拳銃の有効射程など分からない。

  • 223◆xaazwm17IRZa23/04/04(火) 21:39:06

     これ以上は気づかれそうで怖い、と思った所まで近づくと。宇都は撃った。
     弾はNek-Oの胴体に命中した。Nek-Oの動きが止まる。
     今度は里美を狙って撃った。命中。里美も倒れる。
     まだNek-Oは意識があるようだ。今度は頭部を狙う。これまた命中。Nek-Oは死骸になる。

    「……あっけねぇなぁ」

     思わず声が漏れた。
     新條の時と違って何て簡単なんだ。
     それだけ俺がジョーカーとして成長しているのか。

    「……そういやこの銃は文乃の銃だったな…」

     ラッキーガール、ガチャ神様。宇都もソシャゲのガチャを代わりに回してもらい、期間限定のキャラを獲得したことがある。

    「文乃、俺に力を貸してくれるんだな……」

     銃の心得がない自分がこうも命中できたのは、文乃のおかげだと宇都は解釈する。
     二階へ続く階段を登りながら、宇都は改めて決意を新たにした。

    「結……文乃……新條……お前たちの仇は、俺が取るぜ!」

     道化は階段を登っていく。その先に待つのは栄光か処刑台かはまだ分からない。

  • 224◆xaazwm17IRZa23/04/04(火) 21:39:59

    25話⑦を終了します

    時間を置いて、25話⑧を投下します
    本日は遅れてしまい申し訳ありません……

  • 225二次元好きの匿名さん23/04/04(火) 21:52:00

    眠いなら寝ててもマイ・ペンライ
    体調に気をつけてね

  • 226二次元好きの匿名さん23/04/04(火) 21:54:26

    いつも死亡者が出た回にある残り〇〇人の表記がない…
    ということは?

  • 227◆xaazwm17IRZa23/04/04(火) 22:57:21

    里美綾香のロッカーダイス:dice1d100=92 (92)

  • 228二次元好きの匿名さん23/04/04(火) 23:04:13

    つっよ

  • 229二次元好きの匿名さん23/04/04(火) 23:11:55

    キレイに背後を取られましたな、ここから更なる死線だぞ宇都君!

  • 230二次元好きの匿名さん23/04/04(火) 23:17:52

    >>12

    君の友人の里美ちゃんが窮地に陥っている。


    君も銃声を聞いただろう。

    早く助けに行ってあげないと!

  • 231◆xaazwm17IRZa23/04/04(火) 23:38:48

    25話⑧を投下します

  • 232◆xaazwm17IRZa23/04/04(火) 23:39:54

     宇都が階段を駆け上がって数分後。
     むくり、と起き上がる者がいた。
     里美綾香である。
     里美は服や髪についた埃を払うと、傍らで絶賛死亡中のNek-Oに目をやる。
     胴体と頭部を撃ち抜かれたこの奇怪な生物は確かに死んでいる。
     しかしよくよく目を凝らしてみると、傷口が再生を始めている。

    (へぇ、こういう風に再生するのね)

     クラスメイトが死んで生き返るところを見るのは初めてで、かなり興味深かったが、生き返るまでまだ時間がかかりそうだったので、里美はNek-Oの鞄から猫じゃらしと麻井の首輪を取り出し、その場を後にする。
     里美綾香は生きている。
     背後から銃撃されたにも関わらず、致命傷は無く、流血すら無い。

  • 233◆xaazwm17IRZa23/04/04(火) 23:41:00

     何故なら彼女はボディーアーマーを着ているからだ。
     銃撃はめっちゃ痛いBB弾程度に緩和される。
     普通ならば、撃った宇都も気づくはずなのだ。里美は分厚いジャケットを着ていたし、倒れてからも血だまりを作ったりはしなかった。
     どれだけ今の宇都が冷静さを欠いていたとしても、気づくはずである。……相手が演劇部エース、里美綾香で無ければ。
     里美は、撃たれた瞬間から死体の演技を開始していた。死ぬ。勿論里美は未経験だが、経験していないことも再現できるのが役者である。あの瞬間、里美の気配は完全に消失し、もし宇都が調べても呼吸や脈拍を感じ取ることは出来なかっただろう。どこまでいっても生物である以上、心臓の鼓動までは止められないが、そこまで調べさせない、調べようとは思えない程の演技を里美はして見せた。
     里美綾香。戦闘力こそ体育会系に譲るが、彼女もまた、一つの化け物である。

    (それにしても宇都くん、だいぶ錯乱してたわね)

     死体になりながらも、里美は宇都の漏らした言葉を聞き取っていた。

     【「結……文乃……新條……お前たちの仇は、俺が取るぜ!」】

  • 234◆xaazwm17IRZa23/04/04(火) 23:41:46

    (それでこっち撃ってくるの意味わかんなくて普通に怖いわね。……おおかた、三人の死体でも発見して錯乱したってところかしら。……ていうか、文乃さんはともかく、新條くん死んでるんだ……)

     優勝しか帰れる道は無い、と早々に結論を出した里美だが。もしかしたら新條アキラならその無理を覆せるかもしれない、と心のどこかで期待はしていた。ほんの僅かにだが。

    (いくら「主人公」って言っても、デスゲームじゃ死亡フラグにしかならなかったってわけね……殺したのは誰かしら。小田斬くんとかが怪しそうだけど)

     この時点で小田斬は自殺し、新條アキラを殺したのは宇都なのだが、いくら聡明な里美でもそこまで推理は出来なかった。

    (さて、どうしようかしら……。もう一度宇都くんに遭遇したとして、勝てるとは思えないし……)

     猫じゃらしで動きを止めることは出来るだろう。しかし決め手がない。里美は武器を持っていないのだ。そこから銃を持った男子生徒に肉弾戦を挑む蛮勇さは持ち合わせていなかった。
     宇都は本校舎を登って行った。

  • 235◆xaazwm17IRZa23/04/04(火) 23:42:26

     ならば、別の校舎に行くべきだろう。

    (自分のロッカー……たぶん3年1組に設置されていると思うのだけど、今行くのは危険だわ……探索も兼ねて、そうね、演劇部の部室がある北校舎にでも……)

     里美は本校舎を出て、北校舎に向かった。



    「うっそ。こっちが正解だったんだ……」

     北校舎3階。演劇部部室。
    「里美綾香」と書かれたロッカーが、教室の前に設置されていた。
     そして。
    「山野二」のロッカーもまた。

    「……山野さんの首輪が合ったらここも開けられたのね。残念だわ」

     ひとまず、ミッションをクリアしよう。
     と、里美は自分のロッカーに近づいた。

    『№22、里美綾香を認識しました』

    「思ったよりハイテクね」

  • 236◆xaazwm17IRZa23/04/04(火) 23:43:00

    『初めまして、デスゲーム支援プログラムAkaneです。ミッションに参加しますか?』

    「ええ、勿論」

    『では、オプションを選んでください。①武器②医薬品③情報』

    「…………武器を」

     医薬品はある程度廃医院で回収してきた。勿論医院には置いていないような異能絡みの医薬品の可能性もあるが、一先ず優先するものではない。
     次に、情報。これも非常に重要だ。情報を制する者が全てを制するのだから。
     ただ。

    (私には武器が無い)

     今この瞬間にも、錯乱した宇都が姿を現すかもしれない。
     その時に武器が無ければ、勝つことは出来ない。そして廃校にはこれから続々と、ゲームに乗った参加者が現れるだろう。
     武器が必要だ。里美は強く思う。
     果たして、どんな武器が手に入るのか。

  • 237◆xaazwm17IRZa23/04/04(火) 23:43:40

     突如、背後に気配を感じた。

    「っ!」

     慌てて振り向き、猫じゃらしを向ける。
     ——膝をつく、忍者装束の女が居る。そのバストは豊満であった。

    「忍者!? 何で忍者!?」

    「拙者の名は護衛忍者くノ一。ランダムアイテムとして支給された、アンドロイドで御座る」

     抑揚のない言葉で妙にキャラの濃い言葉をくノ一は言った。

    「何なりとご命令を」

    「……貴女のスペックを教えて」

     くノ一がその場で自らのスペックを羅列する。腕を組んで聞いていた里美だったが、徐々にその頬は緩み、全てを聞き終わった時には、ガッツポーズをしていた。

    「よし! 大当たりだわ!」

     私の護衛忍者くノ一は最強なんだ! と優勝を確信したかのような笑顔を浮かべた後、ちらりとくノ一の表情を窺う。

  • 238◆xaazwm17IRZa23/04/04(火) 23:44:41

    その表情に感情の色は見えないことを確かめると、何事もなかったかのように表情を元に戻す。

    (嬉しがった方が懐くかと思ったけど……アンドロイドだったわね。じゃあメンタリズムは必要ないか)

     里美綾香は演劇部エースであり、部長でもある。部を纏めるために、わざと天然っぽい言動をしたり、親しみやすい等身大の女子校生らしいあけすけさを出したりもした。全ては劇団を纏め上げ、意のままの劇を作るためである。(このせいで演劇部は『里美部長の本当の姿を知っているのは自分だけなんだよな』と勘違いしている部員ばかりになっている)
     が、相手がアンドロイドならば、演技の必要はないだろう。Nek-Oに見せたようなウソ泣きの必要もない。

    「……ひとまず索敵をお願い。もし接敵したら戦闘もお願いするわ」

    「承知。して、敵の定義は……?」

     生徒全員、と答えるべきか。否……まだ早い。まだ、様子見の段階だ。……ボディーアーマーだけの時より、『その時』は近づいているが。

    「私がその都度指示します」

    「承知致しました」

    「……さて、一応、Nek-Oくんの様子を見に行くか。そろそろ生き返っているといいけど」

     里美綾香は確かに死線を超えた。銃を持った人物から生き残り、当たりアイテムを引くことが出来た。
     しかし、それだけで安全だと断じれるほど、この離島は甘くなく……今この瞬間の廃校は、甘い状況ではなかった。

  • 239◆xaazwm17IRZa23/04/04(火) 23:45:17

    25話⑧の投下を終了します。

    時間を置いて、25話⑨を投下します。

  • 240二次元好きの匿名さん23/04/04(火) 23:49:12

    ガッツポーズと〇〇は最強なんだ!の組み合わせはフラグとして不穏

  • 241二次元好きの匿名さん23/04/05(水) 00:00:10

    本人の幸運値が35しか無いんだよな今回
    せっかく当たりアイテム引いたんだし粘ってほしいが

  • 242二次元好きの匿名さん23/04/05(水) 00:01:46

    今後の展開が全く読めなくて面白い
    宇都はどこまで我々を楽しませてくれるのか

  • 243◆xaazwm17IRZa23/04/05(水) 00:51:44

    篠宮纏のロッカーガチャdice1d100=23 (23)

    芝野貴仁のロッカーガチャdice1d100=85 (85)

  • 244二次元好きの匿名さん23/04/05(水) 01:01:50

    お、これはいけるか

  • 245二次元好きの匿名さん23/04/05(水) 01:03:02

    これで他のメンバーも気兼ねなく武器を引けるようになったな

  • 246◆xaazwm17IRZa23/04/05(水) 02:00:53

    25話⑨を投下します、本日最後の投下です

  • 247◆xaazwm17IRZa23/04/05(水) 02:02:49

     3年1組の前で、集まった八人の生徒。
     篠宮纏。芝野貴仁。星峰灼。三田哲。金木冥。瀧沢魁。千頭之のづち。歯荷仄花。
     この中で帰宅部の瀧沢と金木は、既にミッションをクリアし、アイテム(酔い止めと強化剤)を手にした。
     彼らは、次はどこに向かうべきかと議論になり、すぐにボランティア部部室という結論が出た。こういう場で輪を乱しがちな金木は、いち早く首輪爆破の危機から逃れ他人事になったことも、議論の速やかな決着を後押しした。
     ボランティア部を選んだ理由は単純で、篠宮と芝野という二人の生徒が在籍している……つまり、一つの場所で二つのロッカーを開けられるという利点があるからだ。場所は東校舎3階。渡り廊下といった気の利いたものは無く、(あにまん高校にはあったのだが、この廃校には無かった。教室の配置はまったく同じにも関わらず)八人は階段を降り、東校舎へと向かう。
     なお、3年1組を離れる時に、歯荷が

    「マネモフルのロッカー破壊しておけば楽して勝てますわよね?」

     と提案。
     そこに金木が

    「石川のロッカーも壊した方がいい」
    「絶対ゲームに乗ってるから壊した方がいい」
    「例えゲームに乗ってなくても壊した方がいい」

     と力説。石川はひとまず保留とし、ゲームに乗っていることが確実なマネモフルのロッカーをチェーンソーで破壊しようとしたが、失敗した。どれだけ刃を押し当てても傷一つつかず、扉のように異能によるものだと判明。あらかじめロッカーを壊してミッションを達成不可能にする、という作戦は失敗となった。

  • 248◆xaazwm17IRZa23/04/05(水) 02:03:34

     本校舎の階段を降りる。
     ——死体一つない。

    「まだ他の生徒は来ていないようだね」

     と、星峰はやや安堵しながら言った。
     当初の計画では、ミッションをすばやく達成し大急ぎで廃校から逃げるというものだった。重傷を負っている瀧沢と合流してからはそれも難しいが、もし彼女が輸血を必要としなくなる健康体に戻れば、一緒に逃げることが出来る。

    (これからどんどん他の生徒がやってくる……。この廃校は戦場に変わる。その前に、逃げないと……)

     ボランティア部のロッカーで瀧沢を治せるものが出ることを祈るしかない。

    (それに、このチームは危うい)

     星峰は相手の呼吸や心拍数で、ある程度その人物の感情や思考を読み解ける。
     だからこそ歯荷と金木がやや不穏な空気を醸し出していることも気づいていた。
     特に金木は、念願の武器を手に入れるチャンスを不意にしたうえで、せっかく出した強化剤が、あまり効果を見せていないことに苛ついているようなのだ。

  • 249◆xaazwm17IRZa23/04/05(水) 02:04:20

    歯荷もまた、医薬品ガチャを続ける現状に、苛つきを覚えている。金木と違い、透明な日本刀を装備している分、僅かに余裕を持っているが。

    (そして、瀧沢さんも……これ以上連れまわすのは危険だ)

     瀧沢魁という超人的なフィジカルと根性を持つ少女だからこそ、まだ死亡判定が出ていないレベルなのだ。
     もう一度扉などで足止めをされれば今度こそ死亡するだろう。

    (既にミッションをクリアしている金木さんと一緒に保健室に戻り輸血する、という手段もあった。けれど、これは駄目だ。金木さんと瀧沢さんを二人きりにしたくない)

     信用しきれない。武器を隠し持つなどはなさそうだが、彼女が素直に輸血処置をするとは思えない。何しろ首を絞める必要すら無いのだ。輸血処理をサボる、あるいはわざと失敗すれば、それだけで瀧沢は死ぬ。

    (まぁ金木さんなら二人きりは嫌だと駄々をこねる可能性もあるか。僕たちは八人だからこそ安心して廃校を歩き回れる。バラバラになれば、ただの餌だ)

  • 250◆xaazwm17IRZa23/04/05(水) 02:05:21

     そういう観点からも、次のロッカーをボランティア部にすることは、メリットが大きかった。芝野がミッションをクリアすることで、芝野と瀧沢が二人で保健室に向かうことが出来る。輸血処置も、金木より芝野の方が得意だろう。
     後は、残ったメンバーで医薬品ガチャを行い、血清ないし解毒剤が手に入り次第、保健室に届けるだけだが……。

    (医薬品ガチャ、これは本当に正解なのか?)

     本当に、ロッカーの中に血清や解毒剤は入っているのか。星峰は段々不安になってきた。最初の医薬品が酔い止め、次があまり効果のなかった強化剤というのが尾を引いている。ゲームに乗った生徒も医薬品を求める以上、医薬品には必ず当たりが入っていると星峰は力説した。けれど、その推理が正解なのか自信が持てない。
     そもそもこのゲームにはタイムリミットがある。例え早期にゲームに乗った生徒が全員死亡して、穏健派しか残らなかったとしても、タイムリミットが近づけば、穏健派の中から必ず乗った人物が現れる。運営はことさらゲームに乗った人物を優遇するつもりは無いのかもしれない。だとしたら殺し合いを遅延させる医薬品には外れしか配らず、殺傷力の高い武器を大量に配っている可能性もある。

  • 251◆xaazwm17IRZa23/04/05(水) 02:06:21

    (最悪なのは、この後全員で医薬品ガチャを外すこと。それも酔い止めのような使い処のないアイテムばかりを……。その間にゲームに乗った生徒は強力な銃器を手に入れてしまう。……本当にこのまま医薬品ガチャを続けるべきなのか)

     けれど、医薬品ガチャを止めよう、と提案することは瀧沢を見捨てることと同義だ。
     星峰は異能持ちであり、殺し合いでも落ち着いて思考できる冷静さを持つ。けれど、どこまでいっても高校生。歴戦の軍人のように、命の選択は出来ない。

    (早く解毒剤が手に入ってくれれば悩まずに済むのに……)

     そうこうしているうちに、8人は東校舎3階に到着する。

    「まずは僕から引くよ」

     そう言って、篠宮はロッカーに近づき、アカネを呼び出す。

    「医薬品を」

     全員の心に緊張が走る。
     ロッカーが開かれ、篠宮は中のアイテムを取り出した。

    「睡眠薬だ……外れ、だね」

    (……いや、酔い止めより最悪だよ、篠宮くん)

  • 252◆xaazwm17IRZa23/04/05(水) 02:07:05

     何故なら、睡眠薬は——悪用できる。
     現に歯荷と金木はぴくりと反応を示した。

    「つ、次は僕だ……!」

     芝野は全身に汗をかいていた。彼には読心能力がある。きっと気づいているのだ。この場にいる8人が徐々に医薬品ガチャを辞めたがっていることに。消極的に、遠回しに、瀧沢の命を諦めようとしていることを。芝野は気づいている。気づいた上で、何も言おうとしなかった。口下手なのもあるが、芝野も気づいている。結局は自分の我儘なのだと。死にたくないのはみんな同じなのだ。もし医薬品ガチャを外し続ければ、それだけ死神が近づく。瀧沢は後数時間、数十分も危うい命だが、他の生徒だって、数時間後に生きていられる保証はどこにもないのである。

    「い、医薬品を……! 頼む、血清を……解毒薬を……頼む!」

     それは、もはや懇願に近かった。
     ロッカーが開かれる。芝野は急いで中に手を伸ばす。
     現れたのは、小瓶。

    「そ、それは一体何ですの!?」

     歯荷は叫ぶ。

  • 253◆xaazwm17IRZa23/04/05(水) 02:07:38

     芝野はもう一度ロッカーに手を伸ばし、説明書らしきプリントを掴んだ。

    「……………………やった」

     芝野の口から言葉が漏れる。

    「やった、やった……やったぞ! 解毒剤だ! 解毒剤と書いてある! 瀧沢、お前は助かったんだ……! …………瀧沢?」

    (奇跡だ……)

     星峰は芝野の強運に感動すら覚えていた。星峰もまた、心のどこかで瀧沢の命を諦めていたのだ。
     ただ、問題なのは……。

    「瀧沢……おい、大丈夫か、おい!?」

     今までなら嫌味の一つを零すはずの瀧沢は無言である。否、既に意識を喪失している。

    「早く飲ませるんだ!」

     三田の言葉に、弾かれるように芝野は動いた。
     瀧沢の口に小瓶を近づけ、液体を流し込む。

  • 254◆xaazwm17IRZa23/04/05(水) 02:08:18

    (強化剤のように、効果が出ないかもしれない……。上手くいくといいが……)

     星峰も祈る。
     効果は劇的だった。
     ずっと出血が止まらなかった患部。それが、止まる。

    (効果は本物だった……! 後は……)

    「すぐに輸血だ。血を失いすぎてる……!」

    「ほ、保健室にまだ輸血パックが残ってる……! 早く保健室に……!」

     芝野は瀧沢を背負い、駈け出す。

    「どうする? 美術室は2階にあるけど……」

     千頭之のづちとしては、瀧沢が助かるメドが着いた以上、東校舎2階の美術室……すなわち美術部所属である自分のロッカーを開けたいのだろう。

    「全員が行く必要は無い。二手に分かれよう。僕、金木さん、歯荷さんは芝野くんと共に保健室に行く。星峰くんと篠宮くんは千頭之さんと共に美術室へ。ロッカーを開け終わったら全員で保健室に集合して、北校舎のロッカーを開けに行こう」

     三田が素早く指示を出す。

  • 255◆xaazwm17IRZa23/04/05(水) 02:09:03

     事態が好転してきている。
     これで気兼ねなく武器や情報を入手できる。
     ずっと緊張していた心が解かれ、星峰は息を吐いた。どれだけ落ち着いていようと平和な日常を謳歌してきた高校生なのだ。クラスメイトの命が助かり、緊張の糸が切れる。

     ——だから、反応が遅れた。

     星峰の異能の聴覚がその足音を捉えたとき、全ては後の祭りだった。

     パン。

     と、乾いた銃声が響いた。
     瀧沢を背負っていた芝野が転倒する。
     彼の太ももには小さな穴が開き、そこから、まるで瀧沢の代わりかのように、赤黒い血が流れ出ていた。

    「お、8人もいるやんけ。どうしてデスゲームなのに集まっているの?」

     拳銃を構えたマネモフル=タマネが、曲がり角からその鍛え上げた肉体を晒す。
     殺し合いが始まって8時間以上が経過した。今初めて、星峰はゲームに明確に乗っている生徒と相対したのだった。

  • 256◆xaazwm17IRZa23/04/05(水) 02:11:10

    25話⑨を終了します。

    本日はここまでとさせていただきます……!

    感想今日もありがとうございます……大幅に遅刻してしまい申し訳ありません……!

    今日の反省から明日は20時頃から始めたいと思います、早くに準備が出来ればその前から投下します……!

    それでは、ありがとうございました……!

  • 257二次元好きの匿名さん23/04/05(水) 02:12:45

    最後ゾッとした……

  • 258二次元好きの匿名さん23/04/05(水) 02:20:46

    なんてボケボケジャワティーなタイミングで来るんじゃ!

  • 259二次元好きの匿名さん23/04/05(水) 05:22:30

    何が最悪ってマネモフルとめあめえちゃん、キルコとドラギモスがそれぞれ仲良い事なんだよな…
    場合によっては後発組が全員敵になりかねない

  • 260二次元好きの匿名さん23/04/05(水) 07:46:01

    >>256

    2週間以上も連続して高クオリティのSSを書けるスレ主はそう居ないんだ…

    もしかしてそういう系の異能者なのでは…?

  • 261二次元好きの匿名さん23/04/05(水) 11:48:20

    ほぼネタにしかならないなと思っていたマネモフルがなんか強キャラ感出してて困惑したんだよね

  • 262二次元好きの匿名さん23/04/05(水) 12:29:32

    >>259

    まあキルコに関してはドラギモスの一方通行だがな

    ガハハ

  • 263◆xaazwm17IRZa23/04/05(水) 18:01:03

    宇都創希のロッカーdice1d100=5 (5)

  • 264二次元好きの匿名さん23/04/05(水) 18:57:32

    【名前】異能血清『田中不死太郎』
    【説明】異能の研究の一環として作られた試験薬。不死性はほぼ完璧に再現出来ているが使用者の体質によっては再生力が不安定という欠陥がある。血清の異能が発動する度効力が落ちる。

    【名前】銀の弾丸
    【説明】祈りが籠った銀の弾丸。魔を退け所持者の精神を安定させる効果がある。殺傷力は皆無だが悪意を撃ち抜く事はできる。弾丸という害意の概念と害意と真逆の祈りが拮抗している為所持者の悪意で上記の効果が反転する可能性がある。

    アイテム案

  • 265二次元好きの匿名さん23/04/05(水) 19:57:35

    場所案 日常話に

    【名前】1F 食堂

    【説明】廃校1階の食堂に場違いな程豪勢なカフェテリアが姿を表す。
    この食堂の中でのみ一切の暴力は禁止されており、訪れた生徒たちに遅い朝食を振る舞うだろう。

  • 266◆xaazwm17IRZa23/04/05(水) 20:27:12

    お待たせ致しました……!
    本日も始めさせていただきます……!

    25話⑩を投下します

  • 267◆xaazwm17IRZa23/04/05(水) 20:28:12

    「宇都くん! どうして嘘をついたんですか!?」

     3年生になってしばらく経った頃、宇都は麻井涼に説教されていた。

    「嘘をついてはいけません! 偽証罪! 有罪!」

    「あのさぁ、委員長……」

    「私は委員長ではありません! 生徒会書記です! 訂正してください!」

    「いや、なんかキャラ的に委員長っぽいし」

     っていうかさぁ、と宇都は頭を掻く。

    「俺、嘘ついてないぜ。いつ嘘ついたよ。俺生まれて一度も嘘ついたことないし」

    「もう嘘ついてる!? 宇都くん、あなたのその顔の怪我、先生に心配されて転んだと言っていましたね!」

    「ああ。あのな、俺の虚弱性舐めんなよ。転ぶだけで命がけなんだぜ」

    「残念でした! ネタは挙がっているのです! 金島くんからリークがあったのです!」

     ぎくり、と宇都は肩を強張らせた。

  • 268◆xaazwm17IRZa23/04/05(水) 20:28:56

    「宇都くん、あなた昨日の放課後、中学生がカツアゲされているのを見て止めに入ったそうですね。その時に怪我をしたのでしょう!」

    「……ダセェからあんまり大声で言わないで欲しいな」

     はぁ……と宇都は肩を落とした。

    「いやさ、カツアゲしている方も中坊でさ。俺もう高3だしどうにでもなるぜって軽い気持ちで注意したら、良く見たらめちゃくちゃ体鍛えてるっぽくてさ。あ、やべえと思って口八丁でどうにかしようと思ったらいきなり右ストレートだぜ。マジで偶々新條通りかからなかったら俺もカツアゲ被害者その2になるとこだったんだっての。……やっぱ俺みたいな陰キャが出しゃばるべきじゃなかったよなぁ」

    「間違ってます!」

     と、麻井は言った。

    「まず、それは嘘をついていい理由ではありません! また、相手が強いからといって、悪は悪であり、間違いは間違いです! 相手によって態度を変えるべきではありません!」

    「委員長は真面目だなぁ」

  • 269◆xaazwm17IRZa23/04/05(水) 20:29:33

    「私は委員長ではありません! それに、中学生を守ろうとしたあなたの行動は間違いではありませんよ? 何を卑下する必要があるんです?」

     宇都は恥ずかしそうに俯いた。
     そして照れ隠しのようにシニカルな笑みを浮かべる。

    「なぁ、もし俺が間違えたら、麻井はどうするんだ?」

    「もちろん、注意します! 間違いは正さねばなりません……でも、宇都くんが、早々間違えるとは思えませんが」

    「そっか、ありがとな、委員長」

    「もう間違えてる!」

  • 270◆xaazwm17IRZa23/04/05(水) 20:30:45

     銃声が微かに聞こえた、ような気がした。
     本校舎2階の探索を終え、3階へと足を進めていた宇都は、きょろきょろと周囲を窺う。

    「気のせいか? 俺の他にも廃校に来てる奴がいるのか?」

     放送を聞き逃した宇都は、全生徒が廃校に集まる、という情報を知らない。周囲に拳銃を向け、一応警戒するが、辺りに人影はなく、探索を再開した。

    「お、3年1組じゃん」

     教室の前には幾つかのロッカー。そして——血溜まり。

    「なんだこれ? 誰か怪我でもしてるのか? ……と、俺のロッカー見っけ」

     自身の名前が書かれたロッカーを発見する。周囲には他のクラスメイトの名前が書かれたロッカーも置かれていた。宇都は、その意味を考えない。

    『№3、宇都創希を認識しました』

    「うおっ、喋った」

    『初めまして、デスゲーム支援プログラムAkaneです。ミッションに参加しますか?』

    「お、おう。参加するぜ。俺はジョーカーだからな」

    『では、オプションを選んでください。①武器②医薬品③情報』

    「あー……どうしよっかな」

  • 271◆xaazwm17IRZa23/04/05(水) 20:31:28

     全てが足りていない。
     文乃の銃だけではクラスの強者相手には力不足だ。右腕も治したい。情報も欲しい。

    (いや、武器は殺せれば奪えるし、ミニチュア砲みたいに発見もできる。情報は他の生徒と接触して聞いたらいい。でもこの右腕……素人が治せるもんじゃない。殺し合いが終わるまでハンデを背負うことになる。だったら……)

    「……医薬品だ。医薬品をくれ……!」

     ロッカーが開かれる。これで首輪爆破から解放されたと宇都は息を吐く。

    「さて、俺でも扱える医薬品だといいんだが」

     取り出したのは。
     体温計であった。

    「ふざけんな!」

     即座に廊下に叩きつける。
     大外れだ。

    「くそっ、これなら武器か情報を選ぶべきだったぜ……!」

  • 272◆xaazwm17IRZa23/04/05(水) 20:32:11

     まぁいい。死は遠ざかった。
     宇都は掲示板の情報をチェックする。

    【君の友人の里美ちゃんが窮地に陥っている。

    君も銃声を聞いただろう。
    早く助けに行ってあげないと!】

    「……どういうことだ?」

     里美綾香は今しがた宇都が撃ち殺した。
     何故なら宇都はジョーカーだからだ。
     つまり、銃声による脅威とは、宇都自身のことだ。

    (いや、待てよ……)

     本当に里美は死んでいたのか。
     何故かスルーしてしまったが、里美は随分分厚いジャケットを着ていたように思う。ミニチュア砲ならともかく、普通の拳銃では殺しきれていないかもしれない。

    「まだ里美は生きているのか……」

  • 273◆xaazwm17IRZa23/04/05(水) 20:32:29

     あまり接点はないが、クラスメイトの一人だ。守ってやらねば。それに、新條たちを殺した犯人も知っているかもしれない。まぁ宇都はジョーカーなので最後には殺すのだが。

    「とりあえず、死体の確認だな」

     宇都は、1階に向かって歩き出した。

  • 274◆xaazwm17IRZa23/04/05(水) 20:34:29

    25話⑩を終了します


    時間を置いて、25話⑪を投下します


    >>264

    ありがとうございます、ギミックの一つして機会があれば使わせていただきます!



    >>265

    ありがとうございます、こちらも機会があれば活用させていただきます……!

  • 275二次元好きの匿名さん23/04/05(水) 20:47:07

    25話もそろそろ終盤かな
    どうなるか予測がつかない

  • 276二次元好きの匿名さん23/04/05(水) 21:03:32

    中盤の山場感あるね

  • 277二次元好きの匿名さん23/04/05(水) 23:10:21

    何かしら防具着込んでるっぽいのは理解していたのにスルーしてた辺り、内心は超ぐしゃぐしゃなんだろうな

  • 278◆xaazwm17IRZa23/04/05(水) 23:25:35

    25話⑪を投下します

  • 279◆xaazwm17IRZa23/04/05(水) 23:26:35

     マネモフルが姿を現し、撃たれた芝野が廊下を転がる。
     突然の状況に対し、それでも篠宮は動けた。
     否、篠宮しかその場で有効な行動が取れる者がいなかった。
     装備している透明な拳銃で、即座にマネモフルを撃つ。
     透明な拳銃最大の利点、それは持っていることを悟らせないこと。

  • 280◆xaazwm17IRZa23/04/05(水) 23:27:14

     マネモフルもまた、篠宮を丸腰と判断していたため、迂闊にも姿を晒していた。
     撃つ。
     しかし篠宮に射撃の心得は無い。
     扉や窓に関しては、呼吸を落ち着け、自分のペースで撃つことが出来た。
     今のような早撃ちを要求される状況ではなかった。
     あるいは、篠宮がもう少し場数を踏んでいればマネモフルを油断させ、もっと近づいて撃つことも出来たかもしれない。
     結論から言えば、この状況で篠宮が当てるには、経験値が足りず、距離が遠すぎた。
     透明な弾丸は、マネモフルの足元を掠める。
     瞬間、マネモフルが顔色を変え、曲がり角に逃げ込んだ。
     篠宮が銃を持っていることを把握したのだ。

    「みんな隠れろおおおおおおおおっ!」

     三田が叫ぶと同時に、空き教室に飛び込む。
     星峰も同様に三田と同じ教室に飛び込んだ。

  • 281◆xaazwm17IRZa23/04/05(水) 23:28:00

     篠宮も牽制代わりに銃弾を撃ち、ロッカーの後ろに隠れる。

    「こんなところ居られませんわ!」

     歯荷は透明な日本刀で窓を叩き割ると、その身を外に投げ出した。

    「歯荷さんっ、ここは3階だぞ!?」

     三田が叫ぶ。が、錯乱したらしい歯荷を止めることは出来なかった。
     金木は既に姿を消している。彼女の行動は迅速で、芝野が撃たれた瞬間には背を向け全力で反対の方向に駆け抜けていった。恐らく既に2階まで降りているだろう。
     千頭之のづちは、動けなかった。
     マネモフルが居る。ここまで追いついてきている。それは、明確な事実を彼女に突き付けていた。

    「お前、ストームを、どうした……!?」

    「何やねんストームって。ワシは知らんで!」

    「お前と戦った、勇敢な私の友達だ! ストームは無事なんだろうな」

     マネモフルの姿は見えない。
     しかし、ぶへへという下品な笑い声が響いた。

  • 282◆xaazwm17IRZa23/04/05(水) 23:28:44

    「動物は人間に食べられる宿命なんだ。悔しいだろうが仕方ないんだ」

    「貴様あああああああああ!」

     千頭之のづちは絶叫してマネモフルに迫った。
     マネモフルは嫌らしい笑みを浮かべ、千頭之に狙いをつけた。
     パン。
     と銃声が響く。

    「うおおおおおおおおおっ!」

     三田が千頭之を抱え、転がった。
     弾丸は外れる。
     すかさず、篠宮が身を乗り出し、銃を撃ち、牽制を入れる。

    「ちっ」

     マネモフルは再び曲がり角に姿を隠す。
     問題は、芝野と瀧沢だった。太腿を撃たれた芝野は痛みと失血で既に意識を朦朧とさせている。瀧沢もまた、解毒こそ出来たが致死量ギリギリまで血を失っているため、意識は戻らない。

  • 283◆xaazwm17IRZa23/04/05(水) 23:29:34

     今も瀕死と言っていい彼らは、しかも他のメンバーのように隠れたり逃げることが出来ない。
     元々遠距離武器は篠宮の透明な銃とクロスボウがあった。しかし、クロスボウは芝野が装備しており、今は廊下に転がっている。
     残った透明な銃は

    (クソッ、あと弾はどれだけ残ってる?)

     扉に一発。窓に一発。
     透明なため、篠宮ですら正確な残弾を把握できない。ただ、無限に撃てるはずがないということは分かる。いつか、弾は切れる。もしそうなれば、篠宮は戦力外である。
     今動ける中で最も戦闘力が高いのは三田である。

    (クソ、千頭之さんの話だとマネモフルは丸腰で襲いかかって来た。だから僕たちは無意識にマネモフルは丸腰で想定していた……)

     バールのようなものとバリツ。三田の持っている手段。これでも丸腰のマネモフルには心もとなかった。しかし、集まっていた8人が力を合わせれば「丸腰のマネモフル」なら勝てる、とそういう想定だった。

  • 284◆xaazwm17IRZa23/04/05(水) 23:30:18

     今思えば、どうしてこんなにも楽観的にものを考えていたのだろう。
     目の前に広がっている光景はどうだ?
     マネモフルの手には拳銃が握られている。
     クロスボウとチェーンソーという強力な武器は廊下に転がっている。
     芝野と瀧沢は戦闘不能、歯荷は透明な日本刀という奇襲が可能だった武器を持ったまま飛び降りてしまい、何かの役には立ったであろう金木は気づいたら姿を消していた。
     残ったのは、透明な銃を装備した篠宮。
     レイピアを装備した星峰。
     バールのようなものを装備した三田。
     丸腰の千頭之。
     相手は拳銃装備のマネモフル。例えマネモフルが素手でも、勝負は挑まない戦力差だった。

    (今はマネモフルが拳銃を警戒しているから均衡が生まれているが……彼がリスク度外視で攻めてこられたら、たぶん篠宮くんは当てられない。星峰くんがレイピア、僕がバールで襲いかかっても、勝ち目は薄いだろうな)

  • 285◆xaazwm17IRZa23/04/05(水) 23:31:50

    「離して三田君ッ! マネモフルめ……殺してやる……!」

    「頼む、落ち着いてくれ千頭之さん。そして、君に頼みがある」

     脱出しようともがく千頭之に三田が囁く。

    「僕たちが時間を稼ぐから、下に行ってロッカーを開けてきて欲しい」

     三田の言葉に、ようやく冷静さを取り戻したのか、千頭之が抱えられたまま三田を見上げる。

    「…………武器だね?」

    「ああ。もし強い武器が手に入ったら戻ってきて欲しい」

    「分かったわ。絶対に戻ってくる。ストームの仇は私が取る」

     篠宮が牽制代わりに銃弾を撃つ。その隙に千頭之も階段を目指して駆けだした。

    「……良いのかい?」

     星峰に問われ、三田は肩を竦める。

    「何のことだい?」

    「文学部の部室もここの2階だろ。さっきも君、保健室に行こうとしてたし。自分のことは後回しかい?」

    「……この中で武闘派は僕しかいないだろ。近接戦になったら僕がマネモフルと戦うしかない。……自信はないがね。星峰くんこそ逃げなよ」

  • 286◆xaazwm17IRZa23/04/05(水) 23:32:30

    「……僕のミスでこんなことになっている。それに、僕はレーダーの代わりになる」

    「機能するのかい? こんな銃声の中で」

    「……正直かなりしんどいよ。でも、やるしかないだろ」

     マネモフルと篠宮は撃ち合いを続ける。どちらも冒険せず、牽制を続ける。一発撃つたびに、篠宮は心臓が止まる思いがした。確実に終わりが近づいている。
     後何発撃てるのか。分からない。

    (……僕は死ぬのか?)

     唐突にそう思った。今は時間稼ぎに過ぎない。
     弾が切れたとき、篠宮は死ぬ。

    (……嫌だ、死にたくない)

     荒事とは無縁の人生を送って来た。クラスメイトと銃撃戦なんて、想像すらしていなかった。

    (まだ、生きていたい……)

     もう一つ銃を作れば生き残れる。そう気づいたが、銃を作り始めると、その間は銃を撃てない。死んでしまう。嫌だ。

  • 287◆xaazwm17IRZa23/04/05(水) 23:33:07

    (……いや、僕は馬鹿か!? 星峰くんや三田くんに銃を渡して、もう一つ銃を作ればいいじゃないか!?)

    「星峰くん! 三田くん! 受け取ってくれ!」

     そう叫んで篠宮は透明な銃を二人に投げた。
     非日常。漫画やアニメの「主人公」ならば、非日常で覚醒する。最適な行動を取り、合理的に動き、情報を適宜判断して行動できる。
     今この場に、「主人公」は居ない。その素質を持った人間は、海岸に死体を晒している。
     篠宮の行動は、決して間違いではなかった。しかし突飛過ぎた。三田は突然何かを投げつけられたことに驚き、対応が遅れた。星峰もまた、篠宮のメンタルを心配し声をかけようとしていたところだったが、やはり対応できなかった。
     星峰は異能の聴覚を持ち、相手の感情や心理を読み取れる。しかし、読心ではない。篠宮が焦っていることは分かったが、篠宮が何がしたいかまでは把握できていなかった。あるいは銃声によって集中を乱されていなければ汲み取れたのかもしれない。

  • 288◆xaazwm17IRZa23/04/05(水) 23:33:41

     更にもしを重ねるが、篠宮が投げたのが普通の拳銃ならば、二人は意図を把握し、キャッチ、即座に銃撃戦を再開していただろう。
     しかし、投げたのは「透明な拳銃」である。
     見えない。
     結果として、「透明な拳銃」は誰にも掴まれることなく、廊下に落下する。
     三人は息を呑んだ。
     銃撃が止まった。

    「シャアッ!」

     マネモフルはその隙を見逃さなかった。曲がり角から姿を現すと、一気に距離を詰めるべく駈け出す。

    「くっ……」

     篠宮には、成す術が無い。
     唯一の武器は手放した。新たな武器を作るには時間が足りない。自分が致命的なミスをしたとようやく気付くくらいしか、することがない。

    (やるしかないっ!)

  • 289◆xaazwm17IRZa23/04/05(水) 23:34:18

     三田はバールのようなものを持って、マネモフルを迎え撃つ。
     しかしマネモフルは未だ拳銃を握っているのだ。銃口は三田に真っすぐ向けられる。

    (僕が肉壁になって時間を稼ぐ……その隙に、恐らく透明な拳銃を星峰くんや篠宮くんが拾い直せばまだ勝機は……
     ああ、くそ。拳銃持った相手に立ち向かうなんて、初めてだ……! こんなに怖いのか、銃って……!)

     星峰は、手を伸ばした。
     異能の聴覚は、透明な拳銃が落ちた場所を正確に把握していた。
     手を伸ばし、掴む。
     掴んだそれを、撫でる。撫でて構造を瞬時に把握する。星峰は銃を握ったことはない。けれど、彼は吹奏楽部である。歌の王子、宇多が認めた奏者である。一説によれば、拳銃の扱いは、楽器と似ているらしい。初めて拳銃を握った星峰は真っすぐマネモフルに透明な銃口を向ける。

    「えっ!」

     マネモフルの顔が驚愕に歪む。

  • 290◆xaazwm17IRZa23/04/05(水) 23:35:08

     マネモフルは勘違いをしていた。銃撃が止んだのは、弾切れだと、そう判断したのだ。篠宮のミスは、意図せぬブラフを生んでいた。マネモフルには透明な銃は見えない。見えないが、星峰の堂に入った構えは、彼が拳銃を握っていることを明確にさせた。そして今、マネモフルは隙を晒していた。
     星峰は引き金を引いた。
     カチッ、という音が響いた。

    (弾切れ……!?)

     最悪のタイミングだった。マネモフルの顔が一瞬でどす黒い笑みに変化する。

    「シャアッ!」

     今度はこちらの番だとマネモフルは拳銃の引き金を引く。
     パン、と乾いた音が響く。三田の頬を、銃弾が掠める。
     弾は外れた。外された。
     ——拳銃を握るマネモフルの脇腹に、瀧沢の拳が当たっていた。

    「……寸勁」

    「なんだあっ」

  • 291◆xaazwm17IRZa23/04/05(水) 23:35:44

     マネモフルは体勢を崩される。

    「瀧沢さんっ!」

    「……てめぇらさっさと逃げろ」

     利き腕を前に出す、独特のスタイル。ジークンドー。

    「……こいつはアタシがぶっ殺す」

     瀧沢魁は、マネモフルの前に立った。

  • 292◆xaazwm17IRZa23/04/05(水) 23:36:18

    25話⑪を終了します
    時間を置いて25話⑫を投下します

  • 293二次元好きの匿名さん23/04/06(木) 00:03:43

    分割一話だけで月刊漫画ぐらいの読後感
    これが毎日読めるの幸せでしかない

  • 294二次元好きの匿名さん23/04/06(木) 00:10:35

    何が凄いって半日で集めたオリキャラを使ってここまで面白くしてる事よね
    気の早い話だけどいつかスレ主が別スレを建てる事があったら絶対に参加したい

  • 295◆xaazwm17IRZa23/04/06(木) 00:54:10

    25話⑫を投下します、本日最後の投下です……!

  • 296二次元好きの匿名さん23/04/06(木) 00:54:23

    熱くなってくるよねこんな立ち方されたら

  • 297◆xaazwm17IRZa23/04/06(木) 00:55:09

    「瀧沢さん、無茶だ……!」

     三田は叫ぶ。
     解毒は済んでいる。しかし、失った血は、戻っていない。
     常人の致死量はとっくに超えている。それでも、瀧沢は立った。

    「……いいから行け。足手まといなんだよ、もやし共」

    「くっ……」

     三田は歯噛みした。星峰が三田の肩を叩く。

    「三田くん。今すぐ文芸部のロッカーを開けに行こう」

    「でも、瀧沢さんが……!」

  • 298◆xaazwm17IRZa23/04/06(木) 00:56:28

    「武器を取ってすぐ帰ってこよう。……それが最善策だ」

     星峰も気づいている。瀧沢は戦闘ができる状態ではない。心拍数もどんどん弱くなってきている。
     けれど、ここで押し問答をしている時間すら惜しい。一緒に残っても、銃弾を全て使い切った今、二人の格闘家の戦いに割り込むことは出来ない。

    「武器だ。武器を引き当てるしかない……!」

    「……分かった、篠宮くん、行こう!」

     三人は階段へ駆け出す。マネモフルが銃口を向けるが、すかさず瀧沢が手刀で腕を弾く。

    「見事やな…(ニコッ)。しゃあけど、お前はもう死んでいる」

    「うるせぇばーか。ジークンドーの強さ、見せてやるぜ」

     深く息を吸う。瀧沢も自分が今、どれだけ危険な状態か理解している。

    (持って一秒だな)

     それだけでいい。
     ジークンドーは、最短で相手を倒す格闘技なのだから。

  • 299◆xaazwm17IRZa23/04/06(木) 00:58:19

     マネモフルは拳銃を握ったまま、じっと瀧沢を観察する。

    「シャアッ!」

     撃った。
     射線から首を捻り、躱す。同時に踏み込む。同時に撃つ。全てを一瞬で終わらせる。

    「寸勁」

     マネモフルの分厚い胸板に、瀧沢の拳が当たる。

    「ぐふっ」

     マネモフルの口から唾液が零れる。
     ——同時に、マネモフルの蹴りが瀧沢の体をへし折り、壁に叩きつけた。

    「メスブタの貧弱な攻撃なんか、この大胸筋でなんぼでも受け止めたる。ワシめっちゃタフやし」

     そして、銃口を瀧沢に向ける。

    「これで終わりなのん」

     その時、チェーンソーの駆動音が、鳴り響いた。

  • 300◆xaazwm17IRZa23/04/06(木) 00:59:02

    「うわああああああああああああああああ!」

     太腿を撃ち抜かれ、気を失っていたはずの芝野が立ち上がり、マネモフルに向けてチェーンソーを振り下ろす。

    「どわーっ 何ちゅうもん振り回しとんねん!」

     慌ててマネモフルは避ける。芝野は闇雲にチェーンソーを振り回すが、近距離でありながらマネモフルが優雅ささえ感じられる動きで刃を躱していく。

    「ククク、奇跡を信じるタイプ?」

    「瀧沢から離れろおおおおおおおお!」

    「今は殺し合いやんけ、青春ごっこがしたいなら学校でやれ!」

     マネモフルは吠え、引き金を引く。
     瀧沢の腹部で、血が飛び散った。

    「お前ええええええええええええ!」

    (落ち着け、落ち着け、落ち着け……冷静になれっ! 心を読め、そうすれば勝てる……!)

     芝野は動きを止め、マネモフルの精神に集中する。

  • 301◆xaazwm17IRZa23/04/06(木) 01:00:36

    (……よし、行ける)

    「止まったってことは、このメスブタは殺していいってことなのん?」

    「喰らえええええええええ!」

     芝野はチェーンソーで襲いかかる。マネモフルは優雅に躱し——どちらに躱すかを読んでいた芝野はその方向に刃を振るった。

    「なにっ!」

    (勝った!)

    「しゃあけど、素人すぎて話になんねーよ」

     マネモフルの膝が芝野の両掌を破壊する。どれだけ心を読もうとも、芝野の身体能力、太腿を撃ち抜かれもはや平均未満の芝野のフィジカルでは、マネモフルを捉えることは出来なかった。

    「ああっ……」

     溜まらず芝野はチェーンソーを取り落とした。
     宙を舞うチェーンソーをマネモフルは曲芸のようにキャッチすると

    「ほいだら、自分で喰らってみるかぼくぅ~」

     回転刃で、芝野を斜め一文字に斬りつけた。
     零れる。血が、臓器が、命が、零れていく。

  • 302◆xaazwm17IRZa23/04/06(木) 01:01:11

    「た、瀧沢から……離れ……」

    「そんなに乳繰り合いたいなら地獄でやってろ!」

     マネモフルに殴りつけられた芝野は瀧沢のように壁に叩きつけられた。
     壁に罅が入り、放射状のシミが出来る。
     マネキンのように転がった芝野の瞳には、既に生気は感じられなかった。

    【芝野貴仁 死亡】
    【残り 20人】

  • 303◆xaazwm17IRZa23/04/06(木) 01:01:41

    「雑魚ばっかりヤンケ。蛇の方が強いんだから話になんねーよ」

     マネモフルは思考する。瀧沢はまだ生きているかもしれない。ここでトドメを指すべきか。

    「いや、その前に下に降りてった奴を始末するべきっス。俺は優先順位を間違えない奴は無条件で尊敬する」

     マネモフルは逃げて行った他の生徒を追うべく駈け出した。
     ボランティア部部室。争いとは無縁なこの教室前で行われた銃撃戦は、廃校の戦いの、前哨戦に過ぎなかった。
     戦いは、加速する。

  • 304◆xaazwm17IRZa23/04/06(木) 01:04:16

    25話⑫を終了します。

    今日も感想やアイデアをご提供いただき、ありがとうございます……!
    集まったオリキャラのクオリティが高いため、私自身とても楽しく作製できています……!

    明日は20時から始めます、準備できればもう少し早く投下できるかもしれません……

    それでは、本日はここまでとさせていただきます、ありがとうございました……!

  • 305二次元好きの匿名さん23/04/06(木) 01:06:03

    乙です、こんな報われない形で終わっても立派に命を捧げたんだから芝野くん、貴方は男の中の男だ

  • 306二次元好きの匿名さん23/04/06(木) 01:06:09

    マネモフル、思ってた以上に強いな
    ただ最上位に強い奴らはまだ廃校に辿り着いてないからどうなるか…

  • 307二次元好きの匿名さん23/04/06(木) 01:08:40

    乙でした〜
    正直芝野くんと瀧沢ちゃんがマネモフルを倒すと思ってたけど分からなくなってきたな

    後発組が辿り着いたらどうなるのか予想もつかない

  • 308二次元好きの匿名さん23/04/06(木) 01:08:54

    >マネキンのように転がった芝野の瞳には

    ここ地味に人の心案件だよなぁ……(マネモブの語源)

  • 309二次元好きの匿名さん23/04/06(木) 01:13:46

    気ぶれる奴らだったのがどんどん辺り一面に転がっていく、かなし…

  • 310二次元好きの匿名さん23/04/06(木) 03:07:52

    そういえば三田くんの武器が一貫してバールのようなものって描写されてるけど、実はバールじゃなかったりする?

  • 311二次元好きの匿名さん23/04/06(木) 03:29:01

    >>310

    創作でバールを描写するときの定番の言い回しなのよ

    ある種のミームというかなんというか

  • 312二次元好きの匿名さん23/04/06(木) 03:36:46

    >>311

    なるほど知らんかったわ

    ミステリでは定番だったりするの?

  • 313二次元好きの匿名さん23/04/06(木) 10:46:53

    >>312

    どちらかというとネットスラングに近いのかな

    警察が凶器を特定できない時に使う言葉らしい

  • 314二次元好きの匿名さん23/04/06(木) 20:01:11

    この強敵ムーブしているマネモフルもダイスによってはコロっと死んでしまう可能性あるのハラハラするやんけ

  • 315二次元好きの匿名さん23/04/06(木) 20:27:22

    そろそろ始まるかな

  • 316◆xaazwm17IRZa23/04/06(木) 21:01:43

    申し訳ありません、もう少しかかります……

  • 317◆xaazwm17IRZa23/04/06(木) 21:08:57

    三田哲のロッカーdice1d100=90 (90)

  • 318◆xaazwm17IRZa23/04/06(木) 22:27:16

    25話⑬を投下します

  • 319◆xaazwm17IRZa23/04/06(木) 22:28:00

     篠宮、星峰、三田の三人は階段を駆け下り、文芸部の部室を目指して走った。

    「三田くん、生物部の部室は文芸部の部室と近いのかい?」

     星峰の言葉に、三田は首を振る。

    「真反対の場所だよ……どうする? 先に千頭之さんと合流するか?」

    「まずは君のロッカーを開けることを優先しよう。全てはそれからだ」

    (それまで千頭之さん……瀧沢さん……芝野くん……無事でいてくれよ)

     儚い願いであることは承知で、それでも星峰は祈った。

    「あ、あった!」

     三田は叫ぶ。
     文芸部部室として使われている空き教室。そこには二つのロッカーが安置されている。

  • 320◆xaazwm17IRZa23/04/06(木) 22:28:33

     三田哲と文乃あかりのロッカー。
     三田はロッカーに駆け寄ると早口で手続きを済ませた。

    「武器だ! 早く武器を!」

     ロッカーは開かれる。
     三田は素早くロッカーからアイテムを取り出した。

    「……大当たりだ」

    AK-74。ソ連が開発し現在でも主力武装として使われる自動小銃。

    「よし、急いで戻ろう!」

     三田が号令を出し、三人が今来た道を引き返そうとした時だった。

    「待って、誰か来る!」

     星峰が叫ぶ。
     即座に三人は物陰に隠れた。今しがたの銃撃戦で、三人の行動は迅速なものになっている。

    「三田くん、時間を稼いでくれ! その間に僕がもう一つ銃を作る!」

    「待ってくれ篠宮くん! 来るのはマネモフルじゃない!」

  • 321◆xaazwm17IRZa23/04/06(木) 22:29:03

     星峰が捉えた足音は、マネモフルではなく、もっと細身の少年のものだ。
     足音と呼吸音、心拍数で相手が誰かを星峰は把握できる。

    「……宇都くん?」

    「お前ら、無事だったか!」

     そう言って、宇都がこちらに駆け寄ってくる。手には拳銃。

    (……何だ、これ?)

     星峰は宇都の危険性を図るため、彼の感情を読みにかかる。読心と違い、具体的な思考を読めるわけではない。ただ、大まかな感情の動きは把握できる。
     結果は。

    (分からない……ここまで混沌とした心は、聞いたことがない……。う、宇都くんは、僕らに会えて安心している……! そして、強い怒りを覚えている……! ここまでは、正常だ……! けれど彼は、僕らに強い殺意を抱いている……! わけがわからない……! 一人の人間が抱えられる感情じゃない……!)

    「星峰くん、彼は危険なのかい!? どうなんだい!?」

    「わ、分からない……分からないんだ……彼がこれから何をするのか、僕にはまるで予測できない……!」

  • 322◆xaazwm17IRZa23/04/06(木) 22:29:36

     人はそれを、トリックスターと呼ぶのだろう。
     くそっ! と三田は悪態をつくと、銃口を宇都に向けた。

    「宇都くん、止まれ!」

     宇都は自分に向けられた自動小銃の銃口に、信じられないと目を見開く。

    「お、お前ら、ゲームに乗ったのかよ……!」

    「僕たちは乗っていない……! けれど、君は信用できない……! 宇都くん、ゲームが始まってから今まで、何をしていたのか教えてくれ!」

     三田の尋問に、宇都は答え始めた。

    「お、俺は最初、漁村に居た……! 地図でいう南だ……! そこで、結の死体を発見した……! バラバラだったよ……! その後放送直後に、今度は新條と文乃の死体を発見した。文乃はバラバラ、新條は焼け焦げて、首を切り裂かれてた……! そこから廃校に移動して、今お前らの目の前に居る……! どうだ、これで信用できたか?」

     文乃あかりが死んでいた。その言葉を聞いた瞬間、三田の心に強い怒りと悲しみが生まれたことを、星峰は感じ取った。
     二人は共に文芸部だった。星峰の知らない交流がたくさんあったのだろう。

  • 323◆xaazwm17IRZa23/04/06(木) 22:30:06

    「……つまり君は、今まで死体としか遭遇していないっていうんだな?」

     三田は宇都に対して強い疑心を覚えている。声にも怒りが乘る。

    「ああそうだよ! それが何だってんだ!」

    「……どうだ星峰くん。彼、嘘をついているかい」

    「……分からない。嘘をついているし、真実も言っている」

    「それは、真実の中に嘘を混ぜて話しているという意味かい?」

    「違う。心が二つあるんだ。嘘をついている心と、真実を話している心。二つの心が彼の中にある」

    「……分裂症か、危険だな」

     三田は、宇都に向かって大声を張り上げた。

    「悪いが宇都くん、銃をこちらに渡してくれないか!?」

    「は、はぁ? そんなことできるわけないだろ……! お前らが乗っていない証拠ねぇだろうが!?」

    「僕たちは3人だ。乗っているなら3人で組むと思うか?」

    「そんなことわかんねぇだろうが!? 組むかもしれねえだろ!」

  • 324◆xaazwm17IRZa23/04/06(木) 22:30:35

    「銃を渡してくれないのなら、君とは組めない! ここから立ち去ってくれ!」

     三田の言葉には、余裕が無い。
     無理もない、と星峰は思う。
     こんな風に問答をしている時間も惜しいのだ。
     瀧沢と芝野のためにも戻らなければ。

     「……俺達クラスメイトじゃないのかよ!? どうしてそんな酷いことが言えるんだ!」

    (宇都くんは今、本気で悲しんでいる。僕たちに信用されなかったことに、ショックを受けている)

     星峰が罪悪感を覚えるほど、宇都は傷ついていた。

    (けれど、同時に彼は、僕たちが罠にかからなかったことに苛立っている。一体何なんだこれは? まるで宇都くんが二人いるみたいだ)

     分裂症、と三田は言った。星峰の知る限り、宇都にそんな症状は無かった。つまり、この殺し合いで発症したのだろう。何か、強いストレスによって。

    「わ、分かったよ……! 鞄をそっちに投げる。キャッチして中を改めてくれ」

  • 325◆xaazwm17IRZa23/04/06(木) 22:31:02

     そう言って、宇都は三田の方向へ鞄を投げる。三田は反射的にそれを掴もうとする。先ほど、篠宮の透明な拳銃をキャッチできなかったことを反省しているのだろう。集中して、鞄を掴む。
     瞬間、宇都の悪意が瞬時に上昇した。
     鞄は、三田の銃口を遮るように投げられていた。
     そして、宇都の銃口は、三田に真っすぐ投げられている。

    (やられた……!)

