【SS注意】シンヨコハマVS吸血鬼絶対殺すマン

  • 1二次元好きの匿名さん23/04/28(金) 20:38:28

    ・スレ主はアニメ派で原作は途中まで
    ・時系列は第281死~第302死の間
    ・捏造注意
    ・誤字脱字があるかもしれない

  • 2二次元好きの匿名さん23/04/28(金) 20:38:49
  • 3二次元好きの匿名さん23/04/28(金) 20:40:03

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  • 4123/04/28(金) 20:42:39

    「反吸血鬼団体、ですか」
    「ええ、元々は東京で活動していたそうですが」

    ギルドマスターはドラルクの前にホットミルクを置きながらそう話した。
    ドラルクとロナルドに挟まれた席で、アルマジロのジョンがココアに息を吹きかけている。

    「最近演説してる連中か」
    「何だ、知っていたのかね?」
    「ヌッヌヌヌ?」
    「昼間に人通りの多いところでやってることがあるんだよ。ほとんど相手にされてねえけどな」

    日光を浴びると死ぬドラルクが、そんなことを知るはずもない。
    何だかんだ心優しいロナルドは、ドラルクが傷つかないように、あえて黙っていたのだろう。

    「ロナルドさんの言う通り、新横浜でまともに取り合う人はそういません。ですが、無差別に吸血鬼を退治しようとすることもあるそうです。お気をつけください」
    「靴下コレクションのような相手ですか? うわ、考えただけで死にそう」
    「靴下奪うだけが退治方法じゃねえから」

    そう聞いて真っ先に思い出すのが人間・靴下コレクションであるあたり、すっかりポンチに毒されている。
    ロナルドはタビコの幻影を振り払い、杭や銀製品を持った退治人が罪のない吸血鬼を襲う様子を想像したが、ドラルクはそれに抗えず、己の靴下を奪おうとする靴下コートの変態を思い出していた。
    マスターに挨拶してからギルドを出て、パトロールに戻る。今夜は一度も街中で吸血鬼に会っていない。雲に覆われて月も星も見えない。しかし夜景の光が明るく道を照らしている。

    「……あれは基本的に吸対の領分だろうな」
    「まあ、人間が相手だからねえ」
    「ヒナイチから多少は聞いてた。吸血鬼とのコンビなんて格好の的だから気をつけろってな」
    「私にも知らせてくれればよかったのに」
    「お前、そんなこと聞いたら見に行くだろ。連中の格好の餌じゃねえか」
    「ヌヌヌヌヌ!」
    「ほらジョンもダメだって言ってる」
    「一度くらい見てみてみたいんだが」

  • 5123/04/28(金) 20:43:32

    二人と一匹の会話の声だけがする。新横浜にしては珍しく静かな夜だと思った矢先、集団が声を張り上げ始めた。見える場所まで近づくと、銀色の十字架を身に着けているのがわかる。

    「吸血鬼を排除せよ!」
    「吸血鬼とは人間を支配し食糧にしようと企む悪しき怪物です! 畏怖の名のもとに人間を襲撃する吸血鬼は滅ぼすべき存在です!」

    「人間社会を守れー!」
    老若男女問わずプラカードや段幕を掲げ、好き勝手なことを叫ぶので、通行人はほとんど足を止めない。
    たまに若者がスマホで写真か動画を撮っているくらいだ。ただ、吸血鬼への嫌悪感と忌避感は伝わってくる。

    「……ああいう団体の中には本当に吸血鬼の被害者もいるが、大半はそうじゃない。せいぜい下等吸血鬼だ。高等吸血鬼の被害に遭ったら、被害者団体を紹介されるからな」

    毎日変態が出て全裸くらいでは動じない人々が住む新横浜では忘れられがちだが、危険度の高い吸血鬼が活動する地域は他にも存在する。
    そういう場所では吸血鬼は隣人ではない。恐ろしく、忌まわしい怪物なのだ。

    「しかし、こんなところで集まって大丈夫かね? ここには……」

    ドラルクの言葉を遮るように、シャン! シャン! と金属の高い音が始まる。
    何かと思って団体の中にも、周囲を見渡す者が現れ始めた。
    見上げれば、木登り禁止の街路樹の枝に、吸血鬼マナー違反が座ってタンバリンを打ち鳴らしている。

    「あっはっは! 演説の最中にタンバリンを鳴らしてやる~」
    「ほら出た」
    「あー……」

    ドラルクが予期していたのはこういうことだ。反吸血鬼団体が自分の領域で騒ぐなど、力のある吸血鬼ならちょっかいをかけないはずがない。
    団体から「穢らわしい!」「化物め!」と罵る声がしたが、マナー違反は意に介さない。

  • 6123/04/28(金) 20:44:21

    「行けグール! マナー違反流ズボン下ろし〜!」

    マナー違反が命じると、数体のグールが中年男に飛びかかる。
    あっという間にスラックスを下ろされ、ブリーフがあらわになった。うわあ、と野太い悲鳴が上がる。
    さらにグールはゴミを投げたり、ぶつかって舌打ちをしたりとマナーを破り続ける。
    通行人が相手なら止めているが、相手が相手なので怒るかどうか若干迷う。
    まあ注意はしようとロナルドが一歩踏み出したところで、ジョンが何かに気付いた。

    「ヌ? ヌヌヌイヌ」
    「ああ、見たまえロナルドくん。腕の人だよ」

    鉄のアームカバーをまとった左腕がひょいとマナー違反を木から下ろす。
    その巨体は街路樹の幹では隠せない。
    この後、マナー違反はサテツからの説教を受けるのだろう。

    「まあ、マナー違反したからな」
    「ヌンヌン」

    ロナルドの言葉にジョンが頷く。ドラルクも同意見だった。
    吸血鬼はどいつもこいつもお祭り好きなものだから、結局騒ぎを聞きつけて、野球拳大好きやマイクロビキニ、熱烈キッスなどが集まってきた。
    その場はしっちゃかめっちゃかになり、今日もロナルドは奴らをぶん殴って退治したのだった。
    ドラルクは熱烈キッスに噛まれて一回死んだ。

