- 1二次元好きの匿名さん21/11/24(水) 23:04:20
ストローが刺さったジョッキ満杯のコーラを右手に。
箱一杯に詰められたポップコーンを左手に。
頭部が前後に細長い地球外シリコン生命体が登場する映画に、ミホノブルボンは困惑していた。
先日。トレーニング終了後、ミホノブルボンはトレーナーにあるお願いをした。
「私の、趣味を教えて欲しい?」
「マスターが時折口にされる『趣味』を元にしたと思われる発言。
ですが、今の私のデータベースでは発言の意図を正確に理解する事ができません。情報の更新が必要と判断します」
「……なるほど? ……あれ、有名な作品だと思うんだけどなぁ」
少し納得いかなそうな面持ちのままトレーナーは自分のスマート端末を操作し、画面をミホノブルボンに見せる。
「『映画』ですか」
その日の晩。
ミホノブルボンはトレーナーにサブスクリプションの映画配信サイトに登録してもらい、教えてもらった映画を部屋で見ようと思っていた。
だが。
「エラー。サイトに接続できません。URLに問題は皆無。では一体……」
そのまま頭を悩ませる事数時間、就寝時間になってしまったのである。
その事を翌日報告すると、トレーナーは額に手を当てて天を仰いだ。
「結果、視聴を断念。ミッション……失敗です」
「一応訊くけど、同室の子に確認してもらったりとか」
「フラワーさんは現在他県で行われるレースに参加するため、不在です」
「……あぁ」
落ち込むミホノブルボン。
トレーナーは悩む素振りを見せた後、おずおずと口を開く。
「ねぇ、ブルボン? もしよかったらなんだけど……」
「なんでしょうか、マスター」
「明日は休養日だし……私の部屋で映画を見る、なんてどう?」
そう、トレーナーから切り出されたのであった。 - 2二次元好きの匿名さん21/11/24(水) 23:07:12
「ライスさんから教えていただいた人気店の『ケーキ』……型崩れ等、問題なし。
目前の建築物が、マスターの『住居』である事を確認。
……ミッション、開始します」
ミホノブルボンは意を決して、マンションのエントランスでインターホンを押した。
エレベーターホールに続く自動ドアが開く。ホールを通り抜け、階段で目的の階へ。
扉を数度ノックすると、解錠され、扉が開かれた。
「ブルボン。よく来たわね」
「おはようございますマスター。本日はお招きいただき、ありがとうございます」
そう言って、ミホノブルボンは持っていたケーキを手渡した。
「以前、会話でマスターは『栗』が好きだと伺いました。モンブランです」
「あら、ありがとう! 食後にいただきましょう」
玄関で靴をそろえ、トレーナーの部屋に入る。そしてミホノブルボンは驚いた。
「マスター、自宅にプロジェクターとスクリーンを用意されたのですか?」
トレーナーの部屋の壁の一面にはスクリーンが設置され、天井から吊り下げられたプロジェクターがホーム画面を投射している。
カーテンも遮光性にものでしっかりと暗く、照明を落としたらミニシアターと呼べるほどに本格的であった。
「音響にもこだわっててね。……自慢したい気持ちがないと言ったら、嘘になるわ。
――さて、ブルボン。早速だけど、見る?」
「制限時間を算出。食事時間等を差し引き、映画に使用できる時間は『四時間』。つまり、今すぐ見始めれば『二作品』は視聴可能です」
「分かったわ」 - 3二次元好きの匿名さん21/11/24(水) 23:09:12
そうして、トレーナーに映画の必需品としてコーラとポップコーンを手渡された。
昼食準備のため、ミホノブルボンを部屋に一人残して映画が再生された所で冒頭に戻る。
映画のジャンルはSFホラーパニック。
トレーナーがおすすめした作品の中から、宇宙が舞台だという事でこれを選択した。
しかしミホノブルボンはこれを見てしまった事を少々後悔していた。
作中、仲間の一人だったアンドロイドが実は裏切り者であった事が判明し、主人公と敵対してしまうのだ。
トレーナーが好みだという部分がこの映画のどの部分であるか、ミホノブルボンには分からない。
だが、この映画がトレーナーに影響を与えているという事実。
その中に自分と似た、忠実にミッションを遂行する機械的なキャラクターが敵にいる。
「解析、完了。マスターは……、もしかして私に不信感を?」
そんな事はありえないという事は分かっている。
それでも、ぽつりと、不安が漏れてしまった。 - 4二次元好きの匿名さん21/11/24(水) 23:10:57