     星峰は歯噛みする。盲目の身では具体的に何が起こったのかは分からない。ただ、自分たちが嵌められたことだけは分かった。
    銃は、三田がもつ一つだけ。その三田は今、鞄に気を取られている。そして、宇都の銃口は三田を狙っている。ここで三田が倒れれば、星峰や篠宮が自動小銃を拾う前に、宇都に銃撃されるだろう。
     分かっていても、追いつけない。宇都が引き金に指をかける。
     銃声が響いた。
     宇都の脇腹が抉られる。

    「……かっ……」

  • 326◆xaazwm17IRZa23/04/06(木) 22:31:29

     宇都はわき腹を抑え、呻いた。
     撃ったのは、篠宮だった。
     三田と宇都の問答の間に、彼は透明な拳銃の作製を完了していた。そして、撃つ。銃撃のコツは先ほどの銃撃戦で掴んでいた。

    「くそっ!」

     三田が自動小銃を発射する前に、宇都は踵を返して逃げ出した。

    「どうする? 追うか?」

     篠宮の言葉には、冷徹ささえ感じられた。先ほどの銃撃戦と自らのミス、そして宇都の悪意を見たことで、甘さを完全に捨ててしまった。追って殺すか? と篠宮は二人に聞いているのだ。

    「……いや、今はマネモフルだ」

     同じ拳銃持ちだが宇都は負傷している。それに宇都とマネモフルでは危険性が違い過ぎる。まずはマネモフルを倒し……否、殺し、瀧沢と芝野の安否を確かめなくてはならない。
     星峰がそう考えたときだった。
     真反対の場所で、轟音が聞こえた。銃声ではなく、まるで砲声のような音。

  • 327◆xaazwm17IRZa23/04/06(木) 22:31:48

    「今の音……美術室からだ!」

    「まさか、マネモフルが千頭之さんを……?」

     気づいたとき、三人の少年は駆け出していた。
     自動小銃と、透明な拳銃。さっきより戦力は増した。それでも、マネモフルに勝てるかは分からない。
     それでも、逃げ出すわけには行かなかった。何が彼らの足を駆り立てるのか、彼らにも分からない。正義感なのか、女子生徒を守る騎士道精神なのか、戦いの高揚を求める狂奔なのか。三田を含め多少の荒事の経験はあれど、銃撃戦など初めてだった。自分の命が容易く奪われる、まさしく戦場の空気に、三人は完全に当てられていた。
     同じ教室で学んだ生徒を守るために、同じ教室で学んだ生徒を殺す。ここに来る前なら、何らかの心理的葛藤を覚えたはずのこの事実を、今の三人は完全に呑み込んでいた。
     デスゲームが始まり8時間以上が経過した。それは、学生を兵士に変えるには十分な時間だったのかもしれない。

  • 328◆xaazwm17IRZa23/04/06(木) 22:32:44

    25話⑬を終了します

    時間を置いて、25話⑭を投下します

    今日も大遅刻をして申し訳ありません……

  • 329◆xaazwm17IRZa23/04/06(木) 22:42:19

    マネモフル=タマネのロッカーdice1d100=100 (100)

    千頭之のづちのロッカーdice1d100=30 (30)

  • 330二次元好きの匿名さん23/04/06(木) 22:44:44

    な…なんだあっ!?

  • 331二次元好きの匿名さん23/04/06(木) 22:51:32

    なんて事だ…
    マネモフルもスマホを手に入れるのか…?

  • 332二次元好きの匿名さん23/04/06(木) 23:26:32

    新兵器を手に入れたマネモフルか、デストラップ襲撃か

  • 333二次元好きの匿名さん23/04/06(木) 23:43:17

    マネモフルはダイスにアホほど愛されとったんや
    その出目…100

    えっ

  • 334◆xaazwm17IRZa23/04/06(木) 23:59:31

    25話⑭を投下します

  • 335◆xaazwm17IRZa23/04/07(金) 00:00:26

     三田たちに逃がされた千頭之は、東校舎2階の廊下を駆けていた。
     武器だ。武器が必要なのだ。
     ストームの仇を取るためには、武器が……。

    「あった、ロッカー!」

     美術室の前に、確かにロッカーが置かれている。
     千頭之は駆け寄ると、手早く手続きを済ませていく。

    「武器を! 私にマネモフルを殺す武器をくれ!」

     ロッカーが開かれ、千頭之は手を突っ込む。取り出したのは

    「……くそっ、外れだ!」

     サバイバルナイフ。
     人間を殺傷して余りある武器ではある。が、拳銃を持ったマネモフル相手には、戦力になりえない。

    「どうする……? 一度3階に戻るか、それとも他のクラスメイトに助けを……」

     今更千頭之がナイフを届けたところで、事態は何も好転しない。
     けれど、来ているかも分からない他のクラスメイトを当てにして廃校を走り回るのも、非効率的だ。

  • 336◆xaazwm17IRZa23/04/07(金) 00:01:14

    (……三田たちを見捨てて逃げるのはどうだ? 歯荷や金木はそうしたじゃないか。そうだ、私が戻ったところで死体が一つ増えるだけだ。私はここで死ぬわけにはいかない。まだ、アラシもコサメも見つけていない。男子三人を見捨てればいいじゃないか……)

     千頭之の足は止まった。
     もし仮に、この場にいるのが霧田や鰐淵ならば、悩むことなく逃げていたのだろう。自分が行っても戦力にならず、廃校でやらねばならないことはクリアした。三田たちは見殺しにして、他の生徒と共に改めてマネモフルを殺す。そういう風に考え、悩むことなく実行するだろう。
     千頭之も、それが最も合理的だと分かっている。
     けれど、足が動かない。
     死んでほしくない。そう思ってしまう。
     三田が庇わなければ自分は死んでいた。ストームのために復讐するという考えにも、星峰は同調してくれた。篠宮が銃撃戦をしなければ、千頭之は逃げられなかった。

  • 337◆xaazwm17IRZa23/04/07(金) 00:02:09

    (……ナイフを持って帰ったところで、何になる? あの場にはもっと強い武器が揃っていた。今更ナイフを持って行ったところで……そうだ、やっぱりここは逃げることが正解だ。逃げて再起を……)

     千頭之のづちの判断は間違っていない。彼女の異能は意味を為さず、身体能力に圧倒的な開きがあり、武器も拳銃とナイフでは勝負の土俵にさえ立てない。行く意味が無いのだ。それでも決断が遅れたのは、彼女がどれだけ人嫌いを標榜しても、心根が優しいことの現れだろう。……デスゲームにおいて、それは命取りである。
     逃げようと決意し、千頭之は一階を目指して駆けだした。
     その足元を、弾丸が掠めた。

    「なっ!」

     千頭之は振り向く。
     振り向いて——絶望する。

    「今からあなたを殺します! 覚悟してください!」

     マネモフルが拳銃を構えたままダッシュで突っ込んでくる。
     それは数時間前の再現だった。
     あの時は、ストームという頼れる友達が守ってくれた。

  • 338◆xaazwm17IRZa23/04/07(金) 00:03:03

     しかし今、千頭之の周囲には誰もいない。
     もし、千頭之がもっと早く、三田たちを見捨てることに踏ん切りがついていれば。マネモフルに追いつかれることは無かったのかもしれない。判断が遅い。優しすぎた故に、千頭之はナイフを頼りにマネモフルと相対することになる。

    「シャアッ!」

     マネモフルが拳銃を撃つ。ロッカーに当たり、跳弾が起こる。

    「シャアッ!」

     再び撃つ。千頭之の髪を千切りながら、弾丸は通過する。

    「シャアッ!」

     諦めず撃つ。明後日の方向に銃弾が飛んでいく。

    「な…なんだあっ!? 全然当たらないやんけ!」

     千頭之にも何が起こったのか分からない。ただ、突如マネモフルがノーコンジャワティーになったことは分かった。

    「ストームの仇!」

     千頭之はナイフを腰だめに構え、突進する。

  • 339◆xaazwm17IRZa23/04/07(金) 00:03:52

    「はいっ、クズ確定。ぶっ殺します」

     マネモフルは愚弄するかのように笑うと、シャアッと拳を振りかざす。
     それは、千頭之を容易く吹き飛ばし、廊下に転がす威力があった。

    「何やねんこの不調、ワシは知らんで!」

     それだけだった。千頭之は腹を抑えながら立ち上がる。
     おかしい。本来のマネモフルの鉄拳ならば、千頭之を昏倒させるほどの威力があったはずなのだ。
     こんな、一般的男子生徒の暴力程度で収まるはずがない。
     自分の体が自分のものではないようだ。

    「シャアッ」

     と、マネモフルは気合を入れる。こんな雑魚に手間取っている場合ではない。こんな蛇に頼り切りのメスブタに愚弄されるわけには……。

    「シャアッ、シャアッ、シャアッ……口癖が違うじゃねぇかよ、えーーーっ!」

     本来、マネモフルの口癖は「しゃあっ」である。
     それがいつのまにか、シャアッになっている。

  • 340◆xaazwm17IRZa23/04/07(金) 00:04:44

     いつからだ。いつからこんなことに……。
     まさか……。マネモフルは恐ろしい事実に気がつく。シャアッと言った敵を思い出したのだ。そしてそれをマネモフルは……。

    「……ストーム、なのか?」

     千頭之も気づく。どうしてまだ自分が生きているのか、その理由に気づく。

    「お前が、私を助けてくれているのか……?」

    「蛇なら荼毘に付したよ、口癖の話はするな ワシは今メチャクチャ機嫌が悪いんや」

     千頭之が異能によって友達にしたオオアナコンダ・ストームは、マネモフルによって喰われ、血肉へと変えられた。
     すなわち、マネモフルを構成する物質の幾つかは、「蛇」ということである。ならば、千頭之の異能の対象に含まれる。

    (マネモフルは私を殺せない……! ありがとうストーム! お前の仇、取って見せる!)

    「うぉおおおおおおおおおお!」

     千頭之は再びナイフを構え、マネモフルに突っ込む。

  • 341◆xaazwm17IRZa23/04/07(金) 00:05:27

     しかし。

    「なめてんじゃねぇぞ!こら!(ゴッ)」

     マネモフルの一撃で再び吹き飛ばされる。
     さっきの腹パンより威力の上がった一撃に、千頭之は立ち上がることが出来ない。内臓が逆流するかのような痛みが彼女を襲っていた。

    「お前の異能みたいなもん、集中すればどうにでもできるやんけ、何勝った気でおるねん」

     原因不明だったためマネモフルは困惑した。しかし、千頭之の異能が中途半端に作用しているとさえ分かれば、その支配を超える集中力で攻撃すればいい。
     面倒だが、面倒なだけだ。

    「ワシはお前を殺して成長できる、お前は死んで蛇とあの世で会える、ハッピーハッピーやんけ」

    「ふざけるな……」

     マネモフルが千頭之を殴り殺すために接近する。
     千頭之は立てない。意識が飛びそうな程の激痛の中で、それでも一矢報いるためにナイフを握る。

  • 342◆xaazwm17IRZa23/04/07(金) 00:06:11

    (……ごめん、ストーム。仇は取れなかった。……ごめん、アラシ、コサメ。見つけてあげられなくて。……鰐淵、君は生きろよ)

     矢が、風を切って飛び、マネモフルと千頭之の間に刺さる。
     新手か? とマネモフルが鬱陶しそうに廊下に目をやった。千頭之もまた、状況を確かめるために、そちらを見る。

    「——言ったろ蛇女」

     少女は赤に染まっていた。
     セーラー服を真紅に染め上げ、クロスボウを真っすぐ構えていた。

    「こいつは、アタシがぶっ殺す」

     瀧沢魁は、再びマネモフル=タマネと対峙した。

  • 343◆xaazwm17IRZa23/04/07(金) 00:06:53

    25話⑭を終了します
    時間を置いて25話⑮を投下します

  • 344二次元好きの匿名さん23/04/07(金) 00:08:31

    でもマネモフルが武器をゲットする未来は確定している…
    皆んな生きてくれよ…

  • 345二次元好きの匿名さん23/04/07(金) 00:11:13

    まさかスレ主、ストームが食われた前スレの時点で伏線を……?

  • 346◆xaazwm17IRZa23/04/07(金) 01:12:38

    だいぶ時間かかると思います、申し訳ないです

  • 347二次元好きの匿名さん23/04/07(金) 01:14:10

    ジャワティーが愚弄に使われてて笑ってしまう

    >>346

    無理せずで…

  • 348二次元好きの匿名さん23/04/07(金) 02:11:28

    >>346

    寧ろこんな時間まで長編を書いてくれることに感謝なんだ

  • 349◆xaazwm17IRZa23/04/07(金) 04:23:28

    25話⑮を投下します、今日最後の投下なのん、めちゃくちゃ長いのでまたお手すきのときに少しずつ読んでいただけるだけでもありがたい……マジでね

  • 350◆xaazwm17IRZa23/04/07(金) 04:25:02

    「死人が生き返るのはルールで禁止スよね」

     マネモフルは訝しんだ。
     瀧沢がどうして衰弱していたのかまでは分からない。ただ、立っているのもやっとの状態を蹴り飛ばし、腹部を撃ち抜いた。生きている可能性は想定していたが、再び立ち上がり、自分の邪魔をするとは……。

  • 351◆xaazwm17IRZa23/04/07(金) 04:25:54

     千頭之もまた、瀧沢の復活に驚愕していた。
     失血死寸前の状態だったはずだ。意識を失い芝野と共に廊下に倒れていたところまでしか見ていないが、とっくに戦闘不能……否、既に死んでいるかもしれないという諦めさえ抱いていた。
     しかし、瀧沢は立っている。クロスボウをマネモフルに向け、血に濡れた顔の中で、目を獰猛に光らせて立っている。

    「とりあえず蛇女から離れろマネモフル。てめぇの相手はアタシがしてやるからよ」

     言われるまでもない。
     もはや攻略法が分かった千頭之と違い、瀧沢の手にはクロスボウが握られている。
     瀧沢を無視して千頭之を撃つことを考えたが、千頭之に攻撃するには、多少の集中力を要する。その隙にクロスボウを発射されると不味い。

    「怒らないでくださいね、一度負けた女がもう一度挑戦するなんて馬鹿みたいじゃないですか、死臭がひどい、ゾンビかっての」

     先に瀧沢を仕留める。マネモフルは瀧沢に銃口を向けた。

    「けけけ、素直じゃねぇかマネモフル」

     そう言って、瀧沢は一歩踏み出した。

  • 352◆xaazwm17IRZa23/04/07(金) 04:26:45

     マネモフルも下品に笑い、一歩前に出る。
     マネモフルは冷静だった。どうして瀧沢は起き上がってこれたのか。その理由を図る。何故なら、それを知らなければ、何度も起き上がられる可能性があるからだ。
     純粋に気合、とは考えない。マネモフルの見立てでは、瀧沢は死亡、良くて再起不能だった。その見立てが間違っているはずがない。
     マネモフルの知る限り、瀧沢は不死太郎やNek-Oのような不死者ではない。ならば、アイテムを隠し持っており、それを服用したか。あり得る話だ。もしそうなら、もう一度殺せば、今度は完全に始末できるだろう。
     このメスブタを殺した後、念のため身体検査をするべきやな、ぶへへ……。マネモフルは下種な笑みを浮かべ、改めて瀧沢を上から下まで舐めまわすように見る。
     見て、気づく。
     先ほどまでと、雰囲気が違う。
     普通に考えれば、より死に近づいているはずだ。完全回復をするタイプのアイテムを使用したわけではないことは、腹部の傷を見れば分かる。
     しかし、足取りは力強い。血で分かりづらいが、顔色も良い。全身に気力が漲っている。

  • 353◆xaazwm17IRZa23/04/07(金) 04:27:47

     本当に何があった? 怪我は直さず、しかし体力のみを回復させるアイテム? もしそんなものがあるのなら、どうしてさっきは使わなかった?
     二人は少しずつ接近する。マネモフルの思考は加速する。
     そもそも、どうしてこのメスブタはこんなに薄汚いのか。セーラー服をどす黒く血で汚し、顔にも、血がこびりついている。どこでこんなに汚してきたのか。マネモフルが撃った場所は腹部だ。顔に血が飛び散ったにしてもこうは汚れないだろう。
     血……?
     マネモフルの中で閃きが生まれる。
     そういえば、学校中に血がぽたぽたと落ちていた。あれは、瀧沢の血ではないか。どうして止血をしなかったのかは分からないが、結果として瀧沢は貧血状態……否、失血死寸前だった。そして今の瀧沢は、さっきまでの衰弱は感じられない。
     失血を補った……? どうやって? 輸血パックでも支給されていたのか。
     ふと、マネモフルは思い出す。今しがた始末した少年のことを。チェーンソーで切り裂き、血や臓器をぶちまけて死んだ弱き者のことを。
     ——まさか。
     マネモフルは戦慄した。

  • 354◆xaazwm17IRZa23/04/07(金) 04:29:43

    「お…お前 変なクスリでもやってるのか」

    「ぎゃは、ようやく気づいたみたいだな、アタシもさ、奇跡を信じるタイプじゃねえんだが」

     瀧沢はクロスボウを捨てた。その分腕が自由になる。拳を作る。前に出す。ジークンドー、右リードの構え。

    「……アタシと芝野は同じ血液型だ。……またあいつに助けられちまったぜ」

     笑う。芝野の血で赤く汚れた歯を見せ、瀧沢は獰猛に笑う。

     『瀧沢は、芝野の死体から血を喰らい、失血を補った』。

     あまりに単純で、あまりにおぞましい事実に、マネモフルが恐怖したとき、瀧沢は踏み込んでいた。
     一瞬の隙を突かれた。

    「ふうん、そういうことか」

     ——それは、マネモフルが生んだ、意図的な隙だった。
     瀧沢が芝野の死体をどうしようがマネモフルの知ったことではない。野蛮人であるマネモフルにとって死体の血を啜ることは、知ってしまえばだから何だよと吐き捨てられる程度のものだった。

  • 355◆xaazwm17IRZa23/04/07(金) 04:30:26

     撃つ。相手は千頭之ではない。大した集中は必要ない。
     腕を手刀で弾いて射線を逸らされる。これも知っている。さっきとまったく同じ動作だ。
     この後も分かる。瀧沢の寸勁が胸に当たり、ダメージを受ける。しかしカウンターの蹴りが瀧沢をへし折り、再起不能にする。

    (どうあがいても女では男に勝てない。これは差別ではない、差異だ)

     どうしてクロスボウを捨ててしまったの? あはは、これは痛いわとマネモフルは心中で笑った。
     そして、先刻の再現をするかのように瀧沢の拳がマネモフルの胸板に当たる。

    「——寸勁」

     マネモフルは分厚い大胸筋で衝撃を受け止め——。

    「えっ」

     宙を舞う。
     カウンターを放つはずだった蹴りは無造作に投げ出される。
     学ランの上からでも、マネモフルの胸板が歪に凹んでいることが見て取れる。

  • 356◆xaazwm17IRZa23/04/07(金) 04:31:16

    「う、嘘やろ……こんな、こんなこ……」

     台詞を言い終わる前に、マネモフルは受け身も取れずに地面に落下した。
     即座に立ち上がろうとするが、体を丸め、吐血する。
     ◇この威力は・・・!?

    「どうした、これで終わりじゃねーだろ」

     あにまん高校3年1組には、異能を抜きにしても、化け物じみた身体能力の持ち主が数多く在籍している。
     究極のフィジカルを持つ男、オルランド・テークトリ。
     24時間踊り続けることが可能な男、パンパンパン・ラッタッター。
     常人の数倍の身体能力を秘めながら外見上はメス男子、堀木彩。
     瀧沢魁は、決して最強ではない。総合力なら新條アキラが、殺人術なら小田斬純恋が、戦闘経験なら石川大輔が、それぞれ上回っている。
     しかし、右を見ても左を見ても、化け物だらけの3年1組で、かつて茜音沢は、瀧沢魁をこう評した。

    「とりあえずパワーでぶち壊すことを優先する脳筋女子」。

  • 357◆xaazwm17IRZa23/04/07(金) 04:32:09

     それは、3年1組の中でも、化け物の巣窟の中でも、突出して「怪力」であることを示す言葉だった。

    (……おいおい重すぎでしょうが。あわわ、肋骨が折れているですぅ……)

     一撃。たった一撃で、マネモフルは瀧沢の認識を改めた。
     このメスブタの攻撃は、まともに受けてはいけない。
     ジークンドー。それは、最速で相手を倒す格闘技。そこに瀧沢の怪力が乘る。一撃必殺が最速でやってくる。
     マネモフルは、遊びをやめた。
     立ち上がり、掴んでいた拳銃を放り投げる。

    「ククク、これがどういうことかわかるかぼくぅ?」

    「あ?」

    「本気になったということや、ピストルごっこはもうしまいやっ」

     マネモフルの両手が空く。引き金を引くより、出来ることが格段に増える。
     殴ってもいい。貫いてもいい。引っぱたいてもいい。ネコ騙しだってありだ。
     そして、「真空」を使ってもいい。

  • 358◆xaazwm17IRZa23/04/07(金) 04:33:01

     何故マネモフルは一度仕舞った拳銃を取り出し、使っていたのか。何故銃撃戦に興じていたのか。全ては——成長のため。マネモフルは、瀧沢をオオアナコンダに並ぶ強敵と認識した。

    「しゃあけど灘神影流は活殺自在。お前のジークンドーには負けへんわ」

    「……へぇ、試してみろよ」

     再び二人は近づく。

    (これ以上は危険や、寸勁を止めるぞ……!)

    (チッ、今ので動けるのかよ、タフだぜこいつ……)

     互いの思惑を拳に載せ、二人は距離を縮める。

    「シャアッ、釘突き!」

     先手はマネモフル。狙うのは被弾した腹部。

    「見え見えだよ、ばーか」

     相手の弱点部位を攻撃することは戦闘の基本。瀧沢はむしろあえて隙を作り、マネモフルの攻撃を誘っていた。ジークンドーの基本技術、ABD(Attack by Drawing)である。マネモフルの釘突きを難なく躱し、カウンターの蹴りを放つ。まるで、ボランティア部部室で、蹴りで敗北したことへの雪辱のように。

  • 359◆xaazwm17IRZa23/04/07(金) 04:33:47

     マネモフルはこれをガードした。先ほどのように無防備に攻撃させることはしない。

    「シャアッ、硬筋術!」

     気によって肉体を硬化させ、瀧沢の大斧のような蹴りを受け止める。衝撃の瞬間、全身がぐらつくが、それでも耐えきる。
    が、間髪いれず繰り出されたリードパンチによって、姿勢を崩し、一歩、二歩と後退する。武術は一つの技で終わることはない。技から技へ。流れるように繰り出される。ジークンドーもまた例外ではない。ABC(Attack by Combination)。瀧沢はこれを、自然なものとして身に着けている。
     マネモフルは、二度目の吐血をする羽目になる。

    「どの世界にも通じることやが…中身のないヤツが数を誇る!」

     負け惜しみじみたことを言いながらマネモフルは秘伝のツボを突き、体力を回復させた。

    「シャアッ、虎腿蹴!」

     マネモフルの飛び蹴りを、瀧沢はフェンシングじみたバックステップで回避する。

    「………………」

  • 360◆xaazwm17IRZa23/04/07(金) 04:34:34

    「ワシはジャッキー・チェンやブルース・リーみたいなアクション・スターになる人間やで! お前みたいなブルース・リーのフォロワーでは相手にならないと思われるが……」

    「…………ああ、そういうことか、てめぇ」

    「おっ、反応があった。やっぱ本当のこと言われると腹立つんやな」

     瀧沢の顔が不機嫌そうに歪む。

    「シャアッ、霞突き!」

     目にも止まらぬ超高速の打撃が、瀧沢を襲う。瀧沢は躱し、逸らし、のけ反り、弾くが、全ては捌ききれない。顔に、わき腹に、腹部に、足に、マネモフルの打撃が当たる。

    「……あいつ、化け物かよ……」

     千頭之は、見ていることしか出来なかった。マネモフル=タマネ。拳銃を持った屈強な男。違う、拳銃を手放した時、怪物を超えた怪物が姿を現したのだ。瀧沢も強い。寸勁でマネモフルの恵体を吹き飛ばしたとき、うちの体育会系はここまで強かったのかと千頭之は戦慄した。けれど、その後は、どうも精彩に欠ける。マネモフルの人外めいた攻撃と比較すると、瀧沢のジークンドーはどこまでも現実的だ。気のようなものさえ纏いだしたマネモフルと比べると、まだ人間の範疇に留まっているようにすら感じる。

  • 361◆xaazwm17IRZa23/04/07(金) 04:35:38

     転がっているクロスボウや拳銃を拾い、参戦するべきか。

    (駄目だ……立てない……)

     本気のマネモフルを見たことで、実力差が分かってしまう。さっきまでの戦場めいた銃撃戦は、マネモフルにとって遊びだったことが分かってしまう。自分がどれだけ引き金を引いても、絶対に勝てないと、実感してしまう。
     傷だらけの瀧沢は、たたらを踏む。長い連撃を終えたマネモフルは息をつくと

    「これで終いや、螺子拳」

     相手のガードを貫通して顔面と脳を破壊する攻撃を繰り出す。

    「……学習しろよな」

     ABD(Attack by Drawing)。わざと隙を作り、カウンターを当てる、ジークンドーの基本技術である。
     身を捻って、螺子拳を躱す。同時に、マネモフルの膝関節に蹴りを入れる。
     女子供の蹴りではない。純粋なパワー勝負なら3年1組最強の少女の蹴りである。マネモフルが体勢を崩す。すかさず金的を蹴る。これは、男としての本能で回避する。否、回避させられた。その動きを読んでいた瀧沢はマネモフルの顔面にフィンガージャブを撃つ。それは、ボクシングのジャブの速度、つまり格闘技最速の動きで行う、目潰しである。

  • 362◆xaazwm17IRZa23/04/07(金) 04:36:23

    「な…なんだあっ!」

     マネモフルは左目を抑え、後ずさる。すかさず瀧沢は追撃を入れる。

    「——寸勁」

     砲弾のようにマネモフルは転がった。

    「ウ…ウソやろ、こ…こんなことが、こ…こんなことが許されていいのか……!」

     何度目になるか分からない吐血。マネモフルの顔は起こるはずのない不条理に、困惑さえ抱いていた。

    「灘神影流は、一子相伝の暗殺拳なのん……! 敗北なんてあり得ないんだあっ!」

    「よく知らねぇけどさ、灘神影流とやらは強いよ」

     瀧沢は淡々と語る。這いつくばるマネモフルを見下ろして語る。

    「テメェが『本物の使い手』だったら、アタシは手も足も出なかっただろうぜ……。だが、テメェは違う。継ぎ接ぎの紛い者だ。一つ一つの技は脅威でも、繋がってねぇ。技のコンビネーションが機能してない。ただの猿真似だな」

  • 363◆xaazwm17IRZa23/04/07(金) 04:37:27

     マネモフルの顔が悔し気に歪む。

    「アタシは、武術家は無条件で尊敬する。だが、武術家もどきは軽蔑の対象だぜ。これは差別じゃねぇ、差異だ」

    「あーっ! 何言ってるかわかんねえよ!」

     マネモフルは立ち上がった。

    「武術みたいなもん愚弄するだけの道具やんけ、なにムキになっとんねん!」

     野蛮人を超えた野蛮人、マネモフル=タマネは怒りの力で立ち上がった。

    「しゃあけど、格闘ごっこはもう終わりや。ここからが本当の殺し合いやんけ!」

     マネモフルは両腕に「真空」を作った。

    「『真空』に触れたら、肉を抉るのん! 一度喰らってみるかぼくぅ~?」

     これこそがマネモフルの真骨頂。本来、「真空」とはこのような現象ではない。しかしこれは異能によるもの。あらゆる法則を、異能は凌駕する。

    「これでお前はワシと肉弾戦ができないのん、もうちっとリスペクトしてくれや」

    「……ぎゃははは、ナイフ装備したのと何が違うんだよそれ」

     瀧沢の愚弄に、マネモフルの顔が怒りでどす黒く変色する。

  • 364◆xaazwm17IRZa23/04/07(金) 04:38:30

    「なめるなっ、メスブタァッ!」

     マネモフルは闘気を全身に纏わせ突進する。
     瀧沢も獰猛な笑みを浮かべてマネモフルを迎え撃つ。
     瞬間、マネモフルは廊下を蹴って後方に跳んだ。

    「どうして敵の言うことを信じてるの?」

     なにっ! と驚いた瀧沢の表情を見て、マネモフルが口角をつり上げる。
     爆音。爆発。校舎の外から放たれた攻撃が、2階の一区画を完全に破壊する。
     ——瀧沢に向けて、砲撃が来た。



     マネモフルはボランティア部部室前で瀧沢たちを襲撃する前に、3年1組の自分のロッカーを開けていた。時系列は、瀧沢たちが去った後、宇都が到着する前である。武器を選択したマネモフルに与えられたアイテムは、超大当たりアイテム。殺し合いのバランスを崩壊させる危険性さえあるものだった。
     ——九七式中戦車。
     第二次世界大戦前に大日本帝国で開発された、中戦車である。当時の各国の戦車と比べ、ことさら強いというわけではない。しかし、当然、人間同士の殺し合いで持ち込んではいけない超兵器である。本来なら取り扱いには訓練が必要だが、このゲームにおいて九七式中戦車は独自の改造が施され、登録した生徒は遠隔で操作が可能である。

  • 365◆xaazwm17IRZa23/04/07(金) 04:39:25

     ロッカーを開け、説明書を読んだマネモフルは東校舎の裏に戦車を待機させ、いつでも撃てるように準備していた。
     何のことは無い、マネモフルはいつでも敵を皆殺しに出来たのだ。銃撃戦も、瀧沢との格闘戦も、全ては相手を愚弄するため、そして自らを成長させるためのものだった。
     瀧沢の死因、それはマネモフルを愚弄し過ぎたことである。ボボパンも含めてもう少し瀧沢と遊ぼうと思っていたマネモフルだったが、瀧沢の異常な強さとジークンドーの練度、何より自らを愚弄されたことに怒り、予定を早めて戦車を使うことにした。

    (許せなかった…ワシが紛い物だなんて…!!! ワシはタフや……誰が何と言おうとタフなんや……!)

     砲撃によって生じた煙を前に、マネモフルは怒りを鎮めようとし。

     煙の中から現れた瀧沢の姿に、完全に思考を停止させた。

     それは、本来なら絶対に不可能な行為であった。

  • 366◆xaazwm17IRZa23/04/07(金) 04:42:17

     瀧沢魁の実力では、戦車の砲撃に対応できない。
     炎の壁を作ることも出来ず、鉄棒で撃ち返すことも出来ず、ダンスで無効化も出来ない。瀧沢は、砲撃の前では死ぬしかない。
     ——戦車がどこに隠され、どのタイミングで、どこを撃つかを、把握していなければの話だが。

    「なんだー貴様―!」

     マネモフルは恐怖の叫び声を挙げた。
     戦車の存在を知っているはずがない。マネモフルは一度もボロを出さなかった。否、もし知っていたとしても、砲撃を躱すなど出来るはずがない。どのタイミングで撃つか、知っているのはマネモフルだけなのだから。
     ——心を読みでもしない限り、出来るはずがない。

    「……ありがとな、芝野」

     瀧沢は芝野の血を飲んだ。異能者の血を大量に摂取した。それがどのような作用を及ぼしたのか。分かっていることはただ一つ。瀧沢は、重大なダメージを負うことなく、マネモフルに近づけた。

    「う あ あ あ あ あ」

     パニックに陥りながらも、マネモフルは真空を纏った連撃を繰りだした。その全てをトラッピングで防がれる。真空に触れさえしなければ、瀧沢に傷がつくことはない。

  • 367◆xaazwm17IRZa23/04/07(金) 04:43:03

    「お お お お お お 破心掌!」
     掌底を心臓や筋肉に打ち込み、真空をつくって大ダメージを与える。マネモフルの必殺技である。虎の子の奥義は、さすがに瀧沢も捌き切れず、右肩を抉られる。
     それでも、瀧沢は止まらない。
     打つ。打つ。打つ……!
     両腕をチェーンソーのように回転させながら、マネモフルを殴り続ける。逃げようとすれば回り込んで打つ。カウンターを決めようとすれば起こりを封じて打つ。何もさせない。これ以上、マネモフルに自由を与えない。ジークンドーの元になった咏春拳が得意とする攻撃、チェーンパンチ。一撃一撃が必殺となる瀧沢のジークンドーは、連撃も例外ではない。
     打つ、打つ、打つ……!
     相手が死ぬまで打つ……!
     瀧沢の心臓が悲鳴を上げる。あまりにも無茶苦茶な輸血だった。もはや吸血である。解毒が済んで1時間も経っていない。腹部を銃で撃たれ、全身を殴打され、右肩も抉られている。それでも打つ……! 

    (……こいつ、マジでタフかよ……!)

  • 368◆xaazwm17IRZa23/04/07(金) 04:43:56

     初めて、瀧沢は弱音を吐いた。
     マネモフルが死なない。分厚い筋肉を差し引いても、人間ならとっくに死ぬレベルのダメージを与えているにも関わらず、未だ生命活動が停止しない。
     殺す。千頭之と約束した。こいつは殺す。
     殺す。こいつは芝野を殺した。アタシの目の前で殺した。絶対に許さない。あいつはいい奴だった。不器用なくせに一生懸命で、そのくせ自信が無く、他人思いのくせに他人の評価を受け取ろうとしない。こんなゲームで死んでいい奴じゃなかった。
     芝野が居なかったらアタシは死んでいた。あいつは命の恩人だ。だから、助かった命はあいつのために使おうと思った。なのに、あいつは不器用で他人思いだから結局アタシを助けようとして死んじまった。つくづく気に喰わない。まるでアタシの思い通りにならない。
     打つ、打つ、打つ……! まだマネモフルは死なない……!
     あ、そうか。唐突に瀧沢は理解した。
     ここで自分も死ぬのだ。アタシはここで死ぬ。死ぬまでマネモフルを殴りまくって、同時にくたばる。たぶんそれくらい殴らないとマネモフルは死なない。死ぬ。ようやくか。トカゲに噛まれたときから、アタシはもう死ぬ覚悟は出来ていた。生きているんだから、死ぬのは当たり前だ。だからいい。これでいい。

  • 369◆xaazwm17IRZa23/04/07(金) 04:44:54

     そうか、そうしたら芝野に会えるのか。……おいおい、アタシ、いつから死後の世界とか信じるようになったんだ? オカルトとかスピリチュアルとか、くだらねぇ、人は死んだら土に還るだけ、それがアタシのポリシーだっただろ? でもまぁ、そうだな。もしあの世が会ったら、そこで芝野と再会できたら。
     ……好きだ、って伝えてもいいかもな。生きてる間は照れ臭いし恥ずかしいし、何より馬鹿馬鹿しいから言うつもりはなかったが。死ぬんだったらいいよな。数時間一緒に行動しただけで好きになるとは……まぁ吊り橋効果だよなぁこれ。たぶん二人で一緒に脱出できてたら、何となく疎遠になってた気がするんだよなぁ。本来接点まったくないし、アタシ弱い男は眼中にねぇしな。……いや、芝野は弱くねぇな。こんなタフ野郎に果敢に立ち向かってよ。……なんだ、だったらアタシの好みじゃねぇか。よし、死んだらいっちょ告ってみるか。まぁ駄目元でよ。けけけ、あいつをからかうのは楽しそうだしな、何だ、死んでみるのも案外悪くは……。

    【ど、どうしてお前はそう諦めが早いんだ……! 生きれるんなら生きろよ、瀧沢……!】

     ちっ、うるせぇな、芝野。
     ……分かったよ。

  • 370◆xaazwm17IRZa23/04/07(金) 04:48:19

    「————寸勁っ!」

     ワンインチパンチ。今まで最大威力のその打撃は、意識を喪失したマネモフルを吹き飛ばすには十分な威力だった。窓枠ごと粉砕しながら、マネモフルは校舎の外へ落ちていく。
     それを見届け、瀧沢は大の字に倒れた。
     呼吸が乱れる。世界が歪む。死の淵を覗くまで放った連撃、そこからの最大威力の寸勁は、瀧沢に深刻なダメージを与えていた。

    「瀧沢さんっ!」

     慌てて千頭之が駆け寄る。
     瀧沢を抱え、呼吸を楽にさせる。

    「わりぃ、まだ殺せてねぇ……」

    「いい、いいよ……! ごめん、ここまで戦わせて……!」

    「……はっ、アタシが好きでやってんだよ。気にすんなや……」

     死にかけている。ただ、まだ死んでいない。休めば、まだ戦える。

    「早くマネモフルに止めをささねぇとな。あいつ、とんでもない武器持ちやがって」

    「瀧沢さん、後は私がやるから、君はここで休んだ方が……」

    「ばーか、どこも戦場だよ。だったら二人で行動する方が生存確率たけぇだろうが」

     千頭之は瀧沢に肩を貸し、二人は崩れかかった校舎を眺める。向こうから三田たちが駆けてくるのが見え、二人の少女は手を挙げたのだった。
     廃校での戦い、前哨戦。
     マネモフル=タマネVS瀧沢魁。
     勝者——瀧沢魁。
     

  • 371◆xaazwm17IRZa23/04/07(金) 04:51:37

    25話⑮を終了します、……もし夜更かしさせてしまったのなら、本当に申し訳ないです……

    今日はここまでとさせていただきます、連日の感想とても嬉しく思っています……! もちろんお手すきのときに纏めて読んでいただいてもとても嬉しいです……!

    明日も20時頃から始めさせていただきます……! 時間が前後するかもしれませんが、ご了承いただけると幸いです……!

    それでは、本日もありがとうございました……!

  • 372二次元好きの匿名さん23/04/07(金) 05:02:46

    瀧沢ちゃんがすごく主人公してて格好いいし、これでまだ前哨戦なのか…

    あと今マネモフルのデータ見直したら見えないものが見えるかも……?ってなんだ?
    この上まだ何かあるのか…?

  • 373二次元好きの匿名さん23/04/07(金) 05:12:40

    乙でした〜
    こんな時間まで書いていただいて
    こちらこそ申し訳なくなってくるのよ

  • 374二次元好きの匿名さん23/04/07(金) 06:09:12

    乙でした
    芝野を食べて力を受け継いだ瀧沢、マネモフルに食べられて尚千頭之を生かそうとしたストーム
    二つの遺志があってこそ成り立った熱い戦いだった

  • 375二次元好きの匿名さん23/04/07(金) 08:47:56

    ここに今からinする後発組が可哀想になる

  • 376二次元好きの匿名さん23/04/07(金) 09:17:20

    >>372

    恐らく移植された者は弾丸の軌道や電磁波なども見えるようになるという「ガルシア・ハート」の設定からだと考えられる。

    マネモフル、お…お前まだ何か変な技隠し持ってんのか?

  • 377二次元好きの匿名さん23/04/07(金) 10:17:18

    フィジカル弱者な上異能も戦闘向きじゃないドラギモスを現環境に放り込んだら即死しそう

  • 378二次元好きの匿名さん23/04/07(金) 18:18:29

    >>377

    まぁ金木とかもなんだかんだ生き延びてるし…

  • 379二次元好きの匿名さん23/04/07(金) 18:19:07

    【名前】変身ベルト
    【説明】これを装着し変身と言うだけで変身できる。あらゆる障害に耐えられる装甲と装着者の力を何十倍にも引き上げる効果がある。ただし三分間のみで再変身に五分掛かり変身後かなり体力を消耗する。

    【名前】突然変異の心臓
    【説明】とある生物兵器の心臓。特殊な異能の効果により所持者の心臓と勝手に入れ替わる。身体機能が上がり何か特殊な能力に目覚めるかも?。

    アイテム案

  • 380◆xaazwm17IRZa23/04/07(金) 22:00:43

    お待たせ致しました、本日も始めさせていただきます……!

    25話⑯を投下します

  • 381◆xaazwm17IRZa23/04/07(金) 22:01:32

     ——熱い。
     ——痛い。
     嘘をつくには余裕が必要だ。
     複雑な思考プロセスが必要だ。
     今の宇都には、それが出来ない。
     新條に織られた右腕は炎症を起こしている。篠宮に撃たれた脇腹からは、血が零れ続けている。宇都創希は普通の少年だ。銃撃されてもなお戦い続けるような肉体も精神力も持ち合わせていない。

    「畜生……あいつら、クラスメイトを撃ちやがって……!」

     一刻も早く治療しなくては。宇都は東校舎を出て、本校舎へと向かった。

  • 382◆xaazwm17IRZa23/04/07(金) 22:02:12

     本校舎に入ったとき、ふと宇都は、自分が射殺した里美とNek-Oのことが気になった。掲示板には『君の友人の里美ちゃんが窮地に陥っている』と書かれていた。窮地に陥っているどころか死んでいるはずだ。
     本当に?

    「一応、確認しとくか……」

     保健室は後回しにして、本校舎1階の階段へ向かう。
     血が、止まらない。銃撃された際、直ちに応急処置をして、戦線を離脱しなければならない。たとえ被弾箇所が心臓や脳でなくても、放置すれば容易く死に至る。宇都は今、死にかけていた。
     それでも、気になる。
     殺したはずの者が、もし死んでいないとしたら。
     結も、文乃も、新條も、本当は死んでいない。そんな嘘を信じられるようになるかもしれない。
     微かな期待を胸に、宇都は現場を訪れ。

    「……なんだ、俺、誰も殺してなかったんだな」

  • 383◆xaazwm17IRZa23/04/07(金) 22:02:57

     そこにあったのは、殆ど再生が終了したNek-O。それだけだった。射殺したはずの里美の死体は無くなっていた。
     俺は、里美を殺していない。
     殺したと思っていたが、勘違いだった。
     だったら、結も、文乃も、新條も、勘違いに違いない。
     取り返しが、ついてしまう。

    「……はぁ、焦ったぜー。そうだよなぁ、俺にあいつらが殺せるはずないもんなぁ。あー、恥ずかしっ! マジで会ったら何て言おう。めっちゃ痛い奴と思われるよなぁ。あー憂鬱になってきた。あいつらスルーしてくれるといいけど、新條とか絶対弄ってくるよなぁ。明日からどんな顔して学校行けば……」

    「……お主、狂っておるのか」

     再生を終えたであろうNek-Oが口を開いた。

    「うわっ、ビックリした!」

     すかさず拳銃を撃つ。
     額を撃ち抜かれたNek-Oは再び死亡した。

  • 384◆xaazwm17IRZa23/04/07(金) 22:03:31

    「まったく、いきなり話しかけんな。ビックリすんじゃねぇか。しっかし、こっからどうっすかなぁ。三田たちには完全に誤解されてるだろうし。まずは新條探して仲介を任せ——」

     独演会は終了する。宇都の肩に、手裏剣が突き刺さった。

    「……ぎゃっ……!」

     痛みでたたらを踏みながらも、宇都は手裏剣が飛んできた方向に撃つ。
     忍者装束を着た女は、物陰に隠れて銃弾をやり過ごすと、再び手裏剣を投げた。
     今度は撃たれた脇腹を掠め、宇都は悲鳴を上げて転げまわった。
     階段を転がり落ちた宇都は、必死に逃げ出す。
     時々後ろを振り返って銃で牽制を入れるが、忍者装束の女は隠れたり、射線から外れたりと、一発も当てられない。

    (クソッ、誰なんだよあれ! 首輪つけてねぇじゃねえか! どうなってんだよ!)

     廃校全体を揺るがす轟音が響く。
     何が起こったのか、宇都には推理する余裕が無い。
     今は少しでも、忍者から離れるべく必死に走る。

  • 385◆xaazwm17IRZa23/04/07(金) 22:04:10

     事態を好転する策も、まるで思いつかない。

    (そ、そうだっ! 三田たちと合流すれば……!)

     誤解されているが、同じクラスメイトだ。きっと信じてくれる。
     少し希望が見えてきた。
     ——カッ、と足元に苦無が刺さる。

    「くっ!」

     宇都は方向を転回した。忍者の方へ逃げれば殺されるだけ。しかし真っすぐ投げてもいずれ追いつかれる。
     どこかの教室に隠れて籠城しよう。こうやって銃弾を撃っていれば、いずれ助けがくるはず。
     そう思い、宇都は目の前の扉を開け、中に飛び込む。

     そこには、小便器と、幾つかの個室トイレが設置してあった。

    (ここって、男子トイレかよ……!)

     ひとまず、個室トイレに隠れる。

  • 386◆xaazwm17IRZa23/04/07(金) 22:04:40

     銃を握り、息を整える。
     外から足音が聞こえる。
     二人分だ。女忍者の他に、もう一人居るのか。

    「誰か助けてくれ……! 俺はここだ……! 首輪を付けていない参加者がいる……! きっとジョーカーだ! 誰か……! ジョーカーがここに……!」

     厭な気配がする。
     ここに居てはいけない、と本能が訴える。
     けれど、もし出ていけば、自分はジョーカーに殺される。
     ——個室の外に、誰か立っている。
     ゆっくりと開かれる。

    「うわああああああああああああああああ! 来るなあああああああああああああ!」

     引き金を引く。
     おかっぱ頭、赤いスカート。
     効かない。どれだけ撃っても、傷一つつかない。

  • 387◆xaazwm17IRZa23/04/07(金) 22:05:12

     このおかっぱ頭の童女は知っている。
     結を殺した時に見かけた奴だ。
     怪異。これは、怪異なのか。

    「……違う、違うんだよ結! 俺じゃない! 撃ったのは俺じゃないんだ! 外から、別の奴が撃ったんだ! 俺は偶々その場に居ただけなんだ! 信じてくれ結!」

     少しずつ、花子さんが接近する。
     あれに捕まったら全てが終わる。
     宇都は引き金を引く。——弾切れ。

    「くそっ!」

     拳銃を投げ捨て、宇都は花子さんをすり抜けるようにして躱し、個室の外に出た。出口に向かって走る。ノブが回らない。ドアに体当たりをする。びくともしない。
     花子さんが、ゆっくりと宇都に近づく。

    「俺は悪くねぇ!」

     宇都は叫んだ。

  • 388◆xaazwm17IRZa23/04/07(金) 22:05:50

    「殺し合いだろうがよ! 爆弾付きの首輪付けられて、殺し合いしろって言われて、おかしくなるに決まってんだろ! お前らみたいな超人じゃねぇんだよ俺は! 仕方ねぇだろ……なぁ、何で俺がこんな目に……」

     花子さんは静かに近づく。どこまでも機械的に。どこまでも伝承通りに。
     彼女は結栞奈ではない。彼女が召喚した怪異。そこに心は無い。

    「ああ……ああ、くそ、畜生……」

     居る。
     花子さんの後ろに、もう一人。女生徒が立っている。
     幽霊のように、死人のように、幽玄と佇んでいる。

    「委員長……何でお前がここで出てくるんだよ……」

     花子さんがゆっくりと近づく。

    「……そっか。委員長が出てくるってことは……」

     青白い手が、静かに首に。

    「俺、間違ってたんだな……」

     鮮血が、男子トイレに降り注いだ。

    【宇都創希 死亡】
    【残り 19人】

  • 389◆xaazwm17IRZa23/04/07(金) 22:07:06

    25話⑯を終了します、時間を置いて25話⑰を投下します



    >>379

    ありがとうございます、ロッカーの当たりアイテムとして採用させていただきます……!

  • 390二次元好きの匿名さん23/04/07(金) 22:17:37

    宇都くん、同情は出来ないけど可哀想な子だったな…
    偽主人公としてもっとゲームを盛り上げて欲しかった

  • 391二次元好きの匿名さん23/04/07(金) 22:35:34

    さて、25話がまだ続くということは更に死人が出るかな…?

  • 392◆xaazwm17IRZa23/04/07(金) 23:07:40

    歯荷仄花のロッカーダイスdice1d100=22 (22)

  • 393二次元好きの匿名さん23/04/08(土) 00:16:10

    巡り巡って裁かれたと言えるけど迎えが居てくれて良かったね宇都君、とても楽しまされたよ君の行動には

  • 394二次元好きの匿名さん23/04/08(土) 00:19:50

    裁かれるべきは俺らなんだよなぁ…

  • 395◆xaazwm17IRZa23/04/08(土) 01:02:03

    25話⑰を投下します、本日最後の投下です

  • 396◆xaazwm17IRZa23/04/08(土) 01:03:01

    「綾香ちゃん、今日も遊べないの?」

    「ええ、ごめんなさい。習い事があって……」

     里美綾香の両親は、ごく普通の親だった。ママ友の勧めで娘にピアノを始めさせたときも、深い考えはなく、一人娘がピアノを弾けると自慢できる、程度の感情だった。
     娘は、習い事を嫌がったが、両親に怒られると渋々ピアノ教室に行った。こうも嫌がるのでは、すぐに辞めてしまうかもしれない、と両親は半ば諦めていた。
     綾香がその教室で一番になるのに、大して時間はかからなかった。この子にはピアノの才能がある。そう気づいた両親は、もっと練習するように綾香に行ったが、強硬に嫌がるので、気分転換に別の習い事も始めさせた。バレエ教室。ここでも綾香は圧倒間に、上級生を抜き、一番になった。
     徐々に、両親はおかしくなっていった。うちの娘は天才かもしれない。そう考えた両親は、次々に綾香に習い事を押し付けた。

  • 397二次元好きの匿名さん23/04/08(土) 01:03:50

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  • 398◆xaazwm17IRZa23/04/08(土) 01:04:28

     剣道、柔道、そろばん、英会話、水泳、書道、プログラミング、絵画、料理……。全ての分野で綾香は一番になった。
     うちの綾香は天才だ。両親は大喜びをした。

     中学を卒業した里美綾香は失踪し、二度と家に帰らなかった。彼女にとって、両親は合理の邪魔にしかならなかったからだ。

     ◇

    「良かった、男子にも花子さんは機能するようね」

     護衛忍者くノ一を使い、宇都を男子トイレに追い込んだ里美は、扉越しに宇都が死ぬ様子を観察し、改めてトイレの花子さんの有用性を確かめた。
     もし花子さんが宇都を襲わないようであれば、そのまま護衛忍者くノ一で始末をつけるつもりであった。

    (さて、むしろここからが博打。失敗すれば大損だわ)

    「くノ一、宇都から首輪と鞄を奪いなさい」

    「御意」

     くノ一は男子トイレへと侵入する。

  • 399◆xaazwm17IRZa23/04/08(土) 01:05:10

     何かをへし折る音と千切る音が聞こえ、くノ一が首輪と鞄を掴んで帰ってくる。

    (どうやら花子さん、アンドロイドは襲わないようね。大きな収穫だわ)

    「首輪……は後回しね。既にロッカーを開けている可能性もあるし。銃は……弾切れか。あら、これは……」

     鞄からスマホを取り出す。

    「ロッカーで手に入れたアイテムかしら。これで外部に助けを……いえ、無理ね。このアプリは……」

     すぐに「掲示板」の存在に気づく。

    「ゲーム開始直後から利用している……。………………宇都くん、ガチで結さんや新條くん殺してたのね……恐ろしい子……」

     掲示板の書き込みと、そこへの返信を読み、今更ながら宇都の評価を上方修正する。どのような手段を用いたのか分からないが、死んでいたのは自分だったかもしれない。

    「せっかくだし私も利用しようかしら。……でも、この先この掲示板を閲覧できる生徒が増えるかもしれない。だとしたら……」

     里美綾香は掲示板に書き込んでいく。

  • 400◆xaazwm17IRZa23/04/08(土) 01:05:55

    『里美です。殺し合いに役立つ情報を頂けると助かります』

    「これならいくらでもごまかしが効くわね」

     危険人物の排除と花子さんの実験のために宇都を始末したが、思わぬ収穫だった。

    「さて、ロッカーも開けたし、さっさと廃校を離れるべきかしら。それとも……」

    「主よ、誰かが近づいて来ます」

     護衛忍者の言葉に、里美は瞬時に警戒心を高める。
     ボディーアーマーに、護衛忍者。どんな相手でもそうそう負けることはないが。

    「アイエエエエエエエエエエ! 忍者!? 何で忍者が!?」

     素っ頓狂な声。女子ダンス部の歯荷仄花だ。危険な人物ではないため、やや警戒を緩める。
     歯荷は丸腰だった。忍者の横に立つ里美に気づくと、嬉し気に手を振る。

    「さ、里美さん!? ちょうどいい所に居ましたわ!? 助けてくださりませんか!」

    「ごめん、ちょっと止まって」

     里美は、拳銃を歯荷に突き付けた。

  • 401◆xaazwm17IRZa23/04/08(土) 01:06:36

     ひぃと歯荷は慌てて静止する。

    「さ、里美さん! 乗ってらっしゃいますの!? ど、どうして……」

    「……いや、私は乗ってないよ。でもね、ごめん。いきなりは信用できない」

    「わ、私は丸腰ですわ!? 信用して欲しいですわ~!」

     スマイル! と歯荷は叫び、ニコッと笑った。
     里美も笑い返す。

    「歯荷さん、武器持ってるでしょ」

    「ぎくっ!?」

    「体の運び方的に重たい長物……暗器ではないわね。……もしかして透明な武器……日本刀とか? 篠宮くんに作ってもらったのかしら」

    「三田さんよりよっぽど探偵じゃないですの!?」

    「ふふ、女探偵の役をやったことがあるの」

    (女殺人者の役の方が多かったけれど)

     銃口を、歯荷から外さない。
     弾切れだと、悟られるはずがない。里美は超高校級の演劇少女だからだ。

  • 402◆xaazwm17IRZa23/04/08(土) 01:08:01

    「悪いけど、透明な日本刀を捨ててくれないかしら」

    「い、一回捨てたら拾うの大変でしてよ……!?」

    「知らないわよ。さっさと捨てないと撃つわよ」

     ううう……と歯荷は目を瞑り唸っていたが。意を決したのか、日本刀らしきものを投げ捨てた。一応、こっちに投擲する可能性も考えていたが、歯荷は素直に里美には当たらない場所に放った。

    「これでいいですわね!? これで撃って来たらマジで化けて出ますわよ!」

    (化けて出たら……か。それは怖いわ)

     トイレの花子さんでクラスメイトを二人殺している身としては、随分と恐ろしい脅し文句だ。

    「ええ、あなたを信用するわ。御免なさい、さっきここで宇都くんに襲われてね。なんとか忍者を使って倒せたんだけど……」

    「え、宇都さんゲームに乗っていらっしゃるの!? でも、倒せたんですわね。……里美さん、あなたにお願いがあるんですわ」

    「お願い?」

  • 403◆xaazwm17IRZa23/04/08(土) 01:08:55

    「忍者を貸してくださいませんか。今、東校舎の3階で、私の仲間がマネモフルに襲われているんですの! 忍者が加われば百人力ですわ!」

    「マネモフルか……」

     よく分からない男子生徒だ。ただ屈強な体躯に、謎の拳法、更に異能持ち。強敵であることは間違いない。忍者を獲得した今、速やかに排除しておきたいが。

    「……それって本当?」

    「銃声が聞こえなかったんですの!? あれは、星峰さんたちのものですわ!」

    「確かに聞こえたけど、でも、今は止んでいる」

     最後には砲声すら聞こえた。誰かバズーカでも引き当てたのか。

    (どうする? もしマネモフルがバズーカを引き当てていて、星峰くんたちを殺していたとしたら、そこにのこのこ姿を現すのは危険。斥侯に護衛忍者を出すのは合理的な選択だわ……)

     ネックがあるとすれば、その際里美と歯荷が二人っきりになることである。互いに丸腰。

    (歯荷さんは、この拳銃が弾切れだとは知らないはず。丸腰で襲いかかってくることはない。……武器も隠し持っていない。体つきや歩き方でそれくらいは分かる。例え、歯荷さんが私が武器を持っていないことに気づいて襲いかかってきたとしても、私には柔道含め各種武道の心得があるわ……問題は無い)

  • 404◆xaazwm17IRZa23/04/08(土) 01:09:32

    「忍者、東校舎に向かって情報収集をしなさい。戦闘は控えて。そうね、何も収穫が無くても10分で戻ってきなさい」

    「御意」

     護衛忍者くノ一は韋駄天じみた速さで東校舎へと向かっていった。
     はえーですわ、と歯荷はその後ろ姿を見送る。

    「それで、歯荷さんは今まで何をしていたわけ」

    「私は、この廃校がスタート地点だったのですわ。そこで星峰さんや篠宮さんと出会って、透明な日本刀を作ってもらいましたの。ところで、里美さん、あの忍者は何者なんですの?」

    「私のロッカーアイテムよ。それがどうしたの?」

    「羨ましいですわ。私の武器は、特殊警棒でしたの。鞄は東校舎3階に置きっぱなしですわ。後で回収しないと……」

    「そう。私の初期武器もこのボディーアーマーよ。拳銃は宇都くんを倒して奪ったの。お互い、よくここまで生き残れたわね」

  • 405◆xaazwm17IRZa23/04/08(土) 01:10:30

    「そうなんですの。ところで……安全装置は外しました?」

    「ええ、外してるけど……」

     気まずい沈黙が流れた。
     そして。

    「覚悟、ですわー!」

     歯荷が拳銃を奪おうと掴みかかってくる。

    (くっ、怪しいと思ったら案の定ね。……この銃が弾切れと知られるわけにはいかない。ここは適度に痛めつけて、護衛忍者が帰ってくるまで気絶……いえ、トイレに放り込めば自動的に花子さんが自動的に処理してくるわね。だったら)

     里美は瞬時に作戦を組み立てる。
     まず、背負い投げで廊下に叩きつけ痛めつける。その後速やかに絞め落とし、トイレに放り込む。
     ここまで一瞬で思考した里美は、一旦銃を捨て、歯荷の袖口と襟首を掴もうとした。
     ぱし、ぱし。
     伸ばした手を、捌かれる。

  • 406◆xaazwm17IRZa23/04/08(土) 01:11:13

    (え? これ、ジークンドーのトラッピング?)