  • 7123/04/28(金) 20:46:40

    「最近、一般の吸血鬼が襲われる事件が増えている」

    事務所を訪れて早々セロリ攻撃を放ち、ロナルドにぶん殴られたが窓ガラスは割らなかった半田はそう切り出した。
    ドラルクは薫り高い紅茶とお茶請けのチーズケーキを供する。
    ジョンが狐色に焼けたケーキを頬張る前で、半田は難しい顔をしながら紅茶で口を湿らせた。

    「透も被害に遭ったらしい。しばらくホラーホスピタルは休業だそうだ」
    「何だって?」
    「道理で野球拳やビキニを最近見かけないわけだ」
    「VRCからは退院したがな」

    VRCは吸血鬼の病院としての側面も持つ。
    ただ患者への実験は禁止されているから、増えると所長のヨモツザカの機嫌が悪くなる。
    下半身透明は、買い物帰りに一人で歩いているところを襲われたそうだ。
    相手は複数人で、対吸血鬼用スプレーを浴びせられて怯んだところを、銀製の刃物で切りつけられたという。
    すぐ路地裏に逃げ込めたので、命に別状はないらしい。

    「吸対に似たような被害報告が何件も届けられている。お母さんにも気をつけるよう言ってあるが、心配だ……」

    そのとき、半田のスマホが着信を鳴らした。
    「すまん」と一言述べて電話に出たが、その顔がどんどん険しくなっていく。
    電話を切ってロナルドたちに向けた顔は焦燥を含んでいた。

    「ロナルド、吸血鬼向けのスーパーが襲撃された! 貴様も手伝え!」

  • 8123/04/28(金) 20:47:35

    向かった先のスーパーでは、血液以外にも良質な乳製品や薔薇が安価で手に入る。
    ドラルクも利用するし、ここで半田の母親と顔を合わせたこともある。
    幸い、半田の母親は来店していなかった。

    暴れた集団はいずれも一般人だったが、銀製の十字架や棒、ニンニクスプレーなどを持っていた。
    客の吸血鬼の抵抗もあって鎮圧は早く済んだが、負傷者は多かったい。
    素人でも武器を持った集団は厄介だ。ドラルクなら何度死ぬかわからない。

    「キッス! 大丈夫か!?」
    「私も銀には弱くてな……何、生き血を飲めばすぐ治る。この美貌が陰ることはない」

    居合わせた熱烈キッスの、薄ピンクの胴体にはくっきりと十字架の痕が残っている。
    口調はいつも通り自信に満ちているようだが、明らかに弱っていた。
    ロナルドは、その背後に少女がいることに気付いた。
    耳は尖り、口には牙がある。しかし大きな目の色は、赤ではなく金色だった。

    「ダンピールも襲われたのか?」
    「区別がつかなかったのだろう。襲撃者にダンピールはいなかった」
    「ゼンラニウム!」

    体格が良く、股間の蔓で遠距離攻撃のできるゼンラニウムは、今回の功労者だ。
    相手の武器を弾き飛ばし、その身をもって客や店員を守った。
    どうやら彼は少女の母親を連れてきたらしい。
    顔は似ているが耳の丸い女性が少女に半泣きで駆け寄る。
    少女も「お母さん!」と叫んで飛びついた。

    「一体何があったんだ?」
    「我にもわからぬ。急に押し入ってきて暴れ出した、としか言えぬのだ。退治してやるとはやたら叫んでいたが」

  • 9123/04/28(金) 20:48:30

    見渡すと、店内は酷いものだった。
    ドラルクは無意識に、割られて散らばったガラスの破片の数を数える。
    商品の棚は倒れ、血と牛乳の臭いが漂い、店員の吸血鬼が右往左往していた。
    ここでも働いているらしい三木だけが動じず、てきぱきと指示を出している。
    破片の数が百を超えそうなところで、ドラルクは何かを踏みつけて死んだ。
    焼けるような痛みが靴越しにも足の裏へ伝わる。

    「今何で死んだ!?」
    「銀! 銀だ! 銀踏んだ!」
    「ヌアーッ!」

    塵と化した主人を、ジョンが必死にかき分ける。
    やがてそこから現れた光るものを、ロナルドは拾い上げた。
    銀製の十字架だ。退治人なら一つは持っているだろう。
    先端が杭のように尖っていて、人間相手でも凶器になりそうだ。

    「この十字架……あの反吸血鬼団体のものでは?」

    近づいてきた半田が眉をひそめる。
    使い魔のおかげで再生できたドラルクだが、足の裏には十字架の痕がついていると思われる。

    「最近演説してる奴らか?」
    「ああ。エンブレムとしてこれを掲げていたはずだ」
    「ヌンヌンヌ?」
    「では、その団体の人間が犯人か」
    「そうだろうな。全員逮捕したから、動機もすぐにわかるだろう」

    しかし結局、犯人たちが例の団体に所属していることはすぐ特定できたものの、彼らは黙秘を貫いたため、事件の真相は詳しくわからずじまいだった。
    ただ、吸血鬼への侮蔑と嫌悪は隠さなかったという。

  • 10123/04/28(金) 20:57:01

    【暗転】

  • 11123/04/28(金) 20:58:09

    連続吸血鬼襲撃事件により、新横浜では不穏な空気が漂っている。
    被害者は主に強い力を持っていない吸血鬼やダンピールだが、中にはVRCに向かう途中の仮性吸血鬼患者もいた。
    ドラルクたちの知人も被害に遭っている。
    貧弱クソもやしは相手を催眠で弱体化させ、逃走に成功した。
    だがゲームセンター荒らしはヴァミマに逃げ込んだところ、店まで追いかけてきた犯人グループが、止めようとした店長に殴りかかる事態にまで発展した。
    その場にいたロナルドが取り押さえなかったらどうなっていたことか。
    夜の活気も少し乏しくなり、それと比例するかのように、反吸血鬼団体の声は大きくなる。
    吸血鬼のいる学校や会社に押しかけたり、家の前で騒いだり嫌がらせを続けていれば、だんだんとちょっかいをかける吸血鬼も減っていった。
    カメ谷だけが特ダネを探して取材を続けている。
    同時期から、ロナルドの事務所が中傷されるようになった。
    内容は吸血鬼退治人が高等吸血鬼とコンビを組んだことへの非難ばかりだが、ネットの掲示板に書き込まれたり、ビラがばら撒かれたりするようになった。
    一度事務所に押しかけてきたが、メビヤツのビーム(虚仮威し)を受け、ヒナイチにまとめて逮捕された。
    しかしたまにビルの前で拡声器で騒ぎ、そのたびに吸対が駆けつける。
    そのようなことが続けば気が滅入ってくる。
    自己肯定感の低いロナルドは尚更だ。
    それに最近、ドラルクは外出を止められていた。
    ジョンや死のゲームと遊んだり、キンデメに愚痴を言うのはもう飽きている。
    ドラルクの久々の外出はパトロールと買い物だった。
    いつになくロナルドは静かで、ドラルクが煽っても「殺.すぞ」とは言うが反応が薄い。
    ジョンも大人しくクラバットを食んでいる。