「――ブルボン、大丈夫?」
「っ――いえ。申し訳ありませんマスター。少し、考え事を」
映画が終わると、トレーナーが昼食をテラスに用意して待っていた。
トレーナーは映画の感想をミホノブルボンに尋ねた。
だが自身の不安に触れないように返答してると、どうしてもその内容は簡素で当たり障りの無い物になってしまう。
閑静な住宅街。休日なので車通りも少なく、小鳥のさえずりがよく聞こえる。
風が吹き抜ける。暖かな日差しが降り注いでいるはずなのに、少し肌寒かった。
「映画、あまりお気に召さなかったみたいね」
「そのような――」
「元はといえば、ブルボンが知らない話を会話に混ぜてた私が悪いわ。これからは、気をつけないと」
そう言ってトレーナー、空いてる食器を手に取り席を立った。
「マスター、片付けなら私が」
キッチンへ向かうのをミホノブルボンは追おうとする。
「いいのよブルボン。貴女は『お客さん』なんだから」
するとトレーナーはすげなくそう言って、ミホノブルボンをテラスに残して行ってしまった。
「……エラー。これではマスターを『知る』どころか、余計に『気遣い』をさせてしまうばかりです」 - 5二次元好きの匿名さん21/11/24(水) 23:12:51
いつも好ましく思っている、トレーナーがいれてくれたハーブティーを楽しめなかった。
お土産のケーキをトレーナーが美味しいと言って食べてくれるのも、どこか余所余所しく感じてしまう。
そんな空気に、ミホノブルボンは耐えきれなくなってしまった。
「……スケジュールを失念。マスター、申し訳ありません。急用を思い出しましたので、そろそろ御暇させていただきます」
「えっ」
目を丸くするトレーナーに頭を下げ、ミホノブルボンは席を立つ。
「ブルボン、どうしたの突然。そんな嘘までついて」
「嘘ではありません」
有無を言わさず去ろうとするミホノブルボンを、トレーナーは慌てた様子で追いかける。
「だって貴女、スケジュールを忘れられるような子じゃないでしょう」
「否定します。私は機械ではありませんので、忘れる事くらいあります」
ソファにかけてあった上着を手に取り、玄関へ向かおうとする。
「……ごめんなさい、ブルボン」
そんなミホノブルボンの背中に、かけられたのは謝罪の言葉であった。
「何故……、マスターが、謝るのですか」
「私、こうやって家に人を招くのって初めてだったから……何か、失敗したみたいね」
そう言って、寂しそうに笑うトレーナー。
「いえ、そんな事は、マスターは――」
「いいの。今日は来てくれてありがとう」
ミホノブルボンは汗がにじむ拳を握りしめる。
手にとった上着をソファに掛け直し、トレーナーに歩み寄った。
「否定します、マスター。マスターが悪いのではありません。……私が」
「ブルボン……?」
「……先程の『映画』には、『続編』がある事を確認。マスター、続編もマスターの『おすすめ』ですか?」
「え、えぇ、そうだけれど」
「鑑賞続行を希望。見ましょう、マスター」 - 6二次元好きの匿名さん21/11/24(水) 23:19:08
ミホノブルボンとトレーナーはソファに並んで座り、映画を鑑賞する。
先程と同じように手にはコーラ。ポップコーンは、二人の間に配置された。
ホラー色が強かった前作に反して、続編となる今作は地球外生命との戦いに重きが置かれている。緊張感が少し減って、代わりに爽快感が増している。
そして、前作に引き続き、アンドロイドが登場した。
アンドロイドに裏切られた過去を持つ主人公は、新しく登場したアンドロイドに辛くあたる。
その光景にミホノブルボンは胸を痛めていたが、徐々に流れが変わる。
そのアンドロイドは人間味にあふれていた。人のように恐怖し、愛想があった。
そして最後には約束を守って主人公を助けにきて、大きく損壊しながらも女の子を守ってみせたのだ。
ふと、ミホノブルボンはトレーナーの横顔を見た。
先程までの落ち込んだ顔が嘘のように、トレーナーの顔は喜びに満ち、まるで子供のような笑みで画面に釘付けとなっていた。
「……マスター」
映画が終わり、スタッフロールが流れ始めた所でミホノブルボンは声をかけた。
「えっ、あ、ごめんなさい。なに、ブルボン」
我を忘れて映画に没頭したことが気まずかったのか、視線をそらすトレーナー。
「マスターは、あのアンドロイドがお好きですか?」
だがそう訊くと、一瞬ぽかんとした顔を見せる。