     里美は、予想外の事態に驚き、それでも再び腕を伸ばそうとするが。

    「しゃあっ! 破心掌! ですわ!」

     掌底を心臓部分に打ち込まれる。

    「ぐふっ!」

     ボディーアーマーはあくまで弾丸に対応している。それでも掌底の威力をある程度減衰させる効果はあった。また、マネモフルと歯荷では体格が違う。
     それでも、威力は甚大であった。里美の意識は明滅する。

    「しゃあっ! 霞突き! ですわ!」

     超高速の連撃が里美を打つ。顔を、ボディーアーマーで覆われた胴を、覆われていない脚を、次々に打つ。打たれる度に、痛みが、そして取り返しのつかない破壊が起こる。
     里美はその場に崩れ落ちた。
     歯荷は馬乗りになる。
     そして、ボディーアーマーのジッパーを摘まみ、下に降ろしていく。

  • 407◆xaazwm17IRZa23/04/08(土) 01:11:48

    「……やめて……歯荷さん……お願い……助けて……」

     涙を流して命乞いをする。
     歯荷は里美のセーラー服に、胸に拳を当てる。

    「嫌だ……死にたくない……」

    「しゃあっ! 破心掌! ですわ!」

     打つ。里美の口から血が噴き出す。全身が大きく痙攣し、それきり、彼女は動かなくなった。
     里美が絶命したと確信した歯荷は、即座に鞄を漁り、スマホを発見する。

    (調べるのは後、ですわね。今はこの場を去りませんと……)

     何故、歯荷が灘神影流やジークンドーの技術を扱えるのか。
     マネモフルが東校舎3階で襲撃を仕掛け、芝野が撃たれた時。
     窓から歯荷は身を乗り出し、外に飛び降りた。
     そういう風に、見せかけた。
     実際は違う。窓にぶら下がったまま、歯荷はその後の銃撃戦を観察した。
     それは、歯荷にとって人生で最も恐怖の瞬間だった。

  • 408◆xaazwm17IRZa23/04/08(土) 01:12:26

     飛び交う銃弾。流れ弾が飛んでくるかもしれない。マネモフルに気づかれるかもしれない。生存本能が人より強い歯荷には、常人以上の恐怖が襲いかかって来た。
     それでも、観察を続けたのは。

    (武器が、欲しかったんですの)

     最初の武器が特殊警棒。その後銃を獲得しようとすれば、星峰や篠宮に牽制される。

    (生殺与奪が他人に握られているのは、嫌ですのよ)

     銃では駄目だ。警戒される。安全のための武器が、危険を呼ぶ。欲しいのは格闘術。もし瀧沢が無事だったなら、ジークンドーを教えて欲しかったのだが、会った時には衰弱していてそれどころではなかった。
     だから、マネモフルが姿を現したとき、歯荷は僥倖だと思った。
     よくは知らないが、マネモフルは格闘術を使うことを知っていたからだ。期待に反して銃撃戦が展開されたが、それでも歯荷はじっと耐えて待った。
     瀧沢が立ち上がったときは、予期せぬ収穫に喜んだ。
     その後、戦局が移動し、歯荷はマネモフルを追うように窓枠を伝って2階へ移動。
     瀧沢VSマネモフルをじっくりと観戦できた。

  • 409◆xaazwm17IRZa23/04/08(土) 01:13:30

     観れば、1日限り使える。それが、歯荷の異能。

    (途中で戦車を発見したときは慌てて中に避難しましたけれど。気づかなかったら砲撃で巻き込まれて死んでましたわね)

     それでも、場所を工夫しながら二人の戦いは最後まで観察できた。故に、二人の技を1日限りで歯荷は使うことが出来る。
     勿論、体格や筋肉の質から、マネモフルや瀧沢に勝つことは出来ないだろう。しかし、あくまで習い事レベルでしか柔道などの武術を習得していない里美を、圧倒する程度のことは出来る。
     里美を見つけたのは偶然だった。3階から逃げたはずの自分が、いきなり瀧沢や千頭之の前に現れるのは不味いと考え、再び窓枠に避難。すると、本校舎1階で宇都が忍者に追いかけられているのを目撃。忍術も獲得するチャンスと考え、歯荷は飛び降りて本校舎へ移動した。道中、階段で再生をしているNek-Oを発見。未だ意識がはっきりしていないことを確かめ、実験のために灘神影流の技で殺してみた。予想通り、問題なく技は発動し、Nek-Oは再び死亡した。
     しかし、その間に銃声は聞こえなくなっており、駄目元で忍術獲得のために近づいたが、あえなく補足されてしまったのだった。

  • 410◆xaazwm17IRZa23/04/08(土) 01:14:01

    (里美さんを殺したのは灘神影流の技……。私の殺しはマネモフルに押し付けられますわ~)

     さて、ここからどうするか。

    「ロッカーを開けに行ったことにしましょう。武器を取って助けに行くつもりでしたのよ~と言えばOKですわ。心が読める芝野さんは死んだことですし」

    (いっきに風向きが変わってきましたわ~)

     歯荷は北校舎のロッカーを目指して走り出した。
     後には、涙を流し絶命した里美綾香の死体だけが残った。

     ◇

     歯荷が去って数分後。ゆっくりと、女子トイレが歩いた。

    「うわ~、凄いもの見ちゃったわ……」

     歯荷と違い、ガチ逃亡した金木冥である。

  • 411◆xaazwm17IRZa23/04/08(土) 01:14:45

     マネモフルの襲撃の際に東校舎から真っ先に脱出した金木は、しかし鍋の蓋だけで廃校の外に繰り出す勇気は持てず、本校舎1階の女子トイレに隠れ息を潜めていたのだ。トイレの花子さんの出現にはムラがある。運が悪ければトイレに逃げ込んだだけで即死するが、今回の金木は幸運にも花子さんが出ない確率を引き当てた。
     その後も砲声が聞こえたり、すぐ近くで銃声が聞こえたり、隣の男子トイレで宇都がわめきながら死んだり、マジもう死にたい……状態で絶望していたが、トイレの前で歯荷と里美が合流したことが声で分かり、こっそりドアを開けて二人の様子を観察していた。すると、歯荷が明らかに熟練した武術で里美を殺し、鞄から何かを抜き取ると去って行った。

    「歯荷ってあんなに強かったんだ~。舐めた口効かないで良かった~」

     徹底的に強い生物には媚びる生態である。

    「で、でもどうしよう~。チクった方がいいのかな~。脅迫した方がいいのかな~。どうしよう……」

     頭を悩ませながら、金木はその場を去る。

    「とりあえず、三田に相談しようかなぁ……」

     ◇

  • 412◆xaazwm17IRZa23/04/08(土) 01:15:29

     役者は舞台を去り、後には役者から小道具に格落ちした者だけが残される。
     涙の痕を頬に残しながら、里美は虚ろな瞳を天井に向け。

    (……そろそろいいかしら)

     むくり、と起き上がる。
     宇都を騙したように、再び彼女は死体の演技で難を逃れた。

    (参ったわね。まさか歯荷さんが、あんなに強かったなんて。まったく知らなかった。……いえ、確か彼女の異能は……。ああ、そういうことね。……やっぱり、デスゲームが始まってから私の思考は鈍っているわ。歯荷さんが、1日限りで強くなっている可能性を、考慮すべきだったのに……)

     それでも、生き残った。
     ならば、また演じられる。

    (護衛忍者の命令権はまだ私にある。ここで護衛忍者を待って、その後保健室で応急処置を……。いえ、やっぱりすぐに保健室に……)

     里美は、立ち上がる。
     立ち上がろうとした。
     足がもつれる。

  • 413◆xaazwm17IRZa23/04/08(土) 01:15:58

    (あれ?)

     足に力が入らない。
     こらえ切れずに吐き出す。大量のどす黒い血液が口から漏れる。

    (え……え?)

     灘神影流は、一子相伝の暗殺拳。
     その奥義を心臓に打ち込まれた里美の、命脈はとっくに途絶えていた。
     今はただ、生者の演技をしているだけだ。
     それも、すぐに限界が来る。

    (う、嘘……)

     声が出ない。
     手足が動かない。
     どんどん意識が暗くなっていく。

    (私……死ぬの?)

     そんなはずはない。全て合理的にこなしていた。その場その場で最善手を打ってきた。

  • 414◆xaazwm17IRZa23/04/08(土) 01:16:43

     なのに、どうして……。

    (あ、嫌……頑張ったのに、合理的にこなしたのに……)

     その時、自分に近づく気配を感じた。
     護衛忍者が帰って来たのか。今なら急いで保健室に運ばれれば助かるかもしれない。
     里美綾香は、不運だった。
     それは、護衛忍者でもなく、また他のクラスメイトでもなかった。
     デストラップ。
     エネミー型デストラップが、目標に向かって突っ込む。
     里美は、それを視界に捉えていた。

    (このこって……)

     里美は手を伸ばそうとする。四肢に力が入らないが、それでも手を伸ばそうとする。

    (めうらの……)

     最弱のデストラップ。白鼠「リッチー」。廃校に配置され、ずっと隠れていたリッチーは主人の友人を見つけ、駆け寄った。

  • 415◆xaazwm17IRZa23/04/08(土) 01:17:24

    (ふふ、このこをみつけたことから、めうらとなかよく、なったんだっけ)

     目裏雨子。将来のパトロン。合理的に考え、クラスで最も友達にするべき人材。

    【『里美、あんたすごいじゃない♡ パトロンになってあげてもいいよ♡』】

    (すごい、でしょ。いっぱいれんしゅうしたの。ほかはぜんぶやめちゃったけど、これだけはずっと)

     里美綾香。どんなことでも短期間に習得する万能の天才。その発端は、幼少期に遡る。両親から押し付けられた幾多の習い事を、淡々と消化し、短時間で修めていく。そんなことに時間をかけることを惜しむように。
     何故、彼女はそんなに急いだのだろうか

    【「綾香ちゃん、今日も遊べないの?」】

    (ふふ、りっちーをみつけたって、おしえたら、めうらさんとなかよくなれるわね……)

     どこまでも打算。どこまでも合理的。しかし、その原点は。

    (そしたら、いうの。わたしと、あそんでって……)

    【里美綾香 死亡】
    【残り 18人】

  • 416◆xaazwm17IRZa23/04/08(土) 01:19:00

    25話⑰を終了します、これで25話は終了です……!

  • 417二次元好きの匿名さん23/04/08(土) 01:20:43

    乙です!長かったな…死体の山で壮観だ!しかしまとめるの大変そう…

  • 418二次元好きの匿名さん23/04/08(土) 01:28:23

    このレスは削除されています

  • 419二次元好きの匿名さん23/04/08(土) 01:29:27

    このレスは削除されています

  • 420二次元好きの匿名さん23/04/08(土) 01:30:35

    残るプレイヤーの数もだいぶ減ってきましたね
    男子 9

    
1 石川大輔(戦闘狂)
    【武器】不明【状態】好戦,索敵【場所】廃村→廃校,単独行動
    
6 金輪幹久(美食家)
    【武器】魔法のクスリ【状態】中立【場所】廃村→廃校,ドラギモスと行動
    
8 篠宮纏(白髪ポニテ)
    【武器】不明,透明な銃【状態】一時的秩序,中立【場所】廃校文芸部部室,星峰及び三田と行動
    
11 Nek-O(巨大猫)
    【武器】猫じゃらし,麻井の首輪【状態】好戦寄りの中立【場所】廃校1F大階段,単独行動
    
12 パンパンパン・ラッタッター(ダンス黒人)
    【武器】薙刀,垣根の首輪?【状態】秩序【場所】廃工場→廃校,めあめえ・堀木と行動
    
13 星峰灼(盲目美少年)
    【武器】レイピア【状態】一時的秩序,中立【場所】廃校文芸部部室,篠宮及び三田と行動
    
14 堀木彩(イカれメス男子)
    【武器】ウィンチェスターライフル,垣根の首輪?【状態】秩序,姫氏原捜索【場所】廃工場→廃校,めあめえ・ラッタッターと行動
    
15 マネモフル=タマネ(マネモブ)
    【武器】コルトM1848拳銃,九七式中戦車【状態】好戦,索敵【場所】廃校,単独行動
    
16 三田哲(高校生探偵)
    【武器】バール,AK-74自動小銃【状態】秩序,推理【場所】廃校文芸部部室,星峰及び篠宮と行動

  • 421◆xaazwm17IRZa23/04/08(土) 01:30:37

    ☆歯荷仄花のスマホ☆

    『里美です。殺し合いに役立つ情報を頂けると助かります』


    ※ここにレスされた書き込みが、歯荷に伝わります。また、>>12へのレスも、歯荷は読むことが出来ます。

    ※反映されるのは、次の登場話です。

  • 422二次元好きの匿名さん23/04/08(土) 01:31:15

    女子 8+ドラギモス

    
19 金木冥(薄っぺらな邪悪)
    【武器】鍋の蓋【状態】一時的秩序,好戦,保身【場所】廃校女子トイレ,単独行動
    
20 姫氏原小毬(悪霊に憑かれた少女)
    【武器】不明【状態】中立,隠避,負傷,堀木探索【場所】西部樹海→廃校,単独行動
    
21 霧田キルコ(空っぽ不良少女)
    【武器】六法全書,竹槍【状態】好戦,索敵,オルランド探索【場所】西部樹海→廃校,単独行動
    
23 瀧沢魁(ジークンドー少女)
    【武器】チェーンソー【状態】出血,瀕死,秩序【場所】廃校美術室,マネモフル撃退,千頭之と行動
    
24 千頭之のづち(蛇使い)
    【武器】サバイバルナイフ【状態】中立,友人捜索,復讐【場所】廃校美術室,瀧沢と行動
    
25 ねうねい・めあめえ(???)
    【武器】護衛忍者,垣根の首輪?【状態】秩序,マネモフル捜索【場所】廃工場→廃校,堀木・ラッタッターと行動
    
26 歯荷仄花(お嬢様風)
    【武器】護衛忍者くノ一,特殊警棒,透明な日本刀【状態】一時的秩序,中立,保身【場所】廃校,単独行動
    
31 鰐淵英利(刀剣マニア)
    【武器】木刀【状態】中立,千頭之捜索【場所】漁港→廃校,単独行動

    32 虎肝ドラギモス(cv神谷浩史)
    【武器】DX日輪刀【状態】中立,キルコ捜索【場所】廃村→廃校,金輪と行動

    33 茜音沢仁史(元担任)
    【武器】鉄棒【状態】不明【場所】中心部

  • 423二次元好きの匿名さん23/04/08(土) 01:31:24

    >>418

    >>419

    男女それぞれが半分も息絶えてる…怖っ

  • 424二次元好きの匿名さん23/04/08(土) 01:36:25

    >>421

    オメデトー仄花チャン!😘🎉🎉これで君は立派な“殺人者”になったヨ😎🔪

    “殺人”😱を目的とするデス・ゲームの参加者に相応しい女となったンダネ♥オジサンも凄く君のこと応援してるカラネ!😄📣

    因みに君のことを見ちゃってるワルイ😈娘が居るんだけどネ………誰か言わないヨ〜ゴメンネ❗😝🙏

  • 425二次元好きの匿名さん23/04/08(土) 01:37:23

    まとめてみると改めて分かりますがパワーバランスが大きく変わりましたね
    自分も本命で投げたキャラは死んで端役のつもりで投げたキャラに愛着が湧いたりしてます

  • 426二次元好きの匿名さん23/04/08(土) 01:39:43

    今夜は26話のダイスを振ってお終いかな

  • 427◆xaazwm17IRZa23/04/08(土) 01:40:49

    25話補足
    ・芝野は等身大の異能者として書きやすく、瀧沢との相性も良く、書いていて楽しかったです。もう少し彼の頑張りを見たかったのですが、ダイスの都合上、退場となりました。
    ・宇都も予想外のジャイアントキリングを果たし、正しくジョーカーにふさわしい大暴れとなりました。裏主人公と言っても過言ではないと思います……ダイスが跳ねればラスボスになることさえ出来たかもしれないですが、残念です
    ・里美はオープニングでも目立ち、堅実に優勝を目指すキャラとして個性もあり、何よりロッカーダイスが高かったので、25話を書きながら退場か生存か悩んだのですが、早期の完結を目指す以上、泣く泣く退場させました。
    ・制作者の皆様、素敵なキャラクターをお貸しいただきありがとうございます。中盤での退場となり、申し訳ありません……!

  • 428◆xaazwm17IRZa23/04/08(土) 01:42:22

    26話の視点人物

    dice1d32=31 (31)

  • 429◆xaazwm17IRZa23/04/08(土) 01:45:37

    鰐淵 英利(わにぶち・えいり)


    彼女は漁港組、単独行動なので個別話ですね


    午前8時~午前10時の漁港組

    鰐淵英利:幸運dice1d100=40 (40)

  • 430◆xaazwm17IRZa23/04/08(土) 01:49:46

    >>420

    >>422

    ありがとうございます、だいぶ減りましたね……! 3週間近くかけてようやく半分……だいたい完結の期間が見えてきました……!


    明日は13時頃から開始します

    まとめ、ギミックへの参加、アイデア、感想などいつもありがとうございます……! 長い(5万字超えなのでマジで長いですね……)25話にお付き合いいただき、本当にありがとうございます……! このペースで完結できるよう頑張るので、またお手すきのときに読んでいただけると幸いです……!

    それでは、本日はここまでとさせていただきます……! ありがとうございました……!

  • 431二次元好きの匿名さん23/04/08(土) 02:37:48

    今回も痺れたわ
    ここまでくると作ったキャラに愛着湧きまくって緊張感が増してきてる……

  • 432二次元好きの匿名さん23/04/08(土) 06:26:56

    Nek-O視点だと急に銃撃されてその後2回別々の奴にリスキルされてやっと復活できたと思ったら離れたところで連れが死んでたって中々カオスなことになってんな

  • 433二次元好きの匿名さん23/04/08(土) 13:20:02

    保守
    そういえば廃校と廃工場以外はまだ8時代だったか

  • 434二次元好きの匿名さん23/04/08(土) 15:20:43

    誰もマネモフが灘神影流使う事にツッコミ入れないの笑う

  • 435二次元好きの匿名さん23/04/08(土) 15:44:31

    語録は知ってるけど読んだ事はないんだよなぁ

  • 436二次元好きの匿名さん23/04/08(土) 16:18:32

    猛者たちが廃校に集うのが楽しみだ

  • 437◆xaazwm17IRZa23/04/08(土) 18:40:41

    大遅刻で申し訳ないです、本日も始めさせていただきます……!

    26話を投下します

  • 438◆xaazwm17IRZa23/04/08(土) 18:41:41

     鰐淵英利は、人間が好きではない。
     無駄が多いから。余分が醜いから。
     武器は好きだ。武術は好きだ。
    「じゃあ、動物はどうなんだい?」
     そんな風に問われたのはいつだったか。確か、千頭之のづちと二人で動物園に行った時じゃなかったか。
     あにまん高校の修学旅行は春に行われる。場所は京都。必ずどこかに行って感想文を提出しなければいけない。実に面倒だ。かといってサボるほど鰐淵は積極的な性格ではない。いつものように一緒に居て比較的面倒ではない、千頭之と霧田と班を組もうとした。しかし、霧田は何故かバスケ部と一緒に行動したいらしく(マネージャーにでもなりたいのか?)成り行きで鰐淵は千頭之と一緒に京都を回ることになった。せっかくなので、互いの行きたい場所を周ることにし、京都動物園と京都市博物館に行った。一緒に行動しているときに、会話は無い。動物園をはしゃぎながらうろつく千頭之の後ろを黙々とついていくだけだ。
     象相手に世間話をしたり、ペンギンの愚痴を聞いて頷いていたり、猿に愚弄されてガチギレしていたりと普段その感情どこにしまってるの? とツッコミを入れたくなりながら千頭之の百面相を傍から眺める。普段からこのテンションなら一緒につるんでいない。しかしそのやかましさをこっちに向けてこないのだから、やはり一緒にいて心地いい。そんな風に考えながら、いよいよ大トリの爬虫類館に入る。

  • 439◆xaazwm17IRZa23/04/08(土) 18:42:24

    「うわー!!! 久しぶり!! え、もしかして脱皮した!? めっちゃ御洒落になったじゃんっ……ってちょっと待って、嘘、結婚したの!? え、子ども!? おもでとう、ちょーめでたいじゃん!!」

    (同窓会かな?)

     どうやらここには何度も来ているらしく蛇との会話に盛り上がる鰐淵の後ろ姿を眺めながら、鰐淵は空腹を感じていた。

    「ねぇ鰐淵」

     急に話しかけられ、戸惑う。

    「君、人間が嫌いだろ」

    「嫌い、ってほど強い感情は無いわ。……興味ないだけ」

    「動物はどっちなんだ?」

    (え? 今それ聞くの?)

     何というか、居心地が悪い。周囲には動物園を訪れている客と、動物が居る。この場でいや動物大嫌いだよと答えられる胆力を鰐淵は持っていない。

  • 440◆xaazwm17IRZa23/04/08(土) 18:43:02

    (それに、嫌いじゃない)

     動物は、無駄が無い。機能美。DNAの命令に忠実に従い、餌を取り、繁殖し、死んでいく。余分が無い。

    「……嫌いじゃないよ」

     千頭之の瞳孔が拡大した。

    「そうか。……そうか~」

    「いや、別に大好きとは言ってないからね」

     刀剣の方が好きだし。
     それでも鰐淵の答えがよほど嬉しかったのか、千頭之は鰐淵の手首を掴んで、蛇の飼育ゲージの前まで連れて行った。

    「私の友達を紹介させてくれ!」

    「え、別にいいし……」

    「まぁそういうな! 紹介しよう! キングコブラのサイクロンだ! こっちがガラガラヘビのカトリーナで……」

     嬉しそうにはしゃぐ千頭之を見て、鰐淵も——。

  • 441◆xaazwm17IRZa23/04/08(土) 18:43:51

    「どうやら間に合いそうね」

     漁港を経ち早足で2時間以上、ようやく廃校が見えてきた。
     全力で駆ければ女子剣道部エースの健脚、もっと早く辿りついたのかもしれない。しかし、鰐淵の武器は木刀。身を護るにはいささか心もとない。それ故彼女は周囲を警戒し、慎重に移動していた。ロッカーにはアイテムが入っているらしい。できれば刀がいい、と鰐淵は思う。死ぬときは真剣を抱いて死にたい。
     廃校に近づく。それは、千頭之のづちとの邂逅に近づくということ。木刀を強く握りしめる。これで何をするのか。分からない。
     分からなくていい。その時の自分の感情に従おう。それが最も自然だからだ。
     女剣士は一人、森の中を歩く。

  • 442◆xaazwm17IRZa23/04/08(土) 18:44:13

    26話を終了します

  • 443◆xaazwm17IRZa23/04/08(土) 18:48:52

    残った廃村組・樹海(薄明り)組は進行方向が同じなのでダイス次第で合流の可能性があります


    石川 大輔(いしかわ だいすけ)幸運dice1d100=72 (72)

    金輪 幹久(かなわ みきひさ)幸運dice1d100=36 (36)

    虎肝 ドラギモス(とらきも どらぎもす)幸運dice1d100=65 (65)


    姫氏原 小毬(きしはら こまり)幸運dice1d100=100 (100)

    霧田 キルコ(きりだ きるこ)幸運dice1d100=69 (69)

  • 444◆xaazwm17IRZa23/04/08(土) 18:50:17

    以上の情報を元に、時間を頂いて第27話:午前8時~午前10時の廃村・薄明り方面のSSを作製します

  • 445二次元好きの匿名さん23/04/08(土) 18:53:57

    幸運100って今までにあったっけ?
    どうなるんだろ

  • 446◆xaazwm17IRZa23/04/08(土) 21:12:03

    27話①を投下します

  • 447◆xaazwm17IRZa23/04/08(土) 21:13:38

    「爆弾卿、異常事態です……!」

    「ふむ、デスゲームにはつきものだYO。それでどうしたのかNE?」

    「姫氏原小毬の首輪が、機能を停止しています……!」

    「……死んだわけではないのだろう?」

    「は、はい。今も樹海を移動中です」

    「彼女は確か、目裏雨子に殴打されていたね。その時に故障……いや、首輪はそんなに柔なものではない……」

    「原因は不明です……! いかがしましょう? 茜音沢を派遣し殺しますか……?」

    「いや、これくらいなら放っておこう。大事なのはバランスだからNE」

    「バランス、ですか?」

    「首輪が機能しないということは、メリットもあればデメリットもある。ミッションに縛られることはないのがメリットだNE。しかし、ロッカーを開けて新しいアイテムなどを獲得することも出来ない。護衛忍者や戦車といった首輪で登録するアイテムも使用できない。例の人型ロボのように、ゲームバランスを壊すことはないだろう」

    「で、ですが彼女は、本部に侵入も出来るのですよ……!」

    「構わないSA。そういうイレギュラーが居る方が、皆も楽しいだろう?」

  • 448◆xaazwm17IRZa23/04/08(土) 21:14:15

     狼狽する黒服を前に、爆弾卿は思索を巡らせる。

    (しかし、どうして首輪が機能を停止したのだろうNE。ただの事故か。それとも……)

     爆弾卿は、姫氏原のスペックを思い出す。

    (悪霊の仕業か……)



     姫氏原小毬は、堀木に会うために廃校を目指していた。小毬は悪霊に取り憑かれている以外は普通の少女である。樹海地帯という足場が最悪の場所。目裏からの殴打。それらが彼女の足を遅らせている。それでも数時間歩き続けることで、樹海が徐々に開けてきた。

    「こ、ここからなら……」

     遠くに廃校も見え始める。
     小毬は双眼鏡を取り出し廃校を覗いた。
     しかし、人影らしきものは見つからなかった。さすがに屋内までは覗くことが出来ない。

    (堀木くんは、もう着いたのかな……)

  • 449◆xaazwm17IRZa23/04/08(土) 21:15:01

     目裏を殺して数時間が経過している。小毬は、徐々に落ち着きを取り戻していた。堀木に会いたいという思いは変わらないが、もう少し他の部分にも思考が周るようになった。一人で黙々と森を歩いたことで、森林セラピーのような状態になったのかもしれない。

    (どうして目裏さんは死んだんだろう?)

     男女無差別に襲うようになってしまった。最初はそう考えた。しかし、もしそうなら、目裏に追いつかれ、馬乗りになった時点で悪霊が襲いかかっているはずだ。少なくとももし男子に馬乗りになられたら、その時点で悪霊はその男子に徹底的な攻撃を仕掛けるだろう。

    (……私を殺しかけたから?)

     最初の殴打では反応しなかった。しかし、何度も殴られ、殺されると姫氏原が恐怖したとき、悪霊は発動した。

    (殺されそうになると悪霊が発動するの……?)

     今までの生活で、殺されそうになったことは一度もない。なので気づかなかった。
     この悪霊は自分を苦しめるだけでなく、自分を守ろうともしてくれるのかもしれない。

  • 450◆xaazwm17IRZa23/04/08(土) 21:15:44

    「……ねぇ、あなた、私を守ろうとしたの?」

     悪霊は答えを返さない。
     いつだって、被害だけを与える。

    「……これからも、守ってくれるの?」

     樹々のざわめきだけが聞こえる。

    「……ありがとう、これからもよろしくね」

     周囲で無数のラップ音が聞こえた。恐怖で小毬は肩を震わせるが、それ以上は何も起きず、ほっと息を吐いた。
     少し、恐怖心が薄れた。向こうから危害を加えてこなければ自分は殺人者になることはなく、むしろアイテムが双眼鏡だった身としては悪霊の護衛は心強い。
     それだけで今までの暗い人生を許す気にはなれないが、怒れるのも生きているからこそだ。
     小毬は廃校へ向かうため歩を進める。
     彼女は気づかない。既に自らの首輪が機能を停止していることに。
     そして、その身に脅威が近づいていることに。

  • 451◆xaazwm17IRZa23/04/08(土) 21:16:12

    「お、姫氏原じゃん。SRってとこかな」

     背後で声が聞こえた。
     男が立っている。
     学ランを羽織った屈強な男が立っている。

    「……石川、くん」

    「無事で良かったぜ。その顔、誰かに殴られたのか? まだ痛むか? ……歩いているってことはたぶん大丈夫だよな!」

     よっしゃっ! と男は笑顔でガッツポーズを取った。

    「じゃ、戦ろうぜ!」

  • 452◆xaazwm17IRZa23/04/08(土) 21:16:43

    27話①を終了します
    時間を置いて27話②を投下します

  • 453二次元好きの匿名さん23/04/08(土) 21:24:47

    90以上は確定生存なんだっけ?

  • 454二次元好きの匿名さん23/04/08(土) 21:45:15

    確定だし寧ろこの状況だと石川の命が危ないぞ

  • 455二次元好きの匿名さん23/04/09(日) 00:37:07

    保守待機

  • 456◆xaazwm17IRZa23/04/09(日) 01:16:32

    27話②を投下します、本日最後の投下です

  • 457◆xaazwm17IRZa23/04/09(日) 01:17:31

    「近づかないでっ!」

     姫氏原の叫びには二つの意味があった。
     石川を殺してしまうことが怖い。
     石川に殺されることが怖い。
     平時なら男性に近づかれただけでは悪霊は発動しない。また、凶暴な石川も姫氏原を攻撃したりはしない。
     けれど、今は殺し合いの最中なのだ。何が起きるか分からない。
     姫氏原の叫びを無視して、石川は大股で接近する。
     闘気。
     悪霊に憑かれた少女は、常に逃げ回っていた。自らの悪霊を活用しようと考えたことはなかった。一方的に怪我をさせたことはあれど、戦闘どころか喧嘩の経験すらない。
     自分に害意を向ける屈強な男は、目裏の暴力を思い出し、ますます姫氏原を怯えさせた。

    「嫌……やめて……来ないでっ!」

     5m程の距離まで近づかれたとき、ラップ音が響いた。
     本来、この距離で悪霊が動くことはない。
     殺し合いで悪霊が獰猛になっているのか、あるいは姫氏原の恐怖に反応したのか。
     悪霊は、敵に襲いかかる。
     石川が上体をのけ反った。

  • 458◆xaazwm17IRZa23/04/09(日) 01:18:08

     彼の意志に反した行動だったのだろう。目を驚きで見開いている。

    (おかしい……)

     いつもと違う。悪霊の発動が、いつもより過敏、という意味ではない。
     悪霊が動くとき、取り返しのつかない事態が起きる。
     うっかり姫氏原と肩をぶつけた男子生徒は天井近くまで吹き飛び、病院送りになった。
     姫氏原をナンパした男はその場でアスファルトにめり込み、やはり病院送りとなった。
     姫氏原を殺しかけた目浦雨子は、首を捻られて殺された。
     それに比べて石川の反応は、やや大人しい。バスケットボールを顔面にぶつけられた、程度のダメージしか入っていない。
     石川はゆっくりと上体を元に戻す。
     再び衝撃。
     鼻血が飛ぶ。
     一歩踏み出す。頬を強く殴られる。

  • 459◆xaazwm17IRZa23/04/09(日) 01:18:47

     更に一歩。腹部に衝撃が来る。

    「……くはっ、ははははは……!」

     進むたびに全身を強く殴られる。カウンターを決めるべく殴り返すが、まったく反応が無い。再び殴られる。

    「なんだっ、これ……面白ェ……!」

    「う、嘘……」

     姫氏原の常識が音を立てて崩れる。悪霊が発動したら、必ず事態は終わっていた。悪霊に攻撃され続け、なおノックアウトされない存在など、想定していない。
     石川は悪霊を殴ろうとしている。無理だ。物理で攻撃できるものではない。
     一方的に悪霊が殴り続けている。
     石川は成す術もなく蹂躙されている。
     なのに、どうしてこんなに怖いのか。

    (いつ、石川くんは倒れるの……?)

     いつの間にか、距離が縮まっている。
     嫌だ、怖い、怖い……。

  • 460◆xaazwm17IRZa23/04/09(日) 01:19:31

    手が届く距離まで近づかれたら、姫氏原は死ぬ。

    「い、嫌っ!」

    「ぐおっ!?」

     姫氏原の悲鳴に合わせ、悪霊のパワーが上ったのか、くの字に身体を曲げ、石川が宙を舞う。しかし、難なく着地を決め、肩を鳴らした。

    「なーんか、見えてきたぞ」

     悪霊が攻撃を仕掛ける。
     石川は、それを躱した。

    「……え?」

     何が起きているのか、姫氏原には分からない。姫氏原にも、悪霊は見えないからだ。ただ、今までなら殴打されていたであろうタイミングで、石川が首を捻って回避した、ということは分かった。

    「あらよっと」

     再び、石川が身を捻る。
     風を薙ぐ音から、悪霊が攻撃を仕掛け、それを避けられていることが分かる。

  • 461◆xaazwm17IRZa23/04/09(日) 01:20:35

    「ま、まさか、石川くん……見えるの?」

    「いや、俺霊感ないし。でもさ、こんだけ殴られてると、何となく分かってくるっていうかさ。輪郭が掴めてきた」

     血を拭いながら、石川は楽しそうに告げる。

    「お前の悪霊はな、人型だ。手があって、足がある。大きさは2mくらいだな。攻撃っていうのも、パンチやキックに過ぎない。要はさ、透明で、干渉不可能の、めっちゃマッチョがお前を守っている。これが、悪霊の正体だな」

     でもって、と石川は続ける。

    「殴られているうちにだいたいのリーチは掴めてきた。気配も……ちょっと感じ取れるようになってきた。ぶっちゃけ近距離パワー型のスタンド使いなんだなお前」

    「す、スタンド……?」

    「知らねーのかよ、ジョジョだよジョジョ。まあいいや。俺は悪霊殴れないから、本体のお前殴って勝つしかねぇんだが……」

    「ひっ……。や、やだ! 近づかないで! 痛いことしないで!」

    「あのさぁ、人のこと散々殴っといてその言い分はどうなのよ。どうせ痛い思いするんだったら楽しもうぜ!」

  • 462◆xaazwm17IRZa23/04/09(日) 01:21:07

     あまりにも理不尽なことを言いながら、石川は姫氏原に接近する。当然悪霊が石川を排除するべく動くが

    「もう見えてるんだって」

     攻撃を全て躱される。
     地面にクレーターこそ作るが、石川を捉えることが出来ない。
     徐々に、石川が接近する。
     姫氏原の終わりが近づく。

    「嫌……嫌あああああああああああああああああああ!」

     姫氏原は背中を向け逃げ出した。

    「あ、おいこら逃げんな!」

     慌てて追おうとするが、悪霊にラリアットを仕掛けられ、慌てて回避する。
     悪霊は姫氏原の後を追おうとしなかった。石川を足止めするべく、その場に留まる。

    「おいおい、本体が逃げちまったぞ。どうすんだよ」

  • 463◆xaazwm17IRZa23/04/09(日) 01:21:58

     悪霊を無視して石川は先に進もうとする。そこで悪霊は殴りかかり、石川は雑に右腕でガードする。悪霊のパワーも分かった。常人以上だが、自分より下だ。そう思っていたが、右腕に伝わる予想外に重い衝撃に考えを改める。

    「へへへ、本体が離れても弱体化しない……むしろパワーアップすんのか。面白ぇじゃねぇか……!」

     だったらこっちも奥の手だ。
     そう言うと、石川はその場でぶつぶつと何かを呟き始めた。

    「あー……南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏……あと、何だっけ……」

     適当なお経。そんなもので悪霊を払えれば姫氏原は苦労しない。
     悪霊が石川に殴りかかり——カウンター気味に頬を打ち抜かれる。

    「お、感触があった。やったぜ」

     悪霊の動揺を示すように、周囲でラップ音が鳴り響く。
     何のことは無い。これはひとえに、思い込みの力である。
     お経を唱えれば悪霊を殴れる。石川は心の底からそう思い込むことで闘気が右腕に集まり、悪霊にダメージを与えたのだ。

  • 464◆xaazwm17IRZa23/04/09(日) 01:22:57

     勿論、石川はこれらの闘気を扱う専門家ではない。その力は微々たるものであり、本来2mの巨漢でも石川の拳を受ければ一撃で昏倒するが、その威力は大幅に減衰している。
     しかし、これで石川は悪霊と同じ戦いの土俵に立つことが出来た。

    「せいぜい守ってみろよ、ボディーガー……って、うおっ!」

     突如、石川は身をのけ反らせた。悪霊の力によるものではない。
     突き出されていたのは竹槍。
     背後から暗殺を仕掛けた霧田キルコは失敗を悟ると、再び距離を取って竹槍を構える。

    「ああ!? 霧田じゃねぇか!? お前も遊んでくれるのか!?」

     霧田は無言で竹槍の先端を石川に向ける。

    (石川大輔。優勝する上で大きな障害になる……)

     石川と姫氏原の戦いを観察していた霧田は、今ここに姫氏原の悪霊が居ることを知っている。

    (確か、男性にのみ反応する悪霊でしたか。ならば、私に攻撃することはない。挟み撃ちの形になります)

     悪霊と霧田に囲まれ、石川は楽しそうに笑った。

    「カツカレーの気分だぜ……!」

     やや困惑しながらも霧田は竹槍を突き出し、悪霊は拳を振るう。
     廃村から廃校までの森林地帯で、男と女と悪霊の戦いが幕を開けた。

  • 465◆xaazwm17IRZa23/04/09(日) 01:27:00

    27話②を終了します

    本日も感想を頂きありがとうございます……大遅刻&更新遅めで申し訳ありません……!

    午前8時~午前10時パートは明日中で終わりにして、いよいよ来週から午前10時~午前12時のパートに入りたいと考えています。お付き合い頂けると幸いです……!

    明日は13時頃に更新の予定ですが、私用によってはまた大幅に遅れるかもしれないです……

    それでは、本日はここまでとさせていただきます、ありがとうございました……!

  • 466二次元好きの匿名さん23/04/09(日) 02:01:23

    乙でした
    石川も幸運72、流石にそう簡単には死なないか

  • 467二次元好きの匿名さん23/04/09(日) 02:23:46

    乙でした〜
    そういえば姫氏原の悪霊も謎が多かったな
    何らかの異能者らしいけど、首輪を解除したのはこいつの異能なんだろうか?

  • 468二次元好きの匿名さん23/04/09(日) 08:33:03



    鰐淵は現段階までマジでソロだし、今の惨状みたら流石に驚きそう

  • 469二次元好きの匿名さん23/04/09(日) 14:14:17

    たしかバトロワの外伝漫画のブリッツロワイヤルだったかな?
    首輪の持ち主が仮死状態になったら誤作動を起こしたことがあったね

  • 470運営23/04/09(日) 14:19:45

    申し訳ないです、私用で早くても19時以降になります

  • 471二次元好きの匿名さん23/04/09(日) 16:32:39

    了解です!

  • 472二次元好きの匿名さん23/04/09(日) 18:11:28

    デストラップ案です。説明がフワフワしててすみません。

    【名前】廃村の老人
    【説明】
    このデストラップは今や血の匂いに釣られて徘徊しています。
    廃村に閉じ込めておいた筈ですが、結界が機能しなくなったのでしょうか。

    そもそも。
    廃村に老人のような何かが出現するという記録は誰が提出したものだったでしょうか?
    確認に行った黒服は戻って来ません。

    結栞奈が本当に死ぬ直前まで怪異を召喚していなかったのか

    私に確かめる方法はありませんし、先程から背後で嗄れた声がするので、もう手遅れだと思います。

  • 473運営23/04/09(日) 18:35:08

    …申し訳ないです、仕事が終わらす早くても21時以降になります…!

  • 474二次元好きの匿名さん23/04/09(日) 18:38:00

    >>473

    お疲れ様です〜!

    いつまででも待ちますのでどうか無理をなさらずに!

  • 475◆xaazwm17IRZa23/04/09(日) 23:42:47

    大変お待たせ致しました、27話③を投下します……!

  • 476◆xaazwm17IRZa23/04/09(日) 23:43:30

     石川を挟むように、悪霊と霧田は攻勢を続けている。
     悪霊による殴打。姫氏原に近づく人間を一撃で病院送りにしてきた剛力が、石川大輔という少年に幾重にも振るわれる。その全てを石川は見切り、躱し、カウンターで反撃する。
     霧田による刺突。竹槍は落ち武者狩りでも多用された立派な武器であり、丸腰の人間相手ならば確実に殺傷できる武器である。振るう霧田もまた、機械じみた精密さで石川の命を奪いにかかる。悪霊からの攻撃に対処しながら、石川は竹槍による攻撃もまた捌き、時折反撃を入れる。しかし、悪霊と違い、霧田は竹槍の柄で的確に防御し、そのセーラー服には汚れ一つない。
     戦局は拮抗していた。

  • 477◆xaazwm17IRZa23/04/09(日) 23:44:08

     霧田には悪霊が見えない。彼女には石川ほどの戦闘センスは無く、それらを欲しいと思ったこともない。見えない。が、見えなくていい。何故なら、霧田の竹槍は、悪霊に干渉しない。すり抜ける。同士討ちは発生しない。悪霊の方も霧田は攻撃の対象外であり、襲うことはない。故に、悪霊と人間という即席コンビが成立できる。

    (……面白ェ)

     二者に挟まれながら石川は幸福そうに笑う。
     霧田キルコは槍術の心得は無い。彼女が学んだ護身術は、あくまで素手を中心としたものであり、武器術は門外漢だ。そのため、当初は竹槍をただ突く用途でしか使えなかった。しかし、戦闘の中で、徐々に戦闘スタイルが変化していく。
     尖らせた先端による刺突。躱したところに、柄による薙ぎの動作が入る。それを腕で防いだところで石突による突き、そこから竹槍を回転させて刺突。

    (気づいたか霧田……! 槍は穂先だけで攻撃するんじゃない。全体が武器になるんだ……! 中央の重心にも気づいたようだな……! そうだ、しなりも生かせ……! いいぞ、どんどん良くなってる、すごいぞ霧田!)

     戦いの中で彼女は成長している。次々に工夫が生まれ、新たな戦術を使い、試行錯誤をしている。

  • 478◆xaazwm17IRZa23/04/09(日) 23:44:48

    (うおっ、このタイミングで刺突をフェイントにして蹴りか! しかもいい威力だ! どんどん良くなってる……! くそっ、惜しいな。ここで終わらせるには惜しいぞ霧田……! それに比べて……)

    「舐めてんのかテメェはよ!」

     悪霊の単調な攻撃を回避し、裏拳を顔面らしき部位に打つ。
     石川に対悪霊スキルは無い。思い込みで無理やり攻撃を通しているが、その威力は百分の一程に減衰している。今の裏拳も、屈強なヤクザを一撃で昏倒させる威力があるが、悪霊には素人の殴打程度のダメージしか与えられていないだろう。
     その程度の威力で、悪霊から狼狽する気配が漂う。
     痛みに弱すぎる。
     この悪霊は、生前は戦士でもなければ格闘家でもない。……ただのストーカーである。ビンタや殴打で戦意が挫ける。それでも悪霊なりに懸命に攻撃を仕掛けるが。

    「あのさぁ! もっと工夫しようよ! 適当に殴ってないでさ!」

     石川の怒りが乗せられた拳が、額、鼻先、鳩尾に突き刺さる。
     たまらず頭を落とす悪霊の頭を石川は掴んだ。殴れるということは、こういう干渉も出来るのだ。

  • 479◆xaazwm17IRZa23/04/09(日) 23:45:28

    「戦う気ないなら帰れ!」

     膝を顔面に何度も叩き込む。
     隙ありと突き出された竹槍を体軸の回転で回避すると、駄目押しに右頬を殴打する。
     周囲にラップ音が響く。
     そして。

    「……あ?」

     悪霊は、姿を消した。

    「マジかよ、本当に帰りやがった……ゆとりかよ」

     Z世代である石川はそう吐き捨てると、霧田に向き直る。

    「ま、邪魔者はいなくなったし、こっからは二人で楽しもうぜ」

    「嫌です」

    「え!?」

     ショックを受ける石川は、しかしこちらに飛び掛かる霧田の動きを察知し、口角をつり上げる。

  • 480◆xaazwm17IRZa23/04/09(日) 23:46:05

    (いいフェイントだ!)

     突き出される穂先を躱す。しかし、穂先は地面に突き刺さった。

    (あ、なんだ、ミスか? いや、霧田に限ってこんなミスはありえねぇ。何のつもりだ?)

     ワクワクしながら霧田の次の攻撃に備える。
     竹槍を地面に刺した霧田は大地を蹴り、飛んだ。そして竹槍を支軸に、石川に飛び蹴りする。

    (そう来たか!)

     アクロバットな動きに石川は興奮し、その蹴りが石川の首を狙った殺意の高いものであることにも気づく。

    (ガード……いや、これは避けた方がいい……!)

     防げば、その部位への損傷は後々に残る。これから新條や小田斬、マネモフルや瀧沢といった強者と楽しみたい石川にとってここで怪我をすることは不本意だ。
     故に、バックステップで距離をとり、霧田の追撃を警戒する。
     霧田は飛び蹴りの勢いのまま着地すると、そのまま竹槍を抜き、森林の中に消えていった。

  • 481◆xaazwm17IRZa23/04/09(日) 23:46:46

    「……あれ?」

     逃げられた。
     そう気づいた石川は悲しくなる。

    (どうする……? 霧田を追うか? いや、でもあいつはもう少し泳がせて更に強くなって欲しい気持ちもある……。このまま廃校行くか? 姫氏原の悪霊も、飽きちまったし……)

     いや待てよ、と石川の頭脳が回転を始める。

    (姫氏原が叫んだ後、悪霊はパワーを増していた。本体にストレスを与えれば与えた分だけ悪霊は強くなるんじゃないか? だったら姫氏原を探してみるか)

     彼女が逃げた方向を見る。自分の足ならすぐに追いつけるだろう。

    「待ってろよ姫氏原……!」

     戦闘狂は獲物を見定めて疾走する。

  • 482◆xaazwm17IRZa23/04/09(日) 23:47:22

    27話③を終了します、時間を置いて27話④を投下します

  • 483◆xaazwm17IRZa23/04/09(日) 23:48:30

    >>472

    ゲー! 廃村から出てきたー! 出せるタイミングがあれば使わせていただきます……! ありがとうございます!

  • 484◆xaazwm17IRZa23/04/09(日) 23:52:53

    気が早い話ですが、廃校戦の結果次第では、そのまま主催戦に入るので、モブ黒服とモブ暗黒金持ちを募集します。生徒と比べて活躍の機会は少ないと思いますが、それでもという方がいればお願いします……!

    廃校戦の結果次第では順当に優勝エンドの可能性もあり、その場合は主催戦も無いので出番も殆ど無いかと思います。そこもご了承頂けると幸いです……!

  • 485二次元好きの匿名さん23/04/09(日) 23:56:45

    悪霊が弱いのか石川くんが強すぎるのか…
    今残ってる他のフィジカル強者と比べるとどうなんだろうな

  • 486二次元好きの匿名さん23/04/09(日) 23:56:57

    おお、終盤の香りがほんのりと……?
    テンプレは1スレ目のものを流用すれば良いでしょうか

  • 487二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 00:00:36

    主催戦ってどういった型になるんだろう?
    噛ませ犬じゃなくてちゃんと強いキャラがいた方が良いのかな?

  • 488二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 00:11:37

    モブ黒服考えてみました。こんなんでいいですかね?
    【名前】長村洋(ながむら ひろし)
    【性別】男
    【外見】一見したところ細身な中年男性に見えるが、身体中にある傷跡から歴戦の猛者であることが分かる。
    【趣味】射撃訓練
    【好きなもの】弱くて倒しやすいヤツ
    【嫌いなもの】自分より強いヤツ・上司
    【性格】小物の下衆だが、戦闘に入れば冷静沈着に行動する
    【特技】射撃の腕なら黒服の中でも1番。拳銃だけではなく狙撃銃や散弾銃の扱いにも長けている。
    【詳細】幾多の国に傭兵として雇われた兵士。上に媚びて下に威張る、典型的な中間管理職タイプ。
    【備考】傭兵をやっているが、自分の能力を考えて選んだ職であって戦うことが好きな訳ではない。むしろ生き汚い性格。

  • 489二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 00:32:34

    自分もこんなですが…異能者でもいいんですかね?一応あまり強くないですが
    【名前】破目 囃子(やぶれめ はやし)
    【性別】男
    【外見】赤髪のヒョロいチビ、身長は138cm。グラサン
    【趣味】バードウォッチング
    【好きなもの】小さくてか弱い存在
    【嫌いなもの】背を馬鹿にする人間
    【性格】基本的に強い方に謙るが内心毒づいてる。本性は下衆。
    【特技】小動物を支配する異能。対象は動物や自分よりチビな人間。
    【詳細】外見的なコンプレックスを爆発させ周りを見返すために黒服(エリート)になる。デストラップに使われた動物の捕獲などを担当していた。
    【備考】戦闘の場数は多くないためそれほど強くない。

  • 490二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 00:33:57

    モブ黒服です

    【名前】田中 屍山血河
    
【性別】女

    【外見】赤髪おかっぱで鋭い目つきの少女剣士。
    小柄な体格に似合わないボーイッシュな外見で、巨大な日本刀を持つ。
    
【部活】剣道部
    【趣味】好きな人の一部を集めること
    
【好きなもの】コーヒー
    
【嫌いなもの】両親、金持ち、異能者
    
【性格】
    メンヘラでサディストな高校1年生。
    非常に自己評価が低く、優しくしてくれる人にはとことん惚れっぽい。

    【特技】
    異能"屍山血河"

    【詳細】
    死者を絶対に蘇らせない異能。
    能力の邪悪さと使い勝手の悪さから忌み子のように扱われていたが、
    デスゲームにおいて不死者を殺す画期的な方法として爆弾卿に拾われた。

    【備考】
    兄の不死太郎がデスゲームで死んだことを喜んでもいるし、悲しんでもいる。
    現在は兄を殺してコンプレックスから解き放ってくれた茜音沢に想いを寄せている。

  • 491二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 00:49:02

    暗黒金持ちさんです
    【名前】ジョン・ジョンソン
    【性別】男
    【外見】マルハゲ、綺羅びやかで高価な服着てる
    【趣味】世界旅行(色んな人間を見て回る)
    【好きなもの】宝石、スリル
    【嫌いなもの】自分で味わう我慢や苦痛
    【性格】せっかちな人。人のスリルを能力で感じるのが好き。自分が味わわされるのは嫌い。
    【特技】読心
    【詳細】画面越しに見た人間の心を読める
    【備考】デスゲームを安全圏から眺めてるのが大好き。今回のゲームにも多額の支援金を出している。

  • 492二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 01:19:38

    モブ黒服です

    【名前】目裏 晴刈(めうら はるか)

    【性別】男

    【外見】桃髪ポニテで長身、コートを羽織っている。切れ長な垂れ目の中性的優男。
    
【趣味】貴族趣味

    【好きなもの】可愛い妹
    
【嫌いなもの】特に無い
    
【性格】誰にでも優しい好青年風のサイコパス。
    何事も笑って済ませるのは他人の存在を何とも思っていないから。

    【特技】演じること
    
【詳細】家庭環境のストレスから身を守るため、自分を偽ることが得意になった。
    晴刈はその術を意のままに操り、戦いに転用する。宇都とか里美ちゃんの究極系。
    
【備考】目裏雨子の兄。
    兄妹仲は良くなかった。

  • 493二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 01:27:00

    このレスは削除されています

  • 494二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 01:29:13

    このレスは削除されています

  • 495◆xaazwm17IRZa23/04/10(月) 01:29:20

    皆さんありがとうございます……! 黒服と金持ちはなんぼあっても困らないので引き続きお願いします
    強さに関しては自由ですが、一応「茜音沢」が主催陣営最強に据えたいので、上限はそこでお願いします

  • 496二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 01:50:32

    モブ黒服を投下です

    【名前】準 標(みずもり しるべ)
    【性別】女
    【外見】ショートヘアの一般黒服。何もかも一般的すぎて逆に浮くレベル
    【趣味】部屋の掃除
    【好きなもの】人並みの三大欲求
    【嫌いなもの】悪目立ち、孤立
    【性格】とにかくバランスを取らないと気が済まない質。
    隣に善人と悪人がいれば、その中間になろうとする。
    【特技】平均的な拳銃の扱いと、平均的な体術の腕。異能は持たない
    【詳細】アルバイトで生計を立てていたが、当時の友人がデスゲームで死亡したことから
    ここでは普通でいられないと悟り、黒服に志願した。
    【備考】ふつうの黒服としてどうぞ

  • 497◆xaazwm17IRZa23/04/10(月) 02:05:27

    27話④を投下します、今日最後の投下です

  • 498◆xaazwm17IRZa23/04/10(月) 02:06:10

     姫氏原は逃げていた。
     思えば、彼女はこの殺し合いでずっと逃げていたといえる。目裏雨子から逃げ、目浦雨子の死から逃げ、そして今、石川大輔から逃げている。

    「もういや……堀木くん……助けて」

     茂みから毬のように飛び出した姫氏原は、何か柔らかいものとぶつかり尻もちをついた。

    「わ、大丈夫っすか!?」

     男子の声だ。
     男子と接触してしまった。

    「あ……」

     来る……! 悪霊の呪いが発動する……!

    「……あ、あれ?」

     しかし、姫氏原の恐れとは裏腹に、目の前の男子生徒……金輪幹久に悪霊の一撃が来ない。

    「ど、どうして……?」

    (堀木くんだけじゃ、ないの……?)

    「……妙だな」

  • 499◆xaazwm17IRZa23/04/10(月) 02:06:57

     金輪の横に立っているのは、性別不詳の虎肝ドラギモス。最強のバスケチームを率いていそうないい声で姫氏原に語りかける。

    「姫氏原、お前、悪霊はどうしたんだ? コントロールできるようになったのか?」

    「わ、分からない……どうして呪いが発動しないのか……」

     もしかして、と後ろを振り返る。石川が追ってくる様子はない。

    (足止めをしてくれているの……?)

     悪霊は自分を守ろうとしている。姫氏原はそう確信した。

    「たぶん、私の悪霊は今、石川くんと戦っている……」

     そこまで言って、姫氏原は失策に気づく。つまり、姫氏原を守るものは何もないのだ。貧弱なドラギモスはともかく金輪に襲いかかられれば姫氏原は死ぬしかない。

    「ひっ……やめて、殺さないで……」

    「わっ、そんなことしないっすよ! それより、石川くんが近くにいるんすか! 早く逃げないとやばいっす!」

    「……お前の方から襲ったり、誤解があったわけじゃないんだね? そこが結構重要だぜ」

    「ち、違うよ……! わけのわからないこと言って、急に襲いかかって来たの!」

  • 500◆xaazwm17IRZa23/04/10(月) 02:07:33

    (普通なら多少は疑う言葉だが……石川ならやりそうだな)

    (あー、石川くんならこういう場ではノリノリっすよね……)

    「悪霊がどこまで足止めできるかは分からないな。そのまま石川をボコってくれれば助かるんだが……。とりあえず一緒に廃校に行かないか? 一人より三人の方が何かと便利だろ。戦えるのは実質金輪一人だが……」

    「俺も戦闘が好きなわけじゃないっすけど、でもドラギモスくんちゃんは希望っすからね。何とか守るっすよ」

    「希望……いったいどういう……」

    「僕は首輪を解除できる」

     ドラギモスは力強く断言した。

    「え、本当に……?」

    「絶対とは言えないがね。サンプルと時間さえあれば。高い確率で外すことができる」

    「首輪が外せるってことは、私、家に帰れるの……?」

    「ああ」

     姫氏原の頬を涙が伝った。

  • 501◆xaazwm17IRZa23/04/10(月) 02:08:14

    「私、帰りたい……帰りたいよぉ……」

    「僕たちは家に帰れる。この場で約束してやるよ。何たって、僕はCV神谷なんだぜ。絶対主人公だろ」

    (属性的には色物っすけどね……)

     悪霊に取り憑かれた少女は、殺し合いの場で初めて、安心感を覚えたのだった。

    「さ、廃校までもうすぐだ。石川に追いつかれる前に、行っちまおうぜ」

    「みぃいいいいいいいいいいいいいいつけたぁあああああああああああ!」

     子どものようなはしゃぎ声が、鬼のような笑い声が、森林に響いた。
     恐怖に、三人は凍りつく。
     笑顔でこちらに走ってくる石川大輔が見えた。
     手には何も持っていない。それが安全を意味しないことは、3年1組のクラスメイトなら誰もが知っている。
     絶望的な恐怖のなか、動いたのは金輪だった。

    「ドラギモスくんちゃん、悪いすけど、先に行ってて欲しいっす」

  • 502◆xaazwm17IRZa23/04/10(月) 02:09:04

     自らの鞄をドラギモスに押し付け、金輪は石川の前に立つ。

    「後から、追いつくっすから」

    「よせ、金輪! 相手は石川だぞ!」

    「逃げても追いつかれるっす。安心してほしいっすよ、俺、バトルは嫌いっすけど……」

     突如、石川が吹き飛んだ。
     カロリーボム。体内のカロリーを消費することで、高熱の衝撃波を出す、金輪の異能である。

    「苦手では、ないっすから」

    (すごい……!)