  • 12123/04/28(金) 20:58:58

    同居するゴリラのテンションがあまりに低いとつまらないので、ドラルクは今夜はバナナフリッターを作ろうと決めた。
    さらにアイスクリームも添えることにする。
    夜食に卵を使い切ってしまいたいところだが、オムライスはつい先日作ったから親子丼にしようか、それとも副菜をミモザサラダにしようか。
    つらつら考え事をしていたそのとき、突然背後からぶん殴られた。
    予期せぬ風圧でドラルクは死に、胸に抱えられていたジョンが塵の上に落下する。

    「若造! 急に何をす―」

    半ばまで再生しながら文句を言おうとして、ドラルクは言葉を失う。
    目の前に立つのはロナルドと、フードをかぶった見知らぬ男。
    ロナルドの胸元に、ナイフが突き立てられていた。
    ドラルクが反応する前にジョンが「ヌヌヌヌヌン!」と悲鳴を上げる。
    だが予想に反してロナルドはそのまま男に掴みかかる。そ
    れは男にとっても想定外だったらしい。
    あからさまにうろたえる男の顔面に、右の握り拳が叩き込まれた。

  • 13123/04/28(金) 21:00:02

    男を取り押さえ、警察に引き渡した後、ロナルドはドラルクによって強引に病院へ連れて行かれた。
    幸いにも銀製のナイフは防刃加工を施された外套で止められたが、そうでなければ心臓を一突きにされて死んでいたかもしれない。

    「君は知らないようだから教えてあげるがね、心臓に杭を打たれた吸血鬼は死ぬが、同じことをされた人間も死ぬんだよ」

    ドラルクがわかりやすく教えたのに、ロナルドは不思議そうな顔で「おう」と相槌を打つだけだった。
    その場にいたジョンも、顛末を聞いたメビヤツも泣いていたというのに。
    この若者の自己犠牲精神は美徳であり欠点である。

    後日、事務所に現れたヒナイチが事の顛末を話しに来た。
    ドラルクのクッキーを物凄い勢いでサクサク食べ切ると、緩んだ顔が引き締めて本題に入る。

    「加害者の素性がわかった。流浪の吸血鬼退治人、スピエルドルフの弟子だそうだ」
    「スピエルドルフ……? 『カーミラ』の登場人物かね?」
    「この業界じゃ知らない奴はいないくらいの有名人だよ。ベテランも大ベテラン。関東中心に活動していて、弟子もいる。そいつらに指示を出しながら戦うから、ついた二つ名が“将軍”」

    ロナルドはスマホを操作し、画面をドラルクとジョンに見せる。
    そこには髭を蓄えた壮年のダンピールが映し出されていた。
    がっちりとした体格で、顔の彫りが深く、将軍という名に相応しい外見だ。
    胸から下げているのは、先端が杭のように尖った銀の十字架。

    「吸対からすると少し厄介な相手だな。吸血鬼を滅ぼすことに執念を燃やしていて、救助や避難を優先する現場と衝突することもあるそうだ」
    新横浜にいると忘れがちだが、吸血鬼との対立が激しい地域では人間の生活を守るため、退治人は攻撃的で確実な方法を取らざるを得ない。
    新横浜以外での仕事も経験しているロナルドも、それはわかっている。

  • 14123/04/28(金) 21:00:42

    それでも、市民の安全より吸血鬼の殲滅を優先する姿は、常軌を逸していたという。
    吸血鬼に捕らわれた民間人を無視して火を放ったこともあったとヒナイチは語った。

    「多少強引なところはあっても、尊敬すべき先達って退治人の間じゃ評判だったけどな……新横浜に来てるのか?」
    「かもしれないな……少なくとも吸対は姿を見ていないが」

    ロナルドとヒナイチが会話を聞きながら、ドラルクは考え込む。

    「うむ、この件は早急に解決しなければ危険だな……」
    「お前はガチで命の危機だからな」
    「それもそうだが、例えば私のお父様にバレてみろ。最悪新横浜に一族が攻めてくるぞ。君とヒナイチくんは助けられるだろうが」
    「バッドエンド!!!」

    二人共気づいていないが、その前に新横浜に氷河期が訪れるだろう。
    思わず叫んだロナルドだが、突然はっとした顔になる。
    自分にも別の心当たりがあったからだ。

    「まあ、俺もフクマさんに相談するわけにはいかねえな。何が起こるかわからん」
    「行方不明者が出そう」
    「イヌヌヌンヌ……」
    「自分が無事でも、両方遠慮したいな……」

    ドラルクとロナルドの間でヒナイチは眉を下げる。
    新横浜にはドラルク以外にもへんな動物やマナー違反、クラージィなど、古き血の吸血鬼の縁者が集まっている。
    彼らが傷つけられれば何が起こるかわからない。
    というか、新横浜に住んでいる古き血の吸血鬼もいる。

    下手を打てば、新横浜どころか日本の危機である。

  • 15123/04/28(金) 21:01:16

    【場面転換】

  • 16123/04/28(金) 21:03:03

    吸血鬼退治の依頼があったのに、現場に向かうと塵しか残っていないことが相次いでいる。
    悪戯かと思ったがそうではなく、別の人物が退治しているようだった。
    反吸血鬼団体には退治人も所属しているから、彼らの仕業だろうと判断されている。
    正規の退治人ではないのか、仕事に粗があり、物が壊れていたりとどめを刺せていなかったりする。