そして、ミホノブルボンの肩に手を乗せて、破顔した
「――大好きね」
「――そう、ですか」
ミホノブルボンは倒れこみ、トレーナーの肩に額を押し付けて体重を預けた。
勢いでポップコーンがソファから落ちて、床に散らばる。
「ブルボン?」
「マスター、聞いてください。実は、私は『怖がり』だと定義されるそうです」
「そうだったの……って、なら! 先に言ってくれれば――」
「現在、緊急制御プログラムにて、ステータス『震え』に対処中。なので、マスター」
ミホノブルボンは少し躊躇って、言った。
「少しの間このままで……いさせてください」 - 7二次元好きの匿名さん21/11/24(水) 23:21:55
鑑賞後、少し早いが夕食の準備を始める。
調理場で包丁を握るミホノブルボンを、後ろで心配そうに見守るトレーナー。
だがミホノブルボンは、そんなトレーナーを意に介さず野菜を切り続ける。
「ねぇ、ブルボン。本当に、いいのよ?」
「来客を接待する事が家主であるマスターのタスクであることは理解しています。
ですがマスター、私は普段、マスターから指導を受ける立場にあり、加えて今日はマスターの時間を頂戴してしまいました。
――つまり、お手伝いさせてほしいのです」
トレーナーは釈然としない様子だったが、それ以上ミホノブルボンを止める事は無かった。
キッチンに二人、並んで夕食を仕上げる。
主菜の肉料理をトレーナーが、副菜はミホノブルボンが手掛けた物が食卓に並ぶ。
「いただきます」
二人同時にそう言い、トレーナーはまず副菜を。ミホノブルボンは主菜に箸をつける。
「あらブルボン、これ出汁が効いてていい味ね」
「味覚で想定以上の『旨味』を検知。柔らかさも『絶妙』――『とても美味しい』です、マスター」
ミホノブルボンは自分を無口な方だと定義していた。
だが今は、するすると流れるように言葉が溢れ出てくる。
それで、普段からは考えられない程、賑やかな食卓になってしまう。
ふわりとカーテンを巻き上げて、開いた窓から風が吹き込む。
昼間より気温は落ちていて、風も冷たくなっていた。
だが、弾む会話で熱を持ったミホノブルボンの体には、丁度よい冷たさに感じられた。
体力が20回復した
やる気は絶好調をキープしている
スキルPtが40上がった - 8二次元好きの匿名さん21/11/24(水) 23:23:28
帰宅後に映画『エイリアン』を見ていてふと思いついて書きました。
出来、エミュ、解釈違い等ご容赦ください
読んでいただきありがとうございました - 9二次元好きの匿名さん21/11/24(水) 23:24:05
- 10二次元好きの匿名さん21/11/24(水) 23:25:41
- 11二次元好きの匿名さん21/11/24(水) 23:28:13
Bravo…bravo…!
- 12二次元好きの匿名さん21/11/24(水) 23:34:24
- 13二次元好きの匿名さん21/11/24(水) 23:56:41
ブルボンのSSもっと増えろ
- 14二次元好きの匿名さん21/11/25(木) 02:04:47
エイリアン1を見て落ち込む情緒のブルボンにエイリアン-プロメテウスを見せたい
- 15二次元好きの匿名さん21/11/25(木) 05:16:29
リドリースコットはアンドロイドに何か恨みでもあるんですかね……
- 16121/11/25(木) 07:14:30
プロメテウスとコヴェナントも面白いですよ
ブルボンに薦める事はしませんが - 17二次元好きの匿名さん21/11/25(木) 11:23:34
次も期待
ブルボンSSは貴重なんだ - 18二次元好きの匿名さん21/11/25(木) 11:41:59
ブルトレはダディー以外に見たことなかったので助かる
- 19二次元好きの匿名さん21/11/25(木) 12:00:28
ブルボンの不安感とそれが自分でもよく分からない幼さが可愛い…かわ…
- 20二次元好きの匿名さん21/11/25(木) 16:37:45
ブルボンには糖度20以上になるポテンシャルがある
- 21二次元好きの匿名さん21/11/25(木) 19:10:00
うふふ
良いものを見せてもらったぜ
♡を食らえ! - 22121/11/25(木) 20:43:44
ありがとうございます
次は少し趣向を変えてミホライを書いてみようかと思います - 23二次元好きの匿名さん21/11/25(木) 21:54:09
ブルボンSSの流行がきたな……!