     悪霊にどれだけ攻撃されても耐え続けた石川を一撃で倒した。美味しい料理作る人、というイメージしかなかった金輪に、こんな一面があったとは。

    「早く行くっす! はっきりいって、二人がこの場にいると、俺、全力で戦えないっすから!」

    「金輪……僕は鞄に入っている携帯食料美味しくないと思ってたんだ」

    「あ、同感っす」

    「ランチは、お前の料理が食べたいぞ」

    「了解っす。腕によりをかけて振る舞うっすよ!」

     その言葉を合図に、ドラギモスは姫氏原の手を取って走り出す。
     その場には、金輪と石川、二人の男が残った。

  • 503◆xaazwm17IRZa23/04/10(月) 02:11:20

    27話④を終了します

    本日はここまでとさせていただきます……!
    急な予定変更で申し訳ありません……! 来週からは廃校戦に移る予定でしたが、もうしばらくお付き合いいただけると幸いです……!

    今日もたくさんの感想やアイデア、ありがとうございます……! 皆さんに少しでも楽しんでいただけたのなら幸いです……!

  • 504二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 02:12:05

    >>492

    【備考2】

    目裏雨子を殺した姫氏原に執着して追い回すが、心から恨んでいる訳ではなく『家族を殺されたら恨まないといけないよね!』という義務感から仕方なくやっている。


    姫氏原ちゃんの作者さんごめんなさい

  • 505二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 02:12:33

    乙です、凄く気になるところで終わった!

  • 506二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 02:17:04

    乙です
    幸運ダイスの値を見返しながら展開を予想するのもまた楽しい

  • 507二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 02:18:27

    【名前】錠著 者絵 (じょうちょ ものえ)
    【性別】女
    【外見】赤いドレスを着た今時珍しい縦ロールのおばさま
    【趣味】パズル
    【好きなもの】目立つこと、恥をかくこと、他人が苦しむ姿を見ること
    【嫌いなもの】お人好し
    【性格】あんまり似合わない派手な格好をして悪い意味で注目を浴びる自分に酔い痴れるのが好き。どうしようもない状況で苦しむ他人を見るのも好き。
    【特技】こう見えて機械に詳しい。
    【詳細】言動はアホっぽいけど頭はいい方
    【備考】キモいけどそれなりに役には立つタイプのモブ金持ちです

  • 508二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 02:21:59

    書いてる間に更新来てた……
    金輪と石川どっちも好きなんでドキドキ

  • 509二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 02:44:19

    このレスは削除されています

  • 510二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 02:45:42

    しかし現状石川より強いやつなんて残ってるんだろうか?
    石川に勝てそうな奴らは軒並み死んだか大怪我してるし、暴力では負けるけど堀木とラッタッターくらいかな?

  • 511二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 03:01:01

    アイテム次第(例えば猫じゃらしや忍者)ではまだ油断はできない、石川君の武器次第だけど

  • 512二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 03:34:19

    金輪かっこいいけど、タフすぎる石川とエネルギーに限りがある異能は相性最悪だよなあ……

  • 513493~49423/04/10(月) 03:39:11

    (重ね重ねすみません。少々不都合があったので没とさせてください)

  • 514二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 04:50:56

    見たい展開の募集をまだしてるなら
    今後のストーリーで石川くんが強敵(とも)と共闘(コラボ)するのを是非見てみたいな

  • 515二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 05:22:26

    黒服たちの部隊の詳細な設定を投げてみます

    【名前】曙(あけぼの)
    【説明】中心部の警護及び観客の世話を担当する黒服。
    数が少ない代わりに先鋭揃いで、暗黒金持ち直属の部下がほとんど。
    基本的に本部からは出てこない。


    【名前】帳(とばり)
    【説明】生徒たちの監視や部外者の侵入阻止を担当する黒服。
    デスゲームを恙なく進行する為、認識阻害の仮面を着用して島全体を巡回している。
    西エリアの黒服はジジイに喰われてほぼ全滅済み。

  • 516二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 11:09:29

    金輪に死亡フラグ立ちまくっている…
    どんな展開になるのか楽しみです

  • 517二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 12:01:21

    暗黒金持ちをどうぞ

    【名前】谷淵 玄夜(たにぶち げんや)
    【性別】男
    【外見】フードを深く被った猫背の男。色白の肌も相まって死神を思わせる雰囲気
    【趣味】駄菓子屋通い
    【好きなもの】凡人、退廃、堕落
    【嫌いなもの】才能、努力、出世
    【性格】極めて陰湿で邪悪。若き才能の芽を摘むことを何よりの喜びとし
    怪物揃いの現デスゲームにもそれなりの額を出資している。
    【特技】印象操作。特に他人の悪評を広めることに関しては余念がない。
    【詳細】逆張りの権化なので弱者サイドには割と甘い節がある
    【備考】救いようのない悪人です。煮るなり焼くなりお好きにどうぞ

  • 518二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 14:41:11

    金持ち?枠です
    勢いで作ったので採用されなくても仕方ないし雑に処理してもらって大丈夫です

    【名前】スーツの男

    【性別】男

    【外見】黒いスーツを着た背の高い男。顔が布で覆われていて見えない
    【趣味】生物観察

    【好きなもの】生物 

    【嫌いなもの】ロボット
    【性格】基本的に無口。機械的で感情の起伏が少ない

    【特技】悪魔の証明

    【詳細】自身の姿が肉眼で観察されておらず出現したい場所が肉眼で観察されていない限り何処にでも出現する事ができる。異能使用の際自身を捉えているカメラなどの機器類は何故か不調になる。

    【備考】誰も招待してなければ面識もなく気がついたらそこに居た。もしかして怪異の一種ではないかと警戒されている。その為藪蛇で被害が此方に来たら嫌なので黙認されている。

  • 519二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 14:51:44

    【名前】マエストロ・セピア

    【性別】男
    
【外見】プロビデンスアイが描かれた黒いベールで顔を覆っている。黒服たちの隊長。
    
【趣味】映画鑑賞

    【好きなもの】芸術、カッコ良いもの、悪役
    
【嫌いなもの】自分の世界観を壊す奴

    【性格】爆弾卿の腹心。寡黙で血も涙もないように見えるが実際は極度の中二病で、芝居がかった態度もそれが原因。
    
【特技】古武術

    【詳細】かつては黒服たちの中で最強格だったが、色々あって茜音沢にボコボコにされた。
    以来 茜音沢を一方的にライバル視している。
    
【備考】爆弾卿の隣にいつも控えている

  • 520二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 21:49:25

    今日は何時からかな
    続きが楽しみだ

  • 521◆xaazwm17IRZa23/04/10(月) 22:44:17

    お待たせ致しました……! 本日も始めさせていただきます……!
    27話⑤を投下します

  • 522◆xaazwm17IRZa23/04/10(月) 22:44:58

     石川大輔はゆっくりと起き上がった。学ランのあちこちが焼け焦げ、煙を上げている。

    (どれだけダメージを与えられたんすかね……)

     金輪のカロリーボムは無制限ではない。自らのカロリーを消費する以上、どうしたって使用に制限がある。

    (今のと同じ威力は、後9回が限度っすね……)

     その9回で石川を倒せるのか……分からない。

    「石川くん、殺し合いなんて辞めないっすか。腹が減るだけっすよ。戦うのが好きなら格闘系の部活入ったりプロ目指せばいいじゃないっすか」

     うーん、と石川は腕を組み、悩まし気な様子を見せた。

  • 523◆xaazwm17IRZa23/04/10(月) 22:45:46

    「いやさ、何度かそれも考えたんだよ。でもさ、やっぱ俺、ルールがある戦いって嫌いなんだよね。ガチンコが好きっていうかさ……。空手教室とかボクシングジムとか三日坊主だしな……」

     恥ずかしそうに頭を掻く石川に、金輪は言いようのない恐怖を感じた。
     本当にゲームに乗っているのか? まるで休み時間の会話だ。

    「だからってクラスメイト襲わなくてもいいじゃないすか。こんな時に喧嘩なんて……そ、そうだ! ドラギモスくんちゃん、首輪外せるんすよ! 俺達、無理に殺し合いなんてする必要ないんす! だから石川くんも協力して欲しいっすよ! 喧嘩はその後強い人とゆっくり……」

    「え、ちょっとまって。あの雑魚首輪外せるの!?」

     石川はドラギモスが逃げて行った方向にあからさまな殺意を向けた。

    「作戦変更。最優先であの雑魚殺さねえとな」

     大地を強く蹴り、石川が獣のように駆ける。

    「行かせないっすよ!」

     二度目のカロリーボム。石川はそれを跳躍して回避した。

    「範囲足りてねえぞ金輪!」

  • 524◆xaazwm17IRZa23/04/10(月) 22:46:39

    「いや、これでいいんすよ」

     金輪は三度目のカロリーボムを自らの足元に発射。
     衝撃波にのり、金輪は宙を舞う。

    「うおっ! 少林サッカーで見たぞこれ!」

     妙に楽しそうな石川の顔を掴み、四度目のカロリーボムを今度は空中へ撃つ。
     必然、強烈な勢いで二人は大地に叩きつけられる。石川を下敷きにしたとはいえ、金輪にも衝撃が来る。

    「まだっす!」

     顔面を掴んだまま五度目のカロリーボム。零距離で放ったそれは、石川を地面にめり込ませた。

    「……どうっすか! 降参するなら命までは……」

    「今度はこっちの番だぜ!」

     腹に砲弾が当たった。
     そう金輪が錯覚するほどの衝撃が腹部を襲う。
     石川の蹴りが、金輪の豊満な腹部に深く突き刺さっていた。

  • 525◆xaazwm17IRZa23/04/10(月) 22:47:53

     二度目の衝撃。今度こそ金輪は耐え切れず、ゴム毬のように吹き飛んだ。

     (な、なんて威力っすか……! 二回蹴られただけで意識が飛びそうっす……)

     金輪は強い。高熱の衝撃波を出す異能は、間違いなく強力なものだ。しかし、金輪本人の身体強度はあくまで常人である。一般的な男子高校生より多少は頑丈かもしれないが、石川と肉弾戦ができるレベルには達していない。
     身体中から蒸気を出しながら、石川は立ち上がる。その顔には、くっきりと火傷の痕が残っていた。

    「中々効いたぜ金輪。しばらく風呂入るとき痛いかもな」

    「そ、その程度すか……」

    (こうなったら奥の手を使うしか……)

     しかし本当に使ってもいいのか。金輪は悩む。
     使えば石川にも勝てる。しかしその後金輪は……。

    (もしそうなったら、俺はみんなにとんでもない迷惑を……。けど、ここで石川くんを止めないと、希望が途絶えるっす……!)

     金輪が殺し合いの恐怖を乗り越えられたのは、イノシシで腹を膨らませたおかげもあったが、ドラギモスに希望を見出したからだ。

  • 526◆xaazwm17IRZa23/04/10(月) 22:48:54

     ここで石川を止めなければ石川はドラギモスを殺す。そうなればこの島に希望は無くなり、絶望だけになってしまう。

    (皆がもう二度と美味しいご飯を食べられないなんて、そんなの嫌っす! だから俺は……)

    「全カロリー解放っす!! フルパワー『カロリーボム』!!」

     現れるのは、高熱の衝撃波、などといった生易しいものではない。
     それはもはや熱線だった。熱の奔流が、石川を襲った。

    「ちょ、それは流石にやべぇっ!?」

     この島に招かれて初めて、石川の顔から余裕が消えた。
     大地を強く蹴って加速。熱線の射程範囲から逃れようとする。

    「逃がさないっすよ!」

     金輪は自らが回転することによって石川を追尾する。

  • 527◆xaazwm17IRZa23/04/10(月) 22:49:56

     逃げる者と追う者の雄たけびが、森林にに木霊する。
     そして、遂に熱線が石川を捉えた。
     咄嗟に石川は両腕で頭部と心臓部を守護する。そのまま熱と光の中に呑まれ、その場を吹き飛ばされる。
     樹々を何本もへし折り、遂に解放された時、石川は全身に火傷を負い、起き上がる様子を見せなかった。それを確認したとき、金輪は空腹を感じた。

    (何とか倒せたっすけど……やっぱり、駄目みたいっすね)

     全カロリーを消費してしまった。金輪は金輪でなくなってしまう。

    (クラスの皆に迷惑をかける前に戻りたいっすけど……もし、誰かを傷つけてしまったのなら、その時は俺を……)

     それだけを願い、金輪は意識を闇に沈めた。

  • 528◆xaazwm17IRZa23/04/10(月) 22:50:43

     石川は、空を見上げていた。

    「強いなぁ」

     言葉が漏れた。

    「金輪、お前、こんなに強かったのかよ」

     料理が上手いデブ。異能使えるデブ。明るいデブ。
     それが、石川が金輪に抱いているイメージだった。

    「火力ならクラスで一番なんじゃねぇの? 最大威力が直撃してたら死んでたよなぁ俺……」

     必死に躱し、稼いだ二、三秒。その時間で、金輪のカロリーボムは威力を減衰させていた。そのため石川はまだ生きている。

    「死ぬかもしれないなんて思ったのいつ以来だよ俺……」

     誰と戦っても弱い者いじめにしかならない。それだけ石川の暴力は突出している。

    「茜音沢先生に感謝だな……」

     デスゲームが開催されなければ、石川は金輪の強さも、自分の弱さも知れなかった。
     金輪からの追撃は来ない。向こうも全身全霊の一撃だったのだろう。

  • 529◆xaazwm17IRZa23/04/10(月) 22:51:39

     石川もかなりのダメージを受けた。全力戦闘に支障を来すレベルの。

    「……つまり、面白いのはここからだよな、金輪!」

     石川は立ち上がる。お互いに余力を出し尽くしてからの泥仕合。男同士の意地のぶつかり合い。
     闘気を漲らせ、石川は金輪を見据える。

    「………………は?」

     そこには、金輪はいなかった。
     骸骨のように瘦せ、目を血走らせた男が一人。

    「オデ……ハラヘッタ……ナニカ……クイモノ……」

    「何だよそりゃ……」

     こんなことは間違っている。
     この後、石川と金輪は互いの全存在をかけた殴り合いをするはずなのだ。お互い持てる技術を出し切り、土壇場で新たな技を開発し、最後には全てをかけた拳のクロスカウンターで決着がつく。どちらが死んでも恨みっこなし。そういった最高に熱い勝負が始まるはずなのに。

    「何てざまだよおい……」

  • 530◆xaazwm17IRZa23/04/10(月) 22:52:16

    「グオオ……オマエ、ウマソウ……クワセロ……!」

    「何なんだよ……」

     金輪だった怪物は、石川を捕食せんと突進を仕掛けた。
     速い。
     あらゆる脂肪を熱に変えたこの怪物には、もはや筋肉しか残されていない。野生の猛獣顔負けの速さで怪物は石川の喉笛を噛みちぎらんとし

    「馬鹿野郎おおおおおおおおおおお!」

     右頬を打ち抜かれる。

    「獣になってどうするんだよおおおおおおおおおお!」

     目にも止まらぬラッシュが金輪を襲う。この獲物がすぐには捕食できない。そう察した金輪は逃げ出そうとする。しかし、首に石川の腕が絡みつく。
     そのまま後方に倒される。

    「人間と、人間が、全力で戦うから、楽しいんだろうがよ! 忘れちまったのかよ、金輪っ!」

     金輪は叫び声を挙げて石川の腕を引っ掻くが、石川の腕力は緩まったりはしない。

  • 531◆xaazwm17IRZa23/04/10(月) 22:53:10

    「……俺との激闘も忘れちまったのかよ金輪っ!」

     石川は泣きながら金輪の首をへし折った。
     金輪は動かなくなった。
     ライバルを自らの手で葬った石川は放心したように空を見上げていた。

    「……最悪の後味だったぜ」

     そう吐き捨てると、石川は逃げて行った姫氏原とドラギモスを追いかける。
     後には首が折られた瘦せ細った男の死体が残された。

    【金輪幹久 死亡】
    【残り 17人】

  • 532◆xaazwm17IRZa23/04/10(月) 22:53:59

    27話⑤を終了します、これで27話及び午前8時~午前10時パート終了です

  • 533二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 22:59:29

    そんなぁ…死亡フラグを回収してしまったか…

  • 534◆xaazwm17IRZa23/04/10(月) 23:12:53

    次の28話は午前10時~午前12時は全参加者が廃校に辿り着いたと仮定してダイスを振ります。

    ダイスの値次第では最終話になる可能性もあります……

    石川大輔幸運dice1d100=68 (68)

    篠宮纏幸運dice1d100=58 (58)

    Nek-O幸運dice1d100=72 (72)

    パンパンパン・ラッタッター幸運dice1d100=33 (33)

    星峰灼幸運dice1d100=15 (15)

    堀木彩幸運dice1d100=78 (78)

    マネモフル=タマネ幸運dice1d100=93 (93)

    三田哲幸運dice1d100=53 (53)

    金木冥幸運dice1d100=75 (75)

    姫氏原小毬幸運dice1d100=72 (72)

    霧田キルコ幸運dice1d100=50 (50)

    瀧沢魁幸運dice1d100=5 (5)

    千頭之のづち幸運dice1d100=47 (47)

    ねうねい・めあめえ幸運dice1d100=42 (42)

    歯荷仄花幸運dice1d100=79 (79)

    鰐淵英利幸運dice1d100=3 (3)

    虎肝ドラギモス幸運dice1d100=43 (43)

  • 535◆xaazwm17IRZa23/04/10(月) 23:15:15

    ……以上の情報を元に、第28話を作製します、25話以上に長くなります、恐らく短くても今週いっぱいはかかると思います、お付き合いいただけると幸いです

  • 536二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 23:16:53

    まぁ予想はしてたけど死屍累々だ…
    好きなキャラがどんどん死んで行って悲しくなるな…
    そしてマネモフルあの状況から生き残るのヤバいな

  • 537二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 23:20:31

    これだけ振れば少なからずそうなるとはいえ
    既にダイス目で二人脱落か
    鰐淵ぃ……

  • 538二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 23:22:41

    死者の遺志を継いでゆけ…

  • 539二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 23:41:22

    次はどこ視点の話だろう?
    運営編を挟むのか視点生徒を振るか

  • 540二次元好きの匿名さん23/04/11(火) 01:47:28

    このレスは削除されています

  • 541二次元好きの匿名さん23/04/11(火) 01:50:10

    女子 8+ドラギモス




    19 金木冥(薄っぺらな邪悪)
    
【武器】鍋の蓋【状態】一時的秩序,好戦,保身【場所】廃校女子トイレ,単独行動

    
20 姫氏原小毬(悪霊に憑かれた少女)

    【武器】不明【状態】中立,隠避,負傷,堀木探索【場所】西部樹海→廃校,ドラギモスと行動

    
21 霧田キルコ(空っぽ不良少女)

    【武器】六法全書,竹槍【状態】好戦,索敵,オルランド探索【場所】西部樹海→廃校,単独行動

    
23 瀧沢魁(ジークンドー少女)

    【武器】チェーンソー【状態】出血,瀕死,秩序【場所】廃校美術室,マネモフル撃退,千頭之と行動
    

24 千頭之のづち(蛇使い)

    【武器】サバイバルナイフ【状態】中立,友人捜索,復讐【場所】廃校美術室,瀧沢と行動
    

25 ねうねい・めあめえ(???)

    【武器】護衛忍者,垣根の首輪?【状態】秩序,マネモフル捜索【場所】廃工場→廃校,堀木・ラッタッターと行動
    

26 歯荷仄花(お嬢様風)

    【武器】護衛忍者くノ一,特殊警棒,透明な日本刀【状態】一時的秩序,中立,保身【場所】廃校,単独行動
    

31 鰐淵英利(刀剣マニア)

    【武器】木刀【状態】中立,千頭之捜索【場所】漁港→廃校,単独行動

    
32 虎肝ドラギモス(cv神谷浩史)

    【武器】DX日輪刀【状態】秩序,キルコ・金輪捜索【場所】廃村→廃校,姫氏原と行動

    
33 茜音沢仁史(元担任)

    【武器】鉄棒【状態】不明【場所】中心部

  • 542二次元好きの匿名さん23/04/11(火) 01:52:13

    残るプレイヤーの数もだいぶ減ってきましたね
    金輪のこと以外殆ど変わりませんが…

    
男子 8

    


1 石川大輔(戦闘狂)
    
【武器】不明【状態】好戦,索敵,姫氏原・ドラギモス捜索【場所】廃村→廃校,単独行動

    

8 篠宮纏(白髪ポニテ)
    
【武器】不明,透明な銃【状態】一時的秩序,中立【場所】廃校文芸部部室,星峰及び三田と行動


    
11 Nek-O(巨大猫)
    
【武器】猫じゃらし,麻井の首輪【状態】好戦寄りの中立【場所】廃校1F大階段,単独行動


    
12 パンパンパン・ラッタッター(ダンス黒人)
    
【武器】薙刀,垣根の首輪?【状態】秩序【場所】廃工場→廃校,めあめえ・堀木と行動


    
13 星峰灼(盲目美少年)
    
【武器】レイピア【状態】一時的秩序,中立【場所】廃校文芸部部室,篠宮及び三田と行動

    

14 堀木彩(イカれメス男子)
    
【武器】ウィンチェスターライフル,垣根の首輪?【状態】秩序,姫氏原捜索【場所】廃工場→廃校,めあめえ・ラッタッターと行動


    
15 マネモフル=タマネ(マネモブ)
    
【武器】コルトM1848拳銃,九七式中戦車【状態】好戦,索敵【場所】廃校,単独行動

    

16 三田哲(高校生探偵)
    
【武器】バール,AK-74自動小銃【状態】秩序,推理【場所】廃校文芸部部室,星峰及び篠宮と行動

  • 543◆xaazwm17IRZa23/04/11(火) 02:20:27

    28話①を投下します、本日最後の投下です

  • 544◆xaazwm17IRZa23/04/11(火) 02:22:12

     東校舎の屋上で、歯荷は叫んだ。

    「外れですわー!」

     女子ダンス部の活動場所であるそこには、確かにロッカーが置かれていた。
     既に灘神影流&ジークンドーを獲得し、透明な日本刀も回収済みの歯荷だが、星峰たちへのカバーストーリーのためには武器を選ばざるを得ない。
     これで大当たり、銃器などが手に入れば優勝待ったなしですわ! と勢い込んでロッカーを開けてみたのだが。
     にょろりと、小さな蛇が姿を現した。
     千頭之のづちのペット、コサメである。
     一応歯荷の顔を知ってはいるのか、きょろきょろと顔を振っている。

    (あ、けっこう可愛いですわね……)

     デカい方の蛇、アラシは怖いが、小さい方の蛇、コサメは可愛い。

    (ま、これで千頭之さんからの好感度上がりますわよね……何事もポジティヴが一番ですわ……)

     よくよく考えれば下手に強い武器を手に入れてしまうと、どうしてすぐ助けに行かなかったのか、という問題が生まれてしまう。ならば、助けようと思ってロッカーを開けたが千頭之のペットしか手に入らず途方に暮れていた、というう言い訳ができる、アイテム:蛇はかなり当たりかもしれない。
     よし、そろそろ合流するか、と歯荷が屋上から去ろうとしたときだった。

  • 545◆xaazwm17IRZa23/04/11(火) 02:22:53

    「主さま」

     いつの間にか、屋上の手すりに立つ、忍者装束の女が居る。
     そのバストは豊満であった。

    「アイエエエエエエエエエエエエエ! まさか、仇討ちですの!?」

     咄嗟にジークンドーの構えを取るが、護衛忍者くノ一は首を振り

    「いえ、前の主、里美綾香は死亡しました。これより新たな主は歯荷仄花様です。何なりとご命令を……」

    「あ、やっぱりそういうシステムなんですのね」

     それを狙って里美綾香を殺したが、確証は無かった。もし護衛忍者くノ一が主の仇を突け狙うタイプのアイテムだった場合は、星峰たちと協力して排除するつもりだったが、今回も賭けに勝ったようだ。

    (まぁ普通に考えればゲームに乗った方が有利にするはず。だとすれば、殺した相手を新たな主にするのは理に適ってますわ)

    「ごほん。では、あなたに命令を与えますわ。隠れて私の傍にいなさい。私が指示を出したら敵を攻撃しなさい。あ、それと私を狙っている相手がいれば、私の命令がなくても排除しなさい。おわかりかしら?」

  • 546◆xaazwm17IRZa23/04/11(火) 02:23:24

    「承知」

     瞬間、護衛忍者くノ一は姿を消した。
     忍術か、異能の力か。
     とにかく、そろそろ星峰たちと合流するべきだろう。
     歯荷は屋上を去った。



     星峰・篠宮・三田の三人と合流した瀧沢・千頭之は、まず落下したマネモフルに止めを刺すべく、彼の落下場所に急いだ。
     しかし。

    「いねぇな」

     瀧沢が吐き捨てる。
     予測された落下地点にマネモフルの姿が見えない。

    「どこかに移動したんだろう。そう遠くには行っていないはずだが……」

    「全員固まって動けよ。あいつはそうとうタフだ。一対一で襲われたらひとたまりもねぇぞ」

  • 547◆xaazwm17IRZa23/04/11(火) 02:24:24

     瀧沢の忠告に従い、五人は固まって全方位を警戒しながら捜索を続ける。

    「……隠れ潜む息遣いや、逃げ出す足音は感知できない。ここに潜んでいる可能性は低い」

     星峰の言葉に、四人はやや警戒心を解く。

    「あ、戦車! 先に戦車を何とかしたほうがいいんじゃないか!?」

    「戦車! そうか、校舎を破壊したのは戦車の砲撃か。恐ろしいアイテムだ……」

     五人は一旦マネモフルの捜索を打ち切り、戦車が隠してあるであろう場所へ急ぐ。

    「これは、チハか……」

    「知ってんのか探偵」

    「ああ、旧日本軍が使ってた戦車で、現代の戦車……いや当時のドイツ戦車と比べればそこまでスペックは高くないよ。……生身の人間が勝てる相手じゃないけど」

    「まぁアタシも戦車は無理だな」

    「あれ? でも、砲撃躱してなかった?」

     千頭之の言葉に、星峰、三田、篠宮はドン引きする。

    「瀧沢さん、本当に人類?」

  • 548◆xaazwm17IRZa23/04/11(火) 02:24:59

    「うるせー探偵。あれはまぐれだよ。もっかい同じことやれって言われても無理だっつーの。それよか、中にマネモフル隠れたらアタシら撃たれて終わりだぜ。どうよラッパ吹き」

    「………大丈夫、中に誰も居ないよ」

    「ふむ。とりあえず、中に入ってみるか」

    「……罠の可能性は?」

     ずっと無口だった篠宮の言葉に、乗り込もうとしていた三田が固まる。

    「ハッチを開けた瞬間、手榴弾が爆発する可能性もある」

    「でもよ、中に入れて運転できたら勝ち確じゃね。逆らう奴らどんどんぶっ殺していけるじゃねーか。……冗談だよ睨むな睨むな」

    「……僕たちは戦力が足りていない」

    三田はAKを握り、言う。

    「虎穴に入らずば何とやらだ。僕が空ける。ブービートラップが仕掛けられていたとしても、僕が死ぬだけのことだ。その後僕の死体を片付けて戦車を操縦すればいい」

    (こいつ……)

  • 549◆xaazwm17IRZa23/04/11(火) 02:25:42

     瀧沢は目を細めた。

    (ちょっと目を離した隙に覚悟を決めやがったな。探偵だけじゃねえ。ラッパ吹きも、ポニテ男も、なんつーか、雰囲気が殺伐としてやがる)

     もしここに芝野が居たらどうなっていただろうか。ふと、そんなことを考える。

    (こいつらみたいに覚悟決めれたのかねぇ。いや、あのもやしには無理だな。命を粗末にするな、とか吠えるに決まっているぜ)

     瀧沢は芝野の血を飲み、読心を獲得した。しかし、その精度は著しく悪い。

    (今もこいつらの声、なーんも聞こえねえしな。まぁ血を飲んだだけでそいつの異能使えるようになれば苦労しねぇよなぁ。そんなん、この島の死体喰いまくれば最強になれるじゃねえか。……あん?)

     それがこのゲームの狙いなのか。ゲームが終わった暁には、異能者の死体、サンプルが大量に手に入る。そのためにこのゲームが開かれた。

    (……いや、ないな。だったらとっとと首輪爆発させて皆殺しにすりゃあいい。とにかくアタシが考えなきゃいけないことは読心に頼るな、だな)

     三田は慎重にハッチを開いた。
     ブービートラップは、無い。

  • 550◆xaazwm17IRZa23/04/11(火) 02:26:18

     全員が安堵の息を吐く。
     中を調べた三田はハッチから顔を出した。

    「どうやらこの戦車は四人で動かすものらしい」

    「すぐに動かせるものなのかい?」

     と聞いたのは篠宮だ。

    「……ある程度の練習は必要だろうね。……いや、ちょっと待ってくれ。四人というのは装填手、通信手、運転手、砲手なんだけど、通信手は必要ないな。三人だ。三人いればいい」

    「あ、アタシはパス」

     と、瀧沢は真っ先に言う。

    「戦車の中じゃアタシのジークンドー生かせねえだろ。だったらアタシはいいよ」

    「……四人乗れるんだったら四人乗せたほうがいいんじゃないかい? 中に居るだけで安全性が段違いだ」

     と、星峰は言う。

    「……ただ、戦車が配られるということは、戦車を超える武器も配られる可能性もある。そうなったら戦車は目立つから的になる。絶対安全とは言えないが……」

  • 551◆xaazwm17IRZa23/04/11(火) 02:27:13

     と、これは三田。
    「つっても、そんな戦車壊せるような武器がほいほい現れたら、どっちにしろ死ぬしかねぇんじゃないか?」

    「……とりあえず、この戦車をゲームに乗った奴に渡してはいけない。かといってこれで屋内に乗り入れることも出来ない。……瀧沢さん篠宮くん、千頭之さん、悪いけど戦車を守っていてくれないかい? 星峰くんと僕で、星峰くんのロッカーを開けに北校舎へ行こう」

     三田の提案に全員が賛同し、彼らは二手に分かれる。
     北校舎へと向かう二人の少年を見て、千頭之は不安を隠しきれなかった。
     どうか無事に帰ってきますように、と彼女は祈る。

    (不思議だな。クラスメイトにはまるで興味が無かったのに……。マネモフルとの銃撃戦を経て、私は彼らを戦友だと感じている……いや、違うな。私は……何もしていない。みんなに守られ、戦ってもらっていただけだ)

     サバイバルナイフの柄を強く握る。

    (私は役立たずだ。ストームの仇も取れず、アラシとコサメの場所さえ分からない。命を助けてもらったのに、恩返しも出来ない。……戦車か)

     戦車の中ではあまり強い方ではない、と三田は言ったが、目の前で砲撃を見た身としてはとてもそうは思えない。

    (これを扱えるようになれば、少しは貢献できるかな……)

     鉄の車体を撫でながら、千頭之はそう思った。

  • 552◆xaazwm17IRZa23/04/11(火) 02:31:06

    28話①を終了します


    本日はここまでとさせていただきます……!



    >>541

    >>542

    まとめありがとうございます……! さっそく参考にさせていただきました……!


    モブ黒服&モブ金持ちもありがとうございます! 精一杯活用させていただきます……!


    また感想も大変モチベーションに繋がっています。一週間と銘打っておきながら4週間目ですが、引き続きよろしくお願い致します……!


    それでは、本日もありがとうございました……!

  • 553二次元好きの匿名さん23/04/11(火) 03:32:19

    乙でした〜!
    引き続き楽しみにしてます〜

  • 554二次元好きの匿名さん23/04/11(火) 04:48:07

    いよいよ終盤に突入って感じで燃えてきた
    みんな一か所に集まったけど誰と誰がかち合うか気になる

  • 555のづち作者23/04/11(火) 08:48:16

    おはようございます
    幸運90↑の仇敵から逃げ延びる未来が見えなくて朝から頭を抱えています

  • 556二次元好きの匿名さん23/04/11(火) 09:00:26

    このレスは削除されています

  • 557二次元好きの匿名さん23/04/11(火) 09:02:59

    乙でした!
    長所も短所もある金輪を見事に使って下さって感謝です!
    金輪はあのまま石川を死亡もしくは再起不能にしていたら間違いなく石川を食っていただろうから、これでよかったのかもしれませんね。
    幹久よコトダマに包まれてあれ。

  • 558二次元好きの匿名さん23/04/11(火) 09:07:39

    バトロワスレはいいぞジョージ、深いぞ…
    【名前】ペギー・ジョーダン
    【性別】男
    【外見】真っ白な顔に星とドクロのマーク、派手な赤い髪と赤鼻の黒服
    【趣味】ボイストレーニング
    【好きなもの】良いリアクションをするプレイヤー
    【嫌いなもの】やる気のないor覚悟のキマり過ぎているプレイヤー
    【性格】誰に対しても妙にフレンドリーな態度で接してくる。ゲームを盛り上げることを第一としているが、追い込まれると全力で逃げるし命乞いもする。
    【特技】オドロキバルーン(異能):ダメージを受けた瞬間、ダメージを受けた部位もしくは身体全体を風船に変えて爆発させ大きな音と紙吹雪を出す。爆発した部位は小さくなっており、しばらくするとプクーっと膨らんで元に戻る。膨らむ前の状態で攻撃されると普通に怪我をする。
    【詳細】ピエロのような黒服。若者を誰かれ構わず「ジョージ」と呼ぶ。回避系の異能を持っていることもあり、今回の茜音沢ような適任者がいない場合はルールの説明役を任されることもある。
    【備考】一応リボルバー拳銃を持ってはいるが戦闘面はクソ雑魚。パフォーマンスと長話を駆使して時間と撮れ高を稼ぐことが得意。口癖は「ハァイ、調子いい?」「待てや!」

  • 559二次元好きの匿名さん23/04/11(火) 17:40:26

    手前勝手でアレだが黒服達や暗黒金持ち達に出てきてほしいゆえに対主催に頑張ってほしいものである…マーダーも魅力的なんだけどさ!

  • 560二次元好きの匿名さん23/04/11(火) 19:44:59

    まぁマーダーが対主催にならないとは限らないけどねぇ…

  • 561二次元好きの匿名さん23/04/11(火) 22:22:43

    実際マネモフルも今でこそ大暴れしてるけど、
    めあめえちゃんがピンチになったらどうなるか分からないんだよな

  • 562◆xaazwm17IRZa23/04/11(火) 22:31:42

    霧田キルコのロッカーdice1d100=17 (17)

  • 563◆xaazwm17IRZa23/04/11(火) 22:33:01

    星峰灼のロッカーdice1d100=98 (98)

  • 564◆xaazwm17IRZa23/04/11(火) 22:38:03

    鰐淵英利のロッカーダイスdice1d100=3 (3)

  • 565二次元好きの匿名さん23/04/11(火) 22:46:32

    面白いほど運が二分し現れているっ!

  • 566◆xaazwm17IRZa23/04/11(火) 22:59:07

    姫氏原小毬ロッカーダイスdice1d100=26 (26)

  • 567二次元好きの匿名さん23/04/11(火) 23:00:48

    かなり一気に来るねぇ

  • 568◆xaazwm17IRZa23/04/11(火) 23:11:14

    ねうねい・めあめえのロッカーダイスdice1d100=37 (37)

  • 569運営23/04/11(火) 23:27:20

    中々纏まらず…もう少しお待ちいただけると幸いです…

  • 570二次元好きの匿名さん23/04/11(火) 23:49:25

    待機
    これはどういう面子なんだろう

  • 571二次元好きの匿名さん23/04/12(水) 00:33:37

    鰐淵ちゃん清々しいほどに運がないね……

  • 572◆xaazwm17IRZa23/04/12(水) 01:36:19

    お待たせ致しました……ようやく薄っすらまとまってきたので投下を始めます……!

    28話②を投下します……!

  • 573◆xaazwm17IRZa23/04/12(水) 01:37:03

     待合室の椅子に座って、少女は両親を待っていた。
     大人だけで話があるという。少女には聞かせられない話だという。仕方ないので、家から持ってきた本を読む。父が童話作家で母が書店員。家には、ちょっとした図書室並には本があった。子供向けの本もたくさん。中でもお気に入りなのが『星の王子さま』。もう何度も何度も読んだ大好きな物語。
     けれど、その日は、大好きな物語に没頭できなかった。隣に座った同年代の少年。彼が熱心に読んでいる漫画が気になったのだ。いや、彼そのものが気になる。
     この病院で子どもを見かけたことは今までなかった。ここは奇病を治す専門の病院だから。医者たちは少女の病気を『異能』と呼んだ。

    「ねえ」

     と、少女は少年に声をかけた。

  • 574◆xaazwm17IRZa23/04/12(水) 01:37:46

    「おとぎばなし、こうふくなおうじさま(その漫画おもしろいの?)」

     言った後、しまった、と思った。
     少女の言葉は変換される。これも病気……異能の一部らしい。両親や医者たちは少女の奇妙な言葉を受け入れてくれるが、普通の子どもは、そうはいかない。……目に異常が出る前から、少女はずっと学校に行っていなかった。少女の言語が、学校生活の中で異物が過ぎた。
     少年は、少女の方を向いた。純朴そうな、大人しそうな少年だった。

    「しゃあけど、わからんのです。電波女への対処法を教えてくれよ」

     愚弄するような口調に、少女は怯えた。クラスメイトのことを思い出し、怖くなった。両親は、まだ診察室から出てこない。
     しかし、少年の瞳に悲し気に揺らめいていることに気づき、もしかして、と思った。自分と同じなのだろうか。

    「ほしみのいちぞく、ぱーそんも、おおどろぼう?(あなたも異能者なの?)」

    「お客さんここは病院なんですよ、なりチャをしたいならネットを紹介しますよ」

     意味は分からないが、馬鹿にされていると感じる、下品な煽り口調。けれどそれを話す少年はどこまでも悲し気だった。

  • 575◆xaazwm17IRZa23/04/12(水) 01:38:35

     少女はスケッチブックを取り出した。緊急時の筆談に使うためのものだ。あまり多用しないように医者から厳命されていた。彼女が筆談を『自らの言語』として認識してしまった場合、筆談さえも異能の対象内となる。それを回避するには、使用頻度を下げるしか無いのだと言う。
     今がその緊急のときだと、少女は思った。
     スケッチブックに、言葉を並べる。

    「わたしは、びょうきで、ことばが、変です。あなたも、そうですか」

     少年は頷いた。
     そして、少女からペンを受け取ると、スケッチブックに文字を並べた。

    「ぼくは、たじゅうじんかくです そのかず、500おく」

     多重人格、という概念を既に少女は知っていた。かわいそ……と思った。少年は続けてスケッチブックに言葉を並べた。

    「きみのめはきれいですね、まじでね」

    「ありがとう」

     と少女はスケッチブックに書いた。

  • 576◆xaazwm17IRZa23/04/12(水) 01:39:41

     その日、二人は名前を教え合い、友達になった。異能は徐々に人格を浸蝕するという。少女の本当の名前も、少年の本当の名前も、いつかは忘れてしまうのだろう。
     それでも、二人の友情は永遠だと、少年と少女は誓い合った。



     兵どもが夢の址。竜巻でも通り過ぎたかのような破壊を前に、堀木、ラッタッター、ねうねいは息を呑んでいた。

    「あるけみすとと、くものいとだね(爆弾でも使ったのかな?)」

     堀木はしばらく思案していたが、にこりとねうねいに笑顔を向けた。
     それをラッタッターは意外そうに見ていた。
     ラッタッターの知る堀木は常にマイペースで、どんな時でも余裕そうな表情を崩さない、そんなメス男子だった。時には男子を手玉に取り、時には女子を弄び、ときには教師すらも揶揄う。どこまでも自由なメス。オープニングの場ではラッタッターですら恐怖で身が竦んだがそれでも堀木は堀木彩で在り続けた。圧倒的な自我。究極のメンタル。見習わねば。

  • 577◆xaazwm17IRZa23/04/12(水) 01:40:40

     それはそれとして、ねうねいを相手にすると堀木はどうもやり辛そうだとラッタッターは気づいた。堀木はサッカー部エースであり、味方と相手がいなければ成立しない競技を行っている。だからだろうか、彼のマイペースは、常に翻弄する相手が必要であり、事実ラッタッターもダンスでは一度誘惑されかけた。そう言えばアキも堀木にヒーローインタビューを仕掛け、案の定振り回され、後で愚痴られたなぁともういない友を想う。けれど、ねうねいは翻弄するしない以前の問題なのだろう。互いに言語が繋がっていなければ堀木は蠱惑的な肉体言語で語り合えるかもしれないが、ねうねい自信は堀木の言葉を受け取って、パスを返してきているのだ。堀木はねうねいにパスを返してもらうが、堀木自身は適切なパスを返せない。それがやり辛さに繋がっている。
     ねうねいに話しかけられる度に「う、うーん、そうだね……😅」と冷や汗を流す堀木は、中々新鮮で楽しかった。個性と個性のぶつかり合いが新たな音楽を生む。ラッタッターは嬉しくなり……すぐに悲しくなった。
     垣根澄花の死体を発見したからだ。
     ねうねいもショックを受けた様子を見せ、堀木も一瞬だけ真顔になる。
     オープニングの田中不死太郎を除けば、三人はこのゲームが始まって今まで、死体にも、殺し合いにも触れてこなかった。

  • 578◆xaazwm17IRZa23/04/12(水) 01:41:14

     放送を聞いても、どこか現実感が無かったのかもしれない。
     しかし、普段は小柄な体で元気よく飛び跳ねていた垣根が、放心したような表情で横たわっている姿は、否応なく現実を叩きつける。

    「……埋葬している時間は、無いね😟」

     首輪を持っていけば、ロッカーをもう一つ開けられる。このギミックに気づいているのは、この場でねうねいだけだった。しかし、ねうねいはそれを強く主張する気は無かった。伝わるのに時間がかかるし、垣根の首を切断すると考えるだけで悲しくなった。
     それに、タイムリミットは迫っている。
     ラッタッターは手を合わせた。
     堀木もねうねいも手を合わせる。
     三人はクラスメイトの冥福を祈った。

  • 579◆xaazwm17IRZa23/04/12(水) 01:41:41

    28話②を終了します……!

  • 580二次元好きの匿名さん23/04/12(水) 01:51:48

    マネモフルがここまで魅力的なキャラになるとは予想できなかったな

  • 581二次元好きの匿名さん23/04/12(水) 01:53:14

    言葉遣い繋がりの縁…こいつらピュアっスね

  • 582二次元好きの匿名さん23/04/12(水) 02:18:38

    激しい展開の後というのもあってしっとりしたエピソードが染みる

  • 583◆xaazwm17IRZa23/04/12(水) 02:20:46

    28話③を投下します、すいません、本日最後の投下です……!

  • 584◆xaazwm17IRZa23/04/12(水) 02:21:55

    「うおっ、三日月宗近じゃねぇか完成度高ぇなおい。ってアッ(汚い高音)! こちは狐ヶ崎! はぁほんとマジ無理尊い……。ってぶふぉww埋忠明寿! 兼定! 兼定愛してるよ!」

    (元気だな……)

     修学旅行で偶然にも鰐淵と二人で京都を散策することになり、せっかくなので京都動物園→京都博物館というコースを設定。動物園で千頭之は旧友たちと親交を暖め、現在は鰐淵と共に博物館を訪れていた。

    (刀剣か……。かっこいいとは思うけれど、生きてはいないからな……)

     蛇の餌である虫よりもなお無機質。何しろ生物ではないないのだから。
     鰐淵には悪いが、キャラ変するまでのめり込む理由は分からない。

    (ま、好きなんてそういうものだろう)

     学芸員に五月蠅いと注意され、媚びた笑みでへこへこと頭を下げる鰐淵をジト目で見る。いつものクールキャラはどこに行ったんだよ。

    (でも、こういう面って私にだから見せるんだろうな)

     ふと、そんなことを思う。

  • 585◆xaazwm17IRZa23/04/12(水) 02:22:32

     それは決して友情ではなく。互いの性質を理解しているからこその打算によるもの。
     そのはずだ。

    (鰐淵面白いねアラシ―、コサメ―、ってしまった。博物館に入れないから外で待たせてるんだった……)

     途端に寂しくなる。千頭之はこっそりと鰐淵に近づいた。
     サイレントで興奮している鰐淵の後ろにぴったりとくっつく。アラシやコサメの代わりにはなるだろうか? 鰐淵の背中は、2匹より少し暖かった。



     鰐淵が来た。
     あまりに唐突な登場に、千頭之は最初、自分が幻覚を見ているのかもしれないと思った。
     校舎裏にひょっこりと顔を出したセーラー服の少女は

    「うわ、本当に戦車だ……バランスとか考えてないのね……」

     と、ドン引きした様子を見せ、千頭之を見つけると、すっと目を細めた。
     その手には木刀。

  • 586◆xaazwm17IRZa23/04/12(水) 02:23:07

     咄嗟に、千頭之は木刀の汚れを確認した。鰐淵はゲームに乗っていない。乗るはずがない。彼女は他者に興味を示さないが、暴力を嫌悪している。自主防衛以外で剣を振るうはずがない。案の定、木刀は汚れていない。
     良かった、と千頭之は思った。
     鰐淵は無事だ。無事でここまでたどり着いた。アラシとコサメは未だ見つからず、ストームの仇も取れていないが、それでも事態は確実にいい方向に進展している。

    「おおーい鰐淵! 久しぶりだな!」

     自分らしくない、と思いつつ、手を振る。
     鰐淵は木刀を握り、静かにこちらに近づいてくる。
     嫌な気配だった。
     そんなはずはない。
     そんなはずはないのだが、マネモフルに向けられたのと同じ気配を、千頭之は感じ取った。

    「わ、鰐淵……?」

    「のづちさん……」

    「決着を、つけましょう……!」

  • 587◆xaazwm17IRZa23/04/12(水) 02:23:52

     鰐淵は、木刀を構え、こちらに疾走する。
     咄嗟に動いたのは、篠宮だった。
     さっき聞いたのだが、今も透明な拳銃を握っているのだという。
     それを、鰐淵に向けようとしている。

    「ま、待って!」

     咄嗟に篠宮を抑える。
     その間に鰐淵はこちらに接近し、

    「ちょっと待てよ刀剣女」

     間に瀧沢が割って入る。

    「なーに殺意向けてんだ? ポリシー曲げたのかよ、だっせぇな」

    「どいてください瀧沢さん、怪我をさせたく無いんですけど」

    「あぁ!? アタシを相手したけりゃあ真剣持って来いや。ジークンドー舐めんじゃねえぞ」

    「いえ、ジークンドーは舐めていません。あれは素晴らしいものです。ですが、貴女のことはその……」

  • 588◆xaazwm17IRZa23/04/12(水) 02:24:48

    「言葉を濁してんじゃねぇ、ぶん殴るぞ!」

     瀧沢はジークンドーの構えを取る。
     鰐淵は呆れながらも、木刀を構える。

    「ま、待ってくれ瀧沢さん……! 鰐淵は安全なんだ、私が保証する!」

    「うるせぇ、個人的にアタシがムカついたんだよ、こいつにな」

    「邪魔をするなら、貴女から先に……」

    「やってみろ!」

    「ま、待ってよ!」

     二人を止めようとする千頭之を篠宮が止める。

    「ちょ、話してよ篠宮くん。二人を何とかしないと……」

    「……どうやら瀧沢さんは、これを喧嘩で収めるつもりらしい」

    「……え?」

    「僕も素人だけど、さっき鰐淵さんは明確に君に殺意を向けていた。彼女はゲームに乗っている可能性が高い……」

    「ち、違うよ! 鰐淵に限って、そんなことはあり得ない!」

  • 589◆xaazwm17IRZa23/04/12(水) 02:25:15

    「……僕は鰐淵さんのことはよく知らない。けど、瀧沢さんも、何か違和感を持ったのかもしれない。マネモフルと違い、彼女は説得の余地がある。だから体育会系同士、肉体言語で語り合うつもりのようだ」

    (でも、もし鰐淵さんが完全にゲームに乗っていると判断できたら)

     篠宮は手に持った拳銃の重みを意識する。

    (仲間に危険が及ぶ前に、僕が鰐淵さんを射殺する)

     暗い決意と共に、篠宮は二人の武闘派女子の戦いを見物した。

  • 590◆xaazwm17IRZa23/04/12(水) 02:29:02

    28話③を終了します……!

    本日は日付が変わるまで投下が始まらず、申し訳ありませんでした……!

    廃校戦! と銘打ったもののいざ展開を考えるとかなり行き詰まり、あーでもないこーでもないと考えている間に、時間がどんどん過ぎてしまいました……! 無計画で申し訳ありません……!
    幸い、28話の範囲内までの展開は大まかに思いつけたので、明日からは適宜投下できると思います……!

    今日も感想やアイデアを頂き、ありがとうございます……! 早期完結を目指し、頑張ります……!
    本日もありがとうございました……!

  • 591二次元好きの匿名さん23/04/12(水) 02:32:40

    乙でした〜!
    28話では廃村・廃工場組の絡みも見られそうで楽しみだ
    そして純愛はいくらあっても良いですからね…

  • 592二次元好きの匿名さん23/04/12(水) 03:32:35

    そういえばだけど、完全に無能力者かと思われたマネモフルも異能を持ってたんだよね
    石川とかドラギモスくんちゃんにも異能っぽいものが生えてきたし、意外と普通の人間の方が少ないのかな

  • 593二次元好きの匿名さん23/04/12(水) 13:39:49

    この一触即発状態、漁夫の利を狙って刺されてもおかしくないな

  • 594二次元好きの匿名さん23/04/12(水) 19:38:54

    保守待機

  • 595◆xaazwm17IRZa23/04/12(水) 23:21:35

    最近投稿が遅くなり申し訳ありません、中々家に帰れず……

    本日も始めさせて頂きます……!

    28話④を投下します

  • 596◆xaazwm17IRZa23/04/12(水) 23:22:15

    (どうしてこうなったんだ?)

     瀧沢と鰐淵が臨戦態勢で向かい合っている。
     瀧沢は素手。鰐淵は木刀。
     喧嘩で済ませるつもりだ、とは篠宮の言葉だが、千頭之は二人の実力をある程度知っている。瀧沢の拳も、鰐淵の木刀も、人を殺して余りある威力を持っている。

    「あ、おい篠宮」

     瀧沢が唐突に振り向く。

  • 597◆xaazwm17IRZa23/04/12(水) 23:22:52

    「お前ヌンチャク持ってたろ。よこせ」

     篠宮は無言で鞄からヌンチャクを取り出し、瀧沢に放り投げる。瀧沢はそれを受け取り、その場でアクションスターのように振り回した。その華麗な手さばきは、普段の千頭之なら素直に凄い! と言えたかもしれないが、向けられているのは鰐淵である。いや別に鰐淵は恋人でも友達でもないが、マネモフルを吹き飛ばす瀧沢の腕力でヌンチャクをぶつけられるのは、その、かなり困る。
     かといって、鰐淵の木刀で瀧沢を殴りつけるのも辞めて欲しい。平気そうに振る舞っているが、瀧沢の体はボロボロなのだ。マネモフルを吹き飛ばした後、倒れた瀧沢を見て、千頭之は、一瞬、死んでしまったのかと焦った。それほどまでに瀧沢は疲弊していた。

    (私は、どうすればいいんだ……)

     二人の達人は、互いにじりじりと距離を詰める。鰐淵は、木刀を中段の構えで持ち、じっと瀧沢の喉元を狙っている。千頭之の良く知る、オーソドックスな剣道の構えだ。ただ、噂によると鰐淵は、茜音沢から実戦剣術も教わっているという。本人から聞いたことはないが……。

  • 598◆xaazwm17IRZa23/04/12(水) 23:23:46

     瀧沢はヌンチャクを後ろ手に持ち、鼻を拭った。映画で見た事ある! と思ったが、具体的に何という映画だったかは思い出せなかった。当然それが今この場でどういう意味があるのかは、門外漢の千頭之には分からない。
     最初に動いたのは鰐淵だった。蛇の噛みつきよりなお速く、相手の「先」を取るべく、木刀が動いた。狙ったのは小手。
     ガン、と木刀とヌンチャクがぶつかる。
     弾かれた木刀はその勢いを利用して瀧沢の面を狙う。
     ガン、と再び防がれる。
     そこから先は、千頭之の目では追えなかった。木刀が高速で連撃を行い、瀧沢がそれを防ぐ。狙う場所は次々に代わり、瀧沢もヌンチャクを器用に動かして、それを防ぎ、あるいは弾き、身を捻って躱していく。
     瀧沢が強引に一歩を踏み出した。
     ヌンチャクの間合いに入る。

    「ァタアッ!」

     独特な掛け声と共にヌンチャクが振り下ろされる。狙いは、鰐淵の小手。
     鰐淵の顔に、僅かな微笑が走った。

  • 599◆xaazwm17IRZa23/04/12(水) 23:24:20

    くいっ、と木刀の握りを変え、鰐淵はヌンチャクを巻き取った。そのままヌンチャクは瀧沢の手を離れる。

    (あ、武器が……)

     どこか得意げな鰐淵の横顔に——瀧沢のハイキックが突き刺さる。
     否、当たっていない。鰐淵は前髪を掠らせながら後方に引いていた。

    「チッ、チャンスだと思ったんだが……」

    「油断も隙もないですね……」

    「ある方が悪いだろそれ。まあいいや、ヌンチャク返せ」

    「いいですよ」

     鰐淵が剣を振るうと、絡みついていたヌンチャクは一瞬で解け、そのまま瀧沢の顔面目掛けて突っ込んだ。
     同時に鰐淵は大きく踏み出し、虚を突かれた瀧沢の隙を突くべく大上段から木刀を振り下ろす。
     しかし、瀧沢は、まるで予測していたかのように、飛んできたヌンチャクを首を捻って回避し、同時に鰐淵と同様に一歩踏み込み、鰐淵の胸に拳を当てる。

    「寸け……ってうわっ!」

  • 600◆xaazwm17IRZa23/04/12(水) 23:25:37

     鰐淵は、身を捻って拳から逃れる。そのまま木刀を大きく回転させ、下から瀧沢の喉を狙うが、やはりこれも読まれているかのように、瀧沢は木刀の動きに合わせて体を回転させ回避した。
     二人は互いに距離を取り、息を整える。

    「……妙ですね。動きにキレがありません。相当無理していますねあなた。その割に、先読みは異常に冴えている。……ご年配のOBに貴女のような剣士が居ました」

    「誰がババアだ! 舐めんじゃねえぞ!」

    (空元気だ……瀧沢は限界が近い……)

     血で汚れたセーラー服こそ空き教室にあったスペアで着替えているが、その肉体は限界に近いはず。というかマネモフル戦以前は失血死寸前だったのだから、本来は療養生活に入るべきコンデションで、間違っても戦っていい体ではない。それでも酷使せざるを得ないことに、千頭之は良心が痛む。
    どうすれば二人の戦いは止められるのか。本当に瀧沢任せでいいのか。助けを求めるように篠宮を見て……視線を逸らす。
     じっと鰐淵を見る篠宮の瞳は、どこまでも暗かった。クラスメイトを見る目ではなかった。そんな目で鰐淵を見ないでくれとそう言いたかった。けれど、鰐淵は殺意を秘めて近づいてきた。篠宮もまた鰐淵に殺意を向けるのは道理だ。誰だって死にたくない。千頭之も、皆も。

    (どうしてこんなことをしているんだろう)

     首輪を撫でる。

    (これに一体、何の意味があるんだ)

     今はただ、この戦いで死者が出ないことだけを、千頭之は祈るしかなかった。

  • 601◆xaazwm17IRZa23/04/12(水) 23:26:09

    28話④を終了します
    時間を置いて、28話⑤を投下します

  • 602二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 00:09:35

    お疲れ様です〜
    主さんのペースで大丈夫ですよ〜

  • 603◆xaazwm17IRZa23/04/13(木) 01:10:06

    28話⑤を投下します、申し訳ありません、本日最後の投下です……!

  • 604◆xaazwm17IRZa23/04/13(木) 01:10:48

     吹奏楽部の部室……音楽室は北校舎2階にある。
     マネモフル、宇都の襲撃を退けたばかりということもあり、三田と星峰は、慎重に行動していた。
     三田の手にはAK-74自動小銃、星峰の手にはレイピア。
     星峰の聴力を頼りに、二人はゆっくりと階段を登る。
     2階に辿り着いた二人は、そのまま音楽室まで歩き出そうとし………。

    「待ってくれ三田くん。誰か来る……これは、歯荷さんだ」

  • 605◆xaazwm17IRZa23/04/13(木) 01:11:32

    「歯荷さん、無事だったのか……」

     星峰が最後に感じ取った歯荷は、窓を破って三階から飛び降りるというものだった。
     三階。絶対に助からない高さではない。歯荷は女子ダンス部に所属し、運動神経も良い。自分のタイミングで飛べば、無傷で着地も不可能ではないだろう。

    (……いや、おかしいな。そういえば歯荷さんが窓を破った音はしたけれど、窓を蹴って飛び降りた音はしなかった……。これはいったい……?)