    事務所前で反吸血鬼団体が騒いだせいで、来客が減っているため、ロナルドとドラルクはギルドに顔を出すことが増えていた。
    退治依頼があればロナルドのスマホに連絡が来るので、事務所を開けていても何とかなる。

    本日のギルドには漫画家がいた。神在月シンジである。
    フットサル帰りに追い回されていたジョンを助け、ギルドに連れて行ったのだ。
    事務所に行かなかったのは、事務所前でのことを知っていたかららしい。

    団体は新横浜だと顰蹙を買うばかりだったが、他の地域ではその思想に賛同する声も上がるようになり、それに伴う騒動が報道されている。
    ダンピールが襲われる事件もあるので、気になるのだろうか。

    「まさか昼間にも狙われるとは……無事でよかった」
    「しばらく一匹での外出は止そうぜ。ドラ公も注意しとけよ」

    競マ選手の速度にそう追いつけるはずもないが、怖い思いはしただろう。
    ジョンはニューニュー鳴いてドラルクに甘えている。ギルドマスターはマジロのために、温かなココアを出した。

    「とうとう昼にも暴れるようになりましたか」
    「確かに、女帝が昼はデモとビラ配り程度の活動だったと言っていましたね」
    「日光に耐性があると、出くわしても気付かれねえらしいな」
    「熱烈キッスはどうなんだい?」
    「そういやあいつ、昼間は会社で働いてんだっけ」
    「え? 普通に働いているんですか?」
    「ヌ!」

    娘がその吸血鬼を素揚げにしたとも知らずに驚くマスター。コユキは微笑むばかりである。

  • 17123/04/28(金) 21:04:17

    今日はここまで。読みづらくてごめんなさい

  • 18123/04/28(金) 22:08:58

    今更ながら敵のオリキャラ注意です
    名前のあるモブだと思ってください

  • 19二次元好きの匿名さん23/04/29(土) 02:42:32

    乙です
    続き楽しみにしてます!

  • 20二次元好きの匿名さん23/04/29(土) 08:13:22

    とてもすき

  • 21二次元好きの匿名さん23/04/29(土) 09:01:15

    不穏でドキドキする

  • 22二次元好きの匿名さん23/04/29(土) 16:42:51

    保守

  • 23二次元好きの匿名さん23/04/29(土) 20:30:23

    【続き】

  • 24二次元好きの匿名さん23/04/29(土) 20:32:05

    そこにノートを片手に神在月が寄ってきた。

    「ご注文は?」
    「ホットミルクで。いやあ、退治人の取材ができるなんて。いい機会でしたよ」
    「ところで原稿の進捗はいかがですかな?」
    「ウッ、急に頭が」
    「ヴァーやめろ! それは俺に効く!」

    ドラルクは漫画家と兼業作家が頭を抱えて悶絶するのを面白く眺めた。
    ショットは引き気味で、サテツとマリアは心配しているが、ターチャンは冷たい目をしていた。
    隅の方ではメドキの隣でショーカが居眠りしている。わりといつもの光景である。
    と思うと、神在月が急に正気に戻ったようだった。くんくん鼻をひくつかせ、

    「吸血鬼が近づいてきてるね」
    「何?」

    一斉に臨戦態勢になる退治人たち。
    ロナルドはドラルクと神在月を軽く引っ張って下がらせる。
    それだけで神在月はよろめいたが、ドラルクは死なずに済んだ。
    退治人たちの視線は扉の方へ向かう。人間の耳にも近づく足音がわかる。
    そしてドアが壊れるかと思うほどの勢いで、男二人が飛び込んできた。

    「クラージィさん!?」
    「ミッキー!?」

  • 25二次元好きの匿名さん23/04/29(土) 20:32:18

    癖毛の男と、黒いシャツを着た男。
    癖毛の方は耳が尖り、目が赤い。
    黒いシャツの方は服装でわかりづらいが、流血していた。

    「一体どうしたの!?」
    「刃物持った奴らにやられた。たぶん退治人崩れだ」
    「行ってくる! まだ近くにいるかもしれねえ!」

    帽子をかぶり直したロナルドが外へ飛び出すのを、マリアとサテツが追いかける。
    呼び止める暇もなかった。

    「ミキサン、チョトケガヲ……」
    「コユキ、手当てをお願いします。私は吸対に連絡を」

    マスターが指示を受け、コユキが救急箱を持ってきた。
    てきぱきと止血される三木を、クラージィは心配そうに見つめている。
    その焼けた手の平から、ころりと十字架が転げ落ちた。
    先端が杭のように尖った銀の十字架だった。

  • 26二次元好きの匿名さん23/04/29(土) 20:33:01

    後日、ロナルド吸血鬼退治事務所にヒナイチと半田、カメ谷が訪れていた。

    「やはり、スピエルドルフはあの団体と関係があったのか」
    「元々は新興宗教団体で、教えに反吸血鬼思想が含まれていたみたいです。幹部の一人とスピエルドルフが接触し、だんだん変化していったと」

    カメ谷の執念は団体の深部まで覗くことに成功した。
    スピエルドルフが団体から資金援助を受けていること、弟子には法に反した退治人崩れも少なくないこと、高等吸血鬼を監禁している可能性があること等を突き止めたのだ。

    「被害者の何人かが証言している……猿轡をした高等吸血鬼を連れていた、と。その吸血鬼に退治人が指示を出していたそうだ」
    「高等吸血鬼? 下等吸血鬼じゃなくて?」
    「副隊長、シーニャ・シリスキーのような退治人もいない訳ではありませんが、高等吸血鬼は……」
    「高等吸血鬼の使役は、できなくはない」

    話し合う三人に、ドラルクの声が割って入った。
    ジョンを撫でながら、何でもないことのように言う。

    「人間を洗脳するのと同じ方法だ。ただ我々は長い時間の経過に強いから労力の割に合わず、人間と同様に壊してしまうこともある」
    「それは、つまり拷問じゃないか!!」
    「あのサイコパス犬仮面なら知っているのではないかね? さすがに実行したことはないだろうが」