     自分の気のせいだろうか。
     星峰は悩む。

    (殺し合いが始まってから、僕はミスだらけだ。もしかして、僕の聴力はこの島では弱まっているのか? ストレスによる不調なのか、何らかの異能の力なのかは分からないが……)

     どうもムラがある。マネモフルの接近も、普段なら絶対に気づけたはずなのだ。

    (勘違いでいらぬ不和を起こしたくないな。それに、歯荷さんが飛び降りていなかったとして、それにどんな問題がある? 加勢しなかったことを責めるのか? ……それは嫌だ。戦わないことを責めるような人間に、僕はなりたくない。それは、音楽から最も遠い感情だ)

  • 606◆xaazwm17IRZa23/04/13(木) 01:12:08

     足音が近づいてくる。やはり歯荷だ。怪我をしている様子はない。その心拍数は、安定している。以前会ったときより、落ち着いている。

    (何か強い武器を手にしたのか? だとしたら、少し不味いな……)

    「三田くん。歯荷さんは、銃器を手にしている可能性がある」

     それだけで三田は察し、階段を降りてきた歯荷が何かをする前にすかさず自動小銃を突きつけた。

    「げげっ! 何をするつもりですの!?」

     両手を挙げる歯荷。その傍らには小さな蛇がにょろにょろと揺れている。

    「歯荷さん、この蛇は?」

    「わ、私のロッカーアイテムですわ!」

    「これって、千頭之のさんのコサメじゃないか?」

     三田の言葉に、星峰は曖昧な笑みを浮かべる。

    (やはり、僕の聴力は弱体化している。いくら小さいとはいえ、蛇の存在を感知できなかった……)

  • 607◆xaazwm17IRZa23/04/13(木) 01:12:53

    「たぶんそうですわ~。早く千頭之さんに届けませんと」

    (……おかしいな。こんな小さな蛇じゃ、大した武器にはならない。歯荷さんはもっと強い武器を手にしていると思ったんだけれど)

     歩き方に変化は見られない。刀を背負ったり、銃を持っている様子はない。小さな暗器を隠し持っている可能性はあるが、それだけで安心感を得るとは思えない。

    (……追及するか? いや藪蛇の可能性もある。もし彼女が強い武器を手にし、ゲームに乗っているのなら、襲いかかってきてもおかしくはない。それをしないということは、三田くんの自動小銃には勝てない類のものなのか、ゲームに乗る気が無いかのどちらかだ)

     つくづく、芝野の死が悔やまれた。彼なら、歯荷の心を丸裸に出来た。

    (後で三田くんに相談しよう……。今は様子見のままで……)

    「僕たちはこれから星峰くんのロッカーを開けるところだ。歯荷さんも一緒に来てくれ。透明な日本刀だけで単独行動は危険だ。……透明な日本刀だけならね」

    (さすが三田くん。僕が何か言う前に、歯荷さんの違和感に気づいたか……)

     腐っても探偵だ。

  • 608◆xaazwm17IRZa23/04/13(木) 01:13:29

    「そ、そうですわね……危ないので、お二人に付いて行きますわ。一応言っておきますけど、私、ロッカーを開けたら皆さんを助けに行くつもりだったのですのよ? といっても、こんな小さな蛇ではそれも無理だったんですけれど……」

    「それなら仕方ない。大丈夫、マネモフルは瀧沢さんが倒した」

    「へえ、さすがですのね」

     三田は目を細めた。一気に三田の警戒心が上ったことを星峰は感じ取り、その理由を悟る。

    (歯荷さんは今、ミスを侵した……。失血死寸前だった瀧沢さんがどうやってマネモフルに勝てたのか、普通は聞くはずだ。聞かないということは……歯荷さん、戦いをどこかで見ていたんだね)

     歯荷の異能を思い出す。

    (今の彼女は、ジークンドーが使える、と思って間違いない)

     正確には灘神影流も使えるが、この暗殺拳を三田も星峰も知らないため、予想が立てられなかった。

  • 609◆xaazwm17IRZa23/04/13(木) 01:14:06

     更には、歯荷はスマホと護衛忍者を所有しており、それも含めての自信なのだが、そこまでは推理しきれない。むしろ、彼女が余裕を持っているのは瀧沢のジークンドーを習得したから、という浅い理解で留まってしまった。
     それでも、三田は歯荷を怪しいと感じる。探偵の嗅覚が、今しがた殺人者となった歯荷に反応しているのだ。しかし根拠がないため、そのことを口に出すつもりはなかった。
     一方歯荷も、余裕こそ保っているが、不安なことがあった。スマホにあった書き込みである。

    【オメデトー仄花チャン!😘🎉🎉これで君は立派な“殺人者”になったヨ😎🔪
    “殺人”😱を目的とするデス・ゲームの参加者に相応しい女となったンダネ♥オジサンも凄く君のこと応援してるカラネ!😄📣
    因みに君のことを見ちゃってるワルイ😈娘が居るんだけどネ………誰か言わないヨ〜ゴメンネ❗😝🙏】

    (キモいですわ~!? こんなキモいおじさん方の言いなりで殺し合いをしていると考えると、マジでムカつきますわね……。いえ、肝心なのは、私の犯行を見た奴がいるということ! チクられる前に始末したいところですが、誰か分からない以上、手出しが出来ないですわ~!? うざったいですわね……)

  • 610◆xaazwm17IRZa23/04/13(木) 01:14:51

     出会い頭の反応的に、星峰と三田では無いようだ。

    (もしバレて襲われたら……その時は忍者と私の拳法で対処するしかないですわね。死にたくありませんし)

     三者三様の思惑を重ねながら、三人は廊下を歩き、音楽室へたどり着く。
     そこには、星峰灼のロッカーが鎮座している。
     星峰はすぐに処理を始め、少し悩んだが、武器を選択した。
     取り出されたのは

    「CDディスク?」

     星峰に代わり、三田が説明書を読み上げる。

    「これは、『奇跡のディスク』です。今までに脱落した参加者の『記憶』あるいは『異能』をダウンロードできます。使えるのは一回、選べる対象も一人、記憶か異能、どちらかだけです……。大当たりじゃないか、星峰くん」

    「す、すっげぇですわ……!」

    (あれ、私のロッカー武器、弱すぎません?)

     思った以上に自分が外れだと気づき歯荷は落ち込んだが、星峰は無言でディスクを撫で、鞄に仕舞った。

  • 611◆xaazwm17IRZa23/04/13(木) 01:15:34

    「使わないんですの?」

    「これは、切り札になりうる。どう使うかが非常に重要だ。持って帰って皆で相談しよう」

    (私なら手っ取り早く強そうな異能を手に入れますのに……そうですわね、脱落した中だと、麻井さんか結さん、あ、芝野さんの読心も考えてみれば強力な異能ですわね。……殺して奪い取る? いえ、レーダーになる星峰さんや、頭の良い三田さんは残しておきたいですわ。脱出できるならそれに越したことは……)

     その時、星峰がぴくりと、窓の外に反応を示した。
     どうかしたんですの? と歯荷が聞こうとしたとき。

    「危ない、二人とも逃げ——」

     どん、と星峰に突き飛ばされ、三田と歯荷は後ろに下がる。
     何をしますの!? と抗議する前に。
     破壊が来た。
     吹き飛ぶ音楽室。
     崩れる天井。
     爆風の中で、歯荷は星峰の五体が四散する様を見た。

    (……嘘でしょう)

     この破壊を、歯荷は知っている。

    (どうして……)

    (どうして戦車が動いていますの!?)

    【星峰灼 死亡】
    【残り 16人】

  • 612◆xaazwm17IRZa23/04/13(木) 01:19:05

    28話⑤を終了します……!

    ここ最近、開始が遅く申し訳ありません、仕事の都合で今週はずっとこんな感じになりそうです……

    本日も感想をありがとうございます……! 帰ってきて感想を読んでいる時間がとても楽しいです、またお手すきの時に見て頂けると幸いです……!

    それでは本日はここまでとさせていただきます、ありがとうございました……!

  • 613二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 01:21:27

    乙です!
    星峰君…オープニング担当してくれたりと割と中心にいただけに少し残念

  • 614二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 01:38:26

    乙でした〜
    異能なら花子さんとジジイをどうにかできる結ちゃん
    記憶ならオルランドとか小田斬が強そう
    我が強すぎて乗っ取られそうだけど…

  • 615二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 02:11:54

    お疲れ様です
    ずっと緊張感半端ないだけにおじさん構文でちょっと和んでしまって悔しい……
    そして星峰くんの死はなかなかショック

  • 616二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 02:54:00

    乙でした
    星峰くん、主人公適性ありそうな良い子だったし
    こうもあっさり逝ってしまうとは思わなかった……

    異能は本人の持ち味ありきの能力が多いからコピー元候補は意外と少ないかな?
    それこそカロリーボムなんか使おうものならすぐ餓死しそう

  • 617二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 03:50:39

    キルコとか歯荷ちゃんが垣根ちゃんの記憶ディスクを手に入れたらヤバいことになりそう
    なんと今なら茜音沢の技術が手に入っちゃうんですよ…

  • 618二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 13:47:03

    ドラギモスがその場にいれば首輪解除と怪異召喚のコンボが成立するんだよね、いればだけど

  • 619二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 19:35:29

    保守保守

  • 620二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 20:53:24

    >>618

    というかドラギモス以外誰も脱出までの明確なプランを思いつけてないのヤバいな……あいつ死んだら殺し合いルートに入る可能性爆増するぞ

  • 621二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 20:59:51

    DISCどうなった!?

  • 622◆xaazwm17IRZa23/04/13(木) 23:38:02

    お待たせ致しました、28話⑥を投下します

  • 623◆xaazwm17IRZa23/04/13(木) 23:38:42

     霧田キルコが廃校に辿り着いたとき、校舎から落下するマネモフルを目撃した。
     キルコは即座にその場に急行した。自分のロッカーを開けねばならないとは考えたが、首輪が手に入るならそれにこしたことはない。それにマネモフルは強敵の一人であり、弱っているうちに処理しておきたかった。
     近づいてみれば、マネモフルは想像以上にボロボロだった。全身が腫れ上がり、左目から出血している。失明をしているのかもしれない。
     チャンスだ、とキルコはマネモフルにトドメを指すべく接近し、竹槍を突き出した。

  • 624◆xaazwm17IRZa23/04/13(木) 23:39:26

    「な、なんだぁっ!?」

     咄嗟に覚醒したマネモフルが身を捩って穂先を躱す。
     意識を取り戻すことは想定外だったが、立ち上がることさえ出来ないほど疲弊しているらしく、倒れたままマネモフルは狼狽している。

    「せ、戦車、戦車はどこなのん!?」

     確実に殺すべくキルコは足でマネモフルを地面に押さえつけ、竹槍を心臓に突き立てる。

    「シャ、シャアッ、『真空』!」

     マネモフルは叫び、次の瞬間、姿を消していた。
     これにはキルコも僅かに驚き、周囲を探ったが、見つからない。
     ロッカーを開ける期限が迫っている。キルコはその場を後にしようとし……戦車を発見した。

    (マネモフルの言っていた戦車とはこれのことですね)

     自身の火力不足を補う兵器として銃器を想定していたが、戦車ならば火力だけでなく機動力や防御力も補うことが出来る。

  • 625◆xaazwm17IRZa23/04/13(木) 23:40:10

     さっそく乗り込もうと近づき、しかし一人で動かせるのだろうかと考えたとき——戦車のキャタピラが動いた。
     咄嗟にキルコはその場から逃げようとし、ふと、ひらめきがあった。
     逃げずにその場に留まり、戦車を動かすイメージを行う。ミニカーを動かすイメージだ。すると、キルコのイメージ通りに戦車が前進を始める。

    (これは、どういうことでしょう? ……先に見つけた者が操作権を得る、という理解でいいのでしょうか?)

     しかし、戦車の砲塔の先には、破壊された校舎の一区画が見える。この戦車は既に使用されている。

    (恐らく、マネモフルが所有者だった。しかし、操作権が私に移った。……何故? 普通に考えれば、マネモフルが死んだということなんでしょうけど……)

     殺した感触は無かった。山野を殺したときとはまるで違う。

    (こんなとき、オルランドならどうするのでしょうか……。彼なら……現実をそのまま受け入れるはず。大事なのは断固たる意志で目的を達成すること。そうですよね)

     事実として、キルコは戦車を操作できる。乗り込む必要すらなく、操縦を覚える必要もない。

  • 626◆xaazwm17IRZa23/04/13(木) 23:41:27

     殺し合いで最大のアドバンテージを手にしたと理解したキルコは。
     戦車を放置して、自分のロッカーを開けに行った。

    (この戦車は既に撃っている。ならば、他の参加者が戦車を手にするべく集まるはず。……そこを纏めて一掃する。それにリミットが近づいています。まずはミッションを優先させましょう)

     自分のロッカー……3年1組だと当たりをつけたキルコは、本校舎の玄関を通り、3階を目指す。
     途中でNek-Oの死体を発見した。否、死体ではないのだろう。徐々にだが再生を始めている。

    (私がロッカーを開けている間に攻撃されるのは防ぎたいですね)

     ひとまず、竹槍でNek-Oの脳を貫き、殺しておく。帰り際にもう一度殺しておき、その後戦車でバラバラにしておこうと考え、階段を昇る。
     血の跡が気にはなったが、人の気配は無い。
     すんなりロッカーに着いたキルコは、自分のロッカーを見つけ、処理を済ませる。

    「武器を」

  • 627◆xaazwm17IRZa23/04/13(木) 23:42:07

    ロッカーに入っていたのは、大理石の灰皿だった。投げつけたり殴りつければ武器になるかもしれない。六法全書で殴る発想はないが、灰皿で殴る発想が生まれるのは、キルコの今までの不良狩りの経験によるものである。
     キルコはいわゆる不良のレッテルを貼られている。本人は教師や両親といった上位者の命令に忠実に従うため、不良という自覚は無い。ただ、学んだ護身術には、結局は実戦あるのみ、という文言があったため、他校の不良を実験相手に使っただけだ。
     とにかくこれでミッションクリアである。窓から覗けば、何人かの生徒が集まっているのが分かる。集まっているのは、星峰、三田、篠宮、瀧沢、千頭之。やがて二手に分かれ、星峰と三田は北校舎に向かっていった。キルコはロッカーを見る。全員分はない。あるのは帰宅部のみである。

    (なるほど、部活に関連しているんですね)

     となると、北校舎には音楽室がある。星峰は吹奏楽部であるため、そこに向かったのだろう。
     キルコは北校舎の様子を確認しながら、移動を開始した。
     ここに留まっていると、他の生徒が昇ってくる可能性が高いと考えたのだ。
     戦車を操作している間は、キルコ本人は、激しい動きは出来ない。

  • 628◆xaazwm17IRZa23/04/13(木) 23:43:01

     なるべく誰も来ず、同時に、学校全体を見渡せる場所がいい。
     望む場所を、一つ思いついていた。

     ◇

    「……爆弾卿、マネモフル=タマネの首輪が消失しました」

    「ふむ、またかNE。姫氏原に続き、どうもイレギュラーが続くようだNE」

    「どうされますか?」

    「ちょっと待ちたまえ。……ふむ、中央管理室に確認したが、首輪の故障や解除ではないようだNE。どうやらマネモフル個人が消失したらしい」

    「い、異能によるものでしょうか……?」

    「透明化やワープではない。離島そのものから消えてしまったらしい。……困ったね。帰ってくるのか、二度と戻らないのか。……問題は、戦車の所有権だ。彼が握ったまま退場されるのは困るNA。……そうだ、一番近くに居た霧田キルコに譲渡してしまおう。彼女なら、有効に使ってくれるだろうSA」

    「よろしいのですか? 厳密にはキルコはトドメをさしていませんが……」

    「構わんSA。せっかく舞台に上がったのだ。戦車だって大暴れしたいだろうSA」

     ◇

  • 629◆xaazwm17IRZa23/04/13(木) 23:43:27

     本校舎2階の端。とある空き教室の前に着いたキルコは、窓から北校舎の2人……否途中で歯荷が合流し、3人になったが、彼らが音楽室に辿り着いたことを確認し、戦車に砲撃を命令した。
     轟音。
     机や椅子、楽器が落下していくのには目もくれず、キルコは次の獲物に視線を送った。
     戦車の前で呆然としている、4人の獲物へと。

  • 630◆xaazwm17IRZa23/04/13(木) 23:44:00

    28話⑥を終了します、時間を置いて28話⑦を投下します

  • 631二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 23:46:47

    何か運営にも把握しきれないことが起きてるな…
    姫氏原の件が悪霊の仕業とも言い切れないし

  • 632二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 00:11:19

    もしかしてマネモフルは猿空間に送られたんじゃないスか?

  • 633二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 00:44:32

    また命を散らされたNek-Oくんにも注目だ!

  • 634◆xaazwm17IRZa23/04/14(金) 01:29:42

    28話⑦を投下します……!

  • 635◆xaazwm17IRZa23/04/14(金) 01:30:27

     突然戦車が動き出し、音楽室を撃った。
     瀧沢魁は、それをただ見ていることしか出来なかった。
     戦車の中には誰も乗っていなかった。無人の戦車が突如動き出したのだ。

    (何が起きた……?)

     音楽室に向かった星峰と三田は無事なのか。
     分からない。そして——心配する余裕も無い。
     戦車は未だ動き続けている。キャタピラが回り始め、砲塔が獲物を求めて彷徨う。

  • 636◆xaazwm17IRZa23/04/14(金) 01:31:26

    「全員、後ろに周れ!」

     それだけを叫ぶと、瀧沢は戦車に向かって駆けだした。
     前方に居ては駄目だ。砲弾を防ぐ手段も無く、躱す手段も無い。
     命を繋ぐには、戦車の後面に周り込むしかない。……キャタピラを回転させる戦車の?
     目の前の戦車がどれだけ速いか、瀧沢は知らない。車より速いのか、遅いのか。ただ、機械である以上、常人では追いつけない速さの可能性がある。
     ならば、

    (砲塔、キャタピラ、どちらかをぶっ壊すしかねぇっ!)

      戦車そのものを機能停止に追い込むことは不可能だと、瀧沢は理解している。……恐らく万全の状態でも。ジークンドーはあくまで対人体の技術であり、対兵器である。スタローンならヘリを撃ち落とせるかもしれないが、ブルース・リーが戦車を破壊したことは無かったはずだ。
     他の人間がどう動いているか確認する余裕は無い。鰐淵がどう動くのかも気にしている余裕は無い。
     瀧沢は砲弾が発射される前に、戦車へと接近し。

  • 637◆xaazwm17IRZa23/04/14(金) 01:33:00

     ——それを読んだかのように、戦車もまた瀧沢に突っ込んだ。

    「っ!?」

     瀧沢は、戦車の車体と正面衝突し、吹き飛ばされる。
     瀧沢魁。怪力でこそあるが、小柄な女生徒である。戦車との予期せぬ衝突で競り合ったり耐え切る膂力は無い。それでも吹き飛ばされたのは、キャタピラに巻き込まれて下敷きになることを防いでの咄嗟の対応だった。
     校舎の壁に叩きつけられ、瀧沢は血を吐いた。マネモフル戦のダメージは全身に残っている。そこに加えて車に轢かれたに等しい衝撃。それでも必死に意識を手繰り寄せ、前を向き。
     砲塔が、こちらを向いていることに気づく。
     瀧沢は舌打ちをした。
     砲弾は発射され、破壊の嵐が瀧沢を襲った。



     篠宮の判断は速かった。戦車が音楽室を撃った瞬間、彼は東校舎へ向かって走った。

  • 638◆xaazwm17IRZa23/04/14(金) 01:34:15

     遮蔽物がある場所に逃げなければ、とそれだけを考えた。篠宮が持っている透明な拳銃では戦車に対応できない。
     瀧沢のように戦車の背後に周る、という発想は無かった。殺し合いが始まる前から戦闘者であった彼女と、異能こそ持てど平和に暮らしていた篠宮の思考の違いである。彼は、学生らしく学校に逃げ込んだ。玄関を通り、下駄箱を走り抜け、我武者羅に廊下を走り、横目に窓から戦車を覗き見た。篠宮の後方を撃っていた。誰か殺されたのだろうか? 分からない。助けられない。

    (何のための異能なんだよ……畜生……嫌だ、死にたくない……! 僕は……まだ……)

     砲塔がこちらを向いた。咄嗟に篠宮は教室のドアを開け、その中に飛び込んだ。
     砲弾が来た。轟音、爆風、破壊。ガラスの雨と落下する蛍光灯。
     光と熱と痛みの中で篠宮は意識を手放した。

     ◇

    戦車が動き出したとき、千頭之は——腰を抜かした。

    (そんな……これは、希望じゃ無かったのか……!?)

  • 639◆xaazwm17IRZa23/04/14(金) 01:34:59

    これさえあれば自分も役に立てるはずだった。頑張って操縦方法を覚え、アラシとコサメを見つけ、そして殺し合いを終わらせる。そのためのアイテムだったはずなのに。

    (に、逃げないと……)

     瀧沢が果敢に戦車に突っ込んだ。

    (無茶だ……!?)

     案の定、吹き飛ばされ、そして、砲弾が発射される。瀧沢が叩きつけられた壁が無残に破壊されている。きっと瀧沢の肉体もまた……。
     戦車は次の獲物を見つけたのか、東校舎の一階に砲撃した。それを、千頭之は眺めていることしか出来なかった。

    (こんなの殺し合いじゃない……虐殺じゃないか……)

     砲塔がこちらを向く。どうして今まで撃たなかったのか。きっといつでも殺せるからだ。蛇に睨まれた蛙のように、千頭之は動けなかった。
     自分は死ぬ。微塵になって死ぬ。
     皆に助けられ、何も為せぬまま、家族を守れず死ぬ。

    (……鰐淵は、逃げたのかな)

  • 640◆xaazwm17IRZa23/04/14(金) 01:36:15

     最後に、そんな思いがよぎり。

    (なら、良いのかな……)

     砲弾が、発射される。
     千頭之の前に、鰐淵が立つ。
     その手に木刀を持ち、迫りくる砲弾を見据える。
     そして、木刀を砲弾に滑らせた。
     切り裂くことは不可能である。炎の剣で爆風を防ぐこともまた不可能である。
     鰐淵がやったことはシンプル。
     ——砲弾の勢いを利用し、そのまま僅かに逸らせる。
     千頭之の斜め後ろの校舎で破壊が巻き起こる。

    「…………ふぅううううううう…………」

     神業、である。
     あにまん高校女子剣道部エース。こと純粋剣術では新條アキラや小田斬純恋を凌ぐ、【剣士】鰐淵英利。。

    「わ、鰐淵……」

  • 641◆xaazwm17IRZa23/04/14(金) 01:36:52

    「のづちさん……私から離れないでください……」

     刹那の攻防だった。
     その刹那で、鰐淵は疲弊していた。玉のように汗を噴きだし、息が上がっていた。今の技を行うのに、どれだけ集中したのか。寿命さえ縮めたのかもしれない。
     それでも、鰐淵は木刀を握りしめ、戦車と向かい合う。
     戦車VS木刀。
     無謀すぎる戦いを、彼女は仕掛けていた。

    「……動きは一直線、速さも、重さも一定……だったら、何とかなります……理論上は……」

     鰐淵の言葉には欺瞞が含まれている。それは、鰐淵の体力や集中力を度外視した発現だった。今と同じ攻防を後何回行えるのか。鰐淵にも分からない。

    「絶対に……私から離れないでください……」

     次に備えて、鰐淵は極限まで集中する。ほんの僅かでも動きが遅れれば、自分と千頭之は死ぬ。
     させない。
     何故なら、鰐淵英利は、千頭之のづちのことが——。

  • 642◆xaazwm17IRZa23/04/14(金) 01:37:26

    「…………止まった?」

     次の砲弾が、来ない。
     弾切れ?
     ガソリン切れ?
     戦車に搭載されている砲弾の数も、動力も、鰐淵も千頭之も知らない。
     慎重に、鰐淵は後ろに下がる。千頭之も合わせて後ろに下がる。
     二人の少女は、塊となって少しずつ戦車から離れていく。
     これからどうすればいいのか。鰐淵も、千頭之も、まるでわからなかった。

  • 643◆xaazwm17IRZa23/04/14(金) 01:37:59

    28話⑦を終了します……!
    時間を置いて、28話⑧を投下します……!

  • 644二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 01:44:51

    廃校の地図がインプットできていないんだけどいまキル子に襲撃をかけるとしたら誰なんだろ

  • 645◆xaazwm17IRZa23/04/14(金) 02:51:10

    28話⑨を投下します……! 本日最後の投下です……!

  • 646◆xaazwm17IRZa23/04/14(金) 02:52:13

    「ドラギモスくんちゃん……頑張って……!」

     姫氏原小毬と虎肝ドラギモスは、石川から逃れるべく必死に走り、何とか廃校に辿り着いた。
     どちらも運動が得意なわけではない。制服を汗で濡らし呼吸を乱しながらの到着だった。とくにドラギモスの顔は青白く、死亡判定寸前の状態である。

    「……げほっ、……はぁ、はぁ、……早くロッカーを……開けて……ミッションを……」

    「う、うん……!」

     堀木とドラギモスは似ている。しかしこと運動能力では天と地ほどの差があった。
     途中からは姫氏原をドラギモスの手を握り、半ば引きずるように走っていた。おんぶか抱っこしようかとも考えたほどだ。

    (ドラギモスくんちゃん……私、触れるんだ……堀木くんだけじゃなくて……)

     ドラギモスに悪霊が反応しないことが、何故か恋人を裏切っている気がした。
     二人は廃校に足を踏み入れ、東校舎の一部が倒壊していることに引きつつも、ひとまず3年1組がある本校舎を目指した。
     ミッションのリミットまでもう時間も無い。
     途中でNek-Oの死体を見つけたが、気にしている余裕は無かった。
     ミッションが無ければNek-Oを殺した生徒が近くに居る可能性を考え、廃校から逃げたかもしれない。しかし、ミッションのリミットである午前12時まで2時間を切った。二人は恐怖を押し殺して階段を駆け上がる。

  • 647◆xaazwm17IRZa23/04/14(金) 02:52:48

    3年1組の前には、ロッカーが並んでいる。いくつかのロッカーは既に開けられている。

    「あった、私のロッカー!」

    「早く開けるんだ!」

    「う、うん……どうやって開けるんだろう」

     姫氏原は自分の名前が刻まれたロッカーに近づく。

    『error error 首輪が破損しています error error』

    「え?」

     姫氏原の表情が固まる。
     ロッカーが開く様子が無い。

    (え? 首輪が破損? え? 開かないってこと? でも、開かないと首輪が爆発するって……。やだ、やだ、やだ! 死にたくない! 助けて、助けて堀木くん!)

     少しだけ持ち直していたとはいえ、姫氏原はゲームが開始してずっと過大なストレスに苛まれ、その精神は限界に近かった。
     姫氏原の精神の乱れと呼応するように、ラップ音が響く。

  • 648◆xaazwm17IRZa23/04/14(金) 02:53:23

     ドラギモスは、姫氏原の肩を掴んだ。

    「落ち着け、落ち着け姫氏原……! お前は死なない、絶対に死なない!」

    「で、でも、首輪が、ロッカーが……」

    「首輪が破損しているんだろう!? お前の首輪は、機能を停止している可能性がある!」

    「ど、どういうこと……?」

    「お前は既に、このゲームから一抜けしているってことだ」

     本当に……? 首に手をやる。首輪はがっちり嵌っている。ここには爆弾が詰め込まれている。そう考えるだけでパニックになる。

    「信じられない……何の根拠があって、そんなこと言うの……? 後2時間も無いんだよ、私死んじゃうんだよ……?」

    「……不安なのか?」

    「あ、当たり前じゃない!? 不安に決まっている……! どうしてそんなこと訊くの……?」

    「……じゃあ、その首輪外してやるよ」

     そう言ってドラギモスは腕時計に視線を送る。

  • 649◆xaazwm17IRZa23/04/14(金) 02:53:59

    「サンプルさえ見つかれば、すぐに首輪は外せる。この廃校に死体があるか探してみようぜ。次の放送までにさ」

    「……本当に? 本当に、すぐ外せるの?」

    「ああ、僕は、天才ドラギモスだぜ」

     信用できるのだろうか。
     否、信用しなければ姫氏原は死ぬしかない。
     ミッションを達成することは出来ないのだ。後1時間と少しで首輪を解除しなければ首輪は爆発する。
     実のところ全ては姫氏原の思い違いであり、彼女の首輪は爆発することは無いのだが、それに気づくことは無い。

    「さ、死体を見つけに行こうぜ」

    「……最悪の誘い文句だね。ドラギモスくんちゃん、恋人居ないでしょ」

    「おいおい、スタンド・バイ・ミー観てないのかよ」

    「……ドラえもんの映画のやつだっけ?」

    「違うよ。それって実写の奴だろ。山崎監督の……」

  • 650◆xaazwm17IRZa23/04/14(金) 02:54:48

     恐怖を紛らわせるために、二人はあえて軽口を叩きあう。昼休みのクラスメイトの会話のように。
     まだ諦めたくない。
     まだ生きていたい。
     少しでも長く。会いたい人がいるから。
     姫氏原が再び決意を固めたとき。
     ——その決意を嘲笑うかのように、砲撃が始まった。
     爆音は、本校舎3階にも伝わる。
     悲鳴を上げて姫氏原は蹲る。

    「ロッカーの後ろに隠れろ! そこなら安全のはずだ!」

     ドラギモスは姫氏原の手首を掴み、ロッカーまで走る。
     異能によって壊せないロッカー。確かにそれは、戦車の砲撃でも壊れないのだろう。だが……。
     姫氏原小毬も、虎肝ドラギモスも砲撃音を聞きながら、タイムリミットが無情に近づいてくることに焦燥感を抱いていた。
     未だ舞台に役者は揃わない。
     が、果たして揃う前に舞台は残っているのか。
     二人の子どもはただ互いを支え合いながら、好機を待つしかなかった。

  • 651◆xaazwm17IRZa23/04/14(金) 02:57:07

    28話⑨を終了します……!

    本日はここまでとさせていただきます……!


    今日も感想をありがとうございます、開始が遅く申し訳ありません……!

    明日も今日と同じくらいの時間から始めさせていただきます……!

    それでは、今夜もありがとうございました……!

  • 652二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 03:00:26

    乙です、しかしよくこんな夜中まで...美事ですね。
    さてさてこの戦車の攻略ができないと満足に動けないな、無傷で対処できる奴(ラッタッター)達はまだ着いてるか分からないしどうなるか

  • 653二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 03:01:43

    ヒーローは遅れて来ると言うけど遅れすぎだぞ堀木くんちゃんよぉ…
    早く助けに来てくれ

  • 654二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 03:22:42

    乙でした〜
    廃工場組と石川が到着したら戦況は一変しそうですね
    戦車が有効打にならなそうな奴が多い…

  • 655二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 03:31:24

    ラッタッター→そもそも効かない
    堀木→普通に躱すし蹴り返してきそう
    めあめえちゃん→ワープするし影武者がいる
    石川→当たっても死ななそう

    みたいな感じで元気いっぱいの奴ら相手だと万能でもないのよね戦車は

  • 656二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 03:56:43

    ダイス100のアイテムとはいえトダーみたいに破壊命令は出てないもんな、一般人はたまったもんじゃないけど

  • 657二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 13:39:21

    ほしゅ

  • 658二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 21:49:32

    保守
    以前スレとは関係なくバトロワものを書こうとした事があったんだけど、そもそも30人もキャラを思いつかないし書き始めてもキャラの立て方が分からんかったのよな

    このスレに出会えてよかった

  • 659二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 23:45:44

    そろそろかな

  • 660◆xaazwm17IRZa23/04/14(金) 23:51:40

    28話⑩を投下します……!

  • 661◆xaazwm17IRZa23/04/14(金) 23:52:25

    「鰐淵さん、思った以上にやりますね」

     窓から鰐淵の神業を目撃したキルコは、表情を変えずに呟く。
     砲弾を木刀で捌かれるとは想定していなかった。次の手を思案する。

    「もう一度撃って様子を見てみますか」

     鰐淵の戦力は未知だ。戦車を通してできるだけ正確に測っておきたい。
     そう考え、キルコが次の砲撃を行おうとしたとき。
     北校舎と面していた窓が内側に割れ、歯荷をお姫様抱っこした忍者が着地した。
     殺戮者のエントリ―だ!

    「忍者、何で忍者……?」

     キリコは訝しみながらも竹槍を構えた。

  • 662◆xaazwm17IRZa23/04/14(金) 23:52:58

     歯荷仄花が、霧田キルコと相対したのは、偶然である。
     音楽室が砲撃され、歯荷は咄嗟に星峰に突き飛ばされたことで一命を取り留めた。
     即座に護衛忍者くノ一が駆け付けたことで爆風や瓦礫による怪我を負うことなく、音楽室の倒壊に巻き込まれることもなかった。
     三田は五体が繋がっているが、意識を失っている。
     星峰は、姿を消していた。
     着弾の瞬間、バラバラに砕け散ったところを視た。生きてはいないだろう。

    「…………ここから逃げますわよくノ一」

     歯荷は早口でくノ一に指示を出す。
     さっきの砲撃は戦車によるものだ。いきなり外に逃げると、戦車の的にされる可能性がある。かといって地上まで階段を駆け下りるのも時間がかかる。北校舎に閉じ籠るのも悪手だ。砲弾は、校舎の壁を容易く破壊する。
     歯荷は勉強が苦手だ。しかし、馬鹿ではない。テスト勉強を一夜漬けしたあげく、テスト中に寝落ちするだけなのだ。
     歯荷の指示通りに忍者は歯荷をお姫様抱っこし、廊下を駆けた。
     そして、窓を蹴破り、跳躍する。

  • 663◆xaazwm17IRZa23/04/14(金) 23:53:27

     目指すのは地上ではなく、面している本校舎2階。飛距離は5m。
     闇雲に行動しているわけではない。歯荷が目指す場所は、本校舎2階の端、北校舎に面したとある空き教室の前である。立地的にここから、北校舎も、東校舎の裏も、少し移動すればグラウンドも東校舎も把握できる。まずはここに移動し、状況を確かめようという判断だった。
     つまり、歯荷仄花と霧田キルコは、まったく同じ場所を仮の潜伏場所に選んだのである。
     お互いにとって不幸なブッキングだった。
     本校舎に強引に入った瞬間、廊下に竹槍を持ったキルコが居たことで、歯荷はぎょっとした。
     竹槍の先端は、血で汚れている。
     そして彼女は見たところ単独行動をしている。

    (め、めちゃくちゃ怪しいですわ~!)

     護衛忍者くノ一に降ろしてもらった歯荷は
     キルコさん、貴女、ゲームに乗っていらっしゃるの?
     と、訊こうとした。

  • 664◆xaazwm17IRZa23/04/14(金) 23:54:05

     しかし、歯荷が口を開く前に、キルコは竹槍を構え、突っ込んできた。

    「げぇー!? 忍者さん、後はよろしくですわー!」

     くノ一はどこからともなく手裏剣を取り出し、キリコに投擲する。それをキルコは、竹槍で弾く。学校の廊下は決して広い場所ではない。長物を振り回すには不適だ。それでもキリコは引っ掛けることなく竹槍を器用に振り回し、忍者の投擲を次々に防いでいく。槍の扱いに習熟している。

    (最近の不良は槍も扱えるんですのね!?)

     ズレたことを考えながら、歯荷はキルコの槍捌きを「凝視」する。
     数時間前なら逃げていた。
     今でも、キリコが銃器を手にしていたなら不利を悟って逃げていたかもしれない。
     が、キリコがどれだけ強いとしても、武器は竹槍である。
     ジークンドー+灘神影流を習得し、忍者を従えている歯荷と、どちらが強いかは分からない。
     十分に勝算がある、と歯荷は判断した。更に、もし戦車を操っているのがマネモフルからキリコに代わっているとすれば(里美を殺し忍者を得た歯荷にとって、キリコがマネモフルを殺し戦車を得たという推理を容易に立てることが出来た)、離れれば戦車の砲撃を受けることになる。

  • 665◆xaazwm17IRZa23/04/14(金) 23:54:34

     事実、戦車の砲撃が止んでいる。十中八九、戦車を動かしていたのはキルコだ。

    (これで霧田さんを殺せれば、戦車も手に入りますわ……!)

     格闘術+忍者+戦車。

    (あかん、優勝してしまいますわ……!)

     とうとう、キルコは竹槍の射程圏まで接近に成功する。
     くノ一がどこからともなく短刀を取り出し、キルコに斬りかかる。
     キルコはそれを受けることなく躱し、同時に竹槍を巧みに操り、忍者に穂先を突き出す。
     キルコも気づいたのだろう。ここで歯荷を殺せば、忍者が手に入ると。
     竹槍が忍者の喉元から軌道を変えて歯荷の心臓に迫る。
     忍者を戦闘不能に追い込む前に、非戦闘員の歯荷を殺すべきだという判断だ。

    「くっ!」

     歯荷は、穂先を躱した。

  • 666◆xaazwm17IRZa23/04/14(金) 23:55:08

     忍者とキルコの攻防を「凝視」し、竹槍の軌道に予測が立てられたこと。
     マネモフルと瀧沢の攻防を「凝視」し、彼らの動きを再現できること。
     二つのインプットを重ね合わせ、何よりキルコに歯荷は「非戦闘員」であるという僅かな油断があり、死を免れる。
     だけでなく。
     歯荷は、「透明な日本刀」で竹槍に斬りつけた。
     竹槍に傷が入る。

    「か、硬てぇですわ!?」

     一刀両断するつもりだった歯荷は、そう漏らす。
     判断ミスである。歯荷仄花は、未だ剣術のインプットが出来ていない。
     ダンスで鍛えているため日本刀を振り回すくらいはできるが、咄嗟に竹を一刀両断、というそれなりに高度な芸当は出来ない。
     それでも、傷が入った。
     キルコは竹槍を引っ込める。
     戦車で狙った相手に「透明な武器を作る」篠宮が居たのを思い出したのだろう。

  • 667◆xaazwm17IRZa23/04/14(金) 23:56:07

     歯荷が、透明な武器を装備していることに気づく。
     更には、今の一瞬の動きから、彼女がそれなりで動けるレベルだということも。
     一度撤退して体制を立て直すか。

    (こんなとき、オルランドならどうするのでしょうか)

     ——オルランドなら、妥協しない。
     キルコは傷の入った竹槍に膝を入れ、へし折った。
     そして、石突の部分を棒のように持ち、穂先を短刀のように持つ。

    (……逃げるべきかしら……)

     歯荷もまた、悩んだ。
     キルコは強い。もしかしたら戦車を相手にするより厄介かもしれない。
     不良なんてイチコロですわ、と舐めていたが、瀧沢やマネモフルと同じ領域の人間らしい、と「凝視」して気づく。

    (逃げるべき、ですわね……)

     忍者と自分を合わせて五分五分。あるいはやや不利。
     生存本能は、逃げるべきだと指示を出している。

  • 668◆xaazwm17IRZa23/04/14(金) 23:56:46

    それでも歯荷の足は動かない。

    (星峰さん……)

     考えるのは、目の前で命を散らした、このゲームが始まってずっと行動を共にしていた盲目の少年である。

    (どうして私を庇ったんですの? 私のこと、ずっと疑っていらしたのに……)

     仲間、ではなかった。牽制と疑心に塗れた冷戦関係だった。いつか星峰を始末する策も、歯荷はこっそり考えていた。もしかしたら星峰も、頃合いを見て歯荷を始末しようと考えていたのかもしれない。今となっては分からない。
     星峰は、最期に歯荷を助けて死んでしまったのだから。
     言葉も、音も、残すことなく、逝ってしまった。

    (……なんだか、とってもムカつきますわ)

     人のこと散々疑っておいて、あんなに警戒しておいて、最期は自分より歯荷を優先して死んでしまった。

    (何考えていらしたんですの? とっても気持ち悪いですわよ)

     復讐ではない、と歯荷は思う。
     義憤、でもないのだろう。

  • 669◆xaazwm17IRZa23/04/14(金) 23:57:11

     歯荷が、キルコと戦うのは戦車を手に入れたいからであり、最終的には死なないためである。全ては自分本位。それが、歯荷仄花のはずなのだ。
     だけど。

    (八つ当たりも、ちょっとだけ兼ねさせていただきますわよ……!)

     歯荷は拳を握った。
     優等生風、歯荷仄花。
     不良風、霧田キルコ。
     二人の女子生徒が、本校舎2階で激突した。

  • 670◆xaazwm17IRZa23/04/14(金) 23:58:18

    28話⑩を終了します、本日も始めさせていただきます……!
    時間を置いて28話⑪を投下します、明日は朝が早いので、いつもより気持ち早めに終わります……!

  • 671二次元好きの匿名さん23/04/15(土) 00:31:14

    キルコを狙ったのは瀧沢かと思ったけど歯荷ちゃんだったか

  • 672二次元好きの匿名さん23/04/15(土) 00:50:09

    歯荷ちゃんの異能結構すごいな

  • 673◆xaazwm17IRZa23/04/15(土) 01:06:52

    28話⑪を投下します……! 本日最後の投下です……!

  • 674◆xaazwm17IRZa23/04/15(土) 01:07:25

    「廃校が見えてきたね!(^^)!」

     堀木の言葉に、ラッタッターとねうねいは頷く。
     リミットが近づいてきている。首輪が爆発すれば、死ぬ。
     それでも、この場に居る三人は殺気立つことも、ヒステリックになることもなく、オリエンテーリングのような緩い雰囲気でここまで歩いてきた。
     クラスメイトが七人死んだことも知っている。

  • 675◆xaazwm17IRZa23/04/15(土) 01:08:03

     垣根澄花の死体も見た。
     決して殺し合いから目を背けているわけではない。
     ただ、堀木も、ラッタッターも、ねうねいも、自分を貫く。そう決めていたのだろう。

    「うーん、ズルしちゃおうかな……( ゚Д゚)。めあめあ、姫たちをワープさせることって出来る( 一一)?」

     いつの間にか、堀木はねうねいを「めあめあ」と呼んでいた。彼なりに少しでも仲を深めようと試行錯誤しているのかもしれない。
     ねうねいは、じっと考え込む。

    「かがみのむこうは、ばんだーすなっちと、こどくなかりうど。とけいのはりと、たいよう、すなどけいが、まわっているよ(一度使うと、数時間は使えない。今はまだ、使うタイミングじゃない)」

    「え、えーと、肯定、否定、どっちかな……( ;∀;)」

     ワープする様子はないので、断れたようだ、と堀木は納得したらしい。
     ラッタッターはそれを微笑ましく見つめ、ふと、太陽に目をやった。

  • 676◆xaazwm17IRZa23/04/15(土) 01:08:32

     果たしてアキは朝日を観れたのだろうか。それとも日の昇らぬうちに亡くなったのだろうか。今しがた目撃した垣根澄花を守るために自らの幼馴染が命を落としたことを、ラッタッターは知らない。彼の、この島での戦いを語り継ぐ者はいない。
     ミッションを終わらせたら踊ろう、と高く上った太陽を見つめながら思い。

    「突然オラァ!」

     茂みから飛び出してきた石川が、護衛忍者の頭を蹴り壊すところを目撃することとなった。
     護衛忍者には、何の命令も下されていなかった。故に、ねうねいに引っ張られるまま、ただ木偶の坊として着いてきた。
     石川が、護衛忍者を最初の標的に選んだのは、忍者にテンションが上がったからであった。自らの不意打ちをどう対処するのか興味があった。身代わりの術で一瞬で丸太に変わるのか。分身の術でリンチされるのか。火遁の術で火達磨にされるのかもしれない。期待に胸を膨らませながら、石川は護衛忍者の顔面を蹴りぬいた。
     もし、護衛忍者に命令が下されていれば、護衛忍者は適切に対応しただろう。しかし、身を守れという命令さえ下されていなかった。元々、護衛忍者というアンドロイド、動きが俊敏で、多種多様な忍術を扱える優れものだが、強度は人間並である。石川の膂力が直撃すれば、壊れるしかない。

  • 677◆xaazwm17IRZa23/04/15(土) 01:09:07

     電子部品をまき散らしながら倒れる護衛忍者。

    「あん? これで終わり……?」

     不満そうな石川は、護衛忍者の残骸に追撃をするべく、踵を振り下ろそうとし、

    「きつね(やめて)」

     ねうねいが、石川のズボンを掴み、止めさせようとする。

    「どけ雑魚」

     石川は、ねうねいを殴った。
     それだけでねうねいはボールのように吹き飛ばされる。
     近くの大木に直撃しそうになるが、咄嗟に堀木がねうねいを受け止め、衝撃を吸収する。

    「ははは、石川くん……元気いいね('_')」

    「お、堀木いんじゃん。しかもめっちゃかっこいい銃持ってるし。いいねぇ、わかってるねぇ……」

    「情熱的だね……(*'ω'*)」

  • 678◆xaazwm17IRZa23/04/15(土) 01:09:38

     石川は殺意と闘気を漲らせ、堀木はそれを柳のように受け流しながらも、ライフルを構える。
     雄の中の雄、石川大輔と。女よりも雌、堀木彩。
     二人の視線が絡み合う。
     それを断ち切るかのように、ラッタッターは乱入した。
     踊るのは、ブレイクダンス。
     ヒップホップ三大要素の一つであり、ギャングが抗争をまとめる際に使ったといわれているダンスである。
     片手でバランスを取りながらポーズを決めるラッタッターを石川は胡乱な目で見る。

    「テメェ、邪魔すんじゃねえよ」

     怒りに任せて殴る。
     殴った感触が、無い。

    「あぁ!?」

     蹴る。蹴った感触が無い。

  • 679◆xaazwm17IRZa23/04/15(土) 01:10:25

     掴み投げようとする。掴めない。

    「て、テメェ……!?」

     ラッタッターの異能が発動している。
     真剣に踊らなければ、ラッタッターに攻撃を当てることは出来ない。

    「ラッタッターくん……(+o+)」

     行け、とラッタッターはダンスで示す。
     ここは私が食い止める。君たちは先に廃校へ行け。
     ラッタッターと心を交わした堀木は、ラッタッターのメッセージに気づくと

    「分かった、また会おうね(‘ω’)」

    と、ねうねいを背負い、笑顔で走り出した。

    「あ、こら、逃げるな堀木!」

     慌てて石川は後を追うが、進路を邪魔するようにラッタッターがアフロを軸に回転して回り込む。

    「……テメェのクソみたいな異能に付き合う気はねぇんだよ、こっちは……!」

     オラッ! と石川はラッタッターを殴る。

  • 680◆xaazwm17IRZa23/04/15(土) 01:11:03

     感触が無い。
     心の底から踊らなければ、ラッタッターを殴れない。
     額に青筋を浮かべた石川は、獣のような怒声を挙げた。



     石川の一撃は、ねうねいには重すぎた。
     意識を刈り取るだけでは済まず、内臓や骨を粉砕している。
     ねうねいは、生死の境を彷徨っていた。

    「ごめんね、めあめあ……( ;∀;) 姫の対応が遅れたばかりに……('Д')」

     堀木は反省していた。荒事の経験が無い。ずっと平和で油断していた。そんなことは言い訳だ。急にボールが来たので、などと言うつもりはない。
     それはそれとして。

    「絶対大丈夫、君が死ぬはずないって(*^▽^*)」

     落ち込んだメンタルが一瞬で回復する。
     イカレたメス男子と、不思議な少女は、かくして舞台に上がる。

  • 681◆xaazwm17IRZa23/04/15(土) 01:15:45

    28話⑪を終了します……!

    本日はここまでとさせていただきます……!
    バトロワものはキャラ作るの大変ですよね……私の場合はキャラ作りもキャラ立ても皆さんに任せているので、何とかやれている感じです……(今日書いたキャラとか絶対私の頭では思いつかないですし……)
    感想もありがとうございます……! またお手すきのときに見ていただけると嬉しいです……!

    明日も一日用事が入っているので昨日今日と変わらない時間帯から開始します……! 今週は投稿ペースが遅れ申し訳ないです……!

    それでは、本日もありがとうございました……!

  • 682二次元好きの匿名さん23/04/15(土) 01:21:49

    乙でした〜
    例えねうねいちゃんがこのまま死んでも『死んじゃった〜😂』で済ませそうなのが堀木くんちゃんの怖いところ
    落ち込んだりもするのかな?

  • 683二次元好きの匿名さん23/04/15(土) 01:23:53

    堀木ちゃんって結局姫氏原ちゃんのことどう思ってるんだっけ?

  • 684二次元好きの匿名さん23/04/15(土) 01:29:14

    >>683

    この性格で姫氏原ちゃんのことはちゃんと大切に思ってるみたいだし、ねうねいマネモフルペアみたいに何かあったのかも?

  • 685二次元好きの匿名さん23/04/15(土) 01:29:24

    乙です!もしもねうねいちゃん殺られたらアイツが命狙うかもしれないぞ、良かったね石川くん!
    …そういえばまだ黒服の募集ってやってますか?

  • 686運営23/04/15(土) 01:40:31

    黒服も金持ちも随時募集してます〜!

  • 68768523/04/15(土) 02:09:08

    >>656 ありがとうございます

    【名前】ティエ・レン

    【性別】男

    【外見】剃髪と着崩した黒服。がたいがいい。

    【趣味】人体破壊、映画鑑賞

    【好きなもの】壊す感触、強者、スパルタンX

    【嫌いなもの】自分と戦わない強者、恋愛映画

    【性格】無愛想且つ自分本意で闘いが好き、強者を破壊する事を無上の喜びとする

    【特技】身体修復能力&殺人空手

    身体を元通りに修復する能力と空手を組み合わせ戦う。

    【詳細】 彼独自の奥義として“崩拳”がある。これは自身の肉体が崩壊する程の力を込めて放つ拳。汎ゆるパンチから出せ、その衝撃は受けた物の内部で破壊を起こしながら突き抜ける程。自分の肉体は能力で修復する。

    弱点は打つ前に僅かな溜があること、全身の修復を行うために連発はできず暫く使えないこと。

    【備考】茜音沢や他の黒服達といつか勝負をしたいと思っている

  • 688二次元好きの匿名さん23/04/15(土) 02:19:26

    私も黒服を投下したいが既存の面子が濃すぎてさらに濃いキャラを投げて良いのか迷うんだよね…

  • 689二次元好きの匿名さん23/04/15(土) 05:06:54

    黒服といえば個人的に千頭之兄が没になったのは残念だな

    廃校組のラスボスになれそうな面白いキャラだったのに…


    >>513

  • 690二次元好きの匿名さん23/04/15(土) 13:11:29

    ほし

  • 691二次元好きの匿名さん23/04/15(土) 21:38:55

    【名前】笛吹 享楽 (うすい きょうらく)
    【性別】男
    【外見】目隠しをするかの様に包帯を巻いた盲目の中年の男。
    【趣味】的当て
    【好きなもの】銃声 葉巻 ラジオ
    【嫌いなもの】消音器の付いた銃
    【性格】刹那的快楽主義者で独り言が多く周りと協調性が無い
    【特技】狙撃 弾丸改造
    【詳細】異能じみた空間認識能力により盲目で有りながら狙撃を得意とし壁越しからでも当てる事ができる。弾丸に切り込み等の細工をする事により曲がる弾丸や跳ね上がる弾丸等常軌を逸した狙撃が可能。
    【備考】趣味の的当ての為に来た殺し屋。珍しい的を撃てるかもと期待している。

    黒服案

  • 692二次元好きの匿名さん23/04/15(土) 21:57:56

    >>519


    【特技】プロビデンスの魔眼

    【詳細】

    死亡した生徒のDISCにより獲得した能力。

    他の異能との併用により超強化されており、セピアと視線を合わせた者は一瞬で黄金に変わる。

    即席で手に入れた異能のためセピア本人すら使い方を把握しきれていない。


    自分が投げた黒服に異能を生やしたかったのとDISCの設定が面白かったので…

    他人の能力でイキリ散らしてるのが見たかったんですすみません

  • 693二次元好きの匿名さん23/04/15(土) 23:27:43

    そろそろかな

  • 694◆xaazwm17IRZa23/04/16(日) 00:18:45

    お待たせ致しました……!

    本日も始めさせていただきます……!

  • 695◆xaazwm17IRZa23/04/16(日) 00:19:22

    (砲撃が……止まった)

     本校舎3階、ロッカーの後ろに隠れていたドラギモスは、校舎を揺るがす轟音が止んだことに気づく。

    (どういう状況だ? 誰かが戦車を破壊したのか? それとも、撃つべき参加者を皆殺しにしたのか……分からない、分からないけど……)

    「ここから移動するぞ、姫氏原」

     姫氏原は目に涙を浮かべながらも、ロッカーを支えに立ち上がる。
     ここに居てもじり貧だ。首輪のサンプルを見つけ、次の放送までに解除しなければ、死ぬ。姫氏原はそう思い込んでいる。
     ドラギモスもまた、自分のロッカーを見つけなければならない。

    (ここのロッカーは全部帰宅部……部活ごとにロッカーが配置されているのか……だとしたら、無線部の僕のロッカーは、部室がある東校舎2階だろうな……)

  • 696◆xaazwm17IRZa23/04/16(日) 00:19:56

     姫氏原の生存が確定する前に、自分のロッカーを開けるのは心苦しかった。

    「まずは、地上に降りよう。ここに居ても、サンプルは手に入らない」

     姫氏原は頷く。二人はひとまず本校舎を出ることにし、階段を降りた。
     1階まで降りたときだった。

    「お主ら」

     と、暗がりから声をかけられた。

    「その声は……Nek-Oか。再生したんだな」

    「いかにも。吾輩こそNek-Oである」

     声こそすれど、階段の影に隠れ、Nek-Oは姿を現さない。

    「お主らは、ゲームに乗っていないのだな」

    「ああ。そして僕は、首輪を解除できる」

    「誠か?」

    「サンプルさえあればね。心当たりは無いかい?」

    「ふむ……鞄に麻井の首輪があったが、死んでいる間に持ち去られてしまった。誰が持っているかは分からん」

  • 697◆xaazwm17IRZa23/04/16(日) 00:20:48

    「そうか……ところで、どうして出てこないんだ?」

    「信用できんからよ。吾輩はこの数時間で、既に四回死んでいる。七つあった魂は、残り三つだ。慎重にもなる」

    「なんだ、まだ三つもあるんじゃないか。普通は一人一つだぜ」

    「本来の吾輩ならば、死んだ瞬間即座に万全の状態で蘇生する。そういう異能だ。しかし、この空間では制限がかかっている。お主らも見たかもしれんが、再生に時間がかかる。吾輩は一度死んだ。動けるようになるまでに、そこから三度殺された。もう一度殺されれば、挽回の機会なく殺され続け、死ぬかもしれんのよ」

    「へえ。その制限、首輪を外せば解除できるかもしれないぜ」

    「……なんだと?」

    「確証はないがな。異能を制限する異能の発信源が、首輪なのか、この島そのものなのか、それが問題だ。けれど、安全性が上るのは間違いない。どうだ、Nek-O。僕に協力しないか?」

    「……協力者も姿を消している。一人でうろつくにはこの島は危険だな。いいだろう。吾輩もお主らの仲間に加わろう」

     そう言って、Nek-Oはのっそりと姿を現した。

  • 698◆xaazwm17IRZa23/04/16(日) 00:21:22

    (おいおい、随分と風格が出てるじゃないか)

     四度死んだという。
     その四度の死が、彼を本気にさせたのか。
     目は爛々と輝き、獣のような四足歩行で、ゆっくりとその姿を晒す。

    (猫って、いうより虎かライオンに見えるぜ)

     大型犬は一般的なペットとして受け入れられるのに対し、どうして大型猫はペットになりにくいのか。それは、飼い主が狩りの対象にされかねないから、という言説を、ドラギモスは思い出していた。
     Nek-Oは、ふんふんと鼻を鳴らした。その仕草も野生染みている。
     隣で姫氏原が、可愛くない……とぼやいていた。

    「……サンプルの当てが出来たぞ」

    「本当か!?」

    「ああ……この先で……同行者が死んでいる」

     その声には僅かな哀切が籠っているように、ドラギモスには感じられた。気のせいかもしれないが。

  • 699◆xaazwm17IRZa23/04/16(日) 00:22:12

    28話⑫を終了します……!

    時間を置いて、28話⑬を投下します……!

  • 700二次元好きの匿名さん23/04/16(日) 00:36:32

    ねこも良いキャラしてるよなぁ

  • 701二次元好きの匿名さん23/04/16(日) 00:37:48

    あれ?Nek-Oって5回死んでなかったっけ?気のせい?

  • 702二次元好きの匿名さん23/04/16(日) 00:41:28

    NeK-O殺されすぎてもはや回数把握しきれてないなぁ

  • 703◆xaazwm17IRZa23/04/16(日) 00:44:41

    あ、あれ? 五回でしたっけ……?
    1回目 宇都による銃撃
    2回目 宇都による銃撃
    3回目 歯荷による灘神影流
    4回目 キルコによる刺殺

    だと思ってたんですけど……もしかして抜けてました……?

  • 704二次元好きの匿名さん23/04/16(日) 00:45:40

    >>703

    自分もそう思うけどなぁ

    まとめるときに回数を書いて置かなかったのは失敗だった

  • 705二次元好きの匿名さん23/04/16(日) 00:49:46

    里美に「お前気が狂った?」的な事言って弾丸で返答されるシーンがあった気がしますね、その時死んでた気がする

  • 706◆xaazwm17IRZa23/04/16(日) 00:52:01

    >>704

    こちらこそ毎回【Nek-O 死亡(残りの魂3)】など分かりやすい表記をするべきでした……

    不死キャラへの配慮が足りなかったのん……

    そして間違えてたらごめんなさい……

    今後も気になった部分を言っていただけると助かります……!

  • 707◆xaazwm17IRZa23/04/16(日) 00:56:46

    >>705

    今確認したのですが、それは二回目の宇都の銃撃ですね……!

    里美は首輪と猫じゃらしだけ奪って殺さずに移動していました……!

    分かりづらい描写で申し訳ないです……!

  • 708二次元好きの匿名さん23/04/16(日) 00:59:27

    >>707 う、うそやろ…なんて失礼なことを…!

    いや、これは私の頭の中の消しゴムが悪さをしたみたいです!すみませんでした!

  • 70970123/04/16(日) 01:18:19

    申し訳ない、俺のせいで無駄な誤解を生んでしまった
    今自分でも確認してきたんですけどやっぱり勘違いだったっぽいです お騒がせしました

  • 710◆xaazwm17IRZa23/04/16(日) 02:14:50

    いえ、こちらこそ紛らわしくて申し訳ないです……!
    また、お気づきの点があれば指摘いだけると助かります……!

    28話⑬を投下します……! 本日最後の投下です……!

  • 711◆xaazwm17IRZa23/04/16(日) 02:15:53

     里美綾香は死んでいた。
     銃殺ではない。口から血を吐いた形跡があり、全身を殴打されている。
     殴殺? しかし、頭部からの出血は見られない。

    (いや、検視をしている場合じゃないな……)

    「悪い、Nek-O。やってくれ」

    「ああ。二度目だ。……まさかどちらの喉も嚙み切ることになるとはな」

     凄惨な光景に、姫氏原は目を瞑り、耳を抑え、蹲った。
     ドラギモスは、Nek-Oが牙と爪で、里美の首を切断する様子を観察する。
     首輪がどのように首に嵌められていたのか、少しでも情報が欲しかった。

    「ふむ、最初よりスムーズに終わったな。慣れたくはなかったが」

     ドラギモスは血塗れの首輪を受け取り、トイレで洗おうとする。

    「トイレに入るな!」

     突如、Nek-Oが吠え、ドラギモスと姫氏原はビクリと体を震わせた。

    「トイレに入ると死ぬぞ」

  • 712◆xaazwm17IRZa23/04/16(日) 02:17:07

     Nek-Oが言うには、トイレにはトイレの花子さんという化け物が用意されており、入れば即死するという。生徒会の麻井は、それで命を落としたのだとか。

    「臭いで分かるが、トイレの中で宇都も死んでいる。十中八九、花子さんによるものだ。絶対にトイレに行ってはならぬ」

     この離島では、排泄は全て野外で行わなければならない。恐るべき事実に、ドラギモスと姫氏原は絶望に襲われた。

    (い、いや……落ち着け。その前に脱出すればいい。それだけのことじゃないか)

     実のところ、金木冥のように、トイレに入っても生存している生徒がいるため、トイレに入れば必ずしも即死するわけではない。しかし、そのことを三人は知る由もなかった。
     仕方ないので、ハンカチで汚れをふき取り、ドラギモスは里美の首輪を観察する。

    「姫氏原さん、首輪を見せて。大丈夫、観察するだけだから……」

    「う、うん……」

     姫氏原は後ろ髪を掻き上げ、うなじを晒す。

    (ほ、堀木くん……これは浮気じゃないからね……)

  • 713◆xaazwm17IRZa23/04/16(日) 02:17:36

     恋人である堀木に属性が似ているドラギモスに首筋を観察されていると思うと、姫氏原は羞恥に襲われた。
     ドラギモスは、そっと首輪を撫で、手に持った里美の首輪と見比べる。
     そして、道中の工具室で拝借したドライバーを躊躇なく突っ込み、くるくると器用に動かした。

    「え、あれ、観るだけって……?」

    「大丈夫、触ってるだけだ」

    「ほ、本当に……?」

    「ああ、大丈夫。終わったよ」

     姫氏原はドラギモスから離れる。
     するりと、首を滑る感触があった。

    「あ、あれ……?」

     首筋を撫でる。触れる。

    「え、ええ……?」

     ぺたぺたと触りまくる。そこには、金属の感触が無い。ただ、首があるだけだ。

  • 714◆xaazwm17IRZa23/04/16(日) 02:18:08

    「は、外れてる……?」

    「ざっとこんなもんだよ」

     そう言って、ドラギモスは姫氏原の首輪をチャクラムのように回した。



     Nek-Oは、得意そうなドラギモスと、安堵からか泣き崩れる姫氏原を見て、喉を鳴らした。

    (お主の死は、無駄にはならなかった)

     里美綾香。Nek-Oの視点では、二度死んだ女。
     一緒にいた時間は数時間であり、それ以前は大した絡みも無かった。それでも、死という喪失は、Nek-Oを寂しくさせる。
     共に生まれた兄弟はとっくの昔に老衰している。天涯孤独のNek-Oにとって、死とはいつだって寂しいものだ。
     あるいは、その寂しさから逃れるために、この生き物は学園で親しい者を作ろうとしなかったのだろう。

    「ドラギモス、吾輩の首輪も外せるか?」

    「ちょっと見せて」

  • 715◆xaazwm17IRZa23/04/16(日) 02:18:41

     Nek-Oは素直に、自らの首筋を晒す。自然界ではあり得ない行為。生殺与奪を相手に握らせる愚行。
     それでも、Nek-Oはクラスメイトを信じる気になっていた。

    「……やっぱり。姫氏原とは首輪が違うな」

    「どういうことだ?」

    「里美綾香の首輪は僅かにだが、赤い光を灯していた。そして、お前の首輪は青い光だ。姫氏原の首輪には、灯りが点いていなかった」

    「結論を聞きたい? 外せるか?」

    「工学的には……外せる。ただ、この光は、嫌な予感がする。何というか、姫氏原の首輪は死んでいるが、お前の首輪は生きている。そんな気がするんだ」

    「ふうむ、今すぐには外せんということか」

    「ああ。どうして姫氏原の首輪が死んだのか。それを突きとめないとな」

     すぐには逃れられないと聞き、Nek-Oは少々ガッカリした。が、前進はした。

    「わ、私……分かんない。ごめん、心当たりが無いの……」

     姫氏原はそう言って、罪悪感を覚えたのか、俯いた。

  • 716◆xaazwm17IRZa23/04/16(日) 02:19:20

    「私と皆の違い……悪霊、なのかな」

    「悪霊、か。姫氏原の悪霊は、首輪を殺す力があると?」

    「わ、分かんないけど……他に理由が」

    (まさか、目裏さんを殺したから? ううん、そんなわけない。……だから、言わなくていいよね)

     自らの罪を晒すことを、姫氏原は恐れた。

    「姫氏原、もしかしたらお前がこの殺し合いを壊すキーになるのかも」

    「あー😆 小毬じゃん🤣 やっと会えたね😇」

     能天気で楽観的な声が、響いた。
     姫氏原は立ち上がった。
     そして、声の元に駈け出す。

    「堀木くん!」

    「あれー🤩 首輪が外れてる🥲 すごーい🤪」

     Nek-Oは振り返った。

  • 717◆xaazwm17IRZa23/04/16(日) 02:19:59

     堀木彩と姫氏原小毬が抱き合っている。そして、堀木彩の背には、ねうねい・めああえの……。

    (あれは、死体か?)

    「堀木くん……その子は?」

    「あ、そうそう🤗 みんなにお願いがあるんだけど🫡」

     そう言って、堀木は笑顔のまま、その場にいる者に、ねうねいを示す。死体を、否、今にも死にそうな少女を、楽しそうに見せる。

    「このままだとめあめあ死んじゃうんだけど😴 誰か助けてくれないかな🤯」

    (……狂っているのか?)

     ドラギモスも、姫氏原も、Nek-Oも、堀木彩の言葉に絶句するしかない。
     堀木はそんな三人の様子を眺め

    「もしかして、誰も助けられないのかな😕」

     そう言って、背負ったねうねいに視線を送る。

    「悲しいね、めあめあ🥹」

     と、堀木は笑った。

  • 718◆xaazwm17IRZa23/04/16(日) 02:21:55

    28話⑬を終了します……!

    今日はここまでとさせていただきます……!
    たくさんの感想、アイデア、ありがとうございます……!

    明日は15時程度から始めさせていただきます……! またお手すきのときに覗いていただけると幸いです……!

    それでは、本日もありがとうございました……!

  • 719二次元好きの匿名さん23/04/16(日) 02:28:25

    流石に即外しとはいかないか

  • 720二次元好きの匿名さん23/04/16(日) 02:33:06

    乙でした〜
    こうしている間にも石川がやって来るかも知れないしあまり時間がないな…
    ここにいる奴らは殆ど全員石川のターゲットだし

  • 721二次元好きの匿名さん23/04/16(日) 02:43:32

    というか実際首輪は技術があれば外せるってもんでも無さそうよね
    結局は根本の異能者を殺さないとどうしようもないだろうけど、今のところ中心部から出向いてくれる様子はないよなぁ

  • 722二次元好きの匿名さん23/04/16(日) 03:09:07

    金輪がいたら魔法の薬でなんとかなったかもしれないんだけどな……

  • 723二次元好きの匿名さん23/04/16(日) 13:37:30

    保守

  • 724二次元好きの匿名さん23/04/16(日) 16:34:34

    タフという言葉は石川のためにある…というくらい石川がタフなのは承知なんやが
    金輪の熱線が直撃して石川が着ていた服は燃えなかったのだろうか?まさか今の石川は全裸で戦っている!?

  • 725二次元好きの匿名さん23/04/16(日) 20:10:52

    そういえば金木だけ一切音沙汰がないけどもう廃校から逃げ出してるのかな

  • 726◆xaazwm17IRZa23/04/16(日) 22:53:06

    お待たせ致しました……! 本日も始めさせていただきます……!

    28話⑭を投下します……!

  • 727◆xaazwm17IRZa23/04/16(日) 22:53:46

    「堀木くんって、どうしてメスになったの?」

     なんて、センシティヴなことを聞けるほど、姫氏原は勇気が無かった。
     堀木彩の性自認が男なのか女なのか知らなかったし、彼の過去についても殆ど知らない。
     聞いてしまったら、関係が終わってしまう。そんな確信があった。
     浅くていい。
     軽くていい。
     今はただ、普通の高校生のように、恋愛ごっこを楽しみたい。
     悪霊に取り憑かれた少女は、堀木彩の内面に立ち入ろうとしなかった。堀木彩はかっこよかった。堀木彩は美しかった。堀木彩は、優しかった。
     それだけでいい。それだけで良かった。
     今日までは……。

  • 728◆xaazwm17IRZa23/04/16(日) 22:54:20

    (堀木くんに会えた……会えたのに……)

     殺し合いが始まって10時間以上が経過している。
     誰よりも早く首輪から逃れ、恋人にも再会した。
     恵まれている。恵まれているが……。

    (堀木くん、どうして……)

     爆弾付きの首輪を付けられ、殺し合いを強要され、瀕死のクラスメイトを背負い。
     それでも、堀木彩は何も変わっていない。いつも通りの堀木彩だった。

    (何も感じないの……?)

     ——怖い。
     心のどこかでずっと感じていたことが、初めて具現化された。
     堀木彩の内側は、どうなっているのか。
     何を考えているの!? その子が死んで悲しくないの!? 殺し合いが怖くないの!? 訊きたい。けれど、訊きたくない。堀木彩という幻想を壊したくない。もし彼の内面がグロテスクなものだったら……姫氏原は堀木の恋人ではなくなってしまう。そんなのは、嫌だ。

    「どうにかするアイテムはある」

  • 729◆xaazwm17IRZa23/04/16(日) 22:54:56

     素早く情報交換を終えた後、ドラギモスは、鞄から髑髏と赤十字が描かれた壜を取り出した。

    「これは、恐らく薬だ。髑髏が描かれているのはブラフだと、僕は思っている。けれど、それは僕の読み違いで、本当は毒かもしれない。だから、飲むか飲まないかは、本人が決めるべきだ」

     金輪に託された魔法のクスリを、ドラギモスはここで公開した。

    「大丈夫(*‘∀‘) 絶対薬だよ(*^-^*) ね、めあめあ(‘ω’)ノ」

     青白い顔のねうねいは、ゆっくりと奇妙な瞳を開いた。

    「おときばなしのきし、めあめあもばっかすなんだ(大丈夫だよ、私に飲ませて)」

    「いいのか?」

     肯定のニュアンスは伝わったのか、ドラギモスは不安そうに聞く。
     ねうねいは、笑顔で頷いた。
     ドラギモスは、そっと壜を差し出した。ねうねいはそれを口に含む。
     こくっ、こくっ、と喉が上下し、壜が空になるまで飲み干したねうねいは、にっこりと笑った。

    「はたのもとに、きしさまはあつまったんだ(もう大丈夫、降ろして)」

  • 730◆xaazwm17IRZa23/04/16(日) 22:55:44

    「え? あ、降ろして欲しいってことね('ω')ノ」

     堀木の背中から降りたねうねいは、その場でくるりと回った。

    「わーい(*^▽^*) やっぱり薬だったんだね( ;∀;)」

     その場に、安堵が広がる。
     ドラギモスも、ほっと息を吐くと、手を鳴らした。

    「まだやるべきことはたくさんだぜ。まずは、ロッカーで武器を入手してラッタッターを助けに行こう。その後はいよいよ全員の首輪解除に挑戦だ。誰一人死ぬんじゃないぞ。これ以上人手が減るのは困る。戦車もどうなったか気になるところだ。堀木たちが廃校に来たときは、止まっていたんだろ?」

    「うん( 一一) 急いでいたからスルーしたんだけど、誰か乗っていたのかな('Д')」

    「分からない。どうして止まったのかも、誰が操っていたのかも。もし僕たちの戦力に出来るなら、頼もしいが……」

    「とにかく、吾輩のロッカーを開けにいかんか? 首輪が解除されると思い後回しにしていたが、まだ先ならばミッションを済ませておきたい。ここから一番近いロッカーだしな」

    「そうだな。もう一度三階へ行くか」

  • 731◆xaazwm17IRZa23/04/16(日) 22:56:18

     そう言って、集団が動き出そうとしたときだった。
     爆音と共に、壁が窓が天井が破壊され、姫氏原の目の前で、Nek-Oが肉片になった。

    【Nek-O 死亡(残り魂:2)】

    「動き出したのか!? みんなバラバラに逃げ——」

     再び、衝撃。
     ドラギモスの声は聞こえなくなる。
     一気に現実に叩き戻される。
     首輪を外したからといって、殺し合いが終わったわけではないと、理解する。

    (逃げ……逃げないと……)

     何処に?
     具体的なプランを何一つ思いつけないなか、姫氏原が見たのは、砲弾が飛んできた方向へ向かう堀木の背中だった。
     次の瞬間、掠めた爆風に姫氏原は吹き飛ばされ、衝撃と共に意識を闇に落とした。

  • 732◆xaazwm17IRZa23/04/16(日) 22:57:00

    28話⑭を終了します……!
    時間を置いて、28話⑮を投下します……!

  • 733二次元好きの匿名さん23/04/16(日) 23:04:21

    毎回ついでみたいに殺されるNek-O草
    そして歯荷ちゃんは負けたのか…!?

  • 734二次元好きの匿名さん23/04/16(日) 23:34:13

    N...Nek-O!!!ドラギモス!!!

  • 735◆xaazwm17IRZa23/04/17(月) 00:27:02

    28話⑮を投下します……!

  • 736◆xaazwm17IRZa23/04/17(月) 00:27:49

     歯荷仄花がダンスを始めたのは、小学生の頃からだった。
     始めた理由は、何となく。友達に誘われ、一緒に始めた。その友達は中学に上がったときに私立へ行って疎遠になった。
     中学でも女子ダンス部に入った。そこは全国でも強豪で、練習は厳しかった。歯荷は決して目立つメンバーではなかった。生来の運動神経の良さでレギュラーメンバーには入っていたが、エースになるほどの実力は無かった。
     練習が好きではなかった。部活の時間は真面目にやるが、家に帰れば趣味のプラモデル作りに没頭した。部活の部長にして絶対的エースであった先輩は、家に帰ってもダンス漬けの生活で、将来はプロを目指しているという。ストイックで偉いな、と思った。自分には無理だ。元々何となくで始め、今も今更辞める理由がないから続けている。
     事件は、県予選当日に起きた。来る途中で、先輩が事故に巻き込まれた。命に別状は無いが、踊れる怪我ではないという。携帯の向こうから、いつも毅然とした先輩の泣き声が聞こえてきた。
     ごめんなさい、と何度も言っていた。信号を無視したのは、車の方だという。先輩は何も悪くなかった。

  • 737◆xaazwm17IRZa23/04/17(月) 00:28:34

     だから、歯荷は先輩の代わりにセンターへ立候補した。すんなりと決まったのは、誰もそこに立ちたくなかったからだろう。その先輩以外、誰もセンターの練習などしていなかった。歯荷だってそうだ。けれど、誰かがやらなければいけない。
     歯荷は、ダンスが好きではない。部活も、好きではない。けれど、その先輩のことは好きだった。誰よりもストイックで、誰よりも練習熱心な先輩のことを、尊敬していた。
     もし、先輩がセンターに立っていれば必ず全国へ行けると、そう確信していた。
     だから歯荷は、部で録画していた、練習時の動画を観た。
     集中して、目に焼き付けるように、凝視した。
     この通りに踊れば絶対大丈夫だと信じて。
     そして迎えた本番。
     歯荷は、完璧に部長の動きを再現した。
     一ミリの誤差も無く、完全に模倣してみせた。
     居ないはずの部長を、そこに出現させた。
     本番が終わり、舞台から引き、ようやく部員たちは今一緒に踊っていたのが歯荷仄花だと思い出し、青ざめた。
     歯荷たちのチームは、全国大会へと進んだ。
     県予選の動画を観た部長は、二度と部に姿を現さなかった。

  • 738◆xaazwm17IRZa23/04/17(月) 00:29:04

    (なんか嫌なこと思い出しましたわ……!)

     頭髪を掠める穂先を躱しながら、歯荷は眉を顰めた。
     躱しながらも蹴りを放つ。
     それをキリコは竹槍の柄で受け止める。
     その隙に護衛忍者くノ一が苦無で首筋を狙うが、穂先を戻しながらの肘でくノ一の腕を阻害し防御する。
     霧田キルコを挟みながら、歯荷とくノ一はインファイトを仕掛け続けている。
     習得したジークンドーと灘神影流。それに、現在進行形で覚え続けているキルコとくノ一の動き。それらを織り交ぜて歯荷はキルコへ攻撃を続けている。
     寸勁を仕掛け、破心掌を仕掛け、拾った手裏剣を投げつける。
     キルコの動きを覚え、彼女の攻撃を紙一重で躱す。

  • 739◆xaazwm17IRZa23/04/17(月) 00:29:35

    (模倣した動きを、ここまで必死に使うのは、あの時以来ですわね……!)

     そして、あの時ほど、簡単ではない。
     ここまで覚えて、護衛忍者と二対一にも関わらず。

    (戦局がこっちに傾かな過ぎて、ムカついてきますわね……)

     互角である。
     歯荷の攻防に、キルコは対応を続けている。
     歯荷のチェーンパンチを竹槍の柄による殴打で相殺し、わざと隙を作って攻撃を誘っても乗ってこない。
     対応されている。
     一方、キルコの攻撃もまた、歯荷は次々に覚えているため、対応できる。
     できるが。

    (何なんですの、この人……! 次から次へと……)

     竹槍を囮にした蹴り。これは知っている。
     しかし、そこから靴が飛んでくるのは知らない動きだ。わざと脱ぎ、武器のように飛ばした。自前の反射神経でぎりぎり躱す。その隙に穂先が眼球を狙う。

  • 740◆xaazwm17IRZa23/04/17(月) 00:30:04

     歯荷はキルコからラーニングした体捌きでギリギリ躱し、同時に廊下に転がしていた透明な日本刀を蹴り上げて、左手で持つ。
     剣術は知らない。が、キルコの竹槍捌きは覚えた。
     ならば、刺突は出来る。
     鋭い一撃をキルコに加える。避けられる。知っている。手を離す。
     右手に持った、あらかじめへし折っていた透明な日本刀の先端を突き出す。

    (取ったですわ!……っ!)

     攻撃は空ぶる。歯荷の二の腕に手裏剣が刺さっている。

    (いつの間に拾って、隠していましたの……!)

     油断も隙もない。
     痛い。
     痛いが、痛がっていたら死ぬ。
     生存本能が、痛覚をねじ伏せる。
     フォローするように、護衛忍者がキルコの側面に回り込み、苦無で攻撃する。
     キルコはその苦無を奪い取り、護衛忍者の額に刺した。

  • 741◆xaazwm17IRZa23/04/17(月) 00:30:32

    「…………は?」

     何だ今の動きは?
     歯荷の背筋に冷たいものが走る。
     目の前の怪物が、今この瞬間、更にもう1ランク強さの壁を越えたことを知る。

    (今ここで殺さないとやばいですわ……)

     歯荷は廊下を踏みしめ、前に出た。

    「寸勁っ! ですわ!」

     キルコは表情を変えずに躱そうとして、くノ一がそれを防ぐためにキルコに覆いかぶさろうとする。当然そんなことをすればキルコはくノ一の首に穂先を貫通させ、穴を開けると、柄で強打し千切りとった。
     明らかに強くなっている。キルコもまた、今までの人生で、歯荷&忍者は、石川を除けば一番の強敵だったのだろう。強敵との長い戦いは、彼女を成長させた。
     護衛忍者くノ一を破壊したキルコに、歯荷の寸勁が追いつく。
     キルコは表情を変えずに、掌で受け止めた。
     ワンインチパンチが発動し、衝撃が襲う。それを、キルコは全て受け止め……歯荷の真意に気づく。

  • 742◆xaazwm17IRZa23/04/17(月) 00:31:00

     この寸勁はキルコを倒すためのものではなく、キルコから遠ざけるためのものだと。
     寸勁の威力を利用し、遠ざかろうとする歯荷に、キルコは

    「逃がしません」

     素早く彼女の袖口を掴む。
     歯荷の顔が訝しむ。
     戦車を操れるキルコは、近距離より遠距離戦を好むはず。その心理を利用し、戦車の砲撃を躱しながら撤退するつもりだった。このまま強くなったキルコと忍者抜きで戦闘するより、そっちの方が生き残れる可能性が高いと、歯荷は考えた。
     故に、キルコが歯荷を掴んだのは想定外だった。

    (どういうことなんですの?)

     歯荷は一瞬で思案し、キルコの狙いに気づき、恐怖で顔を歪めた。
     次の瞬間、二人に戦車の砲弾が炸裂した。

  • 743◆xaazwm17IRZa23/04/17(月) 00:32:55

    28話⑮を終了します……!
    次のパートは時間がかかりそうなので、本日はここまでとさせていただきます……!

    今日もたくさんの感想をありがとうございます……!
    今週は更新が滞りがちでしたが、来週からはもう少し投稿ペースを上げられるように頑張ります……!

    それでは、本日もありがとうございました……!

  • 744二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 00:47:12

    お疲れ様です今回も最高でした
    それにしてもいつにも増して気になる引きだ……

  • 745二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 00:50:55

    乙でした〜!
    最近は話を跨いで伏線が貼られることも多くなったな
    そしてキルコの狙いが読者側にも分からん…

  • 746二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 01:00:06

    乙です!キルコもしかしてガードベントしようとしてる?

  • 747二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 01:02:06

    歯荷ちゃんって耐久性は一般人だったよね?
    戦車の砲撃ってそれで防げるようなもんなんだろうか

  • 748二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 06:05:47

    歯荷ちゃん小物っぽさと善性がいい感じに混じり合いつつコピー系能力者としての苦悩もちゃんと描かれててマジ良いキャラだな

  • 749二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 06:54:43

    タフ分からないけど歯荷ちゃんなら真空で砲弾防げたりしないのかな…
    あと堀木姫氏原ペアの関係が早速不穏だけどマジで酷い末路にならないと良いな…

  • 750二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 16:42:43

    ほしゅ

  • 751二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 22:14:21

    待機保守

  • 752二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 23:04:02

    そろそろかな

  • 753◆xaazwm17IRZa23/04/18(火) 00:12:07

    お待たせ致しました……!
    本日も始めさせていただきます……!

    28話⑯を投下します……!

  • 754◆xaazwm17IRZa23/04/18(火) 00:13:42

    「ラッタッター、俺、正義の味方になる」

     金島明宏……アキがそう宣言したのは、フリーのジャーナリストだった父の、葬式の席でのことだった。

    「父さんは事故死じゃない……殺されたんだ。この国の上層部には暗黒金持ちが蔓延っている、父さんはそれを暴こうとして殺された……」

     アキは泣いていた。泣きながら決意していた。

    「父さんの遺志は俺が継ぐ。俺が、奴らに正義を示すんだ」

     ラッタッターはアキの肩を撫でた。
     自分にも手伝わせてくれと伝えた。

    「駄目だ。ラッタッターにはダンスで世界を平和にするって夢があるんだろ? どんなに悪い奴でもダンスで分かりあえる。それがお前の夢だろ」

     ラッタッターは頷く。

    「じゃあ俺とは別の道だ。俺は悪とは共存できない。俺たちは友達だけどライバルだ! どっちが世界をより良くできるか勝負だ、ラッタッター!」

     その頃、ラッタッターは未だ無名のダンス少年で、アキは壁新聞しか書いたことがなかった。ここから始まる。大人になって世界を変える。二人の少年は誓い合った。
     ——金島明宏は大人になれずに死んだ。そして、パンパンパン・ラッタッターは……。

  • 755◆xaazwm17IRZa23/04/18(火) 00:14:20

    「いい加減にしやがれっ!」

     石川の回し蹴りはラッタッターの脇腹に当たったが、そよ風程度のダメージも与えられなかった。
     ノリノリで踊らなければラッタッターに攻撃できない。
     石川大輔は戦うことしか出来ない。ラッタッターは天敵だ。

    「くらえっ!」

     アフロを軸に回転を始めるラッタッターの顔面をサッカーボールキックで蹴り上げるが、顔には傷一つつかない。

    「くそっ、この理不尽な感じ、あの爺を思い出すぜ……!」

     石川は苛立たし気に唸った。ラッタッターの方から石川を攻撃する様子は無いが、その場を立ち去ろうとすると妨害する。
     ラッタッターの足止めに、石川はまんまと引っかかっていた。

    (しかし……マジでどうするよ? 踊りなんて俺は知らねぇし……)

     いや、と石川は思い直す。

  • 756◆xaazwm17IRZa23/04/18(火) 00:15:01

     一つ、自分でも出来る踊りがある。
     アレなら通じるのではないか。

    (試してみる価値はあるぜ……!)

    「ZOM♪」

    「!?」

     ラッタッターは驚愕する。
     石川がリズムを刻みだしたからだ。

    「ZOM♪ ZOM♪」

     あるメロディを口ずさみながら石川はラッタッターに近づき。

    「Capoeira Mata Um♪」

     蹴る。
     効いた。
     ラッタッターは吹き飛ばされる。

    「よっしゃぁっ!」

     石川は吠える。

  • 757◆xaazwm17IRZa23/04/18(火) 00:16:36

     石川は、踊れない。戦うことしか出来ない。もしラッタッターを攻略するために踊りの真似事をしようとしても、心の底から乗れないために異能によって阻まれるだろう。
     しかし、例外がある。
     踊りと格闘技が融合した、一つの技術がある。
     ——カポエイラ。ブラジルの奴隷たちが編み出した、蹴りを主体とした格闘技。音楽にノリながら互いに技を出し合うこの文化を、石川は習得している、わけではない。しかし石川の戦闘遍歴の中には、カポエイラ使いとの戦闘も含まれており、またYouTubeなどでカポエイラの動画を幾つも観たことがあった。
     故に、ノリノリでカポエイラごっこは……可能である。
     鼻歌を刻みながら石川は倒れたラッタッターに近づく。確かに蹴った感触があった。

    「どうした? テメェの主義に合わせて踊ってやったぞ? これで終わりか?」

     ラッタッターは苦痛で顔を歪めながら、ゆっくりと上体を起こす。痛みに慣れていないのだろう。脂汗をかき、怯えたように石川を見上げる。

    「けっ、異能が通用しなくなった途端この様かよ。つまんねぇなぁ」

  • 758◆xaazwm17IRZa23/04/18(火) 00:17:46

     Aonde tem Marimbondo? と歌いながら石川はラッタッターを、カポエイラの流儀に彼なりに合わせて蹴り殺そうとし

    「É 'zoom, zoom, zoom'♪」

     ラッタッターは身を捻ってそれを躱し、石川の側頭部に蹴りを叩き込んだ。
    メイア・ルーア・ジ・コンパッソ。「コンパスの半月」を意味する、変則後ろ回し蹴りである。

    「——っ!? おいおいマジかよ!」

     カポエイラは踊りであり格闘技である。——当然、全ての踊りを習得しているラッタッターは、カポエイラも習得している。
     ラッタッターが石川に弱った様子を見せたのも、マランドラージェンと呼ばれるカポエイラのテクニックである。
     ラッタッターと戦い、初めてのダメージに、石川の口角は吊り上がる。

    「くはっ、いい蹴り持ってるじゃねぇか!」

     ラッタッターはバク転をして立ち上がると、ジンガと呼ばれるカポエイラ特有のステップを踏み出した。

  • 759◆xaazwm17IRZa23/04/18(火) 00:18:37

     ラッタッターは楽しそうに笑った。石川が踊ってくれている。踊りが大好きなラッタッターがこれを喜ばないはずがない。
     石川も見様見真似でジンガを踏む。二人は互いに歌いながら回り始める。

     「「Zoom Zoom Zoom Capoeira Mata Um♪」」

     先手はラッタッター。ケイシャーダと呼ばれる顎への蹴りを放つ。石川はそれをスレスレで躱すと、お返しにハイキックを撃つ。ラッタッターはそれを一歩下がって躱す。
     ラッタッター挑戦的な笑みを浮かべると、再びケイシャーダを放つ。

    「おいおい、バリエーション無いのか!?」

     石川は躱し、相次いで放たれた二撃目が鼻先を掠め、うおっ!? とのけ反る。
     それを狙うように三撃目が来る。
     石川はたまらず右腕でガードし、その衝撃に全身を硬直させた。
     四撃目のケイシャーダ……と思わせてのアルマーダ(後ろ回し蹴り)。
     石川はまともに喰らいながらも、カウンターを叩きこもうとし、ラッタッターの頭部が自分の攻撃範囲に無いことに気づき、歯噛みした。
     脚だけが飛んでくる。

  • 760◆xaazwm17IRZa23/04/18(火) 00:19:37

     これがカポエイラ。
     自分から仕掛けておきながら、その理不尽さに石川は驚嘆した。おまけに動きが独特過ぎて、中々慣れない。以前戦った相手も、中々のカポエイリスタ(強敵)だったが、ラッタッターの場合、人種の違いによるリーチ差、更には異能により石川は緩い縛りだがカポエイラを逸脱した行動は取れない。
     それでも、石川のテンションは上昇する。

    「何だよラッタッター! これでいいなら最初からそう言えや!」

     ジンガを踏みながら、石川は楽しそうに笑う。ラッタッターもまた、同様に笑った。

    「今度はこっちの番だぜ!」

     石川はお返しに回し蹴りを放つ。ラッタッターは汗をかきながらそれを避ける。

    「まだまだぁ!」

     すかさず軸足を入れ替えてもう一度蹴る。
     ラッタッターは側転で逃れ、同時に蹴りを石川に放つ。

    「テメェばかりズルいぞ!」

     石川も逆立ちをした。

  • 761◆xaazwm17IRZa23/04/18(火) 00:20:17

     二人は逆立ちのまま、蹴りの応酬を繰り返す。
     互いの靴裏が合わさり、どちらも弾き飛ばされる。
     ラッタッターは身軽に回転しながら体制を立て直し、石川もまたごろごろと大地を転がりながら、倒立後転の要領で起き上がる。
     蹴られた箇所がずきずきと痛む。
     楽しい。
     もっと、楽しもう。
     二人は再びジンガを踏みながら、接近する。



     石川大輔は、孤独な少年時代を過ごした。
     彼は元々不良だったわけではない。多少乱暴な所はあるが、善良な両親に育てられて善良に育った。
     ただ、人より違うところは、誰よりも遊びに真剣だったということだ。
     男の子ならば誰もが一度は通る、戦いごっこ。テレビで見たヒーローを再現し、親や友達同士で小突きあう遊び。ただ、石川少年はガチだった。

  • 762◆xaazwm17IRZa23/04/18(火) 00:21:12

     戦いごっこは楽しかった。ずっと遊んでいたかった。一緒に遊んでいた友達を骨折させた。両親と共に謝りに行ったが、何が悪かったのか、石川には分からなかった。サッカーグランドを占領していた六年生に、ヒーローに憧れる子どもとして、注意をした。生意気だと囲まれたので、全員病院送りにした。自分より体格のある相手に多勢に無勢で戦いを挑むのは、本当のヒーローになったみたいで楽しかった。強いて言うなら弱すぎて物足りなかった。六年生は中学生に泣きついた。最初はその六年生の兄とやらが現れたがてんで相手にならなかった。ボコっているうちに徐々に強い相手が現れた。近くの中学校の番をしているという相手は小学生の石川大輔には中々の強敵で、倒すのに苦労した。
     楽しかった。もっと強い奴が来るかと思ったら、そこで打ち止めだった。もっと楽しみたいので、他の学区に行って、悪そうな奴を片っ端からボコった。今度は高校生も現れ、石川を楽しませた。
     石川が中学生になる頃には、既に不良として周囲から恐れられていた。中学の三年間で、中学高校のめぼしい不良はだいたい倒した。一人、西中に「壊し屋瀧沢」と呼ばれた女が居たらしいが、カタギになったらしく出会うことはなかった。また、東中に「鉄仮面」と呼ばれる神出鬼没の怪人が出るらしいが、これにも出会えなかった。

  • 763◆xaazwm17IRZa23/04/18(火) 00:22:03

     仕方ないので格闘技を始めた。まずは空手道場に所属した。一から技術を学ぶのが面倒なので、師範を闇討ちしたら破門された。
     しばらく格闘家を闇討ちする生活が続いた。
     あにまん高校に入学後は、クラスメイトの異能者たちに舌なめずりをしながらも、ひとまず相手を外部に定めた。美人局や裏の人脈で暴力団と何度か争った。楽しかった。
     小田斬と共に組を一つ滅ぼしたのは、特に爽快だった。何でも小田斬は、かつてそこに所属していた実の親父を斬殺しており、そこから因縁が生まれたらしい。暴力団の中でもきっての武闘派であり、全滅させたときは、石川も小田桐も傷だらけだった。

    「楽しいな、小田斬! またやろうぜ!」

     そう言って、小田斬に右手を差し出したが、小田斬にゴミを見るような目つきで睨まれ、石川は傷ついた。
     殴って、蹴って、絞めて、極めて、投げて、抉って、折って、砕いて、潰して、殺した。石川大輔の人生は常に暴力の中にあった。
     楽しい、楽しい、楽しい……!

  • 764◆xaazwm17IRZa23/04/18(火) 00:22:51

     もっと、もっと、もっと楽しみたい。

    「楽しいだろ、ラッタッター!」

     石川は吠えた。

    「戦いって、楽しいよなラッタッター!」

    「いえ」

     ラッタッターは首を振った。

    「戦いは、悲しいものです」

    「……そうかよ」

    「ですが、貴方との踊りは、とても楽しかった。……一緒に踊ってくださり、ありがとうございます」

    「…………こっちこそ、ありがとうな」

     石川の言葉に、ラッタッターは笑みを返すと、瞼を閉じた。
     そして、二度と目覚めることはなかった。

    【パンパンパン・ラッタッター 死亡】
    【残り 15人】

  • 765◆xaazwm17IRZa23/04/18(火) 00:23:34

     カポエイラ対決を下した石川は、事切れたラッタッターの死体を見下ろした。
     互いの蹴り技の応酬。しかし、石川の攻撃には殺意があり、ラッタッターには殺意が無かった。生死の境はきっとそこで別れた。

    「楽しかったよ」

     と、石川は呟いた。

    「お前との戦いは楽しかった、またやりてぇよ」

     でもなぁ、と石川は頭を掻いた。

    「殺したらもう二度と戦えないんだよなぁ」

     当たり前のことを、石川は改めて確認するように口に出す。

    「でもさ、こんな場じゃないと、お前ら、本気で戦ってくれねぇじゃん」

     だから、仕方ねぇよな。言い訳のようにそう言って、石川は廃校に足を向けた。
     かくして戦闘狂は、舞台に上がる。

  • 766◆xaazwm17IRZa23/04/18(火) 00:24:24

    28話⑯を終了します……!
    時間を置いて、28話⑰を投下します……!

  • 767◆xaazwm17IRZa23/04/18(火) 00:25:58

    補足:石川の恰好ですが、さすがに全裸だと石川も出会う参加者も可哀そうなので、フリーザを倒したときの悟空みたいなボロボロの半裸でイメージしていただけると助かります……!

  • 768二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 00:45:49

    うーん二人ともめっちゃいいキャラや……さわやかだけど切ない感じがいい

  • 769◆xaazwm17IRZa23/04/18(火) 00:50:39

    申し訳ないです……! 次のパートも作製に時間がかかりそうなので、明日に回します……!

    唐突ですが、本日はここまでとさせていただきます……!
    今日も感想をありがとうございます……! ここ1週間仕事が忙しく投稿ペースが下がっていますが、今週で廃校パートを終わらせられるよう頑張りますので、よろしくお願い致します……!

    また黒服・暗黒金持ち・デストラップは随時募集しています……!

    それでは、本日もありがとうございました……!

  • 770二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 00:52:24

    乙でした〜
    主の体調も心配なので無理せずにどうぞ〜

  • 771二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 03:35:19

    石川の戦闘力が描写されるほど廃村のジジイの異質さが際立つな

  • 772二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 10:25:11

    石川が順調にキルスコア稼いできてるな

  • 773二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 18:37:11

    保守

  • 774◆xaazwm17IRZa23/04/18(火) 22:32:33

    お待たせ致しました……! 本日も始めさせていただきます……!

    28話⑰を投下します……!

  • 775◆xaazwm17IRZa23/04/18(火) 22:33:41

     絶え間ない砲撃によって、廃校は徐々にその輪郭を失っていく。
     ガス管に引火したのか、至る所で火炎が上り、上層階が音を立てて崩れていく。
     砲声の中、ねうねい・めああえは戦車を探す。
     自分ならあれを止められる。そう確信していた。
     一緒にいた堀木、姫氏原、ドラギモス、Nek-Oがどうなったのかは分からない。意識を取り戻した時には、周囲に誰もいなかった。
     視界が霞み、膝をつく。砲声が聞こえ、校舎が揺れる。
     数多の砲撃に耐え切れなくなったのか、とうとう天井が崩れてねうねいの元へ幾つもの瓦礫が落下してきた。
     ——轟音と共に、瓦礫が粉砕される。

    「よぉ不思議ちゃん。無事だったか」

     ジークンドー少女、瀧沢魁が拳を突き出しシニカルな笑みを浮かべた。
     壁に叩きつけられ、砲撃された瀧沢は、砲弾が当たる前に寸勁で壁を破壊し難を逃れていた。爆風を浴びたことで全身に軽い火傷を負い、全身の傷が幾つも開いているが——まだ生きている。
     ねうねいも笑い返す。

    「かりうどをとめないと。きつねがしんぱいだ。(戦車を止めたい、協力してくれるかい?)」

  • 776◆xaazwm17IRZa23/04/18(火) 22:34:31

    「おう、いいぜ」

     読心。
     今の瀧沢は、ねうねいが何を考えているのか、明瞭に分かった。
     彼女を背負うと、戦車に向かって走り出す。

    「……お前、本当にいいのかよ」

     と、異形の少女に問うた。

    「おひめさま(いいんだ)」

     と、ねうねいも返す。

    「そうか……芝野もこんな気分だったのかねぇ……」

     砲声が近づく。
     きゅらきゅらとキャタピラを回し、戦車が廃校を残骸に変えていく。
     破壊された壁から屋外に出る。火災が起こっている屋内と比べ、外部は些か涼しく感じられた。太陽が真上で燦々と輝いているのに。

    (雲一つない青空だってのに、どうしてアタシは戦車に突っ込んでるんだろうな)

     唐突に、瀧沢は馬鹿馬鹿しさを感じた。

  • 777◆xaazwm17IRZa23/04/18(火) 22:35:15

     ジークンドーVS戦車。実際悪い冗談とか思えなかった。
     だから。

    「いくぞ不思議ちゃん。JKパワーを見せつけてやろうぜ」

    「うん、ふれんど」

     ねうねいが、瀧沢と共にワープする。
     本来、それはねうねいの異能では不可能な行為だった。ワープできるのはあくまで自分と、自分の保有する物だけであり、他者と一緒にワープは出来ない。それが、ねうねいの限界。
     しかし、今、その限界を踏み越える。
     抜け穴はあった。瀧沢は現在、読心でねうねいの話す言葉を理解できている。ねうねいの話す言葉が理解できるのは世界にねうねい・めああえただ一人であり、つまりねうねいの話す言葉を理解できる瀧沢魁は、ある意味ねうねい・めああえであり、ねうねいの「自分」に含まれ、ワープ対象となる。
     屁理屈に過ぎない。が、異能は自己認識によって規定される。ねうねいが一時的にそう解釈することによって、異能は実行される。

  • 778◆xaazwm17IRZa23/04/18(火) 22:35:50

     ねうねいと瀧沢は姿を消し、次の瞬間には、走行する戦車の眼前に姿を現していた。
     ——ここからはアタシの仕事だ。
     刹那で、瀧沢は集中を完了させる。天性の瞬発力。異能じみた思考の切り替えが、この絶技を可能とさせる。

    「——寸勁!」

     正面から、戦車に拳を当てる。
     その衝撃に、戦車は——静止する。
     正面装甲が歪に変形する。
     瀧沢の拳もまた、無数の肉が、筋繊維が、骨が、修復不可能な断裂を起こす。
     止まった。しかし、破壊されたわけではない。
     未だ戦車は継戦能力を失っていない。
     再び、キャタピラが回り始める……その前に、ねうねいは戦車に触れ、撫で、これは自分の「保有物」だと実感した。
     異能の発動対象となる。

  • 779◆xaazwm17IRZa23/04/18(火) 22:36:22

     ねうねいと瀧沢は目を合わせた。
     言葉を交わす時間はなかった。
     ねうねいと戦車は姿を消した。
     初めからいなかったように、いなくなってしまった。

    「……じゃあな、ねうねい」

     遠くの森林を眺め、瀧沢はそう零した。



     廃校より1㎞離れた、森林地帯。
     ねうねいと戦車はそこに居た。
     戦車は、その動きを止めていた。壊れたわけではない。キルコの操作範囲から離れたのだ。廃校を壊滅させた兵器は、嘘のように穏やかだった。
     その傍らでねうねいは空を大の字で寝転び、空を眺めていた。
     全身に広がる倦怠感、そして。

    「かふっ」

  • 780◆xaazwm17IRZa23/04/18(火) 22:37:29

     吐血。ワープの連続使用は、ねうねいの命を削っていた。恐らく、もう一度ワープしたら、ねうねいは死ぬ。自分で分かっていた。
     それでも、後一か所、飛ばなければならない場所があった。

    「…………」

     ねうないは、何かを呟くと、その場から姿を消した。
     そして、二度と離島に姿を現さなかった。

    【ねうねい・めああえ 消失】
    【残り 14人】



     ねうねい・めああえは死ぬつもりだった。読心で瀧沢は分かっていた。それでも止めなかったのは、彼女が覚悟を決めていたからだ。ねうねい抜きでも、瀧沢や他の生き残りが死に物狂いで頑張れば、戦車を止められるかもしれない。しかし、それまでどれだけの犠牲者が出るかを考えれば、ねうねいが戦車を道連れにするのが、最善……。

    「チッ、アタシがもっと強ければ済んだ話じゃねえか」

  • 781◆xaazwm17IRZa23/04/18(火) 22:38:02

     生きることを諦めるな、と芝野は言った。なるほど、生を捨てた者の思考を読むことは、実に腹立たしい。
     何より、今、目の前に現れた男が、ねうねいの正しさを証明していた。
     戦車とこの男を、同時に相手に出来る余裕は、今の自分たちにはないのだから。

    「よぉ、石川。数時間ぶりだな」

    「おぉ、瀧沢。元気そうで何よりだぜ」

     どちらも、血濡れであり、制服は汚れ、全身にダメージが残っている。
     それでも、二人の強者は、臆することなく向き合った。
     

  • 782◆xaazwm17IRZa23/04/18(火) 22:38:46

    28話⑰を終了します……!
    時間を置いて、28話⑱を投下します……!

  • 783二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 22:41:28

    これもしかしてマネモフル離脱とかあるのか?
    今度こそ脱出が絶望的になるけど…

  • 784二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 22:50:31

    今日は早めの更新で嬉しい
    そして状況がどんどん悪くなって行く…

  • 785二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 23:15:08

    グヘヘ今宵の宴も最高だぜぇ…!(更新お疲れ様です、もう皆どうなるのかわからん…)

  • 786二次元好きの匿名さん23/04/19(水) 01:21:33

    これマジで堀木がメチャクチャ強いかマネモフルが改心+全回復して仲間になるくらいじゃないとバドエンになりそう…

  • 787◆xaazwm17IRZa23/04/19(水) 03:26:22

    28話⑱を投下します……!

  • 788◆xaazwm17IRZa23/04/19(水) 03:27:30

    (戦車が消えましたか……)

     霧田キルコは、二階の窓から顔を離し、ふぅと、彼女にしては珍しい溜息をついた。
     廃校は、その輪郭を失いつつあった。
     本校舎、北校舎、東校舎。全棟、全階に砲撃が加えられた。窓は割れ、鉄骨が覗き、廊下は砕け、天井は裂け、各地で炎が上がっている。戦車を操作していたキルコもまた、熱気に炙られ大量に汗をかいていた。

    (状況は、私が握っています)

     戦車の操作権を手に入れたキルコは、屋外に居た参加者を狙い撃ちにした。しかし、居場所がバレた(と、キルコは勘違いしている)ことにより歯荷に襲撃を受け、予期せぬ白兵戦に突入した。謎の忍者と、歯荷の意外な強さに苦戦しながら、キルコは考えを改めていた。戦車に突っ込んだ瀧沢、砲撃を逸らした鰐淵、そして歯荷。戦車で追いかけまわしても確実に倒せる相手ではなく、彼女たちが徒党を組んで攻め立てれば戦車も攻略される可能性がある。
     逃げ出そうとする歯荷を掴んだのは、確実に砲撃を当てるためだった。歯荷は戦いの中で成長していた。ここで逃がせば、更なる強敵になりえる。着弾する直前まで押さえつけ、刹那の間際に飛び退けば、歯荷を確実に殺せる。そう踏んでいたのだが。
     失敗した、とキルコはわき腹を抑える。
     スカーフで止血は済ませたが、ここに忍者の苦無が突き立てられ、怯んだところを歯荷に傷口を蹴られてつい離してしまった。砲弾はギリギリで避けられ、歯荷仄花という成長する障害を野に離してしまった。

    (命が危なくなったときの彼女の爆発力……要注意ですね。火事場の馬鹿力に加え、生存に最も合理的な行動を無意識に選択できる……それも彼女の強みなのでしょう)

  • 789◆xaazwm17IRZa23/04/19(水) 03:28:01

     まだ自分の手に負える範囲だが、今後成長していけば追い抜かれるかもしれない。キルコもまた、この数時間で大幅に成長している実感はあるが……。
     とにかく、歯荷を逃がしたキルコは、方針を切り替えた。
     戦車でちまちまと狙うことは諦め、ランドマークである廃校を徹底的に破壊することに決めたのだ。
     無差別砲撃。
     砲弾で殺すのではなく、倒壊で殺す。
     狙うのは、分断と妨害である。
     他の参加者が容易に合流するのを防ぎ、また、廃校各地に安置されているロッカーを瓦礫の中に埋めてしまう。次の放送まで1時間を切ったこの段階で、まだミッションを終えていない生徒がどれだけいるかは分からないが、駄目元で脱落者を増やせるかもしれない。
     大暴れしているうちに、戦車が潰されるのは想定外である。どの道砲弾に限りがある以上、いつかは轢殺兵器としての価値しかなくなるのだ。使い潰すつもりで酷使したが、思ったより早く無力化されてしまった。廃校そのものを完全に残骸にするつもりだったが、結果は半壊。

  • 790◆xaazwm17IRZa23/04/19(水) 03:28:39

     ただ、ガスが通っていたらしく、火事が起きたのはキルコにとってついていた。
     この火事で、また何人かの生徒を脱落させられるだろう。

    「そろそろ移動しますか……」

     途中で移動するつもりだったため、キルコの居る本校舎2階は、破壊の規模が甘い。勘の良い生徒ならば、ここに操縦者がいると気づかれるかもしれない。
     また、キルコは校舎を破壊するだけでは足りないと考えていた。この後は、倒壊に巻き込まれた生徒を各個撃破し、大きくキルスコアを稼ぐつもりである。未だに首輪は一つも回収できておらず、次の放送の後に備えて、武器を大量確保しておきたい。

    (ああ、でも、ロッカーは私が埋めてしまいました。掘り出すのは大変ですね)

     人生最大の疲労が襲っているためか、キルコは普段ならあり得ない、「面倒」という感情を得ていた。
     壁が破壊されているため、二階から容易に地上に飛び降りられる。
     難なく着地し、さて、まずは1階保健室周辺を索敵してみるかと靴先(歯荷戦で脱いだ後、また履き直している)を向けたとき。

    「霧田キルコ……」

     声がした。

  • 791◆xaazwm17IRZa23/04/19(水) 03:29:11

     顔を向ければ、普段つるんでいる少女が二人。
     鰐淵英利。千頭之のづち。

    「ああ、お久しぶりですね」

     表情を変えずに、キルコは言った。



     戦車から逃げた二人は、しかし、意見を違えた。
    「廃校から逃げよう」と鰐淵は言った。
    「仲間を見捨てられない」と千頭之は言った。
     二人の意見は平行線を辿り、それでいて、別行動を取ろうとはしなかった。
     鰐淵は何度か、自身の木刀と千頭之に視線を行き来させた。
     この木刀を振り下ろせば、千頭之は死ぬ。
     自分はどうする? 何のために千頭之を探していた。
     ——殺すため、じゃなかったのか。
     鰐淵という一本の刀を錆びつかせたのは、千頭之なのだ。
     鰐淵が鰐淵であるためには、千頭之を殺さなければならない。

  • 792◆xaazwm17IRZa23/04/19(水) 03:30:02

    (…………今じゃないわ)

     無理やり、そう結論づけた。
     まだだ。
     まだ早い。
     この殺し合いは最長三日あるという。まだ一日目も終わっていない。
     なんだか一か月くらい経っている気がするがきっと気のせいだ。

     (でも、仲間と合流されるのは、困るわね)

     いざ千頭之を殺そうというときに瀧沢などにまた邪魔をされたら溜まったものではない。
     千頭之は今すぐ殺せない。かといって、大集団に加わりたくもない。
     どうするか。気絶させて持ち運ぶか。それとも……。
     結論から言えば、鰐淵は、遅かった。
     彼女が他の参加者と遭遇したのは、殺し合いが始まって10時間が経ってからである。他の参加者と比べ、殺し合いの時間間隔が抜けていた。瀧沢との喧嘩、戦車相手の正面対決というある意味一生の思い出になりそうな大イベントをこなした鰐淵は、どこか油断があったのかもしれない。もうしばらくは何事も起こらない、という。しかし、鰐淵が経験したこれらの事象は、この島においては2時間おきには発生する極々些細なイベントに過ぎない。
     結果として、千頭之に引きずられるようにして廃校を歩いていた鰐淵は、キルコの無差別砲撃に巻き込まれた。

  • 793◆xaazwm17IRZa23/04/19(水) 03:30:29

    「随分と、お疲れのようですね……」

     キルコは、コンクリと煤塗れになっている二人を見て、そう声をかける。特に、鰐淵の消耗は激しかった。恐らく、落下する瓦礫を木刀で砕いたり、一度キルコの前でも披露した、砲撃逸らしをやったのだろう。肩で息をし、足が痙攣している。

    「キルコ、お前、殺し合いに乗ったのか……」

     千頭之が怯えたように声をかけた。

    「ええ。はい」

    「どうしてだ……どうして、そんなことを……」

    「生き返らせたい人が居るんです」

     千頭之の目が、驚愕で見開いた。一瞬、キルコの頬に朱が射したような気がしたのだ。しかし、すぐに気のせいだと判断する。

  • 794◆xaazwm17IRZa23/04/19(水) 03:31:06

    「もしかして、オルランド……?」

     鰐淵の言葉に、今度はキルコが驚愕した。

    「ど、どうしてそれを知っているのですか……?」

    「いや、バレバレでしたし……。修学旅行もバスケ部と一緒に行ってましたし……。最近スラムダンクとか黒バス読んでるところよく見たし……」

    「むむむ……」

     誤魔化すように、キルコは竹槍の石突で地面を叩いた。

    「オルランドは、私の上位互換です。彼によって、私は更なる進化を遂げることができます……!」

    「見てください千頭之さん。厨二病と思春期が組み合わさるとこんなトンチキキャラになるんです。面白いですね」

    「わ、鰐淵……なんだか私たちにも刺さってる気がするぞ……」

     火災によって生じた生ぬるい空気が、三人の間を伝わった。

    (……駄目か)

     と、千頭之は思う。

  • 795◆xaazwm17IRZa23/04/19(水) 03:31:45

     平時のような言葉を交わしても、キルコから発せられる殺意は衰えない。
     殺し合いは、避けられない。

    「千頭之さんは、そこでじっとしていてください」

    「分かった……鰐淵、無理はするなよ」

    「……無理せずに勝てる相手なら、良いのですが」

     キルコは、へし折った竹槍を構える。槍と棒。簡素だが、キルコが扱えば容易く他者を殺傷できる。
     鰐淵は、木刀を構える。小学生でも扱える土産品だが、鰐淵程の剣士が扱えば、やはり他者を容易く殺傷できる。
     怜悧な視線が交じり合う。
     霧田キルコVS鰐淵英利。
     錆びた剣士と、壊れた機械が、殺し合う。

  • 796◆xaazwm17IRZa23/04/19(水) 03:32:21

    28話⑱を終了します……!

  • 797二次元好きの匿名さん23/04/19(水) 03:57:58

    乙でした〜
    展開も複雑になってきて先を考えるのが大変かと思います
    いくらでも待つのでお体に気をつけて!
    でも面白いからやっぱ続きが気になる!

  • 798二次元好きの匿名さん23/04/19(水) 09:59:57

    ああ…この一日は俺達も体感一ヶ月分だぜ!

  • 799二次元好きの匿名さん23/04/19(水) 18:30:22

    鰐×ちず尊い……
    なお死別エンド確定済みの模様

  • 800二次元好きの匿名さん23/04/19(水) 23:48:20

    今日もそろそろかな

  • 801◆xaazwm17IRZa23/04/20(木) 01:48:34

    お待たせ致しました……!
    申し訳ありません、本日は一作のみの投下とさせていただきます……!

    28話⑲を投下します……!

  • 802◆xaazwm17IRZa23/04/20(木) 01:49:39

     鰐淵英利は、中段の構えのまま、霧田キルコを見据えた。
     手に持つ武器は、恐らく竹槍。それを半ばでへし折り、二刀流の武器として使っている。
     二刀流は、弱点が多い。二つの刀を同時に扱うことは神経を使うし、膂力も半分になる。相手が霧田キルコでさえなければ、二刀流は決して恐ろしい相手ではない。

    (疲弊した体でどこまで戦えるか……)

     身を炙る熱気も、体中を流れる汗も、今は忘れる。
     前には霧田キルコが居て、後には千頭之のづちが居る。
     それだけを意識する。

    (出し惜しみは、しない)

     自らを、一つの刀剣だと仮定する。
     刀に意志は無く、刀に望みは無い。ただ、無機質な刃物に成る。
     瞬間、鰐淵はキルコの間合いに入った。

    「!?」

     キルコは目を見開き、鰐淵の抜き胴を、柄で受け止める。
     腕に伝わる感覚は、軽い。

  • 803◆xaazwm17IRZa23/04/20(木) 01:50:17

    (フェイント……!)

     返す刀で脳天を狙われる。これを本命と悟ったキルコは柄と穂先を交差させ、渾身の一撃を受け止める。
     軽い。

    (これもフェイント……!?)