    ヨモツザカは倫理観を持っていないが、必要以上にモルモットを傷つける性質でもない。
    だからといって安心できることではないので、この後ヨモツザカは吸対の尋問を受けることが今決まった。

  • 27二次元好きの匿名さん23/04/29(土) 20:34:15

    黙っていたロナルドが、紙の束を机に置いた。
    手に取って見ると、そこには氏名と顔写真、武器まで表記してある。

    「スピエルドルフの弟子のリストだ。全員とは言わねえが、結構な数が揃ってるはずだぜ」
    「こ、これはスクープだ……! 後でお借りしてもいいですか!?」
    「ロナルド貴様、いつの間にどうやってこんなものを集めた?」
    「靴下コレクションから聞いたんだよ。なんでも、退治人崩れが利用する退治グッズの店があるらしい。店についてバラさないことを条件に、利用者を教えろって交渉してもらった」

    まさかの事実に一同が息を呑むが、それより早くドラルクが反応した。
    聞き捨てならない人物の名を耳にしたからだ。

    「一体誰の靴下を対価にしたんだ? 私の物じゃないだろうな!」
    「野球拳のだよ! 俺がやれって言ったわけじゃねえぞ!? 自主的にあいつが脱いだんだよ!」
    ドラルクは戦慄した。
    あの男がじゃんけんもしていないのに着衣を脱ぐとは。
    しかし、考えてみれば末弟に被害が及んでいるのだ。
    マイクロビキニも動いていると考えていい。

    「このままではお母さんも心配だな」
    「吸対の対応は?」
    「相手は団体だからな、うちの吸対だけで解決できる件じゃない。何が騒動を起こせば話は別だが」
    「情報ならいくらでも提供しますよ!」
    「何、騒ぎがないなら起こせばいい」

    ドラルクの言葉に人間一同が注目する。
    使い魔を胸に抱き、吸血鬼は針金のような脚を組んだ。

    「私に策がある。将軍とその配下を、新横浜らしく歓迎してやろうじゃないか」

    鋭い牙を見せて笑ったドラルクの顔は、いつになく吸血鬼らしく見えた。

  • 28二次元好きの匿名さん23/04/29(土) 20:39:07

    【場面転換】

  • 29123/04/29(土) 20:41:09

    毎夜騒がしい新横浜は、いつになく静まり返っている。
    店には臨時休業の貼り紙、会社も学校も休みで、道行くのは退治人や吸対ばかり。
    誰もいない歩道を、一匹のアルマジロがとことこ歩いていく。
    その背後をこっそりと尾行する数人の男がいた。
    反吸血鬼団体所属の退治人だ。
    そういっても正式な退治人から、ライセンスを所持していない人間までいる。
    彼らはスピエルドルフの弟子だ。
    信奉者からただ人の形をしたものに凶器を振るいたい者までいるが、平等に吸血鬼退治の手ほどきを受け、吸血鬼は滅ぼすべきものという共通認識を持つ。
    男の一人が別の男に目配せすると、さっと路地裏に入り込んで下等吸血鬼用の餌で何かを呼び寄せる。
    カクレツチグモだ。弱った個体を事前に仕込んでおいたのだ。
    吸血鬼の道具としての扱い方も、スピエルドルフからの教えだった。
    カクレツチグモがひたひたとアルマジロとの距離を詰め、いざ手を伸ばそうとした瞬間。

  • 30123/04/29(土) 20:42:30

    退治人たちの目の前で、下等吸血鬼は流水に流されていった。
    唐突なことに呆気にとられる前で、アルマジロは身を丸めて転がっていた。
    その勢いでジャンプしたかと思うと、暗闇から伸びてきた手に受け止められる。
    手の持ち主は身を翻して闇へ駆けてゆく。
    黒いマントがひらりと舞った。

    「路地裏に行ったぞ!」
    「好都合だ!」
    「吸血鬼を滅ぼせ!」

    我に返り叫ぶ口元に何かがぶち当たった。
    黒いそれは弾丸かと思ったが、妙に弾力がある。
    それがタピオカと知る前に二撃目を喉奥に喰らう。
    他の者も次々と同じ現象に激しく咳き込んだ。
    滲む視界に、男にも女にも見える美貌の吸血鬼。
    その正体に気づいた退治人は呆然と呟く。

    「炎使い……イシカナ……」

    イシカナとしては燃やしても良かったのだが、建物に引火するのは困る。
    飲食店は食中毒だけでなく、失火にも気をつけなければいけない。
    戦意を喪失した退治人たちの視界は、どこからか飛んできた網でいっぱいになった。
    イシカナが新横浜ではタピオカ屋のお姉さんとして親しまれていることも、吸血鬼用捕縛ネットを投げた退治人のことも、彼らは知る由もない。

  • 31123/04/29(土) 20:43:22

    退治人たちはロナルドを追っていた。
    その身体能力の高さは有名だが、多少盛っている部分はあるだろう、と彼らは考えていた。
    事実、足は速いが壁を蹴って進んだり、ジャンプ一つで高い塀を乗り越えたりすることはない。
    疲れのためか、ロナルドはわずかに減速する。
    しかし赤い外套を掴もうとしたそのとき、退治人たちの眼前でロナルドはむくむくとピンクの芋虫のような姿に変異していく。

    「パオォー!」

    路地裏には、グラビアのページがコピーされてばらまかれていた。
    思わず呆けた瞬間、どこからか飛んできた矢が足元に刺さる。
    二連続の衝撃に固まったところで飛び込んだヒヨシの警棒が顎を打ち抜き、一人が昏倒する。
    その隣で固まったままの二人目を同様に。
    ようやく反応できた三人目の鳩尾に警棒を叩き込み、流れるように四人目の側頭部に回し蹴りを放った。

    「確保ッ!」

    ヒヨシの鋭い声に反応し、吸対隊員が一斉に駆けつけてくる。
    油断なく周囲を見渡し、仲間がいないことを確認すると、ヒヨシはふっと力を抜いて夜空を仰いだ。
    銀色の付け髭がぽろりと地面に落ちる。