     鰐淵の突きが、キルコの首に直撃する。
     喉を潰す、否、首をへし折る威力の一撃は、僅かに狙いが逸れ、鎖骨を砕くことに留まる。

    「くっ!?」

     鰐淵は、二の腕に突き刺さった手裏剣を抜いた。
     キルコが暗器として隠し持っていたものだ。最初の一撃を柄で受け止めた際に、キルコは投擲していた。
     傷が浅いが、痛みが鰐淵を刀剣から人間へ戻してしまった。
     痛み分け。それは、肉体だけでなく。
     キルコは、足元に転がった、竹槍の破片を転がす。

  • 804◆xaazwm17IRZa23/04/20(木) 01:51:06

     鰐淵は、半ばから折れた木刀に目をやる。
     ここまで酷使してきた武器が、とうとう寿命を迎えた。
     キルコは袖口から苦無を取り出した。
     鰐淵は

    「鰐淵っ、これを使え!」

     千頭之から投げ渡されたサバイバルナイフを受け取る。
     戦いは第二幕へと入る。



     刀剣マニア、女子剣道部エース、また茜沢より実戦剣術も学んでいる鰐淵だが、ナイフ術は門外漢だ。が、刃物に精通する鰐淵は、すぐにナイフの扱いに慣れた。
     二人の少女は、先ほどよりも近距離で、命のやり取りを繰り返す。
     鰐淵のナイフが、キルコの髪を切り、キルコの苦無が、鰐淵の頬に傷をつける。
     刃物だけでなく、状況を有利にするために、拳や蹴りも飛んでくる。

  • 805◆xaazwm17IRZa23/04/20(木) 01:51:41

     二人の実力は互角であった。何度目になるか分からないナイフと苦無の鍔迫り合い。
     ポーカーフェイスの二人も、疲労を隠しきれなくなっている。

    「埒が空きませんね……!」

     そう言って、キルコは袖口から何かを取り出す仕草を見せた。

    (また暗器か……! いや、ブラフか……? どっちだ……?)

     無駄な思考だ、と鰐淵は気づく。
     暗器だろうと、ブラフだろうと、何かする前に決着をつける。
     鰐淵はナイフを逆手に持つと、大地を蹴り、キルコとの距離を零にする。
     不意打ちめいたこの動きに、キルコは反応してみせた。
     右手で苦無を構え、左手で手裏剣を投げる。

    (やはり暗器だったか……!)

     手裏剣をナイフで弾き、キルコの喉を狙おうとして

    「ぐっ……」

     太腿に、苦無が刺さる。

  • 806◆xaazwm17IRZa23/04/20(木) 01:52:16

     キルコは手裏剣と時間差で、右手の苦無も投げていた。
     そして、袖口から新たな苦無を取り出し、鰐淵の額に突き立てる。

    「っらぁ!」

     鰐淵は痛みをこらえながら、ナイフで苦無を受け止めた。
     腹部に衝撃が走る。
     蹴られたのだと気づいたときは、嘔吐感と共に、キルコとの距離が引き離される。
     口から血が漏れる。肋骨が折れたのだと察した。
     ……改めて、霧田キルコは強い。
     鰐淵も相当鍛えこんでいるが、純粋な身体能力はキルコが上だ。
     ただ、自分もナイフの扱いにはかなり慣れてきた。ナイフ、悪くない。家に帰ったら、ナイフ収集をしてみるのも……。

    (あれ、私、帰れると思っているの……?)

     自分はここで死ぬ。殺し合いが始まって、そう覚悟した。
     なのに、千頭之のづちと再会して、一緒に廃校を彷徨ううちに、いつの間にか、現実を忘れていた。

  • 807◆xaazwm17IRZa23/04/20(木) 01:53:51

     いけない、と首を振る。
     やはり、千頭之のづちは危険だ。
     自分が自分で無くなってしまう。
     これ以上、錆びつかせないでほしいと、恨みがましい目を、後ろの千頭之に向け。
     ——千頭之のづちは、倒れていた。

    「………………え?」

     首に、鋭利な緑色のモノが、刺さっている。そこから血を噴き出して、千頭之のづちは天を仰いでいた。

    「…………え、なに、これ……?」

    「ようやく気づいたんですか? さっき手裏剣を投げたとき、同時に足元の竹の破片を蹴っておいたんです。貴女に邪魔されないように、苦無に意識を誘導させましたが。……千頭之のづちは、死にましたよ」

    「お前…………お前ぇえええええええええええええええええええええええっ!」

     霧田キルコの狙い通り、鰐淵英利は、我を忘れて特攻した。
     獣の如く突っ込む鰐淵をキルコは、冷静に苦無で仕留めようとし——

  • 808◆xaazwm17IRZa23/04/20(木) 01:54:26

     ——小指と薬指が、宙を舞う。

    「なっ!?」

     キルコは驚愕の声を上げた。
     動揺すれば技にムラが生まれ、戦局が有利になるはずだった。
     しかし、鰐淵の技はむしろ冴えわたり、ナイフで剣術めいたことを披露してみせたのだ。
     戦国時代の剣客、伊藤一刀斎。かの人物の奥義は「夢想剣」と呼ばれる。その極意は、無意識に相手を斬ることにある。
     怒りで我を忘れた鰐淵は今、この境地に居た。
     指を切られたことで苦無はキルコの手から離れる。
     そして、新たな暗器を出す前に、キルコの心臓に、ナイフが突き立てられた。

    「——あっ……」

    「キルコぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

     キルコの瞳から、急速に光が失われていく。
     網膜に、両親の顔が映った。

  • 809◆xaazwm17IRZa23/04/20(木) 01:55:02

     歴代の担任教師の顔が映った。その中には、茜音沢の顔もあった。
     そして、整った顔立ちの、背の高い男子が映った。
     キルコサン、一度、練習ヲ、見学ニ来マセンカ? 

    (オルランドなら……あの人なら……)

     ——これくらいでは、妥協しない。
     キルコは、鰐淵の首に獣のように噛みついた。そのまま、頸動脈ごと、首の肉を齧り取る。
     鰐淵の腕から力が抜けた。
     ——勝った。
     キルコは肉を吐き捨てながら、鰐淵を引きはがそうとし、
     ぐいっ、とナイフが捩じられた。

    「がっ……!」

     意識が明滅する。今のが、死に際の鰐淵の最後の抵抗だったのだろう。
     ナイフから手を離し、鰐淵は地面に倒れ伏す。

    「ぐっ、くっ、ガァ……」

  • 810◆xaazwm17IRZa23/04/20(木) 01:56:16

     キルコは唸った。今度こそ駄目だ。
     死ぬ……死んでしまう……何も為せぬまま。二度と、オルランドに会えぬまま。
     そんなことはありえない! あってはならないことだ! 死なない……まだ、死ぬわけにはいかない……!

    「オルランドなら……この程度で……死なないっ!」

     血を吐きながら、キルコは叫んだ。
     ……世界に色が戻る。精神力がこの世の摂理を捻じ曲げたのか、あるいは霧田キルコの肉体が特異なのか。彼女は未だ、生者としてこの島に存在を許された。
     よろめきながらも、キルコは歩き出した。保健室で応急処置をしなければならない。命を繋ぎ、もっと死体を積み上げなければ。——いつかオルランドに届くまで。

     ◇

     キルコが去った後、ゆっくりと、蛇のように大地を這いずる者がいた。

    「……のづち……さん」

     鰐淵英利は、生きていた。
     もはや立ち上がることは不可能だが、それでも少しずつ、千頭之のづちの亡骸に近づく。

  • 811◆xaazwm17IRZa23/04/20(木) 01:56:48

    「わたしは、あなたを……」

     鰐淵は、千頭之の、鮮血が噴き出している首に手を置いた。

    「あなただけは、わたしのてで……す」

     最期の力を振り絞って、のづちの首を絞める。
     そして、鰐淵英利は力尽きた。

    【千頭之のづち 死亡】
    【鰐淵英利 死亡】
    【残り 12人】

  • 812◆xaazwm17IRZa23/04/20(木) 01:59:18

    28話⑲を終了します……!
    本日の投下はこれだけとさせていただきます……!

    投稿ペースが遅くなり申し訳ありません……! 今週中に廃校パートを終わらせられるよう頑張ります……!

    毎日の感想ありがとうございます……! 励みに明日も頑張ります……!

    それでは、今夜も集まりいただき、ありがとうございました……!

  • 813二次元好きの匿名さん23/04/20(木) 03:29:06

    うわぁ……うわぁ……

  • 814二次元好きの匿名さん23/04/20(木) 04:23:20

    >>813

    ワァ…泣いちゃった!!

    まぁ俺も泣いてるんだけどね

  • 815二次元好きの匿名さん23/04/20(木) 04:31:42

    何気にドラギモちゃん死亡確定で草も生えない

  • 816のづち作者23/04/20(木) 06:35:04

    蛇とクラスメイトに惚気ているうちになんか死んでいた女、千頭之のづち

    合掌

  • 817二次元好きの匿名さん23/04/20(木) 07:22:48

    マネモフルの動き止める活躍がある、関係性もある、しかし幸運が無いでしょッッッ
    でも最後鰐淵の手に掛けられて良かったね良くない

  • 818二次元好きの匿名さん23/04/20(木) 07:41:12

    最後のミッション案です。展開次第では採用して頂かなくても大丈夫です。

    【名前】鎮魂祭
    【説明】
    島内の全ての生存者・デストラップたちは中心部のどこかに転送され、最後のミッションが始まります。
    プレイヤーの皆さんは生徒、黒服、金持ちの3チームに分かれて争って頂きます。
    それぞれ指定されたチーム、すなわち生徒→黒服→金持ち→生徒をターゲットとし、標的チームの1名を殺 害することでミッションクリアとなります。

    また、6時間を待たずして3チームのいずれかが壊滅した場合全ての生存者がミッションクリアと見做されます。

  • 819二次元好きの匿名さん23/04/20(木) 07:51:23

    >>818

    茜音沢は完全に敵ですが所属としては生徒チームにカウントされます

  • 820二次元好きの匿名さん23/04/20(木) 10:42:47

    >>816

    いやもうほんとに「なんか死んでた」って言葉が似合いすぎるくらいあっさりとした死に様で悲しかった

    ペットとも再会出来てないしのづちちゃんの人生って何だったんでしょう……?

  • 821二次元好きの匿名さん23/04/20(木) 19:28:39

    保守

  • 822二次元好きの匿名さん23/04/20(木) 21:32:28

    なんとなくだけどここって元は新篠と小田斬くんでやる予定のとこだったのかね

  • 823◆xaazwm17IRZa23/04/21(金) 00:16:57

    お待たせ致しました……!
    本日も始めさせていただきます……!

    28話⑳を投下します……!

  • 824◆xaazwm17IRZa23/04/21(金) 00:17:38

     少年が、その街に引っ越したのは、10歳のときだった。
     今まで引っ越しは何度かあった。行く先々の学校で、少年は馴染めなかった。転校生という奇特な者を見る目に、少年は耐えられず、集団で不和を起こした。
     家族以外で、少年と心を通わせる者は居なかった。家族でさえも、本当に心を通わせていたかは分からない。
     少年は孤独だった。
     少年がその人に出会ったのは、夏の、ある雨の日だった。
     傘も射さずに、少年は帰路についていた。
     行きは傘を持って行った。けれど、帰るときには、無くなっていた。誰かが持って行ってしまった。少年の傘としってのことだったのか、無作為だったのか。少年には分からない。だから少年は雨に濡れながら帰っていた。

    「君、大丈夫?」

     後ろから、傘を差しだされた。
     振り返ると、10代後半の、少年から見て随分年上の少女が、少年を守るように傘をさしていた。

    「傘、忘れちゃったの? それとも、誰かに持ってかれちゃった?」

     少年は押し黙ってじっとセーラー服の少女を見つめた。
     綺麗な人だ、と少年は思った。
     少年から見て、高校生らしきその少女は、随分大人に見えた。
     緊張して固まっている少年をまじまじと見下ろして、少女はもしかして〇〇さん家の子? と少年の名字を呼んだ。

  • 825◆xaazwm17IRZa23/04/21(金) 00:18:04

    「会うのは初めてだね、私は姫氏原小毬。君のお隣に住んでるの。……ね、もしよかったら一緒に帰らない?」

     少年は恥ずかしくなって、はいともいいえとも言えなかった。
     姫氏原のタオルで一通り拭かれた後、二人は手を繋いで歩いた。
     色々な話をした。少年から話せることは少なかった。姫氏原の話は面白かった。高校のクラスメイトが個性的で毎日退屈しないのだという。サッカー部の彼氏はメンタルが弱く、もうすぐ試合でナーバスになっているのだという。異能……という単語を言った後、慌てて口を噤み、不思議な学校と誤魔化していたのは気になったが、姫氏原の話は面白かった。
     家が見えてきて、少年は寂しくなった。
     また遊びたい、と姫氏原に言った。
     遊びに来なよ~と姫氏原は明るく笑った。

     彼女がクラスごと失踪したのは、一週間後のことだった。
     何年待っても、姫氏原小毬は帰ってくることはなかった。

  • 826◆xaazwm17IRZa23/04/21(金) 00:18:37

     姫氏原が目を覚ましたとき、世界は滅んでいた。
     と、錯覚するほどの惨状だった。
     自分たちは本校舎の1階にいたはずだ。しかし、規則的な内装は、無秩序な瓦礫の山に代わっている。ガラスが散乱し、天井は崩れ、机も椅子も無造作に転がっている。近くにいた筈の堀木も、ねうねいも、ドラギモスも、Nek-Oも、どこにも姿が見当たらない。

    (みんな、どこに行ったの?)

     瓦礫の下敷きなのか。砲弾でバラバラになったのか。……生きているかどうかさえ、分からない。

    (それに……さっきの夢は……?)

     自分が居た。けれど、知らない記憶だった。年下とはいえ、男性と手を繋ぐなど、姫氏原には出来ないことだ。自分じゃない自分の記憶。
     視点は誰だったのか。それさえ分からない。隣に住んでいる小学生などいない。姫氏原は学園の女子寮で、一人暮らしをしているのだから。

    (いったい私に何が起こっているの……?)

     怖い。

  • 827◆xaazwm17IRZa23/04/21(金) 00:19:05

     全てが、怖い。
     それでも、姫氏原は歩み始めた。
     まだ生き残っている生徒が居るのかもしれない。
     戦車の音がしなくなっている。誰かが上手くやってくれたのかもしれない。
     堀木が、困っているのかもしれない。

    「だ、誰か、誰か居ませんかー!」

     姫氏原は大声を挙げて、生存者を探し始めた。
     と、こちらに近づく足音があった。
     姫氏原は立ち止まる。
     怖い人か、怖くない人か。
     会ってみなければ分からない。
     ただ、気づいたことが一つあった。こうも破壊された場所で、自分は奇跡的な程に傷が無かった。
     きっと悪霊が守ってくれたのだろう。
     だから、大丈夫だ。

  • 828◆xaazwm17IRZa23/04/21(金) 00:19:38

     きっと、全てが上手く行く。
     ——暗がりから姿を現したのは、霧田キルコだった。
     その姿を視ただけで、姫氏原は恐怖で卒倒しそうになった。
     元から不良という噂はあった。
     が、今のキルコからは鬼気迫る気配を感じた。
     殺意と執念が人型を作ったような、そんな存在感があった。

    「どうして……?」

     と、キルコは首を傾げた。

    「どうして、首輪が無いんですか?」

    「わ、私は……ドラギモス君に外してもらった」

     言った後、しまったと思った。ドラギモスがキルコに狙われるかもしれない。同時に、チャンスだとも思った。首輪を外せると分かれば、キルコも物騒なことはしないかもしれない。

    「……それって、ゲームではどういう扱いになるんでしょう?」

    「な、何が……?」

  • 829◆xaazwm17IRZa23/04/21(金) 00:20:16

    「首輪を外した貴女と、私、二人が生き残った場合、どういう裁定になると思いますか?」

     知らない、と素直に思った。姫氏原は審判ではないのだから。

    「わかんないけど、その場合は、キルコさんが、優勝なんじゃないのかな……」

    「そうですか……では、貴女を殺すメリットはありませんね」

     そう言って、それっきり姫氏原に興味を無くしたのか、キルコは通り過ぎようとする。
     助かった。
     姫氏原は安堵に震え

    「ちょっと待って……」

     キルコを呼び止めた。

    「……何か?」

    「一つだけ聞かせて……」

    「何でしょう?」

    「もし、堀木くんに会ったら、貴女はどうするの?」

  • 830◆xaazwm17IRZa23/04/21(金) 00:20:51

    「殺します」

     即答だった。

    「……させない」

     キルコが立ち止まり、姫氏原を見据える。

    「どうするのです? 貴女に何が出来ると?」

    「……堀木くんは、私が守る!」

     瞬間、キルコは脇腹に衝撃を感じた。

    「ぐっ……!」

     驚愕と痛みを噛み締める。
     姫氏原の悪霊は、男性にのみ反応する。そういう理解だったのだが……。

    (考えが甘過ぎましたか……。どうやら彼女も、排除する必要がありますね)

    (どういうこと……? 悪霊が、私の思い通りに動いた!? でも、これなら、戦える……!)

     霧田キルコVS姫氏原小毬。
     恋する少女は殺し合う。

  • 831◆xaazwm17IRZa23/04/21(金) 00:22:03

    28話⑳を終了します……!

    時間を置いて、28話㉑を投下します……!



    >>818

    ありがとうございます……! 一部改変して、ミッションで使わせていただきます……!

  • 832二次元好きの匿名さん23/04/21(金) 01:45:30

    姫氏原ちゃんが予想以上にキーパーソンみたいだな
    時系列がいろいろとおかしくなってる…

  • 833二次元好きの匿名さん23/04/21(金) 02:12:14

    うわぁ…これ今何周目なんだ…?
    そしてそもそも最初から"悪霊"なんて存在したのか?

  • 834◆xaazwm17IRZa23/04/21(金) 03:15:26

    28話㉑を投下します……! 本日最後の投下です……!

  • 835◆xaazwm17IRZa23/04/21(金) 03:16:32

     合理的、という言葉を、実のところ、キルコはよく分かっていない。
     「理」というものが分からないのだ。
     それは、誰にとっての「理」なのか。「理」の定義が分からない。
     人によって「理」が違うのではないか、とそう思うときもある。
     だから、キルコは「上位者」を据える。
     上位者の命令に従えば、命令を遂行された上位者は幸せになり、上位者が幸せになったことで、キルコもまた幸せになる。
     人の数だけ価値観があり、人の数だけ「理」があるのなら、キルコは「上位者」の「理」のみに価値を置く。
     そうすれば問題なく自分とその周囲は幸せになれる。
     ——だから、上位者を失うわけにはいかない。失ったのなら、取り戻さなくてはならない。それまでキルコは止まれない。
     保健室に辿り着いたキルコは、ナイフを抜き取り、消毒液と包帯で止血処理を済ませた。致命傷を負った、という自覚はある。が、それがどうしたというのだろう。キルコの上位者であるオルランドならば、心臓に穴が開いた程度で止まるはずがない。

  • 836◆xaazwm17IRZa23/04/21(金) 03:17:10

     何よりここでキルコが生を諦めれば、オルランドが生き返る可能性は零になる。ならば、キルコには諦める選択肢は発生しない。

    「それにしても……」

     保健室もまた、戦車による惨禍を免れなかった。
     医薬品が並べられた棚も、複数のベッドも、何故か大量に安置されている剥製も、全てが我楽多と化している。
     キルコが自分で行ったことだが、実際に破壊の痕を目にすると、近代兵器の火力は凄まじいものがあると感心する。同じ惨状をキルコが作るには、かなりの労力がかかるだろう。

    (やはり、戦車を失うのが早かったのかもしれませんね)

     ふと、そんな予感がした。今、どれだけ参加者が生き残っているのかは分からないが、新條アキラ、小田斬純恋、石川大輔といった強者は、砲撃の嵐を生き延びていてもおかしくない。彼らに対抗するには、キルコは些か装備が不足していた。忍者からくすねた暗器も残り僅か。これらを失えば、キルコの武器は灰皿しか無くなってしまう。

    (ああ、この血濡れのナイフも、一応武器にはなりますね)

  • 837◆xaazwm17IRZa23/04/21(金) 03:17:45

     苦無や手裏剣にナイフが増えたところで、そう変わらないとは思うが。
     死体が銃器を持っていてくれればいいが、とキルコは保健室を見渡した。
     妙に気になる箇所があった。壁の一部が少しだけ色が異なっている。キルコはそこに近づき、周囲と叩き比べる。

    (ここだけ音が違いますね……試してみますか)

     ヤクザキックを壁に放つ。天性の身体能力に、鍛え上げた護身術、そこにこの島での戦闘経験が加わり、キルコの蹴りは、元々薄い壁を容易く破壊した。
     そこは、薄暗い小部屋があった。キルコは油断なく苦無を構えながら侵入し、ある物を見つける。
     それは本来、剥製の仕掛けを見抜き、作動させなければ辿り着けない場所であった。戦車により剥製も、隠していた医療棚も全て吹き飛ばされた結果、力技によって発見されることになる。
     キルコは新たな武器を手に入れると、保健室を後にした。

  • 838◆xaazwm17IRZa23/04/21(金) 03:18:16

     姫氏原小毬は、悪霊を操作できない。
     もし操作できるのなら、惨めな半生は送っていない。
     悪霊は自動的に男を排除し、独善的に姫氏原を守護している。
     嫌いだった。
     好きになれるはずがない。
     姫氏原の一度しかない青春は、悪霊によって滅茶苦茶にされてしまったのだ。
     ありとあらゆる除霊を試したが上手くいかなかった。一生、悪霊は自分の人生に憑いて周るのだと思うと、姫氏原は死にたくなった。
     ——だから、堀木に告白され、彼が姫氏原の手を繋ぎ、起こるはずの災いが起きなかったとき、姫氏原は救われたと思ったのだ。
     自分にだって、青春が遅れるのだと、堀木が教えてくれた。
     こんな、悪霊付きの自分を、リスクを承知で告白して、恋人になってくれた。
     守りたい。
     堀木は、怖い。
     何を考えているのか、分からない。

  • 839◆xaazwm17IRZa23/04/21(金) 03:18:57

     でも、姫氏原小毬を救ってくれたことは、確かな事実なのだ。
     それに、報いたい。

    (その力は……今の私には、ある……!)

     姫氏原の想いに応えるように、悪霊はキルコに殴りかかる。
     キルコは無表情で、見えないはずの拳を防御する。
     闇雲に防いでいるわけではない。防御の位置、動作、一つ一つが的確だった。
     明らかに、悪霊が見えている。
     どうして? と姫氏原は考えるが、分からない。
     石川にも見えていたように、キルコにも見えるのか。
     強い人間ならば、透明でも視認できるのか。

    (そんなの、チートだよ……!)

     泣き言を言っても、仕方がない。姫氏原は恐怖を押し殺して、悪霊でキルコに攻撃を続ける。
     キルコが悪霊を視認できる理由は、極めてシンプルである。
     霧田キルコは死にかけている。

  • 840◆xaazwm17IRZa23/04/21(金) 03:19:38

     どれだけ気合を入れたところで、どれだけ応急処置をしたところで、心臓に穴が開いた生物は生きられない。
     彼女の状態は、生者よりも死者に近いのだろう。故に、死者である悪霊を、視認できる。
     が、そこまで弱っているからこそ、中々反撃に転じることが出来ない。
     石川と違い、遊びが無いキルコならば、本来は悪霊を素通りして、姫氏原本体を仕留めることが可能だったのだろう。鰐淵の隙を突き、後ろの千頭之のづちを仕留めたように。
     しかし、今のキルコにはそれが出来ない。暗器を取り出し、投擲する余裕がない。
     ぼんやりと見える悪霊の攻撃を、防ぎ続けるだけで精一杯である。

    (打開策は、無いものでしょうか……)

     キルコは、頭を働かせる。
     そして、どうしてゲームから一抜けしている姫氏原と戦闘をしているかを思い出す。

    (動機を潰しますか……)

     キルコは体を翻し、逃げる体勢を取った。

  • 841◆xaazwm17IRZa23/04/21(金) 03:20:16

     姫氏原が自己の生存を優先するなら、追ってこないはずだ。
     しかし

    「逃がさない……!」

     悪霊はキルコの後を追う。
     横殴りを弾きながら、キルコは、やはり姫氏原は自分のためではなく、誰かのために戦っていると確信する。
     堀木彩のためなのだろう。
     キルコは、堀木彩の情報を脳内から引き出す。

    「……堀木彩を、守りたいんですか?」

     キルコの問いかけに、姫氏原は拳でもって答える。
     荒くなった攻撃を、キルコは冷静に捌いていく。

    「——彼は、貴女のことを、何とも思っていないのに?」

    「っ!?」

     姫氏原の顔に動揺が広がった。

  • 842◆xaazwm17IRZa23/04/21(金) 03:21:05

     攻撃が更に荒くなる。もはや捌く必要すらない。体を僅かに捻るだけで躱せる。……まだだ、まだ引きつけねば。
     キルコが後方に下がる度に、悪霊は後を追っていく。

    「私の見る限り、堀木彩は自己愛の強い異常者ですよ」

    「違う……!」

    「貴方は堀木彩を必死に守ろうとしていますが、堀木彩は恐らく、貴女の死に何も感じませんよ?」

    「そんなこと、ない……!」

    「では、貴女は堀木彩が自分を愛していると、確信しているのですか?」

    「堀木くんは……いつも……私の髪を撫でてくれた……可愛いよって、好きだよって、言ってくれた……!」

    「……本心で?」

     悪霊の攻撃が、止まった。

    「本当の堀木彩に触れたことが、貴女にはあるんですか?」

     姫氏原は、堀木の言葉を思い出す。

  • 843◆xaazwm17IRZa23/04/21(金) 03:21:40

    「好きだよ(*^-^*)」

    「可愛いよ🤣」

     それが、堀木の本心だと、思ったことは、一度も無かった。
     本当に、私のことが好きなの?
     何度も、そう訊きたくなった?
     けれど、訊けなかった。
     クラスで一番仲の良い子は誰? と遠回しに訊いたことはあった。女子マネを含むサッカー部を含めなかったのは、姫氏原の恐怖心の表れだった。女子生徒の名前が、あるいは、男子生徒の名前が出たらどうしようと、それでも戦々恐々だった。

    【姫はね、姫のことが、まぁまぁ好きかな(/ω\)】

    あれは本心だったのか、誤魔化しだったのか。姫氏原には分からない。

    (……分かってるよ)

     堀木が、一度も姫氏原に素を曝け出していないことは、誰よりも知っている。
     ただのセフレでしかないのかもしれない。
     それ以下の、玩具扱いなのかもしれない。

  • 844◆xaazwm17IRZa23/04/21(金) 03:22:18

     姫氏原が死んでも、次の日には名前も忘れられるような、そんな軽い存在なのかもしれない。

    (分かってる。こいつに言われなくても、私は分かってる……!)

     一方通行の愛。ただの依存。
     それでも、堀木との爛れた日々は幸福だった。それだけは胸を張って言える。

    (私は、堀木くんと会えて、幸せだった……!)

     だから、堀木を守るために、キルコはここで止める。
     なおも逃げようとするキルコを逃がすまいと、姫氏原は悪霊を操作する。
     バック走のような体勢で逃げる彼女を止めるために、何度目になるか分からない拳を振るい。
     ——キルコが、こちらに向かって何かを投げた。
     姫氏原の動体視力では、それが何かは分からなかった。
     ただ、恐ろしいことが起きる予感はした。悪霊を自らの近くに戻そうとする。
     間に合わない。距離が空き過ぎた。悪霊がガードする前に、それは到達する。
     姫氏原は咄嗟にその場に蹲った。生物としての本能が、彼女を動かした。

  • 845◆xaazwm17IRZa23/04/21(金) 03:23:24

     荒事慣れしていない彼女にとって、それは適切で、迅速な行動だったのだろう。
     しかし、遅かった。
     蹲っても、殆ど意味が無かった。
     キルコが保健室で手に入れた武器……手榴弾が、炸裂した。
     同時に、銃声も響いた。

     ◇

     自分が誰かに抱きかかえられていると姫氏原は気づいた。
     まだ、思考できる。息が吸える。見知った匂いがした。

    「…………堀木、くん?」

    「小毬、大丈夫(笑)」

     普段通りの、浮ついた、楽しそうな声だった。
     自分が、堀木に抱きしめられていると姫氏原は気づき、つい赤面してしまう。
     助けられたのだと気づく。堀木は助けに来てくれた。それだけで、心がこんなにも温かくなれる。

    「ありがとう、堀木くん……。助けてくれて……」

  • 846◆xaazwm17IRZa23/04/21(金) 03:24:24

     堀木の顔を見上げ、姫氏原は絶句した。

    「堀木くん……顔が……!」

     にこり、と堀木は笑った。
     蠱惑的な美貌が、失われていた。
     右側は比較的無事だが、左側は醜く焼け爛れていた。

    「小毬は無事(*^▽?」

    「わ、私より堀木くんの方が……」

    「姫は大丈夫(*‘」

    「どうして……どうして私なんかのために、そこまで……」

    「え、恋人じゃないの、姫たちってさ(*'ω」

     何てことないかのように、堀木彩は立ち上がる。
     そして、姫氏原に手を差し伸べた。

    「恋人のためならこれくらいするよ、姫はメスだけど——男の子なんだからさ」

    (ああ……)

     全ては、杞憂だった。

  • 847◆xaazwm17IRZa23/04/21(金) 03:25:01

     堀木彩は、こんなにも姫氏原小毬を愛してくれていた。
     姫氏原は、堀木の手を強く握り、立ち上がる。

    「キルコは、どうなったの……?」

    「頭を撃った……倒したはずなんだけど(‘Д」

     確かに、霧田キルコは、廊下に倒れている。額には、銃創が残っていた。
     即死、のはずである。
     普通なら。
     それでも堀木は警戒を怠らずに、ライフルを向けている。
     だが、彼の視界は、今や半分しか機能していない。

    「ぐっ……」

     突如、右手に固い物が当たり、堀木は痛みに顔を顰め、ライフルを落とした。
     姫氏原は何を投げられたか見る。
     ——大理石の灰皿。

    (まだキルコは生きてる……!)

     そう気づいた時には、既にキルコは二人に接近していた。

  • 848◆xaazwm17IRZa23/04/21(金) 03:25:41

    「堀木くんに、近づくな……!」

     今度は悪霊が間に合った。
     キルコを追い払うように、悪霊は拳を振るう。

    「邪魔……するな……!」

     キルコは苦無で悪霊の拳を切り裂く。
     悪霊は苦痛に悶えた。

    (嘘……どうして干渉できるの……!)

     姫氏原には分からない。
     心臓を刺され、脳を撃ち抜かれ、もはやキルコは死人である。それでも、執念のみで現世にしがみついている。人はそれを、『悪霊』と呼ぶ。

    「……ぉるらんどぉおおおおお!」

     キルコは悪霊を押しのけるように、堀木に苦無を振る。

    「だ、駄目……!」

     姫氏原は咄嗟に掌を翳した。
     苦無が突き刺さり、激痛が走る。

  • 849◆xaazwm17IRZa23/04/21(金) 03:26:22

     キルコは即座に苦無を抜き取ろうとするが

    「おい、姫の彼女を傷つけるなよ( `―」

     サッカー部エースの蹴りが、キルコの腹部に叩き込まれる。
     肋骨を叩き折る程の一撃を、しかしキルコは耐え切り、堀木の太腿に苦無を刺す。
     さらに最後の苦無を袖口から取り出し、堀木の喉を狙う。

    「やめて……!」

     痛みで涙を流しながら、姫氏原をライフルを拾い上げ、発砲しようとする。
     しかし、それを読んでいたキルコは、ライフルを掴み、強引に姫氏原から奪い取る。
     それは、この殺し合いで初めて、霧田キルコがその手に銃器を手にした瞬間だった。

    「小毬は撃たせない……!」

     堀木は、ライフルの銃尻を蹴った。
     一般的に、足は腕の三倍の力を持つという。
     ましてや、サッカー部エース、堀木彩の蹴りである。

  • 850◆xaazwm17IRZa23/04/21(金) 03:27:07

     心臓と脳に致命傷を負ったキルコの腕力では、抑えることが出来ず。
     ライフルの銃口は真っすぐキルコの心臓を突き刺し、そのまま背中まで貫通した。

     「ぉる……らんどぉ……」

     キルコの目から涙が流れた。
     そして彼女は、仰向けに倒れ、とうとう絶命したのだった。

    【霧田キルコ 死亡】
    【残り11人】



    「堀木くん……大丈夫?」

    「小毬こそ、大丈夫だった……( ;∀? 保健室で手当てしないとね……(*_」

    「うん……うん……」

     姫氏原は涙ぐみながら堀木を支えた。堀木もまた、汗をかきながら姫氏原を支える。
     二人は寄り添うように、保健室へ向かって歩き出したのだった。

  • 851◆xaazwm17IRZa23/04/21(金) 03:27:46

    (まだ終わっていない……まだ終わるわけにはいかない……まだ、私は……!)

     キルコは、ゆっくりと立ち上がった。
     死んだくらいで止まるわけにはいかない。
     オルランドを生き返らせる。そのためにクラスメイトを皆殺しにする。
     目的は明確だ。キルコは歩き出す。体が軽い。どうやら一時的な仮死状態に陥ったことで、体力が回復したらしい。僥倖だ。これでまだ戦える。

    「フーム……」

     と、隣でオルランドが唸った。

    「キルコサン……生八ツ橋ト、焼イタ八ツ橋、ドチラガ、イイノデショウカ……」

    「……え?」

     土産屋で、オルランドはその長身を屈め、悩まし気に顎を触っていた。

    「オススメハ、アリマスカ……?」

    「私の父は、焼き派、私の母は、生派です」

     おかしい、とキルコは思う。

  • 852◆xaazwm17IRZa23/04/21(金) 03:28:29

     何かがおかしい。しかし、何がおかしいのだろう。
     キルコは考えたが分からなかった。オルランドが隣に居るのは、今が修学旅行の最中で、キルコがオルランドを始めとするバスケ部と一緒に京都を散策しているからだ。オルランド以外のメンバーは、既に土産屋を出たのだろうか。

    「オルランドのために、二人っきりにしてやろうぜ……!」

    「とうとうあいつにも春が来たのか……! 嬉しいような、寂しいような……!」

     と、合流時にひそひそ話をしていたが、あれはいったい何だったのか。バスケに詳しくないキルコには分からなかった。またバスケ漫画で情報収集をしなければ。

    「キルコサン……」

    「え、は、はい。どうしました……?」

    「キルコサンノ、オススメハ、ドチラデスカ……?」

    「私は……」

     分からない。キルコには感情が無い。
     料金や成分を比較することは出来る。上位者の好みも把握している。けれど、どちらが好き、という概念が無い。
     未熟だ。

  • 853◆xaazwm17IRZa23/04/21(金) 03:30:28

     両親が、キルコに期待しているのは、それなのに……。

    「ごめんなさい。私には、そういうの、分からないんです……」

    「分カラナイノデスカ……。ナルホド……」

     デハ、二ツ買イマショウ、とオルランドは笑った。

    「私ガ生ヲ……キルコサンガ、焼キヲ……。旅館ニ着イタラ、シェアシマショウ!」

     さすがオルランドだと、キルコは感動した。どんな時でも最適に行動する。
     やはり彼を見習えば、自分も完璧な存在になれるだろう。

    「……オルランドさん、私と一緒にいて、楽しいですか?」

    「ハイ! トテモ、楽シイデス! キルコサンノ、考エ方、トテモユニーク。Interesting! 私ハ、マタ一ツ、成長デキソウデス……!」

     爽やかに笑うオルランドを見て、キルコの心に穏やかで温かいものが広がっていった。

    「ヨカッタデス」

    「……何がですか?」

    「キルコサンモ、楽シカッタンデスネ。ダッテ、笑ッテマスヨ」

  • 854◆xaazwm17IRZa23/04/21(金) 03:30:55

    「え?」

     本当だろうか。もし本当なら、……とても嬉しい。キルコは、そう思ったのだった。



    ライフルで串刺しにされた少女は、虚ろな瞳を天に向けていた。
    その頬は、微かに緩んでいた。

  • 855◆xaazwm17IRZa23/04/21(金) 03:31:43

    28話㉑を終了します……!

  • 856◆xaazwm17IRZa23/04/21(金) 03:44:15

    本日はここまでとさせていただきます……!

    たくさんの感想、とても励みになります……! また、今後の展開の参考にもさせていただきます……!
    上手く行けば、今週中で廃校戦は終わりになる予定です……! また時間のあるときに見ていただけると助かります……!

    それでは、本日もありがとうございました……!

  • 857二次元好きの匿名さん23/04/21(金) 03:45:31

    乙です、サヨナラキルコ

  • 858二次元好きの匿名さん23/04/21(金) 04:07:17

    すごく絶望的だけど綺麗な愛の話だな
    自分が安価を投げなければこいつらも殺し合わずに済んだのかと思うと自責の念で涙が出る一方でもっとやれ

  • 859二次元好きの匿名さん23/04/21(金) 04:13:07

    キルコちゃん壮絶な最期だったけどマジであの世で幸せになってくれ…
    そして堀木くん姫氏原ちゃんを泣かせるなよ…生きて…

  • 860二次元好きの匿名さん23/04/21(金) 04:23:57

    堀木くん最高にカッコいいよ……

  • 861二次元好きの匿名さん23/04/21(金) 06:09:43

    終盤に備えて中央本部の場所案です

    【名前】最上階・観客席
    【説明】階段状の巨大な客席を備えた大劇場。ほとんどの暗黒金持ちがここで戦いを観戦している。
    最下部の中央ステージにはスクリーンがあり、島中の様子をリアルタイムで放送・実況する。
    安全のため出入口は厳重に封鎖されており、簡単に破れはしないだろう。

    【名前】屋上・ヘリポート
    【説明】島中が見渡せるだだっ広いヘリポートはさながら闘技場のように見晴らしが良く、逃げ場も不意打ちをする隠れ場所もない。
    金持ち用のヘリが複数設置されており島に用意された数少ない脱出口の一つである。
    侵入するには観客席を通るしかない。

  • 862二次元好きの匿名さん23/04/21(金) 13:17:10

    保守

  • 863二次元好きの匿名さん23/04/22(土) 01:03:38

    そろそろかな

  • 864二次元好きの匿名さん23/04/22(土) 01:05:20

    保守も兼ねて暗黒金持ちを
    【名前】張 湖李(チャン・フーリー)
    【性別】男
    【外見】全身入れ墨と古傷だらけ、目が落ち窪んでてヨボヨボの老人
    【趣味】琵琶演奏の鑑賞、昔話
    【好きなもの】自慢話
    【嫌いなもの】若者(楯突くから)
    【性格】狡猾で自己顕示欲が強く執念深い(昔はもっとカッコ良かったらしい)
    【特技】自慢話&指示出し
    どんな時でも自身の武勇伝を披露してから行動に移る。一応長年死線を潜り抜けてたこともあり指示出しは老いて尚的確。
    【詳細】 中国黒社会における最大勢力「龍の首」前ボス。現在は隠居中だが勢力争いが勃発し狙われた為腹心を率いて日本に亡命、余興としてデス・ゲーム鑑賞に参加している。
    【備考】全盛期は黒社会の勢力図を塗り替えた生ける伝説扱いでも老いて力が衰えたショックでボケ始めてる。護衛として彼の腹心が周りにいるが強い人は寝返り最早枯木の集まりとしかいえない。

  • 865二次元好きの匿名さん23/04/22(土) 02:03:30

    今日はお休み?

  • 866◆xaazwm17IRZa23/04/22(土) 02:22:14

    お待たせ致しました……!
    28話㉒を投下します……! 申し訳ありません、本日の投下はこれだけになります……!

  • 867◆xaazwm17IRZa23/04/22(土) 02:23:29

    「……しかし、随分と暴れたみてぇじゃねぇか」

     瀧沢はそう言って、半裸の石川を見て、シニカルに笑う。
     顔を中心に広がる火傷、肩で息をするその姿は、確かなダメージと疲労を感じさせた。

    「瀧沢こそ随分お楽しみだったみてぇだな」

     全身を汚し、右腕を歪めた瀧沢の姿に、石川は悔し気に言う。

    「……本来なら、テメェみたいな怪我人は相手にしねぇんだがな。ここは殺し合いの場だ。容赦なくぶっ殺すぜ」

  • 868◆xaazwm17IRZa23/04/22(土) 02:24:22

    「……ケケケ、お前みたいな奴に負けるほど、瀧沢魁は落ちぶれちゃいねーよ」

     どちらも、万全ではない。ここに至るまでの積み重ねた戦歴が、二人の体を蝕んでいる。
     それでも、二人の強者は、どちらも笑みを浮かべ、相対する。

    (あー、依然として長期戦できる体調じゃねぇが)

     疲労と激痛でふらつく視界を気合で補正し、瀧沢は左腕を前に出す。それは、本来の瀧沢の構えとは逆だった。
     石川も気づく。

    「やっぱテメェ、右腕はもう使えねぇみたいだな」

    「あぁ!? 温存してんだよ馬鹿! いいから早く来いよ」

     石川は瀧沢がジークンドー使いであると知っている。そして、石川本人にジークンドの心得は無いが、ジークンドー使いとの戦闘経験があるため、ジークンドーが利き腕を前に出す構えであると知っている。
     瀧沢は右利きだった。それが、左腕を前に出したということは、やはり右腕はもう動かないのだろう。

    (気分が乘らねぇな)

  • 869◆xaazwm17IRZa23/04/22(土) 02:25:33

     出来る事なら、フルコンディションの瀧沢と戦いたかった。
     しかし、この島ではそんな願いは叶わない。殺し合いなのだから。戦えるときに戦わねば。
     まったく、殺し合いさえ無ければ。

    (……あん? 今俺、何かおかしなこと考えなかったか……?)

     殺し合いが始まったことを感謝する、それが石川大輔だったはずだ。
     本来ではかなり難しかったクラスメイトとのガチンコ対決、それを殺し合いでは容易に叶えることが出来る。
     事実、石川はキルコ戦、金輪戦、ラッタッター戦を楽しんだ。それは、殺し合いが無ければ発生しなかった戦いだ。
     今もそうだ。瀧沢とのガチンコも、殺し合いという場だから実現できた。
     何も不満は無いはずなのに……。

    「何だよおい。アタシとバトりたかったのか? だったらそう言えよ。いつでも相手になってやったのによ」

     何故か、瀧沢は石川によぎった考えを言い当てた。

  • 870◆xaazwm17IRZa23/04/22(土) 02:26:35

    「適当言ってんじゃねぇぞ、瀧沢。殺し合いでもないのに、テメェらが俺と戦うはずねぇだろうが」

    「誘う前から諦めてんじゃねー。オラついてるくせに、根が陰気なんだよお前は。そりゃ断るクラスメイトは居るだろうが、アタシ、新條辺りは普通に受けて立ったと思うぜ。他の奴も誘い方次第だろ。そのくらい工夫しろよ」

     石川の心に、殺意ではなく、また別の炎が揺らめいた。
     それは、怒り。あるいは、羞恥かもしれない。

    「……馬鹿にしてんのかテメェ」

    「馬鹿に馬鹿って言って何か悪いかよ。何が殺し合い開いてくれてありがとうだ。実際にクラスメイト二人殺してどんな気分だ? クソみてぇな気分になってんだろ」

    「……楽しいに決まってんだろ。俺はな、戦闘狂なんだ。命を懸けた戦いが、大好きなんだ。どうせテメェらには、わかんねぇだろ。理解してもらおうとも思わねぇよ。テメェらは、ただ俺の欲を満たしさえすれば……」

  • 871◆xaazwm17IRZa23/04/22(土) 02:27:50

    「だからお前は馬鹿なんだよ。戦闘狂であって、殺人狂じゃねぇんだろ? 石川くーんの大好きな戦闘に、『殺人』って不純物が混じったのが、この島の戦いじゃねえか。それで喜んでるって、ラーメンとうどんの区別もつかねぇ馬鹿なのか?」

     石川は押し黙った。
     そして、憂鬱気に息を吐いた。

    「瀧沢、お前変わっちまったよ」

    「はぁ?」

    「舌戦で時間稼ぎとか、お前らしくねぇだろ。普段のお前なら、口を動かす前に殴りかかってきただろ。そりゃあバトルが始まったら、お前は死ぬしかないだろうが、だからってこんな姑息に寿命伸ばそうとはしなかったよな。さっさと割り切って戦おうぜ、見苦しいぞ」

    (あー、やっぱりバレたか)

     瀧沢は舌打ちをした。

    「悪いな、なるべく生きるって、約束してんだ」

    「おいおい、バトルは刹那を楽しむもんじゃねぇのかよ」

    「……けけけ、まぁそこは否定しねぇよ」

  • 872◆xaazwm17IRZa23/04/22(土) 02:28:50

     これ以上の時間稼ぎは無理だろう。
     思ったより体力は回復しなかった。
     やはり、限界が近いのだろう。

    (……仕方ねぇか。やるだけやったしな)

     瀧沢は今度こそ、切り替えた。
     元々頭を使うことは苦手なのだ。読心で石川の心を読み、適当に喋ってみたが、煽りすぎたのだろう。狙いに気づかれてしまった。

    (まぁ、けっこう図星をついたつもりだが……やっぱりロジックを組み立てるのは苦手だなアタシ)

     石川は大股でこちらに近づいてくる。
     その額には青筋が浮かんでいる。

    (キレてんじゃねぇか……ぎゃははは、面白れぇ)

     瀧沢は牽制代わりに、フィンガージャブ(目潰し)を仕掛ける。それを石川は首を捻って躱し、瀧沢の頬を殴り抜こうとするが、瀧沢はトラッピングでそれを防ぐ。
      体が重い。しかし、読心は冴えわたっている。石川がどこに攻撃をするか察知できる。

  • 873◆xaazwm17IRZa23/04/22(土) 02:29:31

     天性の瞬発力で石川の攻撃に追いつき続ける。
     が、それも限界なのか。とうとう致命的な隙が生まれる。
     そこをすかさず石川が突く。
     ABD(Attack by Drawing)。わざと作った隙である。
     石川の拳を弾き、胸に左腕を当てる。

    「——寸勁」

    「ぐっ!」

     石川は一瞬よろめくが、やはり利き腕ではないため、大したダメージにはならない。
     石川は、瀧沢の左手首を掴んだ。そのままへし折るべく力を籠める。
     瞬間、石川の顔に、瀧沢の右の拳が当たった。

    「——寸勁!」

     弾丸を打ち込まれたかのように、石川が衝撃で顔をのけぞらせる。
     ABD(Attack by Drawing)は二重になっていた。
     右手はもう使えないと油断させるために、わざと左腕で戦ってきた。

  • 874◆xaazwm17IRZa23/04/22(土) 02:30:13

    (さて、これで倒れてくれればいいが……っ!)

     読心があるからこそギリギリで間に合った。
     石川のヤクザキックを両手を重ねて防御する。それでも衝撃は殺しきれず、瀧沢は後ろに下がった。

    「……戦え……!」

     石川は顔を血だらけにしながら笑っていた。

    「俺と、戦え……!」

    「言われなくても戦ってやるよ」

     突如、脳天に踵落としが来る。冷静に身を捻って躱す。カウンター気味に金的を仕掛ける。足で防がれる。すかさず目突き。やはり防がれる。今度は向こうがカウンターで拳を出す。ギリギリで弾く。
     石川の攻撃は苛烈さを増し、瀧沢の動きは徐々に精彩を欠く。
     少しずつ、終わりの時が近づいている。
     VSコモドドラゴン。その後毒と失血に苦しめられ、解毒が済んだ瞬間、マネモフルと戦闘。失血を補いマネモフルを倒した後は戦車と戦い、今は石川大輔。殺し合いが始まってから10時間以上が経過しようとしている。たった10時間で瀧沢は何度も生死の境を彷徨った。どれだけ肉体が強くても、どれだけ精神力が強くても、限界は来る。脇腹に蹴りが飛んでくる。

  • 875◆xaazwm17IRZa23/04/22(土) 02:31:11

     受けきれず、瀧沢は地面を転がる。踏みつけだけは避け、起き上がり際に蹴りを撃つが、石川はビクともしない。

    (コンデションが良かったら……なんて言い訳はしねぇよ。テメェは強いぜ石川)

     心中で呟く。
     瀧沢を少しでも生かすように、読心だけは冴えわたる。
     それでも、もう瀧沢の肉体がついていけない。
     拳を弾けず、顎に入る。折れた歯が、宙を舞う。

    (仕方ねぇよなぁ。生きてるんだから、いつかは死ぬだろ。戦ってんだから、いつかは負けるだろ。それだけのことだぜ)

     ローキックを放つが、もはや石川はそれを意に介していない。ムカついたのでそこから連絡して掌底を顎に打つ。お、直撃した。油断してるからだよばーか。
     読心で鳩尾に拳が叩き込まれると分かる。防御をしようとする。駄目だ、体がついていかねぇ。衝撃。体が九の字に曲がる。
     拳が引き抜かれ、その場に蹲る。首をへし折ろうと、石川が踏みつけを行う。

  • 876◆xaazwm17IRZa23/04/22(土) 02:31:55

    「——寸勁」

     足裏に寸勁を叩き込む。石川が体勢を崩して倒れこむ。

    (……いや、寝技は専門外だわ。師匠に習っとけばよかったな)

     仕方ないので石川が立ち上がるのを待つ。起き上がり際にもう一度寸勁を撃ってやろう。
     と、思ったらそのまま逆立ちして蹴ってきやがった。防いだが、防御の上から衝撃が来てたたらを踏む。
     髪を掴まれ、更に鳩尾を殴られる。
     痛ぇな、クソ。
     むかついたので、髪を掴んでいた指をへし折ってやった。
     石川は舌打ちをする。

    「どうした石川ぁ……黙っちまってよぉ……楽しくねぇのかよ?」

    「うぜぇなおい……」

     けっ、自分の思い通りにならないと途端に白けやがって。そんなにアタシとの泥仕合が嫌なのかよ。

  • 877◆xaazwm17IRZa23/04/22(土) 02:32:51

    (まぁ、まさかアタシも、人生最期の喧嘩が、こんなみっともなくなるとは思わなかったけどよ……)

     たぶん、普段のアタシならもっと早く決着をつけていただろう。一撃に全てを賭けて、超短期決戦を挑んでいたろうな。それで負けたらそれまで、なんて、そう考えてよ。
     今のアタシは違う。とっくに決まった勝負を、ズルズルと長引かせている。
     そんなに死にたくないのかねぇ。……ま、なるべく死ぬなって言われるてるしな。
     それに。

    (読心か……)

     なぁ、芝野。他人のために一生懸命ってのも、けっこういいもんだな。
     少しだけ、お前の気持ちが分かったよ。

    「いい加減くたばれや……!」

    「ぎゃは、敵にお願いしてんじゃねーぞ……」

     石川の拳を掻い潜って寸勁を撃つ。あーあ、とうとうダメージ入らなくなったか。こうなる前に決着つけたかったんだけどな。仕方ねぇよなぁ。
     しかし参ったな。寸勁も機能しないとなると、どう戦うか。

  • 878◆xaazwm17IRZa23/04/22(土) 02:33:39

     石川の回し蹴りを読心で察して体をのけ反る。遅い。額が割れる。
     頬を撃ち抜くように拳が来る。弾く。弾き切れず、指が折れる。
     身体の感覚が無くなっていく。五感が機能しなくなっていく。
     それでも、読心だけは冴えわたっていく。

    (最後まで付き合ってくれんのか、ありがとな芝野)

     ——そして、瀧沢は読心で一つの感情を読み取った。
     石川ではなく、廃校の、残骸の中から発せられた心を。
     希望を。

    (思ったより早かったな……けけけ、んじゃまぁ、後は任せるか)

     瀧沢は力を抜く。
     石川の拳が迫る。
     読心は、今まで一番の冴えを見せた。
     拳を掻い潜り、石川の右目にフィンガージャブを叩き込む。

    (あ、駄目だな、やっぱ威力がたんねぇな、一時的な失明程度だ。チッ、しまらねぇ……)

  • 879◆xaazwm17IRZa23/04/22(土) 02:34:34

     次の瞬間、石川の蹴りが、瀧沢の首をへし折る。
     終わったのだと、瀧沢は理解した。

    (まぁ、こんなもんだろ。後は残った奴らで上手くやるさ。……うるせぇよ芝野。説教は向こうで聞いてやるよ。アタシもお前に言いたいことは山ほどあるんだから、な………………)

    【瀧沢魁 死亡】
    【残り 10人】



     瀧沢魁に勝った。
     勝者である石川大輔に残ったのは、強い苛立ちだった。
     何だこれは。
     金輪幹久も、パンパンパン・ラッタッターも、そして瀧沢魁も。
     勝った後に残るのは、戦いの興奮でも、勝利の歓喜でもなく。
     不快感と、苛立ち。

  • 880◆xaazwm17IRZa23/04/22(土) 02:35:22

     こんなはずではなかった。テーマパークのはずなのだ、ここは。石川は殺し合いを楽しんで、楽しんで、楽しみつくすはずだったのだ。
     何故こんなにも苛々する!?
     この不満はどこから来る!?

    (そうか、足りねぇんだ……まだ俺は……喰い足りねぇ……!)

    「戦えぇえええええええええええええええええええええええええええええ!」

     石川は吠えた。

    「新條! 小田斬! いい加減出て来いや! オルランド! テメェも生きてんだろ! 俺と戦え!」

     周囲に散らばる瓦礫を踏みつぶし微塵にする。

    「キルコ! 垣根! 鰐淵! テメェらもだ! 俺は、俺はここに居るぞ! 戦え、戦おうぜ! 喧嘩だ、バトルだ、殺し合いだ! 誰か、俺と戦えぇえええええええええええ!」

     空に向かって石川は、子どものような雄たけびを挙げた。
     皆、既に死んでいる。彼らとは二度と戦えない。石川も薄々察しているのだ。
     もはやこの廃校に、否、この島に戦える人間は……。

  • 881◆xaazwm17IRZa23/04/22(土) 02:37:48

    「いいぜ、石川。僕がお前と喧嘩してやるよ」

     声がした。
     特徴的な声だ。
     一人で一個旅団に匹敵する、人類最強の男……と同じ声帯を持った生徒の、声が響いた。

    「あぁ……?」

     石川は唖然として、それを見た。
     廃校の残骸から、小柄な、あまりにも小柄で、貧弱な影が姿を現す。
     クラスで一、二を争う弱者が、石川大輔に喧嘩を売っている。

     「聞こえなかったのか、石川。僕がお前と喧嘩してやるって言ってんだぜ。どうする、受けるのか、それとも逃げるのか?」

    「……おいこら雑魚。人をおちょくってんじゃねぇぞ……」

    「僕は真剣だぜ、石川大輔。もしお前が僕に勝てたら、僕を好きにしていい。その代わり、もし僕が勝ったら……この島を出るまで、僕の命令に従ってもらうぞ」

    「…………いいぜ、上等だ。ぶっ殺してやるよ……!」

     廃校、最終戦。
     出席番号1番「石川大輔」
          VS
     出席番号32番「虎肝ドラギモス」。

  • 882◆xaazwm17IRZa23/04/22(土) 02:38:33

    28話㉒を終了します……!

  • 883二次元好きの匿名さん23/04/22(土) 02:44:27

    ・新しいロッカーアイテム
    ・不死太郎の異能DISC
    ・舌戦

    さぁどれだ

  • 884二次元好きの匿名さん23/04/22(土) 02:50:08

    乙です!瀧澤も中にいた芝野もお疲れ様だ…けどしかし本当に石川は切ないバトルばっかだねドラギモスを切っ掛けに楽しいことできるとイイね

  • 885二次元好きの匿名さん23/04/22(土) 02:54:27

    今思うと瀧澤にコモドドラゴンを放った人は名采配だったな
    常に死と隣り合わせなお陰で瀧澤のバトルにはいつも華があった

  • 886◆xaazwm17IRZa23/04/22(土) 03:04:48

    今日はここまでとさせていただきます……!

    投下が遅れて申し訳ありません……!

    感想やアイデア、いつもありがとうございます……! 毎日書く生活は初めてだったのですが、皆さんのおかげで今日まで継続できました……!

    それでは、本日もありがとうございました……!

  • 887二次元好きの匿名さん23/04/22(土) 06:13:46

    予想を裏切りつつ最高にワクワクする展開だ……

  • 888二次元好きの匿名さん23/04/22(土) 06:23:24

    出席番号戦闘vs最後尾になるのやばない?
    絶対狙ってたでしょ!

  • 889二次元好きの匿名さん23/04/22(土) 15:45:13

    保守
    漢の娘がかっこいい展開が続くなあ

  • 890二次元好きの匿名さん23/04/22(土) 22:04:04

    ほしゅ

  • 891二次元好きの匿名さん23/04/23(日) 03:28:08

    ドラギモちゃんの活躍に期待

  • 892二次元好きの匿名さん23/04/23(日) 05:06:09

    スレ主よ…万が一にもまだ今日の分を書いているならどうか寝てほしい…
    素直に体調が心配だ…

  • 893二次元好きの匿名さん23/04/23(日) 05:38:56

    一端書き溜めもありや

  • 894二次元好きの匿名さん23/04/23(日) 06:14:05

    ドカ書き気絶はシャレにならんぞ

  • 895二次元好きの匿名さん23/04/23(日) 09:28:49

    ドカ書き気絶部は草
    いや笑えんが

  • 896二次元好きの匿名さん23/04/23(日) 12:14:05

    保守

  • 897二次元好きの匿名さん23/04/23(日) 21:02:15

    ほしゅ

  • 898◆xaazwm17IRZa23/04/24(月) 00:49:57

    昨日は顔を出せず、申し訳ありません……!
    お察しの通り、寝落ちしてました……!

    28話㉓を投下します……!