    「―怪我するなよ、ヒデオ」

  • 32123/04/29(土) 20:44:14

    人気のない道路にて、複数の人影が多数の大型下等吸血鬼に囲まれている。
    しかし、その場は下等吸血鬼が一方的に狩られる状態だった。
    まるで玩具のように回転するデカい蚊と、いとも容易く一刀両断されるスラミドロ。
    観覧車を動かすほどの念動力を持つ吸血鬼アベックにくみと、新横浜で退治件数トップクラスを誇る退治人ヴァモネ。
    あまりの凄まじさに、吸対職員は刀や銃を構えたまま固まることしかできない。
    その暴虐からどうにか逃げ出した吸血ヤツメヒルは、獲物を探して路地裏を彷徨っていた。
    金色に光る球体を視界の端に見つけ、忍び寄っていく。
    その背後から、刃が閃いた。
    一刀両断されたヤツメヒルは苦しむこともなく地面に倒れ伏す。
    その塵を浴び、辻斬りナギリはひっそりと嗤った。
    あのクズもたまには役に立つ、とナギリは漫画家のへらへらした顔を思い浮かべる。
    奴が追われていた丸を保護した話をしなければ、丸が狙われていることを知らずにいただろう。
    しかし先程見つけたのは丸だと思ったが、よく見ると色が違った気がする。
    丸の仲間だろうか。
    金色の丸を探そうとナギリが周囲を見渡したそのとき、

    「辻田さーーーーーん!!!!」

  • 33123/04/29(土) 20:45:18

    背後から聞き慣れてしまった大音響。
    思わず耳を塞いだ瞬間に、カンタロウはすぐそばまで走り寄ってきていた。
    パイルバンカーががちゃがちゃ恐ろしい音を立てる。

    「辻田さんも今回の作戦の参加者でありますか!!! 吸血ヤツメヒルがそちらに逃げたのでありますが、辻田さんが退治を!!?」
    「うるさい黙れ、何で貴様はまたこんなところにいるんだ!」
    「路地裏は辻斬りが潜んでいる恐れがありますので、下等吸血鬼退治も兼ねてパトロールしていました!!」
    「か、下等吸血鬼が多いとは思っていたが、確かに辻斬りが影響している可能性はあるな」
    「やはり!! 下等吸血鬼を探していけば辻斬りかわ見つかるかもしれません!! しかし辻田さんがいれば百人力、行きましょう辻田さん!!!」

    結局、カンタロウに手首をがっちり掴まれて路地裏から飛び出したナギリは直後にモエギに会い、咄嗟に陸クリオネをかぶって誤魔化したのだった。

  • 34123/04/29(土) 20:46:03

    【暗転】

  • 35123/04/29(土) 20:48:28

    深夜でも新横浜の公園には人が集まるものだが、今夜は静かだ。
    そこに一人、黒衣の吸血鬼が立っている。
    その背に語りかけるのは、退治人スピエルドルフ。
    既に剣を抜いているが、構えてはいなきった。
    口髭と軍服めいた衣装は、“将軍”の二つ名にふさわしい。

    「退治人ロナルドは我々が滅ぼした」

    よく通る、低く響く声。
    吸血鬼ドラルクはわずかに長い耳をぴくりと動かした。

    「致し方なかった、吸血鬼に洗脳された者は滅ぼすしかないのだ。お前が現れなければそうはならなかった。お前が殺したも同然だ」

    ドラルクは無言で胸元の使い魔を抱きしめる。
    アルマジロも何も言わない。

    「お前を滅ぼし、彼の仇は取ってみせよう。不死の吸血鬼とはいえ、お前は弱い。ここまで追い込まれたなら、」
    「ヌヌヌヌ」
    「そうだ、違う」

    ジョンが言葉を遮り、ドラルクも同意する。

    「我々が、君を誘い込んだ」

    雲が晴れ、月が幾人もの人影を照らし出す。
    その場には、退治人と吸対と吸血鬼が待ち構えていた。

  • 36123/04/29(土) 20:52:23

    事前に長時間の吸血鬼警報を出したため、市民は避難済み。
    吸対はカズサ直々に指揮を取り、退治人と連携。
    上空では月光院稀美とアダムが待機していて、戦闘不能者を救出する手筈になっている。
    さらに、この場はマナー違反のグールに囲まれている。
    そして、合流するはずだった退治人崩れたちは既に無力化されている。
    新横浜にある拠点にも、話し合いという名目でマスターとシーニャが向かっているから応援は呼べない。
    ダンピールの探知能力を無意味にするほどの飽和作戦。新横浜だからこそ可能な戦法。

    「それにしても、連絡一つで滅ぼしたと信じるとは。物事は自分の目で確認するべきだ―そうだろう、ロナルドくん?」

    逞しい肉体を包む赤い外套、夜にも眩しい銀髪。
    吸血鬼退治人ロナルドがそこにいた。
    仕掛けは簡単だ。変身したへんな動物が電話しただけ。
    電話越しでは声の多少の差異は気付かれない。
    単純な策に引っかかったことに気付いたスピエルドルフは一瞬、苦々しい表情を浮かべた。
    が、すぐ無表情に戻り、黙って剣を構えた。

  • 37123/04/29(土) 20:54:21

    「アウト! セーフ! よよいのよい!!」

    目にも止まらぬ速さの斬撃は、硬質な音を立てて結界に受け止められた。
    じゃんけんはあいこ。衣服は剥ぎ取られることなく、結界だけが張られる。
    ジャンケン模様の浴衣をなびかせ、吸血鬼野球拳大好きはスピエルドルフに相対する。
    布で目元以外は隠れているが、瞳に浮かぶ色には永くを生きる吸血鬼らしい凄みがあった。

    「弟が世話になったな? 俺とも遊んでくれや」
    「何をしている、愚兄。そのような暇はない」

    今度は吸血鬼マイクロビキニが現れた。
    背後に従えるのは、ビキニを着た男たち。
    「ビキニ最高……」「ビキニはいいぞ……」と呟いているが、その目を見れば催眠にかかっているのは明白だった。

    「……怪物め」

    スピエルドルフがすっと片手を上げる。
    闇の中から物音がして、無数の下等吸血鬼が姿を現した。
    背後には拘束された吸血鬼たちを従えている。
    何をされたのか目は虚ろで、猿轡をはめられた口の端からだらだら唾液を流していた。
    吸血鬼というよりゾンビだ。

  • 38123/04/29(土) 20:55:42

    この場にいる人間にも吸血鬼にも動揺はない。
    ただ各々構え、戦いの始まりを待つ。

    「行けグール!」

    号令はマナー違反だった。
    盾役兼妨害役のグールが一斉に飛びかかる。
    狙いはスピエルドルフではなく、周囲の下等吸血鬼。
    進路を塞がれたところを、サギョウの精密な射撃により一体、また一体と塵になっていく。
    そこに飛び込んだターチャンがまとめて周囲を薙ぎ払い、道を作る。
    スピエルドルフはフックショットをかわし、鉄の左腕による一撃を受け止めた。
    一度下がったサテツはショットに囁く。

    「銀じゃないな。別の金属の上に銀をコーティングしてるのかも」
    「そんなの食らったら、人間も死ぬぞ……」

    下等吸血鬼を撃ち抜き、時にはなぎ倒しながら、ロナルドは突っ込んでいった。
    スピエルドルフはその重たい拳を受け止める。

    「誰があの雑魚に洗脳されてるって?」
    「愚かな……自ら吸血鬼を招き入れるとは」
    「招いてねえわ!」

  • 39123/04/29(土) 20:57:14

    スピエルドルフが手を振ると、ロナルドに数匹の下等吸血鬼が飛びかかってきた。
    ロナルドは一旦下がってそれらを次々撃ち抜いていく。
    一匹が死角から襲いかかってきたが、蔓の鋭い一撃が叩き落した。

    「ムン! 大丈夫か退治人!」
    「おう!」

    一匹一匹の実力はたいしたことはないが、数が多くて切りがない。
    スピエルドルフには辿り着けないまま、徐々に疲弊していく。

    「退治人ロナルド……新横浜が支配される原因を作った罪は、償わなければならない」

    スピエルドルフが手を振ると、一際大きなペイルグールが現れる。
    グールの中でも巨大で凶暴、生者の血を奪い尽くすまで誰にも止められない。

    「ロナルドくん!」
    「……野球拳! じゃんけんしろ!」

    声を上げたドラルクと、振り向いたロナルドの目が合った。
    視線一つでドラルクの思惑を察したロナルドは、野球拳に叫ぶ。

    「アウト! セーフ! よよいのよい!」

  • 40123/04/29(土) 21:00:28

    結界が張られ、ペイルグールはあっさり吹き飛んだ。
    じゃんけんはロナルドの負け。ぱっと赤い帽子が空を舞う。

    「行け!!」

    ドラルクとロナルドの声が重なった。
    野球拳が駆け出す。その先の相手とじゃんけんをしながら。
    眷属を生み出す親吸血鬼から倒す、誰にでも思いつく発想だ。
    それを防ぐために大量の眷属を生み出させたが、眷属は結界に弾かれていく。
    半田のマスク、マリアの頭巾、ショットの上着と次々脱ぎ捨てられる衣類に視界を遮られ、スピエルドルフはどこに野球拳がいるか確認できない。
    吸血鬼が集まっているせいでダンピールの持つ探知能力がうまく働かないのは、スピエルドルフも同じだった。

    「よそ見厳禁ミキよー」
    「くっ……!」

    麻酔弾を剣で防ぐと、今度は横からナイフが突き出された。
    ここまで多くの人間と戦うのは、スピエルドルフも初めてだ。
    鋭いナイフ捌きにじりじりと後退していく。

  • 41123/04/29(土) 21:01:57

    「この美女が相手になってやろう」
    「熱烈キッス!」
    「今日は靴下を履いていてな」

    野球拳の掛け声と共にキッスの靴下が舞う。
    下等吸血鬼の群れを吹き飛ばし、二人は突き進んでいった。
    辿り着いた先の高等吸血鬼はぼんやりと突っ立っているばかりだったが、体に触れられると急に暴れ出した。
    しかしビキニに支配された男たちが群がり、体を押さえ込む。

    「よよいのよい!」

    野球拳結界により、彼らの猿轡が外れる。
    駆け付けたゼンラニウムは、股間から種を取り出すと、それを口に押し込んでいく。

    「しっかりしろ、同胞! 我が種を飲め!」

    効果はすぐ現れた。

    「うぅ……」
    「はあ……はあ……」
    「何があったんだ…?」

    赤い瞳は光を取り戻し、青ざめた顔にも表情が戻る。
    そして拘束衣は消え、代わりに股間に花が咲いていた。

    「どいつもこいつもジャニではないな」

    キッスの声が合図になって、吸対と退治人は奮起する。
    これ以上増援はない。
    吸血鬼も同胞を一旦避難させると、再び戦い始めた。

  • 42123/04/29(土) 21:02:17

    ショットへの攻撃を野球拳の結界が防ぐ。
    マナー違反を庇ってサテツの左腕が爪を弾く。
    ゼンラニウムの背後から飛んでくるデカい蚊をマリアが猟銃で撃つ。
    ターチャンに飛びつくグールに熱烈キッスが噛みつく。

    「なぜ……なぜだ……!」

    ドラルクに襲いかかる巨大なヒルを、ヒナイチが一刀両断する。

    「なぜ吸血鬼を仲間に受け入れるッ!? それは信用するに足らぬ怪物だ!!」

    力任せに振り下ろした剣が、半田の刀とぶつかって金属音を立てる。
    腕が軋むほどの力に半田は顔を歪めるが、一歩を引かない
    技巧のない太刀筋では半田を倒せない。
    下等吸血鬼の気配が減っていくことがダンピールの二人には感じられた。