  • 899◆xaazwm17IRZa23/04/24(月) 00:51:03

     気づけば、暖かい不思議な場所に居た。
     ここはどこだろう、と■■は思った。
     そこには何も無かった。
     空が無く、物が無く、人が無かった。
     ただ、■■と、彼を存在たらしめる土台だけがあった。
     いつからここに居たのか、■■は思い出せなかった。
     ただ、解放されたという感覚だけがあった。
     無数の人格のせめぎ合い、野蛮な人格、下品な人格に摺りつぶされ、消えてしまったはずの自分が、今こうして穏やかに思考している。
     ここは天国なのだろうか、と■■は思った。
     答えを教えてくれる者は誰も居なかったので、■■は座り込んでただぼんやりと過ごした。

    「■■」

     と、唐突に名前を呼ばれた。懐かしい声だった。

    「□□」

     と、■■は、彼女の名を呼んだ。
     特徴的な瞳をした、小柄で可愛らしい女生徒だ。どうして彼女がここにいるのか、■■には分からなかった。

    「私はね、死んだんだ」

     と、□□は言った。
     死んだ……。

  • 900◆xaazwm17IRZa23/04/24(月) 00:51:45

     ■■は唐突に思い出した。自分たちは首輪を付けられ、殺し合いを強要された。そこで、■■は何人もの生徒に襲いかかり、暴力を振るい、一人の男子生徒を殺しさえした。
     □□も、■■のような野蛮人に殺されたのだろうか。考えると、■■は胸が張り裂けそうな悲しみを感じた。
     どうして自分が守ってあげられなかったのだろう。
     その問いには、すぐに答えが出た。
     この場所以外で□□に会えば、きっと自分は襲いかかっていただろう。
     ■■と□□ではなく、マネモフル=タマネとねうねい・めああえなら。
     ずっとここにいよう。■■はそう決意した。ここにいれば、自分は■■でいられる。誰かを襲うことも、誰かを愚弄することもない。
     それに、ここには□□もいる。寂しくはない。

    「駄目だよ。君はこの空間から出なくちゃいけない」

     と、□□は言った。
     嫌だ、と■■は思った。

    「大丈夫。私が君を支えるから」

  • 901◆xaazwm17IRZa23/04/24(月) 00:52:30

     どうやって? と■■は訊いた。□□はもう死んでいる。もし生きていたとしても、マネモフルを止められるとは思えない。

    「私は、君の中にワープする。君の人格の一部になるよ」

     と、□□は言った。

    「一緒に戦おう、■■」

     ■■は頷いた。
     □□と一緒なら、野蛮な人格に勝てるかもしれない。いや、必ず勝てるはずだ。そう信じたかった。
     □□は、どこからともなく小瓶を取り出し、■■に手渡した。
     これは? と■■が訊く。

    「魔法の薬。誰を助けるかは、■■が決めるんだ」

     ■■は頷いた。
     世界が消えていく。
     再び、■■は島に帰らなければならない。
     二人は手を繋いだ。今度こそ勝って見せる。そう決意して。

  • 902◆xaazwm17IRZa23/04/24(月) 00:53:37

    「なぁ鰐淵。コンビニ行くけど、一緒に行くかい?」

     そう言って、千頭之のづちは、さっそく模造刀を部屋に並べだした同居人に声をかける。
     鰐淵はこちらを振り返ることなく、いえ、私はいいです、と素っ気なく返した。
     冷めている。いつも通りの鰐淵英利だ。
     大学受験はどちらも合格し、同じ大学だし一緒に住まないか? と提案したときも、鰐淵はそうですね、いいんじゃないですか? と冷静だった。誘う前日に妙に緊張して寝付けなかった私が馬鹿みたいじゃないか、と千頭之は不満に思ったが。とにかくにも高校を卒業した二人は、都内でシェアハウスを始めたのだった。
     引っ越しの荷解きに疲れ、散歩と昼食がてらコンビニに行こうと誘ってみたのだが、意図が伝わらなかったのか、シンプルに千頭之に興味が無いのか、すげなく断られる。
     やれやれ、と千頭之は肩を落とし、ストームと共に廊下を通り、玄関へと向かう。
     しかし、ストームは廊下で止まり、穏やかな目で千頭之を見た。

    「どうした? お前もお留守番か?」

  • 903◆xaazwm17IRZa23/04/24(月) 00:55:22

     一緒に来ると思っていたので、千頭之は軽くショックを受ける。

    (アラシもコサメも居ないし……あれ、何でいないんだっけ?……ああ、実家に置いてきたんだったな……とにかく、一人で行くのはちょっと寂しいなぁ)

    「大丈夫ですよのづちさん、ストームの面倒は私が見ておくので」

     相変わらずこちらに背中を向けたまま、鰐淵はそう言った。

    「遊び相手になってくれるのは嬉しいが、私もすぐに帰ってくるぞ? ……それとも、蛇の魅力に気づいたのか……!?」

    「急に興奮しないでくださいよ。別に動物は嫌いじゃありませんし。……あんまり早く帰ってくると、怒りますよ」

     どうしてだ? と千頭之は思ったが、深く悩まず、靴を履き、ドアノブに手を伸ばす。

    (………………ああ、そうか)

     唐突に、千頭之のづちは、全てを思い出した。

    「なぁ鰐淵……その、一緒に過ごした時間、悪くなかったよ。……色々、ありがとうな」

     鰐淵から返事は無かった。

  • 904◆xaazwm17IRZa23/04/24(月) 00:56:01

     彼女らしい、と千頭之のづちは思った。

    「じゃあ、また……」

    「ええ、さようなら、のづちさん」

     ドアノブを引き、扉が開かれる。
     後ろ髪を引かれながらも、千頭之のづちは一歩外に踏み出した。

     ◇

     目を開くと、雲一つない青空が広がっていた。
     首に手を回す。傷は、無い。

    (確か私は、首に何かが刺さって……)

     そこから先の記憶が無い。
     何か夢を観ていた気もするが、よく覚えていない。

    「私は……助かったのか……」

     ふと、近くに人の気配を感じ、視線を向けると……マネモフル=タマネが土下座をしていた。

  • 905◆xaazwm17IRZa23/04/24(月) 00:56:42

    「……何の真似だ」

     自分でも驚くほど低い声が出る。この島で出来た友人、ストームを殺して喰い、クラスメイトの芝野を殺した男、マネモフル。超が付く危険人物と二人きりというこの状況は、生命の危機に他ならないが、千頭之の心は恐怖より先に怒りが来ていた。

    「……今更、謝ったところで、許されると思っているのか」

    「思うとらん」

     おや……と千頭之は不思議に感じた。
     マネモフルの雰囲気が、数時間前に会ったときと随分違うように思ったのだ。
     何がどう違うのか、上手く説明できないのだが、強いて言うなら野蛮な雰囲気が霧散している。

    「人格や環境のせいやない……お前の友達を殺したのはワシや。けど、済まん。殺すのだけは勘弁してくれ。この体はもう、ワシだけの体やない。あいつの意志を無駄にしたくないんや……」

     関西弁であることは変わっていないが、やはり今までのマネモフルとは違うと、千頭之は気づいた。
     それに。

  • 906◆xaazwm17IRZa23/04/24(月) 00:57:45

    「……無理だ。私にお前は殺せないよ。実力的にも、心情的にもさ」

     千頭之のづちは弱い。ナイフを鰐淵に貸してしまった今、武器は何一つ持っていない。屈強なマネモフルをどうこうすることは出来ない。
     それに、どれだけ憎く思っても、邪気が消え、こちらに頭を下げている男子生徒を殺せるほど、千頭之は冷酷になれない。

    「そうだ、鰐淵はどこだ? まだキルコと戦ってるのか?」

     そもそも、どうして自分は助かったのか。首には傷一つなく、この殺し合いで蓄積した疲労も、すっかり取れている。まるで生まれ変わったようだ。

    「……ワシが来たときには、鰐淵は亡くなっとった」

    「…………え?」

    「……お前も死んどると思ったが、妙な部分があったんや。鰐淵の遺体がな、お前の首を抑え取った。お前の、出血しとる患部を絞めることで、失血を防いだんや。土気色だった鰐淵と違って、お前は多少肌艶が良かったしや。せやから、ねうねいに託された魔法の薬を使ったんや」

     マネモフルは空っぽの小瓶を振った。

  • 907◆xaazwm17IRZa23/04/24(月) 00:58:22

     本来、魔法の薬はねうねいの治療で使い切ったはずだった。しかし、精神世界にワープしたねうねいは、自らの肉体から魔法の薬をワープさせ、小瓶に戻していたのだ。

    「ねうねいと……そして、鰐淵が居らんかったらお前は助からんかった。それだけは知っといてくれ」

    「……そうか」

     千頭之は燃え盛る廃校を見上げた。
     どうして私なのだろう。
     生き返ったところで、自分に何が出来るのだろう。
     家族にも会えず、無為に死ぬはずだった自分が……。

    「重いな」

     と、千頭之は言った。

    「重い女だよ、まったく」

     それでも、背負うしかないのだろう。

    「マネモフル、お前はこれからどうするんだ?」

  • 908◆xaazwm17IRZa23/04/24(月) 00:59:06

    「……分からん。ただ、二度と野蛮な行動や愚弄はしたくない。そう思っとる」

    「そうか。だったら私の家族探しに協力してくれないか?」

    「……いいんか? お前の友達を殺したんはワシやぞ」

    「……それは今でも許せない。けど、私は無力だ。力を貸して欲しい」

    「……お前が望むならいくらでも貸したるわ、ワシめっちゃタフやし」

    (鰐淵……お前が何を考えていたのか私には分からない。私たちの関係が何だったのかも、分からない。……けど、私は、お前の分も生きるよ)

     死者の想いを背負い、二人の帰還者は廃校へと舞い戻る。

  • 909二次元好きの匿名さん23/04/24(月) 01:04:34

    ウワーどうなるんだこれ!?
    そしてスレ主が生きていて嬉しい

  • 910◆xaazwm17IRZa23/04/24(月) 01:05:30

    28話㉓を終了します……!

    次の話は、廃校編の締めになると思うので、本日中の投下は難しいです……! なので、完成次第投下します……!

    目標としては明日に投下できるといいのですが、投下できない場合でも、生存報告を兼ねて一度顔は出そうと思います……!

    昨日はご心配をおかけしました……! 暖かい言葉、ありがとうございます……!

    今後ともよろしくお願い致します……!

  • 911二次元好きの匿名さん23/04/24(月) 01:20:11

    更新ありがとうございます!
    やっすい感想で申し訳ないけど今回めっちゃ泣けたわ……

  • 912二次元好きの匿名さん23/04/24(月) 01:23:01

    なんならもう最近ずっと泣けるし残った10数人はマジで全員生き残って欲しいですね

  • 913のづち作者23/04/24(月) 01:23:21

    うわああぁ乙でした!!おかえりスレ主!!

    まずのづちが生き延びてくれたのも心底驚いたし嬉しいけど
    マネモフルの主人格が良い奴すぎて泣けてくる……君に勲章を与えたいよ

  • 914二次元好きの匿名さん23/04/24(月) 01:44:58

    物語も佳境に入ってきましたけど
    今生き残っている中で皆さんの推しが聞きたいな

    私はマネモフルとのづちと堀木&姫氏原

  • 915二次元好きの匿名さん23/04/24(月) 02:02:07

    >>914

    自作キャラ以外だと歯荷ちゃんが好きです……どうにか生き残ってほしい

  • 916二次元好きの匿名さん23/04/24(月) 05:47:47

    乙です、鰐淵さん手に掛けたとか言ってしまい申し訳ありませんでした(画像略) 愛って凄いぜェ それが力になって甦るんだからな…

    >>914 石川君いいですね…闘いでヒャッハーしてそうだったけどできない柵が好きです

  • 917二次元好きの匿名さん23/04/24(月) 06:07:27

    なんか直接戦闘力のある奴がほぼ死んでるからvs運営になっても勝てる気しないな……
    歯荷ちゃんは1日経てば拳法使えなくなっちゃうし

  • 918二次元好きの匿名さん23/04/24(月) 06:51:51

    >>917

    そこは茜音沢の無双に期待するしか…


    何かの間違いで新篠小田斬あたり生き返らないかな

    でも生き返らないから楽しいんだよな…

  • 919二次元好きの匿名さん23/04/24(月) 15:29:55

    ほしゅ

  • 920二次元好きの匿名さん23/04/24(月) 22:13:16

    保守

  • 921◆xaazwm17IRZa23/04/25(火) 00:49:32

    申し訳ない、やはりまだ完成していないので、生存報告兼ねて適当にダイス振ります


    デスゲーム直前の定期テスト結果(男子編)

    1 石川 大輔(いしかわ だいすけ)dice1d100=17 (17)

    2 宇多 一郎(うた いちろう)dice1d100=85 (85)

    3 宇都 創希(うと そうき)dice1d100=43 (43)

    4 小田斬 純恋(おだぎり すみれ)dice1d100=56 (56)

    5 オルランド・テークトリdice1d100=74 (74)

    6 金輪 幹久(かなわ みきひさ)dice1d100=41 (41)

    7 金島 明宏(かねしま あきひろ)dice1d100=59 (59)

    8 篠宮 纏(しのみや まとう)dice1d100=27 (27) 

    9 芝野 貴仁(しばの たかひと)dice1d100=69 (69)

    10 新條 アキラ(しんじょう あきら)dice1d100=82 (82)

    11 Nek-O(ネック・オー)dice1d100=27 (27)

    12 パンパンパン・ラッタッター dice1d100=35 (35)

    13 星峰 灼(ほしみね あきら)dice1d100=52 (52)

    14 堀木 彩(ほりき あや)dice1d100=8 (8)

    15 マネモフル=タマネ dice1d100=12 (12)

    16 三田 哲(みた とおる) dice1d100=18 (18)

  • 922◆xaazwm17IRZa23/04/25(火) 00:51:48

    デスゲーム直前の定期テスト結果(女子編)

    17 麻井 涼(あさい りょう)dice1d100=72 (72) 

    18 垣根 澄花(かきね すみか)dice1d100=50 (50)

    19 金木 冥(かねき めい)dice1d100=43 (43)

    20 姫氏原 小毬(きしはら こまり)dice1d100=90 (90)

    21 霧田 キルコ(きりだ きるこ)dice1d100=5 (5)

    22 里美 綾香(さとみ あやか)dice1d100=84 (84)

    23 瀧沢 魁(たきざわ かい)dice1d100=91 (91)

    24 千頭之 のづち(ちずの のづち)dice1d100=32 (32)

    25 ねうねい・めあめえ dice1d100=96 (96)

    26 歯荷 仄花(はに ほのか)dice1d100=21 (21)

    27 文乃 あかり(ふみの あかり)dice1d100=34 (34)

    28 結 栞奈(むすび かんな)dice1d100=8 (8)

    29 目裏 雨子(めうら あめこ)dice1d100=67 (67)

    30 山野 二(やまの つぐ)※闇のヴェラジウス dice1d100=50 (50)

    31 鰐淵 英利(わにぶち・えいり)dice1d100=70 (70)

    32 虎肝 ドラギモス(とらきも どらぎもす)dice1d100=78 (78)

  • 923二次元好きの匿名さん23/04/25(火) 00:52:36

    男子生存組の点数壊滅的で草

  • 924◆xaazwm17IRZa23/04/25(火) 00:54:47

    1~20 赤点科目あり
    21~40 平均以下の科目あり
    41~60 普通
    61~80 一科目で学年トップ10に入った
    81~100 複数の科目で学年トップ10に入った

  • 925二次元好きの匿名さん23/04/25(火) 00:56:46

    こういうおふざけ和むからもっとやって欲しいな…

  • 926◆xaazwm17IRZa23/04/25(火) 01:02:32

    学力トップ3

    1位 ねうねい・めあめえ dice1d100=96 (96)

    2位 瀧沢 魁(たきざわ かい)dice1d100=91 (91)

    3位 姫氏原 小毬(きしはら こまり)dice1d100=90 (90)


    学力ワースト3位

    1位  霧田 キルコ(きりだ きるこ)dice1d100=5 (5)

    3位 堀木 彩(ほりき あや)dice1d100=8 (8)

    3位 結 栞奈(むすび かんな)dice1d100=8 (8)

  • 927二次元好きの匿名さん23/04/25(火) 01:05:02

    他二人はともかく栞奈ちゃんは真面目な優等生キャラだと思ってたのにどうして…

  • 928◆xaazwm17IRZa23/04/25(火) 01:10:20

    こんな感じで後二つくらいダイス振ります


    2年生時のバレンタインデーで貰ったチョコの数(男子編)


    1 石川 大輔(いしかわ だいすけ)dice1d10=7 (7)

    2 宇多 一郎(うた いちろう)dice1d10=1 (1)

    3 宇都 創希(うと そうき)dice1d10=2 (2)

    4 小田斬 純恋(おだぎり すみれ)dice1d10=7 (7)

    5 オルランド・テークトリ dice1d10=4 (4)

    6 金輪 幹久(かなわ みきひさ)dice1d10=1 (1)

    7 金島 明宏(かねしま あきひろ)dice1d10=4 (4)

    8 篠宮 纏(しのみや まとう)dice1d10=3 (3)

    9 芝野 貴仁(しばの たかひと)dice1d10=6 (6)

    10 新條 アキラ(しんじょう あきら)dice1d10=6 (6)

    11 Nek-O(ネック・オー)dice1d10=4 (4)

    12 パンパンパン・ラッタッター dice1d10=5 (5)

    13 星峰 灼(ほしみね あきら)dice1d10=4 (4)

    14 堀木 彩(ほりき あや)dice1d10=5 (5)

    15 マネモフル=タマネ dice1d10=7 (7)

    16 三田 哲(みた とおる) dice1d10=1 (1)

  • 929◆xaazwm17IRZa23/04/25(火) 01:12:33

    2年生時のバレンタインデーで貰ったチョコの数(女子+α編)

    17 麻井 涼(あさい りょう)dice1d10=2 (2) 

    18 垣根 澄花(かきね すみか)dice1d10=9 (9)

    19 金木 冥(かねき めい)dice1d10=1 (1) 

    20 姫氏原 小毬(きしはら こまり)dice1d10=10 (10)

    21 霧田 キルコ(きりだ きるこ)dice1d10=10 (10)

    22 里美 綾香(さとみ あやか)dice1d10=10 (10)

    23 瀧沢 魁(たきざわ かい)dice1d10=8 (8)

    24 千頭之 のづち(ちずの のづち)dice1d10=2 (2)

    25 ねうねい・めあめえdice1d10=5 (5)

    26 歯荷 仄花(はに ほのか)dice1d10=4 (4)

    27 文乃 あかり(ふみの あかり)dice1d10=7 (7) 

    28 結 栞奈(むすび かんな)dice1d10=4 (4)

    29 目裏 雨子(めうら あめこ)dice1d10=1 (1)

    30 山野 二(やまの つぐ)※闇のヴェラジウスdice1d10=6 (6)

    31 鰐淵 英利(わにぶち・えいり)dice1d10=1 (1)

    32 虎肝 ドラギモス(とらきも どらぎもす)dice1d10=1 (1)

  • 930二次元好きの匿名さん23/04/25(火) 01:12:46

    スピンオフ的な過去編見たくなっちゃう

  • 931◆xaazwm17IRZa23/04/25(火) 01:16:02

    チョコ獲得トップ3

    1位 姫氏原 小毬(きしはら こまり)dice1d10=10 (10)

    1位 霧田 キルコ(きりだ きるこ)dice1d10=10 (10)

    1位 里美 綾香(さとみ あやか)dice1d10=10 (10)

  • 932二次元好きの匿名さん23/04/25(火) 01:16:30

    ダイス値が全てにおいて大体イメージ通りなの面白すぎる

  • 933◆xaazwm17IRZa23/04/25(火) 01:20:07

    最後はあにまんなので、アニメ・漫画に対するオタク度


    1 石川 大輔(いしかわ だいすけ) dice1d100=69 (69)

    2 宇多 一郎(うた いちろう) dice1d100=91 (91)

    3 宇都 創希(うと そうき)dice1d100=70 (70)

    4 小田斬 純恋(おだぎり すみれ)dice1d100=66 (66)

    5 オルランド・テークトリ dice1d100=45 (45)

    6 金輪 幹久(かなわ みきひさ)dice1d100=68 (68)

    7 金島 明宏(かねしま あきひろ)dice1d100=47 (47)

    8 篠宮 纏(しのみや まとう) dice1d100=80 (80)

    9 芝野 貴仁(しばの たかひと)dice1d100=21 (21)

    10 新條 アキラ(しんじょう あきら)dice1d100=81 (81)

    11 Nek-O(ネック・オー)dice1d100=1 (1)

    12 パンパンパン・ラッタッターdice1d100=53 (53)

    13 星峰 灼(ほしみね あきら)dice1d100=86 (86)

    14 堀木 彩(ほりき あや)dice1d100=29 (29)

    15 マネモフル=タマネdice1d100=22 (22)

    16 三田 哲(みた とおる)dice1d100=18 (18)

  • 934◆xaazwm17IRZa23/04/25(火) 01:21:53

    17 麻井 涼(あさい りょう)dice1d100=7 (7)

    18 垣根 澄花(かきね すみか)dice1d100=93 (93)

    19 金木 冥(かねき めい)dice1d100=68 (68)

    20 姫氏原 小毬(きしはら こまり)dice1d100=29 (29)

    21 霧田 キルコ(きりだ きるこ)dice1d100=83 (83)

    22 里美 綾香(さとみ あやか)dice1d100=71 (71)

    23 瀧沢 魁(たきざわ かい)dice1d100=88 (88)

    24 千頭之 のづち(ちずの のづち)dice1d100=56 (56)

    25 ねうねい・めあめえdice1d100=12 (12)

    26 歯荷 仄花(はに ほのか)dice1d100=95 (95)

    27 文乃 あかり(ふみの あかり)dice1d100=80 (80)

    28 結 栞奈(むすび かんな)dice1d100=9 (9)

    29 目裏 雨子(めうら あめこ)dice1d100=5 (5)

    30 山野 二(やまの つぐ)※闇のヴェラジウスdice1d100=20 (20)

    31 鰐淵 英利(わにぶち・えいり)dice1d100=3 (3)

    32 虎肝 ドラギモス(とらきも どらぎもす)dice1d100=19 (19)

  • 935二次元好きの匿名さん23/04/25(火) 01:22:40

    マネモフルが22なのが全体の基準を大きく上げてて草

  • 936◆xaazwm17IRZa23/04/25(火) 01:25:56

    アニメ・漫画のオタク度トップ3

    1位 歯荷 仄花(はに ほのか)dice1d100=95 (95)

    2位  垣根 澄花(かきね すみか)dice1d100=93 (93)

    3位 宇多 一郎(うた いちろう) dice1d100=91 (91)


    アニメ・漫画のオタク度ワースト3

    1位 Nek-O(ネック・オー)dice1d100=1 (1)

    2位 鰐淵 英利(わにぶち・えいり)dice1d100=3 (3)

    3位 目裏 雨子(めうら あめこ)dice1d100=5 (5)

  • 937二次元好きの匿名さん23/04/25(火) 01:30:04

    もっと見てぇ……

  • 938◆xaazwm17IRZa23/04/25(火) 01:36:55

    ……今回はここまでとさせていただきます!

    完成するまでは、生存報告を兼ねて毎日こういう感じでダイスを振ったりしようかなと思っています
    今後どういうデータが見たいか教えてくださると助かります……!

    それでは、なるべく早く完成できるよう頑張るので、今後ともよろしくお願い致します……!

  • 939二次元好きの匿名さん23/04/25(火) 01:49:44

    小毬がチョコ10個貰ってるの闇深くない?
    仲良い女子からたくさん貰ったとか堀木が大量にくれたとかであって欲しい

  • 940二次元好きの匿名さん23/04/25(火) 01:53:37

    歯荷ちゃんオタ活に熱中しすぎてテスト勉強サボってそう

  • 941二次元好きの匿名さん23/04/25(火) 02:36:15

    瀧澤が勉強得意だったり、垣根がオタク度高かったり、意外だけど納得できるな

  • 942二次元好きの匿名さん23/04/25(火) 02:58:42

    オタク度19なのに神谷浩史と絶望先生は知ってるドラギモス草

  • 943二次元好きの匿名さん23/04/25(火) 03:56:04

    >>942

    あにまん学園なので最低値がめちゃくちゃ高いと思われる

  • 944二次元好きの匿名さん23/04/25(火) 06:13:53

    生徒たちの物語に関わらないくらいのしょうもない過去とか見てみたいな…
    殺し合いしてない時の石川とか堀木と姫氏原のいちゃらぶが見てぇ…
    キルコが死ななかったらオルランドとどうなってたかも見てぇ…

  • 945二次元好きの匿名さん23/04/25(火) 06:14:48

    多分バレンタインチョコは金輪が自作してクラス全員に一個ずつ渡してるんやろなあ……

  • 946二次元好きの匿名さん23/04/25(火) 06:18:50

    マネモフルが7個も貰ってるなんてこ…こんなの納得できない

  • 947二次元好きの匿名さん23/04/25(火) 06:20:26

    多分あにまん高校でのオタク度100はナレッジキング優勝レベル

  • 948二次元好きの匿名さん23/04/25(火) 09:02:08

    そろそろ次スレの気配もしてきたな…

  • 949二次元好きの匿名さん23/04/25(火) 18:14:53

    ほし

  • 950二次元好きの匿名さん23/04/25(火) 21:45:24

    廃校編は今スレで終わって中央本部編(仮)から次スレかな

  • 951二次元好きの匿名さん23/04/25(火) 23:33:26

    そろそろ1000行くのか、安価系と言いつつ安価取らずほぼスレ主が書いているのにすげぇな

  • 952◆xaazwm17IRZa23/04/26(水) 02:09:36

    廃校編が終わるところまで書けなかったので、ひとまずキリのいいところまで投下します……!

    28話㉔を投下します……!

  • 953◆xaazwm17IRZa23/04/26(水) 02:10:50

     三田哲は、星峰灼が苦手だった。
     休み時間に人狼ゲームをする程度には仲が良く、きっと客観的には友達関係に見えただろうし、星峰が友人であることを否定しようとも思えない。
     それでも、常に苦手意識があった。
     それはきっと、彼が三田以上に探偵らしい、と思ってしまったからだ。
     どんなときでも冷静。動揺を的確に見抜く聴覚。盲目というハンデも、探偵としてのキャラを立たせる要素にさえ思えてしまう。三田は、これまで幾つもの殺人事件を解決してきた。けれど、もしその場に星峰が居れば、三田以上の早さで事件を解決してしまうだろう。推理の必要なく、その場の人間の脈拍や心拍数で犯人が分かるからだ。
     新條アキラがバトル漫画の主人公なら、星峰灼は推理漫画の主人公だ。三田は密かにそう思っていた。そして、三田のコンプレックスを星峰が察しているようなのも、苦手意識を加速させた。
     殺し合いが始まり、星峰と合流したときに思ったのだ。
     もしかしたら、生き残るのは彼かもしれない。自分は、彼の引き立て役で終わるのかもしれない。そんな予感があった。
     そして、それを受け入れている自分が居た。
     いつまでも、探偵役に居座れるとは限らない。特に、孤島の洋館ではなく、デスゲームジャンルなら、探偵は決して生存を約束されている属性ではないのだ。
     星峰がロッカーからディスクという当たりアイテムを引いたときも思った。自分は自動小銃という当たりアイテムだったが、他者の記憶や異能を引き継げるディスクの方が、主人公らしい。やはりこの場の主人公は、星峰灼だ。

  • 954◆xaazwm17IRZa23/04/26(水) 02:11:36

     そのはずだったのに……。
     突き飛ばされ、同時に鞄を渡され、バラバラになる星峰が脳に焼き付いている。
     そのまま、三田もまた瓦礫に押しつぶされて意識を失った。

    「……た……三田、起きてよ……」

     揺さぶられて、目が覚めた。
     涙目の金木が、自分を見下ろしている。

    「が、瓦礫に埋もれてて、死んじゃったかと思ったわよ……勘弁してよね……」

    「金木さん……君が掘り出してくれたのかい……?」

     意外だった。
     金木冥はこういう時仲間を見捨てて逃げる。三田はそういう風に金木をプロファイリングしていた。

    「だ、だって……私、武器持ってないし……」

    「ああ……なるほど」

     それでも、三田の鞄だけ奪うような真似はしなかったことは、彼女の善性の現れなのだろう。三田の推理力やバリツを頼って、ではないと信じたい……いや無理かな。

  • 955◆xaazwm17IRZa23/04/26(水) 02:12:16

     手元には二つの鞄があった。三田の鞄と、星峰の鞄。
     託されて、しまった。

    「さっきまで戦車がバンバン砲撃してて……! でも、今は収まったみたい」

    「そうか、誰かがどうにかしたのかもしれないな……金木さん、生存者を探しに行こう。僕みたいに、瓦礫に埋もれている人もいるかもしれない」

    「う、うん、分かった。あ、後さ、歯荷仄花、あいつやばいよ。さっき見たんだけどさ……」

     金木が見たという、歯荷の犯行を訊きながら、ああ、と三田は溜息をついた。
     それは、歯荷がとうとう殺人に手を染めてしまったという失望であり。
     廃校が殆ど残骸と化してしまった光景に対しての驚愕であり。
     星峰も芝野も居ない今、金木の言葉の真偽を確かめる手段が無いことへの悲嘆であった。

    (推理を、するしかない……)

     望んだ地位だった。
     探偵候補者は退場し、残ったのは自分だけだ。

  • 956◆xaazwm17IRZa23/04/26(水) 02:13:00

     それが、たまらなく寂しい。
     役立たずの自分だけが生き残ってしまった、という思いに駆られる。

    (……たぶん、金木さんの言っていることは概ね真実だろう。歯荷さんを疑わせるための嘘にしては銃殺や斬殺、刺殺ではなく、マネモフルの拳法による殴殺というのが荒唐無稽すぎる。わざわざそんな嘘をつく必要がない)

     ただ、ここまでの道中で分かったが、金木冥は決して愚鈍ではない。へたれているだけで、地頭はかなり良い。きっと彼女は被害者でもなければ、容疑者でもない、ましてや探偵であるはずもなく、きっと犯人役になる女だ。
     油断は出来ない。
     けれど、瓦礫から救い出してくれたことも事実なのだ。

    (僕は、彼女の善性を信じたい……)

     数多くの事件を解決してきた。けれど、クラスメイトを疑うなんて、もうたくさんだ。慣れていない。愛読している金田一少年のように、クラスメイトを殺人犯として告発したことは、三田には無い。

    (だって僕たち、今まで上手くやれてこれたじゃないか……)

  • 957◆xaazwm17IRZa23/04/26(水) 02:13:40

     仲良しクラスというわけではなかった。どいつもこいつもマイペースだったし、黒い噂の絶えない石川や小田斬といった生徒も居た。金木もその一人だ。それでも、皆ことを荒立てずに、ここまでやってこれた。

    (もうたくさんだ、殺し合いなんて……)

     かぶりを振って三田は前を向く。
     その時

    「三田と、金木か……」

     特徴的な、新宿で情報屋をやっていそうな声が響く。

    「ドラギモス、無事だったのか」

     奇跡的に瓦礫の下敷きにならなかったのだろう、ドラギモスは五体満足、出血をしている様子もなく、その可愛らしい顔を二人に向ける。

    「ああ、爆風でトイレまで吹き飛ばされたときは色々駄目かと思ったが、幸い花子さんは出なかったし、トイレも壊されずに済んだ。運が良かったよ……」

     そう言って、三田が持つ二つの鞄に目を向ける。

    「それ、誰のだ?」

    「星峰くんだ。僕と歯荷さんを、戦車の砲撃から庇って……」

  • 958◆xaazwm17IRZa23/04/26(水) 02:14:24

    「そうか……」

     悲し気に、ドラギモスは目を伏せた。

    「……悔やんでいる暇は無いか。先ず情報交換をしよう、首輪に関して分かったことが……」

    「ねぇ、外から何か聞こえない?」

     まさか戦車か? と三人に緊張が走る。近代兵器をどうにか出来る存在は、この場に居ない。
     三人とも息を呑んで耳を澄まし、それが男女の罵り声、地を蹴ったり、転がるような音だと気づいた。

    「誰かが戦っている」

    「逃げよ!」

     三田の言葉に、金木が即逃亡を提案する。

    「いや、様子を見に行こう」

     ドラギモスが言った。

    「加勢できるかもしれないし、新しい情報も手に入る。お前らが来なくても僕は行くぞ」

  • 959◆xaazwm17IRZa23/04/26(水) 02:14:58

    「もちろん僕も行くよ。金木さんも来るだろう?」

    「……はぁ、一人で行動したくないしなぁ」

     三人は廃校の外へ、瀧沢と石川の元へと走った。



    (……さて、ここからが正念場だ)

     石川に喧嘩を売ったドラギモスは、火災によって暖められた空気を吸う。
     相手は戦闘狂、石川大輔。
     真偽は不明だが、暴力団を壊滅させたこともあるという、クラスで最も危険な生徒だ。
     この殺し合いを攻略する上で、大きな障害になるとは思っていたが。

    (まさか直接対決することになるとはな。くそっ、運動は苦手だが……)

     体育は苦手だ。喧嘩なんてしたこともない。
     それでも、ドラギモスは戦わなければならない。次に進むために。

    (やってやるさ……僕にだって意地がある……だから)

    「手伝ってくれよ、結」

  • 960◆xaazwm17IRZa23/04/26(水) 02:15:32

     ドラギモスは、「怪異」を召喚した。
     傍らに、人ならざる者が顕現する。
     それは、生前の結が具現化候補に入れていた怪異の一体である。
     最速の都市伝説、マッハ婆。

    「あぁ? それは結の異能だろ、何でテメェが……」

    「お前が負けた後教えてやるよ。ついでに勉強も教えてやろうか、不良少年」

    「テメェは進研ゼミのキャラクターか? 人間の価値は学力じゃねぇって教えてやるぜ、その体にな」

     マッハ婆は異形の加速をもって、石川に迫る。その速度、時速100キロ。加速を乗せた蹴りが石川に迫り

    「チッ」

     舌打ちと共に、石川が蹴りを重ねる。交差した蹴りは、一瞬の均衡を生み、次の瞬間にはお互いを弾き出した。
     互角、ではない。

    「嘘だろ……」

  • 961◆xaazwm17IRZa23/04/26(水) 02:16:16

     ドラギモスが思わずそう漏らした。
     二時間程前に、石川は姫氏原の悪霊を殴ることに成功している。お経を唱えたから殴れる、と石川が心底思い込み、その精神エネルギーが拳を強化したからだ。
     今も同じことが起こっている。石川は、心中でお経を唱えることで、怪異を殴れると思い込んでいる。勿論、付け焼刃の対処法であり、姫氏原の悪霊と同じく、石川の蹴りの威力は大きく減衰しているが、それでもマッハ婆と戦闘を成立させることが出来る。

    (不味いな。僕を弱者であると油断してるところを、具現化した怪異で瞬殺する予定だったんだが……)

     石川は怪異を殴れる男であることは、姫氏原から聞いていた。しかし、マッハ婆の速さに対応できるとは思っていなかった。
     ドラギモスは天才児だが、戦闘に関してはずぶの素人。
     石川のポテンシャルを測り間違えていた。

  • 962◆xaazwm17IRZa23/04/26(水) 02:17:00

    (具現化する怪異を間違えたか? ……いや、これで合っているはずだ。この状況なら、マッハ婆が適切……!)

     石川の周りを旋回しながら、マッハ婆が攻撃の機会を窺う。

    「爺の次は婆かよ……」

     と、石川は露骨に嫌そうな顔を浮かべながら、それでも時速100キロの婆を目で追っていた。
     機を視て婆が攻撃を仕掛ける。
     石川の頭を蹴飛ばそうとするが、裏拳を額に喰らい、慌てて距離を取る。

    「速いことは速いが、動きが単調過ぎる。喧嘩したことねぇだろ、婆さん」

     そもそもマッハ婆は車を追い抜く怪異であり、肉弾戦は専門外である。
     つまんねぇ、と石川は溜息を零す。

    (結みたいな異能を使うから期待してみれば……雑魚はやっぱり雑魚だな)

     どうしてドラギモスが異能を使えるのか不思議と言えば不思議だが、そこまで興味が持てなかった。
     諦めずに近づいてきた婆を回し蹴りで追い払い、石川はドラギモスを睨む。

  • 963◆xaazwm17IRZa23/04/26(水) 02:17:31

     石川の膂力が、怪異には上手く伝わらないことは事実だ。
     相性は良い。ドラギモスが直接殴り合うより遥かに相性が良いはずなのだ。
     しかし。

    「おらぁっ!」

     マッハ婆が顔を蹴られ、地に転がる。
     悪霊と違い、マッハ婆に自由意志は無いらしく、逃げる気配は無い。が、戦局は徐々に石川有利に傾いていた。
     どれだけ速くても、動きが直線的である以上、石川は対応できる。マッハ婆の攻撃は当たらず、石川の攻撃が一方的に当たり続ける。それは、数時間前の悪霊戦の再現だった。

    (くそっ……不味いな)

     ドラギモスの頬から、汗が伝った。
     怪異を召喚し、操る。これは異能によって行われており、当然体力を消耗する。本来の使い手である結栞奈ならばともかく、虎肝ドラギモスは仮の使い手であり、体力にも差がある。

  • 964◆xaazwm17IRZa23/04/26(水) 02:18:07

     更に、姫氏原を連れての逃走、爆風に吹き飛ばされたダメージと、悪条件が重なっている。
     石川の攻撃を一度も喰らっていないにも関わらず、ドラギモスは次第に衰弱していった。

    「あぁ!? 何もしてないのにへばってんじゃねぇぞ。マジでつまんねぇなお前」

     マッハ婆を蹴り飛ばしながら、石川は毒づく。

    「う、うるさい……」

     反論をしようとして、ドラギモスは咳き込んだ。

    (何だよ、結。思ったよりキツイじゃないか……! お前、今までこんなキツイ思いしてたのかよ……)

     それでも、ドラギモスは戦わねばならない。
     マッハ婆に次なる指示を出そうとし——怪異が姿を消していることに気づく。

    「な、何で……」

    「テメェが咳き込んだ時によ、すごい速さで逃げて行ったぜ。あんまりテメェが不甲斐ないから見捨てられたんじゃねぇの?」

  • 965◆xaazwm17IRZa23/04/26(水) 02:18:42

     本来の使い手、結栞奈も、意識を途切れさせたときに怪異が自立行動した現象を確認している。
     ドラギモスはくそっ……と足をふらつかせながら、その場を逃げ出そうとした。

    「喧嘩売っといて逃げんのかよ。つまらねぇにも程がある。俺は、お前みたいな奴、大嫌いだぜ」

    (そうさ。雑魚はいきがるくせにすぐ逃げる。あっちから喧嘩を売って、こっちが本気を出せばすぐこれだ。分かってたじゃねぇか。小学生の頃からよ)

     時間を無駄にした。
     これ以上鬱陶しいことをされないように

    「面倒だが駆除するか」

     石川は雑魚キャラをゲームから除去するために大股で歩き出す。
     一歩、二歩、三歩目は踏み出さず、空中で静止した。前方を、弾幕が走った。

    「……おいおい」

    「や、やっほー……」

     自動小銃を構えた金木冥が、えへへ……と愛想笑いを浮かべる。

  • 966◆xaazwm17IRZa23/04/26(水) 02:19:26

    「石川……ぶ、無事だったんだね……! あ、あの、私を見逃すと言う線は……」

    「今テメェめちゃくちゃ撃ったじゃねぇか。ちょっと虫が良すぎるんじゃねえか?」

    「で、ですよね……」

    (ドラギモスの次は金木だと……マジで雑魚しか残ってないのか?)

     そんなはずはない。そんな、絶望的な事態にはなっていないはずだ。
     とりあえず、この後にあるはずの、最高の勝負に水を差されないために、金木を排除しておこう。優先順位はドラギモスより上だ。
     石川は方向を変えて、金木の方に歩み出す。

    「こ、来ないで、撃つよ……!」

    「撃ってみろよ。撃たなかったらテメェ許さねえからな」

    「ひぃ……」

     金木は引き金を引く。弾幕がばら撒かれる。
     例え石川と言えど、まともに喰らえば死は免れない。
     しかし、撃つのは金木冥。素人である。

    (銃口さえ見れば、躱せる。瓦礫が遮蔽物になるしな)

  • 967◆xaazwm17IRZa23/04/26(水) 02:20:06

     転がりながら弾幕を避け、石川は手近にあった瓦礫を掴み、金木に投擲する。
     遥か太古から、投石は効果の高い武器として知られる。
     石川の膂力で投げつけられたそれは、金木の頭部を柘榴のように弾けさせ……る前に、バールのようなもので弾かれた。
     三田哲は、そのまま石川に殴りかかる。

    (ちっとはマシな奴が出てきたが……雑魚に毛が生えたようなもんだな)

     溜息と共に、石川はバールのようなものを殴る。それだけでバールはへし折れる。
     悲鳴と共に、三田はバールのようなものだったものを投げ捨てる。弱い。弱すぎる。

    (いい加減鬱陶しいぜ)

     適当に三田に殴りかかる。どうせ一撃で終わりだ。羽虫がどれだけ飛ぼうが、虫に過ぎない。
     ——世界が回転した。

    (投げられた!? この俺が!?)

     数多の戦闘経験から瞬時に今の状態を認識する。

  • 968◆xaazwm17IRZa23/04/26(水) 02:20:40

     不機嫌故に気づいていないが、石川の疲労はピークに達している。金輪戦、ラッタッター戦、瀧沢戦、いずれも石川の体力を大幅に削っていた。疲労が重なれば使える筋力も落ちる。また、集中力も欠いていく。その状態で、更に油断までした石川は、バリツ使いの三田が戦える相手まで格落ちしていた。
     三田は石川の首に手を回した。裸締め。どれだけ膂力に差があろうと、絞め落としてしまえばいい。
     結論から言えば、三田は、足りなかった。
     三田哲が石川を倒せる瞬間は、投げた瞬間にしかなかった。殺意を込めた投げ、頭から叩きつけるような投げを披露できれば、三田は石川を終わらせることだって出来ただろう。チャンスは過ぎた。
     石川は。

    「やるじゃねぇか、おい!」

     モチベが上った。
     やり返すように、三田を放り投げる。
     三田は慌てて受け身を取るが、衝撃を殺しきれず、無様に大地を転がる。

    「って、今撃てただろうが!? ボサッとしてんじゃねぇぞ!」

  • 969◆xaazwm17IRZa23/04/26(水) 02:21:25

     怒声と共に投げつけられた瓦礫が、金木の手の甲に当たり、金木は自動小銃を取り落とす。
     しかし、自動小銃は地面に触れることなく、滑り込んだドラギモスの手に収まった。

    「終わりだ、石川!」

     ドラギモスは、引き金を握ろうとした。
     ぱきゃっ、とプラスチックが砕けたような音が響いた。

    「……マジか」

     ドラギモスは呆然とそう言った。
     石川の回し蹴り。その先端が自動小銃の銃口を掠り、へし折っていた。
     そのまま石川は回転し、ドラギモスの首を蹴りでへし折らんと迫る。

    (……やっぱり雑魚じゃねえか。逃げなかったことは評価するがよ、これじゃちっとも楽しく……)

     背中に、衝撃が走った。

    「ぐっ、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」

  • 970◆xaazwm17IRZa23/04/26(水) 02:22:07

     驚愕と共に、石川は宙を舞った。
     そのまま廃校の残骸として残っていた壁に叩きつけられ、壁を破壊して闇に消える。
     石川が立っていた場所には、マッハ婆が立っていた。

    「……どうやら上手くいったようだね」

     よろめきつつも三田が立ち上がり、ドラギモスに笑いかける。

    「……ああ。プランAでは無理そうだったからな。プランBに切り替えた」

     息を整えながらも、ドラギモスは言う。
     プランA。それは、前述したマッハ婆で油断している石川を制圧するという作戦である。
     そして、プランB。それは、さもドラギモスが体力の低下からマッハ婆の支配権を失ったと錯覚させ、マッハ婆に廃校を一周させた後、その速度を乗せた一撃を石川に叩き込むというものだった。石川の意識からマッハ婆を消すために、金木や三田の誘導が必要不可欠だった。

    「……やれやれ。探偵の僕が肉体労働とはね。まぁ、バリツの強さを披露できたし良しとしようかな」

  • 971◆xaazwm17IRZa23/04/26(水) 02:22:58

    「ああ。三田、お前、意外と強いんだな。探偵で食っていけなくても、警察とか向いてるんじゃないか? 警察はプライド的にNGか?」

    「いや、古今東西のミステリ小説では、有能な刑事がたくさん登場する。警察に悪印象は無いさ。ただ、そうだね、僕は集団行動や上下関係が苦手で……」

    「だべってる場合じゃないよ!」

     金木が悲鳴を上げた。

    「は、早くとどめを刺しに行かないと。殺さないと駄目よ!」

    「……いや、金木さん。ドラギモスくんちゃんのかっこいい売り言葉、聞いてなかったのかい? 石川くんにはやってもらいたいことが……」

    「そんなの知らない! いいから早く、起き上がってこないうちにあいつを消さないと」

    「おいおい、ひでぇ言われようだな。傷ついちまうなぁ……」

     土煙の中から、石川が姿を現す。時速100キロの蹴りを喰らって、それでも未だ、健在であった。否、その闘気は先ほどよりも更に膨れ上がっていた。

    「雑魚のくせによく工夫したじゃねえか。いいぜ、俺の相手として認めてやるよ」

    「……悪いな、三田、金木。プランCだ」

  • 972◆xaazwm17IRZa23/04/26(水) 02:23:40

     そう言って、ドラギモスはマッハ婆におぶられる。

    「ここから先は、命の保証が出来ないぜ」

     恐怖に怯える金木を守るように、三田が一歩前に出て、構えを取る。

    「さっきみたいなの、頼むぜ。頑張って工夫しろよ?」

     雄叫びと共に、石川は駆け出す。
     ドラギモスを乗せたまま、マッハ婆は加速し、迎え撃とうとした石川を飛び越える。

    「あぁ!?」

    「お前を倒す罠を向こうに用意している。……ビビってないなら追いかけてこい」

    「上等だ、雑魚!」

     見え見えの挑発に、あえて石川は乗った。今しがたのマッハ婆の一撃は、石川に期待を抱かせた。ただの雑魚ではないのかもしれない。もう少し泳がせれば、多少は楽しくなるのかもしれない。

    「ほうら、僕はこっちだ!」

    「待ちやがれ!」

  • 973◆xaazwm17IRZa23/04/26(水) 02:24:10

     マッハ婆も消耗しているのか、その速度は落ちている。石川はドラギモスの背中を追いかけながら、ふと、口角が上っていることに気づいた。

    (なんだ? バトルとしちゃまだ温まったばかりなのに……ああ、そうか。これは……)

     それは、随分と懐かしい記憶だった。
     戦いごっこで近所の子どもに怪我をさせ、怖がられてハブられる前の記憶。
     石川大輔が、戦闘の楽しさに目覚める前の記憶。
     逃げる者を、ひたすら追いかける。

    (鬼ごっこなんて、久しぶりだな……)

     ドラギモスを捕まえるべく、石川は疲労で重くなる太腿を叩いた。

  • 974◆xaazwm17IRZa23/04/26(水) 02:24:45

    28話㉔を終了します……!

  • 975◆xaazwm17IRZa23/04/26(水) 02:28:55

    次の話で今度こそ廃校編を終わりにします……!
    明日か明後日には完成させて投下します……!(明日完成していなかった場合は、また適当にダイス振って何かやります)

    今日もたくさんの感想ありがとうございます! 投下ペースが下がり申し訳ないのですが、今後ともお付き合いいただけると幸いです……! 

    それでは、本日もありがとうございました……!

  • 976二次元好きの匿名さん23/04/26(水) 02:33:10

    乙でしたー!
    まだ希望は残っているな!
    そして結ちゃんのDISCがあれば花子さんや爺も消せるんじゃないか!?

  • 977二次元好きの匿名さん23/04/26(水) 02:37:09

    こういう感じでみんなで協力して戦うの好き……
    それにしても廃校編どうやって締めるのか気になるな

  • 978二次元好きの匿名さん23/04/26(水) 03:50:34

    結ちゃんのディスクで花子さんも再登場しそうだし
    明日のダイスで皆のホラー耐性を知りたいな
    もちろん映画とかの話であって実際に相対する場合とは別として

  • 979二次元好きの匿名さん23/04/26(水) 14:56:17

    保守

  • 980二次元好きの匿名さん23/04/26(水) 21:21:21

    レイドバトルも一対一とはまた違って楽しい

  • 981◆xaazwm17IRZa23/04/27(木) 01:20:54

    このスレで廃校編終わらせられたらスッキリしたんですけど、ちょっと残り20は心もとないですし(前回の長さから考えて25~30ほどは使いそうなので)、今日の投下も難しいので、スレ埋めがてら適当にダイス振ります……!

  • 982◆xaazwm17IRZa23/04/27(木) 01:23:01

    ホラー映画耐性(男子)

    1 石川 大輔(いしかわ だいすけ)dice1d100=69 (69)

    2 宇多 一郎(うた いちろう)dice1d100=33 (33)

    3 宇都 創希(うと そうき)dice1d100=54 (54)

    4 小田斬 純恋(おだぎり すみれ)dice1d100=5 (5)

    5 オルランド・テークトリdice1d100=31 (31)

    6 金輪 幹久(かなわ みきひさ)dice1d100=45 (45)

    7 金島 明宏(かねしま あきひろ)dice1d100=46 (46)

    8 篠宮 纏(しのみや まとう)dice1d100=16 (16) 

    9 芝野 貴仁(しばの たかひと)dice1d100=44 (44)

    10 新條 アキラ(しんじょう あきら)dice1d100=33 (33)

    11 Nek-O(ネック・オー)dice1d100=69 (69)

    12 パンパンパン・ラッタッターdice1d100=88 (88)

    13 星峰 灼(ほしみね あきら)dice1d100=82 (82)

    14 堀木 彩(ほりき あや)dice1d100=22 (22)

    15 マネモフル=タマネdice1d100=74 (74)

    16 三田 哲(みた とおる)dice1d100=17 (17)

  • 983◆xaazwm17IRZa23/04/27(木) 01:24:51

    ホラー映画耐性(女子+α)

    17 麻井 涼(あさい りょう)dice1d100=5 (5) 

    18 垣根 澄花(かきね すみか)dice1d100=11 (11)

    19 金木 冥(かねき めい)dice1d100=15 (15) 

    20 姫氏原 小毬(きしはら こまり)dice1d100=91 (91)

    21 霧田 キルコ(きりだ きるこ)dice1d100=67 (67)

    22 里美 綾香(さとみ あやか)dice1d100=60 (60)

    23 瀧沢 魁(たきざわ かい)dice1d100=42 (42)

    24 千頭之 のづち(ちずの のづち)dice1d100=8 (8)

    25 ねうねい・めあめえdice1d100=37 (37)

    26 歯荷 仄花(はに ほのか)dice1d100=22 (22)

    27 文乃 あかり(ふみの あかり)dice1d100=62 (62) 

    28 結 栞奈(むすび かんな)dice1d100=100 (100)

    29 目裏 雨子(めうら あめこ)dice1d100=79 (79)

    30 山野 二(やまの つぐ)※闇のヴェラジウスdice1d100=83 (83)

    31 鰐淵 英利(わにぶち・えいり)dice1d100=96 (96)

    32 虎肝 ドラギモス(とらきも どらぎもす)dice1d100=14 (14)

  • 984二次元好きの匿名さん23/04/27(木) 06:20:19

    このレスは削除されています

  • 985二次元好きの匿名さん23/04/27(木) 06:56:17

    さすが実物で慣れてるだけあって結ちゃんと姫氏原ちゃんは高いな
    召喚されたマッハ婆とかにあんまり怖いイメージないけど…

  • 986二次元好きの匿名さん23/04/27(木) 09:26:10

    概ねイメージ通りだけど、ヴェラジウスちゃんが高いの意外だな
    こういうテンプレ厨二病キャラってホラーやガチの怪異には耐性無いのが鉄板じゃん?

  • 987二次元好きの匿名さん23/04/27(木) 12:21:09

    ドラギモスはホラー耐性あんまり無いのに今頑張ってるのか……

  • 988二次元好きの匿名さん23/04/27(木) 13:47:35

    あくまで映画だから実物とは別なんじゃない?
    そして小田斬くん殺人鬼なのにホラー耐性クソ雑魚なのあざとい…

  • 989二次元好きの匿名さん23/04/27(木) 15:17:17

    ヴェラジウスと小田斬には二人でお化け屋敷やら怪談のイベントにでも行って欲しいですね(勿論if)

  • 990二次元好きの匿名さん23/04/27(木) 20:31:54

    カップルの片方、それも普段リードしてそうな方が極端にホラー耐性低いの良いよね

  • 991二次元好きの匿名さん23/04/28(金) 00:51:18

    保守
    後一回ダイスでも振って今スレは終わりかな?

  • 992◆xaazwm17IRZa23/04/28(金) 02:05:04

    今日も始めさせていただきます……!

    昨日は鯖落ちで途中で終わってしまったので(もう少し色々やる予定でした……)、今日の流れとしては昨日の続き→もう一つダイス振る→次スレ作りとします……!


    ホラー映画耐性トップ3

    1位 結 栞奈(むすび かんな)dice1d100=100 (100)

    2位 鰐淵 英利(わにぶち・えいり)dice1d100=96 (96)

    3位 姫氏原 小毬(きしはら こまり)dice1d100=91 (91)


    ホラー映画耐性ワースト3

    1位 小田斬 純恋(おだぎり すみれ)dice1d100=5 (5)

    1位 麻井 涼(あさい りょう)dice1d100=5 (5) 

    3位 千頭之 のづち(ちずの のづち)dice1d100=8 (8)

  • 993◆xaazwm17IRZa23/04/28(金) 02:08:26

    ファッションセンス(男子)


    1 石川 大輔(いしかわ だいすけ)dice1d100=79 (79) 

    2 宇多 一郎(うた いちろう)dice1d100=1 (1)

    3 宇都 創希(うと そうき)dice1d100=92 (92)

    4 小田斬 純恋(おだぎり すみれ)dice1d100=99 (99)

    5 オルランド・テークトリdice1d100=24 (24)

    6 金輪 幹久(かなわ みきひさ)dice1d100=51 (51)

    7 金島 明宏(かねしま あきひろ)dice1d100=23 (23)

    8 篠宮 纏(しのみや まとう)dice1d100=30 (30)

    9 芝野 貴仁(しばの たかひと)dice1d100=4 (4)

    10 新條 アキラ(しんじょう あきら)dice1d100=22 (22)

    11 Nek-O(ネック・オー)dice1d100=15 (15)

    12 パンパンパン・ラッタッターdice1d100=70 (70)

    13 星峰 灼(ほしみね あきら)dice1d100=38 (38)

    14 堀木 彩(ほりき あや)dice1d100=59 (59)

    15 マネモフル=タマネdice1d100=6 (6)

    16 三田 哲(みた とおる)dice1d100=2 (2)

  • 994◆xaazwm17IRZa23/04/28(金) 02:10:41

    ファッションセンス(女子+α)


    17 麻井 涼(あさい りょう)dice1d100=44 (44)

    18 垣根 澄花(かきね すみか)dice1d100=14 (14)

    19 金木 冥(かねき めい)dice1d100=5 (5) 

    20 姫氏原 小毬(きしはら こまり)dice1d100=51 (51)

    21 霧田 キルコ(きりだ きるこ)dice1d100=58 (58)

    22 里美 綾香(さとみ あやか)dice1d100=73 (73)

    23 瀧沢 魁(たきざわ かい)dice1d100=44 (44)

    24 千頭之 のづち(ちずの のづち)dice1d100=16 (16)

    25 ねうねい・めあめえdice1d100=97 (97)

    26 歯荷 仄花(はに ほのか)dice1d100=40 (40)

    27 文乃 あかり(ふみの あかり)dice1d100=4 (4) 

    28 結 栞奈(むすび かんな)dice1d100=1 (1)

    29 目裏 雨子(めうら あめこ)dice1d100=32 (32)

    30 山野 二(やまの つぐ)※闇のヴェラジウスdice1d100=31 (31)

    31 鰐淵 英利(わにぶち・えいり)dice1d100=31 (31)

    32 虎肝 ドラギモス(とらきも どらぎもす)dice1d100=86 (86)

  • 995◆xaazwm17IRZa23/04/28(金) 02:13:55

    ファッションセンストップ3

    1位 小田斬 純恋(おだぎり すみれ)dice1d100=99 (99)

    2位 ねうねい・めあめえdice1d100=97 (97)

    3位 宇都 創希(うと そうき)dice1d100=92 (92)


    ファッションセンスワースト3

    1位 宇多 一郎(うた いちろう)dice1d100=1 (1)

    1位 結 栞奈(むすび かんな)dice1d100=1 (1)

    3位 三田 哲(みた とおる)dice1d100=2 (2)

  • 996◆xaazwm17IRZa23/04/28(金) 02:17:12
  • 997二次元好きの匿名さん23/04/28(金) 02:18:35

    スレ建て乙です
    二連1は壊滅的すぎて笑う

  • 998二次元好きの匿名さん23/04/28(金) 09:28:58

    みんな今日は制服でよかったね……

  • 999二次元好きの匿名さん23/04/28(金) 10:26:27

    梅とする。しかし私生活で色々目立つ人達になりそうな偏り具合…

  • 1000二次元好きの匿名さん23/04/28(金) 13:49:26

    1000はもらった

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