  • 43123/04/29(土) 21:03:00

    「吸血鬼は人間を見下し弄ぶばかりだ、人間を愛すことなど―!!」
    「喧しい! 俺はお母さんと父さんに愛されて産まれているッ!!」

    半田の怒号にスピエルドルフは一瞬固まった。
    その隙にフックショットが足首に絡みつく。
    半田はそれを見逃さず、自分の刀ごとその剣を弾き飛ばした。
    スピエルドルフは胸に下げた十字架のチェーンをむしり取り、逆手に持って襲いかかったが、そこにヒナイチが飛び込んできた。
    少女とは思えぬ腕力で受け止められ、熟練の退治人の目にも驚愕の色が浮かぶ。
    致命傷を狙うスピエルドルフと、相手を無力化しようとするヒナイチだからこそ戦いは成り立っている。
    ナイフと変わらぬ長さでは、二刀流の猛攻を捌ききれない。
    吸対の刀は銀製で、人間の肌を掠めた程度ではたいした傷にならないが、その事実がスピエルドルフを動揺させた。
    再び刃がぶつかり合った瞬間、ピカッと光が二人を照らした。
    あまりの眩しさに、二人とも目を閉じ、それから。

  • 44123/04/29(土) 21:05:24

    「骨と皮しかない身体を荒縄で縛り上げて吊るしたい!!」
    「ちん!? ちんちんちんちん!!」

    自転車の走る音と笑い声が、あっという間に遠くなっていく。
    光の正体に全員気づいたが、その吸血鬼を追う暇はない。
    スピエルドルフの性癖に合致するドラルクはあまりのおぞましさに死んだ。
    ジョンも主人を守ろうと威嚇する。

    「キャーッ!! 変態だいくら私が可愛いからってー!!」
    「ヌアーッ!!」
    「ち、違う! 私は肋骨が浮くほど痩せた少年を好きなように嬲りたいのだ! こんな年増は好みではない!」
    「馬鹿め、なおまずいわ!!」
    「ちんちん!!」
    「この変態!!」
    「ビキニ野郎が言えるセリフか?」
    「ガリガリフェチでサドのショタコン……救いようがないアル……」
    「こんな人だったなんて……」
    「ロナルドくん! 今だ!!」

    銃声が響く。
    スピエルドルフが見上げる先でロナルドは、塵になる寸前のペイルグールの体を蹴って高く跳んだ。
    満月を背負い、銀色の髪を輝かせ、アクション映画のようにくるりと空中で一回転する。
    一瞬、その青空色の瞳と目が合う。

    そしてスピエルドルフの脳天に、体重と遠心力を利用した踵落としが突き刺さった。

  • 45123/04/29(土) 21:06:51

    【エピローグ】

  • 46123/04/29(土) 21:07:44

    この騒動は全国に報道され、例の反吸血鬼団体の拠点全てに家宅捜索が入ることになった。
    週ヴァンのおかげで新横浜は「異なる種族が協力して街を守った」と称賛される一方、スピエルドルフの信頼は失墜している。
    吸血鬼差別と取れる言動、過激すぎる退治方法、罪を犯していない高等吸血鬼の襲撃。
    それらが全て白日の下に晒された。
    新横浜の拠点には痩せた吸血鬼の少年が見つかったことで、性犯罪者疑惑も持ち上がっている。
    保護された吸血鬼のうち、罪を犯した者はVRCに収容、そうでない者は元の居場所へ帰された。
    誰も抵抗せず、実にスムーズに事は進んだ。
    ヨモツザカも新たなモルモットが増えて喜んでいたらしい。
    スピエルドルフたちの刑はまだ不明だが、少なくとも退治人に復帰することはないだろう。
    吸血鬼への犯罪被害は立証が難しいが、今回は物証が数多くある。
    闇に葬られることはないはずだ。
    しかし、ミラはいっそう多忙になったようだ。
    そのような話をオータム書店が嗅ぎつけないわけがない。
    一連の騒動が『ロナルドウォー戦記外伝』として短期連載された影響により、反吸血鬼団体の活動は縮小していくことになる。

    他にもドラウスとノースディンが新横浜に駆け付けてきたり、マイクロビキニが噛んだ退治人の一人が本当に下僕と化したりする未来も今は知らず、ドラルクとロナルドは事務所にてDJジョンの音楽に合わせ、メビヤツの照明を浴び、それぞれイカレサンバとウホウホダンスを踊っていた。

  • 47123/04/29(土) 21:08:04

    【おわり】

  • 48二次元好きの匿名さん23/04/29(土) 23:20:23

    素晴らしいssをありがとう

  • 49二次元好きの匿名さん23/04/29(土) 23:53:39

    一転攻勢って感じでいいね

  • 50二次元好きの匿名さん23/04/30(日) 00:19:56

    ハピエンで良かった

  • 51二次元好きの匿名さん23/04/30(日) 01:02:18

    お疲れ様です、いい話だった。

  • 52二次元好きの匿名さん23/04/30(日) 07:30:08

    お疲れ
    新横浜らしくてよかった

  • 53二次元好きの匿名さん23/04/30(日) 09:26:09

    お疲れ様です
    すごく面白かった
    バトル描写が凝ってて良い あとラスボスの性癖がとんでもなくて笑った

  • 54二次元好きの匿名さん23/04/30(日) 10:58:01

    「僕はお母さんと父さんに愛されて産まれているッ!!」
    半田の解像度が高い、この子はこういうこと言う

  • 55二次元好きの匿名さん23/04/30(日) 14:01:26

    サイレントY談波がズルすぎてめちゃくちゃ笑った。これでこそシンヨコ

  • 56123/04/30(日) 21:31:02

    【余談】
    戦闘のチーム分けは
    ・ショーカ、メドキ、イシカナ
    ・へんな、ロビン、ヒヨシ
    ・アベックにくみ、ヴァモネ、カンタロウ、モエギ(+ナギリ)
    ・ロナルド、ドラルク、ショット、サテツ、マリア、ターチャン、ヒナイチ、半田、サギョウ、野球拳、ビキニ、キッス、ゼンラ、マナー

  • 57123/04/30(日) 21:37:04

    【余談2】
    このSSのMVPは↓だと思ってます
    ・カメ谷(反吸血鬼団体の情報を掴み、新横浜でのことを全国に広めた)
    ・神在月(ナギリを作戦参加させた)
    ・キッス(作者的にいいタイミングで動かしやすかった)

オススメ

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